澄永 匂(すみながにおい)

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澄永 匂(すみながにおい)

連載中の作品は、金、土曜日辺りに更新予定です。 大学生&素人なので文章がぎこちないですが温かく見守ってください。 中学生の頃に作っていた話(元漫画予定だったもの)を書けたらいいなと思い、始めました。

第七十六話

苦しい表情を浮かべる男は、森に姿を隠していた。顔の下をお面と布で覆っており、目元しか顔が確認できない。 「次から次へと…。」 呟いた瞬間、近くの木々がササッとなる。才蔵が影から飛び出し、男に逆手持ちの忍者刀を振る。男はそれを躱し、何度かバク転した。すかさず才蔵は煙玉を炸裂させ、気配を消す。と、男が顔の前で指を二本立て、何やら術を使う。男のすぐ右から急に才蔵が飛び出してきた。が、男はそれを軽々避ける。また霧に消える才蔵。今度は真後ろから飛び出すも、指を二本立てた男が易々と避けた。次こそはと霧の中を駆け抜けた後、才蔵は男の右へ飛び出す。が、また避けられる。どうやら、術を使い才蔵の位置を探っているようだ。才蔵の姿を目視する前に才蔵の位置を認知し、避けているらしい。さすがの才蔵もなにか思ったのか、攻撃速度を上げる。しかし、それは才蔵の体力を減らし続ける選択となる。 「攻撃の種類これだけなの〜?ボク、もう攻略しちゃったよ〜?」 男は才蔵を煽る。それに煽られるような才蔵では無いのだが、ギリギリで避けてみたり欠伸をしたりするものなので、さすがに集中力が切れて来たようだ。才蔵の煙玉を使う攻撃は、霧のようになった一面を自由に動ける才蔵が圧倒的有利のため、誰にも破られないものだった。しかし、目の間にいる生意気な男が、それを打ち破ったのだ。 「あっは!あれあれ〜?焦ってるのかなぁ〜?」 才蔵のいる方向を目で置いながら嘲笑う男。才蔵は足に渾身の力を込め、自分の中の最速スピードで男に詰め寄った。が、刀が男の手前で停止する。男は才蔵を見上げ、ニヤリと笑った。その瞬間才蔵が察する。刀を受けられたのではなく、術によって掴まれているのだ。それどころか、才蔵の手は刀を離さない。全身が硬直している。 「あらら〜。ボクに捕まっちゃったね。悔しい〜??」 「……。」 下を向いている才蔵を煽る男は、才蔵の顔を術で上げさせた。すると、男の顔を見た才蔵が、口あての向こうで口角を上げるのが分かった。 「な、何笑って……」 男が呟いた瞬間、男の右側に旋風が吹き、霧が勢いよく晴れた。そこにいたのは、拳を思いっきり引いた佐助だった。男は才蔵に集中しすぎて、佐助の存在に気がつけなかったのだ。術を使おうとしたがもう遅い。 「ぅおらぁぁぁあ!!」 爆音が轟き、男と才蔵を舞う。男は受身を取ろうと、才蔵の術を解いた。 「……っ!」 だが、才蔵はしっかりと男を掴んだ。そのまま目線を拓けたところに移す。一緒に庭へ突っ込もうとしたのだ。才蔵は腕の中で暴れる男を抑え、地面へと急降下する。と、男は空中で急に身体をひねり、才蔵の背中は思いっきり地面に叩きつけられた。