じゃらねっこ

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じゃらねっこ

ねこじゃらしが好きなので、じゃらねっこです。 毎日投稿始めます。

再奏【中】

「……ハープシコード?」 −−バシッ−− 木々のざわめきの中、痛烈な音が吹き抜ける。 痛い。この痛みは嘘偽りじゃない。この空間に鏡なんて物は無いが、俺の右頬の腫れは想像にかたくない。 しかし、何故こんな代物がよりによってこんな場所に放置されているんだろうか。遠目でも分かる優美な装飾は、それでいて派手では無く、そつの無い美しさ、何より野ざらしの環境に置かれながら、丁重に保管されてきたかのような状態が見て取れる。それはまるで、ここがかつての栄華の地であるかのように人を惑わし、そこに俺を拐かそうとしている。 「これが高鳴りの正体か? いいな、乗ってやる」 崩れ気味の襟を、思わず正そうなんて自分らしくもないことを考える。 目の前のソレに当てられて、自分までもが時代へと吸い込まれそうになっている。しかし、俺は俺だ。そして過去は今では無い。 「なあ、お前は何を望んでんだ?」 一歩、また一歩、まだ一歩、ただ前へ進む。 大胆に、そして慎重に。 呑まれないよう気を確かに保ちつつ−−なんて考えている時点で、既に時代の虜なのかもしれない。もし世界を俯瞰出来るのなら、今の俺はただ歩いているだけに映るだろうが、目の前のソレがそうではないと告げている。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 進みつつ俺は、今日の記憶を思い出していく。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 「楽器って言えばさ、やっぱりピアノだよね~」 「分かる。ピアノ弾ける人憧れるし」 「バイオリンとかピアノとか、育ち良さそうで良いよね」 「いや分かるわ。めっちゃカッケーよな」 「こいつ、確か弾けるだろ」 「じゃあやっぱり、あんたも楽器と言ったらピアノだよね」 「……いや」 「そうだな、俺もそう思うよ」

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独筆文

『書く』という行為に対し、あまり身構えるのも良くないのかと思う今日この頃、小説という括りから抜け出し、エッセイというものに手を出そうと考え今に至りますが、それもまた簡単では無いようです。なんとも嘆かわしいとため息をついたとて、文章は綴られないのですが… エッセイとは自由である。という言葉を幾度とも目にしましたが、私からしてみればそれは、驚くべきハードルに他ならないと感じます。というのも、私にとっては小説を綴ろうという試み以上に、エッセイというものに対して難しさを覚える節があります。そしてそれは、過大な自由という縛りによって、何を書けば良いのかと途方に暮れてしまうからなのです。 ただ主観を綴れば良いのだ。と自由を突き付けられた際、それは銃口にも勝るとも劣らない引き金の境地に立たされたかのような、選択への硬直が絶えず現れます。 小説、詩、歌、あるいは俳句などの作品には、規律という柵の中での創作が主であり、無論創作者の自由は存在していますが、形式に則り書き連ねる環境が適度な制限によって想像能力を掻き立て、刺激となります。ですが、エッセイという分野においてはその柵は取り払われている。もしくは圧倒的に広い空間が保証されていると印象を受けます。そして、これがかえって何を書けば良いのか分からないという疑念を生んでしまうのです。 好き勝手に好きなものを書けば良いでは無いか。 それこそが、やはり中々どうして難しいものなのです。 何よりもこの飛び越えるべきハードルを補佐し、支柱を伸ばさんとする感情が存在しています。それは面白味という観点です。 要するところ、自分の主観を勝手に綴った文章なんて誰が読むのだろうか。という後ろ向きな疑念です。 先程挙げた柵の分野達には、明確な評価点を定めるのに苦労しないでしょう。例えば、表現の多彩さや物語そのものの面白さ、制限の下に表れる創意工夫であったり、キャラクターへの感情移入などの評価点がいくつも存在します。これらによって、読者は注目と関心を持ち、作品として認めていくでしょう。 対しエッセイでは主に、共感や感心、興味などの非常に曖昧な観念によって読者は感情の揺らぎを獲得するでしょう。ですから、結局のところ何を書けば良いのか、好きなことでそれらを与えられるのかなどの疑念が絶えないのです。 自由であるからこそ苦悩し、また好きにすれば良いからこそ好きの価値を思索してしまいます。 執筆力不足からの解放を求め、顔を覗かせたのは良いものの、自らの思考によって雁字搦めにされるとはなんとも皮肉なものですが、半ば分かっていることもあるのです。 エッセイという分野の性質上、それは好きなことを好きなように書くものなのだから、読者の受ける印象や価値判断など関係無く好き放題書けば良い。ただそれだけのことなのでしょう。頭を抱える真の原因は、自らの見られることに対する歪んだ感性こそが悪癖であるということです。 見られるのだから上手に。 見られるのだから面白く。 見られるのだからetc. そういった見られるという状況に対する過剰な反応が、自らを縛り付けているのです。 ですから私は− 『書く』という行為に対し、あまり身構えるのも良くないのかと思う今日この頃、小説という括りから抜け出し、エッセイというものに手を出そうと考え今に至ります。

