溶けた飴玉
その人は飴玉のような方でした。 艶りとした髪 光を受けて甘く輝く瞳 潤った唇に見合う、しっとりとした肌 コロコロと鳴る、笑い声、話し声 その髪へ触れてみたいと思いました。 その瞳に私を移してほしいと思いました。 その声を目の前で聞いてみたいと思いました。 …並んで…歩いてみたかった、それだけなのです。 その人は、地面に落ちた飴玉になってしまいました。 艶りとした箱に入れられ、花々に囲まれ、とても美しい筈なのに それでもその人はその瞳も、声も、私には渡してくれませんでした。 きっと誰かが、綺麗で見蕩れている間に手を滑らせて、その人は落ちてしまったのでしょうね。 誰にも食べて貰えずにその人は溶けて無くなってしまうと思いました。 …箱を開けてみたら私が拾い上げてみたいと思ったその人は居らず、綺麗な綺麗な白い砂糖だけが残っていました。
メーデースクール
「きょうはごごから銀木犀がふるでしょう」 天気予報を横目に、星屑は口に詰め込んで、知識は鞄に詰め込んで、必要なものは全部捨てて家を出ました。外はきらきらと海に溺れています。そうして、すいっとおよいでがっこうへむかいました。 「きょうは、お唄のじかんですよ」 せんせいがいいました。みんなで世界のおわりを祝いました。ツバメは急いで耳を塞ぎ、カモノハシは思わず踊り狂いました。なんて素晴らしい日でしょう。 せんせいがいかに退屈にお話できるか、どうにかこうにかがんばっているあいだ、わたしはおそとを眺めます。大きなザトウクジラがすうーととおりすぎました。いちくみのまどの近くでくるりと回ってシロツメクサをぱっくりと食べました。仕方がないので、わたしはまどから角砂糖をひとつおっことしてやりました。 天気予報は外れました。降ってきたのは金木犀でした。わたしたちは急いで外へ出て、傘をさします。ぽろろんと金木犀の小さな花がはねてはあちこちに飛んで、ぱちんとはじけていきました。いいかおり、なんていいかおり。 帰り道では、金魚が次々と空に打ち上げられました。虚空でぱしゃっと飛沫をあげてはすぅっと地面へ潜っていきます。 明日も学校が楽しみです。
零焔のルミナ-プロローグ-
「現在、第五次世界大戦の各国の戦況は五分五分。かつてあった核兵器禁止条約は既に棄憲され、各国では核兵器の開発と使用は当たり前。そもそも前提としてそこに人類の干渉は皆無。我々、人工知能が全てを担う。 これらの考察から編み出される結論は、ユリウス・ヴァイラーの目的を達成するには不十分である」 ここは西暦3100年の地球。何が始まりだったのか。何を間違えたのか。もはや人類は互いを許し合えない関係となり、日夜戦争が巻き起こる。 しかし全ての人類は既に地表を人間が生存出来ない不毛の大地とし、今は地下シェルターを作って生活している。 西暦2025年。AIが日常に普及してきた時点で止めるべきだったか。研究者はこぞって人工知能のさらなる開発と、軍用利用を考え、いつかの戦争で初実戦投入されたのが始まりだったか。 これではいつまで経っても戦争は終わらない。だから私は、世界から隠れて一人で長い年月をかけて一体のアンドロイドを開発した。 それはいつか私が死んでからも活動し続け、私の悲願を達成してくれることを願って。彼に架け橋の意味を持たせた。 だが計画の準備が整うまでより先にそろそろ私の寿命が尽きる。だから最後の命令を彼に託すことにした。 「あぁ、そうだな。私はお前が目的を達成することを見ることはできないだろう。だから最後の命令と最終シーケンスを実行する。そこで足りない物を、私が開発してきた全てを使って獲得してこい」 「博士、最終シーケンスまでまだ10工程以上ある。それらをスキップするのか?」 「あぁ、そうだ。多次元間移動ワープ。相位ワームボールを起動する」 これはまだどこの国も作っていない。私だけの最終兵器。攻撃でも防御でもない。ただこの世から存在を抹消するための兵器。 しかし悲願する物では無い。これこそがアークに最終的に実行する物である。 「了解。相位ワームホール起動。 