Zeruel
28 件の小説#12
「なんの真似だ⁈」 目を手で覆い兵士は叫ぶ。 どうやら剣が現れた時の光で目がやられたらしい。アルトは瞬時に判断した。 自然と体は流れるように答えた。剣先を床面ギリギリに斜め下に向けて構え、右足を半歩引き半身で構える。思考が冷える。 一つ大きく息を吸い、アルトは半歩下げていた右足を前に踏み込んだ。構えた時と同じように、流れるように体が動いた。 床面から右上に振り上げられた剣は兵士の左腕を付け根から跳ね飛ばした。 そのままの勢いで右足を軸に体を捻り一回転。 今度は水平に振られた剣が兵士の首を刎ねた。 兵士は声の発する間も与えられることはなかった。溢れ出る兵士の血が足元を濡らし、あっという間に血溜まりが作られる。 それまで一瞬硬直していた兵士の体は、膝から崩れるように倒れた。アルトの服に最後の抵抗というには弱々しい血の跡を残し、完全に兵士は息絶えた。 初めて人を殺した、その感覚がアルトを包み込む。思考は変わらず冷え、目の前から色が消える。アルトの手のひらには人の皮膚を切り裂く感覚が色濃く残っていた。それは怖気立つような感覚であるとともにどこから懐かしさを感じさせる感覚でもあった。 前に目を向ける。目に入るのは家族同然の仲間と、愛した者の跳ね飛ばされた首。しかしアルトの目は動じることなく、それをただ捉え続けた。瞳は暗く闇を宿し、またその眼はこれからの道を見失った迷子の子供のような眼でもあった。 ふと腰に目をやればいつのまにか腰に鞘がつけられていた。仕舞えばするっと剱はさやに収まった。剱のガードの中央に嵌め込まれた紅い魔石と思しき玉はほのかに熱を放ち輝いていた。 そのときふと、階上から足音がしたのをアルトの敏感な耳はとらえた。くぐもった兵士たちの声も聞こえる。できるだけ遭遇しないように、アルトは外に出ることにした。ちょうど外に出るための隠し戸がこの地下室にはある。アルトはそこに体を向け、重い足を引き摺りながら外への道を歩きはじめた。
窓ー清き色ー
黒き窓に映ろうは 映えることなき黒き空 見える全てを黒が呑み 我が身一つが遺される 赤き窓に映ろうは 真紅に染まりし我が身のみ 手に取るもの全てが鈍く輝き やがて真紅への道開かれる 青き窓に映ろうは 藍色散りばむ花の園 どれだけ愛を育てようとも やがて全ては捨てられる 白き窓に映ろうは やつれ細れた我が身のみ どれほど激しく呼ぼうとも 聞かれることなき我が叫び 清き窓に映ろうは 私の望みし安らぎと 手を取る愛する親の顔 ただ欲しかった愛情と 痛みと恐怖の連続が 私の根に深く刻まれ ただ悲しみと後悔が 過ち指摘し叫び続ける 私はどうすれば良かったのだろうが 正解はどこにある 教えてくれ 君たちの目には なにが映ろう?
