かづき

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かづき

気ままに書いていきます!

君がため プレゼントした 金色の リングは今も 机の中に

あれは、俺が高校生の時。 当時は彼女がいた。 彼女が誕生日を迎えるということで、プレゼントをすることにした。 俺は必死に考えて、友だちに相談もして、悩んだ結果、リングをプレゼントすることにした。 なけなしのお金を使って、百貨店で金色と銀色のリングを買った。ペアリングのようにしたかったのだ。 そして、誕生日当日。彼女には銀色のリングをプレゼントした。俺は金色のリングを大切に机の中にしまった。お互いのリングが俺たちを繋いでくれると信じて疑わなかった。 結局、彼女とは別れてしまった。 好きな人ができたからと、あっさり振られてしまった。 社会人になり、一人暮らしの準備をしていた時のこと。 机の中の引き出しに、金色のリングが眠っていた。 ぼんやりとした青春の甘く苦い思い出がよみがってきた。彼女は今、銀色のリングを持っているのだろうか。いや、もう捨ててしまったに違いない…。 俺は再びリングを引き出しにしまった。あの時のなけなしのお金は、今や財布に入っている金額より少ない。同じものがあれば、すぐに買える。しかし、捨てるのはなぜか惜しかった。 いつか、心の整理がついて。完全に思い出となって。ガラクタだと思えるようになったら。 その時まで、机の中で寝かせておこう。

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気になる

ある時、ふと思うのです。 ああ、会いたいなって。 あなたは今、どこで何をしているのでしょう。 (もしかしたら、好きな人ができてたりして。) ふと気になるんです。 あなたは今でも、私のことを覚えていますか。

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親子

私には変な癖がある。 例えば、立ったままテレビを見るときがある。人の目をじっと見ながら話ができない。ひどい猫背。 これらは母親にはなく、いつも叱られていた。今では人の目をある程度は見れるし、テレビを見るときは意識して座るようにしている。猫背は治らなかった。 そして、私の家庭は歪だ。母親は私の実の父と別れ、別の男と再婚した。さらに子どもまでできた。 再婚した人は、これまでの交際相手で1番マシだったのではないかと思えた。急に怒鳴ることもないし、学費も払ってくれた。ただ、居心地が悪い。私と血のつながらないきょうだいができてからは、特に。いやでも他人だと認識させられることが増えた。 私は実の父親と最後に会ったのは小学校低学年のとき、この時はすでに離婚していて、引っ越しするのも決まっていた。 別れたあと、私は彼の存在を思い出すことはほとんどなかった。正確に言えば、思い出せなかった。名前も、背丈も、癖も。 ただ、顔は覚えていた。 私の顔が彼にそっくりだったのだ。 鏡を見れば、思い出す。私は鏡を見ないように生活していた。 そんな私に、転機が訪れた。 引き出しの中の封筒を探していたときだ。通帳を掘り当てた私は、何気なく名前を見ると。 私の旧姓と、男性の名前があった。 父親の名前だ、きっと。名前を覚えていなくても確信できた。 インターネットで本名を検索すると、SNSアカウントを発見した。アプリをダウンロードして、彼にコンタクトをとった。 返事は1週間経っても、1ヶ月経っても、返ってこなかった。 きっと家庭が他にあるんだ、そして私の存在を知られたくないに違いない。自分の至らなさに気がついた。メッセージを送ったことを後悔し始めていた。 数ヶ月が経ち、返事が返ってきた。 返事が遅れたことを詫び、私と会いたいという内容だった。とんとん拍子で話が進み、十数年ぶりに再会することとなった。 会ってみると、すでに再婚していた。子どもはいないらしく、連絡が遅くなったのもこちらを気遣ってのことだった。 思い出せる彼とは印象がかなり異なり、歳を重ねていた。何より、背が思ったより低かった。 しかし、顔は変わらなかった。 彼と近況をぽつぽつ話しながら、家にお邪魔した。奥さんは嫌な顔を一つせず、暖かく出迎えてくれた。 私はきょろきょろあたりを見渡した。 テレビにはゲーム画面が映っていた。立ちながら見ていると、彼が流行りのゲームだと説明してくれた。 「やっぱり親子だねえ。」 奥さんは口元に笑みを浮かべて言った。 彼と私が同時に奥さんの顔を見たのか、あはは、と笑った。 「すごいねえ、離れてたのに。そっくりだよ、うん。立ったまんまテレビ見るとことかさ。」 私ははっと気がついた。 同じだったのか。 知らなかった。母親には悪い癖だと言われていたから、てっきり変なところだと思っていた…。 その後も、どんなところが似ているのか、奥さんは楽しそうに話してくれた。 暖かい空間だった。 そして、強く思った。 この人たちと、親子になりたいと。

