エーテル (短編・SS)

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エーテル (短編・SS)

SF・別世界などちょっと独特な感じのショートショートをメインで書きます。 (全然別ジャンルも書くかも) いいね・コメント・フォロー気軽にしてください

何も考えずに書いた話

 ここには昔病院があったらしい。私は見たことがないが母はそう言っていた。なぜなくなってしまったのだろうか。家庭で受けられるサービスの増加や健康寿命を過ぎると安楽死をするのが一般的になったことが原因なのかもしれない。もしや昔は健康でなくても安楽死の補助金が出なかったのだろうか。そう考えると今は便利な時代だ。人間らしい生き方をすることができる。今の人間は動物ではないのだ。

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別世界 薬はやめられないらしい

 私は道端のちょっとした段差に座り、通りゆく人をぼんやりと眺める。いつからこうなってしまったのだろうか。人々の手には薄緑の液体が入ったライターのようなものが。今この空間にいる私以外のみんながそれを持っている。ボタンを押すとミスト状になった液体が出てくるらしいが使ったことはない。  私は健全だ。あんなよく分からない薬なんか使って、頭がおかしいのだろうか。そのライターを持った人々は、時々それを口に近づけボタンを押す。そしてひたすら歩く。何をそんなに急いでいるのか。何者かに追われる幻覚でも見ているのだろうか。  そう考えていると私の体には徐々に力が入らなくなっていく。薬がないと生きていけないなんてバカげている。私はあんなもの使わなくても……  私の全身の力は抜け、その場に横たわる。しばらくしてゴミ収集車が来る。その車の荷台には私と同じような人が何人も重ねられている。

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存在とは

夜でも太陽は存在する 昼でも月は存在する 見えなくても星は存在する 見えなくても神は存在する そこになくても魂は存在する そこになくても物は存在する そこにいなくても人は存在する そこにいなくても自分は存在する

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別世界 今日は外の日です

 私は薄汚れた制服を着て電車へ乗る。周りの人も同じ制服を着ているが私のものはまだ色が鮮やかだ。国が国民健康政策を出してからというもの、成人は週に一日だけ野外労働をすることが義務付けられている。これには反対意見も多くこんなことを言っては同僚に恨まれるかもしれないが、正直私はこの政策に助けられている。というのも週に一度バリバリの肉体労働をしているにも関わらず私は少々肥満体型にあるからだ。この政策がない世界線を考えるとどれだけ恐ろしいことか……  そう考えているうちに電車は停止し、この車両の扉だけが開く。以前は全ての車両の扉が開いていたらしいが、汗と工場臭の混じった匂いに苦情が入り、通常車両とは完全にシャットアウトされた野外労働者専用車両ができたそうだ。だがそのせいで野外労働の日に間違って別の車両へ乗ってしまった時には、周りの視線に耐えながら一度現場を乗り過ごさなければならなくなった。  私は見知らぬ同僚と同時にホームを踏む。今日は珍しく雨が降っていない。同僚達の顔はみな下を向いている。太陽が眩しいのだろうか。私は雑に並んだ列の先頭に立ち前へ突き進む。

