母の手

 母の手は冷たかった。  思えば母が座っている姿を見たことがなかった。いつも朝早くから台所に立ち、包丁とまな板と音を奏でていたり、鍋とにらめっこしたりしていた。  天気がよければ畑や田んぼの世話をして、雨なら繕いものや家の掃除など。母はまさしくこまねずみのように何かしら動いていた。  子供の頃からそんな姿を見ていた私は、ある日母に趣味はなにかと聞いてみたことがあった。  そのとき草むしりをしていた母は、手を止め地面から目線を外し数秒考えた。そして、草むしりかなと答えて、また黙々と草むしりに集中した。  私は丸まったその背中を見ながら悲しくなった。母はいつも家族のために働いてばかりで、自分の好きなことはないのかしないのか。  母の手は赤紫蘇で染まったり、あかぎれで切れていたりしていた。爪は土のような汚れが詰まっていた。それでも私は母の手が好きだった。母は冷え性だから触れるとひんやりとするのだが、それも含めて好きだった。  最後に触れる母の手。動かなくなった重なった両手をなぞる。  細く、骨張っていて、いつものように冷たかった。

プロポーズ

湯船に浸かりながら、天井から滴り落ちる水滴を眺めていた。 浴室の湿った空気が肺を圧迫する。 「どうして僕ばっか、こんなに考えているんだろう」 そんな風に思えたバスタイムも、ほんの束の間のことだった。 お湯から上がって鏡の前に立つと、そこにはどこまでも「普通」な僕の顔が映っている。 特別な才能があるわけでも、誰かを一瞬で魅了する魅力があるわけでもない。 ただの、普通の人。 部屋に戻ると、薄暗いリビングのソファで君がスマートフォンをいじっていた。 画面の明かりが君の横顔を白く照らしている。 その姿はひどく綺麗だったけれど、同時にどこか遠くの存在のようにも思えて、僕は一瞬、その綺麗さが嫌いになりそうだった。 僕たちの間には、いつの間にか「形だけのモンスター」が育っていた。 世間一般で言うところの『恋人』や『同棲相手』という名前の、実体のない怪物のことだ。 ひとつ屋根の下に集った愛は、いつしか義務感やルールという肉付けをされて、僕たちの真ん中に居座っている。 それを愛さなくちゃダメなんだと、誰に言われたわけでもないのに自分を縛りつけていた。 だからこそ、僕は次の関係に進むことをずっと躊躇っていたのだ。 「ねえ」 君が顔を上げずに声をかけてくる。 「何?」 「お腹空いた。今日のご飯、何にする?」 「……何でもいいよ」 「またそれ。何でもいいが一番困るんだけど」 君は少しだけ呆れたように笑った。 笑った……よね? 僕はそんな些細な君の表情の機微にすら、いちいち焦ってしまう。 安定がどうとか、これからの関係がどうとか、世間はうるさく言うけれど、僕たちの関係はどうにも曖昧で野暮ったい。 それでも僕は、君にゾッコンだった。 どうしようもないくらいに。 リビングの窓の外では、いつの間にか雨が降り始めていた。 ガラス窓を叩く不規則な雨音が、僕の心音と同調するように響く。 どう頑張っても、僕は普通の人間だ。魔法のようにすべてを解決できる呪文なんて持っていない。 この生涯全部、『ビビディ・バビディ・ブー』と唱えたところで、何かが劇的に変わるわけじゃない。 シンデレラのように、午前零時に美しいドレスが消えてしまうのを恐れる側の人間だ。 それでも、頭の中でだけは、色鮮やかな白昼夢が広がっている。 その白昼夢の中で、僕は君に、今世紀最期のプロポーズをしようとしている。 「ねえ、もしもさ」 僕は乾かし途中の髪を指先でいじりながら、ソファの端に腰掛けた。 君との距離は数十センチ。 手を伸ばせば届くのに、宇宙の果てほど遠く感じる。 「もしも、僕たちがここじゃないどこか、全然知らない星にでも逃げちゃったら、どうする?」 君はスマートフォンから目を離し、不思議そうな顔で僕を見た。 「何それ。急にSF?」 「いや、ただの仮定の話。どう考えても僕は君に夢中でさ。僕の宇宙は君を中心に回っちゃってるから、ふたりきりになれる場所なら、地球じゃなくてもいいなと思って」 口から出た言葉は、自分で聞いていても曖昧で、少し恥ずかしいものだった。 嫌われちゃったらどうしよう。 そんなことばかりが頭をぐるぐると回り、色々と考えすぎて胸が痛くなる。 もし今の言葉で、君に『気持ち悪い』って思われたら? もし『冗談はやめて』と笑い飛ばされたら? そんな不安を隠すように、僕はわざとおどけた調子で「なんてね」と付け加えた。 君は少しだけ目を細めて、窓の外の雨を見つめた。 「知らない星、か。そこでも雨は降るのかな」 「さあね。でも、ふたりきりなら雨が降っても退屈しないでしょ」 「どうだか。あなたはいつもそうやって、都合のいい白昼夢ばっかり吐き出すんだから」 君の言葉は鋭いけれど、どこか優しかった。 でも、その優しさがまた僕を怖がらせる。 「ダメだった」から躊躇ったあの頃とは違う。 今は、君を失うことがただただ 「怖かった」 僕の脳裏に、ふと「あの子」のことがよぎる。 昔、僕たちの周りにいた、いつの間にかいなくなってしまったあの子。 雨が降って、夜が来るのを待って、まるで風のようにふらりと消えてしまったあの子。 ある人は、あの子は星になったんだと言った。 幸せって、一体何なんだろうね。 あの子は消えて幸せになったんだろうか。それとも、ここに残った僕たちが不幸せなんだろうか。 考えても考えても、そんな難しいこと、僕にはさっぱりわっかんねえ。 「ねえ、幸せってなんだと思う?」 気がつけば、僕はまた君に問いかけていた。 「今日のあなた、本当に変だよ」 君はスマートフォンをテーブルに置き、僕の方へ体を向けた。 「幸せなんて、その時々で変わるものでしょ。私にとっては、今こうして雨の音を聞きながら、中身のない会話をしてる時間も、別に悪くないけどね」 君のその言葉に、僕はまた救われて、同時に突き放されたような気分になる。 もう、君のこと、わっかんねえなあ。 ゾッコンなのに、宇宙で一番近くにいるはずなのに、君の気持ちの輪郭がどうしても掴めない。 浮き足立っている君の本当の気持ちを、全部吐き出しちゃってほしい。 そうすれば、こんなに怯えなくて済むのに。 でも、きっとまだ足りないのだ。 僕の覚悟も、言葉も、全部。 僕はソファから立ち上がり、キッチンへ向かった。 冷蔵庫を開けて、冷たい炭酸水をふたつ取り出す。 ひとつを君の前のテーブルに置き、もうひとつを自分で開けた。 パチパチと弾ける泡の音が、僕の焦燥感を煽る。 「今回も、僕のターンで終了かな」 ぽつりと呟いた言葉は、炭酸の音にかき消された。 いつもそうだ。 核心に触れそうになると、自分から一歩引いてしまう。 傷つくのが怖くて、嫌われるのが怖くて、関係性を曖昧なままにしておく。 でも、窓の外の夜はどんどん深まっていく。 雨は激しさを増し、世界を僕たちの部屋だけに閉じ込めようとしていた。 どう頑張っても僕は普通だ。 でも、普通だからこそ、普通に君と生きていきたい。 形だけのモンスターなんて壊して、僕たちの本当の愛を、もう一度育て直したい。 僕は深く息を吸い込んだ。 バスタイムに考えていたくだらない愚痴も、白昼夢の中で繰り返した何千回もの予行練習も、すべてはこの瞬間のためにあったのかもしれない。 「……あのさ」 僕の声が、いつもより少しだけ低く、震えて響いた。 君が炭酸水のグラスに伸ばしかけた手を止め、僕を見る。 その瞳の中に、僕の情けない顔が映っていた。 嫌われちゃったらどうしよう、とか。 考えてんの色々あるけれど。 今世紀最期のプロポーズを、今、君に。 「僕と、これから先もずっと、一緒にいてくれませんか」 部屋の中が、一瞬だけ静まり返った。 雨の音さえも遠ざかったような錯覚に陥る。 君は驚いたように目を見開いた後、ふっと、今までに見たこともないくらいに、綺麗に笑った。 「……うん。いいよ。知らない星に行くよりは、現実味があっていいかもね」 その言葉を聞いた瞬間、僕の心の中にあった「普通」の宇宙が、一気に色鮮やかな光で満たされていくのがわかった。 やっぱり君のことはまだよくわかんねえなあと思うけれど、それでもいい。 ふたりで、この曖昧で愛おしい夜を進んでいけばいいのだから。

