あいびぃ

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あいびぃ

自己紹介カード 発動!!! 【レベル】15 【属性】ちゅー学生 【習性】投稿頻度不安定、定期的に更新不可になる、フォローもフォロバも気分次第、❤︎とコメントくれる人を好む、困ったら募集に参加 【特性】どんな作品にもファンタジーが香る 【メッセージ】 初めまして、あいびぃです! 見つけてくれてありがとう♪ 私自身、生粋のアニオタ・漫画オタなのでファンタジーが多めになってます…多分。 詳しいことは「自己紹介」にて! まだまだ若輩者なので、応援よろしくお願いします!

藍と藍

私の家にはヒモがいる。鬼咲藍(きざき あい)。男、年齢不詳。コイツがいつから我が家にいるのかは分からない。だが、父の話によれば父が子供の時既に曽祖父母の家にいたらしい。その頃の写真を見せてもらうと、今と一つも変わらない若々しい姿があった。なんでも、何百年と前からずっと我が家のヒモをしているそうで、その理由は我が家の先祖に大きな“貸し”があるから。我が家の人々はその大恩を返す為に、代々住まわせ、養っているのだ。馬鹿馬鹿しい話だ。うちの家族ときたら、その恩が何なのか分からずに彼に尽くしているのだから。だが、両親が言うには彼ら自身も恩があるのだそう。「お前が居るのは、藍さんが僕らの恋のキューピッドになってくれたからだよ。」そう言われた時、我が親ながらその愚かさに笑いを堪えるのが大変だった。二人をくっつけてくれたと言う功績にはとても見合わないほど、こちらは尽くしていると言うのに、その理由ときたら余りにも馬鹿馬鹿しい。 そう思うのも無理はない。我が家のヒモ 鬼咲藍は、ヒモと言う肩書きに恥じぬ駄目男である。 「どけよおっさん!」 私は足元に転がる男の背を蹴った。血縁でも何でもない男が、日常的に転がっているなんて、とても一般的な高三女子の家とは思えない。進路希望調査よりもよほど頭の痛い問題である。 「…」 「おいおっさん、起きてんの?」 「…思春期って面倒くせーのな。」 背中を摩りながら発した藍の低い声が、私の脳内のゴングを激しく鳴らす。 「…別にわざわざ呼び方変えんでも、昔と同じように“藍にぃ”って呼べばいいんじゃねーか。つか、俺何も悪い事してねーし蹴るな。」 「誰が呼ぶかっ!そこ邪魔なんだよ!」 この顔だけ良い男の名前から、代々“藍”を取って名付けられる風習のせいで、私の名前にも当然のように“藍”が入っている。呼ばれるたびに襲う激しい嫌悪感と、私は日々戦っているのだ。ちなみに父は“藍之介”である。 「えー…俺の定位置なんだが。」 この男、テコでも動かぬ。私は、これでもかとわざとらしく大きな溜息を吐くと、足早に玄関へと向かった。 「お父さんお母さん、行ってきます!」 「いってらっしゃーい!」 家族に送り出され、今日もまた登校する。 玄関の扉を閉めた瞬間、背後から「いってらっしゃい」と藍の気怠げな声が飛んできた気がして、思わず足を止めた。だが、振り返った時にはもう何もない。多分気のせいだ。そういうことにしておく。 *** 「藍良ー! おはよー!」 昇降口で声を掛けてきたのは、クラスメイトの“ユキチ”こと羽山結城だった。朝からやたらテンションが高い。 「……おはよ。朝からうるさい。」 「ひど。てか聞いた? 昨日から流れてるやつ」 嫌な予感がする。こういう前置きをする時は大抵ロクな話じゃない事を、私は知っている。 「なに」 「理科室の都市伝説」 やっぱりそれか。 「放課後、理科準備室でさ。黒板に円を描くんだけど、完成させないの。途中で止めると…」 「はいはい、どうせ幽霊が出るとかでしょ」 「違うって! “円の隙間から、何かが覗く”んだって!」 ユキチは両手を広げて、わざとらしく身震いしてみせた。 「昨日、三年の先輩がやったらしいんだけどさ。なんか、床がひび割れたって噂」 「……理科室の床、元から古いだけでしょ」 そう言いながらも、胸の奥がざわついた。 理由は分からない。ただ、胸の奥が、いやに冷たい。 「ねえねえ、今日やろうよ。放課後」 「は?」 「どうせ暇でしょ。進路決まってないし」 「それは余計なお世話」 ユキチはケラケラ笑いながら、私の肩を何度も叩いた。コイツはこれで力が強いから、痛くて困る。 「決まりね。藍良も来るから人数足りるし!」 「勝手に決めんな!」 その時、廊下の奥からチャイムが鳴り響いた。 私は文句を言いかけて、言葉を飲み込む。走って自分の席に着いた。 放課後のチャイムが鳴り、カバンに課題などを詰め込んでいると元気な声が私を呼ぶ。 「藍良ー! 来たよー!」 「はぁ、来ちゃった」 「しょんぼりすんなし!喜べ」 いつものように軽口を叩きながらも、私はユキチの後ろをついて行く。理科室に近づくと、すでに誰か集まっているようだった。 「よーっす」 右手をポケットに突っ込みながら左手を軽く挙げる、そんな気の抜けた挨拶するのは“ケイゴ”こと山田圭吾だ。私とユキチとケイゴは、襁褓が取れる以前からの幼馴染で、腐れ縁。そのため、何かする時は必ず彼を巻き込むのが私達のいつもスタイルと化した。 「お、ケイゴじゃん。」 「ケイゴさっきぶり〜! 今日も元気に口内炎やってるかい?」 「おうよ、下唇の大将は今日も立派に生きてるぜ」 ケイゴは、ユキチのノリに合わせてそう言うと、下唇を軽くめくってみせた。直径二ミリくらいの立派な突起が、堂々と居座っている。 「えっ、それまだ残ってんの?」 「え、うん。いつものようにオレンジがめちゃくちゃ沁みたけど。」 「ケイゴママ、嫌がらせのように毎日弁当にフルーツ入れるかんね」 「ビタミンが足りてないのよ〜、だろ? マジ勘弁」 「可哀想だけど実際そうだからね。諦めたまえ、ケイゴ君」 そう言ったのは年中お団子ヘアに黒縁メガネのいつメン“綾ぽん”こと乙宮綾子。みんなのお姉様担当で、この中で最も変人でありながら、実は最もモテる女なのだ。 「イエスマム!」 「…盛り上がってるところ悪いんだけどさ、あの人誰?」 そう、ずっと気になっていた人。全く知らない奴が、ケイゴの背後にいるのだ。 「あー、数合わせで綾ぽんが呼んでくれた人。これ五人いるんよね、五芒星的な。」 「呼びましたー、いえいっ!」 綾ぽんは、ウィンクした目元にピースを翳す。そしてそのまま説明し始めた。 「この人はウチのクラスの男子でーす。名前は、えーっと…」 「倉木…です。」 「だそうです!」 「よろしくな倉木!」 「よろぴくー」 「よろしくね」 「えっと、はい。」 俯き気味の男子・倉木君は、居心地が悪そうにしていた。そりゃあそうだ。いきなり知らないグループの悪ノリに付き合わされるだなんて、一体何の罰ゲームだろう。彼が何か酷い事でもしたんですか? 綾ぽん。私には彼の武運を願うしかできないけど。 「じゃあ…そゆことで、これからこの五人で理科室の都市伝説を検証していきます!」 「れっつごー!」 「「おーー!!」」 「お、おぉー…!」 拳を上に掲げたと同時に、蛍光灯の光が一斉に瞬いた。 ケイゴが勢いよく開けた扉の中へ、恐る恐る足を踏み入れる。先頭はケイゴ。私は最後尾だ。例の先輩のせいなのかヒビ割れた床が、足の裏にザラザラとした感触を伝える。風に揺れるカーテンが恐怖心を煽り、なぜか誰も電気を付けようとしないので私がスイッチを押した。まばらに瞬き光出す蛍光灯が、今日は少し不気味に感じた。すると静寂が包み込む理科室に、鋭く風情ある音が木霊した。チリンッ。 「うわっ、びっくりした〜」 「風鈴かよぉ〜、もう秋終わんのになんであんだよ」 「原センだよ。夏休み前にウキウキで飾ってた。それで多分そのまま取り忘れてんだろうね。」 「雰囲気ありますな。心霊っぽい」 「もう、綾ぽんってば〜」 そんな軽口を叩きながら、どんどん儀式は進んでいく。黒板の前に立ったユキチが、白いチョークを手に取った。 「それじゃ、円、描きまーす」 ギィ、と嫌な音を立てながら、チョークが黒板を走る。円は歪で、少しずつ、でも確実に形になっていく。 「ねえ、たしか最後まで描かないんだよね?」 「そうそう。途中で止めるのがミソらしい」 「なんか気味悪いですね」 円は八割ほど描かれたところで、ユキチの手が止まった。 その瞬間だった。ピシッ。乾いた音が、床の奥から響いた。 「え、今の何?」 「気のせいじゃね?」 そう言いながらも、誰も笑わなかった。理科室の床に、細い亀裂が走っている。まるで、何かが内側から押し割ろうとしているみたいに。 「これ……昨日の噂のやつじゃん」 ケイゴの声が、少しだけ震えた。ピシ、ピシッ。 亀裂はゆっくりと広がり、中心に黒い“隙間”が生まれる。風が、吹いた。窓は閉まっているのに、冷たい空気が足元を撫でる。 「……ねえ、これヤバいんじゃ」 私の声は、思ったより小さかった。 「だ、大丈夫っしょ……」 そう言いながらも、ユキチは一歩下がった。 その時。床の裂け目から、“何か”が覗いた。 黒く、歪で、形が定まらない。 目のようなものがギョロギョロと、いくつもこちらを見ている。 「……なに、あれ」 綾ぽんの声が、掠れた。倉木君は立ち尽くし、私とケイゴの喉が鳴る。空気が、重い。息を吸うだけで、胸が苦しい。 「おい、これマジでやばいやつじゃね?」 ケイゴが後ずさる。だが、遅かった。裂け目は一気に広がった。床が砕け、何より深い闇から黒い影が這い出してくる。 触れた場所から、光が消えていくような感覚が指先から走る。 「逃げろッ!」 誰かがそう叫んだ。私は走ろうと脚に力を入れた。でも、動かなかった。身体が、鉛みたいに重い。視界の端で、倉木くんが私を見ているのが分かった。何か言おうとしている。声は聞こえない。口の動きを追ってみても、虚ろな視界は言葉を捉えない。影が、私の足元に迫る。 冷たい。指先からサーっと血の気が引いていく。 息が詰まる。怖い。 意識が、遠のいていく。 その時…裂け目の向こうに、見慣れた姿があった。気怠げな目。 だるそうな立ち姿。なのに、足元には角のような突起が付いた影が伸びる。ここにいるはずのない存在。 「……ったく」 低い声が、確かに聞こえた。 「だから言ったろ。五時以降に面倒ごとを起こすなって」 私の視界は、そこで真っ暗になった。

