第5回NSS決勝 よくあるサスペンスもの
ぼくはサスペンスものが好きだ。読み進める中で、自分なりに推理を立てるのが面白いからだ。ただ、今読んでる小説があまりにもテンプレすぎて、正直参ってる。 まず、主人公が友達に誘われて孤島の屋敷に訪れる。そこで屋敷の主人が執務室で死んでるのを発見し、そこから推理が始まるのだ。部屋の鍵は閉まっていて、殺人に使われた凶器も、犯行に使われたと思しきトリックの痕跡も見つからない。いわゆる密室殺人ってやつだ。ベタベタだよね。 容疑者は三人で、屋敷の執事にメイド、主人の奥さん。もちろん、三人ともアリバイはある。 主人公は三人のうち誰かが嘘をついてると考えてるけど、これあれだな。三人とも犯人じゃなくて、実は主人公の友達が犯人説あるな。それか、容疑者三人が三人とも嘘をついてて共犯のパターンとか。 そもそも、登場人物が少ないんだから捻りようがない。実はまだ登場してない第三者が犯人ですっていう展開じゃないだろうな。そんなのが一番冷める。 まあ、今さら続きを読むのも面倒だな。 そう思ったぼくはページをパラパラとめくり、結末だけを確かめると…… 屋敷の主人の死因は、ただの過労だった。
メリーメリーエンド 。
目を覚ます。 知らない照明。みたことのない壁の汚れ。 そして、手錠が繋がったベッド。 真っ白な一室。 「、、、」 [やぁ、目覚めたかい 色葉。] 自身の目の前に、 黒い猫 がいる。 いや、猫にしては小さく、鳥にしては大きい 、、これは猫? なぜ先ほどまで気づかなかったのだろう。 「色葉?」 猫?の言う イロハ について問いかける 猫?は首を傾け、一定の声量で話し続ける。 [君のことさ 色葉。] 猫?がそう言った途端。 頭の中に一文が流れ込んでくる。 【病室 001号室 色葉 精神 不安定 交流関係者 現在、着猫と話している。】 重低音で流れる音は、声とは考えられない 脳裏にこびりついて離れない。気味が悪い声。 、、 私の名前は、色葉 ここは病室で、、目の前にいるのは 「着猫?」 そう聞き返すと、猫?は少し明るい声で 反応する [ぼくの名前覚えてくれてたんだね!色葉!] 猫は毛を逆立たせ、色葉の足元に座る 喉をゴロゴロと鳴らす。 着猫を可愛いと思ってしまう。 着猫をそっと撫でる、暖かい。生きている そして、、なんだかゴワゴワしている 毛玉を水で濡らしたような感触。 「可もなく不可もなくって感じだ」 [色葉? さっきとっても失礼なこと 言われた気がするよ] 着猫は不機嫌になり、そっと地面に降りると、 ドアの方へ向かう [色葉が起きたこと、先生に伝えてくるね] と言い残し、壁をすり抜ける 「、、猫は液体って、こう言うことか」 自己完結させ、考えないようにする。 きっとこれは夢だ。 「考えるだけ無駄だ。」 静かに目を瞑る 誰かに言われた言葉を思い出す 「目を瞑ったら 数を数えるんだ。 1 2 3 4 5 6 7 8 …… ……」 一日目
『空席のぬくもり』
カレンダーのページをめくるように、世界は当たり前の顔をして進んでいく。朝が来れば街は動き出し、改札口は人で溢れ、コンビニの自動ドアは何度も開閉を繰り返す。あなたがいなくなったあの日から、世界の一部が永遠に欠け落ちてしまったはずなのに、この街の日常は驚くほどに平然と続いている。 そのスピードに置いていかれそうになるたび、私はわざと足元を見る。立ち止まる私を、急かす人は誰もいないけれど、励ましてくれるあなたの声ももう、現実の空気としては届かない。 「亡くなった」という事実を、頭では理解しているつもりだ。それでも、ふとした瞬間に心は簡単にあの頃へタイムスリップする。 スーパーであなたの好きだった果物を見かけたとき。 おもしろいニュースを見て「あ、教えてあげよう」とスマートフォンに手を伸ばしたとき。 夕暮れの街並みが、あまりにも綺麗で切ない色に染まったとき。 「ねえ、見て」と振り返った先に、あなたの姿はない。その瞬間に胸を突く静かな痛みが、あなたという存在の大きさを何度も私に教えてくれる。