あいびぃ
67 件の小説あいびぃ
初めまして、あいびぃです! 見つけてくれてありがとう♪ 私自身、生粋のアニオタ・漫画オタなのでファンタジーが多めになってます…多分。 詳しいことは「自己紹介」にて! まだまだ若輩者なので、応援よろしくお願いします!
サナギから旅立つ日
「忘れ物ない?全部持った?持ったならさっさと行け!」 「うるさいなぁ、言われなくてもすぐ出てくってば。」 姉のハンナが無愛想に送り出し、かとおもえば、今度は心配性の母が騒ぎ出す。 「本当に大丈夫なの?アンタ危なっかしいから、すぐにでも怪我するんじゃないかって、お母さん心配で心配で。」 「大丈夫だって。忘れ物もないし、あの日から、ペトロさんが居なくなってから、毎日鍛錬を積んだんだ。もう、村では誰にも負けない。」 あれから十年程が経ち、もう立派な青年となったプシュケは、旅立ちの日を迎える。 ペトロに勇気付けられてから、約束の通りロシナンテになるための鍛錬を積んだプシュケは、村では負け無しで、冒険者となったとしても十二分に通じるであろう実力を持っていた。 「違うわよ。いや、違わないんだけどね。その、転けたりする方の怪我。アンタ、鈍臭いからさ。」 「あ、そっち? それなら大丈夫。鍛錬で体幹ついたし、注意もしてるから。」 「ならいいのだけど。ていうかペトロって誰よ?お母さん知らないわよ。」 「良いんだよ、お母さんは知らなくて当たり前だから。ちなみに、何年か前にアドバイスくれた人だよ。」 「そう。じゃあ、いってらっしゃいプシュケ。」 「行ってきます。」 こうしてプシュケは、十六年間住み続けた村から旅立った。 最初に向かうのは、冒険者の街“ブランメル”だ。 冒険者になる理由は、冒険者になると貰える特別な通行手形が非常に便利だからである。冒険者が持つ通行手形は、大抵の街をそれを見せるだけで無料で通れるという優れ物のため、これから長旅をしようという懐の寂しいプシュケにとって、これ以上ない必須アイテムであった。 あと他に欲しいものと言えば、パーティメンバーだ。自分の夢を笑わずに受け入れ、共に目指してくれるような、そんな仲間が欲しいところである。できれば強いと嬉しいが、欲張るのも良くないと自制した。 取り敢えず、ブランメルへはブランメル行きの馬車に乗って行く。その為には、馬車停がある隣の隣の街に行く必要があるので、そこまでは流石に歩く事にした。 「おじさん、馬車に乗せてください。」 「あいよ。五ペニね。」プシュケは五ペニを失った。 「ありがとうございます。」 馬車に乗り込むと、プシュケの他にも何人かの乗客が見えて、少し驚いた。 すると、隣の人に声をかけられた。物凄い美少女だった。可愛らしい顔立ちに、プシュケの胸くらいしか無い身長。髪は少しクセのあるボブで、白髪だった。正確には白に近い金?だったが、プシュケはこんな美人を見た事が無かったので、緊張が凄い。 「ね、ねぇ。君も、ブランメルに行くんでしょ?僕、ネネルって言うんだけど、君は?」初めて見る僕っ子に、プシュケは更に緊張している。 「お、俺はプシュケ。隣の隣にあるココ村から来たんだ。」 「プシュケ、もし良かったらなんだけど、ブランメルに着いた後は、お互い分からない事が多いと思うから助け合えたらなって思うんだよね。だから、えっと、友達になってくれないかな。」 「勿論だ!心強いよネネル。これから宜しくお願いします!」 こうして、プシュケは初めての友達を得たのであった。
シクラメンの咲く丘で②
