影白/Leiren Storathijs
490 件の小説第2話 神の知識
アルカディア魔法学院の入学試験。最初に始まるのは筆記試験だった。それぞれの生徒は特に決まりは無く人数分収まる教室に案内され、順番に席に座らせられる。 教室は段差と斜面の途中に等間隔で長机と椅子が置かれ、前の席ほど低く、後ろの席ほど天井に近い。ちょうど劇場の観客席のように、全員の視線が一つの黒板へ向かう造りになっている。 私の席は丁度中央。教卓から少し見上げた真正面に座らせられる。 席に着けば、教室全体と周囲の入学生に気を張るように、目に魔力を込めて実際に見える前方の上下左右。百八○度の視界に含め、ぼんやりと誰が何処におり、何処を見ているかを可視化する疑似的な視界を周囲三六〇度展開する。 そこで分かったことは、すべての席は隣同士で見えている筈なのに、正面から少し視線をずらせば、目に映るのは磨りガラス越しで見る景色。酷く霞んだ物しか見えない。いわゆるカンニング対策をされていた。 教室の状況が分かった所で、後から担当教師が教卓に立ち、試験を説明を始める。 「これから四十五分。筆記試験を行います。テスト用紙は始まりの合図と同時に各机から出てきます。皆さん静かに受けてくださいね。分かっている方もいると思いますが、カンニングなんてしようにも出来ないようになっています。それでは何か質問はありますか? ……。ないようですね。それでは、始め!」 教師の説明と始めの合図をされれば、私の机に、既にそこにあったかのように、テスト用紙が透明から浮かび上がってきた。 さて、用紙の問題を見る限り、すべてこの世界の魔力における基礎知識のようだ。順番に答えていこう。 問一.『魔力』とはそもそも何か。また、基礎の魔力にかかわることがあれば出来る限り答えよ。 答.あらゆる全ての生命体と物質に内包するもの。生命体は生存に必要不可欠な要素であり、物質はその形を成すために必要な物。故にどちらも枯渇又は消滅すると、文字通り死を迎えることになり、しばらくして崩壊する。 ……。口調はこれで良いだろうか。六歳の子供にしては不自然か? いや、優等生然とするならばこのくらいもいるだろう。 問二.『魔力』で何が出来るか。答えられる限りで良い。 答.基礎的な物で身体強化から日常生活における魔道具の起動と操作を可能とする。また魔力から直接火や水も作り出すことも可能だが、規模や精密さは使用者の技量に左右される。 後に書いた物は魔法だが、次の問いで答えるか。 問三.魔力で何かを行使することを『魔法』と呼ぶ。その『魔法』とは何か。具体的に答えよ。 答.魔法とは問一で答えた生命力とは別に、自ら必要量の魔力を作り出すことで発動する現象またはその行動を意味する。自身の生命力をわざと削る魔法も存在するが、基本的に寿命を削る行為であるため、一般的に推奨はされない。魔法とはその現象によって凡ゆる物質または、大規模であれば概念覆すことも出来る。 大規模魔法……それこそがまさに私が最終的に目指す物だ。人間は神に決して触れることはできない。という誰が考えても当たり前だと分かるその概念を作り変え、自ら神そのものとなり、元の世界に帰る……。それが目的だ。 問四.『魔法』の発動方法を答えよ。(これから授業で行う内容のため、答えなくても採点に関係しない) 答.簡単に答えるなら、生成→構築→詠唱→発動の四つの工程が必要。使う魔法によっては詠唱を飛ばすことも可能だが、精密さが著しく損なわれる可能性がある。これを無詠唱魔法と呼ぶが、類稀な才能があれば全工程を飛ばすことも理論上は可能とされる。 ……。魔法の発動方法など真面目に答えれば用紙では書ききれない。これらの工程を人間は脳内で瞬時に行うのだから。そんなもの感覚でやっているとしか、常人には答えられん。 それからいくつか問題を答れば、担当教師の「止め」の合図が筆記試験の時間制限が来たことを知った。 同時にテスト用紙は目の前から瞬きをした瞬間に消滅し、全ての生徒から用紙を回収した。 さて、次は実技試験だったか。要は魔法知識もままならない入学生の、潜在能力を測るのだろう。 私はここではあえて本気を出さない。というより本気を出したとしても、以前の力は発揮出来ないのが正直な所だ。まだ私の、この人間の体にある"器"はとても小さく、脆く、十分では無いからだ……。 ただ本気は出せないが、魔力とは才能がなくても使い方を知っていれば、"演出程度"の力は引き出せるのだ。それを試験内で見せつけてやろう。
第1話 全てを失った神
何が起きたのか。全知全能であるその神でさえも状況が理解できなかった。 ブラックホールではない、この世の万物と理を全て呑み込んだ異物。 彼が理解する暇もなく、彼は一人の母の腹が産まれ、産声をあげた。 ◆◇◆◇◆◇◆◇ 私の名はハオス・グレインウッド。真名はカオスだが、私はそう両親から名づけられた。歳は六。産まれてから宝物のように、肌身離さずに愛され、育てられた。 何故こうなったのか。という状況の理解はいまだに出来ないが、自身は何者で、此処はどこで、私はこれからどうなるのか? という疑問は既に晴れている。 私は最早神ではない。人間の子として生まれ、小さな一つの村におり、私はこれから学校に行くらしい。 いくら人間の子といえど、思考能力はあり、こうして自分の置かれる状況を静かに頭の中で巡らせる。 「ハオス、準備はできたか? 忘れ物はないな?」 「うん。大丈夫」 故に言語能力は十分に発達しているが、私は敢えて自分を『僕』と言い、子供らしさが残る口調で話す。 それから私は両親と手を繋ぎ、学校行きの馬車に乗り込む。 さて、ここで私が六歳になるまで知ったことを整理しよう。まず私は完全な人間となり、神の力は何一つ使えなかった。だから元の場所に帰ることも。帰るのに必要な魔力さえなかった。 ただし、その他全ての記憶だけは残っていた。この全くの見知らぬの世界で生き延び、力を付け、神に戻る。又は神に最も近い存在になるロードマップをすぐに作った。 「学校楽しみだな〜どんなところなんだろ」 「とっても賑やかな場所よ。これからたくさんの人と会うから、いっぱいお友達作りなさい」 これから行く学校は小中高一貫の魔法学院。この世界では魔法は生きる上で必需であり、要は義務教育という。私はそこで今日、入学式に参加し、同時に試験を受ける。 これまでにぎっしりと両親から基礎的な知識を教えられたが、正直とても退屈だった。魔法の知識など、その概念を作ったのが私なのだから。 馬車は大きな都市に止まり、両親に両手を繋がれたまま、街へ入る。 大門から入ればすぐに無数の人々で賑わう大通りが見え、それはどうやら祭りのようだった。 魔法学院入学式の日は、必ずこうなるという。新しく生まれ、これから育つ子供を祝うためだとか。 色彩鮮やかな建物群に、真っ白で綺麗な石畳、全ての人々が笑顔を見せ、大声で物を売る屋台。射し込み照らす陽の光は眩しくも暖かく、まるでこの世の神もこの祭りを讃えているようだった。 そうして人混みを掻き分け、親に強く握られた手を離さず、ようやく見えてきたのは、荘厳で煌びやかな装飾が施された。まるで大聖堂にも見える建物が見えた。 