木のうろ野すゞめ
31 件の小説木のうろ野すゞめ
雰囲気小説を書く人です。 毎週金〜日曜日の間になにかしら書きあげていきたいです。 現在は主に「書く」「書く習慣」にて生息しております。 2025/8/16〜 ※作品は全てフィクション ※無断転載、AI学習禁止
ネカマ乙女のお気持ち表明
2月に某大手サークル様が乙女系のボイスシナリオをリリースしました。 主人公が淫魔でビッチな乙女系のボイスシリーズ第三弾のシリーズものらしいです。 しかし、中を開けたら腐臭が漂うと、現在乙女界隈がザワザワしております。 以降の閲覧は下記URLの立ち読み画像を前提に、書き連ねています。 https://x.com/grmnorg_otm/status/2021207336938070463?s=46&t=E94KOqPBs_kzYXNtN_vFag ※年齢指定(R18)のある作品のため閲覧にはご注意ください。 【感想】 こちらのボイスシナリオが全編閲覧ができるようになっていたため、読破してきました。 目を通した感想は燃えるべくして燃えたなあ、と。 乙女と腐はジャンルでゾーニングされてるとおり両者とも特殊なジャンルです。 少なくとも制作側は、混ぜるな危険を徹底して作品を生み出すべきだと私個人は認識しております。 そんな件のシナリオですが兄→弟←乙女という、乙女系には珍しいタイプの3Pでボイスドラマが展開されていきました。 シナリオ全体がBLではないという主張はさておき、そもそも3Pとしても成立していないのではと個人的な違和感を抱きました。 乙女系としてのジャンルに配慮した結果、3人での性行為の絡み方のバランスが悪いです。 「弟乙女での挿入パートは兄が弟にキス」 「兄乙女での挿入パートは弟が姉に胸攻め」 兄乙女での挿入パートでは弟は姉に攻められていないんですよね。 女性優位ならフェラくらいさせてもバチは当たらないと思うんですけど(淫魔設定のビッチだしさせ方は無限にあるよね……)、このバランスでは腐臭がすると評価されても致し方ないです。 乙女というジャンルを維持しながら、兄→弟←乙女という構図はボイスシナリオではさすがに難易度高すぎますし、依頼されて書いてたのであればシナリオ担当は大変だったと思います。 何回改稿されたかはわかりませんが、執筆に苦労されている印象は受けました。 読んでいて一番楽しそうに書かれている印象がする場面は冒頭の性行為のための導入シーン。 神聖なる乙女たちはふるい落とされそうな勢いがありました笑(乙女たちにとっては笑えない) 【腐臭漂う要因】 冒頭から性行為(ラストの入浴シーン以外というシナリオの大部分を占める)において、いいところを全部兄に取られているから腐臭感が拭えていないところにあると思いました。 以降はシナリオを追いながら腐臭漂う要因を、ピックアップしながら連ねてみようと思います。 本文引用はいたしません。サンプルを一読できない方は私のお気持ち表明ですら受け入れられないと思いますので、立ち去ることをお勧めいたします。 あくまで個人の感情と感想で、表現などは私自身のみにしか配慮しておりません。 【兄が弟の勉強を見る】 【エロ本を兄が見つける】 のっけから兄のからかい方も弟のモダモダも腐臭特有の香りが漂っていました。 兄は企画発案者(メイドコスをさせよう⭐︎3PしようZE⭐︎)に止まり、弟のリサーチと商品開発は乙女にさせてほしいです。 弟の勉強は乙女が見ます(見られている立場の乙女かもしれないけど) 弟の本棚は弟や癖が詰まった聖地ですので、乙女が巡礼させていただきます。エロ本を手にした際は兄と共有することを約束しますので、お願いします。 【メイド服を用意する&着せる】 メイド服は弟に似合いつつも乙女の癖に全振りされたものを用意したい渡したいです。 なんなら乙女は弟のためとあれば、最強で最高にかわいいメイド服を30秒で自作できます。やらせてください。 とはいえ、乙女にエロ本を見つけさせる、メイド服を用意させられない事情も理解できます。 詳しくは省きますが少なくとも私が関わってきた乙女系シナリオは能動系アクションが軒並みNGでした。 (ニュートラル目指しすぎて、過度なウジウジ+八方美人のレッテルを貼られがちではありました) その裏事情も含めて兄にさせるのであれば、エロ本見つけるところもメイド服を着せるシーンも兄弟の絡みは見せなくていいと思います。 兄乙女間の好感度(この場合の好感度は性行為に及ぶためのライン)は上がりきっているはずなので、乙女は弟との好感度を上げたいはず。乙女は弟と仲良く(意訳)したい。 【乙女の毛に対する嫉妬を舐めないでほしい】 「毛」にフォーカスを当て、弟を女性寄りに置いてしまっている感覚が腐的なんです。 小柄な弟でも骨格は雄だから、肩幅とかきつそうとか、メイド服小さかったかなとか乙女には思ってほしかった。 乙女系の女装って肩幅がきついとか、背中のファスナーがパツパツとか、エプロンのリボンを結んだら胴回り足りなくて想定していたより、リボンの形が小さくなったとか、脚がゴツいとかで、中性的ななかに潜んだ雄みを感じられるのが醍醐味だと思うのですが、私の癖が暴露されただけでしょうか(震え声) せめて「すね毛生えてるかわかんないよ」のセリフは兄であってほしかった(攻略対象がとぅるとぅるすべすべお肌なだけで乙女の拗らせシナリオ1本書けるレベル)です。 