ナナミヤ

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ナナミヤ

ファンタジー、時々現代なSSと、恋愛ファンタジーな連載小説を載せています。 SS、連載小説ともに気まぐれ更新しています。 フォロー、♡、感想頂けると凄く嬉しいです♩ 他サイトでは小説家になろう、NOVEL DAYSで投稿しています。 必ずフォロバする訳ではありませんので、ご了承下さい*ᵕᵕ お題配布につきましては、連載している『お題配布』の頁をご確認下さい。 著作権は放棄しておりません。二次創作は歓迎ですが、掲載前に一言でも良いのでコメント下さい。 2025.1.23 start Xなどはこちらから↓ https://lit.link/nanamiyanohako お題でショートストーリーを競い合う『NSSコンテスト』次回2025.9.1.開催予定です。 第1回優勝者  ot 様

追憶の名残〜blue side story〜 第15章 抵抗Ⅳ

 物思いに耽っているうちに、ミユが小さく呟いた。 「そこ」  次に岩柱が姿を現す。それは氷柱とほぼ同じ大きさで、目前まで迫っていた。  続けざまに岩の魔法が放たれ、氷柱は脆くも崩れ去る。代わりに、そこには岩柱が聳えていた。  ミユが魔法を命中させたのだ。 「やった!」 「やったじゃん!」  魔法のコントロールは、正直に言うと難しい。もう少し時間がかかると思っていた。  まぐれでなければ、上達は早そうだ。直ぐに命中率は上がるだろう。  右手を上げ、ハイタッチを求める。ミユははち切れんばかりの笑顔を返してくれ、手も合わせてくれた。 「じゃあ、もう一回ね」 「え~っ!?」 「これでへこたれるようなら影は倒せないし、バテるようなら体力が足りない」 「そんなぁ……」  これで練習を止めようものなら、今までの努力が水の泡だ。  甘い見通しを立てていたのか、ミユは小さく溜め息を吐く。 「溜め息吐かない。次、行くよ」  休憩も設けずに、大地に手を翳した。氷柱は岩柱を砕き、再びそこに聳え立つ。  ミユにチラリと睨まれた気もするが、見逃しておこう。影は休憩なんて与えない。全力でぶつかってくるだろう。  俺ですら、こんなに短期間で魔法を連発する事は無かった。ミユも良くやっている。  今にして思えば、アレクもフレアも優しく指南してくれたのだろう。  そよ吹く風は俺たちを癒す事は無く、ただ通り過ぎていった。照り付ける太陽が余計にミユの体力を奪っていくようでもあった。  * * *  正午を周り、使い魔たちが呼びに来た時にはミユがヘトヘトになってしまっていた。額に汗を滲ませ、肩で息をしている。  魔法の練習だけではなく、体力面の強化も必要だろうか。どうやって連続魔法に耐え得る体力を付けたらいいだろう。一人考えていると、カイルに帰館を迫られた。  ダイヤの会議室に転移するなり、アリアに付き添われたミユはその場に崩れ落ちる。   「もう駄目~……」  それを見たアレクとフレアは心配そうと言うよりも、呆れに近い表情だ。 「おい、ミユ。大丈夫か?」 「全然、大丈夫そうじゃないでしょ」  流石に無茶をさせ過ぎただろうか。ミユの体力の無さに原因があるとは言え、申し訳無い事をした。頭を掻いてみたものの、謝罪の気持ちは伝わっていないだろう。 「おい、どーしてくれんだ。これじゃー、午後から使いもんにならねーじゃねぇか」 「ごめん、こんなにクタクタになるなんて思ってなくてさ」  正直に言うと、これに尽きる。ミユの力を過信していたのかもしれない。  すると、ミユに睨まれた。確実に。咄嗟にその頭を撫でてみる。 「ミユ、ごめんね」  俺が謝ると、ミユは小さく頷く。傍らではフレアがふふっと笑った。 「午後は休息の時間だね」 「昼飯は食べれるか?」 「食べる。お腹空いた~……」  腹部を擦るミユに、思わず笑いが零れる。俺も空腹感はあるのだ。問題はその空腹を満たせるかどうか、だ。  アリアは胸を張り、出来る使い魔をアピールする。 「今日のお昼はサーロインステーキですよ。皆さん腹ぺこかと思いまして」 「ステーキ!?」  見開かれた緑色の瞳はキラキラと輝いている。余程、嬉しかったのだろう。 「お席へどうぞ」  誘われるがまま、誰からともなく席に着く。肉とオニオンが焼ける香ばしい匂いが鼻を、食欲をくすぐる。  ステーキの横にはポテトサラダも運ばれてきた。好物の突然の登場に腹が鳴る。  俺がスプーンを手にすると、ミユもフォークとナイフを構える。 「いただきます」  呟くや否や、ミユはステーキにがっついた。  俺も遠慮なく頂こう。ポテトサラダを一掬いし、口へと運んだ。まったりとしたジャガイモとマヨネーズのハーモニーが堪らない。  左隣にカイルもようやく腰を落ち着け、同じようにポテトサラダを頬張っていた。  ミユは手を休める事無く、ステーキを食べ進める。  その勢いにアリアが圧倒されたようだ。 「そんなに急がなくても、ステーキは何処にも行きませんよ?」 「だって~」  空腹で、しかも好物を前にすれば、誰だって手は止まらないものだ。ミユが頬を膨らませるので、七人とも笑いを堪えられなかった。  ポテトサラダもステーキも平らげ、あとはケーキを残すのみとなった。サラがショートケーキを取り分けていると、不意にミユが立ち上がった。瞼は落ちそうで、目も虚ろだ。 「ご馳走様でした~」  呟くと、フラフラと扉の方へと向かっていく。   「ミユ、ケーキあるよ?」  呼び止めたが、聞こえていないようだった。そのまま扉は開き、ミユは躓きそうになりながらも廊下へと消えていった。 「よっぽどお疲れになったんですね。誰かのせいで」  カイルが茶化すので、今度は俺が不貞腐れてしまった。  俺は何も悪い事なんてしていない。全てミユの為だ。 「クラウも膨れないの」  フレアが苦笑いするので、カイルからわざとらしく視線を逸らした。 「それにしても……。クラウ様、右頬のお怪我はどうされたんですか?」 「えっ? うーん……」  一気に俺とアレクの周囲の空気が凍り付く。その僅かな変化に気付いたのだろう。カイルは少し考えた後、首を小さく横に振った。 「やっぱり良いです。サファイアにお帰りになってから伺います」  カイルが折れてくれて良かった。まだ、カイルに解呪の剣について話す心積りは出来ていない。  ほっと息を吐き、拳を握り締める。 「ミユ様のケーキは残しておいて差し上げましょう。あとでケーキがあったと気付かれたら、しょんぼりなさるでしょうから」 「そうだね」  使い魔たちは小さく笑い合う。 「それよりアリア。ミユの傍についてやっててくれ。また影がきたら太刀打ち出来ねーからな」 「はい。任せておいて下さい」  アリアはガッツポーズをし、そそくさと立ち上がる。 「サラ、ケーキは頼んだからね」  託されたサラは無言で頷いた。  どうか、今日はこれ以上、何も起きないでくれ。祈らずにはいられなかった。

