ゆうさん
98 件の小説ゆうさん
同じ作品があると思いますが同一人物です。パソコンとスマホで連携できなかったので新しくこちらから連載いたします。 なにか意見や感想などがありましたらどんどんコメントしてください。
第3章9話 八部鬼衆の襲撃 林杏の『ギフト』
八部鬼衆の襲来 林杏の『ギフト』 悠たちが元陸王領地を調査して美月たちを発見した頃、中央部では魔物襲来の警報が鳴り響いていた。 林杏: 「場所と数は?」 オペレーター: 「東の農村付近で数は2体です。」 林杏: 「了解。私が行くわ。冥々(めいめい)ついてきて。」 冥々: 「はい。」 冥々は林杏率いる第8師団の副師団長で白髪のメッシュが特徴的な女性だ。中国拳法の達人であり、第1師団副師団長である新田と渡り合う実力がある。 林杏: 「普通に行ったら間に合わないわね。」 乗り物での移動では間に合わないことを悟った林杏は冥々と自身の足に触れ、『ギフト』を発動させた。 林杏: 『付与(エンチャント)・韋駄天』 林杏: 「これで間に合うわ。走るわよ。」 冥々: 「はい。」 林杏の『ギフト』のよって、新幹線より早く走り出した。 林杏の『ギフト』は【付与】(エンチャント)。自身が触れたものに様々な効果を付与するというもの。ひとつの効果につき5分間継続するが、付与する効果によって継続時間が前後する。 しばらく走り目的地に近づくと、独特なリズムの音楽と農民の叫び声が聞こえた。 林杏: 「!急ぐわよ。冥々は農民の救助最優先で。」 冥々: 「了解。」 目的地の農村に着くと、小学生くらいの身長で全身黒色の体毛でおおわれた人型の魔物が今にも農民を食べようと大きく口を開け襲い掛かろうとしていた。 林杏: 「させない!」 林杏はそのままのスピードで駆けつけ、魔物を蹴り飛ばした。 林杏: 「大丈夫ですか?けがは?」 農民: 「ありません。ありがとうございます。」 林杏: 「冥々、この人たちの保護をお願い。他の人たちの救助も。」 冥々: 「はい、さぁこちらにそこにいては危険です。」 農民: 「はい。」 農民たちが冥々のもとへ行き離れていく。林杏も辺りを探そうとした時、 魔物: 「いたた、何をするだ。」 蹴り飛ばしたはずの魔物が何事もなかったかのように戻ってきた。 林杏: 「新幹線以上のスピードで蹴り飛ばしたのよ。普通は身が破裂するはずだけど。」 魔物: 「おいら、お前らのこと知ってるぞ。おいらたちに歯向かっている師団ってやつだろ。そうだろ。」 魔物は無邪気に林杏のことを指さして言った。 林杏: 「悠たちの報告程の知性は感じられないわね。でも、人語は話しているし他の魔物よりは賢いわね。」 魔物: 「よくもおいらの食事を邪魔したな。お前のせいで腹減ってるのに人間食いそびれたじゃないか。もう怒った、おいらお前を食う。」 魔物は猛スピードで林杏にとびかかり、丸のみにしようと大きく口を開けた。林杏は魔物の攻撃を難なく避けて再び魔物を蹴り飛ばした。『韋駄天』が継続中の林杏の蹴りは掠れば身が抉れ、まともに受ければ破裂してしまうほどの威力がある。だが、魔物はそんな蹴りを2度も受けたにも関わらず、傷1つつかなかった。 林杏: 「頑丈が過ぎるでしょ。」 魔物: 「おまえ、痛いじゃないか。もう怒ったお前を絶対食う。」 魔物は先ほどまでの子供のような無邪気さから急変し、威圧感が急激に増した。 魔物: 「ちゅっと毘舎遮(びしゃしゃ)なに道草食ってるの。帰るわよ。」 林杏が声のする方を振り返ると、腕が4本生え2本の腕で琵琶を持っている異形な魔物が立っていた。 毘舎遮: 「乾闥婆(けんだつば)。だってこいつがおいらの食事を邪魔したんだもん。こいつ食うまで帰らない。」 乾闥婆: 「何言ってるの。今日は挨拶しに来ただけでしょ、帰ったらいっぱいおやつあるから。」 毘舎遮: 「む~。」 毘舎遮は拗ねた子供のように頬を膨らませた。 乾闥婆: 「あなた見たところによると師団長ね。挨拶しとくわ。私たちは空王様の眷属【四天王】。その側近【八部鬼衆】が一人、乾闥婆と毘舎遮よ。以後お見知りおきを。」 林杏: 「これはご丁寧にどうも。挨拶ついでに村1つ崩壊なんてやることが大胆ね。」 乾闥婆: 「まぁ余興のようなものだしね。じゃあね、次会う時はボロボロになるまで踊らせてあげる。」 乾闥婆が琵琶に音を奏でると後方に霧が発生した。 乾闥婆: 「毘舎遮帰るわよ。」 毘舎遮: 「次は絶対食べてやる。」 毘舎遮達はそう言い残し帰っていった。 冥々: 「団長、魔物は?」 林杏: 「帰っていったわ。挨拶しに来ただけだって言ってたけど。それより村の皆様は大丈夫?」 冥々: 「はい、負傷者も行方不明者もゼロです。今は近くの洞窟に避難してもらってます。」 林杏: 「そう、よかった。とりあえず村が復興するまでうちの近くの施設で生活してもらいましょうか。」 冥々: 「そうですね。迎えを呼びますね。」 林杏: 「お願い。私はもう少しこの近くを捜索してくるわ。」 冥々: 「わかりました。」 その後、林杏だけを残し村の人たちと冥々は基地へ帰っていった。
最終話 その後と快気
蒼一郎が処刑された日から月日が流れ、吐く息もすっかり白くなっていた。この数か月で世界情勢はかなり変化した。 まず、3か国が植民地にして国すべてが独立に成功し、貿易航路の確保も成功した。本来ならば数年はかかるはずであった独立化も3か国の全面的な協力を得て、たったの数か月で成し遂げることができた。 また、日本では蒼一郎の処刑を促した沢渡副大臣は、実刑判決を受ける裁判を受けるため逮捕され、処刑に加担した職員も降格や減給などの処罰を受けた。自身の腕の中で蒼一郎を失い、精神的に深い傷を受けた美琴も完全ではないとはいえ回復していった。 さらに月日が流れ、お彼岸。美琴たち防衛省職員数名は蒼一郎のお墓参りに来ていた。 高宮大臣: 「ようやくひと段落着いたよ、蒼一郎。世界情勢も安定していって植民地だった国も独立できた。それも、お前が5年間この国を守り続けてくれたおかげだ。ありがとう。」 