あいびぃ
117 件の小説あいびぃ
初めまして、あいびぃです! 見つけてくれてありがとう♪ 私自身、生粋のアニオタ・漫画オタなのでファンタジーが多めになってます…多分。 詳しいことは「自己紹介」にて! まだまだ若輩者なので、応援よろしくお願いします! ※❤︎&コメはめちゃくちゃ喜びますので、私を喜ばせたい方は是非! 私の事が嫌いな方はオススメしません。
13 情報共有は重要だよね!〜再出発〜
ホテル「愛ある乱暴(バイオレンス・ママ)」をご存知だろうか。冒険者の街として栄え、物価も高いブランメルの中心部であるリスベイ区に建ち、ギルドから徒歩5分という驚きの好立地ながら、破格の安さを誇る大人気のホテルだ。しかも、ちゃんとしたサービスや施設の設備、清潔感。本来なら一泊で500(日本円にして五万円弱)ペニでもおかしくないのに、ここは基本的に50(日本円にして五千円)ペニ。十分の一である。新米冒険者の懐にも優しいプライスで、多大な人気を誇るこのホテルの一室に、本作のメインキャラクター三人は、宿泊している。 女将さんがお勧めしてくれた三人部屋は、とても快適だ。フカフカのシングルベッドは人数分あり、寝心地も最高。白を基調とした部屋は、清潔感があり、敷かれた絨毯は安物なのに高級感が漂っていた。それもそのはず、この部屋は100ペニ。少しお高いが、それぞれ一人ずつ泊まるよりはお得なのだ。そんなベットに腰掛けた三人は、向かい合ってこれからについて話し合っている。 「対策考えようとか話してたが、そんなのの前に俺達はお互いの事を知らなさすぎる!」指を組んだ手に顔の下半分を埋めて、そう発言したのはプシュケだ。 「て、ことでとりあえず、其々の武器や戦闘スタイルを出し合おう。情報共有だ。いつ何処で何が起きるか分からない以上、俺達はお互いの事を知っておくべきだと思わないか?」 「そうね。私のジョブは魔導士だよ。勿論、後衛で、四大元素は全部習得済み。私のこの杖は、聖杖と呼ばれる杖。ソレイユ家に伝わる家宝の一つなの。その名も真紅の聖果(ポム・ダ・ムール)。全ての攻撃に聖属性が付与されるの。ちなみに、私は治癒とか結界術は全く向いてないよ。」 ペレは、杖の中央にある赤い宝玉をなぞりながら言った。 「でも、バリア張ってたじゃんね。」ネネルがそう言いながら食べているのは、女将さんがくれた茶菓子。東の島国から進出を果たした名店“明水庵”の餡がびっしり詰まったドララ焼きである。 「あれは結界の中でも初歩中の初歩だから。コントロール力と、一定量の魔力さえあれば、誰でもできるよ。」 「え、じゃあ僕でもできる?」 「出来るんじゃないかな。君に魔力コントロールができると言うなら。」ペレの声が少し冷たく、言い方に棘が現れていた。ペレは最近、ネネルに対して少し冷たくなりがちなのだ。理由は言わずもがな、あの時の“プシュケは譲れない”発言であるが、肝心のプシュケは鈍感ゆえに気づいていない。 「じゃあ俺も練習してみようかな。あった方が便利そうだし。」 「うんうん。プシュケ君ならきっとできるよ!そうしてみて!」 「うげ〜…何この差。」 オマエのせいである。 「じゃあ気を取り直して、僕の番!僕は近接担当で、ジョブは暗殺者。持っている武器は双短剣で、その名も 忍ばれし毒牙(スコーピオン・ダガー)だよ!この武器は流す魔力の質や量で、敵に与える毒の種類や強さを変えられるんだ。だけどこれ、扱いが難しいって理由で凄く安く売られてた奴なんだよね。だから多分、僕でもその真髄を引き出せてはいないと思う。で、あと使えるのは、“飛び交う毒槍”《ポイズネス・ランス》とかの毒魔法。これはゴブリンの時に使ってたよね。あとは“探査・感知”《サーチ》と速技系ジョブの人しか使えないスキルだけだよ。例えば“忍足”《ステップ》とか。」 ネネルは短剣の片方を天井に翳して言った。刀身には細かく読めない文字が彫られており、柄は毒を連想させるような紫をしていた。実に厨二心擽られるデザインだ。 「なるほど。じゃあ次はプシュケ君、教えて。」 「俺は剣士で、生活系というかそう言う誰でも使える初歩的な魔法と、軽い自己強化的な魔法なら使えないこともない。ただ、俺は魔力が少し少ないもんで、魔法にはあんまり向いてないんだ。けどまあ、純粋な身体能力ならそこら辺の有象無象には負けないと思う。これだけは胸張って言えるよ。持ってる剣は少量の魔力で炎を纏わせられる聖剣だが、基本的にこの機能は使わないな。使いすぎると魔力の枯渇でダウンしちまうから。因みにこの剣は“大いなる祝福の灯火”《ホルス・クラトール》って言うらしい。村を出る時に、村長がくれたんだよ。」 十分な鞘もなく、長い布に巻かれているだけの一見ボロそうな剣。しかし、その切れ味の素晴らしさは、あの一件で確かなものとなった。布の隙間から見える刀身は、怪しく艶やかに輝いている。 「良い剣だね、プシュケ。」 「魔法…プシュケ君が出来ない分、私が頑張るから、これからも思う存分戦ってね。」 「お、おう。ありがとな、二人とも。」 二人からの激励を受け、少し照れ臭くなったプシュケは、咳払いをして、こう言った。 「さっき受けた依頼、覚えてるか?」 「うん。辺境の村の周りに、近頃よく魔物が現れるから、退治するんだよね。」 「そう。依頼主はそこの教会の神父さんで、グレゴリオ・タルレカっていう人らしいから覚えとけよ。で、それはさておき。その魔物が凶暴化する事例が増えてきててるから気をつけろって受ける時にギルマスから聞いたんだ。気を引き締めて行こう!」 「分かった〜!」 「了解!」 その後三人は、「愛ある乱暴(バイオレンス・ママ)」の一室で、 束の間の穏やかな休息を手にしたのであった。
夏の風
鎖骨に張り付く髪を引き剥がすことはできない。 朝時間をかけて作った前髪を保たせる事はできない。 コメカミから滴り落ちる汗の感触。 冷たいプラスチックの感覚は、さっきの店のお冷には劣る。 サラサラと、ザラザラと。 ベタベタと、雨の匂い。 汗が冷えて、風は冷たく。 生温い風が、髪を靡かせる。 カラカラとモワモワと。 ふわりふわりと、花の匂い。 【今回のお題】ハンディファン
閑話:動き出す影
