除草機1号
39 件の小説真っ白な部屋に
『被験体E-0079について 2018年4月2日1:13 a.m. 現在、特殊ガラス製ゴーグルと13種の精神安定剤の投与によって被験者の状態は比較的安定しており、引き続き同様の管理が推奨されています。しかし留意すべきは、とある新人職員についてです。彼は被験体との接触によりある種の親近感を感じており、組織に背き被験体に味方する可能性があると検査担当者は漏らしています。彼がこれから先異常な行動を取るようであれば記憶処理の上転勤、または殺処分する必要があります』 真っ白な部屋の中で、1人の少年がうずくまっていた。一つに結んだ金髪に、ぶかぶかな白衣、異常に度の濃いスキーゴーグルをつけている。歳は7歳くらいだろうか。出生や過去などは自分でも思い出せない。彼の記憶は、断片的だった。 覚えている最初の記憶は、ただ真っ白な世界の中でだった。周りを見渡しても、そこにはただ白が広がっているだけだった。しばらく経って、ある人物が近づいてきた。聞いたこともない組織の研究員。研究員という言葉に何故だか親近感を感じた少年は、研究員に興味を持つ。だがそんな彼も、目を合わせようとすると一瞬で白の背景に戻ってしまった。やがて組織が本格的に動き、少年は無抵抗のまま機動部隊に背後から拘束される。前が見えなくなるほど度の濃いゴーグルをつけられ、拘束されたままで、少年の両目には見たものをこの世界から“消去“してしまう超常能力が備わっていると言い、その能力で両親をも消してしまったと伝えられた。視界が揺らぎ、椅子が倒れる。両親。聞いたことのある響き。それでも、それが何を意味するのかはまだ分からなかった。 何もかも真っ白な日常に転機が訪れたのは、とある新人職員が研修に来てからだった。エドワードと呼ばれた職員は、線の細い体に弱々しそうな顔つきをしていた。いや、実際のところはわからない。ゴーグルのせいで、数十cm先もよく見えないからだ。それでも、彼には何故だか近づきたくなるものがあった。まるで、前から知っていたかのような。言葉は交わさなくても、2人の心は確かに通じ合っていた。 ある夜、エドワードは少年の耳元でこう囁いた。 「君のその白衣、誰からもらったんだい?ちょっと失礼……ん?白衣の後ろに名前が書いてある。レオ・フォード=ミロか……」 その響きは、あまりにも懐かしかった。レオ。自分が“消してしまった”男の名前。アンリ・フォード=ミロの夫で、自分、ペネロペ・フォード=ミロの父親。 「そうか……僕は、ペネロペ」 研究者だった2人は、最期まで自分の特異性を解除するために研究を続けていた。研究は好調で、最盛期は学校に行ける寸前まで回復した。それでもある日、ペネロペは誤って両親の顔を見てしまったのだ。あたりは一瞬で白に変わり、後には父親の着ていた白い白衣だけが残った。そして、僕は記憶を消した。いや、その前は?2人は、どんな顔をしていた? ある日、いつもよりだいぶ遅い時間、疲れ切ったエドワードが部屋へ入ってきた。 「どうしたの?」 エドワードに尋ねる。前までだったら決して行わなかった行動だ。 「僕の、死刑が決まった」 彼の声は、鉛のように重かった。理由は言わずとも分かる。自分に関わったからだ。唇が固まったままで動かないペネロペに対して、エドワードは一つ、“お願い”をした。 ー最期に、僕を見て欲しいんだ。 ゴーグルにかけた左手が震える。これで、彼は消えてしまう。彼の人生が。僕の、僕のせいで。しかし止まりかけた手を、何かが突き動かす。両親を見てしまったとき、2人は、笑っていた。やっと、自分たちのことを見てくれたと。空気の揺れで、エドワードが微笑んでいるのが分かる。彼は、この運命を受け入れようとしている、両親と同じように。そうか、エドワード、君は父さんや母さんと同じなんだ。ペネロペはいつの間にか微笑んでいた。もう悩まないよと静かに呟く。 彼は、左手をそっと動かした。
活動再開しました?