※近頃、私の連載で(特にあいびぃの部屋)作品のダビングが起こっており、シクラメンでも度々起こっておりました。昨夜、連載からダビングされたものを消すつもりが、本体を消してしまいました。誠に申し訳ございません。 せめてもの償いと致しまして、こちらで書き直しをさせてください。 書き直しのため、前回とは異なる文脈とはなりますが、話の内容に変わりはありませんのでご了承ください。 申し訳ありませんでした。 【本編】 喫茶店を出て、丘を登り始めて十分。メイはこの十分の間にいろんな事を考えた。 何故、自分だけが生き残ったのか。何故、両親は死ななければならなかったのか。何故、村の人々は村の復興をしようとしないのか。他にもたくさんの“何故”がメイの心に押し寄せてきた。 何度も何度も考えたが、結局答えは出なかった。 ふと、マスターの言葉を思い出した。 『そうだ。お二人のお墓がある丘ですけれど、シクラメンが咲いていますよ。』 『とっても幻想的で美しい花です。』 シクラメン…。聞いた事もない花だった。しかし、両親のお墓に自分の知らない花を植えるだろうか。絶対に違う、とメイの娘としての勘がそう訴えている。 メイの勘はよく当たる。事実、メイはその持ち前の勘で、多くの人々を災いから、トラブルから、怪我から救ってきた。だからこそメイは、両親の死を自分のせいだと思い込んでいた。気づけないことは、できなくて当たり前な事だと思うかもしれないが、当時のメイは悪い予感というものさえ、感じる事ができなかったのだ。 丘を登り切ると、メイの目の前には両親の墓と共に真っ赤な花畑が広がっていた。まだまだ寒く、春は程遠い一月の丘の上。堂々と咲くその花々に、メイは心を奪われた。 見た事のある花だったのだ。 「火の花だ…。」メイの目から、大粒の涙が溢れた。 今から十数年前のある日。この丘の麓の花畑は、幼いメイのお気に入りだった。メイには、そこに咲く花が燃え盛る炎のように見え、小さな胸がときめいて仕方がなかった。 『ママ〜見てみて!火のお花なんだよ!綺麗でしょぉ?』 『ほんと。綺麗ねぇ!芽衣によく似合うわ。』 『ほんと?メイ、可愛い?』 『えぇ、本当に。そのお花は、“愛情”って意味があるのよ。知ってた?』 『ううん。あいじょうってなぁに?』 『愛情っていうのはね、とっても大好きって意味なのよー!』 そういうと、母はメイを力一杯抱きしめた。 『ママ、メイもママのこと、とっても大好きぃ!』 メイも母の背中を力一杯抱きしめた。父は二人を邪魔しまいと、その様子を微笑ましく見つめていた。 真っ赤な花畑に咲く火の花。その名はシクラメン。なるほど、マスターの言う通り幻想的で美しい。しかし、メイにはそんな事を考えている余裕は無かった。 マスター曰く、母はよく喫茶店にやってきては口癖のように、「私が死んだらシクラメン植えといてよ。』と言っていたらしい。震災で母が亡くなったと聞いた時、その事を思い出して植えたのだそうだ。 今まで一度も墓参りに来れなかった罪悪感からか、もっと早くに来ていればよかったという後悔からか。メイの涙は全く止まる気配を見せなかった。 メイは溢れた涙を抑えるのを諦めて、思いの丈をぶつけた。 「お父さん、お母さん。今までお参り来れなくてごめんね。えっと、あれ?もっと事前に考えてきた事あったんだけどな。もう、思いつかないや。 あ、あのね、私も二人のこと、“とっても大好き”だから。 不甲斐ない私だけど、これからも見守ってくれると嬉しいです。お供え、置いていくね。それじゃ、また来月くらいに。」 予め用意しておいた思い出の饅頭と、花畑の摘み取ったシクラメンを供えると、メイは暫くその場に立ち尽くした。 溢れ出したメイの涙は、暫く花々を潤し続けたのであった。
未来に立つ自分は、笑っているのか。
本が好きな自分も、本を書きたい自分も。 歴史が好きな自分も、歴史学者になりたい自分も。 どれも自分で、どれも大切にしたくて。 英語を学びたい自分も、英語を話せるようになりたい自分も。 やっぱりどれも、自分だった。 未来の自分を大事にする為には、選択肢が必要で。 でも、その選択肢の先に立つ自分が、果たして笑っているのか そう問われれば、その答えは分からない。 初めから“ソレ”が好きだった自分の中に、 新たに好きになった“アレ”がやってきて、 決めきれない程の夢が増えていく。 好きな事を仕事にしたい自分がいて でもそれが負担になってる自分もいる。 