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追憶の名残〜blue side story〜 第15章 抵抗Ⅳ

追憶の名残〜blue side story〜 第15章 抵抗Ⅲ

 俺の部屋にはカイルも泊まる事となった。いざとなった時に、近くに居た方が護衛出来るから。そう言われた。  カイルには、まだ解呪の剣の存在は伝えていない。何度も俺の死に際に立っていたのだ。その心中を察すると、言うに言えなかった。  カイルが部屋へ入ってくる前に、解呪の剣をクローゼットに押し込めた。あとは見付からない事を祈るのみだ。  静かに夜は更け、朝が訪れる。  鳥の鳴き声と共に起床すると、カイルはティーカップに紅茶を注いでいるところだった。 「もうそろそろお目覚めかと思いまして。朝の一杯いかがですか?」 「うん、頂くよ」  ふわあと欠伸をし、ナイトウェアのままで席に着いた。瞼を擦り、紅茶の香りを楽しむ。  今日の茶葉はエメラルド北部のものだ。培われた知識がそう告げる。 「カイル、今日の予定は?」 「八時に会議室で朝食、九時半から魔法の特訓です」  いつもの調子で朗らかに言う。  時計を見てみれば、時刻は七時半――もう少しだけ、二人でのんびり出来るだろう。 「カイルはさ」  呟いてみると、カイルはこちらを見たまま小首を傾げる。 「影を倒せたら、何をしたい?」 「そうですねぇ……」  カイルは顎に手を当て、神妙な顔付きになった。 「いつも通りが一番ですよ。クラウ様のお世話をして、たまに自分の時間が持てれば言う事はありません」 「そっか……」  その日常には、俺の存在も含まれているらしい。きっとカイルも俺の帰還を望んでくれている。ミユの為とは言え、やはり死ぬ訳にはいかない。再確認し、細い息を吐いた。  しかし、カイルは不安げに口を震わせるのだった。 「まさか、負けるおつもりじゃありませんよね?」 「絶対に勝ってみせるよ。もう、あんな想いはしたくない」 「そうですよね……。すみません」  いや、謝らなければいけないのは俺の方なのだ。あんな想いをしたくないが為に、自分の命を投げ出そうとしたのだから。  温くなる前に紅茶を飲み干し、席を立った。カイルにクローゼットを漁られる前に、自分で今日の衣服を適当に取り出す。  直ぐに着替えも終わり、カイルと顔を見合せた。 「それじゃあ、朝食を食べに行きましょうか」 「うん」  いつまでもカイルに黙ったままではいられない。いつ、解呪の剣の存在を明かせば良いのだろう。部屋を出る前に、今一度クローゼットに一瞥をくれた。  * * * 「んじゃ、この蔦からこっちがオレら、あっちがオマエらの練習場な」  俺とミユ、アレクとフレアが対面し、頷き合う。境界線は、先日ミユが魔法で出した巨大な蔦が目印だ。  アレクはニカッと笑い、腰に手を当てる。 「正午には使い魔たちが呼びに来る事になってるからな。お互い頑張ろーぜ」  手を振り合うと、アレクはフレアを顧み、俺たちに背を向けた。  この数日の成果が戦いの行方を左右する。そう思うと緊張せずにはいられない。肩を震わせ、拳を握った。   「じゃあ、俺たちも行こっか」 「うん」  ミユも頷いてくれ、俺の半歩後方を歩く。   「あのさ」 「何~?」 「いや……何でもない」  「リエルとカノンの気持ちは、一旦置いておこう。俺たちがどう進むか、それだけ考えよう」そう言おうとした。  だが、よく考えてみれば、カノンのリングを身に付けてくれたとはいえ、まだ想いを確かめ合ってはいない。俺の気持ちだけが先行するのは良くないと思ったのだ。  未来の自分を、ミユはどう思い描いているのだろう。 「それより、呪いが解けて、影を倒せたら、ミユは何がしたい?」  カイルに聞いたのと同じ調子で、ミユにも聞いてみる。  何か思う所があったのか、数秒間が空く。 「皆とのんびりしたい」  ミユから返ってきた言葉はそれだった。  皆――そこには俺も入っているのだろうか。今後の展開次第では、俺はその場に居ないかもしれない。申し訳ない気持ちが溢れてくる。 「そっか。きっと叶えてみせよう」 「うん」  何とか取り繕い、微笑んでみせる。ミユもにこっと笑ってくれた。   「そろそろ良いかな。こっちに向かって魔法を使えば、アレクとフレアを巻き込む心配は無いし」  俺たちが向いている方向には、建物や人気は全く無い。ただ草原が広がっているのみだ。  俺が足を止めると、ミユも揃って立ち止まる。 「じゃあ、最初に的当てから始めよっか」 「的当て?」 「うん。ちょっと待ってて」  昨夜、どうやって特訓しようか考えたのだ。相手は機敏に動く。しかも、瞬間移動が出来る。これが出来なければ、影に太刀打ちは不可能だ。  大地に右手を翳し、五十メートル程先に氷柱が出来る所を想像する。大きくもなく、小さくもなく、影の身長程のものを。  造作もなく、想像通りの氷柱は出現した。 「あれに岩を当ててみて。ただし、あの氷柱と同じ大きさまでの岩で、ね」  自信が無いのか、ミユは不安そうに両手を握り締める。 「大丈夫。イメージを膨らませてみたら良いよ。あの氷柱を岩が貫くところ」  ここで諦めるのなら、魔導師失格だ。  ミユは右手を地面へと翳す。間もなく地鳴りが響いた。  氷柱の二倍程の大きさの岩柱が、氷柱の手前に出来上がった。 「嘘~……」  ミユは眉をひそめ、口を尖らせる。 「まだコントロールが難しいのかな。此処から少しずつ近付けよう」  肩を落とすミユに、まだ終わりでは無い事を伝えた。  特訓だって始まったばかりだ。何度でもやり直しは出来る。  ミユは大きく頷き、再び右手を大地へと向けた。  今度は岩柱が氷柱の後方に、二分の一程度の大きさで出現する。まだまだ成長には時間がかかるのだろうか。 「難しい……」  自信を無くしてしまったのだろう。ミユは膝を抱えてしゃがみ込んでしまった。  一年程前の出来事が思い出される。俺もアレクとフレアに魔法を教わったのだ。氷柱が途中で水柱になってしまったり、大きさだってコントロールが難しかった。  あの時、アレクに何と言われただろう。 「オマエの魔法は変幻自在なんだ。それを長所とするか、短所とするか……まあ、オマエの見方次第だけどな。オレはオマエの魔法が羨ましいぞ」  確か、そんな事を言われた気がする。  何とかミユを励まさなくては。 「諦めちゃ駄目だよ。ミユの魔法は特別なんだ」 「特別?」 「うん。俺たちの中で唯一、命を咲かせられるから。あの蔦だってそうだよ」  振り向いた先には、巨大な蔦が聳えている。あの蔦だって、命あるものだ。俺たちの中で、ミユにしか出来ない芸当だ。カノンがこなせていたのだから、ミユも必ず出来る。  そういえば――と、一年前に思いを馳せて思い出した。  塞ぎ込んでいたうちに、二十歳の誕生日を迎えてしまったらしい。  特別な日と言われればそうなのだが。また来年、ミユと迎えられるならそれで良い。もう一度、特別な想いを増やそう。生きる希望がまた一つ生まれた。

