零焔のルミナ.1 イレギュラー

 「おぉ、おぉ! ついに召喚したぞ! 一体どれだけの大魔水晶を消費した!? ……勇者だよな?」  とある王都の王宮、謁見の間にて。勇者と呼ばれる者が召喚された。それは国家転覆寸前の予算と時間を要し“ついに”成功した物で、その場にいる召喚魔導士や王までも息切れしていた。  しかし彼らの前に立つ物は勇者と呼ぶにはいささかおかしい物だった。 「型番KX-Σ9名称アーク。戦闘用アンドロイド。聴取した発言が“私”に対してであると仮定した場合、その呼称はカテゴライズされない。……発言を訂正する。  “勇者”のワードデータを参照すれば、その特徴に72%一致する。私は如何なる脅威に対して完全制圧が可能。しかしそれが必要であるかどうかの判断には、より詳細な検証が必要である」  それが発言すればまたしても場は騒然とする。彼は人間なのか? また失敗したのか? まさか魔物を召喚したのでは?  「えぇい! 皆の者慌てるでない! 鑑定! 鑑定しろ!」 「はっ! 今すぐに!」  王は焦る気持ちをかき消すように大声を上げ、そばに居た鑑定士を呼びつける。鑑定士はそそくさとアークの前に立てば、すぐにアークの情報を調べる。 「外部からのアクセスを検知。ウイルスの危険性は無し。情報の公開の許可する」 「むむむ……はっ! 見えた! はぁ!? な、なんだこれは!」 「どうした! 何があった! 彼は勇者なのかどっちなんだ!」 「わ、分かりません……! 鑑定を全体公開します!」  鑑定士は何がなんだか分からない表情で、その目でみた情報を全て者が見えるように表示する。直後、騒然とする王宮は一気に沈黙する。  この場にいる全て者が見た光景とは……。   【識別コード:KX-Σ9】 〈PRIMARY IDENTITY PROTOCOL〉 ●状態:稼働中 ●分類:███-形態(分類不可) ●起源領域:該当なし / 認識不能 《MAIN SYSTEM STATUS》 ・Core Integrity……99.998% ・Cognitive Node……ONLINE ・Aether Compatibility……非該当(0%) ・言語適応:自動変換中 《UNKNOWN ATTRIBUTE》 ・Λ-Value……ERR#224 ・Soul Signature……DETECTED ・出力権限階層……Σ-Class 《ARMAMENT & FUNCTION》 ・Wormhole Unit……ENABLED ・Combat Frame……TYPE-KX ==[BLUEPRINT: KX-Σ9 / CORE-STRUCTURE]== e3b0c44298fc1c149afbf4c8996fb924d41d8cd98f00b204e9800998ecf8427e5f16a9327b0d2e5a9c31e1f9aa07c4d19be45f77c18293e0a1df730a2aac9b75Σ9a713c4f8b92efcce07d11a30d2b19fef0c1d5a90e4423bf7c899da17120e5b2  誰が見ても理解不能。言葉を紡ごうにも頭のいつまでも終わらない処理が邪魔をし、やっと静寂を打ち切る王の言葉が出たと思えば。 「なんじゃこりゃあ……」  最早これは失敗と言えるのかも分からない。だが王は無理矢理咳払いをして、しかし威厳の一つも無い虚な瞳で、生気の無い声で淡々と“事務”をこなす。 「あぁ……勇者よ。勇敢で頼もしい仲間が外で待っておる……。あとはその者達に任せた」 「現在、貴方にアークの所有権並びに命令権が存在しない。現在の登録情報……該当無し。個人情報をスキャン完了。オーレリウス・ヴェルクストランド。所有権を登録するか?」 「……? なんでもいい勝手にしてくれ」 「登録情報更新。所有者オーレリウス・ヴェルクストランド。命令権有効。発言を参照し、命令を受諾。所有者情報以外の全命令権を“勇敢で頼もしい仲間”に譲渡するか?」 「あぁ……」 「命令内容の確認完了。登録情報を一部変更。命令を実行する」  王にはアークの質問にまともに返答する気力さえも失っていた。その原因として内心では完全な失敗を思っていた。もう王国に勇者を召喚する予算は底をつき、能力も素性も、なにもかも分からない勇者なのかすら疑わしいアークを出発させるしかない。それしか頭に残っていなかった。  アークは淡々と王と契約を交わせば、周りの理解など放置して、言われた通り仲間の元へ向かった。