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吾輩は猫又である

吾輩は猫又である。名前はもうない。 とんと見当はつかぬが、いつの間にか暗いところでにゃーにゃー鳴いていたことは覚えている。吾輩は心細かった。飼い主の男を探して、吾輩は旅に出ることにした。 吾輩ははるか昔、役者の男に飼われていた。白粉を塗る男の姿をいつも見ていた。 吾輩はくさい化粧のにおいを嗅いでも、その男と一緒にいたかった。 お前はかわいいね、と言って頭を優しく撫でてくれたことは覚えている。 生き物はいつか死んでしまうもの。吾輩は別れたくなかったが、死に別れてしまった。 ついに死んだ後に会うことも叶わなかった。 吾輩は男を探して、ある時は着なれない洋服に身を包んだざんぎり頭の男たちの顔を見ていた。ある時は道端に落ちた新聞を踏みながら、暗い顔をした人々の後をついて行った。瓦礫がくすぶる街をかけぬけ、ラジオを聴いて泣く人々の間を縫って、ゴミだらけで人がぎゅうぎゅうに乗った電車に揺られ、駄菓子屋に集まりへんな芸をする子どもを通り過ぎ、画面を見つめる人の顔もよく見て探した。大きな音がして人々が踊り狂う場所も探した。 だが、未だに見つけられていない。 ある日、ピンクのタイルに囲まれたところに来た。水の出る機械の近くの鏡で吾輩の姿を見ると、尻尾がふたまたになっていた。 吾輩はいつの間にやら猫又というものになっていたようだ。男たちが怖い話をしているのを聞いた。吾輩は妖怪になったらしい。 吾輩は人の多く集まる駅や電車の中を見てまわった。 小さな機械をちびちび押している人々、絵の描かれた本を読んでいる人々。どの顔を見ても、あの男の顔はない。 いつになったら出会えるのか。 そう思っていた時、吾輩が見える女に出会った。どうしてだかわからないが、その女についていけば、吾輩はその男に会える気がした。足に擦り寄ると、女は吾輩を家に連れて帰ってくれた。今は女の家に住み着いている。吾輩は涼しい風の出る機械の下で、畳のにおいを嗅いでいた。吾輩はどれくらいの時間、あの男を探していたのだろう。あの男はどこで何をしているのだろう。わからない。 だが、吾輩は見つけると決めたのだ。 見つけたら、いっしょにいると決めたのだ。 吾輩は今日も外に出ようとした、だが。 今の日本は暑すぎる。今日は諦めよう。 吾輩は涼しい風が出る機械の下で、畳に寝転んだ。

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演劇部

今回は、テーマを決めてだらだら書いていきます。 自己紹介で書いていなかったのですが、中学と高校は演劇部に所属していました。 珍しい部活なので、同志がなかなかいません…。 演劇部を題材にした小説もたまーにあるので、元演劇部員がこんな部活だよーと書いていきます。 まず、演劇部はとにかく人が欲しいです! なので、入部希望者は全力で囲い込みます! 入ったらこちらのものですからね、フフフ… なので、弱小演劇部では入部オーディションなるものはありません!強いところはわからないです! 部員はみんな何かしらのヲタクです。私も、もちろんヲタクです。なんでかヲタクが集まりやすいです。 演劇部でとにかく大事なのは、体力!滑舌!発声!ここは基礎にして頂点です。なにより、恥を捨てましょう。 私は滑舌がダメダメで、体力がなかったので、努力でなんとかしました。努力が反映される部活は珍しいので、努力できる人は向いてると思います! えーオーディションしないのかよ…ってなると思うのですが、舞台をするときはオーディションしますよ!役者はオーディションしてました。台本のここからここを読んでねーと言われて、練習して臨みます。とても緊張しました…。 もちろん、役者だけでなく、スタッフになりたい方も大歓迎です!! あれ、宣伝になってしまった…。 と、いうわけで、今回はここまで。 たまにはこんな形もいいですね。

