白羽 唯
17 件の小説白羽 唯
ファンタジー小説を主に制作する、小説作家志望です。 まだまだ文章が下手&Novelee初心者なので、温かい目で見てもらえると嬉しいです! 誠に申し訳ないのですが、都合により不定期投稿になります。すみません。
メトロノーム⑥
−なんで急に過去のことを思い出したのだろう。 光は困惑していた。姉にメトロノームをプレゼントしてから、なんとなく気分が上がらない。 「姉ちゃんは…気づいてるかな」 灯にプレゼントを贈るとき、光はいくつか嘘をついた。 (…父さんと母さんからだよ。) (もうおつかいは終わったからな。) これらは嘘。実際は姉のことを気にかけていた光が用意したものだ。 もちろん両親も灯のことを心配していたが、『メトロノームを灯に渡す』というアイデアは思いついていなかった。 “とにかく、これで姉ちゃんに元気出してもらわないと…。” 光は、姉の演奏をもう一度聴きたかった。…いや、一度とは言わず、何度も聴きたかった。 これで、その夢が叶うはずだ。なのに、何か引っかかっている。不完全燃焼な感じ。 光は考えた。違和感はどこか…。そして、解った。 “待てよ、もしかして…、姉ちゃんが元気を出しても状況はあまり良くならない…?” 周りの反応。姉を苦しめ続けた要因。これが存在し続ける限り、姉は何度も挫折し、絶望するのだ。 “でも、どうやって反応なんか変えるんだ…?” …そうだ。元々はみんな灯の演奏が好きで、楽しみにしていたんだ。 それをどうにか利用できないか…。 再び、光は考え始めた。自室のベッドの上で、座っていた。 どうも、最近低浮上気味な白羽です。 さて、今回で二話にわたる光編終了です。正直六話をどうしようか定まっていなくて、内容がおかしかったり急展開だったりしています。そして、とても短いです。 すみませんでした。そして、ありがとうございます。
パーティ
今日はパーティ 楽しみだなあ メインは 何にしようか 迷って 迷って 考えて… そうだ 大好きなものにしよう 今日はパーティ 楽しみだなあ サイドは 何にしようか ポテト 果物 サラダなど… そうだ 全部ぜんぶ 詰め込もう 今日はパーティ 楽しみだなあ スーパーは どこにしようか 近く? 遠く? どこがいい…? まあ どこでもいいか 楽しければ それでいい 家に帰ったら もう夜だった 月と星に照らされて 空が明るく光ってる 今日はパーティ 楽しみだなあ 今からパーティ 楽しむぞ‼︎ 炭酸飲料 ハンバーグ ピザ 太るまで 楽しもう ケーキ りんご クッキー デザートまで 忘れない さあパーティの 始まりだ 今日はパーティ 楽しいな みんなではしゃいで 楽しいな 今から 何をしよう 迷って 笑って 喜んで… そうだ 楽しければ なんでもいい 疲れなんか 吹き飛ばし 思いのままに 過ごすのだ 笑い合えたら 最高だ 今日はパーティ 楽しかった 帰るのは どうしてだろうか もっと もっと 遊びたい… だけど 次を待っていたい
メトロノーム⑤
『さて、今週も始まりました!天性の才能を持つ子どもたちを紹介するコーナー「さい☆knowチルドレン」‼︎』 …おれは、ぼーっとテレビを眺めていた。 毎週土曜日に放送される、特集番組。それを母さん、父さんと一緒に買ったばかり(当時)のソファに座って観ているところだった。 『さて、今週のゲストは〜…』 MCが、ハキハキと明るく伝えていた。ただそのときのおれは、水色の大きなソファに体が沈んでいくことに夢中だった。 父さんと母さんに挟まれるようにしてテレビを見た。なぜこれを見せているのか、訳がわからなかった。 …が。おれは、次のMCの一言で全て理解できた。 『…明石 灯さんです‼︎』 「…え?」 姉の名前が出た途端、おれは本気で困惑した。そのとき、両親はその反応を楽しむように微笑んでいた。 どうして、姉ちゃんがバラエティー番組に出ているんだ。