七宮叶歌

365 件の小説
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七宮叶歌

来年の公募応募に向けてカクヨムで執筆中。『一春の風』公開中です。 前回公募に応募した作品はカクヨムで読めます。『想刻師のいる辺境で』で検索♪ 恋愛ファンタジーな連載と、ファンタジー、時々現代なSSを載せています。エッセイも始めました。 フォロー、♡、感想頂けると凄く嬉しいです♩ 他サイトでは、小説家になろう、カクヨム、NOVEL DAYSで投稿しています。 NSS、NSSプチコン優勝者、合作企画関係の方のみフォローしています*ᵕᵕ お題配布につきましては、連載している『お題配布』の頁をご確認下さい。 小説の著作権は放棄しておりません。二次創作は歓迎ですが、掲載前に一言でも良いのでコメント下さい。 2025.1.23 start Xなどはこちらから↓ https://lit.link/nanamiyanohako お題でショートストーリーを競い合う『NSSコンテスト』第5回は2026.9.1開催予定です。 優勝者  第1回 ot 様  第2回 ot 様  第3回 除草機1号様  第4回 黒鼠シラ様 NSSプチコンテスト 優勝者  第1回 黒鼠シラ 様

雨の日の告白

 私はあの日を忘れない。  小柄な彼はビニール傘を差して、コンビニの前で立ち尽くしていた。丁度、街路樹の脇には紫陽花が咲いていた。  普段なら立ち止まることはない。ところが、その日はポストに手紙を入れる予定があったのだ。 「あの……」  ポストの正面に立っていた彼を見上げてみる。その瞳は涙でしっとりと濡れていた。 「あっ、すみません……」  鼻声で詫びを入れられ、思わず私も頭を下げる。彼に何があったのだろう。気にはなるものの、余計な詮索は失礼だ。  用事も済ませ、ポストに背を向ける。すると、彼の方から声を掛けてきた。 「お時間、ありますか……?」  まるで縋るような瞳で私を見詰める。そんな顔をされては、断るに断れない。 「……はい」  気付けば小さく頷いていた。  喫茶店で話を聞いてみると、彼は兄に結婚を反対されたという。原因は彼女で、浮気の疑いがあるらしい。彼はその話を信じておらず、私に女としての勘を頼ってきたのだ。 「俺は……やっぱり、騙されているのでしょうか……」  初対面の人にこんなことを言っていいのかは分からない。でも、私は傷付いている彼に嘘をつけなかった。  頷いてみせると、彼はがくりと肩を落とす。 「そう、ですよね……」  あまりの落胆ぶりに、私は彼を家まで送り届けることにした。軒先では、若い男性が険しい表情で私たちを出迎えてくれた。 「あんまりめそめそするな」 「うん……」  弟とはあまり似ていない。大柄な兄に肩を叩かれ、二人は自宅へと入っていった。  その一年後、同じ雨の日に、あの場所に立っている。 「俺と……結婚してくれますか?」  彼は不器用な笑顔でそっと囁いた。

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雨の日の告白

奪われた正義

 俺はただ、祖国を守りたいだけだった。剣を振るい、敵を薙ぎ倒す。それが俺の正義だった。  それなのに、国王は俺を拘束して裁判にかけたのだ。 「そいつは凶悪な男です! 極刑を!」  傍聴人は野次を飛ばす。それを誰も鎮めようとはしない。 「国王も殺されたくはないでしょう!」 「いつかそいつは我々にも刃を向けます!」  水を得た魚のように、次々に傍聴席から声が上がる。 「俺は、ただこの国を思って……!」 「被告人の証言は認めていない」  国王は残酷だ。俺の訴えなど、はなから聞かないつもりだったらしい。獣のような瞳で俺を睨みつける。  紛糾する裁判の中で、俺の恋人だけが悲観に暮れた眼差しを向けてくれた。  ごめん。俺は、君の手を握ることすら許されないらしい。その痛々しい視線から逃げるように、枷がつけられた両手を見詰めるしかなかった。  俺の命が尽きる前夜、彼女からの手紙が渡された。  貴方を救えなくてごめんなさい。  たった一文、それだけが綴られていた。  君が俺を思い出してくれるのなら、それだけで満足だ。俺には諦めの気持ちしか残されていなかった。  絞首台の上で、叫ぶ。 「俺は救国の騎士だ! いつか、この判断を悔いる日が来るだろう!」  その日が本当に来るのかは分からない。そうであって欲しい。ただの願望だった。

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奪われた正義

『空を渡る王女』の削除について

今回、6月いっぱいで『空を渡る王女』(他のサイトでは『異国には嫁に行きたくないので、空を渡ることにしました』というタイトルです)の削除をすることにしました。 理由はマイナスなものではなく、むしろプラスで、改訂版を公募に出すためにカクヨム以外のサイトでの掲載は規定違反になるためです。 なので、カクヨムでは掲載し続けます。 Noveleeで読めるのも一ヶ月半ほどなので、是非、この機会に読んでみてください。