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あとがき〜神様の花嫁〜

ノベリーで初めて書き切りました。 最後の最後にテンションがおかしくなり、大変失礼致しました…。深夜テンションはダメですね。おかげさまで眠いです。 さて、あとがきで何を書くかといいますと。 この話、そんなに怖くないのでは?っておもいませんでしたか? 私は夢の内容をもとに小説を書いたのですが、夢を見ている時は怖くなかったんです。 むしろ、暖かさや胸の高鳴りを感じたのです。 え、じゃあなんでジャンルがホラーなんですかってなると思うんですけど。 ここでちょっとした考察を加えてみようと思います。 神様は可愛らしいイケメン男性でしたね、うぶな感じがいいですねえ、うへへへへ。 おっと失礼、話を戻します。 神様は花嫁を取って一人前になれる、としきりに言っていましたね。 ただ、花嫁が人間なのが気になりますね。 だって、神様同士で結婚したらいいのに、なぜ人間にするのか。 ここで二つの仮説をあげます。一つは、結婚できる神様がいなかった。仕方なく人間にした説です。もう一つは、昔から人間を花嫁にしていた説です。 どちらもあり得る話ですね。人があまり来なくなった神社に嫁ぐ神様なんていないでしょうし、死にかけの人間を見つけて時間がないから…ということもあるかもしれません。 ただ、昔から人間を花嫁にしていた場合。 ヘビは水に関連する神様だそうです。そして、中洲で夜を共にする必要があるということは。 ここからは想像ですが、川が氾濫した時に、人間の女性を生贄にして鎮めていた…なんてことも考えられます。 ご飯を作っていた小屋は、もしかして最後の晩餐をする場所だったかも…とか。 考察の余地がたくさんあっておもしろいですね!! 夢だと断片的なので、ふくらませてつながりを持たせる作業が楽しかったです。 神様にはあえて名前はつけていません。名付けて何かあっても嫌なので…夢で名前がわからなかったので、あえてそのままに。表現を変えるのが大変でした…。 夢では人の姿に化けていた「主人」でしたが、ヘビの姿が透けて見えていました。そこが若干気味が悪かったですね。私は気味が悪いなあ、と思っても、主人公はそうは思わなかったようです。優しいなあ、いいなあ、ここにいたいなあ、戻りたくないなあ…という気持ちが伝わってきました。 お家に帰りたくない描写は夢にはなかったので、どうにか捻り出しました。そして、最後の朝日のところも私の想像なので、一夜を共にした後はどうなったのかわかりません。 まあ、最終的には、幸せならOKです! と、いうわけで、長くなりましたが、ここまで読んでくださり、ありがとうございました。 また時間があれば書こうかなと思います。