呻き声をあげた才蔵の隙をついて、腹に一発お見舞し、才蔵から離れる。が、真田家の全員が、男の姿を捉えた。清海が、鋭い眼光を向ける。 「お前が術師か。」 薄い花緑青のような髪色に群青色の瞳。全身僧侶のような白っぽい服に、謎の紐がヒラヒラしている。梵天の着いた結袈裟を着け、いかにもな格好である。 「あーあ、見られちゃった。」 服に着いた土を両手ではたき落としながら、のらりくらりと呟いた。そして、両手で頭に乗った頭襟を整えると、真田一派に一礼した。 「お初にお目にかかります。私、鬼一道明(きいち どうめい)と申します。以後、お見知りおきを。」 「誰の差し金だ。」 道明の挨拶を遮るように声を上げたのは、ぐったりしている望月を抱えた海野だった。 「いやぁそれは言えないでしょ。まぁ、お察しの通りだとは思うけどね。」 腰から垂れ下がった紐の一つをくるくる回しながら話すその姿勢は、こちら側を挑発しているようだった。握り拳を作る心愛の横に、沙恵が立っている。 「徳川…。」 かえでの呟きを聞くものはいなかったが、誰もが容易く想像はできただろう。関ヶ原の戦いにて、幸村は西軍におり、徳川家康率いる東軍とは敵対関係にあった。その戦いは、結果的に西軍が負けたとはいえ、徳川は真田昌幸・幸村親子にかなりの汚名を着せられている。伊賀といい、この前の楼主といい、今回の術師といい、真田家は徳川からかなり厳しい目を向けられているのだ。 「そういうわけなんで、真田幸村、お命頂戴!」 「させるか!」 道明が手印を結ぶ前に、十蔵が鉄砲を撃った。道明は、弾のギリギリでバク転しながら避ける。 「ッチ…危ないなぁもぉ。」 体勢を整え、何やら印を結んだ。真田一派は警戒を強める。が、何も起こらない。 「…ハッタリか?それなら、こっちから!」 鎌之介が道明に向かって、鎌を投げた。横に波打ちながら飛ぶ鎌。それが高い金属音とともに、空高く舞った。弾かれた、素手の道明に。 いや、違う。道明は弾いていない。鎌を弾いたのは、佐助だった。 「佐助!!」 かえでは突然大声をあげ、佐助を呼ぶ。その声に反応して上げた佐助の顔は、誰が見てもおかしいと気が付くものだった。その中でも火垂は、小さな声を漏らし、両手で口を覆った。そう、今の佐助の顔を見たことがあったのだ。 「……まずい…。」 それは、七年前の才蔵と同じ、真っ暗の瞳だった。まるで、魂が抜けてしまったような、そんな目をしていた。佐助は、驚いて止まった空気の最中に、思いっきり刀を振って斬りこんだ。既のところで我に返り、太刀筋を避ける真田一派。 「あはは!びっくりしてるね〜。どう?仲間に斬りつけられてる気分は。」 仰け反りながら、真田を煽る道明。佐助は飛び上がり、道明の横へ降り立った。どうやら佐助は、道明の術によって操られているらしいのだ。 「はぁ?!なんだよ…。佐助!」 困惑の色が隠せない鎌之介が眉間に皺を寄せ、佐助に問いかける。その間も、佐助の表情が変わることはなかった。道明が、真田を見回して嘲笑う。 「さてと、お仲間大好きな真田さんよ。目の前の仲間を切り捨てられるかな?」

