あいびぃ

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あいびぃ

初めまして、あいびぃです! 見つけてくれてありがとう♪ 私自身、生粋のアニオタ・漫画オタなのでファンタジーが多めになってます…多分。 詳しいことは「自己紹介」にて! まだまだ若輩者なので、応援よろしくお願いします! ※❤︎&コメはめちゃくちゃ喜びますので、私を喜ばせたい方は是非! 私の事が嫌いな方はオススメしません。

引き分け論

人は、勝ち負けにこだわるが、私はそうでもない。そうは言っても、“勝ち負け”という概念が嫌いな訳ではなく、その概念を取り巻く周りの雰囲気が、私にはなんとも受け入れ難いのだ。 “人は勝ち負けにこだわる”そう言ったと思うが、読者諸君もまた、そういった性分を持ち合わせているのではないだろうか。 人は、感情というものが優先的に現れる。ほんの数分前までは、死ぬほど憎らしかったヴィランが、彼らの悲劇を見た後では、負けないでと思ってしまう自分がいる。それは、ヒーローとヴィランという本来であれば、はっきりと善悪が別れて然るべき勝敗へのこだわりを、感情が凌駕してしまっているからだ。また、そんな悲劇を通していなくとも、中立的な立場で勝負を見た場合、人は劣勢な方を応援してしまう。読者諸君も、そんな経験があるのでは無いだろうか。どこの誰とも知らないチームのスポーツ観戦なんかは、良い例だ。そしてそれは、人の感受性や共感に由来するものだと、私は考えている。 私は、両陣営が罵り合うのも好きでは無い。こういった行為が場を沸き立てるという事は、百も承知であるが、私はどうも、己の立場をどちらかに決め切れないのだ。というのも、こういう勝負事は自分がどちらを応援するかによって、はっきりと分かりやすく見方が変わってくる。特に、敵にも味方にもストーリーの無いスポーツ観戦や、ただのテレビの企画なんかはそうだ。例えば、自分にゆかりのある土地のチームや、芸人がいれば、そのチームを応援しようかとすんなり決められる。が、そんな事もない様な物ならば、単に知らない人同士の勝負を見ているだけだ。そうなると、彼らの罵り合いが、私には好ましい物に到底見えなくなってくる。分かりやすくいうならば、それは醜い言い争いであり、悪口大会だ。それを聞いていると、一言目には相手が悪く見えて、二言目には最初に悪口を言った相手が悪く見える。どちらかが劣勢に傾けば、もう片方が優勢になるのは当たり前であるが、それが拮抗を成し、繰り返されると、私の心はどこへ行けば良いのか分からなくなる。 そんな事があると、私は振り回されて疲れてしまう。そしてその内、引き分けを願うのだ。実際、引き分けで終わった勝負の方が、選手達も情熱を消さず燃えず、傷付かずに終われる。 どんな勝負事も、観戦者の心を掻き乱すくらいなら、引き分けくらいが丁度いいと、私は思う。 【今回のお題】 ひきわけ

