川布

10 件の小説
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川布

中学受験期真っ只中の小6! 特に将来の夢とはありません((>_< ;) でも、じゃんじゃんマジレスして下さい! (ドMではありません) 主に連載をしています。 基本的には1日1話分ですが、気分がノッていると、1日3話とかもあります。毎日投稿は一応できる限り続けるつもりですので。 ちなみにフォローは遠慮なく☺️ もちろんフォロバしますよ!

最期の花火大会

今日は水夏公園で花火大会がある。スマホのカメラアプリで連射する。桟橋がある海で、多分そこから花火を上げているんだろう。美しい。 地が揺れた。横に揺れる、つい砂浜に倒れる。体は砂まみれ。私服が汚れてしまった。そうすると、約一万ほどの人がいるこの公園。一斉に同じような通知が来た。 「つなみ!にげて!」とスマホの通知欄の一番上にあった。地平線には海に影ができていた。異変に気付いた人々は慌ててしまう。どうしようどうしようとあわあわしている。波はもう目の前にある。ざっと10mはある。 覆いかぶさってくる。俺の頭上には無限の水がある。花火を背に撮った友人との写真がスマホには映っていた。 私の友達は、花火大会の日に津波で死んだ。その日は、たまたま自転車で来ていて、たまたまマンションかも近くにあったから避難した。 葬式に参加して、毎年見舞いにも行っている。あの出来事の半年後に、彼のものかと思われるスマホと遺体が発見された。 そのスマホには、私が彼の友人と彼で撮ったスリーショットが発見時に映っていたらしい。

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第七話 仲間

「バスケは、チームスポーツだ。」 あの一点の後、俺の胸はこれまでに経験したことの無い、今後きっと経験しないほどの高鳴りを見せていた。そして、緊張も。でも、なんだか靴越しに床の生温かさを感じていた。ホイッスルが鳴る。相手ボールからになった。決勝ということもあり速攻を仕掛けられ、俺はゴール下にいた。シュートブロックをしてみせる。決めてみせる。綺麗な放物線を描いて相手の腕から放たれたスリーポイントシュートは、おれの指先に触れた。少しその線が乱れて、ボードの端っこに当たった。すると、俺はそれを決めたことに大喜びで、リバウンドのことを全く考えていなかった。監督のでっかい声が聞こえる。 「おい、リバウンド!」 意識が戻った瞬間には、春っち(春樹)が潜り込んでリバウンドを取っていた。地に足がつかない。相当な高さでジャンプしていたらしい。なんでこんな跳べたんだろう。 次回 第八話 速攻 最近忙しくて、更新が滞ってしまい、申し訳ございません。少々この夏は投稿頻度が下がってしまいますが不定期にはなりますが続けていくので、是非応援よろしくお願いします。

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Day Break Front Line

今、朝日が登る。私の後ろから。影が薄く見えてくる。完全に太陽が出た。今立っているこの場所は〝Day Break Front Line〟という名前がついている。日本で一番最初に日の出が見れる場所である。そのことから、パワースポットとしても知られている。俺は、ちょうど一年前に彼女と一緒に初日の出を見る約束をしていた。だが、その彼女が車に撥ねられて死んだ。確か3月頃だっただろうか。思い出した、卒業式の後だ。卒業式の後、彼女は独りで帰っていた。信号無視の車によって撥ねられたんだ、俺の目の前で。焦っているときにはもう脈がなかった。でも、3月という事もあって一度あそこで初日の出を見られた。 そしていま、事件の約9ヶ月後。俺は、この場所に立って何を思えば良いのだろう。死んだ彼女にとって、俺は何もできないのだろうか。彼女が生きていたら、またここで見よう、と約束もしていただろう。もう生きることが怖い。生きることがめんどくさい。だから、俺はここで覚悟した。笑顔で飛び降りた。下は真冬の冷たい海だ。自然と涙が飛び出した。 「ジャボン!」海に入ったようだ。もう意識は朦朧としている。そして、起きてしまった。病室のベッドで起きてしまったのだ。失敗してしまった。なんと〝そこ〟にいた人が現場を目撃していたらしい。何故か自然と海の中みたいに涙が溢れてきた。 「紗由理か?今何が俺に出来る…?」