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戦慄!肝試し

滝のような蝉時雨の中、かえでは頭を抱えていた。あまりにも暇だからである。唸りながら床に大の字になると、十蔵がそれを覗いてきた。 「騒がしや、耳に轟く、蝉の声。かえで、心の俳句…。」 「夏バテか?」 「こんな暑さじゃバテないよ。なんだか暇だなぁって…。」 「んー、じゃあ肝試しでもやって見るか?」 かえでが勢いよく頭を上げた。ので、十蔵の額に激突した。 言い出しっぺの十蔵、かえでに加え、闇に溶け込むことが得意な才蔵が脅かし役となって、肝試しをすることになった。希望者は、佐助、鎌之介、伊佐、宝香に火垂。 「え!?少ないって!他のみんなは?」 「めんどくさいってさ〜。」 「私は、才蔵が参加してることが意外すぎてびっくりしてるけど。」 佐助と火垂が答える。才蔵はかえでに半ば無理やり引っ張ってこられたのだ。 ーーーーー 「お願い!おどかし役して!」 「断る。」 かえでが顔の前で両手を合わせるも、無事に打ち砕かれた。が、かえでには切り札がある。にやりと笑うかえでへ、眉間に皺を寄せ才蔵。 「火垂も、参加するって言ったら…?」 「……。」 ーーーーー 「ま、色々あるのよ。」 かえでがひゅひゅーと、カスカスの口笛を吹く。宝香にはこっそり、グルになってもらっていたのだ。火垂は、ゆっくりと首を傾げた。だが、この人数だと二人一組ができない。かえでが頭を抱えていると、あ、と伊佐が声を出した。そのまま急に走り出し、帰ってきたと思ったら、小助の腕をぐいぐい引っ張っていた。 「小助さんも、参加するって。」 「む…?」 「鎌之介と一緒に行くって。」 「むむ…?」 「はぁ?!いやいやいや!俺は伊佐と行きたいし!」 「嫌だ!どうせお前は俺をおちょくって楽しみたいんだろ!俺は佐助と行くからな!」 「だからって、なんで小助なんだよ…。」 「拙者では、不満でござるか?」 キョトンとしている小助を見て、口をむにゃむにゃする鎌之介。 結果、佐助と伊佐、鎌之介と小助、宝香と宝香というペアで肝試しに参加することになった。順番に、かえでが指定したルートをたどる。 「うぉぁぁあ!!」 「うわぁあ!佐助うるさい!!」 先頭の佐助伊佐コンビは、いちいち全ての仕掛けに大声で驚くものだから、かえでは腹をかかえていた。 「ぅい!びっくりした…。」 「あはは、確かに、これはなかなか本格的でござる。」 「なんでそんな笑ってられるンだよ…。」 「自分より怖がっている者を見ると、なんだか怖くなくなってしまったでござる。」 「くっそぉ…それを俺は狙ってたのに…。」 伊佐を眺めながら笑ってやろうと思っていた鎌之介は、してやられた、と思いながらも、小助と楽しんでいた。小助は、驚きはしているが、そんなことより鎌之介が面白いようである。 「あ、あそこに…。」 「いやぁあ!何何!?」 夜目の効く火垂は、まさかの全ての仕掛けに気がついてしまった。が、何故かことごとく仕掛けにビビって火垂にしがみつく宝香。怖がっている火垂を見れるかもよなんて、かえでにほだされた才蔵は、自分の浅ましさに頭を抱えた。 「ふぅ、これで終わりか?」 一番初めにおどかし役の十蔵が道に出る。と、後ろから何やら声がした。 「あ、海野の声だ。もう一人は、沙恵かな。」 楽しそうな雰囲気にやってきたのだろう。せっかくだしと、十蔵はその二人もおどかしてやった。 「わぁ!!びっくりしたぁ!」 「うふふ。」 沙恵は相変わらず動じねぇなぁと思いながら、二人の少し後を、仕掛けを回収しつつ追った。 ゴール地点に行くと、参加者達がワイワイ話していた。後ろからかえでと才蔵も合流した。 「髪の毛長いやつ、アレやばかった。佐助が一番叫んでた。」 「あれはねぇ、多分才蔵でしょ?私、すぐ分かったよ。」 「そうだ。」 「いやぁ、俺一人で参加したけど、まじで怖かったね。」 …え?十蔵はとんでもない発言を聞いた。 「は?海野お前、沙恵といたじゃねぇか。」 「え?沙恵ちゃんは今日心愛ちゃんと一緒に寝るって言ってたから知らないけど…?」 「私のところには一人で来てたよ?てか、いきなり参加するんだもん焦ったよ〜。」 「えへへ、なんか楽しそうだったから、宝香と宝香に声掛けて参加したんだよね〜。」 二番手におどかし役のかえでと、二人で笑う海野。 「え、ちょっと待て…じゃああれって…。」

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真田くノ一「輝池 火垂」 元伊賀忍者。大人しく、自分を表に出さないタイプ。鉤爪が得意武器。伊賀の里で頭領となる予定だった。 誕生日:二月五日 イメージカラー:空色

