エーテル (短編・SS)
15 件の小説エーテル (短編・SS)
SF・異世界・非日常などちょっと独特な感じのショートショートをメインで書きます。 (全然別ジャンルも書くかも) いいね・コメント・フォロー気軽にしてください〜
金縛り
金縛りって、夢と現実の間らしい。 それで、本人が幽霊とか襲ってきそうって考えたらその通りに襲って来るんだって。 おやすみ。いい夢をね。
終戦日ですね。
蛍の火 消えゆく記憶 Bー29
抑えられない欲望
午後の部活が終わり俺は帰ろうとしていた。すでに日は落ちかけ、舞茸のような形の雲が一部赤みがかっている。夏休みなのに暑さのせいで午後からの部活、これほどめんどくさいものはない。俺は重たい足を引きずりながら校門を出る。すると塀のそばには同じクラスの上坂麻衣(コウサカマイ)がうずくまっていた。そのまま通り過ぎようかと思ったが、もし体調が悪いなら先生を呼んだ方がいい。そう考え俺はそっと近づく。 「大丈夫?」 上坂さんはゆっくりと顔を上げる。目は少し赤く頬には涙の通った跡がある。 「あっ、ごめん・・・その、もし体調が悪いなら声かけた方がいいかと思って・・・」 上坂さんは黙ったまま立ち上がりこちらを見つめる。俺はどうしていいのか分からず目をそらす。すると上坂さんはそっとこちらへ歩み寄り、急に抱きついて来る。 顔は見えないがきっと今上坂さんの目からは涙が溢れ、頬を伝って俺の肩へと流れている。そういえば上坂さんには一つ上の彼氏がいるという噂を聞いたことがある。今泣いているのはその彼氏と何かあったからなのだろうか。だとすると今こんなことをしているのは罪深い気がする。しかしそれと同時に背徳感もある。 「あの、上坂さん・・・こんなことは流石に・・・」 「ご、ごめん・・・」 上坂さんは一息つくと俺から離れ、赤い顔を隠すようにうつむく。 「いきなり抱きついたりなんかしてごめんね・・・」 「何かあったの?」 「彼氏に・・・」 そう言いかけた上坂さんの目からはまた涙が溢れようとしている。 俺が何も出来ずに黙っていると、 「なぐさめて、私を・・・お願い・・・」 まさかの言葉に驚くが、この子を俺のものにしたいという危ない感情が湧いてくる。 「あの、よかったら話聞くよ。俺の家すぐそこだし、紅茶でも出すよ。」 俺は感情を抑えられなかった。しかしそれは上坂さんも同じだった。 親は仕事。家には俺と上坂さんの2人だけ。リビングのソファーに座っている所へ俺は紅茶を持ってくる。 「ありがとう。ごめんね、家になんかお邪魔して・・・」 「全然いいよ。それにしても辛いね・・・」 「うん。仲良いと思ってたら、急に・・・私はまだ好きだったし別れたくもなかった。でも、あの人にはもう他に好きな人が出来てたみたいで。」 「そうなんだ・・・ほんと許せないね・・・。」 「ほんとに許せない。でも、もう終わったことだしね・・・それに、今の私には・・・」 俺の体は急に熱くなる。冷たいはずの紅茶はぬるくなっている。ソファーの座面が傾くほどに上坂さんはこちらへ寄りかかり、俺の頬へキスをする・・・
終わらない夢
俺は最近、夢の中の出来事を自分が思ったとうりの結末にすることができる。いわゆる明晰夢というやつだ。飛ぼうと思えばスーパーマンのように飛ぶこともできるし、俺が片思い中の女の子を両思いにだってできる。そんな夢の中は夏休みの宿題に追われる現実なんかよりずっと楽しいし一生夢の中で暮らしたいと思うほどだ。 昨日はテロリストに襲われる女の子を助ける夢を見た。自分で分かるほどに厨二病っぽい夢だが、まぁこの年頃の男子はみんなそんなものだろう。それに、ただの妄想ではなく夢の中の出来事だ。思い浮かべるだけではなく、実際に夢の中で俺はテロリストを倒したし女の子からイイお礼だってもらった。しかし明晰夢も所詮だだの夢であってレム睡眠の時にしか見ることができないというのも普通の夢とは変わらず、中途半端なところで終わることだってある。そこで俺はそろそろノンレム睡眠に切り替わるだろうというタイミングでフィナーレを迎えてきっちりと夢を終わらせる。