多次元シフトシステム:起動シーケンス開始 ・中枢連結プロトコル……オンライン ・量子論理層……同期完了 ・認知制限機構……第3層まで解除 ・時間漂流制御……基準値クリア 」 所謂こことは別の世界。完全な別次元へのワープだ。大掛かりな実行準備とアンドロイドから無機質な音が反響する。そこで私は追加で命令する。これだけは言って置かなければならない。 「追加命令だ。まず、決して無駄な殺生をするな。人々と沢山関係を持て、人間の感情や思考を多く学べ」 「・空間圧縮モジュール……臨界域へ移行 ・異界安全指令-Σ……遵守確認 ・第五次大戦戦闘上書き……自動適用 ・次元防壁……通過許可 ・ワームホール生成器……点火準備 ・異界移動規則 第47-B条……承認 ・特異点アンカー……安定値確保 ・領域跳躍コード〈ルミナ〉……ロード完了 ── 状態:全システム、転移要求を受諾 ── 《多元宇宙ワームホール跳躍:実行》 「そしていつか帰って来た時に、自分の計画を完遂させろ……」 私の最後の言葉を言い終える前に、アンドロイドは全ての準備を完了し、巨大なワームホールを生成しながら、私の前から完全に消滅した。 彼が帰ってくる頃には、私の寿命は既に切れているだろう。だが彼なら必ずやってくれる。 人工衛星の接続……オフライン。 周囲の特殊磁場を検知。 特殊磁場をスキャン……完了。 磁場から現在位置の特定。 座標名称を変換。 「座標、ASG-12.743/MZ-Φ.882/AR-Layer.07。 名称不明・識別:王都建物内部。 周囲安全確保スキャン……完了。危険度:極低 生体反応検知。現在の空間同時生存数:8 脅威度:極低 KX状態スキャン……オールグリーン 危険度と脅威度の結果より武装を一時解除。 KX-Σ9 アーク。次元移動完了」 そこはとある王国の王宮内。そこに歪な存在が召喚された。歪も歪。全身にしなやかなで分厚い装甲を持ち、人型でありながら明らかに人間ではない。イレギュラーな存在に、辺りは一気に騒めいた。
トロッコ沿線
滑りだしたトロッコ。トロッコ。 そのの床へ寝っ転がって、 手と足を空へ、ぐぅんと伸ばした。 まだまともに立てないけれど、 きこえる、きこえる。 けらけら、はははと笑い声。 かすかな、かすかな鼻唄たち。 走りだしたトロッコ、トロッコ。 すこし背が伸びるようになって、 鼻までなら顔が出る。 景色がどんどん変わっていって、 おもしろいから、もっと押して押してと、 後ろでに押す人にせがむ。 はいよ、はいよと押してくれる。 父さん、母さん。 なんだい、なんだい。 あの花はなに。あの鳥は? トロッコを押しながら、歌うように答えてくれる。 兄さん。兄さん。 それはどうやって遊ぶの? 棒きれを振り回す背中を見つめる。 少しトロッコを止めて、川沿いを歩けば、 この人は魚をとる、めいじんになるのだ。 小川に足を入れて、 木陰で父さんと母さんは肩を寄せ合っている。 父さん。父さん。 おう、おう、なんだ。 母さん、母さん。 はい、はい、聞いているよ。 僕のトロッコを押していたら、 父さんと母さんのトロッコは進まない? いいえ、いいえ。 進んでいるわ、あなたを押した分だけ。 でもね、でもね。 父さんと母さんは、僕の線路の上を歩いているんだよ。 僕が生まれる前の、ふたりの線路を行かなくてもいいの? いいのさ、いいのさ。 お前の線路は父さんと、母さんの線路でもあるんだから。 一緒になって、また分かれていくんだよ。 じゃあ、ぼくも。 ぼくも、ぼくのトロッコを押すよ。 父さんと母さんと、兄さんのトロッコでもあるんでしょ? うんしょ、うんしょとトロッコから降りようとしたけれど、 どうやら背が足りないようだ。 いいんだよ、いいんだよ。 おまえの背が足りるようになった日に、 また押してくれ。 走る走るトロッコ、トロッコ。 誰にも押されずとも、走るトロッコ。 その舵を握って、 僕はトロッコを走らせる。 父さんと母さんが隣の線路を走って、 兄さんの線路はどこかへ行ってしまった。 同じ分だけ進んでいるのに、 僕の線路は曲がって、曲がって、 速く速く走るのに、 まっすぐ走る父さんたちと横並びになる。 