澄永 匂(すみながにおい)
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連載中の作品は、金、土曜日辺りに更新予定です。 大学生&素人なので文章がぎこちないですが温かく見守ってください。 中学生の頃に作っていた話(元漫画予定だったもの)を書けたらいいなと思い、始めました。
心配ご無用
「うん、そうだろうね。」 令和7年7月7日。 天気、雨。 「……ま、期待はしてないけどさ。 ……織姫と彦星、会えてるといいな。」 「織姫〜、今日どうする?会う?」 「え〜スマホでいつでも話せるし、今年はもうよくない?笑」 「クッソ暑いしな笑笑 じゃ、明日電話するわ。おやすみ〜。」 「ほーい。おやすみ〜。」
発覚!本当の顔 其ノ壱
才蔵は、表に見せないように頭を捻っていた。最近、火垂がやたらくノ一達と仲良く話しているのを見かける。火垂の性格上、そう簡単に心を開くことは無いため、ここ数日で一気に仲良くなったのが、不思議で仕方なかった。だが、何となく理由を聞くことが出来なかった。急に「最近くノ一にも馴染んできたね。何かあったの?」なんて気色の悪いこと、聞けるはずがないと考えていた。が、情報を扱う忍びの血が騒ぐ。なぜ、急に火垂がくノ一と打ち解けたのだろうか。 そこで才蔵は、まずかえでと仲の良い佐助に、かえでと火垂について話を聞きに向かう。 「うーん…。かえでって基本的に誰に対してもあの感じだから、分かんねぇなぁ。でも確かに、最近火垂馴染んできたよな。なんでだろ…。」 次に才蔵は、宝香と仲の良い大助に、宝香と火垂について話を聞きに向かう。後ろに佐助を連れて。 「あの二人は姉妹でしたから、昔から仲が良かったですけどねぇ…。」 「最近、くノ一と急速に打ち解けたようなのですが、宝香がなにやらしてくれたのでしょうか。」 「う〜ん、そんな話は宝香ちゃんからは聞いていないですけど…。気になりますね…。」 次に才蔵は、沙恵と仲の良い海野に、沙恵と火垂について話を聞きに向かう。後ろに佐助と大助を連れて。 「沙恵ちゃんねぇ、確かに最近火垂と下町行ったりしてるね。なんでかって?え〜…、さぁ?」 次に才蔵は、心愛と仲の良い鎌之介に、心愛と火垂について話を聞きに向かう。後ろに佐助と大助と海野を連れて。 「おい、何となくそこは俺が海野っちより先だろ。」 「お前と話すのは疲れる。」 「ぬぁんだとぉ〜??心愛ちゃんのきゃわいい話してやんねぇぞ?」 「そんなことは聞いていない。」 まぁまぁと、二人をなだめる佐助と海野。 「まぁ最近、火垂と下町の甘味処に行った、とは言ってたな。心愛ちゃんは桜餅食べたらしいぞ。可愛すぎん??あの小さな口で桜餅はむはむしてるとか…。また誘ってみよ。その時は俺が…。」 鎌之介がぶつぶつ言い出した。こうなると余計に面倒くさい。才蔵は大助の背中を押しながら、静かに部屋を出た。取り残された佐助と海野は、鎌之介の餌食となった。 次の日、才蔵の元へ佐助と大助がやってきた。 「今日、くノ一皆でお出かけするらしいぜ。」 「ついて行ってみますか?」 「……あぁ。」 さらに、海野、鎌之介にも声をかけ、五人の男達がくノ一の後をつけた。 くノ一達は、わいわい話しながら下町を歩いている。そしてそのまま、下町から少し外れたところにある甘味処へと入っていった。五人は静かに近づいて、外から聞き耳を立てる。 「こんな所にもあったんだ〜!あたし知らなかったよ。」 「え〜!いっぱいあるじゃん選べなぁい!」 「ふふっ。心愛、楽しそうね。」 店内はそれほど客がおらず、くノ一達の声がよく聞こえた。 「姉さん、よくこんな所知ってたね。」 「うん、まぁね…。」 話の流れ的に、火垂がこの甘味処見つけて他のくノ一達を誘っているようだ。聞いていた五人は少しばかり、驚きの表情を浮かべている。 「うわ〜どうしようかな。宝香何すんの?」 「そういうかえでこそ、決めてないでしょ?」 「だって迷うでしょこれは〜。姉さんはもう決まってるの?」 「うん…。」 「え、早くない?もしかして、下見に来てた?」 「う、うん…。」 火垂はもごもご話している。わざわざくノ一達とお出かけするために、火垂が下見を?才蔵には、ますます分からなかった。 「ひ、一人でお店に入るのが恥ずかしくて…。」 「だから最近、ほっちゃん甘味処に誘ってくれるんだね!