澄永 匂(すみながにおい)
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連載中の作品は、金、土曜日辺りに更新予定です。多忙ゆえ、更新しない週もあります…。 大学生&素人なので文章がぎこちないですが温かく見守ってください。 中学生の頃に作っていた話(元漫画予定だったもの)を書けたらいいなと思い、始めました。
第八十一話
「いったぁい…。お腹刺されてその力、もしかして三ツ目?」 服の土埃を払いながら、沙恵を見る道明。沙恵は、幸村の腕の中でぐったりしている。 「ま、何でもいいか。今のボクには誰も勝てないしねぇ〜。」 道明が腰を落として印を組む。と、道明を囲むように風が吹き荒れる。動ける者たちは、全員臨戦態勢を取った。何が起こるのか、分からない。だが、戦わねばならない。甚八の頬に汗が伝い、心愛は息を飲んだ。 それを他所に、佐助とかえでは互いに均衡を保っていた。かえでが佐助の額に思い切り頭突きする。佐助とかえでの額から、一筋の血が流れた。 「……佐助、どこにいるのよ。こっちに手伸ばしなさい。絶対掴んであげるから。」 「………。」 かえでと佐助の目が合う。佐助の視界は真っ暗だ。 「なんなんだよここは…。術師は…?皆は大丈夫なのか…?」 わけも分からずもがき続けるが、どす黒いモヤが、佐助を離さない。身じろぎをするたびに、段々とモヤの中にずぶずぶと浸かってしまう。まずい、と思ったその瞬間、頭の上が急に明るくなった。佐助が上を見上げると、そこから誰かが左手を伸ばしている。佐助は自分の全身の力を振り絞った。そして、何とか自分の右手を自由にすることが出来た。その右手を思い切り、差し伸べられた左手に向かって伸ばした。 「っぐぉぉ…!」 そして、佐助の右手と、差し伸べられた左手がパシンと音を鳴らす。その瞬間、辺り一面が徐々に光を取り戻してゆくではないか。佐助を捕らえていた黒いモヤが、じわじわと消えてゆく。それと同時に、佐助の心が段々と暖かくなるのを感じた。そのまま佐助は、差し伸べられた左手に引き上げられながら、光の方へ向かっていったのだった。 「……か、かえで?」 「………え?」 かえでの目の前にいたのは、いつもの元気さを取り戻した佐助だった。キョトンとした顔をしている。 「あ、さ、さす…うわぁ!!」 先程まで、ものすごい力で押しあってたにも関わらず、急に佐助が力を抜くので、佐助とかえでは、折り重なるように倒れてしまった。 「え、佐助?」 「ん?何……?」 自分の上で目を見開いているかえでを、不思議そうに見る佐助。かえではその表情を見て、一気に力が抜けた。 「ふぁぁ〜良かったぁぁ〜…。」 「んぐ……!」 かえでが急に抱きつくので、顔を真っ赤にしてしまう佐助。だが、ようやく分かった。あの自分を引き上げてくれた手が、一体誰なのかを。 「ありがと。」 佐助は、かえでの頭を撫でた。 「……っ!どうなってる…。」 術の展開をとめた道明は、佐助とかえでの方を、電撃をくらったかのような驚きの表情で見つめた。道明に向かって、少しの煽りを込めた幸村が話す。 「なんだか分からんが、どうやらお主の目論見通りにはいかなかったようじゃな。」 「ぼ、ボクの術を解いた奴なんて、誰もいないのに…。おい、お前どうやって解いたんだ!」 道明が切羽詰まったような声色で、佐助を指さした。佐助はゆっくり体を起こし、自身の身体の様子に注目する。 「身体がビリビリする……。俺は、戦ってたのか…。」 掌を握ったり開いたりしながら、自身の身体の調子を伺う佐助。そして、真っ直ぐ道明を見た。その表情は、余裕の笑みを浮かべている。 「ま、俺達真田の絆は、術ごときでは操れないってことだな。」 「そ、そんなこと、ありえない…。ありえない!」 そう叫んだ道明が、佐助に向かって沙恵と同じ攻撃をする。道明の姿が消えた。が、佐助はそれを回転しながら立ち上がり、躱したのだ。沙恵ですら避けられなかった攻撃を躱した佐助に、誰もが驚きの目を向けている。 「な、なん、で…。」 「佐助、なんで避けられたの?」 佐助に抱えられたかえでが問いかけた。 「え、うーん…。来るって思ったから、かな?」 佐助は道明に操られたことで、道明の術が佐助の心にまで触れていた。つまり術に対して抗体のようなものが着いたのだろう。だから、頭ではなく心で術を感じて避けることが出来るのだ。 「お前さ、俺達が仲間を大切にしてることをやたら嫌がってたが、お前の敗因は、仲間がいないってことだぞ。」 佐助の本質を突いた一撃に、黙り込んでしまう道明。静かに拳を握りしめている。 「ボクは、強いのに…。」 「ここまでですか。」 突然、聞き覚えの無い声がした。何事かと辺りを見回すと、三方の森から、音もなく六人の男が姿を現した。まるで貴族のような服を着て、胸の辺りには大きい六芒星が描かれている。道明は、下を向いていた。 「道明、あなたも結局この程度だということですよ。諦めなさい。」 「……。」 長い白髪の男が、落ち着いた声色で道明に語りかけた。が、道明は返事をしない。佐助が道明を覗き込んだ。 「おい、お前…こいつら何者なんだよ。」 「コイツらは、鬼一の奴らだよ。ボクの両親を殺した。」 「え、鬼一って、お前の仲間だろ…?」 「違う。ボクを妬んで両親を殺した、クソ野郎共だ。」 「何を言う、貴様は神に愛された紋を持ちながら、我が一族の為に命をも掛けられない腑抜けではないか。」 白髪の男が冷たく道明を虐げる。道明は初めて顔を上げた。悲痛な叫び声が響く。 「なんでお前らなんかに、命を掛けなきゃならないんだ!ボクを適当に祀りあげて、贄にしようとしたくせに!ボクの両親を殺した癖に!」 道明の目は、いつにもなく水分を溜め込んでいた。その表情から、過去の苦しみや悲しみが、ひしひしと伝わってくる。 「何が神だ…。神なんかいない、ボクはボクだ!お前らクソ共なんかに、ボクの命はやらない!」 道明が心からの叫び声をあげる。と、白髪の男がはぁ、とため息をこぼした。 「そうか。ならば真田諸共消えてもらう。」