毛のくだりをやるのであれば、乙女は弟のすね毛の脱毛を手伝います。 痛がる弟を脱毛後にヨシヨシします。 【兄の弟への煽りは乙女にください】 逆に「弟のメイドコスは絶対似合うよね?」と弟を煽るための同意を求めたセリフは、乙女から兄であってほしかったです。 乙女的には兄にも同意を得ず、押しきりたい所存。 兄弟の距離感がわからないのですけど、兄ムーブは弟に対してではなく、暴走する乙女に向けてほしいです。弟をヨシヨシもできて兄にヨシヨシもされる愛され乙女は自己肯定感爆上がりで最高です。 乙女の「セックスすると思った?」もそう煽るのであれば、兄の、養う以降のくだりを乙女に全部ください。 【弟へのお触り】 ここだけではありませんが、弟へのお触りの仕方が誤解を招きかねないんです。 乙女と兄が触る、みたいにト書きがあってもボイスドラマという都合上、兄がガッツリ触っている幻覚が見えてしまいます。音声では気遣えてるのかはわかりませんけど、乙女系である以上、女性優位がわかるシナリオの展開をしないと乙女にボイスが乗っからない以上、乙女は完全に兄弟の恋愛事情に理解のある腐女子の位置に落ち着いてしまいます。 弟「ちょっと、触るな!って兄までなんで触ってるの?姉ちゃんを止めてよ!?」とか、逆に兄が乙女に弟を触らせて「ねえ、弟に直接触ってみた感じどう?」とか、乙女の感想を取らないでください。tnのお触りまで兄に取られて、乙女は涙目です。 ボイスを聞いてはいないのですが、シナリオ上の文字だけでは腐属性しか喜べない構成になってしまっていました。 兄→弟←乙女の女性優位であれば、シナリオ上の兄の立ち位置は本来乙女でないと割を食います。 しかしこれをやると乙女チェッカーに引っかかりやすいです。だから乙女系で女性優位は相性が悪いです。 でも、それでも乙女系と宣うのであれば、弟パンツ脱がせるくらいは乙女にやらせてやください‼︎ 可能ならスカートにできたテントのツンツンもさせてください‼︎ 【弟、乙女か兄かどっちの手かわからない】 いっぱいいっぱいになる弟を愛でるのはいいと思います。 ですが、乙女下げはやめてください。 フェザータッチだとしても、男と間違えられるような肌感とか、乙女の弟への扱いが雑と言われた気になります。 遠回しに「ガサガサ乾燥肌で手入れ不足じゃない?」「触り方が乱暴」って言われたようでダメージを受けます。 対して兄は「男なのにきれいな手だよね(指が細長くてきれいでスベスベなのに、骨張ってて柔らかくないくらいイケメンのおててを想像した。早口)」 「兄の手もきれいなのかもしれんけど、乙女の手の感触わからないわけなくない?」くらいは言ってくださいお願いします。 現在の季節は冬です。手入れが追いつかない時期にこの下げパンチは私の中の乙女に効く。死ぬ。 せめて両方上げてくれ。 弟様には「わかんなーい」ってかわいく泣くより、乙女がキュンキュンできるような雄みがほしいです。 【でも手コキは兄だとわかる】 竿の扱いは男である兄には敵いませんよね。 完全敗北です。 ……泣いてもいいでしょうか。 兄に手コキをレクチャーしてもらいながら、弟を責める乙女とかじゃダメなんですか? 兄「男はこうするといいと思うよ?」 乙女「……兄も?」 兄「俺は……どうだと思う?」 弟のtnを攻めて弟の反応楽しみながら、兄とちょいイチャ会話を楽しませてください。 バチは当たらないと思います。3Pですし。 【乙女が当て馬以下……?】 とろとろになった弟のお口は乙女に譲ってくれないのに、お誘いだけ乙女にさせるのですか。完全に乙女は当て馬以下の扱いじゃないですか。 噛ませが薬か酒で受けを酩酊させて無理にホテル連れ込む。そこに攻めが助けに入って、噛ませを追い出す。発情してる受けに理性が揺らいで攻めが渋々、そのホテルで一発かますシーンが入る。 乙女の位置が、このモブにもならない噛ませ役に感じてしまいました。弟に女性用おパンツ履かせる役割は乙女にください。 【腐属性もふるい落としにかかる】 かと思えば性行為パートに入ると、今度は兄がいきなり乙女といちゃつき始めました。 突然、兄弟のフラグがへし折られて腐属性も一気に食えなくなったのではないでしょうか。 【弟は挿入されていません】 創作における性行為の「犯される」という表現がどこまでをさすのかは、各々ボーダーはあると思います。 ですが弟はあくまで乙女に挿入している立場であるはずです。兄の「メイド服で犯されている〜」のセリフ回しは違和感しかありませんでした。 そのセリフはグチャグチャになってメス堕ちした受けが言われるから最高なのであって、乙女の膣に自身の竿を突っ込んでアヘってる弟に向けるセリフではないと感じます。 乙女のセリフならまだわかります。心のtnで弟を犯します。 【唐突なキスと「お兄ちゃん」呼びをさせる兄】 兄も淫魔だからキスは食事?のためのスパイスだとしても、乙女は到底受け入れられないと思います。 