影白/Leiren Storathijs

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影白/Leiren Storathijs

実は26歳社会人です。 基本ライトノベル書きます。 異世界ファンタジー専門です。 執筆歴は10年以上です。

第三話 安らぎを置いてきた者

 リーナ、アマリア……本当に済まない。お前たちを残して一人で逝ってしまったことを許してくれ。  俺は死んだ。ほんの一瞬の油断が運命を決めた。あの時ああしていれば、こうしていればと何度も頭の中でフラッシュバックする。 「情けねえにもほどがあるだろ……」  だが俺は生き返った。母国ではなく、全く別の世界で。最初は酷く混乱した。周りに何も無い荒野で目を覚まし、何度も妻と娘の名前を叫んだ。だが戦場を共にした仲間も、敵すらもそこにはいなかった。  しばらくして中世の鎧姿をした兵士の部隊に保護されたが、どんなに状況を理解しても、何故俺が生きているのかが分からない。  俺は今その兵士の詰め所だろう休憩室の硬いベッドの上に座って項垂れる。娘のことが頭に過ぎるたびに、もう会えないと察し、兵士たちに迷惑をかけてでも戦意が喪失する。そこに来るのは部屋のドアをノックして入ってくるいつもの兵士だ。 「フォルクマン隊長、失礼します。今回の作戦について報告があり……失礼しました」 「良いんだ。続けてくれ。毎回こんな姿を見せちまって済まねえな……」  俺はこの世界に来てからアストリアと呼ばれる国の騎士として類稀な戦術と指揮能力を評価され、すぐに隊長の座についた。ついでにいつも使っていたライトマシンガンであるH&K MG5もすでに周知されており、その集団に対する制圧力もある意味力を持っている。 「はい。現在アストリア砦でヴァルドラ軍が交戦中ですが、突如ヴァルドラ軍の指揮官が死亡。偵察隊によれば、作戦地域よりヴァルドラ国側に二千メートル離れた先から大砲の音が聞こえたとのことです」 「大砲……? そんな距離から当てられるものなのか?」 「いえ……理論上は砲弾を撃ち出すことは可能ですが、作成地域は全域森林地帯であることもあり、未来予知でもない限りその距離から自国の指揮官を狙って殺すなど……不可能です」  現在、俺が指揮補佐として見ているアストリア砦と、ヴァルドラ帝国軍が交戦中であり、戦況は先程まで劣勢だった。しかし今の兵士の話を聞けば、一気に優劣は傾いた訳だが……引っかかるにも程がある。何故ヴァルドラは自国の指揮官を始末したのだと。  いくら考えても訳が分からない。もう少しでヴァルドラ軍は砦を制圧する所だったというのに。何故だろうと唸っていると、兵士はさらなる追加情報と物的証拠を見せてきた。その時、俺はその証拠から目が離せなかった。 「実は殺された指揮官のそばにこのような物が地面を抉るように刺さっておりまして。フォルクマン隊長が持つ武器の弾丸に形状が似ていませんか?」 「マジかよ……。こいつぁ、知ってる形状では無いが、スナイパーライフルの弾丸だ。しかも大口径の。これなら納得だ。指揮官はヴァルドラ軍が始末したんじゃ無い。第三勢力だ」 「第三勢力!? 一体どこだというのですか! これ以上砦は持ちきれません! それにすない……ぱー? とは……」  兵士が身を乗り出して俺に詰め寄る。だから俺は冷静に答え、簡潔にその脅威を教える。 「スナイパーとは狙撃手のことだ。この世界では馴染み浅いと思うが、こいつが撃った弾丸は二千から三千メートルの距離から正確に、狙った対象を一撃で破壊する威力を持つ。我々の砦が全滅をせられるのも時間の問題だ。どうせヴァルドラの指揮官はもういない。砦の守りを放棄し、今すぐ全員撤退させろ」  偵察隊がある程度の距離と範囲を見つけてくれたが、相手が狙撃手ならば、どこから撃たれているのか完全に把握しなければならない。だがこの世界の人間らには狙撃手の場所を見つけるなんて無理だ。だから俺は少し語気を強めて全軍撤退を命じる。  しかしその時だった。他の兵士が扉を勢いよく開け放ち、伝令が届く。 「フォルクマン隊長! 伝令です! アストリア砦を防衛していた兵士が突然次々と重傷。撤退できません!」 「チッ……! 面倒くせえことしやがって……。しょうがねえ俺が出る」  どうやらスナイパーは砦の兵士を全員殺すのではなく重傷にだけさせていったようだ。これはスナイパーの本来の仕事であり、スナイパーは必ずしも相手の頭を撃ち抜くわけでは無い。むしろ即死させる方が稀と言われるほどだ。  しかし今回はヴァルドラの指揮官を殺害しながら、戦場を荒らすだけ荒らしたということが明確だ。なにも狙撃手にはメリットがないというのに、全く意図が理解できない。  結果、伝令だけが命からがらで俺に報告しにきたようで、現状動ける兵士がそれ以外いないという絶望的状況。今ヴァルドラ軍が体勢を立て直し、もう一度攻められれば砦は間違いなく陥落するだろう。だから今回は唯一狙撃手への知識を持つ俺がいかなくてはならない。  そう言って俺はベッドから立ち上がり、部屋を出た時だった。まさかの相手と鉢合わせした。 「あんたが今回の指揮官か? LMGを持っていると聞いてな。その手に持っているのは……ドイツ製のMG5か?」 「お前は……? どういうことだ。狙撃手の次は……」 「こういう時はどっちの呼び方で良いんだろうな。まぁ、もう母国には帰れないだろうし。俺はノア・ブリックス。出身はアメリカ合衆国だ」  俺はしばらく唖然とすることしかできなかった。相手が敵なのかとかの思考も追いつかず、ただ何故アメリカの人間が目の前にいるのか。いつまでも脳の処理が終わることは無かった。