第八十話
心愛を姫抱きした鎌之介が飛び上がり、攻撃を避ける。そして、少しだけ離れたところに心愛を降ろした。 「心愛ちゃん、頼むね。」 「うん!」 短い会話を済ませた後、鎌之介は式神の元へ駆け出した。鎖を縦横無尽に操り、鎌で式神を真っ二つに割る。だか、やはり効果は無い。少なくとも、顔や首、腹には御札が無いのだろう。心愛は美しく動く式神を見つめた。が、なかなか御札が見つかることはなかった。 「……どこ?」 短筒を構えながら式神を追うが、見つからないのでは撃てない。その間も、鎌之介は槍の攻撃を躱したり受けたりしている。早く見つけててあげないと、という焦りもあって、心愛はかなり冷静さを欠いているように見えた。 「心愛ちゃん!俺に構うな!集中!!」 鎌之介が心愛に叫んだ。鎌之介の声を聞いた心愛はハッとし、一度、深呼吸をした。ゆっくりと目を開け、式神を見続ける。 と、鎌之介が槍で足を掬われ、体勢を大きく崩してしまった。右足で槍を受け流すも、式神に背を向ける形で地面に手をついてしまった。そこを式神が逃すはずもなく、槍の柄の部分で背中を突かれた。口から血を吐く鎌之介。式神は槍を回し、刃の部分を鎌之介に向けた。そしてそのまま、倒れ込んでいる鎌之介に向かって勢いよく突き立てようと、振り下ろした。 その時だった。 「……見えた!!」 心愛は、式神の右肩辺りにある御札を捉えた。そして、構えていた短筒の引き金を、二回引いた。心愛の使う短筒は、心愛によって改良されているため、そこらの銃よりも速度が出る。銃弾は真っ直ぐ飛び、御札をぶち抜いた。そしてもう一弾。これは細い槍の柄に当たり、間一髪、鎌之介に槍が刺さることを防いだ。 「鎌之介っ!」 心愛が鎌之介の元へ駆け寄ると、鎌之介は笑顔を見せていた。 「あっぶねぇ…。貫かれたら死んでたな……。」 「バカぁ!!」 鎌之介は、声を上げてわんわん泣く心愛の頭を撫で、ありがとう、と何度も言い続けた。 かえでは、真っ先に幸村の元へと向かった。助太刀しようとしたのだ。だが、その必要は無い、と瞬時に判断した。幸村の動きには余裕が見られた。かえではそれよりも、幸村の持つ刀に注目した。少し紫がかったような刀身に、赤い柄、鍔から始まり、金属の部分は全て金色をまとっている。この刀は生きているのか、そう感じるような覇気が見られたのだ。周りの状況を見ながら、美しい剣技で、いとも簡単に御札を真っ二つに斬り裂いた。 これで、全ての式神を破ることが出来た。だが。宝香は一度も、道明の方から目を離すことは無い。大助も宝香の横に立ち、道明が吹き飛んで土煙を上げているところを見続けていた。 と、一気に土煙が晴れる。両腕をダランと垂らし、前傾姿勢になっている道明がいた。薄暗い中で、ゆっくり顔を上げる。と、道明の顔についていたお面が外れていた。くっきりと、道明の顔がみえた。両頬に、渦巻きのような黒いアザがある。そして、目を開くと、先程とは打って変わって、怪しく黄色に光っている。目の中には、六芒星が入っていた。 「まずい…!」 全身の毛が逆立つ十蔵は、即座に銃を放った。しかし、道明の手前で何故か弾かれた。 「おいおい…、そりゃないよ…。」 あまりの衝撃に、笑みがこぼれるかえで。道明はゆっくりと上半身を起こし、首を鳴らしている。 「あー…、久しぶりだよ。お面外すの。」 佐助の動きは止まっている。道明はニヤニヤと笑いながら、その場をぐるりと見渡した。そして、うんうんと首を振る。 「なるほどね〜。そういう感じかぁ。みんな結構均衡してるんだなぁ。でも、君。」 そう言いながら沙恵を指さす。 「君だけなんか違うね。強いなぁ。すごい『気』だ。名前は?」 「……沙恵。」 「へぇ〜、沙恵ちゃん。綺麗だねぇ。あと、君は?」 「え、…かえで、だけど…。」 「かえでちゃん。可愛いなぁ。かえでちゃんはね、皆よりも小さい。なのに強いんだもん。不思議だねぇ。」 道明には、何やら強さの指標となるものが見えているらしいのだ。面白そうに、真田の面々をまじまじと見ていた。そして、道明がいきなり姿を消した。何が起こったのかと、全員が辺りを見渡す。と、沙恵が何かを察知した。目には見えない。だが、何かが来る。自分の方へ。 「っ……!」 沙恵は両手を交差させ、正面から来た謎の衝撃を受け止めた。だが、足は地を離れていた。そのまま背中を、強く打ち付けてしまう。 「気が大きいと、狙いやすいね。」 そう言いながら、沙恵の目の前に移動していた道明。全員が、道明の方を振り返る。誰も目で追えなかった。 「ゔっ……。」 今度は佐助が、才蔵のみぞおちに蹴りを入れていた。かえでと火垂は一目散に、才蔵の元へ駆け寄った。火垂が、震えた声で呼びかける。 「さ、才蔵…。」 「すまん…、目を離した…。」 と、才蔵の声に耳を澄ませていると、佐助が至近距離まで追い詰まってきていた。 「ふっ…!」 ギリギリのところで、かえでが佐助の両手をがっしりと掴んだ。佐助も、かえでの両手をしっかりと掴んでいる。 「才蔵、あとは任せてくれるかなぁ…。」 「あぁ……。かえで、火垂、すまない…。」 そういった才蔵は、火垂の腕の中で目を閉じてしまった。 道明は、にこにこ笑いながら真田を見続けている。道明の背中側にいた沙恵は、音もなく立ち上がり、道明を羽交い締めしようとした。が、突然道明が振り返り、沙恵に向かって拳を振るった。沙恵は道明の拳を何とか食い止めたが、道明はそのまま、左手を沙恵の横腹に突き立てる。と、道明の左手が刃を型どった光に包まれ、その光が沙恵突き刺さった。 「んぐぅ……!」 沙恵は何とか道明を蹴り飛ばし、自分から引き剥がすが、刺されたところから血が止まらない。貧血で倒れそうになるも、近くにいた幸村がすぐ様沙恵を抱えあげた。 「沙恵、すまぬ。」 「…ふふっ、何故、謝るのです…?」 幸村は、静かに目を瞑った。