兄弟でキスをするなら、少なくとも兄は冷静ですし勢いまかせのキスではあってほしくないです。 なにかしら淫魔の設定を活かした理由が必要ですし、理由があったとしても乙女の男の唇を奪うとか言語道断です。 乙女はキスハメが大好きです。 そして、「お兄ちゃん」と呼ばせるならまずは「お姉ちゃん」をしてからではないでしょうか。 乙女も「お姉ちゃん」と言われたいです。 さらっと言わせてるし応えるし急なNTR展開に開いた口が塞がらなくなりました。 【「お姉ちゃんのどこが好き?」⁇】 兄が弟を寝とったかと思えば唐突のアシスト。しかもそのアシストが乙女にとってよくない方向に。 兄「姉ちゃんのどこがすき」 弟「どこそこ」 これ系のやり取りって、乙女がいない場面であれば弟が普段見せない本音と執着が漏れ出て、事故的に弟の気持ちを知ったのであれば乙女は悶えることが出来るのです。 けれども、導入からの流れを受けたままのこのセリフのラリーでは、目の前で兄が「お前の好きな相手は姉であって俺じゃないだろ」って弟にわからせようとしている行為と受け取られませんか。 弟の意思をなし崩して乙女に挿入させて理性飛ばさせて既成事実を作った。当然、主導の兄は目の前で見てます。 乙女にとっては聞かれたから言わされているという虚無なシーン、腐属性から見たら弟兄から突き放された絶望的なシーンになり、おつらい構図。 女性優位なら乙女に言わせておくれ‼︎ その後、フォローもなく兄が嫉妬(その嫉妬の方向性も謎)して、乙女に挿入しちゃうから「兄って他人の気持ち引っ掻き回すことが好きなだけのノンデリ?」になっていませんか。 余談ですが、このシーン録画もしてるっぽいけど、これSEだけで録画してるってわかるものなのでしょうか。もしくは次回作への伏線なのかな? 撮るなやめろのすったもんだもないように見受けられました(弟と乙女気づいてない?)。 弟のオーガズムの回数を記録させるためのものとは文字として見ればわかるけど、ボイス内でどうなってるのか気になりましたね。 あと録画したら弟の記憶なくなっても意味ないんじゃないかなー……、と。 弟はよしんばそこは理性バカになっているという設定でいいとしても、乙女側は理性ぶっ壊れてはないだろうし撮られても問題ないのかなーという、乙女への気遣いはどこに行ったのでしょうか。 前作までにこの乙女は数々のアブノーマルプレイをしているとはいっても、その場の熱にあてられて勢いのままアブノーマルなプレイするのと、プレイを記録媒体に残される行為は違うのではと思いました。 兄が「お兄ちゃん」と弟に呼ばせていることに対して、姉には終始「姉ちゃん」と呼び方が変わらないのが、切ないです。 兄は「お兄ちゃん」と弟に呼ばせることによって叶わぬ恋を昇華しようとして、弟を突き放している、という構図が見え隠れした妄想が捗りました。 【ピロトークまで兄が主導権を持っていく】 事実しか話してないのに、兄の存在感がお強いですね。 お風呂やご飯の準備までしてくれるなんてイケメン兄すぎるのに、目線が乙女に向けられてなくて弟なんです。 弟も目を覚ましたら戸惑うばかりで、受けムーブがすごい。 覚えてなくても、体には性行為の余韻がのこってるのであれば、乙女の体をちょっとは気遣うとかしてくれないのかな、と思ったりしました。弟も弟で、乙女にシラフでキスとかしてくれてもいいんですよ(チラッ、チラッ)。 【心配しているのは弟自身のお尻】 弟が性行為を覚えていないことに乙女はガッカリしてるけど理由が「好き好きしてくれたから」ですって? 半分は兄に言わされて、半分は勢いですよね。それでもいいからってことなのでしょうか。 シラフでは結局、弟が乙女に見せる態度って家族で恋愛感情のないまま、姉の淫魔としての食事? につき合っている感じがしました。 乙女も弟も恋愛的な矢印が交わってるようには見えなくて、かといって性行為中は家族愛として交わっているようにも受け取れませんでした。 弟が乙女に対して家族愛と恋愛で揺れたりしているわけでもなさそうですし。 乙女は開き直っているのか、弟全肯定乙女みたいだからそれはそれとして面白かったです。 【乙女と弟の距離感】 全体を通して弟が乙女の長年連れ添った家族として、年下の男子としても機能しているか疑問でした。受けとしての弟のかわいさはわかりますが、弟の「19歳」発言に対して乙女の萌え方(響きが懐かしすぎる)には違和感です。 弟としてなら「大きくなったね」とかしみじみ系になりそうなもんですけど。 竿役としての弟であれば「とても幼い19歳」、「大人ぶってる19歳」どちら意味で悶えてるのかわかりません。 弟のキャラクター的に「19歳」という年齢は中途半端すぎて、下半身に振り回される思春期拗らせた部分も含めて、個人的には年相応という評価しかできず。 あと大人の設定が二十歳なのが……、ここも含めて時代背景が読めず。 19歳の時点で成人はしているわけで、その自覚がないのもどうなのと。 平成末期の時代背景なのかもしれませんが、成人年齢が引き下げられている現在では、このオチの使い方には少し引っかかりました。 