10 件の小説
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禁物

ああ、人生なんてくだらないな 2004年の冬、フラスン共和国のリヨンで生まれた私には、左首に直径3cm程のアザがあった。この国でアザは悪魔の息が掛かった人間の印であることを知る由もない出生したばかりの私は、そのまま孤児院へと引き取られることとなった。悪魔の子供を産んだとされた実母は気を病み、私を産んですぐに自死を選んだ。実父はパリ大学で民俗学を教えていた教授であったらしいが、彼女の死の責任を私とそのアザに押し付け、私をリヨンの片田舎の孤児院へと預けた後、行方をくらませてしまった。 孤児院での生活は私にとって地獄そのものであった。私はアザを理由に皆から軽蔑され、いつも独りで過ごしていた。 私が6歳になる頃、1人の日本人が孤児院へとやってきた。孤児院で定期的に開催されていた異国語を教える授業の教師としてやって来た男だった。彼は自分を「キヨタカ・ナンバラ」と名乗った。私たちは彼をナンチャンと呼び慕っていた。 ナンチャンがやって来てから私は日本に恋焦がれるようになる。それは彼が教えてくれる日本の様々な文化に心惹かれてしまったためだ。特に私が心惹かれたものが「ハラキリ」という文化であった。日本では古来より自分の犯した不始末の責任を取るために、自らの腹を切るという文化があったのだ。私は衝撃を受けた。そしてこの時に私は自分の死に方を決めた。悪魔の子と軽蔑され、自らの母を死に追いやった私にぴったりな死に方だと思った。 時は経ち、18歳の頃、私は日本へ移住することを決意した。「ハラキリ」を行うなら日本だろうという安易な考えの為であったが、私はそこで運命的な出会いを果たす。 ある夜、私が新宿西口の小田急百貨店1階にある喫茶店に何気無く入店した時のことだった。 「こちらの席へどうぞ」 店員に誘導され席に着いた私はブレンドコーヒーとナポリタンを注文し、混み合う店内をただ眺めていた。 「あの、お隣いいですか?」 女の声が聞こえた。私は驚いて振り向くと、私と同年代くらいの女がこちらへ顔を覗かせていた。 「あ、僕ですか?」 「そう。あなた独りで来たでしょ」 随分馴れ馴れしい女だと思った。私は初対面で距離が近い人間を信用していない。 「ごめんなさい、ナポリタン食べたらすぐお店出ようと思っているので」 「じゃあ、あなたがナポリタンを食べ終わるまでならいい?」 図々しい女だ。しかし不思議と嫌な気分はしなかった。 「じゃあ少しだけなら」 女との会話は楽しかった。ナポリタンなどそっちのけで彼女と話し込んでしまった。政治、信条などについて熱い議論を交わしていた訳ではなく、飼ってる猫がどうだの、近所のおばさんがこうだのといった、本当にありふれた他愛無い会話であったが、妙に心地が良かった。3時間ほど話し込んでいただろうか。店員に声を掛けられ、店の閉店時間が近づいていることを知る。 「そろそろ帰ろうか」 彼女がコーヒーの最後の一杯を口に運んだ。 私はどうしても最後に訊ねておきたいことがあった。 「どうして、僕と話をしてくれたんですか」 彼女は私の目をじっと見つめ呟いた。 「あなたの首のアザ、素敵だと思ったから」 その瞬間、私の人生はこの時のためにあったのだと確信した。フラスン時代に悪魔だと蔑まれた私のアザをこの女は素敵だと言った。気が付くと私は涙を流していた。 「ちょっと、なんで泣いてるの」 彼女が驚いて、私の涙を拭う。 「ありがとう、ありがとう」 私は彼女にひたすら感謝をしていた。 会計を済ませ、店を出た。日付が変わったばかりの新宿にはまだたくさんの人がいる。 「最後に名前、聞いてもいいかな」 私は勇気を振り絞って訊ねた。また彼女を見かけた時に声をかけようと考えていたからだ。 「まんこ姫」 彼女は確かにそう言った。 「え?ごめんごめん、名前を教えて欲しいなと思って。まだ聞いてなかったから」 「だから、まんこ姫」 私は思わず吹き出してしまった。 「まんこ姫はだめだろ。名前にまんこが入ってちゃ」 私は彼女がふざけているのだと思った。だから大袈裟に笑った。 「名前に女性器が入ってたらやばいでしょ」 すると彼女は急に俯き、ぶつぶつとなにかを呟いた。 「あなたも、そうやって、ばかにするのね、わたしの、なまえを」 私は咄嗟に彼女をなだめようと顔を覗き込む。 彼女は涙を流していた。 状況を飲み込むことができない私は、まんこ姫の手を取り、とりあえず駅の方へ歩き出そうとした。しかし、まんこ姫はその手を振りほどき、駅とは反対の方向へ走り去って行ってしまった。小さくなっていくまんこ姫の背中を私はずっと見つめていた。私は自責の念に駆られた。 「ハラキリをするなら今しかない」 神がそう私に呟いた気がした。私は携帯していた日本刀を鞘から抜き、自らの腹部へと突き立てた。血が溢れ、やがて内臓が顔を見せる。私はそれを見て、その昔ドイツのウィーンで食べたソーセージを思い出した。 私に気づいた通行人が叫び声を上げる。大都会東京では様々な人間が生活を繰り返している。一人の酔っぱらいが私にぶつかり耳元で囁いた。 「ああ、人生なんてくだらないな」