会えなくなってからの方が、皮肉なほど、あなたのことを考えているかもしれない。 悲しみには、決まった形がないのだと思う。世間は「いつまでも落ち込んでいては前を向けない」とか、「時間が解決してくれる」とか言うけれど、そんなに簡単に割り切れるものではない。泣きたい日もあれば、何事もなかったかのように笑える日もある。あなたのことを思い出して胸が苦しくなる日もあれば、忙しさに追われて、あなたのことを一瞬忘れてしまう日だってある。 でも、忘れることは決して冷たいことではないと、最近ようやく思えるようになった。忘れていられる時間は、あなたが私にくれた「自分の人生を生きる時間」なのかもしれない。そしてまた、ふとした拍子に思い出す。その繰り返しの中で、あなたと私の新しい関係が作られていくのだろう。 姿は見えなくても、あなたからもらった言葉や、一緒に笑った時間の記憶は、私の一部になってしっかりと息づいている。私が誰かに優しくできたとき、それはあなたに優しくしてもらった記憶の反射だ。私が困難を前に踏みとどまれたとき、それはあなたの温かい眼差しが背中を押してくれたからだ。 あなたはもう、どこか遠い場所にいるのではない。私の生き方そのものの中に、溶け込んでいる。 空席になったあなたの場所を見つめながら、私は今日も小さく息を吐く。そこには今も、あなたという温もりが静かに残り続けている。会えなくて寂しいけれど、あなたに出会えて、あなたをこんなにも大切に想える人生で本当によかった。 だから、もう少しだけこの寂しさを抱えたまま、私は私の日常を歩いていこうと思う。またいつか、胸の中であなたに「こんなことがあったよ」と笑顔で報告できるように。
青を待つ
赤信号を見上げながら、私は小さくため息をした。 冷たい夜風が、マフラーの隙間から首元を抜けていく。 仕事で失敗したわけじゃない。 誰かと喧嘩をしたわけでもない。 ただなんとなく 自分が世界に取り残されて透明人間になってしまったかのような 寂しさが胸の奥におもりのように溜まっていた。 「……長いな」 いつもより長く感じる赤信号。 周りの人たちはスマホを眺めたり、足早に通り過ぎたりしている。 みんなには帰る場所があって、明日への明るい未来が見えているように思えて。 がんばらなきゃと思うほど足がすくんで動けなくなる。 進めと言われているような気がして けど、どこへ進めばいいのか分からない。 その時ふと隣に立った見知らぬおばあさんが、ぽつりと言った。 「焦らなくてもいいのよ」 驚いて顔を向けると、おばあさんは私を見て微笑んでいたわけではなく ただじっと、目の前の赤い光を見つめていた。 独り言だったのかもしれない。 あるいは、私と同じように立ち止まっている誰かに、そっと届くように呟いたのかもしれない。 その言葉が、冷え切った心にじんわりと染み込んでいくのが分かった。 進めないのは、自分がだめだからじゃない。 今はただ、次に進むためのエネルギーを蓄える大切な「赤」の時間なのだ。 じっと待つことだって、立派な準備なのだと誰かに許されたような気がした。 カチリと音がして目の前の世界に鮮やかな青が灯る。 「……よし」 私は小さく声に出して一歩を踏み出した。
人生の答え合わせ
私は、どうやら死んだらしい。 飛び出した小学生をトラックから庇って死んだらしい。 『なんだかなぁ。』 雲の上の門の前でため息混じりに呟いた。 死ぬ時は思ってたよりあまりにもあっけなくて、 もうちょっと走馬灯とか見えると思ってたんだけど。 即死だったのか、痛みは全然感じなかった。 門をくぐると、すぐに身長より大きな机が待ち構えていた。 そこに座ってふんぞり返っていたのは、多分神様。 『今からおまえを振り分ける』 神様は言った。 『天国か地獄か、ということでしょうか?』 『そうだ。まず…今までの人生の講評を。』 人生の講評? 『人を助けた回数…一万二千二十二回』 『はぁ』 『人を不幸にした回数、六千七十六回』 『…。』 『続いて…えーと、恋愛のチャンスを逃した回数九十七回』 『ちょっと待てー!!!』 そんなにあったの!?