第七十九話
「おらぁぁあ!!」 雷の如く迫ってきたのは、清海が投げた錫杖だ。伊佐の頭上スレスレを通り、槍を勢いよく弾いた。槍は屋敷の柱へズドンと刺さり、ゆらりと消える。錫杖に関しては、屋敷の縁側をぶち壊していた。 目を見開いていた伊佐は、短い呼吸を繰り返している。清海は、急いで伊佐の元へと駆け寄った。心配そうに伊佐の様子を窺う。 その瞬間 「甚八ィー!しゃがめー!」 甚八が声のする方を向くと、十蔵が銃を構えていた。甚八は即座に開脚をし、自身の体勢が限りなく低くなるようにした。間髪入れずに十蔵が弾を放つ。銃弾はそのまま真っ直ぐ飛び、式神のへそ辺りを撃ち抜いた。すると式神がゆらりと消え、穴の空いた御札がハラハラと落ちていった。 「…?!」 一気に二人の式神が壊された道明は、一瞬目線を逸らした。そこを逃さなかった大助が、思い切り地面を蹴り、道明の間合いに入った。 「いける…!」 大助は笑みを浮かべながら、刀の峰を道明の顎に向かって振り上げる。が、道明が大助の方を向き、目が合った。その目を見た大助は、術にかかってもいないのに固まってしまった。瞳が怪しく黄色く光り、その中に六芒星が刻まれている。まずい、と思った頃には、もう大助の首の左横まで、道明の短刀が迫っていた。殺される、そう悟った大助は、目を瞑ることしか出来なかった。 「大助様ぁぁぁあ!」 かえでに投げ飛ばされた宝香が、その勢いのまま道明の左頬を思いっ切り蹴り飛ばした。くノ一達の術が解けたのだ。大助は、その場にへたり込む。 「ほ、宝香ちゃん…。」 「大助、とってもかっこよかったです。ここからは、私にお任せ下さい。」 宝香は、大助にニカッと笑顔を向けた後、道明が蹴り飛ばされた方を見つめた。 同時刻、術が解けた瞬間、地面を蹴り上げた紅い瞳。沙恵が真っ先に向かったのは、望月の上に覆いかぶさっていた海野の所だった。槍を振りかぶった式神の背面から迫り、自身の簪を式神の背中から胸へかけて貫いた。そのまま簪を下へ振り下ろし、ビリビリと音を立てて御札が破れた。 「海野、もう大丈夫よ。」 「あはは…ありがと、沙恵ちゃん…。」 海野は沙恵の方を向く。海野の肩をぽんと叩いた後、沙恵はしゃがみこみ、望月の頬をぺちぺちと叩いた。が、起きる気配が無い。沙恵は望月を抱え、海野を背負って、前線から離脱させた。 火垂も術が解けるやいなや、一目散に才蔵の元へ駆け寄った。才蔵と佐助は胸ぐらを掴み合い、均衡状態だった。 「才ぞ…」 「火垂…、手を出すなよ。俺が、決着をつける。」 そう言った才蔵は、佐助の腹を膝蹴りした。ゔっと声を漏らした佐助は、左手の甲で才蔵の右頬を打つ。才蔵の表情はいつもと違い、真剣で、いつもは秘めている心の内を顕にしたようだった。 火垂は両手を合わせて握り込み、それを見つめるだけだった。 「火垂!」 大きな声で名前を呼ばれ、ビクッとした火垂が振り返る。かえでがこっちで戦えと合図をしていた。そうだ、自分で仲間を助けることを考えて行動しなければ。火垂は才蔵に背を向け、小助の元へ走った。 小助もまた、一人で式神と戦っていた。左肩を槍に突かれ、常につけているタスキを使い、右手を刀に縛って戦っていた。 「ま…小助、さん。」 「おぉ、火垂殿でござるか。強力な助っ人でござる。」 ふいに優しい笑みがこぼれる小助。火垂は小助を庇うように前に立ち、鉤爪を構える。 「どこに御札が……。」 式神を睨みつける火垂だが、御札は一向に見つからない。と、式神が火垂目掛けて槍を突いてきた。鉤爪を上手く使い、攻撃を躱す。攻撃が当たるのは槍のみであるという情報があるので、無駄な攻撃は仕掛けず、ひたすら御札を探し続けた。それを察した小助は、右手に縛りつけていた刀を外し、弓を作る準備をしていた。 「…あった……。」 御札は式神の左肩。火垂は攻撃を躱しつつ、小助へ左肩に攻撃をするように伝える。 「相分かった。」 そう言うと小助は、手際よく即席で弓を作った。矢の代わりの枝と弦を右手で掴み、左腕が使えないため、左足で弓を支える。それを確認した火垂は、槍を鉤爪で引っ掛けた後、式神の上を飛び越え動きを止めた。 「撃って!」 「ふっ…!」 小助が放った矢は、勢いは無いものの、正確に式神の左肩にある御札射抜いた。式神はゆっくりと姿を消し、火垂はその場に膝を着いた。 「火垂殿、怪我は。」 「あ、急に動いて身体が驚いただけ。怪我はしてない…。」 「うむ。すまぬが、拙者は戦線離脱するでござる。あとは頼む。」 「っうん。」 先程まで一人で戦っていた小助もまた、左肩だけでなく全身に切り傷などが見られた。この状態で戦っても、足手まといだと自分で考えたのだろう。小助は火垂が宝香の元へ走ってゆくのを見届けた後、海野と望月を抱える沙恵へと合流した。 