白椿

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白椿

主に小説を書いてます。 気まぐれ投稿です。

河川敷

 買い物に行こうと歩いていた。気まぐれに近付いてきた太陽と共に橋の下を見下ろしていて、ふと気付く。  河川敷だ。  いや、その存在自体には気付いていた。というか普通にそれだとはわかっていた。  しかし、果たしてここまで「河川敷」を体現した場所を今まで見たことがあっただろうか。  これまで見てきた川といえば、元気に草で覆われたコンクリートと寄り添うものだとか、大きいには大きいが人の降りる場所もなく流れているだけのものだとか、あとは山の中で階段からやってくる人々を迎え入れるものだとか、まあとにかく川のそばに広場なんてなかった。  一方で、目の前に広がる川はどうだろう。川の両側に、すぐにでも川へ飛び込めそうな高さで大地が広がっているではないか。まさに、下校中の高校生やらが坂で寝転がっていたり、昼間には広場で小学生たちがサッカーでもしていたり、さらには堤防上の道路で犬の散歩やランニングをしている人がいそうな空間だ。  漫画の中にしか無さそうな河川敷がこれほど身近に実在するとは。  ジリジリと迫る熱気の中、ワクワクと心が踊る感覚を胸に抱いた。  目的地へと向かいつつも、その脳内は「もしかしたら」の拡大に取り掛かる。  昨日は生憎の天気で今でもまだ水溜まりが残っているが、きっとこれが無くなれば人々が集まってくるに違いない。川に近い場所には小さな柵も立てられていることだし、よく子どもたちが遊びに来るのだろう。今は何もない平地だが、時にはサッカーゴールだとか、ベースだとか、知識がないから分からないが、ともかく何かそういったものが現れるのかもしれない。時にはこの橋の下で喧嘩が巻き起こり、どこかの誰かが友情を深めることだってあるやも。  「河川敷」とは、フィクションの世界ではど真ん中と言ってもいいほどに青春の一部へと組み込まれている。スポーツ、恋愛、ヤンキー、たまにヒューマンドラマ……。  ――だからこそ、このような妄想頭にとっては大変栄養価の高い場所になっているのだが。

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河川敷

河川敷

 買い物に行こうと歩いていた。気まぐれに近付いてきた太陽と共に橋の下を見下ろしていて、ふと気付く。  河川敷だ。  いや、その存在自体には気付いていた。というか普通にそれだとはわかっていた。  しかし、果たしてここまで「河川敷」を体現した場所を今まで見たことがあっただろうか。  これまで見てきた川といえば、元気に草で覆われたコンクリートと寄り添うものだとか、大きいには大きいが人の降りる場所もなく流れているだけのものだとか、あとは山の中で階段からやってくる人々を迎え入れるものだとか、まあとにかく川のそばに広場なんてなかった。  一方で、目の前に広がる川はどうだろう。川の両側に、すぐにでも川へ飛び込めそうな高さで大地が広がっているではないか。まさに、下校中の高校生やらが坂で寝転がっていたり、昼間には広場で小学生たちがサッカーでもしていたり、さらには堤防上の道路で犬の散歩やランニングをしている人がいそうな空間だ。  漫画の中にしか無さそうな河川敷がこれほど身近に実在するとは。  ジリジリと迫る熱気の中、ワクワクと心が踊る感覚を胸に抱いた。  目的地へと向かいつつも、その脳内は「もしかしたら」の拡大に取り掛かる。  昨日は生憎の天気で今でもまだ水溜まりが残っているが、きっとこれが無くなれば人々が集まってくるに違いない。川に近い場所には小さな柵も立てられていることだし、よく子どもたちが遊びに来るのだろう。今は何もない平地だが、時にはサッカーゴールだとか、ベースだとか、知識がないから分からないが、ともかく何かそういったものが現れるのかもしれない。時にはこの橋の下で喧嘩が巻き起こり、どこかの誰かが友情を深めることだってあるやも。  「河川敷」とは、フィクションの世界ではど真ん中と言ってもいいほどに青春の一部へと組み込まれている。スポーツ、恋愛、ヤンキー、たまにヒューマンドラマ……。  ――だからこそ、このような妄想頭にとっては大変栄養価の高い場所になっているのだが。

