い⃟ち⃟ご⃟ラ⃟テ⃟
301 件の小説い⃟ち⃟ご⃟ラ⃟テ⃟
どうも、!高校生やってます 少しでも面白いと思ってもらえるように、頑張って小説を創作してます、! 是非読んでくれると、嬉しいです! ※フォロバ期待できないと思います フォローする際は私がお願いする場合あり 《完結》 「僕が描く一生の物語」 「正義の変貌の先、辿り着いた真実の絆」 「画面越しの君」 「期限付きの恋を君と」 2023 3/18 start
ホワイトチョコ
君に惹かれたのは、一年前のバレンタイン。 高校で初めて知り合った、笑顔が素敵な君。 桜の降る頃、窓の外を共に眺めて笑ったあの日。 君との思い出が鮮明に脳裏に蘇る。 まるでスクリーンに映された、アルバムのように。 「はい、バレンタイン!」 そう言って僕にチョコを手渡してきた。僕はそれをどうやって断ろうか考えていた。僕は甘いものが苦手だった。チョコなんて一度口にした時から手に取ったことがない。僕が断りの言葉を考えているにも関わらず、君ははい、と僕の手に持たせた。 「え、ちょっと、」 僕が言い終えるより先に、君は僕から離れていて、ふわりと髪をなびかせながら僕の方を振り向くと、ニコりと頬を緩ませた。 僕は家に帰り、自分の部屋に入ると、丁寧にラッピングされたリボンを解き、箱を開けた。食べるつもりはないが、せっかくくれたのだから見ようと思ったのだ。箱を開けると、一枚の紙が入っていた。それを開くと、小さく丸い字で、 「甘いの苦手って教えてもらったから、ビターチョコレートを使ってみた!食べてもらえると嬉しいな!」 と刻まれていた。僕はそれを見るとなんだか胸がとくんと鳴り、苦手なはずの甘いチョコに、手を伸ばしていた。一つパクリと食べ、口の中で転がすと、いつもの甘ったるい味ではなく、苦味のあるチョコの味が広がった。嫌いじゃないかもしれない。 3月14日。僕は君にチョコを返すことにした。右手に握った袋の中には、僕が昨日選んだいちご味のチョコレートの詰め合わせが入っている。なぜだかいつもより学校に行く足取りが軽い気がして仕方がなかった。 僕は教室で君を見つけた。普段女子と深く関わりを持たない僕は、なんと話しかけていいかわからなくて、何度も何度も自分で練習した。「あ、これ、バレンタインのお返し。」という簡単なことですらなかなか口に出せなくてもどかしかった。やっとのことで、あの、と声をかけると、君はなに?と柔らかく微笑んだ。 「これ、バレンタインの、、お返し、。」 緊張で上手く話せなくてカタコトになった。練習していた自分がバカみたいで恥ずかしい。なかなか受け取らない君に、僕は動揺した。ホワイトデーに返すのって、もしかしてキモいとか。僕が「あ、ごめんなんでもない」という言葉を言いかけると、君は「ありがとう!」と言って笑った。僕の手から袋の感覚がなくなる。 「いや、全然、たいしたこと、、ないんで。」 僕はそう言ってその場を立ち去った。 君にどれを選んであげよう。君との出会いは桜の季節。初めて仲良くなった異性の友達。お店に並ぶチョコレートの中で、いちご味のピンクが、君に1番似合う気がして。そう思った頃にはすでに買っていた。 そして、僕は自分の想いを綴った。 「僕は、君が好きです。」 それしか書けなかった。それでしか自分の気持ちを表せないと思った。それだけで十分だった。 それをさり気なく箱の間に挟んだ。上手くいきますように。僕はとくんと響く心に手を当ててそうお願いした。 次の日の朝。僕は恥ずかしくなってその手紙を抜いてしまった。 月日は流れ、君にチョコを渡した日から一年が過ぎた。君には彼氏ができた。僕の願いは儚く散った。神様なんて、何にも叶えてくれないんだって思った。 2月14日。君は彼氏がいるのに、僕にチョコをくれた。一年前と何一つ変わらない表情だった。僕は中身を見た。ビターチョコレートではなく、ホワイトチョコレートだった。 ホワイトチョコレートの意味は、“今までの関係を望みます”。 僕は家に帰って、やっぱり苦手なはずのチョコレートを口に含んだ。 一年前、手紙を挟んだままだったら何か変わっていただろうか。 友達以上の関係になれていたのだろうか。 君の特別に、なれていたのだろうか。 僕の口で転がされるチョコに、少しいちごの甘酸っぱさを感じた。