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命巡り

等間隔に並べられた、整然な石達。その間を、花束を抱えて歩いていた。踏みしめる度、大地がささやかに私に語りかける。囁きは空に帰り、風が吹き抜けた。やけに寂しい道筋だ。ある石の周りだけはその寂しさを忘れさせるように、花達が美しく咲いている。私は石の前で足を止めると、花束を添えた。 命とは、その答えを知るために。 「ねぇ、命ってなに?」 無垢な子供が私にそう聞いた時、私は頭を抱えた。命とは何か。その問いに対して、私は明確な答えを持ち合わせていなかったのだ。だから、私はこう言った。 「十年後、また聞いてくれ。その時答えよう」と。 そう答えた次の朝、私はすぐに家を出た。命とは何か、学ばねばならない。そう考えたからだ。まず向かった先は、教会だ。最も身近に思い当たる場所が、そこであったからだ。辿り着いた私はそこに居た神父に対して、すぐさま聞いた。 「神父様、命とは一体何なのでしょうか」 その不躾な質問に対して、神父はゆっくりと瞬きをし、数秒の沈黙の後に口を開いた。 「命とは、神に与えられたものです。我々生きる者達は、それを大切にしなければなりません」 それを聞くとすぐに礼を言い、教会を飛び出した。家に戻ると、また命について思考を巡らせた。 次に家を飛び出したのは、三月も後のことであった。その間考え続けた私は、とうとう答えを出せなかった。まだ学びが足りない。そう考えた私は、ある羊飼いの所へと向かっていた。命と身近に触れ合う彼ならば、何か知っていると思ったからだ。挨拶もそこそこに、私は質問を投げかけた。 「命とは、一体何だと思う?」 彼はしばらく難しい顔をして、何も知らぬ羊の方に視線を送ると、口を開いた。 「命とは、多分変わり続けるということだと思う。僕や羊達も、変化している。場所も、姿も」 それを聞き、羊をひとつ撫でてから家へと戻ると、また命について思考を巡らせた。 次に家を飛び出したのは、一年も後のことであった。その間考え続けた私は、とうとう答えを出せなかった。何故答えが出ないのか思い悩んだ私は、ある傭兵の所へと向かっていた。剣を振るう彼ならば、命に近しいと思ったからだ。会ってからしばらく雑談を交え、私は質問をした。 「命とは、どのようなものだろうか」 傭兵は立て掛けた剣の鞘を撫で下ろすように触った後、私に立ち直って口を開いた。 「命とは、失い続けることだろう。私は今まで、沢山のものを失った。そして、皆平等に、その人生の時間を失い続けている」 聞いた後、またしばらく話してから、その場を後にした。少し花屋に寄り道をしてから家に戻り、一杯あおって、また思考を巡らせた。次に家を飛び出した頃には、もう十年経っていた。私はその間に三人から学び、そして自分自身も考え続けた。考え続け、そしてとうとう一つの答えを導き出した。後はこれを伝えるだけだ。 命とは、一体何なのか。それを知るために、私はとある老人の所へと向かっている。長年考えた彼ならば、きっとその答えを知っているだろう。やけに寂しい道筋が、私の期待を膨らませた。足を止めると、十年待った質問を十年ぶりに言葉にした。 「命とは、一体何なのでしょうか?」 その問いを発する先には、石があった。美しく咲いた花達が、風に煽られ僅かに揺れている。草花の擦れる心地の良い音の中で、その問いは拾い上げられた。 命とは、なんだろうか。 一枚の花弁が、青年の頬へと張り付く。 あぁ、そうか。そういうことだったのか。優しい笑顔を滲ませながら、青年はそれを丁寧に握ると、胸へと押し当てこう言った。 「命とは、巡るものなんだ」