満ちてゆく

「人は、何かを手放す度に、満ちてゆく」 かつて私がまだ若く、何者かになろうと必死に都会を駆け抜けていた頃、ある大切な人が教えてくれた言葉だ。 あの頃の私は、その言葉の本当の意味をこれっぽっちも理解していなかった。 人生とは何かを掴み取り、積み上げていくことだと信じて疑わなかったからだ。 若さ、名声、富、他者からの承認。 それらを両手いっぱいに抱え込むことだけが、自分を「満たす」唯一の方法なのだと。 しかし、今の私にはよく分かる。 ベッドから見える四角い窓の外、ゆっくりと沈んでいく夕日が、静かな病室を穏やかな茜色に染めていた。 私の人生の、これが最後の夕暮れだった。 白く清潔なシーツの上に置かれた私の手は、すっかり細くなり、深く刻まれたしわがこれまでの長い年月を物語っている。 点滴の管が伝うその腕には、かつて世界を相手に戦おうとしていたような頃の力強さはもう残っていない。 「終わるんだな」 不思議と、恐怖や悲しみはなかった。 そこにあるのは、嵐のあとの海のような、どこまでも深く、静かな平穏だった。 この数ヶ月、私は文字通り「手放す」ことの連続だった。 自由に歩くことのできる足、思い通りに動く身体、社会的な繋がり、およびやがて訪れるであろう未来そのもの。 かつてあれほど執着し、失うことを恐れていたものたちが、一枚、また一枚と、秋の枯葉のように私の身体から剥がれ落ちていった。 けれど、奇妙なことに。 すべてを失っていくはずの私の心は、今、人生のどの瞬間よりも軽やかで、そして信じられないほどの幸福感に包まれていた。 目を閉じると、私の耳の奥に、懐かしいピアノの旋律が聴こえてくる。 それは、あの人がよく弾いていた、優しくて、どこか切ない即興曲のメロディ。 その音色は、私の心に残った最後のおりを、サァと洗い流していく。 心の中で、その旋律をそっと口ずさむ。 私は気づいたのだ。 手放すということは、空っぽになって消えていくことではない。 自分を縛り付けていたすべての鎧や、他人の目、未来への不安という「余計なもの」を削ぎ落とした先で、本当の自分に出会うことなのだと。 私の両手は、もう何も掴んでいない。何も持っていない。 だからこそ、その開いた両手のなかに、目に見えない大いなる愛が、温かい光となって絶え間なく流れ込んでくる。 まぶたの裏に、これまでの人生で出会った大切な人たちの笑顔が、走馬灯のように鮮やかに蘇る。 厳しくも温かかった両親の眼差し。 共に笑い、共に涙した友人たちの声。 傷つけ合いながらも、確かに愛し合ったあの人の手の温もり。 そして、私がこの世界に遺していく、愛しい子供たちの健やかな寝顔。 「ああ、私はこんなにも愛されていたんだ」 若い頃は、もっと愛されたい、もっと満たされたいと、いつも喉が渇いたように何かを求めていた。 でも、それは逆だったのだ。 私は最初から、あふれるほどの愛の中に生かされていた。 世界は最初から、私を包み込んでくれていた。 何かを失うことは、悲しいことではなかった。 ただ、元いた場所へ還るだけ。 何も持ずにこの世界に生まれ、たくさんの愛を味わい、傷つき、そして今、そのすべてを世界へと還していく。 その循環の美しさに、胸の奥がじんわりと、熱く震えた。 窓の外を見ると、いつの間にか太陽は沈み、深い藍色の夜空が広がっていた。 そして雲の切れ間から、洗いたてのような美しい、大きな満月が顔を出した。 月の光が病室の床に差し込み、私を優しく照らす。 その光は、まるで「お疲れ様」と私を祝福してくれているようだった。 心臓の鼓動が、少しずつ、その間隔を広げていくのが分かる。 それは、終わりの合図ではなく、新しい旅立ちの足音のようだった。 私の人生は、完璧ではなかったかもしれない。 たくさんの間違いを犯し、回り道をして、傷つくことも多かった。 けれど、そのすべてが愛おしい。 私という器は、出会ったすべての人、経験したすべての感情によって、最後の最後に、これ以上ないほどの幸せで満たされていく。 「ありがとう」 私は声にならない声で、世界に向けて小さく呟いた。 最後の息をそっと吐き出す。 それは、体の中に残っていた最後の執着を手放す瞬間だった。 身体は驚くほど軽くなり、私は風と同化した。 あの大切な人がまとっていたのと同じ、自由で、どこまでも軽やかな風。 私は開け放たれた窓から、夜空へと溶けていく。 満月の光に導かれながら、ただ、満ちてゆく。 最初から何も失っていなかった私を、大いなる愛が優しく抱きしめていた。 私の旅は、今、最高に幸せな気持ちのまま、静かに、優しく、 満ちてゆく。

月光

 黒雲の端に月が、霞んでいた。  音が、している。  波が、打ち寄せているようだ。  影が、浜辺に伸びている。  小柄な女が、腰を下ろしていた。  両掌が、冬瓜ほどの大きさのモノを挟んでいる。  頭部であった。  美しい。  唇の紅い青年の首である。  ふふっ。  微風の中、女は、頬を緩めた。  潮と血の香りが、溶け合っている。  月の静けさが、夜を包んでいた。

