破局

破局
豚の鳴き声の端々にはどこか悲哀に似たものが混じっていて、私はそれを聞くと彼らに少しでも近づきたいと感じる。 小学四年生の頃、私はユイという同学年の女の子に恋をしていた。彼女は艶やかな黒髪に、陶器のような白い肌を持ち、それでいて男のことを軽蔑しているようであった。 同時期に開催された運動会で、4年生の私たちはソーラン節を披露することになっていた。北海道とは縁もゆかりも無い私たちはオリジナルのソーラン節を披露する他なく、その演目の最中に男女ペアを組んで、恋人繋ぎをしながらAKB48の「恋するフォーチュンクッキー」に合わせて踊る時間が設けられていた。小学四年生ながらに私は、それは本家のソーラン節に対する冒涜なのではないのかと思っていたが、その当時の先生の言うことは絶対で、反論する余地などなかった。 普段異性と接点のない私にとっては、手を繋ぐことのできる絶好のチャンスだったから、私は意気揚々とペアになった子と手を繋ぎながら、恥ずかしげもなく踊ったのを覚えている。ペアになった奴の名前はもう覚えていない。 ふと目をやると、ユイちゃんの周りには何やら人だかりができていた。当時担任だった原田先生も困り果てた様子で彼女の話を聞いている。どうやら、ユイちゃんの極度の男嫌いが発症して、あろう事か彼女はペアになった男子と手を繋ぐことを拒み、それを気に病んだペアの男子が泣き出してしまったらしい。この事件は後にユイ事変と呼ばれることになるが、その事が私の中で彼女の神秘性をより一層高めた。私はとにかく彼女に触れたかった。 ある休日、私は友人らと遊んだ帰りに学童の前を通った。日は暮れ、人気のない学童を不気味に思った私が足早にそこを立ち去ろうとしたその時、低い獣の声が鳴った。豚の声だと私はすぐに気がついた。学童の裏手には豚小屋があり、番いの豚2匹がそこで飼育されていたのだが、糞尿の匂いが酷く、そこへは誰も立ち入らなかった。当然私も立ち入ったことが無かったのだが、その時の私はどういう訳か躊躇することなく豚小屋へと歩みを進めた。 学童の裏手に周り、彼らに察知されないように息を殺して観察することにした。一匹の豚が、もう一匹の豚に覆いかぶさって、唸り声を上げながらいそいそと腰を動かしている。それを見て、私は友人宅で興味本位に見たアダルトビデオのことを思い出していた。それは私たち人間とは違い、畜生の皮を被っていたが、私はそれに妙な興奮を覚え、喉の奥から何か熱いものがせり上がってくるのを感じた。 日はとうに暮れ、門限が迫っていたが、私は少しでも長い時間この景色を眺めていたかった。糞尿の匂いにも少し慣れ始めた頃、突然私の視界が真っ暗になる。
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