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シャルル

「ハッ!なんだ、夢か...」 俺はとある夢を見ていた。それは彼女から突然に別れを告げられる夢だ。正夢にならないとよいのだが。今日は俺の家に同じ学校に通っている彼女の由紀が来る。しょっちゅう遊びに来る。まぁ、迷惑どころか楽しいし別にいいんだけどな。 「おはようございまーす。」 そう言って教室に入る。いつも通り由紀は女子たちでも男子からでも性別関係なくこの学校でトップクラスの人気を誇っている。ある意味ジェンダー平等なのかもしれない。そんなことはどうでもよくて、大して俺と由紀は学校では話さないのだが、家では結構遠慮なしだ。まぁ、トップクラスの人気を誇っている人に彼氏ができたとなれば、その噂は学校中にあっという間に広がってしまう。本当に地獄だった。友達からも知らない人からも質問攻めだった。そして、その一件は1ヶ月くらいでやっと収まった。 家に帰ってきた。由紀はこたつに入っている。 「お前はなぁ...彼氏の家来たのにスマホずっとポチポチかよ...」 俺は呆れた顔をして言った。前はすごく仲が良かったのだが、最近はなぜか我儘が多くて、隔てられてる感じがする。なにか嫌な予感がしていた。それは前の夢の件だった。 「別に、誰の家に行こうが何をするかは私の勝手でしょ?」 やばい、完全に論破された。俺は語彙力が全くないので、こんなの反論できない。 今日、俺は、由紀に誘われて砂浜に来ている。冷や汗がする。そして、由紀の口から言葉が出た。 「さよなら。」 彼女は泣きながら言った。 「えっ?さよならって別れるの?」 俺は驚いて不意に言葉が出てしまった。あの夢のときのように突然別れを告げられた。理由は、このままだと、お互いを嫌いになってしまうから、とのこと。 「別れるのなら、最後ぐらい笑いましょうよ。ほら、笑って。」 彼女はそう俺に言ってきた。俺の質問を無視して、由紀は押し通してきた。笑えるわけがない。夢が正夢になったとかどうでもいい。とにかく別れを告げられたのがショックで泣くことしかできない。笑えるなんてもってのほかだ。 「あぁ、そうだな。」 なんとか無理やり笑顔を「作った」。この笑顔は本物じゃない。作っただけの偽物だ。 「じゃあね、スカイ。」 そう言って由紀は駅の方に向かって行ってしまった。今は、悔しくて、悲しくて、とにかく憂鬱だ。これは現実なのか信じたくないくらい。 翌日、学校へなんとか行くと、由紀が別れたことで男子からの告白、ラブレターで忙しそうに見える。そして、俺にも一通のラブレター(?)的なものが届いていた。「昼休み、屋上へ来てください。」そう書いてあった。一応そこに行ってみることにした。 「あ、スカイさん。」 そこにいたのは青髪で、妖怪のような帽子を被っている女子だった。彼女の名前は多々良小傘というらしい。そんな子が何のようだと聞こうとする。 「んで、なんの...!?」 「ちょっとストップ!」 慌てて小傘に止められてしまった。なぜだろう。小傘も何か言いたいことがあるのだろうか。そう思っていたとき、小傘の口が開く。 「私、ずっとスカイのことが好きだったんです。付き合ってくれませんか?」 まさかの一言だった。俺には、由紀がいる...のかわからない。 「スカイ、あなたは今すごく傷ついている。いきなり別れを告げられたからです。私は、もちろんスカイさんのことが好きですけど、スカイさんの心を支えてあげたいんです。どうですか?」 小傘の言っていることは理にかなっている。俺のことが好きだけれども、心の支えにもなりたい。そう言っている。正直、OKを出してもいいとは思う。でも、俺には由紀がいる。きっといつか再会できる。俺はそれを信じてた。でも、このまま俺一人だと多分何も変わらない。なら… 「ああ。わかった。いいよ。」 状況と自分の気持ち、そしてこの先の未来を据えてOKを出した。そして、小傘は、素直に喜んでいた。まぁそりゃあ好きな人に告白して成功したら喜ぶよな。俺なんて由紀に告白するとき全校生徒の半分くらいが見届けに来てたからな...それはいいとして、俺は小傘と付き合い始めた。 今日、私は小傘に呼び出された。屋上へ来い、と。言われたとおり来たら、そこには、小傘がぽつんと独り立っている。 「小傘?」 「...!?由紀さん!来てくれたんですか。」 話しかけたら驚いたような顔をしてこっちに顔を向けた。そして、いきなり小傘が淡々と話し始める。 「薬物って知ってますか?ヤバいやつです。」 薬物と言えばあの大麻や覚醒剤みたいに取り締まりされてるやつだ。でも、なんでそんなことを聞くのか私には一切わからなかった。 「その薬物をあなたは乱用した。我儘という薬物を。我儘を言い過ぎると、価値観が狂って、なんでも自分の思い通りになると勘違いしてしまいます。我儘も薬物の1つのようなものですよ。」 その通りとしか言えない説明。言葉が出ない。反論もできないし、賛成もできない。そして、小傘は衝撃の事実を話した。 「私、スカイさんと付き合い始めましたから。」 いきなり過ぎて理解が追いつかない。鵜呑みにすることもできない。どうしたものか。 そして小傘はそっと階段を降りていった。スカイが、なぜ他の女と付き合うのか。それがどうしても理解できない。少し頭に血が上っていた。 新しい日々 今日は小傘の家にお邪魔させてもらっている。両親は共働きで、家には小傘とおばあちゃんしかいないらしい。