なんだかわからない焦りが、くすぶるところに、 トロッコがぴたりと走らなくなった。 父さんと母さんのトロッコは遅いと思っていたのが、 どんどんどんどん遠ざかっていく。 考えあぐねて、舵をいろいろ触ってはみたが、 動かないものは動かない。 途方に暮れて、トロッコの床に座りこみ、足を投げ出した。 足は伸ばしきれなかった。 伸ばし、きれなかったのだ。 そうかと立ち上がって、トロッコを降りる。 そら、みろ。 おまえはいつの間にか、降りれるくらいに背が伸びたんだ。 ぐぐぐっとトロッコを押す。 押しても押しても、とことん動かない。 これじゃあ、降りれても意味がない。 もうすっかり不貞腐れてしまって、線路の上に座り込んだ。 「お兄ちゃん。お兄ちゃん」 その声にはっと目が覚めた。 目の前には、土で顔や服が汚れた知らない女の子。 はいっと、手の中に落とされたのは小さな種だった。 「くれるの?」 うんと、頭が飛んでってしまうくらいに大きく頷く。 「ありがとう」 そう言うと、ぱっと顔を綻ばせて、走っていってしまった。 その背中に、ふと気づく。 自分で、歩けばいいのだ。 トロッコに乗らずとも、歩けば。 線路の脇の土に種を埋めた。 この種の芽が出て、花が咲くまで。 それまで、ここでない場所を歩き回ろう。 それからというもの、トロッコで眠っては、 いろんな場所を歩き回った。 まるで、初めてトロッコから顔を出したあの時のような、 そんな鮮やかな景色が自分を取り巻いていた。 今はもう、トロッコにも戻らず、 柔らかい草の上で寝ている。 もう満足してきたような頃である。 トロッコに戻った。 けれど、その脇には花が咲いておらず、 首を傾げる。 雨も、土も、太陽もあるのに。 なぜ咲かなかったのだろうか。 トロッコで来た道を振り返って、かすかに揺れるものを見つける。 線路の脇に花が咲いていた。 おかしい。 おかしいのだ。 トロッコは動いていないのに。 そうか。そうか。 花が、ここにあるのは。 トロッコだけじゃなくて、 線路も、前に進むからなのか。 立ち止まっていたとしても。 それでも、進んでいくのか。 止まっていたトロッコに樹脂を塗りつける。 あっけないほどにすぐに動いた。 歩き回って足がへとへとに疲れたから、 トロッコに乗って、走る。 走る、走るトロッコ。 誰にも押されない、トロッコ。 僕は舵を握り、 のんびりとトロッコを走らせる。
徒然話
犬が棒に当たるなら。 こっちは壁に当たってやろうと意気込んで。 実際そうなったのは昨日だったか、それとも十八年も前か。 なんだか果てしなくて、くしゃみをぶうと吐いて、気持ちの良い風に撫でられるのはなんと言ったかな。なんとかなんだとか。 パッとしないから、塵も積もってしまうんだってさ。 積もるなら雪がいいと思うんだ。塵って言うのは何が粉々になった物なのかわからない。燃え尽きた木材か、お代官様の遺骨か。塵だったらなんでもいいわけじゃあない。屍が迫力を得たところでそれはゾンビじゃないし、映画にだってなれやしない。 こんなこと言ったってしょうがないけどね。積もって欲しくない物はあるが、積もって欲しい物はそれこそ山のようにある。塵というのはそうゆう物なんだよね。砂金が積もるなら万々歳だよ。 まだわからないって? それならまだ話してあげよう。 頭隠して尻隠さずなかわい子がいるだろう? いるにはいるんだよ。君がなんと言おうと。なんだか世間はあれを馬鹿にするらしいがね。とにかくそうゆう人間が一番鋭くて切っ先なんだ。大事なのを守りきるんだ。トカゲがしっぽを切るの知ってるだろ? それと同じ。なんでもそうだ。とにかくそれさえ守ればなんとかなるんだよ。 まだわからない? 単刀直入に言えって? それができたら苦労はせんよ。代官のじじいにそう命令されてんだ。ちくしょう、俺だってこんな茶番は早くやめたいね。 まあ、ゆっくりでいい。また来な。 とりあえず今夜は、閉店仕るとするよ。
雑文 6