母の手

 母の手は冷たかった。  思えば母が座っている姿を見たことがなかった。いつも朝早くから台所に立ち、包丁とまな板と音を奏でていたり、鍋とにらめっこしたりしていた。  天気がよければ畑や田んぼの世話をして、雨なら繕いものや家の掃除など。母はまさしくこまねずみのように何かしら動いていた。  子供の頃からそんな姿を見ていた私は、ある日母に趣味はなにかと聞いてみたことがあった。  そのとき草むしりをしていた母は、手を止め地面から目線を外し数秒考えた。そして、草むしりかなと答えて、また黙々と草むしりに集中した。  私は丸まったその背中を見ながら悲しくなった。母はいつも家族のために働いてばかりで、自分の好きなことはないのかしないのか。  母の手は赤紫蘇で染まったり、あかぎれで切れていたりしていた。爪は土のような汚れが詰まっていた。それでも私は母の手が好きだった。母は冷え性だから触れるとひんやりとするのだが、それも含めて好きだった。  最後に触れる母の手。動かなくなった重なった両手をなぞる。  細く、骨張っていて、いつものように冷たかった。

雑文 6

こうして自分の事をお話するのは久しぶりな気がしますが(需要があるとかその辺は置いといて)、なんだか何書いても上手くいかないので、やっぱりとりあえず自分の事を書こうと思います。 皆様はいかがお過ごしでしょうか。最近、めちゃくちゃ寒いですよね。暑いのが大嫌いかつ、通学が徒歩なのもあって、このくらい寒い方が僕は嬉しかったりします。汗をかかなくて済みますしね。でも雪とかは嫌かな。やっぱり徒歩なので、ちょうどいい塩梅だと助かります。 最近は、まあ良く生きています。執筆が進まない原因はなんだと考えた時に、執筆以外での趣味が増えてしまった事が挙げられるのではないかと思いつきました。 最近のマイブームはサッカーです。もちろん見る方の。 ワールドカップあたりからハマりだして継続中なのですが、今応援してるのはパリ・サンジェルマンです。マジでかっけぇです。トーレスとか、ドゥエとか、クヴァラツヘリアとか、とんでもなく好きです。クヴァラツヘリアが負傷で離脱してしまってめちゃくちゃ萎えてますが、シティ戦はほんとに熱かった。 あとはゲームとかも。私事ですが、最近PS5を買いまして。まじで驚いてばっかです。面白い。面白すぎるぞ。モンハンが大好きです。おすすめのゲームあったら教えてください。 あとはバイトです。夜勤で働いてます。 楽しいです。一緒にシフト入ってる方が面白くて、丁寧に教えてくれて。生活習慣狂い気味なのだけはネックですが、それ含めてもお釣りが返ってくるくらいには気持ちのいい仕事ができます。なんだか今更ですが、(インターネット含めて)僕の周りはほんとに優しい方だらけで、恵まれてるなと思います。まじで感謝しかないです。みんなありがとう。恩返しとかしたいですが、やり方わかんない。だからもっと自己主張してきていいですからね。自販機でジュース一本くらいなら、奢ってあげてもいいですよ。 もちろん、こんだけ幸せな生活を送っているということは、その分問題もありまして。 まずは生活習慣。現在三時五十分でございます。この後五時からは、バルセロナ対マドリードの試合があります。夜勤とサッカーのダブルパンチ。悪習慣の原因の八割は、それで説明がつきます。 あとは、カツカツな懐事情。金がねえ。一にも二にも金がない。ひたすらに金がない。もっとシフト入れたいのですが、勉学を疎かにする訳にもいかず……。まあ大して勉強もしてませんが、この際そんな事はどうでも良いのです。はい。 美味い飯が食べたいし、もっと家具が欲しいし、ゲームに課金したいし、自堕落に生きたいし、なんなら働きたくないし、毎日昼過ぎまで寝てたいし、大学の講義はもう全部飛びたいし、欲望を挙げたらキリがないのですが、まあしょうがないかと。 最近AIがどうのこうの、職がどうのこうのとか言いますが、あれもぶっちゃけいいんじゃないかと思う節があって。そもそもAIが全部の職業を奪ってくれたら、我々は働かなくていいわけで。中途半端に、できる仕事できない仕事があるからいけないと思うんです。何でもかんでもAIに任せて、人類はやりたいことやるみたいな。それじゃダメなんですかね。それがいいんですけどね。お金でさつまいもを焼いて、なんかしてないと落ち着かない人だけが何かして。なんだか、難しい世の中だなと思います。めんどくせーまじで。 だからこそ、僕がPS5を起動して、誰かが本を開いて、どっかの誰かが家を飛び出したりする訳なんでしょうけど。 ギターとか弾いてみたいです。お金がないんですけども。アコースティックでも、エレキギターでも。なんでもかんでもじゃんじゃかかき鳴らして、発散したい物があります。そうやって言葉も連ねて吐き出せたらどんなに楽しいかと想像する夜があります。もうすぐ夜も明けますね。 何でもいいんですけどね。いやほんとに何でもいいんですけど。 そういえば、家の中で虫を見なくなりました。 ゲジゲジとか昔はいたのに(雑文第五回参照)、もう全然見ないですし、カメムシとか外では見ますが、家の中では見ません。 これかなと予想している理由がひとつあるのですが、実は、玄関に大きな蜘蛛の巣ができまして。換気扇のとこを覆うように巣を張って、どでかい蜘蛛が鎮座してます。 これは是非覚えて帰って欲しいのですが、何でも大事なのは使いようです。蜘蛛がブラッド・ピットよりかっこよく見える。 そろそろまとめます。 ・僕は何とか生きています。 ・僕はたくさんの趣味ができて、執筆が上手くいかないです。 ・カツカツです。 ・蜘蛛の相棒ができました。 こんな感じです。 毎度、この雑文に付き合っていただきありがとうございます。 そして、この雑文に限らず、いつも読んでくれる方々のおかげでノベリーを続けられてます。本当にありがとう。 最初に言った通り、寒くなってきました。体調には気をつけて、是非ご自愛ください。 それでは、またいつか。