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藍と藍

恋バナ

「わぁ、ルイ君だぁ!」 今俺の目の前に居るのは…誰だ。本当に彼女なのか。それとも、彼女の皮を被った“化け物”なのか。それとも別の何かだとでも言うのか。これまで見て来た全てを一瞬で否定しようとする、これまでの何よりも強い“瞬間”が押し寄せる。これが彼女な訳がない。きっと“化け物”だ。 無機質なこの空間は、彼女の裸足の足跡以外の物音が一切遮断された静寂に包まれている。彼女の声が俺の鼓膜の中で木霊し、頭の中を引っ掻き回した。 初めて彼女に会ったのは、秋晴れの夕焼け空がどこか寂しく感じる日だった。放課後、席替えがハズれた事に機嫌を悪くし、下校中に見かけた公園でなんとなくブランコに座ってみたのを覚えている。そこで漕ぎながら、ボーッとしていると彼女が隣のブランコに座ったのだ。 「やあ、初めまして! ボクはルル!」 ルルと名乗る彼女の笑顔は、俺とは対照的でとても眩しかった。その笑顔で、席替えの不満も吹き飛んだ。 「…初めまして。」 「君はなんていうの?」 「俺は、ルイ。」 「じゃあ“ル”仲間だ!」 そう言って笑う姿に少しドキッとしたのも束の間、ルルから恋バナを持ちかけられた。 「ねえ、ルイ君。ボク、君のことがもっと知りたくなっちゃった。ルイ君は好きな人、いる?」 「…いる。」 「わぁ! ほんと? どんな人?」 「クラスメイトの…菊原楓さん。優しくて、頭が良くて、とっても綺麗な人だ。」 「そっか…。ねえ、ルイ君。」 「何?」 「ボクは、ルイ君の事大好き! 一目惚れしちゃったの。」 そう言って、頬を赤くしてニンマリ笑うルルの瞳は一切笑っていなかった。俺は怖くなって本気にしなかった。 「そうか。ありがと。」 「うんっ! ルイ君、菊原って子よりボクの方が絶対良いよ。絶対ボクの方が可愛いし、優しいし、家事だってできるし、君のためなら命だって賭けられる。」 ニンマリ笑って、どう?と聞かれると、俺は怖くて肯定しか出来なかった。 「そう…だね。」 だけどそれからも、何度かルルは俺の前に現れては、話しかけてきた。彼女には不思議な魅力があったのだ。だから俺も何となく会話を続け、仲良くなった。かけがえのない友人だと紹介できるくらいには。そんな彼女は、相変わらず恋バナばかりする人だった。 そんなある日、俺の家に一通の手紙が届いた。俺宛で、ルルからだった。『ここに来て』と住所が書かれていた。住所を教えた記憶はなかったが、当時の俺は何も考えず、休みの日、俺はそこに向かって自転車を走らせた。いつもの公園に着いて、ブランコまで歩く。その途中に聳える無駄に背が高い時計は、午後一時半を指していた。ブランコに座り、ボーッと桜の木を見ながら、ルルを待つ。暫くしてふと、右腕を見る。父親の安物のアナログ時計だ。とは言え、高校生には不相応な小洒落たデザインをしている。時刻は午後二時。三十分経った…そろそろか。俺は、ゆっくりと顔を上げた。 すると、目の前に何もない空間が広がっていた。桜の木は愚か、公園の面影すらも一切無い。まるで、研究所の様な無機質な場所だ。そんな俺の前には、消えた桜の代わりにルルが立っていた。 俺は自分の目を疑った。ルルの姿、この状況…その全てを。 「何…してるんだ。」 「わぁ、ルイ君だぁ! こんなところで会うなんて奇遇だねー! なんちゃって。」 笑ってる。振り返ってこちらに微笑むルルが、今はどうしようもなく恐ろしい。荒い呼吸、滴り落ちる汗に、緊張が滲む。手は震えが止まらず、それなのに僕の瞳は彼女を捉えて離さない。 「何してるって聞いてんだ!」 「ふふっ、怖〜い。 ねえ、見てわかんない?」 ルルは、笑いながら僕に近寄り、口元に人差し指をやると、コテンと首を傾げた。今の僕に“分かる”ことは、彼女の足元に倒れてるのが同じクラス菊原さんで、さっきからずっと動かないってことぐらいだ。 「…分かんねぇよ。なんで、菊原さんが倒れてるんだ。なんで…なんでお前は、そんな鎌を持ってるんだよ!黒い服も着て…まるで死神みたいじゃねえか!」 「んーっご名答!」 ルルは、口元にあった人差し指を顔の横に持っていって微笑むと、くるりと身を翻して菊原さんのところに向かって歩き出す。 「は…?」 「ボクの姿見て分かんないかな?」 そう言われて、ルルの姿を見回した。黒い服を着て大きな鎌を持っている。 「何言って…」 「だーかーらーっ! 殺したんだよ、ボクが。」 ちょっと待ってくれ。てことは、死んだのか。菊原さんは、死んだってことなのか。でも血なんかは出てない。いったいなぜ、どうやって…何のために。溢れんばかりの疑問が、頭の中をグルグルと回る。回り続ける。 「どうして…」 「この女がボクの邪魔をするからだよ!」 その言葉は、さっきまでと違って語気が強く、殺気を含んでいた。 「ルルは菊原さんに会った事ねぇだろ!」 「無いよ! でも見てた。この女ってば、ボクのルイ君を誑かしたんだ! ルイ君がボクを見ないって事はそう言う事でしょ。じゃないとおかしいもん。だって、だってルイ君はボクのこと好きでしょ? ボク達両想いだもんね?」 え? 何言ってんだコイツ。ルルの言葉を聞くたびに、俺の体が本能で逃げがっているのが分かる。でも、ルルからは逃げられない。それだけはハッキリと脳が理解してしまっている。 「君が菊原楓を好きな人だって言ってから、ずっと観察してたんだ。でも、君がこの女を見る目とボクを見る目って全然違う。ボク、その目が欲しいの。だから、この女さえいなくなれば、ルイ君はあの目でボクを見てくれるんでしょ?」 「あ…」 上手く酸素が吸えない。手が震える。心臓が煩い。なんだよ、俺のせいって言いたいのかよチクショウ。俺のせいかよ。あの時俺が安易に頷かなければ、菊原さんは…。 「あ…? ふふっ、お口が開いてるよルイ君。あの時、ボクが好きかって質問に君は否定しなかったんだよ。覚えてる? これってつまり、両想いでしょ。それなのに浮気したルイ君が悪いんだよ。」 ルルは、俺の真似をして言った。 「お、俺にどうして欲しいんだよお前は!」 「んーとね…あはっ、忘れちゃった! どうして欲しかったんだっけ」 頬を紅潮させ、狂ったように笑うルル。俺は未だ彼女から目が離れないでいる。緊張が身体中を湿らせ、込め髪から顎へと滴り落ちる。震える手を握り込めて、唾を飲んだ。 こんな状況なのに、何故か口角が上がって仕方がない。足の震えを抑えるかのように、一歩ずつ体重をかけながら、ゆっくりとルルの元へ歩く。 「 」 今、俺は何を言ったんだろう。完全に意識の外にある言葉。得体の知れない“何か”が、俺の口からふいに零れ落ちた。身体中の熱がサーっと引いていくのが分かる。だが、それでも俺の表情筋は固まったまま。もう、戻れない。俺の直感がそう叫んだ。事実、戻れていないのだから。 以上が、観察保護対象 被験体“笑う男”の手記と口述を纏めた報告書の内容である。

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恋バナ

バレッタ婆さんの薬(後編)