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『空を渡る王女』の削除について

第4回NSSコンテスト 決勝戦 結果発表

 出場者の皆様、審査員の皆様、お疲れ様でした。  お時間が参りましたので、結果発表をしていきたいと思います。  3位、1位、2位の順で発表をしていきます。  それでは、  第3位は  En No.9 木のうろ野すゞめ 様(830点)  第3位、おめでとうございます!  優勝は  En No.6 黒鼠シラ 様(885点)  優勝、おめでとうございます!  準優勝は  En No.3 ツー 様(852.5点)  準優勝、おめでとうございます!  優勝された黒鼠シラ様、おめでとうございます!  そして、準優勝、3位を獲得されたツー様、木のうろ野すゞめ様、おめでとうございます!  予選・決勝を通して、非常にハイレベルな企画となり、点数をつけるのにもかなり苦戦しました。  詳しい点数や感想・アドバイスは後半に纏めていますので、お読みいただけたらと思います。  これにて第4回NSSコンテストは終了させていただきます。  第4回NSSコンテスト優勝者は黒鼠シラ様です!  祝福コメントもお待ちしております。  出場者様、審査員様がいなくては、この企画は成り立ちませんでした。  参加して頂いた皆様、そして、出場者様の小説を読んでくださった皆様に感謝を申し上げます。  本当にお疲れ様でした!  第5回NSSコンテストは2026年9月1日を予定しています。  またの参加をお待ちしております! ※エントリーナンバー順に、審査員の点数、感想・アドバイスを掲載します。厳しいからと言って、審査員を批難することはおやめください。 ハイレベルな戦いだったため、アドバイスが厳しくなっています。ご了承ください。 En No.3 ツー 様  ot 様 84点  七宮   85点 ・読後感がすごく切ないです。フランス語の意味を調べてみて、なるほどな、と納得できました。情景描写が美しいです。ただ、曖昧になっている部分が多く、映像として思い浮かべられない作品になっています。主人公と彼女の関係は医者と患者なのか、患者同士なのか、昔からの恋人なら、何故、彼女の死の一週間後に病室に入れたのか。年齢も分からないので、表情の想像も難しいです。作品の雰囲気だけ伝えるのではなく、読後に印象に残したいのなら、人物描写を入れるべきかな、と思います。 ・面白かったです。切ないお話でした。雰囲気のつくり方が上手だなと思いました。予選から感じていましたが、お題の扱い方が面白いです。遅咲きの桜がトリガーとなって思い出される悲しい記憶。だけどなんだか結末は辛いだけではなく、最初から最後までしんみりと読ませていただきました。一点気になったのは、重要な人物であるはずの彼女の造形が薄いことです。どんな見た目だったのか、どんな性格だったのか、なぜ、桜を見るとフランス語を思い出すのか。文字数的にきついですししょうがないのかもしれませんが、説明不足がどうしても目立ってしまいます。全体的に、大まかな内容や雰囲気は良いのですが、そこに頼りすぎているなという印象を受けました。もうすこしディテールが欲しいです。とはいえ、余韻の残る美しい作品でした。作品に不明な点を作りすぎないのを意識することだけ必要かなと思いました。頑張ってください。 En No.6 黒鼠シラ 様  ot 様 88点  七宮   90点 ・とても面白かったです。そうきたかという終わり方でした。届かない音に対する疑問や好奇心から破滅に追いやられてしまう。人間の身体について、踏み込んではいけない領域に踏み込んでしまったらどうなるか、このお話にはそういう類の神秘が描かれています。短い文字数に良くまとめたなと思います。全体的に、予選よりも完成度が高く、不穏さが渦巻く面白い作品でした。惜しいと思ったのは、細かな文章についてです。所々読んでいると引っかかる感じがあります。ここは僕の個人的な意見になりますが、特に一段落目、『学んでいる』と『身につけている』が一文の中に、同時に存在していることに違和感を覚えました。『様々な』と『奥深い』も、どっちかで良いと思います。とても細かいところですが、そういった言葉遣いに伸びしろがあるかなと思います。ですが、本当にそれだけです。素晴らしい作品でした。 ・ラストはそう来るか、と非常に面白く読ませて頂きました。未知なる音なんて聞く機会はないだろうに、恐れてしまうのは学者の性なのかな? とも思えました。投稿期限ギリギリだったので、推敲する時間がなかったのだろうな、と思われるのが悔やまれます。『恐ろしく』と『恐怖』が意味で重なっていたり、『奥深い知識』で引っ掛かりがあったりしました。ですが、発想は素晴らしいです。これからも磨きをかけていってください。 En No.9 木のうろ野すゞめ 様  ot 様 82点  七宮   82点 ・主人公が初の飲酒が赤っ恥をかいてしまうという残念な内容に、私も笑ってしまいました。タイトルに『激甘』とあったので、最初は同僚が異性かと思い込んでしまいました。長文タイトルあるあるなのですが、タイトルでのリードミスは痛手になってしまいます。また、Noveleeは長文タイトルよりも短文でドン! とインパクトのある方が読まれる傾向があるような気がしています。文中の()も浮いてしまった感じがあります。最終段落も一気に時間が飛んでいるので、改行があった方が分かりやすくなるかと。とはいえ、語彙力があり、表現力も高いと思います。構成力を磨き、是非また読ませていただきたいです。 ・面白かったです。やはり予選同様に文章が良いです。語彙力が際立っていると思います。くすっとなる感じで良かったです。自然と笑みがこぼれる作品という印象です。ただ、どうしても僕には内容を理解しきれないところがありました。なんとなく中盤までは描写でわかるのですが、最終段落が私の中で未だ謎に包まれています。具体的に何が起きたのか明言している箇所が少なく、釈然としない状態が続きます。こういうのはあまり掌編向きのストーリーではないかなというのが私の意見です。文体についてはアドバイス等は特にありませんので、あとは、掌編として、中身で読ませる努力だと思います。普段から書いてみることが一番だと思うので、五百文字という制限があっても読者がわかりやすくあることができるストーリー作りを頑張ってください。