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神様の花嫁4

私と彼は連れ立って外へ出た。 どれくらい時間が経ったのだろうか。外の景色は相変わらず夜のままだった。 変化したところといえば、月が満月になり、より輝きを増したところだ。夜道にもかかわらず、ライトで照らさなくても歩けるくらいの明るさだ。 「これから、どうするんですか?川の方へ行くとは聞いてますが…。」 私は彼に疑問をぶつけた。 彼は一瞬ためらったが、言いづらそうに口を開いた。 「…一夜を共にしてほしい…。」 小さい声でいい終わると、顔を背けてしまった。 「一夜を共にするって…つまり…。」 そういうこと、なんだろうか。 「初めてで…嫌なら言ってほしい…。」 恥ずかしいのか、声が震えている。 「いえ…大丈夫、です。」 平静を装って私は答えた。心の準備ができていない。 会話がそれ以上は続くことはなく、川の流れる音と足音が響く。 川沿いをずっと歩いているが、建物らしきものはない。 彼の足音が止まった。大きな中洲があり、私たちが歩いているところからは木の橋で繋がれている。中洲の中央には背丈より少し小さい岩があった。 彼は動こうとしない。見ると、驚いた顔をしている。どうしたのだろうか。 彼が急に歩き出したので、私も慌ててついていった。彼が向かった先には、二匹のヘビがいた。 「どうなっているんだ!野晒しじゃないか!」 彼は顔を赤くしながらヘビに訴えた。 「す、すみません!」 二匹のヘビは頭を垂れて謝る。 「いきなりのお話で、間に合わず…!」 「共に過ごされる場所を用意できていないのです!」 ヘビはおろおろしながら口々に話す。 彼は姿勢を屈め、手を口に添えた。 「なんとかならないのか、明日の夜にするとか…。」 彼は声をひそめて話しているが、周りが静かでこちらに聞こえてしまっている。 「主人、今日でなければいけません…。」 ヘビは申し訳なさそうに言った。 「それはそうだが…これでは明美さんが…。」 神の力でも、これはどうにもできそうにない。彼は申し訳なさそうに私のほうに歩み寄る。 「申し訳ない…用意できていると思っていたのだが、準備が間に合わず…。ほんとうに、申し訳ないが、その…岩の裏で、一夜を共にしてくれないか…。」 彼は頭を下げた。 神様に頭を下げられ、断れるはずもない。 「いえ…大丈夫です。恥ずかしいけど…一回だけ、なんですよね?」 彼は頭を上げた。 「もちろん!今日だけでかまわない。明日にでもすぐに用意させよう。」 よかった、と彼はつぶやいた。安堵しているのが表情でもわかる。 「では、一緒に来てくれるか。」 彼は私の方へ手を伸ばす。私は彼の手を取った。少し暖かく、筋張った大きな手を握る。 橋が壊れないか少し心配だったが、ぎいぎいと音がするだけで渡ることができた。 中洲へ来ると、さらさらとした砂に覆われていた。これなら寝転んでも痛くない…たぶん。 彼に誘われるがまま、岩の裏に行く。 「…ここに、座ってくれ。」 私はゆっくりと腰を下ろす。 ドキドキしてきた。 彼は私を引き寄せた。彼に心臓の音が聴かれているんじゃないかと思い、彼の上着をギュッと握った。季節は冬のはずなのに、不思議と寒くはなかった。 彼から心臓の音はしなかった。ただ、柔らかい。包み込まれるような感触がした。 彼は私の頭を支えたまま、ゆっくりと押し倒していく。 「…寒くないか?」 優しい声色だった。 「寒くないです…。」 彼と目が合った。恥ずかしさのあまり、彼の胸に顔を埋める。 「私…初めてなんです。」 「そ、そうか…。」 少しうわずった声が返ってくる。彼は腕に力をこめて、めいっぱい私を抱きしめた。 「…できるだけ、優しくする…。」 幸せだ…ほんとうに…。 花嫁になれて、幸せだ…。 朝日に包まれた山に、冬の風がかけぬける。 川が朝日を照らし、キラキラと輝いている。 川の中洲に、一人の女が寝転んでいた。 首には紐の跡が赤黒く残り、白い紐が川の中でゆらゆらとゆらめいている。白いシャツのまま彼女は中洲に打ち上げられているようだった。 冷たい川に体が浸かっているはずなのに、彼女の顔は安らかな表情で、まるで眠っているかのようだった。 彼女は寝返りを打つこともなく、肩も動くことはない。 もう二度と。