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引き分け論

10 パーティ、そして初任務

翌朝、ギルドにて。プシュケ、ネネル、ペレの三人は、受付嬢リゼルとギルマスからの呼び出しに応じてここに集まっている。 「「「パーティ名?」」」 「そうです!せっかく仲間が集まってパーティになったのなら、絶対に決めるべきです!」 ふんすと息巻いて、プシュケ達に訴えるのは受付嬢リゼル。ギルマスはその一歩後ろで、腕を組んで頷いている。パーティ名とは、冒険者チームのチーム名の事で、彼らもそれを知らない訳ではなかった。ただ、パーティ結成の昨日の今日では、自分事とは思えなかったのだ。 「パーティ名かぁ。プシュケ考えてよ!」 「それはちょっと大役すぎない?」 「そんな事ないよ。プシュケ君センスいいもんね。」ニコリと微笑んできたのは、ペレである。実は昨日帰りながら、タメ口で良いよ、と話していたのだ。 「てか、なんで俺?」 「「だってリーダーでしょ!」」 「えぇ!俺ってリーダーなの?」 「うん。だって昨日聞いたよね?」 「うん。聞いてたよね、ネネルちゃん。“プシュケ、リーダーしてくれない?”って。」 「そうそう。そしたら、“え?うん。”って。てか、ペレち僕のモノマネめっちゃ似てるんだけど!やめてよー!」 「そういうネネルちゃんも、プシュケ君の結構似てるじゃん!」勝手に盛り上がる二人をよそに、プシュケは一人大焦り。そんなの聞いてない!と言わんばかりである。あの時かー!と、上の空で適当に返事した事を思い出した。 「…ごめん。聞いてなかったかも。」 「えー?でもでも、一回了承したんだから、取り消しは無し!」 「マジか。」 「じゃあプシュケ君、お願いね。」プシュケ、大敗である。人の話はちゃんと聞くべきだと、学んだ瞬間であった。 「うぅん。ちょっと考えさせて。…ブレイブソード、とか?」 「おー!カッコいいね!」 「あのう、それ既にいらっしゃいますね。」 「そ、そうですか。…じゃあ、クレイン・ドレイン?」 「わあ!なんか響きが可愛いねー!」 「あっ、それも…いらっしゃい、ますね。」 「え?…えっと、どうしよう。」 「頑張って!プシュケ君。」 「落ち着いて考えるんだよプシュケ!」 「……トゥルーブレイバー?」 「いいんじゃない?真なる勇敢な者達って事でしょ?」 「うんうん!これなら、いけるんじゃない?」 「だよな!」 「あのぅ、盛り上がってらっしゃるところ、申し訳ないんですが…。」 「え?まさか?」 「はい…既にいらっしゃいます。それも、Aランクパーティです。」 「なんなんだよもう!どうしろってんだよー!」 「私には、頑張ってください、としか言えませんよ!」プシュケが可哀想というよりは、自分の気まずさが勝ってしまったリゼルである。プシュケはまた考え始める。己の凡ゆる知識を総動員して、絶対に被らないようにと思考を巡らせる。 緊張が漂う中、ふと頭に浮かんだものを口に出してみた。 すると不思議としっくり来るのだ。なので、今度はボリュームを上げて提案の姿勢を見せる。 「ねえ、プロメテウスの火ってどうかな?」 「何それかっこいい!」 「やっぱりセンス良いよ、プシュケ君は!」 「それなら誰とも被ってませんよ!おめでとうございますプシュケさん。そして私!」 「よっしゃああああ!」思わずガッツポーズをしてしまったプシュケだが、今現場の空気は、マラソンを共に走り切ったかのような一体感である。誰も気に留める事はなかった。ギルマスなんて、(相変わらず一歩手前にいるが)少し涙ぐんで拍手していたりする。 こうして、彼ら三人のパーティ名は「プロメテウスの火」になったのであった。 「やっと決まったかー。それじゃあ初依頼受けてくかい?」 「「「はい!」」」 「お前らのランクだと、薬草採集とゴブリン退治、あと人探しくらいしか受けられる物はないが。どうする?」 「はいはいはい!僕、ゴブリンが良い!」 「私は薬草採取かな。」 「うーん。俺は正直、どっちでも良いから二人で決めて!」 「おっけー!」「「それじゃあ、最初はグー!じゃんけんぽん!」」 「負けちゃったぁ。」 「やったー!ゴブリンゴブリン♪」 「お!ゴブリン受けるか?」 「はい。よろしくお願いしまブッ!」依頼をお願いすると同時に、強く風が吹いて、プシュケの顔に何かの紙が貼り付いた。プシュケはそれをそっと取った。 するとそこには、ウォンデットと書かれた文字と、 その下にはプラチナピンクのツインテールに、黒い露出のあるワンピを纏った可憐な女の子の写真があった。 「指名手配?この子、俺と同じくらいに見えますけど。」 「あぁ、ソイツは“恋する大鎌”怪力のサスターシャ・ブレイス。なんでも、好きになった男の苦しむ顔が好き、とか言う気持ち悪い性癖を持っているらしい。それで確か十二歳の時に、よく遊んでいた有力な商人の息子を好きになって殺してしまい、指名手配されてからも、それから何度も何度も色んな男を殺しまくってる。しかもその男どもの死体からは、決まって鎌で複数回滅多斬りにされた切り傷や、少女の力とは思えない程の殴り傷が無数に発見されたらしい。」 「何それ、なんか怖いですね〜。」 「まあ、サスターシャに限らず、指名手配を見かけたら近付かないようにしろよ。何されるかわかったもんじゃねぇからよ。」 「「「はいぃ‼︎」」」 その後、初依頼の受注を終えた三人は、和気藹々とギルドから宿に帰って行った。 そんな彼らを、路地から覗く女がいた。 「やっと見つけた!めちゃくちゃにしてあげるから待っててね、私の王子様。」 暗闇に、プラチナピンクが靡く。彼女の瞳には、夜空のような髪の少年が映っていた。