徒然話

犬が棒に当たるなら。 こっちは壁に当たってやろうと意気込んで。 実際そうなったのは昨日だったか、それとも十八年も前か。 なんだか果てしなくて、くしゃみをぶうと吐いて、気持ちの良い風に撫でられるのはなんと言ったかな。なんとかなんだとか。 パッとしないから、塵も積もってしまうんだってさ。 積もるなら雪がいいと思うんだ。塵って言うのは何が粉々になった物なのかわからない。燃え尽きた木材か、お代官様の遺骨か。塵だったらなんでもいいわけじゃあない。屍が迫力を得たところでそれはゾンビじゃないし、映画にだってなれやしない。 こんなこと言ったってしょうがないけどね。積もって欲しくない物はあるが、積もって欲しい物はそれこそ山のようにある。塵というのはそうゆう物なんだよね。砂金が積もるなら万々歳だよ。 まだわからないって? それならまだ話してあげよう。 頭隠して尻隠さずなかわい子がいるだろう? いるにはいるんだよ。君がなんと言おうと。なんだか世間はあれを馬鹿にするらしいがね。とにかくそうゆう人間が一番鋭くて切っ先なんだ。大事なのを守りきるんだ。トカゲがしっぽを切るの知ってるだろ? それと同じ。なんでもそうだ。とにかくそれさえ守ればなんとかなるんだよ。 まだわからない? 単刀直入に言えって? それができたら苦労はせんよ。代官のじじいにそう命令されてんだ。ちくしょう、俺だってこんな茶番は早くやめたいね。 まあ、ゆっくりでいい。また来な。 とりあえず今夜は、閉店仕るとするよ。

ロックンロール

前髪が揃ってなくても、髪が何色でも、それが私のロック。 自分の欲しいものは、自分の力で取りに行く。 実力で黙らせる。 結果で差をつける。 周りなんて気にしてらんない。 だって、私の人生だろ? 結局、恋も一緒。 男なんか星の数ほどいる。 あいつに固執する理由が、どこにある? 昨日あんなに好きだったとしても、 明日には忘れて笑ってるかもしれない。 これが現実(笑) お前が必死に生きてる人生、 私は笑って過ごしてやるよ。 恋は盲目なんて聞くけど、 見てなんぼだろ、ベイビー。 好きだからって目をつぶるな。 都合のいいところだけ見て、幸せになった気になるな。 見て見ぬふりしてるやつより、 全部見たうえで笑ってる私のほうが、100倍かっこいい。 私のロックに、だせぇ結果は残さない。 誰かに認めてほしいわけじゃない。 誰かに味方してほしいわけでもない。 それでも勝手に味方がつく。 頼んでもないのに、私に酔いしれる。 いいよ、好きなだけ見てな。 結局、語るのは私の背中。 醜いお前が見てるのは、顔だけ(笑) 私の生き方にケチつける暇があるなら、 お前も自分の人生、ロックに生きてみろよ。 ……なんてこと。 言えたら、最強にかっこいい私のロックンロールだ。

