アベノケイスケ

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アベノケイスケ

小説はジャンル問わず好きです。趣味は雑多系の猫好きリリッカー(=・ω・`)

 翌日もユウヤは同じ時刻である、七時二十分わに目を覚ました。正確には、七時二十分と二分五十七秒。ベットから起き上がるまで数十秒が経ち、更に起床時間は延長される。しかし頭が覚醒しており、眠りという既存から脱しているのは事実である。やがて彼は目を片方ずつ開き、髪の毛を白いシーツからゆっくりと剥がしていった。徐々に体に重心が斜めに掛かっていく。  肩が布団から飛び出ると、微かに寒さを感じた。布団と部屋の空気との境目が生まれて、風が体に入り込んできたようだった。次に手首、指先が外界に触れる。足を伸ばすと、布団の後方から親指がはみ出し、汗が風に濡れた。んん、という声を漏らすとともに、腕が天井に向けて伸びていく。両腕を完全に伸ばし終えると、表情筋に力が入り、自然と欠伸が出た。背中が上側に引っ張られ、胸が前に押し出され、腹部が逸らされる。肩を下ろして、暫く放心する。ベッドに対して垂直の体勢になり、一度布団の中の足の付け根から膝までの膨らみを見やり、熱を感じ取る。布団の中は暑かった。  頭と背中を掻いて、ユウヤは布団を蹴るように身体から剥いだ。ベッドからようやく降りる。肩を軽く揉んで腕を回すが、特に何も効き目はないような気がした。  カーテンが開きっぱなしだったことに今更気がついた。日差しがもう既に照っている。テーブルの上には何冊かの本と空き缶やら紙屑やらが散滞している。飲みかけが溢れていたりしないだろうか、とふと思ったが、すぐに消えた。冷蔵庫の方へと歩き出す。  台所に着く前に足がコンセントに引っかかりそうになった。扇風機の置く場所に困っていた。そんなに広い部屋ではないので、仕舞おうにも仕舞えず仕舞いだった。もう夏なんてずっと昔に過ぎているというのに。欠伸をもう一度する。  冷蔵庫の中には、ヨーグルトが二個と麦茶、食べかけの昨日の夕飯の野菜炒めの盛られた皿が入っていた。ヨーグルトを取り出す。冷蔵庫を閉めて食器棚からスプーンを取り出して足をおぼつかせながらテーブルの前に座る。椅子はあまり好きではないので置いていなかった。床に座り込む。  テーブルの上の乱雑を一旦手で掃き退かせて、スプーンとヨーグルトを置いて朝食を食べ始める。ものの数秒で平らげ、スプーンをシンクに放って容器を捨てる。酸味が乾いた口に張りついた。うがいをすれば良かったと今更感じた。うがいのついでに顔に水を浴びる。  取り敢えずテレビを点けてみる。いつもと同じ、ニュース番組が流れる。毎日変わらぬ時間帯に放送しているものだ。当然面白くもなんともなかった。暗いニュースが多かった。哀しい知らせが大半を占めていた。暗い報道が多いなあ、と眠気混じりにユウヤは半開きの目でテレビの画面を眺めた。どうせ後で何もかも忘れてしまう。覚えているのなんて、一粒の種みたいな量の報道だけだろう。  交通事故のニュースを尻目に、着替えを始める。脱いだ寝巻きを床に放り、クローゼットの中から長袖のシャツを取り出す。今日は昨日よりも暖かいだろうか、春がさらに近づいてきている。  服を着替え終えると、話題のカフェ・バーのニュースがやっていて、目に入った。どうやら近い街にある店らしい。ここからなら、駅で二つ分くらいか、それぐらいの近さのようだった。名前はカフェ・ゼブラと書かれていた。近いうち、暇な時にでも寄ってみようかな、と不意に思った。  再び暗い事件の内容に切り替わった時、ユウヤはテレビを消して、歯磨きをした。