高宮大臣は少し涙ぐみながらも話をつづけた。 高宮大臣: 「5年間本当にお疲れ様。あっちでゆっくり休んでくれ。」 美琴: 「すみませんちょっと。」 お参りが終わると、美琴は速足でその場を後にした。 女性職員: 「やっぱりまだ立ち直れてないのでしょうか?」 男性職員: 「まぁ無理もない。自分の腕の中で好きな人が亡くなったんだ。精神的な傷はそう簡単に治らないだろうよ。」 高宮大臣: 「君たち先に戻ってな。俺は少し寄ってくところがあるからよ。」 女性職員: 「わかりました。」 職員たちはそれぞれ防衛省に戻っていった。高宮大臣は蒼一郎のお墓に2本のお酒を備えた。 高宮大臣: 「俺と八坂くん、それぞれのおすすめのお酒だ。あっちで味わって飲んでくれ。じゃあまた来るな。」 高宮大臣はその場を後にしてある場所に赴いた。 高宮大臣: 「やっぱりここにいたのか。八坂くん。」 美琴がやってきていたのは蒼一郎がいた物見塔のてっぺんであった。 高宮大臣: 「君ならここに来ると思っていたよ。ここは君と蒼一郎の思い出の場であり、ホームみたいなものだからな。ちょっと失礼するよ。」 高宮大臣は美琴の隣りに座った。 高宮大臣: 「やっぱりまだ立ち直れないか?みんな心配してたぞ。」 美琴は何もしょべらず体育すわりをしたまま下を向いていた。高宮大臣もそこからは何もしゃべらなかった。少し時間がたつと 美琴: 「よし!」 美琴は急に大きな声を出し、立ち上がった。美琴が急に大声を出したことに驚いた高宮大臣は美琴をじっと見つめた。よく見るとかなり泣いたのか目が赤く腫れていた。 高宮大臣: 「どうしたの急に?」 美琴: 「すみません。もう大丈夫です。これ以上泣いていたら好きな人に顔向けできませんから。おばあちゃんになった時にお土産話をいっぱいしてあげたいですからね。」 美琴は吹っ切れたような満面に笑みを浮かべた。 美琴: 「行きましょう大臣。まだまだ仕事が山ほどありますよ。」 高宮大臣: 「おう今行く。・・・頼もしくなったな。」 美琴と高宮大臣は物見塔を後にした。
第4話 真実と閉幕
戦争を継続させた犯罪者として蒼一郎は、沢渡副大臣により死刑が執行され20年という短い人生に幕を閉じた。自身の腕の中で蒼一郎を失った美琴は蒼一郎の遺体を強く抱きしめて、命が吹き返さないかと淡い期待を抱いていた。 だが、どれだけ強く抱きしめても蒼一郎からはぬくもりを感じることができず、冷たくなっていくのを実感するだけだった。救えなかった無力感と大好きな人を失った損失感で美琴は泣いていた。 美琴: 「蒼くん・・蒼くん。嫌だよ、また笑ってよ。一緒にお酒飲もうよ。」 沢渡: 「みなさん!ご安心ください。」 沢渡副大臣はどこか自慢げな顔をして周りにいる人たちに向かって演説を始めた。 沢渡: 「たった今、この戦争を長引かせた大犯罪者を処刑いたしました。怖い思いをした人もいるでしょう。毎日のように来る戦闘機や潜水艦に夜も眠れない人もいたでしょう。ですが、ご安心ください。これでこの惨たらしい戦争が終了いたします。我々日本が世界に並び立つのです。」 沢渡副大臣の演説を聞いて安堵の息を漏らすもの、不思議に思うもので辺りがざわざわしだした。このままでは沢渡副大臣の思い通りになると思い、高宮大臣は反論しようとした時、ある人物がやってきた。 ?: 「なんてことをしてくれたんだ沢渡。」 声がした方を向くと、そこにはSPを数名つれた総理大臣が立っていた。 沢渡: 「そ、総理。なぜこのようなところに。今は他の国の代表を終戦協定を結んでいるところでは。」 総理: 「そのはずだったんだが、部下からどっかのバカがやらかしたって報告を受けて飛んできたんだよ。」 総理は美琴と蒼一郎のもとに向かい、膝をつき蒼一郎の頭に手を置いた。 総理: 「ごめんな蒼一郎。いつも守ってもらっていたっていうのに肝心なところでお前のことを守れなくて。嬢ちゃんもすまないな。嬢ちゃんの大事な人を守ってやれなくて。」 美琴: 「総理・・。」 沢渡: 「なぜですか!総理。そいつは他の国の兵士を殺し続けてこの戦争を長引かせた犯罪者ですよ。そいつのせいで戦争は終わらなかったのは事実でしょう。それなのに・・。」 総理: 「おい沢渡。お前、それ以上しゃべるな。」 沢渡の位置からは総理の顔は見えないが、その一言で総理が激怒していることは感じ取れた。 総理: 「他の国の兵士を殺し続けた犯罪者だと?お前今まで寝てたのか?そんなに言うなら確認すればいいだろう。ですよね。皆々様。」 総理が声をかけると、3か国の代表がやってきた。 沢渡: 「なぜ、各国の代表者たちもここに?」 総理: 「代表たちを置いて俺だけ来るわけないだろうが。」 アメリカ代表: 「彼がこの国を守っていた『番人』。」 ロシア代表: 「そう彼が・・。」 3か国の代表は蒼一郎のもとに近づいていった。沢渡は罵声を浴びせると思っていた。だが、そんな想像とは裏腹に代表ら全員、右ひざをつき右手を左胸に当て頭を下げた。蒼一郎に最大限の敬意を払ったお辞儀をしたのだ。 沢渡: 「なっ!あれは最大の敬意を払う行為。なぜですか?そいつは大犯罪者。さらには、あなた方の国の兵士を殺し続けてきた人物のはずです。なのになぜ?」 中国代表: 「殺してきた?お前は何を言っている。彼は誰ひとり殺してなどいない。」 沢渡: 「はい?何を言って・・。」 急なカミングアウトに沢渡副大臣は情報を整理できず困惑していた。 沢渡: 「そんなことできるわけないじゃないですか。それじゃあまるで戦闘機や潜水艦だけ破壊して、兵士や乗組員は全員助けたって言ってるようなものですよ。」 アメリカ代表: 「わかってるじゃないか。その通りだよ。彼は攻め込んできた兵士を殺すどころか怪我1つ負わせずに追い返した。彼のおかげでこの戦争はこんなに早く終わったといっても過言ではない。」 沢渡副大臣: 「待ってください!彼がいたからこの戦争はこんなに長引いたのでしょう。彼がいなかったらもっと早く終わっていたはずです。」 ロシア代表: 「そんなわけがないだろ。彼がいたから我々はこのような決断をすることができたのだ。もし彼がいなければ、我々は3か国で大規模な兵器のよる戦争を行っていただろう。その抑止力になってくれたのだ。」 沢渡副大臣: 「そんな・・。」 沢渡は各国に代表たちの言葉と行動から初めて自分がやった行動の愚かさを自覚した。自分が殺したのが犯罪者でも何でもない一国民の青年であることに。 総理: 「沢渡。お前の今後のことは後日通告する。いいな。」 沢渡副大臣: 「はい・・。」 こうして、5年間続いた第3次世界大戦は1人の青年の犠牲によって終了した。
