卸売生姜
14 件の小説エピソードⅠ 赤ずきん(3話)その放浪は。
「おっおい、なんだか今日は森が忙しくないか…」 一人の男はいつもと違う周りの様子に疑念を浮かべる。 「ああ…!?ちょっちょっと待て…今日ってまさか満月か!」 「まずいぞ…早く戻らないと‼︎…」 ビュオオオオ!!!……ザワ、…ザワ…… 満月の夜。 森がいっそうに騒めく夜。 風に揺れる銀色の毛並み。 その場が凍りつくような鋭い金色の瞳。 手足に強靭な爪を持つ山神。 ただの獣ならよかった、だがそれとは比べ物にならない。 全くの別物なのだ。 人々は彼らをこう呼んだ。 マグナス・ルー・ヴォアルフ またの名を賢狼と。 「……。」 家を出て四郎は小さい墓地に来ていた。 二つの墓石に花を添える。 彼女が初めて教えてくれた月明かりが降り注ぐ夜にだけしか咲かない花。 夜郷蘭。 雲で空が覆われ、三人で星を見ることができなかった日。娘が笑ってとってきた、銀珠蒼。 雲が晴れていく。 月が半分ほど顔を出す。 「ぐっ…ぐはっ‼︎…ゔぅ…ぅぐっ…」 身体が変化し始める。 爪が黒く変色し、頬、身体中の毛が逆立っていくのを感じる。 …もっと遠くへ。…行かなければ…… 彼はまた歩き出す。 せめて、娘に似たあの子だけは傷つけたくなかった。 肉を…獲物を狩りたいという本能に逆らうために身体の大半の神経を使っていた。 だからだろうか。 背後の気配に気づかなかった。 狩人失格だ。 「バァン‼︎…」 直後右足に痛みが走る。傷口が再生されない。 対大狼特注狙撃弾だ。 森に侵入者が忍び込んでいたというのか? だが一体誰が…。 カシャンッ、…‼︎ 二度目の射撃が飛んできた。今度は腹部を貫いた。 ぐはっ!!…くっ‼︎ 逃げなければ…… …逃げる? だって殺されてしまう…… …今さら? 問う。なぜ逃げる必要があるのか? ずっと望んでいたことだろう…あの少女と出会って何か変わったのか? いや違う。 お前の本質は何も変わっていない。 立って逃げようにも力が入らない。這うしかない。 『これまで自由に生きておいて。』 ふと声が聞こえた。 『育ててやっただろう!』 『まだ望むというのか?なんて傲慢な狼だ‼︎』 『近づくな!早くここから去れ‼︎』 口々に飛んでくる罵声。 この世界には半端者の味方なんていない。 ああああぁ…違う。 違うちがうちがうちがう違う!! 俺は…僕は…狼じゃ…ぁ… 「カシャン。」 月あかりと共に表れたのはそれは見事な銀髪の少女だった。 「ああ…ルリ…。 ………………………ごめんな。」 男は倒れた。 「お父さん、見て!…この花。綺麗でしょ?」 「あなた。ほら早くこっちへ来て。」 「…あ。…あぁ、」 これは…夢、…か…? ああそっか…僕は…やっと…… 一歩踏み出す。何かが… 悪いものが取れた気がした。 妻と娘が…わ…わらって…… 「ごめん…うっ…ごめんな…ぐ… あああああああああああああっ!!!」 今まで何をしても流れなかった涙はこの時を見計ったように感情と共に表れた。 「お父さんっ泣かないで!」 「大丈夫。大丈夫よ….」 涙を流し肩を抱き合う彼らを、引き剥がすものはもう いないのだった。
こんなことなら!!っ…