そしてもう一人、単独で式神を相手していた者がいる。 「鎌之介っ!」 「心愛ちゃぁん!」 駆けつけた心愛の方を振り返った鎌之介の顔は、細かな傷によって血だらけだった。だか、表情は明るかった。心愛に笑顔を向けている。 「…鎌之介の顔にこんなに傷をつけるなんて、許せない…。」 心愛がメラメラと燃えたぎる。あはは、と苦笑いしながら鎌之介は心愛の頭を撫でる。 「心愛ちゃん、俺が戦ってる間、こいつの札を探してくれない?見つけたら即ぶち抜いてほしい。」 「っでも、鎌之介そんなにボロボロなのに…。」 「大丈夫だよ。それに、さっきまで戦ってたから、俺の方がいいと思うんだ。」 「……分かった。少しだけ、頑張ってね?」 そう言った心愛は、鎌之介をぎゅーっと抱きしめた。一瞬表情が緩んだ鎌之介だったが、そんなことはお構い無しに、式神が槍を二人へ振り下ろした。
第七十八話
「お父様は助けなくて良いのかな〜?」 道明が、にこにこしながら大助に訊ねた。 「父上を馬鹿にしないでください。」 そう言った大助は、地面を一蹴りし、道明に刀を振るう。道明も短刀で応戦した。と、大助の右頬を生暖かい風が撫でた。嫌悪感を感じた大助がそれを避ける。と、顔のすぐ右を道明の短刀が通り過ぎた。避けられると思っていなかったのか、少し目を開いた道明は、冷静に大助の顔を殴ろうと、そのまま右に腕を振る。大助の右頬に、道明の裏拳が入った。が、大助はそんなことも気にせず、驚いていた。これか、海野が稽古の時に言っていたアレは。 ーーーーー 「大助様、見るのでは無く、感じるのです。その場に流れる、風を読んでください。」 ーーーーー 大助は、頬の痛みを耐えつつ、静かに刀を構えた。そして、ゆっくりと目を瞑る。稽古の時に望月が言った言葉を、思い返した。 ーーーーー 「大助様、戦う時は、必ずしも臨機応変にせねばなりません。しかし、そのためにも、基礎は完璧に叩き込む必要があります。」 ーーーーー ふぅ、と息を吐き、呼吸を整える大助。首を傾げて待っていた道明が、目を細めて大助を見つめた。そして、ゆらりと動いた次の瞬間、一気に大助に詰め寄った。キンキンと刀がぶつかる音がする。幸村はそれを横目に、道明が生み出した式神と戦っていた。 一方で、苦戦を強いられていたのは、才蔵だった。 「……っ!」 才蔵は、驚いていた。操られているとはいえ、佐助がここまで動けるということに。煙玉を使うも、山で鍛えれた五感を持つ佐助には、あまり役に立たなかった。クナイを二本使って戦う才蔵と、クナイと忍者刀を使う佐助。二人は身長差がありすぎる故、才蔵の攻撃が佐助に届きずらい。佐助の方は操られており、無尽蔵の体力がある。道明と戦った際に使ってしまった才蔵の体力は、徐々に、徐々に、削られてゆく。 「…忍者刀に持ち替えたい。が、持ち替える隙も、持ち続ける体力もない…。」 才蔵は冷静に自分とこの状況を分析していた。やはり、自分一人では押し切ることが出来ない。だがしかし、ここで諦めてはならないと、攻撃を続ける才蔵。 それを見ていた火垂は、無言で身を捩っていた。 「火垂、やめなさい。」 小さな声で火垂に声をかけたのは、沙恵だった。くノ一全員に、自分への注意を促す。 「術に抵抗しようとしても、それがバレてより強固な術をかけられてしまう。じっとしながら皆の戦況を見ていましょう。」 「…沙恵ちゃん、見ているだけなんてやだよ。鎌之介の助太刀に行きたい…。」 「心愛、大丈夫よ。見ているだけじゃないわ。」 そこまで言うと、かえでが続けて話し続けた。 「あのお面野郎の動きも見るんだ。で、ちょっとでも怯んだところを見逃さず、そこで皆で抵抗する。相当の実力はあれど、術をあんなに一気に使ってるんだから、私達よりも戦闘に注意を向けてるはずだよ。」 宝香がなるほど、と相槌を打つ。 「この状況を一変させるのは、私達が鍵ってことね。姉さん…。」 「…分かった。それまではあの女とお面男を観察していればいいんだね。」 「うん。かえで、合図は私に任せて。」 「了解、宝香に任せるよ。私は…。」 そう言いかけたかえでは、ゆっくりと佐助を見た。その目はいつもの燃える赤色ではなく、弱々しいものであった。佐助の目は、相変わらず光がない。 佐助は、目を開けた。目の前が何も見えない。走ろうとするが、謎のモヤが自分を絡めている。 「っ何だこれ!うぉりゃぁぁ…!」 必死に手足を動かそうとするが、重い。 「ここは、どこなんだ…。皆は…。」 漆黒の世界が、佐助を包み込む。それはそれはどこまでも、果てしなく広がっていた。 限界に近づいていたのは、才蔵だけでは無い。海野の全身には、たくさんの傷が付いていた。気絶した望月を守りながら戦っていたのである。刀を折られた海野は、脇差での防戦を強いられている。 「ゔっ…。」 だが、短い脇差では防ぎきれず、式神の槍が海野へと勢いよく当たる。 「海野!もう少し耐えろ!オレ達が行くからな!」 「と言っても、式神の弱点が分からん限り、無理だろ…!」 清海と伊佐は、二人で式神を相手にしているが、他と変わらず、槍を防ぐので精一杯だった。攻撃を防ぎながら、打開策を考える二人。 「クソっ!さっきみたいに御札を壊すのではダメなのか。」 「壊すって言っても、その札が見つからねぇ!」 少し考えたあと、伊佐が提案した。 「俺が戦う間、お前は敵を観察して、札を見つけろ。見つけ次第、壊せ。」 「…分かった。」 少し躊躇った清海は思い切り後ろに飛び、戦線離脱する。伊佐は式神の槍を、薙刀で応戦し続けている。