どっちの自分も愛したいのに、 どちらか一方の自分しか愛せない。 どちらかを趣味に留めて、どちらかを仕事に。 収入の事を考えたら、尚更どっちの自分も愛せない。 決められない程の夢は、保育園の時みたいに 無邪気で幸せなものなんかじゃなくて。 待ってくれない時の流れに焦らされる恐ろしいもの。 二つの夢を叶えることはできなくて、どちらかは趣味に留めるしかない。 どっちかを専門的に学ぼうものなら、どちらかが疎かになる。 選択肢の多い方をとって、進もうという自分は 果たして、周りから遅れてはいないだろうか。 不安を抱える自分すら愛せないのだから、 私にはまだ、未来で笑って立っている自分が想像できない。 だから今は、がむしゃらにでも走り抜けるしかない。 選択肢を広げる道を、少しでも楽しんで歩めるように。 選択肢の先に立つ自分が、心から笑えるように。 不安を抱える自分を、少しでも愛せるように。 自分には、それしかできない。
タラレバ花見
今日もまた、ビルに光る君を見る。 もっと前なら、ひょっとすると届いたかもしれない君。 でももう届かないんだよね。 至って純な気持ちで、真っ直ぐな気持ちで 君を見つめていたのに これが恋だって気づいたあの日 諦めなければ、少しでも接していれば ひょっとすると、僕の隣で笑っていたのかもしれない君。 あの時、手が届かないと思っていた君は、ますます手が届かない人になってしまって。 僕じゃ不釣り合いだと思っていたあの頃とは 今じゃ比べ物にならないくらい不釣り合いで。 あの時、教室の端で絵を描いてばかりじゃなくて 教室の真ん中で、みんなに囲まれる君のところに 僕も混ぜてもらっていれば、何か変わったのだろうか。 ビルに光る君は、眩しいくらいに美しくて 華やかで、もう絶対に手の届かない高嶺の花だ。 届きそうで届かなかった、高嶺の花だ。 一世を風靡した君と、サラリーマンの僕 今、君を追いかけて 君の咲く世界に行けるのなら 高嶺の花を手折る事ができるのなら その崖を登るのも悪くない。 だけど、きっと君は僕の事なんか忘れてる。 番組とかで、あの頃の人として出てきてみても そんな人いたな、で終わりだから キラキラ光る高嶺の君 もう届かないなら、いっそのこと 次のライブを見に行こう 君の真下で、ペンライト振って 今年の花見は、それで行こう。 高嶺の花で、桃の花で花見と行こう。
蝶は老け顔と舞う。
あの夜から五年程が経った朝。 十歳くらいの少年が、母から夜空の色と褒めてもらった自慢の髪を靡かせ、父から貰った英雄の本を、未だ小さい手で大切に抱えて村の道を走っていた。 「あら。プシュケちゃんじゃない?」洗濯中だった婦人が、頬に手を当てて言う。 「ほんとね。あの子まだ英雄を夢見てるみたいよ。不老不死になりたいんだとか。」向かいの家の、婦人が返す。 「なってどうするのよ?」 「さあ?英雄のように、善徳を積んで武神にでもなりたいんじゃないかしら。」婦人がそれに答える。 彼女達のこの会話は全て、例の少年・プシュケには筒抜けだった。それでも顔色を変えずに走るのは、単に彼女達の言葉に反応してしまったら負けだというプライド故であった。つまり内心、プシュケは腹が立って仕方がなく、いつも見返してやりたい気持ちでいっぱいなのである。 走って走って、いつもの丘の大木に腰掛ける。そして英雄の本を開くと、プシュケは話に入り込む。本を読む時のプシュケは、鉄壁の集中力を誇る。この状態のプシュケは何をされても、よっぽどでない限り気付けない。故に、鉄壁である。 プシュケは本が好きだ。とりわけ、この英雄の本は何度読んでも自分を飽きさせる事なく、本の世界に連れて行ってくれる。プシュケにとって本は、自分を別世界へ連れ去ってくれる唯一の癒しなのだ。 「おい、プシュケ!お前また読んでんのかよ、英雄の本!」村の子供の中でも一際デカい奴の取り巻きが先陣を切って、プシュケに向かって叫んだ。それに続いて、村の子どもの中でも一際デカい奴が笑い飛ばした。 