閑話:動き出す影
大都市ユーラグランの地下水路。ジメジメと湿った空気、それを凌駕するほどの酷い腐敗臭。それに加えて、複数の灯りが無ければ何も見えない程の暗闇と、不快極まりないヌメヌメとした通路。それを抜けた先が、彼らのアジトである。
「ったはぁ!臭せぇよこの通路!マジで息苦しぃ…!」白い奇妙な仮面を身につけて、白いシルクハットを被った全身白づくめの男が、入り口から入って来た。しかし彼から声は聞こえない。どうやら話しているのは、彼の肩に巻き付いている蛇のようだ。蛇は、彼の白い格好とは対照的に、焦茶色を基調としたマダラ模様であったが、その血のように赤黒い瞳は不気味な光を放っていた。
「仕方ねぇよなぁ…蛇男。ここは隠れんのに最適だしぃ…あの御方にアジト選びを任された俺がぁ…こういうところが好きなんだぁ。お前、蛇なのに嫌いか?こういうところぉ。」アジト内に置かれたコンクリートに座している男は、まっすぐに白ずくめの男を見つめてそう言った。ガスマスクを付け、目を隠すほど長く、湿った黒髪を持つ男は、身体中が包帯で覆われており、上からコートを羽織っている。彼は饗宴の獣(バンケット・ビースト)と呼ばれる“暴食”の男、モイチャスラ・テパール。その異質な存在感は、街で見かければ、常人ならば思わず道を開けてしまうほどだ。
「蛇男じゃねぇし!ヘビヅカだし!」
「そうかよぉ、蛇男。」
「ヘビヅカ!それに、俺様は都会育ちなんだ。都会育ちの蛇は湿気に慣れてねぇんだよ!覚えとけ。あとお前はガスマスクしてっから分かんねぇだろうが、ここに来るまでの道は鼻の粘膜が焼け爛れそうになる!」二人が言い合っている間に、白ずくめの男は室内を歩き、いつもの位置に座った。すると、彼の左側から甘い花の香りが漂って来る。本当に魅惑的な香りだ。その方を向くと、世にも珍しいハーフサキュバスの、グラマラスな美女が手の爪の手入れに忙しそうであった。彼女の種族ハーフサキュバスとは、サキュバスと人間のハーフの事である。
「んー。私も、ヘビちゃんの意見には賛成ねぇ❤︎ ここの出入りでついちゃった匂い、中々取れなくていつも困ってるの。せっかくの美女が台無しだわ!それにしても酷いわ、この匂い!モイちゃん推しの私でも、感性を疑っちゃうくらいには。私はヘビちゃんほど嗅覚鋭く無いからぁ、流石に焼け爛れはしないけどねー。」ヤスリを掛け終えた爪に息を吹きかけると、持ち前の尻尾をゆらめかせて、グラマラス美女は長髪の男の方を見つめた。男…モイちゃんことモイチャスラは、それを聞いてニタリと不気味に笑った。
「ベルメイユ…俺はぁ、ガスマスクしてっからよぉ…匂いについちゃ何もわかんねぇしぃ、通路の匂いは俺のせいじゃあねぇよ。恨むならぁ人選ミスったあの御方を恨みなぁ。」彼女は、紅き幻蛇(クリムゾン・セリーン)の異名を持ち、名を色欲のベルメイユ・ローゼンという。彼女はモイチャスラに母性をくすぐられて以降、彼を推し続けてきた所謂推し活女子と言うやつだ。
「それを言われちゃあ、何も言い返せないじゃない。」
「もとより、それが狙いだぁ。」そう言ってまた、ニタリと笑った。モイチャスラの笑顔を見たベルメイユは、思わず頬を赤らめ、ため息を吐いた。すると入り口から、今度は少年の気怠げで優しい声が響く。
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カテゴリー: ファンタジー
投稿日時: 2025/8/5 16:06
最終編集日時: 2025/8/5 16:13
あいびぃ
初めまして、あいびぃです!
見つけてくれてありがとう♪
私自身、生粋のアニオタ・漫画オタなのでファンタジーが多めになってます…多分。
詳しいことは「自己紹介」にて!
まだまだ若輩者なので、応援よろしくお願いします!
※❤︎&コメはめちゃくちゃ喜びますので、私を喜ばせたい方は是非!
私の事が嫌いな方はオススメしません。