その間、清海は目を凝らし、式神を注視した。それが目に入った十蔵も、何かを察したのか、甚八と戦う式神にだけ鋭い眼光を送る。 「っ清海!まだか?!」 「ちょっと待て…。」 激しい打ち合いの末、徐々に押され気味になる伊佐。式神の槍によって足を払われ、大きく体勢を崩してしまった。式神は伊佐の脳天に叩きつけようと、槍を大きく振りかぶる。しりもちをついた伊佐は、薙刀の柄の部分で受けようと、薙刀を横に持ち、頭の上へ掲げた。その瞬間、清海の叫び声が伊佐の耳に入る。 「首だ!伊佐、首を斬れーっ!」 「……っく!」 伊佐は札を壊すべく、薙刀を持ち替えた。が、その後に察した。もし少しでもミスをすると、攻撃が当たり、自身の頭を式神の槍にかち割られてしまう。しかし、止まることの無い式神を待つことなどできない。伊佐は決死の思いで身体を左にひねり、薙刀を思い切り振った。伊佐のコントロールは正確もので、薙刀は見事、札に届いた。式神がゆらりと消えかかる。が、槍は伊佐の頭スレスレまで迫っていた。
第七十七話
かえでが真っ直ぐに、佐助の元へ足を進めた。自分が暴走した時は、佐助が救い上げてくれた。今度は自分が、佐助を救ってあげる番だ。だが、かえではその足を止めざるを得なかった。 「ちょっと君は、鬱陶しいかな。」 かえでの体は鉛のように重くなり、自分の力では首以外を動かせなくなっていた。動きを止められたかえでは、そのままズルズルと道明の元へ引き寄せられる。なぜ動けないのか、何となく理解しているかえでは、焦る様な素振りは見せなかった。 「うーん…。君、とっても綺麗。」 「……はぁ?」 「気に入ったから、殺さないでおくね。」 道明は狐のような目をさらに細くさせ、かえでに微笑んだ。かえではそれを、喜ぶ訳でもなく、睨む訳でもなく、ただじっと見つめていた。 「よーし、じゃあお前、俺の代わりにじゃんじゃん働いてね〜。あ、でも、女の子には手を出さないように。」 道明が、飄々とした声で佐助に呼びかける。と、同時に、他のくノ一の身動きも封じられてしまった。佐助は鎌を弾き飛ばし、望月を抱える海野へ飛びかかった。なんの躊躇もなく、クナイを振り下ろす。甚八の大太刀が、クナイを防いだ。 「佐助!おい、しっかりしろ!」 虚ろな目をした佐助に、甚八の叫びは届かなかった。佐助のきめ細やかな攻撃に、防戦を強いられる甚八。そこに、甚八と仲の良い十蔵が援護射撃をする。十蔵の腕前は見事なもので、自由自在に動く甚八には当てず、ひたすら佐助に狙いを定めて引き金を引いている。しかも、致命傷にならないような場所を狙いながら。だか、その弾が当たることはなかった。佐助は甚八の大太刀を受けつつ、銃弾を避けていたのだ。 「っクソ、なんか上手いこと避けられてんな。」 「恐らく、操られていると言うより、洗脳されている。」 横にいた伊佐が一言十蔵に伝え、甚八に加勢する。それを見ていた道明は、うーんと頭を捻っている。 「ねぇ君、正直言って仲間のこと、強いと思う?」 「どうだろうね。」 かえではふふっと笑いながら答えた。すると道明が、うんうんと首を縦に振る。 「多分君がいちばん強いでしょ?帳に気が付いたくらいなんだし。でもまぁ、保険をかけておくに越したことはないね。」 道明はそう言いながら、右掌に人型の紙を五枚置いた。そしてそれに命を吹き込むように、息を吹く。紙はふわりと宙を舞い、光をまといながら、美しい女へと変化した。式神だ。式神達は槍を持ち、佐助の援護をするように、攻撃し始めた。 早速清海が、式神の額を錫杖で一突きする。が、式神の顔はぬらりと消えるだけで、攻撃を止めることはなかった。そして、時間が経てば元の顔に戻る。こちらからの攻撃が、全く通らないのだ。しかし、式神の持つ武器によって攻撃は続く。真田は、苦戦を強いられる一方だ。さらに、道明の術により、くノ一が全員身動きを取ることができない。 「んもぉ〜!鎌之介の助太刀がしたいのにぃ〜!」 「……っ!」 心愛と火垂が身を捩るが、全く身体の緊張が解けない。宝香も無言で、手先から順に動かそうと力を込めている。沙恵はゆらゆらと美しく舞う式神達を、目を凝らして見ていた。 十勇士達は、才蔵が佐助の相手をし、他七名が式神の相手をしている。が、はっきり言って悪い状況だ。海野は、望月を庇いながら式神を相手にしている。十蔵は、それぞれの援護に周り射撃をするも、式神に銃弾は効かない。佐助の相手をしている才蔵も、既にかなりのダメージを負っているため、押され気味であった。 「…僕は、父上を守らないと…。」 大助は刀を抜き、幸村の前に立っている。と、大助と道明の目がバチッとあってしまった。道明はにこりと微笑みかける。大助はそれに対して、眉間に皺を寄せる。と、道明が一気にこちらに向かってくるではないか。ハッとした大助が刀を構えるが、あまりの勢いに目を瞑ってしまった。すると、大助の目の前でキンと刀のぶつかる音がした。ゆっくり目を開けると、幸村が抜刀し、道明の短刀を止めていた。 「お主は武術も嗜んでいるようじゃな。」 「えへ、そうなんですよ。」 笑う道明を弾き飛ばす幸村。そして背を向けたまま、大助に助言した。 「目を逸らしてはならぬ。如何なる時も、堂々としておれ。」 「も、申し訳ございません。」 大助は小走りで、幸村の横に立つ。 「私の助太刀をしてくれるか?」 「…!はい!謹んで、お受けいたします!」 大助は嬉しそうに目を輝かせる。父と初めて、肩を並べて戦えるのだ。望月、海野からの指南を受けてから随分と経つ。今こそ、自分の成長を見てもらおうと、意気込んだ。