澄永 匂(すみながにおい)
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連載中の小説は、金・土曜日辺りに更新予定です。多忙ゆえ、更新しない週もあります…。 大学生&素人なので文章がぎこちないですが温かく見守ってください。 中学生の頃に作っていた話(元漫画予定だったもの)を書けたらいいなと思い、始めました。
回想!抱えたもの 其ノ弐
※このお話は、第七章 第二十七話以前の内容を含みます。本編の後に、お楽しみください。 「恩希〜!」 八歳の鎌之介が、浜辺で鎖鎌を振るっている恩希の元へ走る。 「来るんじゃない!怪我するよ!」 恩希の大声に驚き、ピタリと動きを止める鎌之介。鎌之介の瞳には、長い鎖を滑らかな動きで操る恩希が映っている。五年前、鎖鎌という武器を初めて見た鎌之介は、一気に虜になってしまった。それ以来、恩希が鎖鎌を扱っている時はいつも、すぐ側で見守っていた。 「綺麗だろう。自分の娘ながら感動するよ。」 真左衛門がそう言いながら、鎌之介の左側で足を止める。神社の家に生まれていれば、きっと立派な巫女にでもなれたろうに、と呟いていた。鎌之介は真左衛門の顔を無言で見上げている。 「なぁお父さん、俺も鎖鎌やりたい。」 「いや〜、俺は鎖鎌使えないから、恩希に聞いてくれ。」 困り顔で答える真左衛門。と、丁度一区切りついた恩希が、二人の元へ戻ってきた。 「恩希〜、俺に鎖鎌教えてくれ。」 「だめ。」 「え?!なんでなんで!」 「危ないから。」 恩希にあっさりと断られた鎌之介は、ほっぺを膨らませながら、地団駄を踏んでいる。 「…じゃあ、この枝で一発でも私に当ててみな。」 恩希はそう言いながら、足元にあった木の枝を鎌之介に放り投げた。鎌之介はあたふたしながらも受け取り、唇を噛み締めて首を縦に振った。 それからというもの、鎌之介は何度も恩希に向かって枝を振り続けた。しかし、恩希は常に持っている鎖鎌やおたまなどを使って、軽く受け止めていた。そしてその度に、豪快に笑うのだった。 「ははっ!そんなんじゃいつまで経っても変わんないよ。」 鎌之介は次第に、作戦を組みだした。 草履を作っている時は、両手に加えて足も塞がっている。そこに後ろから、音もなく振り下ろす。が、恩希は右に身体を傾け、ころんと転がりながら躱した。 「ほらね。」 そういいながら作業を続ける恩希。なぜ攻撃をの軌道を見ていない恩希が避けられるのか。鎌之介には全くわからない。 そこで鎌之介は、作戦を変更した。不意打ちは不可能。ならいっその事、正面から立ち向かえばいいのだと。鎌之介はその日を境に、恩希に不意打ちを仕掛けることはなかった。ひたすら素振りをし続けた。そして、恩希が鎖鎌を振るっている時は、呼吸することも忘れて観察し続けた。 そんなことを続け、鎌之介は十歳になった。振るっていた枝も、木刀のような太いものになった。素振りは垂直なものから、縦横無尽な動きに変わった。ふぅ、と一息ついた鎌之介は、浜辺でいつも通り鎖鎌を振るっていた恩希に木刀を突きつけた。 「恩希、勝負だ。」 「…やっと一発入れる準備が出来たんだね。」 動きを止めた恩希は、鎌之介の方をゆっくり振り返る。そして、右足をジリジリと引いた。 波がよせる。鎌之介が息を吸ったその瞬間、空気を切り裂くような音を立てながら、鎖鎌の分銅が飛んできた。鎌之介はそれを木刀で弾きつつ、走って距離を詰める。恩希はそれを察知し、鎌の方に持ち変えて受け止める。波が返す。 「はぁ〜。鎌は刀より短いから自分の間合いに入れば長さでは負けないって?」 「鎌は短い上に、一方向にしか攻撃できないしな。」 「…鎌なら、ね。」 「……!?」 恩希は不敵な笑みを浮かべる。急に鎌の力を緩めたと思ったら、鎖が鎌之介目掛けて飛んできた。鎌之介はギリギリで避けることが出来たが、恩希の狙いは鎌之介ではない。恩希は狙った通り、鎌之介の木刀に鎖を巻き付けていた。 「私の得意武器、鎖鎌なんだけど?」 「っでも、力なら負けねぇぞ。」 鎌之介は木刀をゆっくり自分の元へ引き寄せてゆく。恩希の足元から線が伸びる。 「……っふ!」 恩希はくるりと回って、自分の腰に鎖を巻き付けた。その衝撃に、鎌之介がふらついた。それを逃さない恩希は一気に鎖を伸ばし、まるで鞭のようにしならせた。すると、鎌之介の木刀は、いとも簡単に飛ばされてしまう。 が、鎌之介はその反動を使って恩希に後ろ回し蹴りをお見舞しようと、自身もくるりと回った。だか、恩希はそれにも気がついた。鎖を手に巻き付けピンと張り、鎌之介の足を受け止める。だが、鎌之介はそのまま鎖を膝裏に引っ掛けた。恩希の体勢が崩れる。 「うぉらぁぁあ!」 振りかぶった鎌之介の右手には、二年前に恩希が投げた、あの木の枝だった。恩希は防ごうにも、鎖を足で止められて動けない。 ペチン なんとも間抜けな音と共に、鎌之介は恩希の左肩に木の枝を当てていた。 「ちゃんと、この枝で一発当てたぞ。」 「……やるね、鎌之介。」 ふいっと力を抜く恩希のせいで、鎖に片足をかけていた鎌之介は、砂浜にどしんと尻もちも着いた。 「いってぇ…。」 「ははっ!ごめんごめん。…でもまぁ、約束だもんね。」 そういいながら、恩希は鎌之介に手を差し伸べた。 「教えてやるよ、鎖鎌。」 「……っ!うん!」 この恩希への白星は、鎌之介にとって、最初で最後のものであった。
回想!抱えたもの 其の壱