でも、やっぱり由紀のことが頭から離れない。 「スカイさん?また由紀さんのこと考えていましたね?あの人とは、別れたんですから、もう仕方ありません。まぁもう一度やり直したいとか言うならば協力はしますけど。だってあなたの、スカイさんの一番は由紀さんでしょ?」 また度肝を抜かれるほどの正確な話。結構心に刺さるんだよなぁ。 「まぁ協力してくれる気持ちはすごくありがたい。でも、これは由紀と俺の問題だから、大丈夫だ。」 少し小傘は寂しそうな顔をしている。この子はいったい何を考えているのだろうか。想像もつかない。でも、一応二択だ。俺と付き合って、親愛関係を深めたいのか、もう一度由紀と付き合ってほしい。このどちらかだと思う。思い切って、聞いてみる。 「お前、小傘は何がしたいんだ?俺と付き合いたいのか、俺がもう一度由紀と付き合ってほしいのか。どっちなんだ?」 小傘はこう答えた。 「私は、スカイさんの役に立ちたいんです。もちろんスカイさんのことも好きですよ。でも、スカイさんは由紀さんと付き合っていたときのほうが楽しそうだった。だから、協力したいんです。本当の好きは、相手を思いやって、その人を幸せにすることだと思います。たとえそれが自分からの幸福でなくても、他人が与えた幸福でも。そういうことだと思います。」 言えないが、俺は、小傘とは好きで付き合ったのではなく、精神的に助けてほしかったからである。そして、由紀と再会できるならもちろんしたい。一度話し合いたい。だから、小傘に協力を要請した。 「そう言ってくれると思っていましたよ!」 私は、また小傘に呼び出された。また屋上に来いと。 「小傘、今度は何?私だって暇なわけじゃないのよ。」 まぁ、暇じゃないと言っても、男子からのラブレターが絶えないってことなんだけどね。それはそれでちょっとめんどくさい。だって、私にはスカイしか見えてないから、全部断ってきたし。 「由紀さん、スカイさんが明後日、一緒に話したいそうですよ。」 それを聞いた瞬間、心の中ですごく喜んでいた。私としても一度スカイと話したかったからだ。スカイとはあの砂浜のとき以来話していないのもある。 「一応言っておきますけど、スカイさんはもう一度、できるなら由紀さんとやり直したいそうです。」 その一言もすごく心に響く。もちろん心底嬉しい。もちろん私もやり直せるならやり直したいからだ。でも、私は他の男を全部断っているのに、スカイはどうして小傘にOKを出したのか。それがまったく理解できなかった。 1ヶ月ぶりくらいに由紀と会った。先に口を開いたのは由紀だった。でも、その由紀はもう一度やり直そうという雰囲気ではなかった。どっちかというと怒りっぽく見えた。 「ねぇ、スカイ。なんで他の女と付き合っているの?もうほんとに別れましょう。さよなら。」 由紀は力強い口調でそういった。苛立っているみたいだ。理由を話す前に由紀は帰って行ってしまった。 なんで私は怒りが先に出ちゃったんだろう…謝るのがまず第一なのに...もう話せる機会もないだろうしなぁ...ほんとにもったいないことをしちゃった…私のバカ!衝動を抑えられなかった。一昨日の喜びはどこへ消えてしまったのやら。 俺は家にかえって来た。すると、何故か玄関に小傘がいた。 「おまえなぁ...不法侵入で訴えるぞ?」 事実、俺の家に入るなんて聞いてない。無断だから不法侵入に値する。まぁ通報はしないというと、小傘はすごく安心した顔になった。 「で、どうでしたか?しっかり話せましたか?」 さっきのことを聞いてきた。まあ話さないわけには行かない。だってこの一件は小傘が計画してくれたものなのだから。 「由紀に何で小傘と付き合っていることについて怒られちゃって、そのまま帰っちゃった...」 俺は残念そうに事実を伝える。確かに、元彼が彼女作ったってなればまぁ少しは苛つくかもしれない。でも、もう別れたんだから勝手だろ、と思う俺もいた。でも、由紀のことを俺は諦めたくない。そして、俺は小傘にこう問う。 「俺、小傘と別れたい。」 こんなことをいわれても、小傘は冷静だった。 「どうしてですか?」 まぁ普通は理由を聞きたくなる。そりゃそうだ。理由や根拠がないとただの気分になってしまうからな。 「俺は、由紀を諦めたくないからだ。二人彼女がいるんじゃまずいだろ?」 必死に理由を説明する。やっぱり「由紀」という一人の女の子が頭の中からまったく離れない。だから、由紀を諦めたくない。 「いいですよ。ってことは、新しい『友達』という関係の始まりですね!」 「友達か、別れたらそこで終わりじゃないのか。それはすごく嬉しいな。」 まだ小傘と話せるし、関われる。それはすごく幸せだなと思った。 愛を謳う 今日は高校の卒業式。ちなみに、俺はなんとか小傘に手伝ってもらって、由紀と同じ大学に受かった。そしてその合格者には小傘も含まれている。卒業式が終わると、第二ボタンのの話や、告白など、恋愛関係がひっきりなし。そんな感じで、近くの土手は卒業生で賑わっていた。気になって近づくと、下を向いた、どこかで見たことのある女子を見つけた。近づいてみると、赤いリボンに茶髪。その女子は由紀だったのだ。 「れ、由紀?」 「スカイ!?」 いきなり話しかけられて驚く由紀。まぁそれも無理ない。半年ぶりくらいだもん。話してないのではなくて、話す機会がなかっただけだ。 「もう1度、やり直すことはできないかな...?」 俺は勇気を振り絞って由紀に告白した。正直言って、まぁ色々あったし出る言葉がそれしかなかった。