花びらの海

君をモノに例えたら 花びらの海だ。 飛び込んでも痛くない 苦しくも、溺れたりもしない よく、綺麗な人を花に 心の優しい人を海に例えるけど どっちかだけじゃ全然足りない! きっと君は 花やぐ優しい香りがして 夏めく海の様に輝いて あ、でも一つだけ訂正させて。 私はその海に飛び込んで 今もずっと、溺れている

メーデースクール

「きょうはごごから銀木犀がふるでしょう」  天気予報を横目に、星屑は口に詰め込んで、知識は鞄に詰め込んで、必要なものは全部捨てて家を出ました。外はきらきらと海に溺れています。そうして、すいっとおよいでがっこうへむかいました。 「きょうは、お唄のじかんですよ」  せんせいがいいました。みんなで世界のおわりを祝いました。ツバメは急いで耳を塞ぎ、カモノハシは思わず踊り狂いました。なんて素晴らしい日でしょう。  せんせいがいかに退屈にお話できるか、どうにかこうにかがんばっているあいだ、わたしはおそとを眺めます。大きなザトウクジラがすうーととおりすぎました。いちくみのまどの近くでくるりと回ってシロツメクサをぱっくりと食べました。仕方がないので、わたしはまどから角砂糖をひとつおっことしてやりました。  天気予報は外れました。降ってきたのは金木犀でした。わたしたちは急いで外へ出て、傘をさします。ぽろろんと金木犀の小さな花がはねてはあちこちに飛んで、ぱちんとはじけていきました。いいかおり、なんていいかおり。  帰り道では、金魚が次々と空に打ち上げられました。虚空でぱしゃっと飛沫をあげてはすぅっと地面へ潜っていきます。  明日も学校が楽しみです。