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河川敷

河川敷

 買い物に行こうと歩いていた。気まぐれに近付いてきた太陽と共に橋の下を見下ろしていて、ふと気付く。  河川敷だ。  いや、その存在自体には気付いていた。というか普通にそれだとはわかっていた。  しかし、果たしてここまで「河川敷」を体現した場所を今まで見たことがあっただろうか。  これまで見てきた川といえば、元気に草で覆われたコンクリートと寄り添うものだとか、大きいには大きいが人の降りる場所もなく流れているだけのものだとか、あとは山の中で階段からやってくる人々を迎え入れるものだとか、まあとにかく川のそばに広場なんてなかった。  一方で、目の前に広がる川はどうだろう。川の両側に、すぐにでも川へ飛び込めそうな高さで大地が広がっているではないか。まさに、下校中の高校生やらが坂で寝転がっていたり、昼間には広場で小学生たちがサッカーでもしていたり、さらには堤防上の道路で犬の散歩やランニングをしている人がいそうな空間だ。  漫画の中にしか無さそうな河川敷がこれほど身近に実在するとは。  ジリジリと迫る熱気の中、ワクワクと心が踊る感覚を胸に抱いた。  目的地へと向かいつつも、その脳内は「もしかしたら」の拡大に取り掛かる。  昨日は生憎の天気で今でもまだ水溜まりが残っているが、きっとこれが無くなれば人々が集まってくるに違いない。川に近い場所には小さな柵も立てられていることだし、よく子どもたちが遊びに来るのだろう。今は何もない平地だが、時にはサッカーゴールだとか、ベースだとか、知識がないから分からないが、ともかく何かそういったものが現れるのかもしれない。時にはこの橋の下で喧嘩が巻き起こり、どこかの誰かが友情を深めることだってあるやも。  「河川敷」とは、フィクションの世界ではど真ん中と言ってもいいほどに青春の一部へと組み込まれている。スポーツ、恋愛、ヤンキー、たまにヒューマンドラマ……。  ――だからこそ、このような妄想頭にとっては大変栄養価の高い場所になっているのだが。

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河川敷

河川敷

 買い物に行こうと歩いていた。気まぐれに近付いてきた太陽と共に橋の下を見下ろしていて、ふと気付く。  河川敷だ。  いや、その存在自体には気付いていた。というか普通にそれだとはわかっていた。  しかし、果たしてここまで「河川敷」を体現した場所を今まで見たことがあっただろうか。  これまで見てきた川といえば、元気に草で覆われたコンクリートと寄り添うものだとか、大きいには大きいが人の降りる場所もなく流れているだけのものだとか、あとは山の中で階段からやってくる人々を迎え入れるものだとか、まあとにかく川のそばに広場なんてなかった。  一方で、目の前に広がる川はどうだろう。川の両側に、すぐにでも川へ飛び込めそうな高さで大地が広がっているではないか。まさに、下校中の高校生やらが坂で寝転がっていたり、昼間には広場で小学生たちがサッカーでもしていたり、さらには堤防上の道路で犬の散歩やランニングをしている人がいそうな空間だ。  漫画の中にしか無さそうな河川敷がこれほど身近に実在するとは。  ジリジリと迫る熱気の中、ワクワクと心が踊る感覚を胸に抱いた。  目的地へと向かいつつも、その脳内は「もしかしたら」の拡大に取り掛かる。  昨日は生憎の天気で今でもまだ水溜まりが残っているが、きっとこれが無くなれば人々が集まってくるに違いない。川に近い場所には小さな柵も立てられていることだし、よく子どもたちが遊びに来るのだろう。今は何もない平地だが、時にはサッカーゴールだとか、ベースだとか、知識がないから分からないが、ともかく何かそういったものが現れるのかもしれない。時にはこの橋の下で喧嘩が巻き起こり、どこかの誰かが友情を深めることだってあるやも。  「河川敷」とは、フィクションの世界ではど真ん中と言ってもいいほどに青春の一部へと組み込まれている。スポーツ、恋愛、ヤンキー、たまにヒューマンドラマ……。  ――だからこそ、このような妄想頭にとっては大変栄養価の高い場所になっているのだが。

