ココロナシ

19 件の小説
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ココロナシ

19歳です。よろしくお願いします。 あたたかなコメント励みになっております。ありがとうございます! フォロバ100

テーマ

今、私はテーマを探している。 どれもしっくりこない。 たぶん、私が書こうとしているものは まだ小説の形をしていない。 どちらかというと、生活の断片の形をしている。 洗濯物の湿り気や、夜中に冷めたマグカップ、 理由もなく閉じられたブラウザのタブ。 創作ノートを開くと、 心のカプセルを開けたみたいに、 様々な感情が押し付けられる。 喜びでも悲しみでもなく、 ただ置き場を失ったままの感情たち。 どれも完成していない物語だ。 始まる準備だけを整えたまま、 誰にも呼ばれず、 それでも消えもしない。 私はそれらに名前をつけない。 テーマと呼ばない。 意味を与えない。 ただ、今日もノートを閉じる前に、 ここに「まだある」という印だけを残す。 物語にならなかったものが、 確かに生活の中にあったことだけを、 忘れないために。

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静かなる独白

私の文章は、誰にも読まれていない。 いいねも感想もない。 けれど私は、書き終えた瞬間にだけ、 世界が一秒止まるのを知っている。 その一秒のために、 私は今日も誰にも見せない文章を書く。 いつか誰かの人生に、 そっと触れることを願いながら。 読み終えた瞬間に、そっと閉じたくなるような小説になるように、静かなる想いを寄せる。 それは、自分への手紙に似ているのかもしれない。

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平凡を選んだ人間だけが入れる場所

私は特別になることをやめた。 その日から、夜になると見知らぬ駅に立っている。 誰も成功していない。 でも、誰も後悔していない場所だ。 幸せを強く感じることもなければ、 かといって不幸だと呼べるほどの出来事もない。 駅に集まる人々には、共通点があった。 自分の影が、少しずつ薄くなっていることだ。 それでも彼らは、毎夜のようにここへ来る。 救いを求めるわけでもなく、 罰を欲しているわけでもない。 ただ、それぞれの居場所を確認するために。 居酒屋の暖簾をくぐると、 夢の話をする者はいなかった。 代わりに、人々は余った金で酒を頼み、 「幻想ではない夜」に乾杯する。 誰かが言った。 「平凡こそが人生だ」と。 それは主張というより、 もう何度も使われた合言葉のようだった。 私も同じように酒を飲み、 同じように平凡に酔った。 ここは、平凡を選んだ人間だけが入れる楽園だ。 夢を持つ者はいない。 何かになりたいと宣言する者もいない。 それでも、この場所は終着点ではない。 特別を諦めた人間が、 一度だけ立ち止まるための通過点にすぎない。

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夜にだけ話しかけてくる

夢を見た。 文字づくしのページが、静かにめくられていく。 ひとりの人間が小説を最後まで書きあげ、ため息をつく。 それだけのことが、ひどく贅沢に思える夢だった。 また、夢を見た。 心理の扉が開き、誰かに寄り添うカウンセラーがいる。 相談者の性の悩みに翻弄され、理性と共感のあいだで揺れている。 破天荒で、しかし逃げ場のない夢だった。 「さあ、あなたの夢を見せて」 その声に呼ばれるように、 俺は吸い込まれていった。 夢という、マイメッセージの虜になっていった。 平凡を選んだ自分とは相反する夢の続きが、 気になって、気になって仕方がなかった。 眠っていない時間にも、夢の断片が差し込んでくる。 現実の輪郭が、少しずつ滲んでいく。 俺の選んだ夢は、 過去に捨てた夢なのか。 それとも、未来に預けただけの夢なのか。 考えても、考えても、答えは出ない。 ただ一つ、どうしても振り払えない問いが残った。 特別にならなかった自分は、 敗者なのだろうか。 その答えが欲しくて、 俺は今日も、夢の入口に立っている。

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成し遂げられなかった夢

私は特別になることをやめた。 夢を持たず、無理をせず、静かな大学を選んだ。 それは逃避ではなく、生き延びるための判断だったはずだ。 昼の世界は穏やかで、何も起こらない。 講義、帰り道、同じ風景。 自分が透明になったような安心感がある。 けれど夜になると、違う気配が立ち上がる。 「何かを裏切った音」だけが、はっきりと聞こえる。 それは声でも音楽でもなく、選ばなかった未来の摩擦音だ。 夢の中で私は、成し遂げられなかった憧れを再現してしまう。 本当は辿り着けなかった場所。 本当は名乗れなかった名前。 そこで誰かが、あるいは過去の私が、こう囁く。 「まだ、ここにいるよ」 目覚めたあとも、その言葉は消えない。 言葉は針のように形を持ち、私の内側を静かに貫く。 痛みはあるのに、誰にも説明できない。 私は問い始める。 裏切ったのは夢だったのか。 それとも、夢を見ていた自分自身だったのか。 この物語は、答えを出さなくていい。 ただ、その「音」と「囁き」が、何から生まれたのかを書きなさい。