いつからだろう。 最初は面白い人だなとしか思ってなかった。 みんな友達って、そんな風に思う年頃だったからか、私は人からの視線を見分けるのがあまり得意ではなかった。 友愛、親愛の視線。 妬み、嫉妬の視線。 なんの感情も含まれない視線。 恋愛的な意味での好きという感情が漏れ出した視線。 ぐあぁぁぁぁぁ……どうして………どうして……… なんでもっと早く気づかなかったの!!?? 傷つけたくなかったのに…大好きだったのに… 一度でいいから伝えたかった…… 一度離れて気づいたんだ…君が世界中の誰よりも どんな人よりも……なのに、なのになのになのになのに!?!? 言いたかった。あの頃に戻れたら。 午後の休み時間。渡り廊下ですれ違った。 間抜けそうなパッとしない顔つきと、襟足が伸びて昔とは少し違った髪型になった彼の瞳には… すれ違っただけの私は映ってなかった。 いざ戻ってみれば言えると思っていたけれど。 あと一歩出ない。声が、喉が震えて。 気持ちは声にならなかった。 :いいの?、彼行っちゃうよ… もう…脈ないだろうし… :でも後悔して戻ってきたんでしょ? そうだけど‼︎…結局私は変わってなかったんだよ… 立ち尽くし、俯く。 “トンっ” 「えっ?」 何が起きたのかわからないが、誰かに背中を押された。 足が前に出た。だが、彼の足の方が早い。 立ち止まっていたら追いつけなくなる。 私は振り返って走り出した。 :言っておいで。 「はぁはぁはぁはぁ…」 :ふふっそうだよ。そうでなくちゃ! 過去においてきちゃってた恋心は、また揺れる。 出会ってしまった運命には逆らえず。 激しく。高ぶる心を押さえ込んでいた錆びたドアは壊してしまえばいいじゃない。 「はぁはぁはぁ!」 行き詰まったら手を伸ばしてみて。 ドンッ!!! 「わああああっ!!!」 二人はぶつかった。少年の方はぶつかられたと言った方がいいだろう。 「いってぇ…何すんだよ!!って…え、めい? なんで突進してきて…」 「ごめん!!あっあのね!!ずっと、ずっとずぅぅっと!!!言えなかったことがあるの…」 「遅くなったね……ゆうま。」 「ずっと、好きでした。」 私は願いを叶えた。 (ずっと心残りだったことをやっと言えた!…… 宿題をやっと終わらせられた…) 私は彼から離れる。 もうそろそろ未来へ帰らないと…。 私が去ろうとすると、彼が袖を掴んだ。 「…てよ。」 「待てって!!…返事!聞かなくていいのかよ…」 「いらない…」 (…無駄だ。返事を聞いたところで意味がない。未来は、変わらないんだ…。) 「もう要は済んだから。あと、ぶつかってごめん…」 「めい!!」 「昔っから突っかかってきて、よく喧嘩もしたよな。それによくせんせぇに怒られた。」 階段を降りながら彼は話し続ける。 (ついてこないでよ。) 「俺は…遊ぶのも、怒られるのも…お前となら楽しかったし、嬉しかった…。 聞いてくれっ!!!」 パッ!…ドンッ!! 手をとって壁に追い詰めた。 「大事だから一回しか今ないからな!!!」 「俺も!!お前が!!!」 ドクン…ドクンッ…ドッ… 直後足元が光り、私は未来へ帰還した。 「ぐすっ…うっうっっ!!!」 「ゔあああああああああああああああああ あああああaaaaaaaaa!!!!!」
エピソードI 赤ずきん (2話)
所々穴が空き、いくつか修繕した後が残っているが、囲炉裏や戸棚に飾られた社築は時代の懐かしさを感じられる温かみを帯ている。 湯を沸かしていると少女が目を覚ました。 切り傷や、あざも見られるが過去に負った傷なのだろうか?近いうちにできた傷は見られなかった。 「う、…!??」 驚いた様子であたりを見渡している。 無理もない。突然室内に移動しているのだ。 湯を水で冷ました白湯だが、ないよりマシだと思い手渡す。 「名前…わかる?」 こちらの顔を見てひどく怯える少女。 「怖がらせてしまったね…申し訳ない。 僕は月下四郎(つきのしたしろう)だ。 四人兄弟の末っ子だから四郎。君の名前は?」 