どうして父さんや母さんは、今日姉ちゃんがテレビに出ることを知っていたのか。 答えを求めるように、おれは後ろを振り向いた。すると、母さんが「ふふ」と笑いながら新聞の番組表を見せてきた。おれは奪い取るようにして新聞を受け取り、吸い寄せられるように番組表の字を追った。…そして、見つけた。 “話題のバラエティーショー「サタデーハッピー‼︎」 ▽MC 三輪 拓郎 春山 こゆき ▼人気コーナー「さい☆knowチルドレン」 ▽ゲスト 明石 灯” 「なるほど、そうだったのか。」 なぜか、あっさりと納得できる感じだった。 …昔、おれの中には確かに暗い感情があった。自分みたいなちっぽけな存在が、何をしても変わらないと思い込んでいた。 それは違った。両親は変化しようとする姉の姿をおれに見せ、おれを肯定してくれていたのだ。 『…悩んだり問題視したりしていることはありますか。』 いつのまにか始まっていた質問コーナーに目を通した。 姉ちゃんの悩み事か。何だろう。 『あ〜、そうですね…弟が最近不安を抱えているように見えること、ですかね…。何もしてあげられないのが心苦しくて…。』 姉ちゃんは、おれを守ろうとしていたのだ。なんだか、涙が出てきそうだった。 おれは、テレビから目を離すことができなかった。釘付けにされて、逸らせない視線。 「若き天才ピアニストの才能とは⁉︎」というタイトルがテロップで流れる。しかし、そんな字などおれは気に留めなかった。 彼女の奏でる美しい旋律が、心地よく耳に馴染んだ。あまりの素晴らしさに、思わず目を瞑った。 寝てしまわないように意識を保ちながら、おれは考えた。 −もし、姉ちゃんが困っていたら…彼女を助けてあげないと。おれに教えてくれた「立ち止まらないこと」を、ちゃんと伝えてあげないと。 おれは、神に誓った。
誰かに、この声が届くまで。
憂鬱な日々。こうして物語を考えていると、“あの頃”を思い出す。 私は机に向かい、キーボードに手を置いている。指先が、一つのボタンを押す。 その度に、ある思いが頭の中を駆け巡った。 「昔もこんなことしていたなぁ。」 今日は、そのことを語らせてほしい。 “暇だ…。” わたしの脳内は、その言葉でいっぱいだ。親が仕事をしている家庭の子供の春休みなんて、そんなものだ。 「はぁ、暇…。」 強く思っていたら、不意に口から出てきてしまった。 「なんか、やることないかな〜。」 春休みは、夏休みや冬休みと違って宿題がないのだ。その分、暇である。 ほとんどの小中学生はこのことに歓喜するが、それが逆に仇となってしまった。特にわたしは、一人で外出する気にもなれなかった。 寂しい長期休暇。その中でわたしが手を出したのは小説だった。 当時わたしは新小学六年生だったのだが、その頃から小説にハマっていた。 親が集めているアガサ・クリスティのミステリ小説を読み漁り、どっぷりと沼に落ちて出られない毎日が続いた。 完全に文学の世界に魅了されたわたしは、ついに読む側から書く側になることを決めた。…詳しく言えば、両方をする側になった。 −物語とわたしの結びつきは昔からあったが、「小説」というジャンルに進出したのがこれくらいの時期である。 原稿用紙と鉛筆を取り出し、マスを文字で埋めていく。その作業がただただ楽しかった。 一度だけだが、作文で賞を獲った経験のおかげだろうか。書くのには相当自信があった。…まあ、飽き性のわたしのことだから、完遂はできなかったのだが。 それでもご丁寧にタイトルまでつけて、内容をリアルにするために情報収集をして。割と頑張っていた記憶がある。 …途中でやめてしまったのが心残りだが、今更書き足す気力もない。 しかし、この思い出は確実に私の小説作家への道の出発点であり、心の支えであり、当時の努力の結晶である。 途中で諦めてしまっても大丈夫。積み上げてきたものは、必ず武器になり、盾になる。 −どうか、好きなことを忘れないでほしい。やめるな、とは言わない。それぞれに事情があるから。 