zankyou
29 件の小説zankyou
19歳のクソガキです 似たような事ずっと書いてます でも思う事はよくあります それを忘れたくないから日記として小説を書きます。 生きた証を残したいだけです 少しでも共感してくれたら嬉しいです
1歩目
大切なものって、何だろう。 そう聞かれて、 すぐに答えられるほど、 俺は自分のことを分かっていなかった。 金じゃない。 肩書きでもない。 誰かに褒められることでもない。 じゃあ何だ。 夜の静けさの中で、 ひとりになって考えた。 浮かんだのは、 昔の自分だった。 何も持ってなかったくせに、 何でも持ってるような顔をしてた。 夢だけはデカくて、 根拠のない自信だけはあって、 「絶対にやる」なんて、 簡単に口にしてた。 今思えば、 あの頃の俺は馬鹿だった。 でも、 あの馬鹿みたいな言葉に、 何度も救われてきた。 だから譲れない。 あの日の自分が吐いた言葉だけは、 無駄にしたくない。 「いつか絶対に」 その「いつか」が、 いつまで経っても来ない日もあった。 何をやってもうまくいかない。 努力しても結果が出ない。 頑張ってるのに、 誰にも気づかれない。 そんな夜は、 自分を疑うことから始まった。 本当に俺でいいのか。 この道で合ってるのか。 そもそも、 俺にできるのか。 答えなんて、 どこにもなかった。 でも、 自分を疑ったからこそ、 初めて自分の足元を見た。 見栄も。 プライドも。 誰かに見せるための夢も。 全部一回置いて、 残ったものを見た。 それでも、 まだここにいた。 涙が止まった。 悲しくなくなったわけじゃない。 忘れたわけでもない。 ただ、 涙が残していったものに気づいた。 好きだった時間。 大切だった人。 くだらないことで笑った日。 何気ない優しさ。 全部、 もう戻らない。 でも、 消えたわけじゃない。 記憶の中に残って、 今の俺を作っている。 だったら、 忘れないために生きるんじゃなくて、 もらった優しさを、 今度は俺が渡せばいい。 愛された分だけ、 愛を渡す。 救われた分だけ、 誰かを救う。 それができたなら、 あの日々は無駄じゃなかったって、 いつか思える気がした。 朝が来た。 昨日と同じ部屋。 昨日と同じ景色。 なのに、 昨日の俺とは少し違った。 「起きるか」 誰に言うでもなく呟いた。 グッドモーニング。 また一日が始まる。 もう、 中古の綺麗事はいらない。 誰かが使い古した正解を、 自分の人生に貼り付けるのもやめた。 俺は俺の言葉で生きる。 真っ直ぐじゃなくていい。 少しくらい捻くれてたっていい。 新品の捻くれを抱えたまま、 自分だけの答えを探せばいい。 夢を見ることを笑われても。 過去を引きずってると言われても。 何度も立ち止まっても。 それでも、 一歩目だけは自分で決める。 大切なものは、 まだ胸の中にある。 譲れないものも、 まだここにある。 だから歩く。 あの日の言葉を、 無駄にしないために。 あの日の涙を、 意味のあるものにするために。 そしていつか、 全部を振り返った時、 「間違ってなかった」 そう言える自分になるために。 今日もまた、 俺は立ち上がる。 これが終わりじゃない。 何者でもなかった俺が、 何者かになるための、 たった一歩目だ。
愛が隠れたカラクリは苦しい
愛って、たぶん、 見えないところに一番大事なものを隠してる。 だから苦しい。 好きって言われたとき、 俺はその言葉だけを信じていた。 会いたいって言われたら、 本当に会いたいんだと思った。 寂しいって言われたら、 俺が必要なんだと思った。 でも、 人間ってのは案外ずるい。 愛してると言いながら、 自分の寂しさを埋めているだけかもしれない。 大切だと言いながら、 失うのが怖いだけかもしれない。 一緒にいたいと言いながら、 一人になる勇気がないだけかもしれない。 そんなことを考え始めたら、 愛なんて全部、 誰かが仕掛けたカラクリみたいに見えてきた。 優しさの裏側には理由があって、 笑顔の裏側には涙があって、 「大丈夫」の裏側には、 本当は大丈夫じゃない自分がいる。 