『メランコリーキッチン』

まな板の上で、完熟したトマトが潰れるような音を立てて切れていく。 夕暮れ時のキッチンは、いつも薄暗いオレンジ色に染まっていた。 西日が換気扇の隙間から差し込み、宙を舞うわずかな埃をきらきらと輝かせている。 俺――刹那は、お気に入りの色褪せたエプロンの紐を結び直し、フライパンにオリーブオイルを引いた。 小気味よい音を立てて弾けるにんにくの香りが、狭い2DKのアパートに広がっていく。 「ただいま」 玄関のドアが静かに開く音がした。 足音だけでそれが誰か分かる。少しだけ右足を引きずるような、疲労の滲む歩き方。 同棲を始めて3年になる恋人、環(たまき)の足音だ。 環はリビングに入ってくると、背負っていたリュックをソファに投げ出し、そのままキッチンにやってきた。 そして、俺の背中にそっと額を預けてくる。 「今日も疲れた」 「お疲れ様。もうすぐご飯できるから、手を洗ってきなよ」 「うん……。今日のメニューは何?」 「トマトとナスのパスタ。環の好きなやつ」 環は「わあ」と小さく声を漏らしたが、その声にはいつものような張りがなかった。 最近の彼女は、いつもどこか遠くを見ているような、透明な寂しさを纏っている。 俺はそれを、きっと仕事のストレスのせいだろうと自分に言い聞かせていた。 けれど、本当は気づいていた。 俺たち二人の間に、いつの間にか音もなく積もり始めた、冷たい砂のような違和感に。 食卓に並んだ二つの皿。湯気とともに立ち上るトマトソースの香りは、間違いなく美味しいはずのものだった。 しかし、俺たちの間に流れる空気は重く、冷めていた。 「美味しい」 環はフォークでパスタを巻きながら、小さく微笑んだ。その笑顔は綺麗だったけれど、どこか作り物のようでもあった。 俺は自分の皿を見つめたまま、喉の奥が引き締まるような感覚を覚える。 「ねえ、環」 「ん?」 「最近、なんかあった?」 「何かって?」 「いや、なんでもないならいいんだけど。ちょっと元気がないように見えたから」 環はフォークを動かす手を止め、しばらくトマトソースに染まったナスをじっと見つめていた。 そして、ぽつりと言った。 「私、ときどき分からなくなるの」 「何が?」 「自分がどこに向かっているのか、とか。刹那と一緒にいることの意味、とか」 心臓がどくり、と嫌な跳ね方をした。 俺はそれを冗談に変えることもできず、ただ黙って彼女の言葉の続きを待った。 けれど、環はそれ以上何も言わず、また静かにパスタを食べ始めた。 かつて、この家のキッチンも俺たちが座ってるこの食卓も、もっと騒がしかった。 二人で並んで立ち、どちらが上手にオムレツをひっくり返せるか競争したり、味見と称して出来立ての料理を口に放り込み合ったりしていた。 あの頃の環は、まるで太陽のように笑う人だった。 彼女が笑うだけで、この狭くて古いキッチンが、世界で一番特別な場所に思えたものだ。 それなのに、今の彼女の瞳には、かつての輝きが残っていない。 まるで、すべての感情をどこかに置き忘れてきてしまったかのように。 『あなたのせいで、私はこんなに寂しい』 環が言葉にしないメッセージが、部屋の隅々に張り付いているような気がして、俺は息が苦しくなった。 もしも俺の何かが彼女を傷つけているのだとしたら、それを言ってほしかった。 怒鳴ってくれてもいい、泣いてくれてもいい。 ただ、この静かな拒絶だけは、どう対処していいのか分からなかった。 翌日の夜、俺はいつもより少し気合を入れてキッチンに立った。 環の好きなチーズをふんだんに使ったグラタン。ホワイトソースから丁寧に手作りした。 彼女が一口食べて、あの眩しい笑顔を取り戻してくれるなら、どんな手間だって惜しくなかった。 オーブンの中でチーズが黄金色に焦げていくのを眺めながら、俺は祈るような気持ちでいた。 しかし、時計の針が午後9時を回り、10時を過ぎても、玄関のドアが開く気配はなかった。 スマートフォンに通知が届く。 『ごめん、今日遅くなるから、ご飯先に食べてて』 短いテキスト。絵文字もスタンプもない。 俺はスマートフォンの画面を消し、オーブンのスイッチを切った。 部屋の中に充満する、甘く香ばしいホワイトソースの匂いが、急にひどく不快なものに思えてくる。 一人で食べるグラタンは、驚くほど味がしなかった。 ただ熱いだけの塊を胃に流し込んでいるような感覚だった。 夜中の1時。環が帰ってきた。 お酒の匂いはしなかった。ただ、酷く疲弊した顔をしていた。 「おかえり」 「……うん。起こしちゃった?」 「ううん、起きてた。グラタン、冷蔵庫に入ってるから。温める?」 「ありがとう。でも、お腹空いてないから、もう寝るね」 環は俺の顔を見ようともせず、寝室へ向かおうとした。 その横顔が通り過ぎる瞬間、俺の胸の中で、何かがぷつりと切れた。 「待ってよ、環」 声をかけると、環の肩がびくりと跳ねた。彼女はゆっくりと振り返る。 その目は、泣き腫らしたように少し赤かった。 「何が不満なんだよ」 口から出たのは、思っていたよりもずっと攻撃的な言葉だった。本当はそんなことを言いたいわけじゃなかったのに。 「ご飯を作って待ってる俺が悪いわけ? 何がそんなに気に入らないの? 言ってくれないと分からないよ!」 「……誰も悪いなんて言ってない」 環の声は、信じられないほど冷ややかだった。 「刹那はいつも優しいよ。美味しいご飯を作って、私の帰りを待っててくれる。本当に、完璧な恋人だと思う」 「じゃあ、なんで!」 「それが苦しいの!」 環が初めて、感情を爆発させるように声を荒げた。 「刹那がそうやって、何もかもを完璧にこなして、私のためにって笑っているのを見るのが、今の私には耐えられないの!  私が仕事でボロボロになって、何もかも嫌になって帰ってきても、この部屋はいつも綺麗で、美味しそうなご飯があって……。 自分がどれだけダメな人間か、突きつけられているみたいで、息ができないのよ!」 環の目から、大粒の涙がこぼれ落ちた。 俺は呆然と立ち尽くした。 彼女を喜ばせようと、彼女の帰る場所を守ろうと思ってやってきたことのすべてが、彼女を追い詰める凶器になっていたなんて、思いもしなかった。 「……私のこと、もう放っておいて。お願いだから」 環はそう言い残し、寝室に入ってドアを閉めた。カチャリ、と鍵の閉まる音が、静まり返った部屋に響いた。 キッチンに取り残された俺は、自分の両手を見つめた。 にんにくの匂いや、トマトの酸っぱい匂いが染み付いた、料理をするための手。この手で彼女を幸せにできると信じていた。 けれど、それは俺の独りよがりの傲慢だったのだろうか。 窓の外では、いつの間にか雨が降り始めていた。 ガラス窓を叩く雨音が、俺の心に冷たく染み込んでいく。 翌朝、俺が目を覚ましたとき、環の姿はすでになかった。 クローゼットからは、彼女の服がいくつか消えていた。 書き置きが一つ、ダイニングテーブルの上に置かれていた。 『少し、頭を冷やします。勝手でごめんなさい』 それだけだった。 一人になったキッチンは、広すぎるように感じられた。 俺は仕事に行く気にもなれず、ソファに座り込んで、ただぼんやりと天井を眺めていた。 時折、冷蔵庫が「ブー」と低い音を立てて駆動する。 その音が、部屋の孤独をさらに際立たせた。 彼女がいなくなって初めて、俺は気づいた。 自分が作っていたのは、ただの「料理」ではなかった。 料理を通じて、彼女の心を繋ぎ止めようと必死になっていたのだ。 胃袋を掴めば、美味しいものを共有すれば、二人の関係は壊れないはずだと、安易に信じ込んでいた。 彼女の抱える本当の孤独や、仕事での挫折、そうした泥臭い部分に、俺はどれだけ踏み込んでいただろうか。 綺麗な料理で、彼女のドロドロした感情に蓋をしようとしていただけではないのか。 「……バカだな、俺は」 俺は立ち上がり、キッチンへ向かった。 冷蔵庫を開けると、昨夜食べ残したグラタンが、ラップに包まれて冷たくなっていた。 俺はそれをレンジで温めることもせず、スプーンで一口すくって口に入れた。 冷え切った脂とホワイトソースが、舌の上で不快に固まる。 ひどく不味かった。 でも、これが今の俺たちの味なのだと思った。 温かくて美味しい思い出ばかりじゃない。冷え切って、固まって、喉を通らないような夜だって、確かに二人の時間の一部だったのだ。 夕暮れ。 俺は包丁を握った。 何を作るでもない。ただ、冷蔵庫に残っている余り物の野菜を、ひたすら細かく刻み始めた。 タマネギ、人参、セロリ。 トントントントン、と規則正しい音がキッチンに響く。 タマネギの成分が目に染みて、涙が溢れてきた。 これはタマネギのせいだ。そう自分に言い訳しながら、俺は泣き続けた。 彼女が戻ってくるかどうかは分からない。 けれど、もしもう一度、彼女がこのドアを開けてくれるなら。 その時は、完璧な料理なんていらない。焦げて不格好なトーストでも、インスタントのスープでもいい。 ただ、彼女の隣に座って、彼女の不格好な話を聞こう。彼女のメランコリーを、一緒に半分ずつ、不味そうに食べ合おう。 夕暮れが終わり、キッチンに本当の暗闇が訪れる。 俺は電気をつけないまま、静かにスープを煮込み始めた。 パチパチと爆ぜる火の粉のような寂しさを抱えながら、ただ、彼女の帰りを待つために。