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このゲームの木は自然には生えない

 車から降りてあたりを見まわした私は尋ねる。 「どうしてここ一体は木がないの?」 すぐあとに車を降りたレオがドアを閉めるのと同時に答える。 「昔、ここで闘争があったんだ。とても大きな闘争。戦争って言った方が正しいかな」  私がこのゲームを始めたのは二週間ほど前だ。最初はキーボードとマウスでキャラクターを操作することにも慣れず、ひたすら何もないところを歩き回ってはデスしていた。食料の食べ方も地図の見方も何もかも分からなかった。しかし偶然出会ったレオは初心者の私を見て操作の仕方やお金の稼ぎ方までたくさんのことを教えてくれた。どうやら最近は強くなりすぎた既存プレイヤーに負けて初心者はすぐに辞めてしまうらしく、せっかくこのゲームを始めた私に辞めてほしくなかったらしい。 「木は武器を作るために切り倒されてしまったの?」 「いいや、この辺の木は全部敵の侵攻を妨げるために火をつけられたんだ」 徐々に雲が空を侵食していく。 「また生えてこないの?」 「このゲームでは自然に木が生えてくることはないんだよ。苗を育てて植えると一応は再生できるけどね」 「結構長い時間がかかるの?」 「もちろん。ただ課金プレイヤーならかなり時間を短縮できる」 「レオは課金しないの?」 「昔はしてたよ。でもあの戦争以降はね……」 レオのキャラクターが少しうつむいた気がした。降り始めた雨粒が二人のキャラクターを透過する。私たちが車に戻るとしばらくの間沈黙が流れた。触れてはいけないことなのかもしれないが戦争のことが気になり思い切って尋ねてみる。 「その、戦争って……」 「……」 レオは黙り込む。 「ごめん、聞いちゃいけないことだった?」 「いや、いいんだ。過去に起こったことは消せない。話すよ」 レオはアクセルを踏みながら話し始めた。 「昔戦争があったってさっき言っただろう」 「クラン同士の?」 「そんなものじゃない。もっと大きくて、残酷だった」 少し強張った顔で続ける。 「クランついては前話したのを覚えてる?」 「ゲーム内で協力し合うチームのようなものよね」 「そう、そしてそのクランをさらに何十個と集めたのが国と呼ばれてる」 「一つの国は百人くらい?」 「もっとだ。昔あった大きな国だと千人以上はいた。しかしよく考えて欲しい。どうしてクラン同士が手を組み合って国になるのか」 「……力を合わせて敵から身を守るため?」 私が話し終えるのと同時にレオは口を開く。 「そして敵の領地へと攻め入るため……」  レオが言うには数年ほど前、国は十数個もあったらしい。この最盛期には初心者が集まった国や初心者を支援する国もあったらしい。だがもちろん、中には敵意のないクランや国を執拗に攻撃し、領地や資源を奪い取る国もあった。そして敵対する国が勢力を上げると、またそれに対抗するように人数を増やし攻撃を強める。初心者を騙して国へと入らせ、雑用をさせることもあったという。 「レオはその悪い国に対抗するために戦ってたの?」 雨が強くなりアクセルを緩めながらレオは答える。 「それが、悪い国側にいたんだ……」 「他の国を……攻撃してたの?」 「一応はそうなる。だけど、最初はただの遊びだった。あくまでもクラン同士の闘争の延長線にあったんだ。それがいつの間にか国として戦うようになって、戦争が始まった。敵国が降参するとまた別の国と戦い、それに勝つとさらに別の国と戦う」 「レオが入っていたその国はいつから敵意のない国やクランに対しても攻撃するようになったの?」 「敵対する国を全て倒し終えた時から。それでもう戦争は終わると思っていた。だけど国のリーダー的な人が話し合いで決めたんだ。現存する全ての国やクランを敵視し攻撃するってね。それからみんなはこの国に所属していないプレイヤーを片っ端からキルしていった」 「それに対抗できる国はなかったの?」 「察しがいいな。もちろんそれに対抗する国が現れるんだ。あれはとても大きな国だった。こっち側の人数をはるかに上回っていた。だけど様々な戦場を経験したこちら側の実力とだと戦線がほぼ動かないほどに戦況が拮抗していた」 「レオはその時どうしていたの?」 「対抗する国に匿名で情報を垂れ流していたんだ。けどそれだけでは対抗側の国は戦線を押し返すことはできなかった。圧倒的な課金のせいでね。強い武器やポーション、ゲーム内の通貨などを現実のお金で大量に買う。さすがにそれには勝てるはずもなくその国は降参するしかなくなったんだ」 「そんなことがあったんだね……」 「お金が関係する争いは解決しない。人は傷をつけ人は傷をつけられる。他方が一方を抑圧するだけ」  雲が空からゆっくりと退いていき、道路に張った水が日に照らされキラキラと輝いている。 「この話は受け継いでいくべきだと思うんだ」 「レオの言う通りだと思う。私もそれに賛成」  ゆっくりとブレーキを踏んだレオは、車を降り農場の直売所へ食料を買いに行く。そしてしばらく経ってから戻ってきてこう言う。 「木の苗を育ててみない?」