偽物の私
私は自分を偽って生きている。 みんなの前では、何に関しても動じず、真面目でクールな優等生。だけど、本当は、臆病で泣き虫な弱い1人の人間。 「真依(まい)ちゃん、私これから部活だから、このプリントの仕分け、お願いしてもいい?」 肩にカバンをかけて教室を出ようとした時、クラスメイトに声をかけられた。私はこの後お母さんと出かける用事があったのだが、仕方なくプリントを受け取る。 「全然いいよ、やっとくね。部活頑張って。」 私がそう言って微笑むと、そのクラスメイトは 「ありがとう、めっちゃ助かる!」 と言って足早に教室を出て行った。 私ははぁ、とひとつ溜息をつくと、教室の外へ向いていた爪先を教室の中心へ向け、自分の席へと向かった。そして椅子を引いて座る。外で運動部の声がした。私は時計を見て、早く終わらせて帰らないと、と気を引き締めた。 さっきのお願い、用事があるなら断ればよかったじゃないかときっとみんな言うだろう。でも私にはそれが出来なかった。なぜなら怖いからだ。あれを受けなかったら、私が頼み事を受けてくれなかったと噂が立つかもしれない。もしかしたら、頼れると思っていたのに、と幻滅されてしまうかもしれない。私はみんなの中にある“私のイメージ”を壊さないことが、自分の中での使命だと感じていた。 その時、ガラリと教室の扉が開いた。そこには幼馴染、優が立っていた。 「俺、今日の宿題持って帰るの忘れちゃってさ。真依はなにやってんの?」 優は自分の机の引き出しからプリントを取り出しながら私に問う。私はプリントを仕分ける手を止めずに 「プリントの仕分けやってるの。頼まれたから。」 と答えた。すると、私の前の席によいしょと優が座る。そして私のプリントを指さして言った。 「俺も手伝う。」 私は片手をぶんぶんと振った。 「いや、いいよ。私が全部やるから。」 それでも優はきかなかった。プリントを掴んではなさなかった。私は根負けして、仕分けのやり方を教える。やっと優が仕分けに慣れてきた頃、優が口を開いた。 「あのさ、これ誰に頼まれたの?」 私は頼んできたクラスメイトの名前を口にした。すると優は目を丸くした。そして不機嫌そうな顔になる。 「は?あいつ友達とカラオケ行ったけど。」 私も手を止める。カラオケに行った…? 「え、でも部活だって…」 私は必死に言い聞かせた。何かの間違いだって。騙されてなんか、いないんだって。 「いや、ほんと。マジ有り得ない。真依、先生のとこ言いに行こう。」 優は私の手を引いて職員室へと向かう。困惑している私には、それを拒む力さえなかった。 職員室に行くと、優が事情を説明してくれた。先生は終始頷きながら話を聞いてくれて、プリントの仕分けはやらなくていいと言ってくれた。 「失礼しました。」 職員室を出て、廊下を歩く。そして私よりも断然大きな男の子の背中に向かって、ぽつりと呟く。 「ねぇ、本当にプリントの仕分けしなくてもいいのかな。」 優はちょっと不機嫌そうな顔で振り向いた。 「やらなくていいだろあんなもん。」 その時私の視界が滲んだ。そうだ、やらなくていいんだ。でも、私が先生に言ったってバレちゃうよね。文句言われたりとかするかな。明日会うのが怖い。 その時私をあたたかい何かが包んだ。上を向くと優の顔があった。いつの間にか立ち止まっていたようだった。優に、抱きしめられていた。 「どうした。大丈夫だ。」 優はそう言って私の頭に手を置く。それが私の中の鍵を外して、涙を流させた。 「私ね、ほんとは全然すごくなくて、すっごく弱くて、さっきのお願いも、断ったら嫌われちゃうかもって、変なこと言われるかもって、怖くて、どうしても、断れなくて、」 途切れ途切れになる言葉を必死に繋いだ。優はずっと、何も言わずに聞いてくれていた。しばらくして涙が乾いてきた頃、優は私に言った。 