阿部野ケイスケ

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阿部野ケイスケ

小説はジャンル問わず好きです。趣味は雑多系の猫好きリリッカー(=・ω・`)

RED RUM

 蝉の抜け殻から生まれる胎児、鳩の嘴に戯れる飛鳥花、茶柱の中に聳えるビジネス・ビルディングの群生、青空のカクテル・ウイスキー、種子島のベルリン・ウォール・クラッシャーズ・ガン、跳べよ鴎よ、如何なる時を経てもお前の姿形は変わることはない、時計の針に潜む熱帯魚船、緑の草葉の血流、火星人の下半身、脚首の多数決プログラム、電子雨の甘味菓子、ところどころが一体混雑になると元には戻れない、紅い羊、RED RUM。  座敷牢の陰から顔を見せる鰻の鱗、紙材質の解ける絵日記を書く若者、自己申告するアメーバは時として五月雨、ばらばらになった亡骸は塩で煮て食べよう、三人がかりでやっとの大仕事は宇宙でも珍しいのです。例えばそれは、加速する彗星のダンボールを指先で回転させること、呼び鈴の目をした鹿の子どもを見つけること、狸の顔をした狐、狐の顔をしたギター、狐の顔をした狸の声のエレキギター、その短音、長音、単音美学、ストローク、カッティング、ブリッジ・ミュート、など、それらを奏で遂げること、西瓜の目玉を綺麗に洗うこと、パスタの河川で洗濯を一日中五千二百六回行うこと、兎の首輪を四輪駆動のガソリン・タンクに食べさせること、キャブレターへの恋文を英訳すること、野菜の話し言葉を富士山に伝言すること、白電球の未来を煙草の吸い殻、そして灰皿に見せつけること、ライラック柄のスカートを蜥蜴の亡骸が燃える炎で灰になるまで燃やし続けること、サスペンダーを一度、塵箱のペットボトルの山中の土の中に埋めて、三万年後にまた取り戻しに来ること、鉄色の車道を陰忍者と歩き回って、アメジストを見つけること、太った魚にヘッドライナーを務めさせること、事務所の性欲を奪い去ること、左翼と右翼の金玉を砕き割ること、不貞なアメリカン・ドリームに終止符を打つべく、ロシアン・ルーレットを針金虫と決闘すること、四葉のクローバーで空を造ること、爽やかな顔で本をクリーム味に注文し直して、持って寄越させること、女の子の悪趣味の花弁を撫でること、女の子の悪戯な破壊的恋愛気質をうまく騙し貶めること、男の子の嘆きを払い捨てること、男の子の怠惰を殺傷に至らせること、首飾りの願望が何であるのか、作文に書き起こすこと、海辺で見た夢を一部始終、亀の甲羅の部屋でポータブル・レコーダーに語り尽くして、録音すること、メゾン°卵をかき混ぜること、それで果てしない銀河の卵焼きを作ること、そしてそれを食べて、冥王星の王子様に感想を伝えること、間違いなく、美味であったと、鉛の酒、RED RUM……  ☆○*・☆○*・☆○*・☆○*・☆○*・☆○*・☆○*・☆○*・☆○*・☆○*・☆○*・☆○*・☆○*・☆○*・〜〜〜〜〜〜  ドミノは、自分の名前を捨てることにした。アルヴァラーサという、その名前の響きを。フォクシアはもはや自分の名前など覚えていなかった。何故か、それはわからない。とにかく二人は海辺に来ている。紅みがかった夕日と、漣を砂浜の波打ち際に往来させる場所に。二人はそこで夕陽に照らされながら、性行為をした。そのセックスは、非常に淫しく、醜いものであったように思える。決して高尚ではない、美しくもない、ただの獣の乱行、涎や唾の飛び散る下品な行為、二人は喘いだ。しかし海には魚も鳥も居ない。もちろん他の人影もない。二人は何かを気にする必要なんてなかった。二人を見ているのは、貼り付けられたような抽象的な山と、灰色の今にも崩れ落ちて壊れてきそうな空だけだった。それぐらいの環境下で、二人は叫んだり互いをまるで喰い千切り合うの如く欲望を放ち散らばせた。  その時、二人の元に一匹の野良犬が駆け寄る。いや、猫であったもしれない。その姿は凶暴で、今にも目の前にいる誰彼構わずを食い殺してやろうと言う剣幕。しかしドミノとフォクシアは自分たちの欲求の発散の中に至るばかりで、その獰猛の存在には気付くことはない。やがて、犬が猫の凶暴生物は、二人の体に飛び付く。  フォクシアはその凶暴の存在に一足早く気付き、素早くそれを振り払った。しかし犬か猫は、ドミノの顔面に覆い被さる。ドミノが性欲の末端から意識を取り戻した時にはもう遅く、彼はその凶暴の権化に、束の間を持ってして食い殺され、咬みちぎられて、儚く死んでしまった。すると犬猫はその残体をそれ以上に食い貪ることなく、これで未練は無くなったとばかりに、口の周りを血塗れにして、何処かへと去っていった。フォクシアはそのドミノの無惨な遺体を、何をするでも言うでもなく、ただ静かな波打ち際の孤独な世界の内側の中で眺めていた。  ☆○*・☆○*・☆○*・☆○*・☆○*・☆○*・☆○*・☆○*・☆○*・☆○*・☆○*・☆○*・☆○*・☆○*・☆○*・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  神を信じるものは救われる、信じざるものは救われるべからず、そう言ったのは裸足のアライグマ、彼は自動困難主義の先駆者であり、大麻拡散教の教祖である。その実、将棋が異常に上手い。ほれ、王手、飛車角取り三連勝。は、これは参りました。お粗末さまです。いえいえ、こちらことぞ。またよろしくお願いします。お土産には、青銅の角煮がいいですね。  歯朶の木の樹元に従える随筆書物、点灯された祭壇の中央にでんと居座る穀潰し、雷と雨風の喧嘩、それはきっと青頭巾の勝利、ここで青ずきんちゃんの話をちょっとばかり語りたいと思います。いいですか?コホン…………  昔々、あるところに青ずきんちゃんというのがおりました。青ずきんちゃんは可愛らしい女の子で、おじいさんと二人で暮らしていました。しかしおじいさんは青ずきんちゃんの本当の家族ではなく、養祖父でした。青ずきんちゃんはおじいちゃんの影響で、薬物中毒者でした。家には幾つもの種類の薬物が揃っています。大麻、マリファナ、コカイン、ヘロイン、シャブ、LSD、シンナーを煮詰めたもの…………もちろん、おじいちゃんもそれを愛用していました。二人はよく暇な時間さえあれば、それを吸ったものです。しかし、ある日突然、その平和な日常は、瞬時に壊されてしまったのです。青ずきんちゃんたちの家に現れたのは、狼の姿をした悪魔でした。マルコシアスというそうです。背中に大きな羽が生えています。マルコシアスは瞬時にして、おじいちゃんを抹殺してしまいました。そして、家中から薬物という薬物のコレクションを盗み取って行ったのです。これを持って、大儲けするんだあー、と。青ずきんちゃんは、怯えて震えるばかりで、何もすることができませんでした。そこに残ったのは、荒れ果てた部屋の残景と、大好きな愛するおじいちゃんの血塗れの死体でした。青ずきんちゃんは、その時、復讐を決めました。必ずや、あのマルコシアスを殺して、おじいちゃんの仇を討つのだと。そして青ずきんちゃんは、早速その復讐の計画を立てるべく、街の武器屋に剣や銃の類を買いに出かけました。この続きはまたどこかで、ーーーー物語のあるところに物語はなく、物語のないところに物語はある。紅い羊、鉛の酒、RED RUM、レッドラム、RED RUM。時の過ぎゆくままに鳥は飛んで行き、魚は泳いで行く。数少ない希望の世界と未来を照らす、自由という名の不幸を求めて。

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RED RUM

賽の河原

 ここは地獄。堕ちてきた者たちは皆一斉に、その賽の河原にて、石の積み上げを行っていた。しかし、変わったことにそれは石では無く、トランプカードだった。皆はそのカードを懸命に積み上げている。やがてそのタワーは完成へと近づき、最後の一段となったところで、やはり近くにいる鬼によって崩されて、また最初から積み直しとなるエンドレスな拷問だった。 「やれやれ、まさかこんなことになるとは……」  トランプを積み上げる一人が言う。 「賽の河原というものは知っていたが、それが石でなく、トランプだとはなあ。石なら、多少の風や手の震えではバランスを崩さないし、それなりにコツを掴めば、うまく積み上げられるんだけど、それがカードとなると、少しのミスであっという間に壊れてしまう。鬼の奴らが手を入れるまでもなく、一段積み上げるのだって大変だ」  二人がそんな会話をしていると、見張りの鬼は、おい、とその愚痴をぶつくさ洩らす彼らに声を上げる。 「余計な話をするんじゃない。さっさと積み上げろ」 「はい、はい、わかってます、わかってますよ」  二人はもはや死んでいて何も怖いものは無くっている身であり、この上なく恐怖心を煽る見張りの鬼の顔にさえ、畏怖するような反応を抱かなくなっていた。  隠して二人は不貞腐れながらも、淡々とトランプタワーをつくり続ける。完成しかけたところで、再び鬼にその塔を崩される。また、やり直し。一人が声を上げた。 「あーあ、もう、やめだ、やめ。こんなことやってられるかよ」 「もっともだ。いつまで経っても終わりやしねえ。これじゃ、退屈で退屈でまた死にそうだ」  二人はそう言うとタワーをつくる手を止めると、散らばるトランプの上にだらんと寝転がる。 「そうだ、せっかくだから、ババ抜きでもしないか?」  一人のその提案に、もう一人が、おっ、いいね、と賛同する。 「今ならあの鬼もいないし、暇つぶしにひと勝負やろうぜ」 「そうだな。せっかくだし、他の班の奴らも呼んでくるか」  そしてやがて二人の元に、他の河原で同じくトランプタワー地獄を続けていた者たちがやってきて、数人でのババ抜きが始まる。ゲームは盛り上がり、次第にその人数は更に増えていった。  そして鬼が戻ってくる。鬼は何事だ、とトランプ遊びに浸る者たちを睨みつける。 「お前ら、何を呑気に遊んでいる。仕事はどうした、仕事は」 「あ、鬼の旦那、お疲れさまでーす。今ちょっと、休憩がてら、ババ抜きしてたところでやんして」 「そんなことは聞いておらん。さっさと積み上げる作業に戻らんか!」  その鬼の怒号にも、彼らは至って無反応。痺れを切らした鬼は、とうとう金棒を彼らの前で振り回す。 「何すんだよ、せっかく楽しんでたのにさ」 「うるさい!」  鬼はそうしてひとしきり金棒を振り回して、見張りの疲れが出たのか、息を切らして彼らの中に腰を下ろした。 「本当は、旦那もやりたいんじゃないの?」 「……まあ、少し興味はあるな」 「なら、俺らと一緒にちょっと遊ぼうぜ。見張りばっかで疲れただろ。鬼といえども、休みくらいはないとな」  鬼は、そんな彼らの誘いにお言葉甘えをするように、じゃあちょっとだけやってみようかな、とトランプカードを受け取った。  しかし、ババ抜きが再開されて、すぐにその勝負は中断した。何故なら、鬼が全くルールを知らなかったからである。 「なんだよ、ババ抜きのルールも知らねえのかよ」 「す、すまん、初めてやることなもんでな」 「まったく、シケた鬼だぜ」  そんな彼らの早くどっか行けと言わんばかりの暗黙の圧によって、鬼は居た堪れなくなり、その場を後にした。  そんな様子の鬼を見て、一人の者が言った。 「これが本当のババ抜きだな」