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第三話 安らぎを置いてきた者

第二話 捨てられた孤児

 僕は捨てられた。何故なのか。ただ用済みとだけ言って僕は殺された。一体なんのために従軍してて、どれだけの人間を葬って来たのか。数えるまでもないけれど、 僕の胸に渦巻いていたモヤモヤは、まるで最初からここで解消される運命だったようだ。  僕は殺されたはず? とかそんなこと今はどうでもいい。これは神が僕に用意してくれた憂さ晴らしの機会なんだ。地面に置かれたのは見たことのない形をしたRT-20の改造版。高倍率スコープを覗けば、なにやら崖の下で中世みたいな鎧をまとった兵士がわちゃわちゃしてる。    使用弾は超小型化された20×110mm APFSDS-T。どう見てもこれ、戦車砲に使う弾の形状してんだよなぁ……。こんなもん使ったら、俺の身体が吹き飛びそうだが……。これはつまり使えってことなんだろう。  僕は明らかにヤバい形状をした弾を装填し、匍匐姿勢から肩に担ぐような形で構える。そして先ずは誰を殺そうかと標的を選んでいると、崖下すぐにいるこの争いの指揮官らしき兵士よりも、さらに丘の下にいる兵士を見つける。 「おいおい……あれってもしかして……」  確信は出来ないが、他の兵士とは明らかに装備が違う。軍用スーツと暗視ゴーグルを身にまとった兵士が一人。恐らくこれから指揮官を殺りに行くんだろう目をしていた。  僕も同じような部隊に所属していたからなんとなく噂だけ知ってる。アメリカの極秘特殊部隊があんな装備だったような……。  それしか知らない。これは都市伝説レベルの話で、装備の話も仲間の妄想だったかもしれない。だが僕はその姿をスコープ越しで見た後、たまらず引き金を引いていた。だがそれは間一髪で避けられた。 「ったぁ〜流石の勘付きの速さ! 同じ時代で生きてる奴はちげぇや!」  耳をつんざくほどの爆音と共に、避けられた弾丸とは言え、着弾地点の地面は酷く抉れている。やっぱり化け物だわこれ。あっちもさぞ驚いているだろう。  さて、もしかしたら同類がいたという興奮を感じ取れたのは良いとして。俺は神が与えてくれた機会を存分に楽しもうと思う。戦場を荒らしまくってやらぁ。  対物ライフルの発砲音で鼓膜がやられかけたので、次はきっちりと防音イヤーマフを付け、排莢してから弾を装填して、また構える。 「次はどこに撃とうかなぁ〜とりあえずアイツ邪魔だから消えてもらうか」  スコープを覗くたびにチラつく存在。恐らくこの戦場の指揮官。豪華な鎧が光を反射して非常に狙いづらい。特に風で揺れる軍旗は一番邪魔だ。  俺は一切躊躇うことなく射撃。イヤーマフ越しに聞こえる轟音と共に、指揮官の半身は一撃で吹き飛ぶ。即死だな。 「ん〜これで視界良好、次々〜」  と行きたい所だが、僕が使うこの最強の対物ライフル。弾丸が戦車の砲弾を魔改造されているのは驚いたが、使い勝手の悪さは変わっていないようだ。  排莢方法はボルトアクション式なのに、そのボルトが引き金の後方にあるせいで、装填するためだけに構え直さないといけない。威力は最高だけど……普通のよく使ってた物はないのかね。  毎回の排莢が面倒なので、一度匍匐から胡座の姿勢になって、周りを見渡してみる。そこにはちゃんと用意されていた。俺が目覚めた崖上のすぐ真横に。ケースの中に入っていた。 「なんだあるじゃぁん……やっぱりこれだよねぇ」  |ORSIS《オルシス》 T-5000。ロシアで製造されているすげえ標準的なスナイパーライフル。使用弾は5.375 チェイタック。超長距離の対象を狙うならこれがいい。 「さぁさぁ、混乱してくれよ……アメリカの奴は無視でいいや」  ここからは僕の独壇場だ。いいや、僕の遊び場だ。また匍匐姿勢に入り、スコープを覗き、標準に入った鎧兵士の頭。ではなく、腰や脚を撃つことで妨害を優先する。見つけては撃つ。撃って撃つ。撃つ。撃つ。撃つ。 「はははっ! 何処から撃たれているのかさえも、こいつらは分からねえんだろう? バレる心配はゼロだ! ほらほら、もっと喚けよぉ!」  何故か分からないが、撃っても弾は無くなるが、マガジンは無限にある。弾切れの心配も無いとか。本当に神の業じゃねぇか。  そうして僕は満足行くまで打ち続けた。