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第4回NSSコンテスト 決勝戦 結果発表

第4回NSSコンテスト 1回戦 感想・アドバイス

出場者の皆様、お疲れ様です。 こちらに感想・アドバイスを載せます。 審査員名は伏せさせていただきます。 厳しいご意見もあるかもしれませんが、率直な感想ですので受け取ってください。 また、厳しいからと言って審査員を批難することはおやめください。 エントリーナンバー順に掲載します。 En No.1 蒼 様 ・情緒的で美しい感情表現で、余韻に浸れました。タイトルの回収も綺麗です。 ただ、今回の作品は詩のように感じられました。このコンテストは掌編小説を求めているものなので、どうしても詩としての点数になってしまいます。 短い中にも物語性(起承転結など)があれば、小説らしく没入感のあるものにできるはずです。 読みやすく、文章が美しいだけに勿体なく感じてしまいました。 ・詩的で文章が美しいなと思いました。ノスタルジックな雰囲気があって、読んでいてじんわりくるものがあります。とにかく表現が良いです。抒情的で、切ない雰囲気が伝わってきます。ただ、だからこそ気になった点もあります。具体的な展開が乏しいことです。秘密基地を訪れて、少し回想をして終わるという感じで、ストーリー性に欠けます。これでは(文体も相まって)詩や長編小説の書き出しのようです。掌編としてしっかり完結させるための一文、もしくは単に結末が欲しいと感じます。読み心地が良い文章は書けていると思うので、後は、掌編にふさわしいストーリー構成にすることさえできれば、大方ばっちりだと思います。頑張ってください。 En No.2 如月 紅葉 様 ・初々しさが感じられ、アイデアも素晴らしいと思います。 ただ、主人公に感情移入ができませんでした。理由は地の文のほとんどが『動詞+した』で終わっているからだと思われます。主人公の感情がほぼ伝わってきませんでした。文章の処理も『〜した』だけではなく、『〜する』『〜だろう』『〜だ』など、いくつかのパターンを用意した方が読みやすいです。 まだまだ伸び代は大きいので、ぜひ力をつけていっていただきたいです。 ・恋や友情の予感がする、良質な青春のお話ですね。授業中のワンシーンをリアルに切り取っているなと思います。読んでいてちょっぴり懐かしい気持ちになりました。気になったのは、文章に無駄が多いことです。『○○』はあまり使わない方が良いです。セリフの語尾がカタカナになっているところは個性的と言えますが、一貫していないためか違和感を覚えます。鍵括弧の中は文末に句読点を打つ必要はありませんし、そういったところで文字数を節約していくべきです。推敲の余地も十分にあるはずなので、余分なところを削って既定の文字数の中に収めることさえできればより良い作品になると思います。 En No.3 ツー 様 ・毒林檎のお題でダークな現代の小説が提出されるとは思っていませんでした。アイデアが素晴らしく、結末にも頷いてしまいます。 また、Noveleeらしいページのコマ割りもよかったです。 気になったのは、改行の多さ。横読みのWeb小説では改行しないとかなり読みにくいですが、縦読みだと文章が分散してしまいます。 作品自体は非常に面白かったです。 ・面白いです。毒林檎というファンタジックなお題から、現実的でダークな作品を生み出す発想力には脱帽です。性悪説のような、人間の根源にある汚いところをしっかり描けています。締め方も綺麗で、テーマに則したものになっていて高評価です。気になったのは文章面です。単調すぎるかなと思います。多くの段落がシンプルな短文で構成されていて、映像作品のナレーションのような印象を受けます。書き言葉には様々な語法がありますから、それらを駆使して文章としての面白さを深めていきましょう。掌編だからといって軽い作品を目指すのではなく、五百文字という制限の中でどれくらい深められるか、という意識を持つことがとても大事だと思います。頑張ってください。 En No.4 はるきち 様 ・主人公の感情が欠落しているはずなのに、読み手としては胸がきゅっとなりました。続きが読みたくなる内容だからこそ、小説の途中で終わったような気がしてしまいます。 回想部分をいっその事カットしてしまって、結末をはっきりさせてもいいかもしれません。 一文が長すぎるなと感じる部分もありましたので、『、』の調整もしてもいいかもしれません。 とはいえ、共感しやすい主人公の心情を書けるのは流石だと思います。 ・読み手の感情を静かに動かす作品だと思います。共感と言いますか、誰でも想像しやすい情景があり、そこに自分を重ねて何かしらの思索を生むことができます。文体も綺麗に整っていて読みやすいです。その一方で私が気になったのは、やや断片的に感じるという点です。五百文字という制限の中で、掌編という体裁にまとめきれていないように感じます。最後の一文から大きな物語へと展開していくような、長編小説の書き出しみたいな印象です。掌編という独立した物語として、その枠内で完結させることが必要だと思いました。終わり良ければ総て良しというわけではありませんが、締め方はとっても大事だと思います。頑張ってください。 En No.5 除草機1号 様 ・どんでん返しの仕組みは流石です。ですが、一度読んだだけではなかなか理解ができず、何度か読み直しました。 王様はただの寿命だったのか。どうして寄生虫の死で毒林檎の呪いを理解できたのか。その辺が私の中で、まだ分からないままになっています。 文字数制限の関係だと思いますが、『、』が少なく読みにくいと感じる部分もありました。 期待が大きかっただけに、この点数に留まってしまいました。 ・独創的な作品だと思います。寓話的で、毒のある結末が良かったです。ですが、ところどころ解釈に迷う描写があるのが気になりました。林檎を食べないことが毒なのだったら、林檎を食べた王はどうして死んだのでしょう。違う理由があるにしても、『それを食べた王は直ぐに死んでしまった』と書いてしまえば、林檎が死因のように見えてしまいます。