その愛、花と散る。

その愛、花と散る。
「今度の花火大会、一緒に行かない?」 そう彼女を誘ったのは、今から数日前のこと。 彼女に恋をしたのは、きっと、親友と楽しそうに話す笑顔を見たあの瞬間だ。まるで数日ぶりに浴びる陽光の如く眩しいそれは、真っ直ぐに俺の胸に差し込んだ。いつもなら落っことしそうになる程冷たいコップも、熱った手には心地よかった。しかし、正直なところ、なぜ彼女が俺の誘いに乗ってくれたのか不思議でならない。だって彼女は、明らかに親友の事を好いている。それは、間違いなく、異性として。一番近くで見守ってきた俺だから、誰よりも早く気づいてしまった。恋する乙女の瞳は、とっくに俺を映していなかったって事に。だけど、それでも好きでいたかったから。そばにいられる特権を乱用して、登下校も深夜のコンビニへの道も、俺は自然と彼女の右側を歩いた。彼女の欲しいものは直ぐに買ってやり、体調が悪い時は最前線で看病した。そうする事で見られる彼女の笑顔が、俺はたまらなく好きだった。 祭りが始まって、物凄い人混みの中、俺は「逸れると危ないからな。」と最もらしい口実をつけて、彼女と手を繋いでいたりする。前ばかり見て、胸を張って歩く俺は、側から見れば風体だけは立派だったと思う。だけど実際は、赤くなった惨めなツラを隣を歩く彼女に見せない為であった。これでも異性と手を繋いでいるというのに、それでも彼女は、何も気にしていないと言わんばかりに無邪気に俺の手を引いて「あの屋台に行きたい。チョコバナナ食べよう!」と人混みの中を駆け回る。 二人でチョコバナナを咥えながら、良いのを見つけたと出張ったコンクリートに座り込んだ。均等に並んだそれは、後ろにある大樹を長年に渡って人知れず支えてきたのであろう年季を感じさせる。座り心地も高さも最悪であるが、彼女と座れば、己の骨が出張った尻の痛みなど、今更どうでも良かった。チョコバナナを食べるのに夢中になる彼女からは、話題なんて一つも出ない。かといって、俺も思いつかないから、チョコバナナをもう一度咥えて誤魔化した。しかし、耐えきれなくなって口を開く。 「なあ、俺で良かったのか?一緒に行くやつ。優雅の方が良いだろ。」 「うん…まあ。でもさ、こうして二人きりでのんびり出来るのも、あと少しって思ったら、断る理由なんて無いよね!」 彼女は、そう言って口元にチョコの破片をつけながらニカっと笑った。彼女が言う“もう少し”というのは、あと数ヶ月すれば俺が遠くの学校に進学して寮生活になるという話である。だから、なかなか会えなくなるであろう俺に、慈悲をくれたということだろうか。 「そっか。俺を優先してくれて、ありがとうな美穂。」 「感謝されることなんて、私は一切してないよ。ほら、このチョコバナナだって奢ってもらったし。これからも奢ってもらうから。」
あいびぃ
あいびぃ
初めまして、あいびぃです! 見つけてくれてありがとう♪ 私自身、生粋のアニオタ・漫画オタなのでファンタジーが多めになってます…多分。 詳しいことは「自己紹介」にて! まだまだ若輩者なので、応援よろしくお願いします! ※❤︎&コメはめちゃくちゃ喜びますので、私を喜ばせたい方は是非! 私の事が嫌いな方はオススメしません。