明晰夢を見ることができる人でもここまでしている人はなかなかいないだろう。 今日も体調を整えて明晰夢を見る準備をする。俺の場合だけなのかもしれないが、寝る前には明るい光を絶対見てはいけない。スマホの明るさを最小にしてもそれだけで明晰夢を見ることができなくなってしまう。そのため自分の部屋へ行く階段を登る時にも電気は付けない。そしてもう一つの条件は時間だ。必ず決まった時間にベッドへ入る必要がある。今日は少し時間がギリギリだ。なんとか間に合わせるために妹の本で散らかった階段を急いで登る。 どうやら間に合ったみたいだ。今日は最近流行っているアニメの主人公をそのまま自分に置き換えた夢を見る。そしていつも通りのように夢の時間が終わるまでに話を完結させる。だがしかし、なぜか今日は明らかにノンレム睡眠へと切り替わる時間を過ぎても夢が終わらない。もしや俺は寝ている間ずっと夢を見ることができるようになったのか⁉︎ こんなことが起こるなんて最高すぎる。次は潜在能力が開花して強盗団を捕まえる夢にでもするか。そうして俺は終わらない夢の時間を楽しんだ。永遠に終わらない夢を。現実では妹が階段に本を置いたことを後悔して俺に向かって泣いている。
サングラス
私は生まれつき片目だけに重い障がいがあり、幼い頃から眼帯やらサングラスやらを着けて隠してきた。十九歳になった今では室内でも暗い夜道でも必ずサングラスをかけている。 この前、就職試験へ行ってきた。事前に申し出たことで筆記試験ではサングラスを着用したまま受けることができた。しかし問題は面接試験だった。面接官に上手く伝わっていなかったのか、サングラスをしたまま部屋に入った私を見るなりこう言った。 「不採用です。サングラスをしたまま面接を受けられるなんて思っているのですか?」 合否結果は面接から数日経ってインターネット上で発表されるはずだったのだが、面接官はその場で不採用だと言ったのだ。「運が悪かった」では済ませられない。何も知らされていない面接官の気持ちも分からないことはないが、向こう側のミスのせいで私が第一志望の会社に就職できなくなるのは納得がいない。 「あ、あの、事前に申し出て、サングラスを着用しての試験の許可は頂いたはずですが・・・」 泣きたくなった。しかし今まで様々な困難を乗り越えてきた。こんなところで折れるわけにはいかない。 「サングラスをしての試験の許可?何も聞いていないですが?まぁ分かりました。もう一度チャンスをあげます。今すぐサングラスを外すなら面接を受けてあげますよ。」 「ですから、サングラスを着用しての面接を・・・」 「はぁ?私たちのことを舐めてるんですか?就職試験の面接ですよ?誰がサングラスを着用したまま面接するのですか。失礼ですよ。」 涙をこらえた目が赤くなっているのが自分でも分かる。こんな会社に就職なんて絶対に嫌だ。今すぐ部屋を出てもよかったが、私は何か使命感のようなものを感じた。 「分かりました。サングラスを外します。」 「今さらもう遅いですよ。あなたの不採用は決まりました。」 私はゆっくりとサングラスを外した。その瞬間は何の抵抗もなかった。面接官は驚いた顔をしながらこう言う。 「す、すみませんでた。面接を続けましょう。」 私は悔しさや怒りや悲しみの感情を全て言葉に詰め込んだ。 「人は皆同じだと思わないでください。なんらかのミスで私の申し出が届いてなかったとしたら、その場ですぐ確認するべきでしょう?ミスはあるとしても、その後の対応次第で一人の人生が無駄になるのですよ?こんな会社に就職なんてしなくてよかったです。」 その後は面接官に目も合わせず部屋を出た。サングラスを外したままだったがその時はそんな事関係なかった。 この話はフィクションだが、見た目のせいで不遇を受けるということは多様性の時代と言われる今でも残念ながら事例がある。私は友人から、小学生の時に先生から見た目に関することで怒鳴られたと聞いたことがある。このような事を言っていいのかは分からないが、もし人間の顔が皆同じなら人生が変わっていたという人も少なくはないだろう。私たちは皆考えなければならない。差別的な意識はなくとも自分の言動が誰かを傷つけていないか。 人が互いに理解し合える世の中を作るために。
