素人作家

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読みやすくて面白いお話を書きます!

ゴキブリ

 とある夏の夜。洋子と僕は大きなリビングで映画を観ていたが、小難しい映画の内容が途中で分からなくなり、僕は自分のカオスな人生について考えることにした。特に健太に言われたことは忘れられなかった。  あんなに良い男と親しくなれたのは、洋子の様な素晴らしい女性と結婚できたことくらい価値のあることだ。  僕は八人の女と関係を持っていて、そのうち七人とは女としての関係を持っていた。その癖僕のポリシーは不倫をしないことで、結婚したら不倫をしないとずっと決めていた。  今、僕の心の中には大きな蟠りがある。普段僕が妻が帰らぬ夕方頃に飯を放り込んでいる穴の先には、女がいるのだ。それに他にも。僕は洋子を大切にしたかったが、そんな僕の生活にはゴキブリの様にうじゃうじゃと他の女が湧き出てくるのだ。  もっともゴキブリを飼うなんて悪趣味を持った僕が悪いのだが、近頃僕は自分が自分のポリシーに反している気がしてきた。  ゴキブリという例え。それは確か一つ目のシェルターを作った日に健太が言っていたことだ。 「お前はあの頃から何の成長もないじゃないか。マッチングアプリで女の子を取っ替え引っ替えしてた大学三年の夏から、ね」 「これでも絞った方だよ」 「馬鹿言え。絞るというのは一人としか心の関係も体の関係も持たないことをいうんだ。洋子さんからしたら、ここに入り込む女はまるで冷蔵庫の角に隠れるゴキブリの様だね」 「ゴキブリ? そりゃないよ。優香とは色々複雑な関係があってだな……」  二つ目のシェルターを作った日、健太はもっと核心的なことを質問してくれた。 「お前はこれに罪悪感はないのか? 不倫は絶対しない、と言っていたのに」 「これは不倫じゃな」 「不倫だよ。心の底では分かってるでしょ? 確かに人間関係は難しいけど、今お前は取り返しのつかないことをしてるんだよ」  健太は僕の言葉に被せる様に説教をしてくれた。言われた直後は少しイラッとしたが、ごもっともだった。僕の正直になれなかった気持ちを代弁してくれてむしろ少し嬉しかった。 「じゃあ何でお前はシェルターを掘ってくれるのさ」 「仕事だよ。日帰りで時給百万の仕事なんて中々ないだろう」  そして三つ目のシェルターを作った時のことだった。 「もし過去に戻れるなら、戻りたいか?」  健太は深刻そうに聞いた。よくある質問だ。 「女の話か?」 「そうだよ。お前のそのカオスな女関係をやり直せるなら、ってこと」 「戻りたいね。出来れば記憶を消して、彼女らと会う前に」 「記憶を消して? どういうことだ」 「彼女らに会うのがいけなかったし、記憶があったらトラウマが残る。意味がないよ」  僕は議論を複雑にし始めた。何も複雑にしたくてしてるんじゃない。仕方ないことなんだ。 「でも消したらまたお前は同じことをすると思うよ」 「それもそうだね、この出来事は受け入れるしかないのか」 「だとして、戻りたい? 過去に」 「そんなものがあるならね。せめて結婚前に戻って、他の子との関係に変なものを作らずに潔くいけば良かったって今になったからこそ分かるよ」 「そっか、勿体無いことをしたな。お前は本当に勿体無い人生を歩むんだな」  健太は呆れた様に、語気を強めて言った。 「でもあのときはこうするのが正解で、それ以外じゃ自分の人生に示しがつかないと勘違いしてたよ。勿体無い人生なんて生きてるつもりないさ」 「何も今回のことだけじゃないよ。お前ほどの奴が大学受験に落ちた時から思ってたし、それ以外にも語ればキリがない」 「だから過去に戻りたいんじゃないかって?」 「そうだよ、後悔しないの?」 「前はしてたけど、今はそんなにかな。その時々でベストは尽くそうと思ってるけど、それでも頑張れなかったのなら、それが自分の実力だと思う様にしてるよ」 「なるほどね。ごもっともだよ」  健太は軽く僕の話に頷いて、納得した様だった。それから暫く二人とも黙り込んで、それからまた僕が話を切り出した。 「でも女の件はやり直したいかな」 「悔いてるのか?」 「うん。あれは今から少しだけやり直すべきことなんだ。そんなに昔に戻ったら精神年齢や考え方が違いすぎて自分が自分でなくなってしまう。でもほんの一年前になら、戻りたいんだ」  僕は健太と話をする中で熱くなって、健太に振られた過去に戻る話に随分吸い込まれてしまった。実は一人でもたまにこういうことを考える。 「ほぉ」  健太は雑に反応して作業に戻った。なんだか僕がこういうことを喋るのまで最初から見抜かれていた様で恥ずかしくなり、僕はこう加えた。 「まあこんなこと話しても、過去に戻れる訳ないのにね。何でこんなこと聞いたの?」 「何となくだよ」  特に意味もなさそうに健太は返事をして、それから更に深い所に入り込んで行った。それと共に僕の過去に対する呪縛も随分と深い所に入り込んでしまったのだ。  まるで僕らは冷蔵庫の隙間の深い所に入り込んでしまうゴキブリの様だった。そんなことを僕はあれから何日も経っても、未だに思い起こしてしまうのだ。