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神様の花嫁3

藤色の着物に身を包み、白髪を結いあげた女性は、ゆっくりと歩みを進めながらこちらへやってくる。 「はじめまして。母でございます。」 深々とお辞儀をする女性は、どうやら「主人」の母らしい。その証拠に、女性の目も金色の目に黒い楕円形の瞳だった。 「お邪魔してもいいかしら。」 「は、はい、どうぞ…。」 女性は履き物を脱ぐと、そろえてから部屋に入ってきた。いつの間にか座布団が用意されており、「主人」に近いところで正座した。 「あなた、お名前は?」 「明美です、相澤明美…。」 「明美さんね。ようこそ。」 また深々とお辞儀をされた私は、なんだか申し訳ない気分になった。 「どうしてお嫁さんが来ないんですか…?」 私はかねてより疑問に思っていたことを口にする。 女性はゆっくりと口を開いた。 「私の一族は、代々川を守っているの。かつては、人が来て川が氾濫しないように祈りを捧げていたものよ。ところが、最近は人が来ることも稀で…お嫁に来てくれる人もいないの。」 女性は、少し残念そうに肩を落とした。 近くに住む人が少なくなり、人が来なくなったんだろうな、と私は推測した。 「私、これからどうなるんですか…?」 私は恐る恐る質問した。 「もしあなたがお嫁に来てくださるなら、お夕飯を別の場所で一緒に食べて、川のあたりでゆっくり過ごしてもらったらいいわ。早く契りを交わして、一人前になってもらわないと…。」 「どうしてそんなに結婚を急いでいるんですか?」 「息子には、早く一人前になってもらいたいの。主人がいなくなってしまったから、息子が後を継がなければならなくなって…本当はゆっくりお相手を探したいけれど、そうもいかなくなってしまったの。ごめんなさいね、私たちの都合に巻き込んでしまって。」 「い、いえ…。」 だいたいの事情はわかった。父親が出てこないのは、いなくなってしまったから、らしい。神様というのもたいへんだな…。 「あなたのご両親は結婚に賛成されてるの?」 急に質問されて、どきりとした。 「え…いえ、言ってません…。」 女性は目を丸くしている。そんなに驚くことなのだろうか。 慌てた様子で「主人」が口を挟んだ。 「か、母さん…明美さん、こちらで説明してもいいかな?」 「はい…。」 私が先ほど言ったことをかいつまんで説明してくれる。 「そう…そうだったの。」 申し訳なさそうに女性は私を見た。あわれんでいるような視線に、私は目を合わせられなかった。 「ごめんなさいね、不躾なことを…そうね、1人寂しく逝ってしまうくらいなら、うちに来てくれたほうがいいかもしれないわね…。」 少しの間、静寂が訪れる。 初めて会った時の神様はとても怖かった。けれど、今は優しいところに惹かれている。母親も、少しズケズケくるところはあれど、礼儀正しく潔い神様だということがわかった。 なにより、赤の他人である私のことを親身になって考えてくれている。 「明美さん…。」 沈黙を破ったのは、「主人」だった。 「もう、帰る場所がないというのなら…ここにいてもらえないだろうか。無理にとは言わない。私は、明美さんがいてくれると、嬉しい…。」 顔を赤らめながら話す彼に、おもわずどきっとした。 私のことを必要としてくれて、気遣ってくれる。それだけで家より居心地が良かった。 戻ったところで、絶望しか待っていないのは目に見えていた。一度は死んだようなものなのだ。 私はゆっくりと頭を下げた。 「はい、よろしくお願いします…。」 私は神様の花嫁になることに決めた。 