自身のやりたいことの整理がつきましたため、ひとまず、本日から執筆を再開します。いつまで続くかはわからないですし、1ヶ月も持たないかもしれません。それでも成長のため、再びこの場所の世話にならせていただきますので何卒よろしくお願いします。
今後について
これまでの自身の執筆活動を振り返り、これからに繋げるため、Noveleeでの執筆活動に区切りをつけさせていただきます。それらを振り返ったとき、続けるべき理由が見つかったときにはまた執筆を再開させていただくつもりですが、見つからない場合は活動停止といった形になるかもしれません。 ひとまず、これまで僕の小説を読んでくださった皆さん、本当に、ありがとうございました。
[第4回NSS] 毒林檎
ある王国に、1人の商人がやってきた。彼は城へ向かい、とある林檎を王に売り付けた。 「王様、これは毒林檎で御座います。毒林檎には呪いがこもっていまして、これを誰かに食べさせると......」 商人がそう言い終わらない内に、馬鹿馬鹿しいと王は林檎を庭へ投げ捨てた。それはどう見てもただの林檎に見えたし、王は呪いなど信用していなかったからだ。 しかし、物語はこれで終わらなかった。林檎が落ちた庭からは木が生え、やがて赤い実をつけた。そして不思議なことに、それを食べた王は直ぐに死んでしまった。人々は毒林檎の呪いだと騒ぎ果物に決して食べなくなったがやがて恐れて果物を食べなかった者たちも死に絶え、国は無惨な死体で埋まる。 その様子を、1人の物乞いの少年がじっと眺めていた。彼は苦しみから逃げるため、毎日林檎を食した。それでも、彼は死ねなかった。ある日、少年が遺体を埋めていると、遺体から細長い蟲が溢れてきた。打撃では死滅せず咄嗟に持っていた林檎で殴りつけると、寄生虫は林檎の汁に当たって溶けた。少年は理解した。林檎が毒では無い、林檎を食べないことが毒だったのだと。全てを理解し、彼は静かに笑った。
[週刊]百足の唄 10
注意:この作品には、暴力的な表現、蟲が登場する可能性があります。耐えられる人のみ読んでください。 「これは、昆虫界の技術では無い。そして」 一瞬、世界から音が消える。立ち上る冷気も、口から漏らす息も。ベルは、少し時間を置いて、話した。 「これは、人間界の技術だ」 誰かの長い、沢山の脚が小刻みに震える。空気さえも、冷え切って感じた。 ー人間。俺たちにとって、最悪の存在。 ヘルバンは、ゆっくりと武器庫に向かって歩みを進める。 「何故、武器庫に?」 誰かが問うと、ヘルバンは返す。 「人間の野郎が相手なら、鉄の塊と今の弱々しい俺様たちじゃ足りねぇ。おい、お前ら、覚悟はあるか?」 俺様が鍛えてやる、彼は俺たちにそう伝えた。
大会期限当日に体調を崩した話
タイトルの通りです。20日に体調が悪化し寝込み、21日の夜7時半に大会を思い出しなんとか提出させて貰ったものの翌日には40度近い熱が。現在も熱は治ったものの物語を書くやる気が出ないので少しの期間、気が向いたらエッセイなどを書くだけの生活をさせていただきます。自分ごとですがよろしくお願いします。
第9回N1決勝 公開処刑
あの人に、裏切られた。言われた、全員の前で。あの日の悲しみも痛みも苦しみも、全部。映画館のスクリーンが、突然真っ白になるように。私の人生は、終わった。暗い世界の中に引きこもり過ごした春。想いにならない感情が体を駆け巡る。 その夜、私はあの人を静かな森へ呼び出した。言葉を発そうとする彼の細い首を、私は麻紐で縛りつけた。もう2度と、言葉を話せぬように。彼の息が止まってしばらくしてから、私は彼の顔を初めて正面から見た。泣いている。あのとき、あの人がふと言った、いや、言ってしまったときと同じように。鼓動が波打ち、知らぬうち、呟く。......こんな結末、あなたも望んでいなかったのかな。