俺たちはいつも、 見えているものだけを信じて生きている。 でも本当に苦しいのは、 その見えているものの裏側に、 何が隠れているのかを知ってしまったときだ。 あの日、 君が俺の手を握った理由も。 俺を好きだと言った理由も。 俺と離れたくないと言った理由も。 全部が本当だったのか、 今でも俺にはわからない。 もしかしたら、 あの瞬間だけは本当だったのかもしれない。 愛は嘘じゃなかった。 ただ、 愛だけじゃなかった。 そこに寂しさがあって、 依存があって、 不安があって、 過去の傷があって。 いろんなものが絡まって、 俺たちはそれを「愛」と呼んでいただけなのかもしれない。 そう思うと、 あの頃の俺たちを責めることなんてできなかった。 だって俺だって、 君を愛していたのか、 君に愛されている自分を愛していたのか、 もうわからないから。 愛っていうのは、 きっと綺麗なものだけじゃない。 誰かを必要とすることも愛で、 誰かを失いたくないと思うことも愛で、 自分のために誰かを求めることだって、 もしかしたら愛なのかもしれない。 だから、 愛の正体を知ろうとするほど、 苦しくなる。 カラクリを全部知ってしまったら、 もう純粋には信じられないから。 それでも俺は、 愛を嫌いにはなれなかった。 苦しいのに、 また誰かを好きになる。 怖いのに、 また誰かの隣に座る。 裏切られるかもしれないのに、 また「信じたい」と思ってしまう。 きっと俺たちは、 愛のカラクリを知っても、 愛をやめられない。 だって、 どれだけ苦しくても、 誰かの心の中に、 自分の居場所があることを、 一度知ってしまったら、 もう一人には戻れないから。 愛が隠れたカラクリは苦しい。 でも、 そのカラクリごと抱きしめられる人に、 いつか出会えたなら。 そのとき俺は、 やっと愛を疑わずに済むのかもしれない。 愛は、 綺麗なだけじゃない。 だから苦しい。 でもきっと、 苦しいだけでもない。 その証拠に俺は今も、 誰かを愛することを、 まだ諦められずにいる。
言いたくねー事は言わねー
言いたくねー事は言わねー。 昔からそうだった。 言葉は便利なくせに、 一回口から出たら二度と戻ってこない。 だから飲み込む。 腹の中で腐っても、 誰かを傷つけるくらいなら、その方がマシだと思ってた。 でも世の中は違う。 殴るより、 言葉で人を壊す奴の方が多かった。 冗談だから。 お前のためだから。 期待してるから。 そんな都合のいい言い訳を並べて、 今日も誰かの心を少しずつ削っていく。 目には見えない傷だから、 みんな気づかない。 いや、気づいてるくせに見ないふりをする。 言葉の暴力は、 音もなく人を殺していく。 あの日言われた一言は、 何年経っても消えない。 でも、褒められた一言は、 案外すぐ忘れる。 人間って、そういう生き物らしい。 だから俺は、 言いたくねー事は言わねー。 無理に正しさを押しつけるくらいなら、 黙って帰る。 勝ち負けなんてどうでもいい。 誰かを言葉でねじ伏せてまで、 手に入れたいものなんてない。 本当に強い人は、 声がデカい人じゃない。 誰も見てない場所で、 飲み込んだ言葉の数だけ優しくなれた人だと思う。 今日もまた、 言わなくていい一言を胸にしまう。 その代わり、 誰かが明日も笑える言葉だけは、 ちゃんと口にできる人でいたい。
愛も熱もじきに冷める
愛は永遠だなんて、誰が最初に言ったんだろう。 コンビニのコーヒーみたいに、湯気を立てていたものも十分も放っておけば口をつける気すらなくなる。 熱は冷める。 人もそうだ。 「ずっと応援する。」 あの言葉も。 「絶対離れない。」 あの約束も。 気づけば誰も覚えちゃいない。 春に咲いた桜が夏には葉っぱになるみたいに、人は何事もなかったように季節を着替える。 残されるのは、着替え損ねた人だけだった。 昔は夢があった。 プロ野球選手になる。 それだけで飯も食えたし、寝不足でも走れた。 ボール一つで世界を変えられる気がしていた。 だけど気づけば、夢を語る人より現実を語る人の方が増えていた。 