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賽の河原

第10話「Wデイトはショッピング・モールで〜その後」

「それで、ハナはヒロのことが好きなの?」  えっ?と僕は康二の突然の質問に、思わず手に掴んでいたソフトアイスクリームを落っことしそうになる。おっととと、と慌ててその曲がりくねった先端を口先で受け止める。生乳の濃厚な甘美が口の中いっぱいに広がる。ワンダーファームというアイスクリームショップでさっき買ったもので、ちなみに当店の一番人気は、生チョコレートを使用した、モカ・ショコラというレギュラーメニューだった。  僕と康二は、トイレへと用を足しに行ったヒロとノリちゃんを待つ間、通路の中程にある円形の植物を囲んだベンチに座っていた。 「なんで急にそんなこと聞くの?」  僕が尋ねる。 「別に、なんでって言うこともないけど、ただ気になったからさ。それとも、聞いちゃダメだった?」  彼は少し、質問が悪かったかな、というように言う。その康二は、僕の目には以前の彼とは少し違って見えた。 「ううん、別に、そんなことないよ」  僕は半分ほどになったソフトクリームの山の残りを頬張る。 「そんなことはないんだけど……」 「そんなことはないんだけど、何?」  その康二の言葉に、僕は少し声を止めて息を吸う。 「なんか、やっぱり恥ずかしいなあ、と思って。そういうこと、他の人に話すっていうのが」  僕が言うと、康二はそっか、と特に何かを更に問い正すことなく、僕から視線を逸らして、目の前の通路を歩いて行く客の姿や、軒を連ねて華々しくライトアップされた店舗の外観を眺めて言った。 「でも、そういう康二は、恥ずかしかったりしないの?」 「ん、何が?」  僕が聞いてみると、康二は再び僕の方を振り向く。 「何がって、ほら、自分の好きな人のこととか話したりするの、だよ」  すると康二は、きっとノリちゃんの姿を思い浮かべているんだろう。あー、そうだなあ、と頭上を束の間に仰ぐ。 「俺は、そういうのはないな。だって、自信満々に言えるもん。自分が、彼女の事が好きだって」 「彼女っていうのは、ノリちゃんのこと?」 「そりゃそうだよ」  康二は笑いながら言う。 「他に誰がいるっていうんだよ」 「もしかしたら、僕のことも好きになっちゃって、とか」  僕はそんな事を言いながら、自分はいったい何を言っているんだろう、とふと我に返って気を取り直しにコーンを齧る。 「もちろん、俺はハナの事も好きだよ」  康二はそう言うと、だけど、と続ける。 「それはあくまで、友達、としての間柄の事だし、恋とか、そういうのとはまた別だと思うんだよね」 「まあ、それはそうだろうけど」  でも、と康二は僕の目を見る。 「俺はそんな、友達としてのハナを、とても大切なクラスメイトだと思ってる」  僕はコーンを齧るのをやめて、康二の言葉に耳を傾けた。 「人間として愛しているし、そこには、紛らわしい感情とかはないと思うんだ。ノリカと俺との仲にあるのとは違う、別の種類の大切な気持ちがね」  僕はその彼の言葉に、凄く納得していた。その言葉の重みが、口内でアイスクリームが溶けてゆく感触と温度とともに、優しく僕の意識を包み込む。そんな気がした。 「でも、それは悪い事じゃない。むしろ、良いことなんだ」 「うん、それは僕も分かってるよ」  僕はそう言って残りのコーンを口の中に放り投げて、それを噛み砕きながら、康二を見つめた。康二もまた僕の顔を見つめていた。 「ハナって、可愛い顔してるよな」 「それって口説いてんの?」  僕が笑いながら言うと、そんなわけないだろ、と康二は誤解の招かれないようにと首を横な振りながら答える。 「愛らしい顔をしてる、って事」 「ありがとう」  僕は言って、でも、なんだかさ、と目の前を通り歩き過ぎる、親子連れに目をやりながら続ける。 「そんな風に何回も褒められると、なんだかそのうちに死んじゃうような気がしてくるよ」 「何言ってんだよ」  康二はやめろよ、と言う。冗談だって、と僕が笑う。 「でも、死んだとしても、それなら幽霊になってまた会いにくるよ」 「ハナは、幽霊になるのかな?」  康二の言葉に、どうなんだろ、わかんない、と僕は笑って彼を見つめた。 「それで、話は戻るんだけどさ」  康二は改めたように僕を見て言う。二人はまだトイレから戻っては来ない。 「ハナは、ヒロのことが好きなの?」  そこには、僕を馬鹿にするような気配が少しもなく、ただ純粋にその質問に対する僕の答えを聞きたがっているように思えた。 「うん、好きだよ」  僕は答える。 「それは、恋人関係になりたい相手として?それとも、ただの友達として?」  その工事の言葉に、僕はわからない、と首を振る。 「今はまだ、はっきりとはわからないんだ」 「そうなんだ」  康二は残念そうでもなく、呟く。 「でも」  僕は続ける。 「これだけは言えるんだけど、僕は、きっといつか、ヒロの事を本当の意味で好きになれそうな気がするんだ」  僕が言うと、本当の意味で?と康二が尋ねる。 「そう。そしてそれは、そんなに遠くない、近い未来のうちに。いつかはわからないけど」  康二はそんな僕の言葉を不思議そうに耳に入れながらも、何か声を挟むようなことはしないで、静かに黙ったまま僕の話を聞いていた。 「僕、ヒロの事を初めて見たとき、優しい目つきをしているな、って思ったの」  自分の事をしっかりと守ってくれそうな目つき、彼はそんな目つきをしていた。僕はそのヒロの眼差しを未だに忘れられない。僕は彼に、父親のような安心感さえ覚えていた。 「確かにな」  康二はそう呟くと、少しの間手元や周囲の通りに目を渡らせながら言葉を途切れさせる。そしてまた言葉を続けた。 「アイツは、とても良い目をしている、と俺はヒロの友人を代表して確信してる」 「コージも?」  僕はその言葉通り自信満々に主張をする康二を見やりながら、彼が次に何を言うのかを待った。 「アイツは、少し不器用なところはあるかもだけど、それでも、ちゃんと一人の人間として人間らしく生きて行く力や意志がある、魅力的なやつなんだ」  康二のその言葉は、とても力強く、ヒロの事を肯定するものだったけど、同時に僕や彼自身のことを肯定するもののようにも聞こえた。 「とにかく、ハナ」 「何?」 「俺からも、ヒロの事、よろしく頼むよ」  康二がそう言ったとき、丁度トイレの出入り口からヒロとノリちゃんの姿が現れた。おーい、と席を立った康二が二人に手を振る。 「遅かったな」 「ごめーん、ちょっとセットアップしてて」  ノリちゃんがそう言うと、康二はヒロの方を見て、お前までセットアップしてたんか?と笑って彼の肩をつつく。んなわけないだろーが、とヒロが康二の背中を軽く叩いてツッコミを入れる。  僕はそしてそんな、僕含め四人の仲良し組の合流に胸の暖かみを覚え感じながら、ゆっくりと席を立ち上がった。通路の周辺では、ショッピング・モールの館内中を、楽しげな足音や忙し気な足音で飾りをつけるように人々は僕達の周りを囲み歩いて、往来を繰り返していた。