大都市ユーラグランの地下水路。ジメジメと湿った空気、それを凌駕するほどの酷い腐敗臭。それに加えて、複数の灯りが無ければ何も見えない程の暗闇と、不快極まりないヌメヌメとした通路。それを抜けた先が、彼らのアジトである。 「ったはぁ!臭せぇよこの通路!マジで息苦しぃ…!」白い奇妙な仮面を身につけて、白いシルクハットを被った全身白づくめの男が、入り口から入って来た。しかし彼から声は聞こえない。どうやら話しているのは、彼の肩に巻き付いている蛇のようだ。蛇は、彼の白い格好とは対照的に、焦茶色を基調としたマダラ模様であったが、その血のように赤黒い瞳は不気味な光を放っていた。 「仕方ねぇよなぁ…蛇男。ここは隠れんのに最適だしぃ…あの御方にアジト選びを任された俺がぁ…こういうところが好きなんだぁ。お前、蛇なのに嫌いか?こういうところぉ。」アジト内に置かれたコンクリートに座している男は、まっすぐに白ずくめの男を見つめてそう言った。ガスマスクを付け、目を隠すほど長く、湿った黒髪を持つ男は、身体中が包帯で覆われており、上からコートを羽織っている。彼は饗宴の獣(バンケット・ビースト)と呼ばれる“暴食”の男、モイチャスラ・テパール。その異質な存在感は、街で見かければ、常人ならば思わず道を開けてしまうほどだ。 「蛇男じゃねぇし!ヘビヅカだし!」 「そうかよぉ、蛇男。」 「ヘビヅカ!それに、俺様は都会育ちなんだ。都会育ちの蛇は湿気に慣れてねぇんだよ!覚えとけ。あとお前はガスマスクしてっから分かんねぇだろうが、ここに来るまでの道は鼻の粘膜が焼け爛れそうになる!」二人が言い合っている間に、白ずくめの男は室内を歩き、いつもの位置に座った。すると、彼の左側から甘い花の香りが漂って来る。本当に魅惑的な香りだ。その方を向くと、世にも珍しいハーフサキュバスの、グラマラスな美女が手の爪の手入れに忙しそうであった。彼女の種族ハーフサキュバスとは、サキュバスと人間のハーフの事である。 「んー。私も、ヘビちゃんの意見には賛成ねぇ❤︎ ここの出入りでついちゃった匂い、中々取れなくていつも困ってるの。せっかくの美女が台無しだわ!それにしても酷いわ、この匂い!モイちゃん推しの私でも、感性を疑っちゃうくらいには。私はヘビちゃんほど嗅覚鋭く無いからぁ、流石に焼け爛れはしないけどねー。」ヤスリを掛け終えた爪に息を吹きかけると、持ち前の尻尾をゆらめかせて、グラマラス美女は長髪の男の方を見つめた。男…モイちゃんことモイチャスラは、それを聞いてニタリと不気味に笑った。 「ベルメイユ…俺はぁ、ガスマスクしてっからよぉ…匂いについちゃ何もわかんねぇしぃ、通路の匂いは俺のせいじゃあねぇよ。恨むならぁ人選ミスったあの御方を恨みなぁ。」彼女は、紅き幻蛇(クリムゾン・セリーン)の異名を持ち、名を色欲のベルメイユ・ローゼンという。彼女はモイチャスラに母性をくすぐられて以降、彼を推し続けてきた所謂推し活女子と言うやつだ。 「それを言われちゃあ、何も言い返せないじゃない。」 「もとより、それが狙いだぁ。」そう言ってまた、ニタリと笑った。モイチャスラの笑顔を見たベルメイユは、思わず頬を赤らめ、ため息を吐いた。すると入り口から、今度は少年の気怠げで優しい声が響く。 「…ズピッ。やあ皆さん…寒い…ですね。今晩は、更に…冷え込むんやないとですか?」クリーム色の癖っ毛の短い髪を後ろで束ね、丸メガネをした紫の瞳の少年は、マフラーと耳当てニット帽子、セーターに手袋を身につけ、モコモコの防寒着を羽織っていた。しかし、今は夏である。寒いわけなどないのだ。 「今晩も寝苦しい夜が続きそうですって、お天気放送で言ってただろ?寒いのはお前だけだ。」すかさずヘビヅカか答えた。 「…そうでしたっけ?でもこんな寒いのに…変ですね…。」そしてまた身震いし、モイチャスラの隣に座ると、彼はモコモコの防寒着を脱いでコンクリートに敷き、包まった。 「お前さぁ、何回言えばさぁ、隣で布団敷くの辞めてくれる訳ぇ?」モイチャスラが早くどかしてくれと言わんばかりの邪魔そうな目で言った。しかし少年は心地良さそうに布団に包まる。 「ねぇ、アイルちゃん❤︎ モイちゃんが困ってるわ。モイちゃん推しの身としてはねぇ、推しの気持ちは最低限尊重したいしぃ、願いはなんでも叶えてあげたくなるものよ❤︎」 「んー。やっとあったかくなり始めとうけん…今は出られんのです。…あぁ寒い。」この少年の名は、怠惰のアイル。ファミリーネームは、“あの御方”しかしらない。彼は、周囲を冷やす体質であり、それは自身をも冷やす強力な冷気人間である。彼の周りは常に極寒。その冷気は年々厳しくなってゆく。そして感情にも左右されやすい。あの御方に制御装置を、もらってなんとか抑えているものの、やはり完全にとはいかず、彼はずっと冬なのである。彼は、凍夢の彷徨者(スリーピング・ワンダラー)と呼ばれ、恐れられる歩く災害なのだ。 「…睡眠欲は、人間の三大欲求。」見かねた白仮面が、遂に言葉を発した。それに驚いた皆が、丸い目をして振り返り、じっと見つめる。そして、白仮面の首に巻き付くヘビヅカがその真意を皆に伝える。 「要は、お眠のアイルが寝るまでに用件を終えようってこった。俺様は長い付き合いだからな、大体わかるんだよ。多分コイツ、いい加減痺れ切らしてきてるぜ。」 「あら、シュヴァちゃんが怒るなんて、想像できないわね。」白仮面の男、彼の名はシュヴァルツ・バイセルン。欲なき支配者(デザイアレス・ドミネーター)と恐れられる“無欲”を冠する男。普段は無口で、温厚、というか感情が無さそうな人である。しかし、そのようなキャラは実は怒ると怖いと相場が決まっているので、皆怒らせないよう努めているのだ。 「分かった、分かったからよぉ、今日はあれだ。近況報告だったよなぁ。」 「ええ❤︎」 「人数が足りねぇが、まあいいだろ。とりあえず、あの計画は順調だぜ。俺様達のおかげでな。」 「…あの白い所の事やか。このまま、上手く行って欲しい…ですね。」 「そうねぇ… シュヴァちゃん達も、ご苦労様❤︎」 「あとは朗報だぁ。例のガキにアイツが恋しやがった!」モイチャスラは両手を大きく広げて、高らかに言った。その笑顔は狂気に満ちていた。 「あらあらまあまあ!良いじゃないの❤︎」 「うげっ!マジか…あのガキも付いてねぇなぁ。あんな歪んだ女、流石の俺様も狙い下げだぜ。」 「あの子のそう言うところが可愛いんじゃない、狂気的で❤︎ 」すると空気に再び冷気が滲み、アイルがほんの少しだけあくびを噛み殺した。 シュヴァルツの白い仮面に、微かに光が反射する。 「――それじゃあ、今日はもうこれでぇ、お開きだぁ。各自、持ち場に戻れぇ。」 「了解~❤︎」 「おうよ!」ヘビヅカの元気な返事と共に、深く頷くと、シュヴァルツは微かな残像をほんの一瞬残して消えた。 「おやすみなさい……皆さん。」ベルメイユが軽く手を振り、モイチャスラはぼそりと「寝落ちすんなよ」と呟いた。巨大な闇の下で、静かに“凍夢の彷徨者”は布団に包まって目を閉じる。彼の呼吸が、仄かにやわらかな白を滲ませて…。 やがて、アジトの闇と静寂が、全てを優しく包み込むのだった。 これが、誰もが等しく夜を迎える、ユーラグランの“異常な日常”――。
