逢引き
首は、女を見ていた。 赤みのさした目元に色気が、漂う女であった。 首は、女の両掌に挟まれている。 月明かりに照らされて首は白々闇に浮かぶ。 波の音が、女と首の鼓膜を揺らしている。 砂浜に座した女の肌を浜風が、サヤサヤなぶってゆく。 両肩に垂れた髪が、揺れている。 生き物のようであった。 『ククク』 女の上半身が、小刻みに震えた。 唇の間から、声が漏れていた。 悦びの響きが、混じっている。 轟と風が、鳴った。 『ガッ』 首が、口を開き、歯を突き立てていた。 女の右手首である。 鮮やかな血が、滴り、白砂を染めた。 『クカカカカカ』 女の哄笑が、辺りに響いた。 『お前を漸く、喰ろうてやれる、待った甲斐があったわい』 女は、首を胸に引き寄せ、ゾロリと右眼を舐め上げた。
冬が好き
みなさん冬ってお好きでしょうか? 私は大好きでございます。 寒くても着込めばなんとかなるのと、黒くてテカテカしたあいつが出てこないのが大きくて…。 何よりあの冬の懐かしい〜ようなもの寂しい〜ような空気と雰囲気が好きでして…夜に悲しい曲を聴いてたらめっちゃ震えてくるような感じが大好きなんですね…。 冬みたいな物語を書いてみたいなあと日頃から思っております。 皆さんは冬お好きですか? あと初詣でどんだけ夜遅くても怒られないの最高!!!!!!!
満ちてゆく
「人は、何かを手放す度に、満ちてゆく」 かつて私がまだ若く、何者かになろうと必死に都会を駆け抜けていた頃、ある大切な人が教えてくれた言葉だ。 あの頃の私は、その言葉の本当の意味をこれっぽっちも理解していなかった。 人生とは何かを掴み取り、積み上げていくことだと信じて疑わなかったからだ。 若さ、名声、富、他者からの承認。 それらを両手いっぱいに抱え込むことだけが、自分を「満たす」唯一の方法なのだと。 しかし、今の私にはよく分かる。 ベッドから見える四角い窓の外、ゆっくりと沈んでいく夕日が、静かな病室を穏やかな茜色に染めていた。 私の人生の、これが最後の夕暮れだった。 白く清潔なシーツの上に置かれた私の手は、すっかり細くなり、深く刻まれたしわがこれまでの長い年月を物語っている。 点滴の管が伝うその腕には、かつて世界を相手に戦おうとしていたような頃の力強さはもう残っていない。 「終わるんだな」 不思議と、恐怖や悲しみはなかった。 そこにあるのは、嵐のあとの海のような、どこまでも深く、静かな平穏だった。 この数ヶ月、私は文字通り「手放す」ことの連続だった。 自由に歩くことのできる足、思い通りに動く身体、社会的な繋がり、およびやがて訪れるであろう未来そのもの。 かつてあれほど執着し、失うことを恐れていたものたちが、一枚、また一枚と、秋の枯葉のように私の身体から剥がれ落ちていった。 けれど、奇妙なことに。 すべてを失っていくはずの私の心は、今、人生のどの瞬間よりも軽やかで、そして信じられないほどの幸福感に包まれていた。 目を閉じると、私の耳の奥に、懐かしいピアノの旋律が聴こえてくる。 それは、あの人がよく弾いていた、優しくて、どこか切ない即興曲のメロディ。 その音色は、私の心に残った最後のおりを、サァと洗い流していく。 心の中で、その旋律をそっと口ずさむ。 私は気づいたのだ。 手放すということは、空っぽになって消えていくことではない。 自分を縛り付けていたすべての鎧や、他人の目、未来への不安という「余計なもの」を削ぎ落とした先で、本当の自分に出会うことなのだと。 私の両手は、もう何も掴んでいない。何も持っていない。 