少しだけ溜まっていた食器をついでに洗う。うがいを三回ほどした。  いつもの荷物を持ち、髪を整えて服を払うとユウヤは家を出た。日差しはそれほど強くはなかった。昨日と同じくらいだろう。鍵を掛けて、階段を降りる。いつものように、学校へと向かう。  時間が昨日よりも早いような気がした。実際、十五分ほど早かった。何故なら、昨日も同じ時間に起床したものの、今日は二度寝をしなかったからだ。講義は同じく九時からであるため、更にゆっくりと登校ができる。折角だ、少しだけ遠回りをしていこう。駅まで真っ直ぐの道を、手前の曲がり角を経由して行くことにした。  角を曲がると、子どもたちの声が聞こえてきた。何やら三人くらいで、缶を蹴って遊んでいるらしい。ランドセルが重そうに揺れた。道端で缶蹴りは危ないのではないかとも思ったが、この道はほとんど路地みたいなものであり、自転車が二台通れるくらいの幅で事故の危険は無いもな、とすぐに思い直った。今朝の交通事故をふと思い起こす。  子どもたちは元気に身体を振って進んでいく。そっちじゃないよ、こっちだよ、呼びかけ合いながら学校へと向かって行く。  ユウヤはもう一つの曲がり角の前で、自販機を見つけた。いつもなら駅中のコンビニで飲料水を買うところだが、気分転換にと小銭を機体に投入した。コーラ瓶のボタンを押す。ガタン、という音でコーラ瓶が落下する。手に取り、冷たさを覚える。蓋を剥がして、中身を口に流し入れる。炭酸の刺激と泡が甘みを運んだ。喉を通り、爽快感を得る。息を吐き、その場で飲み干すと塵箱へ捨ててユウヤは歩き出した。  角を曲がるとすぐに駅へと着き、いつもと同じ動きで学校へと向かった。  電車の中で、昨日会った彼女のことを思い浮かべた。何故だろうか、あんな風にあっさりと声が掛けられたのは。ユウヤは中のいい友達が得意に居ない為に、誰かと話す機会はほとんどなかった。しかし、彼女にはまるで慣れたように声を掛けていた。自分でも不思議だった。  今日もまた会えるだろうか、眠気の消えた頭で考えた。最近はいつも通っているのだろうか、あの図書館へ。居たら今日もまた話しかけてみよう。そう思った。目の前には女子高生がいたが、やはり雰囲気は全然彼女と違っていた。    昨日と同じく準備を終わらせて、図書館へと向かう。すぐさま彼女の姿を探す。いた、と胸で言う。同じ場所に彼女は座っていた。同じ本を読んでいる。昨日より、利用者は少ないように思えた。 「おはようございます」  ユウヤが微笑みかけると、彼女が振り向いた。真顔のまま、おはようございます、と返す。 「いつも、ここで読んでいるんですか?」 「はい、最近はここで」  彼女は眠気など全く見せずにすっきりした目つきで言った。早起きなのだろうか。 「今日も、一緒に読んでいいですか?」 「どうぞ」  ユウヤはこれもまた昨日と同じく、借りた本を取り出して同じ彼女の目の前の席で座り、読書を始めた。半分くらいまで読み終えていた。  本は面白いが、やはり時々彼女のことが気になり、目移りしてしまう。眼帯をしている。怪我だろうか。肌は綺麗だった。痩せ細ってはいない。中世的な体型にも思えた。筋肉は感じなかった。 「あの」  読む手が止まる。言ったのは彼女の方だった。 「ここの、学生さんですか?」  彼女が視線だけをユウヤに向ける。ユウヤは、はい、そうですと答える。 「何年生の方ですか?」 「二年生です。今年で二十一歳になりますね」  あ、なら同じくらいですね、私は二十歳なんですよ、と彼女は言った。そうなんですか、とユウヤは答える。 「学生、ではないんですか?」  ユウヤが聞くと彼女は、違います、と言った。