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禁物

JK

ペディキュアを塗りながら、映画を観ていた。夢中になって観ていたから、映画が終わっても手にペディキュアを握りしめていた。外が明るくなってきて、カーテンから朝日が差し込む。私はそれで映画が終わったことに気がついた。私の頭の中で映画の登場人物たちがふわふわしている。その狭間で私は文京区シビックセンターのことを考えた。幼い頃、父と母に連れられて一度だけ訪れたことがある。思えばそれが最初で最後の家族旅行だったが、当時の私はそのことを知らなかった。そして、父のことも母のことも愛していた。 ハードディスクからDVDを取り出し、CDラックの上に適当に置いた。今日は弁当を用意する必要はなかったから、長い時間を掛けて髪の毛を束ねることができる。いつもの私は行動に移すまでに長い時間を要するが、今日はまるで自分という映画のダイジェスト版を観ているかのように、朝の支度をこなしていた。タンスの上から二番目に入っているキャミソールを取り出す。腕を通そうとしたところ、脇の下辺りに小さな穴が空いていることに気がついた。どこかで引っかけたのだろうか。私はその穴を見なかったことにした。誰も私のキャミソールを見る機会など無いからだ。 ブレザーに袖を通すと憂鬱な気分になる。でもそれは学校を休む理由にはならない。今日は余裕をもって家を出ることができると思っていたが、気がつけば最寄り駅に電車が来るギリギリの時間だった。部屋には誰も居ないが、いつも私は玄関の扉を開ける前に「いってきます」と言うようにしている。もちろん返事はないが、ベッドの上でいつも私を見守る猿のぬいぐるみがいつか「いってらっしゃい」と返事をしてくれるのを期待しているのだ。私は扉を勢いよく開け、大きく息を吸い込んだ。 頭の中ではさっき観た映画の登場人物たちがまだふわふわしている。私はその狭間で愛している父と母のことを考えた。

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JK

喫茶ぼけかす

二度も三度も同じこと繰り返して、その度に嫌な気持ちになるんやったら、一度目が終わってダメやったらそこで諦めた方がお前にとって得ちゃうんか。いやまだや。俺ならイける。そないな気持ちでおるのがあかんねん。ええか。次何かに失敗した時はまず俺に連絡せえ。そしたらお前が諦めつかずに同じこと繰り返して、結果嫌な思いするのを防いだるから。ええか、絶対連絡せえよ。 そう言って先輩はくしゃくしゃの領収書に自分の住所と電話番号を殴り書いて、まるでごみを放るかのように俺に渡してきた。 ありがとうございます。ほんなら、次何かあったら真っ先に連絡させてもらいます。 そうしいや。ほんで、話変わるねんけど、あっこの駅前にぎょうさん人入る百貨店出来たやろ。俺、そこにある喫茶店で珈琲飲んどったんや。一人で。ほんなら、ウエイトレスが俺に、お煙草はお吸いになられますかって聞いてきよったんや。俺そんときパチンコ負けてごっつうムカついとったから、珈琲飲む時は煙草も吸うに決まっとろうがボケ、言うて、そのウエイトレスの頭を灰皿でかち割ってやったんや。ほんならな、そのウエイトレスの頭から青い血が出てきてん。青い血やで。普通、血っちゅうんわ赤いもんやろ。俺もうびっくりしてもうて、その時、さすがに灰皿で頭かち割ったのはやりすぎやったわって思ってん。いくら俺の前世がハンマーやったからってな。そうやろ?だから俺が思うのはな、 二度も三度も同じこと繰り返して、その度に嫌な気持ちになるんやったら、一度目が終わってダメやったらそこで諦めた方がお前にとって得ちゃうんか。いやまだや。俺ならイける。そないな気持ちでおるのがあかんねん。ええか。次何かに失敗した時はまず俺に連絡せえ。そしたらお前が諦めつかずに同じこと繰り返して、結果嫌な思いするのを防いだるから。ええか、絶対連絡せえよ。 ありがとうございます。ほんなら、次何かあったら真っ先に連絡させてもらいます。 そうしいや。ん、あれ、あかん、もうこんな時間や。家帰らな嫁はんに怒られてまう。ほんなら、また。 えぇ、また。 俺は先輩が急いで喫茶店から出ていくのを珈琲を飲みながらじっと見ていた。 おんなし事何回も言うねんな、先輩。 独り言を言いながら珈琲をすする俺に、首が無いウエイトレスが話しかけてきた。 お客様、お煙草はお吸いになられますか。 姉ちゃん。俺はな、前世、国語辞典やったんや。ページをめくられる度にな、俺気持ちよくって気持ちよくってたまらんかったんや。あの時の快感、忘れようとしても忘れられるもんやないねん。姉ちゃんは、そういう前世の記憶ないの? 私の前世は画家でした。西洋のどこかの小さな湖畔で絵を描いてたんです。細かいことは憶えとらんのですけど、片足の無い、義足の女の子の絵を描いてたんです。なんで描いてたかはもう憶えてないんですけどね。でもその女の子が時々夢に出てくるんです。それはそれは可愛らしい女の子ですわ。 そうなんや。それで君、首無いのに、どこから声出てんの? さあ、毛穴でもなんでも、人間声が出そうなところなんていっぱいあるでしょう。何事にも意味なんてないんです。 その時の直感で生きるのが良いんでしょ。何も伝えようとはしてないのよ。読んで楽しければそれで良いの。 そやな。それが一番や。ほな、俺はもう行くで。今日はユイちゃんのシフトの日や。多分今、コールセンターに電話すれば繋がれんねん。既に二、三度デートに誘っとんのやけど、断られてしもてな。声聴いただけで好きになったなんて信じられへんって言われてもうてん。でも今日はイける気がすんねんなあ。 カラスが鳴きよる夕方に あなたが帰らぬ報せ聞き つらつら涙流せども わしら生きとるさかいに人間万事塞翁が馬やちゅうてね

