あいびぃ

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あいびぃ

初めまして、あいびぃです! 見つけてくれてありがとう♪ 私自身、生粋のアニオタ・漫画オタなのでファンタジーが多めになってます…多分。 詳しいことは「自己紹介」にて! まだまだ若輩者なので、応援よろしくお願いします! ※❤︎&コメはめちゃくちゃ喜びますので、私を喜ばせたい方は是非! 私の事が嫌いな方はオススメしません。

秋の匂い

落ち葉を踏む音、キャン 鮮やかな黄色の絨毯 出来るなら歩きたくない道 野良猫の糞混じり その実放つ香り 調理すれば凄く美味しいらしい けど、そのままだと嫌われてるらしい 風情ある味 好き嫌い別れるらしい 見上げれば黄 見下げれば潰れた実 足で踏んだら最悪 皆が言うsay アウト! えんがちょっ! 待って、ちょっ! 裏見つめて落ち込む 笑われてフイ! 不安を包み込む 笑い合ってポイ! 不快だけど深い香り ちゃんとすれば輝くんだね 私だって輝けるよね 食べ方知ったって 変わらず不快 でも、これが私の秋 銀杏踏むのが、私の秋

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秋の匂い

ただ、青

澄み渡る青空というよりは、曇り空。 雲の合間に青が覗く。 純白で立体的なあの雲を見ても、 ただ青を邪魔しているとしか捉えられない。 何処かに消えてしまえばいいのにと。 しかし、澄み渡る青を見たら、 きっと私は吸い込まれて、無くなってしまう。 そんな気がして恐ろしい。 ただ、青の奥の闇が、恐ろしい。 自分の本質がそこにある様な気がして。 雲がそれを隠すから、私は私を保てている。 ただ純粋に、ただ青を見つめることが出来ない。 青から逃げる。冷たい青から、大きな青から。 私を包み込んで、息の根を止めてしまいそうな 深い、深い青。 だけど、青一つない曇りも、嫌いなんだな。

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ただ、青

幸せ

幸せとは、自分のした事で誰かが微笑みかけてくれることでも、誰かが幸せになる事でもない。 平和とは、愛を語って生み出せるものでもなく、金で買えるものでもなく、とんでもなく遠い目標でもない。 幸せとは、今だ。平和とは、権利だ。 誰もが平等に、初めから持っている決して侵されないもの。 例えば、誰かが書いた「そ」の隣に、別の誰かが「ば」と書き足して、それを見て笑えること。 それが幸せだ。 例えば、「そ」と「ば」の前に「焼き」とか「中華」とか「まぜ」とか書いてくれる人が他にいるなら、 それが平和だ。 例えば、「そ」と「ば」の後に「ありがとう。」と書いてくれる人がいて、その場で泣けるのなら それも平和だ。 例えば、なかなか回らない鍵を、自分に変わって一緒に回してくれる人がいるのなら、 それが幸せだ。 例えば、鍵が回らなかった話を、笑ってくれる家族がいるなら それも幸せだ。 例えば、なかなか回らない鍵に腹を立てて、少し声を荒げ、怒られること。 それが平和だ。 平和とは心の安寧だ。生への感謝だ。死への恐怖だ。 幸せとは、温かみだ。日々への感謝だ。己を生きるという事だ。 徳高く生きるとは、それを胸に生きる事だ。

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幸せ

自己紹介(改)

初めましての方は初めまして、そうでない方はこんにちは。 あいびぃです! えーと、これはタイトルにある通り“改”です。つまり二回目…最新情報もあるかもしれませんが、変わりないところが多いかも? とにかく!もっと色々な人に自分の作品を読んでもらいたい!というエゴが働いて、本企画に参加させて頂きました。雲丹丸さん、ありがとうございます! さて、本題に入ります。 名前は、あいびぃです。中学三年生(女)です。反抗期らしい反抗はしてません!気持ちはちょっと反抗してます… 趣味は、歌を歌う事、聴く事、小説を書く事、アニメ、漫画です。 犬派でたけのこ派で、焼き鳥は基本タレ派です。カワは塩かな。 最近読んだ本は、伊坂幸太郎さんの魔王です。時期が時期なだけに、考えさせられました。公民も習い始めたばかりでしたし。読んでよかったー! 好きなご飯は、おにぎりです。 集合体・高所恐怖症で、三半規管よわよわ! 柴犬飼ってます! 家族仲は良いです、友達は少ないかな(泣)でも、三歳からの幼馴染がいるんでオールオッケー! 親戚めっちゃ多いです、賑やか! それくらいですかね…質問があればいつでもお気軽にコメントください!なんでも答えます! 読んでくださってありがとうございました♪

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自己紹介(改)

泣かないで

泣かないで 泣きたくなる日もあるけど 泣かないで 泣きたくない日もあるよね 泣かないで 辛い事だってあるけど、君なら乗り越えられるよ 泣かないで 僕には、君の気持ちは分からないけど 泣かないで 君のそばを離れない事は出来るんだ 泣かないで 君の辛そうな顔を見るのは、耐えられないから だから泣かないで 一人では、泣かないで