そこからも、なんだか見当違いな方に話が進んでいき、最終的になんか良い感じに収まったなという感じです。中盤の描写がとても曖昧だと思います。ディテールは増やしすぎずに、シンプルに序盤の王の死について掘り下げてから終盤に向かう方が自然な感じがします(個人的な意見ですが)。頑張ってください。 En No.6 黒鼠シラ 様 ・まさかの日本神話! 掌編小説でよくぞここまで綺麗に書けたな、と驚いてしまいました。 一文が長い部分があるので、どこかで一度『。』で文章を終わらせてから、また書き始めてもいいかもしれません。 小説の中身にアドバイス出来るような部分はありません。非常に面白く読ませて頂きました。 ・面白いです。昔話や寓話みたいで独特の感性があります。内容だけでいうならあるあるネタに過ぎないはずなのに、文章がやけに壮大で、登場キャラのスケールも神だとかぶっ飛んでて、そういったギャップのおかげで面白い作品に昇華されていると思います。楽しく読ませていただきました。その一方で、文章については磨けるところがまだあるなと個人的に思います。内容など色々相まってしょうがなかったのかもしれませんが、それにしても漢字が多くて読みづらいです。『時既に遅し』は『もう遅かった』にするとか、もうちょっと柔らかい文章にしても良いと思います。内容はとても良いので、あとはどれだけ(すらすら入ってくるという意味で)読みやすい文にできるか、だと思います。頑張ってください。 En No.7 たかお 様 ・何気ない恋人同士のやり取りかと思いきや、ラストでそう来るか、とドッキリさせられました。どんでん返しだからという理由だけではなく、その原因の一つに、はっきりとした伏線がないように感じたからだと思われます。心臓に持病があるのなら、彼女が痛そうに胸を摩る、咳が出る、など、何かしら症状があった方がいいかもしれません。 ・切ないお話で、とても綺麗な結末でした。普遍的な日常の描写から、意外で悲しい結末への持っていき方がとてもお上手です。読後の余韻がとても良かった。内容についてアドバイス等はありません。文章についてはいくつか気になった点があります。会話の流れが少し不自然なように感じました。そのせいか、作品全体が少しチープな劇のようになっていると思います。『うん』など、短いセリフは行動描写を含ませて地の文にしてみてもいいのではないかなと個人的に思いました。鍵括弧の文末に句点を打つ必要はないですし、そうすれば字数に余裕ができて、より濃密な作品にできると思います。書き方を変えればさらに良くなると思うので、頑張ってください。 En No.8 ぺトリコール様 ・詩的で感情表現が豊かな小説で、読後にふわっとした余韻が広がりました。私にも似たような体験があるので、少し苦しくなってしまいました。それだけリアリティで、感情移入できる小説なのだと思います。時間軸が入れ替わっているので、若干掴みづらい部分がありました。体言止めを多用してしまうとくどくなりがちなので、注意してみるといいかもしれません。 ・救いがあって温かい作品でした。共感できるところがあり、心を動かされ、結末でとても温かい気持ちになりました。文章については、まず句読点の位置が面白いなと思いました。特に、最初の畳みかけるような句読点の連続に独特なリズムが出ていて良かったです。対して気になったのは、文章の構造がワンパターンなところです。もうちょっと何パターンか欲しいです。あと、これは文字数の関係上しょうがないのかもしれませんが、展開が読み手の想像力に依存しすぎていると思います。背景を読み取れる描写が四、五段落くらいしかないです。もう少し情報が欲しいです。中身を圧縮しつつ、もっと作品に奥行きを与える文が欲しいです。頑張ってください。 En No.9 木のうろ野すゞめ 様 ・非常に読み応えがありました。毒林檎視点だとこうなるのか、と面白く読ませて頂きました。ただ、一人称視点と三人称視点が混ざっている所があり、そこが惜しかったです。改行も多めなので、もう少し改行が少なくてもいいのでは? と思いました。 ですが、アイデアは素晴らしいです。自信を持ってください。 ・抒情的なファンタジーでした。不穏な内容なのに、綺麗な文章のおかげでとてもすらすら読めました。語彙力があるなと思います。それも、内容に合わせて適切な語彙を使うことができているなという印象です。マイナスで汚い感情を艶めかしく表現していてすごいです。ただ、その具体的な内容が掴めなかったです。モチーフや発想は素晴らしいのですが、掌編というよりは詩に近いなと思いました。言葉遣いが綺麗なのは良いことですが、それと同じくらい明瞭なストーリーが伴わないと、詩みたいになってしまうと私は思います。誰でも掴みやすいストーリーに仕上げることができればとても良いのではないかなと思いました。頑張ってください。 En No.10 叶夢 衣緒。 様 ・ふんわりとした読後感が心地いいです。初恋独特の報われなさが何とも言えません。そこで言わないのか……ともどかしさも感じます。 『冬の気配』と『卒業式の前日』が近すぎるので、一瞬、ん? となってしまいました。最初の『毒林檎』のフレーズも唐突に感じます。文字数制限の関係もありますが、会話があってからの『毒林檎』を出すともっと自然になったかと思います。 ・面白かったです。甘酸っぱさの中に微かな苦みがある作品でした。毒林檎の扱い方が良かったです。語り手と『彼』の間に絶妙な距離があって、何かが起きそうな雰囲気があるのに、結局何も言えずに終わるのが(良い意味で)もやもやします。一方で気になったのは、場面の変わり目と終わり方です。まず、場面の切り替えが唐突です。五百文字という制限の中、この切り替えの回数だとぎゅうぎゅう詰めになるので、数を減らしてゆとりを持たせるべきだと思います。そして終わり方についてですが、(悪い意味で)不完全燃焼感がとても強いです。どこか削って、ばちっと締めの一文が欲しいです。この二点を改善できれば、さらに面白い作品になると思います。頑張ってください。