※このお話は、第十二章 第五十一話以前の内容を含みます。本編の後に、お楽しみください。 「ほら!姉さんこっちこっち!」 「待って、宝香。」 火垂の手を引いている宝香は、満面の笑みを浮かべながら、緑一色になった森を走る。真田屋敷がある森は、四季折々の美しい景色が広がる。 そして、屋敷からそう離れていない所に、池のようなものがあった。生き生きとした無数の青葉と高く上がった空の天色が、池の中で混ざりあっている。 「わぁ、綺麗だねぇ。」 「でしょ!姉さん絶対好きだと思って!」 「ありがとう、宝香。」 にへへ〜、とくねくねしながら照れる宝香。宝香は桜子という唯一の家族を亡くし、自分は過去も分からない独りぼっちなんだと思って過ごしていた。故に姉である火垂との再会が、本当に嬉しかったのだろう。 「でもね、姉さんをここに連れてきたのは、この池を見せたかっただけじゃないんだ。」 そう言いながら、すぐそばにある木に手を添え、上を見上げる宝香。それを見た火垂も、合わせて上を向く。 「これは、桜の木ね。」 「そう!大きいでしょ?」 よく見ると、池を囲うように桜の木が咲いている。時期的に、桜ではなく、青々とした葉がたくさん着いていた。その中でも一際大きな桜の木。これの下に二人がいる。すると火垂は、宝香の足元に少し大きな石が置いてあることに気がついた。いや、人の手が入ったように、少しだけ石が埋まっていたので目がいった、の方が正しい。石の上に小さな青い花が一輪、添えられている。 「これは、桔梗…?」 「変わった色の桔梗だねぇ。誰が置いたのかな。」 首を傾げながらも、その場にしゃがみこみ、石を撫でる宝香。 「これを、姉さんに見せたかった。」 そう言うと、その石を穏やかな目で眺めた。その様子を、少し引いた位置から見る火垂。 「これ、桜姉のお墓なんだ。」 「は、はるこ…の?」 「うん。桜姉はちょっと前に肺病で死んだ。」 宝香の一言で、辺りに沈黙が広がる。桜の葉が風に優しく撫でられ、音を奏でる。 「時々ね、ここに来て手を合わせるんだ。姉さんにも知ってほしくてさ。」 「……。」 火垂はゆっくりとしゃがみこんで、静かに手を合わせた。 「妹を守ってくれて、ありがとう。桜子姉さん。」 ぎゅっと目を瞑って手を合わせている火垂を見て、宝香は心が暖かくなった。そして、よし!と声を出したかと思うと、懐からおにぎりを取り出した。 「えへへ、三人で食べようと思って、ちょっと持ってきんだ〜。」 「宝香…。そうね、三人で食べよっか。」 宝香と火垂が両端のおにぎりを取り、残った一つを、宝香が石の前に置いた。 「「いただきます。」」 そこで二人は、桜子の話を沢山した。里に残っていた頃、火垂は桜子に稽古をつけてもらったことがあるとか、桜子と半蔵の模擬戦を見たことがあるとか。 「え、半蔵と戦ってたの?!」 「うん。いい勝負してたよ。うっすら覚えてる。」 「すげぇ…。」 身体が弱くなった後はあまり動くことはなかったが、調子が良い時は一緒に洗濯物をしたとか、つまみ食いをして怒られたとか。 「桜子姉さんって怒るんだ…。」 「ほっぺぶにゅーってつねられたよ。痛かったなぁ。」 「すごい…。」 そんな話をした後、火垂が空を見あげた。 「半蔵兄さんも、教えたら来てくれるかな。」 「…さぁ。」 宝香も空を見上げる。 「…そろそろ行こっか。」 「そうね。」 立ち上がって、歩き出した宝香。火垂は少しだけ桔梗を見つめたあと、ゆっくりと立ち上がり、宝香を追いかけた。 とある一室では、一輪の青い桔梗が、風に優しく撫でられていた。その様子を、交際異色が穏やかに見つめていた。
登場人物紹介二②
一 沙恵 167cm 54kg 一人っ子 柔らかい表情と物言いで、誰もが惚れ惚れしてしまう。が、三ツ目であり、親を殺した同胞を恨んでいる。誰にでも優しく接するが、鎌之介とは非常に仲が悪い。簪を武器として戦うが、刀や鉄扇など様々な武器を使う。三ツ目故に戦闘力が高く、真田No.二の実力。かなりナイスバディで心愛が憧れの的としている。故に懐かれている。良遊郭から引き抜いてくれた海野が好き。 元高原花魁、情報屋の橋姫。 海野 六郎 170cm 62kg 三人兄弟・長男 幸村の左腕的存在。朗らかな性格で、常ににこにこしている。糸目であるが、実際は目が見えないので目を閉じている。親のせいで目が見えなくなっている。視覚以外の五感が他の人以上に優れており、それらで人の位置などを感じている。真田一の剣豪と言われていたが、刀を持ち始めたのは、十二歳になってからであり、それまでは本でしか学んだことがなかった。沙恵が好き。 望月 六郎 170cm 61kg 一人っ子 幸村の右腕的存在。冷静というか、冷徹な性格。他人に対してだけでなく、自分にも厳しい。真田家の頭脳担当で、ほとんどの書類仕事を行う。刀が得意武器だが、右腕を負傷後、心愛作の銃を使う。実力は海野に少し劣るくらいだが、自分を卑下している。海野に相棒と言われ嫌がっているが、本心は嬉しいし、自分もそう思っている。絵心が全くないが、無自覚。 穴山 小助 172cm 60kg 二人兄弟・次男 語尾に「ござる」をつける侍。母親を救ってくれた医師に憧れ、独学で医学を習得。客観的に見ることが得意で、縁の下の力持ち。余り怒ることがなく、諭すことが多い。というより、怒っているところを見たことがない。一刀流ではあるが、得意武器は弓。オールラウンダーで非常にバランスが良い。よく海野と一緒に接待をしている。真田のママン。 筧 十蔵 177cm 67kg 五人姉弟・四男 元武士の猟師。年齢を思わせないような振る舞いで、誰とでも気さくに話せる。賭け事が好きな一面を持つが、引き際をわきまえている。猟師であったので、勘が優れている。筒の長い銃を武器として戦う遠距離派。腕はかなり良いので、真田家の凄腕スナイパー的存在。説明が苦手な感覚派なので、考えて話すことが苦手で、思ったことをただ言っている。 根津 甚八 175cm 62kg 一人っ子 元漁師の海賊。今は真田家と海を行ったり来たりしている。ねじり鉢巻がトレードマークで、海が命の男。武器は特に決まっておらず適当だが、途中からかっこいいという理由で、大太刀を使う。かなり力が強く、よく清海と腕相撲をしている。そして、負けている。また、かなり柔軟性もあるが、心愛には負けている。実はバツイチで、女の人と話すのが得意では無い。真田のパッパ。 希谷川 宝香 158cm 45kg 四人兄妹・三女 しっかり者のくノ一。かえでの相棒であり、真田くノ一の二番手。可愛いものに目がなく、惚れ気質なところがある。伊佐が好きだったが、大助のことを可愛いと思っているうちに気が変わる。武器は自分で編み出したクナイを四つ組み合わせたような物を使っている。パワーよりスピード派で走るのがかなり速い。 真田 大助 153cm 43kg 幸村の嫡男。少し引っ込み思案なところがある。自分の未熟さをよく理解しており、海野、望月から、一刀流の指南を受けながら毎日欠かさず鍛錬をしている。真田一真面目と言っても過言では無い。無駄な殺生を好まず、父の考えを尊重している。自分のことを可愛がってれる宝香が好きで、自分が守ってあげたいと思っている。身分が違えど好きは好き! 真田 幸村 168cm 50kg 優しい顔付きであるが、燃える心を持つ。戦国武将では珍しく、命を大切にし、男尊女卑の考えを持たない。心優しく、困っている人がいたらすぐに手を差し伸べる。駆け引きや、取り引きが上手で、その最中に人の本性を見抜いたりする。真田の十字槍を武器に戦う。また、妖刀である千子村正を愛刀にしている。