満面の笑みを浮かべる由紀から返ってきた答えは... 「もちろん。前はごめんなさい。自分勝手な妄想で...」 由紀はOKを出すとともに謝ってきた。 「あ、そのストラップ…」 「そうよ。スカイもずっとつけてくれていたのね!」 このスマホケースにつけているストラップは、俺と由紀が付き合い始めたときに、由紀に誘われてお揃いで買ったものだ。 そんな話をしていると、裏から小傘が出てきた。 「そんな恋愛劇見せられちゃあなー...しょうがないよ。負けました!でもいつかはスカイさんの一番になれるように頑張りますから!覚悟しておいてください由紀さん!」 そして、なんか由紀に宣戦布告(?)的なものをしていた。 今日は大学の入学式...と言っても、すぐ終わって、帰る途中だ。そして、由紀と小傘はバチバチに争っている。ふたりとも俺のことが好きなのだが、いつもバチバチだ。両手に花どころか両手に暴れ馬だ。 「スカイがはっきり言わないからこうなるのよ!」 「ふぁっ◯ゅーん」 「待て待て、由紀はいいとして小傘はやばいだろ。つか由紀もよくはないしな...」 ちなみにクラス分けが決まるのは明日らしい。そして、なぜか標的が俺になる。相手を攻め続けてお互い相殺すればいいのになぁ... 今日はクラス分け。結果は、小傘と俺が同じクラスで、由紀は一人。 「なんで彼女の私が違うクラスで、小傘とスカイが同じクラスなのよ!」 まぁそりゃそう思うよな。無理もない。ライバルと彼氏が同じクラスで、自分だけ同じクラスじゃなかったらまぁ悲しいわな。 昼休みに、小傘に内緒で由紀と昼飯を食いに来ていた。 「なんでほんと私だけクラスが違うのよ。ほんと納得しないわよ。」 朝とは違って少しキレ気味だ。授業も集中できてなさそう。それは高校時代、小傘と付き合っていたときと同じようなものなのかな? 「まぁいいじゃん。こうやって昼休みとかに会えるわけだし。」 そういや高校の時の同級生とかはほぼ見かけない。まぁあの高校は受験人口もすくないし、この大学も偏差値60と偏差値が地味に高い。だからほぼいないんだろうな。 「小傘なんて、別れたんだからきりはなしちゃえばいいじゃん。」 そう思うのも無理ない。別れているのに友達なんてごくごく稀なケースだ。通常、別れるのはお互いを嫌いになってからだからな。 大学の生活 入学から一週間が経った。小傘に話しかけられる。 「スカイってサークル何入るの?この大学って、絶対どこかのサークルに所属しないといけないらしいよ。」 「サークル?」 実際、俺はサークルとかの集団生活系はあまり好きなタイプじゃない。俺に合うサークルもなさそうだしな。 「俺に合うサークルなんてあるのか?」 「ないんだったら作ればいいじゃん。4人集めないといけないから、私とスカイさんで2人。あと二人集めればOKです。」 小傘の口からは「作る」という言葉がでてきた。さすが小傘。いつも俺の予想の5段ほど上を行く。小傘の行動は読めない。 「なら由紀も入れれば?」 多分由紀に秘密でサークル作ったらあいつキレるからなのである。 「よし!あと2人頑張って集めましょう!」 とかなんだとか言って、由紀のことガン無視してたな。まぁライバル(?)だから気持ちはわからなくはない。俺でも、嫌いな人とか嫌なヤツがいたらのけ者にしたくなるからな。 「由紀、なんか新しいサークル小傘と作ることになったんだけど、入る?」 小傘がいない昼休みに聞いてみた。まぁ案の定絶対やると言ってくれた。そりゃ彼氏が恋愛のライバルと二人きりになるのはまずいからな。 次の日の朝、3人で集まった。正直問題となっているのは、4人の家、3人は集まっているのに、あと1人足りないことだ。その問題はどうしてもなかなか解決できない。でも、なんか小傘にあてがあるらしい。 「今週中には誘い出してみせますから!」 そう言って廊下へ出ていった。とにかく信じるしかない。俺達にあてがあるわけでもないしな。 その日は委員会活動で遅れてしまったが特に何もなく、そのまま帰路についた。でも、その途中ある女性に話しかけられた。 「あなたって、スカイさん?」 なんか怖かった。体に目を巻き付けているし、ピンク髪だし。かなり特徴的だよな。返事をするか少し迷う。意を決して口を開く。 「そ、そうですが…」 俺の口から出てくるのはその一言だけだ。無駄なこと言って怒らせても悪いしな。彼の名前は古明地さとりというらしい。ちょっと不気味だがなんとか耐えている。 「あなた、バンドやりたいんでしょ?」 (こいつに「うん。」と返事していいのか…?」) しかも、俺の核心を1発目から突いてくる。何かしら裏がありそうだなと思った俺は少し話を聞いてみることにした。まぁ、それも慎重にだが。 「ああ、そうだよ。」 そう一言だけ言ってさとりの返事を待っていた。すると、さとりの口から衝撃的な発言が飛び出した。 「そういえば、スカイさんって恋愛関係どんな感じ?」 俺の小傘と由紀の関係をまるで知っているような言い方だ。まぁ、これぐらいなら教えてもいいかと俺は思って彼女に伝える。普通の人の価値観なら伝えてはいけないのかもしれないが、なぜか彼女には伝えてもいいと思った。 「えーと、俺には彼女がいて、その彼女と競い合ってる元カノが一人いる、って感じかな?」 そう思ったとはいえ、名前とか過去の出来事を全部話すのはまずいと思った。俺もそこは冷静になれたようだ。でも、さとりは俺の想像とは違ってあまり知らないような返事が返ってきた。