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第4回NSSコンテスト 1回戦 感想・アドバイス

第4回NSSコンテスト 1回戦 結果発表

 出場者の皆様、審査員の皆様、お疲れ様でした。  お時間が参りましたので、結果発表をしていきたいと思います。  3位、2位、1位の順で発表し、その後で下位の方の発表をしていきます。  第3位は  En No.9 木のうろ野すゞめ 様(420点)  第2位は  En No.3 ツー 様(430点)  第1位は  En No.6 黒鼠シラ 様(440点)  決勝へ進まれる皆様、おめでとうございます!  決勝戦も一回戦と同様のルールや審査基準で進行していきます。  優勝を目指して死力を尽くして下さい。  4位以下の発表です。  4位  En No.8 ぺトリコール 様(417.5点)  5位  En No.10 叶夢 衣緒。 様(415点)  6位  En No.4 はるきち 様(402.5点)  同率6位  En No.5 除草機1号 様(402.5点)  8位  En No.7 たかお 様(355点)  9位  En No.1 蒼 様(282.5点)  10位  En No.2 如月 紅葉 様(191点)  今回は前回以上に、非常にレベルの高い大会でした。個人的に80点を超えている方でも決勝戦に進出できないという事態が発生しています。決勝戦に進めなかったからといって、自信はなくさないでください。  次は決勝戦についてです。 【お題発表】 「モニターに向かう」 「届かない音」 「遅咲きの桜」  この中から一つを選び、作品を作って下さい。お題はタイトルにしても構いません。内容はお題が分からなくなるほどでなければどうなさっても構いません。  無断無投稿、審査の放棄は今後出禁、投稿後の大幅な加筆修正は基本的に禁止でお願い致します(バグ対応などはOK。コメント下さい)。  何か質問などありましたらコメント下さい。  審査員の方も引き続きよろしくお願い致します。  投稿締切は5月12日21時までです。  タイトルに『第4回NSS決勝』とつけて投稿してください。募集には投稿しません。  それではスタート!  ⇽(続きあります) ※エントリーナンバー順に、各審査員の点数を発表します。 En No.1 蒼 様  ot 様 84点  七宮   29点 En No.2 如月 紅葉 様  ot 様 80点  七宮   48点  文字数超過につき129点減点 En No.3 ツー 様  ot 様 86点  七宮   86点 En No.4 はるきち 様  ot 様 83点  七宮   78点 En No.5 除草機1号 様  ot 様 82点  七宮   79点 En No.6 黒鼠シラ 様  ot 様 85点  七宮   91点 En No.7 たかお 様  ot 様 84点  七宮   58点 En No.8 ぺトリコール 様  ot 様 85点  七宮   82点 En No.9 木のうろ野すゞめ 様  ot 様 84点  七宮   84点 En No.10 叶夢 衣緒。 様  ot 様 85点  七宮   81点

