いかのこ

35 件の小説
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いかのこ

主に自分が思ったこと感じたことを書いてます!いつか物語も書きたいと思ってます! 投稿頻度は低いですが、よろしくお願いします( ‎¨̮ )و✧

我が家の話

ある日は姉が突然悲鳴をあげ、驚いた様子で「足元にベストを着た男の子が座ったのが見えた」と言ったり、ある日は母が呑気に「金縛りにあったと思ったら笑いながらお腹の上に乗られた」と言ったり、ある日は私が夜中に眠れずにいると、外からしゃん、しゃんという神楽鈴のような音が等間隔で聞こえ、家の目の前を通り過ぎていったりと、我が家ではそういった話が絶えなかった。 そんな毎日でもう慣れっこになってしまった私は、特に何も気にせずお風呂に入った時、ある事に気がつく。 手形があった。 お風呂場の中折れドアに、少し小さな手形があった。その手形は家族の中で1番手の小さい姉の手よりも一回りほど小さかった。しかし小さな子を家にあげたことは無かったため、またそういう出来事かと思った。 今まで姿を見たり影をみたり、音を聞いたりなんかはしたものの、形に残る何かは初めてだったために少し驚いたが、洗えば消えるだろうと、そこまで気にはしなかった。 しかしどういうわけか、内側から外側からどれだけ擦ってみても落ちない。いや、正確に言えば落ちはする。しかししばらくしてみるとまたあるのだ。 けれどまぁ、特にそれに関連した出来事は起こっていなかったため、私も姉も母も気にせずにいた。 ある日、母に彼氏が出来た。少し身長は小さめだが、私たち子供に寄り添う努力をしてくれる、優しい人だった。 その人がぼろい我が家に初めて来た日、風呂場の手形が消えた。その人は霊感なんてものは一切なく、生まれてからこれまで一度もそういうものを見てしまったことも、聞こえてしまったこともないらしい。 見えないのに寄ってくるのか。それとも無意識に追い払ってくれたのか。その答えはすぐに分かった。 今度は母が相手の家に泊まりに行った時の話。 夜中。 2人並んで寝ていたら、母の肩に手が置かれた。 彼かと思って手を握ると、その手は彼の手なんかより小さく、一瞬で彼ではないとわかった。途端、その手が引かれ、小さな女の子の笑い声が聞こえたらしい。

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水槽に額をくっつけて瞼をひらくと、まるで自身も水の中に入っているかのように錯覚する。不思議なことにぼやけもせずくっきりはっきりと、優雅に泳ぐ魚たちが、ゆらりゆらりとする水草が、涼しさを覚える水音が感じられる。 これほどまでに自由にいられたらいいのに、とも思ったが、ここは透明な檻の中なのだなと、額を離し一歩下がって見た時、ようやっと気がついた。

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魚のあの人

魚が好きなあの人は、私を唯一見てくれていた人。 私を唯一叱ってくれて、私を唯一認めてくれた、私の人生の中で1番大切な人。 でもあの人は私のことをきっと覚えてない。なら当然、会いたいとも話したいとも思ってない。私があれからずっと抱き続けているこの感情を、あの人は知らない。 あの日声をかけてくれたこと、あの日私を気にかけてくれたこと、あの日私を叱ってくれたこと、あの日私に任せてくれたこと。全てが私を癒して苦しめる。 もう5年はたっているのに執着している。たまらず連絡をしようと何度試みたことか。しかし迷惑をかけたくないという言い訳・嫌われたくないという本音に、文字を打つ手は動かない。同時に心も満たされない。 いっそのこと、もう完全に拒絶されて、はっきりさせてしまおうか。

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私にもなにか特別を

かつての偉人たちが才能と同時に異常を持ち合わせていたように、私の異常にも意味があると、無駄などないと、受け入れられるべきだと、信じて疑わなかった。 そのために文を書き画を描き歌を歌い、楽器に触れ自然を尊び人の心を見た。 しかし全て意味がなかった。 駄作であった。 私は虚ろなものだった。

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高望み

私は死んだことがある。 幼い頃から誰かの1番になりたいと常に望み続け、しかし自身の性格の癖の強さのせいか1番になったことは多分今まで一度もなく、それどころか嫌われることも少なくはなかった。それでも周囲への愛情が人一倍強かった私は、皆を愛せている今のうちに死んでしまおうと考えたのだ。欲を言えば、死ぬことでみんなの中で私が一瞬でも1番になればいいと。つまり愛されるために死んだのである。 しかしみんなの反応は思っていたものではなかった。 驚く者こそいたものの、皆は泣くことも後悔することも後を追うこともせず、私がいないこと以外は今までと何も変わらない毎日を過ごしていた。 私は勘違いしていた。1番にはなれずとも、もう少しくらい愛されているだろうと本気で思っていた。死ねば愛されると思っていた。しかしどうやら現実はそうはいかないらしい。愛されていないものは、とにかく愛されていないらしい。どうしようもない事実らしい。 私は自分の価値以上のものを求めていた。