淵の後
くらいくらい夜の道 相対するはもう一人の自分 どこまでできるか どこまでやれるか どこまでなら死なないか 思考は暗く沈んでいき やがて死の淵へと舞い降りる まぶしいまぶしい昼の道 相対するはまだ見ぬ他人 笑顔をつくれ ながれを汲み取れ 空気を読めねば堕ちるのみ 周りは明るいはずなのに 思考は止まらず繰り返し やがて死の淵へと舞い降りる 等しく平らにと謳いつつ 世の不条理から目を背け 助けを求める声はただ 遠く響いてこだまする 世界は変わらず明るいが 時はとまらず変わりゆく 流れは留まることいざ知らず やがて死の淵へと舞い降りる 手にできぬものを憂いても いくら待とうと足掻こうと それを大人たちが邪魔をする 周りは止まらず歩きゆき 我が身一つが残されて 流れ一つに身を任せ ゆらゆら漂う陸の果て つかれた想いは留まり続け やがて死の淵から一つ踏む
#11
次々に自分の記憶ではない映像が流れ込んでくる。しかしそれははっきりと馴染み、アルトの記憶ととけて結びつき合う。 この記憶はある時は荒野に、ある時は草原に、ある時は高く険しい山に、ある時は戦野に飛んだ。 しかし変わらず同じ剣−炎を模したかのようなガードの中央、紅く鈍く輝く魔石がはめ込まれている、両刃の剣だった−を携えていた。 瞬く間に記憶が駆け抜ける。もしくはアルトが記憶の中を駆け抜けているのかもしれない。しかしそのうち記憶のスピードが遅くなり、黒髪の女性が多く映るようになった。 笑顔を向けるその顔はまごうことなき。 「……リサ…?」 黒髪だったがアルトは確信した。リサは手を前に伸ばし、アルトに触れようとした。 こちらに差し伸べられた手を取ろうとアルトが手を伸ばした刹那。 戦野に場面が切り替わり、目を覆いたくなる光景が飛び込んできた。 あたりは血の海。転がっている死体は一体味方だったものなのかそれとも刃を切り結んだ敵のものだったのか判別がつかなかった。 見渡す限り死…死…死…。 その目線の先、アルトの目を釘付けにするものがそこに立っていた。 ゆらりとこちらに近づ苦影があった。 血に汚れた黒髪をだらりと垂らし、白い服は紅く染まり、血走った眼光は鈍い光を殺意とともに湛えていた。 剣を構える記憶の中の自分の手は震えていて、しかしそれは恐怖にではなく悲しみからなのだとアルトは理解した。 ソルトレイア帝国の滅亡。 それは目の前の、人々にとっては悪夢で、だけど剣をとる自らにとっては最愛の人がもたらした厄災だった。 一つ大きく息を吸って吐くと、記憶の中の自分は震えを無理やり抑えた。 過去との決別を意味するかのようにゆらりと無機質に、しかし美しく構えられた剣は、次の瞬間瞬きもする間もなくリサの喉元を抉った。 「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ‼︎」 叫んでいるのが自分だとアルトはすぐに気づけなかった。 光の柱を前に立ち尽くし、最愛を手にかけたその瞬間を噛み締めアルトは叫んでいた。 息が切れて叫ぶことができなくなった。 それでも無音の絶叫を放ち続けた。 何をするべきか身体に染みついてしまった記憶が教えてくれた。 光の柱に手を伸ばし、一歩前に進む。 そのまま光に手を突っ込むと、アルトは中心にある棒らしいものを思い切り握りしめた。 刹那、光はほどけ無数の線となった。 光の中から紅い炎を模したガードとボロボロの布が巻かれた持ち手が現れた。その中心にはガードよりも真紅に染まった魔石が輝いていた。 光がガードの先に収束し剣の形をとる。そのまま光が輝きを失ったかと思うとそこには立派な剣身が現れていた。 それは記憶で見た通りの、ソルトレイア帝国の滅亡の元凶を殺した、あの剣であった。
#10