あれから、殆ど毎日、喫茶店で待ち合わせては、読み書きを教えている。ハナムラさんはいつも一足先にやって来て、初めて相席したのと同じ席に座り、慌てん坊ブレンドを飲みながら待ってくれていた。どうやら、一度気に入ったらずっと頼み続けるタイプらしい。それなのに、今日は一向に姿を現さない。いくら待っても中々来ないのだ。 俺は、ふとあの時貰った名刺を見る。 「…行ってみるか。」 コーヒーを飲み終えた俺は、席を立って店を出た。それから十分ほどで、到着する。ハナムラさんの工房は、意外と近いのだ。 ハナムラさんの工房は、古いコンクリートのレンガを岩のような粗い質感にした外壁に囲われていた。その中には、丁寧に整備された雑草ひとつない庭が広がる。しかし、そんなところに感動している暇など、俺にはなかった。ここに来た時、この“花村”と書かれた表札の前に立った瞬間、俺は目を疑った。工房の外壁には、はっきりとした色のスプレーで書かれた文字や、無数の貼り紙がされていた。「消えろ」「死ね」「ガラクタ屋」「ここの商品は買わない方がいい」「ガラクタ作ってる」「ブス」「休業中でーす♪」などなど。とても信じられないような暴言の数々が、彼女の家の壁を埋め尽くしていた。誰が一体こんな事を…。ハナムラさんはこの壁を見てどう思ったのだろうか。俺なら気が狂いそうになる。そりゃあ、来れないよ。そう思った。空いた口から零れ落ちそうな、表現しようのない言葉は、行き場をなくして泡のように消えた。 「こんにちはー。ハナムラさーん?いますか?」 俺は工房内を見回した。奥の方で、影が動いた。机に突っ伏していたようだった。 「…ミネタさん。」 泣いていた。顔を上げた彼女の目は赤く腫れ、声は小さく嗄れていた。震えた手が、強く袖を握り締めた。 「…えっと、ハナムラさん今日は来なかったので、気になって来ちゃいました。」 「…そ、外の。見ましたか?」 「ええ…。ほんと酷いですね、あれは。」 「…せっかく、せっかく読めるようになったのに、こんなのあんまりです!」 ハナムラさんの大きな瞳から、涙が溢れ出した。 「…ずっと、読みたかったのに。私、楽しみにしてたんです…なんて書いてるのかなって。でも…ぜんぶ酷いことだった!」 その悲痛な声に俺は押し黙った。肩を抱こうとした手は、行き場を失い、ポトリと落ちた。 「なんでですか…なんで、せっかく字を書けるのにこんな酷い言葉を…!」 俺は、どんな言葉を掛けるべきかわからなかった。ただ、持っていたハンカチでその涙を拭ってやることしかできなかった。今俺が言って良い言葉は、どこにもないと思った。何も言えなかった。 「…一生懸命勉強して身に付けた文字。ミネタさんに教えてもらった文字を、傷つけるために使うなんて…。大切な言葉なのに文字なのに。私もう、怒りと悔しさと悲しさと、いろいろぐちゃぐちゃになっちゃって。それで、涙が溢れて……こんな顔、ミネタさんに見せられないって思って、行かなかったんです。ごめんなさい。」 ハナムラさんは息を荒くし、再度ぐちゃぐちゃになった顔を、子供のように手で拭ってから言った。相変わらず声は小さく嗄れ、震えていた。 「…すみません、気が利かなくて。でも…俺は好きですよ。ハナムラさんの作った陶器。だって、この前くれたマグカップ、凄くオシャレで保温性高くて俺のお気に入りなんです。それで…あの、名刺に電話番号がありますから、また勉強やる気になったら連絡してください。好きなだけいっぱい泣いて、それでもやっぱり辛かったら、その時は頼ってくださいね。」 「…ありがとうございます。」 その言葉を聞いてから、俺は彼女の肩を摩るのをやめて立ち去った。 日が沈みかける十八時。銀杏の絨毯が広がる夕暮れ時の公園で、俺はベンチに座っている。ハナムラさんと会い始めてからは、暫く訪れもしなかった公園のベンチに。あの時の彼女の顔が忘れられず、帰る気になれなかったのだ。 そして、ふと思う。考えたくないと拒絶する自分がどこかにいるが、考え始めると自責の念が絶えない。もし、俺がもう少し教えるのが遅かったら。あの日、ハナムラさんがカタカナを覚えた事が嬉しくて、調子に乗って漢字まで教えたんだよな。俺が、漢字を教えなければ、少なくとも漢字が使われたのは読めなかったんじゃなかろうか。そしたら、あんなふうに泣いてしまうこともなかったのかもしれない。俺のせいだ。俺が教えたから。タラレバが溢れ出る。考えても仕方がないのに。 そんなことを考え、俯いていると、いきなり脛に衝撃が走った。 「正義、薬の瓶適当に捨てただろっ!契約書も読まず適当して…って、一言文句言ってやろうと思って来たら、なんだいその顔は!」 「…なんでここに。」 そこにいたのはバレッタ婆さんだった。 「だから文句言いに来たって言ってんだろ?」 「…すみません。契約書の内容忘れてました。」 「ふんっ、まあいいだろう。しっかし、今日のアンタは嫌に萎らしくて気持ち悪いねぇ…辛気臭くて敵わないよ。」 つくづく失礼なお婆さんだ。人が落ち込んで、悩んでいるというのに、老婆の見た目に不相応な言葉の切れ味である。 「なんだい…何かお困りかい? 目の色が変わっているね。前は“無”今は“迷い”だ。あまり良い変化じゃない。」 バレッタ婆さんは、先程とは打って変わって優しく、しかし真っ直ぐとした口調で語り掛けてきた。 「…俺、読み書きが出来ない女性に出逢って、読み書きを教えてたんです。でも、今日はいつもの場所に来なくて…。見に行ったら、彼女の家の壁に悪口が書かれてて、彼女はそれを読んで泣いていました。せっかく読み書きができるのに、なんで悪口に使うのかって。」 「それで、自分を責めてたのかい?」 「だって!……俺が教えたから…。」 「そうさね…でも、教えなければ良かったなんて事はないよ。だってね、その子がアンタに教えを乞うたんだから。」 その言葉を聞いて、俺の中で何かが音を立てて切れた。いくら先人の言葉で正しいとしても、まるで彼女の責任だとでも言うような今の発言は、許せなかった。彼女は純粋に文字を楽しんでいたのに、それを汚したのは“俺たち”なんだ。それを、彼女の責任と言うのは間違っている。 「違うっ!彼女は悪くない。純粋に文字を楽しんでいただけなんだよ!俺は、それを台無しにした…。」 「いいや、台無しにしたのは悪口を書いた奴らだ。その子の家は奥の方にあって、パトロールでは見逃しがちだから対応されてこなかった。でも、あたしが今お巡りさんをそっちに行くように誘導したから、安心しな。」 「…誘導?」 「ああ、あたしの魔法でね。」 バレッタ婆さんは、ニヤリとイタズラっぽい笑みを浮かべた。 「魔法使いなんですか?」 「ああ。おかしいとは思わなかったのかい?異空間からいきなり現れる婆さんなんて。」 そういえばそうだ。薬の効果もファンタジーだし。前回も今回も、自分のことにいっぱいいっぱいで考える暇がなかった。 「あたしゃ、別世界でそれとなーく地球を監視しては助け舟を出すって言う、所謂お助けサービスってのをやってるのさ。」 「お助けサービス…。」 「そう、お助けサービス。ああ、そうだ忘れてたよ。アンタが気にしてるあの子…唯花ちゃんだったかね。その子から手紙を預かったんだ。」 バレッタ婆さんは、そういやこっちが本題だったと、笑いながら上着の中を漁った。 「なんでそんな大事なことをっ!」 「まあまあ、落ち着きな。今出すから…おっ、あったあった… ホレ、これだよ。」 俺は、バレッタ婆さんの手の中にある小さく折られた紙を受け取った。血管の浮き出たしわくちゃな手の温かさが、紙に染み込んでいた。一方で俺の手は震えていた。不安だった。ハナムラさんの優しさを、俺は知っている。だからこそあり得ないと分かっているが、それでももしかしたら…。この手紙を開いた時、俺の目の前に現れるのはきっと、自分の世界を壊した俺への罵倒と決別の宣言に違いない。 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇◆◇◆◇ ミネタさんえ さっきは泣いてしまってすみませんでした。 せっかく来てくださったのに、きをつかわせてしまってもうしわけないです。 この手がみをかいたのわ、伝えたいことがあるからです。 私わ、ミネタさんに教えてもらってから、まえよりもっと学ぶのがたのしくなりました。 だからまいにちたのしみで、いつも早くきっさてんにいってまっていました。これが、ミネタさんに早く来すぎだとちゅういされても、こりずに早く来ていたりゆうです。 そのくらい、わたしはあなたのおかげでたのしくすごせていたんです。こんなながい文章も、まだぎこちなくてつたないものだけど、あなたのおかげでここまでせいちょうできたんだよって伝えたくて、手がみをえらびました。 わたしわ、学んだことお、ミネタさんにおそわったことおくやんでなんかいません。わたしが泣いてしまったのは、りそうとちがったからです。 でも、考えてみれば、人の家にかきこむことはわるいことなのに、そのないようがいいことなわけがないんです。だから、わたしがわるいんです。 かってにおもいえがいて、きたいしたわたしがばかだったという、ほんとうにそれだけのはなしなんです。 だから、いまもし、ご自しんをせめていたならやめてください。あなたはわるくないです。 わたしはあなたからたくさんのものおもらいました。自分がどれほどずうずうしいか、それはしょうちの上で、おねがいさせてください。 どうかまた、わたしにもじをおしえていただけませんか? 花むら ゆい花 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ その手紙に書かれた文字は、漢字だけが便箋の列からはみ出ている。漢字は苦手だったから、練習の時も大きくなっていた。濃くはっきりと書かれていても、そのぎこちない文字の下には、何度も書き直したような跡が残っている。 どれもこれも、練習のときに難しいと嘆いていた字だった。 「もちろんっ…もちろんだよ、ハナムラさん」 自然と言葉が溢れ出た。零れ落ちた雫が文字に染み込んだ。こんなんじゃダメだと無理に口角を上げても、またすぐに下がってしまう。 きっと、何も知らない奴にこの手紙を見せても、小学生が書いたと思われるのだろう。そればかりか、読むことすら出来ないかもしれない。ハナムラさんの字は、そのくらい拙い。でも、俺には読める。だってずっと見てきた字だ。ずっとずっと、見続けて来た字。俺が教えて来た、見守って来た字なんだ。ハナムラの“村”って漢字も、形がややこしいって文句言いながら苦戦してたっけ。それなのにいつも、書けないって分かっていても何故かトライして、それで最終的に諦めて平仮名にするのがいつものお約束だった。漢字を書く時、平仮名を書く時、カタカナを書くとき。それぞれの大きさも、必ず突き出る“タ”の三画目も、何故か跳ね上がる“ん”の先端も、消しゴムが下手くそなところも、全部。俺の知るハナムラさんそのものだった。この手紙は側から見れば、きっとただの汚い字の配列にすぎないのだろう。だけど、俺ははっきりと読み取れる。文面から、ハナムラさんの不器用な優しさが伝わってくる。 「あぁ…ふふっ、“は”と“へ”と“を”…また間違えてる」 「おや、何か吹っ切れたようだね。瞳から“迷い”が消えたよ。寧ろ、輝いているくらいだ。」 「…婆さん、手紙ありがとう。」 「なんだい嫌に素直だね。気色悪い。それにあたしゃ何もしてないよ。単に、薬の効果が早かっただけさね。」 バレッタ婆さんは、相変わらず悪態を吐きながらそう言った。 「薬の効果…」 「ああ…多分、唯花ちゃんとの出逢いがアンタに必要な経験だったってことだろうねぇ。気づいてるかい正義。アンタの瞳は、もう既に“生きる意義”に満ちている。あの子との出逢いを通じて見つけたんじゃないかい? アンタだけの“生きる意義”って奴をさ。」 生きる意義と聞いて、俺はその言葉にハッとした。そして顔を上げると、意外な光景が広がっていた。俺を見つめるバレッタ婆さんの顔に、穏やかな笑みが浮かんでいたのだ。まるで孫を見るような優しくて愛おしそうな瞳に、俺は困惑した。どうしてそんな目で俺を見つめるのだろう。そう思った。それと同時に、俺の生きる意義を感じた。全ては、この手紙に現れている。この手紙こそが、俺の生きる意義と言っても過言ではない。 「…そう、ですね。バレッタ婆さん、いろいろとありがとうございました。」 俺は勢い良く頭を下げる。今までこんなにも不快感を感じないお辞儀があったろうか。これまで俺は、自分が少しでもマイナスの印象を抱いた者には、何が何でも頭を下げようとは思わなかった。しかしそれでも必要な時がやってくる。その時はプライド故の不快感が必ず俺にストレスを与えていたものだ。 「カカッ、アンタにしては気持ちの良いお辞儀だね。こういう瞬間があるから、この仕事は中々辞められないのさ。ある意味、それがアタシの“生きる意義”って奴なのかもしれないね。」 そう言うと、バレッタ婆さんは異空間に消えた。その曲がった背中を見送ると、俺はベンチから立ち上がって帰路についた。 鍵穴に鍵を差し込んで回す。カチャリと、虚しく音が響いた。 「ただいま。」 妻と娘が交通事故で亡くなってから、久しく言ってこなかったこの言葉も、近頃は言うようになった。俺の中の小さな変化である。帰っても誰もいない一人には広すぎる一軒家。まだ妻や娘の私物は片付いていないが、年末の大掃除で空っぽになったままだった本棚は、ハナムラさんに文字を教えるために買った本で埋め尽くされていた。俺はソファに一直線に向かって、どかっと座り、テレビをつける。特に見たいものもないので、そのままドキュメントを見る。学者が、識字率の歴史について話していた。思わず見入り、時間が流れ、ようやく気が付いて帰りにセブンで買った袋に手をかける。冷凍餃子とパック米の調理方法を確認して、パック米をレンジに入れ、そのままの足でコンロに火を付けた。ソファに戻るのも怠いから、キッチンからテレビの続きを見る。ふと、字を教わっている時のハナムラさんの笑顔を思い出した。 ビールのプルタブ開けて、グビッと飲んだ。流石、一部の物好きにしか買われないと有名なビールだ。このホップの苦味が悉く俺に合わない。己を戒める意味で買ってみたが、背伸びするんじゃなかった。 「うえっ…マズっ」 顔を顰めながら、缶を置いた。確か明日が、カン・ビンのゴミ捨ての日だった筈だ。俺はその袋を忘れないように玄関に置いた。ご飯食べて、風呂入って、そのまま布団に入るとすぐに眠った。俺は昔から寝付きだけは良かった。 翌朝は、特に夢も見ず、それでいて特段スッキリもしない寝起きだった。いつものことだ。歯を磨きながら、なんとなく歯磨き粉の裏の説明を読む。この文字をハナムラさんは読めるのだろうか。読めればきっと、毎日わくわくしながら、新鮮な気持ちで読んでいるのだろう。ハナムラさんの興奮した様子が目に浮かぶ。 「ふふっ…読めるって幸せなんだな。」 それから顔を洗って、髪をセットして、スーツを着てパンを食べる。ほったらかしてた昨夜のビール缶は、玄関の袋に入れて、手に持って出勤がてらゴミ出しをした。 昼休み、行きつけの喫茶店に入った。ハナムラさんと最初に相席した手前の席には、彼女の姿があった。慌てん坊ブレンドを美味しそうに飲み、俺に気づくと手を振って笑った。この時間が、俺の生き甲斐だ。“生きる意義”だと、改めて実感する。 「ミネタさんっ! おはようございます!」 「はい、おはようございます」 彼女の瞳には、初めから“迷い”など無かった。俺は、彼女の勤勉さと前向きさを少々見くびっていたのかもしれない。 「私、今日こそは“村”を克服しますよ!」 彼女の無邪気な笑顔に、俺の中で何かが崩れた音がした。