質問受付
こんにちは。こんばんは。ゆうさんです。 ただいま絶賛スランプ中なので登校できてない状態にあります。 なので、気分転換に質問を受け付けようかと思います。 自分のことでも作品のことでもいいので質問をお待ちしております。 自分の気分転換にお付き合いください。質問、コメントお待ちしております。
第6話 突然のカウントダウン
突然のカウントダウン 翠君とデートした日から4日後、喫茶店が通常通り営業しているというので私はいつも通り足を運んでいた。 牡丹: 「でも、マスター頑張りますよね。明日大晦日ですよ。 マスター: 「みんなが私に会いたいって言ってくれるからね。期待には応えたいし、私もみんなに会いたいしね。牡丹ちゃんは私に会いたくないのかしら?」 牡丹: 「まさか、会えて嬉しいですよ。年末なんて家でごろごろしてるだけですし。」 マスター: 「ありがとう。でも、牡丹ちゃんは私よりもっと会いたい人いるでしょ。で、どうだったのよデートは?」 牡丹: 「からかわないでくださいよ。普通に楽しかったですし、普段とは違う彼の様子が見れて嬉しかったですよ。」 私は彼とのデートを思い出し、にやけを抑えるのに必死だった。そんな私を見てマスターは、ずっとにやけていた。 マスター: 「相当楽しかったのね。でも、残念ながら今日翠ちゃんは来ないわよ。まぁゆっくりしていきなさい。私とガールズトークを楽しみましょ。」 牡丹: 「もう、本当にからかうのが好きですよねマスターって。」 マスター: 「あら、私はただ恋する乙女を応援しているだけよ。」 その後、少しの時間マスターとの会話やコーヒーを楽しんだ。話に夢中になっていると、辺りはだんだんと暗くなっていった。 マスター: 「あら、もうこんな時間なのね。最近は暗くなるのが早いわね。」 牡丹: 「まぁもう年末ですからね。そろそろお暇しようかね。」 女性: 「あっ!いた!こんなところにいたのね牡丹。」 私が帰ろうと支度をしていると、1人の女性が入店してきた。私はその声で入店してきた女性が誰か一発で分かった。 牡丹: 「なんでここがわかったのよ。神楽(かぐら)。」 マスター: 「いらっしゃい。あなた牡丹ちゃんの知り合い?」 神楽: 「あっはい。」 マスター: 「そうなのね。まぁ一旦座りなさいな。牡丹ちゃんももう少しゆっくりしていきなさい。」 私と神楽は席に座り、マスターはサービスと言ってコーヒーを出してくれた。 牡丹: 「ありがとうございます。」 神楽: 「いただきます。」 コーヒーを飲んで落ち着いたところで神楽はマスターに自己紹介をした。 瑠璃: 「お騒がせしてすみません。私は牡丹の幼馴染の紅花神楽(べにばなるり)と言います。今は地元の市役所に勤めています。」 マスター: 「神楽ちゃんっていうのね。今日は何でここに来たの?」 瑠璃: 「今日はこの子に用があってこっちまで来たんです。」 神楽は私の頬をつねり、引っ張りながら答えた。 牡丹: 「ちょっと神楽痛いんだけど。」 神楽: 「うるさいわよ牡丹。だいたいあなたが全然電話に出なかったから大変だったんだからね。おばさんにあなたの住所を聞いて家に行ったのに家にはいないし。」 牡丹: 「そういえば今日はお昼前からここにいたから。」 神楽: 「あんたは昔っからそうよね。せめて、電話は出なさい。どんだけ探し回ったと思ってるの。」 牡丹: 「ごめんって。マスターとの話が盛り上がっちゃって。」 マスター: 「まぁまぁ神楽ちゃん。コーヒーでも飲んで落ち着きなさい。」 マスターが仲裁に入ってくれて、神楽はコーヒーを飲み干して一息ついた。 牡丹: 「神楽、今日うちに泊まっていくの?」 神楽: 「まさか、家に旦那と子供たちを置いてきてるのよ。帰るわ。」 マスター: 「あら、神楽ちゃんって旦那さんとお子さんがいるのね。」 神楽: 「はい、3年前に結婚して翌年に子供を出産しました。男の子と女の子の双子です。」 マスター: 「いいわね賑やかそうで。」 神楽: 「まぁ旦那も育児やってくれているのでなんとか頑張れてますね。多分もうすぐイヤイヤ期に入るのでそこが心配なですけど。」 マスター: 「神楽ちゃんの旦那さんっておいくつ?」 神楽: 「私の2歳年上なので27歳です。って私の話はいいんですよ。今日は牡丹に話があってきたのよ。」 神楽: 「牡丹、あなた最近おばさんからの電話あまり出ないでしょ。」 牡丹: 「だって、出るたびに結婚はまだかとか彼氏はいないのかとか聞かれるんだもん。お母さんは好きだけど流石にまいっちゃうよ。」 神楽: 「そうかもしれないけど。おばさんから伝言を預かってるわよ。」 牡丹: 「お母さんから?」 神楽はカバンから1枚の写真を取り出して私の前に置いた。 神楽: 「来年の4月までに彼氏ができなかった場合、この人とお見合いをしてもらいます。って。」
第5話 あと1歩