美味しいし、ほっちゃんとも話せるし、いつだって付き合うよ!」 「ところでさ、姉さんがそこまでして食べたいものって?」 「アレ、でしょ?」 沙恵が火垂に優しく笑いかける。くノ一と外の男達が、火垂の声に耳を傾ける。 「わ、私、みたらし団子が大好きなの!」 才蔵はハッとした。そういえば、伊賀にいた頃からやたらとみたらし団子を食べているところを見た。そしてたまに、食わされることもあった。甘いものがそこまで好きではない才蔵だが、当時は長の娘からいただく物を断るなど考えもしていなかったので、食べていたのだ。 「つまり、火垂はみたらし団子を食べたいけど、一人は恥ずかしいから、くノ一を誘ってるうちに仲良くなった。って訳だな。」 佐助がまとめる。甘いものが好きなんだねぇと、つい笑みがこぼれる大助。男達は、こっそりと甘味処を後にした。 その日の夜に、後をつけていたことに気付いていた火垂に才蔵が詰め寄られ、話の全貌を聞いて顔を真っ赤にするのは、また別のお話。
重大なお知らせ。
こんにちは、澄永です。 これからの投稿についてなのですが、一ヶ月ほどお休みさせていただきます。 体調が悪いなどそういった理由ではなく、シンプルに生活がかなり忙しくなるので、お休みさせていただきます。 その間は、現在も連載している『真田の明』をもう一度読み返そう!ということで、プロローグから順につぶやきへ載せていこうかと思います。 ぜひこれを機に、もう一度振り返る、初めて読んでみる、など、『真田の明』をご贔屓にしていただければ幸いです。 これからも、私はあまり表立って現れることはありませんが、生きていますので!『真田の明』を完結させてみせますので!暫しお待ちくださいませ。 これからも、『真田の明』をよろしくお願いいたします。
第十七章 来訪狐 第七十五話
「っ寒!」 下町を見廻り中の鎌之介が身震いする。春になったものの、未だに風は冷たく吹きつける。甚八の左腕にしがみつく鎌之介。 「お〜い、くっつくなよめんどくせぇ。小助にしとけよ。」 「む、拙者の右腕も貸してやろう。」 「え、いや、いいわ。」 鎌之介は、小助に姫抱きされて以降、小助が少々苦手であった。苦手と言うよりも、恥ずかしいだけのようだが。 三人が屋敷へ帰ってくると、一同は庭に出ていた。珍しく、幸村も一緒に。幸村の左右には海野、望月が座っている。どうやら、それぞれで模擬戦をしているようだった。佐助と十蔵、宝香と清海、伊佐と心愛、という組み合わせだ。鎌之介も混ざろうと、早速才蔵に喧嘩をふっかけに向かう。と、何かに気がついた小助がこそっと沙恵の元へ近付いた。 「何かあったのでござるか。」 「えぇ。十蔵さんが胸騒ぎがするって言うから、皆で模擬戦をしつつ幸村様をお守りしようって。」 「ふむ、相分かった。」 小助が落ち着いて周りを見渡すと、沙恵とかえで、才蔵が三角形になるように立っているのが分かった。そして、森に一番近い位置で佐助と十蔵が打ち合っている。恐らく、十蔵が何かを察知すると何かしら合図を送るのだろう。皆(みな)平常心だが、どことなく緊張感が走っていた。 すると突然、十蔵が佐助を森に突き飛ばした。その時、空上に突然白い輝きが現れた。その場にいた全員が、上を見上げる。と、その光から半透明な緑色が広がり、空全体が緑色に変わった。茂みから顔を出した佐助が、真っ先に声を上げる。 「っなんだ?!空が……」 全員が空を眺める中、かえでだけが辺りを見渡す。 「…違う!空じゃない!屋敷が囲まれてる!」 半透明の緑は空ではなく、真田の屋敷や周辺の森を包み込んでいたのだ。傍から見れば、それはまるで、帳が下りているようだった。混乱の最中、海野と望月は刀に手をかけ、幸村を挟む。と、森の方から何か赤い光が幸村目掛けて飛んできた。海野は刀を抜き、それを切り裂こうと刀を上から下に振った。が、なんと光は的確に狙った海野の刀を簡単にすり抜けたのだった。斬った感覚が無い。海野はその光が、物体では無いという事が分かった。 「幸村様ァー!」 振り返った海野が叫ぶ。光が幸村の手前まで来た時、望月が幸村の前に立ちはだかった。 「くっ……!」 望月に触れた赤い光は、大きく広がり、望月を包み込む。そのまま宙を浮いた望月は、上を向き全身の力が抜けている。まるで意識が無い様だった。すると、さらにもう一つの赤い光が、幸村目掛けて森から飛んでくる。 「ふっ!」 火垂が横から、手裏剣を投げる。