恋しき母なる海よ

海が好きだった。 あのどこまでも綺麗で、どこまでも恐ろしい 果てしなく続く海が好きだった。 あの海が眺められる場所に生まれ落ちれた事に感謝し無ければならない。 母なる海と、何かで聞いたことがある。 なるほど、では海は俺の第二の母となるのか 確かにと頷いた。 波の音は子守唄だ 幸せを運び、共に不幸も運ぶ。 海に入れば抱きしめてくれる 暖かく、そしてとても冷たい。 それが海だ ずっとここで海を眺めていたいと 思っていた。 ……大人になってしまった俺はそんな海の見える所から、建物と空しか見えない所へ来た 大人とは嫌なものである。 何もかも、手に入れるためには嫌なこと、汚いことをし無ければならない。 上げられ落とされ、 最悪の場合、己の心を殺さなければならない 息をするのが苦しい 嗚呼こんなのはまるで 海で溺れているみたいだ 仕事で先輩のミスを押し付けられた俺は、どうやら疲れていたらしい。 ふと気がつけば、目の前には、いつも見ていた景色ではなく、海が広がっていた。 俺はどれだけ海が好きなんだ、とか、どうやって来たかも覚えていないな、と我ながら呆れもしたが 久しぶりの磯の香りはとても落ち着くものがあった。 海で少し湿った風を受け、深呼吸をする。 海の音を聴き、目を閉じる。 とても、落ち着く海だった。 嗚呼 溺れるなら今がいい サクリ、と砂を歩いた 歩きながら靴と靴下を放り脱げた アイロンする暇が無く、少しよれてしまったスーツも、息苦しいネクタイもそのままに 波に足をつけた。 海はとても冷たく とても暖かかった 腰まで波が来ても 口の中に潮味が広がっても 不思議と怖くはなかった …嗚呼 嗚呼どうか母なる海よ! 今すぐ俺を受け入れて抱きしめてくれ! 何故か溢れる感情の分からぬ涙が、海に溶けて行く。 コポ と 最後の空気が抜けるのを聞いた それが俺から鳴っているとは、気がつけなかった

空と記す

学校の登下校中。 授業の合間や休憩中。 家にいる時、ふとした時。 私はよく、空を見ている。 特に意味は無いけれど、いつの間にか染み付いた習慣だった。 きっと始まりは、授業に飽きた、付き合いに疲れた、そんなこと。 そういう時、いつも必ずあったのが空だったから。 空は、いつどこからでも見える。 でも、いつどこから見ても表情が変わる。 まるで百面相で、そう思ったら面白くなって。 ある時から、空日記を書くようになった。 ふとした時に、見上げた空と気持ちを書く。 一日に何回も書く日も、全く書かない日もある。 だから、ルーティンとは言い難いけれど。 歩くのに疲れた登校中は、鮮やかな青に背中を押された。 授業が暇で退屈な時は、雲を数えて時間を流した。 部活が楽しくて仕方ない時は、紫の空に目を輝かせた。 家からふと窓を見た時、暗い雨雲に寂しくなった。 空が泣く、空が笑う。あながち間違いじゃないと、最近思う。 誰に見せるでもない、ただの独り言日記。 ただ空を見て、自分の気持ちを知るだけの時間。 でも、そういう時間が、ある意味特別なのかもしれない。

性格

 説明が、苦手である。  月が出ていて、その下で、女が、笑う。  で、何で。  これが、苦手である。  冷める。  気持ちがね。  説明しちゃうとね。  で、何で。  これが、苦手である。  聞かないでっ。  そういう奴なのっ。

逢引き

 首は、女を見ていた。  赤みのさした目元に色気が、漂う女であった。  首は、女の両掌に挟まれている。  月明かりに照らされて首は白々闇に浮かぶ。  波の音が、女と首の鼓膜を揺らしている。  砂浜に座した女の肌を浜風が、サヤサヤなぶってゆく。  両肩に垂れた髪が、揺れている。  生き物のようであった。  『ククク』  女の上半身が、小刻みに震えた。  唇の間から、声が漏れていた。  悦びの響きが、混じっている。  轟と風が、鳴った。  『ガッ』  首が、口を開き、歯を突き立てていた。  女の右手首である。  鮮やかな血が、滴り、白砂を染めた。  『クカカカカカ』  女の哄笑が、辺りに響いた。  『お前を漸く、喰ろうてやれる、待った甲斐があったわい』  女は、首を胸に引き寄せ、ゾロリと右眼を舐め上げた。