登場人物紹介二①
手飛かえで 167cm 52kg 一人っ子 はっきりとした物言いで、敵を作りやすいくノ一。が、仲間想いで正義感が強く、曲がったことが大嫌い。三ツ目に生まれ、親を早くに無くしたり、友達がいじめられたり、それを庇い自殺まで追い込まれたり、壮絶な過去を持つが、常に希望を持ち、上を向いている。かなり頭が良く、武道も嗜んでいたために強いが、それをひけらかしたりする。 猿飛 佐助 165cm 56kg 一人っ子 誰よりも命を大切に考えている忍者。父親が村の長で、英才教育を受けており頭が良く、実力も確か。しかし教育がエスカレートし、母親の手を借りて村を抜け出す。それ以来、命の大切さを知り、今に至る。明るい性格で、誰とでも仲良くなれる。飛び道具がかなり苦手。山にいる動物たちとは仲が良く、コミュニケーションも取ることが出来る。 霧隠 才蔵 181cm 65kg 三人兄弟・双子の弟 本名は、霧隠正蔵。冷静沈着で、寡黙な忍者。元々、命より任務という考え方を持っていたが、真田家に入ってからは仲間思いな性格に戻った。元伊賀最強。しっかりしており、よく参謀のような位置についている。伊賀の捕虜となり、拷問を受けた過去を持つ。静かではあるが、心の奥に情熱を秘めている。クナイが得意武器。元許嫁である火垂のことが好き。 輝池 火垂 157cm 45kg 四人兄妹・次女 かなり大人しい性格。が、戦や任務になると豹変し、冷酷になっていた。伊賀の頭領の家に産まれており、上下関係に敏感。任務以外のことは考えるなという教育を受け、人格がなくなりかけていたところ、才蔵のおかげで取り戻すことができた。才蔵が好きで、テンパるとすぐ顔を真っ赤にしながらあわあわしている。鉤爪が得意武器である。 三好 伊佐 166cm 52kg 二人兄弟・次男 クールになりたいけどなれていない。真面目な努力家で、諦めない心を持っている。僧侶であるが、諜報が得意で、変装したりしている。昔住んでいた寺で酷いいじめにあっているが、それをバネに今の強さを手に入れる。兄のことで常に頭を抱えているが、兄のことを尊敬している。薙刀を使うのも、兄の助言からである。どことなく、自分を後回しにするところがある。 三好 清海 190cm 85kg 二人兄弟・長男 見た目に反して大雑把でガサツ。怪力でムキムキなのに着痩せするタイプで、細身に見える。僧侶らしい錫杖(しゃくじょう)を使って戦う。弟の尻に敷かれているが、やる時はやるタイプなので、いざと言う時は命を懸けて戦う。昔あった弟のいじめに気づけなかった自分を悔やみ、今も弟に申し訳ないと思っている。人情に厚い男前な性格をしている。 輩 心愛 155cm 44kg 七人兄弟・次女 自分のことを一番可愛いと思っている。というのも、過去は佐助と同じような生活を強いられ、ポジティブに考えないと病んでしまいそうで、精神的に追い詰められていたからである。勉強は苦手だが、研究熱心で、自らで作り上げた短筒を愛用している。好き嫌いが激しく、敵対した人に対してはかなり酷い態度をとる。胸が大きい人が大嫌い。だが、沙恵は別。鎌之介とはバカップルっぷりをよく披露している。 由利 鎌之介 180cm 65kg 一人っ子→二人姉弟 お調子者だが空気が読める上、かなり頭が切れる。飄々としているが、人付き合いを大切にし、仲間のためなら命も投げ出す勇気を持つ。明るく誰とでも仲良くなれるが、沙恵とは話が合わない。武士の家に生まれ、関ヶ原の戦いで家を抜け出す。義姉の恩希から教わった鎖鎌を得意とする。ちなみに恩希は初恋の相手、今は心愛を溺愛している。
第八十三話
先程までのへらへらしていた態度とはうってかわり、表情を崩すことはなかった。 「ボク的には、鬼一が徳川寄りだから、どちらかと言うと真田側につきたい所なんだけど。」 徳川はどうでもいいけど、鬼一が気に入らないからなぁと、首を傾げる道明。だが、つい先程まで敵として乗り込んできた術師の発言である。命を助けれくれたとはいえ、到底信用はできない。真田家の面々は、無言で道明を見つめている。 道明は、まぁそうだろうね、とつぶやくと、急に短刀で親指に小さな傷をつけた。そして、式神を作り出していた御札に、少し血を染み込ませる。 「ボクは虚言を述べない。もし述べたら、一つ叩かれることとする。」 突然何を言い出すのかと思えば、その御札を下に置いた。そして、まじまじと真田家に見つめられながら、道明はこう続けた。 「真田幸村は、徳川家康に内通している!」 大声に驚いた火垂が、ビクッと反応する。すると、御札から式神が現れ、なんの躊躇いもなく道明の頭をど突いた。 「いっ!たぁ…。」 苦しむ道明を他所に、式神はスーッと消えた。残った御札はボロボロになっている。道明はその御札をビリビリと破いた後、もう一枚御札を取り出す。そして、先程の傷から出ている血を、同様に御札に染み込ませた。 「鬼一道明、真田家専属の術師として、尽力することを誓います。もし裏切った場合、この首は斬り落とすこととする。」 発言に驚いた幸村が、ビクッと反応する。そして道明は、その御札を幸村に渡した。 「これで、信じてもらえますか?幸村様。」 「ほ、本当に良いのか。」 「はい、鬼一が徳川に着くのなら、ボクは喜んで豊臣方の真田家に着きます。」 幸村に向かって、にこっと笑顔を向ける道明。幸村が御札に手を伸ばそうとした時、少し前に目を覚ましたであろう望月が、その御札を受け取った。 「こんな奴から渡された物を、幸村の御手に触れさせられん。」 少し朦朧としているのだろうか、顔色が良くない望月。しかし、幸村に何かあってはいけないと、根性で立ち上がったのだ。幸村がそれを見て頬を緩ませ、望月を自分の方へもたれさせた。 「鬼一道明。お主の覚悟、しかと受けとった。これから、よろしく頼む。」 「こちらこそ。……じゃ、初仕事ということで、ここにいる全員を元に戻して差し上げます。」 