12 かちむご 〜なんかカチ割れてて酷い奴〜
「え、なにこれ。」 街に帰ってきた三人は、そのまま素材を買い取ってもらうべくギルドを目指していた。その道中にある教会の前を通ると、前までの神聖さはどこえやら。なぜか、酷くズタズタなのだ。美しく輝いていた壁にはヒビが入り、差し込む光がカラフルになる神秘的なステンドガラスは、すべて割れて飛び散っている。また、扉は片方がもう外れてしまいそうなグラグラぶりである。参拝者の安全の為にも、なるべく早めに撤去してほしいものだ。お化けを寄せ付けないはずの教会が、今はお化け屋敷のようである。そして、教会の周りには沢山の人々。しかしただの人ではない。事件などの調査に赴く仕事柄のお偉いさんと、あとは街の警戒にあたる近衛兵の方々だ。彼らがお偉いさんと教会を護衛しているように見える。また、お偉いさんと、近衛兵のリーダー格の方が肩を並べて、興味深そうに中をじっくり観察している様子が見られた。自分たちがゴブリン相手に手こずっている間に、一体全体何が起きていたのやら。しかし事に気づいたからと言って、自分達に出来ることは殆どない。暫く現場を見つめて、さっと立ち去ったのであった。 さっきのはなんだったのか。そんなことを考えながら、ギルドの門を潜る。そこにはいつも通りの活気溢れる酒場と、いつも以上に胃が痛そうな受付嬢、なにやらソワソワしているギルマスという異様な光景が広がっていた。そんな様子に困惑しつつも、三人はカウンターへと向かった。 「ただいま戻りました。これ、依頼のゴブリンの耳です。」プシュケはそう言うと、大容量の四次元バック、その名もマジックバックから重量感たっぷりの麻袋を取り出し、豪快にカウンターに乗っけた。 「こ、こんなに!もしかして、群れがあったんですか?」 「ええ。大体二十匹ちょっとですかね。」 「やっぱり。依頼は十匹程度ですもんね。本当に十匹程度なら、こんなに多い筈ありませんし。群れがあるなんて知っていたら、もう何ランクか依頼レベルが上がっていた筈なんですけど。」そもそも、冒険者にとって依頼レベルとは、受注者の生死に関わる大変重要なもので、自分のランクで受けられる依頼と、そうでない依頼があるのも、彼らの命を無駄に散らさないため。それ故に、「実は死ぬかも知れない依頼を受けていました」というのは、非常に心臓に悪く、プシュケが固まるのも無理はないのであるが、そこを気にしないのがネネルマインドである。実は格上でした発言が投下され、呆気に取られたプシュケを置き去りに、ネネルは興奮した様子で尋ねた。 「えっ!もしかして、僕ら凄いことしちゃってたり?これって、昇格チャンス?昇格しちゃうの⁉︎」 「ええ、まあ。あり得ないことは無いですが。」 「やったー!」 「ネ、ネネルちゃん。はしたないよ。あ、そうだった。すみません、こっちも見て欲しいんですが。」ペレはそう言うと、件のゴブリンキャスターが体内に所持していた例の魔石を取り出した。 「こっこれは!ゴブリンキャスターの魔石ですか⁉︎」 「はい。凄い体が大きくて、魔法が使えていたのでおそらくは。まあ、魔法を使えるゴブリンというのは珍しいと言えば珍しいのですが、いるにはいるので、初めはそういう個体かと思ってましたけど、魔石が出てきてしまった以上は。」 「ですよね。これは、間違いなくゴブリンキャスターの物と思われます。しかし、あの森でこんな大物が出るとは。少なくともCランクでしょうね。この魔石の大きさを鑑みるに。」 「し、Cランク⁉︎」ランクというのは、いくつかあるが、とくにC以上は単体で倒すのが非常に困難であり、二人以上の熟練者の力が必要になる。今回は三人で、どうにか倒せたが、己の力を過信してはならない。三人でやっと熟練者に近づいただけの話。というか、あの感じだと、相手がバカだったからというのもあり得る。もしアレが、本来持ち得るはずの知識を持っていたならば、プシュケ達の死亡確率は今より格段に上がっていたことだろう。 「はい。今ギルマスを呼んできますんで、少々お待ちください。」受付嬢リゼルは、そう言って慌ただしく去っていった。 暫くして、いつもの倍くらいの気迫を背負うギルマスがやって来た。 「おお!やっと帰ったか!」 「はい。無事に帰りました。」 「良かった、良かった。えーと、確かゴブリンキャスター及びゴブリンの群れの件だったな。お前達は最低ランクのGランクだというのによく頑張った。この依頼は、本来ならばEからDだ。よって、お前達のランクを特別に、Eに引き上げる。もちろん、狩ってきたゴブリンは買い取らせてもらうし報酬も払おう。」 マスターの発言に、三人の「おぉ!」「やったね!」というような声が上がる。しかし、その後マスターはワントーン低めの声で、プシュケを真っ直ぐ見つけて話し始めた。 「で、三人はいなかったから伝えるんだが。お前らもう、教会は見たか?」 「はい。なんか、お化け屋敷みたいになってましたね。」 「そうか、なら話は早い。実はな、教会内にある創造神クリエティスの聖像の脳天が、何者かの手によってカチ割られちまったんだ。教会の被害はその余波だな。」 「え、は?」自分でもわかるほど呆けた声が出た。それを聞くと、マスターは満足そうに「うんうん」と頷いて言う。 「わかるわかる。酷いよなぁ。」 「そうじゃ無いですよ!いや、違わなくも無いんですけどね!」すると、見かねたリゼルが、勢いよくツッコミを入れた。 「何?」 「神様の像が壊されちゃったんですから、“カチ割られた”なんて下品な言葉使ったら失礼でしょう?それに、急すぎてプシュケ君が硬直してます!」 「んー。じゃあ、おカチ割られました?」 「ちがう!そこじゃ無い!」 「カチ割られましたお?」 「もう良いです…。」そして今度は、二人のコントを見かねてプシュケ達が質問する。 「あのう、具体的には?急に頭がカチ割られたなんて言われましても、犯人はどうしてそんなことを?」ペレも続く。 「神様の像が壊されるなんてこと、前例がありませんでしたよね。それに教会にはかなりの結界が張られている筈…それを掻い潜って御神体を傷つかれるなんて。本当に酷いことをなさります…おいたわしや。」 「そうなんだよなぁ。それなんだけど、今は調査待ちで…。でも、事件の詳細ならさっき聞いたぞ。なにやら魔道具か、もしくは強大な魔力を持った細長い何か、多分槍だろうな。それが飛んできて神様の脳天をブッ刺して、その余波が周りのものを壊し、そして神様は上半身までカチ割れたんだ。」 「うぇー。なんか悪趣味だね。」そう言って引いているネネルを見て、プシュケもすかさず賛同する。 「そうだな。それに、相手はあの教会の強力な結界を破ったんだ。これが本当なら、相当にヤバい奴だよ。」 「そういうことだ。いくら上級依頼レベルの難事件だったとしても、そんなヤバい奴がこの辺りに現れたんだ。高レベルの奴にだけ教えるなんて頭の硬い事、してる暇ねえからな。今は少しでも早く、多くの人々に警告しなきゃなんねぇ。それでお前達にも伝えたんだ。心のどっかに必ず置いとけよ。んじゃな。」そう言い残すと、マスターは颯爽とその場を立ち去った。慌ただしく後を追って、リゼルも立ち去り、残された三人はまだ見ぬ恐怖と、酷い事件に身を震わせ、或いは警戒心を高めるのであった。
