澄永 匂(すみながにおい)
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金・土曜日辺りに更新予定。更新✖️週あり。 素人なので文章がぎこちないですが、温かく見守ってください。 中学生の頃に作っていた話(元漫画予定だったもの)を書けたらいいなと思い、始めました。
第八十八話
真田家には、九度山に来て以来最大のピンチが訪れていた。浅い傷はいとも簡単に回復される超人的な二人相手に、こちら側は血を流すような怪我を負ってはならない。絶望的だ。真田の面々は皆(みな)、疲弊しきっている。 「ねぇ沙恵ちゃん、勝ち目あると思う?」 「ふふっ、五分五分ね。」 「七三の間違いじゃない…?」 心愛、沙恵、かえでが矢羽根で会話する。が、そこに恋雨が割り込むように、拳を突き出してきた。 「随分と余裕だな。」 「そうなの〜。余裕すぎてあたし、素数いっぱい数えちゃうもんね。一、二、三、五…。」 ブツブツ言っているかえでに、恋雨の攻撃がくる。それの隙をつくように、心愛と沙恵が恋雨に攻撃をする。かえでは三人分の攻撃を避けつつ、周りにも注意を向けた。十勇士の方は、かなりボロボロに見える。だが、そちらに戦力を送ることはできない。幸村と大助を守るのに、この二人相手だと宝香と火垂が必要だ。 「え、火垂しかいない…?」 一瞬動きを止めてしまった。その瞬間、かえでは恋雨の拳をもろに食らう。かえでは、腹部に強い痛みを感じたと共に、口から血を吐いた。 「がはっ…!」 「そすうを数えるのは止めたのか?」 うずくまったかえでの左肩に、足を乗せる恋雨。そのまま、思い切りかえでの左肩を踏みつけた。 「っ……!」 声を殺して苦しむかえで。肩の骨はきっと折れてしまっただろう。それを見ることしか出来ない沙恵は、ハッとした。もしかえでの暴走を引き起こすことができるのなら、この二人にも太刀打ちできるかもしれないと。沙恵は声を荒らげる。 「止めて!するなら私にしなさい!…貴方だって、三ツ目の私を潰した方がいいでしょう?」 「沙恵ちゃん…だめ…。」 かえでが少し顔を上げる。恋雨は黙って沙恵に近づき、まるで流れるかのように、沙恵の左腕に蹴りを入れた。呻き声をあげた沙恵は、その場にへたりこんだ。かえでの頭に血管が浮き出る。 「安心しろ。これ以上は痛めつけたりしない。」 恋雨の行動は、沙恵の思惑から反れた。このままでは、かえでが暴走することはない。もっと、自分がボロボロにならなければ。 「あら、人間を食べたところでこの程度なのね。」 「なんだ、まだ足りないのか。」 そういいながら恋雨は、屈んでいる沙恵に目線を合わせるようにしゃがむ。かえでは左腕を脱力させながら、ゆっくりと立ち上がった。恋雨は沙恵に手を挙げる。が、その手は思いのほかゆっくり降ろされた。沙恵の頭にぽんと乗せる。 「もちろん、お前のこともちゃんと痛めつけてやるさ。待っていろ。」 沙恵は、恋雨を思い切り睨む。恋雨はそれを見てフッと鼻で笑うと、踵を返して歩き出した。かえでは右手で刀を構える。恋雨は、かえでの方へと手を伸ばした。 「お前のお陰で、良いことを思いついた。助かったぞ。」 「はぁ…?何…」 かえでが言い終える前に、思い切り地面を蹴り飛ばす恋雨。かえでは右手に力を込めるが、恋雨はかえでのすぐ左を通り過ぎた。その瞬間、かえでは理解した。こいつが狙っているのは、あたしでも沙恵ちゃんでもじゃない。あたしの後ろ……! 「幸村様ぁぁぁあ!」 その声で、恋雪を含む全員が、幸村のいる方へと注目する。 かえでの怒号と共に臨戦態勢をとっていた火垂が、鉤爪で恋雨を引っ掻く。恋雨は顔の右側に大きな引っ掻き傷をつけ、そこから大量出血しているが、止まることはない。火垂を追い越し、目前の幸村へと迫る。 「僕が守…」 「下がれ大助。」 幸村は、自分の前に立った大助を後ろへ飛ばし、抜刀した。村正の斬れ味は凄まじく、また幸村の太刀筋は美しい。恋雨の動きが、幸村の目の前で停止した。ゴトン、と重たいものが落ちる。恋雨の手首からは、大量の血が流れていた。恋雪を含む全員が、唖然としている。驚いた表情を見せた恋雨は、初めて自分の体が欠損したことに笑いが込み上げてきた。 「っはは…、この俺を初めて斬る者が、まさか人間だとはな。ふふっ、面白いものだ。」 そういいながら、自分の欠損した右手首を嬉しそうに見つめる恋雨。そしてゆっくりと顔を上げた。急に幸村の視界へ恋雨の拳が目に入る。若者にも負けない反射神経で、拳をギリギリ刀で流すことができた。が、その流れのまま、回し蹴りを幸村へ繰り出す。刀の位置からして、幸村はこの攻撃を回避できないと悟った。ここまでか。と、大助が幸村を押し退けた。 「大助っ…!」 大助は幸村を横目に、微笑んでいた。そして、恋雨の蹴りを静かに受け入れる。 大助は、世界がゆっくりに感じた。こちらへ向かって走ってくるかえでと沙恵。恋雨に銃口を向けている心愛。恋雨へ鉤爪を突き立てんとする火垂。十勇士達も、こちらへ向かって走ってこようとしている。 僕は、こんなにもたくさんの人に囲まれて、愛されて、過ごしていたのかと嬉しくなった。あの雪の日、宝香に助けられた自分と比べると、今の自分はとても強くなった。それこそ、宝香ではないが父を守れるくらいには。幸せだった。唯一の心残りは、父が戦場を駆ける姿を見てみたかったということだ。でも、それでも、今一番思うことは… 「…楽しかったなぁ。」 大助の表情は明るかった。ゆっくりと閉じられた瞳からは、一筋の涙が流れた。 「大助様ぁぁぁあ!」 聞き馴染みのある声がした。そう、自分が初めて恋をした、とても強くて、とても優しい女の子の声。 大助が目を開くと、森の方から光のような速さで飛んできた宝香が、恋雨に蹴りをお見舞いしていた。恋雨は騒音とともに、屋敷の中へ飛んでゆく。 「宝香、ちゃん…?」 「大助様、約束守ってくださいよ。私のこと、守るんでしょ?」 「え、え?なんで知って…」 大助の顔は真っ赤になっていた。それを見た宝香は、太陽のような笑顔を浮かべた。
第八十六話