だからこそ、その開いた両手のなかに、目に見えない大いなる愛が、温かい光となって絶え間なく流れ込んでくる。 まぶたの裏に、これまでの人生で出会った大切な人たちの笑顔が、走馬灯のように鮮やかに蘇る。 厳しくも温かかった両親の眼差し。 共に笑い、共に涙した友人たちの声。 傷つけ合いながらも、確かに愛し合ったあの人の手の温もり。 そして、私がこの世界に遺していく、愛しい子供たちの健やかな寝顔。 「ああ、私はこんなにも愛されていたんだ」 若い頃は、もっと愛されたい、もっと満たされたいと、いつも喉が渇いたように何かを求めていた。 でも、それは逆だったのだ。 私は最初から、あふれるほどの愛の中に生かされていた。 世界は最初から、私を包み込んでくれていた。 何かを失うことは、悲しいことではなかった。 ただ、元いた場所へ還るだけ。 何も持ずにこの世界に生まれ、たくさんの愛を味わい、傷つき、そして今、そのすべてを世界へと還していく。 その循環の美しさに、胸の奥がじんわりと、熱く震えた。 窓の外を見ると、いつの間にか太陽は沈み、深い藍色の夜空が広がっていた。 そして雲の切れ間から、洗いたてのような美しい、大きな満月が顔を出した。 月の光が病室の床に差し込み、私を優しく照らす。 その光は、まるで「お疲れ様」と私を祝福してくれているようだった。 心臓の鼓動が、少しずつ、その間隔を広げていくのが分かる。 それは、終わりの合図ではなく、新しい旅立ちの足音のようだった。 私の人生は、完璧ではなかったかもしれない。 たくさんの間違いを犯し、回り道をして、傷つくことも多かった。 けれど、そのすべてが愛おしい。 私という器は、出会ったすべての人、経験したすべての感情によって、最後の最後に、これ以上ないほどの幸せで満たされていく。 「ありがとう」 私は声にならない声で、世界に向けて小さく呟いた。 最後の息をそっと吐き出す。 それは、体の中に残っていた最後の執着を手放す瞬間だった。 身体は驚くほど軽くなり、私は風と同化した。 あの大切な人がまとっていたのと同じ、自由で、どこまでも軽やかな風。 私は開け放たれた窓から、夜空へと溶けていく。 満月の光に導かれながら、ただ、満ちてゆく。 最初から何も失っていなかった私を、大いなる愛が優しく抱きしめていた。 私の旅は、今、最高に幸せな気持ちのまま、静かに、優しく、 満ちてゆく。
プロポーズ
湯船に浸かりながら、天井から滴り落ちる水滴を眺めていた。 浴室の湿った空気が肺を圧迫する。 「どうして僕ばっか、こんなに考えているんだろう」 そんな風に思えたバスタイムも、ほんの束の間のことだった。 お湯から上がって鏡の前に立つと、そこにはどこまでも「普通」な僕の顔が映っている。 特別な才能があるわけでも、誰かを一瞬で魅了する魅力があるわけでもない。 ただの、普通の人。 部屋に戻ると、薄暗いリビングのソファで君がスマートフォンをいじっていた。 画面の明かりが君の横顔を白く照らしている。 その姿はひどく綺麗だったけれど、同時にどこか遠くの存在のようにも思えて、僕は一瞬、その綺麗さが嫌いになりそうだった。 僕たちの間には、いつの間にか「形だけのモンスター」が育っていた。 世間一般で言うところの『恋人』や『同棲相手』という名前の、実体のない怪物のことだ。 ひとつ屋根の下に集った愛は、いつしか義務感やルールという肉付けをされて、僕たちの真ん中に居座っている。 それを愛さなくちゃダメなんだと、誰に言われたわけでもないのに自分を縛りつけていた。 だからこそ、僕は次の関係に進むことをずっと躊躇っていたのだ。 「ねえ」 君が顔を上げずに声をかけてくる。 