ねも

16 件の小説

ねも

once upon a time

住宅地をかき分けなおも歩き続ける 川沿いから見えた空は 朝焼けなのか夕焼けなのか コバルトブルーから藍色へのグラデーション 浮かぶ肋骨のような雲 眩い光がその輪郭を克明にする 国道を行き交う車は僕らの時間を置き去りに互いの目的地へ 君は僕を振り返らずに空に見惚れてる これまでやこれからを憂うことなく 僕らは一緒になることを許されない わかりきった結末に対して互いを少しずつ預け合いながら 絶望に背中を押されながら日常を進めていくしかないのだろう 君は振り返り微笑んだ 起こり得る全てを受け入れるような表情で これから先はあくまでも今の積み重ねであることを訴えるかのように 僕はただその場しのぎの笑顔を返していた それが答えなのかわからない きっと君には届いていないのだろう けれどそうすることでしか僕は君に近づけなかった 君は優しすぎるくらいに優しかったから

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ダイヤモンドに見えたガラス細工

子供の頃にダイヤモンドを装ったガラス細工を買ってもらった。買った時はそれが本当にダイヤモンドだと思ってた。綺麗だった。 透き通る光が僕の期待に応えてくれるみたいに輝きを放っていた。 すり減った傷に気がついた時にそれがガラスだと知った。がっかりした。 本当に本物だと信じてたから。それからは、箱にしまって眺めなくなった。 あれからいくつもの時間が経つ 僕はガラスに映る自分から目を背けるようになった。本物がなんなのかはわからなくなるばかり。 けれど、あの時見たダイヤの輝きは本物だったと思う。

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Aqua

思い出を美しいように紡ぎ直すのは生きてる証拠 好きだったあの子の表情をだんだんと忘れていくのは生きてる証拠 僕はこの先どれだけ忘れて、どれだけ紡いでいくのだろう その都度かたちを変えながら 流されて出会って別れて枯れていく 身を任せ、時には抗う意思もみせながら 願わくば広がる大海の一部に 僕だけの景色を抱きながら

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Luca

遠いさざなみに導かれて 眠りに落ちていく 水平線の彼方に想いを馳せて どこかの彼らが今を笑顔でいることを祈る 今日の終わりに安堵しながらも、明日への憂鬱が無意識を埋め尽くしていく まどろみが走馬灯のような夢を手繰り寄せる 唐突な同級生が語りかけて 忘れかけた教室は鮮明に描かれる 廃墟に佇む、グランドピアノ 眼前に広がるアクアリウムにはイワシの大群 夢に夢と気づくまで、僕は取り残された景色の中にいる 涙と共に目を覚ます 何で泣いてるかもわからない 悲しいことは覚えてる 人々が脚色したストーリーに 朝は平等に訪れる 拭えきれない希望にチャンスを与えるかのように 懸命な訴えを無視するかのように 淡々としたリズムを残酷なほどに保っている 現実は情緒に絆されない 一緒くたに全部を飲み込んでいく 浅瀬から深海へ  始まりから終わりへ 始まりなんか覚えてすらいないのに 終わり方さえわからないのに 僕の心音は今は未だと呼応するように 深く深く鳴り響いている

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自由帳

何を描いてもいいらしい。 線でも文字でも、周りに知られたら恥ずかしいあんなことやこんなコトまで。 好きに描いたらいいはずなのに、いつからか、何を書いても描き直す。正解なんてないはずなのに。 汚れた気になって、すぐに次のページに。空白はあんなにたくさんあったのに。 空白が怖いんだ、どこに何を描けばいいかわからないから。間違いを取り返せると思うから。間違いなんて何一つないのに。 不意に見られた絵を褒められる。そんなに気に入ってなかったのに。自分の中での失敗を認められるのはヘンな感じだ。 言い訳までたくさん用意してたのに。 白紙はあと1ページだったから。

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月の光

僕が僕であることをどうか許してください。 限りあるいのちを生きていることを。 もっとうまく生きられたらと思う。けれどこのようにしか生きられなかったと思う。 クリスマスの空気にまみれて、真夏の情緒に身を委ね、時間を誤魔化して自分であることを忘れることでしか進んでいくことができなかった。 痛みも悲しみも全ては忘却の彼方へ。しかし、確かに残ってる。思い出の残像に、不感の日常に。 夜、ふいに空を見上げて暗闇で月の光に答えを求める。されど何も応えない。 ただ僕の、自分自身の足元を照らすだけ。 あくまで全てが僕のせいであるかのように。 そうであると信じたい。そうでないと願いたい。

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op.10

どこへ向かうのだろう。確かに言えることは、決められた譜面通りの音を奏でるだけ。アレンジをしてもいい、独壇場のソロパートもあるだろう。だけれどそれは、定められた規律をもとにあらかじめ与えられたパートにすぎない。奏者のせいか、作者のせいか。誰のせいでもなく、どうにでもできるが、誰にも触れられない。 嘆くもいい、楽しむもいい、無茶をするもいい。 答えなど初めから用意されていないのだから。 あるのは終わりだけ。その事実に恐れと安堵を感じながら一小節ずつ隠そうとしても見え隠れするエゴを携えて、自己満足を己の演奏に見出せばいい。フェルマータの余韻に微笑むことができるならそれでいい。

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雨のプラットフォーム

僕は雨が好きだ。雨は特別な時をつくってくれる。雨が作る時間には余韻がある。 僕がこの世界に居ていい理由を雨がくれる気がする。 音が、空気が、匂いが、僕を包み込んでくれる。 ただずっと降ってればいいのに。誰にも気を遣わずに、雨を嫌うものを嘲笑うかのようにただ地面に打ちつければいいのに。 それでも、雨は上がる。名残惜しさを振り切るように、爽やかな空が顔を出す。 雨上がりは決まって空が澄んでいる。淀みのない、悩みのない空が恬然と広がっている。 晴れ渡る、雨が運んでくれたそら。 雨を知らない子どもたち、ぽつぽつぽつ 雨を忘れた大人たち、ざーざーざー 誰彼構わず降ってくる、誰とも仲良く踊ってる

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テーブル

思い出すのはみんなで集まる いつも通りの夕食 週末は揚げ物が多かったきがする みんなが決まった席について 映画を見たりテレビを見たり 美味しく食べる  食卓のあたたかみがテーブルにあふれる オレンジ色の 笑みに溢れた空間にありがたみなんか感じないまま 団らんの一員として雰囲気に溶け込んでいた

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めまい

日々が重なり合って曖昧になる 昨日のことか一昨日のことか 今日のことすらままならない どこまで本当でどこから空か めまいがする 眠りにつく 夢を見る いつまで続くかわからない 暗澹の中にいる ただ雨音を聞きながら

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