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研磨【プロローグ】

細工品を見るのは非常に好ましい。 特別な材料は必要としない。ただ、見渡す限りに転がっているような石ころだったり、どこにでも手に入る物品を用いて作られた品々は目の癒しとなる。私にとって特別性は、周りに回って価値を失ってしまう。それが少々疎ましく思うのは、私が拾われない石だからであろうか。 職人の手は美しい。それは世間一般で言う美麗とは異なる。ただ、一つを極め磨き抜かれた指先には、無上の価値がある。そう私は思う。しかし同時に、それ以外を疎む私の心は、誰の手にも渡らないことは明白であった。 巧妙な細工はその技術に価値があり、成果物は素材以上の価値を生む。切磋琢磨が生み出した価値は、金色の輝きをも上回る。私はそう信じている。ただ時折思うのだ。全力を注いだ作品は淘汰され、大して心血を注いだ訳でもない作品が評価されてしまう。そんな瞬間が心寂しい。そしてそれ以上に、恐ろしいのだと。

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再奏【上】

「我を再び奏でるというのか、小僧」 吸い込まれるように深く、底の見えない黒色の鍵盤は、艶やかに人を魅了する。まるでそれは、奏者の生を鮮やかに吸い取る悪魔であり、聴衆を惹き付ける女神を思わせた。 かつて人を狂気に貶めた悪魔が、影より私達を眺めている。 ─ああ、忌々しい。 我は死んでなどいない。 人は我を求めた。我の音色を、その美しさを。 我は与えた。美しい音楽の鼓動を、命を。 皆潰えた。我に狂った者共は皆潰えた。 我に狂い、我を求め、我を奏で、我の元に死んだのだ。 今はどうだ。この暗闇に我を求める光など無いではないか。 ─ああ、実に忌々しい。 これも全ては奴が、奴さえ居なければ……。 「楽器って言えばさ、やっぱりピアノだよね~」 「分かる。ピアノ弾ける人憧れるし」 「バイオリンとかピアノとか、育ち良さそうで良いよね」 ゆったりと流れる世界に刻まれる、一定のリズム。 合わせて揺れるスクールバックが、いくらか連なっていた。 「いや分かるわ。めっちゃカッケーよな」 「こいつ、確か弾けるだろ」 突如として俺が標的にされる。 反応する間もなく、「知らなかったー」「本当?」「かっこいい」「マジかよ」などと好き勝手に言っている姿を見て、半ば諦めるしかなかった。 人の情報を勝手に明かさないで欲しいものだが、仕方がない。 「じゃあやっぱり、あんたも楽器と言ったらピアノだよね」 その言葉に、体が揺れる。 「……いや」 咄嗟に独り言のような否定が顔を覗かせたが、我に返った俺は言葉を重ねる。 「そうだな、俺もそう思うよ」 やけ濁った旋律が、耳から離れなかった。 白鍵七に黒鍵五。現代に普及した鍵盤の定石だが、俺はそればかりが鍵盤だとは微塵も思っていなかった。 皆は知らなすぎるんだ、多種多様な音の美しさの上に音楽が成り立つんだということを。ピアノは素晴らしい楽器だが、そればかりを持て囃すことは納得出来ない。そもそもとして数が揃えられ普及したのはピアノだったが、それ以前を支えていたのは……。 数人と別れた後、一人になった俺は帰路を辿っていた─筈だったが、考えに耽っていた為かいつの間にやら見知らぬ土地まで来てしまっていた。 人気の少ない裏の通りだが、少し場所が外れるだけでこうも感覚がズレるとは驚いた。同じ様相のようで見慣れない物件もそうだが、何より好奇心が湧いてしまったのが痛手だ。時折ある、どうせ来てしまったのならちょっと散策してやろうという深夜テンションにも近い変な意識が湧いて出てしまった。 車両一台分の道路が続く道を少し進み、更に細い道に入り込む。最早左右は人工物では無く植物が殆どだが、それがかえって好奇心を刺激する。この先には何かあるという盲目で純粋な妄想に近い期待感が、全身を支配していた。