【ボイスドラマ全体の構成】 乙女系のボイスドラマって乙女に声優つかないイメージがありますし、だからこそオウム返し的なシナリオが大なり小なり展開されているわけで……。 この喋らない乙女の配置で、兄→弟←乙女のシチュエーションでボイスとの相性めちゃくちゃ悪くないのかな、という純粋な疑問。 シナリオも兄弟メインの会話にならざるを得ないでしょう。 話の構成もリアルタイム進行っぽいのもよくなかったのではと思いました。 弟の記憶が飛んでるなら入浴シーンから始めて、回想シーンでライブ感を薄めて、風呂で弟をどんなふうに攻めていったのか、今度は弟が主導権を持って実演させるくらいがよかったんじゃないかなあ。 時系列の配慮があるから、3Pと風呂の差し込みの回数やバランスは難しいかもしれません。 【乙女における男同士の絡み】 乙女系のシナリオでは攻略対象の男が他ルートの男に目を向ける描写って意外と気を使うものです。 例えば仮に兄と乙女の絡みを見てる弟の嫉妬するモノローグを入れるとした場合(このシナリオ、兄には明確な嫉妬を入れて(しかもどちらに向けた嫉妬かはわからない)、弟が乙女に嫉妬してないのも腐臭の要因だと思います。あるにはありますがト書きでほぼボイス演技のための指示のみ)。 弟「……兄と乙女ってこんなセックスするんだな」 こんなモノローグを入れようもんならチェックが入るものなんです。普通。 弟「乙女って、俺とのセックスではまだ余裕があったんだ(もやもやー)」 嫉妬の主軸と視点を乙女に向けてあげないと、乙女からのチェックが通らないんですよ。 【まとめ】 全て意図された構成というわけでも、乙女下げをしているつもりもないと思います。男を絡めたときにどうしても乙女には喋らせられないから、兄弟で絡ませれば尺稼げるしラクだから、実務的な甘えも出てしまったのかもしれません。 だからこそ兄弟でのやり取りは乙女が置き去りにならないように気をつけてほしかったです。 兄と乙女に攻められる弟という構図で弟のお尻も守られているなら、なおさら対立セックスではなく3Pであることに意味を持たせてあげてほしいし、そこをあの手この手で書ききるからこそのエクスタシーを得られると思うのです。 結果として、乙女としてもきついし(当て馬以下のモブ感)腐属性としてもきつい(ここから始まる物語だろう感)のではと思いました。まる。 【最後に】 性行為パートは兄弟どっちもめっちゃ喘ぐから声の演技次第で受け止め方や、シナリオの意図は多少は変わりそうです。 弟が腐属性の受けみたいに、言葉攻めされてアンアン喘いでいるのであれば面白すぎて、物語に入ることをやめて爆笑します。 《完》
a piece of Tarte Tatin
●一話 屋上にそびえ立つ金網フェンスがモザイクとなり、地一依結(じいち いゆ)の解像度を壊す。 二月の吹き荒ぶ風を、彼女はフェンスを越えた先で一身に浴びていた。 背中まで落ちた白金の長い髪の毛を羽ばたかせて、黒いセーラー服のプリーツを大きく広げている。 病的に細い骨と、貧相に伸びた手足、艶のない蒼白く濁った肌を、冬の西日が突き刺した。 風が勢いよく屋上の扉を閉めた瞬間、忙しなくはためくエンジのスカーフが私の視界を彩る。 「なんだ貴様か」 安堵した声音で私を呼ぶ雑な人称は相変わらずだ。 私の返事など待たず、地一依結は数歩分もない足場から静かに背を投じる。 普段は重たく落ちている真っすぐな白金の髪の毛が、今はウェーブを描いて宙を遊泳した。 空気を孕んだセーラー服から現れた痩せた素肌は、太陽の光を一身に受ける。 エンジのスカーフよりも鮮やかで艶やかな赤い唇が、きれいな三日月を象った。 「腹が減ったな」 生を手放す行為のあと、地一依結はおおよそ人間らしいことを呟いた。 * 今月に入り、屋上での自殺未遂者がいるという噂が囁かれ始める。 この事実しかない噂の元凶は先の通り、地一依結だ。 彼女が屋上から飛び降りた回数は、これで五回目。 初日に彼女がグラウンド側へ身を投じたせいで多数の目撃者が出てしまい、学園中が騒ぎになっていた。 だが、目撃者に対して死者どころか怪我人の報告すら出ていない。 自殺志願者の特定すらできていないこの状況は、噂になるには格好の的だった。 事実にあることないこと尾ひれがつき、不気味な出来事として瞬く間に学園中に広まる。 そして、既に私は、一連の出来事に関与している疑惑をかけられていた。 今月の学園施設の施錠当番が私だからという、単純な理由である。 緊急時を除き、生徒の屋上の立ち入りは基本的に禁止されていた。 その屋上でトラブルが起こっているのだから、自然と私に疑惑の目が向けられる。 そろそろ、きちんと咎めなければならない頃合いだ。 地一依結が屋上から飛び降りたあと、私は金網フェンスを飛び越える。 「お?」 燃費の悪い彼女が重力に逆らえるのはほんの数秒だ。 「イヴ」 仰向けで優雅に空中を揺蕩ったあと、彼女の体は重力によって勢いよく地面に引き寄せられる。 彼女の手が伸ばされる前に、私は彼女の体を掴み、掬いあげた。 私が多少重力に逆らったところで昔とは違い、特別な筋力が備わっているわけではない。 