傘と長靴

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傘と長靴

 自分の書いた物語を誰かと共有したいと思い始めました。  拙い文章ですが、目に留めていただけると、幸いです。

森の奥へ

目を瞑る 木々のささやきに耳を凝らす 冷たい風が容赦なく体に斬りつける あたりには自然の罠があふれる おそらく歓迎はされていない 木々は憎悪のささやきを止めない 目を開ける 森の奥へと入り込む 迷惑だと言わんばかりに地面が軋む 小さな命が容赦なく体に降り注ぐ 開けた場所にたどり着く 光のスポットライトが輝く 切り株のステージに登る ようやく木々が応えてくれる 風が心做しか優しくなる こうやって守ってきたのだろう 自分たちの生きる場所を 息を深く吸い込む 冷たい空気が喉をひりつかせる 空を見上ぐ 木々が葉吹雪を散らす 良いとは言えない天気の中 ときどき光が顔を出す それがなんだか温かくて 自然と微笑みが漏れる 名残惜しい気持ちを抑え その先へと向かった

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遁走

 ある男は走っている。  ただ、草木を駆け抜け、小川を駆け抜け、あてもなく走っている。  男は無様だった。靴を履かず、薄汚い穴だらけの靴下で、衣服ははだけ、とても近寄りたいとは思えない。ただ、男はまっすぐに前を見つめ、凛々しい顔つきをしている。まるで、自分が褒め称えられ、民衆から歓迎を受けたかのように。  この頃の悪天候とは無縁な男は、照りつける日差しと対峙しながら走っている。  息を切らさず、一定の速さで走り続ける男はある国から逃げていた。国の権力者に物申したのだ。権力者はまさか男が口答えしたことに憤った。大衆は内心男を称えたことだろう。気の短い権力者は自分を辱めた男をどうにかして捕え、殺そうと考えた。男は賢明であり、それが自分を捕らえる前に走り出した。男の十町前には使役人が四人走っている。途中で力尽き、幾人も減った。使役人も必死なのだ。何もなく帰ると、権力者に殺される。必ずや、犠牲者は出るのだ。  死に飢えた権力者は蔑まれ、地位を求めた使役人は干からびる。男はそんな国を去ることを選んだ。国境さえ超えてしまえば、国の関係者は来られない。そのことを知っている男は国境へと駆ける。ただ、あてもなく走っていた男が急な方向転換をしたせいで、使役人は先回りができなくなった。  男はまだ息が続いている。いつの間にか、使役人は追ってこなくなっていた。  国を変えようとした革命家は今もどこかで生を為しているのだろう。

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ありがとうの魔法

「ありがとう」 その一言でうれしくなる 私たちが使える魔法 「ありがとう」 それがないだけで 相手を不快にすることもできる 使うか使わないかだけで 自分と相手の心持ちが大きく変わる あなたは「ありがとう」の魔法を使いますか?

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ただの日記

 3週間くらい前、カラスに頭を突かれました。 2匹に追いかけられ、急に頭を突かれ、驚きました。  それ以来、カラスの鳴き声と羽ばたき音が怖いです。  そして今朝、きつねに追いかけ回されました。 30メートルくらい先にいたのが見え、反対の道に移動したのですが、きつねも渡ってきました。これを2回ほど繰り返して、怖くなり走って逃げました。それでも追いかけてきたので、人生で5番目くらいに速いスピードで逃げました。  もう、外に出るのが怖くて仕方ありません。  もう「趣味は散歩です」とは言えなくなりそうです。

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鳴らした音の行く先は 7

第七章 変わらないままで  もう三月の上旬だ。  あれから数ヶ月のときを経た。  あのあと、施設のみんなに会いに行った。  特に、山崎さんに。 「山崎さん…こんにちは」 「おう、颯。よく来たな」  なんだか少しぎこちない挨拶をする。 「あの…」 「大丈夫だ。それ以上言うな」  俺が謝ろうとしていることに気づいたらしい。  それなら。 「ありがとうございます」  そう言って微笑む。 「ああ」  山崎さんは頭を撫でてくれた。  やっぱり俺の周りには温かい人がたくさんいる。 「やっぱり、この曲はこのままでいこう」  今は、曲を作っている最中だ。  俺たちがシェアハウスに来てから初めて作った曲。  まだ、完成させられずにいた。  今を生きる人に届けたい切なくて、ちょっぴり温かい応援歌。  この曲はこのままであってほしかった。  変化は悪いことじゃない。でも、これはこのままでもいいような気がした。  みんなは反論してくるかと思ったが、意外にも同意してくれた。 「やっぱりこれはこのままがいいよね」 「この未完成な感じも応援歌にいいと思うし」 「うん。これでいこう」  みんながそう言ってくれる。  この温かさに何度も救われた。  この曲も誰かのためのそういう曲になってほしいと、俺は祈った。