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第4回NSSコンテスト 1回戦 結果発表

第4回NSSコンテスト 開催

 こんにちは、七宮叶歌です。  やって来ました『第4回NSSコンテスト』。  本日から、出場者、審査員の受付を開始します。  企画の概要は、300文字以上、500文字以内の小説で、お題に対して皆さんの作品を募り、競い合おうというものです。  ただし、詩の参加、日本語以外の言語での参加は不可とします(Japanese only)。  詩とショートストーリーの区分けはしにくいかと思いますが、物語性、小説としての句読点の付け方、改行など、判断出来る材料はあるかなと思います。  出場人数が6名を超えましたら、上位3名で決勝戦を開催します。  決勝戦へ出場できるよう、死力を尽くしてください。  こちらは短期決戦です。1回戦は5月1日〜5月7日18時までが参加募集締切、同日21時までが提出期限、5月8日24時までを審査日、5月9日午前に結果発表とします。  決勝戦は5月9日〜5月13日21時までが提出期限、5月14日24時までを審査日、5月15日午前に優勝者発表という流れです。  審査が早く終わりましたら、結果発表・決勝戦開始の日時を早める可能性があります。ただし、決勝戦の提出期限の日時は変わりません。  基本的に未提出、辞退、棄権は認められません。  最後まで参加出来る方のみ、ご参加ください。 【出場者一覧】 現在10名 En No.1 蒼 様 En No.2 如月 紅葉 様 En No.3 ツー 様 En No.4 はるきち 様 En No.5 除草機1号 様 En No.6 黒鼠シラ 様 En No.7 たかお 様 En No.8 ぺトリコール 様 En No.9 木のうろ野すゞめ 様 En No.10 叶夢 衣緒。 様 【審査員一覧】 現在1名  ot 様  +七宮叶歌  参加表明後の未投稿、審査の放棄は、今後出禁にさせて頂きます。  投稿後の大幅な加筆修正はしないでください(表示バグに対する対応はOKとします。報告はして下さい)。 【お題発表】 「欠落した感情」 「二倍速」 「毒林檎」  三つの中から好きなもの一つをお題として作品を作って下さい。タイトルや内容はお題と全く関係ないものでなければ、どうなさっても構いません。  300文字よりも不足、または500文字を超過する毎に、1文字につき1点を引かせて頂きます。  この企画の違う所は、審査員の方にもう一つのお願いがあること。作品一つに対し、感想でも、アドバイスでも良いので、その点数を付けた理由を明記してください。  結果発表の際に、出場者様へお渡し出来たらと思っています。  甘めの感想・アドバイスをご希望の方は、出場表明と同時に甘めの感想希望である事をお伝えください。  また、審査の際にはDiscordに審査員室を設けたいと思います。初めて審査員をされる方は、審査員の希望コメントとは別にDiscordのユーザー名(英数字のもの)の記載をお願い致します。Discordの審査員室に入室が完了しましたら、ユーザー名のコメントは必ず削除してください。  審査員ご希望でDiscordが出来ない場合は仰ってください。代替を考えます。  参加小説を投稿する時には、タイトルの頭に『第4回NSS』と付けてください(数字・アルファベットは半角、漢字は全角)。ハッシュタグをつけられる方は同様に『第4回NSS』と入れてください。  検索をした時に必ず出てくるようにするためなので、全角・半角は間違えないようにしてください。  投稿後はここのコメント欄に報告をお願い致します。  新機能の『募集』にも告知を出します。そちらへの投稿をお勧めしますが、前回と同じでも構いません。また、募集への投稿の際にも『第4回NSS』とタイトルに付けてください。 【審査方法】  点数の付け方は  〜29点 詩では……?  〜49点 面白くない。  60点〜 面白い。小説として成り立っている。  80点〜 非常に面白い。緩急があり、読み応えがある。  90点〜 あなたプロの作家さんですか? レベルで面白い。  100点 今まで読んできた小説の中で一番面白い。  技術や文法など、あらゆる観点からの審査をお願い致します。  審査員の持ち点は1人につき100点満点。  審査員の方はMAX4名+七宮叶歌で、足りない場合は平均を出し、5名分として点数を付けます。  閲覧数、フォロワー増加数、♡もフォロワー数でばらつきが出てしまうため、加算はしません。  なので、出場者1人につき、500点満点で採点します。  また、決勝戦は予選の点数を持ち上がりで換算します。なので、決勝戦は予選500点+決勝500点の1000点満点です。予選から気を抜かず、創作に取り組んでください。  殿堂入りについても考え中です。  参加希望の方は、出場希望なのか、審査員希望なのかをここのコメント欄に明記して下さい。  概要を読んだことを確認するため、このページを必ずいいねしてください。  参加表明コメントに私からいいねが押されましたら参加決定です。  また、二大会続けて明らかに概要を読んでいただけない方が出たため、私から参加コメントにいいね、投稿された小説にいいね、投稿後のコメントにいいねがどれか一つでもつかない場合は参加要件を満たさないとして失格とします。  質問などありましたら、お気軽にコメント下さい。  参加者様同士のリスペクトは忘れずに!  皆様の健闘をお祈りしています。  それではスタート!

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第4回NSSコンテスト 開催

紅茶の香りに惚れて

 アフタヌーンティーの向こうには、貴女がいる。ゆらりと立ち上る湯気に脳が麻痺していく。  貴女はもう俺には届かない存在だ。来月、侯爵令息と結婚を発表しているのだ。  話し掛けたことはない。ただ、見ているだけでよかった。でも、今は話してみたい。視線を交えてみたい。そう思ってしまう。  思えば貴女に初めて会った日も、こんな穏やかな昼下がりだった。にこやかに笑う貴女に俺は惚れたのだ。  今日を逃せば話す機会なんてやってこないだろう。意を決し、口を開く。 「フリージア様、ご機嫌麗しゅう」  彼女は一瞬だけ目を見開いた後、月のように柔らかな笑みを湛えた。 「オリバー様……でしたよね? お越しくださり、ありがとうございます」  その名は俺のものではない。他の伯爵令息の名だったはずだ。容姿は俺に似ていない。しかし、それでよかった。  貴女の目に映らなくてはいけないのは、俺ではないのだから。  透き通った赤茶の液体を口に含み、香りを噛み締める。ああ、どうか貴女は幸せでいてください。そう祈りながら。  鈍く痛む胸を無視し、貴女に微笑みかけた。紅茶の香りを嗅ぐたび、俺は貴女を思い出すだろう。

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紅茶の香りに惚れて

コーヒーに酔う

 俺はコーヒーが苦手だ。特に酸味のある、あの後味が好きではない。それなのに、彼女がコーヒーが好きだという理由だけで、毎朝コーヒーを嗜んでいる。 「俺、転勤になったよ」  君が微笑む写真に向かって、溜め息を吐いてみる。君の家から近いこの場所から離れたくはなかったのに。 「大体、中間管理職なんて板挟みになるだけなんだ。ずっと平社員でもよかったのに」  平社員のまま、生活できるだけの給料がもらえるならそれでいい。それなのに。上司は俺のきっちりとした仕事ぶりを見逃さなかったらしい。 「さ、引越し準備でもしなくちゃな。どこに住んだらいいと思う?」  会社から近すぎれば仕事と生活が地続きになってしまうし、逆に遠すぎれば通勤が億劫になってしまう。丁度いい塩梅の場所を探さなくては。 「ま、君に聞いても無理があるか」  彼女がこの場にいれば、愛くるしく苦笑いでもしていたのだろう。いや、恐怖に震えていたかもしれない。  まあ、そんな時は巡ってこなさそうだ。もう一口コーヒーを含み、彼女が苦痛に喘ぐ表情を想像してみる。  テーブルの上には太陽の光を受けて鋭く光るサバイバルナイフが置かれていた。