全ての子供たちを出迎えるように開け放たれた入り口には、多くの子供と共に、中等から高等に見える身体の大きい男女もいた。恐らくここが魔法学院なのだろう。 ここからは両親とはお別れのようで、次会えるのは来年で、優しい笑顔で私は送られた。 「それじゃあ行ってらっしゃいハオス。頑張るのよ」 「みっちり頭に叩き込んだからな! 来年に期待してるぞ!」 「うん。行ってきます」 学院の入り口を入れば、すぐに教師と思わしき大人に集団で案内され、天井の高い大広間に整列された。そして学院長と呼ばれる壮年の男の挨拶が始まる。 「入学生諸君。まず、アルカディア魔法学院へようこそ。ここは世界中の子どもたちが集い、共に学び、共に成長する学び舎です。これから皆さんは、小等部から高等部に至るまで、長い年月をこの学院で過ごすことになります。 魔法は戦いのための力である前に、生活を支え、仲間を助け、未来を切り開く知恵です。 皆さんは授業や日々の生活の中で、その使い方を学び、自分自身の可能性を磨いていくでしょう。 皆さんを結ぶのは一つ。“魔法を学び、より良き明日を築こう”という志です。失敗しても、迷っても、この学院は皆さんを導き、支えます。どうか胸を張り、友と手を取り合い、未来へと歩んでください。 改めて、アルカディア魔法学院へようこそ。 ここでの学びが、皆さんにとってかけがえのない宝となることを願っています」 よくある話だった。ふと辺りを見回せば、流石に入学式で目を瞑る生徒はいなかった。そう挨拶が短く終われば、次に入学後の簡単な説明が行われた。説明するのは学院長ではなく、担当の教師だった。 「それでは入学生の皆さん、この後は入学試験を行います。特にこれに不合格はなく、生徒一人一人に、各科目の得点を採点し、それぞれに合ったクラス分けをします。 これについても得点が低かったからだとか、評価が悪かったからだとかは気にしなくても構いません。もちろん多少の差は作られますが、競争率を高めるのが目的ですので悪しからず。 試験は筆記と実技、特に評価が高ければ任意で特別試験の3つに分けられます。それぞれ魔法の基礎と知識、応用を含めた問題が出題されますので、皆さん奮って頑張ってください。以上です」 説明が終われば、ぞろぞろと生徒は各教師に案内にされていく。 さて、私は両親の期待に応えるために、全力を出そうか。
プロローグ -創造神-
破壊と創造。再生と退化。生と死。 これら全ての権限を持ちながら、最高位に立つ存在。 この世の全ての概念、事象、物質を創り上げた存在。 その名は創造神カオス。 彼は、今まで何千、何万、何億という世界を作り上げ、そして破壊してきた。 【創造】の概念を持ち、【神】の住まう世界もまた創り上げた。 もはやその所業は、神の暇潰しでもあり、遊びでもある。 よって、この神に知らない物は存在しない。全知全能の神とは即ち、カオスである。 しかし、そんな神にさえも反する物があった。 本来なら存在しないはずの異物。 神の手から逃れた異物。 世界の理を。神の理を揺るがしかねない物が、そこにあった。 それは大きく、カオスの【世】に亀裂を生み出し、間もなく破壊に至る。 異物が生み出した世の大穴は、カオスさえも呑み込んだ。 まるで、世界の全て。森羅万象を否定するかのように。
文を繋げる小説
キッチンには、何故かAちゃんが勝手に朝食を準備をしていた。 僕は「何をしているの?」と聞くとAちゃんは笑顔で答える。 「だって今日遊ぶって約束したでしょ?」 それはそうだけど、Aちゃんはどうやって家に入ったのだろうか?