「俺は、真依らしいお前が好きだよ。」 私は耳を疑った。聞こえたことが嘘みたいに聞こえた。 「別に嫌われたっていいじゃん。お前を嫌う奴なんか友達じゃない。お前を泣かせる奴なんか、友達じゃないだろ。変なこと言われたって何だよ。別にお前は何も悪いことしてないじゃん。」 優の言葉がすっと心に入ってきて、また涙が溢れそうになる。今度は温かくて、心地良い。 「俺ならお前を泣かせたりしない。どんな時もそばにいてやるから。」 私は優のシャツをぎゅっと握りしめた。 「俺と、付き合ってください。」 その言葉を、私はすぐには素直に受け取れなかった。 「でも、優、こんな…こんな私でいいの、?」 自分でも馬鹿げた質問だと思った。でも聞かなきゃ、自分が後悔する。優はにこっと笑った。 「当たり前じゃん。真依じゃなきゃだめなんだ。俺の前では真依らしく笑っててくれよ。」 私は目の前の優の背中に手を回してぎゅっと抱きしめた。優はへへっと照れくさそうにしながら私を抱きしめてくれた。 偽物の私が繋いだ、私らしい物語。
ぼくはいぬ。#2
ぼくは毎日幸せな日々を送っていた。ぼくをお世話してくれる人は、いい人なんだって思った。その人はぼくに、「私はこむぎのままなのよ。」とにっこり笑いながら言った。ぼくはそれからこの女の人をぼくの"まま"って呼ぶようになった。今日もぼくはままのお布団で寝ていた。ぼくがままの横に行って、お布団を鼻でつんつんすると、必ず中に入れてくれた。ぼくはあったかいお布団で、ままと一緒に寝る時間が何よりも幸せだった。 次の日目が覚めると、ままはお布団にいなかった。ベットをぴょんと降りて、くぅんと鳴きながら探す。まま、どこ?ぼくが廊下を歩いていると、どこからか美味しい匂いがした。おにくが焼ける香り。ぼくは前に住んでいた場所を思い出した。ぼくを撫でてくれて、シャンプーをしてくれる、優しい店員さん。そして、一緒にボールを取りあって、走ったお友達。元気にしてるかなぁ。そんなことを考えるとなんだかすごく寂しくなって、早くままの所に行って頭を撫でてもらいたいって思った。ぼくはお肉の焼ける香りを追いかけながら、キッチンへと向かった。 そこにはエプロンをつけたままが立ってた。ぼくはしっぽを振って、ままに飛びついた。「まま〜!」下から見上げていると、「今日はこむぎにご馳走作ってあげるからね。」って、僕の頭をよしよししてくれた。店員さんも、たまにすっごく高そうな缶を買ってきて、ぼくにくれたっけ。ぼくは余計に嬉しくなって、耳をぺたんとしながらわんっと吠えた。 しばらく待っていると、ぼくがいつもご飯を食べるお皿に、店員さんが持っていた高そうな缶に似た缶を開けて、盛り付けた。そして、さっき焼いていたお肉を、はさみで切りながら乗せてくれた。ぼくはあれが食べれるのかなぁって、嬉しくなって、はやくはやくってままに催促して二本足で立ってみたりしたけど、「ちょっと待ってね」とくすくす笑われるだけだった。 ぼくはままの後ろを追ってついて行くと、「おすわり」って言われた。ぼくは大人しくおすわりをして、ままの目を見つめた。次はおてをした。ままは「こむぎ、えらいえらい。」っていっぱい頭を撫でてくれた。ぼくはつい嬉しくて、目を細めて笑った。「よし。」って言われて、ぼくは目の前の美味しそうなご飯を食べた。すっごく美味しかった。ままはぼくのことをじっと見つめながら、「こむぎ今日誕生日なんだよ?知ってた?」なんておどけた調子でぼくに話しかけてきた。ぼくは、あ、今日誕生日だったんだってその時気づいた。ぼくは誕生日をお祝いしてくれるままのことがもっともっと好きになって、食べ終わってから背中を床につけて、お腹をみせた。もっといっぱい撫でて欲しくて、くぅん、とおねだりもしてみた。その度にままはにこって笑った。 明日はなにしようかなぁって考えながら、ソファの上でお昼寝をした。
生きてる