軒先から外に出て、案内されるがままに着いていく。 しばらく進むと、一軒の木造の平屋が見えてきた。先ほどの建物より小さく、小屋のように見える。 「ご飯は私たちと、親戚も一緒に食べるの。すでに支度ができているから、そろったら召し上がってちょうだいね。」 藤色の着物の女性は言い終わると、扉の中へ吸い込まれて行った。この人、いや、この神様はこれから私の義母となる。背筋が伸びる思いで、私は建物の中に入った。 中に入ると、室内は明るかった。入って右手に釜戸や手洗い場などの水回りがあった。 左手には二段ほど段差があり、登ると低い長机が二つ用意されていた。一つの机で10人は座れそうだ。 すでに料理が並べられており、宴会を今か今かと待っている。鍋からは湯気がたちのぼり、できたばかりだということがわかる。 先程まで人がいたような雰囲気だが、誰もいない。不思議な空間だった。 「ささ、明美さんはこちらに座ってちょうだい。」 お礼を言って、私は座布団に座った。隣には彼が座り、向かい側に義母が座る。 案内された席に座ってしばらくすると、ぞろぞろとヘビたちがやってきた。どうやら親戚らしい。茶色いヘビや深い青色のヘビなどが用意された座布団に座っていく。 全員がそろったらしい。静まり返った室内で、茶色いヘビが音頭をとる。 「この度は、ご出席いただきまして誠にありがとうございます。祝いの席ですので、たくさんお召し上がりくださいませ。」 挨拶が終わると、ヘビたちはごちそうを食べ始めた。私と彼以外に箸は用意されていない。ヘビたちは料理にかぶりつき、丸呑みしていく。義母となる神様も、藤色の着物の女性の姿から、いつの間にかヘビの姿へと変わっていた。 「これで安心できますなあ。」 深い青色のヘビが義母に話しかける。 「ほほほ。そうですねえ、ほんと…私もずっと心配しておりましたの。これでようやく一人前になれます。」 「そうですなあ。ほんとうに今宵はめでたい!」 「あとは、息子が頼り甲斐のある男になってくれたらもっといいのに。」 「ははは、そうに違いない!」 周囲は笑いに包まれる。彼は照れくさそうに目を細めた。 あちこちから会話が聞こえる。親戚が集まる席は、どことなく居心地の悪さを感じるものだったが、今日は違う。この明るい場所のせいだろうか。それとも、食事がおいしいからだろうか。 「明美さん。」 隣に座っていた彼に話しかけられる。彼は人の姿を保ったままだ。 「料理はおいしいかい?」 「はい、とってもおいしいです。」 「それはよかった。慣れないところで緊張するだろう。」 「いえ…あの、ここに人が住んでいるんですか?」 彼はきょとんとした顔になる。 「どうして?」 「さっきまで人がいたような気配がして…でも、姿が見えないから。」 「ああ。」 彼はにこやかに話し始めた。 「ここは昔人が住んでいたんだが、もういないんだ。時々ここにきては料理を作っているんだよ。」 「へえ…。」 ここに人が住んでいるわけではないが、手入れが行き届いている。今でも熱心に信仰している人がいるのだろう。 「私のことが…怖いかい?」 彼は私の方をまっすぐに見て言った。 「え…。」 「さっきは怖がらせてしまっただろう。だから、怖がっているんじゃないかと思って…。」 「いえいえ!もう怖くありません。優しい人だとわかったので…。」 そ、そうか。と彼は言って押し黙ってしまった。顔を赤らめている。ほんとうに女性慣れしていないらしい。 食事がなくなり、ヘビたちはぞろぞろと帰っていく。 「さあ、そろそろ移動しようか。」 彼に声をかけられ、私はゆっくりと立ち上がった。