扉を潜るとひんやりとした冷気がアルトを包んだ。地下室への道は長く、灯りもないので真っ暗である。 その先に人がいるとは思えないほど静かで、その静寂にアルトは少し縮こまった。足を踏み出しても音が壁に吸い込まれて音が立たない。今だけはそれが幸いだった。 満身創痍の身体を引きずって肩で息をしながら進んでいくと明かりがちらちらと見え始めた。 扉の隙間から漏れる灯りのようだ。また少し歩くスピードをはやめる。 そのまま扉の前に着くと手をかけて引く。軋む音を残して扉は外側に開いた。 「あ…。あぁ………。」 アルトの目の前に広がっていたのは血の海だった。目を上げ血の流れの源を辿る。源はソラとレインの腹だった。ソラとレインに向き合って立っているのはアキナを殺したあの兵士で、血に塗れた剣を手に、獰猛な光を目に宿していた。 周りに目を向けると、脚が斬られすでに意識のないツルキが目に入った。 「…あ………。」 アキナから託されたというのに −守れなかった。 兵士が振り向いた。 「ふむ。お前はまだ生きていたのか。しぶといな。」 そこでアルトは一つ気づいた。一人足りない。 リサがいない。 「リサは…。女の子はどこだ…?」 兵士は笑って手を振りながら答えた。 「ああ、あの金髪の少女か。こいつらを置いて逃げたぞ。」 その言葉に一瞬安堵したアルトだったが、兵士が腕を上げた瞬間絶句した。 その腕に掴まれていたのは、リサの頭だった。 アルトの表情を見て兵士はニヤッとした。 「まあ捕まえて足を切りおとしてやったらすぐに意識を失ってな。面白みがなくなったから首を切り落としてガキどもに見せてやった。面白かったぞ?ガキどもは生首見た瞬間絶叫して立ち向かってきたぞ。」 兵士はニヤついたまま両手を振り上げる。リサの金髪が揺れた。 「まあ全員この有様だがな。弱いくせに天下のドラグニルに立ち向かおうなんてするからだな。 まあ逃げたところで…。」 アルトの鼻先に顔を近づけ囁くように言う。 「…必ず殺してやったんだけどな?」 アルトは硬直した。 「あ…あぁ…ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ‼︎」 頭が真っ白になった。 ただ叫ぶことしかできなかった。 目の前の兵士の形をした虐殺者をただ苦しめて殺したかった。 同じ苦しみ、それ以上の苦しみを与えて命乞いをさせてやりたかった。 しかしアルトに力はなかった。行き場のない感情の奔流が絶叫となってアルトの口から流れ出た。 −力が…欲しい…! 大事なものを守れるくらいの、目の前の兵士を殺せるくらいの、もう二度とこんな気持ちを味合わないための、力が。 「うるさいなぁ、黙らせてやろう。」 兵士が一歩近づいてきた。 そのとき突如目の前に光の柱が現れた。 眩く輝くそれは兵士とアルトの間に立ち、兵士がそれ以上歩を進めるのを拒んだ。 アルトの視界が暗転し瞬時、別のシーンが流れ込んだ。
#9
「うあああああああああああ‼︎」 アルトは絶叫にも似た雄叫びを上げながら兵士へと突進した。 兵士はアルトを待ち構えるかのように左足を半歩退かせて半身になった。 アキナが引き止める声が後ろから聞こえたがあえてアルトは聞かなかったことにして、そのまま兵士へと殴りかかった。 拳は硬い鎧に弾かれ、代わりに右頬に強烈な衝撃が走る。そのまま身体が宙に舞い、壁に叩きつけられる衝撃が襲う。すぐその後に壁が崩れた。 壁の破片に埋もれたアルトを一瞥し、兵士はアキナの方に歩を進める。 「おい、そこのばあさん。情報をくれたら楽にしてやるから大人しく答えろ。いいな?」 アキナは兵士を見つめ返した。 それを肯定と受け取ったのか兵士は口を開く。 「聖杯の器はどこか知っているか?」 −聖杯の器?それのために村人を皆殺しにしたっていうのか? アキナはアルトのそんな静かな怒りをよそに答える。 その顔には笑みと少しの恐怖が伺えた。 「知ってはいるが、お前如きに教えてやるものか。返事はこれだよ。クソ喰らえ。」 兵士は舌打ちすると。 「ならばいい。死ね。」 腰につけていた剣を瞬時に抜き去り、アキナの首を刎ねた。 そして転がった頭に手をあてがうとなにやらぼそぼそと呟き始めた。 