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河川敷

河川敷

 買い物に行こうと歩いていた。気まぐれに近付いてきた太陽と共に橋の下を見下ろしていて、ふと気付く。  河川敷だ。  いや、その存在自体には気付いていた。というか普通にそれだとはわかっていた。  しかし、果たしてここまで「河川敷」を体現した場所を今まで見たことがあっただろうか。  これまで見てきた川といえば、元気に草で覆われたコンクリートと寄り添うものだとか、大きいには大きいが人の降りる場所もなく流れているだけのものだとか、あとは山の中で階段からやってくる人々を迎え入れるものだとか、まあとにかく川のそばに広場なんてなかった。  一方で、目の前に広がる川はどうだろう。川の両側に、すぐにでも川へ飛び込めそうな高さで大地が広がっているではないか。まさに、下校中の高校生やらが坂で寝転がっていたり、昼間には広場で小学生たちがサッカーでもしていたり、さらには堤防上の道路で犬の散歩やランニングをしている人がいそうな空間だ。  漫画の中にしか無さそうな河川敷がこれほど身近に実在するとは。  ジリジリと迫る熱気の中、ワクワクと心が踊る感覚を胸に抱いた。  目的地へと向かいつつも、その脳内は「もしかしたら」の拡大に取り掛かる。  昨日は生憎の天気で今でもまだ水溜まりが残っているが、きっとこれが無くなれば人々が集まってくるに違いない。川に近い場所には小さな柵も立てられていることだし、よく子どもたちが遊びに来るのだろう。今は何もない平地だが、時にはサッカーゴールだとか、ベースだとか、知識がないから分からないが、ともかく何かそういったものが現れるのかもしれない。時にはこの橋の下で喧嘩が巻き起こり、どこかの誰かが友情を深めることだってあるやも。  「河川敷」とは、フィクションの世界ではど真ん中と言ってもいいほどに青春の一部へと組み込まれている。スポーツ、恋愛、ヤンキー、たまにヒューマンドラマ……。  ――だからこそ、このような妄想頭にとっては大変栄養価の高い場所になっているのだが。

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河川敷

河川敷

 買い物に行こうと歩いていた。気まぐれに近付いてきた太陽と共に橋の下を見下ろしていて、ふと気付く。  河川敷だ。  いや、その存在自体には気付いていた。というか普通にそれだとはわかっていた。  しかし、果たしてここまで「河川敷」を体現した場所を今まで見たことがあっただろうか。  これまで見てきた川といえば、元気に草で覆われたコンクリートと寄り添うものだとか、大きいには大きいが人の降りる場所もなく流れているだけのものだとか、あとは山の中で階段からやってくる人々を迎え入れるものだとか、まあとにかく川のそばに広場なんてなかった。  一方で、目の前に広がる川はどうだろう。川の両側に、すぐにでも川へ飛び込めそうな高さで大地が広がっているではないか。まさに、下校中の高校生やらが坂で寝転がっていたり、昼間には広場で小学生たちがサッカーでもしていたり、さらには堤防上の道路で犬の散歩やランニングをしている人がいそうな空間だ。  漫画の中にしか無さそうな河川敷がこれほど身近に実在するとは。  ジリジリと迫る熱気の中、ワクワクと心が踊る感覚を胸に抱いた。  目的地へと向かいつつも、その脳内は「もしかしたら」の拡大に取り掛かる。  昨日は生憎の天気で今でもまだ水溜まりが残っているが、きっとこれが無くなれば人々が集まってくるに違いない。川に近い場所には小さな柵も立てられていることだし、よく子どもたちが遊びに来るのだろう。今は何もない平地だが、時にはサッカーゴールだとか、ベースだとか、知識がないから分からないが、ともかく何かそういったものが現れるのかもしれない。時にはこの橋の下で喧嘩が巻き起こり、どこかの誰かが友情を深めることだってあるやも。  「河川敷」とは、フィクションの世界ではど真ん中と言ってもいいほどに青春の一部へと組み込まれている。スポーツ、恋愛、ヤンキー、たまにヒューマンドラマ……。  ――だからこそ、このような妄想頭にとっては大変栄養価の高い場所になっているのだが。