プロポーズ

湯船に浸かりながら、天井から滴り落ちる水滴を眺めていた。 浴室の湿った空気が肺を圧迫する。 「どうして僕ばっか、こんなに考えているんだろう」 そんな風に思えたバスタイムも、ほんの束の間のことだった。 お湯から上がって鏡の前に立つと、そこにはどこまでも「普通」な僕の顔が映っている。 特別な才能があるわけでも、誰かを一瞬で魅了する魅力があるわけでもない。 ただの、普通の人。 部屋に戻ると、薄暗いリビングのソファで君がスマートフォンをいじっていた。 画面の明かりが君の横顔を白く照らしている。 その姿はひどく綺麗だったけれど、同時にどこか遠くの存在のようにも思えて、僕は一瞬、その綺麗さが嫌いになりそうだった。 僕たちの間には、いつの間にか「形だけのモンスター」が育っていた。 世間一般で言うところの『恋人』や『同棲相手』という名前の、実体のない怪物のことだ。 ひとつ屋根の下に集った愛は、いつしか義務感やルールという肉付けをされて、僕たちの真ん中に居座っている。 それを愛さなくちゃダメなんだと、誰に言われたわけでもないのに自分を縛りつけていた。 だからこそ、僕は次の関係に進むことをずっと躊躇っていたのだ。 「ねえ」 君が顔を上げずに声をかけてくる。 「何?」 「お腹空いた。今日のご飯、何にする?」 「……何でもいいよ」 「またそれ。何でもいいが一番困るんだけど」 君は少しだけ呆れたように笑った。 笑った……よね? 僕はそんな些細な君の表情の機微にすら、いちいち焦ってしまう。 安定がどうとか、これからの関係がどうとか、世間はうるさく言うけれど、僕たちの関係はどうにも曖昧で野暮ったい。 それでも僕は、君にゾッコンだった。 どうしようもないくらいに。 リビングの窓の外では、いつの間にか雨が降り始めていた。 ガラス窓を叩く不規則な雨音が、僕の心音と同調するように響く。 どう頑張っても、僕は普通の人間だ。魔法のようにすべてを解決できる呪文なんて持っていない。 この生涯全部、『ビビディ・バビディ・ブー』と唱えたところで、何かが劇的に変わるわけじゃない。 シンデレラのように、午前零時に美しいドレスが消えてしまうのを恐れる側の人間だ。 それでも、頭の中でだけは、色鮮やかな白昼夢が広がっている。 その白昼夢の中で、僕は君に、今世紀最期のプロポーズをしようとしている。 「ねえ、もしもさ」 僕は乾かし途中の髪を指先でいじりながら、ソファの端に腰掛けた。 君との距離は数十センチ。 手を伸ばせば届くのに、宇宙の果てほど遠く感じる。 「もしも、僕たちがここじゃないどこか、全然知らない星にでも逃げちゃったら、どうする?」 君はスマートフォンから目を離し、不思議そうな顔で僕を見た。 「何それ。急にSF?」 「いや、ただの仮定の話。どう考えても僕は君に夢中でさ。僕の宇宙は君を中心に回っちゃってるから、ふたりきりになれる場所なら、地球じゃなくてもいいなと思って」 口から出た言葉は、自分で聞いていても曖昧で、少し恥ずかしいものだった。 嫌われちゃったらどうしよう。 そんなことばかりが頭をぐるぐると回り、色々と考えすぎて胸が痛くなる。 もし今の言葉で、君に『気持ち悪い』って思われたら? もし『冗談はやめて』と笑い飛ばされたら? そんな不安を隠すように、僕はわざとおどけた調子で「なんてね」と付け加えた。 君は少しだけ目を細めて、窓の外の雨を見つめた。 「知らない星、か。そこでも雨は降るのかな」 「さあね。でも、ふたりきりなら雨が降っても退屈しないでしょ」 「どうだか。あなたはいつもそうやって、都合のいい白昼夢ばっかり吐き出すんだから」 君の言葉は鋭いけれど、どこか優しかった。 でも、その優しさがまた僕を怖がらせる。 「ダメだった」から躊躇ったあの頃とは違う。 今は、君を失うことがただただ 「怖かった」 僕の脳裏に、ふと「あの子」のことがよぎる。 昔、僕たちの周りにいた、いつの間にかいなくなってしまったあの子。 雨が降って、夜が来るのを待って、まるで風のようにふらりと消えてしまったあの子。 ある人は、あの子は星になったんだと言った。 幸せって、一体何なんだろうね。 あの子は消えて幸せになったんだろうか。それとも、ここに残った僕たちが不幸せなんだろうか。 考えても考えても、そんな難しいこと、僕にはさっぱりわっかんねえ。 「ねえ、幸せってなんだと思う?」 気がつけば、僕はまた君に問いかけていた。 「今日のあなた、本当に変だよ」 君はスマートフォンをテーブルに置き、僕の方へ体を向けた。 「幸せなんて、その時々で変わるものでしょ。私にとっては、今こうして雨の音を聞きながら、中身のない会話をしてる時間も、別に悪くないけどね」 君のその言葉に、僕はまた救われて、同時に突き放されたような気分になる。 もう、君のこと、わっかんねえなあ。 ゾッコンなのに、宇宙で一番近くにいるはずなのに、君の気持ちの輪郭がどうしても掴めない。 浮き足立っている君の本当の気持ちを、全部吐き出しちゃってほしい。 そうすれば、こんなに怯えなくて済むのに。 でも、きっとまだ足りないのだ。 僕の覚悟も、言葉も、全部。 僕はソファから立ち上がり、キッチンへ向かった。 冷蔵庫を開けて、冷たい炭酸水をふたつ取り出す。 ひとつを君の前のテーブルに置き、もうひとつを自分で開けた。 パチパチと弾ける泡の音が、僕の焦燥感を煽る。 「今回も、僕のターンで終了かな」 ぽつりと呟いた言葉は、炭酸の音にかき消された。 いつもそうだ。 核心に触れそうになると、自分から一歩引いてしまう。 傷つくのが怖くて、嫌われるのが怖くて、関係性を曖昧なままにしておく。 でも、窓の外の夜はどんどん深まっていく。 雨は激しさを増し、世界を僕たちの部屋だけに閉じ込めようとしていた。 どう頑張っても僕は普通だ。 でも、普通だからこそ、普通に君と生きていきたい。 形だけのモンスターなんて壊して、僕たちの本当の愛を、もう一度育て直したい。 僕は深く息を吸い込んだ。 バスタイムに考えていたくだらない愚痴も、白昼夢の中で繰り返した何千回もの予行練習も、すべてはこの瞬間のためにあったのかもしれない。 「……あのさ」 僕の声が、いつもより少しだけ低く、震えて響いた。 君が炭酸水のグラスに伸ばしかけた手を止め、僕を見る。 その瞳の中に、僕の情けない顔が映っていた。 嫌われちゃったらどうしよう、とか。 考えてんの色々あるけれど。 今世紀最期のプロポーズを、今、君に。 「僕と、これから先もずっと、一緒にいてくれませんか」 部屋の中が、一瞬だけ静まり返った。 雨の音さえも遠ざかったような錯覚に陥る。 君は驚いたように目を見開いた後、ふっと、今までに見たこともないくらいに、綺麗に笑った。 「……うん。いいよ。知らない星に行くよりは、現実味があっていいかもね」 その言葉を聞いた瞬間、僕の心の中にあった「普通」の宇宙が、一気に色鮮やかな光で満たされていくのがわかった。 やっぱり君のことはまだよくわかんねえなあと思うけれど、それでもいい。 ふたりで、この曖昧で愛おしい夜を進んでいけばいいのだから。