と、短刀をフラフラさせながら持つ道明が首を傾げた。 「それじゃ、そろそろ攻撃してもいいかな?」 「あぁ、待たせた。」 首を鳴らす道明に、幸村が刀を構えながら答えた。くるりと手首をひねり、刃を自身の方へ向ける。 「わぁ、嬉しいな。それとも、舐められてるのかな。」 くすくす笑う道明を、幸村と大助がじっと見る。おー怖、とつぶやく道明。その瞬間、道明が大助に急接近した。大助は、真正面から短刀を受ける。キチキチと刀が鳴る。横から幸村が刀を振り下ろす。道明は後ろに飛び、それを避ける。と、右手で手印を結び、道明の周りに幾つもの札が宙に浮く。 「それじゃあ、楽しませてね?」 札は一斉に、幸村目掛けて飛び立った。静かに構える幸村は、あっという間に囲まれてしまった。幸村の刃は外側を向く。大助はその様子を横目に見て、はいない。察知したのだ、幸村の意志を。生身の人間に攻撃するより、札を相手にする方が難しい。札を斬るために狙いを定めなければならない上、もし張り付かれてしまうと先程の望月や、最悪の場合、今の佐助のようになってしまう。大助はそう考え、弱い自分はあえて幸村を助けるのではなく、目の前の敵を倒すことに専念したのだ。 大助は、いつも以上に鋭い視線を道明に送る。
突撃!インタビュー 其の弐
輝池 火垂 一番仲良くなるのに時間がかかったのは? 「えっ…と、望月さん…。でも、尊敬、してます。」 冬の任務って寒くない? 「え、えっと…寒いですけど、任務ならまぁ…。」 次のインタビュイーに一言! 「柔軟な人…。」 海野 六郎 泳ぐのは得意? 「水辺にあんまり行ったことないから、あんまり泳げないよ。」 もしかしなくても、頭いいよね? 「刀とか兵法以外、なぁんにも分かんない笑」 次のインタビュイーに一言! 「海、好き?」 根津 甚八 海、好き? 「うん。え、それだけ??」 船酔い経験は? 「一度もねぇ!生まれながらに海の男だったんだなァ俺は。」 次のインタビュイーに一言! 「俺と並ぶと光ってるみたいに見える。」 穴山 小助 その口調はいつから? 「ふむ…、覚えていないでござる…。かたじけない。」 今の生き甲斐は? 「真田でござる。真田の皆(みな)を癒すことが、拙者の役目でござる。」 次のインタビュイーに一言! 「あのような長物を軽々と持ち上げる、素晴らしい体幹を持っているでござる。」 三好 伊佐 これだけは負けないものは? 「…女に間違えられた回数…。薙刀!!」 辛いことがあった時の突破法は? 「己を鍛えることだ。」 次のインタビュイーに一言! 「酒は飲んでも飲まれるな。」 三好 清海 好きなことは? 「寝る!飲む!」 どうやったらそんなに力持ちになれるの? 「鍛える!」 次のインタビュイーに一言! 「尊敬!」 真田 幸村 父、昌幸はどんな人? 「良い意味で、裏表のある方じゃった。」 戦略を練ること、戦うこと、どちらが得意? 「どちらも必要な力ではあるが、私の場合は、相棒の村正と共に、戦場を駆け抜ける方が好ましいな。」 次のインタビュイーに一言! 「…皆(みな)のことを知ろうとするのは良い事じゃが、お主の事も教えてもらわねばな?…大助よ。」 「そうですよ〜!俺たち十勇士も、」 「あたしたちくノ一も、」 「「気になります!!」」 真田 大助 刀の稽古はどうですか? 「えっと、望月さんも海野さんも、丁寧に優しく指導してくださるので、順調に進んでいます。」 好きなこと、苦手なことはなんですか? 「好きなことは、ご飯を食べることです!苦手なことは、初めての人と話すことです…。」 私たちのこと、好きですか? 「はい、大好きです!」
突撃!インタビュー 其ノ壱
筧 十蔵 いつから火縄銃を使っているの? 「ん〜、物心ついた頃にはもう持ってたなぁ。」 どうしてそんなに勘が鋭いの? 「狩りをしてると、勝手に見についてた。」 次のインタビュイーについて一言! 「また直々に銃の扱いを教えてやりたい!」 希谷川 宝香 最近ハマっていることは? 「可愛いものを眺めること!猫とか、小鳥とか、心愛とか、大助様とか笑」 その得意武器は、どうやって作ったの? 「すごいでしょ。私あんまり手裏剣が得意じゃなくてさ、大きければいいのにとか思ってたらできたんだ〜。」 次のインタビュイーについて一言! 「…相棒、かな。」 手飛 かえで なんでそんなに強いの? 「あたしだからっ!」 好き・嫌いな食べ物は? 「好きなのは、現代のチョコレート!嫌いなのは兵糧丸。まずい。」 次のインタビュイーについて一言! 「何となく、隠し事下手そう。すぐバレるとかじゃなくてさ、精神的に。知らないけど。」 霧隠 才蔵 どうしてそんなに落ち着いているの? 「何事も、慌てたところで意味が無いからな。」 今までで一番嫌だった任務は? 「任務にそういった感情は持たないが、強いて言うなら女装の任務は、少し…。」 次のインタビュイーについて一言! 「背が小さいのが羨ましい。」 猿飛 佐助 特技は? 「森での鬼ごっこだな!住んでたのもあるから!」 克服したいことは? 「ん〜、クナイだな。もっと上手く使えるように修行を積まねぇと。」 次のインタビュイーに一言! 「これからも、仲良くしようぜ!」 輩 心愛 自分より可愛い人、いる? 「いない!けど、みたらし団子を頬張ってるほっちゃんは、私ぐらい可愛い。」 その服も、こだわり? 「もちろん!短い袴のほうが動きやすいし、武器も取りやすい。そして何より、可愛い!」 次のインタビュイーに一言! 「もっちーも可愛いよ!私には劣るけど!」 望月 六郎 普段は何をしているの? 「基本的に、書類整理です。」 癒されるものは? 「幸村様のために動くことは、私の癒しです。」 次のインタビュイーに一言! 「…要らぬことを言うな。」 沙恵 普段は誰と過ごしてるの? 「日中は心愛、夜は…、海野。…ふふっ、望月と海野が同室だからよ。」 情報屋は、繁盛していた? 「ええ!どちらの仕事もとっても稼いでたわよ。だから、お店で一番売上を出していたのも私なの。」 次のインタビュイーに一言! 「嫌い。」 鎌之介 鎖鎌以外で使いたい武器は? 「大太刀!デカくてかっこいいから!」 今までで、楽しかったことは? 「え〜、俺、今も毎日楽しい!」 次のインタビュイーに一言! 「なんか、才蔵をしりに敷いてる感じがする。」