どちらかといえば、なんか噂を聞いたぐらいのことなのかもしれない。 「なにそれ羨ましい!めっちゃ三角関係じゃん!」 タメ口とかそういう話し方だから、「恐らく」先輩か同級生なのだろう。さとりには羨ましがられているが、本人としてはかなり複雑だからちょっとキツイけどな。 「おっと、話がそれちゃった。で、スカイはバンドがやりたいんでしょ?だったら私とやらない?スカイと同級生で、同校よ。」 俺は、バンド素人だけど、さとりは経験があるらしい。正直言って、同級生で同校なのはかなりありがたいのだ。サークル部員も、俺と由紀と小傘であと1人足りなかったしな。ちょうどいい機会だと思って、俺は快くOKを出した。 サークル生活 次の日、サークル設立に向けて本格的に動き出す。といっても、先生に許可をとって活動内容とサークルの部員が書かれた設立用紙を作るだけだ。あと、小傘と由紀にさとりの紹介もしておいた。さとりも初対面なのによくそんなに喋れるな…と思うほどエンジン全開で会話していた。でも、あの2人は相変わらずバチバチだった。その2人の対立の裏にはいいこともあった。それは、さとりの実力が結構バケモン級だとわかったことだ。正直、さとり以外の俺含め3人はド素人。さとりがいなけりゃこのサークルはどうなっていたのか…と考えると鳥肌が立ってくる。マジで本当にさとりには心の底から感謝しかないのだ。 「スカイ、楽譜読める?」 とか聞かれる。流石に俺ナメられているよな?でも俺も俺で素人だし、なにか口出しができるわけでもない。 「サークルの中で、なにするよ?」 そうやって、さとりがサークルを仕切るようになった。実力的に見て当たり前だ。そしてその問いに対して3人で出せた答えは1個だった。みんなの前で「文化祭」という行事で発表すること。とにかく平凡だが、そこまでの道は険しいのだ。 「じゃあまず役を決めよう。とりあえずボーカル、ギター、ベース、ドラムのめっちゃ基本的な構成でいいか。まずはボーカルから。じゃあカラオケに行こうか。」 そういって俺はみんなと一緒にカラオケに行った。結果、1番広音域で良い音色だったのが由紀だったので、ボーカルは由紀に決まった。そしてドラムは体力的な観点から見て元テニス部の俺、ギターは手先が器用な小傘で、一番の重要役を担うとされているベースは経験者のさとりに任せた。結構、個人的にはいい編成だと思っている。だって、一番の重要役は経験者のさとりにしか任せられないからだな。そして、さとりの提案で夏休みに合宿を行うことにした。目的は、体力付けと各役の技術力向上なのだそう。 「まぁ、とりあえずみんなの腕がどのくらいなのか見せてよ。」 そうさとりに言われて、俺達全員不安になったのだが、案外いけるものだった。みんなでやると楽しい。みんなで教え合ったり、試行錯誤していくのが楽しかった。いつの間にか全員不安を忘れて思いっきりバンドをやっていた。 俺達バンドサークルは今日から1泊2日の合宿だ。基本的にはさとりが中心となってこのサークルは活動している。でも、暑い。とにかく暑い。なんと最高気温が今日は35℃超えらしい。なんと、あのさとりは暑いのがだめなようだ。グロッキー状態になりかけている。フラフラしているな。なんか、小傘も顔色赤いが大丈夫だろうか。 「ちょ、早く予約していたホテルで涼もうよ…まじで死ぬって。」 そうさとりが悶えながら言うと、小傘も同じようなことを言っていた。1人ならまだしも2人グロッキーはマズイ。 「そういや、由紀は大丈夫なのか?」 この2人がこの状態だと不思議に自然と由紀を心配してしまう。 「まぁね。私はどちらかといえば寒がりだし。」 それなら安心だ。本当に嬉しい。なぜなら、俺以外の3人。つまり4分の3がダウンしちまったら合宿の続行も危うくなる。もう今は夜なので、一度事前に予約をしていたホテルになんとか2人が生きた状態でたどり着いた。 「もう、今日は夜遅いし寝よっか。」 そう言って、みんなが眠りにつく。 「そうだ。さとりと小傘も元気そうだし、大丈夫だよな…?このホテルは、カラオケにレストラン、大きな防音室までもあるのだ。俺達はそのカラオケと防音室目当てでこのホテルに泊まりに来た。そして、この合宿が終わったらもう文化祭まで残り1週間を切る。つまり思いの外、時間がないのだ。 「じゃあ、カラオケか防音室どっちから行く?」 そうさとりが問いかけてきた。謎にこのサークルは全部意見が一致する。ちょっと前の「このサークルでバンドを用いてなにをするか」というときも同じだ。そして、今回の答えはカラオケだった。まあ、カラオケはどちらかというとボーカルを担当する、由紀の独壇場だけどな。そうして、由紀のカラオケが終わり、防音室へ向かう。いろいろな音が飛び交う。でも、なぜか気持ちいい。なぜだろう。おはよう。」 といっても、もうみんな起きている。俺が遅いだけのようだ。今日から、本格的にバンドの合宿を始めるそうだ。さとりと小傘も元気そうだし、大丈夫だよな…?このホテルは、カラオケにレストラン、大きな防音室までもあるのだ。俺達はそのカラオケと防音室目当てでこのホテルに泊まりに来た。そして、この合宿が終わったらもう文化祭まで残り1週間を切る。つまり思いの外、時間がないのだ。 「じゃあ、カラオケか防音室どっちから行く?」 そうさとりが問いかけてきた。謎にこのサークルは全部意見が一致する。ちょっと前の「このサークルでバンドを用いてなにをするか」というときも同じだ。そして、今回の答えはカラオケだった。