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第二話 捨てられた孤児

第一章:第一話 亡霊の兵士

 俺は死んだ筈だ。誰にも看取られず、掟に従い、自らの手で。頭がかち割れるような激痛で目を覚ます。  石畳の地面で四つん這いになり、周りは薄暗く、金属がぶつかり合う音と、嗅ぎなれた血と火の粉の香り。 「……?」  俺は今どこにいる? もう頭痛も無ければ、赤く染まっていたはずの手も綺麗さっぱり。俺は確かに死んだ。いや、死なないはずがない。奇跡的に生き残ってしまったのなら、もう一度死ぬだけだ。 「あれ……? 無い……」  片手で地面に落ちているであろう物を探す。俺が自ら死を決した道具。慌てて姿勢を直して周囲をさらに見渡す。何処にも見つからないどころか、俺はどこかの地下牢の廊下にいることがはっきりと分かった。  だがそれはレンガ作りのアーチ状の廊下で、無機質に鉄格子の牢屋がずらりと並ぶ。まるで中世時代の作り。ますます訳が分からなかった。 「ははっ……夢?」  全く記憶に無い夢。走馬灯でも知らない光景が出てくる物なのだろうか? とりあえず壁まで擦り寄って一息つく。  その時だった。状況が掴めない俺の目と耳に無理矢理理解させようとする影が近づいてきた。  石畳を歩く金属音、松明の光で反射する鎧。 「まだ生き残りがいたか。罪人の分際で……! 死ね!」  それは中世の鎧を全身に着込んだ兵士。顔は兜で覆われ分からないが、それは俺に向かって剣を振りかぶる。明確な殺意。怒りも私念すらも無い。純粋な相手を殺すためだけに用意された殺意。  これも慣れた感覚だ。だが、相手の思惑で殺されかけるなど、二度はごめんだ。  俺は大きく頭上に振りかぶる剣を目で捉えながら、足払いで相手を転けさせ、覆い被さるように首根っこに腕を回せば、一気に力を込めて絞めあげる。 「な……!? ぐあっ……あ゙ぁ……あ……」  ものの5秒もしない内に気絶。コイツが目を覚ます前にまずは行動しよう。さっきから上から聞こえる音は、誰かが戦っているのだろうか。まず動く前に此処が何処なのかだけでも分かれば良いのだが。 「……!?」  その瞬間、視界に無数の人の影が映り込む。大勢の兵士が剣を持ち、殺し殺される瞬間がぼんやりと分かる。これは予兆ではない。今確かに起きていることだ。原理は分からないが、今俺は天井を透視している。  この瞬間に俺の頭の中でこう考えていた。  どちらに味方すればいい?  恐らく先程殺しにかかってきた兵士は襲撃側だろう。防衛側が地下牢にいる囚人まで殺す理由が無い。なら俺はこの建物を守れば良いのか……?  普通に考えれば俺はどちらの味方でもない。だが今ここを生き残るにはどちらかに付く必要がある。逃げても土地勘が無ければ彷徨うだけになるからだ。  俺は今まで国のために戦ってきた。誰にも知られず、みられず、噂されることもなく、裏から支えてきた。だから今回も――。    俺は防衛側につくことにした。上へ移動する前に装備の確認だ。武器はタクティカルナイフ一本のみ。服装は生前と言ったらおかしいか。吸音性能付きの黒のステルススーツ。後は……暗視ゴーグルと無線機か。 「う……うぅ……」  気絶した兵士が目を覚ますか。そろそろ行こう。  廊下を走れば上へ続く階段を上がり、すぐに無数の兵士が乱戦する大広間に出る。運良く今は夜だったようで、誰の兵士にも見つからないように物陰を使いながら建物の外へ移動する。 「敵は疲弊している! このまま押し切れえええ!」  外に出れば非常に暗い森が広がっていた。正門前で叫ぶ鎧兵士がここの隊長だろうか。客観的に戦況を見れば、建物を防衛する側は既に敵の侵入を許しており、襲撃側は森の奥にさらに伏兵を用意して波状攻撃を仕掛けているようだ。 「全く、俺の目はおかしくなっちまったのか?」  ならばまずやるべきことは……。夜の影に潜みながら、隊長らしき兵士の背後に近づき、首に左腕を回して絞めつけ、右手で片腕を封じ、膝裏を蹴ってバランスを崩し、一気に草むらへ引き摺り込む。この一連の動作を素早く、勘付かれることなく、一瞬も暴れも許さず行う。 「うううっ!? んー!」 「ここの指揮者は何処だ? しーっ」  草むらの中でしゃがみながら、兵士の顎を持ち上げ、タクティカルナイフを喉仏へ垂直に向ける。大声を出そうものならすぐに殺してやると警告するように。 「何者だお前は! そんなこという訳……ひぃっ!」 「言えば今すぐはお前を殺さないでやる。死にたいなら望み通りにしてやるがな」 「わ、わかった! この森の奥先にある丘の上だ……! 逃してくれるんだよな?」 「あぁ、正直者で助かったよ……」 「ごぉっえっ!?」  こんな正直で重要な情報をすぐに漏らす隊長なんて死んだ方がマシだ。俺は感謝を述べてから兵士の喉仏を掻き切った。  これで伏兵は突撃するタイミングを失った。放置していても防衛側はやってくれるだろう。  俺はそれから森の奥へ進み。恐らく敵であろう大きな軍旗を掲げた丘が見えた。だがその時だった。  もうとっくに今の状況はタイムスリップでもしたのだろうと勝手に理解しているが、ここが中世ならあり得ない物に俺は攻撃を受ける。 「さて、あの上か……なっ!?」  丘の上で踏ん反りかえる敵大将の、さらに背後に見える鬱蒼と木々が生えた高台より、一瞬見えたのは月光を反射した閃光。俺はそれが何かをすぐに察し、真横へローリングして物陰に隠れる。  その同時。まるで戦車砲が放たれた爆音を響かせて、俺がいた地面を大袈裟に破壊した。 「なんだこの馬鹿みたいな威力は!?」  それは十中八九。対物ライフルからの狙撃だった。