「あれか。地下室にいるな。」 そんな一言を残すと兵士はアルトには見向きもせずに歩いていった。 「グッ…。」 力を少しでも入れると体に激痛が走る。 腹に鈍く熱い痛みと骨が突き刺さっている確かな感触があった。内臓が少し潰れたようだ。骨も数本ひどい折れ方をしている。自分の腹から流れる血を少し見やり、アルトは間近に死を感じた。アキナが目の前で死んだというのにアルトはひどく冷静だった。 ふと、諦めに染まったアルトの思考の曇りを晴らすように、アキナの言葉が脳裏をよぎる。 『下の子たちは地下にかくまってる。』 本来であれば一人で赤子のまま寒空の下野垂れ死ぬところを救われ、新しい家族をくれた。 そのアキナさんの恩に報いるとともに、血のつながりはないが誰よりも親しい家族を守るために。 −俺が、守らないと。 軋み悲鳴を上げる身体を壁に手をついて無理矢理立ち上げる。無理矢理足を前に出し一歩一歩着実に歩を進める。 兵士はすでに下に向かった。足取りから地下室の位置は把握済みのようだ。急がなければ兵士に追いつくことは難しいだろう。 階段を降りようとしたら、自らの血で足を滑らし階段を転げ落ちた。 すごい音がしてしまったが兵士は寄っては来なかった。瓦礫が崩れる音だと判断したのだろう。 地下室の扉の前に着くと、扉が少し空いてるのが見えた。鍵は壊されていて残骸が床に転がっている。 少し焦りアルトは痛む身体を叱りつけて歩くスピードをあげた。
#8
紅の水たまりに足を踏み入れる。 アキナの方へアルトは足を進めた。 信じられずにゆっくりと。 「アキナ…さん…?」 返事は、ない。 よく見ると腹から下が岩の下敷きになりところどころに生々しい肉の破片と内臓のかけらが飛び散っていた。 途端、アルトはうずくまる。 「ッ…………!」 吐き気を堪えることができずうずくまったまま吐いてしまった。 −頭がクラクラして眩暈がする…。 目の前の、綺麗に残ったアキナの顔を見つめる。 育ての親だった、アルトにとっては本当の親に等しい人。 何か困れば相談し、アルトが悪いことをすれば叱って正しい方へと導いてくれて、色々なことを教えてくれた人。 そしてなにより、アルトの命を救ってくれた人。 それの残骸を目の前に、アルトはただうずくまることしかできなかった。 外から大きな翼が空を切る音が聞こえ、やがて階下から足音が聞こえた。 −ドラグニルが、殺し損ねた村人達を直接殺しに来たのか。 直感的に理解しつつもそこから動くことはできなかった。 村から少し距離のある教会にドラグニルが来たということは村はすでに制圧済みだろう。それは村人たちがすでにドラグニルの手にかかっていることを示していた。 それに加え、ドラグニルは精鋭揃いである。アルトが太刀打ちできる相手ではない。 足音がアルトに近づく。 アキナに手を伸ばし、その頭を抱きしめる。 その時、アキナの目がうっすらと開いた。 「アキナさん⁈」 必死に呼びかけるとアキナの口が少し動く。息が漏れるのと同時に微細な声がアルトの耳に届く。 「アル…ト…かい…?」 そよ風が通り抜けるような、か細い声だった。 アルトが頷くとアキナは続ける。 「よく…お聞き…。下の…子た…ち…は…地下に…かくまっ…て…る。たすけて…おやり…。」 「あ…アキナさんは…?どうすればいい…?」 助からないのを頭の芯ではわかっていても、信じたくはなかった。 「助けられるよ…!村に治癒師がいるから…!」 「村のひ…とは…もう…助…か…らん…よ。」 首を振りながらアルトは涙を堪え、言葉を発しようとした。その時。 「手を挙げて降伏しろ!」 後ろから怒号が飛んできた。 振り返れば、鎧に身を包んだ背の高い影があった。 胸の中央には帝国のエンブレムが壁にあいた穴からさす陽光に煌めき、顔を覆う金属の隙間から覗く眼光は誇りに輝いていた。 彼らから見たアルトたちは、自らの地位や誇りを高める礎でしかないのだと、直感的にアルトは感じ取った。 −こんな奴らに、俺らは…!