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10 パーティ、そして初任務

ノスタルジアの日記(2ページ目)

あれから随分と日が経ち、一ヶ月。ついにこの日が来た。今日に至るまで、私の食欲は少しずつ落ちて、今なんて朝から何も口にしていない。それは、クロの事を想えば想うほどに悪化した。彼の不安に比べれば、彼の境遇に比べれば、私の今の暮らしなんて、寂しさなんて、擦り傷程度に過ぎない。そう思う度に、自分の暮らしの有り難さに気づき、そして同時に憎らしくもなる。私は、彼が当たり前のような暮らしをできないでいるのに、のうのうと食事を摂り、明日を迎える事を当たり前と感じている。それで良いのか。そんなの、贅沢だろう。彼が苦しんでいる時に、自分だけ明日を信じて良いのだろうか。否、自分だけ贅沢はできない。そういう自責の念が、私の食欲を下げたのだ。 特に、今日はクロの“再起動”の日とあって、朝からこの日記をつけようという分の、僅かな気力以外何も湧かなかった。一旦、ここまで書いて、私は彼の元へ向かった。 いつも通りの鉄格子。変わらぬ色と高さの揃った芝生。その上には、いつもと同じボロいネグリジェを纏った、いつも通りの艶やかな黒髪を靡かせたクロが立っていた。いつもみたいに、物憂げに鉄格子をなぞりながら。 それを見て、私はいつもと変わらぬ彼の姿に、微かな希望を抱いた。抱いて、しまった。 「クロ!今日はね、今日は新しい遊びを思いついたのよ!」 「…。あの、人違いでは?」 そう言って、クロは首を傾げた。わたしは心の底で“やめて、それ以上言わないで”と叫んだ。嘘であってほしい。そう願い、そうならなさそうな彼の反応に、焦りを抱いた。 「っ⁉︎ クロ!私よ!ノスタルジア!」 「誰ですか?私は、クロじゃなくてNo.0ですよ。やっぱり人違いなんじゃ…。」 「人違いなんかじゃないわ!貴方は、そんなつまらない名前じゃない。クロなのよ!」 「…そんな記憶ありませんけど。」彼は疑り深そうに目を細めた。まるで、異常者を見ているような目だった。いけない。このままでは、彼と会えなくなるかもしれない。 「私が覚えてるわ。忘れる訳ないもの。だって、私が貴方にあげた名前なんだから。」 「そう…なんですか。あの、もしかしたら“再起動”される前の私の友人だったとか、そういう事でしょうか?」 「そうよ!私は貴方の友達なの。」 本当に、よかった。もし彼に拒絶されてしまったら、私は二度と立ち直れない。そう思っていたのに、彼は受け入れてくれそうな姿勢を見せている。それだけで心が、少しだけ救われた。ホッとして、目の奥が熱くなった。 「そうですか。そうとは知らず、申し訳ありません。あの、友達とは、一緒に遊んだり、時間を共有する血縁のない人の事を言うのだと、先日知りました。そして、私には此処はとても暇で、窮屈なのです。なのでノスタルジアさん、また一からになりますが、友達を続けさせてくれませんか?」クロは、鉄格子の間から細い腕を差し出して、私に申し訳なさそうに微笑みかけた。私は、「勿論よ!」と言ってその手を取り、硬く握った。 こうして、私の大切な友人 クロ との友情は、格子越しの握手に再び始まった。優しい光が私の背中を焼き、彼の顔や髪を照らした。 お腹の空く休日の正午のことであった。