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登場人物紹介二

真田家を守る戦士、くノ一達計十七名の             身長・体重・年齢表(一六一五年) 真田 幸村  四十九歳 168cm 50kg 真田 大助  十五歳 153cm 43kg 真田十勇士 猿飛 佐助  十七歳     霧隠 才蔵  十八歳  165cm 56kg    181cm 65kg 望月 六郎  二十一歳    海野 六郎  二十一歳  170cm 61kg    170cm 62kg 三好 清海  二十歳     三好 伊佐  十七歳 190cm 85kg    166cm 53kg 由利 鎌之助  十八歳    穴山 小助  二十七歳 180cm 69kg    172cm 62kg 筧 十蔵  三十歳      根津 甚八  二十五歳 177cm 70kg    175cm 62kg 真田くノ一 手飛 かえで 十七歳    希谷川 宝香 十七歳 167cm 55kg     158cm 45kg 輩 心愛 十五歳      一 沙恵 二十二歳 155cm 44kg     167cm 57kg 輝池 火垂  二十歳 157cm 45kg 〜おまけ〜 年齢ランキング 一、幸村 二、十蔵 三、小助 四、甚八 五、望月 海野 七、火垂 清海 九、沙恵 十、才蔵 鎌之介 十二、かえで 佐助 伊作 宝香 十六、大助 心愛 身長ランキング 一、清海 二、才蔵 三、鎌之介 四、十蔵 五、甚八 六、小助 七、望月 海野 九、幸村 十、かえで 沙恵 十二、伊佐 十三、佐助 十四、宝香 十五、火垂 十六、心愛 十七、大助 体重ランキング 一、清海 二、十蔵 三、鎌之介 四、才蔵 五、海野 小助 甚八 八、望月 九、沙恵 十、佐助 十一、かえで 十二、伊佐 十三、幸村 十四、宝香 火垂 十六、心愛 十七、大助

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心配ご無用

「うん、そうだろうね。」 令和7年7月7日。 天気、雨。 「……ま、期待はしてないけどさ。   ……織姫と彦星、会えてるといいな。」 「織姫〜、今日どうする?会う?」 「え〜スマホでいつでも話せるし、今年はもうよくない?笑」 「クッソ暑いしな笑笑 じゃ、明日電話するわ。おやすみ〜。」 「ほーい。おやすみ〜。」