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第10話「Wデイトはショッピング・モールで〜その後」

 二◯XX年、十二月三十日ーー  ハルキは連れて帰った少女を暖炉の前のソファの上に寝かせて、すぐに暖炉の火を焚いた。少女の身体には厚手のブランケットを掛けてあげた。  火がつき始めた暖炉はパチパチと音を立てて、次第にやがて紅みが募りだしていく。薪割りによって出来た木材達が燃えていく音だ。ハルキはその音がとても好きだった。彼の愛聴する、ヴェルベット・アンダーグラウンドの楽曲と双璧、若しくは匹敵を成すくらいに。  暖炉が燃え、その温度が徐々に昇りゆく内に、ハルキはキッチンに向かい、調理台の前に立った。ソファでは少女が拾った時と同様、寝息を静かに立てて眠っている。ブランケットが彼女の小さく華奢な身体を包み、その姿形に覆い被さる。果たして、彼女の身体の体温は、無事に元通りに戻るのだろうか、ハルキはそんなことを案じながら、調理台での作業を始めた。湯を張った取っ手付きの鉄鍋をコンロの上に置き火を付けて、中に切った野菜のへたや皮や種や芯などの、可食部の余りの部分を次々に入れて煮込む。ありったけの種類のその余り部分を入れ終えると、ハルキはこれもまた彼の心を落ち着かせる、そのコンロの着火により生み出される加熱音に外を一日中歩き回った疲れを癒すべく、胸の重みを委ねた。  少女の身体を背負ったまま玄関から家の中に入る際、玄関の周囲には、まさに冬らしさの表れといった具合に、氷柱や雪が降り積もっていた。今朝から絶え間なく吹き荒ぶ、大雪の冷たく吹く寒崩(かなだ)の作り出した光景だった。それは木造建築のこの林森中の一軒家の玄関扉に白く纏わりつき、固着して装飾をいかにも冷たげに施している。ハルキは、背中に少女のそれほど重くはないけれど、決して疲れた身体に楽々と背負えるほどの軽さでもない体重を両肩や腰部や手足に感じながらも、溜息を冷たく肌寒く吐き出しながら、凍り付くような玄関扉のドアノブを何とか回して抉じ開けた。もちろん鍵は付いていて、扉は帰宅を終えた玄関先の立ち姿からみて外向けに開く構造だった。  扉が開くと、軋んだ音とともに、屋根の先端に積もった雪達が僅かな量でもって滑り出してて地面に落下した。大きな音は立たずに、仄かに雪の落下地点から、白い粉雪が舞うくらいだった。地面は漏れなく一帯が視界の開ける全貌に白銀の園が偶然にも空の月星の煌めく発光を仄暗く受け取って飲み込んでいる。  玄関扉を潜り通って家の中に入って、ハルキは暗闇の中の壁の電灯スイッチを押した。瞬く間に部屋は明るくなり、靴の脱ぎ着場が照らされて、何足かの靴が姿を現す。それらは各々の形を成していて、きっちりと二足離れる事なく揃って縦に並んでいるものもあれば、片方がどこかに追いやられているように姿を消して、逸れた恋人か夫婦同士の哀しき末路のようになってしまっているもの、そして単に八の字か、く、の字のように片方が斜めっているだけのもの等、十色の模様をつくり見せていた。ハルキはその足元の景色を見て、ふと、それぞれの想いを馳せ描く希望の光かも絶望の闇かも分からない未来に向かっていく人生の中で、個々の正解の知る由もなくただ今を無力ながらに信じて歩き出して、それ故に誰かとの食い違いや意見の分裂が生じてしまい、不本意にも誰や彼かとの別れに至ってしまった人間達の社会の構図のようだな、と何となく考えた。  ハルキは背中の彼女の身体を落とさぬように足を屈めてその身体を安定させて、自分の靴をゆっくりと脱ぐ。両足の膝から上や下に感じる痛みを堪えながらも、丁寧にブーツの紐を解いたり、指先が引っ掛かったりしないように気を付ける。紐が絡まるのは、今は避けたかった。  そうして靴をようやく脱ぐと、ハルキはもう一度背中の彼女の身体をしっかり背負い抱え上げたまま、部屋の中へと入っていく。廊下を抜けると、通路はそのまま道なりに真っ直ぐ、広い今へと続いている。今には、暖炉があった。暖炉は煉瓦造りで、かつての持ち主が拵えたものだった。というのは、この家はハルキの元々の持ち家ではなく、以前には建築者であり家主であった人物が存在して、その人物から訳あって譲れ受けたものだった。その人物は、以前までは覚えていたのだけど、ある日を境に突然、どのような人物像であったのかが果たして一向に思い出せなくなってしまったのだった。それが何故であるか、ハルキには見当もつかない。何故なら、その記憶喪失的欠落現象は、突如として彼の身に降りかかった物事だったからである。夜に眠りに就いて夢に入り込んでいき意識が途切れる瞬間、又は朝方に目が覚める時の、夢から現実世界へと引き戻される無意識下の頭が鮮明に近づく瞼の開くまでのぼやけた霧や靄がかった半覚醒の時に身体が半ば眠りの状態のままで感じ取るような感覚に似て他ならなかった。とにかくそんな事があり、ハルキは結してこの家に移り住んだのであった。  居間にたどり着くまでの廊下の道のりの中で、左右に在する壁の内には、いくつかの部屋に繋がるいくつかの扉がある。しかし、今の彼には、その何れの部屋にしても、特に用はなく、ましてやこの家に初めて訪れた、いや、連れて来られたと言った方がいいだろう、彼の背中にしがみつく少女にだって用はないだろう。ハルキはそのままの彼女を背負った格好のままで、取り敢えず物が床やテーブルに置き散らかっていないのを確認すると、背中から少女を下ろし、真っ黒な煉瓦造りの暖炉の前に設け置かれた柔らかな材質の色褪せる兆候のあるソファに彼女の冷たく凍え切った身体を寝かせる用意に入った。

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第9話その③「Wデイトはショッピング・モールで(フードコート編)」