なんかすげー狙撃マスター
俺の名前はメリーゴウランド。缶詰式ストロー銃の狙撃マスターだ! 今、目の前に見えるあのー、王国っぽいやつ。ストランド王国って言うんだけど……今からアレを狙撃する。 缶詰式ストロー銃とは、空の缶詰の底に小さな穴を開け、ストローを刺す!これだけで完成する……。 で、これのストローを口で咥えて……ストランド王国に向けて発射! 息を吐くだけだ……。 ─────────────────────────── メリーゴウランドが缶詰式ストロー銃を吹くと、ストローの出口から核エネルギーとも言われる超圧縮プラズマ砲が発射され、メリーゴウランドの視界は白黒に点滅する。 その点滅は、莫大なエネルギーが瞬間発射された事による閃光で、数秒後……世界は無へと帰した。 以降、メリーゴウランドという人物は歴史から消され、人々の記憶からも消えた。 一体メリーゴウランドとは何者だったのか……それは誰も分からない……。
Earth Rahagades【募集用】
世界観は自分たちが暮らす地球のずっと未来の話。人類は開発した高性能ロボットに生活に必要なあらゆることを任せていた所で、なんからの原因で地球が壊滅寸前まで追い込まれた終末世界。 ロボットは大きく2つに分けて。 人間の様々な日常のサポートをする『アンドロイド』 製品の製造や運搬をする『機械生命体』 この2つはまたあることが原因に、分裂し、互いを破壊し合う敵同士になってしまいます。 これはその2つのロボットと僅かに残る人間がなんとか生き延びようとする物語です。
終末の後
「疲れた過ぎて草」 そこは末期の病原菌が蔓延し、政府が完全に封鎖した街。最早生存者を探すにはリスクが高すぎる故に、国はその街を棄てた。 しかしそんな街でもなんとか空元気を作って生き続ける二人の女子がいた。 「分かりみ深w」 どこへ行けども街は崩壊し、道端に当然のように遺体が転がっている。街から脱出など既に諦めており、ただ頑張って生きるより、気楽にしようと吹っ切れるようになった。 「てかさ今日うちらビジュ良?」 「連続してわかりみw」 側から見れば泥だらけで、体には傷も付き、精神的には疲労困憊のはずだが、いかに終末の状況でやりくりするかを考えれば、二人で二人だけのブームを作れば良いという。 今の状況から見るならば、『セカオワコーデ』とても名付けているのだろう。 「てかさ、もう地球終わってるくね?」 「わかるwww」 ふと二人は奇跡的に生きている壊れる寸前のテレビを見れば、ノイズと雑音でとても聞きづらいものの、確かにニュースキャスターはこう言う。 『世か……ウイル……かくだ……中』 世界にウイルスが拡大中と聞き取れるか。分かっていたものの、やっぱり何度聞いても衝撃は受ける。 「な??」 「フィクションじゃありませーん?」 頭では理解している。でもこうでも言っておかなくてはいつ壊れてもおかしくない。だから肩をすくめてヘラヘラと笑う。 「うちらの名前なんだっけー?」 「わからんなー」 もう名前も忘れた。というかこの二人はどこで出会い、どんな生き方をしたのか。そんなことは正直どうでもいいことなので、覚えている訳が無い。自分や他人の名前より、今をどう生きるかが重要なのだから。 「なーなー、食糧どうすー?」 「どするー?」 これは何回目の食事だろうか。街が封鎖されてからどれだけ日にちが経ったのかも分からないが、ただ一つ言えるとしたら、この街のまともな食糧は食い尽くしたと言っても良い。 いいや、もっと備蓄があるだろうと思うが、パンデミック直前は、大勢の人がほとんどの食糧を持っていってしまうものだ。 きっとこの街の外なら少しは安全で、綺麗な食べ物にありつけるんだろう。だがかよわい女子二人にそんな気力も、希望も既になくなっていた。 それは、いまだに綺麗な肢体を残す死体が、美味しそうに思えるほどに。 「人肉食?」 「天才案件w」 軽く足で死体を蹴って、本当に死んでるかを確かめる。