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発覚!本当の顔 其ノ壱

才蔵は、表に見せないように頭を捻っていた。最近、火垂がやたらくノ一達と仲良く話しているのを見かける。火垂の性格上、そう簡単に心を開くことは無いため、ここ数日で一気に仲良くなったのが、不思議で仕方なかった。だが、何となく理由を聞くことが出来なかった。急に「最近くノ一にも馴染んできたね。何かあったの?」なんて気色の悪いこと、聞けるはずがないと考えていた。が、情報を扱う忍びの血が騒ぐ。なぜ、急に火垂がくノ一と打ち解けたのだろうか。 そこで才蔵は、まずかえでと仲の良い佐助に、かえでと火垂について話を聞きに向かう。 「うーん…。かえでって基本的に誰に対してもあの感じだから、分かんねぇなぁ。でも確かに、最近火垂馴染んできたよな。なんでだろ…。」 次に才蔵は、宝香と仲の良い大助に、宝香と火垂について話を聞きに向かう。後ろに佐助を連れて。 「あの二人は姉妹でしたから、ずっと仲が良かったですけどねぇ…。」 「最近、くノ一と急速に打ち解けたようなのですが、宝香がなにやらしてくれたのでしょうか。」 「う〜ん、そんな話は宝香ちゃんからは聞いていないですけど…。気になりますね…。」 次に才蔵は、沙恵と仲の良い海野に、沙恵と火垂について話を聞きに向かう。後ろに佐助と大助を連れて。 「沙恵ちゃんねぇ、確かに最近火垂と下町行ったりしてるね。なんでかって?え〜…、さぁ?」 次に才蔵は、心愛と仲の良い鎌之介に、心愛と火垂について話を聞きに向かう。後ろに佐助と大助と海野を連れて。 「おい、何となくそこは俺が海野っちより先だろ。」 「お前と話すのは疲れる。」 「ぬぁんだとぉ〜??心愛ちゃんのきゃわいい話してやんねぇぞ?」 「そんなことは聞いていない。」 まぁまぁと、二人をなだめる佐助と海野。 「まぁ最近、火垂と下町の甘味処に行った、とは言ってたな。心愛ちゃんは桜餅食べたらしいぞ。可愛すぎん??あの小さな口で桜餅はむはむしてるとか…。また誘ってみよ。その時は俺が…。」 鎌之介がぶつぶつ言い出した。こうなると余計に面倒くさい。才蔵は大助の背中を押しながら、静かに部屋を出た。取り残された佐助と海野は、鎌之介の餌食となった。 次の日、才蔵の元へ佐助と大助がやってきた。 「今日、くノ一皆でお出かけするらしいぜ。」 「ついて行ってみますか?」 「……あぁ。」 さらに、海野、鎌之介にも声をかけ、五人の男達がくノ一の後をつけた。 くノ一達は、わいわい話しながら下町を歩いている。そしてそのまま、下町から少し外れたところにある甘味処へと入っていった。五人は静かに近づいて、外から聞き耳を立てる。 「こんな所にもあったんだ〜!あたし知らなかったよ。」 「え〜!いっぱいあるじゃん選べなぁい!」 「ふふっ。心愛、楽しそうね。」 店内はそれほど客がおらず、くノ一達の声がよく聞こえた。 「姉さん、よくこんな所知ってたね。」 「うん、まぁね…。」 話の流れ的に、火垂がこの甘味処見つけて他のくノ一達を誘っているようだ。聞いていた五人は少しばかり、驚きの表情を浮かべている。 「うわ〜どうしようかな。かえで何すんの?」 「そういう宝香こそ、決めてないでしょ?」 「だって迷うでしょこれは〜。姉さんはもう決まってるの?」 「うん…。」 「え、早くない?もしかして、下見に来てた?」 「う、うん…。」 火垂はもごもご話している。わざわざくノ一達とお出かけするために、火垂が下見を?才蔵には、ますます分からなかった。 「ひ、一人でお店に入るのが恥ずかしくて…。」 「だから最近、ほっちゃん甘味処に誘ってくれるんだね!美味しいし、ほっちゃんとも話せるし、いつだって付き合うよ!」 「ところでさ、姉さんがそこまでして食べたいものって?」 「アレ、でしょ?」 沙恵が火垂に優しく笑いかける。くノ一と外の男達が、火垂の声に耳を傾ける。 「わ、私、みたらし団子が大好きなの!」 才蔵はハッとした。そういえば、伊賀にいた頃からやたらとみたらし団子を食べているところを見た。そしてたまに、食わされることもあった。甘いものがそこまで好きではない才蔵だが、当時は長の娘からいただく物を断るなど考えもしていなかったので、食べていたのだ。 「つまり、火垂はみたらし団子を食べたいけど、一人は恥ずかしいから、くノ一を誘ってるうちに仲良くなった。って訳だな。」 佐助がまとめる。甘いものが好きなんだねぇと、つい笑みがこぼれる大助。男達は、こっそりと甘味処を後にした。 その日の夜に、後をつけていたことに気付いていた火垂に才蔵が詰め寄られ、話の全貌を聞いた火垂が顔を真っ赤にするのは、また別のお話。

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重大なお知らせ。

こんにちは、澄永です。 これからの投稿についてなのですが、一ヶ月ほどお休みさせていただきます。 体調が悪いなどそういった理由ではなく、シンプルに生活がかなり忙しくなるので、お休みさせていただきます。 その間は、現在も連載している『真田の明』をもう一度読み返そう!ということで、プロローグから順につぶやきへ載せていこうかと思います。 ぜひこれを機に、もう一度振り返る、初めて読んでみる、など、『真田の明』をご贔屓にしていただければ幸いです。 これからも、私はあまり表立って現れることはありませんが、生きていますので!『真田の明』を完結させてみせますので!暫しお待ちくださいませ。 これからも、『真田の明』をよろしくお願いいたします。