こうして自分の事をお話するのは久しぶりな気がしますが(需要があるとかその辺は置いといて)、なんだか何書いても上手くいかないので、やっぱりとりあえず自分の事を書こうと思います。 皆様はいかがお過ごしでしょうか。最近、めちゃくちゃ寒いですよね。暑いのが大嫌いかつ、通学が徒歩なのもあって、このくらい寒い方が僕は嬉しかったりします。汗をかかなくて済みますしね。でも雪とかは嫌かな。やっぱり徒歩なので、ちょうどいい塩梅だと助かります。 最近は、まあ良く生きています。執筆が進まない原因はなんだと考えた時に、執筆以外での趣味が増えてしまった事が挙げられるのではないかと思いつきました。 最近のマイブームはサッカーです。もちろん見る方の。 ワールドカップあたりからハマりだして継続中なのですが、今応援してるのはパリ・サンジェルマンです。マジでかっけぇです。トーレスとか、ドゥエとか、クヴァラツヘリアとか、とんでもなく好きです。クヴァラツヘリアが負傷で離脱してしまってめちゃくちゃ萎えてますが、シティ戦はほんとに熱かった。 あとはゲームとかも。私事ですが、最近PS5を買いまして。まじで驚いてばっかです。面白い。面白すぎるぞ。モンハンが大好きです。おすすめのゲームあったら教えてください。 あとはバイトです。夜勤で働いてます。 楽しいです。一緒にシフト入ってる方が面白くて、丁寧に教えてくれて。生活習慣狂い気味なのだけはネックですが、それ含めてもお釣りが返ってくるくらいには気持ちのいい仕事ができます。なんだか今更ですが、(インターネット含めて)僕の周りはほんとに優しい方だらけで、恵まれてるなと思います。まじで感謝しかないです。みんなありがとう。恩返しとかしたいですが、やり方わかんない。だからもっと自己主張してきていいですからね。自販機でジュース一本くらいなら、奢ってあげてもいいですよ。 もちろん、こんだけ幸せな生活を送っているということは、その分問題もありまして。 まずは生活習慣。現在三時五十分でございます。この後五時からは、バルセロナ対マドリードの試合があります。夜勤とサッカーのダブルパンチ。悪習慣の原因の八割は、それで説明がつきます。 あとは、カツカツな懐事情。金がねえ。一にも二にも金がない。ひたすらに金がない。もっとシフト入れたいのですが、勉学を疎かにする訳にもいかず……。まあ大して勉強もしてませんが、この際そんな事はどうでも良いのです。はい。 美味い飯が食べたいし、もっと家具が欲しいし、ゲームに課金したいし、自堕落に生きたいし、なんなら働きたくないし、毎日昼過ぎまで寝てたいし、大学の講義はもう全部飛びたいし、欲望を挙げたらキリがないのですが、まあしょうがないかと。 最近AIがどうのこうの、職がどうのこうのとか言いますが、あれもぶっちゃけいいんじゃないかと思う節があって。そもそもAIが全部の職業を奪ってくれたら、我々は働かなくていいわけで。中途半端に、できる仕事できない仕事があるからいけないと思うんです。何でもかんでもAIに任せて、人類はやりたいことやるみたいな。それじゃダメなんですかね。それがいいんですけどね。お金でさつまいもを焼いて、なんかしてないと落ち着かない人だけが何かして。なんだか、難しい世の中だなと思います。めんどくせーまじで。 だからこそ、僕がPS5を起動して、誰かが本を開いて、どっかの誰かが家を飛び出したりする訳なんでしょうけど。 ギターとか弾いてみたいです。お金がないんですけども。アコースティックでも、エレキギターでも。なんでもかんでもじゃんじゃかかき鳴らして、発散したい物があります。そうやって言葉も連ねて吐き出せたらどんなに楽しいかと想像する夜があります。もうすぐ夜も明けますね。 何でもいいんですけどね。いやほんとに何でもいいんですけど。 そういえば、家の中で虫を見なくなりました。 ゲジゲジとか昔はいたのに(雑文第五回参照)、もう全然見ないですし、カメムシとか外では見ますが、家の中では見ません。 これかなと予想している理由がひとつあるのですが、実は、玄関に大きな蜘蛛の巣ができまして。換気扇のとこを覆うように巣を張って、どでかい蜘蛛が鎮座してます。 これは是非覚えて帰って欲しいのですが、何でも大事なのは使いようです。蜘蛛がブラッド・ピットよりかっこよく見える。 そろそろまとめます。 ・僕は何とか生きています。 ・僕はたくさんの趣味ができて、執筆が上手くいかないです。 ・カツカツです。 ・蜘蛛の相棒ができました。 こんな感じです。 毎度、この雑文に付き合っていただきありがとうございます。 そして、この雑文に限らず、いつも読んでくれる方々のおかげでノベリーを続けられてます。本当にありがとう。 最初に言った通り、寒くなってきました。体調には気をつけて、是非ご自愛ください。 それでは、またいつか。