ふーっと息を吐いた後、恋雨は顔を上げた。その表情は、少し眉が下がり、困ったようだった。 「…目が赤いので、よく言われます。あぁ、慣れていますから、気にしませんよ。」 「……。」 それでは、と頭を下げ、恋雪と共に歩き出した。自然の音がない。恋雨と恋雪の砂を踏む音だけが聞こえてくる。そして、二人が沙恵の目の前まで来たその時、いきなり沙恵が、恋雨に殴りかかった。その速度は人間をも優に超える、沙恵の本気だった。 「沙恵ちゃん!?」 かえでが叫んだ頃には、沙恵の拳は恋雨に当たっていた。パァンと大きな音が響き渡る。 が、その沙恵の拳は、片手で受け止められていた。 「私の力ごとき、受け止められるのね。」 「まぁ、女性の力ですからね。普通の女性とは思えない力ですけど。」 そういった恋雨は、沙恵の拳を思い切り反り返した。バキッというかなり大きな音が、真田家全員の耳に入る。 「あぐっ……!」 「……!!」 なにか折れたような音と沙恵の呻きを、一番最初に鮮明に聞いたのは海野だった。海野は勢いよく地面を蹴り飛ばし、恋雨の腹に向かって抜刀した。が、恋雨は沙恵を手放し、それを軽々と避けた。 「小助、沙恵ちゃんを連れて屋敷へ走れ。」 「相分かった。」 短い会話の後、小助は沙恵を担いで屋敷へと走る。その間も海野は、ひらりと地面に降り立った恋雨の方へ刃を向けている。恋雨は首を鳴らしていた。 「あんた、盲目か。」 「だったら何…」 海野が言い終える前に、右から蹴りが入った。海野は刀で受け止めたが、相手の蹴りの威力に負け、大きく飛ばされてしまう。清海が受け止めなければ、海野は地面に叩きつけられていた。 「えーなんでバレたのかな。」 そういいながら右足を下ろしたのは、恋雪だった。恋雪はおもむろに、服から左腕を出す。さらしを巻いている恋雪。その左肩には、大きな第三の目がギョロギョロしていた。真田家は、黙ってそれを見ている。 「あれ、反応悪いね。もしかして、見たことあるの?」 「恋雪、あいつは三ツ目だ。」 恋雨が沙恵を指さして、恋雪に助言する。えー!と大きな声を出して驚いた。 「そうなの?!弱いから気づかなかったよ〜。手首折れたくらい、すぐ治るのにねぇ。」 負傷した沙恵を嘲笑う恋雪。それに応えるように、恋雨が続けた。 「沙恵…。お前はもしや、人間と親睦を深めるべきだなんだと戯言を言っていた家の娘か。」 「あ!一さんっていたねぇ。ま、もう死んでるけど。娘はまだ生き延びてたんだぁ?」 「……。」 沙恵は何も言い返さない。あはっと乾いた笑い声で笑う恋雪。 「人間、食べたことないんだ〜。だからそんなに弱いんだね…。」 恋雪が言い終える前に、光速で近づいた海野が刃を振るった。 「人を喰べないことを貫き通している沙恵ちゃんが、弱い訳ないだろ。」 翡翠色が、恋雪を睨む。が、恋雪は更に笑った。 「はぁ?喰べればいいのに喰べないのは、ソイツの勝手でしょ?綺麗事言ってんじゃないわよ。」 「自己中心的な考えだから、そういう思考に至るんだ。なるほどね。」 海野の煽り文句に苛立ちを覚えた恋雪は、海野の目に向かって拳を振った。海野は後ろに飛び、真田一派の元へ戻る。 恋雨が長いため息をついた。 「…俺達の正体を知った者たちは皆(みな)、同じ運命を辿っている。……死ね。」 そういうと、光よりも速く動き、一番前にいた鎌之介の胸を貫かんと殴りかかった。それをギリギリで受け止めたのは、かえでだった。両手でしっかりと、恋雨の右腕を掴んでいる。 「皆は恋雪の相手を!恋雨はあたしと沙恵ちゃんで引き受ける!」 かえでの叫んだ声を全員が聞いた。真田が臨戦態勢を取り、一気に恋雪へと向かう。 「させるか…」 恋雨はすぐさま、恋雪の助太刀に向かおうとする。しかし、背中からは沙恵が押さえ込んだ。 「ふふっ、こっちだってさせないわよ?」 沙恵の右手首はしっかりと固定され、動かせないようになっていた。 「何だこの力…。金髪のお前も、三ツ目なのか。」 「いーや?目が赤いから、よく言われるよ。」 怪しい笑みを浮かべるかえで。だがしかし、ひとつの疑問点があった。 「あんた、第三の目はどこ?」 小助によって施術されていたにも関わらず、なぜ気がつけなかったのだろうか。かえでの問いかけに、ふふっと笑う恋雨。 「俺の第三の目は、無い。」 「?!」 驚くかえでと、なにやら考え込む沙恵。 「俺は三ツ目だ。だが、突然変異により第三の目が無い。それ故に力も弱く、三ツ目の中でも軽蔑されてきた。」 「だから、人間を喰って力をつけたかったと。」 かえでの返事に、恋雨が返すことはない。 「だからって、生きている人間を殺す必要はないでしょ?」 「三ツ目の世界では、力が全てた。分かるだろう、沙恵。」 「……。」 「じゃあ、沙恵ちゃんみたいにその世界から抜けたらよかったじゃん。」 「お前には、何も分からない!」 そういいながら恋雨は体をひねり、かえでと沙恵を引き剥がした。 恋雪は、十人に包囲されているにも関わらず、余裕の笑みを浮かべている。残ったくノ一は、大助と幸村の守りを固めていた。 「この中で、一番質のいいお肉は誰かなぁ〜?」 そういいながら、十人全員を見回す。そして、一人の前で動きを止める。 「…貴方!」 そういいながら、恋雪は瞬きの間に伊佐へ急接近した。 「いただきまぁす…」 伊佐をつかもうとしたそ恋雪の手は、伊佐の横にいた清海の錫杖を掴んでいた。 「俺の弟はやらねぇぞ。」 そういった清海は、恋雪を錫杖ごと地面に叩きつける。恋雪は倒れたまま、動かなくなった。頭から血が流れている。小助がゆっくりと近づく。しかし、恋雪が目を覚ますことはなかった。
第八十五話