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追憶の名残〜blue side story〜 第15章 抵抗Ⅲ

追憶の名残〜blue side story〜 第15章 抵抗Ⅱ

 * * *  ミユの体力面を考え、魔法の特訓は二日後から行われる事となった。加えて、重要な事がもう一つある。使い魔たちがダイヤにやってきたのだ。影の襲撃を受け、世界の監視よりも俺たちの護衛に力を入れたい、との事だった。  食事の準備は全て使い魔たちが整えてくれた。部屋の時計の針を見てみれば、時刻は五時半――こんな時だ、既に三人は会議室に居るのだろう。もしかすると、特訓の作戦でも立てているかもしれない。  そろそろ俺も会議室に向かおうか。カップに残っていたレモンティーを口に含み、茶葉の風味を楽しんだ所で喉へ流し込んだ。  そう言えば、ミユとフレアはどうやって和解したのだろう。時間の許す事があるのなら、聞いてみても良いだろう。  考え事をしながら廊下を進む。会議室の扉を開ける前に、何やら中から話し声が聞こえてきた。 「あんまりからかわないであげて。ミユは必死だよ?」  ミユがからかわれていると確かに聞こえてきた。それなら助太刀に入らねば。そう思ったのだが、扉を開けると何やら様子が違う。  困惑するアレクの胸板をミユが拳で叩く。それをフレアが傍から苦笑しながら見ていた。   「今の八つ当たりじゃねーか?」 「違うもん」 「三人で何してるの?」  聞くと、ミユははっと振り返る。  一方で、アレクは俺を見て冷笑した。 「コイツがな、オレの事を馬鹿にしてただけだ」 「なんだ、もっと言ってやっても良いよ」 「クラウも煽らないの」  フレアは言い切り、目を吊り上げる。  どうせ、俺を殴った事について話をしていたのだろう。理由はどうあれ、殴った事には変わりない。思わず肩を竦めた。 「でも、俺を殴ったのは事実だし」 「オレの暴力は正当だろ? 文句があるとは言わせねぇ」  俺も正当だとは思うが、文句が無い訳ではない。  むっとしてアレクを睨み付けると、ミユが俺とアレクの間に割って入ったのだ。此方に背を向け、アレクに首を振る。 「ミユに感謝するんだな」  アレクは深い溜め息を吐くと、長い前髪を掻き上げた。 「全員集まったんだ。これからどーするか話そーぜ」  目を細めてテーブルを見据える。颯爽と指定席に向かうと、彼はどかりと腰を下ろす。  俺も素直にアレクの後に続いた。四人全員が腰を落ち着けたのを確認し、彼は口を開く。 「オレ、考えてみたんだけどよー」  アレクはすっとフレアの瞳を見詰めると、ミユ、俺へと視線を移動させる。 「例えば、だからな。もし、光の矢が駄目になっちまって、魔法で戦わなくちゃならなくなったら、だ。二手に分かれた方が、魔法の相性良くねぇか?」 「誰と誰?」 「オレとフレア、クラウとミユだ。オレらは風で炎の勢いを強められるし、オマエらは水と岩が混ざって威力が増す」 「その手があるね⋯⋯」  フレアが呟くので、一緒に頷いてみせる。  ミユは小首を傾げた。 「威力が増す?」 「うん。自然現象に例えてみれば良いよ。俺たちの魔法が土石流で、アレクたちは火災旋風」  俺も実際に見た事は無いし、魔法で実践した事もない。小説で読んだのみだが、威力は単独の魔法と比べると何倍もあるだろう。  納得したように、アレクは口角を上げる。 「成功するかは分からねぇ。でも、やってみる価値はあるだろ?」 「うん」 「んで、オレとミユ、クラウとフレアはなるべく離れた方が良い。互いの魔法を打ち消し合うからな」  それは考えずとも分かる。水と火は互いを消し合うし、風と地も互いを遮ってしまう。  作戦が崩れる事は――あるだろうか。  数秒、間が空く。 「オマエらからは何もねぇのか?」 「全部アレクに言われた」 「おい⋯⋯」  憶測でこれ以上は何も言う事は無い。  アレクは肩を落とし、大袈裟に溜め息を吐いた。その後、咳払いをし、場を取り繕う。 「取り敢えず、明日から分かれて特訓な。他に何かあるか?」 「無い」  ミユは魔法にまだ馴染めていないだろう。最初に魔法のコントロールの仕方を教えるのが優先だ。そして、徐々に魔力を強化して――。 「ミユ、大丈夫か?」 