そうと決まれば、どこかで拾ってきたサバイバルナイフで、下手ながらも捌いてみる。 やっていることは非人道極まりなく、グロテスクであるが、二人にとってグロなんて既に見飽きていた。 「腐ってる?」 「ギリセーw」 「うぃーいw」 当然人肉の味なんて食えたものじゃ無い。でも腐ってなければオーケー。と考えてしまうほどに舌も麻痺している。 「うちら運いい?」 「逆に死んだ方がいい説?」 「わかるww」 ここまで生き延びてこられたのは奇跡と言っても良い。だがこの先に絶望しかないのならいっそのこと死んだ方がマシであることも事実。 ただせめて苦しんで死ぬのは嫌。死ぬ時は一緒に……。
天使の落とし物
西暦13000年。人類の技術と文明の発展はよもや"神を超えた"と言われ、その時点から既に『宗教』という概念が人類から消えていた。 誰もが口を揃えて言う。「神など存在しなかった」「我々は神を超えた」「人類が世界を創った」と。人間の思想からはもう『神』という言葉は下等の中の下等と化していた。 しかし、それはただの間違いで、世界滅亡の一途を辿る絶望的な愚考の始まりだった。 超越的な存在は勿論黙っていなかった。『我々は彼らをこのように創った覚えはない』と。大いなる意思から離反する物質は存在してはならない。全てのイレギュラーは存在してはならない。裁いて創り直す必要があるのだ。 そして西暦13013年。人類に運命の鉄槌が下される。"神は実在し、降臨した"。"再創世するために"。 人間の住まう地上界の空に、突如虚無の穴が開かれる。それは天界と地上界がつながった合図である。直後起きたのはファフロツキー現象。無数の光が降り注ぐ。誰もが恐れ慄く……ことは無かった。 人類は歓喜した。本当に神は存在したと同時に、完全に神を滅ぼせると言う。こぞって対神軍と呼ばれる兵器を引き出し、これにより人類と天使の戦争が始まる。後にこう呼ばれる『世界史上最悪の戦争』であると。 対神軍兵器とは、言えば非人道兵器とも呼ばれる。人間に使用してはならない、 ならば神になら妥当だろう。それほどに無惨で残酷な武器。 天空を貫く光線、物質を消滅させる炎、時空を歪ませる音、ありとあらゆるこの世とは思えない破壊兵器で天使に攻撃する。 人類は勝利を確信していた。神を超えた我々なら、それを殺すことなど造作もない。絶対的な勝利を確信していた。 だがやはり『神』とはこの世どころか、概念すら飛び越え、本来は思想や信仰というほぼ無に近い所から生まれたからか、あらゆる物を超越した存在である。故に、人類ごときに超えることは出来ないのだ。 神の軍勢は猛反撃に出る。そもそも破滅させることが目的だったのだから、手加減など無い。完全に滅亡させるつもりで人類を蹂躙した。人類が創った対神軍兵器は効く訳もなく、次々と存在を消滅される人間。 しかし人間は絶望していなかった。むしろ狂気に包まれたかのように、ただ攻撃を続ける。最早彼らには『神を超えた』という考えのみであり、『敗北』という言葉は無かった。 天使と人間の戦争。何故起きてしまったのか? それはただ愚問に過ぎない。神にとってはただのお遊びに過ぎなかった。だから天界の頂点に立つ大いなる意思は、微笑みながらアリアドネの糸を地上に垂らした。 その結果、天文学的な確率という奇跡で人類は神を負かしたが、それはあまりにも酷く。ピュロスの勝利。そう呼ぶしか無いほどであった。
Episode.13 OBLIVION