すると今度は、手裏剣が赤い光を纏う。よく見ると、手裏剣には札のようなものが付いていた。 「相手は術師だ!油断すんな!」 清海の怒号で、皆(みな)の気はさらに引き締まる。佐助と才蔵は目を合わせて、森の中へと駆けていった。その間も、森からの攻撃は続く。佐助と才蔵を横目に見送ったかえでは、心愛を連れて屋敷の中へと走った。 赤い怪しい光が、庭を変幻自在に舞う。飛び道具を使う十蔵を中心に、光の動きを止めるため、石や武器を投擲する。 「…狙いは私ね。」 戦いの最中、沙恵は攻撃の様子が変わったことを察知した。今はどうやら、幸村ではなく沙恵に対して攻撃が飛んできているようだ。術師はこの短時間のうちに、沙恵が腕利きであることを見抜き、自身の目的達成のために沙恵を潰そうと考えたのだろう。沙恵は飛び道具を全て使い果たしており、石や木の枝など乱定剣で応戦していた。と、沙恵に向かってまっすぐ光が飛んでくる。 「はっ!」 宝香の得意武器、自家製クナイが札の餌食となる。沙恵は軽くお礼し、同時にあることを思いついた。調度良いくらいの木の枝を、宝香のクナイに向かって投げる。投げた木の枝は、クナイの中心にある穴と札を貫通した。すると、札の効力が無くなったのか、札のまとっていた光が消え、クナイが地面に音を立てて落ちた。 「皆っ!御札を壊して!」 沙恵の攻撃に気がついた宝香が叫ぶ。それ合わせて、各々で札を破り出した。海野は深呼吸し、一ミリのズレもなく真っ直ぐ刀を振り下ろす。甚八は大太刀を、音をも超える速度で振るった。二人の刃が札を真っ二つに斬り裂く。伊佐は、縦横無尽に動く札を、長い薙刀を振りかぶって斬り刻む。術が発動するよりも早く、札が付かないように繊細に、斬りつけ続ける。 その頃、かえでと心愛は屋根の上にいた。 「かえで、何するの。」 「あたしの考えだけど、この帳によって術師は力を強化してるんだと思う。」 そう言いながら、かえでは帳のてっぺんを指さした。そこには、札のようなものがあった。 「あれ、撃ち抜いてくれない?今からあたしが、心愛をあれの近くまで飛ばす。」 「任せて。確実に仕留めてあげる。」 「バレたらまずいから、一発でお願いね。」 チャカと音を立てながら一丁の短筒を構える心愛。かえでは両手を合わせ、心愛を飛ばす体勢をとる。勢いよく走り出した心愛は、かえでの手のひらに右足をかけた。 「ぅおりゃ!」 かえでが背中を反らし、心愛を上へと飛ばした。高く舞い上がった心愛は、回転しつつ体勢を整える。そして、心愛の大きな瞳が、帳の中心をしっかりと捕らえた。 「絶対外さない。」 ドンッと低い音を立て、煙が銃口から漏れる。帳を展開していた札は、心愛の放った銃弾がど真ん中を見事撃ち抜き、ハラハラと落ちていった。ゆっくりと、帳も晴れていく。そして、自由落下する心愛を空中でキャッチしたかえでが、ふわりと降り立った。 「心愛、グッジョブ!」 「ぐっじょぶ!」 喜ぶ二人とは反対に、眉間に皺を寄せる者が森にいた。 「くっそ…、札も結界も壊された…。どうなってるんだよ。」
発掘!珍妙コンビ 其ノ弐
スパン!と部屋の障子が開く。驚いた小助は筆を止め、勢いよく音のした方を振り向く。と、べしゃべしゃに顔を濡らした心愛が立っていた。 「心愛殿、どうしたのでござるか。」 「まこちゃん!!!」 「んおぉ…。」 突然抱きついてきた心愛。諭すように背中を撫でる。心愛はわんわんと声を上げて泣き、小助の服にしみをつける。ひとしきり泣いた後、小助が様子を聞くと、鎌之介と喧嘩をしたらしい。 「鎌之介ったら、私の事子供扱いするのよ…!もう子供じゃないもん!」 「な、なるほどでござる…。」 確かに、鎌之介は心愛を溺愛しており、過度に甘やかしているなと周りは思っていたが、その態度がとうとう本人の逆鱗に触れたようだ。 「もういいし!私、まこちゃんといる!」 「え…?」 「まここあ組の結成!!」 「え?え?」 意味が分からず、混乱しながら心愛を見る小助。そんなことをお構い無しに、小助の左腕にしがみついている心愛。小助は長く息を吐き、心愛の方を見た。 「……どうしたの?」 火垂は、縁側を塞ぐように寝転がっている藤色に、自身の部屋への通路を塞がれていた。藤で隠れていた顔が見えると、目に涙を浮かべていた。 「火垂ぅ…。」 あ、めんどくさい。そう感じた火垂はくるりと向きを変える。が、左足をがっちりと掴まれた。