第七十六話
苦しい表情を浮かべる男は、森に姿を隠していた。顔の下をお面と布で覆っており、目元しか顔が確認できない。 「次から次へと…。」 呟いた瞬間、近くの木々がササッとなる。才蔵が影から飛び出し、男に逆手持ちの忍者刀を振る。男はそれを躱し、何度かバク転した。すかさず才蔵は煙玉を炸裂させ、気配を消す。と、男が顔の前で指を二本立て、何やら術を使う。男のすぐ右から急に才蔵が飛び出してきた。が、男はそれを軽々避ける。また霧に消える才蔵。今度は真後ろから飛び出すも、指を二本立てた男が易々と避けた。次こそはと霧の中を駆け抜けた後、才蔵は男の右へ飛び出す。が、また避けられる。どうやら、術を使い才蔵の位置を探っているようだ。才蔵の姿を目視する前に才蔵の位置を認知し、避けているらしい。さすがの才蔵もなにか思ったのか、攻撃速度を上げる。しかし、それは才蔵の体力を減らし続ける選択となる。 「攻撃の種類これだけなの〜?ボク、もう攻略しちゃったよ〜?」 男は才蔵を煽る。それに煽られるような才蔵では無いのだが、ギリギリで避けてみたり欠伸をしたりするものなので、さすがに集中力が切れて来たようだ。才蔵の煙玉を使う攻撃は、霧のようになった一面を自由に動ける才蔵が圧倒的有利のため、誰にも破られないものだった。しかし、目の間にいる生意気な男が、それを打ち破ったのだ。 「あっは!あれあれ〜?焦ってるのかなぁ〜?」 才蔵のいる方向を目で置いながら嘲笑う男。才蔵は足に渾身の力を込め、自分の中の最速スピードで男に詰め寄った。が、刀が男の手前で停止する。男は才蔵を見上げ、ニヤリと笑った。その瞬間才蔵が察する。刀を受けられたのではなく、術によって掴まれているのだ。それどころか、才蔵の手は刀を離さない。全身が硬直している。 「あらら〜。ボクに捕まっちゃったね。悔しい〜??」 「……。」 下を向いている才蔵を煽る男は、才蔵の顔を術で上げさせた。すると、男の顔を見た才蔵が、口あての向こうで口角を上げるのが分かった。 「な、何笑って……」 男が呟いた瞬間、男の右側に旋風が吹き、霧が勢いよく晴れた。そこにいたのは、拳を思いっきり引いた佐助だった。男は才蔵に集中しすぎて、佐助の存在に気がつけなかったのだ。術を使おうとしたがもう遅い。 「ぅおらぁぁぁあ!!」 爆音が轟き、男と才蔵を舞う。男は受身を取ろうと、才蔵の術を解いた。 「……っ!」 だが、才蔵はしっかりと男を掴んだ。そのまま目線を拓けたところに移す。一緒に庭へ突っ込もうとしたのだ。才蔵は腕の中で暴れる男を抑え、地面へと急降下する。と、男は空中で急に身体をひねり、才蔵の背中は思いっきり地面に叩きつけられた。呻き声をあげた才蔵の隙をついて、腹に一発お見舞し、才蔵から離れる。が、真田家の全員が、男の姿を捉えた。清海が、鋭い眼光を向ける。 「お前が術師か。」 薄い花緑青のような髪色に群青色の瞳。全身僧侶のような白っぽい服に、謎の紐がヒラヒラしている。梵天の着いた結袈裟を着け、いかにもな格好である。 「あーあ、見られちゃった。」 服に着いた土を両手ではたき落としながら、のらりくらりと呟いた。そして、両手で頭に乗った頭襟を整えると、真田一派に一礼した。 「お初にお目にかかります。私、鬼一道明(きいち どうめい)と申します。以後、お見知りおきを。」 「誰の差し金だ。」 道明の挨拶を遮るように声を上げたのは、ぐったりしている望月を抱えた海野だった。 「いやぁそれは言えないでしょ。まぁ、お察しの通りだとは思うけどね。」 腰から垂れ下がった紐の一つをくるくる回しながら話すその姿勢は、こちら側を挑発しているようだった。握り拳を作る心愛の横に、沙恵が立っている。 「徳川…。」 かえでの呟きを聞くものはいなかったが、誰もが容易く想像はできただろう。関ヶ原の戦いにて、幸村は西軍におり、徳川家康率いる東軍とは敵対関係にあった。その戦いは、結果的に西軍が負けたとはいえ、徳川は真田昌幸・幸村親子にかなりの汚名を着せられている。伊賀といい、この前の楼主といい、今回の術師といい、真田家は徳川からかなり厳しい目を向けられているのだ。 「そういうわけなんで、真田幸村、お命頂戴!」 「させるか!」 道明が手印を結ぶ前に、十蔵が鉄砲を撃った。道明は、弾のギリギリでバク転しながら避ける。 「ッチ…危ないなぁもぉ。」 体勢を整え、何やら印を結んだ。真田一派は警戒を強める。が、何も起こらない。 「…ハッタリか?それなら、こっちから!」 鎌之介が道明に向かって、鎌を投げた。横に波打ちながら飛ぶ鎌。それが高い金属音とともに、空高く舞った。弾かれた、素手の道明に。 いや、違う。道明は弾いていない。鎌を弾いたのは、佐助だった。 「佐助!!」 かえでは突然大声をあげ、佐助を呼ぶ。