私が本当に伝えたいのは、“止むを得ずやめてしまった人も、自分の意思でやめようと思った人も、この経験を覚えていてほしい”ということだ。今まで頑張ってきたのだから。 勿論、これは一個人の一意見である。聞き流してもらっても構わないが、心のどこかに留めておいてもらえると嬉しい。 自分の言葉が、自分を含む誰かの心を動かすから。 …その一言が、全てを変えるから。 comment 昨日は作品投稿を忘れてしまいました。本当にすみません。 そして今日の内容なのですが、とてもカッコつけています。ポエムみたいになっています。すみませんッ
白羽の謝罪帳
お久しぶりです、白羽です。…突然ですが、緊急謝罪をさせていただきます! 少し前に「これからは2本投稿にします〜」的なことを言っていたのですが、最近リアルが忙しくなり始めてきたので基本1日1本にすることになりました。急ですみません。 もう一件連絡をします。これから作品の投稿は平日は基本遅い時間になります。ご理解ください。 ただし、土日祝日はできるだけ今まで通り活動するよう努力いたしますので、よろしくお願いします。以上です。
メトロノーム④
「…母さんが、言ったんだ。」 「…え?」 「姉ちゃんに、“本当の気持ち”を思い出させてほしいって。」 「私の…本当の気持ち?」 「うん。あ、どうして母さんがそうやって言ったかは…知らないよ?」 “待って!もしかして私、光に心を読まれてる…⁉︎” なんと、光は灯が訊こうとしたことを予測して、質問されるより先に答えを返したのだ。 −姉の『理由を知りたい癖』はかなり面倒で厄介なので、光はできるだけ答える機会を減らしたいと思っている様子。 それを知らず、灯は“えっ、どうして私の知りたいことがわかるの⁉︎”と驚いている。 …お互いが一言も喋らない、静かで気まずい空気がしばらく流れた。 すると突然、光が切り出す。 「それじゃあな。俺はもう戻る。」 「…!帰るの…?」 「ああ、もう『おつかい』は終わったからな。」 「…。」 なぜだろうか。今の光の言動に違和感があった。でも、何がおかしいと思ったのか自分でもわからない。 「“おつかいは終わった”…か。」 言葉だけ見れば変な部分はない。だが、少し引っ掛かる。 “これ以上突っ込むと、もっとわからなくなってきそう…。” 頭が痛くなってきたので、灯はその件を一度忘れることにした。 …“それにしても、『本当の気持ち』って何…?” このことについても気になっていたが、少し思い当たることがある。 「母さんは、私がまだ音楽を続けたいと思っていること…知ってるのかな…。」 ドアの前に棒立ちになったまま、消え入りそうな声で呟く。 「…流石にドアの前にずっと立っておくわけにはいかないな…。」 我に返ったのか、灯は真後ろを向いて歩いた。亀よりは早いが、かなりゆっくりだ。 弟のあの一言を聞いてから灯が暗くなってしまったのは、…。 …いや、違う。灯は、気分が沈んでなどいない。 “自分の真意に気づいて、助けてくれるのではないか”という希望を抱いているのだ。そして、同時に感じる“その望みに賭けるしかないのか”という疑問に頭を悩ませているのだ。 灯は目を瞑り、深呼吸をした。両手で大事に抱えた箱に詰まっている、家族の思いは何だろうか。 目を開け、再び窓を見る。空は、面白いくらい真っ青だった。 COMMENT 今回は急いで書いたので、文章がかなり崩れています。変な文法・表現などがあるなど、大変読みにくいです。 すみません。
メトロノーム③