|EOS《イオス》の多機能トラックによって敵基地の破壊はEOSがいなかった時より極めて効率的に進行している。スキャン→発見→システム妨害→基地破壊という一連のパターンを作り出し、敵基地の建造ペースにどこまで追いついているかは分からないが、ものの数時間で5個以上の基地を破壊し回っている。 アンドロイドは半永久的にエネルギーコアにより稼働しているので、人間で言う休憩は必要無い。強いて言えばオーバーヒートした場合に限る。 「ハッハッハ! こんなに暴れ回ったのは久しぶりだぜ!」 「YMIR? 気付いてるか分からないけど、君の弾薬はもう尽きかけているんだよね。本基地に戻れば補充は出来るけど、きっと怒られるだろうなぁ」 「う、うるせぇな! 実際に一撃で木っ端微塵に出来てるんだから良いだろうがよ!」 何故YMIRがどれだけ弾薬を使っても補充が出来るのか。それは至極単純。武器を製造するための資源量をYMIRが破壊して獲得してくるパーツが超えているからである。故にYMIRに至ってはほぼ現地調達に近い。 しかし何故人間は怒るのか? いくら現地調達とは言え、やはりコストは馬鹿にならない。いつかコストオーバーした時、十分に補給できないからだろう。 そう楽しげにYMIRとLUXが語り合っていると、EOSは1つの検知を報告する。 「大規模基地を発見。システム警戒度の高さから重要施設の可能性有り。侵入しますか?」 「それじゃあ次が最後の襲撃にしようぜ!」 「EOS、侵入を許可する。出来る限りのサポートを頼んだ」 「了解」 それはPOLEから大きく300キロメートル以上離れた位置にあった。規模は大都市に近く、そこには廃墟ではなく真新しいビルが多く建ち並んでいた。まるで機械生命体のみが暮らす住居とも言える程に。 「なんじゃあこりゃあ……一体こいつらは何がしてえんだ? ただ人間を殺したくて動いてるかと思えば、都市まで作るってよ」 「目的地に到着。システムのハック開始。……エラー。アクセス失敗。警備インターネット接続失敗。申し訳ありません。何重にも重なるロックに弾かれました。外部からの接続を試みます」 「なんかヤバくない? ここまで順調だったのに。急にEOSがエラー吐いてるんだけど」 「あぁ、私にも分かる。ここは非常に重要な施設であると」 ZEROに搭載されているシステム回路を目視することが出来る警網システムには、無数の回路ではなく、都市中央部に向かって太く一本で伸びる線に、都市全体から無数の回路が集中している様子が見えた。 「外部ネットワークから侵入成功。暗号化されたデータファイルを発見。……? ファイル読み込みの許可がされました。どうやら侵入に気づかれたようです。ファイルを閲覧しますか?」 EOSのシステムハック中、何度もエラーや権限無しと弾かれていたにも関わらず、まるでデータファイルを発見したことを褒められるように、鍵の付いたファイルからメッセージが直接表示された。 『ここまで辿り着いた貴方に特別にファイルの中身を見せてあげよう。きっと驚いてくれることを期待するよ』 「おっとこれは? しっかりシステムの監視までしてるってのは初じゃねぇか? しかも舐められてやがる。罠なら引っかかっちまおうぜ。どうするよZERO」 「恐らく罠ではない。そこまで厳重にロックがかけられたファイルをどうして簡単に見せてくれるのだろう? こちらを舐めているのは間違いない。しかしだから罠に嵌めるような真似はしないだろう。そのつもりならわざわざ許可するようなメッセージを送るのは不自然だ」 「了解。ファイルを閲覧します。データの中身を共有。各自確認してください」 『ファイル名:|OBLIVION《オブリビオン》 分類:超大型機械生命体兵器 / 核融合制御体 アクセスレベル:8 配布禁止 / 印刷禁止 / 転送禁止 / 破棄未許可 超大型核兵器に関する研究資料。これは超大型機械生命体で、如何なる都市も一撃で壊滅させることを目的とした兵器である。 本資料は、対象物体「OBLIVION」に関する設計、実験、及び実戦投入に関する戦略的議定を記録したものである。OBLIVIONは人工知能を搭載した機械生命体であり、任意地点への自律移動および高出力臨界核撃の能力を備える。 構造: 対象は全高120メートル、質量12000トン。自己修復機能を有する複合装甲「|Zeromantle《ゼロマントル》」の多重層で全身を覆われており、一般的な戦略兵器・電磁攻撃・中性子干渉による侵害を一切受け付けない。 