「まだ野球やってるの?」 その一言は、悪意なんてなくて。 だからこそ胸に刺さる。 愛も熱も、じきに冷める。 好きだった音楽も。 毎日会いたかった人も。 命を懸けると決めた夢さえ。 冷めないものなんて、案外この世には少ない。 でも、それでいいのかもしれない。 冷めるから、人はもう一度火をつけようとする。 消えそうだから、大事に抱える。 もし何も冷めなかったら、温もりなんて言葉は生まれなかった。 今日も誰かが誰かを忘れていく。 今日も誰かが夢を諦める。 それでも世界は何事もなかったように明日へ進む。 信号は青になり、電車は時間どおり走り、夕焼けは昨日と同じ色をしている。 少しだけ違うのは、昨日まで隣にいた誰かがもういないことくらいだ。 愛も熱もじきに冷める。 それでも俺は、冷めると分かっていてボールを握る。 いつか腕が上がらなくなる日が来ても。 誰も名前を呼ばなくなっても。 最後に残る熱だけは、自分のものだから。 冷めて、また燃えて。 その繰り返しの中で、人は生きていく。 きっと人生っていうのは、燃え続けることじゃない。 何度冷めても、もう一度火をつけることなんだ。
旅の途中
思い出話も次第にみんな忘れていく。あの頃は毎日のように集まって笑っていたのに、気づけば連絡を取ることも少なくなって、それぞれが違う場所で違う人生を歩いている。 昔から変わってない俺はどうにかしてる。夢を追いかけることも、不器用な生き方も、何一つ上手くはなっていないけど、それでも前だけは向いてきた。 甲高い笑い声一つ一つ消えていくたびに、あの時間はもう戻らないんだと実感する。でも、どうでも良い話ばかりどうでもよくなくて、コンビニの帰り道や公園で他愛もなく話した時間が、今では何より大切な宝物になっていた。 俺が生きた世界にはお前がいたってこと、俺らはまだ友達だって事。その事実だけは、どれだけ時間が流れても変わらない。離れて暮らしていても、会えなくなっても、お前たちと過ごした日々は今も俺の中で生き続けている。 俺に幸せをくれたあなたの事を今は思う。何気ない優しさも、励ましてくれた言葉も、そのすべてが今の俺を支えてくれているから、遠く離れた街でどうか幸あれと願うことしかできない。 あの日君と眺めた公園の向こうで、あの日言えなかったことを今は書いてる。本当はあの時、ありがとうも、ごめんも、また会おうも伝えたかった。でも言葉にできなかった想いは、今になってようやく形になっていく。 この島で生まれた俺の声は、いつかあの海で眠り夜を飾る星になる。そんな未来を信じながら海の向こうへ飛び出した俺は、ただ何もないと思ってたあの海の向こうにも俺の居場所はあって、誰かが誰かを愛してたことを知った。 世界は思っていたより広くて、優しくて、どこへ行っても人は誰かを想いながら生きている。だから今も答えなんてない旅の途中で、迷いながら、転びながら、それでも諦めずに歩いている。 真っ直ぐ生きるために回り道を繰り返してる。その遠回りさえきっと意味があると信じて、あの日の思い出も、大切な人たちも胸に抱えながら、俺は今日も未来へ向かって歩き続ける。
帰る場所
あいつの笑い声が、今でも聞こえる。 ケタケタって、少し高くて、周りまで笑わせるような声。 何がそんなに面白いんだよって思うくらい笑って、くだらないことで腹を抱えてた。 あの頃の俺たちは、何も持ってなかった。 夢とか、将来とか、そんな難しいことなんて考えたこともなかった。 ただ毎日が楽しくて、 明日も当たり前に来ると思ってた。 頭から血を流した日があった。 転んだとか、ふざけすぎたとか、理由なんて忘れた。 でも覚えてる。 痛いはずなのに、俺たちは笑ってた。 腹を抱えて、涙が出るくらい笑ってた。 たぶん、あんな笑い方ができたのは、あの頃だけだった。 いつからだろう。 笑うことが下手になったのは。 昔は帰り道すら一人じゃなかった。 何でもない時間が好きだった。 ジャンケンに負けたやつが漢字ドリルをやる。 ヒーローごっこで本気のパンチとキックをする。 どっちが強いかで本気の喧嘩になる。 