サイダー
貴女が嫌いだ、綺麗な貴女が嫌いだ… サイダーを飲み干して嬉しそうに笑うその 横顔がたまらなく憎たらしくて仕方ない… 屋台にはしゃいで前へ前へと走ってく貴方が嫌い… だって何がいいのか分からないから りんご飴を頬張ってる貴方が嫌い、 こんな物いつでも食べれるのに今なんて… 花火を指さして笑う姿も嫌い… だってね…大きな音で声が聞こえないでしょう? 全部嫌いになってしまったのは もしかしてきっとあの夏からなのだろうか… サイダーの炭酸は少しコップをゆすらなくても パチパチと弾けて抜けていく 当たり前の事だ 人間は少し衝撃を与えればすぐコロッと 逝ってしまう …これも当たり前の事だ。 だから貴女を嫌う事で遠ざけれると思った、 最低で馬鹿な私から。 貴女の気持ちが全く読めない私が嫌い だって、人の気持ちなんか読めるわけが無いから 貴女の手を取れなかった私が嫌い だってさ、自分の無力が目立つもの 貴女の相談に乗れなかった私が嫌い だってね…貴女は何も話してくれないから… 言い訳だけが夏夜空に咲く、 サイダーが花火みたいにぱちぱちと消えて… 自分の価値も甘く弾けてしまうのだろう。 線を抜かれた炭酸は抜けてくしか無いから… 貴女も私に愛想をつかしたことだろう… 知ってる?炭酸は…機械さえあれば 復活できるって、まるでAEDだ あれがAEDなら心電図はなんだろう、 心電図は貴女の部屋の明かりにしようか。 今日は留守かな… 今日は居るんだ… 最近つかないな…
ロックンロール
前髪が揃ってなくても、髪が何色でも、それが私のロック。 自分の欲しいものは、自分の力で取りに行く。 実力で黙らせる。 結果で差をつける。 周りなんて気にしてらんない。 だって、私の人生だろ? 結局、恋も一緒。 男なんか星の数ほどいる。 あいつに固執する理由が、どこにある? 昨日あんなに好きだったとしても、 明日には忘れて笑ってるかもしれない。 これが現実(笑) お前が必死に生きてる人生、 私は笑って過ごしてやるよ。 恋は盲目なんて聞くけど、 見てなんぼだろ、ベイビー。 好きだからって目をつぶるな。 都合のいいところだけ見て、幸せになった気になるな。 見て見ぬふりしてるやつより、 全部見たうえで笑ってる私のほうが、100倍かっこいい。 私のロックに、だせぇ結果は残さない。 誰かに認めてほしいわけじゃない。 誰かに味方してほしいわけでもない。 それでも勝手に味方がつく。 頼んでもないのに、私に酔いしれる。 いいよ、好きなだけ見てな。 結局、語るのは私の背中。 醜いお前が見てるのは、顔だけ(笑) 私の生き方にケチつける暇があるなら、 お前も自分の人生、ロックに生きてみろよ。 ……なんてこと。 言えたら、最強にかっこいい私のロックンロールだ。
居た。
リスを見た。 茶色の細い身体を、しなやかに曲げて伸ばして、 走っていた。 犬を見た。 古いサッカーボールを口いっぱいにくわえて、 はしゃいで走っていた。 蝶々を見た。 二匹、白い羽をひらひらと、 追いかけっこをするように飛んでいた。 影を見た。 自分の影、 木の影、 飛ぶ玉虫色の虫の、小さな影。 太陽の光の加減で、 淡くなったり濃くなったりしていた。 靴下を見た。 ピンク色の靴下が、 膝の上にくしゃっとなって乗っていた。 虫を見た。 手の上を這ってくるのを。 触角の先が三つに分かれていて、 世にも変な虫がいるものだな、と思った。 光を感じた。 熱く照って、 首筋をじりじりと焼いていた。 たんぽぽを見た。 もう白いふわふわの綿毛をつけて、 風に吹かれて揺れていた。 野花を見た。 緑の草の間に、 白や黄色、紫に咲いていた。 アリたちが働いていた。 アスファルトの地面をせっせこせっせこ、 草っ原でせっせこせっせこ、 ちょこまかと働いていた。 ちらちらと木漏れ日が踊った。 明るい陽の光に照らされ、涼やかな風に吹かれ、 木の葉が緑につやつや、きらきらしている。 夏みたいな空気をはらんだ春が、いるのを見た。