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漫画のような恋愛 ※ハッピーエンドではない

今日の晩御飯はスーパーで買ってきた三割引きのお弁当。本当は自炊した方が男の子にはモテるのだろうけど、一人暮らしの今そんなこと毎日はできない。それに、最近そのスーパーでレジ打ちをしているバイトの男性がとにかくカッコいいのだ。 今日もその男性がレジ打ちしているところで会計をした。そして支払いは現金でお釣りが出るようにする。自分でもこれは気持ち悪く思う。 翌日も私は彼がレジ打ちをしているところへ並ぶ。列は進みいよいよ私の番だ。自分でも顔が赤くなっているのが分かるほどに熱く感じる。彼のネームタグには「タナカ」の文字。タナカ君は私のことを意識しているだろうか。彼女はいるだろうか。どうすれば彼のことを知られるのだろうか…… 少し日が空き、私は久しぶりにそのスーパーへとやって来た。窓にはバイト募集と書かれた紙が外から見えるように貼られている。弁当を持った私はレジへと向かった。しかしいつものレジには知らないおばさん。彼の姿はない。もしや、彼はバイトを辞めてしまったのだろうか。この前は無かったバイト募集の貼り紙…… 私は三割引の冷めた弁当を袋へ入れて店を出る。再び彼と会えるだろうか。そう考えていると前から彼が歩いてくる。私の方を見た彼はすぐ視線を逸らす。私は視線を逸らさない。横には彼女らしき女性が彼の腕を掴みながら歩いている。彼女はあまり可愛くない。私の方が可愛い。幸せそうな二人から私は目を逸らす。

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引っ越しをした理由

仕事から帰ると玄関のドアの鍵が空いていた。 ドアノブを捻ってほんの少し引くと明かりがついているのが分かる。 おそらく鍵はただの閉め忘れ。おっちょこちょいな私は過去にも二回ほどあった。そして電気がついているのは防犯のために自動で点灯するよう設定しているからだ。 私は靴を雑に脱ぐと、この時間に湧くよう設定した風呂へ入るために下着姿になった。 コンタクトを外した後、私は勢いよく肘を壁にぶつけてしまった。それは「痛い」と感じる前だった。上から何かが落ちてくる。コンタクトを外したせいで何が落ちてきたのかよく見えない。 手に取り顔に近づけて見た後、私はそれをすぐにお湯を張った風呂の中へと放り込んだ。 消しゴムほどの大きさの白くて四角い物体は、黒いレンズの面を下にして浮かんでいる。 これがノンフィクションにならないよう、皆さんは気をつけてください。 これはフィクションです

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操られ操る

私の母は特殊能力を持っている。 それは相手を自分の思い通りに操るというものだ。 母は私に「世界で一番愛してるあなたのことは絶対に操らないわよ」と言った。 もちろんそれはウソ。そんな能力を持っていれば愛子のことだって密かに操るものだ。 実際私は母に操られたことがあった。私がそれに気づいている事を母が知っているかは分からないが…… 母は私を思い通りに操っていると思っている。可哀想な母だ。 私にもその能力があることを母には話していない。 操られた母は操られた通りに私を操る。

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合法的に盗む方法

ヘリからのスポットライトに俺は照らされる。 宝石を盗み出そうとして見つかったのはこれが初めてではない。その度に俺は逃げてきた。 かといって俺は宝石を売って莫大な金が欲しいわけではない。今は必要最低限の生活費があればそれでいいのだ。 俺は狭い路地に入りパトカーの追跡を止める。ついでにヘリの死角にも入る。下調べのとおりに隙間を潜り抜け、地下水路へと降りる。さすがにここまでは追ってこれないだろう。 俺は警察へと電話を掛ける。 「警報システムはしっかりしてましたけど、結構逃げやすかったですよ。改善すべきところはかなりありますね」 「了解。現在地を教えてくれ」 人の役に立つのは気持ちがいい。それに現役の頃のようにスリルも味わえる。まさに天職だ。

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いつもの太陽

窓の外には青白い光を発する太陽が見える。 いつからこうなってしまったのだろうか。地球の自転速度が遅くなり始めた時からだろうか。私は恐怖心でベッドにうずくまったまま動けない。どこからか電話の着信音のようなものが聞こえる…… 私は目を開ける。スマホからは目覚ましアラームが鳴り続けている。 はっとした私は重力に負けそうになりながら立ち上がり窓の方へ近寄る。眩しくてほんど何も見えないが空にはいつも通りの太陽があるようだ。光に慣れてくると細めていた目を少し開く。太陽は黒色に発光している。一安心した私はアラームを止めてベッドに戻る。

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