女子には冷たい目で見られて、 「ほんと男子ってバカだよね」って顔をされる。 でも夕方には仲直りしてた。 何で喧嘩したかなんて、もう誰も覚えてなかった。 帰り道の分かれ道。 「じゃあ、また明日」 そう言って手を振った。 それがずっと続くと思ってた。 でも、気付いたら。 あいつはいなくなっていた。 教室から少しずつ減っていく机。 毎日いた場所が、少しずつ知らない場所になっていった。 俺たちは思った。 置いていかれる方が辛いって。 ずっと同じ場所に残る俺たちが、不幸なんだって。 でも今なら分かる。 違ったんだ。 転勤族だったあいつにとって、 同じ場所で過ごせる時間はきっと幸せだった。 帰る場所が一つあること。 それは当たり前じゃなかった。 毎日門限を守って帰っていたあいつには、 ちゃんと待ってくれる場所があった。 俺たちの周りには色んな奴がいた。 家に帰りたくないやつ。 複雑な家庭のやつ。 先生に怒られてばっかのやつ。 意味なんて分からないことで傷ついてるやつ。 帰り道には路上で寝てるおっさんもいた。 子供だった俺たちには、それがただ怖かった。 でも今なら思う。 あのおっさんにもきっと、 帰りを待ってる誰かがいたのかもしれない。 逃げ回った先に、 帰れる場所があったのかもしれない。 そう考えたら俺も幸せ者だった。 でも俺が今帰りたい場所は、 土地でも、家でもない。 あの日。 あの教室。 あの公園。 くだらないことで笑った時間。 悪ふざけして怒られた日。 隣にいた、お前。 そしてあの高い笑い声。 そこに帰りたい。 あれから俺にも友達は増えた。 きっと、お前と会ったら仲良くなれそうなやつらもいる。 大切な仲間もできた。 でもな。 胸の中にある穴だけは、 ずっと埋まらなかった。 寂しくて。 切なくて。 なのに、不思議と暖かい。 この気持ちが何なのか、ずっと分からなかった。 でも今なら分かる。 これがきっと、 俺の帰る場所なんだ。 最後に別れた日の、お前の顔。 まだ覚えてる。 バカな俺でも分かったよ。 お前、笑ってたけど。 本当は無理してたよな。 世界は広い。 大人になって、色んな人に出会った。 でもまだ、お前みたいなやつには出会えてない。 あの小さな島みたいな町が、 俺たちにとって世界の全部だった頃。 あの頃に戻れたらって、今でも思う。 夢を見た。 あの日の夢。 まだ何者でもなかった俺たち。 何も持ってなかった俺たち。 もしあのまま同じ道を歩けていたら。 何か変わっていたのかな。 でも分かった。 置いていかれたと思っていた俺は、 本当はずっと、 あの日に置いていかれたままだった。 18時の鐘が鳴る。 カラスが帰っていく。 駄菓子屋の前から、昔みたいな笑い声が聞こえる気がする。 離れ離れになっても。 忘れたわけじゃない。 耐えて、耐えて。 いつかまた会えるその日まで。 俺は俺の帰る場所を守っていく。 あの日のお前と。 あの日の俺たちに。 もう一度「また明日」って言える日まで
ただいま。そして久しぶりです。
ペンを握らなくなって、気づけばかなり時間が経っていた。 前はあんなに頭の中に言葉が溢れていたのに、最近は何を書いても違う気がした。 「忙しかったから」 「時間がなかったから」 そう言えば簡単だった。 でも、本当の理由は違った。 ただ、モチベーションがなかった。 書きたい気持ちが消えたわけじゃない。 小説が嫌いになったわけでもない。 むしろ、ずっと心のどこかには残っていた。 でも、前みたいに「書かなきゃ」って思えなかった。 机に向かっても何も浮かばなくて、 昔の自分が残した文章を見返して、 「よくこんなの書けてたな」って思う日もあった。 少し悔しかった。 自分が好きで始めたものなのに、 自分自身が一番離れてしまっていたから。 でも、離れた時間があったから気づいたこともある。 書くことは、誰かに見せるためだけじゃない。 自分の中にある言葉にならない気持ちを、 形にするためだった。 だからまた戻ってきた。 完璧な文章を書こうとか、 昔より良いものを書こうとかじゃなくて、 今の自分が感じてることを、 今の自分の言葉で残したいと思った。 待ってくれていた人がいるならありがとう。 何も言わずに止まっていたけど、 終わったわけじゃなかった。 ただ少し、自分の言葉を探していただけ。 またここから書いていきます。