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ノスタルジアの日記(2ページ目)

ノスタルジアの日記(1ページ目)

私の名前はノスタルジア。ノスタルジア・エンデ。これからこの日記に記すのは、私と、私のただ一人の友である彼との記録である。 私が彼と出会ったのは、凡そ3日前。彼は、美しい少年だった。艶やかな黒い髪を風に靡かせ、白いオンボロの質素なネグリジェを着ている。彼にはどこか、儚くミステリアスな雰囲気が漂っているように感じた。私は、いつの間にか彼から目を離せなくなっていた。いつか友達になれたら、と思うようにもなっていた。その思いが強まる程に、彼を木陰からそっと見つめる回数も増えた。しかし彼はいつも、私の越えられない鉄格子の内側に、そっと佇んでいた。鉄格子を指でなぞっては、何故か悲しそうな顔をするのだ。その鉄格子の内側には、綺麗に刈られた芝生が広がっていて、それとは対照的に、冷たい金属の建物が遠くの方に、静かに、しかしどっしりと構えている。 彼に話しかけると、しどろもどろに 「私はNo.0といいます。貴方は?」 そう、答えた。私も名を名乗り、それからというもの、私達は彼の自由時間に頻繁に会うようになった。私は彼に名を与えた。そんなに大層なものでは無いし、偉そうにしてもいない。いや、人の名前である以上、大層なものである必要性は否めないが、ともかく私なりに悩んで付けた。これからは、彼の名を“クロ”と呼ぶことにする。理由は髪の色。私が彼に惹かれたのは、その艶やかな髪の色だ。彼には、その美しさに見合う男になって欲しい。偉くするような立場にないのに、傲慢にもそう思ったのである。 時は過ぎ、今日もまた彼と会った。クロは今日も、悲しそうに鉄格子を指でなぞって、そして最後には握っていた。それなのに、その理由を悟らせまいとしているのか、クロは微笑み続けた。私はまだ、彼が鉄格子の内側にいる理由を知らない。なぜ彼が微笑むのかも分からない。理解できない。なぜ、コレは私と彼との間を隔てているのだろうか。「なければ良いのに。」気づけば、そう呟いていた。それを聞いた彼が、困った顔をして教えてくれた。 「私も、何度も思いました。それで一度だけ、ここの職員に聞いてみました。この鉄格子が無くなることは、未来永劫ないのだと。そう言われました。こればかりはどうにもならないのです。私がいくら泣こうが、喚こうが、私に自由などないのですから。」また、ふにゃりと笑った。疲れた目もとが、痛々しい。 「それはどうして?どうして、鉄格子はなくならなくて、クロは自由がないの?」 「それは、それは私が実験台だからです。そう易々と実験台を逃すような施設は、あってはなりませんからね。私はあと一ヶ月したら“再起動”をされるそうです。」 「再起動?」 「記憶を消してしまうだけですよ。」 また、疲れた目でふにゃりと笑った。 「記憶を? そんな…。大丈夫なの?」 「大丈夫ですよ!私は初めてではありますが、職員とは良い関係を築けていると思います。彼らに相談すれば、きっとなんとかなる筈です。」 また、笑った。クロがその目をするたびに、今まで感じたことのないようなざわめきが、私の胸を襲う。私は不安で、詰め寄るように質問した。しかし、その答えを聞いても、安心などできなかった。その笑顔を見るたびに、彼のか細い悲鳴が聞こえてくるような気さえする。 今はただ、クロの話を聞いても施設の決定を覆すことが出来ない自分の、そんな無力さがどうしようもなく悔しくて、仕方がない。

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ノスタルジアの日記(1ページ目)