程なくして、恋雪が目を覚ました。恋雪は何故か、伊佐にベッタリだった。 「……!」 顔を真っ赤にして頬を膨らませている伊佐。清海が笑いながら、その辺にしてやってくれと恋雪に伝えるが、恋雪は伊佐の右腕にくっついて離れない。ニコニコしながら、ピッタリとくっついている。伊佐はくっついかれていることよりも、恋雪の持て余すほど大きな大福が当たっていることに、頭がいっぱいだった。 「や、やめてくれ…。」 「だって、お兄ちゃんみたいにかっこいいから〜。」 えへへ、と笑いながら真っ赤になった伊佐を見ている恋雪。沙恵はそれを見て眉をひそめた。 「まぁ、元気になったなら良かったでござる。お兄さんの命も無事でござる。」 「わぁ本当に?!嬉しい!やったよ伊佐!」 「え、あぁ、うん…。」 もごもごと返事をする伊佐。すると望月が部屋に入ってきた。 「この件はやはり、奉行所に伝えようと思う。私達ではどうにもできん。あなたも一緒に奉行所へ来てもらえま…」 望月が話終える前に、恋雪は望月の左腕を引いた。咄嗟のこと故、望月は手に持っていた書類を思い切りばらまいてしまった。 「この人も好き!とってもかっこいい!」 「……。」 何を言っているんだ貴様、とでも言ったような顔をしている望月を他所に、嬉しそうな表情の恋雪。 「あ〜れ。面白いことになってる。」 突然、道明がひょいと現れた。 「貴様、何の用だ。」 「うぉい、ボクも一応仲間だよ〜ん。佐助いる?」 「んあ?何?」 そう言いながら道明は、佐助と共に部屋を出ていった。 恋雪は幸村に挨拶をすることになった。だか、どうしても離れたくない、と言って、望月の左腕と伊佐の右腕を掴んだまま、挨拶をしていた。それを聞いていた海野は、唇を噛み締めて肩を震わせていた。 「すいません。お兄ちゃんがいなくて寂しいんです。」 「はははっ!よいよい、気にするな。して、お主の肉親はあの兄だけか?」 「はい!私の大好きなお兄ちゃんです!」 「そうかそうか。そんな兄が襲われては、さぞかし不安であろうな。」 「はい!でもこの二人は、なんかお兄ちゃんに似て綺麗なんです!」 に〜っと笑いながら伊佐と望月の顔を見る。伊佐は下を向いてしまっており、望月は静かに目を瞑っていた。 「まぁ、兄が目覚めるまで、ゆっくりしておれ。」 「ありがとうございます!」 その日の夜、恋雪は望月、海野、沙恵の部屋で寝ることになった。 「悪いけど、俺の布団で寝てね。」 「望月さんの横ならなんでもいいです!」 「はぁ…。」 廊下側から望月、恋雪、海野、沙恵の順で就寝する。布団が足りないので、沙恵の布団に海野がおじゃましている。 「ごめんねぇ沙恵ちゃん。狭くて。」 「むしろ嬉しいわ。一緒にくっついて寝ましょ?」 「あはは!わーい嬉しい〜!」 「…うるさい。」 「あれ、望月さんこっち向いてください!」 「……はぁ。」 望月が一番ため息を着いた日になった。 朝日が障子を破る。青年は、ゆっくりと目を開けた。 「…恋雪。」 微かな声だったがそれを聞きとったのは、青年の横で座って眠っていた小助だった。 「恋雨殿、目を覚ましたでござるか。」 「ここは、どこだ。恋雪は。」 「ここは真田家の屋敷。恋雪殿も無事でござる。」 「…そう、ですか。」 短い会話を済まし、すぐ沈黙になってしまった。 朝食を取るために、大広間に集まった。そこには、恋雨の姿も見られた。 「お兄ちゃん!」 恋雪は恋雨の元へ一目散に駆けて行き、力いっぱい抱きついた。 「おいおい、まだ怪我人だぞ。」 「だって、お兄ちゃん大好きだもん!」 どうやら恋雪は、本当に兄の恋雨のことが大好きなのだろう。微笑ましい兄妹の様子を見て、朝からほっこりした空気になる真田家。もう歩けるほどに回復した二人を見て、今日にでも奉行所に届けようと提案する望月。反対するものは誰もいなかった。 ゆっくりと朝食を摂り、その足で庭まで全員で送りに出る。 「皆さんと離れるの、とっても寂しいです…。」 そう言いながら、望月と伊佐に握手する恋雪。とてつもない勢いで手を振るので、二人は若干フラフラしていた。 「恋雪。」 恋雨の一声で、恋雪はパッと二人の手を離した。えへへ、と照れ笑いを浮かべながら、頭を搔く。 「…っまぁ、達者でな。」 腕を痛そうにプラプラさせながら、伊佐が別れを告げる。 「皆さん、ありがとうございました。」 恋雨が頭を下げると、恋雪も慌てて頭を下げた。奉行所までは、小助が二人に同行する。 「さ、そろそろ行くでござる。」 「はい。」 「皆さん、さようならぁ!またね…」 「待ちなさい、貴方達。」 突然、沙恵が声をあげ、二人の前に立ちはだかった。二人はピタリと動きを止める。二人の少し前を歩く小助も、首を傾げた。 「貴方達を、下町へは行かせないわよ。」 そう言いながら沙恵は歩みだし、小助と二人の間に立った。 「下町で起こった殺人事件。あれの犯人を、私は知ってる。」 「…沙恵、どういうことじゃ。」 幸村が、落ち着いた声色で沙恵に問いかける。 「この二人は…、三ツ目です。あの若い夫婦を喰ったのでしょう?貴方達。」 恋雪が唖然として目を見開く。恋雨は依然として落ち着いた雰囲気だ。 「何を言うんです。まさか、瞳が赤いからとか言いませんよね。貴女も赤いのに。」 「恋雨、貴方は傷の治りが早すぎる。恋雪が勢いよく抱きついても、ひとつも痛がらなかったじゃない。」 「恋雪の力ごときで、痛むとでも?」 「恋雪の力『ごとき』?伊佐や望月が振りほどけない力が、本当に『ごとき』なのかしらね。」 沙恵が首を傾げ、強い口調で問い詰める。辺りは一瞬で静まり返っていった。
第十八章 第八十四話
「げーっ!徹夜したの?!」 お肌に悪いんですけど〜、と嘆くかえでに、そうなの?と返している心愛。 「皆(みな)、よく頑張った。今から侍女達に、美味しい出来たて朝ご飯を用意してもらおう。」 「よっしゃ〜!」 一番大きな声で喜んだのは、清海だった。 真田家は、早めの朝食を摂る。そして、交代で仮眠をとった。 「んあ〜!寝むぃ…。けど今日は見回り当番だしなぁ…。」 「ほら、姿勢を正せ。」 眠そうな海野と、相変わらず凛とした態度の望月を見送った真田家は、いつもよりふんわりとした空気感だった。そんな中、頭を起こすためと、伊佐は一人で薙刀を素振りしていた。 「伊佐は真面目だなぁ〜。どっかの兄ちゃんと大違いだぜ。」 「そうでござるな。清海殿、仮眠から帰ってこないでござる。」 「誰が清海を最後にした訳〜?」 十蔵、小助、宝香がまったりしながら、他愛もない会話をしている。と、伊佐の元へ苦無を持った佐助がやってきた。 「俺の相手してくれる?」 「あぁ、構わない。」 そう言った伊佐は、佐助と打ち合いを始める。 「…なぁ佐助。」 「ん?」 「俺からも頼む。」 「え、何を?」 佐助はキョトンとしている。が、伊佐は無言で攻撃を続けるので、二人の会話はここで途切れてしまった。 その代わりに、珍しい人物の大きな声が真田家の耳に入る。 「小助はいるか!!」 見回りに行ったはずの望月が、息を切らしながら姿を見せた。 「む、どうしたでござる。」 「怪我人だ。重篤な様子に見える。」 「なっ…、すぐにこちらへ。」 そう言いながら立ち上がる小助。