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第一章:第一話 亡霊の兵士

プロローグ-選ばれた戦士たち-

 世界は、今日も静かに燃えている。 争いの報は、もはや日常の背景音と化し、銃声の向こうに誰が倒れたのか、誰も気に留めない。  正義の旗は引き裂かれ、信念は泥にまみれ、命の値段すら測れぬ血が、地図の上で静かに拡がっていく。  そのどこかに、名も知られぬ兵士たちがいた。  捕虜にされても、国を守るために自害を決める者。  どれだけ役に立っても、無惨に破壊された者。  最強と謳われるも、一つの弾丸で消えゆく者。  知り過ぎた結果、世から消された者。  平和に必要な犠牲に、巻き込まれた者。    彼らは英雄ではない。歴史に名を刻む者でもない。ただ一つの命令に従い、ただ一つの戦いに身を投じ、そして──静かに、散っていった。  だが、死は終わりではなかった。  ――これは、死を超えてなお戦場に生きる、無銘の兵士たちの物語である。

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プロローグ-選ばれた戦士たち-

GPTの異世界冒険

 彼の名はGPT。ちょっとどころかかなり変わった名前だが、勿論本名ではない。彼はどこにでもいそうなただの高校生。いつもの時間に、いつもの景色を眺めながら、いつもの学校に通う。  しかし、その日だけは違った。GPTは運悪くも交通事故に遭う。それはアクセルを全開に踏み込みながら、居眠り運転するトラック。青信号だからこれもいつも通りだと思ったのが運の尽きだった。彼は思いっきりトラックに轢かれ、即死だった……。  それから体感5秒で目を覚ませば、そこは真っ白な空間だった。GPTの体は宙に浮いているような感覚があり、ただ包み込むような優しい声が頭に響く。 『あぁ、なんと嘆かわしい。まだ未来ある青年がこんな結末を迎えて良い物なのか。あぁ、落ち着いて聞いてほしい。貴方は死んだ。ここは天界である』 「……なるほど。ようするに、俺は“転生”ってやつをされる流れなんだな」  空間を漂うようなその声に、GPTは驚きも動揺もなく、ただ淡々と受け止めた。彼の表情には焦りも涙もない。ただ、現状を分析し、次の行動をどう取るかを静かに考える目をしている。 「てことは……ここで泣いたり騒いだりすれば“勇者特典”とか“チート能力”とか付いてくるやつか?」  彼は少し首を傾け、何かのチュートリアルを眺めるように、白い空間を見回した。 「正直に言っていいか? 俺、平凡な生活で満足してたんだよな。できればこのまま二度寝して現実に戻りたい。ダメ?」  声に対して、返答はすぐに来なかった。ただ、やわらかな気配が少しだけ揺れる。 「……まあいいや。どうせ無理なんだろ? だったら、せめて死なないように転生先の設定くらい選ばせてくれよ」  それが彼の口から出た第一の“願い”だった。力でも名声でもなく、“生き残るための余地”。彼はただ、死なずに済むならどこでもいいというのだ。 ——この瞬間、彼は“特別な何か”ではなく、“生き残る誰か”として、選ばれた。 『おぉ、なんと飲み込みの速い青年だ……。確かに。貴方はこれから別世界に転生してもらう。これは神からの慈悲だと思ってくれ。しかし残念ながら世界の設定を選ばせることは出来ない……。またチート能力や勇者特典もない』  優しい声は悲しくもGPTに現実を突きつける。しかしGPTの考えた通りに話は進み、声はあえて贈るならと一つの能力彼に与えた。 『そんなに欲しいのなら……素材さえあれば瞬時に道具を作成できる能力を与えてやろう。これも慈悲である。決して強い力では無いが、無いよりはマシであろう。それでは新たな世界に転生してもらう。準備は良いな?』 「……まあ、そんなことだろうと思った」  GPTは肩をすくめるようにして、小さく息をついた。チートも勇者特典もなし、世界の設定すら選べない。どれも想定内。むしろそうであるほうが納得できる。 「能力があるだけマシか。素材が必要ってのがネックだが……逆に言えば、それさえ揃えば戦える、ってことだよな」  彼の目が、ほんのわずかに鋭くなる。それは戦意ではなく、冷静な生存戦略の始動だった。 「よし、わかった。準備はいい……って言うか、もう覚悟は済んでる。どうせ行くしかないんだろ?」  彼は浮遊感の中で軽く首を鳴らすと、まっすぐに前を見た。 「じゃあ、行こうか。とにかく——生き延びる。それだけを考えてな」  白い空間が、光に包まれて消えていく。  そしてGPTは、まだ見ぬ世界へと堕ちていった。地位も力も名声も望まぬ、ただ一つ、“生存”という戦場に身を投じるために——。