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喫茶ぼけかす

うれしい出産

電車を乗り継いで汐留まで向かった。都営大江戸線の改札を出て右手にある商業施設に入る。有名なミュージカルシアターがある大きな入口ではなく、ファストフード店が近くにある簡素な入口だ。 ここまで来ればもう彼らも追ってくることはないだろう。ミサキは一息ついてから、自らの腹に手を当て我が子の胎動を感じた。一定のリズムで腹を蹴っている。ミサキは機械的なそれを少し不気味に思った。 ぎぎぎ 音が鳴ってから酷い鈍痛に襲われ、その後破水した。 ぎぎぎ それは明確な意志を持っているような(しかし機械的な)動きをしていた。 急いでトイレの個室に駆け込み、泣きながらいきんだ。激しい痛みとともにミサキのお腹の中から大きめのネジが出てきた。ナットも付いていた。ミサキはつい先の激痛も忘れ、ただただ困惑した。 この半年、私はこのネジを産むために様々な苦痛に耐えたのかと思うと、なにか悲壮感に近いものに襲われた。ひとり個室のトイレで泣いた。私はなんでこんなものを産んでしまったのだろう。激しく後悔した。自分を呪った。恐らくこのネジはひとりで生きていくことが出来ない。私は死ぬまでこのネジの扶養人として生きなければならない。そう思うと怖くてたまらなかった。 結局、そのネジはトイレに流すことにした。個室にはミサキの血と臍帯だけが残った。罪悪感は無かった。ミサキは海に行こうと思った。小型ボートを借りて、自らオールを手に取り、霧の向こうの幻想的な島に向かうのだ。そして、そこでひとり絵を描いて暮らす男と結婚する。ミサキはそういう妄想をした。性器に着いた血をトイレットペーパーで綺麗にふき取って、颯爽とトイレを後にする。 艶やかな長髪にビシッと襟を正したスーツ、そして僅かに血が付着したパンツとハイヒールを履く彼女の首には、大きく重厚なナットが何らかの明確な意志を持って、はめ込まれていた。

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うれしい出産

燃える自転車

自殺に失敗した帰り、マンションの駐車場で自転車が燃えていた。私のじゃないし、知り合いのでもないと思う。 小さい頃から火が好きだった。つい先まで存在していたモノが存在しないモノになる過程を見ることができるからだ。幼少期からマッチでよく遊んで母に叱られていた。 やがて人が集まり、火は消えた。 自転車は黒ずんで原型を留めていない。 その自転車だったモノも数分後には綺麗さっぱり無くなり、人も居なくなり、見慣れた静かな駐車場へと姿を戻した。 その一部始終を私はずっと見ていた。 自室に戻り、私は燃えていた自転車を想いながら自慰行為をした。その後、野菜炒めを作って風呂に入って髪は乾かさずに寝た。明日の自分に怒られそうだ。 布団に入ったタイミングでもう一度自慰行為がしたくなった。会社に務めるようになってから、欲に従順になった気がする。初恋の彼を思い出して湿った部分に折り曲げた指を入れたその瞬間、あの燃えていた自転車は完全にこの世から姿を消した。