「へっ? あっ⋯⋯うん」  俺が特訓の内容を詰めている間に、ミユは別の事を考えていたらしい。俯くその頬は紅に染まっている。  特訓で二人きりになる事に恥じらいを覚えたのだろうか。  可愛らしい仕草に、思わず笑いが漏れる。  すると、微かに蝶番が軋む音が聞こえてきた。 「皆様、お食事が出来ましたよ」 「今日はカレーにしてみました」  この声はカイルとアリアだ。  カレーなんていつ振りだろう。サファイアにそんな料理は無いから、サラに調理を担当してもらうしかないのだ。  切り分けられたバケットとカレールーが運ばれてくる。エスニックな味わいを想像し、自然と口の中に涎が溜まっていく。 「冷める前に食べよーぜ」 「いただきます」  手を合わせるや否や、ミユはバケットにカレーを付け、ぱくりと頬張った。みるみるうちに顔が綻んでいく。 「美味し〜」 「ミユの顔を見てると、作り甲斐があるよな」 「そうなんです。いつも喜んで下さるので、運ぶ私も嬉しくなります」  料理を用意する者としては、やはり喜んでもらえるのが一番なのだろう。アレクとアリアの感想にも納得だ。 「今日はサラが料理長ですよ」 「カレーだもんな」  視線を浴びたサラは気まずそうにそっと俯き、フレアに小瓶を渡した。 「これ、唐辛子?」  フレアの問いに、サラはこくりと頷く。フレアはサラに微笑み掛け、小瓶の中身をカレーへと注いだ。辛過ぎるだろうと思いながらも、いつもの光景だ。驚く事もせずに眺めていた。  俺もコク深いカレーに舌鼓を打ち、久し振りに食事を楽しむ事が出来た。  先に満腹感を味わった俺は、ミユが食べ終わるのを待っていた。彼女は皿が空になると、ナプキンで口の周りを丁寧に拭う。 「これからも、こんな日が続けば良いな」  ぽつりとミユが呟いた。 「ずっと続かせてみせよう?」 「うん⋯⋯」  未来を勝ち取って、四人で笑い合うのだ。  ミユは此方を見る事は無く、頬に睫毛の長い影を落とす。 「俺たちなら大丈夫だよ」  堪らずに、ミユの頭にそっと触れる。 「大丈夫」  必ずミユは守ってみせる。  その言葉を受け入れてくれたのか、ミユの瞼は閉じていった。  傍らでは使い魔たちが食事の後片付けをしてくれている。 「もーそろそろオレらは部屋に戻るけど、オマエらはどーすんだ?」 「明日もあるしね。早めに戻るよ」 「そーだな」  これから過酷な特訓が待っているのだ。無理はさせられない。なにも、今日が終わったら、全てが終わってしまう訳ではないのだから。 「また明日も、明後日も、その先だってあるからさ」 「私が居るのをお忘れですか?」  声のした方を振り向いてみると、アリアが円らな瞳で此方を見ていた。隣ではカイルも不服そうに佇んでいる。 「アリアも居るなら大丈夫そう」  俺たち四人の笑い声が会議室に響く。和やかな空気はしばらくお預けだ。

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追憶の名残〜blue side story〜 第15章 抵抗Ⅱ

虚ろな瞳

 風が吹きすさび、俺のやせ細った身体は弄ばれる。  こんな筈ではなかったのに。もっと高みへ行けると思っていたのに。  見通しが甘かったのか、ただ単に馬鹿だったのか。  時は数週間前に遡る。 「この薬を使えば、邪魔者は消せます」  悪名高い侯爵の懐に、そっと白い粉が包まれた紙を忍ばせる。 「有難く使わせてもらおう」  侯爵はニヤリと笑うと、俺に大金を握らせた。  俺も侯爵も幸せになるなら、これ以上言う事は無い。不敵な笑みを返し、屋敷を後にした。  俺も資産家の仲間入りだ。そう思っていたのに、侯爵は裏切った。  邪魔者を消す為に、俺が渡した毒ではなく、暗殺者を選んだのだ。自らの手を汚したくはなかったのかもしれない。 「毒は使わなかったのだ。金を返してもらおうか」  資金を当てにして豪邸を建て始めた俺に、金など残されてはいない。俺が首を振ると、侯爵は毒を餌に揺すり始めた。 「毒の存在は知られたくはないだろう? それならば、私の言う通りに従ってもらおうか」  侯爵の屋敷に監禁されるや否や、使い捨ての奴隷のようにこき使われた。満足な食事も与えられる筈も無かった。  悪名を信じていれば、こうはならなかっただろうに。俺の虚ろな瞳は自由溢れる青一色の空を見上げるしかなかった。