望月のすぐ後ろには、血だらけの青年を抱えた海野がいた。青年は、苦しそうに肩を上下させている。海野の横には、背の高い少女が泣きながら着いてきていた。 「うっ…お兄ちゃん…グスッ…。」 青年の妹のようだ。望月の話によると、見回りをしていた時、ある家に人だかりができており、様子を見ると、若い夫婦の死体と、瀕死の青年がいたそうだ。あまりにも容態が酷いので、医者まで運ぶような時間もなく、近くの真田家まで連れてきたそう。 「お、お兄ちゃんは助かるの…?!」 涙でぐちゃぐちゃにしながら、海野に泣きつく。その様子はまるで、怯えた白兎のようだった。それを海野は、少し屈んで目線を合わせ、優しく語り掛けた。 「大丈夫だよ。うちの医者は優秀だからね。」 「そうだ。気が紛れるように、お経でも読んでやろうか。」 清海が、女の背中にぽんと手を添える。 「ありがとうございます…。私、恋雪(こゆき)と申します。兄を、恋雨(こさめ)をよろしくお願いします…!」 海野にぺこりと頭を下げた恋雪は、清海と共に道場へと向かっていった。 「ちょっ、清海!なんで俺まで…?!」 謎に伊佐を連れて。 一方小助は、才蔵と共に恋雨の手当を行っていた。 「何かに引っかかれた傷のようでござる。」 「鉤爪か。…火垂はもう少し小さい。」 「さすがにそれは疑ってないでござるよ。」 「……。」 恋雨は、左胸から右の腰にかけて、三本の切り傷を負っていた。小助は傷を手当しながら、死んだという若い夫婦の様子も気になっていた。 恋雨の手当が終わると、それをわかっていたかのように、海野、鎌之介、十蔵、甚八が若い夫婦の死体を運んできていたのだった。 「清海か伊佐に、手合わせてもらおうと思ってな。」 鎌之介が、頬を掻きながら目線をそらす。小助は夫婦に被された筵をゆっくりとめくる。顔の白くなった男性には、同じような三本の傷があった。 「…む。」 驚くべきことに、右腕の一部がなかった。と、甚八が少し小さな声で呟いた。 「女性の方は、はらわたごっそりいかれてたぜ。」 驚いた小助は、女性の筵もゆっくりとめくる。甚八の言う通り、腹の辺りがかなり欠損している。 「これは…、熊に見えるでござるな。」 「山の動物たちに聞いてこようか?」 佐助がそう言いながら山に入ろうとしたので、一人は危険だと、かえでも付き添うことにした。 「…でも、そもそもこの裏山に熊なんているっけ?」 鎌之介の疑問に、皆(みな)は首をひねった。 佐助とかえでは、木々を飛び移りながら移動していた。すると、段々近くに猿たちが集まってきた。驚いてポロッと声をもらすかえで。 「すごぉ…。」 「みんな、人喰い熊って知ってるか?」 佐助は、普通に猿たちに話しかけている。猿たちは、なにやら身振り手振りをしており、佐助がふむふむ、と相槌をうつ。 「この山には、人を食う生き物はいない。いるなら余所者だろうって。」 「なるほどね…。」 かえでが眉間に皺を寄せてるいると、一匹の小猿がかえでに飛びかかった。かえでは驚きながらも、小猿を抱き抱える。小猿はかえでにしがみついていた。 「何かに怯えてるのかな…。」 小猿の背中を撫でながら、考え込むかえで。佐助はそれを、微笑ましそうに見つめていた。 「佐助、どうしたの?」 「い〜や別に?」 佐助はそう言いながら、そっぽを向く。そのまま猿たちに、何かあったら教えてくれと伝える。猿たちはキキッと返事らしきものを返し、一気に森の中へ散っていった。小猿も親猿に飛び乗り、そのまま姿が見えなくなった。 「森の生き物じゃないとしたら、貿易かなんかで入ってきた海外の動物とかかな。」 「そうだとしたら、皆が気づいてるはずだ。」 「そうかぁ…。」 事件は迷宮入りだ。ここは黙って奉行所に任せるべきか。そう言いながら、なんの収穫もない二人は、歩いて下山した。 屋敷に着くと、恋雪がすやすやと眠っていた。泣きすぎたせいか、目の周りが腫れている。それを心愛が忌々しそうに眺めていた。 「心愛、どしたの。」 「かえで…。アンタには言わない…。ほっちゃんに言いに行く…。」 ドスドスと足を鳴らして行ってしまった。かえでは首を傾げた。
回想!抱えたもの 其ノ弐
※このお話は、第七章 第二十七話以前の内容を含みます。本編の後に、お楽しみください。 「恩希〜!」 八歳の鎌之介が、浜辺で鎖鎌を振るっている恩希の元へ走る。 「来るんじゃない!怪我するよ!」 恩希の大声に驚き、ピタリと動きを止める鎌之介。鎌之介の瞳には、長い鎖を滑らかな動きで操る恩希が映っている。五年前、鎖鎌という武器を初めて見た鎌之介は、一気に虜になってしまった。それ以来、恩希が鎖鎌を扱っている時はいつも、すぐ側で見守っていた。 「綺麗だろう。自分の娘ながら感動するよ。」 真左衛門がそう言いながら、鎌之介の左側で足を止める。神社の家に生まれていれば、きっと立派な巫女にでもなれたろうに、と呟いていた。鎌之介は真左衛門の顔を無言で見上げている。 「なぁお父さん、俺も鎖鎌やりたい。」 「いや〜、俺は鎖鎌使えないから、恩希に聞いてくれ。」 困り顔で答える真左衛門。と、丁度一区切りついた恩希が、二人の元へ戻ってきた。 「恩希〜、俺に鎖鎌教えてくれ。」 「だめ。」 「え?!なんでなんで!」 「危ないから。」 恩希にあっさりと断られた鎌之介は、ほっぺを膨らませながら、地団駄を踏んでいる。 「…じゃあ、この枝で一発私に当ててみな。」 恩希はそう言いながら、足元にあった木の枝を鎌之介に放り投げた。鎌之介はあたふたしながらも受け取り、唇を噛み締めて首を縦に振った。 それからというもの、鎌之介は何度も恩希に向かって枝を振り続けた。しかし、恩希は常に持っている鎖鎌やおたまなどを使って、軽く受け止めていた。そしてその度に、豪快に笑うのだった。 「ははっ!そんなんじゃいつまで経っても変わんないよ。」 鎌之介は次第に、作戦を組みだした。 草履を作っている時は、両手に加えて足も塞がっている。そこに後ろから、音もなく振り下ろす。が、恩希は右に身体を傾け、ころんと転がりながら躱した。 「ほらね。」 そういいながら作業を続ける恩希。なぜ攻撃の軌道を見ていない恩希が避けられるのか、鎌之介には全くわからない。 そこで鎌之介は、作戦を変更した。不意打ちは不可能。ならいっその事、正面から立ち向かえばいいのだと。