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虚像

貴方ではない貴方を見ている自覚はあった。そんな貴方への愛をどれだけ大事に育てたところで、いつか失礼なほど身勝手な失望によって簡単に死んでしまうことも分かっていた。しかし、だからといって愛するのをぴしゃりとやめられるほど、私は自分を操ることはできないのであった。 初めて貴方の存在を認識したとき、なんて自己愛の強い人なんだろうと思った。平気で嘘をつくし、人にお金を借りることにも躊躇がなく、よく後輩に奢ってもらっている貴方を、私はあまり好かなかった。しかし何故だか、貴方と話してみたいと、貴方を知ってみたいという欲が、奥の方で波を立てずにそこにいたのである。 初めて貴方と話した時は、やっぱりなんて無鉄砲な人なんだろうと思った。人を傷つけることをさらっと言ってしまうし、後先考えず嫌いな相手にボールを蹴って、相手の後頭部に当ててしまい脳震盪を起こさせてしまっていたときは、本当に呆れた。 しばらく貴方を見ていて、実はすごくストレスに弱い人なのだと知った。抱えなければいけない問題が多すぎて、頭を抱えて蹲っていた貴方を見て、私は抱きしめたいと思ってしまった。そこから私は、違う貴方をつくりはじめた。 貴方が好き。貴方を支えたいし支えられたい。 どんなに辛いことでも共感してくれるであろう貴方が。 どこまでも自分の夢を追うであろう貴方が。 今にでも消えてしまいそうな、死にたいなんて言ってしまいそうな貴方が。 何があっても私を嫌わないでくれるであろう貴方が。 それどころか、私をどろどろに深くて重くて、苦しいくらいに愛してくれているであろう貴方が。 きっと本当は人の苦しみを誰より分かっていて、温かい人なんだろう。 そんな虚像の貴方に、私は恋をしている。

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信念

駅から海へと向かう途中。 呑気な救急車が私を追い越していく。 自転車を漕ぐ警察官は私をちらりと見て、また目を逸らした。 知らないおばあさんは、いい天気だねと優しく笑いかけながら言った。 通り過ぎていった知らない人は、遠くにいる誰かを見つめていた。 私がこれから死ぬとも知らずに、そんな人間の横を救う側の人間が通り過ぎ、またある人は誰かを想う。そんな世界が心地よかった。心配事は何も無かった。 「生きていれば幸せなこともある」「辛いことばかりじゃない」それはもちろん、楽しいと思えることは毎日のように、幸せだと感じられることも時々、確かにあった。しかしそれではだめなのだ。どうしても自分を受け入れられなかったのだ。楽しいと思う回数と同じくらい死にたいと思うことが増え、幸せだと感じられても死のうとしていた。 たとえ何かに救われてみても、この苦しみが一生続くのだと考えてみれば、それならもう死んだ方が楽なのだ。生きることに利点はあっても、意味は無い。この考えが変わることは、きっと金輪際ないだろう。

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貴方からの愛

冷めないスープはないどころか、息を吹きかけ自らスープを冷ましてしまう。そんな生き方をしてきた。そんな生き方しか出来なかった。 誰かが愛してくれる。誰かが作ったばかりのスープをくれる。全て飲み干してしまいたくなるほど、全部を独り占めしたくなるほど魅力的なスープを。 しかしそれに毒が入っていないか、火傷してしまわないか、本当はすごく味が薄いんじゃないかとばかり気にしては、戸惑い息を吹きかけ味を足す。 そんなことをしているうちに、スープは煮え切り蒸発したり、「いらないなら貰うね」なんて言いながら、誰かが取っていってしまうのだ。 私には、そんな生き方しか出来なかった。

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無理難題

「あいさつさえ出来れば」「コミュニケーションさえとれれば」それさえ出来れば生きていけるって、多くの人が口を揃えて言う。 それがどれほど難しいことか。私にとってはファンタジーなのだ。空を飛ぶのと同じくらい難儀なことなのだ。 廊下に聞こえるおはようの声も、笑顔でする接客も、申し訳なさそうな顔で上司に叱られるのも、しっかり返事をするのも、私には全て漫画の中の話だった。しかし大きくなるにつれて、それが現実で、社会に出る上で必要最低限なことなのだと知らされていく。つまり私は生きていけないらしい。つまり私は社会には出られないらしい。そんな現実を見せられてしまっては、もう生きるための努力なんて到底出来るはずがなくて。皆にはない足枷を抱えながらも必死について行こうとしていた私の足は、既に棒になってしまっていた。地面に突き刺さって動けなくなってしまっていた。 同じファンタジーの中の話なんだから、ヒーローだって登場してくれていいのに。

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愛されるのが怖い

愛されるのが怖い。 自分は人に愛を向けるくせに、相手から愛を向けられた途端怖くて仕方がなくなる。愛された途端、自分に価値が生まれてしまうのを知っているから。生きる責任が、プレッシャーが生まれることを知ってしまっているから。 自分の少しの行動で嫌われてしまったらどうしようか。きっとそのときはもう立ち直れなくなってしまう。愛されるのが更に怖くなってしまう。「好きな人なら何をしていても愛おしい」だなんて、全ての人に当てはまる訳では無い。現に私は当てはまらない。だからこそ、愛なんて簡単に無くなるものだと分かっているからこそ、愛されることがそもそも怖いのだ。

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