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ゴキブリ

祭り

 祭りには若者を中心に沢山の人々が溢れかえっていた。道の脇には若くて時間がうんとある連中が何人かで座り込んでスマホをいじったりお喋りをしていた。こっちを見てニヤついているのが怖くて幼い頃は見て見ぬふりをしていたが、今見たら何とも思わない。  と思ったが、妻と手を繋いで歩いていてもやっぱり地面に転がり込んでる男も女もかつてとはまた違う怖さがあった。  そういう連中は大体お洒落で、気が強くてスポーツしてる一軍で、地面に小さく座り込んでいる癖に話しかけたら番犬の様に噛みついてくるのだ。そして大体夜は当たり前の様に中高生の癖に彼氏彼女とセックスして昼は人付き合いあるいはスポーツが上手なだけでクラスを牛耳ってぶいぶい言わせている動物だ。  あんなのが自分の歳下になるなんて今でも実感が湧かないが、僕は大人しくりんご飴とか焼き鳥とかを食いまくって腹を満たした。  りんご飴も焼き鳥も、ジュースも割高だ。祭りでもなんでも、大体こういう催し物は割高になるか、地域のお婆ちゃんが優しくて赤字覚悟の激安になるかのどちらかだ。年に数回なのでそうなるのは仕方ないし、僕はもうお婆ちゃんに可愛がられる年齢でもないので、当然の様に少ししか入ってないのに三百五十円もするオレンジジュースを飲んだ。  こういう時にお金を無駄にしている罪悪感とか心配とかを抱えてケチになる必要がないので、僕は熟金持ちにはなっておいて良かったと思う。ユーチューブプレミアムも罪悪感なく入れたし。  リオネル・メッシを除けば、毎年何十億も貰っといてプレミアムをケチる金持ちはどこにもいないだろうし、数年前の僕を除けば、雀の涙程度の貯金で女の子と二十五泊二十六日のデートを計画する男はどこにもいないだろう。つまり、僕は大富豪であるか超貧乏であるかしか向いていないのだ。  祭りを一通りまわって、僕らは家に帰った。何だかんだ財力にものを言わせて祭りの無駄に高い焼きそばとか焼き鳥を食いまくったのでそこそこお腹いっぱいになった。横になると戻しそうなのでソファに座ってオリンピックを観ながら寝ついた。  途中すごくかわいい女性選手が出てきて、興奮してかえって目が醒めてしまいそうだったが、隣にもっとかわいい女の子がいたのでぎゅーしながら寝たらすぐに寝れた。

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祭り

花火

「何か音楽が聴こえる……何の音かしら」  洋子がそう言うと、僕は平静を装って庭の方を見た。 「近くで誰かが歌ってるのかな」  わざとらしく僕は庭に出て、更に少し家を出た所まで行ってみた。それに洋子も続いた。 「あら、音が大きくなってきたわ」  外に出ると音が大きくなってきたので、この音は優香のそれではなかった。僕はすごく安心したが、あくまで普通の雰囲気でいた。 「そういえば今日は祭りだったね」  最寄駅の周辺で祭りが行われているのを思い出した。この音も祭りの音なんだろう。  僕らは浴衣を着て、祭りに行った。近くの湖では花火大会がやっていて、数万人規模の大騒ぎだった。  僕が初めて浴衣を着て女の子と夏祭りに行ったのは十八歳の時のことだった。莉子と手を繋ぎながら眺めた花火の色は忘れられなかった。  それから七年が経った。僕はかなり有意義な時間を過ごし、重要で長い七年間にすることが出来た。しかしそれでも、思ったよりすぐに終わった気がする。  たった七年なので当然のことだが、僕はこの七年が無限に続くものだと思っていた。  十八の夏に莉子と同じベッドで寝た夜、僕は青春が永遠に終わらないと錯覚していたのだ。  二十五になって、妻を持ち、愛人を持ち、頼れる社員に囲まれた今、この夜は青春と呼べるのだろうか。  中国古代思想によれば四十まで、でも最近の若者の感覚からすればそれは限りなく若い時期の呼称になっているんだろう。  昨今の世間では若者に青春を謳歌しろだの、青春してる、今しか青春できない、だのやたら青春が美化されて、その他の三つの季節は蔑ろにされてしまう。  まるで高校や大学を出て、自分で自分の飯を食える様になったら人生の醍醐味が終わったかの様で僕は嫌いだった。本来人間としてある程度金も心も自立する、それからが人生の始まりだというのに。  そんな冷めた正論と若者への嫉妬心を拗らせたおじさんは祭りの通りを颯爽と歩く中学生を見て歯を食いしばりながら妻と恋人繋ぎをしていた。  彼らが青春の花を咲かせるのなら、僕は花火の様に燃えたぎる朱夏を謳歌してやろうと思ったのだ。