そういうと道明は、握った右手の人差し指と中指を立たせて合わし、望月の額につけた。すると、道明の指先から白い光が灯り、徐々に望月の表情も安らいでいった。 「……はっ!ゆ、幸村様!!ご、御無礼を…。」 先程までぐったりしていたとは思えないほど、焦った様子の望月。それを見た幸村は、良い良い、と笑いながら声をかけていた。道明はその間も、海野、才蔵、鎌之介と、負傷した面々を回復させていた。 「はぁ〜、真田家にヒーラーが来たかぁ。」 「ひーらー?」 佐助がかえでの方を見て首を傾げた。 「ああいう回復役の事だよ。」 「へぇ〜…。まぁすぐ忘れそうだけど。」 「なはは笑」 他愛もない会話をしていると、道明がズカズカとこちらへ向かってきた。と、かえでの腕を掴む。 「かえでちゃん、君に言いたいことがあるんだ。」 「え、…何?」 道明は一呼吸おいて続ける。 「気がないのに強かったり、ボクの術からコイツを救ったり、君はボクの想定を遥かに超える。…ボク、君のことが気に入っちゃった。」 「はぁ?!ふざけんなよ!」 かえでよりも早く、佐助が声を上げる。 「何?お前に話しかけてないんだけど。」 「お前じゃねぇよ佐助だよ!かえでは俺の……」 「かえで、佐助なんて放っておいて、ボクと来ない?」 状況が読めず、目が泳ぐかえで。少し後ろで、握り拳を作る伊佐がいた。 「かえでちゃん、この世に君を守ってあげられるのはボクしかいない。ここを離れろとは言わないけどさ、ボクと一緒にならない?……本気だよ。」 「いや、あの…。」 道明に正面から見つめられたかえでは、咄嗟に目を逸らした。すると、かえでの左にいた佐助が、かえでの左手を包み込むように握った。かえではその温かさにハッとした。そう、あたしが好きなのは、強さじゃなくてこの温かさ。 「ごめんね。あたし、守ってほしくて佐助といるんじゃないんだ。佐助がいいの。」 佐助が黙ったまま、かえでを見つめる。 「あたしは、佐助がいいんだ。」 そう言ったかえでは、佐助の方を見て微笑んだ。佐助はその言葉に嬉しくなったが、どうにか抱きしめるのを堪えた。その代わりに、今までにないくらい目を輝かせ、嬉しそうな顔をしていた。 「……本当に?」 「うん。ありがとね、道明。」 「……。」 道明は下を向く。さすがに直球すぎたか…?と、道明をのぞき込むかえで。と、道明が勢いよく顔を上げた。そして、ビシッと佐助を指さす。 「お前を選んだかえでちゃんを、ボクは否定しない。でもお前に何かあったら、今度こそボクのものだから。それまで預けてるだけだからね!」 佐助にべーっと舌を出す道明。それにカチンときた佐助は、道明に殴りかかろうとした。が、かえでに腕を掴まれて、腕を振り上げることも出来なかった。ははっ!と笑いながら道明は、佐助の胸に拳をドンッとぶつけた。 「頼むよ。」 道明は笑みを浮かべているが、佐助はその裏の道明の想いを受け取った。力強く首を縦に振る。と、拳と一緒に御札を渡されていることに気が付いた。佐助は御札を不思議そうに眺めたが、静かに懐にしまった。 「それではボクは、自分の穴蔵に戻るとしますか。これにて失礼〜。」 そう言い残した道明は、真田家にくるりと背を向け、歩き出した。春一番のような風が、全員の背中を撫でるように通り抜けた。 地平線の向こうから朝日が顔を出し、屋敷と下町を明々と照らしている。
第八十二話
「真田諸共消えてもらう。終の印。」 そう言うと六人の術師は、印を組んだ。両手を三角のような形にすると、その手の中心に、弾のようなものができてゆく。 「な、なんだあれ…!どうしたらいい?!」 十蔵が慌てる横で、放心状態になる甚八。何かを察した清海が、無言で伊佐の上に被さった。 「っおい、清海!何を……」 伊佐は暴れるが、清海の力には敵わない。それを見た幸村が、静かに目を閉じた。 「……なぁ、幸村さんよ。助けてやろうか。」 「…どういう事じゃ。」 「言っただろ。ボクは、コイツらなんかに命を差し出す気は無いって。」 幸村がゆっくりと顔を上げる。幸村が目を開くと、自分を真っ直ぐと見つめる道明と目が合った。道明が、幸村に笑みをこぼす。 「……そうか。なら、頼めるか。」 「っはは…。……分かった!」 そう言うと道明は、凄まじい速さで印を組み、地面に右掌をつけた。道明付近の地面が、緑色に光り輝く。それを見たかえでは、真田全員に聞こえるように叫んだ。 「皆、道明の近くに集まって!早く!」 そう言いながら佐助の腕から抜け、一番遠くにいた海野と望月の元へ走る。かえでが望月を、小助が海野を抱え、鎌之介が才蔵の肩を持ち、怪我人含め、全員が道明の元へ集まった。 それを見た道明が、ふふっと笑みを零す。 「何なんだよ、お前ら…。」 ポソッと呟いた道明は、正面の白髪を虎のような目で見つめた。 「俺達を消す?やれるもんなら、やってみろ!!」 「破ァァ!!!」 白髪の男が声を上げ、一斉に光の弾が真田と道明の元へと発射された。そして、爆音を轟かせながら、大爆発を起こした。突風と共に砂塵が飛び散り、木々がしなりながら悲鳴をあげている。 爆風も静まった後、辺り一面は土煙にまみれ、何も見えなくなっていた。 「ふむ。気配もない。消え去ったか。」 白髪の男がそう呟いた。ほか五人の術師も、道明や真田の生気を感じられなかった。本当に、あの明るく活気に満ちた真田家が消えうせたのか。辺り一帯の音という音が、一切聞こえない。 突然、塵旋風が中心に立つ。土煙が、ぐんぐんと吸い込まれ、大きな竜巻のようになっていた。と、大きな力がはたらき、土煙やらが四方八方へと吹き飛んだ。術師たちは、目に土埃が入らぬように、長い袖で顔を隠す。暴風が吹き荒れた後、術師たちが目を開けると、そこには、とんでもない光景が目に入ってきた。 「な、なぜ…。」 「……はっ、雑魚が。」 道明が帳を展開していたのだ。それによって道明は、自分だけでなく、真田家全員を守っていた。 「ボクの帳は、内部から外部へ、外部から内部への術が一切遮断されるんだよ。」 そして、ゆっくりと立ち上がった道明は、上を指さしながら話し続ける。 「そして、帳内にいると、ボクの力は底上げされ、他の術師の力は低下する。」 術師たちは、道明の指さした上を見上げる。すると、一番初めに道明が真田家を襲撃したような帳が、屋敷全体を包んでいた。