「ねえ、ヒロはどっちがいいと思う?」  四人での合流の儀を済ませ、俺達は買い物を再開する。モール内二階の百円ショップで、俺は康二、典香達と別れて、花菜の買い物に付き合っていた。 「うーん、どっちも似合うと思うけど。まあでも、ハナは黄色の方がいいんじゃなかな」  花菜ってなんだか、向日葵みたいだし。俺は胸の中でそう思った。花菜は両手に何種類かの色違いの髪飾りを乗せて、見比べ眺めている。 「そーかなあ……うーん、実に悩ましい……」  そう言うと花菜はやはり、また百円均一の路頭に迷うのだった。さっき見かけた時に悩んでいたのは、この事だったんだろう。 「そんなに迷うんだったら、全部買っちゃったらいいんじゃないの?」  俺が言うと、分かってないなあヒロは、と花菜は人差し指をメトロノームのように振ってチッチッ、と舌を鳴らす。 「こういうのは、これぞ!っていうのを決めるべきなんだよ。いくら全部欲しいからって、それじゃただのあれもこれも、ってわがままな女になっちゃうじゃん?」  花菜はそんな彼女流買い物のこだわりを俺に打ち明けて、三色のピンク、イエロー、水色の髪飾りのうち、イエローと水色を手元に残した。 「でも、全部百円なんだから、別に買えばいいのに」  このワンコインズという店は、全国展開している100円均一の日用雑貨を扱うチェーン店で、子犬のキャラクターのロゴデザインが特徴的な店だった。俺も時々買い物に訪れることがあるのだけど、昨今は物価高の影響があってか、百円に限らず五百円までと、幅広い価格を提供している。 「うーん……」  俺は未だに買うものを決めあぐねる花菜を見つめて待つ。かれこれもう数十分はおそらく経っているであろう。 (…………長いなあ)  俺はそう思い、チラリとふと康二と典香のお買い物風景を見やる。彼らはどんどんと店内を回り歩いては、人混みをかき分けて様々なコーナーを渡り歩いていた。何やら買い物かごの中には、なかなかの数の商品が入れられている。一方、こちらでは。 「うーん…………」 「……………………」  俺はその花菜の優柔不断さに、やれやれ、と思わず頭を掻く。しかし、俺はこの時間が別に嫌いではなく、むしろこれはこれでいいな、と思うくらいだった。そもそもこのショッピング・モールに出掛けて来たのだって、特に何か理由があるわけでもないし、ただの日曜日真っ昼間の暇つぶしでしかないのであり、何かを急ぐことも別にないのだった。それに、花菜とこうして顔を合わせるのは学校以来であり、俺は心のどこかで、花菜にどこかで会えないかな、と何となしに無意識のうちに週末の日頃に考えていたことも事実で、このシチュエーションが心地よくさえあった。そんな俺の(決して下心ではない)花菜に対する思い募りが功をなしてか、今日奇しくもこうして偶然な出会いを果たすことになったんじゃないだろうか。 「よし、決めた!」  俺がそんなことを待ち時間に考えていると、花菜は大きく頷いて声を上げる。 「それで、何色にしたんだ?」 「全部、買っちゃおーっと」  花菜はそう言うと、三色のみならず他の数種類の髪飾りを手に抱えると、嬉しそうに浮き足立ってレジカウンターの方へと向かっていった。 「…………」  俺はそんな彼女の後ろ姿を見て、さっきの時間は何だったんだろうと溜め息をついたが、それでもその花菜の気ままさゆえの愛らしさを感じて、やれやれ、と思わず頬を綻ばせた。レジ前に並ぶ花菜の手元には、豪華七色の虹の様なカラーバリエーションの髪飾りが束ねられていた。 「ハナは、こういう所でアクセサリーとか買うの?」  康二と典香を置いて先に花菜と店を出た後、俺は花菜にふと聞いた。 「そう決めてるわけじゃないけど、別にアクセサリーの店じゃなくても買えるし」  それに、この店のがお手頃じゃん、学生達の味方には強いよ、と花菜は早速買ったばかりの髪飾りを手にくじ棒のように掴み込む。 「ヒロ、僕に付けて欲しいやつ、この中から選んで」 「え、俺が選ぶの?」  うん、お願いと花菜は俺の顔を見やる。俺はさっきの買い物でもきっと花菜に一番似合うと思った、黄色い髪飾りを果たして指で示した。 「俺はこれがいいと思うな」 「わかった。じゃ、付けるね」  花菜はそう言うと、他の髪飾りを仕舞って、俺の選んだ黄色のものを徐に髪の毛へとセットした。すると、花菜の鳶色の艶のある頭上に、円み掛かった曲線の黄色い彩りが加わって、俺はその彼女の立ち姿を眺めて、不意にドキリとした。 「どう、似合う?」 「うん、すごく似合ってるよ」  俺が感想を言うと、花菜は、ほんと?やったー!とこの上なく嬉しそうに飛び跳ねる。 「あ、それ、今流行ってるやつだよね」  店から出て来た典香が花菜の頭の髪飾りを見て典香が言う。え、そうなの?と女子の流行に毎度敏感な俺と康二が女子二人組を見やる。 「そうよ、男子と違って女子はお洒落カイジューなんだから」  典香はそう言うと、花菜に目配せをして、ね、とウインク。花菜も、もっちろーん、とターン&ポーズをキメる。俺は彼女の言うそのお洒落カイジューのなんたるかがよく分からなかったけど、とりあえずトレンドのファッション・コーデに身を包んだティラノサウルスの姿を思い浮かべた。 「女の子は買い物が好きだし、男の子は食べるのが好きって、昔から決まってるでしょ?」 「それって、ノリカの偏見だと思うけど」  俺が言うと、まあ確かに私も食べるのは好きだけどね、と花菜と一緒に笑っていた。ははは、と康二が典香と自分二人分の買い物袋に目線を落とす。当カップルがいつもやっているという、買い物ジャンケンに儚くも敗れたのだろう、と俺は彼を見て思った。  しかしながら、目の前のお洒落をした花菜は、カイジューというよりは、人懐っこいイヌかネコのようだと例えるほうが合っている気がした。俺は再び花菜のその愛らしいコーデに目を向けやる。 「ヒロ、どうしたの?」  俺の見つめる視線に気付いた花菜が言う。俺は別に、何でもない、と頬に熱を仄かに浮かべて目を逸らした。 「それより、ノリカ達は何買ったんだ?」  俺が二人に聞くと、康二と典香はジャーン、と買い物袋の中身から同じ商品を取り出した。 「貯金箱?」 「そう、ちょうど欲しかったんだよねー」  典香はそう言ってラメ・カラーのイマドキなデザインの貯金箱を見せてくる。やっぱり典香はどこまでも女子だな、と俺は思った。 「コージも買ったのか」 「俺もノリカが買うの見て、どうせだから買っておこうと思ってさ」 「もしかして、新婚旅行の資金でも貯めるのか?」  俺がからかい気味に二人に言うと、そうだよ、と康二が自慢げに言う。 「俺達、新婚旅行は宇宙にい行こうと思ってるから」  そんな風に嘘とも本気ともつかぬ顔で答える康二を見て、何だよそれ、と俺は笑いながら突っ込んだ。その傍、典香と花菜は女子界隈のファッション・トークで愉しげに盛り上がっている様子だった。  その後も、俺達はいくつかの店舗を歩き回って買い物をしたり物色をしたりして、事実小より奇なWデートを目一杯に楽しんだ。  そうするうちに時刻はやがてまもなく正午を指す頃になり、俺達は訪れる空腹を満たすべく三階に設けられたフードコートに向かった。  俺と康二はランチプレートのビーフステーキを、花菜と典香はスパゲティをそれぞれ注文して皆んなで一通り他愛無い会話とともに昼食を楽しんでいた。  ーーその時、事件は起こったーー 「そういえば、ハナちゃんさあ、この前ヒロとどこに行ってたの?」  その典香の何気ない言葉を耳にして、俺と康二は笑いながら口にしていたステーキを食べる仕草を、ピタリ、と止めた。 「この前って?」 「ほら、放課後に、どっか行ってたんでしょ?」  典香の質問に、花菜はようやく思い出したように、あ、そうそう、と手鎚を打つ。 「ヒロと一緒に、羽毛山に幽霊を探しに行ってたの」  まずい、と思ったのは俺だけではないはず。と康二の方を見ると、案の定彼も同様にまずい、と感じている顔を浮かべていた。  俺はふと典香を見る。彼女はしばらくの間、何も発さず、微動だにしなかった。  ーーあれ、もしかして、大丈夫そうか?  と安堵したのも束の間、やがて答えの意味を理解した典香は和やか気な表情から一変、えええーーーっ、と悲鳴を発した。 「ゆ、ゆゆゆ、幽霊ですってえええ!?」  その彼女の声に、フードコート内の数人が俺たちの座る席を振り向く。何事か、といった顔つきである。 「ど、どうしたのノリちゃん?」  ムンクの叫びのようなジェスチャーをする典香に、花菜が尋ねる。俺は花菜に、典香が大の付く幽霊嫌いである事を教えたことがなく、当然、花菜は彼女のその事実を知る由もなく、よって花菜から典香へと幽霊探検についての話題を打ち明けられるのを食い止めるのは不可能だったといえた。 「ねえ、ヒロ、ノリちゃんどうしたの?」  花菜は横で物怖さに固まってしまった姿勢の典香を見ながら俺に聞いてくる。 「実は、ノリカは幽霊がすごい苦手なんだ」 「え、そうだったの?」  花菜は、まるで信じられない、とでもいうような反応で言う。それもそのはず、彼女は幽霊を視ることができる第一人者なのだから、そんな次元の感性ではないんだろう。 「ご、ごめん、ノリちゃん。そんなこと知らなくて」  花菜がそう慌てて取り繕うと、典香は自分の失態が彼女に知られたと思い我に帰ったのか、すぐさまいつもの明るい女子気質然とした振る舞いをしようと姿勢を正した。 「べ、別に、大丈夫よ。ちょっと、寒気がしただけ、だから……」  その典香の表情は明らかに動揺している。そして俺の方を向くと、ヒロ、幽霊、み、視たの?と震える声で言ってきた。 「いや、ヒロはまだ視てないんだってさ」  康二が話題を変えようと、それよりさ、と口にしようとした瞬間、典香の強気な部分が出たのか、私さ、と表情を平常に保とうとしていた。 「ちゃんと、幽霊とか、そういうの、克服したんだから。この前だって、ナイトメア・ビフォアクリスマス観てたし」  それって果たして克服したと言えるんだろうか?と俺は心で呟きながら、作内キャラクターのジャックやサリーの姿を思い浮かべる。 「でも、あれって別に怖くなくない?」  康二のその言葉に、うるさいわね、アンタ達とは違うのよ、と典香は膝小僧を震わせながら声を上げる。おい、康二、油を注ぐなよ。 「ま、まあ、そもそも、幽霊なんて、信じてないけどね」  典香がそう言った途端、花菜の目つきが変わった。 「え、ノリちゃんは、幽霊信じてないの?」 「当たり前でしょ?あんな怖くて気味が悪いのなんて、想像しただけでも吐き気がしてくるもん」  典香は決して悪気はないのだろうが、そんな風に言うと、うえっ、と不快そうに舌を出す真似をした。 「……」  花菜はすると俯いて、言葉を失くす。 「ハナ?」  俺が言うと、花菜は突然目をキッ、と尖らせて、その場に立ち上がった。 「そこまで言うことないでしょ?ましてや幽霊を信じたことも視たこともないくせしてさ」  その花菜の顔つきは、今日まで見たことがないくらいに怒り震え立っていた。どうしたのハナ?と語りかけるコージの声も届かないようだった。 「何よ、ハナちゃんこそ、幽霊が視えるなんて、本気で言ってるの?」  典香も立ち上がって花菜に対抗する。 「もちろん、視えるよ。人間みたいに、いろんな所にいるんだ」 「馬鹿みたい、そんなことあるわけないでしょ?それにいたとしても」  典香はそこでの言葉を区切って、息を吸った。 「幽霊なんて、恨みとか辛みを持ったまま死んだ人の怨念の存在でしょ?あー、怖い怖い」 「そんなことないって!」  花菜はバンッ、とテーブルに手の平を打ちつける。 「そんなこと言わないでよ、幽霊だって、悪い人ばっかりじゃないんだからさあ!」 「それでも、怖いものは怖いのっ!」  更に白熱する二人の口論。それを見兼ねてか、康二がそうだ、と手を叩いて二人の注意を引いた。 「まだ、お腹空いてるよね?だったらさ、取り敢えず落ち着いて何か他の食べようよ。ハナは、たこ焼きとか好き?」 「え、たこ焼き?私、たこ焼き大好き!」  花菜はそう言って典香に対する怒りを忘れたように笑顔を浮かべる。 「じゃあ、買いに行こうよ。それなら、皆んなで食べれるし……って、あっ、しまった」  康二はそう言って口を手で塞ぐ。すると典香の顔が再び青ざめて、彼女は幽霊の、話題の時同様の悲鳴を上げた。 「タ、タタタ、たこ焼きですってえ!?」  典香はまるで再放送が如くムンクの叫びのようなポーズを取る。どうしたの?と流石に花菜も再び動揺。 「ノリカは、幽霊の次にたこ焼きが嫌いなんだ」  すっかり忘れてたあー!と康二は自分の失態に頭を抱える。それを聞いて、俺は以前にいつか康二から聞いた典香のタコ嫌いエピソードをふと思い出した。典香は遠足の水族館では目を瞑ってタコのいる水槽の目の前を歩っていたというくらいの事なのだそうだった。 「あら、それは良かったわね!じゃあヒロ、コージ、一緒にたこ焼き買いに行こっ」  花菜は、そこで典香に対する怒りを思い出したのか、彼女を置き去るようにして、俺と康二とたこ焼き売り場に向かおうとした。 「ちょっと、私だけ置いて行く気?」 「そーよ、だってノリちゃん、たこ焼き食べれないんでしょ?」 「馬鹿にしてるでしょ?あー、ホントこの女ムカつく」  典香は私も買いに行く、と俺達の後に立って続いた。 「でも、まさかたこ焼きが食べられない人なんて、いるんだねえ」  花菜は典香を小馬鹿にするように言う。 「日本の文化圏を代表する、関西のソウルフードなのに」  花菜はまるでかつて以前に自分がたこ焼きの発祥地に住んでいたことがあるのだとでもいうような口ぶりで言う。いや、でももしかすると、花菜と初めて会った日に、彼女は確かエセ関西弁のノリツッコミをしていたことがあったから、住んでいたというのは、あながち間違いじゃないかもなと俺はひとり思った。いや、そんなことは今どうでもいい。 「ちょっと、いい加減にしなさいよっ!」  俺達がたこ焼き売り場の前に着くと、典香と花菜は向き合って再び言い争いを巡る体勢をとって、女子の恐るべく口頭対決が開戦してしまったのだった。  ーーと、いうわけで、話は早くも前々回の冒頭の二人の口論に繋がる、というわけだった。それでは、その続きをどうぞ。 「イカの沖漬け、イカ刺し、ゲソ盛り、スルメの七輪炙り、イカ飯、イカフライ、イカ墨パスタにホタルイカにアオリイカ…」  「いやああーっ、そのっ、忌々しい名前をやめてえーっ」  典香のこれでもかというイカイカとした軟体生物三昧の羅列に、花菜は頭を抱えて床に跪く。なんだこれ。今にも魚介類の戦争が始まりそうな雰囲気…というわけではないけど。今の状況を説明するに、典香のタコ嫌いという事実に続いて、かたや花菜の方はというと、イカが嫌いという事実が明らかになった。