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バレッタ婆さんの薬(後編)

キャッチコピーからつくれ!

【注意点】 題名はお好きにどうぞ! キャッチコピーを思わせるような内容を心がけてください。 詩ではなく、物語をお願いします。 長さは千五百字を超えてくだされば結構です。あとは問いません。 参加者の方には、遅くなっても必ずコメントさせていただきます。 このアプリの良さを活かし、参加者同士の交流も大切にしたいので、是非コメントし合ってください! 仮題が存在しますが、そのまま使って頂いても構いません。 思う存分楽しんでくださいね! 【お題】 ①仮題 【僕が愛した殺人犯】 『僕が恋をしたのは、殺人犯でした。』 『これは、最も純粋な僕の初恋(ハツコイ)の物語…』 (ハツコイ)←これ好きにしてね ②仮題【届かぬ星】 『手を伸ばす。その先に、キミがいる。』 『君は、近くて遠い一等星』 ③仮題【見えない僕ら】 『これは、目に見えない君と、目が見えない僕の話。』 『見えない。だからこそ、見えるものがある。』 ④仮題【踊るピエロ】 『このピエロ、史上最狂。』 『踊らされているのは一体誰なのか。今、世界を巻き込む最恐で最狂の舞踏会が、ここに開幕!』 ⑤仮題【鏡のムコウ】 『朝、目覚めたら…そこは鏡の中の世界。』 『「鏡よ鏡、“私”をコロシテ…」「了解致しました。」』 ⑥仮題【この湖で会いましょう。】 『湖のほとり、人ならざる貴方と秘密の約束。』 『私の涙を舐めた貴方。その無邪気な笑顔に恋をした。』

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キャッチコピーからつくれ!

大罪人

王城の地下深く、錆とカビの匂いが漂う牢の中。古くからの友人で、裁きの対象となった謀反人“紅蓮のアテネ”と“蛮獣のレトー”は二人、刻一刻と迫り来る死を待っていた。 「おぉ…神よ、私はどうすべきだったのでしょう。」 「アンタいつから神なんぞに縋る男になったよ。」 天に祈りを捧げるレトーを横目に、アテネは気だるそうに言った。 「いつからというと…ふむ。いつからでしょうね。」 「へっ…知るかよ。」 「…そういう貴方も、裁きの神の存在は信じているのでしょう?」 「まあな。あれは、居ないと言い切るにはちと証拠が揃いすぎているし。」 王都クレマトの中心部にある、シネマチュア大聖堂。その奥深くには、最終的な審判を下す役割を担う神がいると言われている。これから彼らを裁くのも、その神アトラス・メイデンだ。この神にまつわる伝承や、それらを裏付ける証拠は山ほどあり、これを否定する方が難しい。 「しかし、私達は何故裁かれ、こうして命を奪われんとしているのでしょうね。」 「…アタシらはやるべきをやったんだ。そんなの知るか。それこそ神に聞けよ。得意だろ?そういうの。」 「神への祈りは常に一方通行…。叶うことなど無きに等しい。神は、ただ縋るためにあるに過ぎませんよ。」 「それ、信徒が言うことか?」 アテネは戯けて言った。 「貴方は、神への忠義に狂い、血を分けた家族さえ蔑ろにし、贄に出すような…そんな信仰をお望みですか?」 「いいや。知り合った信徒が、アンタみたいなので良かったさ。」 「そうでしょう。…なにしろ私は、何かに縋らねば生きられない性分でしてね。神は、偶然その対象に打って付けだっただけなのです。」 「そうだな、そうだろうな。アンタは一生救いを求め続け、祈って生きてきた。それなのに、中毒者にはなっていない。何処か一線を引いている。祈る時とはまるで別人のようだった。」 アテネはゆっくりと俯いた。死を前にし、物思いに更けているのではない。ただ、懐かしいのである。 「まあ、それが私の生き方ですからね。」 レトーは小さく笑った。すると、足音が地下に冷たく響き、だんだんと近づいてくる。二人は廊下に顔を向けた。足音は二人の前で止まった。仏頂面の兵士が上から見下ろしている。 「時間だ。これより、シネマチュア大聖堂へ連行を開始する。“紅蓮のアテネ”“蛮獣のレトー”来い。」 「「…」」 二人は兵士の言葉に従い、連行された。 ステンドグラスからの幾日ぶりの陽光に目をくらませ、二人は大聖堂の中へと入った。 「大罪人“紅蓮のアテネ”“蛮獣のレトー”両人揃いました。では、これにて断罪の義を開始します。」 顔をヴェールで隠した女が、無機質な声で開始を宣言した。それを聞き、一際立派な服を着たふくよかな男が口を開く。 「私は異端審問官クイオス。汝らの罪を述べよう。汝らは先ず、布教活動と嘘をついて国境を違法に渡り歩き、また根拠のない噂を流したり、実際にその根拠を自ら作り出すなど、我らトウカ教の立場を危ぶませた。違うかね?」 男はまるで舐め回すような笑みを向け、その贅肉を揺らした。 「「…違いません。」」 「そして次に、汝らは王都クレマトの治安を守る騎士団“グリズ”を襲撃し、多大なる損失を与えた。その以前より、“グリズ”に対し、些細な妨害を続けていた。そうであろう?」 「「…はい。」」 「そして、盗み出した魔導書を使用し、罪なき民間人をも手にかけた。」 「…間違いでは、ありません。」 その言葉を聞いたクイオスは、再び下賎な笑みを浮かべ、腕を大きく開き、高らかに言った。 「グヒヒッ…皆様、聞きましたか! この大罪人共は、我々の信頼を計画的に落とすだけでなく、我々直轄の騎士団グリズ三十余名を死に追い込みました。あまりに残虐ではありませんか!更にさらに!罪のない民間人を、わざわざ魔導書で殺した。これは、残虐卑劣極まりない行為です。よってこの者共に情状酌量の余地は無いとし、ここに死の断罪を求めます!」 すると教会内は拍手に包まれた。アテネの舌打ちと、レトーの歯軋りはその音に掻き消され、幸い審問官たちには届かなかった。 「形式上の宣言に、どんな意味があると言うのか。彼らの生死を決めるのは、アトラス・メイデン様ただお一人のみ。法に反してはいないが、あまり無駄なことに時間を割くなクイオス。」 そう言ったのは、クイオスらが座るところより、もっと高いところに座る人物。その毅然とした態度と声色は、独特の風格を持つ。その悠然たる姿勢は、カーテン越しでも存在感を損なわない。男はわずかに顔を歪め、小さく舌打ちをした後、擦り寄るような声で言った。 「し、失礼致しましたアンクイーネ様。一審問官である私如きが、出過ぎた真似を致しました。」 「…アンクイーネ・エヴァーガーデン。教皇猊下…か。」 クイオスの言葉を聞いたアテネは、小さく呟き、そして己を嘲笑した。 「もう良いクイオス。さっさと終わらせようぞ。さあ、魔導書を盗み出した稀代の殺人鬼に制裁を下さん。」 アンクイーネはそう言って、開始宣言をしたヴェールの女に目配せした。 「正義と断罪の神アトラス・メイデンよ、その公平な天秤を以て、その真実の眼を以て、この者たちに正義の鉄槌を降し給え。」 女の無機質な声が、大聖堂に空虚に響く。すると同時に轟々と呻き声を上げて、白い光がアテネとレトーを覆った。 アテネとレトーが瞼を開くと、目の前には人ならざる巨大な存在が鎮座していた。その巨体に見合った大きな玉座に、僅かに浮いて胡座を描き、悠然と佇む。筋骨隆々の体、胸までしかない服に、ゆったりとしたズボンを履く頭が三つの生き物。白とグレーの泣き顔のマスクを付けた顔、鼻までをアヌビスの仮面で覆った顔、“罰”と大きく書かれたヴェールに覆われた顔。そのそれぞれから独特の存在感と異様な雰囲気を感じる。 「おぉ、貴方が断罪の神アトラス・メイデンか。」 レトーは頬をほんのり赤らめ、その存在に近寄りながら言った。 『如何ニモ。ワレは断罪ヲ司リし神なリ。人なラざる者ヨ、汝二罪はアるカ?』 「…流石は神、と言ったところか。レトーの正体に気がつくなんてな。」 アテネは戯けて言った。 「…ええ、本当に。アトラス様、私は“狂人”です。主人の皮を被った、ね。」 そう言うと、レトーは己の顔に手を翳した。その瞬間、彼の瞳は奇妙な模様になり、瞳孔は大きく開いた。そして髪は伸び、額にも奇妙な模様が浮かび上がる。彼の周りには、喜怒哀楽それぞれの表情を持つ四つの首の像が回転している。 『…すると汝ハは邪神カ?』 「人を…山ほど殺しましたからね。狂人化は免れませんでしたよ。それまでは、ただの守護霊でしたが。」 「コイツ、アタシと再会した時、魔導書を持って血だらけだったんだ。聞けば、落下死した主人の肉体に入ったんだと。だから最初は、その主人の姿だった。私の親友の姿。でも力が馴染むうちに男になって、ここに来始めの頃のような見た目になったのさ。」 『…何故、殺しタ?』 「主人と主人の愛する友人を追い詰めた元凶が、グリズでした。神である貴方なら、すでに気づいているでしょう? この国の民は、生きながらに死んでいる。」 『アあ、中にハ生まれナがらニシて死んデいる者モあッタ。』 アトラスの前方の顔が俯いた。 『ニンゲンは、三千年前ワレを生ミ出しタのヲ皮切リニ暴走し、果てニこの生キ地獄のよウナ社会を創造シタ。思えバ、あの日魔導書を攫ッた女ハこの世で唯一“生キテ”いた。』 それを聞いたアテネは嘲笑して言う。 「そりゃあ、こんな社会じゃ死ぬ時が一番イキイキするもんさ。」 『…アノ女、死ンだのカ。』 「ああ。死んだよ。レトーの主人と一緒にな。」 「彼女は自らあの女と心中を選びました。幸せそうに亡くなった。でも、私は彼女の望みを知っている。彼女が死後も大罪人にならない事、彼女と共に旅をする事。その他にも“やりたい事ノート”に事細かに綴っていたのを知っていたのです。だから、この姿になって、証拠となる魔導書を隠し持ち、彼女のやりたいことを叶えた。彼女に汚名は着せられない。」 アトラスは、息の荒いレトーを見下ろし、優しく言葉をかける。 『その心意気やヨシ。ワレもアノ女ハ気に入ッていタ。だが復讐ハ、汝の欲スル所。そノ裁きニ、一切ノ情ハ無いぞ。』 「…わかっています。感謝、申し上げます。」 「なあ、アトラス・メイデンさん。アタシらは、アンタにこの世界を罰して欲しくてここに来たんだ。人々が感情を無くし、法令に服従し、権力や重い税金にも服従し、皆んな俯いて暗い顔して、ただ生きてるだけ。こんなクソな世界では、誰も“生きて”なんかいられない。だから、レトーがカフナの罪を被ることで、二人で復讐を果たすことで、こうしてアンタに会いに来たのさ。」 アテネはそう言って、アトラスに近寄る。アトラスはゆっくりと見下ろし、そして単調な声で言った。 『…そうカ。でハ約束しよウ。ワレが、ニンゲンを真の意味デ生返ラセるト。』 「へへっ、ありがとな。これでアタシの三人の親友達は報われるよ。」 『つくヅく変ワッた罪人ダ。汝ら、罪ハ窃盗と殺人。断罪ノ神、アトラス・メイデンの名におイテ、輪廻の刑ニ処す。』 アトラスは手を振り下ろした。二人は死して魂となり、冥界に送られる。意識が消えゆく間で、仮面の中から小さな笑い声が聞こえた気がした。 『汝らが転生出来ル頃にハ、この世ハ楽園ダ。早く帰ッて来るガ良い。』 断罪の神はドンと玉座に座り、前を向いている。彼の顔は“罰”になっていた。 【辞書】 《アトラス・メイデン》 三千年前、狂人化に成功し、神となった。狂人化は人間だった頃に政府に連行されて行われた、過去四百年にも及ぶ実験によるもの。彼は一万人の被験者のうち、初めての成功例だった。その後、シネマチュア大聖堂の地下に幽閉され、徐々に蝕まれて別人格となった。一応記憶と意識は変わらない。 《狂人化》 人類の感情や精神が一定より爆発的なもの、超過したものとなった時、その資格が芽生える。強大な神より膨大な力を受けることで起きるものだが、その知識は一般的ではない。この力に耐えきれず飲まれてしまうと、身体能力が飛躍的に上昇し、狂人と呼ばれる人の姿をした化け物と化す。狂人化に成功すると、力に適応し神となれる。アトラスの例がそれを裏付けた。