まあ、カラオケはどちらかというとボーカルを担当する、由紀の独壇場だけどな。そうして、由紀のカラオケが終わり、防音室へ向かう。いろいろな音が飛び交う。本当はうるさいはずなのに、なぜか一体感がある。その理由は、経験者のさとりですらわからないようだ。だから、このサークル自慢のポイントと言えるのかもしれない。 この合宿で、俺達下手くそ3人組はみるみる上達していった。しかし、さとりはこう言う。 「まだまだ改善点がありそうだね…」 実際、文化祭レベルまでは達していない。帰りのバスの中で、今後の行動を相談した。結果的に、放課後や、中休みの時間を割いてとにかく練習していくことになった。どうにせよ、まだ足りない部分があるのも確かで、まだ完成には程遠い。だから、とにかく練習しないといけなかったのだ。 死の重さ 今日は文化祭。俺達はあの合宿からずっと死に物狂いで練習していて、なんとか完成までこぎつけた。今は由紀がいないが、後から来るとのこと。ということで、緊張がどんどん胸が張り裂けそうなくらいに膨張していく。そんなとき、由紀から電話がかかってきた。 「悠翔が…死んじゃった…」 悠翔は、由紀にとっての弟で、由紀の家族内で唯一の男性だ。面識は、ちょっとあるくらい。そして、詳しい事情は聞いてないのに、なぜか胸が高鳴り始める。とにかく向かわなきゃと文化祭を放棄して由紀の待っている病院へ向かう。 「文化祭、今日ちょっといきなり用事ができた!無理だ!ごめん!」 そう言いながらぽかーんと立っている2人を背中に走りだす。あんだけ練習していたのに、あんだけみんなで一致団結して頑張っていたのに…と胸が張り裂けそうな罪悪感と劣等感に襲われる。でも、走ることはやめない。彼女の由紀が待っている。いまさら引き返せない。走る。とにかく走る。あとおよそ1kmくらい。走るのには少し長い距離だが、止まるわけにはいかない。あいつが待っている。 「うわっ!」 段差でつまずいて転んだらしい。服が汚れる。膝も擦れている。それでも走り出す。待っている俺のパートナー、由紀のために。息が苦しい。かれこれ10分は走っている。もう、止まってはいけないのではなく、止まれない。せっかくここまで来たのだから、止まれない。止まれるわけがない。実際、あと200mちょい。もう病院も見えているのに、その距離がとてつもなく遠く感じる。それでも、前に進む。進み続ける。辿り着かない。でも止まれないのである。 やっとの思いで着いた病院はやけに大きかった。いつもと同じなのに、やけに大きい。急いでメールで伝えられた、303号室の悠翔の病室へ向かう。 「ハァ、ハァ、由紀、来たよ…!」 疲れていて、喉も乾いているから、かすれた声しか出ない。困ったものだ… 「ああ、スカイ、来てくれたんだ…ありがとう。」 正直、家族を失って苦しいだろうに、なんとか言葉を発している。でも、彼女は震えている。足をぶるぶると震わせている。なにか助けたいとは心の内側で思っているのだが、俺は悠翔に関してあまり知らないし、あまり面識もない。だから、口が重い由紀と不安な俺。この状況で、時間だけは悠々と過ぎ去っていく。あのサークルの合宿の頃に戻りたい、そう思っていた。でも、今は今だ。前のことを掘り返していてもしょうがない。まあ、でもこれといって話すことが特にあるわけでもないのだがな。沈黙の中では、時だけが過ぎ去っていく。その時間はやけに速いように感じられた。雰囲気はこうも自分の感覚に影響を与えるものなんだな。それを痛いほどに感じた。痛感したとでも言えようか。この状況のままじゃ行けないと思ったのか、俺は自然と言葉が出てしまう。 「文化祭放棄してきた。さとりたちには悪いことしちゃったな…由紀?あのさ、この後どうするつもりでいるの?一応、もう文化祭は無理だと思うんだけど…」 なんなんだよ。もうさ、なんか自慢げに話しているように聞こえなかったかな?正直、きっと今の由紀はとても繊細だ。多分、一歩でも間違えれば終わり。あのときとは違う、本当の別れ、そして今生の別れにすらなるかもしれない。だから、俺は慎重に行こうとしてる。そう頭の中で思っていても、正直緊張していい言葉が出ない。この緊迫した雰囲気の中、由紀が重い口を開いた。 「スカイ、来てくれてありがとう。文化祭も捨ててきちゃったんだ…ごめんね。あんなに練習したのに無駄にしてしまって…もうみんなに合わせる顔がないわね…」 さっきの重い雰囲気は少しずつ、暗い雰囲気に変わっていく。まぶたすらも重たくなっていく。重さはなくなる。会話自体はしやすくなる。もう、今の状況を打破するには会話しかない。俺の語彙力じゃ、対して美しい言葉は出ない。それでも、俺の語彙力でも、彼女の助けになるなら話したい。 「とにかく、俺は1回文化祭に戻るが、由紀はどうする?」 俺は、サークル活動の発表以外にもまだ仕事が残っている。由紀は、ちょっとやっぱ気持ち下なのか、下を向いている。由紀はこう言う。 「ふふ。まったく、こっちの身にもなってよね…ま、スカイらしくていいわ。鈍感なところもね。さて、文化祭戻るんでしょ?早く行こ。」 とか微笑みながら言って、どう見てもさっきの重くて、暗かった雰囲気とは違う。でも、その微笑みは少し輝いていた。涙の跡が由紀の顔には少し残っていた。鈍感と言われたとこはちょっと悲しいが、全然あの微笑みと比べれば、「まぁいっか。」と思えてしまう。 由紀と文化祭に戻ってきて、1番に待っていたのは、もちろんあいつらだ。小傘とさとり。