灯は、スタスタとドアに向かって歩いていく。多分家族の誰かだから大丈夫だと思い、震える脚を前へ前へと進めていく。 ドアノブに手を掛けた。ガチャっという音とともに、ドアが開く。 しかし、灯の視線の高さには誰もいなかった。もしかして、と灯は視線を下にずらす。 …そこには、僅か10歳の小さな少年が立っていた。彼は、弟の明石 光(ひかる)だ。 「…光。どうしたの?急に。」 「あー…、その…、姉ちゃんにプレゼントを…って思ってぇ…。」 光は普段はハキハキ話すタイプなのに、緊張して完全に固まっている。とてもレアだ。 ただし、今の私にはそんな希少な様子よりも光の「プレゼント」が気になっていた。誕生日でもないのに、何だろう。 「プレゼント…?私に?何を…?」 「ああ、えっと…。」 光は、後ろに隠し持っていた箱を取り出す。思ったよりも縦長だ。ラッピングされているため、何が入っているのかわからない。光は箱を両手に持ち、差し出してきた。 受け取りながら、灯は中身を予想する。アクセサリーだろうか。それとも…。 「…!これは…!」 灯はワクワクしながら黄色のリボンをほどき、水色の包装を丁寧に外した。そして、中に包まれていたものを見て言葉にならない驚きの声をあげた。 −メトロノームだった。 「…え?」 家族は、灯が音楽をやめたことなどとっくの昔に知っていたはずだ。もちろん弟も。 「メ、メトロノーム⁉︎だ、誰から…⁉︎」 声が震えているが、頑張って質問してみる。心なしか、メトロノームの箱を持つ手も揺れ動いている。 「…父さんと母さんからだよ。」 「っ⁉︎なん…、何で⁉︎」 「それはだな、…その…あれだ、あれ!」 「どれだよ!」 口ごもる弟に言い返していたら、なぜか面白く、楽しく思えてきた。 「おー、元気になったみたいだな」 「何を上から目線で!…っていうか、早く理由を教えなさいよ!」 「ははっ、元気を通り越してうるさいくらいだ」 灯は、体の中で元気が湧いてくるのを感じた。灯だけではない。光も、喋り方が滑らかになってきている。 「どんだけ引っ張るの⁉︎本当に教えてよぉー!」 痺れを切らして、灯が尋ねた。光も、「仕方ないなあ」と言って返答する。 「わかったって。えっと…」
メトロノーム②
音楽を大嫌いになり、使わなくなった楽器たちは皆寂しげに灯を見つめていた。…もう、何日も手入れをしていない。 「…ピアノもギターも、使わなくなっちゃったな…。」 自室に置かれた楽器の集まりは、今の灯にはただのスクラップの山に見えてしまう。 それでも灯がこれらを捨てないのは「面倒くさい」とか「たくさんお金を掛けたのに捨てるのはもったいない」などの理由ではなく、ただ今も灯が音楽から離れきれずにいるからだ。やっぱり、心のどこかでは音楽が大好きなのだろう。 しかし、音楽関係のことで灯は何度も何度も傷つけられてきた。虐げられたのに好きだという複雑な感情は、常に灯の脳内で渦巻いている。 灯は、なんとなく窓を眺めた。しとしとと降る雨が映る。ベッドの上で小さくなりながら、なるべく意識が楽器に向かないようにする。 −昔は、「あなたの夢は何ですか」と訊かれたら「世界一の演奏家」と答えられたのに。今では何も思いつかないや。このまま大人になったら私、どうしよう…。 将来のことを思うと不安だった。どれだけ振り払おうとしても頭から離れない感情に支配されてしまうのだ。 現状が、ただただ苦しい。灯は辛うじて生きているが、息もできないような状況だった。 今灯は高校生なのだが、学校に通っていない。いわゆる「不登校」というものだ。 …合唱コンクールではいつも灯が伴奏者に指名されてしまう。それが嫌なのだ。そして、灯の活躍によって態度をコロコロ変えるクラスメイトたちが嫌いだった。もちろん、自分を助けようとしてくれた人もいる。それでも灯は差し伸べられた手を取れず、大多数に負けてしまったのだ。本来関係ないはずのその子にも同じ苦しみを背負わせるのは、灯のプライドが許さなかった。 「はぁ…」 大きくついたため息が、部屋に響く。しばらく俯いていると… コンコン、とドアをノックする音が聞こえてきた。
「メトロノーム」連載裏話①