会社員で、勤め先があるのだという。彼女は印刷会社の従業員らしかった。 「へえ、印刷の仕事ですか。だから、本が好きなんですか?」  ユウヤの言葉に、いいえ、そういう訳ではないんですけど、彼女はちょっと照れながら答える。でも、文字は好きです。たまに日記を書きますね、と続けた。 「嫌だったら答えなくていいですけど、その左目って、もしかしたら仕事の怪我とかですか?」  ユウヤが言うと、彼女は急な問いに驚いたのか、いいえ、と動揺しながら答えた。そうですか、とユウヤは慌てて言った。悪いこと聞いたかな、と口を噤んだ。 「あ、別に、気にしないでください。そんな大した事じゃないので」  彼女は手を振って弁解した。気になりますよね、と言う。 「会って二日目でこんなこと人に聞くなんて、初めてです。何故か、緊張感がないんですよね」  貴方と話していると、とユウヤが笑みながら話す。彼女はそうですか、良かったです、と笑み返しながらもどこかまだぎこちなく答えた。彼女は緊張しているのかもしれない。 「そのうち、気持ちが出来たら、話しますね」  その彼女の言葉は、小さく聞こえた。本当はあまり話したくないのかもしれない。ユウヤも無理して聞きたくはなかったので、大丈夫ですよ、とだけ言った。  それからは、講義の十分程前まで昨日と同じくやはり手元の本を読み進めた。かなり会話を弾ませた為に、あまり内容は進むことなく時間は終わっていった。 「じゃあ、また明日来ますね。ここで会いましょう」  そう言ってから、ユウヤはあっ、と足を止めて彼女を振り返った。 「そういえば、明日も会えたりしますかね。仕事は、行かないんですか?」  そう言うと彼女は、明日も居ますよ、この時間なら。仕事は昼からなんです。それまではここで本を読んでいるんです、と答えた。 「だから、夜も遅いんですけど、結局朝は早く目が覚めるんですよね」  そうですか、とユウヤは安堵した。明日も会えるのだ、と気分が浮いた。別れの挨拶を交わして、講義へと向かった。  次の日も、その次の日も、ユウヤは彼女と会った。同じ朝の、同じ時間の図書館で、これと言った大きな話もなく、他愛もない世間話を交わした。しかし、明日は土曜日であり、講義がない日であった。週末、土曜日と日曜日。図書館は、土曜日と日曜日が休館だった。 「また、来週まで会えなくなりますね」  彼女が言った。寂しそうにも、そうでなさそうにも、どちらとも取れるような口調だった。感情があまり出ない性格なのかもしれない。  あの、とユウヤは本を閉じて言った。あの、良かったら、明日食事に行きませんか?一緒に二人で。近くに話題のカフェがあるんですよ。 「どうですか」  彼女は暫くの間きょとんとしていたが、本を閉じると、ええ、いいですよ。行きましょう、とにこやかに答えた。 「待ち合わせは、S淵駅でいいですか?」  大丈夫ですよ、と彼女が答える。ユウヤは嬉しさが顔に出ていたのか、表情が崩れているのを自覚した。彼女がふふっ、と笑い溢す。 「あ、そういえば、名前を聞いてもいいですか」  ユウヤは今になって、彼女と未だ名前を教え合っていないことに気づいた。そうでしたね、と彼女は真顔に戻り、言った。 「ミレイといいます。竹田ミレイです」 「僕はユウヤです。山本ユウヤです」  よろしくお願いします、とお互いに頭を下げ合う。その後で、じゃあまた明日、とユウヤは講義へと向かい、ミレイはもう暫く読書に耽るだろう、本を再び開いた。ユウヤが見えなくなるまで手を振る。ユウヤも手を振り返した。  廊下を早足で通り過ぎるまでの間、窓から覗いた外の空の日差しが、微かに弱まり、丸みを帯びたまどろみのような色の空気をつくっていた。