「英雄なんて所詮伝説なんだよ!憧れるだけ時間の無駄さ。俺たちゃ遊ぶので忙しいからよ、本読む暇があるなんて羨ましいぜ。なははは!」 だけども、読書中のプシュケは気付けない。これだけ煽って返答がないのだから、いつも通り痺れを切らして、デカいのがとうとうプシュケに石を投げた。プシュケの肩に命中した。 プシュケは集中を破られ、別世界から強制送還を受けた。これにはプシュケも堪らず、痛みに叫んだ。 「痛い!何するんだよトンラ!」大木の下にいるデカい奴・トンラに言い返した。 「うるせぇ!お前が返事しねぇのが悪いんだろうが!これでもくらえ!」トンラの手から、さっきよりデカい石が飛び出す。素早く回転が掛かった石は、誰にも止められず、プシュケは無事では居られない筈だった。 「よっと。あっぶねぇなぁ。お前らさ、コイツのこと誘いたいならもっとマシなアプローチ考えようぜ?石投げるとか、最近の子どうなってんの。マジで怖い。」ちょっと老け顔の男が石をキャッチして、トンラに説教臭い事を言い出した。 「んだよ、おっさん!どっから現れやがったコンチクショー。別に俺たちアイツのこと誘いたくて石投げたわけじゃねーし!」 「なっ!オッサンって言ったか今。俺まだオッサンじゃねぇよ!二十八だよこのクソガキ!」 「十分オッサンじゃねぇか。」 「んだと!クソガキが!」老け顔の地雷に踏み込んだトンラは、暫く老け顔と揉めた。最終的に、勢いに押されたトンラが諦めて帰り、喧嘩は収束した。 「ったく。お前もなんかこう、出来ることあったろ?言い返すとか、親に言うとか、場所変えるとか。」老け顔は頭の後ろを掻き、ため息をつきながら座り込んだ。 「ありがとう、老け顔さん。でも、親に心配かけたくないし、ここはお気に入りなんだ。それは出来ないよ。」プシュケは大木から降りて、老け顔の隣に座った。 「そうかよ。あと、老け顔は余計だ!」 「なんで助けてくれたの?」 「って無視かよ!まぁ良いか。助けたのは、弱いものイジメが嫌いだったってのと、俺もロシナンテが好きだったからだな。」 「老け顔さんも、ロシナンテ好きなの?」 「あぁ。お前ほどではないかもしれんがな。」 「そっか。俺ね、ロシナンテみたいに強くなって、不老不死になって、いっぱい良い事して幸せに暮らすんだぁ。」 「それ、良いな!そっか、アンブロシアに行くって事か。数々の英雄っ子をみて来たが、アンブロシアに行きたいって奴、お前くらいだよ。」 「やっぱり変?」プシュケは少し落ち込み気味であった。 「いいや。むしろ面白れぇよ!クハハハ。そっかぁ。俺は応援するぜ?その夢。ぜってぇなれよ、ロシナンテに!」そう言うと、老け顔は丘を去って行った。 「ありがとう!老け顔さん!」プシュケは力一杯叫んだ。 「俺はペトロだ!老け顔さんはちょっと心が痛む!」 「俺はプシュケ!また会おうねー!ペトロさん!」 「おうよ!またな、プシュケ。また会おう!」 丘の向こうの夕日に、ペトロの後ろ姿が消えてゆくまで、プシュケはその場で見送り続けた。
締岡小の七不思議(後編)
大和くんめっちゃウズウズしてるじゃん!もしかして、最初に話振ったほうが良かったのかな? うわぁ、ミスったかも。 「えっと、大和くんは、何をオススメしてくれるの?」ここはちゃんと聞かないとな。ソワソワしてるのに聞かないのは可哀想だし、全員の聞くって決めたし。 「おぉ、ユッキー殿。やっと私に話を振ってくれたか!なんか私だけ置いてけぼりな感じがして少し寂し…くなんてなかったからな!そ、そう!おこる、怒る寸前だったんだ!別にもういいけど。」 なぜだろう。申し訳ない気持ちでいっぱいのはずなのに、罪悪感が一ミリも湧いてこない。 「えーっと、ごめん。忘れてたわけじゃ無いんだけど、なんか前の三人が濃密すぎて変にやり切った感が。」 「こちらこそすまない。いくら早く伝えたかったからとは言え、少々取り乱し過ぎたな。」 「全然大丈夫。こっちが悪いし。」 さて、今度こそ。