タコもイカも普通に好きな俺からすると、何がそんな好み違いを生み出すのか、全くもって不可解だった。しかし、どっちも別に変わらないだろ、という俺の言葉を二人の言い合いに入れ込む隙は無さそうだった。 「タコなんて、宇宙人みたいで気持ち悪いだけじゃん。それに、変な吸盤だってあるし」  典香はとうとう幽霊についての話題さえも忘れて、ついに軟体生物に対する嫌悪を言及する。不意に宇宙人を貶されて悲しげな表情を浮かべる康二を他所に。 「そんなこと言ったら、イカだってヌルヌルしてて変にテカテカしてて、それこそ気持ち悪いじゃんっ」 「何ですってこのタコ女!」 「何よ、このイカ女!」 「タコ野郎!」 「イカ野郎!」  怒れる女と称すべく彼女達はとうとうそんな風に文字面だけではどちらがどちらに対する罵倒とも読み取りし難い言い合いを更に白熱させて、やがて言い合いの方向性は留まるところを失ったようだった。きのこの山派かたけのこの山派かであるとか、または鯛焼きの食べる順番であるとか、ショートケーキのイチゴを味わうタイミングであるとか、そんな雑多にも程がある議論が彼女達の間に渦を巻き起こしていた。  そうだ、と再び手を叩いて彼女達の意識を引き付けたのは、他の誰でもない、康二だった。彼はあのさ、と俺達の顔を見回す。 「気分転換に、皆んなでプリクラでも撮らない?」  え、と俺と怒れる女子達はその唐突の提案に思わず呆然とする。何を言っているんだ、と俺は思わず言いそうになった。 「ほら、こんな風に四人でどこかに出掛ける機会なんて滅多にないだろうし、せっかく集まったんだから、今日の記念に撮って帰ろうよ」  ね、どうかな?と俺達三人に視線を送る康二に、確かに、いいなそれ、と俺は賛同する。 「皆んなで、プリクラ撮りに行こっか」 「そうだろ?やっぱりヒロ、わかってるなあ」  康二は俺の協力に安堵したのか、少し力が抜けたように、それじゃゲーセン行こうぜ、とフードコートの反対側にあるゲームセンターのコーナーに俺達を誘導すべく歩き出した。俺はそんな康二の気遣いが少し心苦しくなったが、やっぱり康二、デキる奴だぜ、と俺は彼のグッジョブな助け舟に胸の中で賛礼を贈る。 「ハナとノリカも、ほら、行こうぜ」  俺の声に、ついその前まで互いに一歩も譲らず、引けも取らぬといった口頭接戦を繰り広げていた彼女達も、ふんっ、と各々の顔を面白く無さそうに背くようにしながらも、俺の後を一緒に付いてきた。  ゲームセンターに着いて、俺達はかくしてプリント倶楽部での撮影を行った。略してプリクラと呼ばれるそのカルチャーは、遡る時代は平成をその全盛期として名を馳せはじめた名文化であり、今もなお時を越えて女子高生や若者のカップル達に人気を誇る存在として日本国内に受け継がれているものである。だけど俺は実を言えばかくいう自分も若者といえど、プリクラを撮るのは今日が人生初めてということだった。康二に言わせれば、プリクラ童貞、といったところだろうか。  筐体内に流れるアナウンスの掛け声に合わせて、俺と康二は不貞腐れる表情を一貫する花菜や典香を背景に、各自自由極まりないポーズや変顔を繰り返して、シールのサムネイルとなる写真撮影を行った。そして撮影を終えた最後には、画面に映し出された写真の画像に、デコレーションやエフェクト加工、タッチペンで落書きなどをこれまた好きなように描き散らかす。  俺達はそしてプリクラの筐体の外に出て、印刷の完了して取り出し口から送り出されるシールの写真を手に取って眺めて、生まれる沈黙に浸る。 「…………」  長い沈黙の後、ぷっ、と声を漏らしたのは康二だった。 「ぶあっはっはっはっはあっ、なんだよヒロ、お前の顔っ!」  康二はそう言って写真に映る俺ラクガキの施した変顔を指さして笑い転げる。その笑いは演技やわざとらしさは全くなく、本当に可笑しくて笑っているのだということがよく伝わる笑い方だった。 「……ふふっ、ぶっははっ、はははっ」  そんな康二につられて、俺もやがて笑い出す。そういうお前こそ、酷い顔してんなあ!と俺は康二のこれまたラクガキ&変顔を眺めて指差す。 「……ふっ、ふははっ」 「ふふふふっ、あははっ」  そして俺と康二の笑いの発端が連鎖を生んだのか、背後で不貞腐れていた典香と花菜もついに我慢が効かなくなった様子で、二人一緒につられて笑い出した。 「あっははははっ」  途端に、ゲームセンターのプリクラ前の一帯が、俺達四人の笑いの渦に包まれる。その笑いはしばらく続いて、俺達は息が出来なくなるくらい、腹筋が砕け散りそうになるくらいに一斉に笑い転げたのだった。 「……さっきはゴメンね、ハナちゃん。あんな風なことまで言っちゃって」 「ううん、こっちこごめん。私、ノリちゃんの気持ち全然分かってなかった」  ゲームセンターを出た俺と康二の背後で、怒れる女子だった典香と花菜の二人は、すっかりその熱を穏やかに冷まし、いつも通りの仲良しの関係に戻っていた。彼女達は手を繋いで、互いの至らなさや悪口を反省しながらも、微笑みながら歩いている。 「でも、お互いの良いところや悪いところを、図らずとも知れたってのは、良かったわよね」  典香がそんな風に言うと、花菜も確かにそうだね、と頷く。 「おっ、やっぱりノリカは物の考え方がポジティブでいいなあ。俺の見込んだ女子だけあるよ」  康二が嬉しそうに言うと、コージは何も関係ないでしょ、と言いかけたのだろう典香を見かねて、花菜がノリちゃん、と声を掛ける。 「……コージ」 「ん、何?」 「……さっきは、ありがとう。その、プリクラ、撮ってくれて」  その典香の言葉に、うん、とだけ答えると、康二はそれ以上何も言わずに俺の横を歩いた。その彼の態度を見た瞬間、俺は康二と典香の恋仲にある所以の理由を理解できたように思えた。この二人だからこそ、巡り会えたのだというその理由が、今の二人の会話の中には紛れもなく存在するような気がした。俺はそして二人の言葉を介さない愛情の幸せを横目に噛み締めながら、黙々と足を進めた。 「……ヒロ」 「なんだコージ?」  俺は康二の方を見やる。 「ヒロも、ありがとな」  俺はその康二の礼に照れ臭ながらも笑みを溢して、礼を言うのはこっちの方だよ、と彼に聞こえるように言った。 「それにしても、二人がまさかあんなに喧嘩を始めるなんてなあ。想像もつかなかったから、びっくりしたよ」  帰りの下り電車が到着するまでの時間を待つ間、康二は車両乗車駅のホームの椅子に座りそう言うと、隣に座る典香と花菜の顔を交互に見た。 「俺もだよ、花菜があんな顔するなんて」 「そんな、やだっ、ヒロにはしたないところ見られちゃったなんて……」  花菜はすると麗若き少女の如く両手を頬に当てると、恥ずかしそうに俺をチラリと見る。 「私だって、驚いたわよ」  典香も花菜の方を見て言う。 「ハナちゃんて、もっと穏やかでおとなしい子なのかと思ってたら、すっかり印象が変わっちゃったわよ」 「でも、それがいいんじゃない。人間らしくてさ。そういう、誰かの思いもよらない一面を垣間見るのが、生きてる人達の生活の醍醐味だったりするものなんだから、ね?」  花菜がそう言うと、ハナ、良いこと言うなあ、と康二が頷く。典香も、確かにその通りかもね、と賛同する。俺も、そうだな、と花菜を見やって彼女の答えに納得した。 「でも、"さっきみたいな話"は、私の前ではもうしないでね」  典香のその忠告に、俺と他二人は、わかった、と揃って頷く。彼女の声には仄かな圧があった。 「でもまあ、喧嘩するほど仲がいいっていうしな」  康二はそんな、今まで一体どれほど使い回されたであろうそのお馴染みのフレーズを、決めてやったぜ、とでもいうドヤり顔で言うと、俺達の顔を見渡した。 「…………」 「……な、なんだよ、皆んなして急に黙って」  俺達が何も言わずにいて、バツが悪そうな康二に、ほんとにねえ、と典香が口を出す。 「こういう所さえなければ、もっといい男になれるんだけどねー」  なんだよノリカ、いいこと言っただろ?とせっかくの名ゼリフをあしらわれて残念そうな康二を尻目に、典香は花菜を見る。花菜もまた、そんな典香に倣って、ほんとコージってそういうところあるよねー、と笑いながら言っていた。そういうところってなんだよーっ、という康二の声が、目の前を通り過ぎる貨物列車の走行音によって虚しくかき消されていったのが、俺には堪らなく可笑しかった。 「でも、懐かしいよな。喧嘩って言えば、俺とヒロも昔に一度だけだけど、あったもんなあ。な、ヒロ?」 「え、そうだったっけ?」  俺は康二を見やる。えーそうなの?と典香と花菜が興味津々な様子で俺と康二を見つめる。 「なんだよ、ほら、あん時のさ、部活の時に喧嘩しただろ。珍しく翌日まで持ち越してさ。っていうか、お前から始まったんだろ」 「ごめんコージ、全然覚えてない」  俺はふとその時、微かな記憶の中にある康二とのかく喧嘩のその一体を思い出そうとして考え込んでみる。すると、やがてその光景は俺の脳裏に鮮明に浮かびあがった。  それは、俺と康二が互いの薦める小説を交換して読んでいた、部室でのある日のことだった。俺が康二の薦める小説を読んでいる途中、眠気が溜まっていたのか欠伸をあろうことか連発して、それを目に留めた康二は機嫌を悪くしたのだった。ヒロ、俺の選んだ本が面白くないのか?という具合に。当然俺は、そんなことないよ、と否定する。しかし実を言えばその本はあまり俺の好みと言える作品ではなく、どちらかと言えば読んでいて退屈とさえいえるものだった。それが眠気の退屈そうな態度によってバレてしまったのか、康二はもういい、と読んでいた本を閉じて、部室を出て行こうとしていた。俺は最も、誤解されたわけでもなく、然るにかといってつまらない作品を擁護することもできずに、彼を止めることができなかった。  すると康二はそれすらも面白くなかったのか、ヒロ、止めないのかよ、とメンヘラの如く俺を見やると、はあー、と大きな溜め息で俺への責任心を煽った。流石の俺もそんな康二にイラッときて、仕方ないだろ、面白くなかったんだから、と正直に感想を告げる。するとやはり想像するに容易で、俺達は束の間喧嘩となった。丁度さっきのフードコートでの典香と花菜みたいに。初めのうちこそ言い争うその内容は互いの薦めた作品に対する不満であったりしたのだけれど、そこはやはり俺達のこと。口論は脱線に脱線を重ねて、きのこたけのこ論争、イヌ派かネコ派か、ビーフorチキン、バストorヒップetc……といった全く関係のないものに変わり果てていったのだった。  そんな口論に疲れて、やがて、俺と康二は互いに口を聞かずにそのまま部室を後にして帰宅した。翌日まで、彼と何か連絡を取り合うこともなく、俺は翌日の朝を迎えた。  転機となったのはその朝の学校でのこと、眠気混じりに教室への廊下を歩いていると、向こうから何やら変な人影がやってくるのが目に入った。それはまさしく、昨日喧嘩別れをした康二だった。俺は初めのうちこそ、ムッとして挨拶しないで通り過ぎてやろうと思って顰め面で歩いた。多分康二も方もそんなつもりだったのだろう。しかし俺は彼とすれ違う際に顔を見合わせた瞬間、彼の頭の、ちょっと常識の範囲内では想像できないようなアンビリバボーな寝癖をしているのを目にした途端、思わずブハッ、と吹き出し笑いを起こしていた。 「……なんかしたのかよ」 「なんだよ、コージ、お前のその髪型!」  それに加えて康二がまたその髪型を自覚していないことも、俺を爆笑の渦に引き込んでいった。俺は康二にもその寝癖を確認させるべく、トイレの中に連れていった。 「……ぶっ、ブハハッ」  そして俺と康二は二人洗面所の前で、ひとしきり笑い転げた。そんな内に、俺と彼との間に絡まっていたしがらみも、いつの間にかすっかり消え去っていた。特に互いに謝ることはなかったが、そんな必要がないくらいに俺と康二は髪型を再度整えて、晴れ澄んだ陽射しの差し込む教室へと向かっていった。 「ーーってことがあって、それから俺と康二は今や大親友とも呼べるほどの仲良しになったってわけさ。なあ、ヒロ?」 「まあ、そうだな」  長いその思い出話を俺の脳内再生とともに語り継いでいた康二に俺は答える。 「いい話だったでしょ?」  康二が女子達の方をそう言って見やると、花菜はあろうことか吹き出していた。 「あっはは、可っ笑しー」 「何それ、変なのー」  キョトン顔の康二を置いて笑い転げる二人。 「やあねえ、男子って、そんなことで喧嘩するなんて」 「ねえ、子どもっぽいよねえ」  ねー、と二人はまるでついさっきのフードコートでの自分達が繰り広げた怒涛の論争をすっかり忘却の彼方へと葬り去ってしまったかのように、互いの顔を見やってクスクス笑う。俺と康二も顔を見合わせて、なんだこの人達、とでもいう同じ表情をつくったが、まあいいか、と彼女達の和気あいあいさが取り戻されたことに喜びを募った。 「まあだからとにかく、喧嘩するほど以下略ってのは、俺はあながち間違いじゃないと思うんだよな」 この四人がそれ物語っているし、と彼はそう言いうと、やはり嬉しげな顔で俺達のことを眺め回した。俺も確かに、康二の言う通りだろうな、と頷いた。彼の名言はこうして、実現に確かに、紛れもない事と証明されたのだから。 「確かに、その通りだね」  花菜はそう言うと康二から典香に視線を移すと、ねえノリちゃん、と彼女を呼んだ。 「こんな僕だけど、これからも、よろしくね」 「こっちこそ、よろしくね。ハナちゃん」  二人はそう言って暖かい笑みとともにふふ、と穏やかに笑った。康二もその様子を見て、微笑みを満たしていた。  俺もそんな彼らに拍手でも送りたい気分だったが、ポケットの中で鳴った着信音に気づいて、ごめん、ちょっと電話してくる、と三人の元を離れて電話に出た。相手はやはり母さんだった。 「ヒロ、そろそろ話してもいい?」 「いいよ。どうしたの?」 「今晩のメニュー、何がいいかな、って聞きたくて」  俺は母さんの声に、なんだそんなことか、と思わず笑ってしまう。 「早めに聞いとけば、買い忘れとかもないからさ」 「わかった、ありがとう。じゃあ……」  俺はそこで少し声を途切らせて、三人の方をチラリと見て続けた。 「今夜は、お好み焼きがいいかな。できれば、イカとかも入れて欲しいんだけど」 「あら、珍しいわね。今日は関西グルメの気分なの?」  母さんの笑う声に、まあね、と俺は待ち合い椅子で二人仲睦まじく会話を交わす花菜と典香に視線を向けて、答える。  じゃあね、と言って電話を切ると、俺は電車が来るまでのもうしばらくの間、かけがえのない友達三人の微笑ましい後ろ姿を眺めて、駅のホームに流れ漂う春の爛漫とした心地よい風を吸って線路越しに見える風景を包み込む空を仰いだ。  そして電車の到着まで後五分というアナウンスが聞こえて、俺は空いている待ち合い席に戻った。