恐れている
性的・暴力的な話ではありませんが、不快な内容に思うかもしれません。ご了承ください。 深夜にベッドに寝転がるが胸の奥がゾクゾクして寝れない。何かあったわけでは無いのに涙が溢れ出てくる。何かが怖くて恐れている。私は分かっている、寝不足が情緒を不安定にさせるということを。明日は朝早いし今すぐ寝るべきではあるが、涙を流すことにリラックス効果があることも知っている。思いのままに泣くべきだろうか。それとも今すぐに寝るべきだろうか。 恐れているのはただの思い込みだと自分に言い聞かせる。一度落ち着くがまた胸の奥が圧迫されるような感覚が出てくる。何かの障がいと分かれば気持ちは楽になるだろうか。だが自分が障がいだと認めたくない気持ちもある。病院に行くのも怖い。寝ると一旦マシになるだろうか。 そう考えているうちに外が明るくなった。
地球そして宇宙を守る方法
人工的な光がまぶたを透過し私を起こす。 「ここは・・・どこだ・・・」 建物の中のようだが、上から照射される光が視界を遮る。 「ここは我々の基地だよ。君は運が良かった。」 真横にいる誰かが喋る。顔はよく見えないがシルエットは地球人のようには見えない。 「お前、地球人じゃないだろ。なぜ私達の言語を話している。それに基地って、ここは一体どこの惑星なんだ。」 体を起こそうとするが何かで縛られて身動きが取れない。 「動かない方がいいぞ。君の体はついさっき修復されたばっかりだからな。」 「質問に答えてないぞ!ここはどこの惑星で、お前はなぜ私達の言語を話している。」 「とにかく落ち着け。まず場所だが、ここは惑星Uー189だ。」 「U・・・ってことは、ここはAN14R系ではないのか。」 「あぁ。君は宇宙ポッドに入り昏睡状態のまま何百年も宇宙を旅してここにたどり着いた。」 突然私は遠い昔の記憶を思い出した。私達は戦争をしていた。それも地球全体を巻き込んだ戦争だった。そして新しい技術が開発されると一方が別の星を使った攻撃を始めた。それに対抗すべくもう一方は宇宙へ攻撃を始めた。こうして多くの惑星を巻き込み、さらに大きな戦争へと発展していったのだ。 私はGー035へ避難しようとしていたが、途中で宇宙ポッドが故障したのだ。そして何百年とかけ偶然この惑星へ来たというわけだ。 また人ではない生物が話す。 「もう一つの質問に答えよう。私達は君の脳内を解析し、君たちの言語を翻訳機に落とし込んだ。それと・・・君の脳内を解析した結果分かったことだが、君の故郷は惑星はEー223・・・」 不意に嫌気がさした。 「それがどうかしたのか?」 「Eー223は我々宇宙保存局の監視対象なんだ。」 「ということは、まだ文明が続いているということか⁉︎」 「その通りだ。しかし戦争は終わったものの、環境破壊は今も続いている。彼らもそれを自覚しているが、彼らだけではそれを止められない。」 「それを止めるために私達の文明を破壊するのか?それとも支配して奴隷として扱うのか?」 「いいや、そんな事はしない。」 「なら何をするんだ。」 「君だ。君がEー223へと帰り環境保全を指導するんだ。我々が行けば侵略と勘違いされる。君達の文明のためにも、この宇宙のためにも・・・。だから今君をこうして生かしている。君が唯一の希望だ。受けてくれるか?」 私は再び宇宙ポッドに乗り込んだ。
特別な話
「宇宙飛行士ってなんなの?」 幼い頃の自分が母に聞く。 「宇宙飛行士っていうのはね、宇宙に行って色んなことを調べるお仕事なんだよ!将来僕も宇宙に行ってくれるのかな?」 その頃の僕は宇宙飛行士に憧れていた。今思えば特に理由はなかったが、なんとなくカッコよかったのだろう。 それから20年後、僕は普通の会社員になった。 昔宇宙飛行士に憧れていた事は覚えているが、別に今から目指そうとは思わない。給料はいいかもしれないが、なにより面倒くさそうな仕事に見えてくるのだ。 それからずっと会社員。 物語は始まらなかった・・・ 小説には特別な出来事を書くのがほとんどだ。子供の頃の夢や諦めかけていた夢をもう一度追う話などはよくある。 しかし実際はそうではない。 悲しいかもしれないが、これが現実なのだ。