その愛、花と散る。
「今度の花火大会、一緒に行かない?」 そう彼女を誘ったのは、今から数日前のこと。 彼女に恋をしたのは、きっと、親友と楽しそうに話す笑顔を見たあの瞬間だ。まるで数日ぶりに浴びる陽光の如く眩しいそれは、真っ直ぐに俺の胸に差し込んだ。いつもなら落っことしそうになる程冷たいコップも、熱った手には心地よかった。しかし、正直なところ、なぜ彼女が俺の誘いに乗ってくれたのか不思議でならない。だって彼女は、明らかに親友の事を好いている。それは、間違いなく、異性として。一番近くで見守ってきた俺だから、誰よりも早く気づいてしまった。恋する乙女の瞳は、とっくに俺を映していなかったって事に。だけど、それでも好きでいたかったから。そばにいられる特権を乱用して、登下校も深夜のコンビニへの道も、俺は自然と彼女の右側を歩いた。彼女の欲しいものは直ぐに買ってやり、体調が悪い時は最前線で看病した。そうする事で見られる彼女の笑顔が、俺はたまらなく好きだった。 祭りが始まって、物凄い人混みの中、俺は「逸れると危ないからな。」と最もらしい口実をつけて、彼女と手を繋いでいたりする。前ばかり見て、胸を張って歩く俺は、側から見れば風体だけは立派だったと思う。だけど実際は、赤くなった惨めなツラを隣を歩く彼女に見せない為であった。これでも異性と手を繋いでいるというのに、それでも彼女は、何も気にしていないと言わんばかりに無邪気に俺の手を引いて「あの屋台に行きたい。チョコバナナ食べよう!」と人混みの中を駆け回る。 二人でチョコバナナを咥えながら、良いのを見つけたと出張ったコンクリートに座り込んだ。均等に並んだそれは、後ろにある大樹を長年に渡って人知れず支えてきたのであろう年季を感じさせる。座り心地も高さも最悪であるが、彼女と座れば、己の骨が出張った尻の痛みなど、今更どうでも良かった。チョコバナナを食べるのに夢中になる彼女からは、話題なんて一つも出ない。かといって、俺も思いつかないから、チョコバナナをもう一度咥えて誤魔化した。しかし、耐えきれなくなって口を開く。 「なあ、俺で良かったのか?一緒に行くやつ。優雅の方が良いだろ。」 「うん…まあ。でもさ、こうして二人きりでのんびり出来るのも、あと少しって思ったら、断る理由なんて無いよね!」 彼女は、そう言って口元にチョコの破片をつけながらニカっと笑った。彼女が言う“もう少し”というのは、あと数ヶ月すれば俺が遠くの学校に進学して寮生活になるという話である。だから、なかなか会えなくなるであろう俺に、慈悲をくれたということだろうか。 「そっか。俺を優先してくれて、ありがとうな美穂。」 「感謝されることなんて、私は一切してないよ。ほら、このチョコバナナだって奢ってもらったし。これからも奢ってもらうから。」 彼女、美穂はイタズラっぽく笑った。こういう笑顔も悪くないな、と思う。こうして、俺たちはイカ焼き、たこ焼き、焼きそば、りんご飴、チョコバナナ、金魚すくい、ヨーヨー釣り、ラッキーボール等等を遊び尽くした。ほとんど全部俺の奢りだが、美穂も少し申し訳なさがあったようで、途中から「せめて自分の分だけは払わせて」と懇願してきた。そして最終的には俺が奢られる始末。やり過ぎたろうか。 花火の時間がやってくる。俺たちは、幼い頃からこの花火大会に参加し続けた。そして、花火を子供達だけで見られる穴場を見つけるに至り、以後、みんなそこで見るようになった。今日、親友の優雅は居ない。いくら彼とて、親御さんとの旅行中にここまではこれまい。一度、美穂に「もしかして、優雅が来れないから、俺の誘い受けてくれたとか?」とあの時聞いてみたが、違うらしい。どうやら、俺から誘われるより前から、会えなくなる事を考えて、俺と行こうと決めてくれていたのだという。そしたら優雅は家族旅行で行けないと聞いて、ますますその意思が強まった、というわけだ。 ヒュー…ドーン…パラパラパラパラ 二人の目の前に特大の花火が散る。それに魅入る美穂が、なにより美しく、俺は見惚れてしまう。そして思わず、口から溢れた。 「好きだなぁ。」 ドーン! ドン! パラパラパラパラ… 「え?ごめん。花火で聞こえなかったんだけど、お兄ちゃん今何か言った?」あぁ。花火で掻き消されて良かった。美穂に届かなくて、良かった。俺はもう少し、美穂のただ一人の兄でいたい。この関係を壊したくない。 「うん。花火綺麗だな、って言った。」 【今回のお題】 花火大会
11 ゴブリンと凶兆
「依頼のあったブルームの大森林ってここだよね。」 彼らの目の前には、禍々しい雰囲気を纏った大森林があった。地図を持ち、森を見上げるネネルの顔は、ものすごく引き攣っている。ぎこちない動きで、プシュケの方に首を回す彼の顔は、「え?ここに入るの?嘘でしょ⁉︎」という顔だ。 「あ、ああ。残念ながら、ここだな。」 「ねえ嘘でしょ⁉︎ 僕の知ってる限り、ゴブリンってもっとその辺にいるモブみたいな存在なんじゃ……!」 「私、こんなところにいるゴブリンって、絶対只者じゃないと思うな!」 「まあ、少なくとも俺らの想像する物語の主人公がワンパンで倒すような奴らじゃ無いってのは、ほぼ確定だな。て事で、気を引き締めて行こう!」そうして彼らは、瘴気の漂う道なき道を渡り、叫ぶ人面樹を掻き分け、ゴブリンの巣穴へと向かうのであった。 「キシャアーッ!」そう叫んで後ろから仕掛けてきたのは、小柄なゴブリン。見た目は想像通りだが、素早さは想定外で追うのも一苦労だった。しかし、そこで役立ったのはネネルのジョブだった。 「“忍足”《ステップ》。逃さないよ…」 速技系ジョブの中でも稀有な暗殺者。彼らの固有スキルが一つ“忍足”。それは、一切の気配を断ち、目にも止まらぬ速さで走り抜ける隠密スキルである。これを駆使し、彼は素早く立ち回り、ゴブリンの背後から首を掻っ切った。突然の奇襲に為す術もなく、ゴブリンは息絶えた。その見事な足捌きと強さに、思わず二人ともスタンディングオベーションをかます。