少女は考える素振りを見えたが、俯いてしまう。 「ご飯食べるかい?熱いから気をつけて」 兎肉と野草が入った汁物を渡す。 僕が食べるのを見ると恐る恐る口をつける。 熱かったのか少女は口をハフハフさせて冷まそうとしている。 「ふははははっ。だから言ったろうに、」 恨めしそうにこちらをみる少女はまるで小動物のようで可愛らしく思えた。 こんなふうに誰かと夕餉を共にするのは久しぶりな気がする。 妻と娘がいた頃以来だ。 少女はしばらくの間、家で預かることになった。 体力がついたら、山の麓の手前まで送り届けようと思う。僕は山から出ることができない。 してあげられることは少ないが、元猟師として、狩りの仕方くらいは教えた。 最初こそ警戒されたが、少女も徐々に心を開くようになった。 少女と出会って十日経った。 僕は少女が眠りについたのを確認し、家を出た。 月明かりが僕を照らした。 …今夜は、満月だった。
エピソードI 赤ずきん
「ザッ…ザ…。」 風や木々、動物たちの足音、鳴き声。 自然の音が聞こえる。森の中、どんなに音を殺しても自分というここでいう場違いな存在はどうも目立ってしまう。 身体中に枯葉、草土をつけて… 殺気を消して。 そっと… 近づく。 (ヒュー……さわさわさわ……) 木々の隙間を風が通る。自然が通る。 状態を確認し、銃口を向け、弾を装填する。 構え、狙いを定める。 呼吸を整える。 (スー……はぁ……) ゆっくりと息を吐き、獲物を見る。 引き金を絞った。 「バァン!…」 (外したか…) わずかに弾道が逸れ、命中とはならなかった。 鳥は勢いよく飛び去っていく。 (あそこまで遠いと…もう届かないな。) これ以上は弾の無駄だ。 深追いはよくない。 …手負いを抱えていれば尚更だ。 少女を背負い、拠点へと戻っていった。 人気のない山奥。どうしてこんなところにまだ幼い少女が倒れていたのか…彼はまだ知る由もない。毛が当たるだろうが、少しの間我慢してくれと思い、極力揺れないように駆けて行った。 これからどうしようかと悩む彼をよそに、背負われた少女は微かに微笑むのだった。 あとがき ここまで読んでくださり、ありがとうございます‼︎ とりあえず、想像力が尽きるまでは続けようかなと思います!🙇♀️ 次回も読んでいただけると幸いです!
第7話 変わらぬ日常と不穏な影。
「一カ月後。最後の授業として、私と戦え。」 「ねぇっ!どうしようアミカ…」 二人は昼休み、中庭で軽食をとっている。手入れはされているが、人通りが少ない静かな場所で二人のお気に入りだ。 ルミルは少し硬い黒パンと森の野苺を、アミカはベーコンと卵のサンドと、米粉と麦粉のクッキーを。 「う〜ん…読み違えとかでもないの?」 「いや…もう三回は読んだから間違ってはないはず……。 それに…」 目を擦りもう一度見返すが同じだった。 強いていうなら手紙の最後に、 「嘘ではないし、異論は認めない。」 と、書き足されたくらいだった。 「もぐもぐ…それは おっかないわね…でもなんでそんな急に?」 話しつつクッキーに手を伸ばす。 「う〜ん…わかんない。 でも師匠にも最近ずっと会ってないし… 二年修行してきたけどさ…あの師匠に勝てると思う?」 アミカも少しの間、魔力の使い方や精霊について教わったことが あるが、とにかく実践的な分野において、師匠は容赦ないのだ。 「あたしがシュラと本契約する時も大変だったもの…うっ…思い出すだけでも…」 仮契約状態でできることも限られていたようだ。 精霊が気に入った人間に追従することが仮契約。従い、 力を貸してもらえるようになることが本契約だ。 