[週刊]百足の唄 9
注意:この作品には、暴力的な表現、蟲が登場する可能性があります。耐えられる人のみ読んでください。 「待たせたね」 そう言うと彼は、躊躇無く最後の蟷螂の脳髄を殻から叩き出した。赤い雫が彼の頬から流れ落ちる。相変わらず臭豆腐を香らせ数多の脚をくねらせる様子はあの日の訓練を思い出させるが、それでいて彼の瞳には何か冷え切ったものも感じる。どうやら訓練所から脱出して来たようだがそれ以外のことは分からなかった。追手はもういない。ノレスはほっと息をつくが、ベルは警戒の表情を崩さず周りを見回している。 「......」 静まり返った空気の中で、デグマがなんとか声を上げた。 「あんた......誰だ?」 当然だ。彼はベレナクスを知らないのだから。慌てて説明する。 「なるほど......しばらくはここに泊まっていくといいが......あんた、気をつけなさい。軍に見つかったら、タダじゃ済まされんじゃろうからな」 ヘルバン達が殺した蟷螂の遺骸を埋葬しているとき、ノレスが彼らの装備品から小さな袋を見つけ出した。中を開けてみると、鉄粉と水、活性炭などが入っている。 「何これ......っ!あったかい......?」 急いで仲間に見せると、ベルがよく観察した上で一言。 「鉄粉と水......これは、昆虫界の技術ではない。そして......」
第9回N1 反時計回り
時計回りに、世界は動いている。そう言うと、君たちは僕を嘲笑うだろう。でも、少し座って話を聞いてほしい。これは、僕が、実際に経験した話だ。 僕は幼い頃から嫌われ者だった。何かといっては、人とは違う道を選ぶような少年だ、無理もないだろう。かく言う僕自身も、昔は周りに合わせることが正しいと思っていた。それでも、合わせようとしなかった。それが正しいと信じていたから、なんて大層な理由じゃない。その方が、メリットが大きいからだ。僕が成功すれば、それは僕だけの手柄になる。もし失敗しても、誰も関わっていないプロジェクトなら反動は少ない。僕は、そんな少年だったんだ。 ある日の事だった。学校終わり、ぼんやりと友達のカレンのことを考えていると、町でも名の知れた不良の1人が僕達に声をかけてきた。 「おいマイケル、俺らと一緒にデイビッド爺さんの店に、狩りに行こうぜ」 狩りとは、盗みの事だ。僕は、頭を抱えた。デイビッド爺さんが可哀想だからなんかじゃない、誰かと同類、そんな扱いをされるのが嫌だったからだ。僕は特別だ、こんな奴らとは関わらなくたっていいんだと自分に暗示をかける。ふと周りを見ると、クラスは不良達の溜まり場となっていた。 「ねぇ、ニック。こんな奴、うちらの仲間に入れなくても良くない?」 「コイツ、悩んでやがる、頃合いを見て裏切るつもりだぞ」 ふと壁に掛かった時計を見ると、時計の針がゆっくりと、時計回りに時を刻んでいる。そんな光景さえ朧げに見えて、僕は不良達を飛び越えて慌てて外へ駆け出した。 不良達が捕まったと知ったのは、次の日の朝だった。ニック君達は盗みを犯してしまい、警察に捕まりました。そう、先生が呟いたのだ。 ......捕まりました......捕まりました......自分の心臓が、興奮で高まるのが分かった。クラス内には、不良でなくとも奴らに誘われ、断りきれず罪を犯してしまった者達がたくさんいる。そんな中で、僕だけは奴らに合わせなかった。周り合わせようとしなかった、僕だけが......僕だけが、正しい...... 目の前の光景が曲がって見え、壁の時計でさえ、8から7に針を動かしたように見えた。 