別世界 薬はやめられないらしい

 私は道端のちょっとした段差に座り、通りゆく人をぼんやりと眺める。いつからこうなってしまったのだろうか。人々の手には薄緑の液体が入ったライターのようなものが。今この空間にいる私以外のみんながそれを持っている。ボタンを押すとミスト状になった液体が出てくるらしいが使ったことはない。  私は健全だ。あんなよく分からない薬なんか使って、頭がおかしいのだろうか。そのライターを持った人々は、時々それを口に近づけボタンを押す。そしてひたすら歩く。何をそんなに急いでいるのか。何者かに追われる幻覚でも見ているのだろうか。  そう考えていると私の体には徐々に力が入らなくなっていく。薬がないと生きていけないなんてバカげている。私はあんなもの使わなくても……  私の全身の力は抜け、その場に横たわる。しばらくしてゴミ収集車が来る。その車の荷台には私と同じような人が何人も重ねられている。
エーテル (短編・SS)
エーテル (短編・SS)
SF・別世界などちょっと独特な感じのショートショートをメインで書きます。 (全然別ジャンルも書くかも) いいね・コメント・フォロー気軽にしてください