あなたを信じて、あなたと生きていく

誰かと生きていくということ。 私が恋愛と結婚について思うこと。 恋愛には、それぞれの形がある。 毎日連絡を取り合いたい人もいれば、必要な時に連絡が取れれば十分だと思う人もいる。 休日はいつも一緒に過ごしたい人もいれば、お互いの趣味や友人との時間を大切にしたい人もいる。 愛情の伝え方も、心地よい距離感も、人によって違う。 ただ、共通して言えることは誰かと長く一緒にいたいと思うのなら、好きという気持ちだけでは足りないということ。 相手を尊重すること。 違いを受け入れること。 自分自身と向き合うこと。 相手を信じ、時には譲り合い、時には自分の気持ちを伝えること。 私は今、彼と人生を共にしていくことを選んでいる。 これは、私が彼と過ごしてきた時間の中で考えるようになったこと。 そして、これからも彼と生きていくために大切にしたいと思っていること。 少し長くなるけれど、私なりの恋愛と結婚についての考えを書いてみたい。 1.完璧な人を求める前に、自分自身を振り返る 長く一緒にいるために、まず大切だと思うことがある。 それは、相手に完璧を求めないこと。 当たり前だけれど、誰にだって欠点はある。 得意なこともあれば、苦手なこともあるし、何度言われても直らない癖や、自分では気づいていない短所だってあると思う。 一緒にいる時間が長くなればなるほど、付き合い始めた頃には見えなかった部分も見えてくる。 最初は気にならなかったことが気になったり、些細な癖に苛立ってしまったりすることもあるかもしれない。 そんな時、相手にばかり変わることを求める前に、一度自分自身に問いかけてみてほしい。 「そんなに求められるほど、自分は完璧なのか?」 私は、自分が完璧な人間ではないことを知っている。 人より苦手なこともあるし、相手に迷惑をかけてしまうこともある。 だから、相手の欠点を見つけたときにも、それだけで嫌いになったり、相手に変わってもらうことばかりを求めることはしたくない。 彼は、忘れ物をしたり、予定を忘れてしまったりすることがある。電気を消し忘れるなんて日常茶飯事で、服のポケットに物を入れたまま洗濯をしてしまうこともあるし、お茶を作ると言ってくれたのに茶葉を入れ忘れて、ただの冷水が完成したこともあった。 普通なら呆れてしまうようなことかもしれないけれど、私はそんな彼の姿を見て、思わず笑ってしまう。 彼は忘れたくて忘れているわけではないし、私だって失敗しないよう気をつけていても、失敗することがある。 そんなことをいちいち責めていたら、きっと一緒にいることが苦しくなってしまう。 それに、私は物事を覚えておくことや、予定を管理することが比較的得意だ。 だから、彼の予定を把握したり、出かける前に忘れ物がないか確認したりすることがある。 彼が苦手なことを私が補い、私が苦手なことを彼が補ってくれる。 お互いの得意不得意が違うからこそ、うまく成り立っている部分もあるのだと思う。 私にとって、彼の忘れ物を確認することは、全く負担ではない。 彼にとっても、私が苦手なことを手伝うのは、きっと同じような感覚なのだと思う。 私たちは、お互いにできないことがあるからこそ、できる方が補えばいいと思っている。 彼の欠点を受け入れられるのは、こうやって私自身も彼に受け入れてもらっているからだ。 私にも彼を怒らせてしまったことはあるし、彼に我慢させてしまったこともある。 それでも彼は、私の全てを否定するのではなく、許し、受け入れてくれた。 だから私も、彼の全てを思い通りにしようとは思わない。 だから大切なのは、相手の欠点を見つけたとき、自分はそんなに立派な人間なのかと考えてみること。 相手に変わってほしいと願う前に、自分自身も変わる余地があるのではないかと考えてみること。 恋愛は、相手を自分好みに作り変える矯正ゲームではない。 完璧な人を探すよりも、完璧ではない二人が、どうすれば一緒にやっていけるのかを考える方が、ずっと大切なのだと思う。 ただし、何でも受け入れればいいわけではない。 相手の欠点を受け入れることと、自分を傷つける行為まで許すことは違う。 受け入れても良い欠点と、受け入れてはいけないこと。 その境界線を見失わないことも、同じくらい大切だと思う。 2.譲り合うことは、負けることではない 一緒にいる上で、意見が食い違うことは当然ある。 育ってきた環境も違えば、価値観も違う。 何を大切にするか、何にお金を使いたいか、休日をどう過ごしたいか。 どれだけ仲が良くても、全てが一致することはないと思う。 そんな時、どちらが正しいのか、どちらが間違っているのか、どちらが先に折れるのか。 私は、そんな勝ち負けを決めようとする必要はないと思っている。 恋人や夫婦は、敵同士ではない。 相手を言い負かしたところで、二人の関係が良くなるわけではないし、自分の意見が通ったからといって、それが必ずしも二人にとっての正解とは限らない。 優先すべきことは、お互いの話を最後まで聞くこと。 そして、二人が納得できる落としどころを探すことだと思う。 例えば、 「ここはあなたが折れてくれるなら、自分はここを我慢するね」 「前回あなたが合わせてくれたから、今回は自分が合わせるよ」 そんなふうに、お互いが少しずつ譲り合えたらいい。 けれど、毎回綺麗に半分ずつ譲れるわけではない。 どちらか一方が大きく折れることもあるし、どうしても譲れないことだってある。 それでも、相手が譲ってくれたことを当たり前にせず、感謝することを忘れたくない。 私たちはそうやって意見が食い違ったときには、まず相手の話を最後まで聞くようにしている。 途中で遮ったり、自分の言い分だけを通そうとしたりせず、相手がどうしてそう思ったのかを知ろうとする。 それから、お互いに譲れる部分を探す。 私が折れることもあれば、彼が折れてくれることもある。 いつも同じ人が我慢するのではなく、その時々でお互いに歩み寄ることが大切だと思う。 また、私たちはよく「来年の今頃は、まだこのことで悩んでいるかな?」と考える。 今はどうしても気になってしまうことでも、一年後には忘れているかもしれない。 いつか二人の笑い話になっているかもしれない。 そう考えると、今この瞬間の感情だけで相手を責めたり、関係を壊したりする必要はないのかもしれないと思える。 もちろん、時間が経てば解決する問題ばかりではない。話し合わなければいけないこともあるし、何度も繰り返される問題なら、きちんと向き合う必要がある。 それでも、今の感情だけで相手を敵にしてしまわないこと。 二人で同じ方向を向いて解決しようとすること。 譲ることは、負けることではない。 相手を大切にしたいからこそ、自分の意見だけに固執しない。 自分の正しさを証明することよりも、二人でこれからも一緒に居られるために出来ることを大切にしたい。 3.小さな不満を、安心して伝えられる関係でいること 大きな裏切りや、決定的な出来事がなくても、関係が終わってしまうことはある。 むしろ、日々の小さな不満や違和感が少しずつ積み重なって、気づいたときには修復できないほどの距離ができてしまうこともあると思う。 「これくらい我慢すればいい」 「こんなことを言ったら面倒くさいと思われるかな」 「わざわざ伝えるほどのことでもないかもしれない」 そうやって自分の気持ちを押し込めてしまうことは、誰にでもあると思う。 でも、相手にとっては些細なことでも、自分にとっては傷つくことかもしれない。 だから私は、どんなに小さなことでも、嫌だったことや気になったことを伝えられる関係でいたい。 小さな不満だからといって、気持ちまで小さく扱っていいわけではない。 ただ、伝える側にも相手を思いやる気持ちは必要だと思う。 