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 山本ユウヤはN川美術大学の2年生の春へと足を踏み入れ、晴れて二十一歳を迎えた。コンパクトに散髪したヘアスタイルは少し短く、春風が僅かに涼しく揺らした。彼には特にこれといった親しい友達の仲もなく、ただ平凡に少し高価なアルコール缶を嗜む程度の、そんな誕生日を過ごしただけだった。  部屋を出て、アパートの鉄工階段を音を立てて降りると、新学期の始まる学校へと向かう。服装は自由であるため、ユウヤはVネックの長袖ニットを着ていた。通りへ出て、まっすぐに見える通学用の駅へと向かう。学校までは、地下鉄で三駅程で到着する。急ぐ必要はなかった。駅中にあるB1フロアのコンビニで500mlの天然水を買う。バックに入れるが、少しだけきつかった。いつもの事だ。  上り方面の一番線に足を止めて、時刻表に目をやりながらユウヤは水を一口飲んだ。買ったばかりなので、よく冷えていた。口から胸を通り、腹部へと清涼感が拡がる。電車はあと一分で来る。毎朝の如く学生やサラリーマン達による人だかりがあった。  アナウンスが鳴り響き、早足で後方の階段から駆け降りてくる人達の足音を掻き消すように上り列車がブレーキを甲高く効かせて停車した。五車両分ある車体の前後方のドアが開いた。ユウヤは周囲の人々と共に中へ乗り込む。  車内は、夏ほどではないが涼しく冷房が効いていた。寒さを感じるほどではなく、丁度いい風量だった。  トンネルの暗く長い壁の側を高速で伝い流れる車両の窓から外を眺めて、ユウヤはまだ残っている眠気にもたれた。しかし、寝落ちすることはないようにと瞼には力を入れ続けた。いつもの事だ。  目の前の席には、この時間に乗車する女子高生や、見慣れないデザインの帽子を被った老夫婦の姿がある。それは最早ここ一、二年の日常の風景と化していた。彼らはやはり、いつも通りどこか眠そうな様子だった。  十分と経たずに三駅を乗り継ぎ、目的の駅へと停車する。ドアが開いて数人の乗客と共にユウヤは電車を降りる。少し歩いた曲がり角の先の階段を重い足取りで登って行く。  改札を出ると、眩しいという程でもなく、水色に透けた空が白い雲とともに光を射した。  駅の外へと出ると、ユウヤは通学路になっている道を歩き出す。N川美大へと向かう道だった。すると、ガードレールが敷かれてある草木ゾーンの足元には、既に藤や芍薬が顔を出して、立派に咲き誇っていた。春の良い香りがすると思った。季節が変わった知らせだった。数メートル先まで、歩道を彩っている。  ユウヤは花が好きだった。というよりも、植物全般に興味を持つ学生だった。家には本棚があり、その半分は自然•植物に関する図鑑や雑誌などだった。彼が植物を気に入るようになったのは、小学校低学年の夏頃だった。二、三年生くらいだろうか。朝顔の観察がきっかけだった。  彼の部屋には充分な種類の植物がインテリアとして置かれていた。植物学者になりたいわけではないが、いつかそんな部屋に住むことが夢だった。  彼の一番好きな植物は、苺だった。ベランダには苺の植えられた花壇があり、ユウヤはストロベリーガーデンと名づけていた。小さいながらも、しっかりとした緑が張られていて、咲いた花は白く純粋で可憐だった。毎日家に帰ってから水やりをするのが、彼の大切にしている日課だった。  植物群の通りを抜け、交差点の横断歩道を渡った所に、N川美大はあった。いかにも現代チックなモダンスタイルという風貌の建物である。天井が円形の硝子張りになっている。  ユウヤは当学校に、浪人を経る事なく入学した。特にこれといった目的はなかったのだが、なんとなく将来はイラストやデザイン関係の職種に着きたいと考えた結果、この場所を選ぶに至った。入学金は母に出して貰っていた。  校門を抜けて、赤煉瓦のタイル造りの道を歩いて、校舎へと向かう。この学校は、花というよりも、茂みや草木の割合が多かった為、ユウヤはできればもっと花を増やしたいと思っていた。