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泣かないで

神託の先に

プロローグ 今から十数年前の聖戦により、世界各国が深刻な被害をを受けた。支援によって殆どの街が復興し、民の笑顔が戻りつつある中でも、未だ壊滅状態の街も少なくはなかった。 かつて、まだ聖戦の被害が街を襲って来ていない頃、この街には国立の神官学校があった。その為か、敵の無差別攻撃に遭い、壊滅状態となったこの街では、戦争孤児が未だ絶えない。そんな中の一人、煉瓦にもたれ、野垂れ死あと一歩と言える、見るからに栄養失調の痩せ細った体。少年は虚な意識の中で、信じられないものを見た。 彼の目の前には黒いローブが靡き、その背にはウルタの瞳。一人は長身の男、一人は自分と変わらなそうに見える少女だった。そして、少女が革製の腰巾着から花弁を取ると、それは形を変えてコップになった。もう一つ、花びらを出す。それは毛布になった。すると、長身の男は手から植物を生やし、その植物の袋から水を取り出してコップに注いだ。その水を恐る恐る飲んでみると、不思議なことに少年は回復した。少年は言った。 「もしかして神様…ですか?」 1 世界は、神によって創られた。 故に人間は神を愛し、神に愛され、そして服従する。 「たった今、神託が降りました。」 聖女オルウレナ・ク=エンティスの発言は、四百年ぶりの聖戦の開戦を意味した。 「「「聖戦だーーーーー!!!」」」 兵は神の命とあらばと、士気を高め、一斉に進軍を始める。開戦の宣言は、すぐに新聞に載り、あっという間に大衆の耳に触れた。 「聖戦だって?」つぎはぎのズボンを履いた男が、新聞を読みながら言った。 「ああ。なんでも、神託らしい。」その新聞を男に渡した、穴だらけの帽子の男が言う。 「神託って、いくら神様の命であっても、そうはならないだろ。」 「そう言うなよ、神抗者だと思われるぞ。」 神抗者とは、神の意思に異議を唱える者達のことで、ほぼ全ての国で異端認定を受け、発見次第処刑されるお尋ね者の悪き組織である。 「だって、俺達は同じ神の子だって言うのに、どうして争う?」 「それは…神が望んだからで。」 「両陣営とも、神の威を買ったとして、敵勢力の断罪を目的としているんだろ?」 「だから聖戦なんじゃないのか。」そうは言いつつも、穴あき帽子の男テリーも、分からなくなっていた。もう何度も繰り返されてきた戦争には、必ず神託が絡み、皆大義名分を持って戦場に赴く。だからこそ、神託の内容が「これは聖戦である。」というものであった事以外に、これまでとの明確な違いが、彼らにはわからないのだ。 「両陣営ともってのが、引っかかるんだ。」 「引っかかる…。」テリーは、自分の知りたかった答えを知れるかもしれないと、必死に耳を傾けた。 「だっておかしいだろう。なんで、両陣営ともが神の威を買って、両陣営ともが神の裁きを下さんとしているんだ。」男の目力が強くなった。テリーは、「なるほど。」と思った。確かに、神がその勢力を悪とし、裁きを下さんとするなら、それを命じられた側は善でなくてはならない。しかし、両陣営がそれを命じられているという事は、善悪が無いということだ。 「なんということだ。それでは、大義名分がないじゃないか。」 「ああ。それなのに戦争の為、神の為と、上の連中は税を徴収して、お陰で俺たちはろくに服すら買えないでいる。周りの奴らも、本当は不思議でならない筈なのに、神の為だと言われれば喜んで搾取される。そこに大義名分が無かったとすれば、馬鹿馬鹿しいにも程があるぜ。」男は丸めた新聞を握っていた手に、グッと力を込めた。 「だがお前、子供には言ったのか?」 「デニスに?無理無理。アイツは有名な神官学校に通ってんだ。しかも特待生でな。だからうっかり口を滑られても、俺の言葉に感化されて神抗者になられても、どちらに転んでも詰みだ。」男はやれやれと言った感じでかぶりを振った。 「じゃあ嫁さんは?」 「マチルダは、もっと無理だろう。アレは口が軽すぎるからな。ご近所さんにバラされたら、たまったもんじゃない。」男は続けて、通報されちまう、と笑った。 2 神官学校に通う、特待生デニス・クロッカスは、朦朧とする意識の中、教師の持つ棒の先端をただ見つめていた。昨夜読んだ本は、非常に面白かった。自分は信心深い訳ではなかったが、神という未知の存在に振り回される人間の歴史は、神の偉大さを感じさせた。そして、その歴史書には、キリの良いところで作成者の感想が入る。例えば、テルス暦854年頃に起きたユガラ湾戦争については、「戦争というものは、そう頻繁に起こす物じゃ無かろうに、人というものは愚かだ。それにこれは神託を通していない。それなのに神を語るとは、人は着実に腐って来ているのだろう。」と。これがまた、批判的で面白い。この批判的な文章の数々が原因で、否定派が多く賛否両論なのだが、その歴史書としての多大なる価値のお陰で、なんとか持ち堪えているのが現状だ。中でもデニスは特に、一番最後にある一文が気に入っている。「神託とは、非常に都合良く、そして便利な物である。」これには、「なるほど」と唸るしかなかった。寧ろ、これがあったおかげで、彼は思考が神一色に染まりきる事がなかったと言えよう。周りの連中は、口を開けば「神の御意志」「神の御加護」と言う。高い給金と地位が約束されているからと、現実的な理由で神官書記を目指し始めたデニスには、そんな連中の思考回路など到底理解できようもなかった。神官書記を目指しているにも関わらず、その優秀さ故に、神官になるべきと多数の推薦を受ける特待生デニス。