灰に染まる

全く気づけなかった。何かやっているなと、それだけは何処かで知っていて、だけど気づけばもう、こんなに進んでいる。 いつもの塾の帰り。塾は二階にあるから、上から景色が望めた。毎日ではないけれど、私はそこから景色を覗き込むのが癖だったりする。しかし、あくまでも“覗き込む”である。見えていないところだってあるのだ。 私の住む街は、所謂ベットタウンというやつで、程よく田舎だ。当然、住宅街のどちらかの方面には竹林があって、山の方の神社には歩いてすぐに着く。駅の方に行っても、都会に比べれば粗末だと言える。しかし、道もちゃんと整っているし、それなりに不便なく過ごせる。それが、私の住む街だ。 塾の向かいには、線路があって、田んぼもある。私が覗き込んでいるのは、決まってその手前の道か、線路を通る電車。そうする事で、梅雨気味の湿気に惑わされずに降水を確認できるし、電車を見ると仕事で中々帰って来れない父に思いを馳せることができる。あの電車にお父さんが乗っていたりしないだろうか、と。 そうやっていつもの通り、ふと外を見た。そうして、やっと気づいた。 「田んぼが減っている。あそこにあった田んぼが少し削れて、灰色になってる。」 気づけなかった。いや、気付いたところでどうこうできる次元ではないのだが、それでもやっぱり悔しかった。 私はその日、その時悟った。 こうして温暖化は進むのかと。こうして、緑が減るのかと。 こうやって、世界は灰色になっていくのだと。

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灰に染まる

手を伸ばして失愛

眩しい光に手を伸ばす。 届くまで、伸ばす。伸ばし続ける。 いつか終わりが来る。分かっているのにね。 終わりが見えている恋だとしても、 それでも手放したくないのです。 きっと最後はサヨナラね。 分かってる。分かってるんだ。 分かってる筈なのに、足掻いて足掻いて 嘆いて必死になって、無様なものね。 その先にあるのが圧倒的な無だと知っても、 手放したくはないのです。 かつて愛してくれた貴方に もう一度愛されたくて かつて私が愛した貴方を もう一度愛してみる。 真っ暗闇に覆われて、愛を抱えて走り続ける。 あの光に追いつくために、走る。走り続ける。 結局は離れ離れになる。なんて、見えている事。 きっと最後はお別れね。 震える手で掴み取った愛を暖かく握り締めて、 分かっている筈なのに、 手を振る終わりの前でも、捨てたくないなんて 往生際が悪いよね。醜く嘆いて、足掻いて、 その先にあるのは、圧倒的な無。 それでも、大事に持ってた愛の果てが、“無”だなんて 思いたくないから苦しいのでしょう。 かつて貴方が、私に注いでくれた愛に 溺れてしまいたい。 もう一度、思い出せない愛に 沈んでしまいたい。 かつて、貴方が愛してくれた私を 愛されたい私を愛したい。 震える手を握ってくれた、貴方の温もりを かつて私が愛した貴方を もう一度愛してみたいのです。