その後、証拠となる耳を切り取ると、ゴブリンがやってきたと思われる方向に歩き、ペレの魔法で残穢を辿りながら巣穴へと向かった。そこには二十強のゴブリンの群れがあった。 「うげっ!めっちゃいんじゃん。」 「ざっと二十はいるよ。」 「さあ早く終わらせて帰ろう!俺たち“プロメテウスの火”の初仕事だ!」 一斉に走り出すネネルとプシュケ。その後方から援助と攻撃をこなすペレ。三人の連携の取れた動きで、ゴブリンを始末していく。 「“火球”《ファイヤーボール》三連!それと、“付与・筋力増強”《エンチャント・パワード 》!」初級魔法ファイヤーボールを三連で飛ばし、一匹ずつに被弾させる。その一方で、粗末ではあるが近接の二人への筋力増強のバフをかけた。 「おー!ありがとうペレ。なんか力が湧いてきた!おりゃあーーーー!」続々と飛びかかって来るゴブリン達を、薙ぎ倒していくスピードは先ほどより格段に上がる。練習では味わう事のなかった肉を絶つ感覚が、プシュケの中に馴染みつつあった。 「こっちも力が湧いてきたよ、ペレち!ありがとう。喰らえゴブリン共!“飛び交う毒槍”《ポイズネス・ランス》!」ネネルが手首を前方に曲げると同時に、紫色の槍型の魔法が放たれ、飛び回る。毒の塊がゴブリン達の体を掠め、或いは撃ち抜いた。そしてさらに、彼らが怯んだ隙をついて、ネネルが首の肉を絶つ。 「“火球”《ファイヤーボール》六連! 私、付与魔術師 (エンチャンター)じゃないから、付与魔法は下手なんだけど。でもこんな粗末なので良いなら、いくらでもかけてあげるよ!」 残りのゴブリンは、ペレの放ったファイヤーボールによって撃沈し、無事に討伐依頼を遂行した…かのように思えた。倒し終えたゴブリン達の上をどしどしと歩く、どう見ても別次元の個体がやって来たのだ。一見体の大きな(といっても大きすぎるくらいだが)ゴブリンであるが、その秘めたる魔力量や腕力の凄さは、ペレの魔法 “解析・鑑定”《アナリーシス》によって実証済みである。 「オ、オマエ、コロスゥ!」 そう言うと、飛びかかって来るゴブリン。全員慌ててその巨体を避けた。そして同時に、(こんなに力あるのに、飛びかかるのを選ぶなんて、意外とバカなのかな)と思った彼らである。しかし油断するのも束の間、身を翻したゴブリンが魔法の詠唱を始めたのだ。 「しゃ、喋ったぁ⁉︎」 「マ、マズイよぅ!そんなことより、ファイヤーボールが来ちゃう!」 「マジで⁉︎なんか避ける方法とか無いの?」 「バリア張るか、若しくは目で見てタイミング良く避けるしかないよ!」 「じゃ、じゃあバリアで!」 「分かった!やるね!“防御壁”《シールド》!」 シールドによって難を逃れた三人は、すかさず反撃に出る。ネネルは持ち前の素早さで後ろに回り込み、体を切り込む。プシュケは、切り傷だらけの体に悶えるゴブリンに向かって走り、その勢いのまま、傷に刃を当てて更に肉を絶った。見事なコンビネーションによって、見事に片足を切り崩されたゴブリンは激昂し、ペレに向かって魔法を放つ。“疾風の刃”《ウィンドカッター》である。それは何発もの風の刃を飛ばし、対象を切り刻む風属性の主な攻撃手段であり、かなり凶悪な中級魔法である。しかし、相手が悪かった。ペレは現在、様々な属性を磨いていて、風・火・水を(完璧とまではいかないが)申し分なく操れる。そして特に、ペレが一番最初にマスターし、魔術師の試験で認められた風属性は、完全に彼女の土俵なのである。 「“螺旋竜巻”《ウェンディ・ストーム》!」 ペレがそう唱えた瞬間、彼女の持つ聖杖から荒れ狂う竜巻が放たれた。“螺旋竜巻”は風の上級魔法で、発動者が解除しない限り、なんでも巻き込み巨大化する厄介なもの。そして、この魔法は風の大精霊“ウィンディ”の眷属から力を借りる必要がある。各属性の大精霊の眷属から力を借りるというのは、上級魔法にはありがちな制約なのだ。そんな竜巻は目の前の巨体を彼自身が放った魔法ごと飲み込み、風は皮膚を切り裂いた。そして、意識を失い倒れた所に、プシュケがトドメを刺した。こうして、初めての依頼はなんとか無事に終わったのであった。 「ねえ、これ見て。丸いのが出てきた…!」 「ん?なんだこれ。ペレ、知ってるか?」 「こ、これは魔石!ってことは、このゴブリンはゴブリンキャスターだったってことかなぁ。」 「「ゴブリンキャスター?」」 「ゴブリンの魔法使いだよ。キャスターでなくても、ごく稀にいる事もあるから気にしてなかったけど、魔石が出てきたって事はそうとしか考えられない。それに、体が大きいのも特別だからだよね、今思えば。」 ペレは、ゴブリンの切り裂かれた胸元から、チラリと見える瘴気に満ちた水晶を見つめて、そう言った。念の為、三人はこれを持ち帰ることにした。 「でもおかしいなぁ。キャスターなんて大物、低ランク冒険者の訓練にも使われるこの森で、遭遇するなんてこと…。」普通はあり得ない。ペレは、そう言おうとして押し黙った。不確かな情報は、無意味な混乱をもたらすだけ。そう思ったのもあるが、仲間が動き出して、突っ立っている訳にもいかなくなったからだ。 「ん?なんか言った?」 「いや、なんでもないよ。」 新人冒険者パーティ“プロメテウスの火” ルワ歴 五の月 八日 ゴブリン討伐依頼 ブルームの大森林にて完遂。
HERO
もはや埃を被った夢 だけど、光を失わない夢。 悪に手を突っ込むほど強気じゃない。 偽善に浸れるほどの度胸も無い。 そんな僕でも、誰かのヒーローになれますか? 過ぎていく今日に 不安定な明日に 世の為人の為なんて頑張る君に、君になりたいのです。 愛されたい 愛したいの 渦の中で 救われたい 救いたいの 葛藤を 全部僕がどうにかしてあげられたなら こんな僕でもヒーローになれるのかな。 同情して、歩み寄って、それが悪で 触れる勇気もないヘタレな僕です。 鬼になる覚悟もない気弱な僕です。 ヒーローにも、鬼にも、ヴィランにもなりきれない そんな僕が何者か、教えてください。 人を愛する前に、自分を愛してあげなさい 人のヒーローになる前に、自分のヒーローになりなさい それすらできなかったら、僕はいったい何ですか? 【今回のお題】 鬼
過去を売った女・終