そんな彼がこの本にご執心と知れば、教師は目眩を起こすに違いない。 「デニス・クロッカス。ユニルル派の聖書、第三幕の第一文を読み上げなさい。」聖人君主と名高い、厳格な教師マクロバーが言った。 「はい、先生。『人は神にあらず。神に従わずは人にあらず、人にあらざるは、神敵也。』」ユニルル派、それは最も過激な宗派である。「神こそが全て」という感じが全面に出たスタイルで、言うなれば、神ガチ勢。他にも幾つか宗派があるが、この学校では幅広く学んでおり、フリージア・マクロバーはユニルル派とグローシス派を担当している。 「デニス・クロッカス、それは第一章です。話を聞いていませんでしたね。貴方ほどの人が、一体どうしたんですか?」 「すみません、マクロバー先生。昨夜は聖書に夢中で、少し夜更かししてしまって。」無論、嘘である。デニスは、眠気に抗うことに集中するあまりに、起きていても話を聞くことが出来ないでいた。とんだしくじりである。 「…勤勉なのは良い事ですが、それで授業をまともに受けられないのでは元も子もない。今回は初めてなので見逃しますが、次はありませんよ。」マクロバーの冷たい声に、昨日の自分を叱りたくなるが、グッと飲み込み答える。 「はい。先生の御慈悲に感謝致します。」 「よろしい。」マクロバーはユニルル派。「聖書を読み込んでいました」という言い訳であれば、比較的受け入れられ易いという事をデニスは知っていた。 授業後、デニスは友人と食堂の席に着いた。今は、メニューを頼み終えて、待ち時間だ。 「デニスともあろう者が、寝不足なんてどうしたんだ?中々面白かったぞ。」お調子者のスタックが、バカにしたように言った。 「…面目ない。」 「ねえデニス、知ってるかい?」今度は気取り屋のベンジャミンが、話し始めた。 「人間は、完璧が怖いんだ。」 「それは、スタックン・ローレイの言葉か? 人は未知と完璧の存在を恐れるっていう。」デニスの言葉に、スタックが得意気な顔をした。彼の名前の由来は、この心理学者なのだ。 「ああ、そういうのもあったね。僕が言いたいのは、それに近いかも知れないな。君は、先生達にとっては理想的で模範的な生徒だ。完璧すぎるくらいにね。でも、完璧過ぎると、沸点が分からない分、こうすれば怒られてしまうかも、と変にビクビクされてしまう。そうだろう?」 「そうだな。」 「つまりだ、デニス。」ベンジャミンは指を立てて言う。 「つまり、僕らが言いたいのはね、君がヘマしてくれて、良かったって事だ。人間とは、必ず欠点がある存在。なら欠点がない完璧な存在は、人間じゃないのさ。だから極端な話、君は人間じゃない…未知の存在だ。だから、そんな君の人間らしいところが見れて、みんな内心ホッとしているんだよ。」デニスは、完璧ではない。そう見えているだけだ。しかし、身近にいる人は自分と比べて落胆してしまうし、されてしまう。普段から怒ることのないデニスの沸点など、知るわけもなく、いつ地雷を踏むか分からない恐怖と葛藤する。それが彼らの日常だった。しかし今日、そんなデニスの欠点を見た。こんな人でも欠点があるなんて、と驚愕しつつも、多少なりとも親近感を持った。 「じゃあ、神様はどうだ?神様は正に完璧だ。だけど誰も恐れない。」デニスがそう言うと、ベンジャミンは意外そうな顔をして、言った。 「神様と君の、大きな違いは何だろう?」 「人間か神かじゃねーの?」スタックが言った。 「そうとも言えるけど、詳しくは、見えるか見えないか。それだけさ。」 「見えないものの方が、よっぽど怖いと思うが。」デニスが顎に手を当てながら言う。 「いいや。見えないからこそ、どんな情報だって、この目で見るまでは正しい。例えば、会ったことの無い母親が完璧と言われていても、君はそれが怖いかい?」ベンジャミンは微笑んだ。 「いや、母なら大丈夫な気がする。」 「そうだろう。そういう事なのさ、結局は。」そう言い終えたころ、注文の品ができたと、合図のブザーが鳴った。デニス達は一人ずつ、ご飯をとりに行った。 3 デニスは、そのルビーの瞳を輝かせた。 深夜、決まって図書館に現れるという魔の宝玉の噂。それを確かめるべく、彼は潜入した。ランタンに灯りを点し、練り歩く。何度も広大な図書館を周り、今彼の前には例の宝玉が浮かんでいる。緑色の宝玉だ。どのような力があるのかは、デニスにも分からない。ただ明らかなのは、それが膨大な魔力に満ち溢れているという事だけだった。 ただ一抹の好奇心が、彼の手を伸ばさせた。指が触れ、宝玉に溶け込み、吸い込まれた。 どれくらいの間、気を失っていただろうか。目を覚ますと、体が痛かった。ゆっくりと起き上がると、辺りを見回す。ボロボロに崩れ落ちた色褪せた煉瓦、荒れた土、その真ん中には、ようやく空間として成り立つ程の、小さな煉瓦造りの倉庫があった。そこから、声がした。包み込むように優しい、男の声だった。 「少々、私の惚気話に付き合って頂けませんか?」男の言葉に答えるように、「ガフッ」と吐血の音がした。 「実はですね、私、今度娘が産まれるんです。」とてもルンルンとした声だった。 「ムズ…メェ…。」 「ええ、娘です。しかし我が至高なる御方によりますと、女だと思っていたら男だったなんて事は、よくあるのだそうですよ。」 「…カヒュッ」 「でも、関係ないですよね。男か女かなんて。どちらも愛しい我が子なんですから。」語気が強まった気がした。気になって、デニスはバレないように移動する。 「ああ、貴方、娘を虐待してたんでしたっけ。女は神職にはなれないからと。だったら私の気持ちなんて理解できませんね。聞くだけ無駄でした。」冷たい声だった。 