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虚ろな瞳

追憶の名残〜blue side story〜 第15章 抵抗Ⅰ

 その朝はけたたましく始まった。 「おい、クラウ! 起きろ!」  ノックもせずにアレクが部屋へと雪崩込んできた。表情は険しく、酷く慌てている。 「こっち来てくれ!」  何かが起きた事は分かった。それが良くない事であるとも。  嗜んでいた紅茶を零しながらテーブルに戻し、腰を浮かせた。 「何があったの?」 「ミユが……! 何でも良い、さっさと来てくれ!」  一気に血の気が引いていく。アレクが部屋を出るよりも早く、弾かれたように駆け出していた。  まさか、影の奇襲を受けたのだろうか。無事でいてくれ。じゃないと、俺がどうにかなってしまいそうだ。  ミユの部屋のドアを激しく引いた。手から離れたそれは壁にぶち当たり、壊れそうな音が鳴ったが、今はどうでも良い。兎に角、ミユだ。  付き添っていたフレアをすれ違いざまに押し退ける。周囲に散らばるガラス片もお構い無しに、床に横たわるミユの身体を抱き上げた。  温かい。しっかりと体温はある。  思い切り揺らした筈なのに、瞼は固く閉ざされ、表情の変化すら無い。 「ミユ!」  いくら呼んでも応答も無い。 「いつからこの状態?」 「分からないの……。朝、呼びに来たらもう倒れてて……」  嘘だ。こんな別れ方は絶対に嫌だ。呪いを必ず解くと、四人で生き延びると誓ったばかりなのに。 「ミユ!」  何度叫んだか分からない。ようやくミユは小さな呻き声を上げ、指を動かした。徐々に瞼も開けていく。  直ぐに目は見開かれ、頬が薔薇色に染まった。 「何があった?」  影に襲われたのなら、もう時間は残されていない。  問い質すと、ミユは俺の胸に飛び込んできた。 「怖い夢を⋯⋯見たみたい」 「夢?」 「うん。あれが現実なら、私は⋯⋯」  やはり、原因は影だ。  怖いものでも思い出したのだろう。ミユは俺の服をぎゅっと握り締める。  見ていた筈なのに、アレクは乱暴に口を開く。 「夢じゃねぇだろ。周り見てみろ」  これ以上、ミユの恐怖を煽りたくはない。震える背中に腕を回す。  止めてくれという願いも込めて、アレクを鋭い目で見上げた。  フレアは辛そうに視線を落とし、スカートを握り締める。 「魔法の特訓なんてしてる時間ある?」 「今回はただの脅しだ。じゃなかったら、ホントにアイツはミユを殺してただろ。誰も見てねー絶好の機会だったからな」  つまりは、ミユを――俺たちを葬り去る準備はまだ整っていない、という事だろうか。  それならば、まだ魔法の特訓をし、呪いを解く方法を探る時間は残されていると思って良い。 「私、やだ」  ミユは一人、俺の腕の中で呟く。そして、強い光を放ち始めたのだ。  これはワープの光だろう。  止める間もなく、ミユの姿は掻き消えた。 「……何処に行った!?」  困惑する俺たちを他所に、くぐもった轟音が聞こえた。小さく大地が揺れる。  窓の外を見てみれば、数十メートル先に土煙を確認出来た。そこから巨大な蔦が捻れながら立ち上り、天を貫く。  絶対にミユの魔法だ。こんな無茶な魔法の使い方をしてしまっては、体力が一気に削られる。命すら危うくなる。  考えるよりも早く、ミユの元へと転移していた。姿を確認すると、脇目も振らずに彼女へ体当たりをする。 「ミユ、止めるんだ!」  一緒に草原へと身体を投げ出した。ミユの身体を受け止めるように、何とか手を伸ばす。 「大丈夫だから。今度こそ、俺が何とかするから」  ミユの頭の下敷きになっていない右手で、彼女の頭を優しく撫でる。  大丈夫だから。何があっても、ミユだけは必ず守り抜くから。四人で生き残る意志とは矛盾した感情にも気付かずに、静かに涙を流しながら突き抜けるような天を仰いだ。  後から駆け付けたアレクとフレアも、辛そうに顔を顰めるばかりだった。  三人で何とかミユを宥め、アレクが出してくれた魔方陣を使ってミユの部屋へと戻る。  フレアがガラス片を魔法で修復した結果、グラスだった事が分かった。手にしていたそれを落としでもしたのだろう。  ミユをテーブルに着かせ、俺も対角へ座る。アレクが気を利かせたのか、二人分のココアを用意してくれた。甘い香りが部屋の中に充満する。  早々に二人は退散し、ミユと二人きりになった。 「落ち着いた?」  微笑みかけると、キョトンとした顔が返ってきた。何も考えられない。そんな表情だ。  それなのに。 「その怪我、どうしたの?」  あまり触れられたくない事実に触れられてしまった。 「えっ? うーん⋯⋯」  どう説明すれば良いのだろう。俺の発言が原因だとは伝えにくい。 「いや⋯⋯」  言葉を詰まらせる俺に、ミユは小首を傾げる。思わず顔を逸らしてしまった。  言わない訳にもいかないらしい。 「昨日、アレクに殴られた」 「えっ?」  端的に、結果だけを伝える。  みるみるうちに、ミユの顔は苦しそうに歪んでいった。 「痛そう⋯⋯」  呟くと、そっと右手を伸ばしてくる。その拍子に、ミユの胸元で何かが揺れたのだ。目を凝らしてみれば、繊細なシルバーのネックレスの先に、小さなリング――。 「そのリング⋯⋯」 「えっ? あっ⋯⋯」  間違いない。カノンの結婚指輪だ。  ミユは赤面し、リングを隠すように両手で包み込む。  ようやく俺を受け入れてくれたのだ。嬉しくて、嬉しくて堪らない。それなのに、心の奥底から込み上げてくる、このやり切れなさは一体何なのだろう。  胸が熱く、痛くなる。と同時に、両目から感情の涙が零れ落ちた。   「クラウ?」  何故、想いが通じたのが今なのだろう。あまりにも無常過ぎはしないだろうか、神様――。  とうとう両手で顔を覆ってしまった。  足音が近付いてきて、柔らかくて温かな何かが俺の背中を撫でる。ミユの想いを感じると、泣き声を抑える事すら難しくなってしまった。  もし、呪いを解く方法が見付からなかったら、俺は君を置いて逝かなくてはならない。俺と同じ思いを君にさせなくてはならなくなる。本当にごめん。  こんな事は考えてはいけないのに、嫌な考えが頭にこびり付いて離れなかった。