話しかけねばよかったと一瞬後悔したが、仕方がないので振り返った。 「どうしたの、鎌之介。」 「実はよぉ……。」 鎌之介はグズグズと鼻を鳴らしながら、心愛と喧嘩してしまった(と言うより、嫌われた)と話した。火垂は唖然とした。と言うより、そんなことで泣いているのか?と疑問が浮かんだ。 「あ、あのさ…、多分それは違うと思うな…。」 「へぇ……?」 火垂は落ち着いたような、少し緊張しているような声色で話し続ける。 「多分…、追いかけて欲しかったんだと思うよ。…多分。」 「……え?どゆこと…?」 「だって、心愛が鎌之介のこと嫌いになるなんて、私想像出来ないよ。いつも楽しそうにお話聞かせてくれるから。」 「……。」 「親から愛というものを教えてもらっていない心愛にとって、鎌之介は、唯一無二の存在だと思う。」 「…そうか。ありがとう、火垂。」 そういうと急に、鎌之介が立ち上がった。と思ったら、望月が怒鳴りそうなほど大きな足音を立てて走り出してしまった。火垂はなんとなく気になって、こっそりと後をつけた。 小助と心愛の耳は、その足音を捉えた。心愛は小助の背後に隠れる。と、鎌之介が現れた。鎌之介が、小助に隠れた心愛をロックオンする。 「心愛ちゃん!ごめんね!俺、心愛ちゃんの気持ち、全然考えられてなかった。でも俺、やっぱり心愛ちゃんの事大好きだから!」 「ホントぅ……?」 心愛がひょこっと顔をのぞかせながら、上目遣いする。それに一瞬仰け反る鎌之介。 「可愛っ…じゃなくて、本当!信じてくれ!」 「……鎌之介!!」 急に飛び出した心愛が、鎌之介に抱きついた。鎌之介は、心愛をしっかり捕まえる。 「心愛ちゃん!」 「鎌之介!」 熱い抱擁を見せられている小助は、目が漢字の一のようになっている。二人の周りにはハートがふわふ浮いているように見えた。 「まこちゃん…『まここあ組』は解散しよう…。ごめんね…。」 「お、おぉ…。…なんか拙者がフラれたみたいになってるでござる…。」 キャッキャしながら去る二人を見つめる小助と火垂。ふふっと笑う小助に、そっと眺めていた火垂の言葉が聞こえることは無かった。 「私も、才蔵に会いたくなってきたな…。」
春、満開
この街には、桜が咲かない。桜の木が無い訳じゃない。でも、何故か咲かない。この街で生まれ、この街で育った俺は、二十四年間、桜なぞ見たことがなかった。だが、笑えることに、俺の実家である神社の名前は、『桜雲神社』という。桜が満開で雲のようだ、という意味で使われる『桜雲』には、全くそぐわない。この街の高台にあり、街の人も多く訪れ、親しまれている俺の実家。今日も俺は、青々とした山の上から、街を眺める。 「なんでこの街には桜が咲かないんだ?」 独り言のようにそう呟いた俺の名前は、『桜田 潤』。潤う桜、だなんて勘弁してもらいたい。 「あんたがこの街の桜なんだよ。」 母さんはそう言う。そりゃ俺は桜雲神社の息子だし、そういう表現も納得だが、なんだかムズムズする。 そう思いながらも、俺は神社の本殿をうろついていた。すると、桜雲神社の歴史が書かれてある本を見つけた。もしかしたら、何かわかるかもしれない。そう思い、俺は、ゆっくりページをめくった。 『桜雲神社。この桜が咲き誇る街の象徴である。桜雲神社には、春をもたらす神様が祀られている。この街から、実に愛されているその神は、時折、下界へと舞い降りる。下界の者たちは、さらに日頃の感謝を神へと伝えるようになった。』 ……まぁ、よくある神話だ。 『その神が舞い降りている間、この街にある全ての桜が咲かない。』 変な神話だ。春をもたらす神様なのに、舞い降りたらダメなのか? 『桜の花びらが舞い散るように、桜も花をつけることは無い。だが、また神が天に昇る時、この街は桜花爛漫となる。』 …なるほど。そういう事か。 俺が……、そうなのか。 次の年、この街は桜で満開だった。たくさんの人々が桜を見て、どんちゃん騒ぎをしている。今日も俺は、蒼天から、街を眺める。
小話4
