向島冬彦

2 件の小説
Profile picture

向島冬彦

書きたいときに書く

島の夜

少し冷たい風が木の葉を撫で回し、 太陽は一日の仕事を終えようとしている。 赤紫に似た橙色の空に、僅かな星と、月が出て 島を灰色に染め始めていた。 枝に乗っかった巣も、それに変わりはなかった。 一羽の雛は、銀色の雲を眺めながら 眠りにつこうとしていた。 朝の眩しさと夜の切なさを重ね合わせ、 今日学校で先生が教えてくれた面白い話、 たった一羽で鷲を追い払った英雄や、 去年の雪の白さ、 あるいは、母親の温もりを思い出して 今日も夢を見るのだった。。。

3
1

島の草原

島の真ん中の草原はバッタの棲み家だった。 いつからか、チムニーはある事に気が付いていた。 それをなんと言うのかは分からなかったが、 まるで与えられた使命であるかのように、 チムニーにずっと、重く、のしかかっていたのだった。 次第に、チムニーはそれを抑えられなくなっていた。 その衝動は遂に爆発した。 チムニーは走り、跳んだ。 仲間たちの奇妙な眼差しも気にせず、 日が沈んでも関係なしさ、必死になって跳びはねた。 明け方、チムニーは消えた。 他のバッタは辺りを探したが、姿は見えない。 どうやら随分遠くへ行ってしまったようだ。 色んな噂が飛び交ったが、草のざわめきがそれを消していった。 ひと月後、チムニーは突然帰ってきた。 ずっと跳んでいたらしい。息も絶え絶えだ。 彼は言った。 『昔、追いかけっこで遠くへ行って、ひどく怒られただろう。 だが、あれほど遠くへ行ったって、 この高い草を超えることはできなかったんだ。 しかしついさっき、僕は草のない青空を見てきたんだ。 鳥なんかよりも恐ろしい動物も、 広大な雨の雫の流れも、 草なんかよりいくつも高い植物も。 今度みんなで行こうじゃないか、 きっと面白いだろうよ。』 そう言い終わると、彼は静かに目を閉じた。 草に隠れた月に バッタ達の好奇心が照らされている。

4
1