道明はあの一瞬で、自分たちを包む帳、屋敷周辺を包む帳の、二つを展開していたのだ。 「き、貴様……。」 「あ?この状態でボクに勝てるとでも思ってるわけ?頑なに術しかしてこなかったひ弱なジジイ共がよ。」 小さな帳を解く道明。すると、かえでが突然飛び出した。道明が驚いた表情をしているのをよそに、白髪の男にまっすぐ向かっていた。その瞬間、佐助はハッとした。 「かえで!!」 佐助の叫び声に反応したかえでは、白髪の男の顔面に自分の左拳をビタ止めしていた。 「っぶねぇ。またしょうもないことをしようとしてた…。」 かえでは左手をぶらぶらさせながら、白髪の男を鋭く睨んだ。そして、白髪の男にくるりと背を向け、真田の元へ戻る。 「佐助、ありがとう。」 「おう、危なかったな。」 二人はくすくすと笑いあった。と、道明が思い切り手を叩いた。 「そーだぁ!いいこと思いついた!」 そう言った道明は、両手に力を込め、下から何か重いものを持ち上げるように、ゆっくり両手を上げた。すると、術師たちの身体から黄色い輝きがざわざわと出てきた。 「な、何をする!道明!」 「ボクのことを甘く見てた罰だ。ボクは家を出てから、お前らが思ってる以上に成長したんだよ?」 そのままググッと両手を近づけると、術師たちから出た光が、一点に集中した。そして道明は、パァンと両手を合わせる。と、光はそれと同時に消え去ってしまったのだ。 「道明、何をした。」 「はぁ?そんな事も分かんねぇの?」 そう言いながら道明は、大きな帳を解いた。その瞬間、白髪の男が道明に術で攻撃しようとした。 が、何も起こらなかった。男は訳が分からないような反応で、何度も術を展開しようとしたが、風の一つすら起こることはなかった。 「なぜ……!」 「まだ分かんないの?お前らの術、ぜ〜んぶ消したから。もう二度と術使えないよ〜?」 「な、ななな……。」 あははっ!と背中を逸らしながら笑う道明。術師の数名は、その場にへたりこんでしまった。 「き、貴様…、このようなことをして、許されると思うなよ…。」 「誰に?もう鬼一家は破滅しかねぇな。ははっ!」 「覚えておれよ…。」 「あぁ、忘れないよ。お前らのその間抜けな顔。」 術師たちは、道明や真田家をギロりと睨み、そのまま歩いて去っていった。その後ろ姿を、道明はざまぁみろと、大爆笑しながら見続けている。目からたくさんの涙を流しながら。 「はぁ〜…、笑った笑った……。…で、どうする?」 そう言いながら道明は、真顔で真田家の方を見つめた。
第八十一話
「いったぁい…。お腹刺されてその力、もしかして三ツ目?」 服の土埃を払いながら、沙恵を見る道明。沙恵は、幸村の腕の中でぐったりしている。 「ま、何でもいいか。今のボクには誰も勝てないしねぇ〜。」 道明が腰を落として印を組む。と、道明を囲むように風が吹き荒れる。動ける者たちは、全員臨戦態勢を取った。何が起こるのか、分からない。だが、戦わねばならない。甚八の頬に汗が伝い、心愛は息を飲んだ。 それを他所に、佐助とかえでは互いに均衡を保っていた。かえでが佐助の額に思い切り頭突きする。佐助とかえでの額から、一筋の血が流れた。 「……佐助、どこにいるのよ。こっちに手伸ばしなさい。絶対掴んであげるから。」 「………。」 かえでと佐助の目が合う。佐助の視界は真っ暗だ。 「なんなんだよここは…。術師は…?皆は大丈夫なのか…?」 わけも分からずもがき続けるが、どす黒いモヤが、佐助を離さない。身じろぎをするたびに、段々とモヤの中にずぶずぶと浸かってしまう。まずい、と思ったその瞬間、頭の上が急に明るくなった。佐助が上を見上げると、そこから誰かが左手を伸ばしている。佐助は自分の全身の力を振り絞った。そして、何とか自分の右手を自由にすることが出来た。その右手を思い切り、差し伸べられた左手に向かって伸ばした。 「っぐぉぉ…!」 そして、佐助の右手と、差し伸べられた左手がパシンと音を鳴らす。その瞬間、辺り一面が徐々に光を取り戻してゆくではないか。佐助を捕らえていた黒いモヤが、じわじわと消えてゆく。それと同時に、佐助の心が段々と暖かくなるのを感じた。そのまま佐助は、差し伸べられた左手に引き上げられながら、光の方へ向かっていったのだった。 「……か、かえで?」 「………え?」 かえでの目の前にいたのは、いつもの元気さを取り戻した佐助だった。キョトンとした顔をしている。 「あ、さ、さす…うわぁ!!」 先程まで、ものすごい力で押しあってたにも関わらず、急に佐助が力を抜くので、佐助とかえでは、折り重なるように倒れてしまった。 「え、佐助?」 「ん?何……?」 自分の上で目を見開いているかえでを、不思議そうに見る佐助。かえではその表情を見て、一気に力が抜けた。 「ふぁぁ〜良かったぁぁ〜…。」 「んぐ……!」 かえでが急に抱きつくので、顔を真っ赤にしてしまう佐助。だが、ようやく分かった。あの自分を引き上げてくれた手が、一体誰なのかを。 「ありがと。」 佐助は、かえでの頭を撫でた。 「……っ!どうなってる…。」 術の展開をとめた道明は、佐助とかえでの方を、電撃をくらったかのような驚きの表情で見つめた。道明に向かって、少しの煽りを込めた幸村が話す。 「なんだか分からんが、どうやらお主の目論見通りにはいかなかったようじゃな。」 「ぼ、ボクの術を解いた奴なんて、誰もいないのに…。おい、お前どうやって解いたんだ!」 道明が切羽詰まったような声色で、佐助を指さした。佐助はゆっくり体を起こし、自身の身体の様子に注目する。 「身体がビリビリする……。俺は、戦ってたのか…。」 掌を握ったり開いたりしながら、自身の身体の調子を伺う佐助。そして、真っ直ぐ道明を見た。その表情は、余裕の笑みを浮かべている。 「ま、俺達真田の絆は、術ごときでは操れないってことだな。」 「そ、そんなこと、ありえない…。ありえない!」 そう叫んだ道明が、佐助に向かって沙恵と同じ攻撃をする。道明の姿が消えた。が、佐助はそれを回転しながら立ち上がり、躱したのだ。沙恵ですら避けられなかった攻撃を躱した佐助に、誰もが驚きの目を向けている。 「な、なん、で…。」 「佐助、なんで避けられたの?」 佐助に抱えられたかえでが問いかけた。 「え、うーん…。来るって思ったから、かな?」 佐助は道明に操られたことで、道明の術が佐助の心にまで触れていた。