激おこぷんぷん丸を綺麗に具現化した存在だった。バチギレしていた。なんとか説明しようとする。 「いや、その、由紀に色々あって、だから…その…」 さすが俺の語彙力と行った感じだろうか。すごくひどい。すると、まったくもう、と言わんばかりの完全にオーラが切り替わった由紀が話し始める。 「ちょっと、私が気持ち沈んでいたときに、スカイが助けに来てくれたの!」 なんか、由紀もキレ気味で、もう一触即発ムード。俺は展開に置いてけぼり。大学生活の中で1番カオスな状況かもしれない。これまた、高校の卒業式の帰りとは違った雰囲気だ。あのときの穏やかな雰囲気とは全く持って違う。重々しくて、笑顔がまったくない。本当の修羅場とはこういうものなのか。と心のなかで思い始めたあたりで、由紀が説明を終えたらしい。なんか久しぶりに感じる二人の顔は、呆れた顔に見えた。 「ま、スカイさんらしいですね...語彙力が決定的に欠けているところも、突発的なところも。」 と二人は口を揃えて言う。なんか、ちょっと複雑な気持ちだ。理解なのかはわからないけど、一応認識してくれた。それは嬉しい。でも、その内容はちょっと複雑である。文化祭の俺達のサークルの発表時間は終わり、もう発表もできないし文化祭そのものがあと10分くらいで終わる。だから、それを待って、そのままその日は家に帰った。 文化祭から1週間。バンドはもう、発表の機会もないから、ほぼ雑談の場になってしまった。そんなある日、家でゴロゴロしていたら、電話がかかってきた。小傘からだ。 「もしもし?スカイさんですか?あのちょっとお願いがあって、家に来てもらえませんか?」 そういう電話だった。別に家でゴロゴロしていたらなにかが起こるわけでもないんだし、とりあえず行ってみる。というかなんか気になる。そして、謎に鼓動が高まる。 「落ち着くまでちょっと一緒に過ごしてもらえないですか?」 小傘の家に来て、1発目の発言がこれ。もう何を言えば良いのかわかんない。また浮気しろ的な?それともなにか別の理由があるのか… 「なんで?」 「先日、私の祖母を亡くしまして。この家は、あとはお姉ちゃんと2人きりなんです。スカイさんが近くにいると、私なぜか安心するんです。お願いします!」 内容は結構重いもの。由紀と同じくらい。多分、おばあちゃんしかいないってことは、そうとうお世話してもらっていたのだろう。それが急になくなるのは辛いよな。ちょっと由紀に相談すると話し、一度席を外した。とりあえず、由紀に連絡だ。もし、同意した時に由紀に伝えなかったらやばいことになる。 「由紀!浮気していい?」 やべぇ!俺の語彙力が完全に誤作動を起こしてる!あ、これは終わったと悟った次の瞬間。 「はぁ?なんでまた?」 怒り混じりの困惑とともに理由を聞かれた。まずいぞ、なにかミスったら一瞬でイッちまう。 「まぁさ、由紀前一件があったじゃん。それと似たようなことが小傘にあって、その心の支えになってやりたいんだよ。頼む!」 「まぁ、言われずに隠れてやられるくらいならマシね。」 返答はOK。普通だったらダメだけど、俺だからいいらしい。それと、小傘に電話を変われと。 「小傘、速く良くなってね!」 小傘へ向けて由紀はそう放ったらしい。ふんわりと包まれた優しい言葉を。 愛を謳歌する 大学を卒業した後、由紀と俺は、結婚式を挙げ、正式に結婚した。もちろん、小傘も招待した。家族席ではないが、一応近いポジションで招待し、それに応じてくれた。余興で、俺と由紀の馴れ初めビデオを流したが、なぜかみんな真剣すぎるほどの顔で見ていた。まぁ、完全にドラマ的だったからな。ちなみに、そのビデオは小傘が作ってくれたらしい。更に、俺達は子供にも恵まれ、名前は【咲日】と名付けた。由来は、「人間が咲く日」と「日のように明るい花が咲く」という意味でつけている。 今、小傘はというと、俺のことをまだ諦めていないらしい。自称側近。自称である。俺はまだ認めていない。あいつもあいつでしつこいよな… あの【さよなら】という一言から始まった物語。あの2年半ほどの出来事はなんだろうか。青春?恋?いや違う。俺は、俺にとっての【幸せ・幸福】だと思う。だって、あの日々。確かに大変だった。辛かった。でも、バンドサークルの練習。あの時は、時間を忘れられるほど夢中になっていた。練習に打ち込んでいた。多分それは、俺が【バンドって楽しい!】と感じていたからだと思う。【楽しい】という気持ちは絶対に忘れてはいけない。今やってるのは、本当に楽しいのか。それをじっくり考えると、自分にとっての【幸せ・幸福】がわかる。俺達のあの日々は決して青春ではないということではなく、幸福だったと思う。こいつらと過ごせる日々を大切に、当たり前だと思わずに生きていきたい。だって、由紀はもう妻なのだから、もちろん愛している。そして小傘。由紀と別れたときの俺の心を救ってくれた英雄だ。さとりは高校も一緒だったが、大学からの付き合いで、バンドも教えてもらった。とにかく明るくて、接しやすくて、話しやすかった。いつか、この3人と一緒にサークルではなくて、正式にバンドを作ってみたい。そして、きっと、俺達が体験した物語は今この広大な世界のどこかで起こっていることだろう。人の死も、バンドも、幸福も、別れも何もかも。それが組み合わさってできたのが俺達の体験なだけであって、世界にとって俺達の幸せなどちっぽけなものだ。でも、それは俺達3人にとっては世界の感覚とは違って、とても、とてもただひたすらに大きな幸せだった。