金網フェンスを越えた直後、彼女を抱えていた腕が滑り落ちた。 受け身すら取ろうともせず、彼女は地面に叩きつけられる。 「今日は早いじゃないか」 細く頼りない膝を立てて立ち上がった地一依結は、悠長にセーラー服についた砂埃を払った。 地面に派手に叩きつけられた体には傷はない。 「仕事を増やすな、自殺志願者」 「自殺志願者は飛び降りたあとに、腕なんか伸ばさないだろう」 「知るか」 今月、施錠当番が回ってきたことを利用して、私は地一依結に屋上の鍵を横流しをしていた。 鍵を手に入れた彼女は屋上から飛び降りている。 グラウンド側から飛び降りることをやめさせたとはいえ、罪に罪を重ねていることには変わりなかった。 「あまり派手なことをするな。今後、鍵を貸せなくなる」 「それは困る。食事ができない」 「食事なんか」 どこでもできるだろう。 言葉を続ける前に、私は地一依結に足を払われバランスを崩した。 彼女のひ弱な腕で重心を地面に押しつけられる。 口元を目元を煽惑的に歪めた彼女が、私の上に跨った。 「本当に、貴様は私の前では無防備だな」 「否定はしない」 否定など、できるはずがない。 少々、昔の恋慕を引きずっているせいだ。 拒絶することができていれば、地一依結と屋上で言葉を交えることなど起こり得ない。 健康とはほど遠い凍てついた細長い指が、私の喉仏に触れた。 《続》
だるまさんがころんだら
ずっと空っぽのままだった古ぼけた部屋が、新しい宿主とともにお日様の匂いを吸い込んだ。
あけております。おめでとうございます。
あけております。おめでとうございます。 師走の怠惰を新年に引きずったまま、現在に至っております。 現在、執筆を主としている場が『書く習慣』というアプリなのですが、こちらのお題消化に勤しんでいました(※まだ終わっていません) 昨年からNoveleeで遊ばせてもらって、たくさんの方の物語に触れて、たくさんの刺激をいただいております。 ほとんど読むだけになっているのが悔しいから、今年はもりもり書くぞー。なんて思いながら新年が半月過ぎようとしていて、時の流れの残酷さを感じました(※ただの怠惰です) なにかしらメモみたいなものはあるのですが、いまいち流れや落とし所が迷子になってヒッチャカメッチャカ。 魔女狩り、インフェルノ、生まれた意味、私は誰なんだろう……など、なかなか芳ばしいワードだけが散らばっています。 大惨事です。恥。 あまり『書く習慣』アプリで書いたものをこちらに横流しはしたくないのですが、しばらく余裕がないため、供養としてあげさせていただくかもしれません。 そのときは生温かい目で見てくださるとうれしいです。 どうか今年もよろしくお願いします。
遠い鐘の音
婚姻届を出したものの、俺たちはまだ挙式を挙げていない。 チャペル式にするか神前式にするか迷っているところでもあるが、いろいろと強引にことを急いたため、彼女側の都合がつけられないでいた。 俺の隣で、たぷたぷと携帯電話をいじっている彼女の左手の薬指にきらめく小さな指輪を、ぼんやりと眺める。 愛情、忠実、永遠。 抽象的で不確かな言葉たちが鐘の音となって響かせる日は、そう遠くないはずだ。 《完》
辛苦貴悦?
デートの終わり。 どうしても離れがたくて、僕は悠香ちゃんとファミレスに足を運んだ。 案内された席に向かい合って座って、タプタプとタブレットを操作していく。 ひと通りメニューに目を通したあと、彼女に目をやった。 即断即決が悠香(ゆうか)ちゃんの取り柄なのに、今日は珍しく腕を組んで唸っている。 「どうしたの?」 「寒いからもつ鍋が食べたいんだけど」 「うん」 言いながら、悠香ちゃんはタブレット画面に映るメニューを僕に見せた。 あー、なるほど。 メニューには辛さを示す、赤い唐辛子のイラストがついている。 悠香ちゃんは辛いものが苦手だった。 ちょっとピリッとする程度でも痛そうにするから、多分、悠香ちゃんには無理かもしれない。 「アゴ出汁とかめっちゃ惹かれるのに、この唐辛子マークのせいで決めかねてるっ!」 ぺしょぺしょしながらテーブルに突っ伏した悠香ちゃんに、僕は笑いながら提案する。 「ほかに食べたいメニューってないの?」 「ええー⁉︎」 勢いよく顔を上げた彼女は、なぜか眉毛を吊り上げてお怒りの様子だ。 「ひどいっ! 私はもうもつ鍋のお腹になってるっていうのに」 「あ! そういう意味じゃなくてっ。いや、結果としては同じかもなんだけどさ⁉︎」 「んもーっ⁉︎ どっち⁉︎」 「え、ええっと……」 「相変わらず煮えきらないなっ⁉︎」 「ご、ごめんっ!」 悠香ちゃんの勢いに押されすぎて、よくわからないまま謝ってしまう。 唇を尖らせて顔をしかめている彼女をこれ以上怒らせないように、僕はしどろもどろになりながらも真意を伝えた。 「その、もつ鍋が辛すぎて食べられなかったら、僕が代わりに食べるよ? って……思っただけで」 「え? どうして?」 「僕、辛いの平気だし。悠香ちゃんがもつ鍋の次に食べたいものを注文するから、食べられなかったらそれと交換しようよ」 「なにそれ。ファミレス行きたいって言ったの稔(みのる)くんじゃん。稔くんが好きなの食べないでどうするの?」 