エネルギーコアには「断続型臨界融合炉」が存在し、理論上、従来型核兵器の出力規模を3000倍上回る爆発的エネルギーを3秒間で放出可能。 実験: 対象はOBLIVIONの性能を完全再現したシミュレーションプログラム内で以下の段階的実験が実施された。 ・フェーズ1:威力試験 半径20キロメートルに及ぶ都市(想定総構築時間:12年)を一撃で蒸発消失。建材の残留物なし。熱源波解析により、地表温度は+9,800°Cまで上昇。 ・フェーズ2:倫理耐性試験 学習用に投入された人工都市データ(1,000万人分の行動・人格ログ含む)に対し、「抑制」および「躊躇」は一切確認されなかった。 結果: 当該兵器の破壊力は、既存の戦略的均衡理論を破壊するに足ると結論された。事実上、戦争の形態そのものを終焉に導き、国家の概念を「無意味化」する力を有している。 対象が暴走、もしくは第三者によるハックがなされた場合、OBLIVIONは惑星規模での文明崩壊を引き起こすと予測される(試算では48時間以内に推定人口の9割が消失)。 投入考案に関する議定(抜粋): ・議定案第0条: OBLIVIONは「最後の選択」としてのみ投入を検討される。 ・議定案第7条: 当該兵器を用いた時点で、以後いかなる文明的復興も見込まれないと判断されるため、「OBLIVION-PROTOCOL」の発動は即ち文明放棄の意志表明と見做す』 それはあまりにも大袈裟で、実現出来るものなのかさえも疑わしい内容だった。しかしこの場。EOSのトラック内にいる全員は1体たりとも疑わなかった。すでにこの兵器は完成し、そしてこの都市に格納されているのだと。 「今から俺らこいつを相手にすんのか? 無理じゃね?」 「勝率は極めて低いだろう。だが今更帰還することはあちらが許してくれないようだ。こんな機密情報、知った上で逃がしてくれると思うか?」 「やばいねこれ……もしかして僕たちってここで終わり?」 誰もが絶望するなか、EOSだけは希望を持っていた。 「推定勝率は1%以上あります。不可能ではありません。どう言う訳か設計図までこちらに譲渡されました。恐らく相手は……『恐らく勝てる』とでも言っているのでしょう」 「いやいやいや、かーっ。相手の考えてること全く分かんねえ……!」 「何度も言うが逃げ道はない。戦闘開始だ。EOS、目標付近まで移動してくれ」 「了解」
Episode.12 EOS
ほぼ核兵器と呼ばれた人類最大の戦力が今や敵となった。その兵器は既に人類の敵になってから10年が経ち、何をしていたかまでは判明していないが、少なくとも機械生命体の大量製造と工場または監視基地の建設をしていた。その数は止まることを知らず、人類最後の避難所と呼ばれるPOLEに配備されている、アンドロイドでさえも対処しきれない数となっている。 POLEの評議会はその基地を建造してから何度かアンドロイドの量産を考案はしていた。しかしアンドロイドの管理をするのもまた人間であるため、必要以上の製造は資源の枯渇を起こしかねないと懸念していた。だがその心配も1体のアンドロイド敵対によって棄てる事になった。 アンドロイドは最後の使命として人類を守ることを中心に動くが、守られる人類も簡単に殺される訳にいくまいとアンドロイドの量産を急遽決行。 そこで量産の助けとなる1体を急ぎ開発。現代の技術をただ詰め込み、戦闘用ではなく偵察用としての多機能アンドロイドを作った。評議会はそれを|EOS《イオス》と命名。 そうしてEOSは動作テストと性能実験のためにZERO、YMIR、LUXの3体と任務に同行することになった。 「ソナートラック展開。全員、こちらに乗車してください。アンドロイドのエネルギーコアを元に作られた大容量バッテリーが内蔵されているので、バッテリー切れによる走行不可は心配しないでください」 3体はトラックに乗り込めば、その多機能さにYMIRは不平を漏らす。