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鳴らした音の行く先は 7

鳴らした音の行く先は 6-15

第六章十五話 番外編 感情を表に  最近、時雨は誰かとよく話している。それに気づいて時雨を問い詰めた。時雨は観念したのかその子を紹介してくれるようだ。 「こんにちは!俺は一ノ瀬颯!颯って呼んで。よろしく!」  俺が元気よく言うと彼は戸惑っていた。ちょっと元気に話しかけすぎただろうか。 「暁山湊です。えっと…颯…?よろしく…」  なんだかものすごく小さく見える。遠慮しているのだろうか。  湊は時雨の方を見て、何か訴えかけてるようだった。  ずるい。なんで時雨とそんなに仲が良いのだろう。  俺も混ぜてほしくて湊と視線を合わせる。 「あ…あの…。あんまり見ないで」  すぐに目を逸らされる。 「時雨、なんでこの人、こんなにしつこいの?」  小声で時雨に話しかけているがすべて聞こえている。  俺は思わず笑ってしまった。  湊は俺がなんで笑ったのかわからないようだ。 「いや、なんか初めて会ったときの時雨に似てるなって」 「え?」 「ちょっ、余計なこと言わないで!」  湊は疑問に思ったようだが、時雨に遮られる。 「颯はこんな感じでいつもうざったいから。嫌なら早く逃げたほうが良いよ」 「何いってんの?俺、自分のことうざいとか思ったことないんだけど」  時雨のせいで、湊が俺から距離を取ろうとする。  させない。時雨が人に興味を示すことなんてないのだ。  絶対に離さない。そして、できれば四人で、やりたいことがある。 「まっ、そういうことで俺はもう湊のこと離さないから。よろしく」 「えっ、ちょっ、何も理解できてないんだけど。離さないって何?」  強引に進めすぎた気もするが、きっと湊はこうしないとこっち側に来てくれない。 「そんまんま!ってことで、俺の大切な仲間がもう一人いるから、一緒に行こう!」 「本当にわかんないんだけど!」  そう言う湊を無視して手を引っ張る。  最初より感情が表に出てきている。  きっと、湊と一緒にいるのも楽しい。  なにより俺のやりたいことに近づくのだから、無理にでも一緒にいようと思う。  俺も変わったな。  きっとこの先もずっとみんなと一緒にいたいと思い続けるのだろう。

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鳴らした音の行く先は 6-15

鳴らした音の行く先は 6-14

第六章十四話 番外編 手を伸ばしてくれるまで  今日は叶衣が出かけていない。最近はずっと叶衣と一緒だったため、なんだか、変な感じがする。そう思いながら、ご飯を運ぶ。どこに座ろうか。ふと、ある人に目が止まった。 「君、この施設に来てしばらく経つよね。どう?」 「悪くないよ。いい感じ」  珍しいな。こんなに施設に馴染んでいるなんて。なんだか、少し出会った頃の叶衣に似てる気がした。 「へぇー。そっかー。この施設いいよね。ところで、俺と一緒に遊ばない?」  もし、彼が叶衣と仲良くなったら、この施設をもっと好きになってくれる。そう思った。 「僕?」 「そうだよ。今一緒に話してるでしょ」  やっぱり、似てる。  彼は何か考えているようだった。 「一度だけなら」  良かった。一度だけでも彼と話してみたい。 「おっ、じゃあ、早速行くか」  彼はキャッチボールがうまかった。力強く投げてもキャッチしてくれるし、軌道もブレない。 「もしかして、キャッチボール得意?」 「それなりに」  なにか、わけありなのだろう。彼は少し切ない顔をしている。 「俺の話聞いてくれる?」  ボールを投げる。彼はこっちを見て頷いた。 「俺ね、この施設大好きなの。絶対に手放したくない。それに、今出かけてていないけど、仲間‥なのかな。大切にしたい人がいるんだ」  そうだ、叶衣は仲間だ。大切にしたい人。  そして、彼は叶衣と痛みを共有できる人。 「で、君はその子に少し似てるんだよね。だから…」  だから、叶衣と… 「その子と話してほしい」  彼は怪訝な顔をした。 「本気で言ってる?」 「うん、本気。」  ボールをさっきまでよりも強く投げる。 「だいたい、なんで君が動いてるの?その子が僕に話しかければいいだけじゃん」  怒っているのだな。彼はいい人だ。誰かのために怒ることができるのだろう。  ボールを力いっぱい投げたのだろう。少し軌道がズレたが無事にキャッチする。 「そういうわけにはいかない。君もあの子も自分から話しかけに行くタイプじゃないからだよ」  うまくごまかせられただろうか。ここで、本当のことを話すと彼はもう俺とも叶衣とも話してくれない気がした。 「なら、君の名前を教えてよ」  その言葉に、嬉しくなる。 「やった!話してくれるんだ!俺は一ノ瀬颯。颯って呼んで。これからよろしく」 「僕は天宮時雨。また…キャッチボールしてくれるなら、話すよ」 「もっちろんだよ!またやろうな!…ありがとう」  そう言って、切なく微笑む。時雨には叶衣と話してほしい。  だけど、それと同じくらい俺も時雨と話したいと思った。  やっぱり、時雨は叶衣と似ている。  俺は時雨の手も離したくないと思い始めている。  でも、時雨はまだ、手を伸ばしていない。  時雨が手を伸ばしてくれるまで、俺はずっと時雨のそばにいよう。

