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ミレイが冬休みを明けて、小学校の卒業が近づく頃のある日、一人の見知らぬ男がアパートを訪ねてきた。その男は名前を名乗らず、黒い丸のサングラスに上下を紫の豹柄のシャツとパンツで統一していて嫌味なネックレスや指輪をつけていた。はーいとインターフォンにミレイは読んでいた本を閉じて玄関に向かいドアを開ける。かの右のような男がいかにも自然そうな振る舞いで立っていた。
「あの、どちら様ですか?」
ミレイがそう尋ねると、男は君、ここの子かい?と顔付きに似合わぬ幾分穏やかな口調で言う。そうですけど、とミレイは答える。
「何の用ですか?」
「今ここに君のお父さんっている?」
男はそう言った途端に、僅かにその穏やかな顔や口調の中に緊張を走らせたように見えた。ミレイもそれを少なからず感じ取り、彼はきっとおそらくは只の一般社会に暮らすような、父の友人等ではないだろうと勘付いた。それは男の服装からもみて取れることではあるが、それよりも彼の内側に視える心胸に和やかならぬものを感じたからでもあった。社会の明るみを外れたような雰囲気や空気感である。男が腰を曲げて彼の顔がミレイに近付いた時、彼の顔の節々に見当たる傷痣が、彼が只者ではないことを明らかにしていた。
「父は、いません」
「そうなんだ、どこかに出掛けてるの?」
はい、とミレイは答えて、男が帰るのを待った。しかし男はうーんと少し悩んでから、じゃあさ、と更に続けた。
「どこに行ったかとか、分かる?」
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カテゴリー: 恋愛・青春
投稿日時: 2025/11/18 10:30
最終編集日時: 2025/11/21 4:28
注意: この小説には性的または暴力的な表現が含まれています
アベノケイスケ
小説はジャンル問わず好きです。趣味は雑多系の猫好きリリッカー(=・ω・`)