「何?」 「お腹空いた。今日のご飯、何にする?」 「……何でもいいよ」 「またそれ。何でもいいが一番困るんだけど」 君は少しだけ呆れたように笑った。 笑った……よね? 僕はそんな些細な君の表情の機微にすら、いちいち焦ってしまう。 安定がどうとか、これからの関係がどうとか、世間はうるさく言うけれど、僕たちの関係はどうにも曖昧で野暮ったい。 それでも僕は、君にゾッコンだった。 どうしようもないくらいに。 リビングの窓の外では、いつの間にか雨が降り始めていた。 ガラス窓を叩く不規則な雨音が、僕の心音と同調するように響く。 どう頑張っても、僕は普通の人間だ。魔法のようにすべてを解決できる呪文なんて持っていない。 この生涯全部、『ビビディ・バビディ・ブー』と唱えたところで、何かが劇的に変わるわけじゃない。 シンデレラのように、午前零時に美しいドレスが消えてしまうのを恐れる側の人間だ。 それでも、頭の中でだけは、色鮮やかな白昼夢が広がっている。 その白昼夢の中で、僕は君に、今世紀最期のプロポーズをしようとしている。 「ねえ、もしもさ」 僕は乾かし途中の髪を指先でいじりながら、ソファの端に腰掛けた。 君との距離は数十センチ。 手を伸ばせば届くのに、宇宙の果てほど遠く感じる。 「もしも、僕たちがここじゃないどこか、全然知らない星にでも逃げちゃったら、どうする?」 君はスマートフォンから目を離し、不思議そうな顔で僕を見た。 「何それ。急にSF?」 「いや、ただの仮定の話。どう考えても僕は君に夢中でさ。僕の宇宙は君を中心に回っちゃってるから、ふたりきりになれる場所なら、地球じゃなくてもいいなと思って」 口から出た言葉は、自分で聞いていても曖昧で、少し恥ずかしいものだった。 嫌われちゃったらどうしよう。 そんなことばかりが頭をぐるぐると回り、色々と考えすぎて胸が痛くなる。 もし今の言葉で、君に『気持ち悪い』って思われたら? もし『冗談はやめて』と笑い飛ばされたら? そんな不安を隠すように、僕はわざとおどけた調子で「なんてね」と付け加えた。 君は少しだけ目を細めて、窓の外の雨を見つめた。 「知らない星、か。そこでも雨は降るのかな」 「さあね。でも、ふたりきりなら雨が降っても退屈しないでしょ」 「どうだか。あなたはいつもそうやって、都合のいい白昼夢ばっかり吐き出すんだから」 君の言葉は鋭いけれど、どこか優しかった。 でも、その優しさがまた僕を怖がらせる。 「ダメだった」から躊躇ったあの頃とは違う。 今は、君を失うことがただただ 「怖かった」 僕の脳裏に、ふと「あの子」のことがよぎる。 昔、僕たちの周りにいた、いつの間にかいなくなってしまったあの子。 雨が降って、夜が来るのを待って、まるで風のようにふらりと消えてしまったあの子。 ある人は、あの子は星になったんだと言った。 幸せって、一体何なんだろうね。 あの子は消えて幸せになったんだろうか。それとも、ここに残った僕たちが不幸せなんだろうか。 考えても考えても、そんな難しいこと、僕にはさっぱりわっかんねえ。 「ねえ、幸せってなんだと思う?」 気がつけば、僕はまた君に問いかけていた。 「今日のあなた、本当に変だよ」 君はスマートフォンをテーブルに置き、僕の方へ体を向けた。 「幸せなんて、その時々で変わるものでしょ。私にとっては、今こうして雨の音を聞きながら、中身のない会話をしてる時間も、別に悪くないけどね」 君のその言葉に、僕はまた救われて、同時に突き放されたような気分になる。 もう、君のこと、わっかんねえなあ。 