#7
村の方を振り返ってみても、鬱蒼とした森が見返すばかりだ。 アルトは村に向け走り出した。 森を抜けると空を覆う枝がなくなり透き通る青色がよく見える。 しかし、いつもなら雲しかない空には鈍色の点がポツポツ浮いていた。 目を凝らしてみるとそれは− 「竜…?ドラグーン?」 噂にだけ聞いていた、帝都の竜騎士団、ドラグニル。数多の空を舞うワイバーンを駆り、圧倒的魔力で相手を魔法によって殲滅する。剣術も優れており帝国では太刀打ちできる相手などいないほど強い集団である。 しかし帝国最強の集団であるから、こんな辺境にあるこぢんまりとした村に訪れるはずもないのだ。 ふと、点が動いた。目を凝らすと、それぞれ両手を空に向けて振り上げたように見えた。 刹那、昼間だというのに空が光で塗りつぶされる。光源が明るすぎるせいで空の青ですらくすんで見える。 それは− 「ま…魔法陣…⁈」 一般的に魔法を放つには魔法陣というものを作る必要がある。魔法を出力するためには、魔力を練り魔法を形作る工程が必要なのだが、その魔力を練るための土台、いわば作業台のような役割を魔法陣は果たす。出力する魔法が大きければ大きいほど当然練る魔力量も多くなるので魔法陣は必然巨大化する。 魔法陣は簡単に出力できる魔力の線で織りなされるため淡く発光するのだが昼間の青を塗りつぶすほどの光は通常発しない。 それほどこの魔法が規格外な大きさ、威力ということだ。 巨大な魔力が動く気配。すぐ後に魔法陣の表面に形成される炎を纏った岩石群。それらが向く先は。 気づいてアルトは絶句した。 そして瞬時に駆け出した。 「ッ………!間に合え…!」 当然間に合うはずがなかった。 村に帰り着いた頃には、あたりは一面クレーターだらけで焦土と化していた。 しかしアルトは脇目も振らず教会に駆け出す。 アキナは、ツルギは、ソラは、レインは。 リサは− 自然と走る速さが上がる。 − 息が切れてきた。体力もそろそろ限界だ。今すぐ倒れ込んでしまいたい。 そんな考えを押し込みひたすらスピードを上げる。 教会が徐々に見えてくる。 かろうじて形を保っている教会は、しかし岩石の一つが当たったらしい。風穴があき中が見えるところが1箇所あった。 「リサ!アキナさん!」 大声で呼びかけても返事はない。 アルトは教会に駆け込み走り回って名前を呼んだ。 やはり返事はなかった。 やがて風穴があいた壁のところまで来た。壁を貫通した大きな岩が廊下に居座っている。 それの下敷きになっていたのは。 「アキナさん!」 アルトは心のどこかで覚悟していたはずなのに頭が真っ白になった。
光、そして君へ
数多の光が流れる 幾筋の線を描きながら直線的に、時に揺れ、時に屈折し、時に歪みながら光は流れる やがて光は集い、折り重なり、一つの点へと向かい集約していく 光は加速し折り重なり、しかし、点の中に留まり続ける 点に圧倒的重力が瞬時に生じて周りの塵を集める 光の熱により固まった塵は融解し互いに混ざり合う 光と溶け、塵は熱を持ち、光を放つ こうして星の核が生まれた 塵が重力に惹かれ核へと集う 渦を巻き青いすじを残滓のように残して折り重なり膜を作る 幾重にもかなったそれはやがて光の中心から遠く重なり続ける 固まった塵は星の大地となった 大地が剥がれ落ちる 細かく砕かれ、再び塵へと戻る 星は小さく細かく砕かれていく やがて赤熱した塵が現れる しかしそれは当初星が生まれた時に比べ冷めて明るさが落ちている 