春の陽気な光が窓から差して、一人の少女が目を覚ましました。 「あれ…私、何で泣いてるんだろ。」 少女は、手で涙を拭うと、直ぐに一階へ降りていきました。 「あら?目を覚ましたのね。ユシア、顔洗ってきなさい。少し遅いけれど、朝ご飯を用意しておいたから、一緒に食べましょう。」 「ありがとう、お母さん!」 母がテーブルにナフキンを敷きながら、少女ユシアに語りかけます。ユシアは、大変にお腹を空かしておりましたので、喜んで顔を洗いに行きました。しかし、顔を洗い終わるとふと、違和感を感じました。何かポッカリと穴が空いたような、不思議な感覚があったのです。何か足りない、そう思いました。 「いつもなら、この時間はマーティンがおはようって言ってくれるはずなんだけどなぁ。体調でも悪いのかしら。…あれ?マーティンって誰だっけ。私ってば、まだ寝ぼけてるわね。」 ユシアは、寝ぼけた顔をもう一度洗い直しました。まだ開きっぱなしの心の穴を放って置いて、ユシアは朝食を食べ始めます。しかし、それでも心の穴は、ユシアの心の中に妙な異物感を残しました。何だろう、何かが足りない…何が足りない?何かが無くなった? 「…マーティン。マーティンよ!マーティン・ウォールド・スミス。」 「ユシア?そのマーティンって子がどうかしたの?」 「あー、いや別に。ただまあ、なんかこう、ずっとあった突っかかりが取れたというか。かく言う私も、マーティンが誰だったか思い出せないんだけどね。なんだか、大事だったような気がするのよ。」 「いや、大事なら忘れないでしょ。変なの。」 それからというもの、ユシアはマーティン・ウォールド・スミスについて考え、調べるようになりました。しかし、不思議な事に同姓同名の人物は一人も見つかりませんでした。どんな手を使っても、一切。しかし、気になる情報が聞けました。「クロノス・エンデという青年は、何でも知る博識の大賢者だ」というものです。大賢者クロノス・エンデ。聞いたことがありました。彼ならきっと、マーティン・ウォールド・スミスについて何か知っているかも。そう気づいてからの、ユシアの行動はとても早かったです。彼の行動パターンを、これまでのデータ(聞き込み調べ)を元に絞り出したのです。そこで分かったのは、あと五日すればこの街にやって来るということ。そして、大抵の場合は路地裏に出現するということ。恐らく、キャプテル通りだろう、というところまで目星が付きました。 そして、五日目に入った昼前。キャプテル通りの路地裏の少しジメジメとした場所。まだ朝だというのに、薄暗くて気味の悪いこの場所で一人、彼は樽に座っていました。 「初めまして…じゃ、ないよね。大賢者クロノスさん。」 「貴方は…ユシアさん、でしたっけ。どうも、一週間と二日ぶりです。こんな場所に、何の用でしょうか?」 「マーティン・ウォールド・スミスって、ご存知かしら。」彼の名前を発した時、ほんの一瞬だけ、クロノスが反応を見せました。 「さぁ知りませんね。」 「大賢者様ならわかると思ったのだけれど、残念ね。」 「おや?今回は随分と諦めが早いですね。」 「あら。私が諦めると思ったのかしら。でも、お生憎様。私、諦めが悪いの。」 「はぁ、やはりそうなりますか。いいでしょう。貴方は断り続けると面倒ですから。」 「教えてくれるの?マーティンについて。」 「ええ。“大賢者”ですから。彼は、消え去られた“元”大賢者です。」 「消え去られたってどういうこと?それに、“元”って。」 「私が消したんです。彼に、交渉を持ちかけられましてね。」 「貴方が、消した?なんで?」 「貴方、本当に覚えてないんですか?」 「何が?」 「今から一週間と二日前、貴方は私の元に訪れて、病弱な体を延命させる為に未来をくれと、私にせがんできました。それには代償が伴うと、説明してもなお退かない貴方に、私は未来を売り、そして貴方からは過去を買いました。」 「んー。確かにあったかも?」 「その結果、貴方は御友人であったマーティンも、母も父も忘れてしまったのです。ああ。これは憶えてなくても、おかしくないのでご安心を。」クロノスから、とんでもない言葉が溢れた。マーティンは、ユシアの友達だった。そして、私は彼を、それだけでなく沢山の人々を忘れていた。そんな事実に、ユシアの体は一気に鉛のように重たくなりました。 「そんな…。」 「おや?後悔しないんじゃありませんでしたか?」 「なんで、そういう事を先に伝えてくれなかったの!」ユシアは思わず、怒りのままに叫んでしまいました。 「私は忠告した筈です。それでも未来が欲しいと言ったのは、他ならぬ貴方でしょう。」これにはユシアも、何も言い返せませんでした。喉の奥に、言葉がつっかえます。言い返したい。しかしどうにもならない、そんな苦痛の時間が、こうしている今でさえ、静かに過ぎているのです。そして何よりも、彼の手のひらの上で踊らされていた自分に、どうしようもなく腹が立っていました。 「そして、記憶を無くした貴方に心を痛めた“優しい”大賢者マーティンは、己の存在そのものと引き換えに、貴方を取り戻したのです。大賢者だなんて呼ばれていなかった私が、そう呼ばれるようになったのも、彼の知識を取り込んだ影響ですかね。だから彼は、本物の“元”大賢者様なのですよ。」相変わらずピクリともしないポーカーフェイスに、無性に腹が立ちましたが、それどころではありません。自分のせいで居なくなった未だ見ぬ英雄、友人という存在が、ユシアのポッカリと開いた穴を埋めました。ようやく腑に落ちました。そしてその瞬間、ユシアの大きな瞳から、あの朝と比べ物にならないほどの涙が溢れ出しました。思い出したのです。小さな頃からの、大小様々の等しく大切な思い出を。愛する人の笑顔と、あの時の温もりを。 「そん、な…。嘘よ!マーティンは、彼は何処なの!何処にやったのよ!」ユシアは思いっきり、クロノスの胸ぐらを掴み、言いました。 「だから、彼は私の中ですよ。あと、乱暴は良くないですね。」 「うるさい!彼を返して!返してよ…。」そういうと、ユシアはクロノスの前に座り込み、泣き崩れました。 「どうして貴方が、貴方が大賢者を名乗るの!どうして、貴方がマーティンと同じ呼び名で呼ばれないといけないのよ!」 「良い加減にしなさい!」それは、クロノスの上げる初めての怒鳴り声でした。 「私は、十二の頃に全てを失いました。何度記憶を消されようとも、忘れられない恋をしました。何度も何度も同じ相手に恋をして、恋人になれても、記憶を消される。そんな日々を過ごしてきました。それでも頑張れるのは彼女が、居たからです。けれど、それも無くしてしまった。あの日から私は、怒りと憎悪以外の感情を失いました。彼女をどうにかできる方法を求めて、世界中の様々な知識人に話を聞きました。しかし、誰も答えてくれない。そんな中、あの大地に足を踏み入れて、力を得た。大賢者の知識を得られると聞いて踏み入れた土地で、時空間を操る力を得たのです。こんなのじゃ何もできないと、私は絶望しました。彼女を元気な頃に戻す事は、この力じゃ到底無理だと悟ったのです。しかし、その元凶は潰せるかもしれない。そう思って過去に戻り、元凶をどうにかしようとしても、やはり未来は変わらない。