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鳴らした音の行く先は 6-14

鳴らした音の行く先は 6-13

第六章十三話 番外編 心を開いて  施設の生活に飽き飽きしていた。周りはみんないい人たちでずっとここにいたいが、何もやることがない。  ただの気まぐれだった。いつも一人で本を読んでいて、落ち着いている。施設に来てからずっとそうだった。だから、興味を持った。どんな人なんだろうと。 「それ面白い?」  ただ、暇つぶしになればよかった。 「どうだろう。あまりわからない」 「だよなー。だったらあっちで俺とゲームしない?」  感情が伝わりにくい声で、こちらを見上げる。  断られるかと思ったが、すんなりと了承してくれた。人付き合いは悪くない。  彼女はオセロをやったことがないようだった。そんな人がいるのかと思ったが、まあ暇なので教えてあげる。 「まじかー。君本当に初めて?悔しいーっ」  本当に悔しかった。アドバイスをいくつかしたが、ひとつひとつの置く場所が何気にいやらしい。彼女は頭がいいのだろう。 「今日はもうおしまいっ。また、明日ね」  彼女が頷くのを見てからその場を去る。  久しぶりに楽しいと思った。もっとやりたい。  誰かと何かをすることが今までほとんどなかったため新鮮で面白かった。  明日は何しよう。ワクワクが止まらなかった。 「今日は俺の趣味に付き合ってもらおう!」  ギターを二本持って行った。きっと、音楽も人数が多いと楽しい。 「俺と一緒に弾こう!また教えるからさ」  そこでまだ自己紹介していないことに気づいた。 「そういえば名前言ってなかったな。俺は一ノ瀬颯。颯ってよんで!君は?」  彼女は困惑した顔をしていた。 「なんで?」 「ん?」  何を聞きたいのかわからない。 「どうして、私に話しかけるの?」 「もしかして、嫌だった?」  楽しかったのは俺だけなのか。それでもいいけど、共有できないのは少し寂しい。 「いや、そういうわけじゃなくて。私といても楽しいわけじゃないでしょ?」  驚いた。彼女の口からこんな言葉が出るなんて。  落ち着いているように見えて実は相当傷が深いということに気づいてしまった。 「勝手に決めつけないでほしいなー。楽しくないと話さないよ。正直昨日声かけたのは気まぐれだけど。こんなに俺と会話してくれる人いないから嬉しい!」  そう言って、笑いかける。少しでも心を開いてほしい。  いや、ただのエゴだ。俺は彼女と一緒にいたい。 「だから、今日も明日も明後日も、毎日話しかけるよ!」  そう言うと、彼女は驚きと苦しみと喜びの混じった顔をし、すぐに表情をもとに戻した。「私は月島叶衣。趣味は特にないけど。でも、こうやって颯話すのは嫌じゃない」  その言葉を聞いて心の底から安心した。良かった。俺と話しても嫌じゃないんだ。  「そっか。じゃっ、叶衣。これからよろしく」  叶衣の手は離さない。俺は叶衣とずっと一緒にいたい。 「うん。よろしく。颯」  叶衣は微笑んだ。  なんだ、そんな顔もできるのか。  俺はこの手を離したくない。  俺はもうこの手を離さない。