つまり術に対して抗体のようなものが着いたのだろう。だから、頭ではなく心で術を感じて避けることが出来るのだ。 「お前さ、俺達が仲間を大切にしてることをやたら嫌がってたが、お前の敗因は、仲間がいないってことだぞ。」 佐助の本質を突いた一撃に、黙り込んでしまう道明。静かに拳を握りしめている。 「ボクは、強いのに…。」 「ここまでですか。」 突然、聞き覚えの無い声がした。何事かと辺りを見回すと、三方の森から、音もなく六人の男が姿を現した。まるで貴族のような服を着て、胸の辺りには大きい六芒星が描かれている。道明は、下を向いていた。 「道明、あなたも結局この程度だということですよ。諦めなさい。」 「……。」 長い白髪の男が、落ち着いた声色で道明に語りかけた。が、道明は返事をしない。佐助が道明を覗き込んだ。 「おい、お前…こいつら何者なんだよ。」 「コイツらは、鬼一の奴らだよ。ボクの両親を殺した。」 「え、鬼一って、お前の仲間だろ…?」 「違う。ボクを妬んで両親を殺した、クソ野郎共だ。」 「何を言う、貴様は神に愛された紋を持ちながら、我が一族の為に命をも掛けられない腑抜けではないか。」 白髪の男が冷たく道明を虐げる。道明は初めて顔を上げた。悲痛な叫び声が響く。 「なんでお前らなんかに、命を掛けなきゃならないんだ!ボクを適当に祀りあげて、贄にしようとしたくせに!ボクの両親を殺した癖に!」 道明の目は、いつにもなく水分を溜め込んでいた。その表情から、過去の苦しみや悲しみが、ひしひしと伝わってくる。 「何が神だ…。神なんかいない、ボクはボクだ!お前らクソ共なんかに、ボクの命はやらない!」 道明が心からの叫び声をあげる。と、白髪の男がはぁ、とため息をこぼした。 「そうか。ならば真田諸共消えてもらう。」
第八十話
心愛を姫抱きした鎌之介が飛び上がり、攻撃を避ける。そして、少しだけ離れたところに心愛を降ろした。 「心愛ちゃん、頼むね。」 「うん!」 短い会話を済ませた後、鎌之介は式神の元へ駆け出した。鎖を縦横無尽に操り、鎌で式神を真っ二つに割る。だか、やはり効果は無い。少なくとも、顔や首、腹には御札が無いのだろう。心愛は美しく動く式神を見つめた。が、なかなか御札が見つかることはなかった。 「……どこ?」 短筒を構えながら式神を追うが、見つからないのでは撃てない。その間も、鎌之介は槍の攻撃を躱したり受けたりしている。早く見つけててあげないと、という焦りもあって、心愛はかなり冷静さを欠いているように見えた。 「心愛ちゃん!俺に構うな!集中!!」 鎌之介が心愛に叫んだ。鎌之介の声を聞いた心愛はハッとし、一度、深呼吸をした。ゆっくりと目を開け、式神を見続ける。 と、鎌之介が槍で足を掬われ、体勢を大きく崩してしまった。右足で槍を受け流すも、式神に背を向ける形で地面に手をついてしまった。そこを式神が逃すはずもなく、槍の柄の部分で背中を突かれた。口から血を吐く鎌之介。式神は槍を回し、刃の部分を鎌之介に向けた。そしてそのまま、倒れ込んでいる鎌之介に向かって勢いよく突き立てようと、振り下ろした。 その時だった。 「……見えた!!」 心愛は、式神の右肩辺りにある御札を捉えた。そして、構えていた短筒の引き金を、二回引いた。心愛の使う短筒は、心愛によって改良されているため、そこらの銃よりも速度が出る。銃弾は真っ直ぐ飛び、御札をぶち抜いた。そしてもう一弾。これは細い槍の柄に当たり、間一髪、鎌之介に槍が刺さることを防いだ。 「鎌之介っ!」 心愛が鎌之介の元へ駆け寄ると、鎌之介は笑顔を見せていた。 「あっぶねぇ…。貫かれたら死んでたな……。」 「バカぁ!!」 鎌之介は、声を上げてわんわん泣く心愛の頭を撫で、ありがとう、と何度も言い続けた。 かえでは、真っ先に幸村の元へと向かった。助太刀しようとしたのだ。だが、その必要は無い、と瞬時に判断した。幸村の動きには余裕が見られた。かえではそれよりも、幸村の持つ刀に注目した。少し紫がかったような刀身に、赤い柄、鍔から始まり、金属の部分は全て金色をまとっている。この刀は生きているのか、そう感じるような覇気が見られたのだ。周りの状況を見ながら、美しい剣技で、いとも簡単に御札を真っ二つに斬り裂いた。 これで、全ての式神を破ることが出来た。だが。宝香は一度も、道明の方から目を離すことは無い。大助も宝香の横に立ち、道明が吹き飛んで土煙を上げているところを見続けていた。 と、一気に土煙が晴れる。両腕をダランと垂らし、前傾姿勢になっている道明がいた。薄暗い中で、ゆっくり顔を上げる。と、道明の顔についていたお面が外れていた。くっきりと、道明の顔がみえた。両頬に、渦巻きのような黒いアザがある。そして、目を開くと、先程とは打って変わって、怪しく黄色に光っている。目の中には、六芒星が入っていた。 「まずい…!」 全身の毛が逆立つ十蔵は、即座に銃を放った。しかし、道明の手前で何故か弾かれた。 「おいおい…、そりゃないよ…。」 あまりの衝撃に、笑みがこぼれるかえで。道明はゆっくりと上半身を起こし、首を鳴らしている。 「あー…、久しぶりだよ。お面外すの。」 佐助の動きは止まっている。道明はニヤニヤと笑いながら、その場をぐるりと見渡した。そして、うんうんと首を振る。 「なるほどね〜。そういう感じかぁ。みんな結構均衡してるんだなぁ。でも、君。」 そう言いながら沙恵を指さす。 「君だけなんか違うね。強いなぁ。すごい『気』だ。名前は?」 「……沙恵。」 「へぇ〜、沙恵ちゃん。綺麗だねぇ。あと、君は?」 「え、…かえで、だけど…。」 「かえでちゃん。可愛いなぁ。かえでちゃんはね、皆よりも小さい。なのに強いんだもん。不思議だねぇ。」 道明には、何やら強さの指標となるものが見えているらしいのだ。面白そうに、真田の面々をまじまじと見ていた。そして、道明がいきなり姿を消した。何が起こったのかと、全員が辺りを見渡す。と、沙恵が何かを察知した。目には見えない。だが、何かが来る。自分の方へ。 「っ……!」 沙恵は両手を交差させ、正面から来た謎の衝撃を受け止めた。だが、足は地を離れていた。そのまま背中を、強く打ち付けてしまう。 「気が大きいと、狙いやすいね。」 そう言いながら、沙恵の目の前に移動していた道明。全員が、道明の方を振り返る。