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第9話その③「Wデイトはショッピング・モールで(フードコート編)」

会議を募るセラセネセンテルネウスの憂事、然るに月光は咬み殺しの蛇を呼び覚ます。

 薄暗ひ森の中、心臓部の第一宣言自在の香り。イングランドに東から攻め込めば太陽の昇りつねりを見渡す限りに石膏孵化黙示件。アブノーヴァーズは灰になって胚芽を完全に悪事目的に活用。決済は長期延期、不埒に踊るってよ、バークゥアウンテアーのシェフの独り叩き。そして、全知全能の民よ、無知盲目な神の決則に違抗するのも又良し。条件乱射に身を貪るな、危険の泉に飛び込んで、トランプタワーをハイジャックせよーーーーーーーーーー  セラセネセンテルネウスは国民一同を募り会議を開いた。実行委員長は勿論ハウバンパーその彼。司会進行役基書記秘書を務める。彼は実のところ不眠症であり、夜毎に目が覚める度に眼鏡を齧り砕け千切っては、その都度腹を下すと言う愚行に躍り出る日々この頃を送り届け参じていた。  ハウバンパーはかくして言った。スタディアムに火を付けましょう。金が必要です。そのためにはまず金が。それに付け加えてマッチ売りの狼男を生け捕りにするのです。確か、根掘り山とかいったかな、あん辺りにそいつは眠っとる。スケートボード選手の娘ですからね。赤羽を王子に受け売り渡しておりました。しかし死体はどうも有り難くない。気持ちのいいものではない今日この頃のお天気は、ビリヤードのち不倫の原罪。一人は二人でカリフォルニア・ロールを腹に詰め満たす。腸詰の工場はその後如何かな?  するとその質問に答えたのは、これまた肥満体質で鶏の頭をしている、クレンドリンというその彼だった。彼クレンドリンは答えた。金はきっと歩いてくる。心配ない。その件についてはロザリオの禁句区域の宿に住まう反響音の十人の親子から聞いた。彼らは並びに歯を無くしていた。その為、言葉は愚か、咽喉音すらも聞き取りづらい。ええい、忌々しい蜂栗の陰虚夢め。くすぐったいからといって屑籠には捨てるな。あたしは今晩も眠るまじ。アハハのオホホと化粧車両に乗り込む。ーーーーーーーーーーーーーそうだ、やはり、火を付けよう。そうしましょう!火を、葬り去るべくして現れたグレムリンの極悪な兄弟民族の元へと、放つのだあー!!!!!!!!!!えーえっ、いいぃぃぃーっ!!!!!火を付けよう、火を付けよう、火を付けようったら火を付けよう、あーらよっと。  会議はそんな感じで今宵も万事順調に進行されていた。当方二人に続き他の者達も次々と意見を発していった。その一部を見せると、あるものはストローク写真と和紙紙障子の因果関係について語り出し、あるものは雷のレコードデビュー作品のタイトルについて話しだし、そしてまたあるものは狸と狐のハイブリッド・クローンを計画するための資金調達について吹聴とすら思える成り様で意気揚々と熱弁を垂れていた。何一つ、悪い所はなかった。  しかし、国家代表そしてその身を国王と称するセラセネセンテルネウスは、やはり機嫌が悪く、ついに溜まりかねて激怒の唸りを叫んだ。ぐるおるあああーーーっ!!!!!何なんだああああああッッッッッッッッッッッッ!!!!!!  一同は驚きを隠せずに閑散。沈黙の嵐が訪れに訪れる。一人は落とし穴に落下。フリッパーの不知火パンケーキ焼成型に投獄される。  セラセネセンテルネウスは言った。おい、おいっ、おいっッッッッ、!!!!!フージャネルラはどうしたあ、あいつは何故いない!!!!!!まさか、サボっているわけでもあるまい。アイツの首には命令違反時に爆散するチョーカーをつけてある。それなのに何故、なんで、…………………………いなくなっちゃったのおーーーーーーーーーー????!!!???!!!!!〜〜〜???  うえええええええーーーええええーーーえええん!!!!!!ぶぐふうとどふおまももなとともねひけばまたばやほぶうふぇぇぇっ!!!!!  そう言ってはその度に泣き崩れるセラセネセンテルネウス第五百六十二世。これでもう何度目だろう。会議のたびに、彼はこうしてフージャネルラの失踪を嘆いては、雑草柱の鉛筆の鉄屑の子どもの如きに暴れ出すのだった。これでは金金金金金があればとはこのことなり、その実を深く追求すべく会議を一向に進められる手立てが浮かばない。しかし、いくら泣いた所で、セラセネセンテルネウスふも7mjng4ななほになはたつけ世の機嫌は、彼の愛すべき愛弟子フージャネルラの姿が戻るまでは治らないだろうtしよゆやju5○1ま569。  探せ!誰かが言った。誰だ!!!!!  そこに立っていたのは、首から下と上がないゴルジガンという老人だった。彼は委員達そして国民達に、フージャネルラの行方を探すべく命令をセラセネセンテルネウスに代わって仰いだ。それを受けて下衆の衆どもは、セラセネセンテルネウスからフージャネルラ発見に宛たってきっと貰えることだろう、賞金欲しさにフージャネルラの行方を追うべく、会議場を後にして一斉に駆け出し踏み出していった。やれやれ、全く卑しい奴等め。ゴルジガンはそう言って溜息を吐くと、束の間に七面鳥へと変化して、宙の彼方へと飛び去っていった。  ーーーそしてその様子を影から見ていたのは、他でもない、ロドリゲスその彼だった……………………………………………………………………………………。  一方で宛てのない咬合とした砂漠を一人練り歩くのは、幻覚状態に酩酊したストロヴェルプ。彼女は足を動かしながら、鼻歌を歌遊む。  〜〜〜〜〜ダッ、ダダダドドドドドドドダダダダダダドドドドドドドオオーーオオヤエーーンーーーーーーーーーー〜〜〜〜〜  荒野の彼方から見えるのはきっと、あの愛しき魔物だろう。それはいずれ川の底に眠る宝石に変わる。それはそして私の手に渡り、腹の中に収められる。その味はおそらくきっと虚無の味。虚無の中の虚無による虚無群生の虚無往生の嘔吐の鉄則的な無自覚な抗体議論のニヒリズム、そしてアナーキスト。然るに本来のままの味覚を堪能できるのでございませう。  竜の髪型は、春のお妃に似ておりまして、その傍に野原の具現構造のみかげられるおんちょうのひきだまりにさずかりしたうたかたのがくだんだんちょうしだいのしばいがかったきんせんかいかくのはくばりにてっしてっされたはかなきつたでをしめされたからがらのさなかにあてて………………………………………あれえ、なんだかあ、言葉がわからなくなってきちゃったわあん。私、このままならたぶん死ねるかも。あはは、よかった、よかったあああーーーー、うふふ、うふふふふーううん。じゃあきっとそれまで、この時間の無意味な交差点の哀しみの黄土道を歩いていくのがいいんだわね。うし、張り切って歩いていこおーっと。

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会議を募るセラセネセンテルネウスの憂事、然るに月光は咬み殺しの蛇を呼び覚ます。