ゾッコンなのに、宇宙で一番近くにいるはずなのに、君の気持ちの輪郭がどうしても掴めない。 浮き足立っている君の本当の気持ちを、全部吐き出しちゃってほしい。 そうすれば、こんなに怯えなくて済むのに。 でも、きっとまだ足りないのだ。 僕の覚悟も、言葉も、全部。 僕はソファから立ち上がり、キッチンへ向かった。 冷蔵庫を開けて、冷たい炭酸水をふたつ取り出す。 ひとつを君の前のテーブルに置き、もうひとつを自分で開けた。 パチパチと弾ける泡の音が、僕の焦燥感を煽る。 「今回も、僕のターンで終了かな」 ぽつりと呟いた言葉は、炭酸の音にかき消された。 いつもそうだ。 核心に触れそうになると、自分から一歩引いてしまう。 傷つくのが怖くて、嫌われるのが怖くて、関係性を曖昧なままにしておく。 でも、窓の外の夜はどんどん深まっていく。 雨は激しさを増し、世界を僕たちの部屋だけに閉じ込めようとしていた。 どう頑張っても僕は普通だ。 でも、普通だからこそ、普通に君と生きていきたい。 形だけのモンスターなんて壊して、僕たちの本当の愛を、もう一度育て直したい。 僕は深く息を吸い込んだ。 バスタイムに考えていたくだらない愚痴も、白昼夢の中で繰り返した何千回もの予行練習も、すべてはこの瞬間のためにあったのかもしれない。 「……あのさ」 僕の声が、いつもより少しだけ低く、震えて響いた。 君が炭酸水のグラスに伸ばしかけた手を止め、僕を見る。 その瞳の中に、僕の情けない顔が映っていた。 嫌われちゃったらどうしよう、とか。 考えてんの色々あるけれど。 今世紀最期のプロポーズを、今、君に。 「僕と、これから先もずっと、一緒にいてくれませんか」 部屋の中が、一瞬だけ静まり返った。 雨の音さえも遠ざかったような錯覚に陥る。 君は驚いたように目を見開いた後、ふっと、今までに見たこともないくらいに、綺麗に笑った。 「……うん。いいよ。知らない星に行くよりは、現実味があっていいかもね」 その言葉を聞いた瞬間、僕の心の中にあった「普通」の宇宙が、一気に色鮮やかな光で満たされていくのがわかった。 やっぱり君のことはまだよくわかんねえなあと思うけれど、それでもいい。 ふたりで、この曖昧で愛おしい夜を進んでいけばいいのだから。
空と記す
学校の登下校中。 授業の合間や休憩中。 家にいる時、ふとした時。 私はよく、空を見ている。 特に意味は無いけれど、いつの間にか染み付いた習慣だった。 きっと始まりは、授業に飽きた、付き合いに疲れた、そんなこと。 そういう時、いつも必ずあったのが空だったから。 空は、いつどこからでも見える。 でも、いつどこから見ても表情が変わる。 まるで百面相で、そう思ったら面白くなって。 ある時から、空日記を書くようになった。 ふとした時に、見上げた空と気持ちを書く。 一日に何回も書く日も、全く書かない日もある。 だから、ルーティンとは言い難いけれど。 歩くのに疲れた登校中は、鮮やかな青に背中を押された。 授業が暇で退屈な時は、雲を数えて時間を流した。 部活が楽しくて仕方ない時は、紫の空に目を輝かせた。 家からふと窓を見た時、暗い雨雲に寂しくなった。 空が泣く、空が笑う。あながち間違いじゃないと、最近思う。 誰に見せるでもない、ただの独り言日記。 ただ空を見て、自分の気持ちを知るだけの時間。 でも、そういう時間が、ある意味特別なのかもしれない。
月光
黒雲の端に月が、霞んでいた。 音が、している。 波が、打ち寄せているようだ。 影が、浜辺に伸びている。 小柄な女が、腰を下ろしていた。 両掌が、冬瓜ほどの大きさのモノを挟んでいる。 頭部であった。 美しい。 唇の紅い青年の首である。 ふふっ。 微風の中、女は、頬を緩めた。 潮と血の香りが、溶け合っている。 月の静けさが、夜を包んでいた。