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立ち止まって

偶然にも、目の前にて信号が色を変える。 「近頃変化した」と言っても、いつ頃始まったのか曖昧な中で置き換わり、いつしか日常に息を潜めたLED電灯は、現在赤を指し示している。 赤とは停止の意である。などという常識は誰もに刻み込まれているだろうが、要するに足止めを食ったということであった。 目の前で信号が赤になった。 私は日常の中でこれを不幸に語る人々を知っているが、少なくとも今の私はそのように感じてはいない。無論、だからといってその数多人々が間違っているという話ではない。 ただ、少しばかり考え方が違っていたのだ。 陽光も厳しい時期になり、その暑さに外出する気分にはならない。しかし、だからといってやらねばならないことが跡形も残らず消え失せるということもない。残念なことに外出はやむを得ず、結果として汗を滲ませているのである。例え手拭いでそれを拭き取ろうが、こびり付く不快感は拭えないのが目に見えていた。 これでもかと地上を照らす眩しさに目を細める。目で見る世界が狭まった為だろうか、段々と鮮明になる蝉達の鳴き声を感じた。元より目で見ていようがそうで無かろうが、やはり蝉の声は常に聞こえている。だがそういうことでは無い。 耳に入る音と、音を聞くこととでは似て非なるものである。そして改めて蝉達の声を聞き、そこに思い馳せるというのは忘れて久しい行動であった。 それだけに留まらず、普段当たり前に生活するその街並みを改めて見回すと、分かっているようで少しぼやけた記憶が、どんどん刷り直されていく。 あの建物は料理屋だったのかだとか。あそこには木が何本だとか。以前あった建物が改装されているだとか。世界が鮮明になる時間は、確かに存在している。そしてそれは、この偶然が無ければいつの機会になっただろうか。そう思うのだ。 いつしか赤は青へと姿を変え、我々歩行者はまた歩みを進める。 赤は停滞である。そう考えれば不幸なのかもしれないが、私からすれば赤であったお陰で出会えた世界があった。 これを幸せと呼ぶには、些か阿呆らしいだろうか。 私が思うに、幸せとはこの世界に判然と存在する訳ではない。実際のところ、ただどこかで起こった出来事を自らが認識した時、それに応じて幸せを生み出すものなのだ。 確かに足止めをされたと思えば、それはそういう不幸かもしれない。しかし、足を止めたからこそ得られたものがあったのなら、それに幸せを感じるだろう。 笑う門には福来たるということわざがあるが、同じ状況であってもそこに幸せを見い出せる人間程、笑顔で過ごすことが出来る。それは正に人生の福であり、笑う門には福が来るのである。 熱風はやはり耐え難い。出来れば冷房の効いた屋内に素早く避難したいところである。しかし中々どうして、徒歩というのは遅く不便だ。しかしこうして活用しなければ身体は衰えるばかり、であればこの機会を活かす他無いだろう。 ─そういえば、いつ頃から白熱電球は現役を退いたのだろうか。 そんな小さな疑問を胸に、前へと進むのであった。