左右盲のご老人
私はとある田舎町の、交番勤務をしている。 あるのは広い田んぼと山と、それにおしゃべりに来る老婦人。あとはたまにクマの目撃情報があるだけ。 時刻は深夜3時を回ったところだった。 すみません。と。 裏に引っ込み、眠気でうつらうつらしながら事務作業をしていた私の耳にか細い声が聞こえてきた。 窓口へ戻ると、そこにはひょろっとした初老の男性が困った顔で立っていた。 「どうされましたか?」 尋ねながら、相手の顔を見て軽く首を傾げる。 こんな人、集落に居ただろうか。 道に、迷ってしもうたんです。 どうやら彼は、携帯もなしにしばらくこの辺りをさまよっていたらしい。 知らん土地やし、看板は左右逆やし… 看板が左右逆?何を言っているのだろうか。 看板通り行っても、逆なんですわ。 右に行きゃあ左に、左に行きゃあ右に行きたいとこが遠ざかってねぇ。 …さては。 「…自分の家は分かりますか?ご家族の名前は?」 …多分、このご老人は認知症を患っているのだろう。となると行方不明届けが出ているかもしれない。 ええと…なんて場所じゃったかなぁ。 難しそうな顔をして、思い出すように顎に手を当てる仕草をする彼。 「すみません、すこしの間お待ちいただけますか」 話にならなそうなので、奥へと引っ込み近隣の行方不明届の資料を探した。 …が、全くと言っていいほど出てこない。 「どこから来たんだ」 独り言を呟き、部屋の中から鏡越しに彼の姿を確認しようとして、 「…?」 ─理解が追いつかなかった。 窓口の前に立っているのなら、部屋の中からは鏡越しに姿が見えるはずなのだ。 なのに、鏡には何も映っていない。 どこかへ行ってしまったのか? 慌てて窓口へと戻る。が。 どうしましたか。 変わらずほのぼのした口調で不思議そうに尋ねてくるご老人。 「…いえ」 ぎこちなく、横の鏡へと視線を向ける。 ─写っていない。 鳥肌が立った。 この老人は…鏡に映っていないのだ。 ああ、そっちだったかい。 不意に、声がかかった。 老人は、奇妙な形に口を曲げると 待っているよ。 そう言い残し、鏡に向かって歩き出した。 鏡にぶつかる直前、その身体がすうっと煙のように消えた。 目の前の出来事に、私はただ震えるばかりであった。 ひとつわかったことは。 あのご老人は認知症でも左右盲でも何でもなく、ただ『鏡の世界』の普通に従っただけなのだろう。
知恵の輪
穏やかだ。 流れる刻は、捉えられぬが、音には、絡んでいるようだ。 絡みついた指と指は、知恵の輪を解くような執着があった。 ベクトルは、逆だが。 逆向きを望みたい現状がある。 大抵の事は、諦め放置すると、乱雑を極める。 整理整頓。 自然の摂理に逆らうが、高等な行動であろう。 行動の神で、織田信長が、浮かんでくる。 トロいのが、我慢ならなかったはずだ。 殺してしまえホトトギス。 ホトトギスの身にもなってみろ。 なってみた所で、異常な人間は、直感で切っちゃうのよね。 人間の魅力の一形態では、あるよね。 形態の多様化は、人間関係において、複雑さを増すが、面白いシチュエーションの増加が、観察されるドキドキ感が、ありますな。 あった事も無しとしちゃ、嫌、ワタシとアナタ、二人で一つよ。 愛の方だね、流れは、恋のつく愛のホトトギスだわね。 苦手が、極まっとる。 極まった恋愛は、してみたい。 異常な状況は、楽しむ用意がある。 用意は、しないとね、一対他。 そこら辺、空手家の性質が、顔を出している。 