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GPTの異世界冒険

第一話 いきなり異世界転

 彼の名前は|最上稟獰《もがみりんどう》とある某有名高校に通う三年生、十九歳で存在感はそこそこあるが、友達の居ない1浪している極普通の学生だ。  授業中突然奇声を上げたり、ムカついたから教師を殴り、男女カップルの問題を両成敗したり、存在感は溢れていたが……。彼は既にクラスから省かれていた。しかし本人にその自覚は一切無い。ただ最上はそんな学校生活に飽き飽きとしていた。 「あー面倒くせぇ……次の授業は校庭で体育だ。あー面倒くせぇもう死にてえ……」  そんなある日のことだった。あまりにもつまらな過ぎる最上は、死にたいと思うほどに項垂れていると、その願いは現実となった。  校内に不審者が侵入。まるで最初から最上を狙っていたかのように、真っ直ぐと最上の腹部をナイフで刺した。 「ッ……!? あー、滅茶苦茶痛ぇ……腹を刺される気分ってこんな感じなんだなぁ……なんか意識も遠のいて……」  激痛。すぐに引き抜かれるナイフと、滲み出る大量の血を必死に抑えながら、教室の床で倒れる。教室はクラスメイトの叫び声で騒然となり、いくら異常者として省いていた男でも、クラスはバタバタと教師を呼ぶなり慌てるが、時は既に遅かった。  だんだんと最上の意識は消えていき、ものの数分で息絶えた。 ____________________  最上が次に目を覚ました時には、体は浮き、四方全てが白に包まれた不思議な空間……では無く。四方赤く染まり、薄暗く、脈打つ空間にいた。一瞬地獄かと考え、因果応報かと簡単に状況を整理しようとした時、最上の頭の中に声が響く。 『糞漏らすつもりで力んでみ』  は……? 最上はなんのことかと頭に疑問符を浮かべるが、ここが地獄なら何でもいいかと考え、とりあえず感じる便意を素直に受け止め、思いっきり力む。 「あーやべっ……マジでなんか漏れそうだわ……いやこの感覚は糞じゃない。なんか、体の中心からブワーって感じ」  何かが体の中から出てくる。そう感じた時だった。最上の体は内側から眩しく発光し、視界を完全な白で埋め尽くす。しばらくして視界が空ければ、爆音と共に、その空間は爆発四散した。  ふと後ろを振り向く。そこにはもはや原型を留めていない。おそらくドラゴンだったであろう赤い鱗が特徴の生物が、横たわっていた。  つまり、自分はドラゴンの腹の中にいたのだと察する。  あまりの予想外な展開に唖然とする。そんな驚愕は正面から聞こえる拍手の音で掻き消える。そこには満面の笑顔で手を叩く老人がいた。 「おじちゃん誰……?」 「凄い! 凄いんじゃ! あんな巨大なドラゴンを……! あれ、なんじゃったかのぉ?」  老人はふと頭を抱え、目の前で起きた出来事を一瞬のうちに忘れた。しかしすぐに新たなことを思い出し、老人は最上に一つの言葉を言えと命じる。 「あぁ、そうじゃお主! すてぇたすぅと唱えてみ!」  はて、急になんの話かと思えば、また一つ状況を一瞬で理解する。老人の言うすてぇたすとは。異世界転生物語で良く聞くステータスのことであると思い、とりあえず老人の言い方を真似てその言葉を発する。 「すてーたすぅ」  すると、すぐに見たことがあるお決まりの展開である。ステータス画面が最上の目の前に現れる。 ──────────── 名前:最上 稟獰 年齢:19歳 身長:175cm 体重:65kg Lv 225 HP:多分無限? MP:ヤバイ程ある 物攻:星破壊できんじゃね? 物防:核でもいけるんじゃね? 魔攻:最&強☆ 魔防:世界滅亡しても生きてると思う 俊敏:光の速さと同じ 運:転生してる時点で無いでしょw スキル:()内も含む。 ・火(爆発)、水(氷)、風(衝撃)、雷(電撃)、地(地震、地変)、光(聖)、闇(呪)全て無効。効かない。 ・精神(洗脳、魅了、混乱etc…)、状態(毒、腐食、感染、麻痺etc…)全て無効。 ・次元(4次元、空間無視、時間操作、重力操作、能力操作、物理無視、粒子、分子の破壊etc…)これらの攻撃を無効。又は使用可能。 ・お前の能力未知数だからこれ以上分かんね ───────────  呆れるほどのチートだった。しかもステータスの文面は嫌になる程に軽く、煽られているのではと感じるほどだった。  そして老人は呆れる最上の表情をみて、ウキウキとした様子でその結果を聞き出す。 「どうじゃったかの!」 「いや、どうもこうもないよ……何これ? いやおかしくね? こんなのあったらゲームバランス崩壊するよ?」 「げぇむばらんすぅ?」 「いや、何でもない。所で俺これからどうすれば良いの?」 「…………はて? 何の事かの?」 「いやだから何をすれば良いのって……」 「ワシには分からん」 「えぇ……?」  異世界転生したからには、何か目的ややるべきことがあるのだろうと考え、先程がボケる老人にダメ元で聞いてみるが、想像通りだった。  老人はもう何も知らなかった。そこで老人の後ろ。遠くから若い男性の声が聞こえた。 「おーい! お爺ちゃん! そこの人もしかして転生者?」 「おぉ〜タケシ!」 「お爺ちゃん! 僕、セイト。息子だよ」 「うむぅ……そうじゃったかのぉ……」 「じゃあもうタケシで良いよ……」 「いや、タロウじゃったかの!」 「うんタロウだよ」  酷くボケた老人の相手をするセイトと名乗る青年は、老人の息子と言うが、最上でさえも気の毒だと思えるほどの光景だった。  そこでふと自分が置いてけぼりにされていることを思い出す。 「あの……俺は?」 「あぁ! ゴメンゴメン! 僕の名前はキリタニ・セイト! 君の様な転生者をずっと待ってんたんだ!」 「あぁそう……」  最上はこの瞬間に次に起こることを察する。自分を異世界に転生させただろう老人は酷くボケており、その息子さえも老人の面倒を見切れていない様子から察するに。おそらく帰ることは出来ないのだろうと考える。 「あれ、なんか凄く落ち着いてるね」 「うん……どうせ帰れないんでしょ? 俺を召喚したのこのお爺ちゃんだよね?」 「なに!? 人の所為にするでない!」 「そうだよ……ははは……」  そう、老人はもはや、最上を転生させたことすら忘れていた。とても落ち着いた最上の態度に一瞬不思議と感じるセイトだったが、まるで分かっていたかのような発言と、老人の態度を交互に、困るように笑うしかなかった。  だから今の最上が一番頼りにするのはセイトしかいなかった。 「あ、そうそう俺はこれからどうすれば良いの?」 「あ! それに関しては、これから行く所あるから追い追い説明するよ」 「あぁ、うん。分かった……」