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第十七章 来訪狐 第七十五話

「っ寒!」 下町を見廻り中の鎌之介が身震いする。春になったものの、未だに風は冷たく吹きつける。甚八の左腕にしがみつく鎌之介。 「お〜い、くっつくなよめんどくせぇ。小助にしとけよ。」 「む、拙者の右腕も貸してやろう。」 「え、いや、いいわ。」 鎌之介は、小助に姫抱きされて以降、小助が少々苦手であった。苦手と言うよりも、恥ずかしいだけのようだが。 三人が屋敷へ帰ってくると、一同は庭に出ていた。珍しく、幸村も一緒に。幸村の左右には海野、望月が座っている。どうやら、それぞれで模擬戦をしているようだった。佐助と十蔵、宝香と清海、伊佐と心愛、という組み合わせだ。鎌之介も混ざろうと、早速才蔵に喧嘩をふっかけに向かう。と、何かに気がついた小助がこそっと沙恵の元へ近付いた。 「何かあったのでござるか。」 「えぇ。十蔵さんが胸騒ぎがするって言うから、皆で模擬戦をしつつ幸村様をお守りしようって。」 「ふむ、相分かった。」 小助が落ち着いて周りを見渡すと、沙恵とかえで、才蔵が三角形になるように立っているのが分かった。そして、森に一番近い位置で佐助と十蔵が打ち合っている。恐らく、十蔵が何かを察知すると何かしら合図を送るのだろう。皆(みな)平常心だが、どことなく緊張感が走っていた。 すると突然、十蔵が佐助を森に突き飛ばした。その時、空上に突然白い輝きが現れた。その場にいた全員が、上を見上げる。と、その光から半透明な緑色が広がり、空全体が緑色に変わった。茂みから顔を出した佐助が、真っ先に声を上げる。 「っなんだ?!空が……」 全員が空を眺める中、かえでだけが辺りを見渡す。 「…違う!空じゃない!屋敷が囲まれてる!」 半透明の緑は空ではなく、真田の屋敷や周辺の森を包み込んでいたのだ。傍から見れば、それはまるで、帳が下りているようだった。混乱の最中、海野と望月は刀に手をかけ、幸村を挟む。と、森の方から何か赤い光が幸村目掛けて飛んできた。海野は刀を抜き、それを切り裂こうと刀を上から下に振った。が、なんと光は的確に狙った海野の刀を簡単にすり抜けたのだった。斬った感覚が無い。海野はその光が、物体では無いという事が分かった。 「幸村様ァー!」 振り返った海野が叫ぶ。光が幸村の手前まで来た時、望月が幸村の前に立ちはだかった。 「くっ……!」 望月に触れた赤い光は、大きく広がり、望月を包み込む。そのまま宙を浮いた望月は、上を向き全身の力が抜けている。まるで意識が無い様だった。すると、さらにもう一つの赤い光が、幸村目掛けて森から飛んでくる。 「ふっ!」 火垂が横から、手裏剣を投げる。すると今度は、手裏剣が赤い光を纏う。よく見ると、手裏剣には札のようなものが付いていた。 「相手は術師だ!油断すんな!」 