今日も生きている 朝が来るたびに、また何ら変わりない日常が始まる それが憂鬱で、面倒で、布団から起きられない なのに良心が寝ていることを許さなくて 自分の体の本音を無視して、起き上がる 学校に行けばみんながいる 楽しそうな笑い声が、話し声が 僕の中では騒音に変わって 耳の外から聞こえるピーという音が だんだん僕の中を侵食していくのが分かる 毎日授業を受けて なんで1秒先に死んでいるかもしれないのに 僕はこんなところで勉強なんてしてるんだろうとか 自分がやりたくないこともやらされて、なんで縛られないとれいけないんだとか 思ってはいけないのに思ってしまう自分がいた やっと家に帰って布団に入っても またすぐに朝が訪れる 生きてるだけで偉いなんて 所詮綺麗事だななんて 僕は鼻で笑うしかなかった 何もしなくていいなら 何て楽なんだろう 好きなことだけして生きるなら どれだけ楽しいだろう 僕はそんな、ただの夢を右手に握りながら 今を生きている 死ねない だって死ぬのが怖いから 死ぬことに抵抗があるのは まだ生きたいって思いがどこかにあって 生きなきゃいけないって心が叫んでいて 人間としての最後の本能なのかもなんて 今度は鼻を啜りながら見上げる 死ねないから生きている。 いや 死ねないから生きてしまっている。
透明の君が消えるまで#10
何も考えられなかった。目の前で起きたことが衝撃的すぎて、言葉も出なかった。ただ、閉じることの出来ない口をぱくぱくしながら、僕は湊に引かれていた。 僕が気づいた時には、階段に座っていた。誰もいない、屋上へと繋がる階段。凛透は、湊は。僕が焦って横を見ると、2人とも俯いて足元の階段を眺めていた。 僕はどうしても怖くなって、不安になって、苦しくなって、胸が縮んだみたいに小さくなった気がして。複雑な気持ちが絡まって解けない。そんな気持ちが、僕の頬を伝った。 すると僕の背中に温かい手が触れた。ちらりと横を見ると、その手は凛透のものだった。顔は髪に隠れてこちらからは見えない。でも、鼻を啜る音が響いた。湊は唇を噛み締めて、震える手を必死に握っていた。 「ごめん、湊くん、蒼真くん、ごめんなさい…ごめん…なさぃ、…。」 突然僕の鼓膜をか細く震えた声が揺らした。凛透の手に雫がぽたぽたと落ちる。湊が焦ったように手をパタパタさせた。 「凛透、どうしたんだ。」 見つめることしかできない。何を言っても薄っぺらい言葉になってしまいそうで、口が開けなかった。 「2人を…巻き込んじゃって、…怖い思いさせちゃって、…」 「そんなの大丈夫だ。な。」 湊は僕に同意を求めてくる。僕は乾いた「うん。」という声と共に、首を縦に振った。凛透は、ぽつりぽつりと言葉を紡ぐ。 「ボク、…ずっと思ってた、。2人に……迷惑、かけてるんじゃないか…って。さっきだって…、ボクがかわいいの持ってるから、ぁ、ああいう風になっちゃったし、、ボクがどうしようもないからっ、2人のことも…巻き込んで、」 段々小さくなっていく声に、僕の喉がきゅうと締まる。湊も口をつぐんだまま、目を伏せていた。 「ボクね、…時々、考えるんだ。ボクがこんなんじゃなかったら…って、だってそうじゃん、かわいいものが好きじゃなくて、ボクが普通の男の子で、筆箱も、ファイルだってカッコいいの持ってたらきっと、……みんなにあんな態度取られることないんだろうなって、気持ち悪いって……思われないんだろうなって、、」 凛透が拳を握りしめる。手のひらに刺さる爪が、赤く染まっていた。 「ボクが普通だったら…みんなに差別されない、みんなと同じ、普通でいられた…。なのに、ボク、違うから…、みんなと……違うからっ、2人にも迷惑かけて、なのにボク1人じゃ何も出来ない、何も変えられない、、蒼真くんと湊くんに、本心を打ち明けられたって…受け入れてもらえたって、結局ボクの居場所を奪っていくのは周りで…周りに受け入れてもらえなかったら、、ボクに関わる2人まで避けられちゃう、…そんなのボク、、いやだよ……どうしたらいいかわかんないよ、」 凛透は途切れ途切れになる声の中、本音を語っていた。僕と湊は凛透を見つめた。目は合わない。でも、心は通じる気がした。 「結局さ」 凛透が苦しそうに歪んだ顔で微笑みながら、前を向いて言った。 「ボクなんていないほうがよか−」 「そんなことない!」 階段に大声が響く。誰の声だ、いや僕の声。凛透が目を丸くして僕の方を見る。あれ、僕、どうしてなんだろう。凛透を、受け入れられてなかったのに。 「そんなことない。」 僕はもう一度繰り返した。