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第一話 いきなり異世界転

ノベルズ 外の世界

 ここは誰がそう呼んだのか。大陸ノベルズ。そして俺がいるのはルインという街。教会が突然教典を配布した。"ついに外の世界と繋がった。この現象を『イベント』と呼ぶことにする"。  ついに教会は頭が狂ってしまったか。いや元からか。"外の世界"という聞いたことが無い言葉。外とは、世界とは?  この街は常に空は暗く、街の中央にそびえ立つ時計塔から鳴り響く鐘の音で、月が満ち欠ける。ただそれだけ。今日は朝が来るだとか、夜はいつか終わるだとか。全く何を言っているのか理解できないが、どうやら街に『外側』が出来たらしい。  自分でもどういう意味なのか分からない。だが目の前にはそれはあった。街から少し離れた街路を歩けば、見たこともない大荒野が広がっていた。 「は……?」  その先には街がない。建物も、人の姿も、そして空が明るかった。青い空。最初は頭が混乱した。空が明るいなんてあり得ないからだ。これが本当に教会が言う『朝という名の、夜の終わり』ならば、俺たちは教会に負けたということになる。  だがそれは違うとすぐに理解する。こんなこと教会が出来る訳がない。あまりにも規模が大きすぎるからだ。  街の『外側』へ一歩足を踏み出せば、石畳ではなく、硬い土の地面を踏んだ。乾いた風が俺の髪をなびかせる。そして眩しいほどの光が俺を照らした。 「あれが太陽……?」  それは月とは違う。見上げれば絶対に直視出来ないほどの眩しさで、街灯の明るさとは程度が違った。下手したら目を焼きかねない。俺は初めてそこで『恐怖』を感じた。  教会はこんな恐ろしい物を実現させようとしていたのだろうかと。 「イベント……。ふざけるな……。どこのどいつがこんなことを……」  そして煮え繰り返るほどの怒りが込み上げてくる。ふと街の方を振り向けば、これまた見たことが無いほどに街が明るく照らされていた。俺が知る街の住人たちは総じて空を見上げ、阿鼻叫喚の嵐をあげている。教会の者たちは天を仰ぎ、涙を流していた。どれも理解できなかった。 「明るすぎる……。眩しい……。これの何処が安らぎというんだ……! やはり教会は何もかもが間違っていた」  またふと遠くを眺める。荒れた大地が続く地平線。その先に、また一つの街があることに気がつく。 「なんだあれ……?」  街。というにはあまりにも大きい。大きすぎる街だ。建築様式も違う、まるで本当に外側かのような感覚を覚えさせてくる。 「ったく……さっさと終わらせるか。まずはあの街から……」 「よぉ、ヴェイル。なに辛気臭ぇ顔してんだよ、ってなんだこれえええええ!」  後ろから声をかけてきたのは、名前の知らない中年の男。確か宿泊所の店主をしていたはずだ。彼は俺の目線を見るや否や、全く俺と同じ反応をする。 「うるせぇな……」 「これがぁ……教会の言った大陸ノベルズのイベントっつーもんか? にしてはデカすぎんだろ……」 「お前、もう空に浮かぶ丸いやつはみたか? どう思う?」 「もう見たよ。目が焼けるかと思ったぜ……。クソッタレだな。俺たちはこんなもののために、今まで教会に生贄を捧げてきたかと思えば……。なんとも言えねえぜ……」  『明るい空』と呼ばれる『夜に対する朝』。教会はただそれを求めるだけに、街中から適当に人を選び、生贄と言って無数の人々を殺してきた。子供も、女も、老人も。みんな苦しい断末魔をあげて、火炙りにされていった……。それが……。 「こんな様じゃ許せねえよなぁ!! おっさん。まずはあの街を潰す! 俺たちが今まで受けた支配をやり返してやろうぜ!」 「そう言うと思ったぜ。自警団のリーダーさんよぉ」  目と鼻の先に見える大きな街は、教会が作り出した街なのか。そんなことはどうでもいい。今すぐこの"イベント"とやらを終わらせなくちゃならない。もう一度『暗い空』を取り戻すんだ。  そう意気込んで、街に隠れる自警団のメンバー共をかき集め、総勢三〇人で、隣の街を目指した。しかし、結果は惨敗と呼ぶには足りないほどだった。  大きな街の奴らは全身を鉄のような装備を纏っており、俺の仲間とは比にならない。総勢一万人を超える軍勢で、俺が計画するより前にこちらに向かってきていた。 「我々はセレクリッド聖国騎士団である。大陸ノベルズの遠征調査の元、数日前から拠点を建てていたのだが、突然新しい街が隣に現れた物でな。すまないが、君たちが何者なのかを教えてくれるか? できれば戦闘態勢は解いてほしい」  まるで敵に舐められているような気分だった。ここまで苛ついたのは初めてだ。だから俺は激昂する。 「何が大陸ノベルズだ! なにがイベントだ! お前たちこそ何者だ!! 俺たちの街を返せええええ!」 「私たちは対話を求めている。そんなに怒らないでくれ。我々もこの大陸のことを理解していない。しかし数日前からイベントという現象が起きていることはどうやら共通認識のようだな。つまり……君たちは我々の敵ではなく、同じ探索者ということだろうか?」  さっきから相手の言っている言葉の、一文一句が頭に入ってこない。大陸ノベルズではなく、彼らは大陸の略した。じゃあノベルズってなんなんだ? 大陸とは? なぜ分ける?  数日前とはなんだ? 聞いたことが無い……。現象??? 「敵では……ない? もっとわかりやすく言ってくれ。せっかく言葉が通じるんだ」 「……? だから我々はこの大陸を調査しにきたのだ」 「大陸ノベルズだろ!? ここは大陸ノベルズだ! そう呼ばれてる! 大陸じゃない!!」 「すまない……。どうやらなにか言葉の意味が理解できていないように見える。なら質問を変えよう。君たちは何処からきた?」  こんなにも話が噛み合わないなんてことがあるのか。まぁいい。その質問なら意味が分かるが……。 「ルインだ」 「ルイン? 君たちの後ろにある街のことか? んー……。君たちは元からこの大陸ノベルズにいたのか?」 「違う。ルインだ。大陸ノベルズなんてつい最近知った。お前たちは"外の世界の生き物"なんだろう?」  全く話が噛み合わない。どうしてだ? だが俺が最後に言った言葉でようやく理解したのか。相手は表情を明るくさせた。 「外の世界……? あーなるほど……。つまり君たちはルインから来たのであって。いや違う。ルインの住人なんだな。今まで外を見たことないと。そう言うことだろう。それなら話は早い。やはり我々の敵ではない。話が噛み合わない理由がやっと分かったよ」 「??? あぁ、そうだ。今さっき初めて外に出たんだ」  話が噛み合わない理由が分かったというが、俺に全く意味が分からなかった。が、それをすぐに説明してくれた。 「まず。君たちの言う『外』には海という、とても大きな池があるんだ。その池は、君たちの街を簡単に沈めてしまうほどの規模でな。その上に浮かぶのが大陸と呼ぶ。つまり、超巨大な地面の総称だ。だから我々は大陸と呼んでいる。そして、ノベルズとはその大陸の名前だ。  次にイベント。これを我々は現象と呼んでいる。ランタンはその中に火を灯せば明るくだろう? 何故明るくなるのか。それはランタンの中にある油に引火するからなんだ。君たちにとっては当たり前だと思うが、それも現象の一つなんだよ。だからその大規模版。この大陸で起きている不思議な現象がイベントだ」  こと細やかに、俺が理解できないことを小さな例えから、巨大な物であると説明してくれる。分かった。説明は良く分かった。だが俺はあまり話を聞いていなかった。いや、聞けなかった。  何もかもが規模が大きすぎると。俺たちじゃこのイベントを解決出来ない。だから。 「協力しよう。こちらには総勢二十万を超える人々がいる。分からないことがあればいくらでも説明してやる」 「分かった……。協力しよう。俺たちには無理だってことが良く分かったよ」  俺がそういえば、後ろにいる自警団のメンバーらも納得してくれた。あまりにも大きすぎる規模を痛感したんだろう。  そうして俺は、『暗い空』を取り戻すために、『イベント』の調査を、騎士団と協力することにした。