クリスマスの翌日の昼、私は待ち合わせ場所の駅前で翠君を待っている。普段のカジュアルメイクではなくしっかりと時間をかけてメイクをし、髪も普段は使わないアイロンなんかを使いばっちり決めた。服装も買ってほとんど履かなかったロングスカートにヒールブーツ、ニットにコートとまるでデートのためのコーデだ。 浮かれているのはわかっている。昨日の夜、翠君に誘われてからドキドキしすぎて夜も眠れず、今も待ち合わせ時間30分前に来てしまっているのだから。 翠: 「朝陽さん。お待たせしました。すみません待たせてしまって。」 改札から出てきた翠君が私に気づいて、走ってやってきた。いつものようなラフな私服ではなくジャケットを着てきれい目に決めた翠君を見て、見とれてしまった。 牡丹: 「大丈夫だよ。私が早く来ちゃっただけだし、翠君も早かったね。」 翠: 「俺から誘ったのに朝陽さんを待たせるわけにはいきませんからね。それじゃあ行きましょうか。」 牡丹: 「うん。」 私たちは予定通りに今話題の恋愛映画を見るために映画館へと向かった。映画館はクリスマスの翌日というのもあってかなり空いており希望通りの席をとることができた。 翠: 「空いていてよかったですね。かなりいい席が取れました。」 牡丹: 「クリスマスの次の日だものね。みんなゆっくりしたいのよ。」 その後、上映時間まで少し時間があったため私たちは近くのカフェに行くことにした。お互いに注文を済ませ、世間話に花を咲かせた。 牡丹: 「ちゃんと勉強してる?何気に大学の勉強って大変でしょ。」 翠: 「はい、何とかついて行ってます。まぁでも、高校とかとは違って自分の好きなジャンルの勉強しかしないので楽しいですね。」 牡丹: 「確かにそうね。あの頃みたいに6時間受けるのなんてもう無理だもんね。」 翠: 「今思うとすごいことしてましたもんね。」 いつの間にか時間が過ぎ、上映時間が近づいていた。お会計を済ませ、映画館へ向かい席に着いた。映画のクライマックス、翠君の方を見ると、大粒の涙を流しながら 食い入るように見ていた。私はそっとハンカチを渡して映画を楽しんだ。 牡丹: 「いやー感動したね。翠君泣いてたし。」 翠: 「すいません、どうもこういう展開に弱くて泣いてしまうんですよ。」 牡丹: 「いいことなんじゃない。感受性が豊かで、私はあまり表情が変わらないからね。うらやましいよ。」 翠: 「そうですか?朝陽さん結構わかりやすいですよ。」 牡丹: 「うそ、私会社で表情かわらないよねってよく言われるんだけど。」 翠: 「喫茶店いるときの朝陽さんは結構コロコロ表情かわりますよ。映画の時もかなり。」 今まであまり表情に出てなかったと思っていたのに、初めてそんなこと言われて恥ずかしくなった。 翠: 「次の場所行きましょうか。まだ時間はありますから。」 牡丹: 「そうね。」 それから私たちは、少し離れた食べ歩きができる商店街へ向かい食べ歩きを楽しんだ。あっとういう間に時間は過ぎていき、気づけば辺りはすっかり暗くなっていた。 翠: 「もうこんな時間ですね。それでは行きましょう。」 牡丹: 「?どこに行くの。」 翠: 「この後、お店を予約してあるんです。行きましょう。」 翠君が予約してくれたお店に向かうと、そこはかなりおしゃれな内装でウイスキーやリキュールなどのお酒の瓶がたくさん並んでいた。 翠: 「予約していた胡蝶です。」 定員: 「胡蝶様ですね。お待ちしておりましたこちらのお席へどうぞ。」 定員さんに個室の案内され、あまりにおしゃれな空間に呆気に取られていた。 翠: 「このお店、かなりリーズナブルでたくさんのお酒が楽しめるって有名なお店なんですよ。かなり人気だったんで予約出来てよかったです。」 牡丹: 「すごいね。かなりおしゃれだし場違いじゃないかな。」 翠: 「大丈夫ですよ。ここドレスコードなんてないですし、そんな緊張しそうなところ俺も嫌ですし。」 牡丹: 「そう、ならよかった。」 それぞれお酒を注文したお酒が届き、乾杯をした。 牡丹: 「今日は誘ってくれてありがとうね。いつもこの時期は家で寝てるしかなったからこうして出かけて楽しかったよ。」 翠: 「そういってもらってよかったです。無理しない程度でお酒楽しんでください。」 そこそこ飲んできもち酔ってきたころ、私は疑問に思っていたことを聞いてみた。 牡丹: 「翠君なんで私を誘ってくれたの?しかも、先輩の誘いを断ってまで。」 翠: 「・・きだからです。」 翠君はグラスに入ったお酒を飲み干し、何か言っていたが声が聞こえなず何を言っているのかわからなかった。 牡丹: 「ごめんなんて言った?」 翠: 「いえ、それはマスターからクリスマスに向けて朝陽さんが忙しいって聞いてたので労うのとクリスマスの代わりの思い出になったらと思って。」 牡丹: 「!ありがとう。」 翠君の答えに不意にドキッとしてしまったが悟られないように必死に笑顔を貫いた。2時間近く飲んだ後、解散ということで翠君が家に近くまで送ってくれた。 牡丹: 「今日はありがとう、ここまでで大丈夫だよ。もうすぐ近くだから。また喫茶店でね。」 翠: 「楽しんでいただけて良かったです。ご来店お待ちしてますね。」 翠君は別れた後、私が見えなくなるまで手を振っていた。家に帰りついた私は今まで我慢していた分、にやけが止まらなかった。 翠: 「はぁ、俺の意気地なし。」
第3章8話 調査2日目 ラスベガスのカジノ場
調査2日目 ラスベガスのカジノ場 領地調査の開始した日の夜、魔物の襲撃などのトラブルはなく無事に翌日を迎えることができた。 悠: 「おはよう愛奈。」 愛奈: 「おはようございます。よく眠れたようですね。」 悠: 「あぁ、特に異常はなかったようだな。」 愛奈: 「はい。」 その後も続々と、隊員たちが起床しテントから出てきた。 大和: 「団長、愛奈さんおはようございます。」 愛奈: 「おはよう大和。とりあえずみんな顔洗ってすっきりしてきなさい。」 大和たちは持ってきていた物資から水の入ったタンクを取り出し顔を洗った。大和たちが起きたのとほぼ同時に美月たちも起きて、テントから出てきた。 美月: 「お兄さん。おはようございます。」 悠: 「おはようみんな。よく眠れたみたいだね。」 陽姫: 「うん。よく寝たよ。」 夕影: 「・・うん、おはよう。」 夕影はまだ眠そうに目をこすっていた。 悠: 「3人とも顔洗おうか。一緒に行こう。」 悠は夕影たちをタンクのあるところまで連れていき、顔を洗った。全員の準備が終わったところで悠は隊員を集め、今日のミーティングを始めた。 