赤熱した塵はまとまりをなくし紅い破片がこぼれ落ちていく やがて光が現れる 点に集中していたそれはまとまりをなくし、光のすじがほどけていく 紅い隙間から光は伸び出て、当初より数が少なく弱くなった光は再び虚空へと飛び去っていく 光が中心から消えた瞬間、紅い破片たちは途端に光を失い細かく砕け虚空へ漂いはじめる 再び集まるであろう光を待ち望み 今日も漂い続ける 問おう 君は光なのか それとも塵なのか 光に集い、集まった塵のままなのか それとも、光すら集う中心の点であるのか 君はどうありたいか
#6
間も無く昼飯時というのに鬱蒼と生い茂る草や木々が陽の光を遮って森の中は暗い。風がどこからともなく生まれてそのままどこかへ走り去っていく。その微弱な風を顔で感じアルトは目を細めた。 今日の仕事は木こりだ。そろそろ暖を取るための木材が切れそうだから薪を集めなければならない。 森には魔獣が生物が棲みついている。そのため村人は進んで足を踏み入れることをしない。なので当然人の通る道などなく背の高い草が生い茂るばかりだった。 魔獣というのはそこまで数は多くないが、空気中の魔素を取り込み成長する特殊な生物である。種類によっては取り込んだ魔素を体内で魔力に変換して魔法を放つ種もいるという。この森にはそこまでの上位種はいないが、下位種でも身体能力をその魔力によって底上げできる。なので普通の生物よりも高い身体能力を誇り、相対した人間は装備がなければ太刀打ちなどできない。唯一、数が少ないのだけが救いである。 本当は人がついていないと子供は森には踏み入れてはいけないのだがアルトは運動神経が良く、その上人手の不足している孤児院では大人をつけることができない。なので現在アルトは一人で薪を集めている。 背の高い草をかき分けて進む。その先には少し開けた風通しの良い場所がある。適度に陽光がさし、木漏れ日が心地いい場所だ。そこで昼食をとってその後少し薪を集めてから帰る予定だ。 道中少し珍しい薬草を見つけてそれをついでに回収してから目的地に着いた。 開けているといってもそこまで広くはない。 背の高い草はそこだけ生えておらず代わりにそこにはコケや背の低い草たちが群生していた。 空き地の隅には腐っている大きな倒木があり、虫たちやコケ、キノコなどの棲家となっている。 そこだけまるで別の空間のように見えるのは周りが鬱蒼とした木々に囲まれているからだろう。おまけに上まで葉が伸びて適度に陽光を防いでくれる。そのおかげで空き地はまるで秘密基地のような様相を呈している。 コケの上に座りアルトは昼飯の入った包みをポーチから取り出す。 このポーチはその見た目からは想像もできない容量がある。マジックアイテムというらしくアキナが所持していたものだ。何故こんな高価なものをアキナが持っていたのかアルトは知らないが危ないものではないのでありがたく借りさせてもらっている。 足の上にご飯を広げ蓋を開けると、中は昨日の魚の干したものとおにぎりが入っていた。 魚の干物は、アキナが魔法を使って切り身から水分を奪って作っている。水と一緒に旨みが逃げることがないので普通の干物より味が濃い。なのでおにぎりがちょうど良いクッションとなって非常に相性が良い。 あっという間に食べ終わると、ところどころに残る米粒を近くに寄ってきたトカゲに投げてやる。トカゲはパッとそれを取って茂みに消えていった。 「さてと…。」 アルトが腰を上げた瞬間、村の方から大きな爆発音がした。