こんにちは、澄永です。 今回は、『真田の明』に登場する輩 心愛(ともがら ここあ)のややっこしい呼び方についてのお話です! 心愛は、気分で仲間にあだ名をつけています。スピンオフでも紹介しましたが、改めまして、羅列してみました! 〇手飛かえで 〇猿飛佐助 →かえで →佐助 ☆霧隠才蔵 ☆輝池火垂 →サイゾー →ほっちゃん 〇希谷川宝香 〇一沙恵 →宝香 →沙恵ちゃん 〇海野六郎 ☆望月六郎 →海野さん →もっちー 〇三好清海 〇三好伊佐 →清海 →伊佐 〇由利鎌之助 ☆穴山小助 →鎌之介 →まこちゃん ☆筧十蔵 ☆根津甚八 →せっちゃん →ぱっちー 〇真田幸村 〇真田大助 →幸村様 →大助様 ☆…心愛オリジナル 以上になります!この先、心愛のユニークなあだ名が飛び出してくる…かも? これからも『真田の明』を、どうぞ、よろしくお願いいたします。
第七十四話
望月がか細い声で呟いたのを、海野ははっきりと捉えた。海野は、珍しく縮こまっている望月の目の前に膝を着いた。 「…ふふっ。望月にもそんな一面あったんだな。本音を知れて、ちょっと嬉しい。」 「……は?」 海野の予想外な返事を聞き、つい顔を上げてしまう望月。 「…殴るわけないだろ?俺がここまで強くなったのは俺の力だけじゃない。お前が引っ張ってくれたから、俺はここまで来れたんだ。ありがとう。」 望月には、海野の言葉の意味が分からなかった。黙って海野を見つめる。と、海野が少しだけ眉を下げた。 「でも望月、俺、目が見えないんだ。」 海野がゆっくりと目を開く。隙間から見えた翡翠が、ゆらゆらと揺れている。 「どんなに強くなっても、望月を追い抜いてたとしても、周りはずーっと真っ暗闇だ。何も見えてないんだよ。望月、俺には君しかいない。」 海野は望月の手を握った。そして、まっすぐ望月を、望月の心を見た。 「これからも一緒に隣で歩いて欲しい。」 望月は、拍子抜けしていた。自分勝手な思考をしていた自分が、恥ずかしくて仕方なかった。いや、もしかしたら、目の見えない海野をどことなく軽視していたのかもしれない。恥ずかしさ、申し訳なさから、歯を食いしばる望月。海野は何も言わず、黙って望月の返事を待つ。すると、鼻をすする音が聞こえた。 「…ふん。しょうがないな。お前の横にいてやれるのは、俺だけだからな。」 「っ…!そ、そうそう!俺、望月と一緒がいい!この手、絶対離すなよ!」 「お前が離さなかったら、俺は離さん。だって、お前が勝手に繋いでいるんだから。」 「えへへ!そうだな…。」 海野は一筋の涙を流しながら、望月に笑顔を向けた。望月も笑い声につられて笑顔になる。あ、笑った!と指摘され、笑ってない!とすぐにそっぽを向いてしまった。小助は、それを見つめているだけだった。 その日の夜、望月はなかなか寝付けなかった。笑いあって終わったものの、自分の未熟さから自責の念にかられていた。望月わはゆっくりと布団から身体を起こす。と、微かながらに何かが風を切る音がした。何者かが忍び込んだか?そうであれば、幸村様を守らねばならない。望月は、音を殺しながら障子を少し開け、月明かりに照らされた庭を見た。 「え……。」 望月が見たものは、無言で木刀を振るい続ける海野の姿であった。両手はマメが潰れたのか、包帯のようなものでぐるぐる巻きにしている。 「う、海野…?」 「ん?望月、起こした?ごめんな。」 動きを止め、望月の方を振り向く海野。その場に沈黙が走る。その間、望月は考えを巡らせていた。昼間よく欠伸をしていたのも、自分の実力を簡単に追い抜いたのも、偶然でも何でもなかった。海野は人知れず努力していたのだ。誰に言うでもなく、たった一人で。 「お、お前…なんで…。」 「え?あぁ…、望月の足枷になりなくなかったんだ。少しでも、望月と並んで歩ける日が早くなるようにな。」 海野は相変らす、へらへらしている。しかし一方で、望月は大きなショックを受けていた。その衝撃から、その場にへたり込んでしまう。その音を聞いた海野が走って来た。 「わっ!どうした?!大丈夫か望月…」 「すまない…。俺、お前のこと何も知らなかった。才能だけじゃなかったんだ。ちゃんと努力をしてたんだ。なのに俺は……。すまない。」 海野は驚いた。望月はよくカリカリしていることが多かった。今日も怒鳴っていたし、その後も自分に対して怒っているようだった。が、そんな望月が、涙を流しているのだ。左手で望月の頬に触れると、大粒の涙がぼたぼたと零れている。海野は、今、望月が何を求めているのかをよく知っている。ぐすぐすと鼻を鳴らしている望月を、海野はゆっくりと抱きしめた。望月だって、怒ったり泣いたりする子供だ。でも望月は、責任感の強さから、あまり泣いたりしてこなかったのだろう。…恐らく、これからも。