悠: 「本日のミーティングを始める。その前に3人ともおいで。」 悠の呼びかけに悠の後ろに隠れていた美月たちが出てきた。 悠: 「昨日救出した子供たちなんだけど、流石に子供たちだけ返すってことができないからこのまま調査に連れていくことにした。だから、もしものことがあったらよろしくな。ちなみに右から美月・陽姫・夕影な。」 美月たちはまだ悠の服を掴んだまま離れようとしない。 大和: 「やっぱり師団長だけになついていますね。まだ俺らのことが怖いんっすか。」 悠: 「まぁゆっくり慣れていくさ。焦らずいこう。それで今日の予定だけど、今日は都市部のほうまで行こうと思う。愛奈、ここからの説明を頼む。」 愛奈: 「はい、まずはこちらの写真を見てください。」 隊員たちが各端末に送られた写真を確認すると上空から撮影された写真であった。 愛奈: 「この写真は先ほどドローンを飛ばして撮影した時の写真です。解析したところここから数十キロ離れたところにかなり大きな都市があることがわかりました。今日はここの調査です。」 悠: 「かなり広いから早くいかないと今日で終わらないかもしれない。今すぐ出発しよう。みんな車に乗ってくれ。」 隊員たちは車に乗り込み、写真に写った都市部へ向かった。車を走らせること30分、道中一度も生物に会うことなく都市部に到着した。 都市部は周辺の荒野に似合わず高層ビルが立ち並び、街の奥には美月たちがいた実験場より一回り大きいドーム状の建物が建てられていた。 大和: 「本当に大きい都市っすね。ほとんどの建物が10階以上あるっすよ。」 愛奈: 「ほんとにね。」 悠: 「とりあえず、あの一番目立つ建物に向かおうか。」 悠たちは真っ先にドーム状の建物に向かった。建物に到着し、中に入るとそこには巨大なカジノ会場が広がっていた。 愛奈: 「ここ全部がカジノの会場?うちの基地より広いわよ。」 悠: 「ぽいな。いったん手分けして生き残りがいないかと何か手掛かりがないか調査しようか。」 隊員: 「はい。」 悠たちは3手に別れて調査を始めた。少しすると、隊員の一人が何かを見つけたようで大きな声を上げて皆を収集した。 悠: 「何か見つけたのか?」 隊員: 「はい。ここの床だけ違和感を感じてめくってみたのですが。」 隊員が床をはがすと、人一人が通れるサイズの階段が出てきた。階段はかなり下まで続いており、明かりを照らしても一番下まで見えないほどであった。 悠: 「とりあえず降りてみるか。念のため隊員2名は上に残って調査を続けていてくれ。」 隊員: 「「了解。」」 悠たちは隊員2名を残し、階段を下っていった。だんだんと階段を下っていく程に上階のお酒と香水のような匂いとは異なり、血生臭い空気が漂っていた。一番下まで行くと、鼻で呼吸するのが嫌になるほどにおいが濃くなっていった。 愛奈: 「臭いにもほどがあるでしょう。ここで何があったっていうのよ。」 大和: 「まぁこの匂いで大方の予想はつくっすね。」 悠: 「あぁ。」 美月: 「あの・・お兄さん。」 あまりの匂いに立ち尽くしていると、美月は悠の裾を掴み手招きをしていた。 悠: 「どうした?気持ち悪くなった?」 美月: 「いえ、それは大丈夫です。それよりここは多分『ラスベガス』ですよね。」 悠: 「?あぁ確か来る途中の看板に『ラスベガス』って書いてあったな。それがどうかしたのか?」 美月: 「やっぱりですか。」 美月は何か思いつめたかのような顔をし、少しの間沈黙してしたが 美月: 「お兄さんたちと出会った実験場の近くあった町は『三欲(みよく)の町』といって魔物たちの3大欲求を満たすための町でした。ここ『ラスベガス』は別名『血と金の町』と呼ばれています。金はご存じの通りカジノの事をさしています。血は今から行く地下実験場の事をさしています。そして・・・。」 何かを伝えようとした美月だったが悠の裾を掴んでいた美月の手が震えだし、何か怖いことを思い出したのか涙目になってた。陽姫と夕影も美月と同様に悠のもとから離れようとせず悠の衣服に顔をうずめていた。 悠: 「なにかを伝えようとしてくれたんだね。でも、無理はしなくてもいいよ。無理に聞き出そうなんて絶対しないから話せるようになってからでいいよ。怖いのに勇気を持って話そうとしてくれてありがとうね。」 悠は子供たちを優しく抱きしめた。少し落ち着いたのか美月が 美月: 「はい、大丈夫です。ここの実験場は私たちがこのような姿になった場所です。」
第3話 念願と残酷
2年後・・・ 蒼一郎は未だに物見塔で襲撃に備えていた。だが、この2年の間で毎日のように来ていた襲撃が多くて月に1回程にまで減少していた。世界が平和に向かっていくのを実感しながら晴天の空をじっと眺めていた蒼一郎のもとに1人の男性が多くのスーツ姿の男性を連れてやってきた。 男性: 「貴様が群青蒼一郎か。」 蒼一郎: 「はいそうですけど。あなたは?」 男性: 「俺は外務省副大臣の沢渡新之助(さわたりしんのすけ)だ。我々についてこい。」 蒼一郎: 「ですが、ここにいないと襲撃が来たときに対応が・・・。」 沢渡: 「いいからついてこい。貴様は我々の言う通りにしろ。」 沢渡副大臣は蒼一郎の言葉を遮り、睨みつけた。蒼一郎はこれ以上言っても変わらなことを悟りついていくことにした。蒼一郎が立ち上がった瞬間、副大臣の後ろにいたスーツ姿の男性たちが近づき、蒼一郎に手錠をつけた。 沢渡: 「貴様に暴れられると困るからな。」 手錠をつけたまま蒼一郎は副大臣に連行された。 その頃、防衛省では今日の出来事の不安と夜の楽しみのことで全体が浮ついていた。 美琴: 「大臣、遂に今日ですよ。」 高宮: 「あぁ、うまく事が進めば今日が終戦の日だ。本当に長かった。」 そう、今日は総理が他3か国と終戦協定を結ぶ日である。終戦協定を結ぶことができれば国の方針であった和解による終戦と植民地国の独立化が果たせる大切な日である。それと同時に、今日は蒼一郎の誕生日でもある。