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大罪人

不変的なイデー

『貴方は確信を持って“生きている”と言えますか?』 生きているって、なんだろう。 人生は波瀾万丈だと言うけれど、全くその通りで、二十年も生きていない私でさえ、その起伏を感じる。 時折、いついつに戻りたいという声を聞く。やり直したい事があるとか、一番気楽だったとか。だが、当時の自分は今の自分の年頃に憧れていた筈だ。登校班で歩く道中に中学生を見かけるとアニメのようだと興奮し、高校生はもはや大人で、六年生さえ遠い未来な気がするくらい。そのくらい、時はゆっくりと流れて、それなのに早く大人になる事を望んでいた。 だがどうだろう。今の私達は、後悔に後悔を重ね、やり直したいと嘆き、あまりにも早すぎる時の流れに“死”の背中を見て怯える日々だ。考えてみれば、こんな筈ではなかったという言葉は、すんなり現れる。ではどんな筈だったのかと、聞かれても何も浮かんで気やしないが、少なくとも今より輝いていた事は確かである。 今私は、あの時憧れていた私になれているのだろうか。小さな彼らの瞳に、私はどう映っているのだろうか。案外、映ってすらいないのかもしれない。だって、今が充実しているなら、何も羨む事はないのだから。歩いている他人を見ている暇なんてないのだから。 ある日、無機質で無駄に広い部屋で、たった一つの椅子に掛けたナニカが私に問うた。 『貴方は、確信を持って“生きている”と言えますか?』 彼が何者か、それは言い表しようのない存在であったと明言できる。そうとしか言えない。だが、確かに存在はしていた。声は、心地よい低音で耳に優しいのに、一々違和感を感じさせる。落ち着いた男性の声だったから、彼と呼ぶのだ。コイツはいきなり何を言い出すんだと、私は思った。数ヶ月前から、毎日届いたメッセージカード。初めの頃は、今時アナログな人だと思っていたが、その内容は明らかに異質だった。読めない文字の羅列の中で、なぜか読める単語。最初は気味悪がって捨てていたが、一抹の好奇心が逸らしていた目をカードに合わせた。本来あるはずのない形を成す文字。ありそうでないのに、無いと分かるのに、何故か理解できる。それを声に出した。今はもう、それがどんな音だったか思い出せない。この世の言葉だったかすら、怪しいのだ。その言葉を発した時、気づけばここにへたり込んでいた。 「…貴方は誰ですか?」 『当方は概念です。』 彼は平然とそう答えた。 「概念…さん。」 『はい、概念と申します。さて当方は、生と死は表裏一体であり、物事には裏面がつきものであると考えおります。』 淡々と話し始める“概念”には、顔も体も無い。確かに存在しているはずなのに、“ある”と“ない”のちょうど中間のような。私が、座っている彼を見ているのは、椅子の上にいるからであって、それは思い込んでいるだけかもしれない。実際は座っていないと言われても、今なら納得できる。 『つまり、“生”を感じるためには“死”の傍に行かなければならないのです。』 「死の傍に…。それって臨死体験って事ですか?」 『そういう考え方もありますね。死の恐怖に触れてこその“生”ですから。では、質問を変えましょう。“死”とは何ですか?』 「“死”とは、心臓が止まり、脈が無くなり、この身が朽ちる事です。でも、それはあくまで身体的な死。人間は思考をやめた時、本当の意味で死ぬのだと、私は思います。」 『なるほど…。貴方は、人間は思考をやめると真に死ぬと考えるのですね。』 概念は真っ直ぐとこちらを見つめている。私は何か間違ったことを言ってしまったのかと不安になった。すると私の不安を感じ取ったのか、概念は一間置いて、朗らかに続けた。顔などないから分からないが、多分、微笑んでいたのだろう。 『ああ、いえ。私の問いに答えなどありませんからお気になさらず。私はただ、間違いも正解もなく、その人の中で不変でありながら普遍的でない視点を欲しているのです。』 「…そう、なんですか。」 『ええ。では何故、思考が失われれば死ぬと考えるのですか?』 「…人間が絶えず思考し、感情と共に歩む事は、即ち人間が人間であることだからです。思うに、思考し続け、その先に感情が立ちはだかる事。またその逆も然り、人間を人間たらしめる要素は、全て“感情”と“思考力”の二つから出来ています。感情が失われ、何をされても何も思わなくなっても、外的な刺激によって好奇心と思考力が擽られて、新たな発見や発明があれば、自ずと達成感から喜びが生まれ、それを見てもらえない事の孤独から寂しさが生まれ、この状況を作り出した何者かへの怒りが生まれ、いつしか感情は回復するでしょう。逆もまた然りです。鶏が先か、卵が先かでは無いのです。どちらかがあれば、いずれどちらも揃いますから。揃えば、親子の生活が営まれ、絆が育まれる……いつしか親子丼も食べられますね。卵が先であっても、鶏はその場に同席しているでしょうし、鶏が先だとしても、そこに卵は転がっています。どちらかさえ残っていればどちらかはあるから本当の死はありませんよ。どちらもなくなれば、それが死です。」 『なるほど。では、“生”とは?』 「“生”とは…。」 私は言葉に詰まった。“死”について考える事はあれども、“生”について考える事はない。特段、自分が“今、私は生きている”などと感じる事もそう無い。生きているって何なのか。何一つとして、答えがわからない。だが答えなどないと、“概念”は言う。しかし、何故か“生”が“死”とは全く違う存在であるという事だけは、分かるのだ。“概念”は、生と死が表裏一体だと言うが、私には別紙の裏と表であるように思えてならない。だから、思考が働き感情が豊かにあること、と言うのは違うように思えたのだ。そして、机上に並んだ2枚の紙。片一方の紙の裏には“死”について書かれており、私はそれを読み解き、自分なりに解釈することが出来た。しかし、もう一方の紙の表に書かれた“生”に関しては、形は分かるのに一文字も読めないのだ。まるで、あのカードのように。 『…これは、当方の考えですから参考に。』そう前置きを置いて、“概念”はゆったりと話し始める。 『当方は“身体的”な“生”を、物質に触れられる状態の事と解釈しております。そして、身体的でない“生”とは、人生という砂時計の砂が落ち切るまでを、怯えながらじっと待つ事です。この時間をいかに有意義に過ごすか。これが豊かな人生や悔いなき死というものに繋がってゆくのだと、当方は思います。』 「なるほど…。」 『では、もう分かったのではありませんか、あの答えが。さて、今一度問いましょう。貴方は、確信を持って生きていると言えますか?』 聞かれたことを飲み込んで、頭の中で何度も繰り返す。脳内再生を繰り返す。概念が言うように、私は死に怯えながら無駄な時間を過ごし、それで痛い目をみても懲りずにだらけている。そして、朝起きてスマホに触れた時、スベスベした感覚があるのも、登下校で道の小石をふむ感覚があることも、液晶と睨めっこしている今も、乾燥した唇に舌の先が張り付く事も、夜枕に髪が張り付く事も、頰がカバーに擦れる事も、ふと手のひらを握り込むと柔らかく滑る事も、爪があたる事も、走ると頰が火照ることも、睡魔に勝てないことも、スマホカバーの形を感じる事も。手が暖かい事、体内で脈が打つ事、それに違和感を感じる事、考えてみた事、眠ると損した気分になる日、誘惑に負ける日、笑いが絶えない日、その全てが私に“生”を与えているのだ。春夏秋冬喜怒哀楽、時々刻々と変化するそれらの中で、私は確実に生かされている。そして、“生きている”のだ。 「はい。」 その瞬間、“概念”を覆う霧が晴れた気がした。優しく朗らかな笑顔を浮かべた彼の顔が、はっきりと私の瞳に映った。突然の事に固まっていると、いつのまにか彼の顔が、自室の机上のカードに変わっていた。