ならば今くらい、せめて今くらい、気が済むまで泣かせてやろうと思ったのだ。海野はひたすら、望月の頭を撫で続けた。 ーーーーー 「チッ…。要らんことを思い出した。」 「え?何?」 追いついた海野が望月に問いかける。何でも無いとお茶を濁す望月だが、海野はふふっと笑を零す。 「なんだ。何がおかしい。」 「なぁ望月。俺に隠し事は通じないの、知ってるだろ?」 「……。」 「ちなみに、俺も同じこと考えてた。」 「その記憶、今すぐ消せ。」 「え〜やだ。あ、みんなに話しちゃお〜。」 「なっ!?お前ー!」 今度は望月が海野を追い掛けだした。皆(みな)の所まで戻ってくる羽目になる。 「おい貴様!そのバカを捕まえろ!」 「なっ!そんないきなり…!」 急に指を刺された伊佐は、慌てて海野の前を塞ぐ。が、海野は伊佐の、小さな足の隙間をくぐり抜け、沙恵に突進した。 「ふぃ〜危ない危ない…。」 「危ないのはあなたよ、海野。」 沙恵に鼻を摘まれ、あぅ、と情けない声を漏らす海野。こいつが、この男が、真田家最強の剣士なのかと、望月は肩を落とした。 幸村の一声で、今日はお開きにしようということになった。全員で片付けを始める。望月は全体を指示、海野は細かく声掛けをしながら、宴会は跡形も無くなった。 「あの二人ってほんと、いいコンビよね。」 「そうだな…。」 かえでと佐助が二人を傍観している。 「っところで、『こんび』ってなんだ?」 「あ、そっか……。」 かえでは思い出したかのように頭を搔く。床が広くなった大広間に、片付け終えたメンバーが、ゴロゴロと寝転がっていた。その中に、もちろん海野もいる。そんな海野を、望月は遠くから見つめていた。 「お前が隣にいるから頑張れるんだ。」 そう一言零し、自室へ戻って行った。望月の後ろ姿を、美しい翡翠がしっかりと捉えていた。
第七十三話
望月は、絶句した。海野は木刀を持ち始めてからたった三日しか経っていないというのに、木刀を真っ直ぐ振ることはもちろん、バッチリ扱い方をマスターしていたのだ。 「ずっと本ばっかり読んでたから、頭に型とか全部入ってるんだぁ。」 眠たそうに言っているが、型を知ってるからと言ってそう簡単に実行はできまい。そもそも、海野は目が見えていないのだ。にも関わらず、足の踏ん張り、腰の落とし方、胴の向きなど、全てが完璧だった。海野には、刀の才能があったのだ。 「そろそろ、対人戦をしても良いでござるな。」 海野が来てから二週間が経った頃、少し前から真田の屋敷に住み始めた小助が提案する。小助は少しずつ海野に受け身についてを教えていた。この提案をするということは、要するに望月と海野が模擬戦をするということだ。望月は少し複雑な心境であったが、それを抑えた。 「まぁ、手加減してやる。」 「よろしくな、望月。」 二人は静かに構える。準備が出来た合図として、望月が海野の木刀の切っ先に自分の木刀をちょんと当てた。それと同時に望月は海野の木刀を弾く。激しく攻撃を続ける望月に、海野は守りを強いられる。海野の伸びが飛躍的であるのは間違いないが、望月も相当の腕の持ち主である。齢十二の子供とは思えない素晴らしい剣技だった。初めて望月の剣技をちゃんと見た小助も、開いた口が塞がらない。と、攻撃を受けていた海野も口を開いた。 「ずっと思ってたけど、やっぱり望月って綺麗だよなぁ。」 「は?!」 驚いた望月が距離をとる。 「型がとっても綺麗。よく勉強してるのが分かる。望月は真面目だからな。」 「な…!見えないくせに、知った口聞くな。」 「見えないけど分かるんだ。音で。」 海野は、刀の振るった音や服の擦れる音、足音で何となくどのような動きをしているのか分かるというのだ。少し前、望月が一人で木刀を振るっていた時、素振りの休憩中の海野から「綺麗だ。」と声をかけられ、意味が分からず「気持ち悪い。」と一声返したことがあった。望月は少し心がモヤモヤしていた。目の見えない海野が、自分にできないことができる。少しムキになった望月は突然、海野に向かって走り出した。先程より激しい攻撃に、海野はどうすることもできなくなっている。 「やめ!」 小助が二人を止める。望月は肩で息をして、海野はその場に座り込んだ。 「あはっ!さすが望月だ!敵わないな。」 「当たり前だ。俺は、お前なんかよりも早く刀を握っているのだから。」 望月が海野の手を握り、起こしてやる。海野は嬉しそうに立ち上がり、望月に向かって笑顔を向けた。