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コーヒーに酔う

第9回N1 青へ還る夜

 私は今から、貴方の所へ行きます。  海の中で藻掻く、藻掻く。酸素を求めようと両手を伸ばしても、空気に触れることはない。赤いドレスが海月のように戯れている。  何故、私はこんな目に遭ったのだろう。最後に見たのは、確か私の恋人――レイシスの笑顔と星空だったはずだ。酷い睡魔の中でぼんやりと見ただけだから、定かではない。  手足を動かす力もなくなり、水中を漂う。ああ、私はここで死ぬらしい。狭まっていく視界はホワイトアウトで幕を閉じられた。呼吸しなくても苦しくない。水の冷たさも感じられない。    そうして目を開けてみれば、眼前にはレイシスの顔があった。 「アクシア、どうした?」  柔らかな青の瞳は、あの時の彼ではないかのようだ。心臓が掴まれたように苦しくなり、両手で胸を押さえ付けてその場にうずくまる。 「誰か! アクシアが!」  上手く呼吸ができない。何度も深い息を繰り返し、涙目で歪む床を見詰める。  気が付けば、私はベッドの上で天井を眺めていた。 「大丈夫か……?」  その声はレイシスのものだ。彼を信じてもいいのだろうか。返事をしていいのか分からず、口を噤む。 「今夜が……怖いのか?」  言っている意味が分からない。震える肩を抱くと、私の額にレイシスの手が触れた。 「そう……だよな。あれを怖がらない人なんていない」  レイシスは顔を歪め、もう片方の手で黒い横髪をクシャッと握り潰す。 「ごめんな。俺も後でアクシアを追いかけるから」  その声は震えていて、今にも泣き出しそうだ。  もしや、私が殺された当日に戻ってきてしまったのだろうか。それなら、私はまたレイシスの手で海に――。  そんなのは嫌だ。心は拒絶するのに、身体が動いてくれない。身体がベッドに張り付いているようだ。何とかレイシスに背を向け、深呼吸を繰り返す。 「アクシア。眠っていれば怖くないし、苦しくないから。だからこれを飲んで」  レイシスは錠剤を手に取ると、私の口元へと持ってくる。これを飲めば、もう後戻りできない。  首を大きく振り、目を思い切り瞑る。しかし、男性の力には敵わず、口の中に異物が入るのが分かった。それは唾液に触れると一瞬で溶けていく。 「おやすみ、アクシア。愛してる」  甘い言葉と共に、意識が朦朧としてくる。  レイシス、私も貴方を愛しています。無意識のうちに、そんな言葉が頭を過ぎった。  次に目を開けると、私は自室のベッドに寝かされていた。まだ殺されていない。不思議に思うと同時に、怖くなる。巻き戻る時間に終わりはあるのだろうか。いや、どちらにしろ私はずっと死の恐怖に取り憑かれたままだろう。  拳を握り、奥歯を噛み締める。 「アクシア様」  この声は私のメイド――サリサのものだ。私がむくりと身体を起こすと、サリサは青いドレスを翳してみせる。 「美しい青ですよね。私も見惚れてしまいました」  まるで、深海のような青だ。一瞬だけ呼吸が苦しくなり、咳き込んでしまった。 「アクシア様、大丈夫ですか!?」  サリサはドレスが床に広がるのを顧みず、私の背中を撫でる。そのドレスのひだが美しいと思ってしまった。  この青を見ていると、心が穏やかになるのは気のせいだろうか。 「アクシア様?」  サリサを困惑させてしまっただろうか。微笑んで首を横に振ってみせると、彼女はほっと片手を胸に当てた。  ドレスに着替え、くるりと一回転してみる。青い裾が広がり、まるで魚のヒレのような軽やかさだ。 「朝食の準備ができています。レイシス様もお待ちですよ」  レイシスの名に、心臓が飛び跳ねた。愛しているのに怖い。相反する感情に、自分でも戸惑ってしまう。  時計を見ると、針が逆回転をしていた。想像を超えた事態に頭がふらつき、膝ががくりと折れる。頭が床と衝突する前に、意識は海の中へと潜っていた。  青い中で、私は呼吸ができる。声も出せる。 「レイシス様、どこ?」  手を伸ばしても、誰もいない。遠い昔に、私はこんな孤独に身を置いていたような気がする。命を落とそうとしている場所なのに、今は何も怖くない。 「レイシス様……?」  やはり、私は海の中に置き去りにされてしまったのだろうか。胸が押し潰され、目頭が熱くなる。感情を引き裂かれるように、視界は灰色へと変わっていく。   「アクシア!」  目を開けると、そこは薔薇園の中だった。異様に赤い薔薇に、思わず息が漏れる。春風が心地よく頬を撫で、甘い香りが鼻をくすぐる。  心配そうに揺れる青い瞳が私の心を貫いた。 「痛むところはないか?」  この光景には見覚えがある。薔薇を見ようと立ち上がった時に、テーブルに足をぶつけて躓いてしまったのだ。頭は打っていないし、膝もすりむいていない。  何度か頷いてみせると、レイシスはにっこりと微笑んだ。 「怪我がなくてよかった」  この頃、私は不安になったものだ。この幸せがいつまで続くのか、レイシスの瞳はずっと私を見てくれるのか。胸がざわつく理由は分からないのに、焦燥感ばかりが押し寄せていた。  躊躇いながらもレイシスの片手を両手で握り締めてみる。すると、レイシスもまたその手を握り返してくれた。 「俺はアクシアの傍を離れないよ。君が何者であったとしても」  私が何者か、そんなに重要なことなのだろうか。私はアクシアであって、それ以外の者ではないのに。首を傾げてみせると、レイシスは小さく声を上げて笑った。 「やっぱり、何でもないよ」  その儚い笑顔が今にも消えてしまいそうで、胸がピリッと痛んだ。  