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不変的なイデー

オトナハジメ

走って帰った午後五時半 キミに会いたくて 一分もせず家を出て 走って 人ん家の夕飯に キミへのお土産思いついたりして 扉が開いて 「いらっしゃい」って笑うキミに キミに会いたくて 初めて会った時の無邪気な笑顔思い出すんだ 走って走って 少しでも長くキミと 大人になるまでキミに 会える時間は減ってったけど 大人になって自由を得ても キミとの時間は足りないや 大人になるって 大切な人と会えなくなることだ 大人になるって 大切な人と会える喜びが増えることだ キミに会いたいと思った十五時半 大人になった僕は オヤツなんて忘れてさ 一直線にキミの元へ 走っていくんだ いつか僕の隣から キミがいなくなったら 僕はどうしようもなくなるんだろう 今でさえ どうしようもないのに 約束した 「ずっと一緒がいいね」 くしゃっと笑ったキミ そんなキミの笑顔が 忘れられないんだよ たまにはキミが 僕の所へ来てくれると嬉しいな 大人になった僕らは 時間がなくて 合わなくて 会える日が日に日に減って 君の中の僕はまだ まだ居るかな 鮮明に まだ まだ いやだ やだ 居なくなるなんて… あのね ずっと 僕の中のキミは 鮮明に居るよ 今も変わらぬ姿で ずっと笑ってて 時に涙して 賢いのに アホらしくて 強そうに見えて 弱いキミ 得意気に胸を張るキミ 無邪気に笑うキミ 優しく手を差し伸べるキミ そんなキミに キミに 僕は 恋をしてるよ 恋をしたんだよ キミはどうだい? キミの目に映る僕は 僕の目に映るキミみたいに 大切で 優しくて 明るくて カッコよくて 僕の弱いところも知ってるキミの キミの目に映る僕は きっと かっこ悪いや いやでも 大切の一つであれるように あり続けれるように

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慈悲転生〜神をも認める不幸者の少女は、精霊王に拾われる〜