無事に今日t例を結ぶことができたら夜には蒼一郎の誕生日パーティーを開く予定となっているため皆そわそわしていた。」 美琴: 「大臣、今総理が会場に着いたようです。」 高宮: 「そうか、みんな気を抜くなよ。結び終わるまで何があるかわからない周辺の警戒を怠るな。」 職員: 「「「はい!」」」 協定を結ぶ様子は生中継されており、国民全員が食いつくように映像を見ていた。少しの間、各国の代表が対談した後に協定を結ぼうとした瞬間、ある速報が流れた。速報のタイトルには『戦争犯罪者公開処刑』と書かれていた。 美琴: 「なにこれ?なんでこんな速報が・・・!」 高宮: 「どういうことだ?なんでこんなことに?」 流れてきた映像には手足を後ろで縛られて、昔の百叩きの刑のように警棒で何発も殴られている蒼一郎の姿だった。 高宮: 「八坂君!この中継の場所はどこだ。」 美琴: 「ここから車で30分くらいの外務省の敷地内です。」 高宮: 「今すぐ向かうぞ。他の職員は総理達の方の警戒!蒼一郎の方にも動きがあったら報告!」 職員: 「「「了解!」」」 高宮: 「行くぞ!八坂君。」 美琴: 「はい!」 高宮防衛大臣と美琴は直ぐに車に乗り込み、外務省へ向かった。 美琴: 「でもなんで急にこんなことをしたんでしょうね。外務省は。」 高宮: 「外務省は蒼一郎のことをあまりよく思ってなかったからな。会議でも蒼一郎のことを『戦争の長続きさせている張本人』って言ってたしな。」 美琴: 「もしかしてですけど外務省の人たちは蒼くんに今回の戦争の全責任を押し付ける気じゃ。」 高宮: 「ありえないとは言えないな。とりあえず急ぐぞ。」 急いで現場に向かい、到着した頃には大量の人だかりができていた。人だかりを何とか進んでいき、蒼一郎をギリギリ視認できるところまで進むんだ。美琴たちの目に飛び込んできたのは血まみれで所々が赤く腫れあがり、全身あざだらけの見るに堪えない蒼一郎の姿であった。美琴たちは急いで人だかりを進んでいく。 沢渡: 「やぁ犯罪者、よく死ななかったな。反省はしたかね。」 蒼一郎は何も言わず、下向いたまま動かなかった。 沢渡: 「だんまりか。まぁいいだろう。お前は今から戦争を継続させ国民を危険にさらした責任を取ってもらう。最後に何か言いたいことがあるなら聞いてやらんこともないぞ。」 蒼一郎は正座の体制で背筋を伸ばし、沢渡副大臣をまっすぐ見つめて何も言わなかった。 沢渡: 「まただんまりか。まぁ反省したってことにしてやろう。その反省を生かせよ・・・来世でな。」 沢渡副大臣は数歩後ろに下がり、左手を上げると13人のライフル銃を持った男性が来て構えた。 沢渡: 「本来、わが国の処刑方法は絞首刑だがその状態では歩けないだろうから射殺に変更だ。疑似的な『死の階段』を味わえ。」 次の瞬間、沢渡副大臣の左手が下げられ13発の銃弾が蒼一郎の体に命中した。なんとか人だかりを抜けた美琴たちだったが抜けたころにはすでに13発の銃弾が命中し、蒼一郎は倒れていた。 美琴: 「蒼くん!」 高宮: 「蒼一郎!」 美琴と高宮防衛大臣は直ぐに蒼一郎のもとに駆け寄り抱き上げた。 美琴: 「蒼くん!蒼くん!しっかりして。お願い・・・目を覚まして。」 美琴の呼びかけに反して、蒼一郎の鼓動はどんどん弱くなり無慈悲に血が流れていく。 高宮: 「沢渡貴様!なんてことしてくれたんだ!なぜ蒼一郎を殺した。どこに殺す必要があった。」 沢渡: 「何を言ってるのですか防衛大臣殿。彼は他3か国の兵士たちを殺し続け、この戦争を長引かせた張本人ですよ。彼という存在がなかったらこの戦争はもっと早く終わっていたはずです。現に植民地になった国の人たちは誰か戦死しましたか?してないでしょう。つまりそういうことなんですよ。」 沢渡副大臣はなんの悪びれもなくつらつらと語った。 美琴: 「蒼くん・・。」 蒼一郎: 「・・泣かないでください。」 目を覚ました蒼一郎は右手を美琴の頬にあて涙を拭きとった。 美琴: 「蒼くん!まってて今救急車を。」 蒼一郎: 「いや、間に合いません。これだけを血を流したらもう助からないでしょう。もう充分です。あなたたちは俺に居場所を与えてくれた、深い愛を注いでくれた。十分です。一緒にお酒を飲めなかったことだけが心残りですけど。」 蒼一郎: 「本当に防衛省の皆さんには感謝しています。こんな俺と嫌な顔せず関わってくれてみんな大好きです。美琴さん、最後にこんなことを言うのはずるいかもしれませんが俺はあなたが好きです。1人の女性として。」 美琴: 「嫌だよ、最後なんて言わないでよ。私もあなたが好きなの、あなたのやさしさも強さも弱さも全部が好きなの。お願い行きたいって言って、好きな人を失いたくないよ。」 美琴は気づいていた。こうしている間にも刻一刻と蒼一郎が死に近づいていることに。鼓動が弱まり体がだんだん冷たくなっていっていることに。呼吸も浅くなり目も開かなくなっていることに。 蒼一郎は口から大量に吐血し何かを悟ったかのような顔をした。 蒼一郎: 「ごめんなさい。お別れの時間です。さようなら俺の大好きな居場所、大好きな人。」 美琴の頬にあてていた右手が地面へ落ちていった。高宮防衛大臣が急いで蒼一郎の首に手を立て脈を確認した。 高宮: 「・・・群青蒼一郎死亡確認。」 7月24日真夏日、雲一つない晴天の下。群青蒼一郎、出血多量で死亡。享年20歳。
第2話 想いと約束