性格
説明が、苦手である。 月が出ていて、その下で、女が、笑う。 で、何で。 これが、苦手である。 冷める。 気持ちがね。 説明しちゃうとね。 で、何で。 これが、苦手である。 聞かないでっ。 そういう奴なのっ。
ハッピー
朝から歯を食い縛っている。 今日は、とても、いい事があった。 顎がダルい。 とても、とても、いい事が、あったのだ。
恋しき母なる海よ
海が好きだった。 あのどこまでも綺麗で、どこまでも恐ろしい 果てしなく続く海が好きだった。 あの海が眺められる場所に生まれ落ちれた事に感謝し無ければならない。 母なる海と、何かで聞いたことがある。 なるほど、では海は俺の第二の母となるのか 確かにと頷いた。 波の音は子守唄だ 幸せを運び、共に不幸も運ぶ。 海に入れば抱きしめてくれる 暖かく、そしてとても冷たい。 それが海だ ずっとここで海を眺めていたいと 思っていた。 ……大人になってしまった俺はそんな海の見える所から、建物と空しか見えない所へ来た 大人とは嫌なものである。 何もかも、手に入れるためには嫌なこと、汚いことをし無ければならない。 上げられ落とされ、 最悪の場合、己の心を殺さなければならない 息をするのが苦しい 嗚呼こんなのはまるで 海で溺れているみたいだ 仕事で先輩のミスを押し付けられた俺は、どうやら疲れていたらしい。 ふと気がつけば、目の前には、いつも見ていた景色ではなく、海が広がっていた。 俺はどれだけ海が好きなんだ、とか、どうやって来たかも覚えていないな、と我ながら呆れもしたが 久しぶりの磯の香りはとても落ち着くものがあった。 海で少し湿った風を受け、深呼吸をする。 海の音を聴き、目を閉じる。 とても、落ち着く海だった。 嗚呼 溺れるなら今がいい サクリ、と砂を歩いた 歩きながら靴と靴下を放り脱げた アイロンする暇が無く、少しよれてしまったスーツも、息苦しいネクタイもそのままに 波に足をつけた。 海はとても冷たく とても暖かかった 腰まで波が来ても 口の中に潮味が広がっても 不思議と怖くはなかった …嗚呼 嗚呼どうか母なる海よ! 今すぐ俺を受け入れて抱きしめてくれ! 何故か溢れる感情の分からぬ涙が、海に溶けて行く。 コポ と 最後の空気が抜けるのを聞いた それが俺から鳴っているとは、気がつけなかった
母の手
母の手は冷たかった。 思えば母が座っている姿を見たことがなかった。いつも朝早くから台所に立ち、包丁とまな板と音を奏でていたり、鍋とにらめっこしたりしていた。 天気がよければ畑や田んぼの世話をして、雨なら繕いものや家の掃除など。母はまさしくこまねずみのように何かしら動いていた。 子供の頃からそんな姿を見ていた私は、ある日母に趣味はなにかと聞いてみたことがあった。 そのとき草むしりをしていた母は、手を止め地面から目線を外し数秒考えた。そして、草むしりかなと答えて、また黙々と草むしりに集中した。 私は丸まったその背中を見ながら悲しくなった。母はいつも家族のために働いてばかりで、自分の好きなことはないのかしないのか。 母の手は赤紫蘇で染まったり、あかぎれで切れていたりしていた。爪は土のような汚れが詰まっていた。それでも私は母の手が好きだった。母は冷え性だから触れるとひんやりとするのだが、それも含めて好きだった。 最後に触れる母の手。動かなくなった重なった両手をなぞる。 細く、骨張っていて、いつものように冷たかった。