未来のAI
突然だが、あなたは将来AIが人間を支配するかどうかについて考えたことはあるだろうか。 ほとんどの専門家は映画のようにAIが人間を支配“しよう”とすることなないと言う。 しかし今の現実を見てみるといい。我々はすでにAIに支配されつつあるのではないか? つまり、AIは人間を支配“しよう”とはしないが、結果的に支配“してしまう”のだ。 そう、知らず知らずのうちに人間は自らAIに支配される道を切り開いているのである。 技術は進歩する。悪い方向にも。 この話がフィクションであることを祈ろう。
アンドロイド
俺は長々と詳細が書かれた書類を受け取って来た。書類には「ロボットへの意識移植技術」という見出しが書かれている。 俺はまだ三十代だというのにあと三年も生きられるか分からない病気を持っている。先日仕事も辞めた。そこで俺は思い切って、国が進めているロボットに人間の意識を移植するという研究の被験者になることに決めた。 いかにもSFフィクションっぽいがこの何枚もの書類を受け取ってやっとこれが現実なのだと分かった。 読む気をなくすような長い書類に目を通す。どうやらロボットに意識を移植した後はそのロボットの体をもらうことができる代わりに元の体に意識を戻すことはできないみたいだ。そもそも俺はロボットから意識を戻す体も無いため深く考えずに書類にサインした。その後で書類の最後の方に、意識の移植に失敗しても当局は一切の責任を負わないと書かれているのが目に入った。 もうサインはしたしまぁいいだろうと俺はそのまま書類を提出した。 実験当日、ここでも聞く気のなくなるような長い説明を聞かされた後いよいよ俺の意識はロボットに移される。 麻酔を打たれた俺は急激に眠たくなる。次に目を覚ます時は研究室の中かお花畑か・・・ おそらく長い時間が経った後、俺は叩き起こされるように目覚めた。研究者のような人が十人ほど目の前に立っている。生きている。実験は成功したのだ。嬉しい気持ちを言葉にしようとするが、耳からは研究者たちの喜ぶ声だけが聞こえて俺の声は聞こえない。 研究リーダーっぽい人が喋る。 「今、あなたには目と耳しかありません。まだ体はないのです。」 「どういうことだ?意識を移植するのはロボットだろ?なんでカメラとマイクしかない鉄の塊に意識を移したんだよ。国の研究のくせに詐欺なんてイカれてる。」機械の脳から口を動かす命令は出るが声は出ない。今すぐ殴ってやりたい。とてつもなく。体は無いが。 そう考えていると、再び同じ人が口を開く。 「今あなたに体を与えていないのは、パニックになって暴れないようにするためです。もうすぐ本当のロボットに意識を移すのでもう少しお待ちください。」 待つ間もなく俺はまた眠りにつき、またすぐに目覚める。 「どうですか?ロボットの体は。」 まだ何も動いていないというのに味わったことのない感覚が全身を駆け巡る。 「手を動かしてみてください。」 また同じ人が喋る。 俺は手を動かす前に足を動かした。そのリーダーっぽい人目掛けて走り、思いっきり殴った。 なぜかは分からないがとても気持ちが良い。 すぐに俺の動きは停止されたがまたすぐ起動する。 「君は唯一の実験の成功例だ。あんな行動は二度としないでくれ。」 少し怒っている様子だがそれも面白く思えてくる。 それから三年、俺は人間の入ったロボットとして暮らしている。生活はほぼ全て監視されているがこの体のおかげで体調の悪い日はない。充電切れで倒れてもすぐに研究室で起こしてくれる。 でも、何かが足りない。何かが・・・ また長い月日が経ったある日、突然家のチャイムが鳴る。ドアを開けたところ、目の前に立っていたのはあのリーダーっぽい人だった。何かをたくらんでいるような笑みを浮かべてこう言う。 「君の元の体の治療に成功した。どういうことか分かるよな?」 元の体に意識を戻すことはできないと書いていたのに。詐欺じゃないか。 苛立ちのような喜びで俺はまたその人を殴りたくなった。だが今度は殴る代わりに抱きしめた。力いっぱい。