性質は、生まれながらもあるけれど、後天的にも結構改良したり、付加したり可能なのは、楽しい事だと思います。 やっぱ、修羅場かなぁ。 潜ったら潜っただけ、実力は上がるよね。 狩はしないとね。 工夫しだいで、狩は楽しい筈である。 実力上げてこ。 工夫する努力というのは、非効率を憎む反応の表れではないか。 徹底した合理的精神。 美しい配置や、曲線の美、直線の美。 美は、よりシンプルにわかりやすいのが、上。 多分に直感的であるが。 美は、理屈では、無いよね。 道を行き交う人々の配置に美を観る。 これは、説明しずらい。 説明すると理屈になり、僕の感性からは、ズレてしまう。 感性もかなり意図して鋭敏化は、可能だ。 知り合いに画家が、いるが、英語のラジオ放送を聴く事が、好きであった。 彼は、英語を理解しない。 理解は、念頭に無いのだ。 あくまで、美の感度の鋭さのために、選択していた。 わかる気はする。 あまり、わかりやすいと、脳は、怠けるもののようだ。 使ってこ、脳。 計り知れないと思います。 この考えは、ブッディストにとり、腑に落ちる。 脳の中にしか世界は、無いのではないか。 信長は、世界をどう捉えていたのだろうか。 世界人口って、80億だっけ。 80億個、宇宙が、あるんだね。 好きな宇宙を生きてみたいな。 見えてるのは、脳が、魅せている。
好きだけど
"あ、この人と結婚したい。" まだキスも知らない、付き合ったことすらない高校生の私。 突発的にそう思いました。 図書室で一人。本を読んでいた時です。 本を読んで、こんなに作者に好意を持ったのは初めてのことでした。 乙一、浅田次郎、村上春樹、東野圭吾、伊坂幸太郎……色々な著者の本を読んできて、初めての感情でした。 私は作者買いで、気に入った作者さんの本を読んでいく傾向がありまして。 乙一さんはホラーの中に優しさや寂しさをブレンドしたような感じ。 浅田次郎さんは人情噺が最高。ノスタルジックとユーモアを兼ね備えたイメージ。 村上春樹さんは不思議な現実味を帯びた、現実に異世界を少し混ぜた感じ。 東野圭吾さんはミステリー初心者にもやさしく、ユーモアもあって人間味あふれる感じ。 伊坂幸太郎さんは非日常を味わえるエンターテイメントを提供しつつ、風刺や皮肉をすごくマイルド且つ上手く伝える方のイメージ。 こんな風に私の中で読んだ本から作者さんのイメージが出来上がってました。 憧れや尊敬はあるけれど、恋愛に近い感情は全く湧きませんでした。 その結婚したいと思わされた本はエッセイ集で、日々のなんでもないことをまとめられていました。 特に今でも覚えている内容で、結婚願望が湧いたお話があります。 作者が学生の頃。 放課後の教室で一人、パンを食べていると(この方はよく菓子パンを召し上がるのです)、クラスメイトが忘れ物か何かで取りに来ました。 少し話を交わしたあと、そのクラスメイトが教室を出て行かずに作者の近くに座っています。 作者は帰らないのかと聞くと、その子は 「だって、一人で食べるのさびしいじゃん」 と言って、作者が食べ終わるのを待っていてくれたのです。 このエピソードを読んだ時、さりげないやさしさに泣きそうになりました。 今、書き起こしてみると、「あれ? 惚れるのは待ってくれたクラスメイトの方じゃね??」とふと思った自分がいます。 でもあの頃の自分は、そのやさしさに心動かされた感受性すき………!!! となっておりました。 だいぶ昔に読んだので、色々間違っているかもしれません。 