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手を伸ばして失愛

閑話 神とか、英雄とか

アンブロシアのはるか上空、神の園プラナタリア。そこには、4人の神がいた。 「アリュール姉様、進捗はどうですか?」 そう聞いたのは、黄金の髪と夕焼けの瞳を持つ少年だ。彼の目線の先には、出るとこ出てキュッと締まった、絶世の美女がいる。白い肌に栗色の淡いウェーブのロングヘアと、紫の瞳が美しい。そんな彼女の名はアリュール=ネロルカ。暗舞神、幻惑の女神である。彼女の踊りは人を惑わし、彼女の歌は永遠の眠りへと誘う。 昔、四英雄と呼ばれる勇士達が居た。そのうちの一人、ハルモネアに力を授けた神。それが彼女だ。もともと、四英雄というのは、魔神モルモーが復活する頃合いにちょうど成長し切るだろうタイミングで、定期的に現れる神の力の適応者を指すのであるが、人々が四英雄とかいう名で呼び始めたのだ。それは、彼らが代々にわたり、幾つもの危機を救ってきたからに他ならない。 「ええ。ぼちぼちよ。私もあの子みたいに、適応者の夢に出てやろうかと思ってたの。でもね、なかなか入らせてくれなくて…。それに、幸せそうな夢見てるから、邪魔しにくいじゃない。ほら、私たちが夢に出ようとすると、悪夢っぽくなりやすいもの。」 「…そうですか。僕は出れましたよ。でも、現れるなり、どんどん近づいてきて“これは!可愛すぎてヤバい!推せるわ〜!”って凄い興奮されて。それからずぅっと触られ続けて、やめてって言っても聞きやしない!しつこいんですよ、あの子!ほんと、大変だったんですから。」 「あら、そうなの?貴方の適応者は、また随分と元気なのね!」 「元気?…元気、と言って良いのだろうか。あれは。」 「元気よ〜♪ ほら、自信持って!カシオペイアちゃん。」 そう、彼の名はカシオペイア・イゾルテ。見た目はか弱い美少年であるが、これでも長年生きてきた四英雄の神の一柱だ。黄金の瞳と髪は一切の濁りを持たない。その美しさに似つかわしく、彼は“生”を司る 聖祈神である。彼の息吹は全てを癒し、彼の杖は生命を芽吹かせ、彼のキスは死人を蘇らせるのだ。 「そう。カシオペイアは、もっと自信を持つべき。」 「うわぁ!びっくりしたぁ。アストレアさん、急に現れるのやめてくださいよ。心臓に悪いですから!」 「アズはシャイ。だから、正しい会話の入り方とか、知らない。仕方ないよね。」 「それ、この前も言ってましたよね、同じ事。」 「そうだっけ?」 「そうですよ。一体、何百年貫き通すつもりですか?」 「いつまでも。アズの決意は、岩盤よりも硬い。」 「あらあら。楽しそうねー♪ それで、アズちゃんは、どうしたの?」 彼女の名は、アストレア・リュミエール。星の捌きを下す、星々と正義を司る魔法の女神、審光神である。青とも黒ともとれるボブヘアに、星の光を灯す瞳を輝かせている。 「アズも、夢に出ようとした。けど、コミュ力弱者のアズには、時期尚早。だから…やめた。」 「まあ!貴方こそ自信を持つべきよ♪ だって貴方は、強くて可愛い凄い子だもの。」 「…ありがと。でも、話すの苦手だから。夢には出ない事にする。来た時で…良いと思う。」 「ええ〜! でもでも、雰囲気って大事なのよ?見覚えある方が、『あの時の人!』ってなって受け入れてもらいやすいかもしれないし!」 「大丈夫。アズの適応者、凄く飲み込み早い。頭良いから、問題ない。」 「うーん。そういう意味じゃないと思いますけど。まあ別に決まりじゃないので、やりたくないなら無理にやる必要ないですからね。」 「そゆこと。」 「えーん二人とも冷たい〜! 夢に出るなんて、最高に楽しいじゃないの!ブランちゃんはノリノリで出てたのに!」 アリュールは、ほっぺをプクリと膨らませて二人に訴えた。 「あの人は異常。」 「そうそう。ブランカリエさんは変わってますから。先代の時なんか、わざわざ怖そうな感じにしたりしてましたもんね。」 「もう、酷い!ブランちゃんこの前『人間界で有名になってたプリン、我が買ってきてやったから、冷蔵庫から出して好きなタイミングで食うが良い!』って、食べたかったプリン買ってきてくれたじゃない! 良い子なんだから!変わってないんだから!」 「はいはい、分かった分かった。アリュールは困った子だ。」 「全く。煩いので、先にプリン食べてましょうか。そろそろ賞味期限近づいてる筈ですし。」 「そうしよう。」 「プリン!私も食べるわ!」 「アリュール復活? …残念。私が貴方の分も食べる筈だったのに。」 「だーめ!」 「じゃあ、食べる!」 「だーめって言ってるわよ!」 「でも、食べる!」 「二人ともやめてください!」 プラナタリアの何もない空に、三人の騒ぎ声がこだましていた。何かが始まりそうな、予感を残して。