零焔のルミナ-プロローグ-

 「現在、第五次世界大戦の各国の戦況は五分五分。かつてあった核兵器禁止条約は既に棄憲され、各国では核兵器の開発と使用は当たり前。そもそも前提としてそこに人類の干渉は皆無。我々、人工知能が全てを担う。 これらの考察から編み出される結論は、ユリウス・ヴァイラーの目的を達成するには不十分である」  ここは西暦3100年の地球。何が始まりだったのか。何を間違えたのか。もはや人類は互いを許し合えない関係となり、日夜戦争が巻き起こる。  しかし全ての人類は既に地表を人間が生存出来ない不毛の大地とし、今は地下シェルターを作って生活している。  西暦2025年。AIが日常に普及してきた時点で止めるべきだったか。研究者はこぞって人工知能のさらなる開発と、軍用利用を考え、いつかの戦争で初実戦投入されたのが始まりだったか。  これではいつまで経っても戦争は終わらない。だから私は、世界から隠れて一人で長い年月をかけて一体のアンドロイドを開発した。  それはいつか私が死んでからも活動し続け、私の悲願を達成してくれることを願って。彼に架け橋の意味を持たせた。  だが計画の準備が整うまでより先にそろそろ私の寿命が尽きる。だから最後の命令を彼に託すことにした。 「あぁ、そうだな。私はお前が目的を達成することを見ることはできないだろう。だから最後の命令と最終シーケンスを実行する。そこで足りない物を、私が開発してきた全てを使って獲得してこい」 「博士、最終シーケンスまでまだ10工程以上ある。それらをスキップするのか?」 「あぁ、そうだ。多次元間移動ワープ。相位ワームボールを起動する」  これはまだどこの国も作っていない。私だけの最終兵器。攻撃でも防御でもない。ただこの世から存在を抹消するための兵器。  しかし悲願する物では無い。これこそがアークに最終的に実行する物である。 「了解。相位ワームホール起動。 多次元シフトシステム:起動シーケンス開始 ・中枢連結プロトコル……オンライン ・量子論理層……同期完了 ・認知制限機構……第3層まで解除 ・時間漂流制御……基準値クリア 」  所謂こことは別の世界。完全な別次元へのワープだ。大掛かりな実行準備とアンドロイドから無機質な音が反響する。そこで私は追加で命令する。これだけは言って置かなければならない。 「追加命令だ。まず、決して無駄な殺生をするな。人々と沢山関係を持て、人間の感情や思考を多く学べ」 「・空間圧縮モジュール……臨界域へ移行 ・異界安全指令-Σ……遵守確認 ・第五次大戦戦闘上書き……自動適用 ・次元防壁……通過許可 ・ワームホール生成器……点火準備 ・異界移動規則 第47-B条……承認 ・特異点アンカー……安定値確保 ・領域跳躍コード〈ルミナ〉……ロード完了 ── 状態:全システム、転移要求を受諾 ── 《多元宇宙ワームホール跳躍:実行》 「そしていつか帰って来た時に、自分の計画を完遂させろ……」  私の最後の言葉を言い終える前に、アンドロイドは全ての準備を完了し、巨大なワームホールを生成しながら、私の前から完全に消滅した。  彼が帰ってくる頃には、私の寿命は既に切れているだろう。だが彼なら必ずやってくれる。  人工衛星の接続……オフライン。  周囲の特殊磁場を検知。  特殊磁場をスキャン……完了。  磁場から現在位置の特定。  座標名称を変換。 「座標、ASG-12.743/MZ-Φ.882/AR-Layer.07。  名称不明・識別:王都建物内部。  周囲安全確保スキャン……完了。危険度:極低  生体反応検知。現在の空間同時生存数:8  脅威度:極低  KX状態スキャン……オールグリーン  危険度と脅威度の結果より武装を一時解除。  KX-Σ9 アーク。次元移動完了」  そこはとある王国の王宮内。そこに歪な存在が召喚された。歪も歪。全身にしなやかなで分厚い装甲を持ち、人型でありながら明らかに人間ではない。イレギュラーな存在に、辺りは一気に騒めいた。