その日は、興奮で何も考えられなかった。フリッツ先生のつまらない道徳の授業が、讃美歌のように聞こえた。 「ええー......時計回りとは、他者と歩みを合わせ、協調する事の象徴でございます。えー......このように、皆さんも......」 いつも通りのフリッツ先生のつまらない話も、今日はなんだか心地よい。汚物を見るような目をしたままのカレンを残して、僕は昂った気持ちの中、家に帰った。 その日から、僕の行動はエスカレートしていった。自分が嫌だと思う時には癇癪を起こし、集団行動でも1人勝手に行動し、挙げ句の果てには気に入らない友達を執拗にいじめたりもした。どれだけ叱られようが、どれだけ罰を受けようが関係ない、僕だけは、正しいのだから。昔の僕とは違う。メリットの話などではない、正しいのだから。きっとそれで、カレンも、喜んでくれるはず...... ある夜、僕は、カレンの家で夕飯を食べていた。普通の人は、窓を破り、家に忍び込んで夕飯を掻っ攫うなんて考えやしない。だったら、僕は正しい事をしているんだ。時計はまだ、左回りに回っている。喉が渇いて冷蔵庫を覗くと、そこには一本の酒瓶が......普通の人なら、未成年で酒を飲んだりなんてしない、でも、今の僕なら...... 扉に指が触れる音、扉の隙間から空気が漏れ出し......彼女がいた。そのとき、僕の時計は歩みを止める。カレンが口を開く、蔑んだ目、驚きで見開いた目、憎しみに焦がれた目、その全てが、僕の頭の中を駆け巡った。心臓が、緊張で踊る。酒瓶に指をかけ、彼女の頭の前で振り上げー。 気がつくと、そこには血まみれの瓶、割れた窓ガラス、そして、静かに横たわる彼女がいた。闇夜にサイレンが鳴り響く。時計は、目にも止まらぬ速さで右に廻っていた。まるで、僕の罪を代弁するように...... とまあ、僕がここにいるのは、こう言うわけなんだ。君たちはどうなんだい?君たちの人生も聞かせてくれないか。
[週刊]百足の唄 8
注意:この作品には、暴力的な表現、蟲が登場する可能性があります。耐えられる人のみ読んでください。 誰かが、叫んだ。無慈悲な警笛が鳴り響き、敵襲を知らせる。俺たちは降ろしかけた武器を持ち、銃を構える。 「半径2km以内に我々とは異なる生物の生体反応を確認、警戒してください!」 ベルの一言が、周囲の緊張を加速させる。天を見ると、風が空を斬って頬の前を通り過ぎ、1本の足の先で地面に亀裂を開けた。緑の腹にギョロリとした目、両腕に付けた鎌には鋭利な兵器が装備させられている。 ー蟷螂部隊。ノレスが武器に弾を込めるが、間に合わず腹に深刻な傷を負ってしまう。倒れ込むノレスの首に蟷螂が鎌をかけようとした時、ヘルバンが銃を鎌にかけて敵の手を止めた。 「コイツらの鎌は、この銃と同じ金属でできている。んなら、俺様がこの銃で止めれば、コイツは身動き出来ねぇってことよ」 ヘルバンが肉弾戦で動きを止め、俺とノグマがとどめを刺し、ベルが戦場を指揮する。この作戦により数十いた蟷螂軍団もいくつかの血飛沫と断末魔の末に残り数体だけになった。楽にしてやろうと毒牙を剥き近づくと、相手は鎌を降ろし、静かに震える。 「アア、イヤダ......戦争デ徴兵サレ、アゲクノハテニハ仲ノ良カッタ友人ヲ殺シ、殺サレル。サァ、ソコノ貴様、サッサトトドメヲ刺シテクレ......」 血を流しながら話す蟷螂に、銃を持つ手を降ろしかける。コイツらも、夢があったんだ......ノグマは殺さなければと伝えようとする。俺が手を動かしかけた、その時。 蟷螂が背後から銃弾で撃ち抜かれ、絶命する。後ろには、無気力な顔を返り血で染めたー、ベレナクス。 「待たせたね」