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花火

 とはいえ、僕は心配しがちな所があるから全く心配しないなんてことは珍しかった。きっと帰ってきたら健太を適当に隠してやり過ごせば良いとでも心の片隅で思っていたのだろう。  実際に妻が帰宅することはなく、健太は夜中に工事を終えた。  一千万円報酬を彼に支払うと、彼は帰って行った。これが良いボーナスになっているんだと彼は喜んだ。下手したら彼が会社から受け取る年収より高いのだから、かなり良い商売だ。  それから数日妻のいない期間が続き、帰宅予定の日になった。  帰るのは午後九時とのことだが、夕方もリスクを考えて他のどの女とも会わなかった。  僕は夕方、いつ帰ってくるのかとそわそわしながら仕事の残りを家でやっていた。  午後八時になると、僕は段々緊張してきた。妻が何日も家にいないことは今までなかったから、念のためシェルターの中の優香の状況確認をしたり、もう二つの予備のシェルターも覗き込んだりした。  家をうろついて特に不自然な所がないかを確認してみたりした。少し整理したい場所もあったが、あんまり手を加えると逆に不自然になりそうなのでそのままにしておいた。  妻は午後九時きっかりに帰ってきた。その夜は旅行でどんなことがあったか、とかを妻が話してくれた。  そんな話をしていると、少し聞き馴染みのある音が聞こえてきた。  それは優香が好きな曲だった気がする。それに気付いた瞬間、僕は内心焦った。防音は完璧で今まで一度もこんなことなかったのに。  しかしここで変に和やかなムードを壊すと逆に怪しまれるので、僕は気付かないふりをして妻との話を続けた。  シェルターは当然中からは開けられないように出来ているし、人の声程度じゃどんなに叫んでも聞こえないはず。音楽が聴こえたくらいじゃあ何の証拠にも疑いにもならない。  僕が自分にそう言い聞かせていると、妻がその音に気付いてしまった。

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音

 とある月曜の夕方、僕は優香と寝ていた。この生活が続いてきて改めて、幸か不幸か僕は沢山の女と関係を持っていることに気づいた。  ほんの八年前の自分では有り得ないことだった。五輪を二回やったら、人はどうやらどうにでも変わってしまうようだ。  でもかつての様に、何百もの、何千もの女と関係を持つことはなくなったし、一度に複数の女を家に呼んで乱交したり、遊んだりして一人暮らしの狭い部屋に王国を築きあげたのも、華の大学時代だけだった。  起業してから職場の女に手を出しまくった時期もあったが、それも二十四歳の誕生日に自分がやんちゃをするにはあまりにおじさんになり過ぎていることに気付いて、二十五を過ぎたジジイが派手に女遊びをする滑稽で気持ち悪い様子を散々目撃してきた僕はそれも辞めることにした。  十七歳の僕はそれをするにはあまりに幼かった。二十四歳の僕はそれをするにはあまりに歳をとり過ぎていた。女なんていう下品な趣味が許されるのはせいぜい二千日かそこらのごく僅かな時期に過ぎないんだ。  僕は今じゃ結婚して、一人の素晴らしい女性に魅せられ集中し、これまでに紹介した七人の女性としか関係を持っていない。しかもそのうちの一人は恋愛感情は殆どないのでノーカウントにすべきだろう。  ほんの六人だ。  というのは嘘だ。僕は大嘘つきなんだ。実は特別で驚くべき関係を持っているのがあと一人だけいる。あと一人だけというのは本当だ。これが最後の女なのだ。  莉子は身長が百五十センチしかない可愛い女だ。不細工で少しばかで華奢ですごく可愛い。  僕以外の男に興味はない。という訳ではなく、実は僕の先に一人の男を好きになったらしいのだが、今では僕のことの方が好きだ。一個下で二十五歳になったばかりの女だが、恋愛経験が殆どない。  特に誰とも結婚するつもりはないらしく、出来そうにもないので僕はずっとこの子と付き合ったまま、彼女以上妻未満の関係でいたかった。  万が一、この子が他の男に言い寄られて結婚してしまったらどうしようか。    その時だって安心だ。もう地下には二個目のシェルターを作ってあるんだ。

