始まり

「いやはや、向かい合って話せる人は久しぶりですな。まだ、こんな場所にも生き残りの方がいたとは」 暖かな陽光が窓から差し込んでいる。その先に置かれたささやかなテーブルには二つのマグカップが置かれ、向かい合うソファの座面は、深く重みを受け止めていた。 「ええ、ボクも驚きました。まだ他に人がいたなんて…」 マグカップに手をかけ口元に寄せると、飲みなれた珈琲の香りが強まる。しかし、今はその匂いもあまり分からない。 「不躾な願いで申し訳ありませんが、何かお話を聞かせて頂けませんか?」 一口啜り息をつくと、彼を真っ直ぐ見据える。 彼は静かに口角を上げ、同じように一口嗜むと口を開いた。 「もちろんです。泊めていただいた上に珈琲まで、その程度の事でよろしければ喜んでお話致しますよ」 そうして、短くも長い冒険譚が幕を開けた。
じゃらねっこ
じゃらねっこ
ねこじゃらしが好きなので、じゃらねっこです。