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復活

「よっ、体調治った?」 かつて一部の世を震撼させた概念。しかし未だこの世界では実現していない筈の夢…所謂フルダイブを彷彿とさせるような世界。 何故そう思ったかと言えば、目の前の存在が無からこちらを覗いているからだ。より詳しく説明をすると、まず顔の上半分のみが露出していて、それより下は見切れた写真のように存在していない。空中から顔の上半分だけが、ひょこりとこちらを覗いているのだ。私は間もなく気が付いた。 −あ、夢だわこれ。 左右に目をやりここが何処かを確認すると、見覚えのある様子ばかりが目に映った。どうやらここは自室のようであり、私は布団の上だった。 「体調は治ったけど…君誰?」 質問に返答をすると、まるでアバターが生成されるかのように全身が露になる。先程の感覚に則って語彙を並べるのなら、ログインしたといった感じだ。 「ボクはボクだよ」 「あー、回答になってないけど」 謎の人間、もといアバターと呼ぶことにする。そのアバター君は少し考える素振りを見せると、もう一度口を開いた。 「誰って言われても、キミが一番よく知ってるじゃない」 私はアバター君のことなんて知らないが、夢だからなぁ…。 「あ、うん。それで何か用かな」 「用っていうか、背中を押しに来たんだ」 「背中を押しに…」私が呟くと、「そう、背中を押しにね」とアバターは言った。 「サボりは駄目だと思うんだよね、ボクは」 アバターは忠告をするように私に言うと、肩に触れられる程度の距離まで近付いた。 忠告の言葉を受けた私は、少し胸が締められるような感覚に陥り、夢に必要の無い汗が流れるのを感じていた。 「何となく分かった。まぁ私の夢だし、君も私なんだね」 「気付くのが遅い。減点」 「耳の痛い言葉だなぁ。でも実際気が付きたく無かったというか、なんというか」 窓に目をやると、小鳥がガラスをつついていた。 「とにかく分かってるなら余計ダメだよね。サボりは」 躊躇の無い指摘に、我ながら手厳しいと思う。でも、それだけ私自身がそう思っている証拠なんだ。 「そうだね、でも体調を凄く崩したのは事実だし、情状酌量の余地も…」 じっとこちらを見るアバター君の瞳に、私の言い訳は声を失った。 「はい、すみませんでした。ちゃんとやります」 「うん。自分の為にやってるんだから、サボったら困るのは自分なんだよ。気を付けてね」 そう言い残し、アバター君は姿を消した。ログアウトしたといったところだろうか。 私は立ち上がり、窓へと向かう。 未だに嘴でガラスを突く音が鳴り止まないので、思い切って窓を開け放った。 鳥は羽を撒きながら部屋を一周し、大空へと羽ばたいていった。 空は青いなどと立ち尽くしていると、足元に何か転がっていることに気が付いた。 −これは、原稿用紙か。 私はぐんと伸びをして、なんだか清々しい気分で前を見る。 「さて、やりますかぁ」

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気狂いパペット【中】

「…怖っ!酷い話だぜ…俺は処刑してもいいかと思うけど、皆はどうだ?」 また、意見が飛び交う。 ♡ 人殺しは流石に… ♧ まだ情報が足りないかも ♤ 処刑!処刑! ♢ 処刑してから考えますか? © まだ保留 「うーん、みんな色々な意見があるみたいだな。俺は多分処刑したらゲームが終わっちゃいそうだから、ここは保留することにするぜ!」 「聞いた意味ねーじゃん」 呟いている内に、場面の転換が始まる。 次の舞台は白を基調とした空間であり、また画面に一人の人間が立っている。 その人間は黒の衣装を身にまとい、片手で本を抱えている。本は分厚い革表紙の一冊であり、首には金属製の装飾品をかけていた。 「あの村ですか…」 皺付きの肌を更に深め、考える素振りを見せる。 「私はあの村に一度、訪れたことがあります。悪魔憑きの子供が居ると教会まで訪ねられまして、ですから私が確かめに行ったのです。そこで私が見たのは、村人に石を投げつけられる少年の姿でした。私は皆を窘め、少年と話をしました。私が話したのは至って普通の少年でしたので、私は忌み子などではないと告げたのです。しかし、翌日の出来事でした。念の為に様子を確かめるべく村へ訪れると、黒煙が立ち上っているのが見えました。私に出来ることはありませんでしたが、後に皆様から聞いたのは、あの少年が火をつけたということでした」 セリフの終了と共に、画面がフェードアウトする。そして、また表示される。 【貴方に問います。貴方はこの少年をどうしますか】