鎌之介はその日を境に、恩希に不意打ちを仕掛けることはなかった。ひたすら素振りをし続けた。そして、恩希が鎖鎌を振るっている時は、呼吸することも忘れて観察し続けた。 そんなことを続け、鎌之介は十歳になった。振るっていた枝も、木刀のような太いものになった。素振りは垂直なものから、縦横無尽な動きに変わった。ふぅ、と一息ついた鎌之介は、浜辺でいつも通り鎖鎌を振るっていた恩希に木刀を突きつけた。 「恩希、勝負だ。」 「…やっと、一発入れる準備が出来たんだね。」 動きを止めた恩希は、鎌之介の方をゆっくり振り返る。そして、右足をジリジリと引いた。 波がよせる。鎌之介が息を吸ったその瞬間、空気を切り裂くような音を立てながら、鎖鎌の分銅が飛んできた。鎌之介はそれを木刀で弾きつつ、走って距離を詰める。恩希はそれを察知し、鎌の方に持ち変えて受け止める。波が返す。 「はぁ〜。鎌は刀より短いから、自分の間合いに入れば長さでは負けないって?」 「鎌は短い上に、一方向にしか攻撃できないしな。」 「…鎌なら、ね。」 「……!?」 恩希は不敵な笑みを浮かべる。急に鎌の力を緩めたと思ったら、鎖が鎌之介目掛けて飛んできた。鎌之介はギリギリで避けることが出来たが、恩希の狙いは鎌之介ではない。恩希は狙った通り、鎌之介の木刀に鎖を巻き付けていた。 「私の得意武器、鎖鎌なんだけど?」 「っでも、力なら負けねぇぞ。」 鎌之介は木刀をゆっくり自分の元へ引き寄せてゆく。恩希の足元から線が伸びる。 「……っふ!」 恩希はくるりと回って、自分の腰に鎖を巻き付けた。その衝撃に、鎌之介がふらついた。それを逃さない恩希は一気に鎖を伸ばし、まるで鞭のようにしならせた。すると、鎌之介の木刀は、いとも簡単に飛ばされてしまう。 が、鎌之介はその反動を使って恩希に後ろ回し蹴りをお見舞しようと、自身もくるりと回った。だか、恩希はそれにも気がついた。鎖を手に巻き付けピンと張り、鎌之介の足を受け止める。だが、鎌之介はそのまま鎖を膝裏に引っ掛けた。恩希の体勢が崩れる。 「うぉらぁぁあ!」 振りかぶった鎌之介の右手には、二年前に恩希が投げた、あの木の枝だった。恩希は防ごうにも、鎖を足で止められて動けない。 ペチン なんとも間抜けな音と共に、鎌之介は恩希の左肩に木の枝を当てていた。 「ちゃんと、この枝で一発当てたぞ。」 「……やるね、鎌之介。」 ふいっと力を抜く恩希のせいで、鎖に片足をかけていた鎌之介は、砂浜にどしんと尻もちも着いた。 「いってぇ…。」 「ははっ!ごめんごめん。…でもまぁ、約束だもんね。」 そういいながら、恩希は鎌之介に手を差し伸べた。 「教えてやるよ、鎖鎌。」 「……っ!うん!」 この恩希への白星は、鎌之介にとって、最初で最後のものであった。
回想!抱えたもの 其ノ壱
※このお話は、第十二章 第五十一話以前の内容を含みます。本編の後に、お楽しみください。 「ほら!姉さんこっちこっち!」 「待って、宝香。」 火垂の手を引いている宝香は、満面の笑みを浮かべながら、緑一色になった森を走る。真田屋敷がある森は、四季折々の美しい景色を見せるのだ。 屋敷からそう離れていない所に、池のようなものがあった。生き生きとした無数の青葉と高く上がった空の天色が、池の中で混ざりあっている。 「わぁ、綺麗だねぇ。」 「でしょ!姉さん絶対好きだと思って!」 「ありがとう、宝香。」 にへへ〜、とくねくねしながら照れる宝香。宝香は桜子という唯一の家族を亡くし、自分は過去も分からない独りぼっちなんだと思って過ごしていた。故に姉である火垂との再会が、本当に嬉しかったのだろう。 「でもね、姉さんをここに連れてきたのは、この池を見せたかっただけじゃないんだ。」 そう言いながら、すぐそばにある木に手を添え、上を見上げる宝香。それを見た火垂も、合わせて上を向く。 「これは、桜の木ね。」 「そう!大きいでしょ?」 よく見ると、池を囲うように桜の木が咲いている。時期的に桜の花は無く、青々とした葉がたくさん着いていた。その中でも一際大きな桜の木。これの下に二人がいる。すると火垂は、宝香の足元に少し大きな石が置いてあることに気がついた。いや、人の手が入ったように、少しだけ石が埋まっていたので目がいった、の方が正しい。石の上に小さな青い花が一輪、添えられている。 「これは、桔梗…?」 「変わった色の桔梗だねぇ。誰が置いたのかな。」 首を傾げながらも、その場にしゃがみこみ、石を撫でる宝香。 「これを、姉さんに見せたかった。」 そう言うと、その石を穏やかな目で眺めた。その様子を、少し引いた位置から見る火垂。 「これ、桜姉のお墓なんだ。」 「は、はるこ…の?」 「うん。桜姉はちょっと前に肺病で死んだ。」 宝香の一言で、辺りに沈黙が広がる。桜の葉が風に優しく撫でられ、音を奏でる。 「時々ね、ここに来て手を合わせるんだ。姉さんにも知ってほしくてさ。」 「……。」 火垂はゆっくりとしゃがみこんで、静かに手を合わせた。 「妹を守ってくれて、ありがとう。桜子姉さん。」 ぎゅっと目を瞑って手を合わせている火垂を見て、宝香は心が暖かくなった。そして、よし!と声を出したかと思うと、懐からおにぎりを取り出した。 「えへへ、三人で食べようと思って、ちょっと持ってきんだ〜。」 「宝香…。そうね、三人で食べよっか。」 宝香と火垂が両端のおにぎりを取り、残った一つを、宝香が石の前に置いた。 「「いただきます。」」 そこで二人は、桜子の話を沢山した。里に残っていた頃、火垂は桜子に稽古をつけてもらったことがあるとか、桜子と半蔵の模擬戦を見たことがあるとか。 「え、半蔵と戦ってたの?!」 「うん。いい勝負してたよ。うっすら覚えてる。」 「すげぇ…。」 身体が弱くなった後はあまり動くことはなかったが、調子が良い時は一緒に洗濯物をしたとか、つまみ食いをして怒られたとか。 「桜子姉さんって怒るんだ…。」 「ほっぺぶにゅーってつねられたよ。痛かったなぁ。」 「すごい…。」 そんな話をした後、火垂が空を見あげた。 「半蔵兄さんも、教えたら来てくれるかな。」 「…さぁ。」 宝香も空を見上げる。 「…そろそろ行こっか。」 「そうね。」 立ち上がって、歩き出した宝香。火垂は少しだけ桔梗を見つめたあと、ゆっくりと立ち上がり、宝香を追いかけた。 とある一室では、一輪の青い桔梗が、風に優しく撫でられていた。その様子を、交際異色が穏やかに見つめていた。