ぼくはいぬ。 #1
ぼくがいつものように、他のお友達のいぬたちと遊んでいると、いつもごはんをくれて、シャンプーをしてくれる店員さんが、ぼくの頭を撫でてぼくを抱き上げた。誰かに抱っこされるのは、あったかくて、幸せで、嬉しくて大好き。 ぼくは腕の中に収まって、店員さんの頬をぺろりと舐めた。 「よかったね、あなたのお家がみつかったよ。」 店員さんはそんなことを言いながら、ぼくを抱いたままてくてくと歩いていく。店員さん、どこにいくの、お友達おいてきちゃったよ。僕はくぅんと鳴いた。 ぼくは箱の中に入れられた。いつも、ドッグランに行く時に入っている。今日も、ドッグランにいくのかなぁなんておもったけど、首にひもがつけられてない。どこにいくんだろう。ぼくは網のすき間から外の様子を見ていた。 しばらく経つと、ぼくの入っている箱が動いた。そして温かい風が入ってきて、ぼくの毛を揺らす。そして見たことない青い車にのせられた。ぼくは急に怖くなって、くぅん、と何度も鳴いた。ぼくの知ってる店員さんがいないよぅ。お友達もいない。寂しいよぅ、怖いよぅ。ぼくはきゅうと喉を鳴らした。ブルルン、という音と一緒に車が発車した。 「いまから新しいお家にお引越しだよ。」 ぼくの耳に、聞いたことのない人の声が響く。ぼくはいつもと全然違う状況が怖くなって、小さく丸くなった。 車が止まると、ぼくの箱も動いた。見たことのないドアの先に、綺麗な家が広がっていた。ふわふわの地面に箱が置かれると、ぼくの目の前にあった網も開けられた。 「でておいで、こむぎ。」 ぼくは名前を呼ばれた。こむぎ。ぼくが1番大好きな店員さんがつけてくれた名前。どうしてぼくの名前しってるの?ぼくはふわふわの地面にゆっくりと足をついた。 ぼくが知らない場所。お友達もいない。寂しくて怖い時、目の前にぼくのベッドが置いてあった。僕はそこに走っていき、匂いを嗅いだ。ぼくのにおいだ、店員さんのにおいもする。ぼくはそこに丸くなった。そのとき初めて僕のことを見つめる人をみた。長い髪の毛に、大きな目を持ってる女の人だった。 ぼくは最初はちょっとだけ怖かったけれど、だんだんいい人なんだって分かった。ぼくの頭を撫でてくれるし、お腹も撫でてくれる。美味しいごはんをくれるし、おかしもくれる。シャンプーも毛並みのお手入れだって手伝ってくれる。ぼくにいっぱい"あい"をくれるんだって分かった。だからぼくもいっぱいしっぽを振って、こむぎって呼ばれたらちゃんと行った。 あれから店員さんも、お友達にも会っていない。毎日ちょっとずつ幸せになっているけど、みんなはどうしてるんだろうって、考える夜もあった。 ぼくのお世話をしてくれる女の人は、おやすみって言いながら、ぼくの頭を撫でた。ぼくもおやすみってしっぽを振って、女の人のおふとんにもぐった。
透明の君が消えるまで#9
僕は流れてきた涙を拭った。泣きたくないのに、泣きたくなんかないのに、僕の本音が零れて、溢れて止まらない。 「僕…っ、凛透のことが…なかなか受け入れられなくてっ…受け入れなくちゃいけないのにっ、受け止めてあげないといけないのに…っ、…僕は受け止めてあげられない…、…認めてあげられない…、僕が認めてあげなきゃ…凛透は可哀想だって、…辛いだろうなって分かってるのに、っ…壁を感じちゃって、…前に、進めないんだっ、…。」 僕はぼやける視界の中、途切れる音の中、必死に言葉を紡いだ。 「だけど湊は…、僕よりずっと大人で…前を向いてて、…認めてあげられてて…っ、僕なんて何もしてあげられない…、…。」 湊が僕の背中をさすった。 「蒼真はそう思えてるだけで、前を向けてんだよ。」 優しい声色だった。包み込むような、温かい声だった。 「俺だってすぐに受け入れられたわけじゃない。