「改めまして、大和くんのおすすめは?」 「私は【旧校舎のクラスメイト】である。昔、旧校舎で殺人事件があったのだ。その事件は不審者が、侵入して来て一年一組の児童全員をナイフや鉄砲で殺したっていう物らしい。あまりにも衝撃的すぎて記憶を失っているのか、或いは一瞬だったからか。彼らは自分が死んだ事に気づいていないのだ。そして旧校舎の一年一組に入ると『遊ぼ!』と誘われるらしい。しかし楽しく遊ぶだけとは行かない。子供達に負ければ、何かしらを失う事になる。最悪のケースで言うなら、“命”とかな。」えぇ!何それ怖! 「なんで、そんな怖いのを…?」 「可哀想ではないか?纏わりつく負の感情によって、したくもない事をさせられるんだ。 彼らもきっと、人の命を取りたくて遊んでいるわけではない筈だ。であれば、討伐という形をとって救ってやらねばなるまい。」 なるほど。他の奴らと比べて、動機がちゃんとしている。雲泥の差である。 「確かに。そういえば、大和くんの苗字って昇龍寺だよね。お寺の人?」 「うむ。ただ、私は継ぐつもりなど無いぞ。だが、生命を尊び憐れむ気持ちも勿論ある。ぶっちゃけるとだな、私にとって仏教とは、この“ムクノキ”を成長させる為の教本でしか無いのだよ。 」かなりぶっちゃけちゃったよ、この人。そんなつもり無かったんだけどなぁ。にしても、『仏教はムクノキを成長させる為の教本でしか無い』か。ちょっと言ってみたいかもしれないな。言う機会ないけど。 「他の知識持ってる人、いる?」 「「……」」 まさかのゼロー!うそでしょこの人達!敵の知識無しでどうやって相手するつもりだったわけ⁉︎ 「あはは、まぁ次までに調べときゃいい話だし、ね?今回は許してくれないかな、ユッキー?」 うわぁ。上目遣い使って来たよこの人。人の良心に漬け込んで、まったくもう。僕頼み事断れないタイプなのに…。今だけは、自分が憎い。 「分かった。締岡小に行くまでに調べて来る事!これ約束ね。」 「ありがとうユッキー‼︎心の友よ〜!」 こうして、あとは廃病院に行くだけとなった。不安は拭い去れないまま、その日は刻一刻と迫っていたのであった。
美味しいヨゴレ
ソフトクリームが溶けた。 コーンから溢れ、君の手を汚す。 ふやけたコーンに滲み出て、また汚す。 それなのに君は、嫌な顔ひとつせず、ニッコリと笑っている。 舐めるという事を知らない君は、容赦なく齧り付く。 口の周りが大きく汚れた。 鼻にもそれが付いた。 それなのに君は、気にも留めず、ゲラゲラと笑ってまた一口。 焦って拭きに来る私がツボにハマったのか。 ソフトクリームが美味しいのか。 手元のお尻拭きがどんどん減る。 お尻拭きの繊維がじわじわ茶色く汚れる。 その間もきみは汚し続ける。 ずっとずっと汚し続ける。 今度は机も汚す。 また一枚お尻拭きが減る。 ゴミが増えて、捨て場所も分からない。 ゴミ箱の位置、確認しておけば良かった。 きみを連れて行くか、行かないか。 どちらも心配しかない。 ソフトクリーム一つで、こんなにも慌てふためくとは。 だけども今日は、君の無邪気で嬉しそうな笑顔を その笑顔によく似合うチョコの髭を見れたから こんなに大変でも、こんなに慌てふためいても 結構キツイはずなのに、かなり気疲れしているはずなのに。 今の私は、どうしようもなく幸せだと感じる。 君を抱き上げて、ゴミ箱へと歩くだけでも きっと今日一番の思い出になるのだろう。 ソフトクリームを食べている君の笑顔を見れる時間が そして、溶けて滴るそれを邪魔されながら拭く時間が きっと、幸せというものなのだろう。
英雄と蝶