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閑話 神とか、英雄とか

9 夢と仲間

「プシュケさん、ネネルさん、お待たせしました!って、え?ペレさんじゃないですかー!」 受付嬢リゼルが小走りで駆け寄ってくる。手には紙束。 「こんにちは、リーゼさん!ご無沙汰してます。」 「リゼルさん、ペレさんの事知ってるんですか?」 「ええ。知ってるも何も、この方も御仲間候補の一人ですよ。」 「「ええ!そうなの?」」念願のリゼルさん到着に、安堵したのも束の間、驚いた二人は思わず叫んでしまった。 「私も、御相手がプシュケさん達だとは、ちっとも知りませんでしたよ!リーゼさんには『素晴らしい方々がいるので、彼らのパーティに入るの考えてみません?』としか言われなかったので。」 「んもう!サプライズにしたかっただけなのに、なんでそんな言い方するんですかー?ペレさんったらひどいですよ、全く! これで、仲間候補の方たちが集まりました!ほら、ギルドの控室へご案内します!ついて来てください!」なんかとても不貞腐れていた。申し訳ないような気持ちが、プシュケの中を一瞬通り過ぎていった。 ギルドの応接室。何人かの冒険者候補が集まる。 リゼルが名簿を見て紹介する。 「では、今回ピックアップした冒険者の皆さんです。……ペレ・ソレイユさんも、そのお一人です」 簡単な自己紹介がひと通り終わると、空気に静けさが満ちた。 プシュケは一度大きく息を吸い、迷いのない瞳で仲間候補たちを見渡した。 「みんな、今日は集まってくれてありがとう。……俺はアンブロシアに行きたい。不老不死の果実が実るという、あの園を目指してる。 今回の仲間集めも、その冒険に必要だと思ったからだ。子供じみてると思うかもしれない。だから、無理にとは言わない。現実的な依頼じゃないし、きつい旅になるかもしれない。 それでも俺と一緒に目指してくれるなら、仲間になってほしい」 沈黙のあと、候補者の数人が小さく笑う。 「そんなの、本気にしてるの?」 「もっとましな目的なかったのか?」 ひとり、またひとりと席を立ち、損得勘定でしか動かない若者たちは部屋を後にした。 そして、静まり返った応接室に残ったのは、プシュケ、ネネル、そしてペレ・ソレイユだけだった。 — ペレは、薄く笑みを浮かべてすこしだけ顔を赤くしていた。 「私、……その夢、かっこいいと思います」 彼女の声はふわりと響き、どこか覚悟があった。「もしよければ、私も……一緒に旅をしてみたいです」ネネルは嬉しそうにぴょこんと立ち上がり、「僕ね、君は残ってくれる気がしてたんだ!」と高い声をあげた。プシュケも不覚にも照れ笑いしながら、ペレに手を差し出した。受付のリゼルも微笑みながら温かく見守っている。新しい仲間、新しい物語の予感が、静かに辺りを包んでいった。 その日の夜、プシュケは夢を見た。 いつも通りの夢だ。ただ、真っ暗い空間をじっと見つめ、或いは彷徨う。そんな夢。 しかし、今回は少し違った。一筋の光が差していたのだ。その光の下には、真っ白な後ろ姿があった。決してこちらを見てはくれない。雪のように白く長い髪が、同じくらい白い裸体に絡み付く。へたりと座り込んだ小さな少女の後ろ姿が、そこにあったのだ。ただ、ずっとそこに座っている。それだけなのに、プシュケは不思議と、目を離せずにいた。 その光景は、まるで心に焼き付けられるように、目覚めたあとも消えなかった。

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9 夢と仲間

無意識的プードルカット

人間に、プードルカットは似合わない。 風呂場、ムダ毛を剃る。 その感触に満足し、湯船に浸かる。 すると、見えるのはツルスベ肌と隣接するモジャモジャ。 無意識的なプードルカットである。 これを見ると、一度自分で可としたものであるのに、一気に倦怠感と嫌悪感が押し寄せる。 あれは犬に、とりわけプードルと言われる、あの種にのみ許されたファッションスタイルである。 そのように、分からされるのだ。 君ももう、分かったろう。色んな意味で、 人間に、プードルカットは似合わない。