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鳴らした音の行く先は 6-13

鳴らした音の行く先は 6-12

第六章十二話 思い出の味  あのあと、一度顔を洗って、叶衣と一階に降りた。  鏡には顔色が悪く、クマもすごい顔が写っていて一瞬誰かと思った。  久しぶりに見た自分の顔は本当に自分の顔かどうか疑ってしまうような顔だった。  叶衣はよくこの顔を見ても動揺しなかったな。そう思う。  一階に降りると、時雨と湊がいた。 「今、ホットミルク入れてるからちょっと待ってねー」 「それと、マフィンもあるよ」  時雨と湊もいつも通りに話しかけてくれた。 「ありがとう」  そう言って微笑む。  まだ体は重いが、最初とは比べものにならないほどには軽くなっている。 「はい。どーぞ」  そう言って、ホットミルクとマフィンを机に置いてくれた。  温かくていい匂いがする。  久しぶりにみんなで食事をする。 「「「「いただきます」」」」  このホットココアとマフィンは施設長に教わったものだ。  俺が大好きな味。 「おいしい…」  思わずそうこぼす。 「でしょー」  時雨はドヤ顔でそう言っている。 「みんなありがとう」  そう言うとみんな微笑んでくれた。  ごめんとは言わない。きっとみんなはそれを望んでない。  みんなの優しさと温かさに俺は救われた。

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鳴らした音の行く先は 6-12

鳴らした音の行く先は 6-11

第六章十一話 きっと、そばに  しばらくすると呼吸が落ち着いた。  もう涙は出てこない。  顔を上げると叶衣と目があった。 「実はね…もうひとつあるんだ」  そう言って、さっきとは違う封筒を取り出す。 「ありがとう」  今度はしっかりと声に出して受け取った。  封筒には『颯くんへ』と書かれている。 「これってもしかして…」 「うん。さっきのは施設のみんなに。これは颯にだよ」  施設長が俺だけに向けて手紙を用意していたことに驚いた。  とても嬉しい。でも…、自分が死ぬことを分かったうえで書いたということがどうしようもなく悲しかった。 「このまま…ここにいてくれる?」  そう俺が聞くと、少し驚いたような顔をしたが、頷いてくれた。  そうだ。俺は一人じゃないんだ。  だから、きっと大丈夫。  今はただ、そばにいてほしかった。  さっきよりもしっかりした手つきで、封筒を開ける。  正直、読みたい気持ちと読みたくない気持ちでごちゃごちゃだった。  でも、今読まないと一生読めない気がして、それだけは嫌だった。  一度深呼吸をする。  覚悟は決まった。 ―颯くんへ  まず、この手紙を読んでくれてありがとう。読んでもらえない可能性も考えていたから嬉しいわ。  もう知っていると思うけれど、私は肺がんを患っていました。今まで黙っていてごめんなさい。  私が入院したときにも、施設のみんなには聞かれるまでは答えないようお願いしました。  でも、颯くんが来てくれてとても嬉しかったわ。もう会えない可能性も考えていたから。私は一人じゃないんだって心から実感できました。温かくて、ずっとそばにいてほしかった。  でも、私はそれを許せなかった。周りの人が悲しむ顔を見たくなかったから。それなら、私が一人でいなくなったほうがいいと思ったの。けどね、今こうやって手紙を書いていて寂しくて仕方がないの。どうしても、揺らいでしまう。今すぐに会いたい。どこか穴があいたような感覚なの。  颯くんは今どんな気持ちかしら。私を恨んでる?怒ってる?それとも悲しんでくれているのかしら。きっと答えは知ることができない。  でも、颯くんが笑って過ごす毎日が訪れることをずっと祈っているわ。  最期に颯くんと話せたこと、とても嬉しかったわ。  また来てくれるって言ってくれてありがとう。それと、約束を守れなくてごめんなさい。  颯くんが大切な仲間を見つけられたことが本当に嬉しかったです。  きっと颯くんの周りにはたくさんの温かさがあるから大丈夫。  愛しています。                       五十嵐 このは  読み終えたとき、施設長はまだいるんじゃないかと錯覚しそうになった。この温かさは俺が愛した施設長のものだ。不思議と悲しくはなかった。でも、どこか切ない。  読んで良かった。  きっともう同じ温かさには触れられない。でも、まだ伝わってくる。  それに俺はひとりじゃない。施設長はまだ、俺の中にいるし、俺の周りには他にも離したくない人がたくさんいる。  それに気づけただけでも俺は幸せだった。

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鳴らした音の行く先は 6-11