「勝てる気がしない…」 「まあなんとかなるよ!二年も修行してきたんだし、ルミルにしかできないことだってきっと、 (ガラガラガラ…) 「あっ先生来ちゃった…授業が、」 一旦席に着いた。そして午後の授業が始まった。 貧しい村のため、書物は貴重品だ。だから他の生徒と交代で流し見をしながら授業を聞く。 だいたい、授業終わりにアミカが隣で見せてくれる。 「私たちが暮らすこの大地には7つの属性が存在しています。火、水、木、土、雷、闇、光が基本です。その7つから派生して生まれたのが、氷、風、炎、無等。 これらを駆使すれば、バフやデバフ、ヒーリングなども使えるようになるだろう。国王陛下は基本属性全てにおける知識、技術をお持ちになられているそうだ。」 都会から来た先生は授業より王都の歴史や、身分の高い偉人の功績の話をしたがる。正直苦手だ。 復習しとこう…7つの属性…火、水、木、… 師匠は火と水と闇だったかな…火には水を、水には土を…闇には…光?だったかな… …あれ?基本属性が7つ…?じゃあ私の属性って… 「…ミる…」 「ルミル!!」 「ふぅわぁぁぁ…っあれ…寝てた?」 「もう!前半終わったあたりからずっとよ!」 「あぁ…ごめん。」 「まったく…時間大丈夫なの?」 時間…あっそうだ!もう日があんなに落ちてる!! 「ごめん!また明日!」 日が落ちすぎると師匠の家と森の結界が歪み、出入りに支障が出るのだ。急いでカバンに荷物を入れる。 「ルミル!近頃魔物が活発的だから気をつけてね!!」 「あ〜うん!行ってきます!!」 ルミルが教室を飛び出していくのを見送る。 「…大丈夫かな…」 放課後に一人、不穏な空気を感じるアミカだった。
剣の役目と鍛冶師の役目
カン、カン、カン、…キーン…… ハンマーで何かを叩く音で目が覚めた。 夜中。父は竈に金属を焚べ、ハンマーで休まず打ち続ける。いつから打っているのだろう。父の額には汗が滲んでいた。装飾の凝った剣が出回る中、父は剣自身を鍛えることを辞めなかった。 それから数年経ち、今では私が父の後を継ぎ、店を経営している。 カラン…店のドアが開いた。 「ルイ、遊びにきたよ〜!!あいっかわらず汚いな〜…まあそこがいいんだけどね!」 店に入ってきたケモ耳の少女は子供の頃からの友達、リリカだ。 どうやら金属をもらいにきたらしい。 「悪いけどこっちもないの。ところで来月貸した金属はどこいったのかしら?」 「うっ…え〜と、ちょっと試し打ちに…この間のお客さんにも奮発しちゃったし…」 リリカは目を泳がせる。 「はぁ…ねぇ、今からダンジョンに行くのだけど当然ついてきてくれるわよね?友達でも貸しはきちんと返すのよ?」リリカの優しいところは嫌いじゃないが、商売に影響するとなると厄介だ。 西の森のダンジョンに着く。 敵の出にくい時間帯を選んだかいもあり、金属は早めに集めることができた。あと数種類の薬草や水晶などを集めて探索は終了した。 「結構早く集まってよかったね!ところでその水晶とかはどうするの?」 「…内緒。」 宝石のような綺麗な見た目でもない、高値で売れない水晶は市場にも出回らない。だからこうして取りに来る他ないのだ。 「ねぇ!たまにはルイの打つとこみたい!誕生日近いんだしいいじゃん。」 「打ったらあげる。」 「やった〜!ありがとうルイ!」 店に戻ってきた。作業着に着替え、竈に火をつける。金属を先に入れ、水晶を後から入れる。 採掘したての金属だからできる純度の高め方だ。 カン、カン、カン、カン…ピシッ… 時々水晶のつけた水に入れ、また熱し、打つ。 澄み切った音がなるまで。 カン、カン、カン…… 「キーン…」熱いうちに整形をし持ち手をつける。 ………完成だ。 一本の剣が完成した後の余韻に浸る時間がルイにとって、至福の時間だ。 「…どうしよう。あげたくなくなってきた…」 愛着が湧き、ずっと手元に置いておきたいと思うのは、職人ならばよくあることだ。だが… 「この剣が多くの人々を救い、主人を守ってくれますように。たとえ朽ちてもその思いが心に残りますように。」 彼女はそう願い、送り出した。