そうなんだって知ってから、どうやって話すかとか、どうやって接するかとか散々悩んで、葛藤して、それで今受け入れてる。蒼真はそれに時間がいるんじゃないか。でもそうやって考えてるところがすごいんだよ、偉いんだよ。きっと凛透だって喜んでくれる。」 僕は顔を上げた。きっと涙でぐしゃぐしゃだっただろう。 「ゆっくりでいいんだ、大丈夫。」 僕は湊の制服の裾を掴んで、うん、と頷いた。 僕が廊下を歩いていると、教室から気味の悪い声が漏れていた。僕は湊と目を合わせて、教室へと急ぐ。ドアを開けると、凛透の周りに沢山の男子が群がっていた。 「は?何これきっしょ。こいつ紫のシャーペン使ってやんの笑」 「こっちは水色のファイルだぜ?」 「こんなとこに星までついてる笑」 「可愛いでちゅね〜笑」 凛透の姿が見えない。でもそんな言葉が飛び交っている。凛透は。凛透はどこだ。 「真ん中」 湊が指差す先に凛透はいた。男子の中心に、小さくなって座っていた。 ある1人が凛透の顎に手を当てた。 「凛透ちゃん?スカートはどうしたの?」 そう言うと、周りの男子もギャハハと笑った。不愉快で、腹立たしい笑い声だった。 「やめろよ。」 湊が低い声で呟いた。 「なんだよ湊。俺たち友達だろ?湊もきもいって思うよな?」 そう言って湊の肩に手を置いた。僕は泣きそうな顔の凛透の背中をさすってやりたかった。だけど目の前にいる人のせいで行けない。怖くて動けない。僕は… その時湊がそいつの手を払った。 「気軽に触んなよ。」 僕は湊に目をやる。場の空気が張り詰めるほど、湊の顔は落ち着いていた。 「友達だろうと何だろうと、親友を悪く言う奴は許さない。」 湊はそう言い残して、震えている凛透と、僕のカチカチの手を掴んで廊下へと歩いていった。
いらない目
車と車が衝突する音が叫び声と共に響いた 静かになった と思った瞬間にパトカーや救急車がやってくる 僕の家の電話はそんな時けたたましく震えた 滅多にかかってこない電話から聞こえる機械音は どれだけ耳に入れても聞き慣れなくて それでも僕のお母さんは受話器を手に取った その手はだんだんと落ち着きをなくして 膝は骨がなくなったかのようにふにゃふにゃに折れた 僕はスマホを床に置いて お母さんに連れられるがままに歩いた 着いた先は病院だった 目の前には何か大きいものがあった 白い布で覆われた大きい何か そしてその横には 包装がくしゃくしゃのチョコレート 僕の手に大きな雫が垂れる 見上げた先には、お母さんの顔 そして僕の腕には瞳から流れる涙が溢れた お母さんは僕を置いて、その何かのもとへ行った そして上の方の白い布をめくった 僕は見ていた 白い布の下に隠されていた何かは お父さんだったのだ 今までこんな状況になったことがなかった僕は 何が起こったのか分からなかった ただ怖かった お父さんが起きないということが 言われなくても、分かってしまったから 僕の心にぽっかりと穴が空いてしまった そんな時でもお母さんは誰かと何か話していた 姿は見えない 僕の後ろで話しているから 声だけが鼓膜を揺らす お父さんはもう、帰らぬ人となってしまった 家に帰って、僕は置いていったスマホをみた お父さんの文字をやっとのことで押した 一番新しい文章を見る 「もうちょっとで帰るからな お土産あるから楽しみに待ってろ。」 僕の頭に蘇るお父さんの笑顔 もう起きないお父さんの横にあったチョコレート 僕が一番大好きなもの お父さんが教えてくれたおかし 僕は手を動かす 「はやくかえってきて」 そのメッセージに返事はこなかった その日の夜は、ニュースがついていた 僕はテレビに近づいた 僕のお父さんの車 僕がお父さんの車を指差した瞬間 お父さんの車と他の車がぶつかった おもちゃみたいに崩れて 壊れた もう一度お父さんの車が出てきたかと思うと また別の車とぶつかった 僕はテレビを消した こんなのみたくない 次の日もテレビがついていた 最初は違うニュースだったのに またお父さんの車が出てきた 僕はチャンネルを変えた そこでもお父さんの車が出ていた やだ やめて みたくない たすけて こわい 僕は何度も再生されるその映像に 心が震えていた お父さんがいなくなる瞬間なんて みたくない 初めて目が見えなくなりたいと願った日だった