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燃える自転車

妻の妊娠が発覚した。 僕たちは四十代半ばで結婚したから、正直子どもは諦めていた。 僕は嬉しかった。 彼女も嬉しそうだった。 妊娠が発覚してから七ヶ月後、彼女は元気な男の子を産んだ。 そして、彼女は卵になった。 そこからは忙しかったから、順序よく説明はできない。男手ひとつでその子を育てた。優しく逞しい子に育ってくれたと思う。つい先日成人を迎え、彼は上京していった。 ここには僕と卵だけが残った。 もういいだろう。 息子の引越しを済ませ家に帰ってきた明くる日の朝、僕はフライパンに油を敷き、その卵を割って落とした。 「ジュンジュワ〜」 中からネプチューンの堀内健が出てきた。 「あ、待って熱い熱い待って」 僕はそれを薄く伸ばし、予め用意しておいたケチャップライスに丁寧に被せた。 「いただきます」 堀内健はもう喋らなかった。 僕はその沈黙に感謝した。

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卵

オーボエ

五十七歳の浅井が高校の音楽室に忍び込んだ理由は、笹本のオーボエを舐めるためでした。 もうとっくに日は落ちています。音楽室どころか、校内にすら誰もいません。 笹本のオーボエを見つけた浅井はマウスピースを外し、それを口に含みました。粘膜の全てにその先端が触れるまで、浅井は舐め続けました。口の中が彼女の味でいっぱいになります。 何も怖がる必要はありません。 見られたら殺せば良いのです。 浅井は一心不乱に舐め続けました。彼女のマウスピースが彼の口の中を湿らせ終えた時、廊下から足音が聞こえてきました。 とんとん とんとん とんとん とんとん あしおと、おおきくなってきた とんとん とんとん とんとん とん、 ガチャ 「久しぶり〜笹本で〜す。」 見違えた笹本でした。 「あ、ふきでふ」 口の中にはまだマウスピースが残っています。 「え?なに?」 告白は伝わりませんでした。 マウスピースの味はもうしませんでした。

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オーボエ

変身

俺ちゃんの彼女のグレゴール・ザムザちゃんが朝起きたら中森明菜になっていたらしい。 中森明菜になっただけではなく、一生逆立ち生活を課せられたらしい。(ほんこんによって課せられました怒) 普通に生涯愛した。 (ここでヒルナンデスが始まり、南原清隆が日本刀を振り回す。)

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変身

愛人

何か、私に言うことがあるんじゃなかですか 昨夜は、植え込みに片足を突っ込んで立小便をしてしまい申し訳ありませんでした それじゃない!もっと大事な話があるでショムニ… 実は僕、ブライアン・メイの姪、姪ブライアン・メイとメイクラブしてました。 それよ。それって、プリンよね? はい?プリン…ではないです。ねはい。 間違えたわ。それってプリンでしょ? ?プリンではないです。 間違えたわ プ リ ン だわ。 はい。なめらかプリン庁です笑 笑笑もしもし、なめらかプリン庁ですか?夫がプリンしているんですが… あらあら、旦那さんが。不倫?! もしかして愛が足らんのでは?奥さん ?!それじゃ…久しぶりに… ガチャッ パパ〜ママ〜?何してるの? 「「プリンかき混ぜてせックスしてたんだよあやべ言っちった」」 (ここで武田鉄矢の今朝の三枚おろしが始まってフェードアウト)

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愛人

piano

さるの頭がい骨を二つ拾ってきたパパ 「「コラ!!!!」」 二人のママが怒ってさるの頭がい骨でヴァイオリンを作りました。(やっぱりひとつはオカリナにしました。) ぶろろろろろろろろろろろろろろ ろ ロロ ろろろろ ロロロロ 飛行せんが飛んでいます。 いつかぼくもあれに乗りたい。 そのためにまずはピアノを練習します。 ぴろろんぽろろんろん…あっ間ちがえた! ママがぼくの間ちがえに気が付きました。 「「間ちがえたな!!」」 そしたら、飛行せんがぴかりと光りました。100万ワットのかがやきです。 そしたら、光った飛行せんがうちに落ちてきました。 あぶない!!! ピアノンガショイヨンガショワラベンガショ 何も怖がる必要はありません。 田中みな実ならいます。 ぴろろんぽろろんぱろろんろん! 成功です。 中谷美紀と結婚しました。

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