メトロノーム②

メトロノーム②
 音楽を大嫌いになり、使わなくなった楽器たちは皆寂しげに灯を見つめていた。…もう、何日も手入れをしていない。  「…ピアノもギターも、使わなくなっちゃったな…。」  自室に置かれた楽器の集まりは、今の灯にはただのスクラップの山に見えてしまう。  それでも灯がこれらを捨てないのは「面倒くさい」とか「たくさんお金を掛けたのに捨てるのはもったいない」などの理由ではなく、ただ今も灯が音楽から離れきれずにいるからだ。やっぱり、心のどこかでは音楽が大好きなのだろう。  しかし、音楽関係のことで灯は何度も何度も傷つけられてきた。虐げられたのに好きだという複雑な感情は、常に灯の脳内で渦巻いている。  灯は、なんとなく窓を眺めた。しとしとと降る雨が映る。ベッドの上で小さくなりながら、なるべく意識が楽器に向かないようにする。 −昔は、「あなたの夢は何ですか」と訊かれたら「世界一の演奏家」と答えられたのに。今では何も思いつかないや。このまま大人になったら私、どうしよう…。  将来のことを思うと不安だった。どれだけ振り払おうとしても頭から離れない感情に支配されてしまうのだ。  現状が、ただただ苦しい。灯は辛うじて生きているが、息もできないような状況だった。  今灯は高校生なのだが、学校に通っていない。いわゆる「不登校」というものだ。
白羽 唯
白羽 唯
ファンタジー小説を主に制作する、小説作家志望です。 まだまだ文章が下手&Novelee初心者なので、温かい目で見てもらえると嬉しいです! 誠に申し訳ないのですが、都合により不定期投稿になります。すみません。