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女

理由

 日曜は梨花に会った。洋子には何も言わなかった。彼女が手の込んだ料理を作っている間に僕は仕事だと言って梨花に会いに行った。  梨花は物分かりの良い可愛い女だった。洋子には劣るがそれなりに頭が良く、美人で上品でスタイルが良くて優しい。  地雷を踏むことも多かったが、仲直りを重ねてそんな心配もなくなった。僕は人を怒らすのが得意だが、仲直りするのもそれと同じ位得意で、それらは天才的だった。  梨花とのデート。出会った当初は想像がつかなくて緊張したものだ。どこに連れて行けば良いのかも分からなかったが、どこに連れて行っても良いことが分かった。  デートについて一つ言える重大な真実として、どこに連れて行けば分からないときはどこでも良いから誘うことだ。大抵本当にどこでも良かったりする。  どこに誘ってもダメな気がする相手であればあるほど、むしろどこに誘っても良いという真実を僕は了解していた。  僕らはいつもバラバラの場所に集まった。ある日は郊外の大きな公園で、ある日は山の麓で、ある日はバスの停車場で。  彼女には美月と同様に、そこまで強い執着はなかった。そして当然今後もなさそうだ。別れを切り出されても僕はその時間を洋子と料理する時間に充てるだけだし、それで浮いた時間で映画を観れば良いだけだった。  彼女の地下シェルターは作る必要がなかった。そして彼女の様な真面目でしっかり者の女と話していると、優香を閉じ込めていることすら馬鹿馬鹿しくなった。  そろそろ出してやろうか、殺してやろうか。でも出したら罪に問われそうだし、殺したら多分バレないけど、今殺すには惜しい。まだあと何年かは、いや何十年かは堪能しなくては。  警察らの捜索も下火になってきたし、両親もそろそろ諦め始めていい頃だった。今優香がこんな地下の密室に監禁されて僕の言いなりになってることを知ったら、両親はどう思うんだろうか。  きっとまだ死んでないことが嬉しくて、泣いて喜ぶだろうな。

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理由

重要な事実

 それから数週間が経ち、とある週のこと。  僕は美月と土曜の午後を楽しんでいた。妻が友達と食事に行く休日の午後は必ず美月か、あるいは梨花と会うことにしていた。  彼女たちへの僕の強い思い、それは然程なかった。梨花とは結婚を考えていた時期もあったくらい、特別になることを望んでいたから多少の複雑さはあったが、美月へのそれはゼロだ。  僕は美月の様な、恋愛関係を持つ中で最も気楽にいられる女が好きだった。  結婚しようと想いを募らせるよりも、ただの一時の少し遊ぶ彼女程度に思っておいた方が案外上手く行くものだ。  スポッチャでバスケをした後はカラオケに行った。  単なる一時の彼女としか見ていないからこそ、僕は歌うべき曲をデートの前日に熟考して練習する手間が省けて、自分の歌いたい曲を歌えた。  優先度を比較的下の方に置いたからこそ、逆にそのリラックスが最高のものを生み出した。最初に最高の相手ではないと思ったからこそ、最高の彼女になるものなんだ。    本当にその相手と結婚でもしない限り、最初から相手を最高の女だと思うべきではないんだ。そんなことをしていたら、僕はその女を地下シェルターに監禁しなくてはいけなくなってしまう。  ああ、僕は人生の中で、僕にしては早い段階で恋愛の重要な事実を知ることが出来て良かった。  僕の頭があとほんの少し悪かったら、今頃東京の地下は生臭い女でいっぱいになっていたかも知れないんだ。