そこには、頸まで編み込んだ黒い髪が外向きに跳ねて巻き込まれた髪型の、背の高い男がいた。彼の手には長い爪の様な刃物が付いていて、男の胸を突き刺し宙ぶらりんにしていた。黒いローブを着ていて、背には血の様な赤黒い色で荒々しく描かれたマークがあった。逆三角形の頂点に丸、そして三角の中に目が描かれていた。見覚えがある、デニスはそう思った。あれは、あの時スタックが見せてきたマークに瓜二つだったからだ。確か、彼が言うには、そのマークは「神抗者…。」 すると、男は振り返り、刺していた男を爪の刃物から滑り落とした。 「おや、こんなところに迷子ですか。」 「あ…。」デニスは、ヤバいと思った。殺される。あの男の様に、自分も。 「大丈夫ですよ。私はご存知の通り、神抗者。しかし、神抗者とは神を信ずる心を一方的に否定する者ではありませんから。」男は和かに微笑んだ。返り血が頬を赤く染めていた。 「え…でも。」デニスは後退った。 「神抗者とは、神に見限られ、神を憎む者だと教わりませんでしたか?実はそれ、間違いです。」男はデニスに近寄り、指を立てた。 「神抗者とは、神様の事が大嫌いで、憎くて憎くて仕方がないのに、何故かとっても愛されてしまう人の事を言うんですよ。」デニスは驚愕した。神に愛される人が、神抗者とは思いもよらなかったのだ。 「だから、神様が私達に力をくれるんです。特殊な力を。例えば私は、この刃物の性質を変化させられる力。限定的ではありますが、非常に強力です。それと、この背中のマークは“ウルタの瞳”というのですよ。悪魔書の悪魔、ウルタを召喚する時に使われたとされる魔法陣。その一つです。」ウルタは、とても有名な話だ。デニスは思い返す。悪魔書の中でもかなり凶悪で、最も神に近い実力の持ち主とされる最強の悪魔。それを背に背負った集団が、神抗者なのだ。 「…。」 「…そろそろ宝玉も時間の様ですね。」 「え?」 「いえ、なんでもありませんよ。」そうニッコリと微笑んで言い直すと、男は顎に手を当てながら言った。 「そうですね…見た感じ、貴方は迷い込んだだけの様ですし、送ってさしあげましょう。私は、イビルグル。イビルグル・オスカータ。あなたは?」 「…デニス・クロッカス。」 「よろしくお願いしますね、デニス。」 イビルグルの差し出した手を握ると、目の前に霧が生じた。そして気がつくと、デニスは自室のベッドにいた。 4 悠々と廊下を歩くデニスの手には、まだ昨夜の感覚が残っていた。大きくて、女性の様にしなやかな手だった。体温も、少し出張った血管の柔らかさも、その白い手も。優しく眠りへ誘うような、安心感のあるふわふわした声すら、一向に耳から離れなかった。イビルグルとの記憶は鮮明に、彼の脳内でフラッシュバックを繰り返す。 「どうしたデニス、また寝不足か?」スタックが戯けた調子で言った。「あ、ああ。」 「マジかよ、最近らしくないぜ。」 「だよな。けど、最近寝付きが悪くて、その度に本を読んでみては興奮でまた眠れない…負のサイクルだ。」 「だったら僕が子守唄を歌ってあげよう。」ベンジャミンは大袈裟な動きで格好付けて、デニスの方に手を差し伸べた。最高に鼻に付く動きだった。 「いや、いいよ。気持ちだけ受け取る。」 「な、何故!」 「だってお前、音痴じゃん。逆に寝れなくなるよ。」大きくショックを受けた様子のベンジャミンを横目に、デニスはそう言って笑った。 「今日は居眠りするなよ、デニス!」 「さらばだ、デニス。またお昼に会おう!」 「ああ。またな!」デニスは、二人とは違う授業だ。その為、別々の教室に別れた。 デニスが席に着いた時、机に置いたペンが僅かに揺れた。その後、今度は激しく揺れる。爆発のような音と共に。その瞬間、警報が鳴った。外からは騒ぎ声が聞こえる。逃げろー!とか、ドラゴンブレスだ!とか、とにかく騒がしく、無数の足音も鳴り響いていた。デニスも逃げた。無我夢中で、何が何だか分からずに、ただ必死に逃げた。デニスには、家族やベンジャミンやスタックの無事を祈り続けることしかできなかった。 「ドラゴンブレス…バカな。ドラゴンなんて、保有しているのはマロヌスの竜騎士団のみのはずだ。でもマロヌスは今聖戦の最中。しかも最西端の国だから、大陸のど真ん中にあるこの国はとても遠い。いくら敵対国パーミフリアの同盟国であっても、こんなところまで戦火が届くなんてあり得ない。」走りながら、一つ一つ情報を整理するように呟く。 「あり得ない…はずだ。しかし我々は実際に攻撃を受けている。ドラゴンが、学校を破壊した。スタックは、ベンジャミンは無事だろうか。父さんも、母さんも無事か?」やがて息が上がり、声に出すのもままならなくなった。デニスは脳内で何度も無事を祈り、命に感謝し、そして目的の場所に辿り着いた。 そこには宝玉があった。デニスは図書館に向かったのだ。宝玉の力が“転移”なら、生き延びることが出来る。そう考えたからだ。デニスはあの時と同じように、手を伸ばし、指先から慎重に宝玉に触れた。宝玉はゆっくりとデニスを吸い込んだ。 ゆっくりと目を開くと、眩しく降り注ぐ木漏れ日を、思わず手で遮る。すぐに立ち上がって、走った。昨夜、イビルグルと出会った倉庫に向かって。滴る汗を物ともせず。ドラゴンブレスで燃え盛る街に比べれば、この不気味な森も、空気が正常に吸える分、いくらかマシなように思えた。 倉庫に着く。そこにはやはり、イビルグルがいた。しかし、彼は誰も殺していない。こちらに背を向けて、ただ立っている。 「い、イビルグルさん!」 「おや、デニスですね。血相抱えて、どうか致しましたか?」イビルグルがにっこりと微笑み、振り返った。そこに、信じ難い物を見たデニスは、思わず指を刺して顔を引き攣らせた。 