大海の柴犬
13 件の小説背の低い私の彼氏
私の彼氏は私より背が低い。別に身長がどうのこうのっていうわけではないけれど、時々虚しくなる。でも低身長が悪いわけではない。むしろ可愛い。床に座っているとぬいぐるみみたいで頭ポンポンしたくなるし、いっつも上目遣いでキュン死寸前にさせてくる。本当は私がこうなりたい。そう思ってもなれないからこそ憧れるんだろう。そんなことを思っていると君とはぐれちゃったみたい。背が高い私はまた今日も君を見つけようと思う。
背の高い僕の彼女
僕の彼女は僕より背が高い。別に身長がどうのこうのっていうわけではないけれど、時々悲しくなる。でも高身長が悪いわけではない。むしろかっこいい。棚の一番上に平気で手が届いたり、一緒にどこかに出かけてもしはぐれてしまっても、すぐに見つけてくれる。本当は僕がこうなりたい。そう思ってもなれないからこそ憧れるんだろう。そんなことを思っていると君とはぐれちゃったみたいだ。背が低い僕はまた今日も君に見つけてもらおうと思う。
黄昏よりの使者
“何事だ”周りには誰もおらず、焦りと孤独が余計に自分の思考を遅らせる。殴られたところまでは覚えている。しかし、その後のことが全くといっていいほど覚えがない。自分は悟った。“もしかしたら自分の深層に眠っていた本能か。自分が無意識でやってしまったのでは…”全て辻褄が合ってしまった。そうだと分かるとどことなくやるせない感情が波のように自分を飲み込んだ。“後悔”の二文字が頭を何度もよぎる。消えないと分かっているにも関わらず。
黄昏よりの使者
そうは言いつつも、武器を持った相手数十人にはこの銃では勝てない、と悟った自分は大人しく捕まってやることにした。“ようやくですね”微かに聞こえたその言葉に、一種の動揺をおぼえた。“何故だろうか”そう考えても、一向に分かる気配はない。そう思っていると、突然、眼前が漆黒に包まれた。“殴られた”一瞬で状況を理解した。が、失神という名の誘惑には勝てっこなかった。かなり経って目を覚ますと、目の前には死体の山が出来上がっていた。
黄昏よりの使者
それにしても変だなと思ったのも束の間、街風の街の武装している住民に取り囲まれてしまっていることに気がついた。「何の用だよ」声を荒げて問いかける。「貴様を捕らえさせてもらう」震える声が返ってきた。自分は何のことを言っているかも、何故こんな事を言われているのかも皆目見当もつかなかった。「こんなことをして、ただで済むと思ってんのか」先程よりも更に口調が荒がった。
黄昏よりの使者
「やつが戻ってくるまでに完成させるぞ。いいな」自分以外にも奴らに怯えている人もいるのだと思って勢いよく扉を開けた。部屋の中には男と女が二人ずつ居るのが見えた。「帰る場所がわからなくなったので助けてほしいのだが…」言いながら彼らを見ると、息を殺しているからなのか、どんどん青ざめていくのが見てとれた。「気分でも悪いのか」そう聞くが、返答などは静寂が教えてくれた。「邪魔して悪かった」そう言い残し、そこを立ち去った。自分は唯一かもしれない頼みの綱を自力で引き千切ってしまった。
黄昏よりの使者
少し散策して気づいたが、街風の街には人影が見当たらない。それどころか、家以外の建物も無さそうである。“おかしい”そう思った自分は、もう少しだけ闊歩してみることにした。歩き出してどれくらい経っただろうか。足が棒になるのを力一杯止めながら頼りになる人を探した。限界が近づいてきて立ち止まる。すると、一軒の裏手に小さな文字で“37564”と書かれた小屋のような建物が見えた。藁にもすがる思いで駆け寄ると、中から話し声が聞こえた。
黄昏よりの使者
謎めいた首飾りを身につけると、砦の一角が光っているのが分かった。“さっきまでは何ともなかったのに”そう思いつつ、恐る恐る近づいた。距離が縮まるにつれ、輝きが増しているように感じた。あまりの眩さに目を閉じながら進むほか選択肢は無かった。そして気付くと、砦の中に入っていた。中に入ると、塔の周辺の広さが余計に広く感じた。“一つの街”そう言っても過言では無いほどの広さ、と言うよりむしろ“一つの街”である、と言った方が適切だと心の中で呟いた。
黄昏よりの使者
「お前は誰だ」見知らぬ影に問いかける。恐ろしいくらいの静寂が辺り一帯を包み込む。「お前は誰だ」もう一度問いかける。それでもなお、自分の声がこだまするばかり。自分の中にあった興味も徐々に薄れていったのがよく分かった。いつの間にか、自分の体は寂しさの奴隷になったように抑え込まれていた。しばらく経った頃、見知らぬ人がネックレスのようなものを手渡してきた。「くれるのか?」そう聞いても言葉はない。「貰ってもいいのか?」微かに首が縦に振れるのが分かった。
黄昏よりの使者
焦りと怒りが交錯する。消耗し切った体を空の赤が痛切に温める。塔の周りはおおよそ10メートルはあろうかというほど高い塀で囲まれている。その時ほど無力な自分を思い知らされた時はなかっただろう。冷たい石塀が背中から、火照った自分の酔いを覚ましてくれるようだった。疲弊し切った脳は思考を停止し、全てがどうでもいいと思えてしまうのだった。夢にまで見た自由がすぐそこで奪われてしまうことは、こんなにも辛くて痛いものなのかと、妄想世界で思索に耽っていた。しばらくして目を開けると、目の前には見知らぬ人がいた。