まるで自分が自然学教保護活動家にでもなったかのような気分で、レンガの上を歩く。  校舎へと入り、自分のロッカーの前に立ち授業の準備をする。一番目の講義まで結構な時間がある為、ユウヤは筆記用具に数冊の教科書とノートを手に取ると早速校舎脇の図書館へと向かった。  校庭の左に見えるN川私立図書館は、本校の学生だけではなく、一般住民の人々にも利用を開放していた。というのは、営業をしているのがN川校であるものの、市内の公共建物として全ての人に使用が許可されていた。その為に館内には、常に学生のみならず時には主婦の女性、時には定年前の読書好きの男性、勉強に励む子ども達などが日頃から姿を見せていた。  館内はいつも通りにやけに静かで、とても落ち着く雰囲気だった。カウンターにはメガネをかけた図書係員が一人本を読んでいる。  ユウヤは噴水が見える窓の横のテーブル椅子へと荷物を下ろしてから、本棚へと足を向けた。時計を見ると、講義まで未だ三十分程の猶予が確かめられた。  目的の本棚に近づこうとすると、目の前のテーブル席に、やけに異様な服装の人影が見あたった。それは、眼帯を左目に付けた黒髪の女性だった。真面目な顔で、一心に本を読んでいる。思わず視線をやると、彼女が読んでいたのは、ユウヤの好きな小説家のシリーズ作品だった。ユウヤは気付けば「あの」と女性に声を掛けていた。  彼女は遅れて反応したのか、ゆっくりと本から顔を上げて、ユウヤの方に目を向けた。色白の、あまり生気の感じられないような表情だった。年齢が若いのだろうか、どこかあどけなく女子高生の様な印象を受けた。 「なんですか?」 「あの、珍しいですね。その本を読むなんて」  ユウヤは思っているよりも緊張がなかった。本のタイトルを見やると、面白いんですよね、そのシリーズ、と言っていた。 「好きなんですか?」 「はい、まあ、割と」  彼女の方は、初対面ということもあってか、戸惑いながら素っ気ない返答をした。 「あまり女性では見たことがなくて、驚いたんです。その作家の本を読んでいる人が」 「そうなんですか?」  彼女は不思議がって首を傾げた。そうだ、とユウヤは荷物を彼女の前の席に移動させて、よかったら、同じ席で読んでもいいですか?と聞いた。 「はい、別に良いですけど」  彼女はそう答えると、やはり不思議そうにユウヤの方を眺めた。ユウヤは直ぐに読みかけの同じ作家の作品を手に取って、席に戻った。目を通していた最終ページを開く。僕も好きなんですよ、この人のシリーズ。彼女は相変わらずきょとんとユウヤを見つめている。あ、どうぞ、読んでいてください、とユウヤは彼女に促した。彼女も再び本を読み進め始める。  再び静かな時間が訪れ、館内は落ち着きを戻した。パラパラとページを捲る音だけが机上に響く。  ユウヤはもちろん読みかけのその作品を楽しみながらも、目の前に座る初対面の彼女のことが気になっていた。果たして、以前にも見かけたことがあるだろうか?この図書館は、それこそ入学即日に通い始めているわけで、当時から居たのならとっくに知っているはずだった。しかし、当時は眼帯をつけた女性なんて見た事はないし、ましてやクラスメイトでもないだろう。彼女は一体誰なのだろうか?いつからここへ通い始めたのだろうか?ユウヤは疑問を募らせていた。ユウヤは意識のあまり視線が彼女の方向に向かないように気をつけた。あくまで目的は読書だ。ページを読み進める。  そのまま時間は幾分か流れ、気がつけば時刻は講義の十分前になっていた。いけない、とユウヤは急いで席を立った。夢中になり過ぎた、本を掴んだまま、係員にこれ借ります、と伝える。 「じゃあ、僕は講義があるから、また今度で」  ユウヤがそう言い残すと、彼女は本から視線を上げて、はい、わかりました、とやはり素っ気ない声で答えた。ユウヤは荷物を素早く持ち上げ、図書館を出る。眼帯の女性は、最後までその不思議そうな目つきをユウヤの姿が見えなくなるまでに、彼のことを見つめ続けた。