清海の怒号で、皆(みな)の気はさらに引き締まる。佐助と才蔵は目を合わせて、森の中へと駆けていった。その間も、森からの攻撃は続く。佐助と才蔵を横目に見送ったかえでは、心愛を連れて屋敷の中へと走った。 赤い怪しい光が、庭を変幻自在に舞う。飛び道具を使う十蔵を中心に、光の動きを止めるため、石や武器を投擲する。 「…狙いは私ね。」 戦いの最中、沙恵は攻撃の様子が変わったことを察知した。今はどうやら、幸村ではなく沙恵に対して攻撃が飛んできているようだ。術師はこの短時間のうちに、沙恵が腕利きであることを見抜き、自身の目的達成のために沙恵を潰そうと考えたのだろう。沙恵は飛び道具を全て使い果たしており、石や木の枝など乱定剣で応戦していた。と、沙恵に向かってまっすぐ光が飛んでくる。 「はっ!」 宝香の得意武器、自家製クナイが札の餌食となる。沙恵は軽くお礼し、同時にあることを思いついた。調度良いくらいの木の枝を、宝香のクナイに向かって投げる。投げた木の枝は、クナイの中心にある穴と札を貫通した。すると、札の効力が無くなったのか、札のまとっていた光が消え、クナイが地面に音を立てて落ちた。 「皆っ!御札を壊して!」 沙恵の攻撃に気がついた宝香が叫ぶ。それ合わせて、各々で札を破り出した。海野は深呼吸し、一ミリのズレもなく真っ直ぐ刀を振り下ろす。甚八は大太刀を、音をも超える速度で振るった。二人の刃が札を真っ二つに斬り裂く。伊佐は、縦横無尽に動く札を、長い薙刀を振りかぶって斬り刻む。術が発動するよりも早く、札が付かないように繊細に、斬りつけ続ける。 その頃、かえでと心愛は屋根の上にいた。 「かえで、何するの。」 「あたしの考えだけど、この帳によって術師は力を強化してるんだと思う。」 そう言いながら、かえでは帳のてっぺんを指さした。そこには、札のようなものがあった。 「あれ、撃ち抜いてくれない?今からあたしが、心愛をあれの近くまで飛ばす。」 「任せて。確実に仕留めてあげる。」 「バレたらまずいから、一発でお願いね。」 チャカと音を立てながら一丁の短筒を構える心愛。かえでは両手を合わせ、心愛を飛ばす体勢をとる。勢いよく走り出した心愛は、かえでの手のひらに右足をかけた。 「ぅおりゃ!」 かえでが背中を反らし、心愛を上へと飛ばした。高く舞い上がった心愛は、回転しつつ体勢を整える。そして、心愛の大きな瞳が、帳の中心をしっかりと捕らえた。 「絶対外さない。」 ドンッと低い音を立て、煙が銃口から漏れる。帳を展開していた札は、心愛の放った銃弾がど真ん中を見事撃ち抜き、ハラハラと落ちていった。ゆっくりと、帳も晴れていく。そして、自由落下する心愛を空中でキャッチしたかえでが、ふわりと降り立った。 「心愛、グッジョブ!」 「ぐっじょぶ!」 喜ぶ二人とは反対に、眉間に皺を寄せる者が森にいた。 「くっそ…、札も結界も壊された…。どうなってるんだよ。」