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河川敷

荷運び

 道端で友人と話していると、二人の顔見知りが向こうからやってきた。 「おお、エイサーにホッサーじゃないか!今日もデカい箱運んでるのか。」  前後に並んだ二人の間には一本の棒に吊り下げられた重そうな木箱があった。どっかの国ではこんな感じの乗り物もあるらしいが、全く乗り心地が悪そうだ。 「おうよ!なんてったって、俺たちゃ力自慢のヨイドイ兄弟だからな!」 「デカくなけりゃあやり甲斐がないってもんさ!」  二人揃って片腕の力こぶを見せ、陽気にニカッと笑う。揃った動作は双子と言われても仕方がないだろう。 「それにしても、お前らを見てるとなんかが逆な気がしてならねぇなあ。」 「逆ぅ?何言ってんだ。服も荷物も性格も、ぜーんぶ合ってるだろうが。」 「ああそうさ。なんら正しいさ。一体どこが違うっつぅんだ。」  二人が言っていることは何も間違っちゃいない。フン、と不満げに鼻を鳴らすのも当然のことだ。 「いやあ、やっぱそうだよな。なんでもねぇ、気にしないでくれ。」 「よく分かんねえが分かった。そんじゃあな!」 「じゃあな!」  揃って手を上げ、二人が歩き出す。止まる前とと同じように、軽やかなリズムで。 「エッサ!」 「ホイサ!」  交互にそうやって言いながら。 『やっぱ逆な気がするんだよな』