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追憶の名残〜blue side story〜 第15章 抵抗Ⅰ

追憶の名残〜blue side story〜 第14章 絶望の淵でⅢ

 俺だって、言ってはいけない言葉を言ってしまった事くらい分かっている。他人の気持ちを全く考えず、自分の感情も無視してあんな失言をするなんて。あの時はどうかしていた。  ただ、ミユの命だけは救いたいという思いに嘘は無い。たとえ犠牲を払う事になったとしても。  洗面台に置いてあったコップを手に取り、蛇口を捻る。流れてきた水をコップで掬い、溜め息を吐いた。  水を口に含むと、強烈な痛みが頬に広がる。堪らずに吐き出したものは真っ赤に染まっていた。それも新しい水が何も無かったように洗い流していく。  殺されるという事は、こんな痛みとは比べ物にならない程の苦痛を味わう事になるのだろう。前世で自分の命を粗末にしてきた俺だが、どうしようもなく怖い。身体が震え出しそうだ。  深呼吸をしながら、初めて鏡に目を遣った。頬が風船のように腫れ上がっている。フレアが心配するのも納得だ。  なんとかしてアレクに謝らなくては。気持ちを切り替え、洗面台に背を向ける。  恐らく、フレアがアレクに説教をしてくれているだろう。そう思ったのだが、既にフレアは部屋から姿を消していた。アレクだけが窓際に佇んで腕を組み、不機嫌そうにこちらを睨み付けている。  アレクは俺がドアを閉めるのを確認すると、その表情には似合わない言葉を口にした。 「悪かったな」  内容とは裏腹に、声も同じく不機嫌そうだ。  絶対に本心から詫びているのではない。俺が居ない間に強要されたのだろう。   「フレアに謝れって言われた?」 「じゃなきゃ謝んねぇよ。悪いのはオマエだからな」 「だよね」  やはり思った通りか。苦笑いをし、痛む頬を擦ってみる。そんな俺の様子に、何故かアレクの機嫌は更に悪くなったようだ。 「……さっきはごめん」  素直に謝った方が良いだろう。そう思っての言葉だった。  しかし、アレクの反応は薄い。吐息を吐き、窓の外に目を遣った。 「簡単に諦めんなよ……」  悲しい呟きが俺の心に染み入る。それでも、俺には何の事を言っているのか分からない。 「別に、何も諦めてないし」 「自分の命を諦めただろ」  先程とは違い、硬い声できっぱりと言い切った。それが矢のように胸へ突き刺さる。  言い返すべき言葉が見付からない。  口を噤んだままの俺に、アレクは言葉を重ねていく。 「オレは諦めねーからな」  どこかで聞いた事のある台詞だ。いや、正しくは以前に俺が言った台詞、なのだろう。  アレクにこんな事を言われるとは。胸が詰まる。 「魔法の特訓が終わったら、ぜってー他の方法を見付け出してやる。そんな方法に賭けてらんねぇよ」  切ない程の声を詰まらせると、アレクは右腕で頬を擦った。  申し訳なくなってしまい、アレクから顔を逸らす。倒れていた椅子を直し、なんとなくそこへ座ってみる。  謝罪を重ねたくなったが、言葉が素直に出てきてくれなかった。  ふと外へ意識を持っていくと、笛の音色が聞こえ始めたのだ。恐らく、ミユが演奏しているのだろう。  まるで、アレクへの暴言を許してくれるかのようだ。  あんな事があったばかりなのに、自然と心は安らいでいく。 「綺麗な音だ。落ち着く」  テーブルを見詰めたまま、微笑んでいた。  そのせいで、アレクの行動に気付けなかった。此方と何処かを往復する足音は確かに聞こえていた筈なのに。  耳元で、鋭い金属音が聞こえたかと思うと、右の首筋に針で刺したような鋭い痛みを感じたのだ。先を目だけで追っていくと、解呪の剣の刃らしきものが太陽の光を反射している。 「アレク。何……してるのさ……」 「怖いか?」    まるで、脅すような声だ。 「お前がしよーとしてた事は、こういう事だ」  アレクがこんな事をするなんて。固く瞼を閉じると、数秒後に首筋の痛みは無くなった。代わりに、何かを床に投げつける激しい音が部屋に響く。 「この恐怖を忘れんじゃねーぞ」  捨て台詞を吐き、足音とアレクの気配は遠ざかっていく。ドアの開閉音が鳴ると、部屋はミユの奏でる笛の音が遠くに聞こえるのみとなった。 「そんな事、言われなくても分かってるよ」  誰も居なくなった部屋で、ぽつりと小さく呟いた。  * * *  こんなにも腫れ上がった顔はミユには見せられない。確実に心配させてしまう。  アレクも流石に拙いと思ったのか、夕食は自室で摂らせてくれた。  さて、問題は明日からだ。頬の腫れが一日で引いてくれるとは思えないが、いつまでも部屋に閉じこもっては居られない。いつ、影が襲ってくるか分からないのだ。  フレアに水嚢を二つ用意してもらい、氷水を流し込む。それを膨れっ面で、両頬に当てていた。 「どうせ殴るなら、後の事も考えて殴って欲しい……」  訳の分からない事をぼやき、盛大に溜め息を吐く。   “殴った風の子も悪いけど、クラウもそれ相応の事は言ったからね。あの子が言いたい事は、ちゃんと伝わった?” 「うん」  リエルに言われるまでもない。一番悪いのは俺なのだ。 “今日はもう眠った方が良いよ。明日から魔法の特訓するかもじゃん?” 「そうなんだけどさ。頬っぺたの腫れが気になって」 “それは……もう諦めるしかないよ。一晩で治るものじゃない” 「だよね……」  ミユは自分の事だけで精一杯な筈なのに。どうしてこんな事になったのだろう。  全ては望みを捨てた過去の自分のせいだ。今はそうでないと言い切れる。  絶対に四人が誰一人として欠ける事無く、戦いに勝ってみせる。俺はもう諦めない。心に刻み付けて、満天の星空に決意表明をする。  夜は嵐の前の静けさのように、何事もなく更けていった。