『太古の昔、人々を襲ったのは残虐非道の魔神“モルモー”を筆頭とする魔物であった。そんなモルモーを討伐する者として白羽の矢がだったのが、ロシナンテだ。ロシナンテは強い仲間と出会い、冒険して、力を得た。その力を以てモルモーに挑むとき! もうどちらが倒れてもおかしくないような死闘の末に、遂にモルモーを討伐する!ロシナンテはこの日より、英雄と呼ばれるようになる。 その直後、神よりお告げが降った。 “アンブロシアという北の楽園に、褒美を用意した。そこに成る果実を食らうが良い。” そうして始まったアンブロシアを目指す旅。道中、大蛇やキメラなどにでくわしても関係ない!何故ならロシナンテだから‼︎ 北に向かう旅を続ける事長きに渡り、遂にアンブロシアに辿り着く! ロシナンテは迷いなく果実を齧った。すると、ロシナンテの体は一瞬光り輝き、不老不死となっていたのだ! その後、神によって天界に召され、武神となるまでの五万年間。ロシナンテは多くの善徳を積み、最期まで強く気高く美しかったそうだ。』 粗末な布団の上で一人の男が本を閉じた。男の視線の先には、天使のように目を輝かせる少年の姿があった。少年は、この“太古の英雄譚”が大の好物で、男が少年にこの本を読んでやった回数は一年の日数を遥かに凌駕する。この数は閏年にしても変わる事は無かった。 そんなロシナンテに憧れを抱く、天使のような少年の名は、プシュケ。男の息子である。 「うわぁ〜!凄いねっ!凄いね父さん。やっぱり俺、ロシナンテみたいになりたい。なって、“ふろーふし”になるんだ!」 プシュケは小さな拳を握り締めて、父親の方に顔をズイっと寄せる。 「プシュケ、ロシナンテみたいになりたいのなら先ずは剣術と武術の達人にならなきゃだぞ!それに、不老不死のアンブロシアは伝説の場所だから、無いんじゃないかな。」父は、冗談だろうと軽く促した。 「あるもん!“あんぶろひあ”も、“ふろーふし”も、ぜーんぶあるんだからぁ!」 プシュケは本気だった。けれど、子供の言う事だと受け取られれば、もう本気でこの気持ちを受け止めてくれる人は現れない。父だってその内の一人だ。 頬を膨らませて鼻息を荒くするプシュケを軽くあしらうと、慣れた手付きで寝かしつける。 「父さん、俺の名前ね、ちょうちょって意味でしょ?だからね、俺、大きくなったら“あんぶろひあ”を探す旅に出るんだ。」 プシュケは虚ろとした意識の中で、そんな言葉を発した。 真夏の涼しい夜、プシュケはアンブロシアの夢を見た。 その寝顔もまた、天使のようであった。
シクラメンの咲く丘で①
「この店まだやってたんだ。どうせ誰も来やしないのに。」 この山奥の喫茶店は、昔近くの村に住んでいた彼女にとって憩いの場であった。レトロだとか言ってられないほどに古くなっている店の外観は、感慨深いものがある。 喫茶店の年季の入ったドアを開けて、入った。 鉄の錆びた、耳を劈くような音がした。 「いらっしゃい。どこでもどうぞ。」 軽い会釈を受けた。彼女が通い詰めていた十数年前のマスターは忙しそうにコップを拭きながら客の相手をしていたが、今や拭くコップすらない。彼女にとっては、とても新鮮だった。 あの頃はまだ若かったマスターも、ロマンスグレーになっていた。 「マスター、覚えてる?十何年か前によく来てた、榊原 芽衣。」 「もしかして、いつもココア飲んでたメイちゃんでしょうか?」 「そう!いっつもココア飲んでたメイ!久しぶりだねマスター。」 メイが微笑むと、マスターは微笑み返して一言「そうですね。」とだけ言って注文を聞いてきた。 「それで、今日もいつも通りですか?それとももう、コーヒーは飲めるようになりましたか?」マスターは揶揄うように言った。 「うん。コーヒーも飲めるようになったけど、今日はいいかな。せっかくの帰省だし、ココアお願いします。」メイもクスリと笑って見せた。 「かしこまりました。」マスターは、また会釈してココアの粉を取るため後ろに向き直った。 「あ。ココア、く「クリーム多め、ですよね。」後ろ姿しか見えないのに、クスリと笑うマスターの顔が目に浮かぶ。 「よく覚えてるね!マスター。」 「いつも同じココアを頼まれていたら、そりゃあ嫌でも覚えますよ。」今度はちゃんと、笑うマスターを見る事ができた。イタズラっぽい笑みだった。 「ねぇ、マスター。どうしてまだ、お店続けてるの?」 