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神様の花嫁2

好奇心に負けた私は、人の言葉を話すヘビの後ろについて行くことにした。落ち葉の積もった山をかき分けながら、嫁を探すヘビに会いに行く。 「お嬢さんのことについて、教えていただけませんかな。」 自己紹介を促された私は、まだ自分について何も話していないことに気づいた。 「私は…相澤明美です。22歳の、大学四年生です。」 「明美様ですか。明美様は、どのような男性が好みですかな。」 「えっと…。」 急に男性の好みを聞かれて、たじろぐ。 女子同士でこんな会話になることがよくあるが、返答に困る。男性と付き合ったことがない自分にとって、好きなタイプなどよくわからないからだ。 「優しい人…ですかね。」 これ以外に浮かばない。 「おお!それならば、我が主人にぴったりだ!」 そして、ヘビは「我が主人」のセールストークを始めた。 「我が主人は優しい方でございます。家族にはもちろん、我々にも良くしてくださいます。お付き合いは残念ながらしたことがございませんから、女性慣れはしていません。しかし、誠実な方で、我々や人を傷つけぬように気を配っておられて…。」 マシンガンのように話すヘビに、私は口を挟む隙もなかった。 気になることは山ほどある。神様の嫁になったら、どんな生活をするのか。そもそも、どこに移動しているのか。なぜ時間がないのか。そして、どんな神様なのか。 声を弾ませながら進む茶色いヘビをみていると、悪い人…いや、悪い神様ではないのかな、という気がしてくる。今のところ、ヘビが何かをしてくる気配もない。 「おお、着きましたぞ。」 いつの間にか、開けた場所に出ていた。川の近くに木造で平屋の建物がある。中は暗くてよく見えないが、古い建物だということはわかる。 少しすすけた建物に近づいて行くと、軒先のようなところに案内された。 「ささ、履き物をお脱ぎくだされ。」 靴を脱いだ私は木の床板を踏む。 ぎい…と床が軋む音がした。しばらく使われていないのだろうか、人の気配が全くない。軒先から入ってすぐにある畳の部屋に恐る恐る入ると、座布団が二つ敷いてあった。照明やランプもなく、月明かりだけが部屋を薄暗く照らしている。 「お疲れでしょう。座布団にお座りくだされ。私は主人を呼んで参ります。この部屋でしばしお待ちくだされ。」 ヘビはそう言い残すと、廊下をずい、ずいと這っていった。 辺りを見渡すと、立派な襖が見えた。何かの模様が描かれているが、暗くてよく見えない。私は真っ暗な家の中を探索するのを諦め、座布団に腰を下ろした。 川の流れる音が聞こえる。ゆっくりと時間が過ぎているように感じられ、私は体の力を少し抜いて、川の方を見た。 月が夜を照らし、川は月の光を受けて輝いている。古代にタイムスリップしたかのようだ。電気がないと、月や星はここまで輝いているのか。今まで気がつかなかった。 どれくらい時間が経っただろうか。 「明美様ー!主人が来られますぞー!」 奥の襖から、案内してくれたヘビの声が聞こえた。私は慌てて正座をすると、声が聞こえた方をじっと見た。 ゆっくりと襖が開かれ、「主人」が姿を現した。 私の背丈の2倍以上の大きさで、太さは1メートル以上ある、とぐろを巻いた黒いヘビがそこにいた。 あれが、神様…。 私は恐怖のあまり動けなくなっていた。化け物だ。私を丸呑みできてしまいそうな大きな口からは、大きな牙がのぞいている。そして、大きな目が、私をじっと見ているのだ。金色の目に、黒い楕円形の瞳。睨まれているのか、それとも私を食べるつもりなのか。 逃げたい気持ちはあるが、足がぴくりとも動かない。足どころか、体も。金縛りにあったかのように、動かすことができない。 「主人、明美様が怖がっております!どうか、人の姿に…!」 案内してくれたヘビが慌てたように、黒く大きなヘビに向かって言った。金色の目が私から外れて、茶色いヘビをじろりと見た。黒いヘビがゆっくりと口を開く。 「む?そ、そうか…。」 優しい青年の声が聞こえたかと思うと、次の瞬間には大きな黒いヘビの姿はなく、紺色の着物を着た、男性が立っていた。 「驚かせてしまったようで、すまない。」 男性は恥ずかしそうに、そして申し訳なさそうに頭をかきながら、私の元へやって来る。 私は腰が抜けてしまったのか、立つこともできない。 「あ…あ…」 蚊の鳴くような声で、なんとか声を絞り出した。 ヘビが、男性に変身したのだろうか。 男性の目が金色で黒い楕円形の瞳であるところを見ると、そう考えるしかない。信じたくはないが。 男性は心配そうな表情をしながら、私の向かいにある座布団の前に座った。 私はかちこちに固まった体を何とか動かして、座り直す。 「明美様、我が主人が驚かせてしまい、大変申し訳ございません。人に慣れておりませんので…。」 ヘビは申し訳なさそうに、私に頭を下げている。 「い、いえ…大丈夫、です。」 食べられるかと思った、という本音を押し殺し、何とか言葉を発した。 そこから、会話が続くこともなく、静寂に包まれた。 案内してくれたヘビはあかりを灯し、こちらをちらりと見やった。 あかりのおかげで、「主人」の顔が見えるようになった。 端正な顔立ちに、紺色の着物。さらさらの短髪からのぞく目は、金色に輝いている。何かを言いたげな表情でこちらをうかがっている。 茶色いヘビは「主人」に近寄ると、耳元に顔を近づけて口を開いた。 「主人、明美様に何か聞かれてはいかがですかな。」 小さな声で話しているつもりなのだろうが、部屋が静かなのでよく聞こえてしまっている。 「何を聞けばいいのかわからないのだ…。」 眉尻を下げ、顔をかく青年。 「なにか気になることを聞けばよろしいのですぞ。」 「気になること…。」 青年は顎に手を添えて、考え込んでしまった。 「これでは会話になりませんぞ…。」 ヘビは頭を垂れている。 青年は何かを思いついたのか、声を小さく漏らした。 「その、首の跡…首を括ろうとしていたようだが、どうしてだ?」 「いきなり踏み込みましたな!」 茶色いヘビは慌てたように遮った。 「いや、ほら…順序というものがございましょう。最初は、好物や世間話といったものから…。」 「あの…大丈夫です。答えられるんで…。」 私はゆっくりと話し出した。就職に失敗したこと、親に報告できなかったこと、そして死のうとしたこと。 「…そうか。」 悲しそうに顔を伏せた。拳を握った手には、ぎゅっと力がこもっている。 「あなたがお嫁さん?」 後ろから女性の声がした。 振り返ると、軒先に藤色の着物に身を包んだ上品な初老の女性が立っていた。