でも内容的にはこんな感じの話でした。 それから他のエピソードも読み、なんだか世間とズレた感覚をお持ちの方なんだなぁと。 書き方も言葉選びもセンスがあって。 それが自分の琴線に触れて。 まさにドンピシャでした。 それからその方の本を読み、一人あぁこの方と結婚したい……。 この方なら自分を理解してもらえる……なんて思った時期がありました。 とまぁ、その感情は著書を読んだ時のみに発動していた感情なのですが。 * * * それから何年か経ち、他の本もたくさん読み、その方のこともすっかり忘れていました。 たまたまどこかでその方のお名前を目にすることがありました。 どこかとはハッキリ覚えていないのですが、コンクールの選評か誌面の絵本の紹介でだったか…… 高校の時にそういえば好きだったなと思い返し、調べてみると今でもご活躍されており、ご結婚もされているようでした。 そしてまたあの頃読んだ本を久しぶりに読み返してみました。 あぁ、よかった。 やっぱり結婚しなくてよかった。 読み終わったあとにそう思いました。 まるで蛙化現象のようにあの頃の感情がスンっ! と消えてしまったのです。 自分が大人になってしまったのか、なんなのなんなのか…… それでもやっぱりあの方のファンには変わりないのを確信しました。 変わらず、言葉に心動かされるし、感受性が素敵だなぁと。 穂村弘さん。大好きです。 読んでいなかったエッセイ本があったので、この前読んでみました。 独特の感性。独特の表現。変わらず面白くて。 読んで声が出るほど笑いました。 隣にいた息子が引いていました。 また読もうと思います。 でもやっぱり結婚はいいかな。
魔法使いのピアチェーレ
ここは色々の人が住まう魔法使いやいろんな人が集まった街、「クラルス」。クラルスの空を見ると手が届きそうなくらい大きな月がすぐ側にある。クラルスは月と下界を繋ぐ道のような役割をしている。青くて綺麗な海の上に街が浮かんでいる、そんなとこも魅力的である。これは、そんなクラルスのとあるカフェ、「パルシェ」で働く主人公たちの日常の話。 第一話 カフェ「パルシェ」 「いらっしゃいませ〜」 パルシェの店内は昼間なのもあってかたくさんの人で盛り上がっていた。パルシェの名物、パンケーキをいっぱい頬張る人もいれば、ハンバーグやオムライスを食べる人。みんな休んでいた。ここには、月から物を売りに来た商人や、月から魔法使いになりに来た魔法使い見習いにクラルスの商人やクラルスの魔法使いなどたくさんの人の憩いの場であり、たくさんの思いを繋ぐ場所。そんな場所で私、魔法使いのセレナ・グローリアは日々働いていた。 「よし、これで今日の分は終わり…メェメ、りんご狩り行く?」 笑顔でセレナが言うと、セレナの相棒であり友達の羊、メェメがにっこりと笑った。メェメは首に巻かれた大きな赤色のリボンを揺らしながら首をブンブンと縦に振っていた。 「メェメ、りんご好きだもんね。店長、店の裏の木って使っていいですか?」 セレナが聞くと、店長はメェメを撫でながらセレナよりもニコニコの笑顔で 「いいよいいよ!…今日は依頼も何も無いからね。あ、あとついでに薬草を取ってきてくれる?あれを新しい魔法に使いたいんだ」 そう言われてセレナは返事をすると、カフェのキッチン横にあるドアからサンルームに出るとさらにその先、カフェの裏にある大きな庭園へと出た。店長が庭を整えるのが好きなのもあり、庭園はすごく綺麗に整理をされていた。 