誰も目で追えなかった。 「ゔっ……。」 今度は佐助が、才蔵のみぞおちに蹴りを入れていた。かえでと火垂は一目散に、才蔵の元へ駆け寄った。火垂が、震えた声で呼びかける。 「さ、才蔵…。」 「すまん…、目を離した…。」 と、才蔵の声に耳を澄ませていると、佐助が至近距離まで追い詰まってきていた。 「ふっ…!」 ギリギリのところで、かえでが佐助の両手をがっしりと掴んだ。佐助も、かえでの両手をしっかりと掴んでいる。 「才蔵、あとは任せてくれるかなぁ…。」 「あぁ……。かえで、火垂、すまない…。」 そういった才蔵は、火垂の腕の中で目を閉じてしまった。 道明は、にこにこ笑いながら真田を見続けている。道明の背中側にいた沙恵は、音もなく立ち上がり、道明を羽交い締めしようとした。が、突然道明が振り返り、沙恵に向かって拳を振るった。沙恵は道明の拳を何とか食い止めたが、道明はそのまま、左手を沙恵の横腹に突き立てる。と、道明の左手が刃を型どった光に包まれ、その光が沙恵突き刺さった。 「んぐぅ……!」 沙恵は何とか道明を蹴り飛ばし、自分から引き剥がすが、刺されたところから血が止まらない。貧血で倒れそうになるも、近くにいた幸村がすぐ様沙恵を抱えあげた。 「沙恵、すまぬ。」 「…ふふっ、何故、謝るのです…?」 幸村は、静かに目を瞑った。
第七十九話
「おらぁぁあ!!」 雷の如く迫ってきたのは、清海が投げた錫杖だ。伊佐の頭上スレスレを通り、槍を勢いよく弾いた。槍は屋敷の柱へズドンと刺さり、ゆらりと消える。錫杖に関しては、屋敷の縁側をぶち壊していた。 目を見開いていた伊佐は、短い呼吸を繰り返している。清海は、急いで伊佐の元へと駆け寄った。心配そうに伊佐の様子を窺う。 その瞬間 「甚八ィー!しゃがめー!」 甚八が声のする方を向くと、十蔵が銃を構えていた。甚八は即座に開脚をし、自身の体勢が限りなく低くなるようにした。間髪入れずに十蔵が弾を放つ。銃弾はそのまま真っ直ぐ飛び、式神のへそ辺りを撃ち抜いた。すると式神がゆらりと消え、穴の空いた御札がハラハラと落ちていった。 「…?!」 一気に二人の式神が壊された道明は、一瞬目線を逸らした。そこを逃さなかった大助が、思い切り地面を蹴り、道明の間合いに入った。 「いける…!」 大助は笑みを浮かべながら、刀の峰を道明の顎に向かって振り上げる。が、道明が大助の方を向き、目が合った。その目を見た大助は、術にかかってもいないのに固まってしまった。瞳が怪しく黄色く光り、その中に六芒星が刻まれている。まずい、と思った頃には、もう大助の首の左横まで、道明の短刀が迫っていた。殺される、そう悟った大助は、目を瞑ることしか出来なかった。 「大助様ぁぁぁあ!」 かえでに投げ飛ばされた宝香が、その勢いのまま道明の左頬を思いっ切り蹴り飛ばした。くノ一達の術が解けたのだ。大助は、その場にへたり込む。 「ほ、宝香ちゃん…。」 「大助、とってもかっこよかったです。ここからは、私にお任せ下さい。」 宝香は、大助にニカッと笑顔を向けた後、道明が蹴り飛ばされた方を見つめた。 同時刻、術が解けた瞬間、地面を蹴り上げた紅い瞳。沙恵が真っ先に向かったのは、望月の上に覆いかぶさっていた海野の所だった。槍を振りかぶった式神の背面から迫り、自身の簪を式神の背中から胸へかけて貫いた。そのまま簪を下へ振り下ろし、ビリビリと音を立てて御札が破れた。 「海野、もう大丈夫よ。」 「あはは…ありがと、沙恵ちゃん…。」 海野は沙恵の方を向く。海野の肩をぽんと叩いた後、沙恵はしゃがみこみ、望月の頬をぺちぺちと叩いた。が、起きる気配が無い。沙恵は望月を抱え、海野を背負って、前線から離脱させた。 火垂も術が解けるやいなや、一目散に才蔵の元へ駆け寄った。才蔵と佐助は胸ぐらを掴み合い、均衡状態だった。 「才ぞ…」 「火垂…、手を出すなよ。俺が、決着をつける。」 そう言った才蔵は、佐助の腹を膝蹴りした。ゔっと声を漏らした佐助は、左手の甲で才蔵の右頬を打つ。才蔵の表情はいつもと違い、真剣で、いつもは秘めている心の内を顕にしたようだった。 火垂は両手を合わせて握り込み、それを見つめるだけだった。 「火垂!」 大きな声で名前を呼ばれ、ビクッとした火垂が振り返る。かえでがこっちで戦えと合図をしていた。そうだ、自分で仲間を助けることを考えて行動しなければ。火垂は才蔵に背を向け、小助の元へ走った。 小助もまた、一人で式神と戦っていた。左肩を槍に突かれ、常につけているタスキを使い、右手を刀に縛って戦っていた。 「ま…小助、さん。」 「おぉ、火垂殿でござるか。強力な助っ人でござる。」 ふいに優しい笑みがこぼれる小助。火垂は小助を庇うように前に立ち、鉤爪を構える。 「どこに御札が……。」 式神を睨みつける火垂だが、御札は一向に見つからない。と、式神が火垂目掛けて槍を突いてきた。鉤爪を上手く使い、攻撃を躱す。攻撃が当たるのは槍のみであるという情報があるので、無駄な攻撃は仕掛けず、ひたすら御札を探し続けた。それを察した小助は、右手に縛りつけていた刀を外し、弓を作る準備をしていた。 「…あった……。」 御札は式神の左肩。火垂は攻撃を躱しつつ、小助へ左肩に攻撃をするように伝える。 「相分かった。」 そう言うと小助は、手際よく即席で弓を作った。矢の代わりの枝と弦を右手で掴み、左腕が使えないため、左足で弓を支える。それを確認した火垂は、槍を鉤爪で引っ掛けた後、式神の上を飛び越え動きを止めた。 「撃って!」 「ふっ…!」 小助が放った矢は、勢いは無いものの、正確に式神の左肩にある御札射抜いた。式神はゆっくりと姿を消し、火垂はその場に膝を着いた。 「火垂殿、怪我は。」 「あ、急に動いて身体が驚いただけ。怪我はしてない…。」 「うむ。すまぬが、拙者は戦線離脱するでござる。あとは頼む。」 「っうん。」 先程まで一人で戦っていた小助もまた、左肩だけでなく全身に切り傷などが見られた。この状態で戦っても、足手まといだと自分で考えたのだろう。小助は火垂が宝香の元へ走ってゆくのを見届けた後、海野と望月を抱える沙恵へと合流した。 そしてもう一人、単独で式神を相手していた者がいる。 「鎌之介っ!」 「心愛ちゃぁん!」 駆けつけた心愛の方を振り返った鎌之介の顔は、細かな傷によって血だらけだった。だか、表情は明るかった。心愛に笑顔を向けている。 「…鎌之介の顔にこんなに傷をつけるなんて、許せない…。」 心愛がメラメラと燃えたぎる。あはは、と苦笑いしながら鎌之介は心愛の頭を撫でる。 「心愛ちゃん、俺が戦ってる間、こいつの札を探してくれない?見つけたら即ぶち抜いてほしい。」 「っでも、鎌之介そんなにボロボロなのに…。」 「大丈夫だよ。それに、さっきまで戦ってたから、俺の方がいいと思うんだ。」 「……分かった。少しだけ、頑張ってね?」 そう言った心愛は、鎌之介をぎゅーっと抱きしめた。一瞬表情が緩んだ鎌之介だったが、そんなことはお構い無しに、式神が槍を二人へ振り下ろした。