自分の気持ちを分かってほしいからといって、相手を責め立てたり、傷つける言葉を使ったりしていいわけではない。大切なのは、相手を否定することではなく、自分がどう感じたのかを冷静に伝えることだと思う。 そして、伝えられた側も、相手の気持ちをすぐに否定せず、まずは受け止めてみること。 自分にとっては大したことではなくても、相手にとっては重要なことかもしれない。 何かを伝えることが怖い関係ではなく、伝えたあとに二人で考えられる関係でありたい。 4.知らない部分を知らないままでも大丈夫だと思える人を選ぶということ 私は、相手の全てを知っていなければ安心できないような関係ではなく、知らない部分があっても大丈夫だと思える相手を選ぶべきだと思う。 好きな人のことだから、何でも知りたいと思う気持ちは分かる。 誰と連絡を取っているのか、どんな人と出かけているのか、何をしているのか。 気になってしまうこともあると思う。 でも、恋人だからといって、相手の全てを知る権利があるわけではない。 スマホを見せてもらわなければ安心できない、誰と何を話したのか確認しなければ落ち着かない。 そんなふうに相手の知らない部分を埋め続けなければ成り立たない関係は、きっとお互いに疲れてしまう。 私は、相手の知らない部分を無理に知ろうとしなくても、安心して隣にいられる関係がいい。 何もかもを把握しているから信じられるのではなく、知らないことがあっても信じられる。 そう思える相手と一緒にいたい。 5.親密な関係であっても、相手の人生を所有することはできない 私は、恋人や夫婦になったからといって、相手の全てに干渉していいとは思わない。 相手には相手の交友関係があり、趣味があり、自分だけの時間がある。 恋人だから、夫婦だからという理由で、友人と縁を切らせたり、行動を制限したりすることはしてはいけないと思っている。 もし自分の束縛が原因で相手が友人を失い、その後に二人の関係まで終わってしまったら、その人は友人と恋人を同時に失うことになる。 そうなったときの責任を自分が取れるわけではないのだから、簡単に相手の人間関係を奪ってはいけないと思う。 その上で、私たちは大前提として、相手を不安にさせるような行動は避けるべきだと思っているし、お互いに誰と出かけるのか、どこに行くのかを伝え合うような報告や連絡は大切にしている。 もし不安に感じる相手や出来事があれば、私はきちんと伝える。 それでも相手が自分の気持ちを優先し、こちらの不安に向き合ってくれないのであれば、こちらから見切りをつける覚悟も持っている。 私は自分の気持ちを優先させて、相手を疑い続けたり、行動を監視したりする生活はしたくない。 世界一大好きな彼を、常に疑って生きるほど暇じゃないし、そんなつまらない恋愛をしたくない。 私は、彼と付き合うと決めたときから、彼を信じることにした。 確かにこれまで一度も不安がなかったわけではない。 でも、彼は私に嘘をついたり、何かを隠したりすることは一度もせず、いつでも誠実に向き合ってくれた。 その積み重ねが、今の信頼につながっている。 束縛をして私だけを見てくれるのは、縛っているのだからある意味当たり前のことかもしれない。 それよりも、自由にさせておいて、その上で私だけを見てくれる方が、よっぽど信じられると思った。 相手の人生のハンドルを握る権利は、恋人にも夫婦にもない。 相手の人生を尊重し、自由を認めた上で、一緒にいることを選び続けられる関係でありたい。 6.信じた結果、馬鹿を見たとしても構わないと思えるくらい信じていたい人 私は、常日頃から"彼を信じた結果、もし裏切られて馬鹿を見たとしてもいいと思えるくらい、信じていたい"と思っている。 決して裏切られてもいい、何をされても許せるという意味ではない。 ただ、未来に何が起こるか分からないからといって、まだ起きてもいないことを恐れて、今そばにいる人を疑いながら生きていくのは嫌だ。 いつか裏切られるかもしれない。 自分が知らないところで何かが起きるかもしれない。 それでも、そんな可能性ばかりを考えて、相手の行動を監視したり、スマホを確認したり、誰と何をしているのか問い詰めたりする時間を過ごしたくない。 私は、疑うことで自分を守るよりも、信じることで相手と過ごす今を大切にしたかった。 もしその結果、いつか自分が馬鹿を見たとしても、その時その時だと思っている。 少なくとも私にとっては、本当に裏切られるかどうかも分からないそんな可能性が、今目の前の彼を信じない理由にはならない。 それくらい、私は彼を信じていたい。 7.二人の時間と、お互いの自由は両立できる 私たちは、趣味も好きなこともかなり違う。 私は文章を書いたり、メイクをしたり、料理をしたり、家の中で一人で楽しめることが好き。 一方で彼はゲームやスノーボード、ダーツなど、体を動かすことや友人と楽しむ趣味が好きだ。 映画の好みも違うので、同じ作品を一緒に観ることはあまりない。 それでも、困ったことはない。 彼がゲームをしている隣で私が映画を観ていることもあるし、彼が友人とスノーボードに出かけている間、私はYayで通話を楽しんでいることもある。 お互いに一人の時間も好きなので、時には実家に帰ったり、どちらかが友人と過ごしたりして、それぞれの時間を大切にする。 その代わり、二人で過ごす時間も大切にしている。 今週はそれぞれの時間を楽しんだから、来週は前から行きたかったお店に行こう。 今週は彼の好きなことを一緒に楽しんだから、来週は一人でゆっくり過ごそう。 そんなふうに、埋め合わせの予定も決めた上で、二人の時間と一人の時間のバランスを取っている。 お互いの自由を尊重することと、二人の時間を大切にすることは、正反対のことのように思えて、実はイコールでもあると思う。 二人の時間が大切だからこそ、お互いの自由を尊重するのだと思う。 趣味が同じである必要はないし、何でも一緒にする必要もない。 違うものを好きでいることを認め合いながら、それでも一緒に過ごしたいと思えることが、私たちらしさなのかもしれない。 同じ時間を過ごしていなくても、心のどこかで相手を大切に思っていることは変わらない。 それぞれの人生を楽しみながら、二人で過ごす時間も楽しむ。 私は、そんな関係が好きだ。 8.相手に幸せにしてもらうのではなく、自分で自分のことを満たせるようになることの重要さ 恋愛をすると、相手からの連絡が少ないだけで寂しくなったり、会えない時間で不安になったりすることがある。 私自身も、昔はそうだった。 彼の仕事が忙しくなり、一日中連絡が来ないことも増えた。 寂しいと思うことはあったけれど、彼に心配をかけたくなかったし、仕事を頑張っている彼の負担にもなりたくなかった。 そこで、私は一人の時間を楽しめるようになろうと思った。 最初から上手にできたわけではない。 寂しさや不安に振り回されて、実際には起きていないことまで想像して落ち込んだり、自分の機嫌を彼に取ってもらおうとしたりすることもあった。 彼の何気ない言葉や態度に意味を探して、自分の中で悪い方向に想像を膨らませてしまうこともあった。 けれど、少しずつ自分の時間を楽しめるようになってから、一緒にいる時間も、一人でいる時間も、どちらも楽しくなった。 今は、実際に言われたことや起きたことを大切にして、言われてもいないことを勝手に想像して、自分で自分を苦しめないようにしている。 それでも未だに寂しくなることはあるし、生理前などに気持ちが不安定になることもある。 そんな時、彼は私の好きなお菓子を買ってきてくれたり、好きなキャラクターのガチャガチャをさせてくれたりする。 そういう優しさには、今でも感謝している。 ただ、以前と違うのは、自分の気持ちを自分で落ち着かせられるようになったことだと思う。 