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欠癖症

鼻腔を掠める仄かな胞子の渋苦い匂いが、そよ風に混じり部屋中を駆け巡る。合わせて揺らぐ引物は搭乗口の役割を果たし、清澄かつ純白の朝に客という香りを与えていた。 鼻を微かに働かせ、その事実を如実に確認すると、薄膜を貼ったように曖昧であった私の意識は、次第に晴れたものへと変化した。 目覚めを理解した私は、ゆったりと立ち上がる。すると何やら足を擽るような、それでいて冷ややかな感触を感じ、更にくしゃくしゃと悲鳴のような音が鳴る。私は大した力を入れた訳ではないが、やはりそれは大きな音を立てている。 足を地から持ち上げると、それはヒトデのように足裏に張り付いたまま持ち上がった。それを剥がしつまみ上げると、先日酒のアテにしていたスナック菓子の残骸であることを捉えた。また足を下ろし少しずらすと、カラカラと転がる音が鳴り、また一歩踏み出すと何かを蹴飛ばした。 僅かな間に幾許かの感触を足に与えた私は、クローゼットへと手を伸ばす。洒落た格好には疎く、またそれに対し何か思うところがある訳でも無い。ただ、世俗という無数の刃が私をそうさせるのである。 仕事というしがらみのない今日は、空の下を歩くつもりであった。無造作な格好を人様が見られるであろう程度に整えた後、私は荷物を持って扉を開く。まず見える風景はフィルムのように横に長く遮られている。それはここが集合住宅の一室に過ぎないことを私に教える目印である。人はハニカムを食らうが、人もまたそのハニーに過ぎない。そして私もまた、ハニカムの一部である。 青と白のコントラストが、私にはどうも眩しく思えた。人々の往来は騒々しく、大抵の大衆にとってそれは無音なのだ。近頃の人々は耳栓をつけて世を渡るが、結局の所その耳栓もまた聞くに絶えない音を立てている。それでは全くもって喧騒と相違ないであろう。なのにやはり、それに嫌な顔一つ見せないのだから大したものである。これだけの世界が目の前にありながら、手に取った板から目を離さないのは何故であろうか。私にはそれが分からないが、しかしそうしていなければ私とぶつかることも無かったであろうに。 何を言う訳でも無く、ただ嫌そうな顔をしたまま通り過ぎた彼は、何を考えているのだろうか。ただやはり、彼らは皆耳栓を付けているのだろう。 疑問に疑問を重ね、その解決を成す前に目的の場所へと到着する。何も特別では無い、ただの大型ショッピングモールというものである。 透明なスライドドアは、私を従順に通す。時に私はそれに胸を撫で下ろすが、やはり不安になる。いつしかそのドアは私を通さなくなるのでは無いかというささやかな杞憂が、どうしても拭えないのである。ドアは人に従順だが、やはり私は不安であった。 焦燥に近い心を胸に携え、足を踏み入れる。 眼前に広がるのは、様々な様相を持つ店の数々である。しかしそのどれもが、私にとってピントの合わないショットに映った。それは私が、何も目的を持ち合わせないが故であった。 大抵このような場所は、目的を持ち得る人々の場である。ただ私はそうではない。自身ですら何故ここを訪れたのか、皆目見当もつかない有様であった。 そもそも私は、こういった施設を好まない傾向にあった。好まないというのは、ショッピングモールに限った話ではなく、大抵の施設に於いてそうである。無数の足跡はそれを残さず、塵を許さない空間に身を置く時、私はどうも落ち着かない感覚に陥る。 胸ポケットから顔を覗かせる小箱を覗くも、やはりそれに手を伸ばすことは無く目を逸らす。私が産声を上げた時、既にそれを持っていたのでは無いかと錯覚する程に、いつの間にか日常に潜んでいた小箱。しかしそれを無闇に用いることは、世俗が許さないのであった。 施設という施設で、私が居心地の悪さを感じない場所と言えば、地下に造られた電車の路線程度である。過剰に照明に照らされず、また地は美しく無く、時に虫が走り抜け、水の滴りが耳を通るあの空間が、私にはすり切り一杯の米のような納まりを感じるのだ。 そのどれもが魅力を感じることのない道を流れ、生活用品や生理用品、薬品を取り扱う店。所謂薬局で足を止めた。オープンに切り開かれ、道に面したその面持ちに私はやはり些かの居心地悪さを感じるも、中へと進む。 棚に次ぐ棚には様々な商品が取り置かれているが、私は殆どを素通りし、ぐるりと中を一周する。一角に鎮座する小さな薬局である為に、それには大した時間を要さなかった。 私は一番初めに見た棚の前へと戻り、商品群に目をやる。その並びを注視すると、商品と商品の中間に検討をつけた。そして、隣合わせの商品を二つ手に取ると、左右を入れ替えた。 モールを抜け、入りと別のドアを背にすると、そこは緑を散りばめた、所謂憩いの空間が広がっていた。私は昔から木々や草花と気が合うなどと一方的な好意を抱いていたが、この空間にはどうも胸が痛む。ただ、やはりそのあるがままを受け入れる姿勢は変わらず、私にとってそれが天にも登る救いであった。 足早にその空間を抜け、往来を横目に脇道へと逸れると、進行方向を回るように変え、あの集合住宅があるであろう向きへと歩みを進めた。この僅かな転換ですら、私は恐ろしいと感じる。ブロック状に整えられた脇道を回るには、幾度もの直角を渡るのである。それは整然なのだろうが、私はどうも受け入れ難い。 私はただ歩いた。様々な事柄を思案しては、やはり歩いた。 風景は流れるも、そのどれもが私には同じように映る。 似たり寄ったりの家々を眺めるうち、実家というあの家を想起した。 それはなんの変哲も無い一軒家であり、やはり均整であった。清潔に整えられ、塵一つ見当たらず。そんな家庭で私は育った。いつしか私が自室で暮らす中、母がその扉を開き言ったことがある。「清潔にしなさい」と。 母は胞子を嫌うようなきらいがあり、私に対し幾度もそれを指摘した。当時から今の今まで、私には理解及ばない話であった。 私はただ暮らしたいだけなのである。 いつしかかのハニカムへと私は辿り着き、半ば吸い込まれるように扉を開いた。 部屋に戻った私は無造作に清潔を脱ぎ捨てると、また様々な者共を足蹴にする。 鼻腔を掠める仄かな胞子の渋苦い匂いが、そよ風に混じり部屋中を駆け巡る。合わせて揺らぐ引物は搭乗口の役割を果たし、清澄かつ純白の虚に客という香りを与えていた。 鼻を微かに働かせ、その事実を如実に確認すると、やけに疲れた瞼は心地良さの中に目を閉じるのであった。