それでもこの街を愛してる
夏の湿気は、頭の奥までじわじわと染み込んでくる。 考えも鈍って、ただ空気に溶けていくような感覚。 外に出れば、近所のやつらの視線と、聞こえないはずの陰口がまとわりつく。 冬になれば逆だ。 骨の芯まで冷えて、全部が止まりそうになる。 それでも、そんな埼玉を、どこかで愛している自分がいる。 どうせ来世なんて、たいしたもんじゃない。 虫にでもなって、この街にまた戻ってくるんだろう。 カルマを背負って、また同じ場所を這い回る。 瓦屋根の上から見た景色、 いつの間にか丸い車ばかり増えた街。 「君なんだよ、ずっと頭にいるのは」 8月の雨は、羽みたいに軽くて、全部を跳ね返す。 月曜、水曜、金曜、木曜 ぐちゃぐちゃな時間の中で、思い返すのはいつも同じだった。 あの日、あの時、あの場所。 道の途中にぽつんとあった、小さな駄菓子屋。 今じゃ空き家だ。 その事実が、ただの悲しみじゃなくて、心の奥に沈む“憂い”に変わっていた。 ガラスみたいな街。 毎日、あの人のことを考えている。 一緒に歩いていく存在それが「愛」だと思ってた。 でも時々、心の中で突き立てる。 「ふざけんな」って、中指を立てるみたいに。 全部壊れてしまえばいいと思う夜もある。 虫になって、風の中をただ縫うように進む。 何も考えず、ただ存在するだけでいい。 団地の花壇で休んで、 水たまりで手を洗って、あくびをする。 10円の駄菓子で当たりを引いて、 飛び上がったあの日の歩道。 影をまたいで歩いた帰り道。 夕焼けは街に溶けて、全部をオレンジに染めていた。 親の金を抜いて買ったカードゲーム。 すぐダチに奪われて、 金の重みを知ったのは、もっと後のことだった。 万引きを疑われたこともあったけど、 今となっては、ただの笑い話だ。 手放しで乗る自転車。 野球の帰り道。 誰かに指をさされて、 言葉にならない穴が心に開いた。 でも、あの日笑われたことは、 全部取り返したつもりだ。 土の中から這い上がって、木に登って、 殻を脱いでいくみたいに。 シャツのシミが広がるみたいに、 この街の記憶も広がっていく。 そして、誰かの肩で、少しだけ休む。 ガラスの街。 毎日、あの人を思い出す。 一緒に歩く「愛」を信じながら。 でも、やっぱり時々思う。 全部壊してしまいたいって。 雨に濡れながら、埼玉の街を眺めていた。 ガラスみたいに、ただ綺麗に光っていた。 頬を濡らしたあの記憶も、 砕けて、今はただ輝いている。 季節は流れていく。 毎日が変わっていく。 まるで四季みたいに、 形を変えながら、それでも一緒に進んでいく「愛」。 これは、ガラスのように壊れやすくて、 それでも確かに存在している、埼玉の物語。
地平線の向こう側へ
位置についた、まだ名も知られない二等兵。 スタートの合図と同時に、俺は空へ駆け出した。飛び方なんて気にしない。ただ、雲の向こうへ急ぐだけだ。 幼さは消えていない。いや、あえて残している。 無邪気さと衝動、それが俺の武器だった。 喉は楽器。吐き出す言葉は、まだ荒削りな落書きのようで、それでも確かに何かを刻んでいく。 理想を追い、希望を握りしめ、俺は一気に潜る。 深く、もっと深く、記憶の海へ。 息が続く限界まで、沈み続ける。 そこには正しさと歪みが混ざり合った、現実の欠片が漂っていた。 俺はそれを拾い集める。痛みも、美しさも、すべて。 夜は時々、残酷だった。 押し潰されそうな静寂の中で、俺は缶コーヒーを開ける。 白いボスか、金の微糖。どちらでもいい。ただ、苦さが現実を溶かしてくれる。 カフェインで無理やり繋ぐ意識。 眠りは足りない。食事も適当。そんな日々が当たり前になっていた。 遠くで何かが吠える。ハクナマタタ、問題ない、なんて言葉が、どこか虚しく響く。 白昼夢のように浮かんでは消える未来は、泡のように儚い。 それでも俺は信じていた。 