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シルビア岬

僕の白いシルビアに乗って 行こうあの岬へ そこに住んでいる人々は 何のために生きるのか いつも考える避けてきた疑問 通り過ごすことに退屈して場所を信じる 銀色に映る湖には今日も白鳥が二匹 君たちは恋人同士なの?って思わず口にする 近くの人に尋ねたところ オスの名前はエレクトロで メスの方の名前はムジカっていうらしい それにしても何でこんな場所で 寂しげに時々笑み計らっては おぼろげに水を浴びているのだろうか 僕の白いシルビアに乗って 行こうあの岬へ そこに住んでいる人々は 何のために生きるのか いつも考える避けてきた疑問 通り過ごすことに退屈して場所を信じる それにしたって何で夕焼けは 僕らの血のように紅いんだろう もしくはそれは反対のことで 夕焼けの色が溶け出した僕らの体 回りだすルーレット 僕の白いシルビアに乗って 行こうあの岬へ そこに住んでいる人々は 何のために生きるのか いつも考える避けてきた疑問 通り過ごすことに退屈して場所を信じる

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サティスフィクション

すべての事故はフィクション 期待してるのが馬鹿 すべての事故はフィクション 期待してるのが馬鹿 はなっから信じちゃいないさ はなっから敵いやしないさ はなっから信じちゃいないさ はなっから敵いやしないさ 正直者がバカをみる クソみたいな世の中さ だから俺は盗みを働いてやる パラレルワールド全開 匿名の旗を撤去 パラレルワールド全開 匿名の旗を撤去

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FORLINGER

五月に生まれた 牡牛座の少年 フォーリンジャー 影の側 誰かの助け舟 愛なき世界で 愛を語っている 偏った思想には 偽善のメッセージ ・・・ーーー・・・ 夢の中で迷っている 鳴き声が聞こえた 彼はフォーリンジャー アーバンロックを聴きながら ダンスをする 迷子猫のフィガロシェリル 僕に合図する 愛を見つけて、暗闇を蹴って、嘘を葬って。 永遠の哀楽は 青い丘に咲いていた綺麗な花さ 隣に座って本を読んでいる友達のメアリー それを閉じて僕に言った 「ずっとこのまま一緒にいようね」って 彼はフォーリンジャー

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胸いっぱいの愛を

胸いっぱいの愛を たまに吐息を絡ませて 溢れかえる感度を抑えて 憂いな顔を覗かせる 君の瞳に噛みついた 夕飯にはいつも君が居るはずなのに 今日は何故だか椅子が多いな 不慮が相まった災いに 巻き込まれてそのまま… どうしたってこうも いられなくなって 僕はあの本を床に広げる 弾ける涙を眺めては 踊る言葉で悩ませる 叶わぬ思いを手放して そんなことはできない 僕は禁止された 蘇生法に手を出した 一日中祈るばかり それが誰かにばれたなら すぐに連れて行かれる 何が駄目なのか まるでわからない 僕はただ君を取り戻したいだけ 僕は誰かに腕を取られ 街の丘の処刑台へ だけど僕は笑いながら 愛を叫ぶのさ そしてキャンドルには今日も 新しい火が灯された 彼の家の本が輝きひとりの少女が現れた