「そ、それは…!」 「ああ、これは人形ですよ。悪魔のね。」そこには8体ほどの不気味な人形があった。 「悪魔の人形…ご存知ありませんでしたか?」デニスは急いでかぶりを振った。 「悪魔の人形は、テルス暦1584年に大量生産されるも、その精巧な人間そっくりの造りのせいで、悪魔を憑依させるための器に違いないと噂が流れて、生産を停止させられてしまった人形、ですよね。」 「ええ。私の上司でもあります。」すると、人形が口々に話し始めた。 『それはオマエの玩具か?』 『何故ここにいる?』 『説明せよ、イビルグル。』 『そんな奴放っておけ。』 『神を信ずる者には』 『ここは似合わんだろう。』 『さっさと出て行かせよ。』 「もー、報告は終わったんですから、さっさと帰ってくれませんか?」 『お主が帰らんか!』 「あ、いいんですか?では、デニスについて行っても?」 『構わん、さっさと終わらせろ。』 「では行きましょう、デニス。」イビルグルは自然な足運びでデニスを担ぎ上げ、霧に消えた。 イビルグルの足が街の地を踏んだ時、そこにかつての街の姿はなかった。もはや何処が何なのかすらも、分からない。壊滅状態であった。 「うああああああ!」絶望。大粒の涙が、デニスの頬を濡らす。靡く栗毛が、顔に貼り付く。イビルグルに下ろされると、直後に膝から崩れ落ちた。整備されていた歩道のレンガは跡形もなく、砂の上に点々と残るただの瓦礫と化した。それを握り締めて、泣き叫んだ。落ち着くまでずっと、イビルグルが背中を摩ってくれていた。 「気が済みましたか?」 「はい。ありがとうございました。」 「しかし、酷いですねぇ。この惨状は。で、貴方は命からがら逃げてきた、と。」 「ええ。」 「私に何とかして欲しかったんでしょうけど、流石にドラゴンは厳しそうです。すみませんね。」 「いえ、ここまで帰してくれただけでも。」 「そうですか。おや、あそこに掲示板がありますよ。」イビルグルが指差した先には、ボロボロの即席であろう看板があった。そこにはいろいろな紙が貼られていた。近づくと、名前が書かれた紙があった。 「ベンジャミン・ドート、アレクシア・ドート、スタック・アルレイド、テリー・アルレイド、マチルダ・クロッカス、リズウェルズ・クロッカス…。」そこにはみんなの名前も載っていた。デニスは思わず読み上げた。 「…以上の百名に心からの祈りを。…亡くなられたようですね。」 「え…。」そんなはずはないと、デニスは目で紙に書かれた文字を追った。全部の名前を一つ一つ見て、タイトルも一文字ずつ。何度も何度も追って、なぞった。 「死亡…確認者一覧。栄誉ある、哀れな神の犠牲者、ここに眠る…嘘だ!みんなが!俺だけ逃げた!」 「落ち着いてください。貴方が逃げたこと、私に頼ろうとしたこと、これらは全て正しい判断です。ご家族やご友人が亡くなられたのは、貴方のせいではありません。貴方も聞こえたでしょう、神の声が。」そう、神の声。デニス達が移動している時に聞こえた声だ。あれはきっと、ここにいた人達にも、或いは全世界に響いていたのだろう、と思う。とても二人では抱えきれない。それほどまでに、悍ましい感じであった。全世界が聞いていたからこそ、神の犠牲者の後ろに“哀れな”があるのだろう。そうでなければ、名誉ある死となる筈だ。そういう、世界であるから。 「聞こえた、けど…!」デニスは、イビルグルを睨み付けた。しかしイビルグルは、顔色ひとつ変えず冷静だった。 「なら分かるはずです。この件には神が絡んでいる。私達には最初からどうにもできなかったのだと。」そうだ。そうなのだ。だけどそれが、それこそが悔しいのだから、どうしようもない。 世界は残酷だった。いや、神が残酷だった。人間は神を愛し、愛され、そして服従する。しかし、この言葉でそれは一変した。 『人間よ、我が愛し子よ。』神は慈愛に満ちた声で言った。その声が聞こえてきた瞬間、人類は攻撃の手をやめ、逃げる足を止めた。 『人間よ、どうしようもなく無知で浅はかで、そして愛しい愚か者どもよ。』神は祝福に満ちた声で言った。人類は、耳を疑った。未だ手と足は動かぬまま。 『主らには、これまで存分に楽しませてもらった。礼を言う。だが、我はまだ足りぬ!此度は主らの全力を以て、いつも以上に我を楽しませよ!』神は喜び溢れる声で言った。人類は未だこの意味を理解できない。しようとしない。時が止まったように、体は静止する。 『さあ、その美しい紅き体液を撒き散らせ!その耳心地の良い鳴き声を聞かせよ!舞え!』神は狂気的な声で高々と言った。人類は理解した。あゝ、我々は踊らされていた。我々は、神にとって盤上の駒に過ぎなかったのだと。同胞の死も、身内の死も、繰り返した戦いに大義名分などはなから無く、その死に名誉も栄誉も何も無かった。人類は憎しみに打ち震え、祈りのために組んだ指に力を込めた。 『早う我を楽しませよ、愛しい愛しい我が子らよ!』人類は神を憎んだ。しかし、一度繋がれた鎖は、そう簡単には離れない。神が手放さない。手綱を握られていては、抗おうとも抗えぬ。一向に意味をなさない。神にとっては、いくら我々が抗おうとも、飼い犬が散歩中に脱走を試みているようなものに過ぎない。 『心から愛しているぞ。これからも期待している。』神は愛に満ちた声で言う。我が子に言うように愛を囁く。期待していると言う。 この日から人類は、神を憎み、神に愛され、そして立ち向かう事になる。 神の言葉を思い出したデニスは、イビルグルに誘導されるがままに、霧の中へと消えていった。 5 夜明け前の街に、ひっそりとした影が揺れる。崩れた石畳の上を歩くたび、長い外套の裾がぼろぼろの地面を払った。 