登場人物紹介二②
一 沙恵 167cm 54kg 一人っ子 柔らかい表情と物言いで、誰もが惚れ惚れしてしまう。が、三ツ目であり、親を殺した同胞を恨んでいる。誰にでも優しく接するが、鎌之介とは非常に仲が悪い。簪を武器として戦うが、刀や鉄扇など様々な武器を使う。三ツ目故に戦闘力が高く、真田No.二の実力。かなりナイスバディで心愛が憧れの的としている。故に懐かれている。良遊郭から引き抜いてくれた海野が好き。 元高原花魁、情報屋の橋姫。 海野 六郎 170cm 62kg 三人兄弟・長男 幸村の左腕的存在。朗らかな性格で、常ににこにこしている。糸目であるが、実際は目が見えないので目を閉じている。親のせいで目が見えなくなっている。視覚以外の五感が他の人以上に優れており、それらで人の位置などを感じている。真田一の剣豪と言われていたが、刀を持ち始めたのは、十二歳になってからであり、それまでは本でしか学んだことがなかった。沙恵が好き。 望月 六郎 170cm 61kg 一人っ子 幸村の右腕的存在。冷静というか、冷徹な性格。他人に対してだけでなく、自分にも厳しい。真田家の頭脳担当で、ほとんどの書類仕事を行う。刀が得意武器だが、右腕を負傷後、心愛作の銃を使う。実力は海野に少し劣るくらいだが、自分を卑下している。海野に相棒と言われ嫌がっているが、本心は嬉しいし、自分もそう思っている。絵心が全くないが、無自覚。 穴山 小助 172cm 60kg 二人兄弟・次男 語尾に「ござる」をつける侍。母親を救ってくれた医師に憧れ、独学で医学を習得。客観的に見ることが得意で、縁の下の力持ち。余り怒ることがなく、諭すことが多い。というより、怒っているところを見たことがない。一刀流ではあるが、得意武器は弓。オールラウンダーで非常にバランスが良い。よく海野と一緒に接待をしている。真田のママン。 筧 十蔵 177cm 67kg 五人姉弟・四男 元武士の猟師。年齢を思わせないような振る舞いで、誰とでも気さくに話せる。賭け事が好きな一面を持つが、引き際をわきまえている。猟師であったので、勘が優れている。筒の長い銃を武器として戦う遠距離派。腕はかなり良いので、真田家の凄腕スナイパー的存在。説明が苦手な感覚派なので、考えて話すことが苦手で、思ったことをただ言っている。 根津 甚八 175cm 62kg 一人っ子 元漁師の海賊。今は真田家と海を行ったり来たりしている。ねじり鉢巻がトレードマークで、海が命の男。武器は特に決まっておらず適当だが、途中からかっこいいという理由で、大太刀を使う。かなり力が強く、よく清海と腕相撲をしている。そして、負けている。また、かなり柔軟性もあるが、心愛には負けている。実はバツイチで、女の人と話すのが得意では無い。真田のパッパ。 希谷川 宝香 158cm 45kg 四人兄妹・三女 しっかり者のくノ一。かえでの相棒であり、真田くノ一の二番手。可愛いものに目がなく、惚れ気質なところがある。伊佐が好きだったが、大助のことを可愛いと思っているうちに気が変わる。武器は自分で編み出したクナイを四つ組み合わせたような物を使っている。パワーよりスピード派で走るのがかなり速い。 真田 大助 153cm 43kg 幸村の嫡男。少し引っ込み思案なところがある。自分の未熟さをよく理解しており、海野、望月から、一刀流の指南を受けながら毎日欠かさず鍛錬をしている。真田一真面目と言っても過言では無い。無駄な殺生を好まず、父の考えを尊重している。自分のことを可愛がってれる宝香が好きで、自分が守ってあげたいと思っている。身分が違えど好きは好き! 真田 幸村 168cm 50kg 優しい顔付きであるが、燃える心を持つ。戦国武将では珍しく、命を大切にし、男尊女卑の考えを持たない。心優しく、困っている人がいたらすぐに手を差し伸べる。駆け引きや、取り引きが上手で、その最中に人の本性を見抜いたりする。真田の十字槍を武器に戦う。また、妖刀である千子村正を愛刀にしている。
登場人物紹介二①
手飛かえで 167cm 52kg 一人っ子 はっきりとした物言いで、敵を作りやすいくノ一。が、仲間想いで正義感が強く、曲がったことが大嫌い。三ツ目に生まれ、親を早くに無くしたり、友達がいじめられたり、それを庇い自殺まで追い込まれたり、壮絶な過去を持つが、常に希望を持ち、上を向いている。かなり頭が良く、武道も嗜んでいたために強いが、それをひけらかしたりする。 猿飛 佐助 165cm 56kg 一人っ子 誰よりも命を大切に考えている忍者。父親が村の長で、英才教育を受けており頭が良く、実力も確か。しかし教育がエスカレートし、母親の手を借りて村を抜け出す。それ以来、命の大切さを知り、今に至る。明るい性格で、誰とでも仲良くなれる。飛び道具がかなり苦手。山にいる動物たちとは仲が良く、コミュニケーションも取ることが出来る。 霧隠 才蔵 181cm 65kg 三人兄弟・双子の弟 本名は、霧隠正蔵。冷静沈着で、寡黙な忍者。元々、命より任務という考え方を持っていたが、真田家に入ってからは仲間思いな性格に戻った。元伊賀最強。しっかりしており、よく参謀のような位置についている。伊賀の捕虜となり、拷問を受けた過去を持つ。静かではあるが、心の奥に情熱を秘めている。クナイが得意武器。元許嫁である火垂のことが好き。 輝池 火垂 157cm 45kg 四人兄妹・次女 かなり大人しい性格。が、戦や任務になると豹変し、冷酷になっていた。伊賀の頭領の家に産まれており、上下関係に敏感。任務以外のことは考えるなという教育を受け、人格がなくなりかけていたところ、才蔵のおかげで取り戻すことができた。才蔵が好きで、テンパるとすぐ顔を真っ赤にしながらあわあわしている。鉤爪が得意武器である。 三好 伊佐 166cm 52kg 二人兄弟・次男 クールになりたいけどなれていない。真面目な努力家で、諦めない心を持っている。僧侶であるが、諜報が得意で、変装したりしている。昔住んでいた寺で酷いいじめにあっているが、それをバネに今の強さを手に入れる。兄のことで常に頭を抱えているが、兄のことを尊敬している。