そこで眩暈に襲われ、頭を抱えてしまった。 「アクシア?」  返事をしてあげたいのに、声が出てくれない。水に引きずり込まれるかのように吐き気を覚え、その場に突っ伏してしまった。  時間は反時計回りする――。  私は砂浜に倒れていた。波の音が聞こえ、青い空が目に映る。レイシスと出会った、全ての始まりの場所だ。 「人が……!」  遠くから叫び声が聞こえ、足音も近付いてくる。 「大丈夫ですか⁉」  身体を抱き抱えられ、ぼんやりとその人を見遣った。艶やかな黒髪に、海の底のような青い瞳――不思議と懐かしさを感じる。  「大丈夫です」と口を動かした。それなのに、声が出てくれない。そうだ、私はあの時に声を奪われたのだ。  遅れてやってきたもう一人の男性は、私の足に付いた大きな鱗を摘まみ上げた。 「人魚……?」  虹色に輝く鱗を見詰めるその人の瞳は、怪訝そうに揺れている。 「人魚って……御伽噺の中だけでしょう」  笑って軽くあしらうレイシスに、男性は首を捻る。 「君、名前は?」  「サフィーです」そう言おうとして、口を動かす。しかし、喉は氷のように固まって動いてくれない。  男性は眉間にしわを刻む。 「……とりあえず、屋敷に連れ帰るか」 「はい」  この人はレイシスの家族なのだろうか。私の事情に家族のいるレイシスを巻き込んではいけない。決めたはずだったのに、想いは止められなかった。  木の葉のような緑色のドレスを纏い、リビングに戻る。そこには何やらこちらに背を向けて話をしているレイシスと、先ほどの男性がいた。 「人魚だとしたらマズいぞ」 「どうしてです?」 「人間でいられるのは一年ほど、御伽噺の中ではな」  そこで一度、間が置かれる。 「その後はどうなるんです?」 「海に戻らなければ死んでしまうらしい」  そんな話は、私は魔女から聞いていない。ずっと人間でいられると、そう思っていた。  ゆっくりと歩みを進めると、ヒールの音が鳴る。その音でようやく二人は私の存在に気付いたらしい。 「あ、君!」 「いつからいたんだ?」  答えようにも声が出てくれない。口を結び、俯くしかなかった。 「……すまない」  男性の声が響き、時計の音だけが鳴る。気まずい。私が何か喋れたらいいのに。それも叶わず、両手を握り締める。  そこでレイシスが話を切り出した。 「君の名前を考えたんだ」  名前と言われても、もともと私にはサフィーという名がある。新しい名前なんていらない。そう言おうとしたのに、レイシスは話を止めようとはしない。 「水を意味する『アクア』と、青を意味する『シアン』を混ぜて、『アクシア』。可愛い名前だろ?」  だから、私の名はサフィーなのだ。反発しようと頬を膨らませると、レイシスが泣きそうな瞳で微笑むのだ。これでは納得する以外にないではないか。小さく頷いてみせると、レイシスはようやく晴れやかな顔で笑ってくれた。この時、私の中のサフィーは一度消えたのだ。  私は人間に憧れていた。地上を自由に歩き回り、美しい足を持ち、誰とでも恋愛ができる。  人魚はそうはいかない。地上では呼吸ができないし、足は鱗に覆われている。絶対数が少ないため、恋愛だってままならない。人間が羨ましい。唯一、身近にいた母の声も聞かずに、一人で魔女の元へと行った。 「声を出せなくなるけど、それでも人間になる?」  声は人魚の武器だ。人間なんて、一声で恋に落とせると聞いたことがある。  そうであったとしても、人間に会えなければ意味がない。  私は迷うことなく了承した。人間という生物に幻想を抱きすぎていたのかもしれない。  声の出せない私に、容赦なく噂話が飛び交う。 「あの人、砂浜で倒れてたらしいよ」 「えっ⁉ 不気味ー!」  わざと私に聞こえるように言ってみせる。嫌味な瞳、上がった口角、どれもが私の頭を沸騰させた。  その中で、レイシスだけが私に優しく接してくれたのだ。  海の中に放り出され、足は鱗のついた赤いヒレへと変化していく。呼吸もできるようになり、視界も広がっていく。見慣れた海の中だ。 「レイシス様は……どこ?」  彼は言っていた。「俺も後でアクシアを追いかける」と。きっと、海の中に身を投げたに違いない。  必死にヒレを動かし、海の中を探す。すると、海面付近に人の姿があったのだ。 「レイシス様……!」  このままではレイシスが呼吸できずに死んでしまう。涙を流しながらその身体にしがみつき、キスを落とす。  すると、レイシスの足が青いヒレへと姿を変えたのだ。瞼がゆっくりと開き、青い目は私の姿を映す。 「アクシア?」 「よかった……!」  改めて抱き着き、わんわんと声を上げて泣いてしまった。レイシスは私の髪に軽く触れ、震える声を絞り出す。 「俺も人魚に?」 「ごめんなさい。助けるには、こうするしか」 「……いや、これは俺が望んだことだから」  レイシスは小さく笑い、私の身体を抱き返してくれた。私たちは、もう人間界には帰れない。魔女も、二度も魔法はかけてはくれないだろう。  レイシスは家族を手放してまで、私を救ってくれたのだ。私も母の元へは帰らない。 「私の本当の名前は……ううん、何でもありません」  親がくれたサフィーという名も、レイシスがくれたアクシアという名もどちらも捨てられない。首を横に振り、ようやく身体を離した。 「海の中を案内しますね」  レイシスの手を取ると、前へと泳ぎ出す。サンゴや熱帯魚も心地よさそうに揺れる。泡の立ち上る音が私たちを優しく包み込んでいた。

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第9回N1 青へ還る夜