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追憶の名残〜blue side story〜 第14章 絶望の淵でⅢ

罪を背負う

 天真爛漫で、繊細で、心優しい――そんな貴女が人を殺められるとは思いもしなかった。震える文字で書かれた手紙が届いたのは昨日の出来事だった。 『私は大変な事をしてしまいました。貴方と敵対するあの人を……ごめんなさい、もう貴方には会えません。どうか、お元気で』  俺が彼女の邸宅を訪れた時には手遅れだった。もう少し早く手紙の存在に気付いていれば――後悔してもしきれない。  敵対している奴は病床に居る。毒を浴びたものの、死は免れたらしい。何処までも運の良い奴だ。  その思いを俺が引き継いでみせる。ナイフを片手に、たった一人眠る奴の住まいへと足を向けた。床が軋む音に心臓が跳ね上がりそうになる。気付かれてはならない。あともう少しで奴の元へと辿り着く。  蝶番の擦れる音を最小限に抑え、ゆっくりと忍び込む。  奴は思った通り、ベッドで眠っていた。あとは刃を突き立てるだけで良い。  俺ならやれる。彼女を救える。  震える手を振り翳し、目にも止まらぬ早さで奴の心臓を捉える。  呻きもせずに奴は目を見開くと、呼吸を止めた。  これで、貴女は罪の意識に苛まれなくても良い。俺が全ての罪を背負ってやる。  その思いは彼女に届く事はなく、俺は断罪された。

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罪を背負う

お題配布④

 ご利用の際は最後までお読み下さい。 1 諦めてはいけないもの 2 願いの先に 3 潮風が香る 4 息を止める瞬間 5 飛び立つ朝に 6 夏が来る前に 7 煌めく海 8 山から見る空 9 目覚めた悪 10 波に揺られて 11 触れたい衝動 12 二度と会えない君へ 13 手を繋ぐ 14 か細い声で 15 聖者の祈り 16 無力感漂う空気 17 飲み込む渦 18 破壊された常識 19 救済の手 20 闇の底から 21 弱かった俺 22 怒りに任せて 23 悲しみの中で 24 朝に聞きたい曲 25 白昼夢 26 続け、夕日よ 27 深まる夜 28 愛情の裏返し 29 陽炎の先は 30 君とかくれんぼ 31 意味が無いなんて 32 無駄な思考 33 敗者しか知らないこと 34 復活した神 35 努力の天才 36 空のラムネ瓶 37 プールの思い出 38 達成感 39 梅雨の合間の虹 40 紫陽花の朝露 41 永遠の引き立て役 42 唯一の弱点 43 秘密は無しだよ 44 ひっくり返った宝石箱 45 欲張りだから 46 嘘が本当になる日 47 記憶に縋る 48 繰り返す後悔  企画ではありません。常時ご使用頂けます。  単発小説、SSのテーマ、表題としてご使用下さい。  ご使用の際は、一言コメントをお願い致します。  投稿の際は、カテゴリーは『お題にしないで』下さい。お題カテゴリーは、公式のお題を見るためだと思うので、ご協力お願い致します。  お題を使用された小説の盗作、模倣はお止め下さい。  お題配布、第四弾!  創作活動の気分転換や挑戦、閃きにご使用して頂けましたら嬉しいです。