1 不幸者に転生という名の慈悲を 母親は、私を産んですぐに捨てた。 それを、どこぞのおじさんが拾って四歳まで育ててくれた。おじさんは私の四歳の誕生日に、プレゼントを買いに出かけたきり帰ってこなかった。どうやら車に轢かれたらしい。 その後、おじさんの親戚の叔母さんが私を引き取ってくれた。だけど叔母さんは、可愛げのない私を気味悪がり、次第にまともに育てることをしなくなっていった。その育児放棄が明るみに出て、彼女は捕まり、私は施設に引き取られた。 そこでも散々だった。私に優しくしてくれたのは、大人だけで、子供達は私を仲間はずれにしたり、嫌がらせをしたりして遊んでいた。でも、相手にしてたら相手の思う壺だと思って、今度は私から距離を置いた。一人で本を読んで、一人で絵を描いた。時々大人と話すこともある。とにかくずっと本を読んでいた。中でもファンタジー小説は、特段好きだった。ファンタジーばかり読んでいたら、ある日ガキ大将に「やーいオタク!」と罵られた。だけど不思議と怒りは湧いてこなかった。もはや、どうでも良いと感じていたのだろう。 そんな私を気にかけてくれた唯一の子供がいた。その少女は私に優しく微笑み、抱きしめて話しかけてくれる。ガキ大将からも守ってくれた。とてもとても幸せだった。 しかし、彼女と出会って三年。彼女は、ある日突然いなくなってしまった。黒い車から一瞬だけ覗いた黒縁の笑顔の写真と棺桶。俯く黒い服の大人達。みんなの涙と重い空気。それで全てを察した。その日からはずっと泣いた。何が彼女を殺したのかなんて分からないのに、それなのにいつもソイツが憎かった。心を完全閉ざして、誰とも関わるのをやめた。 小学校の卒業が迫る頃、どこかの財閥の社長と名乗る小太りのおじさんが、私を引き取ると言い出した。優しい笑顔と落ち着いた口調、金持ちと養子縁組して娘になれば、お金持ちになれると、誰もが私を羨んだ。しかし、私には彼の中に渦巻く黒い何かが見えていた。コイツは良くない。そう思って、私は必死に回避しようとした。するとガキ大将が羨ましそうに睨み付けて来ていたので、「自分より良い人がいます。」と言ってガキ大将を焚き付けた。ガキ大将も嬉しそうにおじさんに着いて行った。しかし、後から知った事だが、おじさんには五人もの子供がいて、その内三人は将来有望な成人だと言うのだから、やはりろくなことにならなかったんだなと、引き取られなかった事に安堵した。 その後、私を引き取りたいと言う大人は何人か来た。 一人目の女性には黒いものが見えなかったので、着いて行った。しかし、女性はさまざまな施設から子供を引き取り育てていたため、新入りの私は、元々いた子供達にいじめられ、結果大きなトラブルを招いた。それを受けて、共存の望みは無いと考えた女性は、私を元々の施設に返した。 二人目の男性の時は、施設側も慎重になり、体験期間を設けた。案の定、男性は少女に欲情するタイプの性犯罪者予備軍だった。その視線やセクハラとも取れる接触が、不快で不快で仕方がなく、身の危険を感じた私はこっそり逃げ出し、施設に帰って打ち明けると、次の日の夜には男性は捕まっていた。 三人目の女性が来た時、流石に施設も分からなくなって、彼女の「良いですよね、短パン。膝が見えて。」という何気ない一言で、危険だと判断し、施設側がやんわりと引き取りを拒否した。 さらに三年ほどして、大切な恋人ができたが彼の八股が露見し、しかも私とは遊びだった、うんざりしていた、話すだけで吐き気がすると言うので別れた。一晩中泣いて、顔を腫らして、不細工なまま次の日は休んだ。 そして十八になった誕生日、私は施設を出て、仕事を探し始めた。頭のいい大学に行ける脳は無いし、だったら下手な大学に行って就職率を下げるよりかはマシだと判断したからだ。 そのために、今日も早めに起床したはずだった。だが、瞼を開けて目に入ったのは、いつもと違う天井だった。スクリーンのような、靄のかかった感じの空間。少し寒くて、体も軽かった。 「ここは、夢?」 『いいえ。ここは精神世界。生者でも死者でもない魂の行き着く所。貴方は、死による救いを得たのです。』 天から声が響いた。起き上がるとあからさまに女神という感じの存在が、悠然と佇んでいた。 「死による…救い?」 『はい。貴方は齢十八にして、世界中のありとあらゆる不幸が凝縮されたような人生を送って来られました。それを見かねた父神は、貴方を世界から救い出す事にしたのでございます。』 「てことは私は死んだの?父神って?」 『ええ。貴方は亡くなられました。そして、父神とは我が父でもあり、世界の全てを司る全知全能の神です。一番偉いです。』 「そんな神様に可哀想がられるって、辛かったは辛かったけど、私どんだけ不幸だったの…?それにしても、まさか誕生日に死ぬなんて。」 勝手に哀れまれて殺されるなんて、我ながら傑作だ。だけど、実際かなりヤバかったんだね、私。 『おや、意外と動揺されないのですね。』 「私には別に、愛する人とか死を悲しんでくれる人が居ないから。死んでも惜しむものが無い。心残りなんて微塵もないもん。」 『左様でございますか。それは良かったです。』 「もし、私が死にたくなかったと言って暴れ出したら、どうするつもりだったんですか?」 『ふふ。貴方、ご自身の体が今どうなっているかご存知ですか?』 「どうなってるんですか?」 『魂そのもの。故に暴れても何の損害もありません。ですが、本気で嫌だと仰るなら、私は貴方を生き返らせるでしょう。』 女神は、私に手鏡を向けながら微笑んだ。そこには光る球体が浮かんでいた。 「魂ってこんな形なんだ。案外イメージ通り。」 『ふふ。あれほどの不幸があったのに、これほどまで美しい光を放てるのは、貴方くらいですよ。では、これから貴方に、細やかな褒美と、祝福を与えます。分かりやすく言えば、“異世界転生”という奴です。いかがですか?』 「うわあ!漫画で見た奴だ!ずっと憧れてたの。戻っても何もないし、ぜひお願いします!」 『分かりました。では、祝福を貴方に。お気を付けて。』 女神が手首を下げると、私はとんでもないスピードで落下した。体感した事のない、身を割かれる様な風圧を耐え凌ぎ、その途中で私の意識は暗転した。 瞼が重い…。ゆっくりと開けると、光が目に入り、眩しくて手で遮る。手…小さい。目線も低い。明るい室内だ。でも古くて汚い。使われてるのだろうか。ふと目線を移すと、大きな姿見があった。徐ろに立ち上がって、ゆらりくらりと鏡に使って歩く。 おお、これが私。なかなか可愛らしいじゃないか。白い髪に紅い瞳。長いまつ毛、もちもち白い肌に小さな顔と桜色の小さな唇…正に傾国の美女だわ。見た感じ、五、六歳くらいか。 「おい、小さいの。人の家で何をしている。どこから現れた。」 「え…誰?」 そこには綺麗な顔をした男性がいた。なんか特殊な形をした白いまつ毛と長い白髪に紅い瞳、紅いフェイスペイントの男性は冷たい声で私に問いかけた。 「質問を質問で返すな、小さいの。」 「私は…えっと、分かりません。気づいたらここにいて、綺麗な鏡があったので見ていました。」 「迷い込んだのか、こんなところに。なんとも不運なものよ。お主ここがなんと呼ばれているか知っているのか?」 「…いえ。」 「死の森だ。ここから生きて帰った者は誰一人いない。だから死の森と呼ばれている。」 ひえっ!なんてとこに私を置いてくれたのよ神様!殺されちゃうじゃん! 「じゃ、じゃあどうして貴方はここにいるんですか?」 「先も言ったが、ここは我の家だ。住んでいるのだから、いるに決まっているだろう。それと、先程ここを死の森と言ったが、それはあくまでも人間達にとっての話。我々から奪う者がいなくなって、伸び伸びと暮らせるようになった事で、沢山の生命が繁栄した。今やここは、多種多様な生物が暮らす生命の森なのだ。」 「貴方は人じゃないって事ですか?」 「ああ。我は精霊王アルカード。この城の主人だ。」 「精霊…王。ていうか、ここお城だったんですか⁉︎」 古くて汚いから気づけなかったけど、よく見たら、一つ一つの装飾や家具が豪華絢爛って感じだ。そう考えるとテンション上がるぅ! 「ふはっふふふ…。」 「なんで笑うんです?」 「我の正体や森のことを聞いても、気にせず城の方に興味を持つとは。そんな者なぞ、三千年生きてきたが、初めてでな。いやあ、愉快愉快…ふふふっふはっははは」 大爆笑なんだけど…。精霊王、だっけ。凄い人なのかな。 「そうそう。我からすれば、この森にお主がいる事自体が不思議なのだが、何故だ?」 「分かりません。気付いたら、といったかんじで。」 「…ふむ。お主、体内に灯火を感じるが、心当たりはあるか?」 「灯火…?」 「灯火とは、精霊の力の塊だ。女神エクレウスから祝福された者にのみ発現すると言われ、その存在に限り、本来ならばあり得ない筈の“精霊化”が起こる事もある。精霊は女神エクレウスの眷属だからな。」 あの女神、エクレウスっていうんだ。確かに、祝福くれるって言ってたな。 「ありそうだな、心当たり。多分、主人格の途中覚醒だろう。」 それもなんだ? 分からない事多い…。 「途中覚醒は、女神の加護を受けた者にはザラにあることだ。ある一定の歳になるまでは、人格が定まらず、意識も朧げなまま。たがその歳になると、急に意識や感覚がハッキリとする。だから一説には、その歳になるまで体内には心を凌駕する灯火が大きくあって、その灯火に耐えられる歳になる時までエクレウスの意思が身体を動かすのだと言われているな。」 確かに、私は加護を受けた者ではあるんだろう。でも、いいえ、私は転生してきました、なんて言えないもんね。ここは肯定しよう。 「そう、かも。」 「では今一度問おう。お主、捨てられたのか?」 「…分かりません。何でここにいるのかも分かりませんから。でも、保護者がいない事は確かです。」 「…そうか。我はお主を気に入った。お主が精霊化を望むならば、この森もお主を受け入れよう。」 「えーっと、つまり?」 「鈍い! お主をここに住まわせてやると言っておるのだ!」 「え⁉︎ いいんですか?」 「ああ。ただし、我の血縁としてだ。」 精霊王は、そう言うと手をフワリと動かした。その瞬間、私の体が宙に浮き、そして引っ張られた。 「うわぁ!」 「そう騒ぐな。いまから“契り”を交わす。これを受けると、我の“加護”と“完全なる精霊化”が得られる。お主は我の子となり、完全なる精霊へと進化するのだ。」 「んっ!」 精霊王の冷たい指が、私の額をなぞる。何を描かれているのかは分からないが、なぞられたところはじんわりと熱い。 「できたぞ。」 描かれた側の私でも分かるくらい眩しく、額が輝いた。体は暖かく、胸の辺りが特に熱い。 「額が熱いか。案ずるな。それは、お主の中にある灯火を起こす事ができる刻印なのだ。これからお主は長く眠る。長い眠りから目覚めた時、お主が何の精霊であるかが明らかになり、真の力が解放されるのだ。たがら今は、ただゆっくりと休め。」 その言葉を聞き終えて理解するのと、私の意識が暗転するのは、殆ど同じタイミングだった。この時から、私は眠り続けた。転生してから一時間もせずに意識を手放すとは、まさか思いもよらなかったのであった。 2 目醒め、そしてハジマリ 「ん…」 眩しい。咄嗟に目を手で遮った。手が…前より大きい。 「起きたか。」 「…アルカードさん? ここは…」 「城だ。ちなみにお主は二百年眠っていたぞ。」 「に、にひゃっ⁉︎」 「うむ。二百年だ。お前の身体も、大人になっているぞ。」 「…ほんとだ。」 最初の頃に比べれば、かなり大きくなっている。腕と足は長くなって、体付きも丸みを帯び、背も伸びていた。 「相変わらず小さいがな。」 「一言余計ですよ、お父様。」 「オトウサマ、とは何だ?」 「アルカードさんが、私が眠る前に、私が貴方の子になると言っていたので、父親の呼び名の一つで読んでみました。」 「…ふむ。悪くない。そうだ。お主に名を考えて来たのだ。」 「?」 名前…ああ、そう言えば無いな。今世の私に名前なんて無かったわ。前世の記憶があるから、一切思い付かなかった。 「お主の名は、オルクドゥール・クライザだ。クライザという姓は、我の姓クライザから来ている。人間は親子同じ姓を名乗ると聞いたからな。」 「オルク…ドゥール。」 「愛称はオルカだ。オルクには神の恵みという意味が、ドゥールには永遠という意味がある。」 「ありがとう、お父様。」 「うむ。それはそうと、実はお主に紹介したい者がいる。入れ。」 「失礼致します。」 すると、部屋の扉が開いて、執事服を見に纏った片眼鏡の知的な青年が現れた。背が高く、焦茶の髪を緩く編んでいる。 「この者は、時の大精霊で“知”を司るノーティス。ノーティス、前に伝えていた我の娘だ。」 「お初にお目にかかります。」 「あ、えっと、オルクドゥールと申します。」 「ノーティスはお主と同じ、無属性に適性のある精霊だ。」 「はあ…。」 「それと、ノーティスの後ろに隠れているのが、闇の大精霊で“夜”を司るニューイだ。これより彼らはお主の配下となる。」 メイド服の少女が、ノーティスさんの後ろからひょこりと出て来て頭を下げた。夜空色の髪と瞳が美しいが、あどけない見た目が守護欲を掻き立て、なんとも愛らしい。 「お二人ともよろしくお願いします。」 「こちらこそよろしくお願いします、姫。」 「よ、よろしく、お、おね、お願い…しまっふ!」 「だっ大丈夫⁉︎ 盛大にベロ噛んだねー。」 「も、申し訳ありませっ」 「あちゃーまた噛んじゃったね。」 「姫、それは放っておいて下さい。精霊達に、早く貴方をお披露目しなくてはなりませんから。」 お披露目というのが気になるが、ニューイちゃんなんてどうでも良いかのような口振り。そちらの方が気になる。これは上司として言っておく方がいいかな。 「ノーティス。」 「どうなさいましたか?」 「ニューイちゃんに謝りなさい。私は精霊の上下関係も、年齢も何もわからない。けど、少なくとも貴方達は今同僚でしょ。同僚のことを“それ”呼ばわりは良くない。」 「っ…ですが、このような事で予定がある姫の御手を煩わせるなんて臣下失格です!」 「貴方の言い分も、分からなくはないの。この後、私のお披露目があるってのも、あんまり時間がないってのも分かってる。でもね、そんな奴どうでも良い、みたいな言い方は冷たくてちょっぴり寂しい。私、仲良くして欲しいの。」 「…分かりました。すみませんでした、ニューイ。」 「…だ、大丈夫です。こちらこそごめんなさい。」 「はい!仲直り!」 二人の仲直りが済んだら、私は別の部屋へ連行された。そそくさとドレスを着せられ、城のバルコニーに出た。そこには沢山の精霊や、妖精が集まっていた。一面に広がるお花畑も、すっごく綺麗。 「お綺麗です、姫。」 「さすがは、ルーンのドレス。美しいな。」 「ルーン?」 「光の大精霊 “陽”を司るルーン。少々変わり者で滅多に姿を現さないが、こういう物作りには熱心でな。その技術力の高さは信頼に値する。」 「こちらのドレスは、王に女の家族が現れたら着て頂きたいと、ルーンが三百年かけて作った最高傑作です。」 「三百年⁉︎」 私は驚いて自分のドレスを改めて見る。白いレースや半透明の布などが沢山あしらわれたドレス。スリムだが裾が広がっており、特に後ろに長い。そして頭上にはドレスを着たら現れる不思議な日の輪のティアラ。ノーティスに「暗い城と純白のお髪に、天使の輪っかが映えますね。」と言われた時は、単に髪が艶々なのだろうと思っていたが、物理的に輪っかがあって、思わず声を上げて驚いたものだ。 「くははっ…三百年など我らからすると何かに熱中していれば一瞬だぞ。ルーンのドレスのおかげもあって、お披露目会は成功に終わった。目覚めて早々に疲れただろう。今日はもうゆっくり休め。」 「…はい。お父様。」 笑われた事に少しムッとしながら、ドレスのスカートを持ち上げながら扉の方へと歩く。後ろから皆が着いてくる。階段の前を通った時、ふと上から声がした。 「五百年ぶりに会いに来てみれば、面白いことになってんねー。」 思わず上を見ると、階段の上の方の手すりに、古代文明っぽい粗末な服を着た紅いロン毛の男がいた。男はイタズラっぽく微笑んだ。 「っ竜王!」 「竜王?」 「そいつは…お前の娘か。よく似てらぁ。よっ。元気してたか? 精霊王。」 「何の用だ!」 「おー怖い怖い。そう睨むなって。なあに、五神代の集結が近いって事を知らせに来ただけさ。」 男はそう言うと、手すりから降りて、落ちてきた。そして私の方にやってくると、手を差し出して言った。 「俺は竜王バンディミオン・グレッゾだ。狩猟神ヴァッカスの眷属で五神代が一柱。よろしくな。」 「私はオルクドゥール・クライザです。よろしくお願いします、バンディミオンさん。」 私は差し出された手を握り返し、微笑んだ。すると、竜王は一瞬驚いたように目を見開いた。 「おう。ていうか、お前本当にアルカードの娘か? 良い子すぎるだろ。」 「…ありがとうございます。」 「オルカが良い子すぎる点は同意するが、ほれるなよ。」 「どうだろうな。まあ、そん時はそん時だ。お前の事をお義父さんとか呼びたくないからな、もしそうなったら掻っ攫うぜ。」 「そうなったら、地獄の果てまで追い込んで、お主を殺して奪い返してやる。」 「カカッ…お前と戦えるのか、そりゃあ良いな。」 「…今我は、自分の発言を猛烈に後悔している。」 二人はその後も軽口を叩き合い、竜王は十分ほどで姿を消した。集結は三月後だ、忘れるなよとだけ残して。 3 五神代、集結 「なあおい。何でまた我の城なのだ!」 精霊城の会議室に、父アルカードを含める五人の人ならざる王が集結していた。私が魔法を使えるようになって来た頃、無属性初期魔法“クリーン”でピカピカに磨き上げた城は、彼らに見劣りしない輝きとオーラを纏っている。 「あらぁ、仕方ないじゃないの。バン兄がそうするって聞かないんだもの。アタシの城でも良かったのにぃ」 艶めかしい声でそう言ったのは、紫のリップが白い肌に映えるガタイの良い男性。ネイルも何もかも、可愛いを追求した努力が感じられるが、どうしても私の目にはセクシーに見えてしまう。 「カカッ…オルカにまた会いたくなってヨォ。」 「バンディミオンだけじゃなくて、小生達も会いたいと言ったのだよ。」 鋭く冷たい声が響く。グレーのツインテールに黒い眼帯とゴスロリワンピースを見に纏った少女は、シャンデリアに手を翳しながら言った。 「はあ…。姉上達もですか。」 アルカードは頭を抱えた。 「そう!ボクもボクも!ボク達ね、可愛い弟に子が出来たって聞いてから、ずうっとキミに会いたかったんだよ。ねえ、オルカちゃん❤︎」 金の髪とケモ耳に、露出度高めなお姉さんが私に迫ってくる。たわわなお胸が揺れ、すごい迫力。迫り来る父の同僚に、私はただ後ずさる他なかった。 「今日はキミと戯れるのがメインだからさ。会合は、つ・い・で❤︎」 「それはそれでよくない気が…。」 「よく言ったぞ、オルカ!お主ら帰れ!」 「んっもう!良いじゃないのよアル兄。アタシだって癒されたいのよぉ〜」 「オルカ穣、自己紹介をさせておくれ。小生はバンシー・オー・イワンスル。霊王の名を冠する神代で、死生神ゾディノの子である。」 「あー!ずるいーー!ボクもボクも!ボク、リズリー!」 「アタシ、ヴラドよ!」 みんなが口々に迫ってくる。迫力というより、もはや煩い。 「俺はバンディミオンだ!」 「あ、それは知ってます。」 「カカッ手厳しいな!」 「このバカは放っておいて良いからな。」 「うんうん!」 「…ふふっ。皆さん、これからよろしくお願いします。」 五神代って堅苦しい感じがするから、怖いと思っていたけど、思っていたよりわちゃわちゃしてた。これから楽しくなる予感がする。