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荷運び

不死蝶

 太陽が此の身を焼く感覚。幼少期には毎日のように抱いた感覚。彼の頃の私は、ただの一人の虫捕り小僧であった。  アブラゼミが一層鳴き叫ぶ日だった。私は何時もの如く網と虫籠を持って、近所の森に深く深く潜り込んだ。崖を上り、谷を下り、川を渡った。  森は危険な場所だ。ただ、幸運と言っても良いのだろうか、私は其の森で所謂 野生動物には出会わなかった。其れと引き換えに、奇妙なチョウは数え切れぬほど目にしてきた。しかし、社会とやらに出てから分かったが、其れらはただのチョウではなかったようだった。普通のチョウは、雷を操ることも無く、火の粉を振りまくことも無く、人を優に超えるほど大きくも無く、ほとんどは掌に収まり、ごくごく稀に毒を持つ程度らしかった。未だ小さかった私には、到底理解し得ない事実だった。  私は当たり前のように、当たり前の通じない森の中でチョウを追いかけた。捕まえたチョウ達を標本にするのが好きだった。まだ標本に居ないチョウが居れば、何処までも追いかけた。  其の時の私は、愚かにも神秘に近付いてしまった凡庸であった。  アブラゼミが鳴き止んだ時だった。私は枯葉が若い草を覆っている場所に辿り着いた。太陽が降り注ぎ、年老いた大樹が真ん中に腰掛け、其の胸の中には小さな命が芽吹いていた。肌を焼く光には似つかわしくない光景であった。いや、チョウの蛹があることは此の時期らしかっただろうか。今ではもう分からない。  恐らくは、此のチョウも普通とやらではなかったのだろう。いや、そう断言出来よう。そうでなければ、私は、得体の知れない其れを此の身に受け入れるなどという馬鹿なことはしなかった筈だ。私は、其れほど分別のつかない阿呆ではなかった筈なのだ。  以来、私は此の身で其のチョウと同居することとなった。自ら犯したことであるというのに、私は其の事実と直面すると、どうしても喉を掻きむしりたくなるのだ。どうしても、喉の奥が痒くて痒くて仕方がないのだ。  ああ、そうだ。彼れからすべてが狂ってしまった。私の人生を、彼のチョウが粉々にしてしまった。  最初に歪みが生まれたのは、きっと彼の事件だ。  私は実家にもっとも近い中学校へ通い始めた。近い、と言えども私の実家は山奥に位置する。其のために、 実家から学校に行こうとすれば、着いたときには時間割がまるっと変わっていることだろう。  そうして始まった下宿生活。慣れぬ環境で知りもしない親戚、学友たちと交流しなくてはならなかった。私程の田舎者はたったの一人もいなかった。  其れが原因なのか、私はよき友人を作るどころか、皆に除け者にされていた。主犯は小学校の頃から此処らを牛耳っていたらしい男児連中だった。  彼の日、いつも通り狭い教室で彼奴らがちょっかいをかけにきた。勝手も知らぬ野蛮人だとか、山奥に引きこもる未開人だとか、よく回る口が私に針を刺す。其れを聞き流していれば、機嫌を損ねたのか私の鞄を奪い取って中身を物色し始めた。此処までは変わらない。  しかし、其の日は詰めが甘かった。其れ迄であれば、鞄の中に欠かせないものを仕舞っておくことはなかった。見つかれば、捨てられるか、壊されるかするだけだと学んでいた。だが、此の時に限って、鞄にはチョウの標本を幾つか入れてあった。次の日からは連休が始まる。実家に帰る時に一緒に持っていこうと画策していたのだ。  彼奴らは目敏く其れを見つけた。決して動揺しなかった私が焦るのを見て醜く表情を歪め、嬉々として床に叩きつけた。固まる私。騒ぐ猿。  次の瞬間、猿たちの声が甲高く空気を裂いた。標本に釘付けられた目を前に向けると、赤い炎が悲鳴を上げていた。其の周りを同じ色のチョウが舞う。鱗粉のように火の粉が落ちた。  其れ以降、中学の同級生で私に近付く者は居なくなった。偶然目が合っただけだと言うのに逃げられることもあった。まるで、私が化け物か何かに見えるようだった。  次にひび割れたのは、家族と上京した先にあった高等学校であった。  此方に着くなり、両親は私に騒ぎを起こさぬよう言い聞かせた。何故其のようなことをするのかは分からなかった。彼れは彼奴らの自業自得だった。  しかし、私は言われた通り努めて優等生であろうとした。笑顔を被り、耳を貸し出し、旗を掲げた。教師からの評価は此れ以上ない程高くなった。同級生も此の偽りをいたく気に入った。其れを聞いて両親は鼻を高くした。  だが、何処であっても此のようないいこを嫌う者は必ず現れる。其の捻くれ者は、私の指示を聞かない奴だった。持ってこいと言えば置いてきた。言えと言えば口を噤んだ。止めろと言えば激化した。