告白

 俺はその日の夜、ある女性を呼び出した。待ち合わせ場所は月のよく見える丘の上だった。  その女性は、以前から俺が好きになっていた人で、今夜ついにその気持ちを告白しようと決意したのだった。 「ごめん、遅くなっちゃった。待った?」 「ううん、全然。大丈夫だよ」  俺はこちらに駆けてくる彼女を眺めて、鼓動を高鳴らせる。ついにこの時が来たのだ。 「それで、一体何の用なの?」 「あの、その……実は、俺」  俺はそこまで言葉を言いかけると、急に緊張が体に走るのを感じた。 「……何?」 「じ、実は、ずっと前から、き、君のこ、こと、が…………」  そして俺は目の前の彼女の顔を見やる。すると体の緊張感はさらに強まり、声が出なくなってしまった。  彼女も彼女で、俺がこんな様子でもその胸の内に勘付かない鈍い感性の持ち主らしく、かくして俺は是が非でも自分の口からやはり気持ちを伝えなくてはいけないのだった。だけど、肝心の、好きでした、の一言が言えない。それなら、どうすれば……。  その時、俺の頭に、ふと一つの言葉が思い浮かんだ。それは、月が綺麗ですね、という、夏目漱石が生み出した告白の言葉だった。よし、これなら言えるぞ、と俺は気を取り直して、もう一度彼女に告白をする決意をした。  「…つ、月が綺麗、ですね」  俺がそう言った時、気づけば空には満月が浮かんでいた。  すると、目の前の彼女の表情が突如変貌したかと思うと、彼女は獣のような顔つきになり、空に向かって、アオーン、という雄叫びを上げていた。

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告白

第9話その②「Wデイトはショッピング・モールで(花菜とばったり編)」

「そういえば、ヒロ、昨日ノリカと会ったんだって?」  電車がオフィス街の並木道側の線路を通過するときに康二が言った。 「そう、買い物の途中で見掛けてさ」 「ほんとに珍しいよね。あんな所で会うなんて」  典香の言うとおり、確かに俺と彼女が学校外で会うのは珍しかった。典香は基本、必要な品物は家に直送してもらうことがほとんどらしく、外出はあまりしないのだという。それにいくらこの瀬鳥町(いま居るのは隣町だけど)が広いだけで殆どは農場か田田に宛てられていて遊び場が限られているとはいえ、偶然にも二日連続で遭遇したことに俺は少なからず驚いていたのだった。 「ってことは、俺に隠れて二人とも密会してたってわけだな」 「おい、変なこと言うなよ」  そうよ、と俺と康二の間に典香が言葉を挟む。 「アンタも、私に他の男に"乗り換え"されたくなかったら、もっとちゃんと私のこと大事にしなさいよね」  典香がいうと、はーい、わかりましたーっ!と康二は何ともいえないテンションで言うと、飲みかけのジュースを飲み干した。よろしい、と典香が頷く。その時の俺の頭にあったことといえば、典香が"乗り換え"と言ったときに、彼女の名前のノリカと、今電車に乗っていることから二重で言葉が掛かっていて上手いなあと思ったことぐらいだったけど、二人を見る限りどちらも気付いてないようだったから、一人胸の中でそれを反芻して、ニヤリと面白がっていた。  そして電車は、やがて目的地のショッピング・モールのある区域へと入っていく。 「そういえば、コージとノリカはこれからどこに行く予定なんだ?」 「そんなの、シオンに決まってるだろ」  康二が口にするシオンとは、この瀬鳥区随一の面積を誇る、大型ショッピングセンターの店、シオン・モールのことだった。シオン・モールというその店名であるのは、一説によれば創業者の名前が由来しているらしいとからしくないという噂があった。ーーというような謎の思わせぶりな言い伝えなどは存在せず、普通に創業者の名前が由来だった。俺はふと小学生の頃に社会科見学で職場体験に訪れた記憶を思い出す。確か、俺のいたグループは、試食販売の手伝い をしたんだっけか。 「だってそもそも、他に行くところなんてないだろ?」 「まあ、確かにそうだな」  俺は康二に答えて、車窓にやがて大きく映し出されてくるそのシオンモールの聳え立つ外観のある風景に目をやり、車両が停車に向かうそのなかで眺めた。  駅に到着して、俺と睦まじきカップルは、徒歩十分ほどの所にある今日の俺達が訪れる目的であるシオン・モールに向かった。前にも多分言ったと思うけど、この隣町は建物が多いとはいえそのほとんどが企業のオフィスや工場や飲食店などで、レジャーランドといえば、やっぱりシオンくらいのものなのだった。かくして、週末や祝休日は、町中の学生達がこぞって出掛け先へと選び、家族や友人を連れては続々とやってくるのであった。 「やっぱり、今日も満席だねー」  シオン・モールの駄々広い駐車場に入り、典香が辺りを眺めながら言う。シオン・モール瀬鳥区典の駐車場は、田舎特有の空き広地の利用方法に悩んだ挙句の答えとして、無駄に広大な敷地全面に施行されていた。モール本館以外の建物といえば、自転車置き場か、宝くじ売り場か、コインランドリーか、瀬鳥区名物の瀬鳥焼き(小豆あん・カスタードあんの二種類)の屋台といった、どれも派手さはこれといってない申し訳程度の設備や店舗がある程度だった。 「典香はあんまり来ないんだっけ?」 「んー、まあ、そうだねー。基本は特に用事もないから」  俺が言うと、典香はそう言って康二を振り向く。 「でも、今日はせっかくのデートだしね」 「そうだなあー」  そう言って惚気るが如く手を繋いで顔を見合わせる二人を背に、俺は孤独の身で店内の入り口へと足を向ける。ふっ、まったく幸せな奴らめ。  店内に入ると、一階に見えるのは、スクレイル・コーヒーという珈琲の名チェーン店や、ワンダーファームというアイスクリーム・ショップ、それからその他各々の食品を販売する店々が軒を連ねるフードコーナーだった。どこ行こっか、と康二と典香が話し歩く前を歩く俺は、ふと二人に、なあ、と声を掛ける。 「そういえば、康二達は今日デートなんだろ?俺と別に歩いた方がいいんじゃないの?」  俺がそう言うと、何言ってんだよ、と康二が言う。 「お前と会ったからには、一緒に歩くのが俺らの仲ってもんだろ。ねえ、ノリカ?」 「そうよ、ヒロが居ないと駄目よ」  典香が言うと、それにさ、と康二が続ける。 「俺らの仲良しな姿、お前だって見たいだろ?」 「そんなのなら、いつも学校で飽きるくらい見てるっての」  俺が半ば呆れながらに言うと、康二と典香はまるでアメリカ映画の男女のように笑う。やれやれ、本当にカップルってやつあよお。  そして俺達はエスカレータを登り、二階へと上がる。一応の目的は、康二と典香が日用雑貨や衣服などを物色するということになり、俺はその付き添いがてら自分の買い物をする算段のもとに俺達は店内を歩き回ることにした。  ーーん?  エスカレータから斜め向かいの通路を通る時に、俺の視界にまたもや見覚えのある人影が立っているのが映った。その店は当区民御用足しの100円均一ショップ、ワンコインズであり、その店頭でまさしく買い物をしているのは、遠目からでも分かる紛れもない彼女、花菜だった。 「どうしたんだ?ヒロ」  俺が花菜を見やり立ち止まると、気付いてないのか二人は不思議そうに俺の視線の先に目を向ける。 「ん、あれ、もしかしてハナじゃない?」 「あ、ほんとだハナちゃんだ!」  花菜は、何やら小物の商品を二つ手に取って、真剣に悩み込んでいる様子だった。 「おーい、ハナー!」 「ハナちゃーん」  第一発見者の俺よりも甲高くテンションの高い呼び声で手を振る二人に気付いて、花菜はこちらに目を向ける。すると俺を差し置いて、康二と典香は勢いよく花菜の方へと駆け出して行ってしまった。 「コージくんとノリちゃんと…それと、ヒロ?」  花菜は流石に少し驚いた顔で俺ーー否、駆け寄ってきた二人の顔を見渡す。そのついでに俺を見ると、顔を少し綻ばせた。俺も花菜と二人の方へと歩いて行った。 「まさか、こんな所で会うなんてね」 「なんか、最近はやけに知り合いとの出会いが多い感じだね」 「おい、それを言うのは俺の方だろ」  俺は康二に言いながら、おはよう花菜、ととりあえず挨拶をする。 「あ、うん、おはよう、ヒロ。……と、それから、ノリちゃん、コージくん」  二人もおはよー、と言って花菜を見て笑う。何なんだろう、この怖いくらいの遭遇率、偶然の出会い。 「二人とも、何してんの?」 「それを話すとなると、実に長くはなるのだけれど、時を遡……」 「二人とここに来る途中の電車の中で会ってさ、二人ともシオンに行くっていうから、俺もついでに付いて来たんだ」  前回の第9話①(以下略)の冒頭の俺のナレーションを真似て奇妙なノリを始めようとする康二を遮って、俺は花菜に説明をする。 「じゃあもしかして、二人はデートしてるとか?」 「ピンポーン、正解っ!」  典香がクイズ出題者のように指を花菜に向ける。 「でも、それならヒロは居ない方がいいんじゃないの?」  花菜が俺とカップル二人の並びを見て言う。まあそれはそうなんだけど、と俺が説明する必要もないだろう、と俺は二人の方を見ると、予想通り彼らカップルは俺が付き添いとなったその経緯を花菜に丁寧に語ってくれた。 「確かに、皆んなで歩いた方が楽しいよね。私も、ヒロが居る方がずっと楽しいし」  花菜もまたそう言うと、腕を組んでうんうんと頷いた。俺は正直何度もそんなふうに言われると流石に照れ臭かったのだけど、自分の存在が彼らに暖かく認められているような気がして、嬉しさを隠すことなく、だよな、と一緒になって頷いた。 「はいっ!それじゃあそーゆーわけだからあ」  典香は意味ありげに俺や康二や花菜を見渡すと、そう言って手を叩いた。 「ハナちゃんも無事発見されたし、いつもの仲良し組が揃ったということで、今日はWデートを満喫しよう、の、回〜〜!」 「え!?」 「え?!」  俺と花菜はそう声を洩らして典香の方を見てから、ふと互いに視線を向け合った。 「Wデートって、俺と花菜も入ってるって事?」 「当然でしょ!他に誰が居るのよ?」  俺はそんなノリノリな典香(ノリノリカ、なんていうのは、面白くないか、ないな……)に花菜と二人戸惑いながらも、今日もそんないつもの康二・典香カップルのターンにやはり乗り込み付き合いざるを得ないんだろうな、と覚悟を決めて、花菜の顔を見た。花菜は、心なしかいつもよりも楽しげな表情を浮かべているように見えたのだけど、俺の勘違いだろうか。  いずれにしても、そんなこんなで俺達四人は隣町で運命の出会いを果たし、思いもよらぬ"Wデート"を実行することになった。はてさて、次回は一体どうなることやら。それにしても、ここまで来てようやくタイトル回収とはね。俺が言うのもなんだけど、作者、ちょっと引き伸ばしすぎなんじゃないのか?(申し訳ありません:作者)  そして次回はついに、あの冒頭の"女の喧嘩"の全貌が明らかに。乞うご期待、なんて、まあするまでもないけどね。

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第9話その②「Wデイトはショッピング・モールで(花菜とばったり編)」