息が整わない望月は、その笑顔を正面から受け取ることが出来なかった。 それから、何度も二人で手合わせをした。が、木刀の有無関係なく、望月の攻撃を海野はひたすら受け続けるようなものであった。ある日、小助が海野に言った。 「海野殿、そろそろ反撃するでござる。それと、望月殿はもう手を抜かんでもいいでござる。」 今から手合わせしようと木刀を振っていた望月が、目線だけで小助を見る。小助は目を瞑っていた。望月と向かい合っていた海野が、欠伸をしていた途中で驚いた。 「えぇ!?…分かった。やってみる。」 静かに木刀を構える望月と海野。小助の合図と共に、いつも通り望月が海野に攻撃をする。そして、それをしっかり受け続ける海野。相変わらず美しい剣技の望月は、どこにも隙がない。…と思っていた。望月はいつの間にか、天井を見ていた。何が起こったのか理解が追いつかない。と、視界の端から木刀が見えた。ギリギリで避けるように立ち上がる。海野の木刀は、先程まで望月の腹があった床に打撃をお見舞いする。と、海野はそのまま何の躊躇もなく望月の元へ飛んでくる。今度は、海野の攻撃を望月が受けることとなった。重い。速さだけでなく重みもある。自分との違いに打ちのめされる望月。だが、凹んでいる暇は無い。望月は一旦距離をとった。海野の構えに隙は無い。ぴくりとも動かず、全神経を使って視覚以外の五感を研ぎ澄ませている。 望月は確信した。勝てないと。木刀をもって一月程度の人間に向かって、勝てないと思ってしまった。悔しくて悔しくて、仕方がなかった。目に少しばかりの水を蓄えながら、望月は海野に向かって音もなく走り出した。思いっきり木刀を振りかぶり、海野を袈裟斬りするように、上から下へと木刀を振り下ろす。ガリガリと木刀が音をたてる。海野は木刀で望月の攻撃を流した。ビッと鋭い音をたて、ほんの一瞬で望月の首元へ海野の木刀が迫る。小助は黙って見つめた。望月の首スレスレで、海野の木刀はピタリと動きを止める。無意識に呼吸を止めていた望月は、速く浅い呼吸を繰り返す。 「っごめん!大丈夫だったか?」 望月の呼吸音に反応した海野は、慌てて木刀を下げ、望月に手を差し伸べた。望月が自分にしたように。だが、望月はその手を勢いよくで弾いた。海野の左手に、強い痛みが走る。 「…るさい、うるさい!手なんかいらない!なんなんだよ!俺が積み上げてきた物を一瞬で超えがって!」 急に怒りを顕にした望月を前に、海野は驚きを隠せなかった。今まで望月の心に溜め込んでいた黒い物が、どろどろと溢れてゆく。 「才能あるやつはいいよなぁ!?ちょっとやるだけでなんでもできるんだからなぁ!!?」 「望月……。」 「俺なんかいなくても、お前一人でなんでもやれるじゃないか!あぁぁぁぁああ!!!!」 息を切らしている望月は、初めてこんなに大きな声を出したな、と思った。心が空っぽになった後、ハッとした。明らかに冷静さを欠いていた。目線だけで海野を見ると、自分に対して呆れているような表情をしている気がした。望月は、拳を強く握った後、ゆっくりと正座をした。 「…………すまん、言い過ぎた…。こんなのただの八つ当たりだよな…。俺を殴ってくれ、気が済むまで。」
第七十二話
海野が一通り話終えると、静寂を切り裂くように、佐助が呟いた。 「目、見えるようになりたい?」 下を向いていた海野は、パッと顔を上げる。 「そりゃあね!でも、ないものねだりはしない。あの時と違って、今の俺には武士の誇りがある。」 微笑んだ海野の顔は、とても力強く、頼りになるものであった。いつの間にか全員の酔いも覚めている。と、そこに望月が帰ってきた。 「あ!もっちー!さっきまでみんなで海野さんの昔話聴いてたんだよ?聴き逃しちゃったね!」 「私はその時からここにいたので、海野の過去は知っている。」 「えぇ!?そうなの!?小助さんよりも、海野さんよりも早くに真田にいたの?!」 かえでが心愛の肩に腕をかけながら、望月に食いついた。 「あぁ。この中で一番に真田家へ来たのは私だ。…まぁ深い理由はない。尊敬する幸村様のお側にいたいと思っただけだ。」 「ほんとかよ〜?」 甚八が望月の左へ座り、二の腕辺りをつんつんしている。 「鬱陶しい。そもそも、私は家族となんの確執もない。私が自ら家を出たのだ。両親も分かってくださっていた。今もどこかで、平和に暮らしているだろう。」 「あらそうなの。」 