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重要な事実

お婆ちゃん

 僕には三人の彼女がいた。二人の妻とも、一人の愛人とも別の三人が。  一人は四十代独身のおばさんで、残りの二人は一個下の女の子だ。  木曜の午後、僕は職場を出ると一人の女の子とカフェでお茶した。  それは一人の愛人でも、二人の妻でも、三人の彼女でもない存在だった。その子が七番目の女なのか、はたまた零番目なのか、それは分からない。  恋愛感情はなかった。ほっそりしていて優しくて可愛い女だけど、幼馴染でもあるからそこには単なる友情しかなかった。  僕らは最近のこととか、仕事のこととか、昔話とかをして楽しく過ごした。  何となく日が暮れてきた頃にカフェを出た。家に帰ると今日は珍しく洋子の方が早かった。 「あれ? あなたがこんな遅いなんて珍しいね」 「うん、美咲ちゃんと今日は遊んでたんだ」 「そうなのね。連絡くれないから心配しちゃったよ」 「ごめん、昔話をし過ぎたよ」  僕はそう言って少し微笑むとベッドに横になって、昔のことを色々思い出した。  美咲と少し緊張しながら二人で近所の通りを歩いた日のこと、亜弥と優香に酷い振られ方をした日のこと、洋子と出会い意気投合した日のこと……  僕はベッドの下に作った地下シェルターのことを考えた。洋子と同棲してから半年程経つが、その間ずっと優香はここで暮らしているなんて酷なことだなと思った。    でも僕は優香をずっと、これから何十年も閉じ込めておく必要があるんだ。優香がお婆ちゃんになっても、ずっと。  いや、皺くちゃのお婆ちゃんになったらもう解放してやっても良いかな。そんなババアの相手してくれる男なんて誰もいないもんな。

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お婆ちゃん

表と裏

 それから日付を一つ跨いで木曜日になった。  朝の五時に起床して僕はルーティンをこなし、六時に家を出た。  六本木の風を切りながら先週買ったばかりのフェラーリを乗り回すのは最高だった。  高級車を買ったり、豪邸を買った時、親はまだ早いと言ってきたけど、僕はもう二十五歳だ。自分で稼いだ金で買った物だし、それくらい好きにさせて欲しかった。  会社に僕は一番について、六時半から仕事を始めた。僕の会社は定時が午後二時なので朝早めにくるのが肝心だ。 「社長、おはようございます」 「おはようございます」  僕の次に会社に来たのは四十歳の男性の部下だった。 「貞廣くん、おはよう」 「篠崎さん、おはよう」  その次は年配の女性の部下だった。 「翔くん、おはよう」 「真紀ちゃん、おはよう」  その次は同い年の女性の部下だ。  続々と社員が集まり、定時より一時間早い八時にはほぼ全員が集まって仕事をしていた。いつもの光景だ。 「翔くん、これどうすればいいと思う?」 「この場合だとここってこうなるから〜」 「社長これどうします?」 「えーっと、これをこうして〜」  僕は社員に慕われていて、優しくて誰よりも働き者で社員思いの良い社長さんだ。だからこそたまに地下シェルターにかつて振られた女を監禁している自分が怖くなる。 「社長、今日一緒に昼ご飯行きません?」  僕が既婚者と知りながら上目遣いで可愛い声を作る女子もいた。  彼女がもし、僕が地下に女を隠していることを知ったらどうなるだろう。  僕は考えた。  そのときは、もう一つ地下に新しいシェルターを作らなくちゃいけなくなるな。

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表と裏

三人目の女

 その女は美容師で、今日は仕事が休みらしい。僕は二人の妻の次の女、すなわち三人目の女の家に行った。 「お疲れー、今日は洋子さんは仕事だっけ」  爽やかな笑顔で軽快に出迎えたのは亜弥だった。亜弥は一個上で同じく一個上の陽太という彼氏がいたのだが、僕と浮気をしている。 「うん、今日も夕方までいていいかなー?」 「もちろん! もう一週間も会ってなかったから、話したくてやばかったよ!」  彼女は僕に従順で明るくてやんちゃな女だ。わがままだけど優しい所もあってハマってしまう。 「ねえ、良いかな?」  僕はテレビを何となく観て、彼女とソファでゴロゴロしながら呟いた。彼女と目と唇を交互に見つめた。 「うん。良いよ!」  僕が彼女の方を好きという関係なのに彼女は僕に尽くしてくれるんだ。勘違いしてしまいそうだ。  それから僕らは性行為には至らぬいちゃいちゃをして、少し外で体を動かして、それで解散した。  洋子が家に帰るといつものように何事もなかったかのように平然と振る舞い、家事の色々を済ませて、彼女と最後におやすみのキスをした。  今日僕の唇に触れた女は、洋子が三人目だった。  

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三人目の女