道の脇、瓦礫の隙間にうずくまる者たち。幼い兄妹。泣き疲れて眠る子。声をなくした老婆…誰もが、絶望と憎しみの底にいた。 「…何か、感じるですか?」男の隣を歩く、少女の声。鈴を転がすような彼女の明るい声は、地獄に咲く花のようで、美しいは美しいのだが、どこか不釣り合いにも思えた。 「…少しな。ジスタ、まだこの辺りには生存者がいる。西の区画へ向かおう」淡々と答えながら、歩みは止めない。ジスタは、躊躇いなく男の隣を歩いた。 「行こうなのです!」 「ああ。」ぼんやりと、月を見つめる。 夜の闇は、世界に染み込んでいた。あの朝、死に損なった子供たちは、めいめい、瓦礫の影に隠れて息を潜めている。男は、少年の姿を捉えた。この少年は、今や喉の渇き方すら分からず、常に鳴り続ける腹に現実を見ては、己を鼓舞する日々を送って来たのだろう。 「…お兄さんは、泣かないの?」少年が言った。 「どうしてなのです?」ジスタが腰を屈めて言った。男も膝をつく。 「…だって、今まで他の国から来た人達は、泣くんだよ。かわいそうにって。なのに助けてくれないんだ。」不思議そうに、二人を見つめる瞳は大きく出張っていた。 「泣かないさ。助ける気もないのに、ただ同情して泣くなんて、そんな無責任な事、俺には出来ない。だが、お前達が死の瀬戸際にいる事は、よく分かる。辛いってことも。」 「だから、旦那様は緊急性を感じて、今ここにいるのです。」 「…ジスタ、その旦那様と言うのはやめてくれないか。」 「なぜなのです?パパ様も言ってたのです、旦那様はジスタの旦那様に相応しいって。ジスタもそうがいいのです。」ジスタは頬を膨らませて、男に抗議した。「だから、それはお前の父がそう言っているだけで、俺は断じて認めてない。」男は、ずいっと寄ってきたジスタの顔を押し戻しながら言った。風が吹いて、赤い瞳がチラリと覗いた。 少年は、二人の様子を見て、初めて来客に興味を示した。フードの奥に隠れて見えない男の顔を、見てみたいと思えるほどに。一方でジスタは、フードを下ろしており、対照的だ。身長や発言、声色などからして、自分と同じくらいだと思われる彼女の容姿もまた、実に個性的であった。腰まで伸ばした黒髪を五本程の、厚めの三つ編みにして、下で鈴の付いた紙紐で止められている。黒いローブを被っているが、その中にパンプキンパンツを履いているのが見えた。 「…ふふっ。」少年の笑い声に、二人が振り向いて目を丸くした。 「ようやく笑ったな。いいことだ。」 「パパ様曰く、どんな地獄に生きてても、笑ったという経験があることが、生存率を上げる。らしいのです!」 「俺は、お前達を助けたいと思う。無責任に、な。」嫌か?男は少年に問うた。少年はかぶりを振った。「無責任でも、命さえあればいいから。」 それを聞いた男は、手から植物を生やした。いや、男が握り締めた種子が、急速に成長した。それはやがて、袋を持つ美しい花となった。その隣で、ジスタはパンプキンパンツに付いていた革製の腰巾着から、花弁を取り出した。男は花の袋に少しだけ切り込みを入れる。ジスタは花弁を手のひらに置いた。すると、それは黄金に光り輝き、コップになった。男はもう一押しと袋に穴を開け、そのコップに水を入れた。 「飲め。」男の手からコップを受け取り、少年は恐る恐る口に運んだ。ごくり。喉が、乾いていたことを思い出した。求めていた物を得た。そんな感動が押し寄せる。ごくり。胃が、動き方を思い出した。もうしばらく聞いていなかった音が、聞こえた。ごくり。身体中の筋肉の、強張りが解けた。身体中を巡る脈動を、活発に動く心音を感じた。何日ぶりかの水は、それらの機能が己の体にあったということを、一瞬で思い起こさせた。それだけじゃなかった。あの日、あの朝の恐怖や後悔に苛まれ、眠れなかった事による寝不足の疲労感も、長期間の飢餓により栄養を得るため消費され尽くした己が脂肪も、全てが回復した。骨が目立たなくなるまで。隈も消えた。青白い肌も、元の血色を取り戻した。乾燥でひび割れ、出血しまくっていた唇も、年相応の潤いと色を得た。初めて、生きていると、感じられた。己の体であるという感じがしたのだ。少年の健康的な瞳から、大粒の涙が溢れた。 「あの、もしかして…神様ですか?」 「…まずは?」 「ありがとうございました。本当に、本当にありがとう。」 「いいさ。どうせ誰にでもやったんだ。それと、俺は神じゃない。」 「ジスタも違うのです。」 「じゃあ、さっきのは?」自分を救ったあの魔法は、聞いたことない物だった。神の魔法じゃないとは、とても思えなかった。 「ジスタは花弁を変化させられるのです。旦那様は、種とか、植物の何か一部さえあれば、何処でもいつでも生やせるのです。」 「俺の力と、ジスタの力は相性がいいからな。俺が作った花の花びらを、ジスタにやるんだ。そうすれば、ジスタは無限に使えるだろ。それと、お前の体が回復したのは、ジスタの力だ。あの花弁に癒しの力があってな、それを用いて作られたコップを使って飲んだから、お前は回復したんだ。花の袋に入った水は、実は関係ない。」男は淡々と答えた。 「そう、ですか。じゃあ、二人は一体?」 「ジスタは、ジスタ・オスカータっていうのです。旦那様は…」男がジスタの唇に、人差し指を置いた。ジスタは口を閉ざす。その時、風が吹いてフードが降りた。 「俺の事はいい。どうしてもというなら、そうだな。」男は顎に手を当てて言った。 「俺達は、神の事が大嫌いで憎んでるのに、何故か神に愛されまくる連中だ。」少年は、そう言って去っていく、彼らの姿を見送る。 黒髪と栗毛が、殺風景な青空に舞う。彼らの背中と目が合った。