沙恵が小首を傾げながら相槌を打つ。望月があぁ、と短く返事をして顔を上げると、キラキラと皆が目を輝かせているではないか。もちろん、教えてくれるよね?といった具合である。望月はため息を着き、肩を落とした。 「話すことは何も無い。幸村様に招かれ、ここで暮らし始めた。以上だ。」 「ちぇっ。なーんだ。」 清海が不服そうな顔をしたので、望月はギロリと睨む。それを察した海野が、まぁ望月はほんとに幸村様が大好きなんだよ、となだめる。のは逆効果で、望月は去ってしまった。皆楽しんでて!と一言残し、海野は望月を追いかけた。 ーーーーー 望月の家も海野家と同様、真田家に使えているのだが、望月六郎、彼だけが幸村に対してとんでもない熱意を持っていた。十一歳で幸村に誘われ、屋敷で住まわせて貰えると聞いた時、天井まで飛んで喜びたかったが、幸村に無様な姿は見せたくないと、静かに承った。 自分のように小さいものは目立つのではないかと思ったが、ここの屋敷には人がほとんどいない。時々顔を出す若い侍が一人。医者まがいのことをしているらしく、幸村からかなり頼りにされている。自分も負けていられないと、毎日庭で木刀を振るった。 一年経ち、身体に刀が馴染んで来た頃、一人の少年がやってきた。歳は自分と同じで、何やら親のせいで両目が見えないらしい。望月が真新しい道場で一人木刀を振っていた時に、幸村がその少年の手を取って自分の元へやってきた。 「望月、この者と仲良くしてやってくれ。」 「海野六郎です。よろしくね。」 海野は握手しようと、笑顔で右手を伸ばしてきた。望月は手を合わせるすぐ手前で、自分の手を止めた。なんなのだコイツは。まだ歳は若くとも、武士の端くれだろう。笑顔で握手を求めるなど、意味が分からない。伸ばされた手も柔らかそうで、如何にも刀など知りません、ということを表しているようだった。望月は、第一印象で海野に明らかな嫌悪感を覚えた。 「…幸村様、私はコイツと一緒にいたくありません。だって目が見えてないんですよ?目が見えない武士なんて堀のない城と同じ。使い物になりません。ただの足手まといです。」 そんな目で何ができるのだ、とブツブツ呟いている。幸村が望月に何か声をかけようかとしていると、海野が望月の顔をじっと見た。目は開いていないどころか、見えていないのに。望月は不思議な気分だった。 「望月くん、確かに君の言う通り、目の見えない武士なんて使い物にならない。でも、僕は自分を信じてる。たとえ目が見えなかったとしても、君の声は聞こえるし、君の匂いもわかる。」 海野はそう言いながら、一歩近付きくんくんと匂ってみせた。望月は黙ってそれを見ている。 「君を触ることだってできるし、」 そう言いながら望月の左手を握り、片膝を立てる海野。すると突然、ぺろりと望月の手を舐めた。驚きのあまり、目を見開いて硬直してしまう望月。 「…味も分かっちゃう。視覚は無くなっちゃったけど、他の感覚は全部僕の物だから。僕はこれを使う権利がある。」 ふわふわ、なのに、まっすぐ。海野の一直線の想いが、望月を貫いた。海野はゆっくりと立ち上がる。 「望月くんにはいっぱい迷惑かけちゃうけど、一緒に頑張っても…いい?」 柔らかい海野の笑顔に、望月は黙り込む。そして、目線を逸らしつつも静かに首を縦に振った。…やけに静かだと思って目線を海野にやると、海野は唇を噛み締めて涙を流している。泣くほど嬉しいのか、と思った瞬間、望月は涙の意味に気がついた。慌てて海野の手を取る望月。 「し、仕方ないな。足、引っ張るなよ。」 そう一声掛けてやると、海野はぱっちりと目をを開けた。きらきらの翡翠が目に入った望月は、その美しさを初めて目の当たりにし、身体中に電撃が走るような感じがした。翡翠からは、ぽろぽろと涙が落ちる。 「ぃやったぁぁ!!ありがとう!もちづきくん!」 「おえっ!急に抱きつくな!っ気持ち悪いぃ!」 二人が大騒ぎしているのを、幸村は遠くから嬉しそうに見つめていた。と、小助が良いタイミングで道場に入り、幸村の横に並ぶ。 「なんじゃ、見ておったか。」 「二人はきっと、良い関係になれるでござるな。しかし幸村様、なぜあの時望月に一声掛けてやらなかったのでござるか?」 「ん?はて、なんの事じゃろう。」 いたずらっぽく笑う幸村に、小助はやれやれと言わんばかりに笑をこぼした。静かな真田の屋敷に、 少しばかり楽しげな雰囲気が漂い始める。