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慈悲転生〜神をも認める不幸者の少女は、精霊王に拾われる〜

僕のチカラとバケモノ。

「ねえ、千紗子ちゃん。君はこんなになっても、魅力的でとっても可愛いね。」 僕は、バケモノと化した千紗子ちゃんを優しく抱きしめた。感触は蒸気のような感じだが、不思議なことに温もりを感じる。代わりに足元は恐ろしく寒い。 千紗子ちゃんは僕の腕の中で未だ荒ぶっている。 「離れるのじゃ凡才!やられるぞ!」 「ユッキー殿ッ!」 二人は僕を必死になって止めてくれているが、僕には何故か分かるんだ。彼女は大丈夫だと。 「ゔゔゔガワイイぃ…くなぁぁぁあい!ガワイグナイノォぉぉぉ!」 「そんなことないよ。とっても綺麗だ。」 「ゔゔゔゔゔゔ…うぅ……」 血の涙が流れ出て、僕の胸を濡らした。と言っても、服は汚れないが。そして声の曇りが少しずつ晴れてゆく。 「うぅ…うっ…ぐすっ」 しばらくすると、千紗子ちゃんの姿が、徐々に元に戻っていった。ぐしゃぐしゃに濡らした顔を、両手で拭いながら泣き噦る。 「ああああー!」 「泣いていいよ。僕はどこにも行かないから。」 「霧が晴れてっ!」 「それだけじゃない! 元に戻っているぞ。」 千紗子ちゃんは、それから暫く僕の腕の中でわんわん泣いた。その後、こう言ってから光の粒子となって消えた。 「ありがとう…。」 「なんという…」 「もしやこれが、ユッキー殿のチカラなのでは!」 唖然とする舞桜さん、興奮する大和くん。これが僕の“チカラ”とは、一体…。 「ユッキー殿は、おそらく感受性が異常に高いのだ。霊を見るということは、即ち“気づく”ということ。一度気づければ、永遠に霊を見れるようになる。だが、これは霊自身の霊力や怨みの強さによって、誰にでも見えてしまうタイプのものや、こちら側が敏感になることで見える場合もあるから難しいことではない。」 「…それ以上のステージに上がろうとなれば、気づくだけでなく、感じることが必要になってくる。つまり、その感受性の高さ故に、凡才は霊に触れ、心を通わせ、絆すことが出来たのじゃな。」 霊能力ってことだろうか。こんなに早く、というか本当に、僕に力があるなんて。 「じゃあ、僕のチカラは霊能力って事?」 「そうなるな。」 「凄い凄い! 凄いよユッキー!」 千紗子ちゃんの攻撃から復活した佐久間が、目を爛々に輝かせて言った。目がパンパンに腫れててよく見えないけど。 「やっぱり言った通りだったね! まさか本当に開花するとは思ってなかったケド。」 おい。思ってなかったのかよ。ボソッと失礼な事言いやがって。 「ごめんって〜。」 僕らが次に出会ったのは、子ども達の霊。彼らは遊んでやると満足して消えた。その次は老婆。また次は女性だった。だが、彼らのいずれも、千紗子ちゃんのような怨霊ではなく、地縛霊だった。そのため、みんなで編み出した、僕が幽霊を羽交締めにする戦法は日の目を見なかった。 「ぜぇんぜん来ないじゃん、悪霊〜!」 「それでいいんだよ!なに期待してんの!」 「え〜!でもやっぱり使いたいよ悪ユキ!ね、リンリン?」 「悪ユキってなんだよ!」 「えーっとね。“悪霊をユッキーに羽交締めにしてもらってボコボコにしよう作戦”略して悪ユキだよ!」 え、何それ。初耳なんだが。コイツら勝手に略すし、長いし、まあ長いから略すんだけど。 「お、おも、おもしろ、そーだ、ねぇ…。」 「やっぱりそう思うよ…ね?」 全員の首がギギギと回る。佐久間の顔色が曇る。この声は、僕達の誰かの物じゃない。

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僕のチカラとバケモノ。

共犯

今日、私は最高に生きている。“生”とは、“死”と表裏一体であり、さればこそ、“死”を意識することは“生”を意識することと言える。これを定説とするならば、間違いなく、私は今最高に“生きている”のだろう。 今、君の瞳に映る私は、喜びに満ちた顔をしているに違いない。いつも輝いている君に、負けないくらい輝く瞳を持って、このコンクリートの地面を踏んでいる。なのに、どうして。どうして君はそんなにも苦しそうなのだろうか。その大きく黒く、丸い瞳から溢れる雫は、何を意味しているのだろうか。 「ねえ、泣かないで。泣かないでよ。」 「だって〜…えっぐひっく」 「君は私で、私は君なんだよ。忘れちゃった?」 「ううん。でも、でもこんなのってないよ。」 「そう? これは私なりの落とし前。君がいるなら、私の残機は二機だから大丈夫。」 「でも、それは例えで…」 「私は例えで終えるつもりはないよ。本気で、君が私で私が君だと思ってる。だからここにいるの。」 俯く君に影が落ちる。飛行機が上を飛んで、エンジン音が聞こえる。影が暗く覆っても、君の涙は輝き滴る。君はワンピースの裾を硬く握った。 「私に、貴方のいない人生を送れと言うの? 自分だけが逃げて、私のためとか言うんでしょ? 本当に私の為だってんなら、生きて証明しなさいよ!」 「…」 「…出来ないんでしょう。ならなんで、一緒に逝こうって言ってくれないの?」 息が荒く、白くなって、風が髪を靡かせる。肩で息をする必死さが、虚しくも愛らしくもある。そんなに叫ばなくても聞こえるのに。それだけ必死ということか。 「君には関係ないことなんだよ。」 「何言ってるの? 共犯でしょ、私達。」 「私だけだよ。」 「違う!」 「何も違わないよ。君の母親を、禁書を使って殺したのは、私。」 「それは私を救う為だったし、元はと言えば私が貴方に頼んだから!」 「だから、共犯?」君は小さく頷いた。 「実行犯は私。ほら、大書庫から無くなった禁書を探しに、グリズが血眼だ。君は逃げて。」 「嫌よ。今更、貴方を説得しようと言うんじゃないの。逃げようとか、やめようとか言いたいわけじゃないの。一緒がいいのよ! 」君は涙ぐんで、声を震わせて言う。 「ねえ、カフナ。恩人が大犯罪者と邪険にされる世界で、私に生きろと言うの? あんまりだわ。貴方が私の母を殺したのは、母が狂人化したからよ。私が母を殺してと頼んだの。身の危険を感じたから。ただ衝動に駆られて考えなしに、なんて殺人鬼みたいな動機じゃないわ。」 「だが、こうするほかなかったとは言え、勝手に禁書を使った私を世界は許さない。私が死ねば、やっと、君も普通に生活できるだろう。」 「普通に生活なんて出来ないの。貴方が邪険にされる世界で、普通になんて出来ない。禁書でなければ葬れないほど進行するまで、行動に移せなかった私も、貴方に頼んだ私も。どっちも悪いわ。考え直せとは言わない。一緒に逝ってくれないのなら、どのみち私は貴方が逝ったあとを追う。止めても無駄ね。」 「…そうか。分かった。」もう、それ以上は言うまい。そう思った。 「カフナ、今“最高”って顔してる。」 「そうかな。」 「うん、そうだよ。ねえカフナ、来世も出逢おう。出逢って、また友達になるの。」 「そうだね。そうなるといいね。来世に賭けようか、私達は。」 「うん。こうしてれば、最後まで顔を見ながら逝けるよ。」 君はそう言って私の手を握る。私は絡むように握り直した。 「ふふ。恋人繋ぎじゃん。」 こうやって君とオワリを迎える事を、ずっと夢に見てたんだ。ありがとう。君が私に依存するように、私も君が愛おしい。多分、君も気づいているよね。 「バレたか。」

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共犯