そんなことを繰り返していると、私利私欲の権化が私に近づいて来るのです。その力で世界を救ってくれ。その力で我が家を救ってくれ。その力を私のために使ってくれ。その力で、金を増やしてくれ。中にはこの力を奪おうとが策する者もいました。もう、うんざりなんです。彼女が居ない、欲まみれの人間に紛れる地獄のような日々は。だから、この人の過去や記憶を奪える力で、大賢者に勝る力を得てやろうと、そう思ったんです。それなのに、たった一回、忘れてしまっていただけでしょう!本当の地獄を味わった事のない人間が、被害者面をするな!」するとクロノスは、憎悪に歪んだ顔をユシアに向けました。 「貴方の不幸自慢は分かったわ。だけど、私は貴方を許せない。それで、実際に大賢者になれた気分はどうなのよ?満足した?」 「最悪ですよ。彼の持つ記憶や知識に“蘇生”にまつわる話は無かった。全てが無駄だった。だったらこれからは、自分の欲に忠実に生きる。それが本来の人間の姿なんですから。」 「人の大事なもん奪っといて、最悪とかマジで言ってんの?」ユシアはぐしょぐしょになった顔でクロノスを見上げ、睨みつけて言いました。 「ええ、マジですよ。もうマーティンは戻りませんが、それでも見苦しく復活の方法を探しますか、かつての私のように。まあ見つからないでしょうが。若しくは、貴方の中に残ってしまったマーティンを取り除きましょうか。忘れてしまった方が、いっそ楽でしょうし。」 「いや。このままで良いわ。私、たとえマーティンに会えなくても、彼を忘れたくはないもの。彼だって、自分のために私の人生が貴方のように暗くなるくらいなら、諦めて胸の中で想われている方が嬉しいと思うわよ。」ユシアは涙を拭い、立ち上がって真っ直ぐな瞳で、クロノスを見つめます。その吸い込まれるような瞳に見つめられて、クロノスは思いました。もしかして、彼女もそう思っていたりするのだろうか。彼女も私の胸の中で想われる方が嬉しいのだろうか。だとすればなんて、無意味な事をしたんだろう。“欲”を憎む私が、それに染まろうとは。もう、これだけ探して見つけられないなら、諦めようか。胸の中で貴方を思い出して、死ぬまで想い続けよう。クロノスの真っ黒の瞳から涙が溢れ出ました。表情は変わらないのに、涙は止まりません。そんな彼を置いて、ユシアは立ち去りました。暗がりの中、また孤独になった彼は憑き物が取れたかのように晴れやかで、それでいて罪悪感に蝕まれたようでした。 「参りましたね。もう、貴方の顔も思い出せない。あんなに大好きだったのに、私の手は、心は貴方を救うために、貴方を思い出せなくなるほど汚れてしまっている。という事でしょうか。何という皮肉…フフ。これではあの日のマーティンと同じではないですか。いや、自業自得の分、私は幾分もタチが悪い。」 “もう、生きる意味は無い” そう思った彼は、黒い何かを頭に突き付けて、鈍い音を響かせました。 その頃、茜色の街では忘れ去られた全ての記憶が人々に戻り、お祭り騒ぎになりました。夜になればキャプテル通りの路地裏まで、祭りの音は虚しく響いています。 まるで、冷たくなった彼の、今世最初で最後の笑顔を祝うかのように。
一千年の恨みを晴らす時
妙に辛気臭くて、ドス黒い所だった。みんな、取り憑かれたようにある人物への憎しみを唱えた。 「桃太郎を許すな!」 最初はそんなこと無かったのかもしれない。そうは言っても、俺の死んだひいひいひいひいひいひいひいひいひいお婆ちゃんが若かったくらいの時代だ。過去過ぎて、想像もつかない。いつの間にか、みんなそうなってた。俺もなんと無く、そう生きている。だって、桃太郎を許すなと、教わったんだから。 俺は所謂鬼だ。でも、元からツノがあったわけじゃないし、犬歯が尖っているのも後からだった。最初は、普通の人間だった。或いは、鬼になる前だったのかもしれない。でも、大して変わらなかったと思う。今から凡そ千年前、熟れた桃を食して若返った老夫婦の間に産まれたのが、桃太郎だ。子供を望めなかった老夫婦は喜んで育てた。そうして、桃太郎が十二になった頃、俺の先祖を意識し始めたらしい。俺の先祖は、ただの窃盗を働く人間だった。彼らは明日の食いもんに困っていた。明日着るもんに困っていた。今日の寝床に困っていた。だから盗むしかなかった。仕方なかった。そう言って逃げるつもりはない。我らが先祖は、生き残るためとはいえ、やり過ぎたのだ。夜にこっそり忍び込んで金品や服、食事を盗み、バレれば軽く怪我を負わせる。それで時には誤って殺してしまったこともあった。つまり、桃太郎が俺らの先祖を警戒し始めたのは、いよいよ桃太郎の村にも、我らが先祖の魔の手が迫っていたからだ。それを知らせたのは、トンビと名乗る細身の男だった。腕の太さなんかは、桃太郎より二回りほど細い。そんな男からの忠告だった。 「こんにちは。トンビと申します。」 「こんな粗末な家に何用ですか?」 「おや、奥様。私はお宅の坊に用があるのです。」 「お呼びに預かりました。桃太郎でございまする。」 「桃太郎や、今月の最後の週に鬼たちがやってきます。この村を守れるのは、貴方しかおりません。私が頼みにやってきたのは、こういう訳です。」 「なるほど。して、鬼というのは?まさか伝承の妖ではあるまいな。」 「ええ。そう呼ばれておるのですよ、彼ら盗人共は。そして、貴方のような不可思議な存在こそ、彼らを倒すのに打ってつけの人物なのです。」 いかにも胡散臭いトンビの依頼を、純粋な桃太郎は快く承った。「父と母を守る為とあらば、この桃太郎、命を懸けて挑みまする。」とか言って。それから彼は“鬼退治”の旗の下、仲間を探し、鍛錬を続けた。結果集まった仲間は三名。捨て子だった所を老夫婦(若返った)に拾われた義弟 犬次郎。トンビからの使者で弟子だとなのる雉真。狡賢く、イタズラ好きな気まぐれ猿彦。そして、桃太郎。この四名で鬼退治へと向かった。盗んだ金品で買った酒で、実に数年ぶりの宴を開いた日に、奴らはやって来た。犬次郎が友達の毒蛇に俺たちの先祖を噛ませ、雉真が槍で突き、猿彦が爪型の武器で引っ掻いて体を裂いた。一番強かった親方は、桃太郎と良い勝負をしたそうだが、お供の奴らの卑怯な奇襲を背に受け、怯んだ所を桃太郎に叩き切られて殺された。一瞬にして、幸せだった空間は血の海に染まった。これを善行だと、悪事で無いと認識する奴らは、その姿を見て満足気だった。その隙に逃げられた一部の者たちが、真の意味で俺らの祖先だろう。彼らは、桃太郎とその仲間を恨んだ。奪われた金品を奪い返すに飽き足らず、家族を惨殺した奴らを。その醜い憎悪が、ツノを作り、復讐心が犬歯を鋭く長くした。逃げた先の島にはドス黒い空気が充満していて、その影響で、後に生まれた者たちにも、産まれて数年すれば鬼の姿が発現するようになった。俺もそうだ。逃げ込んだ土地では、みんな狂ったように桃太郎を許すなと叫ぶ。殺された者たちの魂が立ち込める鬼ヶ島。 みんな何かに操られたかのように、唱え、今日も向かっていく。大量の桃太郎兵器の元へ。幾千もの機械が蠢く場所へと、飛び込み、一千年の恨みを晴らす為に狂戦士となるのだ。 何への恨みか、なぜ恨むのか。敵は何なのか。分からないままに、突き進む。先祖の仇を打つ為に。 「蹂躙セヨ。」 「「「「桃太郎を許すなーーーー!!!!!!」」」」 「鬼ヲ、駆逐セヨ。」 意識が暗転する。俺の中には“虚無”だけが残った。元々、何も恨んですらいない俺が、本望だと死ねるわけが無いのに。