 現在のある日、二一XX年ーー  その夜、ハルキとルカは買い物に出掛けていた。外は相変わらずしどけない植物や建築物の鬱蒼と群生する世界と化しており、夜の街となれば、日中朝昼よりもそれを強調して形造っているかのように見えさす光景を生み出しているのだった。  二人のやって来ているこのスーパーマーケットはそこまで広い店ではないが、街の数少ない食品売り場の一つということに至っており、品揃えは申し分ない位に豊富だった。生鮮コーナーには、野菜や鮮魚類や生肉類が用意し陳列されている。調理済みの惣菜売り場や、店舗内で焼き上げられたパンのベーカリースペース、その他日用品や菓子売り場、ちょっとした雑貨コーナーも存在した。そんなマーケットの店内を、買い物籠を載せたショッピングカートを押しやり動かしながら、ハルキは今晩の二人の献立を決めるべく後ろに従い付くルカと商品達に視線を目配りながら、歩き回っていた。 「ルカは今夜は何食べたい?」  そのハルキの言葉に、ルカは、うーん、とでも悩み込むように首を横に傾げた。まるで、毎日食べる物なんて、いちいち考えたり気にしていられない、なんて思ってさえいるようだった。それはハルキにも薄々伝わっていて、彼はそうだなー、とカートを目的の宛もなく先へと移動させていく。 「そうだ、最近魚とか食べてないから、焼き魚にする?」  鮮魚コーナーで立ち止まり、ハルキはルカに聞く。ルカは特に却下することもなく、こくりと小さく頷いた。そして二人で、砕かれた氷の張った発泡スチロールの箱に陳列されている数多の鮮魚達に目を向けた。いらっしゃいませー、という店内の従業員の声に混じり、「いらっしゃい!今日もいい魚が入ってるよ」と威勢のいい挨拶で加工場から姿を現した店員に、すみません、と春樹は声を掛ける。鉢巻と、防水の作業用繋ぎを着ている男だった。 「あの、今日は何の魚がいいですか?」 「兄ちゃん達、今晩は魚かい?そりゃいいこったねえ」  店員は江戸っ子の様に粋な口調で鼻を擦り上げると、嬉しそうに二人を眺め回した。 「そうだなあ、今日は、うん、サーモンが良いところだな。今朝方獲れたばっかりなんだ」  そう言って店員はほらよ、と魚達の中から、銀の鱗が照明器具の灯りで煌めき輝いている、一匹のサーモンの身体を掴み上げて二人の前に見せ付けた。 「多分こいつが今日は一番脂が乗ってて、美味いと思うぜ。なんたって、俺が食いてえぐらいだ」 「ありがとうございます、じゃあ、それにします」  ハルキが今日はサーモンのソテーにでもしようか、とルカに言うと、ルカは嬉しそうに頷いた。ルカは別段食事に好き嫌いはなかったが、強いて言えば魚類の料理が好きで、他の料理に比べてよくおかわりなどをしていた。 「えっと、幾らですか?」 「そうだなー、こいつは大物だからなあー」  店員はそう言ってサーモンを一目眺めやると、「二千円でどうだ?」とハルキに言う。 「二千円ですか……」  ハルキはそう言ってポケットから出した財布の中を探りみる。するとあちゃー、と片手を頭に抱えて、すみません、と店員を見やった。 「今月、あともうあんまり残ってなくて、その半分でいいので、千円で買わせて貰えないですか?」  ハルキは財布から千円札を取り出すと、ルカの方をちらりと見る。ルカは少し残念そうな顔をしてた。ごめんな、ルカ、とハルキは胸を痛めながら思い、店員に視線を向ける。 「でも、それじゃあ、二人分には足りねえだろ?」  店員はそう言って悩ましそうにルカの方を見下ろす。「お嬢ちゃんだって、たくさん食いたいもんな」  ルカは大きく頷く。出掛ける前の様子から、彼女は結構お腹を空かせていたはずだった。 「……よし、じゃあ、そうだな、わかった」  店員はそう言うと、腰をぱしりと叩いて、江戸っ子気質溢れる粋な口調で、「それじゃあ、半額の千円でいいぜ」とハルキににかり、と笑みを浮かべた顔を向けた。 「え?いいんですか」 「いいのいいの、いいってことよ。今日だけだけどな」  そう笑いながら鮮魚を割り引いてくれた店員に、ありがとうございます、助かります、とハルキは千円札を渡す。 「お前らみたいな若い奴らにいっぱい食わせるのが、俺の使命だからな。まあ、つっても、周りの奴らはそんなふうに思ってなくて、迷惑の上ねえだろうがな、なに、気にすんな。たくさん食って、明日からまた元気に生きろよ」  そう言ってサーモンを袋に包む店員に、本当にありがとうございます、とハルキは礼をする。ルカも彼に倣ってお辞儀を何回かした。 「まあそういうわけだから、上手く調理して腹一杯食ってくれよ」 「大丈夫です、腕には自信がありますから」  そう自慢げに笑うハルキに、おっ、言うねえ、と店員は目を輝かせて、ハルキの背中を軽く叩いた。 「じゃあ、また今度来ます。次は、ちゃんとお金持ってくるので」 「おう、またな。でも、あんまり無理すんなよ」  そう言って手を振る店員に見送られながら、ハルキは買い物籠からはみ出すほどに巨きな身体のサーモンを載せたカートを押しやってルカとその鮮魚売り場を後にした。 「よかったね、ルカ。今夜は美味しい料理になるよ」  ルカはハルキにつられるように、喜ばしげな笑みを浮かべて、ハルキの肩肘の裾を掴んで後を歩き付いていく。  それから菓子売り場と日用品のコーナーを回って、それぞれから何種類か必要な物を籠に入れ揃えて、残り僅かな資金でなんとか買い物を済ませると、二人はスーパーマーケットを出た。  二人が家に戻る途中の外の景色は、やはりいつもと同じく通り道の最中に見られる瓦礫の散体が目に幾度と留まり、気になるのだった。

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機械音のマスカレイド・メイドオヴ鶫渦中。

 ガガゴガガゴゴゴガゴゴゴガガガガガガゴガガゴガガガガガゴゴゴガゴゴガガギガガガガゴガガゴゴゴガゴゴゴガガガガガガゴガガゴガガガガガゴゴゴガピーピピービビーピピピビビパピィイイイイオォイイオオイアオオォォォォイィィォィィォィィィォォィェェォォォィーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………  木霊するのは残酷なジャム・クラシック・ヴァンプキン。新香料の進み具合の土台任せのマーケチング暗号プラグリズム。  穴に入り込んだフージャネルラ。それを後追いするストロヴェルプの髪の毛の先端にポスターが群集している。そんなシーンの中でフージャネルラの体を取り囲み出すのは虫の大群で、それらは実に様々な風貌の、種科定めの難しいような虫達だった。足の長さ、手の太さ、目の大きさ、色合い………彼らは一同にフージャネルラの体を覆い尽くし、やがて食べ噛みちぎりはじめる。ストロヴェルプはそれを見て笑った。血を流れ垂らすフージャネルラは赤いプールの中に沈み込んでゆくようだった。何がおかしいのか、ストロヴェルプには全くもって分からない。そもそも、なんでここに来ているのかさえも分からなかったし、なんで生きているのかもわからなかった。死にたい、とストロヴェルプは思った。ああ、死にたいなあ、そうよ。ねえ、だって、うん、まあそうね、死にたいなあ。  首吊り用のロープがこの虫地獄唾流の血潮地獄にあるとは到底思えずに、ストロヴェルプはフージャネルラの死にゆく残たる際を遺して、この墓穴を抜け出すことにした。もう既に、彼との会合は終えられたのだったし、これ以上一緒に彼とこの惨めったらしい空間世界で過ごす必要は微塵もないのだったから。ストロヴェルプはそう思い、濁りの鉄生臭の匂いに吐き気と蒸せを覚えながら、粗々刺々とした感触の砂削りの坂道の一通向を先に進み登って行った。  「この先、笑ってはなりません」  そんな看板があるのを見つけて、ストロヴェルプは思わず戦慄した。笑うな、だって?は、え…………えっ、え!?笑うなだって、???ゴホン、と咳を払ったストロヴェルプはいかにしても不快感を隠せずにいた。そしてポケッツから取り出した精神安定剤(LSD)を一握りばかり掴み込んで喉に投げて押し込む。ゴクリ、と言うその咽喉の通過音が空に向かってけたたましく轟音と化して響き渡り散る。空をその時飛んでいたカラスやモダンテイストのトンビやハゲタカやワシ、はたまた火星人のタコ坊主の僧侶の操縦するUFOの操縦が狂わんばかりと言った具合事態のそのゴクリ、という超音波は、あわや宇宙に存続する生命体はたまた環境生活態、水平線上従来帯、それらを破壊し尽くすべくに至り尽くすものと捉えて相違ない。現実、誠にくだらぬことばかりで飽き飽きするこの頃。  かのようなことから、ストロヴェルプが在(いま)すべきべき課せられていることは、笑わないということでも、フージャネルラの血みどろを思い出して笑うことでもない。ゴクリ、というその咽喉通過の刹那の音の渡り響く罪深き悪業を、なかった模様事象に強制的に戻しやることである。つまり、ストロヴェルプが今すべきことは何か。ゴクリ、というその発声した放ちが宇宙に届き渡る前に、タイムマシンで過去に戻ってその音を回収することである。しかし、当の本人は今やそれど頃ではない。なぜか。彼女がその横を通り過ぎようとした途端に目に入った看板に描かれた無象の言葉、文章、文字。笑わないでください。子どもの落書き、よりも酷い。は?うるせえ。  あー、死にたい。笑わないでくださいってのはつまり、あれか?笑うなって言ってんのか私に、?なんで?如何にして貴殿はそのように命じ奉り賜うたる。それが分からない。とりあえずバタアーをトオストノ焦げた部分に塗りたくって食べる。椅子に座ってね。……花瓶の中に咲いている薔薇。とても、綺麗。あはは。あ、笑っちゃいました。人間失格。それ、名誉あることなんですの。ちゃんと免許の書き換えと病室利用料の更新を済ませましたし。種の覗きを致したり。ませた笑顔の仔猫せせらぎパンクパーラーズ。あれ?もしかして、LSD、効いてきた?ッテゆー、かんじ?あははははは、こりゃいいわ。なんたって八月だしね。暮れなずむ蝉の病に幸あれ。そして栄光を、胸糞の紅枯葉のクリトリスの刺激成分とボーイ・ジェントルマンの前立腺の炎のマッチウイング・サイクル。勃起した銀河の順序功績の評価と称賛の嵐。フージャネルラは死んだ。宇宙は滅びました。

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