「あー……、その。僕は、うん、大丈夫だから。気にしないで」 「ごめん。なに言ってるか全然、聞こえてこなーい」 ごまかそうとしたことをあっさりと見破られてしまった。 僕は観念して言葉を探しながら本音を吐露する。 「も、もう少し悠香ちゃんと一緒にいたかった。だけ、だから。本当に、気にしないで」 「んなっ⁉︎ いつもは遅疑逡巡してるクセに」 うっ。 言わせたのは悠香ちゃんなのに。 僕だって、こんなあけすけに伝えるつもりはなかった。 悪態をつく悠香ちゃんだって、満更でもなさそうに照れている。 「そういうところがムッツリだって言われるんじゃない?」 「誰、がっ、そんな、ことっ⁉︎」 「…………私」 「はああっ⁉︎」 売り言葉に買い言葉とはいえ、悠香ちゃんにそんなふうに思われていたとか。 恥ずかしすぎて、帰りたくなった。 「どうせなら、今日は帰さないぞ、くらい言ってほしいのに」 「ちょっ⁉︎ 声、大きいって」 「稔くんのほうが大きいっ」 僕たちはつき合って三ヶ月だ。 お互い、親元を離れて過ごしているとはいえ社会人になってまだ間もない。 キ、キスだってしていないのに、軽率に伝えていい言葉ではないはずだ。 甲斐性なしと言われてしまうと、返す言葉もないのだけど。 「これ、私の第二候補だけど。食べられる?」 「うな重……」 給料日前なのに、無慈悲なことをする。 しかも、ウナギが倍量入っているお高いヤツだ。 精をつけろと暗に言われ……? いやいやいやいや⁉︎ ないないないない! さすがにないっ! チラッと彼女を盗み見れば、ニヤニヤと意味深に口元を緩めている。 悠香ちゃんっ⁉︎ こういうところが、ムッツリだと言われるゆえんなのだろうか。 でも、僕だって男なわけで。 当然、そういう欲だってあるわけで。 今度は僕のほうが頭を抱えた。 今日こそはキス、を、するべきなのだろうか? グルグルと暴走し始める思考を止められないでいると、悠香ちゃんが助け舟を出してくれた。 「もつ鍋がダメだったら、ちゃんといけにえになってよね?」 「それは、うん。大丈夫」 今日も優しい悠香ちゃんは、ヘタれている僕のペースに合わせてくれるらしい。 それはそれで、ホッとしたような残念なような複雑な気持ちだ。 この面倒な性格に自己嫌悪する。 「あ。ご飯も食べたい」 「うん、わかった。大盛り、だよね?」 「さっすが。私のことをよくわかってるじゃん」 ニカッと、悠香ちゃんは屈託のない笑顔を浮かべた。 彼女のそのキラキラとした笑顔が大好きなのに、輝きが強すぎて目眩がする。 ごまかせないくらい熱くなった顔を少しでも冷ましたくて、悠香ちゃんから顔を逸らす。 僕はバクバクとやかましい心臓を押さえながら、もつ鍋とうな重を注文した。 《完》 人身御供(ひとみごくう) いけにえとして人身を神に供えること。 そのいけにえとなる人。 比喩的に、他人の欲望を満たすために犠牲となる人。 【蛇足】 四字熟語の募集に参加したかったけど、普通に間に合いませんでした。私自身はこの四字熟語を使いがちなので条件からも逸れている気がします。 闇に葬り去ってもよかったのですが、会話の中で妻が「ひとみごくう⁇」ってポカンとしていたのが面白かったので供養しました。 普段の語彙力は妻のほうが高いため、新鮮な気持ちになったので、思い出として残させてください。 ※実際の妻との会話はこの物語とは全く異なります。 会話の内容や流れは忘れましたが、多分もっとアホでした。 ※タイトルは「辛味が苦手なあなたの喜ぶとこは?」と読みます。
君が紡ぐ歌
いつもは静かな彼女が、今日は妙に調子のはずれた鼻歌を刻んでいる。 歌に合わせて、上半身もゆったりと前後していた。 ずいぶん、ご機嫌だな。 リビングのソファでのんびりとスポーツ雑誌を読んでいる。 ハミングのせいか、ページを捲る速度はいつもよりゆったりしていた。 そろそろ休憩を促すためのお茶でも用意しようかと立ち上がったとき、彼女と目が合う。 見すぎたかな。 多少の申しわけなさを感じていると、彼女ははにかみながら雑誌を閉じる。 「元気が出るお歌なんだよ」 お歌……。 幼い言い回しに胸がキュンと締めつけられる。 またひとつ、彼女のかわいさを発見したところで、俺は気がついてしまった。 「元気がないんですか?」 「それは言葉のあや」 俺の余計な心配を迷惑そうに一蹴したあと、彼女はどこか懐かしそうな穏やかな表情で天井を仰ぐ。 「昔、本当に元気がなかったときに教えてくれたの」 耳に残る旋律もあって、以降、彼女はなにかにつけて口ずさむようになったらしい。 俺との暮らしに慣れてきてくれたのだと実感した。 うれしさの反面、俺がまだ知らない彼女の弱さを知る人がいるというという事実にドス黒い感情が噴き上がってくる。 「誰にです?」 それ、仮に男だったら記憶から削除してやりたいんだけど。 不用意な発言に自覚はないのか、彼女は特に俺の様子を気にすることはない。 「ん? 叔父さんの奥さん」 奥さん、ならまぁ。 彼女の身内みたいなもんだから、そうか。 複雑ではあるが同性だし彼女の身内のようなものだしと、なんとか溜飲を下げた。 