相手に幸せにしてもらうことを前提にしてしまうと、相手の行動ひとつで自分の幸せまで左右されてしまう。 連絡が来れば幸せで、来なければ不幸。 会えれば満たされて、会えなければ寂しい。 相手の行動が自分の気持ちの全てを決めるようになってしまう。 それで勝手に期待して、見返りを求めすぎる。 そして思い通りの結果が得られなければ勝手に不満を抱く。 それでは、相手も自分も苦しくて、窮屈で仕方がなくなってしまう。 だから私は、自分の機嫌は自分で取れる人でいたいし、自分の人生を自分で楽しめる人でありたい。 それは、誰にも頼らず一人で生きていくという意味ではない。 困った時には頼っていいし、甘えていいし、支えてもらっていい。 ただ、自分の幸せの全てを相手に預けてしまわないこと。 自分のことは自分で幸せにできるけれど、あなたといたらもっと楽しい。 そんなプラスアルファの関係が理想だと思っている。 9.好きなものが同じであることよりも大事なこと 趣味や好みが違うことは、何も問題ではないと思う。 好きな音楽、映画、食べ物、休日の過ごし方。 そういったものが違っていても、お互いに尊重できれば十分に一緒にいられる。 むしろ、相手の知らない世界を知るきっかけになることもある。 それよりも私が大切だと思うのは、倫理観や道徳観が近いこと。 何が許されて、何が許されないのか。 人に対してどんな態度を取るのか。 浮気や裏切りをどう考えるのか。 人として何を大切にしているのか。 そういった根本的な部分は、できるだけ近い方がいいと思う。 善悪の判断や、人として大切にしている部分が大きく違っていると、どちらか一方が我慢し続けることになってしまうかもしれない。 好きな音楽が違うことは、一緒にいる中で大きな問題にはならない。 でも、人を傷つけることへの考え方や、誠実さに対する価値観が違うことは、簡単には埋められない。 だから私は、相手を好きになる時、見た目や趣味だけではなく、その人がどんな考えを持っていて、どんな行動をする人なのかを重要視したい。 身長や髪型、服装、外見的な好み。 そういったものに惹かれること自体は悪いことではないし、恋愛のきっかけとして必要なこともあると思う。 しかし、これから先も一緒にいたいと思う相手を選ぶなら、それだけで決めてしまうのはもったいない。 どんなに外見が好みでも、どんなに趣味が合っても、人として大切にしているものが違えば、一緒に人生を歩むことは難しいかもしれない。 私は、好きなものが同じ人よりも、大切にしている美学や倫理観が近い人と一緒にいたい。 10.恋人として好きな人と、人生を共にしたい人は違う 恋愛と結婚は、似ているようで少し違うものだと思う。 恋愛には、ときめきや楽しさ、一緒にいるだけで嬉しいという気持ちがある。 もちろん、結婚してからもそういう気持ちは大切だと思う。 でも、結婚はそれだけでは成り立たない。 毎日の生活があり、仕事があり、家族があり、時には病気や困難に直面することもある。 自分たちだけではどうにもならないことが起きるかもしれない。 結婚は、楽しい時間を共有するだけではなく、人生の大変な部分も一緒に引き受けていくことなのだと思う。 例えば、相手が病気になったとき。 自分でできていたことができなくなったとき。 介助が必要になったり、思うように会話ができなくなったり、時には自分のことさえ覚えていられなくなったりしたとき。 それでも隣にいたいと思えるだろうか。 自分が相手の世話をする側になるかもしれないし、反対に、自分が相手に支えてもらう側になるかもしれない。 日常からは想像もできないようなことが、人生には起こる。 それでも、相手のことを大切に思い、二人で向き合っていけるだろうか。 子どもを持つことを考えるなら、その人はどんな親になるだろうか。 自分の子どもに、どんな姿を見せてくれるだろうか。 もし娘がいたら、いつかその子がこの人のような男性を選んでくれたらいいと思えるだろうか。 自分の人生の最期に、その人が隣にいてくれたらいいと思えるだろうか。 私は、結婚相手を選ぶ時、そういうことまで考えてみてもいいと思う。 結婚することで得られるメリットとデメリットだけを比べて、損か得かで判断するものではないと思っている。 生活やお金のことを考えるのは大切だし、現実的な話し合いも必要だ。 でも、それ以上に大切なのは、この人となら人生の良いことも悪いことも一緒に向き合っていけると思えるかどうか。 恋人として好きな人と、人生を共にしたい人。 その二つが重なる相手に出会えたら、それはとても幸せなことだと思う。 11.私が彼と結婚したいと思った理由 私が彼と結婚したいと思った理由は、ひとつではない。 どんなに大変な人生だったとしても、彼と一緒なら、その中に楽しみを見つけて前に進んでいけると思った。 もし子どもができたら、彼に似た子に育ってほしいと思ったし、娘がいたら、いつか彼のような男性を選んでほしいと思った。 自分の格好悪い部分や、人には見せたくないような部分まで見せられる相手だった。 年を重ねて、自分一人ではできないことが増えたとしても、彼になら安心して身を任せられると思った。 それに、結婚していなければ、彼に何かあった時に自分が緊急連絡先になれない。 彼に何かあった時に、一番に知らせてもらえる立場ではないかもしれない。 そんなことが悲しかった。 私の過去や体調のことを、家族や友人でさえ理解しきれなかった部分まで、彼は受け入れてくれた。 私は彼の、何気ない行動にも惹かれていた。 例えば、買い物をする際に、店員さんが読み取りやすいように全ての商品のバーコードを上に向けてレジ台に置くこと。 そんな小さなことにまで、周りの人への気遣いが表れているように感じた。 彼は、飲食店でも店員さんに対し、自然に「おいしかったです」「また来ます」「お忙しい中すみませんでした」と声をかける人でもある。 私は人見知りで、必要以上に人と関わることが苦手だ。お店の人に話しかけることさえ、少し躊躇してしまうことがある。 だからこそ、彼が当たり前のように人に感謝を伝えたり、誰かのために行動したりする姿が、とても素敵に見えた。 他にも彼の優しさを強く感じた出来事がある。 私が新型コロナウイルスに感染し、母と夜間診療を受診したときのこと。 高熱に加えて持病の喘息の症状も悪化し、息苦しく、声を出すことも難しい状態だった。 私は病院にいることだけを彼に連絡した。 すると彼は、仕事を終えてすぐに病院まで駆けつけてくれた。 感染させてしまうかもしれないから来なくて良かったのにと心配したけれど、彼は「俺のことは気にしなくていいから」と言って、私の隣に座ってくれた。 「迷惑かけてごめんね」と謝ると、「どこの病院か教えてくれてありがとうね」と言ってくれた。 夜遅く、翌日も朝から仕事があったはずなのに、母に対して「お母さんも休んでください、俺が見てるので」と声をかけてくれた。 その姿を見て、私は思った。 この人は、自分が大変なときでも、周りの人のことを考えられる人なんだと。 後日、母も感染してしまい、私はまだ回復途中で外出できなかった。 そんなときも彼は「なにか手伝えることはある?必要なものある?何なら食べれる?」と聞いてくれて、母が食べられそうなものを探して、連日、買って届けてくれた。 母がお金を渡そうとしても受け取らず、 「いつもお世話になってるので、これくらいのことはさせて下さい」と頭を下げた。 その時に母が私に言った言葉を、今でも覚えている。 「あんな人、今まで生きてきた中でも見たことないよ。あんなに優しい人いないよ」 そう言って、嬉しそうに笑っていた母の顔も忘れられない。 彼はいつもそう、感謝するべきなのはこちらなのに、彼の方が感謝してくれる。 