嫌な始まり方をさせて全力謝罪案件な「メトロノーム」の連載。(これから頑張っていい方向にもっていきます!) 今回はどうやって思いついたのか、という話をしようと思います! 白羽さん、小中学生の頃ピアノを習っていたんですよ。 普段とレッスンで豹変する先生が怖くて、何度も泣きました。本当に先生は恐ろしい…。 特によく怒られたのは曲のリズムです。癖がつくと矯正しにくいところなので、白羽はとっっっっっっても苦戦しました。 ところで、白羽家にはメトロノームがありません。インターネットで調べて再生した日々が懐かしいです。 「メトロノーム」の話に戻すと、実は白羽と灯が対になるように書いているんです。例えば、 音楽の才能 音楽にかける情熱 性格(白羽は割と臆病です。でも灯は根は前向きです。) デジタル/実物(白羽はデジタルメトロノームを使っていましたが、灯は実物を持っています。) 苗字(白羽は「白」、明石は「赤」が苗字に入っています。) メトロノームの意味(※のちに解説) 家族構成(白羽には妹、灯には弟がいます。) 人間/キャラクター(白羽は現実に生きています!灯は小説の中に生きています。) など。たくさんありますね。 こんなに真逆な二人でも、一人称は「私」なのです!まさかの共通点‼︎ ここで、きっかけの話に変わります。 はじめは「連載をしてみよう」という思いつき(好奇心)でした。 書くなら身近な内容がいいとか考え、習ったことのあるピアノを題材にしました。コンクールではないけど一応発表会に参加したことはあるので、そのレベルの高さはよく知っています。 こうして本連載は発案されました。ここまでお読みいただきありがとうございました! ※白羽にとって、メトロノームはリズムを整えるのに必要だった。しかし、白羽は拍子の感覚を矯正する苦しみを嫌っていた。 一方灯は、メトロノームがなくてもピアノを完璧に弾けた。しかし、諦めかけていた夢を取り戻すのに重要だった。
メトロノーム①
明石 灯(あかし ともり)は、幼い頃からピアノやギター、木琴など様々な楽器に慣れ親しんできた。 三歳の誕生日には子供用の小さなピアノが贈られたし、ギターのコードネームも複雑な指の動きもマスターした。初心者でも扱いやすい木琴の弾き方も、様になっていた。調律の方法だってすぐに身につけた。 ストリートピアノには何人もの人が立ち止まって、彼女の演奏に惹かれていた。コンクールではいつも一位だった。 気付けば、灯は音楽好きの少女に育っていた。「楽器に囲まれて暮らしたい」と思う程に、その想いは強くなった。 若くして開花したその才能に誰もが陶酔し、好み、アンコールを求め、羨み、そして妬んだ。 次第に、彼女に向けられる眼差しのほとんどが嫉妬に変わっていった。 「お前は下手だ」 「調子に乗るなよ」 「お前に才能はない」 「上手いフリしても無駄だ」 「あんたのイキった演奏もムカつく態度も、全部嫌い」 ピアノ教室で、すれ違いざまにかけられる言葉。 他の生徒たちは皆、同じくらいの年なのにレベルが違いすぎる灯を尊敬していた。しかし、賞賛が度を越してしまった。 前は灯にピアノの上手な弾き方を教えてもらいに来ていた人も、今では黙ってこちらを睨んでいることもよくある。 それだけではない。 灯のストリートピアノには誰も集まらなくなった。律儀に感想を言う者もいるが、嫌味な内容なので聞いていてイライラする。しかも演奏中に大声で言ってくるものだから、うるさくて気が散った。…昔は自分の世界に入り込んで、外の悪口など聞こえていなかったのに。 家族や先生はいつも自分を守ってくれたけれど、罵倒は明らかに数人で守り切れるほどの量じゃなかった。 それでも頑張り、努力し、練習を続けた結果…灯の心はついに折れてしまった。 幼き天才ピアニストとして、何度か様々なメディアが灯を話題に取り上げたものだが、もうそんなことはされない。ただし、それはテレビ局からの悪質な嫌がらせではない。…灯が練習をやめ、コンクールに出なくなったのだ。何度も弾いてきたストリートピアノにも、触らなくなった。こうして灯は表舞台から完全に背を背けた。音楽が大嫌いになった。