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神託の先に

だいじょうぶ

「だいじょうぶ、だいじょうぶ。」 そう言い聞かせて、貴方は生きてきたのでしょう。 「貴方はきっと、大丈夫だから。」 そう言われたかったから、言い聞かせてきたのでしょう。 貴方が欲しいのは、 「アイツのことなんて、気にするな。」 なんて言葉じゃなくて、「大丈夫?」でもなくて。 「きっと大丈夫だから。」って、確証を持った約束を。 貴方が自分に言い聞かせてきた分、私が貴方に約束しましょう。 大丈夫。貴方は、絶対に大丈夫。 貴方は生きてて大丈夫、貴方は発言しても大丈夫。 貴方が泣いても、笑っても、私が優しく抱きしめるから。 だから大丈夫。嫌な奴のこと、気にしたって、大丈夫。 気にしないなんて、出来ないよね。 それでも言われ続けたら、正しいんだって思うよね。 「気にしないなんて無理です」って、中々言えないから。 必死に気にしない様に、してきたんだよね。 「泣いたらアイツの思う壺だよ。」そう言われても、泣かないなんて出来ないから。 自分が間違ってるって、どんどん何も、言えなくなるんだよね。 でも大丈夫。そう思う事は、何も悪くなんかないから。 どんなに時間をかけても、私が貴方の話を聞くから。 絶対に、泣かないことも、気にしないことも、強要しない。 泣いていいんだよ。気にしていいんだよ。悩んでもいいし、怒ってもいい。 貴方は、好きに生きていい。 約束だよ。 だから、今はただ、貴方を褒めてあげたいの。 傷ついた貴方の心を、温めてあげたいの。 「よく頑張ったね。ほんとうにありがとう。」 世界一、頑張り屋さんの貴方へ 「貴方は世界で一番、偉い子だよ。」

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だいじょうぶ

恋桜、散るのも惜しいが、掃くのも惜しい。

「俺、お前のこと好きみたいだ。」 生命芽吹く春、俺はクラスの男子に告白した。 そいつの名前は梅宮遥希。いつも女子に囲まれているモテ男子だ。実際、遥希は綺麗な顔をしている。加えて優しく、男気もある。つまり、性格までイケメンなのだ。そんな遥希に、俺は一年の夏から思いを寄せ、遂に一大決心をして告白に挑んだ。 「え…。」 「いや、やっぱり変だよな、男が男を好きなんて。」 「別に、そんな事は…。」 「いいよ、気を遣わなくて。どうせ告られるならさ、お前も、こんな平々凡々とした男より、煌びやかな、例えばマリカちゃんみたいな女子が良かったよな。」 「…。」 「時間、取って悪かったな。今日の事は悪いが忘れてくれ。」そう言って、返事を待たず、俺はその場を去った。いくら聞くのが辛くなったとは言え、我ながら自分勝手だったと、猛省した。しかし、遥希も気まずかったに違いないし、仮に答えられたとしても、返ってくるのが良くない報せである事は、明白だった。俺はこの選択に後悔しない。後悔してはならない。そんな風に思う。 やっぱり、失恋は失恋のままに、復縁も何もなく、俺の人生において次の恋に進むために必要なステップであり、試練でもあると。そう言うことにして、心にしまっておきたいのだ。 俺は考えることが好きだ。だが、これも単に、難しいことを考えている、哲学的な俺の思考回路に、ただ酔いしれているだけかもしれない。 しかし今は、考えずにはいられない。自分の口から出た、「男より女の方が良かったよな。」というような発言。これは、意図して出た言葉では無かった。同性への告白と、相手との間に流れる妙な空気感に焦りを抱き、結果思ってもない、そして相手に肯定してほしくないことを、口走ったのだろう。だから、遥希があの時黙ってくれたのは、本当に良かったと思う。 でも、「同性への告白」を変だと考える思考は、そもそも間違っては居ないだろうか。 俺は、同性を愛するという感情を、恥ずべきもの、隠すべき汚点だと感じていた。告白に割り切ったのは、例え汚点であったとしても、この感情を燃焼させないまま終わらせる事を、俺の心が許さなかったからだ。しかし、実際にその時が来ると、普段ならゆっくりと冷静に回る頭も、ぐるぐると回り過ぎ、熱を持って逆にショートしてしまった。 人を愛する、恋をするという事は、何も恥ずべき汚点ではない。そもそも、良い悪いで測れる分野では無いのだ。 「俺が女だったらなぁ。振られても、最初から無謀な挑戦だったんだと、笑われるだけで済む。」そう、いくら恋愛の多様性を訴えたとしても、それが認められているのが本来の正しい形であるとしても、それを変だと認めないのが人間の常識というものなのだ。常識が異端を作り、間違いを作り、違和感を生む。常識とは、人々が各々に持つ固定概念なのだろう。そして、常識とは、当たり前という荒波立たぬ平野を作る一方で(これは同調圧力とも言えるかもしれないが)、無限に社会の負の面を作り続ける大量生産機に過ぎないと、俺は思う。 しかし、恋愛は理屈じゃない。俺がこうして、考えに耽り、机を睨み付けている内に、噂は光の速さで校内を巡るだろう。今に俺は、校内の異端者となり、進学先に在校生が居ようものなら、そこでも異端者扱いを受けるのだ。 「君はさっき、男が男になんて変だって言ったけど、僕にしてみれば、君が女って方がよっぽど変だな。」振り返れば、後ろに長身細身のイケメンが立っていた。遥希だ。 「…遥希。取り巻きの女子にはもう言ったのか?」 「それは、僕がさっきの事を言いふらしたと、言いたいのかい?酷い言い草じゃあないか。」 「実際そうなんだろうと、思っただけだ。」 「嬉しかったよ。」遥希は俺の隣の席の女子の椅子を、ガタリと引っ張って、そこに座った。 「え?」 「だから、嬉しかったんだよ、君に告られて。」 意外だった。男なのに、俺が言うことではないが、男である俺からの告白を遥希が喜んでくれるなんて。しかし、俺は複雑だった。嬉しいと思う反面、揶揄ってるのかもしれないという不安感と、そしてこんな状況でさえ好意を抱き続けられるほどの幸福感が、絡み合う。 「俺が男なのにか?」 「いや、君が男だから、だよ。」 「俺が男だから…。」思わず復唱する。 「僕はね、清野君。僕の事を男だと思って近寄らない男が多いあまりに、自分には魅力が無いのだと、危うく自暴自棄になるところだったんだ。」 「え…今、男だと思ってって。」遥希は確かにそう言った。 「ああ。僕は正真正銘女の子だよ。男っぽいだけのね。」続けて、髪が短いのは暑がりだからだと、情報を付け足した。 「…マジ?」 「うん、マジ。」その後、遥希は俺の耳元で囁いた。「それから、さっきの答えはイエスだよ。」顔が熱くなるのがハッキリと分かった。俺は、トマトの様に赤くなった顔を抑え、これから彼女に翻弄され続ける己の未来を悟った。しかし、俺は気づけなかった。颯爽と去っていく彼女の顔もまた、赤くなっていたということに。