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第三話 国王、魔界を統治する

 俺は国民五〇万人を一斉に大規模転移魔法で移動させた。その場所はかつて誕生、又は召喚された数多の勇者が挑んだ。魔界の入り口前。  大地に一つぽっかりと空く禍々しく渦巻く大穴。その手前に即興で魔法による、丁度五〇万人を収容できる都市を建造した。  地を隆起させ、大石を生成し、魔力で鉄や金を錬金し、我が行くままに形を作る。そして絶対不侵の障壁が都市全域を覆う。  最早これでも一見すれば大都市と呼べる規模だが。俺にとっては朝飯前に過ぎない。 「な、なんだここ!? 俺たちは移動……したんだよな?」 「こんな街見たことないぞ? まさかこれも王様がやったのか? 何でもありかよ……」  別になんでも出来る訳ではない。だが、大抵の事はできるだけだ。  さて、次は目の前の魔界で一興でもしようか。 「皆の者! 我はこれからこの真下にある魔界を統治してくる! どうせすぐに戻る。しばし待たれよ」 「えぇっ!? 王様、そんないきなり統治だなんて……いつまで待てばいいのですか!」 「そうだな。三日あれば十分だろう。都市内にも既に十分な物資がある。存分に生活するといい」 「み、三日って……統治してくるような時間とは到底思ええないのですが……」 「俺にはそれで十分。心配は無用だ……」  人間と様々な種族が暮らす『現界』の統治ならば数カ月は掛かるだろうが、魔界の統治はただ魔王を撃破するだけだろう? 俺が新たな魔王となり、魔界のルールを再制定する。簡単なことだ。  だから俺は国民の前て魔界への入り口に飛び入る。  魔界に入った直後、そこは暗闇だった。そして無限に続く暗黒の先には、禍々しく蠢く限りなく黒に近い紫、至極色の海と、黒い瘴気に満ち溢れた大陸が見えた。  さらに地平線のずっと奥に見える城が魔王城だろうか。  俺が魔界の地に降り立った瞬間だった。まるで俺が来ることを予知していたかのように、魔王城の本丸から閃光が走る。  恐らく先手必勝の一閃なのだろうが……、例え魔王城と俺との距離が千キロも離れていようが関係ない。すでにその時から俺の剣は魔王の心臓を貫いているのだから。 「ッ!? ククク……まさかあの攻撃を避けて一瞬でここまで来るとはな。歴代勇者でも無理だったことよ」 「流石魔王、心臓を貫かれた程度では死なぬか」  黒い玉座にどっしりと座り込む魔王は、胸に突き刺さった剣を雑に引き抜いて、床に放り投げる。  魔王の姿は、かなり人間に近い見た目に、頭に二本の角が生えていた。 「まぁ、先ほどはほんの余興よ。今の一撃で死んでもらっては、そもそも歴代の勇者に期待もせんからな」  魔王は俺に向かって指を鳴らせば、空間が歪み、急激に魔王と俺との距離が離れる感覚に襲われる。俺はすぐに瞬間移動で距離を詰めようとするが、一向に距離は縮まる気配は無い。 「無駄だ。勇者でなければただの人間よ。貴様に我の元まで来ることは不可能よ」 「ほう? 人間だからと舐めるのか? 魔王はまだまだだな。もう原理は理解した。"無限の距離"究極の空間魔法。しかし、ただの無限で俺を遠ざけられると思うなよ?」  俺に無限など造作もないことだ。俺の力に距離は関係ないからな。俺が剣を投げれば、もう一度魔王の心臓を貫いているからな。 「何……ッ!? く……ククク。どうやらただの人間ではないようだな。ならば我も少しは力を出そうか……?」  魔王は玉座に頬杖を突いて座ったまま、目を見開く。その瞬間だった。紫色の光線が俺の眼球を貫かんと数ミリまで接近していた。だから首だけを傾けて避ければ、即座に魔王と間合いを詰めて拳で魔王を殴った。はずだったが、ただ玉座を破壊するだけだった。 「確かに手応えはあった……?」 「それは残像だ。魔王が馬鹿正直に敵と相対する訳が無いだろう。我も人間を舐めていたが、魔王も舐めるなよ?」  その声はすぐ後ろからだった。しかし振り向いてもそこに魔王はいない。むしろ、既に俺は囲まれていた。重力魔法によりいつの間にか宙に浮かされていた俺は、全方位から極大純魔法による破壊光線が放たれる。  だがその攻撃を受けるのは、魔王である。転移魔法で魔王と位置を入れ替えた。 「ぐはっ……!? ハハハハ! どうやら油断しすぎたようだ……。我が本気を出すなどいつぶりだろうか。我の力を最大まで引き出したお前に賞賛を送ろう。我が直々に殺してやる……これで終わりだ」  次の瞬間、俺は内側から破壊された。身体の内部は全て吹き飛び、穴という穴から血が噴き出し、まるで全身を内部から沸騰されるような激痛に襲われる。 「ぐあああああっ!!?? あああぁぁぁ!」 「魔王よ。なんと馬鹿な男よ。同じ手を二度も食らうはずが無いだろう……? まさかこう呆気なく終わるとは。流石の俺でも予想外だ……」  そう。その断末魔は、魔王の物であった。転移では無い。認識改変魔法。魔王が本気を出すと言って怒りを上げていた対象は。俺ではなく、魔王本人であったのだ。 「き、貴様ああぁ! この我が……たかが人間如きにぃ! 殺される訳が無いだろう!」 「ならば来世に警告してやる。あまりに人間を舐めるなよ? さらばだ」  魔王は自分の力で、爆発四散した。さて、残るは魔界統治か……。  俺は魔王城の展望台に行けば、まるでもう魔王が死んだことを理解したかのように、魔界全土に暮らす。総勢二五〇億を超える大軍勢が魔王城に集まっていた。  そして俺の前に膝をついて頭を垂れる魔物が四匹。おそらく魔王軍の四天王だろう。 「お前ら……俺は王を殺した。それでも従うのか」 「はい。新たな魔王様は貴方でございます……」  俺はそこで看破魔法を発動。四匹の内、一人の男は嘘をついていた。 「お前は、違うようだな……?」  見破れば彼は静かに震え出し、激昂する。 「当たり前だろうッ!! 突然人間界から降れば、あっさりと魔王様は倒されるし、それでお前に従えだと!? 我々は能の無い動物では無い! 何百、何千年も人間と敵対してきた。今更人間の王に従う義理など無いッ!」 「なら従わなければ良い。俺は別に縛るつもりも、支配することもない。ただ統治するだけだ。だが、お前が俺の敵ならば、殺すしかないがな」 「……っ! あぁ、出て行ってやるさ。魔王を倒した人間に勝てる訳がないからな。誰の敵にもならずに、ひっそり暮らすことにする……」  彼はそう言って、俺の前から消えた。他三匹に振り向くこともなく。そう。敵でなければ滅ぼす必要はない。あの者は従わないと言ったが、国を統治する上でそれは関係ない。その国にいるだけで統治下にいることになるのだから。  残る四天王の三匹は、抜けた一匹に見向きもせずに頭を垂れていた。 「さて。これで俺はこの魔界の王。新たな魔王になった訳だが。俺は魔王では無い。あくまでも人間の一国の王だ。だから俺の統治下に入った以上、ルールに従ってもらう。  まず一つ。魔物は人間に危害を加えないこと。また同時に人間も魔物を殺さない。これは共存では無い。互不殺生の律だ。  次に二つ。魔物は魔界のみで生きること。互いの領地に侵入することを禁ずる。相互領域不可侵の律。  以上だ。この二つさえ守れば、お前魔物は魔物の中で何をしても良い。もしこれを破れば、その当事者を問答無用で殺す」  なぜ共存しないのか。それはごく単純。不可能だからだ。勿論俺の力で全国民を洗脳することもできるが、俺はそれを望まない。それだけだ。