第七十八話
「お父様は助けなくて良いのかな〜?」 道明が、にこにこしながら大助に訊ねた。 「父上を馬鹿にしないでください。」 そう言った大助は、地面を一蹴りし、道明に刀を振るう。道明も短刀で応戦した。と、大助の右頬を生暖かい風が撫でた。嫌悪感を感じた大助がそれを避ける。と、顔のすぐ右を道明の短刀が通り過ぎた。避けられると思っていなかったのか、少し目を開いた道明は、冷静に大助の顔を殴ろうと、そのまま右に腕を振る。大助の右頬に、道明の裏拳が入った。が、大助はそんなことも気にせず、驚いていた。これか、海野が稽古の時に言っていたアレは。 ーーーーー 「大助様、見るのでは無く、感じるのです。その場に流れる、風を読んでください。」 ーーーーー 大助は、頬の痛みを耐えつつ、静かに刀を構えた。そして、ゆっくりと目を瞑る。稽古の時に望月が言った言葉を、思い返した。 ーーーーー 「大助様、戦う時は、必ずしも臨機応変にせねばなりません。しかし、そのためにも、基礎は完璧に叩き込む必要があります。」 ーーーーー ふぅ、と息を吐き、呼吸を整える大助。首を傾げて待っていた道明が、目を細めて大助を見つめた。そして、ゆらりと動いた次の瞬間、一気に大助に詰め寄った。キンキンと刀がぶつかる音がする。幸村はそれを横目に、道明が生み出した式神と戦っていた。 一方で、苦戦を強いられていたのは、才蔵だった。 「……っ!」 才蔵は、驚いていた。操られているとはいえ、佐助がここまで動けるということに。煙玉を使うも、山で鍛えれた五感を持つ佐助には、あまり役に立たなかった。クナイを二本使って戦う才蔵と、クナイと忍者刀を使う佐助。二人は身長差がありすぎる故、才蔵の攻撃が佐助に届きずらい。佐助の方は操られており、無尽蔵の体力がある。道明と戦った際に使ってしまった才蔵の体力は、徐々に、徐々に、削られてゆく。 「…忍者刀に持ち替えたい。が、持ち替える隙も、持ち続ける体力もない…。」 才蔵は冷静に自分とこの状況を分析していた。やはり、自分一人では押し切ることが出来ない。だがしかし、ここで諦めてはならないと、攻撃を続ける才蔵。 それを見ていた火垂は、無言で身を捩っていた。 「火垂、やめなさい。」 小さな声で火垂に声をかけたのは、沙恵だった。くノ一全員に、自分への注意を促す。 「術に抵抗しようとしても、それがバレてより強固な術をかけられてしまう。じっとしながら皆の戦況を見ていましょう。」 「…沙恵ちゃん、見ているだけなんてやだよ。鎌之介の助太刀に行きたい…。」 「心愛、大丈夫よ。見ているだけじゃないわ。」 そこまで言うと、かえでが続けて話し続けた。 「あのお面野郎の動きも見るんだ。で、ちょっとでも怯んだところを見逃さず、そこで皆で抵抗する。相当の実力はあれど、術をあんなに一気に使ってるんだから、私達よりも戦闘に注意を向けてるはずだよ。」 宝香がなるほど、と相槌を打つ。 「この状況を一変させるのは、私達が鍵ってことね。姉さん…。」 「…分かった。それまではあの女とお面男を観察していればいいんだね。」 「うん。かえで、合図は私に任せて。」 「了解、宝香に任せるよ。私は…。」 そう言いかけたかえでは、ゆっくりと佐助を見た。その目はいつもの燃える赤色ではなく、弱々しいものであった。佐助の目は、相変わらず光がない。 佐助は、目を開けた。目の前が何も見えない。走ろうとするが、謎のモヤが自分を絡めている。 「っ何だこれ!うぉりゃぁぁ…!」 必死に手足を動かそうとするが、重い。 「ここは、どこなんだ…。皆は…。」 漆黒の世界が、佐助を包み込む。それはそれはどこまでも、果てしなく広がっていた。 限界に近づいていたのは、才蔵だけでは無い。海野の全身には、たくさんの傷が付いていた。気絶した望月を守りながら戦っていたのである。刀を折られた海野は、脇差での防戦を強いられている。 「ゔっ…。」 だが、短い脇差では防ぎきれず、式神の槍が海野へと勢いよく当たる。 「海野!もう少し耐えろ!オレ達が行くからな!」 「と言っても、式神の弱点が分からん限り、無理だろ…!」 清海と伊佐は、二人で式神を相手にしているが、他と変わらず、槍を防ぐので精一杯だった。攻撃を防ぎながら、打開策を考える二人。 「クソっ!さっきみたいに御札を壊すのではダメなのか。」 「壊すって言っても、その札が見つからねぇ!」 少し考えたあと、伊佐が提案した。 「俺が戦う間、お前は敵を観察して、札を見つけろ。見つけ次第、壊せ。」 「…分かった。」 少し躊躇った清海は思い切り後ろに飛び、戦線離脱する。伊佐は式神の槍を、薙刀で応戦し続けている。その間、清海は目を凝らし、式神を注視した。それが目に入った十蔵も、何かを察したのか、甚八と戦う式神にだけ鋭い眼光を送る。 「っ清海!まだか?!」 「ちょっと待て…。」 激しい打ち合いの末、徐々に押され気味になる伊佐。式神の槍によって足を払われ、大きく体勢を崩してしまった。式神は伊佐の脳天に叩きつけようと、槍を大きく振りかぶる。しりもちをついた伊佐は、薙刀の柄の部分で受けようと、薙刀を横に持ち、頭の上へ掲げた。その瞬間、清海の叫び声が伊佐の耳に入る。 「首だ!伊佐、首を斬れーっ!」 「……っく!」 伊佐は札を壊すべく、薙刀を持ち替えた。が、その後に察した。もし少しでもミスをすると、攻撃が当たり、自身の頭を式神の槍にかち割られてしまう。しかし、止まることの無い式神を待つことなどできない。伊佐は決死の思いで身体を左にひねり、薙刀を思い切り振った。伊佐のコントロールは正確もので、薙刀は見事、札に届いた。式神がゆらりと消えかかる。が、槍は伊佐の頭スレスレまで迫っていた。