しかし、隠すのがうまい彼女が本当に弱っていないかどうか、俺は知る術を持たない。 彼女の隣に座り、吸い込まれそうなほどに澄んだ瑠璃色の爽やかな瞳に影がないか覗き込んだ。 「本当に? ハムカフェとかネコカフェとかに行って癒されなくて大丈夫ですか?」 「だ、大丈夫だってばっ」 相変わらず至近距離に照れる彼女だったが、ちょっとソワァッとし始めている。 だが、あいにく今日は日曜日で、時間も午後を過ぎていた。 店に問い合わせてみたが、既に閉店まで予約で埋まっているらしい。 アニマルカフェは後日に持ち越すことになった。 * 「なにかいいことあった?」 「え?」 リビングで洗濯物を畳んでいたら、風呂から出てきた彼女がノシッと俺の背中に乗っかかってくる。 振り返ると思いのほか近い位置に彼女の頬があったから、チュウッと吸いついてやった。 「楽しそうに口ずさんでたから」 「あー……?」 指摘されて初めてメロディを口ずさんでいたことに気がつき、顔面を覆った。 「……っス」 はっず。 いつの間にか、彼女の鼻歌のクセがうつったらしい。 歌っていたのが彼女のお気に入りのゲームのBGMでよかった。 音楽まで同じとか影響されすぎて、さすがに気持ち悪がられるかもしれない。 「で? どしたの?」 「あぁ」 俺の心配をよそに、彼女は特に気にする様子もなく話を促した。 しかし、「いいこと」になるかどうかは彼女の返答次第だ。 洗濯物を放り出し、背中に乗っかっている彼女を俺の前に座らせる。 今度は俺が彼女の腹に腕を回し、背中に体重を乗せた。 「来週の水曜日の午後になってしまうんですが、ハムカフェの予約が取れたんです」 「ハムカフェ?」 「午後は空いてましたよね?」 平日の中途半端な時間帯ではあるが、少しハムスターと戯れる分には問題ない。 俺のほうはさっさと有給を取ってしまったが、彼女は午前中は仕事があった。 こういう日はついでに予定を入れがちだから、一応、確認を取る。 「まだ予定が埋まってなかったらどうかなと思いまして」 「予定はないから大丈夫、だけど……」 「私、本当に元気だよ?」 「ちょっと期待はしてたじゃないですか」 「うっ」 図星を突かれたからか、恥ずかしそうに体を縮こませた。 「なんでわかるの……」 なんでって。 先日の鼻歌しかり、オフの日の彼女は意外と態度に出るからだ。 「まあ、そういうことなのですけど、どうです?」 「ん。いいよ、うれしい」 「よかった。楽しみにしてますね」 クスクスと笑い合ったあと、彼女は俺の上から立ち上がる。 横隣に座りって、ふたりで洗濯物を畳んでいった。 《完》
そして、
味噌汁が五臓六腑に染み入る季節になってきた。 キッチンにアサリと味噌の香りが立ち込めていたときである。 「あ。お味噌なくなっちゃった」 そんな彼女の言葉から、俺たちはスーパーで買い物をするために身支度を整え始めた。 リビングで軽くメイクを施していく彼女は、最後の仕上げといわんばかりにリップブラシを唇に乗せる。 薄い唇が鮮やかな桃色に彩られた。 上唇と下唇を合わせながら口紅を馴染ませる動作は、何度見ても魅入ってしまう。 「モモみたいですね」 「え?」 余程唐突に感じたのか、彼女はポカンとしながら小さな鏡を通して俺を見つめた。 「食べたくなってきました」 「あぁ、モモ? でもさすがにもう売ってないんじゃない」 鏡に映る自身の唇を見つめながら、楽しげに声を弾ませる。 その視線が欲しくて細い顎をさらった。 「かな……?」 視線を手に入れたら、今度は瑞々しい唇も欲しくなる。 ちゅむ。 彼女の言葉を唇で遮った。 化粧品特有の甘やかな香りと、艶を唇から奪う。 彼女の下唇に濃く乗った鮮やかに潤っていた桃色を執拗に食んだ。 「……もー」 「リップ、取れちゃいましたね」 口紅に代わって俺の唾液で濡れた唇を親指で撫でる。 身を捩って恥ずかしさをごまかそうと、彼女はツンケンと顔を逸らして俺の指を払いのけた。 「れーじくんの唇がぷるぷるになっちゃったじゃん」 「コレで、拭ってくださいよ」 照れを隠すために無法地帯となりかけるお口にかまうことなく、舌先でノックをする。 「ダメ」 鼻の抜けた息をこぼしながら、彼女は蠱惑的に瞳を揺らした。 「まずは買い物から、ね?」 買い物デートは譲れない。 俺が絆されることをわかっていて、余裕たっぷりに煽る彼女を簡単には手放したくもなかった。 「……『から』ですか?」 眼鏡というレンズ1枚。 この板を挟まないと彼女の輝きをきちんと捉えることはできないのに、隔たりとなる眼鏡が煩わしかった。 だが、さすがに彼女の反応が速い。 フレームにかけた指は、彼女の細い指に絡め取られてしまった。 「買い物してー、手を洗ってー、部屋の片づけしてー、ちょっと休憩してー」 捕らわれた俺の手先は彼女に操られたまま、きれいにメイクされた顔の輪郭をなぞる。 「キスはそれから、でしょ?」 爪の先に薄い桜色の唇が乗った。 ちろ、と彼女の舌先が爪に触れる。 「それ」 誰に覚えさせられたんだよ。 油断すると迫り上がってくる嫉妬と独占欲を、無理やり押さえ込んで平静を装った。 「……焦ったくてチュウだけじゃすみそうにありませんけど?」 「キャアッ。