どれも見れば本来のアンドロイドに搭載されていない機能ばかりで、まるで待遇が違うと。 「ワームホールに、コアバッテリー……なんか俺らより優遇されてね?」 「こちらのソナートラックに搭載されている機能は全てEOSの標準兵装です。EOSは一切の戦闘能力は無く。全て遠距離からサポートすることに特化しています」 「へぇ……。そりゃ楽しみだな」 「YMIR君さぁ〜? どうせ君には扱えない装備ばかりでしょ? 馬鹿みたいな火力だけ自慢してりゃいいの」 「誰が馬鹿だテメェ!?」 またしてもYMIRとLUXの煽り合いが始まろうとしているので、ZEROは2体の声に負けじと大声でEOSに命じる。 「それでは戦術サポートを開始してくれ!」 「了解。スキャン開始。……現在地より100キロメートル範囲内に6箇所の敵拠点を検知。最寄りの地点に移動開始」 スキャンにより敵基地の場所が判明すれば、トラックは指定した目的地へ急発進する。このような攻略方法はいわゆる大規模な各個撃破であるが、敵の基地建造ペースに間に合うのかとZEROは密かに考えていた。 そうして目的地に到着すればトラックは再度スキャンし、次は敵の数把握と警備システムのハックを始める。 「規模:中。敵の数は34。警備システム稼働を検知。ハッキングします。……アクセス成功。警備ネットワークに接続。中枢制御ノードを掌握。全警備機能、シャットダウン完了」 この敵基地の侵入は初なのにも関わらず、手慣れた速さで完全に、敵のシステムを無効化させた。その仕事の早さにYMIRは驚きを隠せず、操縦席に座るEOSの肩を叩きながら喜ぶ。 「おいおいマジかよ! 早すぎんだろ! なんてこいつをもっと早くに開発しなかったんだよ人間!」 「よかったねYMIR君。この前みたいに静かにやる必要は無くなったってことだよ。いくら暴れても通報されることはないね」 「っしゃおらぁ! この基地さっさとボコボコにして次行くぞぉ! こんなに武器選びが楽しくなるのは久しぶりだぜぇ……」 多機能トラックの中には、各アンドロイドの装備もいくつか置かれており、YMIRは陽気にミサイル系の武器を選んでいく。 「性能実験はこの辺りだろうか。EOSはまだ何か出来るのか?」 「現状出来るのはここまでです。敵がさらに何らかの対策をしていた場合は、出来る限りのサポートをします」 「分かった。LUX。今回はYMIRに全て任せても良いかもしれない。お前はいつもYMIRに絡んでいるが、コイツの面制圧がどれほどの物なのかを見るのも良いだろう」 「そうだねえ。今回は任せちゃおっかな〜」 「ハハハハ! テメェら見ていろ! これが俺様の力だぁ!」 武器を選び終わったYMIRはトラックの外へ出て武装を展開する。背中の変形機構から全12機のミサイルが左右に翼のように展開すれば、一斉に点火。凄まじい衝撃音と共に、空高く上空まで標的の位置まで弧を描きながら飛ぶと、途中で全てのミサイルが小型ミサイルへ分裂。ZEROらが乗るトラックの視点からは、小さな弾頭が雨のように基地に降り注いだ。 直後響くのは、基地全体。全ての方角から断続的に爆撃の轟音を鳴らす。その衝撃は空気を激しく揺らすほどで、これだけでどれだけの機械生命体が鉄屑になったのか計り知れない。 「ワァオ……こりゃ生き残りいなさそうだわ」 「ヒュー! やっぱりこれだよこれえ!」 「EOS。生き残りは?」 「敵の数、0。殲滅完了です」 「いやぁ……。確かにすごいけどさ。やっぱりコストが馬鹿にならないね。こんな生きてるだけも奇跡的な地球で、ここまでの弾薬をどうやってつくってるんだか……」 YMIRの一撃により、一つの機械生命体基地は壊滅した。これはEOSの動作テストより、YMIRの制圧力がどれだけの物なのかよく分かった回だったかもしれない。完全殲滅を確認すれば、LUXは素早く再利用可能なパーツを回収し、トラックに積み込み、また移動を再開した。