薙刀を使うのも、兄の助言からである。どことなく、自分を後回しにするところがある。 三好 清海 190cm 85kg 二人兄弟・長男 見た目に反して大雑把でガサツ。怪力でムキムキなのに着痩せするタイプで、細身に見える。僧侶らしい錫杖(しゃくじょう)を使って戦う。弟の尻に敷かれているが、やる時はやるタイプなので、いざと言う時は命を懸けて戦う。昔あった弟のいじめに気づけなかった自分を悔やみ、今も弟に申し訳ないと思っている。人情に厚い男前な性格をしている。 輩 心愛 155cm 44kg 七人兄弟・次女 自分のことを一番可愛いと思っている。というのも、過去は佐助と同じような生活を強いられ、ポジティブに考えないと病んでしまいそうで、精神的に追い詰められていたからである。勉強は苦手だが、研究熱心で、自らで作り上げた短筒を愛用している。好き嫌いが激しく、敵対した人に対してはかなり酷い態度をとる。胸が大きい人が大嫌い。だが、沙恵は別。鎌之介とはバカップルっぷりをよく披露している。 由利 鎌之介 180cm 65kg 一人っ子→二人姉弟 お調子者だが空気が読める上、かなり頭が切れる。飄々としているが、人付き合いを大切にし、仲間のためなら命も投げ出す勇気を持つ。明るく誰とでも仲良くなれるが、沙恵とは話が合わない。武士の家に生まれ、関ヶ原の戦いで家を抜け出す。義姉の恩希から教わった鎖鎌を得意とする。ちなみに恩希は初恋の相手、今は心愛を溺愛している。
第八十三話
先程までのへらへらしていた態度とはうってかわり、表情を崩すことはなかった。 「ボク的には、鬼一が徳川寄りだから、どちらかと言うと真田側につきたい所なんだけど。」 徳川はどうでもいいけど、鬼一が気に入らないからなぁと、首を傾げる道明。だが、つい先程まで敵として乗り込んできた術師の発言である。命を助けれくれたとはいえ、到底信用はできない。真田家の面々は、無言で道明を見つめている。 道明は、まぁそうだろうね、とつぶやくと、急に短刀で親指に小さな傷をつけた。そして、式神を作り出していた御札に、少し血を染み込ませる。 「ボクは虚言を述べない。もし述べたら、一つ叩かれることとする。」 突然何を言い出すのかと思えば、その御札を下に置いた。そして、まじまじと真田家に見つめられながら、道明はこう続けた。 「真田幸村は、徳川家康に内通している!」 大声に驚いた火垂が、ビクッと反応する。すると、御札から式神が現れ、なんの躊躇いもなく道明の頭をど突いた。 「いっ!たぁ…。」 苦しむ道明を他所に、式神はスーッと消えた。残った御札はボロボロになっている。道明はその御札をビリビリと破いた後、もう一枚御札を取り出す。そして、先程の傷から出ている血を、同様に御札に染み込ませた。 「鬼一道明、真田家専属の術師として、尽力する。もし裏切った場合、この首は斬り落とすこととする。」 発言に驚いた幸村が、ビクッと反応する。そして道明は、その御札を幸村に渡した。 「これで、信じてもらえますか?幸村様。」 「ほ、本当に良いのか。」 「はい、鬼一が徳川に着くのなら、ボクは喜んで豊臣方の真田家に着きます。」 幸村に向かって、にこっと笑顔を向ける道明。幸村が御札に手を伸ばそうとした時、少し前に目を覚ましたであろう望月が、その御札を受け取った。 「こんな奴から渡された物を、幸村の御手に触れさせられん。」 少し朦朧としているのだろうか、顔色が良くない望月。しかし、幸村に何かあってはいけないと、根性で立ち上がったのだ。幸村がそれを見て頬を緩ませ、望月を自分の方へもたれさせた。 「鬼一道明。お主の覚悟、しかと受けとった。これから、よろしく頼む。」 「こちらこそ。……じゃ、初仕事ということで、ここにいる全員を元に戻して差し上げます。」 そういうと道明は、握った右手の人差し指と中指を立たせて合わし、望月の額につけた。すると、道明の指先から白い光が灯り、徐々に望月の表情も安らいでいった。 「……はっ!ゆ、幸村様!!ご、御無礼を…。」 先程までぐったりしていたとは思えないほど、焦った様子の望月。それを見た幸村は、良い良い、と笑いながら声をかけていた。道明はその間も、海野、才蔵、鎌之介と、負傷した面々を回復させていた。 「はぁ〜、真田家にヒーラーが来たかぁ。」 「ひーらー?」 佐助がかえでの方を見て首を傾げた。 「ああいう回復役の事だよ。」 「へぇ〜…。まぁすぐ忘れそうだけど。」 「なはは笑」 他愛もない会話をしていると、道明がズカズカとこちらへ向かってきた。と、かえでの腕を掴む。 「かえでちゃん、君に言いたいことがあるんだ。」 「え、…何?」 道明は一呼吸おいて続ける。 「気がないのに強かったり、ボクの術からコイツを救ったり、君はボクの想定を遥かに超える。…ボク、君のことが気に入っちゃった。」 「はぁ?!ふざけんなよ!」 かえでよりも早く、佐助が声を上げる。 「何?お前に話しかけてないんだけど。」 「お前じゃねぇよ佐助だよ!かえでは俺の……」 「かえで、佐助なんて放っておいて、ボクと来ない?」 状況が読めず、目が泳ぐかえで。少し後ろで、握り拳を作る伊佐がいた。 「かえでちゃん、この世に君を守ってあげられるのはボクしかいない。ここを離れろとは言わないけどさ、ボクと一緒にならない?……本気だよ。」 「いや、あの…。」 道明に正面から見つめられたかえでは、咄嗟に目を逸らした。すると、かえでの左にいた佐助が、かえでの左手を包み込むように握った。かえではその温かさにハッとした。そう、あたしが好きなのは、強さじゃなくてこの温かさ。 「ごめんね。あたし、守ってほしくて佐助といるんじゃないんだ。佐助がいいの。」 佐助が黙ったまま、かえでを見つめる。 「あたしは、佐助がいいんだ。」 そう言ったかえでは、佐助の方を見て微笑んだ。佐助はその言葉に嬉しくなったが、どうにか抱きしめるのを堪えた。その代わりに、今までにないくらい目を輝かせ、嬉しそうな顔をしていた。 「……本当に?」 「うん。ありがとね、道明。」 「……。」 道明は下を向く。さすがに直球すぎたか…?と、道明をのぞき込むかえで。と、道明が勢いよく顔を上げた。そして、ビシッと佐助を指さす。 「お前を選んだかえでちゃんを、ボクは否定しない。でもお前に何かあったら、今度こそボクのものだから。それまで預けてるだけだからね!」 佐助にべーっと舌を出す道明。それにカチンときた佐助は、道明に殴りかかろうとした。が、かえでに腕を掴まれて、腕を振り上げることも出来なかった。ははっ!と笑いながら道明は、佐助の胸に拳をドンッとぶつけた。 「頼むよ。」 道明は笑みを浮かべているが、佐助はその裏の道明の想いを受け取った。力強く首を縦に振る。と、拳と一緒に御札を渡されていることに気が付いた。佐助は御札を不思議そうに眺めたが、静かに懐にしまった。 「それではボクは、自分の穴蔵に戻るとしますか。これにて失礼〜。」 そう言い残した道明は、真田家にくるりと背を向け、歩き出した。春一番のような風が、全員の背中を撫でるように通り抜けた。 地平線の向こうから朝日が顔を出し、屋敷と下町を明々と照らしている。