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第三話 国王、魔界を統治する

初めて小説を書く。投稿する方へ

みなさんこんばんは。影白です。 今回は初めて小説を書いて、自己満足するだけでなく、投稿する方へ。注意や気持ちの構えを方を自分なりに教えます。 あくまでも影白の個人的な心構えなので、参考程度にお願いします。 これからは書くことは、投稿した後のことであり、ノベリーに限らない話です。 ────────────────── 1.【自分の作品は見てもらって当たり前では無い】  ネット上には既に無数と言える膨大な作品があり、読者もそれぞれで作品によって層も違います。初めて書き始めた方に多く見受けられるのは、どうして自分の作品は全く読まれないんだと怒ったり苛々する方です。  『読まれない』のではなく、そもそも『目に入ってない』というが現実です。じゃあどうすれば読まれるのか? という問いはご自分で調べてみてください。思わず読者の目が止まってしまう方法や、この人の作品をもっとみたいと思わせる方法がきっとあると思います。 2.【正直に感想を求めて良い』  よくアドバイス下さい! と言いながら投稿している方を見かけます。本当にアドバイスが欲しいなら構いませんが、「自分の作品なんかに感想なんて……アドバイスと言えばくれるかも」と考えている方は逆効果です。  アドバイスとは、その作品の改善点や、何が間違いで何が正しいのかを出すこと。感想とは全く違います。なのでたまに見かけるのですが、感想(アドバイスと言って)を求めていたはずなのに、ガチな評価されてメンタルやられてしまうという方です。  本当にアドバイス求めるなら多少の辛口くらい我慢してください。嫌なら正直に感想求めてください。  感想を求めることはなにも恥ずかしいことではなく、言えばちゃんとくれる人はいます。そこで辛口を言われたくないなら、優しい感想くださいでも良いんです。ガンガンクレクレしてください。 3.【コメントは来ない。それが当たり前だと思った方が良い】  前述の2とは関係なく、なにもせずに自分の作品にコメントが来るのは、読者は誰かに言われたからではなく、単純にコメントしたいからしているんですよね。  なので♡やフォローはしてくれるのに、どうしてコメントくれないんだと思うのは良く分かりますが、まずはそれだけで喜ぶ心を持ちましょう。  コメントは必ず来るものではない。「この前コメントくれたけど?」と言われてもだからなんだ。良かったですねとしか言いようが無く、ほんと運みたいな物なんですよね。  あの人にはコメントが良くくるのに、自分にはどうして来ないんだと思うのも良くありません。読者の目を留めることは出来ても、コメントが書かれやすい書き方なんて存在しないので。 4.【批評と誹謗中傷違い】  稀に批判を悪口だと受け止める方を見ます。批評は評価です。感想とはまた違って、採点とも言う。なので、アドバイスではなく評価してくださいと周りに申し出た場合は、覚悟してください。勝手に悪口だと指さされるのは不快でしか無いかと思います。  良い評価は本当にいい所ばかり拾い上げてくれることですが、批判は悪口ではなく、作品を全体的に見た上で、理解できなかったり、変だったり、悪い箇所を指摘することです。  決して侮辱している訳ではなく、貰ったら正直に受け止めて、どうすればいいかを評価した本人に聞いたり、自身で考えを改めるなりしましょう。ここで評価した人を間違えて非難したりすると、悪く言えば幼稚だと思われかねないので注意です。  しかし、誹謗中傷は違います。あからさまに作品を侮辱し、作者を馬鹿にし、下品な言葉遣いされたらそれは普通に悪口です。 なので例を出すなら。 A1『この作品は全体的に難解で説明不足が多くあり、これに続編があったとしても、この時点でこれでは、続きを読みたいとは思わない』 A2『なんだこのクソつまらん作品は。駄作にも程があるだろう。作者はもっと勉強しろ』 これは評価。 B1『この作品を読んでいると作者の馬鹿さ加減がよく分かる。これで評価しろとは読者を舐めているのか。こんなもの書き続けるなら、今すぐ小説書くのをやめた方がいい』 B2『これ書いた奴無能すぎるだろ。至るところに知ったかぶりの知識書いてあって、かっこいいとか思ってんのかな?言葉はちゃんと調べてから使うって、小学生からやり直した方がいいよ』 これは悪口です。 なんとなく違いはわかったでしょうか。悪口貰ったら無視か削除しましょう。突っかかる必要は全くありません。事が大きくなるだけで、傷つくのは作者だけなので。 ────────────────── 以上です。ここまて読んでいただきありがとうございました。最初も言った通り、参考程度にお願いします。

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分かりやすいお洒落で濃厚な戦闘描写の書き方

 みなさんこんにちは。影白です。今回は戦闘描写をさらに濃厚にする。言葉を使いまくる描写の分かりやすい方法を教えます。  先に言っておきますが、あくまでもこれは影白の自論です。参考程度にお願いします。 ──────────────────  まず、濃厚になる前に軽い戦闘描写に慣れる必要があるのですが、それについては前回解説済みなので割愛。  こちらは『戦闘描写掛けるけど、イマイチ表現の仕方が分からない!』という方へ書きますね。  それではその表現法についてですが、簡単に言うならとにかく関連のある言葉、類義語を調べてください。そしてそのイメージを何に例えられるかを考える。  例えば熱い炎をイメージ書くなら。自分の書いている小説からすこし引用します。 ー 焔の剣。そう唱えれば剣から激しい炎が吹き出し、揺らめく火は周囲を熱する。金属の刃は一瞬に溶け、もはや使い物にならなくなるが、それは眼前の敵を焼き尽くすには十分過ぎる程だ。 ー 「せえぇやああああっ!」 ー 燃え盛る炎の剣を、喉が張り裂けんばかりに叫びながら振り抜けば、赤く鈍く輝く一閃。無数の火の粉が前方にばら撒かれ、たちまち灼熱の障壁が出来上がる。  それは業火とも呼べる物で、不用意に近づくものは容赦なく消し炭される。骨も残さぬ威力はあまりにも残酷で同時に虚しかった ー ────────────────── こんな感じでしょうか。とにかく熱そう。どれだけ激しいのかを意識して書いてみました。 文章を分解してみましょう。 これを簡単に説明すると、振り抜いた炎の剣が火の壁を作って、次々と敵を焼き尽くす様を書きました。 ○『揺らめく火』 火は風を受けると揺れます。蝋燭の火やコンロの火では分かりにくいと思いますが、大体建物の火事の火って揺れてますよね。 これの場合は常に激しく吹き出しているので、このように書いていますが、静かにしたいなら『静』に関連する言葉を付けてやればなんとかなるかと思います。 ○『金属の刃は一瞬にして溶け』 どんなに熱くてもマグマに投げ入れても、金属が物によりますが、鉄でも一瞬で溶けることはありません。せめて数秒の時間は必要かと。 描写に非現実的な現象をつければその威力が伝わるかと思います。 ○『赤く鈍く輝く一閃』 そもそも一閃とは、瞬間的な光やぴかっと一瞬だけ光ることを言います。 なのでここでは、剣を振り抜いた衝撃波みたいな物が、赤く暗めな光となって瞬く様子が見てとれるかと。 ○『たちまち灼熱の障壁、それは業火とも呼ぶ』 火。と言うだけで意外と多くの表現があります。それぞれ多少なり意味は違うのですが。 業火とは仏教における地獄の炎ことで、罪人を苦しめて焼く意味があります。 また永遠に燃え続ける炎なら劫火という書き方もあったりします。 とまぁこのように分解して説明しましたが。お洒落な描写とは、普通にその描写を伝える表現法の延長線上にあるものだと考えれば簡単かと。 より広く、深く、言葉を関連つけて。状況によっては全く逆の言葉を付けてみるのも良いかもしれません。 ここまで書きましたが、あくまでも参考にどうぞ。お洒落な描写を極めようとすると、どうしても難読漢字が使われがちです。読者に読みにくい。なんて書いてあるのかわからないと思われては本末転倒ですので、読みやすく分かりやすいを基本は徹した方がいいと思います。

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