奪った者
「それでは、いよいよ今年の上半期トレジャー御籤の一等当選番号を発表します。今年は、なんと八億円です!ドキドキしますねー。十七組の…1、2、4、6、2、2、7、3!当たった方はおめでとうございまーす!」ルーレットの結果を読むアナウンサーの声が曇って、聞こえにくくなるくらいに賑やかなファンファーレが、薄暗い部屋に響き渡った。慌ててテレビの音量を下げる。暫く液晶を眺めてから、電源を切った。彼女の手にはクシャクシャの紙が握られていた。ちょうど、この宝くじである。
「何が“おめでとうございまーす!”よ。嬉しかないのよ、いまさら当たったってこんなの。」その握られた紙には、液晶に映るのと全く同じ数字があった。十七組の12462273。彼女はその当り籖を、雑に投げ捨てた。彼女を照らしているのは、テレビの光だけ。それ以外は全て消している。周りにはゴミが散乱し、彼女は、ゴムが緩くなって、すっかり伸びたヨレヨレのパジャマを着ている。その顔は、正気を失ったように酷くやつれている。ふと、机の上にある写真立てに視線を移した。そこには、麦わら帽子を被った女の子の肩に、彼女が後ろから腕を回して笑い合っている姿があった。麦わら帽子の少女は、紛れもなく彼女の娘の千代花である。千代花を妊娠してまもなく、愛する夫の不倫によって離婚し、唯一の家族であった父を亡くした彼女にとって、千代花は光であり、唯一無二の宝であった。
「私は、何のために生きてるのかしら。これじゃまるで、ただ生きているだけみたい。生きているだけの、ただの抜け殻。」そう言うと、写真立てを優しくなぞり、ふわりと微笑みかけた。「千代花、ママはね、今生きてるけど、死んでるみたいなの。ママ早く、千代花に会いたい…。ごめんね、あの時信じてあげられなくて。」彼女の啜り泣く声が、壁に静かに染み込んでいった。
「ママ〜!さっきね、透明人間さんを見たのよ。すっごく大きいの。こーんくらい!」
彼女が宝くじを買い始めたのは、丁度、娘がそんなことを言い始めた頃だった。彼女は頭の上にできるだけ手を伸ばし、一生懸命跳ねて、透明人間とやらの身長を表した。
「あら、怖いわね。食べられちゃわない?」
母親である百合は、娘の冗談だろうと笑い飛ばしたが、当の娘は真剣だった。しかし、いくら一生懸命に説明しても、所詮は子供の可愛い虚言だと流される。これは千代花とて同じ事であった。
「ほんとだもん!嘘じゃないよ。」
「はいはい。こっちおいで。怖かったね〜。」そう言って愛娘を抱き寄せ、慰めることも、この一回限りではなかった。あの日を皮切りに、娘は何度も何度も透明人間を見たと訴え続けた。しかし、百合もその度に軽く流していたのだった。
「ママ、隣に透明人間さんがいるよ。」そう言われたのは、これで何回目だろうか。娘が指差す先には、誰もいない。それなのに、彼女は真っ直ぐとそこを見つめている。
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カテゴリー: お題
投稿日時: 2025/7/20 13:11
最終編集日時: 2025/7/21 3:09
あいびぃ
初めまして、あいびぃです!
見つけてくれてありがとう♪
私自身、生粋のアニオタ・漫画オタなのでファンタジーが多めになってます…多分。
詳しいことは「自己紹介」にて!
まだまだ若輩者なので、応援よろしくお願いします!
※❤︎&コメはめちゃくちゃ喜びますので、私を喜ばせたい方は是非!
私の事が嫌いな方はオススメしません。