「いつも尽くしてくれてありがとう」と言えば、「尽くしたいと思わせてくれてありがとう」と。 「祝ってくれてありがとう」と言えば、「祝わせてくれてありがとう」と。 「救ってくれてありがとう」と言えば、「生きててくれてありがとう」と。 彼は、私にだけ優しい人ではない。 年齢や性別、立場に関係なく、困っている人がいれば迷わず手を差し伸べる。 誰も見ていないような場所でも、次に使う人が気持ちよく使えるように片付ける。 私は、そんな彼の人柄を心から尊敬している。 そして、彼は私のこともたくさん受け入れてくれた。 私は曖昧な説明や、言葉にされていない意図を理解することが苦手だ。 そんな私に、彼は言葉を選びながら、ゆっくり分かりやすく説明してくれる。 人混みが苦手な私の為に、静かに過ごせるデートを考えてくれる。 体調が不安定なときには薬を持っていてくれたり、病院にも必ず付き添ってくれたりする。 メニエール病の影響でエレベーターを使えない私に、 「いい運動になるね」と笑って、何階でも階段を一緒に登ってくれる。 食器の音が苦手な私が、音に驚いてしまったときには、すぐに謝って抱きしめてくれる。 こうしたことは、挙げ始めたらきりがない。 彼は私の苦手なことを、面倒なこととして扱わない。 できないことを責めるのではなく、どうしたら一緒に過ごしやすくなるかを考えてくれる。 私は、そんな彼のことを尊敬しているし、彼のような人になりたいと思うようになった。 彼と出会ってから、人に感謝を伝えることや、困っている人に声をかけることを、以前よりも意識するようになった。 いつか二人で親になることを想像した時には、彼にふさわしい母親になりたいとも思った。 彼の口癖は「隣を歩くあなたに恥をかかせないように誇れる自分でいる」 そんな彼と一緒にいることで、私は彼の良いところを少しずつ自分にも取り入れてきたのだと思う。 12.彼と出会って、私は生きていきたいと思うようになった 彼と出会ったとき、私はまだ18歳。 人生のドン底にいた。 毎日人生に、自分に、周りに、絶望していた。 未来に希望を持つことができず、死ぬことばかり考えていた時期だった。 そんな私に、彼は無責任に「生きて」と言うことも「なんとかなるよ」と励ますこともしなかった。 私の気持ちを無理に変えようとしたり、前向きになることを求めたりすることもなかった。 ただ、隣にいてくれた。 私が泣けば、何時間でも抱きしめてくれた。 「明日はどこに行きたい?」 「来週も会える?」 そんな小さな問いかけを、当たり前のようにしてくれた。 彼は、私とこれからも一緒にいることを前提に話してくれていた。 その頃の私にとって、明日の予定を考えることも、来週のことを楽しみにすることも、簡単なことではなかった。 それでも、彼がいるならもう少しだけ生きてみてもいいかもしれないと思った。 明日も会えるなら、来週も会えるなら、その先も一緒にいられるなら。 そんな小さな未来が積み重なって、いつの間にか、私は生きていたいと思うようになっていた。 彼が救ってくれた命を、私は彼と過ごすために使いたいと思った。 もちろん、今の私がここまで生きてこられたのは、彼だけのおかげではない。 自分自身で病院に通い、治療を続け、生活を整えようとしてきた。 自分の気持ちと向き合い、一人で過ごす時間を楽しめるようにもなった。 それでも、あの頃の私に未来を想像させてくれたのは、間違いなく彼だった。 もし彼に出会っていなかったら、今の私はどうなっていただろう。 大げさでも悲観的でもなく、彼と出会わなければ、私は今ここにいなかったかもしれないと思うことがある。 彼と出会って、私は誰かと人生を共にすることを想像できるようになった。 そして、彼と生きていく未来を、自分の未来として楽しみにできるようになった。 13.相手を選ぶことと、自分自身を見つめること 恋愛がうまくいかないとき、相手に原因を求めたくなることもあると思う。 本当に相手に問題がある場合もあるし、自分を大切にしてくれない人と無理に一緒にいる必要はない。 どれだけ好きでも、傷つけられ続けたり、雑に扱われたりする相手にしがみつく必要はないと思う。 自分を大切にしてくれない人から離れることも、自分を守るために必要な選択だ。 ただ、もし何度も同じような理由で恋愛がうまくいかなくなってしまうのなら、一度、自分自身のことも振り返ってみてほしい。 自分は相手に何を求めているのか。 相手に求めていることを、自分も相手に返せているのか。 自分の理想を押しつけていないか。 相手の欠点ばかりを見ていないか。 与えてもらうことばかりを考えていないか。 誰と付き合っても、全てが自分の思い通りになるわけではないし、理想にぴったり当てはまる人などいないと思う。 相手に完璧を求めすぎて、せっかく一緒にいられる人との関係を壊してしまうのは、もったいないことだと思う。 お互いに欠点を認め合い、歩み寄れる関係なのか。 それとも、自分だけが我慢し続けている関係なのか。 その違いは、きちんと見極めなければいけないと思う。 自分が変わることと、自分を犠牲にすることも違う。 相手を大切にするために自分の考え方を見直すことはあっても、自分の尊厳まで手放す必要はない。 誰かと長く一緒にいるということは、どちらか一方が我慢し続けることではなく、お互いが相手の存在を大切にしながら、二人にとって心地よい関係を作っていくことなのだと思う。 14.最後に 私は、彼と出会う前と今とでは、恋愛に対する考え方が大きく変わった。 以前は、好きな人に嫌われないことや、相手に必要とされることを大切にしていたように思う。 でも今は、相手の自由を尊重すること、自分自身の人生を楽しむこと、欠点を受け入れ合うこと、そして何より、彼を選び続けることを大切にしている。 私にとって彼は、いつまでも異性として魅力的な人であり、時には親友でもあり、家族でもある。 そして、絶対的な味方でもある。 これから先、何年経っても、何十年経っても、彼のことを好きでいたいし、一人の人間として尊敬していたい。 特別なことなんて起きなくていい。 どこか遠くへ旅行に行かなくても、豪華な食事をしなくても、毎日何か嬉しい出来事がなくてもいい。 ただ、彼が心穏やかに生きていてほしい。 彼が笑っていてくれたら嬉しいし、彼が好きなことを楽しんでいてくれたら、それだけでいいと思える。 明日が特別じゃないことが、きっと何よりも特別なことなのだろうと私は思う。 何かをしてもらえるから大切なのではない。 何かを返してもらえるから愛しているのでもない。 ただ、彼という人が、彼らしく幸せに生きていてほしい。 そんなふうに、見返りを求めずひたすらに願える相手に出会えたことを、私は幸せに思う。 自分のことは自分で幸せにできるけれど、あなたといたらもっと楽しい。 これからも、そんな二人でいたい。 誰かと生きていくということは、相手の人生を自分のものにすることではない。 それぞれが自分の人生を生きながら、それでも隣にいることを選び続けることなのだと思う。

冬が好き

 みなさん冬ってお好きでしょうか?  私は大好きでございます。  寒くても着込めばなんとかなるのと、黒くてテカテカしたあいつが出てこないのが大きくて…。  何よりあの冬の懐かしい〜ようなもの寂しい〜ような空気と雰囲気が好きでして…夜に悲しい曲を聴いてたらめっちゃ震えてくるような感じが大好きなんですね…。  冬みたいな物語を書いてみたいなあと日頃から思っております。  皆さんは冬お好きですか?  あと初詣でどんだけ夜遅くても怒られないの最高!!!!!!!

ハッピー

 朝から歯を食い縛っている。  今日は、とても、いい事があった。  顎がダルい。  とても、とても、いい事が、あったのだ。