歪んだ愛
「ねぇ、私だけを見て?」 「あなたは私の全てだから。…お願い。」 「愛してるよね。そうだよね!私も大好き♡」 僕は彼女の言う通りうなづく。 「私たちは相思相愛だから、これは束縛じゃないよ?…しょうがない?忙しいから?違うよね。私思うんだ!」 「後輩の恵美ちゃんとか先輩の香織さん… 残業を任せてくる郡山さん…だっけ? 他にもいるよね。邪魔虫が…」 彼女は指を折って数えていく。背筋に寒気が走る。知らないはずの職場の人の名前が次々と挙げられる、 「お仕事になんて行ってほしくないんだよ…いつも知らない人の匂いをつけてくるあなたが嫌い。」 僕は一言ごめんと言う。 「許さないから…許さないよ…愛してるから…だから…償おうね♡」 「大好きだから。いいよねこのくらい。 私が守らないといけないの。汚い人たちから。」 彼女はぼくの首に首輪をつける。 「か〜わいいい!!♡♡嬉しいね!ず〜と一緒にいればいいもんね♡私天才!」 正気じゃない彼女を前に後ずさる。だが彼女は首輪に繋がったリードを引っ張る。 「逃げちゃダメだよ?これからもずっと一緒♡ 私のこと以外、な〜んにも考えられなくなるまでず〜と…ね?…」
第六話 師グランテ
元魔女の彼女はルミルが泣き止むまでゆっくりと待った。 そして彼女は再び口を開いた。 「その瞳が必要とされている訳をまだ話ていなかったな…。おまえ、帝国の英雄は知ってるよな?」 「あっうん。先代の国王様ですよね?金髪と金色の瞳で有名な…」 「あのじじい…そいつの髪は若葉色で目も金なんかじゃないぞ?おまえと同じうっすら星が写ってる目を持っていたさ。これが星眼の由来でもあり、それは魔力の高いやつにしか見えない。」話疲れたのか彼女は椅子にぐったりと腰掛け目を瞑る。私は目を輝かせて彼女を見てはっきりと告げる。 「あの!…会ってみたいです!その人に…。 それが自分と同じ状況下でなくとも…今まで感じてきた虚しさ。悲しみが消えるかもしれないと、そう思えたから…」 こんなにはっきりと自分の意見が言えたのは初めてだったから、自分でも驚いた。笑われるだろうか…。そう不安に思ったが彼女は。 「いいじゃないか!自分の欲にまっすぐな奴は嫌いじゃない。だが今のおまえの実力じゃ村の外に出るのは無謀ってもんだ。ここと同じく、いつでも凶暴な魔物が襲ってくるだろうからな…。」 「でも…それでも‼︎私は行きたいです!」 私の返事を聞きニヤリと彼女は笑った。 そして彼女は羽ペンと紙を手元に出し、告げた。 「おまえ…私と契約をしないか?…」 これが魔女と旅をするニ年前の出来事。これがルミルの変わるきっかけとなった。 彼女と契約を交わし一度縄の外へと戻った。帰る時彼女に小さい時計のようなものを渡された。 「そいつがあればいつでもここに戻って来られる。 毎日来いよ!わかったな?わたしの弟子よ…」 「あっありがとう!魔女さん!」 「師匠だ!グランテ師匠と呼べ! …またな、ルミル!」 初めて師匠は私の名前を呼んだ。 戻った後私が気絶させたアミカが目を覚ましており私に飛びついてきた。 「ルミル!