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恋桜、散るのも惜しいが、掃くのも惜しい。

涙のわけ

「どうして泣くの?」って。 分かんないよ、涙の意味なんて。 それなのに決めつける貴方の指は、私を指すの。 道徳じゃないんだから、どうして泣いてるかなんて、 軽々しく知ったフリなんかしないで。 理由くらいは自分で分かるから。 考えてみれば、そう、いつも 私は私のために泣いてる。 考えてみれば、でも、人ってね、 きっといつだって、人のためには泣いてない。 いつになったら、人は人の為に泣ける様になるのかな。 いつになったら私も、人の為に泣ける様になるのかな。 涙のわけに「私」って単語が、入ってこなくなるのかな。 いつかそんな人になれるなら、それがホンモノの 徳高い人なのでしょう。

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涙のわけ

黒い影

古来より、あらゆる存在は生きる為に進化を遂げ続けた。外敵から身を守る為、或いは餌を得る為。自身の置かれた環境や要望に合わせて、変化を求めたのだ。 例えばラフレシア。あれは餌を得る為に、あえて派手な見た目になり、そして餌の好む刺激臭を発した。例えば蝶々。外敵から身を守りつつ、花の蜜を得る為、花に同化すべく派手になった。 しかし、どんなに姿が変わろうとも、忌み嫌われる存在がある。 それは… あれは、とある休日の夜のことでした。父に誘われて、走り込みとインターバルトレーニングをみっちりと行った後の話です。 私は父に「風呂に入ってこい。」と言われ、2階へ上がり、服を脱ぎました。ベッタリと張り付く汗に不快感を感じながら、かと言って滴るのも絶妙に不快で。思えばあの時から既に、私はあの事を予感していたのかも知れません。 ドアノブに手を掛け、洗い場に足を踏み入れた時。汗まみれの肌を風が優しく撫で、床のザラザラとした感触や冷たさが、心地よかったのを覚えています。そして、ちょうど私の正面には鏡があり、ふと、右下に目が行きました。浴槽との境界線で、壁とも接する角。そこに奴は現れたのです。「戦慄」その一言に尽きます。己が目を疑いました。どこまでも黒い体、気味の悪い形状。そして動かない体から放たれる圧倒的な存在感。「見られている。」そんな気さえ起きました。そして何よりも、抵抗などできようもない生まれたままの姿で、アイツと対面している事が、私には恐ろしくありました。その間、三秒。硬直から放たれた体は、直様ドアノブに手を掛け、助けを呼びました。駆け出した足は、自らの裸体を晒す事をものともせず、数メートルと先の部屋まで一心に向かいます。何事かと驚く妹も、私の発言に全てを悟り、父召喚。しかし、父の口からこんな言葉が漏れました。「おらんけど。」今度は耳を疑いました。そんなはずはない、私は確かに見たと。必死に訴えます。しかし、本当に奴の姿は見えません。混乱も束の間、どこからかカサカサ足音がするのです。またもや戦慄。アイツだ。アイツの足音だと確信し、もう一度部屋に駆け込みました。 その後、父が無事に帰還すると、一同安堵に胸を撫で下ろします。その姿を見た父は、間髪入れずにこんな事を言いました。 「今換気してるけど、ゴキジェット充満してるから、しっかり床流すんやで。」 彼の手には奴が包まれたティッシュとスプレー缶。颯爽と階段を降りる父の背中を見れば、例え洗い場にガスが充満してようが、それが臭かろうが。その全てを許してしまえる自分がいました。 だって今は、奴がいなくなったという報せこそが、何より最も重要なのだから。

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黒い影