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気狂いパペット【上中】

「みんな、唐突過ぎて俺は戸惑ってるぜ…選択肢は処刑か保留の二つ。とりあえず俺は保留を押そうと思うぜ」 ♤ 処刑!処刑! ♡ いきなり処刑は無いわ笑 ♢ ちょっと処刑気になりますね… ♧ 流石に保留かなぁ 加速する流れの中に、様々な意見が渦を巻いている。 ©『保留【1200¥】』 「んん?投げ銭ありがとうございます!保留ですね?私と同じだ!ということで、保留でいくぜ~」 カーソルが保留をクリックすると、場面が転換する。 打って変わって背景は、重苦しい雰囲気を待とう村の一角。その画面には、立ち塞がるように並ぶ村人と、それよりも手前に一人の女性が立っている。 「その子供は処刑すべきです」 淡々と、それでいて感情を牙のように張り出したフルボイスが、耳を貫いた。 「その子供は忌み子です。畑を壊し、物を盗み、様々な悪事を働きました。そして…」 「私の子供が殺されました」 「どうして、その子はまだ生きているのですか?私の子供は命を奪われ、姿はもう見ることが出来ないのですよ。話すことも、遊ぶことも、触れることも。ああ、どうして私の子供が殺されなければならないので…」 とめどなく溢れ出す絶叫は、言葉を重ねる毎に狂気を増し、淡々としていた声色は涙を含み始め、狂乱の姿と共にフェードアウトする。 【貴方に問います。貴方はこの少年をどうしますか】

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