野風 隼人(ノカゼ ハヤト)

22 件の小説
Profile picture

野風 隼人(ノカゼ ハヤト)

試しにTwitterで投稿している140字小説を載せていきます。よろしく!

【140字】「取り残されたアゲート 7」

ショッピングモールを巡って、クレープ屋さんを通って。父親は幽霊になった娘と反対の道を歩いていた。それは過去を思い出すかのように。そうして再び、僕らが出会った歩行者天国に帰ってきた。川底の石みたいに、父親はそこで立ち止まる。「あぁ…」歩道から離れた、その足元には献花が置かれていた。

0
0
【140字】「取り残されたアゲート 7」

【140字】「取り残されたアゲート 6」

僕らは男の後ろをついて回った。実に幽霊らしい、うっかり呪ってしまったらどうしよう。死んだ娘とついでに他の誰かって、霊媒師も困惑するだろう。ただ、その子の父親はこれ以上必要ないくらい呪われたような顔をしている。女の子もどうしたら良いか分からないみたいで、とぼとぼと一緒に歩いていた。

2
0
【140字】「取り残されたアゲート 6」

【140字】「取り残されたアゲート 5」

その人とすれ違った瞬間、女の子の名前を呼ぶ声がした。二人で振り返ると、そこにはやつれた姿の男性が必死で周囲を見渡していた。女の子はお父さんだと驚いて声を張り上げるが、当の本人には何も届いていない。どうして自分の娘が近くにいると分かったんだろう。僕は欠けたような心でそう思った。

0
0
【140字】「取り残されたアゲート 5」

【140字】「取り残されたアゲート_4」

大通りの黄色いクレープ屋さん。ショッピングモールの人工芝。車の中で流れた音楽。 女の子は母親を探すヒントとして自分の思い出を話す。羨ましい。なにもない僕は心の中で嫉妬していた。この手を離して逃げてしまえば、この子は困るだろう。だけど離さなかった。この気持ちがバレていないと良いな。 少しずつだと読みづらいと思われますので、今度まとめて投稿いたします。

1
0
【140字】「取り残されたアゲート_4」

【140字】取り残されたアゲート3

僕らは街中を歩いた。子供が二人、だけど不審に思う人はいない。同じ世界にいるけど、僕らと他人は決定的に違うから。だから人に聞いて回ることもできない。女の子の言葉だけをヒントに僕はその子の母親を探す。簡単じゃないことが、少し面倒に思う。とは言え、他にすべきことも思い出せないんだけど。

1
0
【140字】取り残されたアゲート3

【140字】「取り残されたアゲート_2」

「ありがとうございます」 女の子は見た目の割にしっかりしていて、丁寧にお礼を言った。雑踏にその子の親らしき人はいない。お母さんとはぐれたのかな。そう尋ねると「そうなんです」とはっきり答えた。妙な感覚だ。一体いつから幽霊なんだろう。僕も良心が痛むので一緒に探してあげることにした。

1
0
【140字】「取り残されたアゲート_2」

「取り残されたアゲート_1」

歩行者天国の大型ビジョンは今日も暗いニュースを垂れ流している。暴走車による人身事故。ふうん、最近は物騒だなと他人事に思う。だって、僕はもう死んでいるんだもの。そう眺めていると、横断歩道の前で小さい女の子が一人で交差点を渡ろうとしている。とっさに僕は声をかけた。 「君も死んだの?」

2
0
「取り残されたアゲート_1」

【140字】裏返しのサファイア

手放したものがどうなったのか、考えたこともなかった。古い家電、読み終わった本、将来の夢。時間と共に捨てないといけなかったもの。断捨離、なんて聞こえが良い。振り返らないための儀式、だとしたら過去なんてそんなものなの? 唯一あるのは心残り。手放したものの行く末はどこか、知る由もない。

2
2
【140字】裏返しのサファイア

【140字】「アポフィライト」

その青年、右目の奥に魚がいた。 暗い闇の中、たまにくるりと回る青い影。触れれば指先を噛まれた。水換えは不要。餌は砂糖水。飼育するのに困らない。ある日、プールの授業で泳いだら魚が消えていた。慌ててプールを見ると、大きな魚が悠々と泳いでいる。こちらが分かった途端、魚は消えてしまった。

3
1
【140字】「アポフィライト」

ひとり、キャンドルナイト

 キャンドルの柔らかい光が網膜を焦がしている。彼のことならなんでも知ってる。一緒にいた時間がその証拠。だけど、私じゃないんだね。  息に吹かれて火が揺れる。黒い跡がじわりと広がると、夜の壁にぼんやり彼の影を感じた。本当の彼は、ここにいない。振り払う風に、火は白い煙に変わった。

3
1
ひとり、キャンドルナイト