何処行ってたの⁉︎心配したんだからぁ〜!!」 顔が近いし苦しい…。そう言えば、アミカの男性恐怖症が治っている。おっさんとだいぶ打ち解けたのだろう。おっさんの方を見ると微笑んで親指を立てた。悪い人ではないと思い長いことアミカの子守りをさせていたのだ。お疲れ様という意味も込めて苦笑いをして親指を立てて返した。 おっさんはアミカに説明をしてくれていて助かった。どうやら蛇に噛まれて気絶したということにされているらしい。おっさんグッジョブ!。 それから授業が終わるとその魔女の家に行き修行をすることになった。魔法の基礎を理解してからでないと星眼と向き合うことはできないそうだ。 師匠は過去の研究の成果や自分の固有魔法の担い手を探していたらしい。 修行はまず魔導書の内容を頭に叩き込んで魔法の性質を理解する。理解できればあとは実践あるのみ。自分の魔力が尽きる一歩手前くらいまで魔法の練習をする。これは自分の魔力量の底上げにもなるらしい。地道に一歩ずつ続けてきた。 「ほら早く飲んで次行くぞ?」 そう言って師匠特製ポーションを渡させる。材料は怖くて聞けなかった。ただ時々薬草や虫を取りに行く。その中に材料も入っているのだろう。 師匠との契約期間は二年だ。時間は有効に使わなければならない。 「…やめるか?」師匠が挑発的に問う。 「…いやっ、続けてください!」 師匠は笑い、授業を続けた。 そし二年目の冬がきた。師匠は書き置きを残して留守にしたり声は聞こえても姿が見えないことが多くなった。今日も書き置きがあった。 「えーと……………は?」 紙には「1ヶ月後、最後の授業として私と戦え。」 と…そう書かれていた。
第五話 それだけで価値がある
「…がっつくのはいいが最後まで話を聞いておくれよ?」四角いパンを両手に持っているのを見て言うが、本人は気にもとめておらず、食べながら喋ろうとする。どうしてこんなやつを選んでしまったのか…と過去の自分に問う。 「では話の続きをする。時は一千年前に遡る…」 ・ ・ ・ 私は一千年前のここ、北アレン川の辺りにある小さな村で生まれた。 私は単なる明るい普通の子供で、村の子供らとも仲良くしていた。…だが私が5歳の時、ある転機が訪れた。その年は数100年に一度の流星群が見られる年だった。私はその観測日に熱を出した。家族には寝ていなさいって言われたが、家で一人でいるのは退屈だった。だから、膝掛けを持って空が綺麗に見える丘に走った。 その時は妙に体調が良く、空がはっきりと見えた。 あの空は綺麗だった…あの空を見るために外に出だことにはなんの後悔もしていない。流星もやみはじめ家族にバレる前に帰ろうとした時だ。ゆっくりと…一つの流星が降ってきたのだよ。それは私の真上に。それは消えて無くなることはなかった。もう少しで当たる。幼かった私でもわかったさ逃げられない…と。その時だ。一瞬であたり一体の色が消え、鳥も草花の動きさえ止まった。静まり返った世界に一人佇み困惑していると一人の女が空から降りてきた。白いマントと葵いサファイアのような瞳の女だった。彼女は魔女だった。本能がそう理解した。そして私は彼女と契約をした。彼女が、流星となれなかった隕石を消し、私は彼女の弟子となる。そういう契約だった。 隕石を止めたことは誰にも信じてもらえなかった。村の人々はその日流星群があったことの記憶すらもなくなっていたさ。私は師匠の家に通い詰め、たくさんの研究をした。霧狩りトカゲを捕まえて干したり、星の見える夜には金糸をはく蜘蛛がでるから一晩中蜘蛛を捕まえたさ。朝まで続いた時は師匠に気付け薬を作ってもらったよ。ただ料理の腕だけは無かったな。