その声に反応して上げた佐助の顔は、誰が見てもおかしいと気が付くものだった。その中でも火垂は、小さな声を漏らし、両手で口を覆った。そう、今の佐助の顔を見たことがあったのだ。 「……まずい…。」 それは、七年前の才蔵と同じ、真っ暗の瞳だった。まるで、魂が抜けてしまったような、そんな目をしていた。佐助は、驚いて止まった空気の最中に、思いっきり刀を振って斬りこんだ。既のところで我に返り、太刀筋を避ける真田一派。 「あはは!びっくりしてるね〜。どう?仲間に斬りつけられてる気分は。」 仰け反りながら、真田を煽る道明。佐助は飛び上がり、道明の横へ降り立った。どうやら佐助は、道明の術によって操られているらしいのだ。 「はぁ?!なんだよ…。佐助!」 困惑の色が隠せない鎌之介が眉間に皺を寄せ、佐助に問いかける。その間も、佐助の表情が変わることはなかった。道明が、真田を見回して嘲笑う。 「さてと、お仲間大好きな真田さんよ。目の前の仲間を切り捨てられるかな?」
戦慄!肝試し
滝のような蝉時雨の中、かえでは頭を抱えていた。あまりにも暇だからである。唸りながら床に大の字になると、十蔵がそれを覗いてきた。 「騒がしや、耳に轟く、蝉の声。かえで、心の俳句…。」 「夏バテか?」 「こんな暑さじゃバテないよ。なんだか暇だなぁって…。」 「んー、じゃあ肝試しでもやって見るか?」 かえでが勢いよく頭を上げた。ので、十蔵の額に激突した。 言い出しっぺの十蔵、かえでに加え、闇に溶け込むことが得意な才蔵が脅かし役となって、肝試しをすることになった。希望者は、佐助、鎌之介、伊佐、宝香に火垂。 「え!?少ないって!他のみんなは?」 「めんどくさいってさ〜。」 「私は、才蔵が参加してることが意外すぎてびっくりしてるけど。」 佐助と火垂が答える。才蔵はかえでに半ば無理やり引っ張ってこられたのだ。 ーーーーー 「お願い!おどかし役して!」 「断る。」 かえでが顔の前で両手を合わせるも、無事に打ち砕かれた。が、かえでには切り札がある。にやりと笑うかえでへ、眉間に皺を寄せ才蔵。 「火垂も、参加するって言ったら…?」 「……。」 ーーーーー 「ま、色々あるのよ。」 かえでがひゅひゅーと、カスカスの口笛を吹く。宝香にはこっそり、グルになってもらっていたのだ。火垂は、ゆっくりと首を傾げた。だが、この人数だと二人一組ができない。かえでが頭を抱えていると、あ、と伊佐が声を出した。そのまま急に走り出し、帰ってきたと思ったら、小助の腕をぐいぐい引っ張っていた。 「小助さんも、参加するって。」 「む…?」 「鎌之介と一緒に行くって。」 「むむ…?」 「はぁ?!いやいやいや!俺は伊佐と行きたいし!」 「嫌だ!どうせお前は俺をおちょくって楽しみたいんだろ!俺は佐助と行くからな!」 「だからって、なんで小助なんだよ…。」 「拙者では、不満でござるか?」 キョトンとしている小助を見て、口をむにゃむにゃする鎌之介。 結果、佐助と伊佐、鎌之介と小助、宝香と宝香というペアで肝試しに参加することになった。順番に、かえでが指定したルートをたどる。 「うぉぁぁあ!!」 「うわぁあ!佐助うるさい!!」 先頭の佐助伊佐コンビは、いちいち全ての仕掛けに大声で驚くものだから、かえでは腹をかかえていた。 「ぅい!びっくりした…。」 「あはは、確かに、これはなかなか本格的でござる。」 「なんでそんな笑ってられるンだよ…。」 「自分より怖がっている者を見ると、なんだか怖くなくなってしまったでござる。」 「くっそぉ…それを俺は狙ってたのに…。」 伊佐を眺めながら笑ってやろうと思っていた鎌之介は、してやられた、と思いながらも、小助と楽しんでいた。小助は、驚きはしているが、そんなことより鎌之介が面白いようである。 「あ、あそこに…。」 「いやぁあ!何何!?」 夜目の効く火垂は、まさかの全ての仕掛けに気がついてしまった。が、何故かことごとく仕掛けにビビって火垂にしがみつく宝香。怖がっている火垂を見れるかもよなんて、かえでにほだされた才蔵は、自分の浅ましさに頭を抱えた。 「ふぅ、これで終わりか?」 一番初めにおどかし役の十蔵が道に出る。と、後ろから何やら声がした。 「あ、海野の声だ。もう一人は、沙恵かな。」 楽しそうな雰囲気にやってきたのだろう。せっかくだしと、十蔵はその二人もおどかしてやった。 「わぁ!!びっくりしたぁ!」 「うふふ。」 沙恵は相変わらず動じねぇなぁと思いながら、二人の少し後を、仕掛けを回収しつつ追った。 ゴール地点に行くと、参加者達がワイワイ話していた。後ろからかえでと才蔵も合流した。 「髪の毛長いやつ、アレやばかった。佐助が一番叫んでた。」 「あれはねぇ、多分才蔵でしょ?私、すぐ分かったよ。」 「そうだ。」 「いやぁ、俺一人で参加したけど、まじで怖かったね。」 …え?十蔵はとんでもない発言を聞いた。 「は?海野お前、沙恵といたじゃねぇか。」 「え?沙恵ちゃんは今日心愛ちゃんと一緒に寝るって言ってたから知らないけど…?」 「私のところには一人で来てたよ?てか、いきなり参加するんだもん焦ったよ〜。」 「えへへ、なんか楽しそうだったから、宝香と宝香に声掛けて参加したんだよね〜。」 二番手におどかし役のかえでと、二人で笑う海野。 「え、ちょっと待て…じゃああれって…。」
ビジュアル公開!
真田くノ一「輝池 火垂」 元伊賀忍者。大人しく、自分を表に出さないタイプ。鉤爪が得意武器。伊賀の里で頭領となる予定だった。 誕生日:二月五日 イメージカラー:空色