病室の煙

 いつからだろう。あの窓から煙が昇り始めたのは。ただ白い病院の窓に、いつからか、煙草の煙が昇るようになったんだ。  僕は嘘つきだ。他者から責められれば他人に責任を押し付け、いつだって自分にとって良い結果になることだけ考えている。そのくせ好奇心は人一倍強くて、あの窓の内側では老人が煙草を吸っている。その老人は煙草嫌いと言うくせに1日に何本も吸う頭のいかれた野郎だと聞くと、直ぐに会ってみたくなった。  病室には、1人の老人が眠っていた。彼の隣では、夥しい量の吸い殻が水に沈んでいる。話しかけると、老人はゆっくりと声を返してくれた。深く、感情に満ちた声で、老人は話し始めたのだ。 「私は昔、詐欺師をやっていた。煙草を使って、カモ達から大金を巻き上げていたんだ。しかし途中で、大きなミスをしてしまってね。組織から命を狙われ、通りかかった男に助けられるのだが、そいつの声を聞くうちに相手が私が詐欺をした相手だと気づいてしまったんだよ。そいつの顔を見て、私が今までにどれだけのことをしていたのか悟ったよ。」  それからその男に償いとして今まで自分が他人に勧めた量の煙草を吸えと言われ、今に至ったそうだ。後246本煙草を吸えば、私も悔いなく地獄へ行ける。あの日の老人はそう話した3日後に、亡くなった。担当だった看護師は、老人が僕と話したせいで煙草で腐っていた肺や気管がやられて病気が悪化してしまったと話した。僕のせいで、老人が死んだ。僕は、捉えようのないほどの後悔に襲われた。  僕は今、煙草を吸っている。あの日の、責任を取って。あと13本、後13本で、老人は救われる。どうか、あの世に昇れますように。
除草機1号
除草機1号
基本超短編を書きます。ストーリーは何となく決めます。新参者ですがどうかよろしくお願いします。