前はルームメイトがいたらしいけど、料理の腕のせいで出ていかれたとか… ・ ・ ・ 「…まあそんな話はぶっちゃけどうでもいいんだよ。あたしが話したいのは最後の話だ。」 するともう一つの椅子に声の主が現れる。先ほどから居たかのように自然に椅子に座っている。 左目には眼帯がしてあり、彼女は後ろに結んだリボンを解きそれを取る。 「おまえさんと同じ…いや、本物と比べちゃぁだめだな。どうだい?よくできた目だろう?…。」 彼女にはルミルと同じ無色の瞳がついていた。 目の周りには切り傷があり、元々あったものではないようだ。 「私が生前、師匠と最後にしていた研究の成果だ。本当なら魔女にとって喉から手が出るほど欲しい代物だ。持って生まれたというだけで価値がある。元々そうで無かったとしても、だ。 おまえの持っている目はなにも恥ずべきものではない。だからもう…諦めなくたっていいんだ。」 みんな色があった。髪だってこんなに黒い人なんていなかったし、今まで自分に価値があるなんて…必要とされる存在だなんて言われたこともなかった。こんなにも、こんなにも…… 少女の瞳から十数年ぶりに涙が溢れた。
第四話 森の嫌われ者 後編
…ポシェットからポーションを取り出し、一気に飲み干す。子供の頃魔素中毒を何度か経験したことにより、耐性はあるがもって3分だっただろう。 微かに低い唸り声が聞こえた。振り返らずともわかる。 「…まずい、近頃見かけないと思ったら…。なんでこんなところで魔素に当てられてるのよ…」 そこにはよだれを垂らし、鋭い目でこちらをみる狼がいた。それも魔素に当てられ、凶暴化したやつだ。 ゆっくりと歩きながらカウントダウンを始める。8… 7… 6… 5… (…一か八かやるしかない!!)2… 1 ! 『バインド‼︎』 カウントが終わった瞬間に振り返り、呪文を唱える。そして周りの蔦が伸び、狼に襲いかかる。完全に拘束できる訳ではないが、彼女が逃げるには十分な時間が稼げた。 (走れ走れ走れ走れ‼︎…)ポーションも走りながら飲んでいるため、まともに体力は回復しない。 そのまま走り続け、ようやく目的の場所に着いた。それは小屋だった。石造の壁に木の屋根のついた、小さくとも立派な小屋だった。森は草木が生え放題で荒れ果てた有様だが、その小屋の周りだけは、森が避けているようだ。 (コン、コン…)正面の扉にノックをしてみる。 返事はない。だが、ガチャリと音が鳴り、扉が開いた。中には、机と椅子,本棚に、草とトカゲが入った瓶,見たことのない植物の標本など。不思議なもので溢れていた。 「ーこんにちわ…お嬢さん…」頭の中に直接音が聞こえてくる。「ー驚いたかい?」 「驚いたわ、ただ表に出すのが昔から苦手なの…」 「ーそうかい。まあそれも一つの長所だよ。相手を騙す上では常法するさ。」 「ーさてまあそこに腰掛けてくれ。ここは魔素の影響を受けないからゆっくりしていくといい。」 椅子が引かれ、ティーカップとポットが動き出す。 「私はどうして呼ばれたの?早く本題に移りたいのだけれど.」声の主は苦笑する。 「(…本当にそっくりだね昔を思い出すよ。)…その前に昔話をしようじゃないか…さて聞いてくれるかい?………森の嫌われ者の話を.」 暖かい飲み物とオレンジ色のジャムのかかった固めなパンは粗末なものだが、森に入ってから一度も休憩をしていない尚且つ、昼飯を抜かした少女を誘惑するには十分だった。 ※その頃のおっさんとアミカ 「…はらぁへったなぁ〜…」おっさんは独り言を漏らす。一方、 (すーっ…すーっ…)アミカは微動だにせず、いまだに眠っていた。