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冬の星のコニー

あの子の名前は雪溶けのコニー 冬の終わらない星で暮らしてる だから夏の暑さや春の暖かさを 知らないまま今日も一人で眠るよ いつか辿り着きたい星を夢見るBaby Cat 結晶繋ぐネックレスにひとつだけ願い事を 恥ずかしげもなく笑ったり 恥ずかしげもなく歌ったり できるようなそんな勇気を私にもください 風に包まれて季節が巡りだす タンバリンの銀河にメッセージが届いた 手紙を書いた宛もなく誰かに 轍に咲いた花は傷を吸って育つよ だけど動けない見えない吹雪いてるCosmo Storm 打ち上げられるロケットを捕まえるために 恥ずかしげもなく喚いては 恥ずかしげもなく叫んでる 腐った意味や理屈なんて勝手にしやがれ! あの子の名前は雪溶けのコニー 冬の終わらない星で暮らしてる だから夏の暑さや春の暖かさを 知らないまま今日も一人で眠るよ

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陽だまりのカントリーロード

十三月の夕暮れ 子どもの猫が唄う 陽だまりのカントリーロード 故郷へと続く路 本当の答えは わかってるつもり だったけれど 空を見れば海と同じ色 きらきら輝く 太陽の光 きらきら輝く 夜の月灯り 見られていなきゃいいね 見られていたっていいよ はじめて目にする景色 生きるそれぞれのイラストレーション 自分を追いかける 記憶探しの旅 だけど本当は 森のような広い場所にいた あの日々のことを 忘れないよ忘れない いつまで経っても どこまで行っても 本当の答えは 知っているつもり だったけれど 空を見れば 海と同じ インディゴブルー 子猫が唄う 陽だまりの故郷の唄 きらきら輝く 太陽の光 きらきら輝く 夜の月灯り あの日々のことを 忘れないよ忘れない いつまで経っても どこまで行っても

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博士が死んだ日。

博士が死んだ日僕は泣いたよ 暖かい涙が冷たい頬を濡らす 僕は絵を描き殴った 僕と博士が遊んでいるところ 遠くの場所へ長い旅に出たんだ きっとそこはとても楽しい場所なのだろう 大切なことをいつも教えてくれた 生きてるうちにやらなくちゃ いけない事ってなんだろう? 死んだら何もできなくなるならさ 博士の飼っていた猫は 彼のあとを追うように 12月の25日に 目を覚ますことのない 眠りについてしまった そして僕はその猫の体を抱えて 博士の墓がある場所へ登り のぼる太陽がよく見える場所へ 静かに埋めたんだ 僕らは一体何のために 誰のために生きるのだろう 生きるために生きるのか 死にたくないから生きるのか 一人になった今ではよくわからない 彼が生きているうちに 教えて欲しかった 博士は今もきっとどこかで 生きていることだろう 時々僕のことを思い出しては 優しく笑っているはずさ 今日は博士が死んだ日 僕は彼の好きだった ブルーベリージャムのサンドを 一人で頬張った

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夜行列車のうた

0時過ぎの夜行列車 雨が窓をノックする 南の風がごうごうと 車輪をせき立てる どこへ向かっているのか 旅にでも出るつもりか 夜空の燦々と輝く星たちが 僕に問いかける 木枯らし吹いて 景色はまるでオーケストラ楽団 三番目の冬路のフルート こごえた熱をつかさどる 0時過ぎの夜行列車 車掌さんがアナウンスする この先に待ちかまえるのは とんでもなく大きな崖さ 木枯らし吹いて 景色はまるでオーケストラ楽団 惨劇を丸め込むミュージカル 踊る汽笛を唱えた 0時過ぎの夜行列車 雨が窓をノックする 南の風がごうごうと 車輪をせき立てる どこへ向かっているのか 旅にでも出るつもりか 夜空の燦々と輝く星たちが 僕に問いかける

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夜行列車のうた