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発掘!珍妙コンビ 其ノ弐

スパン!と部屋の障子が開く。驚いた小助は筆を止め、勢いよく音のした方を振り向く。と、べしゃべしゃに顔を濡らした心愛が立っていた。 「心愛殿、どうしたのでござるか。」 「まこちゃん!!!」 「んおぉ…。」 突然抱きついてきた心愛。諭すように背中を撫でる。心愛はわんわんと声を上げて泣き、小助の服にしみをつける。ひとしきり泣いた後、小助が様子を聞くと、鎌之介と喧嘩をしたらしい。 「鎌之介ったら、私の事子供扱いするのよ…!もう子供じゃないもん!」 「な、なるほどでござる…。」 確かに、鎌之介は心愛を溺愛しており、過度に甘やかしているなと周りは思っていたが、その態度がとうとう本人の逆鱗に触れたようだ。 「もういいし!私、まこちゃんといる!」 「え…?」 「まここあ組の結成!!」 「え?え?」 意味が分からず、混乱しながら心愛を見る小助。そんなことをお構い無しに、小助の左腕にしがみついている心愛。小助は長く息を吐き、心愛の方を見た。 「……どうしたの?」 火垂は、縁側を塞ぐように寝転がっている藤色に、自身の部屋への通路を塞がれていた。藤で隠れていた顔が見えると、目に涙を浮かべていた。 「火垂ぅ…。」 あ、めんどくさい。そう感じた火垂はくるりと向きを変える。が、左足をがっちりと掴まれた。話しかけねばよかったと一瞬後悔したが、仕方がないので振り返った。 「どうしたの、鎌之介。」 「実はよぉ……。」 鎌之介はグズグズと鼻を鳴らしながら、心愛と喧嘩してしまった(と言うより、嫌われた)と話した。火垂は唖然とした。と言うより、そんなことで泣いているのか?と疑問が浮かんだ。 「あ、あのさ…、多分それは違うと思うな…。」 「へぇ……?」 火垂は落ち着いたような、少し緊張しているような声色で話し続ける。 「多分…、追いかけて欲しかったんだと思うよ。…多分。」 「……え?どゆこと…?」 「だって、心愛が鎌之介のこと嫌いになるなんて、私想像出来ないよ。いつも楽しそうにお話聞かせてくれるから。」 「……。」 「親から愛というものを教えてもらっていない心愛にとって、鎌之介は、唯一無二の存在だと思う。」 「…そうか。ありがとう、火垂。」 そういうと急に、鎌之介が立ち上がった。と思ったら、望月が怒鳴りそうなほど大きな足音を立てて走り出してしまった。火垂はなんとなく気になって、こっそりと後をつけた。 小助と心愛の耳は、その足音を捉えた。心愛は小助の背後に隠れる。と、鎌之介が現れた。鎌之介が、小助に隠れた心愛をロックオンする。 「心愛ちゃん!ごめんね!俺、心愛ちゃんの気持ち、全然考えられてなかった。でも俺、やっぱり心愛ちゃんの事大好きだから!」 「ホントぅ……?」 心愛がひょこっと顔をのぞかせながら、上目遣いする。それに一瞬仰け反る鎌之介。 「可愛っ…じゃなくて、本当!信じてくれ!」 「……鎌之介!!」 急に飛び出した心愛が、鎌之介に抱きついた。鎌之介は、心愛をしっかり捕まえる。 「心愛ちゃん!」 「鎌之介!」 熱い抱擁を見せられている小助は、目が漢字の一のようになっている。二人の周りにはハートがふわふ浮いているように見えた。 「まこちゃん…『まここあ組』は解散しよう…。ごめんね…。」 「お、おぉ…。…なんか拙者がフラれたみたいになってるでござる…。」 キャッキャしながら去る二人を見つめる小助と火垂。ふふっと笑う小助に、そっと眺めていた火垂の言葉が聞こえることは無かった。 「私も、才蔵に会いたくなってきたな…。」

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春、満開

この街には、桜が咲かない。桜の木が無い訳じゃない。でも、何故か咲かない。この街で生まれ、この街で育った俺は、二十四年間、桜なぞ見たことがなかった。だが、笑えることに、俺の実家である神社の名前は、『桜雲神社』という。桜が満開で雲のようだ、という意味で使われる『桜雲』には、全くそぐわない。この街の高台にあり、街の人も多く訪れ、親しまれている俺の実家。今日も俺は、青々とした山の上から、街を眺める。 「なんでこの街には桜が咲かないんだ?」 独り言のようにそう呟いた俺の名前は、『桜田 潤』。潤う桜、だなんて勘弁してもらいたい。 「あんたがこの街の桜なんだよ。」 母さんはそう言う。そりゃ俺は桜雲神社の息子だし、そういう表現も納得だが、なんだかムズムズする。 そう思いながらも、俺は神社の本殿をうろついていた。すると、桜雲神社の歴史が書かれてある本を見つけた。もしかしたら、何かわかるかもしれない。そう思い、俺は、ゆっくりページをめくった。 『桜雲神社。この桜が咲き誇る街の象徴である。桜雲神社には、春をもたらす神様が祀られている。この街から、実に愛されているその神は、時折、下界へと舞い降りる。下界の者たちは、さらに日頃の感謝を神へと伝えるようになった。』 ……まぁ、よくある神話だ。 『その神が舞い降りている間、この街にある全ての桜が咲かない。』 変な神話だ。春をもたらす神様なのに、舞い降りたらダメなのか? 『桜の花びらが舞い散るように、桜も花をつけることは無い。だが、また神が天に昇る時、この街は桜花爛漫となる。』 …なるほど。そういう事か。 俺が……、そうなのか。 次の年、この街は桜で満開だった。たくさんの人々が桜を見て、どんちゃん騒ぎをしている。今日も俺は、蒼天から、街を眺める。

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