「いつ見ても綺麗…夜でも綺麗なのはすごいよね…」 そう呟くと、大きな畑から月光ミントや星屑ハーブをこれでもかというくらい摘んでいた。カゴいっぱいになったのを見てセレナは満足気に頷くと、 「ここからが本題。メェメ、見ててね」 そう言うと、自分の身長よりも少し縦に長くて大きい、持ち手の部分がぐるんぐるんと渦巻いている、閉じた状態の不思議な黄色い傘を取り出した。魔法使いは自分に合った魔法道具を使う。セレナは自分の魔法道具が不思議な黄色の傘だった。 「ほっ」 りんごを取り出すとりんごを赤い傘で野球みたいに打った。すると、なんと不思議!まっさらで何も実っていなかった普通の木に、りんごがなったのである。 「よし、これも持って帰ろう。パルシェはアップルパイも人気だもんね!」 メェメと笑い合いながら店長の待つ、カフェのカウンターへと戻って行った。 ピアチェーレ:音楽記号では自由に、イタリア語で喜びという意味がある
獏
夢を見た。 足の小指から頭の毛先に至るまで、全身のありとあらゆる細胞に動けと念じてみたが、まるで動かない。一向に動く気配のない身体が動いたのは、ちょうど諦めたその頃である。正しくは私が動いたのではなく、地面が動いた。そして地面だと思っていたそれは地面ではなかった。 振り落とされるように地面から引き剥がされた私の眼前に獏がいた。ただ、私の知っている獏と比べ、その図体は何倍にも大きかった。その無感情な眼球だけで人の背丈ほどあり、寝転んだ私の視界では全てを収めることはできなかった。私が寝ていたであろう背中の感触を思い返すと、煉瓦のように硬いものだった。全身のあちこちが軋み、関節が固まりきっていた。 私にとってこの状況は悪夢に近く、まさしく獏の出番なのだが、この獏を食べる獏など、想像もつかなかった。 私は動けぬまま獏に食べられた。口内もまた煉瓦のように硬かったが、喉は温かかった。生ぬるい唾液を浴び、弾力のある胃の中で何度か跳ね、最後には一点に留まった。ときどき揺れ、蒸した獏の呼吸が当たり、ほとんど音はない。私は獏の胃の中で深い眠りについた。
才能。
みんなの輪の中心にいる男は 幼なじみのたくやだ。 家が隣で小さい頃は毎日ずっと一緒に遊んだ記憶がある。泥だらけになりながら砂遊びをして家に帰って怒られてそれでも懲りずに次の日また泥だらけになって帰った。 だけど日に日にたくやとの距離を感じるようになった。 たくやは運動ができた。どんなスポーツも軽くこなしてしまう。そんなたくやが自慢だった たくやは勉強もできた。授業を1度聞いただけで全て覚えるらしい。そんなたくやも自慢できた。 ……………はずだった。全てそのはずだったのに 最近はたくやが嫌いだ。みんなに好かれて一方俺は何も出来ないなんの才能もない。強いていえば泥団子くらい綺麗に作れる。でもそれだけ。今はもういらない才能。 今も楽しそうに話しているたくやを見ると腹が立つ。わかっている妬み嫉妬だと なのにいつも笑って話しかけてくるたくやがきらいだ。気にかけてくるところも嫌いだ。どんだけ突き放しても何かしたっけって話し合おうとするところきらいだ。いつも謙虚で素直でイライラする ぜんぶぜんぶきらいだ。大嫌いだ。そう思うのに 「ほら、帰るぞー!」 そう言って笑うたくやに、ため息をついた。 ほんと、どこまでも能天気なやつ。 嫌いだ。きらい。なんでいつも… ……ああ、もう。 やっぱり好きだ。 どうしたって、憎めない。