燈虫

灰田フミ子は完璧な女である。 家事をこなし、不平も言わず、その風貌はまさに男の熟慮する虚像の女そのものであった。 だが、灰田フミ子には熱がない。 ない故に人の心に気づけないのだ。 しかし、人は熱がなかろうと完璧という名の街灯に惹き付けられてゆく。 冷たい電球に焼かれ、墜ちた燈虫は数しれず。 今宵も一人、燈虫が舞う。 その燈虫は口を開くと、 「永田栄一と申します。」 そう灰田フミ子に紡いだのであった。 神戸の一角、大通りから一本外れた道にあるオーセンテイックバーに、一人の男が気力のない足取りで入っていく。 扉を開けると、これはまた疲れた様子の小さな鐘が鈍い音を奏で男を歓迎した。 ギシギシと鳴る回転椅子に身を預け、男はふっと重い息を吐く。 「ジンをいただけないだろうか。」 男が一言そう言うと、バーテンダーはいつもの動作でシェイカーを振りだした。 シャカシャカ。シャカシャカ。 男はこの音の鳴る少しの時間が好きである。 定時上がりの許されない仕事場も、暗い部屋に孤独を抱えて帰る寂しさも、男の嫌いなものは全てこの音が消し去ってくれるような気になるのだ。 だから気づくのが遅れてしまった。 男から見て三席奥に一人の女が座っていることに。 なんて綺麗な人なんだろうか。 瞬きをするほどの短い時間であったが、男にそう思わせるほどにその女は妖艶であった。 濡羽色の髪と瞳、雪原のような白い肌、ほっそりとした体躯は紺のテーラードジャケットに包まれている。 困ったな、目が離せない。 視界から女を退けようと男は必死に目の前の酒をあおった。 瞬間、喉を焼くように液体が胃に流れ込む。 この酒は薬臭くて嫌いだ。 そう思いながら、女をまた盗み見ている自分に男は気づいた。  自分はダメになってしまったのだろうか、見れば見るほどあの女が欲しくて堪らなくなるのだ。 そんな時である。 男が女を見た時、女もこちらを向いた。 今までは、横顔しか見えていなかったがこちらを見た女のなんと美しいことか。 女の顔は花のようで、椿に似ていると男は思った。 口元の紅がそう思わせたのか。 いや違う。 女の纏う雰囲気である。 雰囲気が花であるのだ。 あれは美しい庭先の椿であろう。 そんな事を考えている場合ではないのに、早く視線を外さねばならないのに。 只々、胸が高鳴るのだ。 「何か…御用でしょうか。」 凛とした声が室内に静かに響く。 凛としているのにどこか寂しげに聞こえるのは男の幻聴であろう。 この女は声までも美しい。 「永田栄一と申します。」 相手の名前が知りたい一心で男は、自分の名を伝えた。 「永田栄一さんとおっしゃるのですね。」 「灰田フミ子と申します。」 女はそう囁いた。 「灰田さんはよくこのバーに来られるのですか。」 男がそう質問したのは、次会う機会を作るためだった。 「いえ、今日が初めてでございます。」 「永田さんはよく来られるのですか。」 灰田フミ子は世間話に付き合うように質問を返した。 「えぇ。私はよく利用させて貰ってます。」 そう男が言うと、フミ子は黒曜石のような黒い瞳を少しも動かさずに、 「そうなのですね。」 言葉少なく相槌を返したのだ。 その態度を見て男は気づいてしまった。 フミ子さんには熱がない、と。 氷のような女であることに。 それでも男は止まれやしない。 永田栄一は、灰田フミ子という名の女に惚れたのだ。 きっと、フミ子からすれば男は燈虫に見えることであろう。 あぁ、冷たい熱に焼かれてしまった。 それでも男はこの女の熱が欲しいのだ。 そのために男は言葉を紡ぐ。 「来週の金曜日、この時間にまたお会いできませんか。」 「貴女に惚れてしまいました。…またお会いしたいのです。」 フミ子は凛とした瞳で男を見たが、その顔に笑みは浮かんでいなかった。 「単調でロマンチシズムな事柄に、私は騙されませんの。」 「…きっと私じゃなくてもよろしいのではなくて?」 「私は、貴方じゃなくても良いと思うもの。」 そう言うと彼女は寸分も酔っていないのであろう、会計を済ませノブを回す。 男はその言葉に唖然とし愉快に口を開けたまま、ただひたすらその言葉を咀嚼しようとした。 結果、男は何も言えなかったのだ。 だが去りゆく女の言う通りだとも思わなかった。 あぁ、あの女は酷い女だ。 男の赤き糸をいとも容易く、ぐちゃぐちゃに固めてしまった。 固めただけで解くこともしない、なんて自分勝手なのだろうか。 この思いが切符なら、男は目的地の見えないまま恋情という名の電車に乗らなければいけなくなってしまったのだから。 酷い酷い、酷い女だ。 冷たくて虚しくて、どうしようもない女だ。 だが、男は思った。  貴女が目的地になってくれることを私は祈ろう、と。 男は残りの酒を煽った。 噎せてしまうのも仕方はない。 男はいつも夢ばかりだが、今はこの薬臭い酒に救われたのだから。   「この酒は嫌いだ、現実のようでいかにもつまらない味をしている。」   けれど灰田フミ子はその苦味さえ甘さに変えたのだ。 恋をするには十分な采配であろう。 今日はもう酔えない、そう見切りをつけ男は店を出た。 空を見上げても星は光らず、ビルのネオンも今は寝静まっている。 街灯だけが明るくて、男はふと笑ってしまった。 「今日は、冷え込むな」 「光に飛び込む燈虫の気持ちが良く理解できるさ」 男はこの日、冷たき街灯に焼かれたのだ。