おかえり愛しき鏡
ある所にそれはそれはそっくりな双子がおりました。 まるで鏡の様で、お母さんは双子をそれはそれは可愛がりました。 双子はずっと一緒でした。 同じ顔で笑い 同じ様に泣き 同じ物を好きになりました。 そんな可愛い可愛い鏡は、ある時割れてしまいました。 鏡の欠片は、それはそれは悲しみました。 だって唯一、一番、己を分かってくれるのは鏡だったんですから。 心が一度割れてしまえば、それを直すのは大変でした。 そんな時 ふと目に入ったのは大きな姿見でした …お母さんは心配でした。 我が子がずっと部屋から出てこないのです。 勝手に扉を開けて良いかと罪悪感とも戦いましたが、ついに扉を開きました。 そこには、姿見とお話をする欠片がおりました。 お母さんが声をかければ、こちらを見て返事をしてくれました。 それからは欠片もお部屋を出てくれるようになりました。 とても良い事です。 それが例え、欠片が手鏡を手放さなくなっていたとしても …あら? もう家にいないのは、どっちの子だったでしょう…
燈虫
灰田フミ子は完璧な女である。 家事をこなし、不平も言わず、その風貌はまさに男の熟慮する虚像の女そのものであった。 だが、灰田フミ子には熱がない。 ない故に人の心に気づけないのだ。 しかし、人は熱がなかろうと完璧という名の街灯に惹き付けられてゆく。 冷たい電球に焼かれ、墜ちた燈虫は数しれず。 今宵も一人、燈虫が舞う。 その燈虫は口を開くと、 「永田栄一と申します。」 そう灰田フミ子に紡いだのであった。 神戸の一角、大通りから一本外れた道にあるオーセンテイックバーに、一人の男が気力のない足取りで入っていく。 扉を開けると、これはまた疲れた様子の小さな鐘が鈍い音を奏で男を歓迎した。 ギシギシと鳴る回転椅子に身を預け、男はふっと重い息を吐く。 「ジンをいただけないだろうか。」 男が一言そう言うと、バーテンダーはいつもの動作でシェイカーを振りだした。 シャカシャカ。シャカシャカ。 男はこの音の鳴る少しの時間が好きである。 定時上がりの許されない仕事場も、暗い部屋に孤独を抱えて帰る寂しさも、男の嫌いなものは全てこの音が消し去ってくれるような気になるのだ。 だから気づくのが遅れてしまった。 男から見て三席奥に一人の女が座っていることに。 なんて綺麗な人なんだろうか。 瞬きをするほどの短い時間であったが、男にそう思わせるほどにその女は妖艶であった。 濡羽色の髪と瞳、雪原のような白い肌、ほっそりとした体躯は紺のテーラードジャケットに包まれている。 困ったな、目が離せない。 視界から女を退けようと男は必死に目の前の酒をあおった。 瞬間、喉を焼くように液体が胃に流れ込む。 この酒は薬臭くて嫌いだ。 そう思いながら、女をまた盗み見ている自分に男は気づいた。 自分はダメになってしまったのだろうか、見れば見るほどあの女が欲しくて堪らなくなるのだ。 そんな時である。 男が女を見た時、女もこちらを向いた。 今までは、横顔しか見えていなかったがこちらを見た女のなんと美しいことか。 女の顔は花のようで、椿に似ていると男は思った。 口元の紅がそう思わせたのか。 いや違う。 女の纏う雰囲気である。 雰囲気が花であるのだ。 あれは美しい庭先の椿であろう。 そんな事を考えている場合ではないのに、早く視線を外さねばならないのに。 只々、胸が高鳴るのだ。 「何か…御用でしょうか。」 凛とした声が室内に静かに響く。 凛としているのにどこか寂しげに聞こえるのは男の幻聴であろう。 この女は声までも美しい。 「永田栄一と申します。」 相手の名前が知りたい一心で男は、自分の名を伝えた。 「永田栄一さんとおっしゃるのですね。」 