えっちー」 パッと手を離して、彼女は楽しそうに表情を綻ばせる。 無邪気でかわいいが、それで絆されるほどチョロくはなかった。 自由になった両腕で彼女の腰を抱き寄せる。 「俺、まだなにも言ってませんよ?」 夏の頃に比べて厚手になったシャツの下から、骨盤の薄い皮膚の上を撫で回した。 「そっちこそ、なにを期待したんです?」 「私がしてあげるのは、キスだけだよ?」 妖艶に揺れる瑠璃色の瞳に目を奪われていると、ひんやりとしたコットンが唇に押し当てられた。 「なにか、してほしいことでもあるの?」 いくらなんでも、それは思わせぶりがすぎるだろう。 反撃されることを全く考慮していないあたり、脇が甘すぎて心配になるくらいだ。 「俺のしてほしいこと、してくれるんです?」 「買い物が先」 挑発的な微笑みに、俺はあっさりと白旗を上げた。 「……さすがに絆されました」 「ふふんっ」 得意げにふんぞり返っているが、本当に……。 本っっっ当に、負けず嫌いの彼女は目先の勝負しか見えていなかった。 そして、買い物のあと。 俺は彼女をグズグズになるまで蕩かしていく。 据え膳としてぶら下げてくれたご褒美を、心ゆくまで堪能した。 《完》
夜をみはる 箒星をさがす
いーちゃんは夜がきらい。 おきたとき、パパとににがいなくなったから。 いーちゃんは夜がきらい。 こんどはママがいなくなった。 ママはてんごくにいったと、しらないひとがおしえてくれた。 いーちゃんのだいすきなひとをたべちゃう夜は、とてもこわいじかんなの。 だから、いーちゃんは夜をみはった。 きらきらのお星さまも。 しずかなお月さまも。 ぜんぶぜんぶ、夜のゆうわく。 くろくておおきな夜のおそらにすいこまれないように、おふとんにしがみついてまくらをかかえた。 眠るのがこわい。 夜がこわい。 夜がわるさをしたらどうしよう。 いーちゃんもたべられちゃったらどうしよう。 だから、いーちゃんはかんがえた。 なやんだいーちゃんは、だいすきなひとをとおざけた。 あるひ。 めのまえに、とつぜんあらわれたおーじさま。 おねがい、やめて。 きらきらしため。 しずかなこえ。 おおきなて。 夜みたいなすがたで、いーちゃんをゆうわくしないで。 もう、だいすきはやめたの。 もう、はなればなれはいやなの。 もう、ひとりでいることにしたの。 夜みたいなおーじさま。 おねがい、やめて。 いーちゃんのなみだにさわらないで。 いまさら、夜のぬくもりなんてしりたくなかった。 ひとつ。 箒星がながれた。 《完》
ネカマの戯言
はじめまして。すゞめです。作品を読ませていただきました。 物語自体はしっかりしていて読み応えもあります。とても面白い作品でした。 あくまで小説として、私個人が表記で気になった点をいくつかあげさせていただきます。 ●字下げ している箇所としていない箇所の意図が読み取れませんでした。 ●句読点 句点のない箇所が混在しているのが気になります。 ●三点リーダー 基本的に記号はニコイチです。英文のところは許容できますが、ほかの箇所は統一したほうが無難です。 ●""と“”と「」の混在 文量に対して強調するべき箇所が多く、効果が薄いです。 特に""と“”の区別は読み取りにくく感じました。 偉人の言葉の抜粋のみ""とすれば、わかりやすくなるのかもしれません。 ●誤字? 『 中野は真っ直ぐな目で言った』 中野→健? 『だが隆は、黙って頷いた。』 隆→健? 物語の佳境ということもあり、個人的にかなり気になりました。 私はキャラクターをメインに感覚的に読んでいくタイプのため、キャラ名の表記揺れと誤字は熱量が下がります。 ●視点のブレ 視点が三人称から一人称に切り替わったため、戸惑いました。 賛否はありそうですがこの物語の場合、一人称で主人公の感情をぶつけていくよりも、三人称ならではの淡々した事象で熱量をぶつけたほうが、効果的に印象を残せると思います。 ●基本的に小説は文字のみの世界 経験則で申しわけないのですが、表記で個性やこだわりを出そうとすると、誤字として弾かれがちなのでおすすめしません。 例えばですが、 『 私たちは三人で下校していた。ひとりで帰るのも嫌だが、奇数での集団下校も苦痛である。 ◯ ◯ ◯←私 三人で帰ると、いつもこうやって私ひとりが後ろに追いやられるからだ。』 こだわるのであれば、最低でもこのくらいわかりやすいことをやらない限り、表記の意図を読み手は汲みません。 ●まとめ 冒頭でも書きましたが、ストーリーに入り込みやすくて面白い作品です。 ですが「小説としての書き方」を求めた場合、前述した箇所は気になる部分でもありました。 テンプレートとして、参考になれば幸いです。 最後に、前述の指摘を全て受け入れる必要はありません。 Noveleeには書き手さんもたくさんいますし、書き手、読み手として作者のこだわりを温かく受け入れてくださる方が多い印象です。 いろいろな作家さんの表現や表記に刺激を受けながら、ご自身でもどんどん挑戦してほしいと思いました。 以上です。ここまでネカマの戯言におつき合いくださり、ありがとうございました。 よき執筆ライフをお過ごしくださいませ☺️ 《完》