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無意識的プードルカット

8 久しぶりの初恋

プシュケは、ハッとした。直ぐに、間違いなくそれは、自分の事だと分かった。プシュケという名は非常に珍しいもので、今まで同じ名前の人に出会ったことは無い。そこまで考えたあと、目の前の男に心当たりが付いた。その瞬間、涙が頬を伝う。「ねえねえ、その英雄っ子って、実はプシュケだったりして!……プシュケ?どうしたの?」隣に居るネネルが、男の言葉を聞いて揶揄ったが、その涙を見て我に帰る。 「…も、もしかして、ペトロさん…なの?」すると、男は一瞬驚いた顔をした後ニカっと笑った。 「やーっと気づいたか、この鈍チンめ!忘れられたかと思ったぞ!」その笑顔はあの時と変わらず、太陽のようだった。あの時は年に不相応な顔をしていたが、今は釣り合いが取れてダンディな男になっていた。 「ペトロさん!久しぶり、やっと年が顔に追いついたんだね。あのね、俺、あの時からずっと鍛錬してきて、もう村じゃ誰にも負けないんだ!」 「おぉ、そうか!もしアンブロシアは諦めました、とでも言い出したら、殴ってやるつもりだったんだがな!残念、残念…うわっははは!…それと、年が顔に追いついた、は余計だなー。」 「ひどいなぁ。俺がアンブロシアを諦める訳ないだろ!」 「それもそうか。いつまで経っても、お前はお前だな。あ、そうだ!お前に紹介したい奴が居るんだよ。」そう言うと、ペトロは後ろにいた女の子を前に引っ張り、肩に手を置いた。そこには、ラベンダーカラーから、紺藤色への美しいグラデーションを持ち、腰まで伸ばした毛先は白い。そんな髪を持つ綺麗な顔立ちの女性がいた。背はプシュケよりは小さいものの、ネネルより10センチほど大きかった。桜色の唇が、美しい少女だ。歳は同じくらいと見える。 「コイツは、ペレ。ペレ=ソレイユ。ソレイユ商会の長女で、俺の娘だ!」 「娘⁉︎うそ、ペトロさん結婚してたの?老け顔なのに?」 「失礼だな、お前。もっと驚くべきポイントあっただろ?」 「ソレイユ商会って有名な商会だよね?僕、そこの服はよく買ってたんだよねー!その子がそこの娘さんって事は、ペトロさんは商会の会長って事じゃない?」実はソレイユ商会のヘビーユーザーだったネネルが、興奮しながら話に入って来た。 「おお!嬢ちゃん勘がいいなぁ。俺はペトロ=ソレイユ。ソレイユ商会会長をやってるんだぜ。」 「やっぱり!いつもお世話になってます!だけど僕、嬢ちゃんじゃないよ。男だもん。」 「マジか、それは失礼した。すまんすまん…ほら、お前も挨拶しろ、ペレ。」 「わ、私はペレです。よろしくお願いします。えっと、今日は冒険者になるために来て、リゼルさんにここで待っていて、と言われたので待ってるところ、なんです。」緊張した面持ちと声色で、手をモジモジと動かしている。顔を真っ赤にして俯いている姿は、なんとも悪戯心を擽られる。 「あの、プ、プシュケさん。でしたよね、あの私プシュケさんとお会いした事あると思うんですが、覚えてますか?」そう言うペレの顔は、恥ずかしさの赤面からでも分かるような、完全に恋する乙女だった。しかし、この鈍感男は、あっけらかんと答えた。そればかりか、何故彼女がこんなに顔を赤くしているのかも、いまいち分かっていないような奴である。きっと、言い方を考えるべきタイミングすら、一切掴めないのだろう。そして、その真っ赤な顔が、あの小悪魔の悪戯心に、知らず知らずのうちに火をつけていた。 「会ってないと思いますけど。」 「そう、ですか。良いんです!多分他人の空似ってやつかと。」 「ムフフ…ペレちゃん、もしかしてプシュケに惚れた?でもごめんねー!僕、プシュケは譲れないかなぁ。」 「っな!それって!」ペレは顔を赤らめ、声を張り上げた。プシュケには、ネネルに悪魔のツノと尻尾が生えているように見えた。コイツ、何を言うんだ、男だろう、と。しかし、残念なことに、ネネルは女顔。しかも低身長で可愛いときた。そして生憎、緊張で父とネネルの会話も頭に入って来なかったペレに、ネネルを疑うことなど出来ようもない。修羅場である。ペレにとっては。 もはや、後ろでニヤニヤしている父の姿など、一切目に入らなかった。 プシュケはニヤつくペトロを見て呆れ、ネネルとペレを見てはハラハラし、切実に願った。 「リゼルさん、早くきてくれ〜!」と。

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