奪った者
「それでは、いよいよ今年の上半期トレジャー御籤の一等当選番号を発表します。今年は、なんと八億円です!ドキドキしますねー。十七組の…1、2、4、6、2、2、7、3!当たった方はおめでとうございまーす!」ルーレットの結果を読むアナウンサーの声が曇って、聞こえにくくなるくらいに賑やかなファンファーレが、薄暗い部屋に響き渡った。慌ててテレビの音量を下げる。暫く液晶を眺めてから、電源を切った。彼女の手にはクシャクシャの紙が握られていた。ちょうど、この宝くじである。 「何が“おめでとうございまーす!”よ。嬉しかないのよ、いまさら当たったってこんなの。」その握られた紙には、液晶に映るのと全く同じ数字があった。十七組の12462273。彼女はその当り籖を、雑に投げ捨てた。彼女を照らしているのは、テレビの光だけ。それ以外は全て消している。周りにはゴミが散乱し、彼女は、ゴムが緩くなって、すっかり伸びたヨレヨレのパジャマを着ている。その顔は、正気を失ったように酷くやつれている。ふと、机の上にある写真立てに視線を移した。そこには、麦わら帽子を被った女の子の肩に、彼女が後ろから腕を回して笑い合っている姿があった。麦わら帽子の少女は、紛れもなく彼女の娘の千代花である。千代花を妊娠してまもなく、愛する夫の不倫によって離婚し、唯一の家族であった父を亡くした彼女にとって、千代花は光であり、唯一無二の宝であった。 「私は、何のために生きてるのかしら。これじゃまるで、ただ生きているだけみたい。生きているだけの、ただの抜け殻。」そう言うと、写真立てを優しくなぞり、ふわりと微笑みかけた。「千代花、ママはね、今生きてるけど、死んでるみたいなの。ママ早く、千代花に会いたい…。ごめんね、あの時信じてあげられなくて。」彼女の啜り泣く声が、壁に静かに染み込んでいった。 「ママ〜!さっきね、透明人間さんを見たのよ。すっごく大きいの。こーんくらい!」 彼女が宝くじを買い始めたのは、丁度、娘がそんなことを言い始めた頃だった。彼女は頭の上にできるだけ手を伸ばし、一生懸命跳ねて、透明人間とやらの身長を表した。 「あら、怖いわね。食べられちゃわない?」 母親である百合は、娘の冗談だろうと笑い飛ばしたが、当の娘は真剣だった。しかし、いくら一生懸命に説明しても、所詮は子供の可愛い虚言だと流される。これは千代花とて同じ事であった。 「ほんとだもん!嘘じゃないよ。」 「はいはい。こっちおいで。怖かったね〜。」そう言って愛娘を抱き寄せ、慰めることも、この一回限りではなかった。あの日を皮切りに、娘は何度も何度も透明人間を見たと訴え続けた。しかし、百合もその度に軽く流していたのだった。 「ママ、隣に透明人間さんがいるよ。」そう言われたのは、これで何回目だろうか。娘が指差す先には、誰もいない。それなのに、彼女は真っ直ぐとそこを見つめている。 「そうだね。さあ、帰ろっか。」 娘の言葉を肯定し、微笑みかけると、ギュッと手を握り返された。その小さな手には汗が滲んでいた。 「ねえ、ママ。今日は宝くじ買わないの?」 「あー、そうだね。買って帰ろうか。」 「うん!」 そうしていつものように、宝くじ売り場へ向かった。カウンターにはいつものお姉さんが座っている。このショッピングモールに入った時に店番をしていた熟女は、接客態度があまりよろしくなかった。ハッキリ言って、可愛い娘の教育に悪い。だから、今もまだ彼女が店番なら行きたくないなと思い、娘にバレぬよう自然に帰ろうとしていたのだ。というのも、娘は宝くじに当たったら何をしたいか、という会話やおまけで買ってあげていたスクラッチが大層気に入っている。このショッピングモールに来たら、宝くじを買うのが日課になっていた。 「あの、トレジャー御籤をお願いします。」 「バラ一枚でよろしいでしょうか?」 「はい。あと、トレジャースクラッチも一枚。」 「賜りました。三百円になります。」 「はい。」 「こちらになります。当たると良いですね。」 「ありがとうございました。」 宝くじを買って帰る道中、また娘がおかしな事を言い始めた。 「ねえねえ。ママ、また透明人間さんがいる。」 「そっかー!透明人間さんは、いつも千代花の前に現れるね!千代花が好きなのかなぁ?」 「うーん。どうだろう…透明人間さん、時々怖い顔するの。ほら、今も。」 「え?千代花、怖い?」 透明人間について話す千代花は、基本的にウキウキと楽しそうだった。最初の方こそ怖がっていたように思えたが、一週間もすると慣れたようで、震えることも無くなった。千代花が透明人間を恐れているなんて思いつくわけもなかった。だからこそ、百合は驚き、不審に思った。 「うん。ちょっとだけ。でも、普通は優しいの。今は怖いよ。」 「そっか。大丈夫だよ、ママがついてる!」 「うん!そうだ、ママ!」 「なあに?」 「この宝くじが当たったらさ、大きなお家買って一緒に遊ぼうね!」 「うん。そうしよう!」 「やったー楽しみだね!あのね、千代花ね、うーんと、プールでしょ?シェフさんのお料理も食べてー、おっきいお風呂にも入る!」 「いいねー!楽しそうだね。」そう言って、娘の方を見ると、 「う…⁈」千代花は百合と繋いでいる手の反対の手を引っ張られて、突如として彼女の視界から消えた。百合の右手には、千代花の温もり、左手には宝くじを貰った時の感触が、虚しく残っていた。何が起きたか、分からなかった。 「千代…花?」 思いっきり引っ張られた先は、道路だった。ほんの数秒、両腕を掴まれながらも、精一杯の抵抗をする娘の姿が見えた。悲痛な叫びだった。 「ママー!助けっ!」 ドン! でもその数秒が過ぎれば、直ぐに百合の視界は真っ白になった。 目の前には、赤い娘が倒れていた。 今度は本当に、頭が真っ白になった。 娘の死因は、白トラックとの事故死とされた。 【今回のお題】 透明