第八十二話
「真田諸共消えてもらう。終の印。」 そう言うと六人の術師は、印を組んだ。両手を三角のような形にすると、その手の中心に、弾のようなものができてゆく。 「な、なんだあれ…!どうしたらいい?!」 十蔵が慌てる横で、放心状態になる甚八。何かを察した清海が、無言で伊佐の上に被さった。 「っおい、清海!何を……」 伊佐は暴れるが、清海の力には敵わない。それを見た幸村が、静かに目を閉じた。 「……なぁ、幸村さんよ。助けてやろうか。」 「…どういう事じゃ。」 「言っただろ。ボクは、コイツらなんかに命を差し出す気は無いって。」 幸村がゆっくりと顔を上げる。幸村が目を開くと、自分を真っ直ぐと見つめる道明と目が合った。道明が、幸村に笑みをこぼす。 「……そうか。なら、頼めるか。」 「っはは…。……分かった!」 そう言うと道明は、凄まじい速さで印を組み、地面に右掌をつけた。道明付近の地面が、緑色に光り輝く。それを見たかえでは、真田全員に聞こえるように叫んだ。 「皆、道明の近くに集まって!早く!」 そう言いながら佐助の腕から抜け、一番遠くにいた海野と望月の元へ走る。かえでが望月を、小助が海野を抱え、鎌之介が才蔵の肩を持ち、怪我人含め、全員が道明の元へ集まった。 それを見た道明が、ふふっと笑みを零す。 「何なんだよ、お前ら…。」 ポソッと呟いた道明は、正面の白髪を虎のような目で見つめた。 「俺達を消す?やれるもんなら、やってみろ!!」 「破ァァ!!!」 白髪の男が声を上げ、一斉に光の弾が真田と道明の元へと発射された。そして、爆音を轟かせながら、大爆発を起こした。突風と共に砂塵が飛び散り、木々がしなりながら悲鳴をあげている。 爆風も静まった後、辺り一面は土煙にまみれ、何も見えなくなっていた。 「ふむ。気配もない。消え去ったか。」 白髪の男がそう呟いた。ほか五人の術師も、道明や真田の生気を感じられなかった。本当に、あの明るく活気に満ちた真田家が消えうせたのか。辺り一帯の音という音が、一切聞こえない。 突然、塵旋風が中心に立つ。土煙が、ぐんぐんと吸い込まれ、大きな竜巻のようになっていた。と、大きな力がはたらき、土煙やらが四方八方へと吹き飛んだ。術師たちは、目に土埃が入らぬように、長い袖で顔を隠す。暴風が吹き荒れた後、術師たちが目を開けると、そこには、とんでもない光景が目に入ってきた。 「な、なぜ…。」 「……はっ、雑魚が。」 道明が帳を展開していたのだ。それによって道明は、自分だけでなく、真田家全員を守っていた。 「ボクの帳は、内部から外部へ、外部から内部への術が一切遮断されるんだよ。」 そして、ゆっくりと立ち上がった道明は、上を指さしながら話し続ける。 「そして、帳内にいると、ボクの力は底上げされ、他の術師の力は低下する。」 術師たちは、道明の指さした上を見上げる。すると、一番初めに道明が真田家を襲撃したような帳が、屋敷全体を包んでいた。道明はあの一瞬で、自分たちを包む帳、屋敷周辺を包む帳の、二つを展開していたのだ。 「き、貴様……。」 「あ?この状態でボクに勝てるとでも思ってるわけ?頑なに術しかしてこなかったひ弱なジジイ共がよ。」 小さな帳を解く道明。すると、かえでが突然飛び出した。道明が驚いた表情をしているのをよそに、白髪の男にまっすぐ向かっていた。その瞬間、佐助はハッとした。 「かえで!!」 佐助の叫び声に反応したかえでは、白髪の男の顔面に自分の左拳をビタ止めしていた。 「っぶねぇ。またしょうもないことをしようとしてた…。」 かえでは左手をぶらぶらさせながら、白髪の男を鋭く睨んだ。そして、白髪の男にくるりと背を向け、真田の元へ戻る。 「佐助、ありがとう。」 「おう、危なかったな。」 二人はくすくすと笑いあった。と、道明が思い切り手を叩いた。 「そーだぁ!いいこと思いついた!」 そう言った道明は、両手に力を込め、下から何か重いものを持ち上げるように、ゆっくり両手を上げた。すると、術師たちの身体から黄色い輝きがざわざわと出てきた。 「な、何をする!道明!」 「ボクのことを甘く見てた罰だ。ボクは家を出てから、お前らが思ってる以上に成長したんだよ?」 そのままググッと両手を近づけると、術師たちから出た光が、一点に集中した。そして道明は、パァンと両手を合わせる。と、光はそれと同時に消え去ってしまったのだ。 「道明、何をした。」 「はぁ?そんな事も分かんねぇの?」 そう言いながら道明は、大きな帳を解いた。その瞬間、白髪の男が道明に術で攻撃しようとした。 が、何も起こらなかった。男は訳が分からないような反応で、何度も術を展開しようとしたが、風の一つすら起こることはなかった。 「なぜ……!」 「まだ分かんないの?お前らの術、ぜ〜んぶ消したから。もう二度と術使えないよ〜?」 「な、ななな……。」 あははっ!と背中を逸らしながら笑う道明。術師の数名は、その場にへたりこんでしまった。 「き、貴様…、このようなことをして、許されると思うなよ…。」 「誰に?もう鬼一家は破滅しかねぇな。ははっ!」 「覚えておれよ…。」 「あぁ、忘れないよ。お前らのその間抜けな顔。」 術師たちは、道明や真田家をギロりと睨み、そのまま歩いて去っていった。その後ろ姿を、道明はざまぁみろと、大爆笑しながら見続けている。目からたくさんの涙を流しながら。 「はぁ〜…、笑った笑った……。…で、どうする?」 そう言いながら道明は、真顔で真田家の方を見つめた。