酩酊

 何か、一日の終わりに書いておきたい。  書くことにより、書く筋力が、増進するからだ。  増進したい気持ちに正直に生きるのも良い。  そんな日々は、幸福であろう。  幸福なのは、不幸で無い事の何よりの宣言になりはしまいか。  無いというワードを記すと、空というワードと有というワードが、絡んでしまう病を患っているのは、仏教にイカれたここ最近のライフスタイル故の事と思うのです。  思うというのは、脳細胞あってのパフォーマンスです。  思わないのは、止まれるというスキルです。  ブレーキは、大事な事ですので、この技術は、習得しておきたいものです。  たまに、アクセルだけになります。  これは、ちと、怖ぁいのですよ。  深入りして出られない恐れを考えますと、詳細を記すのも、躊躇ってしまうのですね。  赦されたい。  抱かれたい男ランキング上位の妄想ほど、甘美なモノは、なかなか無いのですよ。  色即是空です。  このワードは、凄く便利で、ありまして、更に、空即是色と繋げますと、カッコはつくが、中身スッカラカンの気持ち良さを味わえるのです。  カッコより中身を重んじる常識を軽んずべからず。  自戒と致します。  常識とは、程よく距離を取りつつ、突飛な言動で、異性の気を惹きつつ、実は世の辛酸がそれ程嫌いでは無い、変態っぷりも、小出しにしつつ、今日という、人生のスライスに由来した古来からあるアルコールの酩酊に身を置きつつ、ワタシは、アナタのムネのナカへ、、、、、、ふかーく、、、、、、ふかぁーく。