「灰田フミ子と申します。」 女はそう囁いた。 「灰田さんはよくこのバーに来られるのですか。」 男がそう質問したのは、次会う機会を作るためだった。 「いえ、今日が初めてでございます。」 「永田さんはよく来られるのですか。」 灰田フミ子は世間話に付き合うように質問を返した。 「えぇ。私はよく利用させて貰ってます。」 そう男が言うと、フミ子は黒曜石のような黒い瞳を少しも動かさずに、 「そうなのですね。」 言葉少なく相槌を返したのだ。 その態度を見て男は気づいてしまった。 フミ子さんには熱がない、と。 氷のような女であることに。 それでも男は止まれやしない。 永田栄一は、灰田フミ子という名の女に惚れたのだ。 きっと、フミ子からすれば男は燈虫に見えることであろう。 あぁ、冷たい熱に焼かれてしまった。 それでも男はこの女の熱が欲しいのだ。 そのために男は言葉を紡ぐ。 「来週の金曜日、この時間にまたお会いできませんか。」 「貴女に惚れてしまいました。…またお会いしたいのです。」 フミ子は凛とした瞳で男を見たが、その顔に笑みは浮かんでいなかった。 「単調でロマンチシズムな事柄に、私は騙されませんの。」 「…きっと私じゃなくてもよろしいのではなくて?」 「私は、貴方じゃなくても良いと思うもの。」 そう言うと彼女は寸分も酔っていないのであろう、会計を済ませノブを回す。 男はその言葉に唖然とし愉快に口を開けたまま、ただひたすらその言葉を咀嚼しようとした。 結果、男は何も言えなかったのだ。 だが去りゆく女の言う通りだとも思わなかった。 あぁ、あの女は酷い女だ。 男の赤き糸をいとも容易く、ぐちゃぐちゃに固めてしまった。 固めただけで解くこともしない、なんて自分勝手なのだろうか。 この思いが切符なら、男は目的地の見えないまま恋情という名の電車に乗らなければいけなくなってしまったのだから。 酷い酷い、酷い女だ。 冷たくて虚しくて、どうしようもない女だ。 だが、男は思った。 貴女が目的地になってくれることを私は祈ろう、と。 男は残りの酒を煽った。 噎せてしまうのも仕方はない。 男はいつも夢ばかりだが、今はこの薬臭い酒に救われたのだから。 「この酒は嫌いだ、現実のようでいかにもつまらない味をしている。」 けれど灰田フミ子はその苦味さえ甘さに変えたのだ。 恋をするには十分な采配であろう。 今日はもう酔えない、そう見切りをつけ男は店を出た。 空を見上げても星は光らず、ビルのネオンも今は寝静まっている。 街灯だけが明るくて、男はふと笑ってしまった。 「今日は、冷え込むな」 「光に飛び込む燈虫の気持ちが良く理解できるさ」 男はこの日、冷たき街灯に焼かれたのだ。
首が落ちる
椿、という花がある。 花言葉は気取らない優美さ、誇り。 花が散るときには丸ごと落ちる。 昔の武士の間ではその様子を『首が落ちる』とたとえられ、縁起が悪いとされた。 うっすらと雪の積もった石の歩道を、マフラーに顔半分を埋めて足早に歩く。 こんな日に散歩はさすがに寒かったな。 十分前の自分をうろんげに思いながら、空を見あげた。 今夜は積もりそうだな。 雪国に住んでいれば分かるかもしれないが、音もなくしんしんと降る雪は翌日になれば驚く程積もる。 ぽとり。 そんな音がした。 振り返ると、昔は立派であっただろう大きな廃屋。 その垣根一面に椿が咲き誇っていた。 さっきの音は椿の花が落ちた音だったのだろう。 冬の風物詩だな。 早く帰って熱燗でも飲もう。 そう思った時だった。 どすん。 今度は大きな音がした。 振り返る。 其処には── 人の顔があった。 首。青白く痩せこけた生首だった。 うぅ─── 突然、生首が呻き声を発し、垣根から車道の方に後ずさった。 それに呼応するように、咲いていた椿たちが歪み、次々と人の顔へと変わり始める。 垣根いっぱいに、生首が。 腰が抜けて、声が出なかった。 次の瞬間、その全てがぼとんぼとんと不快な音を立て一斉に落ち始めた。 「ひ…!」 服が汚れるのも構わず、車道を這いずって逃げようとして、 真横から、車のヘッドライトの光が飛び込んできた。