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神様の花嫁1

少しずつ涼しくなってきた今日この頃。きれいな月を見ることもなく、アスファルトの地面とにらめっこしながら足早に帰る。 相澤、と書かれた表札。いつの間にか、目の前に家が立ち塞がっていた。 「…ただいまー。」 形だけの挨拶をした。もちろん、答えてくれる人はいない。 ワハハ、とテレビの音が聞こえる。私は息を殺して、ゆっくりと扉を開けた。 誰とも目が合わない。父も母も会話に夢中でこちらに気がつかない。 「あら、帰ってたの、明美。」 母がようやく気がついた。ただいまくらい言いなさいよ、と刺々しい言葉を投げつけてくる。 「面接、どうだったの?」 大学4年生になってからというもの、面接がある日は必ずそう聞いてくるようになった。 ぎゅっと鞄の紐を握りしめる。私は練習した笑顔を顔に作り、お決まりのフレーズを口にする。 「うまくいったと思うよ。」 どこがどううまくいったのか、面接官にウケが良かったと思う…帰り道に考えた言い訳を並べる。 「…そう。」 一通り聞いた母は、満足したのだろう、何も言わなかった。質問されると身構えていた私は、紐を握る力を緩めた。 「大学にいい人はいないの?」 「うーん…いない、かなあ。」 曖昧に答えることしかできない私に腹が立つ。 家族の中でのここ最近のトレンドは、「婚活」だ。彼氏いない歴イコール年齢の私にとって、縁のない話だ。 「父さんの会社でも、声をかけているんだがな…」 会社で大学生の娘の彼氏がいないと愚痴っているらしい。 「この前のランチをした店で、婚活のポスターがあったわよ。女性は会費が安いみたいだから、行ってみたら?」 事あるごとに勧めてくる。1、2時間話して、好きになれるものだろうか。 「うん、考えてみるね。」 荷物を置いてくる、と言って自室に駆け込んだ。鍵のかからないこの部屋が、私が唯一1人になれる空間だ。リクルートスーツを脱ぎ捨てて、枕に顔を埋めた。 もう動けない。 幼い頃は、親の言うとおりに従えばうまくいっていた。今は指図されることもない。不安が心を埋め尽くす。 このまま消えてしまいたい。 本気でそう思うのだ。 後期の授業が終わり、足早に大学を出た。 イルミネーションが輝く街。子どもたちの笑い声。すぐそこにあるはずなのに、なぜか遠い。 両親は旅行に出かけるらしい。今日の朝、慌ただしく出て行った。年末年始をゆっくり過ごすのだという。 これから何をしよう。 ふと、何も予定がないことに気づいた。 明日から、何もないのだ。 エントリーシートを出した会社は、全て落ちた。これからどうすればいいのか、もうなにもわからない。 家に帰って、何と言えばいいのか。このまま嘘をつき続けるか?それは無理がある。かといって、真実を話せば、叱責されるだろう。それが何より恐ろしかった。 私はふらふらと店によると、ビニール紐と便箋を買った。 今しかない。このタイミングを逃せば、実行できなくなる。 ずっと考えていた、私が消える方法を。 手紙に書く内容を考えながら、私は鬱蒼とした山の中に入り込んだ。 大きな木の枝にビニール紐をぶら下げ、足元に手紙を置いた。ビニール紐を首に通して、ひたすら待つ。 意識が遠くなれば、首に体重がかかり、窒息死する。 ぼーっと近くの川を眺める。水面が月明かりを受けて、淡く光っている。きれいだ。この景色のもとで死ねるのだ、もう思い起こすことはない。 「…もし。」 遠くで男性の声が聞こえる。 「…もし、そこのお嬢さん。」 私はビニール紐を首から慌てて外した。 こんなところに人がいたのか。遠くまできたつもりだったが、見つかってしまったのか。 どう言い訳しようか、頭を働かせる。 「ここですよ、おーい。」 私は辺りを見渡した。人らしきものは見当たらない。 「おーい、ここです、ここ。」 私は目線を下にやると、足元にヘビがいた。 体調は15センチメートルほどか。茶色い皮とつぶらな瞳。赤い下がチロチロ見える。 「あ、ようやく気づかれましたか。お嬢さん、こんなところで何をなさっているのですか。」 ヘビが喋っている。 その場で固まってしまった。ついに私は黄泉の国に迷い込んでしまったのだろうか。 「お嬢さん、大丈夫ですかな?」 ヘビは首を傾けている。心配されているのだろうか。 「…あ、大丈夫です。」 これは夢なのだろうか。そう思った。しかし、首についた紐の跡の痛みが、夢であることを否定した。 「もしかして…自殺ですかな。」 私はどう答えていいのかわからなかった。 「お嬢さん。」 私が沈黙していると、ヘビは恐る恐る口を開く。 「自殺をお考えでしたら、我が主人の嫁になってくれませんか。」 考えが追いつかない。どういうことなのか理解ができない。 「…えっと…。」 嫁?つまり…結婚してほしいということだろうか。 「我が主人は、神様でございます。しかし、人間の嫁が来ず、困っていたのでございます。早く契らなければならないというのに…。」 項垂れながら、ヘビが話している。 「しかし、貴女さまが来られるのであれば、安泰でございます。いかがです?」 ヘビはつぶらな瞳で私を見つめてくる。 その眼は、期待しているように思えた。 どう答えたらいいのだろうか。 断ったら、このヘビは別の人に声をかけに行くのだろうか。しかし、時間が無さそうだ。 ここで私が断れば、このヘビはすごく困るだろうな…。 それに、どうせ死ぬのだ。もう、どうなってもいい。 私はゆっくり頷いた。 「いいですよ。」

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