思い通りに
全てが思い通りになんていかない 僕がどれだけ手を伸ばしたって 届かないものばっかりで 指先すら触れることができない 僕がどれだけ努力したって 報われない努力ばっかりで 悔しくて握った拳についた爪痕は 時間が経てば消えるのに 抉られた心の傷は治らないし 痛くて苦しくて辛くて 癒えるまで時間がかかる 理不尽な世の中を恨みながら 僕は今日も唇を噛む 何一つ思い通りにいかない
僕の眠り姫
僕の大好きな人は眠ってしまった。 僕が昨日「また明日」と告げた君。 昨日の君は笑顔で僕に「また明日ね!」と微笑んだ。その顔を見て僕も、また明日もその次も、そして何ヶ月も先まで、この笑顔の横に立って、笑い合えると思っていた。 背景に夕焼けの光る時間、僕と君は繋いでいた手を離した。もう繋ぐことが出来ないなんて、思いもしなかった。 僕の目の前にいる君は、長いまつ毛を伏せたまま、そしてゆっくりと胸を上下させながら横になっていた。 今にでもその瞼が開いて、澄んだ瞳で僕を見つめてくれるんじゃないか、また僕の名前を呼んでくれるんじゃないかと思うくらい、穏やかな寝顔だった− 今日僕は学校へと向かった。朝君の席をみると、いつも僕より先に来て友達と談笑している君の姿がなかった。遅刻…か、体調不良かな、なんて、自分の思考を無理に納得させ、自分の席へと腰掛けた。 しかし君は、1時間目が終わっても、2時間目が終わっても、そして午後になっても姿を現さなかった。僕の送ったメッセージにも、既読の文字すらつかない。僕は一度家に帰ってから、君の家に行ってみようと決めた。 家に帰ると、お母さんが顔を真っ青にして僕の肩を掴んだ。そしてへなへなと力なく僕の手を握る。 「−。」 僕は目を丸くした。信じられなかった。僕は急いでタクシーに乗った。もどかしかった。いつもなら僕が走るより何倍も速いタクシーですら遅く感じた。はやく。その一心だった。信号を無視してでも早く会いたかった。僕は自分のズボンを強く握りしめた。 ガラリと勢いよく開けたドアの先に、君はいた。窓から入る暖かい風に髪をなびかせながら、そこにいた。僕は名前を呼んだ。 「ねぇ…返事、してよ…。」 僕が名前を呼んでも声を発さなかった。 まず、動かなかった。 お腹の上で手を組み、穏やかな顔で瞼を閉じる君。いつの間にか横に来ていた看護師が、僕に静かに告げた。 君は、植物状態になってしまったのだ、と。 朝学校に来る途中、夜勤終わりの居眠りドライバーに轢かれたのだ。 それを想像すると体が震えた。 きっと朝はいつもと変わらずおはようと言い、制服に身を包んで、学校に向かっていたはずだ。 どうして、どうして君なんだ。 君は何一つ悪いことはしなかった。いつも周りのことばっかり考えるお人好しだった。 植物状態の君といるのはやっぱり寂しくて、もう気持ちは僕の隣にないんじゃないか、なんて思い、涙を拭った。僕はゆっくりと君の右手を握ると、いつも通り温かくて柔らかくて、僕は再び視界が滲んだ。 どんなに君の体がここにあって、どんなに温かくて、生きてくれていたって、もう僕は君の心を見ることは出来ないのかな。 僕が笑い合った君は、もう見れないのかな。 僕、気持ちを伝えられないままになっちゃったじゃないか。 僕は、君が大好きだよ。 返事なんてないけれど、僕は君に伝えたかった。心の中でどう思っているのだろう。僕には見えない、心の先。僕は涙でいっぱいの目で君を見た。 それと同時に君が目を開けた。僕は目が離せなかった。君に触れようとしたけど、触れられなかった。君は澄んだ瞳で僕の方を見つめた。そしてゆっくりと僕の方を見て、「私も大好き。」とはにかんだ。 僕が瞬きをすると、君は再び寝ていた。 穏やかな表情だった。 拝啓 眠り姫の君へ 目の前で眠る君を見ながら、僕は原稿用紙を閉じた。