当たり前すら変えられるのがアートだと。 だから歌う。 ただの曲じゃない、自分そのものを。 太陽に焦がれ、夕暮れに飲まれながら、俺は進む。 風をまとい、軌道に乗る。 B-BOYの姿勢で、大地を揺らすように。 過去の残響が体に染み付いている。 刺激は消えない。むしろ、俺を突き動かし続ける。 光の差す方へ。 終わりの見えない地平線の、その先を見つめながら、俺は音に溺れていく。 イヤホン越しじゃ足りない。 音楽は、もう俺の中に入り込んでいた。取り憑かれたように、俺はクラブへ向かう。 疲れた足を引きずりながら、それでも低音に身を委ねる。 曜日なんてどうでもいい。 ただ、この瞬間だけがリアルだった。 弱かった心は、少しずつ変わっていった。 虚勢で固めていた自分は、崩れ、その奥から本物が顔を出す。 カラオケで満足していた過去の自分は、もういない。 “自称”なんて言葉は、跡形もなく消えた。 この火が消えない限り、俺は進み続ける。 年齢なんて関係ない。目指す場所は、ずっと先 五つ星のその上だ。 そしてまた、同じように空を見上げる。 焦がれ、迷い、進みながら。 地平線の向こうへ。 音の上に立つ、まだ名もなき存在として。
どうしようもない世界で
風が吹いていた。 ビルの隙間を抜けるその風は、どこか現実味がなくて、まるで夢の中みたいだった。 最低の生活。金もなく、未来も見えず、ただ日々をやり過ごすだけ。 それは地獄と何も変わらなかった。 でも、ひとつだけ違った。 人の温もりを知ったこと。 ある夜、誰かの言葉に救われた。 リリックだった。 名前も知らない誰かが吐き出した言葉が、胸の奥に刺さって抜けなかった。 「頭、上がんねぇな…」 それからだった。 同じままじゃ、何も変わらないって気づいたのは。 夢は、待ってても叶わない。 だったら、無我夢中で、不条理ごとぶっ壊すしかない。 歯車は、噛み合ってなかった。 社会の中で、自分だけがズレている感覚。 でも、それでいいと思った。 気持ちのゴミは、全部言葉に捨てた。 綺麗な人生なんていらない。 トラブルもドラマも、全部が燃料になる。 ナイフみたいな言葉を握りしめて、信号も見ずに走った。 どこに向かってるかなんて、分からないまま。 でも、止まらなかった。 「人一人の価値なんて、光一つじゃ測れねぇ」 あの頃の自分には、その意味すら分からなかった。 ただ、どうしようもない世界に、どうしようもないって叫ぶことしかできなかった。 便利に見えるこの世の中は、どこか壊れている。 権力、争い、見えない圧力。 だから叫ぶ。 歌なら、痛みをぶつけても壊れないから。 砂が舞うみたいな日々の中で、心は凍りついていた。 それでも、自分の聲だけは信じていた。 プライドは売らない。 誇りだけは、最後まで握りしめる。 SNSには、傷だらけの言葉が並ぶ。 フリーターの現実、過去の自分、あの頃の仲間。 でも、気づけば変わっていた。 ただのキッズだった自分が、ステージに立つ側になっていた。 評価なんて、後からついてくる。 大事なのは、自分の足で掴んだ証。 金じゃ埋まらないものがある。 その先にある“生きがい”を、追いかけていた。 夜。 時計は容赦なく進む。 明日が来る保証なんて、どこにもない。 それでも、生きる。 昨日の意味が、今になってやっと分かる。 失敗も、後悔も、全部必要だったと知る。 「死んでも、生きる詩を書け」 誰かの声が、また胸の奥で響いた。 「本当はどうしたいんだ?」 鏡の中の自分に問いかける。 自分を殺してまで、生きる意味はあるのか。 嘘ついてまで、続ける価値はあるのか。 答えは、シンプルだった。 「俺は、叫ぶ」 評価じゃない。 見栄でもない。 ただ、自分であるために。 額縁に収まらなくていい。 綺麗じゃなくていい。 生き様そのものが、芸術になる。 だから俺は、原点に戻った。 ただの「詩」を、聲に乗せるために。 埼玉の街。 何もないと言われた場所から、それでも声を飛ばす。 「帰ってこい、ここまで」 その言葉は、自分自身への叫びでもあった。 迷ってもいい。 傷ついてもいい。 それでも 言葉で、生きろ。