中国の潜水艦を殲滅した日の夜、蒼一郎はいつものように周辺の監視を続けていた。 男性: 「やぁ蒼一郎。体調に変化はないかね。」 蒼一郎が声の聞こえたほうに目を向けると、蒼一郎の後ろにブラウンスーツに黒色のチェスターコートを羽織った白髪オールバックの中年男性が立っていた。 蒼一郎: 「高宮さん。特に問題はありません。」 蒼一郎の後ろに立っていた中年男性は現防衛大臣で蒼一郎の直属の上司である高宮豊(たかみやゆたか)。蒼一郎のことを本当の息子のようにかわいがっており、たまにこうして蒼一郎に会いに来る。 高宮: 「そうか、それは何より。それよりやはりここは寒いな。まだ、夏本番だというのに。」 蒼一郎: 「まぁ、ここはスカイツリーより高いですしガラスも何のないですからね。」 高宮: 「今日も日本を守ってくれたそうだな。ありがとな。」 高宮防衛大臣はそっと蒼一郎の頭に手を置いた。 蒼一郎: 「それが俺の仕事ですから。他の国の戦闘機も日に日に進化してますから気も抜けません。」 高宮: 「そうだな、情けないかもしれないけどお願いするよこの国のこと。出来る限りサポートはするから。」 蒼一郎: 「任せてください。拾ってもらった恩がありますからこうして戦えるのも国のおかげですし。」 蒼一郎のその言葉を聞いて高宮防衛大臣の顔は一気に曇った。蒼一郎が各国の最新鋭の戦闘機と一人で戦えるのは12歳からの3年間、壮絶な戦闘訓練を受けてきたからである。朝から夜遅くまでほとんど休憩なしのオーバーワークが怪我をしようが風邪をひこうが毎日続けられた。蒼一郎はこの訓練のおかげでといって恩を感じているが、高宮防衛大臣を含めた一部の上層部の人間は負い目を感じていた。 ある日、強さに変わりに壊れていく蒼一郎を見た高宮防衛大臣は蒼一郎を戦闘訓練から逃がす目的で防衛省で身柄を預かった。 だが、身柄を預かって間もなく第3次世界大戦が勃発した。多くの国がアメリカら3か国の植民地になっていく中、遂に日本にも多くの戦闘機が押し掛けてきた。3か国との軍事力の差に絶望し植民となる覚悟をしていた時、上層部はある報告を受けた。「襲ってきた3か国の戦闘機が全滅した」と。すぐに現場近くの監視カメラの映像を見るとそこには刀を握り血まみれの状態の蒼一郎であった。 その日から上層部は日本の防衛を蒼一郎に一任した。 高宮: 「ありがとな。何かあったら相談してくれよ。」 その時、蒼一郎のご飯を持って美琴が訪れた。 美琴: 「蒼くん、ご飯を持ってきたよ。って大臣も来てたんですか。」 高宮: 「なんだ?来たら悪いか八坂君。俺だってたまには蒼一郎と親睦を深めたいのだよ。今までさみしい思いをさせた分、たくさんかまってあげないと。」 美琴: 「その件なら大丈夫ですよ。私が毎日会って話をしてますから。それにこの間、蒼くんが20歳になったら一緒にお酒を飲もうねって約束もしたんですよ。ねぇ蒼くん。」 高宮: 「何!そんな話は聞いてないぞ。」 美琴: 「それはそうですよ。私と蒼くんの約束なんですから。」 高宮: 「ずるいぞ。俺も蒼一郎と酒を酌み交わしたい。それに八坂君はお酒弱いだろう、ここはお酒が強い私が適任だな。」 美琴: 「なあに言ってるんですか。大臣は酔ったら絡み酒が過ぎるんですから蒼くんがトラウマになったら大変です。ここが大人なの見方ができる私が適任でしょう。」 高宮: 「何を。」 蒼一郎: 「ふっ。」 2人の言い合いを聞いていた蒼一郎は思わず笑ってしまった。 蒼一郎: 「すみません。この先何があるかわからないのに実現できるかどうかわからない未来の話を真剣にしているのが面白くて。後2年もあるのに。」 高宮: 「何言ってるんだ?実現させるに決まってるだろ。それに『2年も』じゃなくて『2年しか』な。」 蒼一郎: 「え?」 高宮防衛大臣の予想外の回答に蒼一郎は驚きを隠せなかった。 高宮: 「俺たち防衛省の目標は和解による終戦だ。総理達も納得してくださってそのように進めている。君の青春を奪った大人と戯言と思うかもしれない情けないと思うかもしれないが、聞いてくれ。後2年だ。必ず、2年以内に和解による終戦をして見せる。だから、それまでは日本を頼む。」 高宮防衛大臣は深く頭を下げた。 蒼一郎: 「もとろんです。これ以上無駄な争いは俺もしたくありません。信じてますよ大臣。終戦したらみんなでおいしいお酒飲みましょう。約束です。」 蒼一郎は大臣にそばにより右手の小指を差し出した。 高宮: 「あぁ任せてくれ。必ず成し遂げてみせる。」 高宮防衛大臣は蒼一郎と指切りをした後、防衛省へ戻っていった。大臣が戻った後、美琴は蒼一郎の横に座った。 美琴: 「ご飯食べましょう。」 2人は並んで夕食を食べ始めた。 美琴: 「さっきの話になるんだけど。大臣も言ったように私たちは和解による終戦と植民地になっている国の独立化に向かって動いているわ。楽や道のりではないことは百も承知だけどこれ以上無駄な争いはやりたくないの。後2年、蒼くんあなた1人には多大な負担をかけるかもしれない。ごめんなさい。」 蒼一郎は口に含んでいたご飯を飲み込み、箸をおいた。 蒼一郎: 「八坂さん、俺はこの3年間一人で戦ったなんて思ったことはないですよ。俺が安心して戦えるのもサポートしてくれているあなた方防衛省や自衛隊の皆さん、総理などの上層部の方々がいるからです。外交官の方々や外務省の方々は多分俺のことが嫌いでしょうけど。今の日本があるのは何も俺だけの成果ではありません。みんなで守った国です。だから、俺は信じてます八坂さんたちが必ず成し遂げてくれることに。」 美琴: 「蒼くん・・。」 蒼一郎: 「それにみてください。」 蒼一郎は満天の星空を指さした。 蒼一郎: 「今俺がこんなきれいな夜空を見れるのは、あの日空っぽの俺を見つけてくれてたくさんの愛情を注いでくれた皆さんがいるからです。感謝してもしきれないくらいですよ。大臣はいつも気にかけてくれるし、八坂さんは毎日会いに来てくれてお話ししてくれる。ただそれだけだと思うかもしれませんが俺にとっては十分すぎるくらい活力をもらってます。だから、後2年俺も頑張ります。互いにやり遂げましょうね。」 蒼一郎が話し終わるころには美琴の顔は涙でボロボロになっていた。自分たちの愛情がちゃんと彼に届いていることの安心感と彼の言葉のやさしさに美琴は涙を抑えることができなかった。 蒼一郎: 「すごい顔になってますよ。これで涙拭いてください、もう少し一緒に星でも見ましょ。」 美琴: 「ありがとう、絶対成功させて見せるわ。」 蒼一郎: 「楽しみにしてますよ。終わったらおすすめのお酒教えてくださいね。あまり度数が高くない奴で。」 美琴: 「任せなさい。」 それから2年後・・・ 終わりは突然やってくる。