「貴方みたいに、こうしてたまに戻って来てくれる人が居るからですね。まぁ、残念ながら定住する人は居ませんでしたが。」 「そっか。申し訳ないけど、私も此処に住むつもりないよ。」メイはテーブルに指を触れ、俯きながら話した。そう言った声は、入店時に比べてワントーン低かった。 「分かっています。けれど、また戻ってくるのでしょう?」 「うん。お母さんとお父さんのお墓参りもあるしね。」このカフェの近くにあった村“小柳村”は、今から十数年前の震災で、跡形もなくなった。メイが両親を亡くしたのもその時だ。以来、この喫茶店は殆ど人が来なくなった。 メイが此処にやって来たのは、両親のお墓参りの為であった。来る途中で喫茶店の事を思い出して、序でに行ってみることにしたのだ。実を言うと、メイは「震災で、もう誰もいないのだから移転か廃業かしてるだろう。」と半ば諦めてもいた。ところがどっこい。行ってみれば、まだ営業していたので驚いた。 「お二人のお墓にはもう行かれたのですか?」 「まだ。実を言うとね、もう此処やってないって思ってたから、建物を見るだけ見て行こうと思ってたのよ。けど、やってたから予定変更したの。」 「そうでしたか。あ、ココアできましたよ。」 そういうと、マスターは馴染み深いココアをカウンターに出した。 「ありがとうございます。うん、やっぱり美味しい。」久しぶりに飲んだココアは、これまでで一番美味しい気がした。冷たい指先がジワジワと暖まる感覚を、メイは何故か“幸せ”だと感じた。 「外は寒いですからね。しっかりと暖まって、お墓参りに行かれてください。」 「ありがとうマスター。」 「そうだ。お二人のお墓がある丘ですけれど、シクラメンが咲いていますよ。」 「シクラメン?」 「はい。とても幻想的で美しい花です。是非見てみてください。」シクラメンについて話すマスターは、一層穏やかな笑顔を浮かべていた。 「うん。お墓参りのついでに見てみるよ。」 「はい。是非そうしてください。」 そうして数時間、マスターとの世間話に花を咲かせたメイは、店を出た。
コンテニュー?
あの青い空と、深い海ならば私をどこかに攫ってくれるだろうか。 この雄大な自然と高い山ならば、私を覆い隠してくれるだろうか。 絶望に手足を掴まれ、正気を吸い取られたような 希望に取り憑かれ、逆に絶望を突き付けられたような 真っ黒い影は私を飲み込んで、この消えそうな体を溶かしていくだろう。 絶望に充てられて消えそうなこの心を それなのに、未だ燻るこの心を ここがゲームの世界ならば、ヒーラーとかが癒してくれるのだろうか。 魔法使いがいるならば、この燻りを燃え盛る炎に変えてくれるのだろうか。 この状態を状態異常だと言うならば、このままジリジリと侵されて この命の終わりを経て きっと、そこで辞めてしまうだろう。 大聖堂に生まれ変わる事を、蘇生される事を それしか勧めてこないから。 もう、こんな思いしたくないって。 もう、状態異常は勘弁だからって。 きっとそこで辞めるんだ。 それでももし、この恐怖すら綺麗さっぱり生まれ変わることが出来るのならば この燻る心に、再燃の炎を灯す事が出来るのならば 続きから始めるのも悪くない。 もしもリセットボタンを押してしまえば これまで生きてきた時間が、 これまでやってきた努力が、水の泡になってしまうから。 ここは現実で、ゲームの世界とは違うから リセットも、蘇生も出来得ない。 だけど、ゲームオーバーなんかじゃない。 ならば、私がどうするかで決まるのだろう。 私が、『コンテニュー』をクリックするのか。 それとも、『ログアウト』をクリックするのか。 どちらを選んだところで あの青い空も、深い海も、私を攫っていきやしない。 山も、自然も私を覆い隠さないのだろう。 殺意が混じった荒ぶる“それ”に、呼吸を奪われるのか。 包み込むように優しい“それ”に、背中を押されるのか。 二つに一つ 『コンテニューしますか?』 −『はい』