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お題配布④

追憶の名残〜blue side story〜 第14章 絶望の淵でⅡ

「その剣で影を掠りでもすれば、ミユの呪いは解ける。影も消滅させられる。ただし、誰かが身を捧げる必要があるってさ」  アレクの表情は強ばり、口がわなわなと震えている。 「何でそんな話をオマエだけに」 「俺が適任だろうって言われた」  恐らく、アレクは怒っているのだろう。俺に対してではなく、神に対して。 「神は何も分かっちゃいねぇ! 今、確信した! 何で一番無茶しやがるオマエに伝えるんだ!?」 「多分、ミユを一番大切に想ってるのが俺だからだよ」 「だから駄目なんだ! そんな方法でミユを救ったとしても、何も残らねぇじゃねーか!」  アレクは怒りと混乱を隠したりはしない。大きな身振り手振りで感情を表現し、仕舞いには頭を掻き毟った。  残るものはある。ミユ、それにアレクとフレアの命は救われる。 「ミユの呪いが解けるんだ。ミユの……アレクとフレアの命だって無駄にはならないよ」 「……オマエ、まさかとは思うけどよー」  アレクは目を吊り上げ、俺を睨む。 「その方法に賭けようってんじゃねぇだろーな」  賭けなくては、ミユが殺されてしまう。たった一人遺されるなんて、もう二度と経験したくはない。リエルのような想いはしたくない。 「……俺はやってみせる」  覚悟なんて決まっていない筈なのに。諦めに似た決意が心を揺さぶる。 「本気で言ってんのか?」 「そうだよ」  ミユの眩しい笑顔が思い出される。この笑顔を絶やしたくはない。 「ミユが生きててくれるなら。幸せになってくれるなら」  言い切ると、瞼を閉じて視界を遮断した。 「ミユがオマエの居なくなった世界で幸せになれると思ってんのか!? 置いてかれたくらいで泣くくらいなんだぞ!? アイツの気持ちも考えた事あるのか!?」  今はミユの気持ちを考えてしまえば、その命を救えなくなってしまう。幸せになってくれると信じるしかない。 「おい……何か言えよ……」  椅子が傾く音がしたかと思うと、アレクの足音が此方へ向かってきた。 「何か言えって言ってんだろおぉっ!」  殺気と共に、右頬に強烈な衝撃と痛みが走り、椅子から転がり落ちてしまった。背中への衝撃も強く、一瞬、息が止まりそうになる。むせながら目を開けると、アレクが鬼のような形相で立ち、俺を見下ろしていた。  口の中に鉄の味が広がる。気持ち悪い。 「ふざけんな! その気持ちはオマエが一番分かってる筈じゃねーか! 何でだよ!? ああっ!?」  呼吸を荒らげ、捲し立てる。そんな言葉も、俺にはたいして響かない。 「んな事したらタダじゃ済まさねぇからな!」  震え上がる程の剣幕なのだろうが、俺には何の意味も無い。脅しだろうが、死んでしまった後ではもう届かない。 「良いか!? 変な気起こすんじゃねーぞ! その時はオレがオマエを──」 「でもさ、アレクたちは平気でしょ?」  一瞬の隙を突いて口を出してみる。自分の感情も無視して思い付きで言葉を並べていく。 「……何がだ!?」 「俺が早死にするのなんてさ、見慣れてるじゃん? だから二人がミユを──」 「っぁああーっ!」  叫び声に驚いて顔を正面に向けた時には、既に目前にアレクの拳が迫っていた。避けられる筈も無く、今度は左頬に命中する。  顔の向きを元へ戻す気力も起きず、目だけを動かしてアレクの様子を窺ってみた。  視界が霞み、はっきりとは見えない。俯いているのだろうという事が分かるくらいだ。俺の胸倉を掴んだままの腕の重みに加え、もう片腕の重みも同じ場所に掛かる。 「慣れて堪るかよ……! オレらが百年間、どんな思いでいたと思ってんだ!? 無茶するオマエを止められもしねーで、死なせちまってよぉ! オマエらだけじゃねーんだ! オレらだってなぁっ! ……くそぉっ!」  激しく喚き立てられた後、胸に掛かる重みが半減した。また俺の顔を目掛けて拳を振りかざしたのだろうか。  次に襲ってくるであろう痛みに備え、思い切り瞼を瞑る。しかし、予想していた事は起こらなかった。  不意にドアが開いた小さな音が聞こえ、廊下の空気が部屋へと流れ込んできたのだ。 「……アレク! 何してるの!?」  この声はフレアだ。  恐る恐る瞼を開けていくと、未だに霞んではいるが、アレクの隣にフレアの姿を確認する事が出来た。 「止めんじゃねーよ! コイツ、何も分かってねーんだ! 今分からせてやんねーと──」 「もう十分だよ! クラウの頬、真っ赤に腫れてるんだよ!? 血まで出てるでしょ!?」 「んなもん関係ねーよ!」  二人の言い争う声が左から右へと流れていく筈だった。  乾いた音が部屋中に響き渡った。フレアがアレクを平手打ちしたのだ。  アレクは自分の頬を庇おうとしたのだろう。俺を束縛する物は全て取り払われ、胸の苦しさも消え失せる。思わず「はぁ……」と吐息が漏れてしまった。  もう殴らせないようにするためなのか、すぐさまフレアは俺とアレクの間に割って入る。 「クラウ、起き上がれる?」  囁きと共に、背中に細い腕が回った。 「うん……」  ぼんやりとしながらも、非力なフレアに全体重を預けてはいけないと脳が指令を下し、何とか両腕を使って上半身を起こしていく。一人で腰を据える事は出来たが、背中は小さく丸まっているのだろう。  フレアは俯く俺を覗き込み、いつの間にか取り出したハンカチを俺の口元へと押し付ける。 「こんなになるまで殴るなんて……。何があったの?」  フレアにも教えた方が良いのだろうが、もう気力が残っていないし、これ以上は心も保たない。  顔も上げず、首を横に振る事しか出来なかった。  そんな時、前方で破壊音が鳴り響く。恐らく、蚊帳の外へ追い出されたアレクが物に八つ当たりしたのだろう。  「はぁ……」と溜め息を吐く音が聞こえ、顔に軽く息が掛かった。 「こんなに腫れてるんだもん。中も切れてるでしょ?」 「うん……」  目をゆっくりと開けながら口先で返事をし、言われるがままに足に力を入れていく。ふらつきながらも歩を進め、洗面台を目指した。  途中、アレクの突き刺さるような視線をずっと感じたが、一々気にしてもいられない。逃げるようにして前方だけを見据え、洗面所へ辿り着くなり背中でドアを閉めた。  この静けさが、俺の心に冷静さをもたらす。

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追憶の名残〜blue side story〜 第14章 絶望の淵でⅡ

罰の意味

 この世に罰という物が存在するのなら、俺は一生罰を受けなくてはいけないだろう。  今日も人間をたぶらかし、甘い罠へと誘う。釣れた人間の魂は、晴れて俺のもの、という訳だ。  今までこちらが正体を現すまで、俺が悪魔だと見破った人間はいなかった。  ところが、その男は見透かすように俺の瞳を見る。 「俺は騙されないぞ」  脅すように唸った。  こんな経験は初めてだ。内心を知られる訳にはいかない。薄ら笑いを浮かべ、剥いた林檎を差し出した。 「まあ、よく考えてみれば良い。悪くない取り引きだと思わないか? 休憩がてら、これでもどうだ?」 「要らない」   男は首を振る事もなく、視線を左へとずらした。  この林檎さえ食べてくれたなら、その魂は俺のものだ。執着心が俺の顔をにたつかせる。 「まだ分からないのか?」 「何がだ?」 「俺は天使だ。お前の悪行は知り及んでる」 「はっ?」  まさか、俺はヘマをしたのだろうか。一気に心臓が凍りついていく。 「お前はこれから、罪を償わなくてはならない。天界でな」 「何故、天界で?」 「神がそう決めたからだ」  男は俺に手を翳す。その瞬間、温かな光と空気に包まれた。天界と罰にどんな因果関係があるのかも分からずに。  天国の清浄さが、居心地が悪くて仕方が無い。吐き気さえ催しそうな程だ。  数十年後、俺の翼は天使と同じものへと変化していた。

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罰の意味