第1話 実力と過去
第3次世界大戦中の日本は、他国の襲撃を受けていないため建物の崩壊や田畑などの損害もなく世界大戦以前の生活状態を維持していた。さらに、日本は本来防衛費の回すはずの予算を新たな食糧の開発や田畑・養豚、養鶏場などの支援に回したため他の国のような食糧不足に陥っていなかった。 政府が戦時中にこのような大胆な政策がとることができたのも、偏に日本を守る1人の番人の存在が大きかった。 東京は防衛省のすぐそばに佇む高さ800mの物見塔。そのてっぺんに居座るのが日本を守る最強の番人。その場所に1人の女性が訪れた。 女性: 「蒼(そう)くん。ご飯持ってきたよ。」 少年: 「八坂(やさか)さん。ありがとうございます。」 濃い青色の着物を身にまとい、腰に1本の刀を携えている少年の名は群青蒼一郎(ぐんじょうそういちろう)。15歳から現在まで日本を守り続けてきた18歳。そして、蒼一郎のもとに食事を届けに来たの女性が八坂美琴(やさかみこと)。防衛省の職員であり、蒼一郎のお世話及び監視の命を受けている22歳。お世話と言っても1日3回の食事の配膳と蒼一郎が風呂に入っている間の周辺の監視、後は蒼一郎と話すことくらいだ。 美琴: 「もう蒼くん。私たちそんなに年も離れてないし、出会って1年以上たつんだしそんなよそよそしくしなくてもいいじゃない。美琴さんって呼んでもいいのよ。美琴お姉ちゃんでもいいわよ。」 蒼一郎: 「変な冗談はやめてください。いただきます。」 蒼一郎は手を合わせてから、ご飯を食べ始めた。 美琴: 「もぉ、冗談じゃないのに。それで蒼くん、今日はどんな感じなの?」 蒼一郎は口いっぱいに入ったご飯を飲み込み、お茶を飲んでから答えた。 蒼一郎: 「今日はまだ一機も来てないですね。このままどこも来なければいいですけどね。・・・!」 蒼一郎: 「言ってるそばから。」 蒼一郎は残っているご飯を急いで口にかきこみ、お茶で流し込んだ後立ち上がった。 美琴: 「どうしたの?」 蒼一郎: 「来ました。今回は中国の潜水艦3隻ですね。八坂さんは戻って住民にばれないように警戒するように防衛大臣に言っておいてください。東京湾の方向です。」 美琴: 「了解。気を付けてね。」 蒼一郎は物見塔から飛び降り、装着したパラグライダーを展開させ急いで現場に急行した。美琴は蒼一郎に言われた通り、急いで防衛省に戻って防衛大臣に警戒するように伝えた。 美琴: 「彼によると、今回は中国の潜水艦が3隻だそうです。」 防衛大臣: 「そうか、八坂君何人か連れて現場に急行しなさい。彼がもし怪我をしたら大変だし、絶対上陸しないとは限らないからな。しかし、大勢で行くと住民の皆様が怖がるから君含め合計3人まで許可する。」 職員: 「では、現場近くの自衛隊に要請いたします。」 防衛大臣: 「あぁ、そうしてくれ。八坂君頼んだぞ。」 美琴: 「はい。」 美琴は直ぐに準備して、蒼一郎が向かった現場に車で急行した。現場に到着すると、自衛隊2名がすでに到着、警戒していた。 美琴: 「すみません遅くなりました。状況はどうですか?」 自衛隊員: 「特に上陸してくる様子はありません。今日は市場も休みですから人もいないので避難遅れの心配はありません。」 美琴: 「わかりました。待機しておきましょう。」 自衛隊員: 「「了解。」」 次の瞬間、東京湾の沖の方から大きな音と巨大な水しぶきが上がった。美琴が双眼鏡で確認すると水しぶきがあった場所には潜水艦であったであろう鉄の塊がいくつか浮かび上がっていた。自衛隊員たちが唖然としていると、蒼一郎が岸から上がってきた。 蒼一郎: 「あっ、八坂さん。終わりましたよもう上陸してくる心配はありません。」 美琴: 「お疲れ様、怪我はない?」 蒼一郎: 「はい、ありません。・・自衛隊の方ですか?警戒ありがとうございますもう大丈夫ですよ。」 自衛隊員はあまりの呆気なさに言葉を失っていた。 蒼一郎: 「あの?大丈夫ですか?」 自衛隊員: 「え?あっはい。大丈夫です。あまりにも呆気なかったので、お疲れ様です。」 蒼一郎: 「別の楽だったわけではないですよ。日に日に各国の軍事兵器たちの協力になっていきますし、ですが、これが俺の仕事なのでいつでも頼ってくださいね。この国を必ず守って見せますから。それでは、失礼いたします。」 蒼一郎は自衛隊員に微笑みながら会釈して、物見塔へと帰っていった。 自衛隊員: 「なんかイメージと違いました。自分はもっと武骨で冷たい人だと思ってました。」 自衛隊員: 「俺も。確か彼の存在は住民の皆様は知らないんでしたっけ?」 美琴: 「えぇ、彼の存在を知ってるのは国の上層部と一部の警察官・自衛隊だけです。なぜか、総理と防衛大臣以外の上層部の人たちが彼の存在を隠したがっていて、まぁ公表するメリットもないんですけど。」 自衛隊員: 「ですが、噂以上に強いですね。他の国の軍事力を1人で圧倒するこの国の番人は。」 自衛隊員: 「答えられたらでいいんですけど、彼の家族は?」 美琴: 「・・いません。いえ、正確に言うとどこにいるのかがわからないですね。」 美琴は暗い顔になりながら答えた。 美琴: 「私が彼にあったのは去年のことなので詳しいことはわからないのですが、防衛大臣の話によると彼はいわば捨て子です。彼の両親は彼が物心ついたころに育児放棄して、遠い山奥に彼を捨てました。彼は何とか山を下山して、東京と栃木の県境辺りを徘徊していたボロボロの彼を警察が保護しました。その後、彼は孤児院の入ったのですが周りになじめずずっと独りぼっちでした。」 美琴が続きを話そうとした時、美琴のスマホに防衛省に戻ってくるようメッセージが入った。 美琴: 「すみません。呼ばれたので戻りますねお疲れさまでした。」 自衛隊員: 「あっちょっと!行ってしまいましたね。少年の過去は気になりますが我々も持ち場に戻りますか。」 自衛隊員: 「あぁそうだな。・・・孤独故の依存か。」 自衛隊員も自分たちの持ち場へと戻っていった。