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第六話 希望

「喉から手が出るほど欲しい」 笛の音が体育館に残響している。ボールはまだ空中に。ボールはもう少しでリングに入る。そして、リングに沿って一周、二周と回って赤いリングに吸い込まれていった。歓声が沸きあがる。思わず俺も叫んでしまう。雄叫びのよう、他にも称賛と聞こえる声もあった。 とにかく、今は“八五ー八六”でリードしている。みんなで掴み取った一点、絶対に守らなければいけないと思った。ベンチに戻ると、まだ歓声で賑わっていた。そして、大野さんはフリースローを決めた俺のことを褒めてくれた。痛みからか少し顔が腫れ、赤くなっていた。興奮もあったのかもしれない。 第四クウォーターが始まる。さっきのような気の重さは全くなかった。しかし、なんでか俺は凄く緊張していて、胸が高鳴った。 (この一点は絶対守り抜く) 次回 第七話 仲間

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第五話 連携

「手がリングに届く瞬間は…」 ゴール下で待っていた川内くんは、その跳躍力と長身を活かしてカウンター速攻に出た。相手も想定内だったらしく、ダンクをしようとしている。俺は並走している。相手が全員、川内くんのドリブルをブロックすることに夢中だ。そのブロックを避けている複雑な姿勢の中、俺にパスが飛んできた。体育館のライトが目に入る。眩しい。それでもなんとかボールを受け取った俺は、考えるより前に体がドリブルを始めていた。 レイアップの体制に入って放った放物線はリングから大きく外れていた。その目的は、彼だ。川内くんだ。しっかりゴール下まで運んだボールを、引き付けた後にスリーポイントラインで待っている川内くんへパスをする。お返しだ。 放物線を描いているボールは、未だ空を舞っている。笛がなった。第三クウォーター終了だ。 次回 第六話 希望

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第四話 速い

「この違和感はなんだろう…」 相手のチームも三年を揃えているようで、試合スピードが異常に速くて食らいつくので精一杯だ。だが、それは相手も同じこと。相手はまだ俺が半分コートを走ったくらいで、スリーポイントシュートの体制に入っていた。今は二点差でリード中。このシュートを決められると逆転される。まだ第三クウォーターだから、最悪でも逆転は可能だ。だが決められたくないのは確かである。なんとか追いつきたいのだが、相手がボールを離すのが先になる。 届かない。 俺はその時、相手選手しか見れてなかったらしい。バスケットボールはチームスポーツだということを唐突に思い出した。そう、いたのだ。ゴール下でリバウンドへと準備する川内くんが。 そして、相手のスリーポイントシュートがリングへ入った。 こっちにも“切り札”がある! 次回 第五話 届け

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第三話 惡戦苦闘

「おい、大輝、行け。」 そう聞こえたのは、大野さんが負傷して、復帰のめどが立っていない時だった。同級生からも応援の声があった。コートに入ろうとした瞬間に足がすくんだ。つい、ふと後ろをむくと、頼んだ、と言わんばかりの顔で俺を見つめる大野さんと、グッドマークを手で作る監督が見えている。もうやるしかない、という気持ちに後押しされて、コートに一歩踏み入った。相手のファウルによるフリースローが俺に託されて、一瞬で緊張が最高潮に達する。カチカチになった膝を少し曲げて打ったシュートは綺麗な放物線を描いてネットの音を立て、にリングへと吸い込まれた。この時の開放感はえげつなくて、心臓が飛び出るほどの緊張を背負っていた俺はそのカシャ、という入った音に気持ちよさを覚えた。 喜ぶ暇はなく、相手のドリブルが始まっていた。 すでに、相手がスリーポイントシュートの体制に入っていた。 次回 第四話 速い

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第二話 焦り

「よろしくお願いしますっ!」 そう声が響いて試合が始まった。今日は山梨県大会の決勝。もう敗北が決定したチームや、他の県大会で見事優勝を収めて地方大会が確定しているチームの偵察部隊が来ていた。俺はその時中二で、先輩(中三)しか抱えられない“この試合が中学最後の試合かもしれない”という緊張を背負った中でコートに立っている先輩五人を見ていることしか出来なかった。 だが、問題はこの後だ。 相手チームの選手によったファウルで先輩の一人、大野さんが怪我してしまい復帰の見込みも見えなかった。だから、俺たち中二のうち、誰が行くのか気になっていた。あいにく中三は五人しかいないのだ。そして誰がコートに立つのかが告げられた。 「おい、大輝、行け。」 俺の名前だった。 次回 第三話 惡戦苦闘

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第一話 練習

「今年の目標は、関東制覇だ。」 今日もこの学校の体育館ではバスケットボールの弾む音とシューズの摩擦音が響いていた。俺はこの音に愛着を持っていて、いつも通りだと思っていた。 山梨の山の方にあるこの学校は、あまり人が居なくて、バスケ部の部員も新部員含め九人。マネージャーもスコア等の一人のみだ。チームの目標は、“関東制覇”である。東京や神奈川がいるのに無謀かと思うかもしれないが、このチームはかなり少数精鋭だと俺の中では思っている。県の中でもトップ三にはしっかり毎年入っていて、しっかり関東でも通じる実力だ。そして、このチームは面白いことに、全国制覇を全く見ていないのだ。普通のチームなら、全国制覇を目標に日々打ち込むだろう。それなのに、ここは違う。何故か全国制覇を目指していない。多分、それは自分たちの実力を思い知っているからに違いない。 去年の夏、俺たちは熱く燃えていた。 次回 第二話 焦り

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