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読めない人のための図書館

俺は不可思議な場所に迷い込む。 空は真っ赤で、道路には薄い照明しかない。 俺をここへ誘ったのは、秘密の図書館だった。 俺は例の図書館に入ろうとして、足を止める。 引き返そうとした。 まずまず読解力のない自分に、本は読めない。 俺には、小説を書くこともできない。 「ここでは、全部読めない方が正しい」 気づくと、司書が立っていた。 いつからそこにいたのかは分からない。 司書は俺を、本の誘惑へと静かに誘う。 そこまで言うなら、と 途中で終わる本ばかりを手に取ってみた。 物語は途切れ、結末はない。 それでも、不思議と作者の感情だけは伝わってくる。 そのとき、俺は気づいた。 ――自分が書いてきた文章も、 最初から、同じ構造だったんじゃないかと。 俺は急いで、自分の名前を探す。 ……見つけた。 中身は、これまで書けなかった文章の断片だけだった。 司書は言う。 「完成してない本ほど、長く生きるんです」

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私が小説を断念したい理由

小説を断念したいと思う理由は、才能がないからでも、努力が足りないからでもない。 むしろ逆で、小説を書くと、心の奥まで触れてしまうからだと思う。 物語を書き始めると、私は世界よりも先に自分自身に向き合ってしまう。 登場人物の感情は、いつも少しだけ私に似ていて、 救えなかった選択や、言えなかった言葉が、行間から滲み出てくる。 書いている間だけ、確かに「生きている感覚」はある。 でも書き終わるたびに、何かを削り取られたように疲れてしまう。 評価されること、比べられること、 「書ける人」と「書けない自分」を何度も並べてしまうことにも、正直もう疲れた。 プロットをAIに任せて、なぞるように文章を書くとき、 それは楽でもあり、同時に空虚でもある。 “自分の物語”を書いていない感覚が、 書けば書くほど強くなっていった。 だから私は、小説をやめたい。 夢を諦めるというより、 自分をこれ以上削らないための選択として。 それでも、言葉そのものを嫌いになったわけじゃない。 物語を信じられなくなっただけで、 感じることや、考えることまで捨てたいわけではない。 小説を断念することは、終わりじゃない。 今の私にとっては、 やっと息を整えるための、ひとつの区切りなのだと思う。

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書かれなかった日

ぼんやりしていた。 朝の十時が終わる頃。 自分が何者であるのか、なぜ存在しているのか分からなくなった。 しかし文章を書き始めた瞬間だけ、世界がこちらにピントを合わせる。 書かない日は、昨日の記憶も感情も薄れていく。声が、遠のいていく。 気づけば、書くことでしか存在できない人間になっていた。 書くことが存在証明で、書かない自分はありえないもの、あるいは自分の影として生きることになった。 冷めたコーヒー。 覚えのない洗濯物。 書いていないのに減っているノートのページ。 影と呼ばれるものは、僕とは別人のように過ごしていた。 噛み合わない会話。呼ばれなくなった名前。消えた約束。 世界はただ淡々と、僕という存在を扱わなくなっていった。 書くことが増えるほど、現実での身体感覚が弱まった。 空腹も疲労も感じない。 「生きるために書く」のか、「書くために生きる」のか分からなくなる。 だから今日は、書かないことを選んだ。 影として生きることを選んだ。 世界はぼやけ、感情はほとんどない。 それでも、窓から入る光が差し込み、体温がわずかに上がる。 理由のない気だるさが、確かに残っていた。 そして再び、文章を書く。 存在証明のためではなく、消えかけた感覚を忘れないために。 それでも、書いている今だけは、確かにここにいる。

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もぬけの殻

世界がぴたりと止まった。 道行く小学生は口を開いたまま、明るい目だけを取り残している。 たっぷりと生い茂る木々は、呼吸をやめたかのようだった。 世界は本当に動きを封じられてしまったのだ。 音も、時間も。 ただし、僕の行動を除いて。 僕は世界でたった一人、動くことを許されていた。 まるで大事なものだけを置き去りにされた魂の器のように、 中身を失った殻だけが、まだ息をしている。 僕は手紙を書いた。 僕だけが知る奇妙な世界のあり方を記録し、 誰でもいいから、誰かに伝えたかった。 そして、なぜ自分だけが動けてしまうのか、 なぜこの現象が定期的に起こるのかを、 外側から解き明かしたかったのだ。 まもなく、世界の異変はぴたりと止んだ。 取り残された手で、 僕は一度も手紙を書き終えたことがない。

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とある場所

心が騒いでいた。 霧の朝、僕は踏みこんではいけない空間に足を運んでしまったからかもしれない。 怪しげに光る月明かりの反射。 空を浮遊するカラスのざわめく鳴き声。 忘れられた土地の教会のような建物。 そこは、街の外れにある、利用者の少ない図書館だった。中に専門書はなく、製本された日記だけが並んでいる。共通していたことは著者名もなく、年代も曖昧で、すべて一人称で語られていたということだ。 一度に読めるのはせいぜい1日分、本を読むのが苦手になってから、「物語」ではなく「生活の断片」だけを求めてこの場所に通っている。 他人の人生は、起承転結のある物語よりも、今日眠れなかった、何も感じなかった、そういう一行の方が理解できる。途中から意味が入ってこなくなっても,それでも体が呼応するように、ページをめくってしまう。 他人の人生なのに、既視感があった。読むほどに自分の生活と手触りがズレていく。他人の日記を読んでいるのか、自分が書かなかった日々を読んでいるのか、分からなくなっていく。…… 最後のページには、こう書かれている。 今日は、誰かに読まれることを前提に、日記を書いた。 それが自分なのかどうか、確かめる方法はない。

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