兎に角、天の邪鬼な奴だった。  或る時、私は蛍光灯の交換を任された。古い其れを取り外し、高い脚立の上から机に置いた新しいものを取ろうとした丁度其の時に彼がやってきた。其処で私は机の其れを渡してほしいと頼んだ。勿論、良ければ、だ。しかし、在ろうことか、彼は替えを遠くへ置いてしまった。態々、手に取って遠ざけたのだ。  明らかな嫌がらせを前に、流石の私も苛ついた。せめて古い方だけでも置いて呉れないか、と聞くと今度は素直に手を出した。珍しいこともあるものだとそっと手を離すと、少し間を空けて思わず身を竦めてしまうような音がした。笑顔が凍りつく。したり顔に強ばりが滲む。  息を吸う音を掻き消すように何かが弾けた。細めていた目を開けば、彼は破片を集めるように蹲っていた。丸められた背中を這うように白いチョウが走る。その羽は電気を纏っているかのようだった。  其れからは、彼の学校では蛍光灯を替えるのは完全に大人の仕事となったらしい。周りの人間は変わらず私の周りを囲んでいた。対して、彼の姿が見えなくなってしまったのが残念だった。  他にも幾度かチョウは現れた。新しく来た教師に馬鹿にされた時、出先で輩に絡まれた時、気に入らない人間が口答えしてきた時。出るチョウの姿は様々だった。共通していたのは、何れもが相手に襲いかかったことだけだった。そして、襲われた者は舞台から降り、私だけが残った。  チョウが現れる条件が時が経つにつれて些細なものになっている事には気付いていた。きっと彼のチョウが羽化したのだ。私の中に居座る彼のチョウが。そうだ。だから、彼れらは決して私の所為ではない。きっと、彼のチョウが酷く気が短いが為だ。  しかし、幸いな事に、歳を重ねるうちにチョウは弱っていった。私も簡単に心を揺らすことは無くなった。久々の平穏な生活だった。初めての普通の生活だった。有り触れた企業に勤め、朝から晩迄青白く光る液晶と戦い、月も帰り支度を始める頃に家に着き、そして何かをすることも無く布団に埋まった。異常であった過去とは打って変わり、只管に平坦な生活だった。  其のような日々も通り過ぎ、今や皺も幾らか広がり出した。最近、私は夢に彷徨っていた。昔を辿る夢。炎が少年達を焼き、電流が青年を甚振り、水が大人を苛んだ。赤、白、青、緑、紫……。チョウ達が舞っていた。苦しむ彼らを見て、一度瞬きをすれば、チョウは消え、私の手には何かしらが握られていた。燐斗、電撃銃、冷え始めた首、アカのこびりつく縄、花やかな香りの残る洗剤。嫌に生々しい光景だった。まるで、其れが現実であったかのようだった。其のような事は在った筈がないと言うのに。夢を見る度に、私はまるで殺人鬼になったような心地を抱いた。私の手は真っ白い手袋に覆われていると言うのに。  何時しか、私は眠るのが怖くなった。床にすら近付けなくなった。繰り返される惨劇を遠ざけたかった。  月と太陽が互いを追いかける様子を幾度と無く見守った。今は月が居なくなった太陽を探している所だった。  私は何を思ったのだろう。電気も付けぬ侭、月の光しか居ない洗面台に立ち寄った。鏡を見る。影が差す。動く。蠢く。  根性なぞ欠片も無さそうな悲鳴が聞こえた。私の口から出たものだった。私は尻餅をついていた。  有り得ない、在ってはならないものを見た。チョウだ。彼のチョウが居た。私の身体を覆い尽くすように彼のチョウが止まっていた。  肺が痛む。喉が張り付く。目眩がする。私は渇いた渦の中に居るのだろうか。そうであって欲しい。其れであれば彼のチョウも振り払われよう。  恐怖した割には早く呼吸が平常心を取り戻す。ああ、矢張りあれは幻覚だったのだ。もう一度鏡を見ればきっと分かる。彼のチョウなど居なかったのだ。そうだ。彼れはもう遥か昔に飛び去ったのだろう。  希望を実現しようと再び立ち上がった。月が雲の中を探し始めたのか、唯一の明かりも消えてしまった。ここからでは鏡は見えない。足腰の弱った老人のように前へ進む。鏡に触れる。洗面台が腹に食い込む。  月が顔を出した。  私が映る。チョウは居ない。そうか、矢張り只の幻覚だったのだ。寝不足が連れてきた不調だったのだ。渇き切った喉が鳴る。笑おうとした。  出来なかった。  私の背後に、否、私の背中からだ。大きな羽が現れた。粘性のある音が聞こえる。私の背中だ。畳まれた羽が徐々に形を整える。背中が開いている。頭部をさらけだす。裂け目が広げられている。八つの足が置かれ、触覚が飛び出す。身体の芯が失われる。  到頭腹まで出たらしかった。私は萎れた風船のように床に捨てられた。私は脱け殻だった。私が持つものは何もなかった。私は只の蛹を守る殻でしかなかったのだ。    隣人の通報を受け、警察が某氏の自宅を訪問した。夜中に叫び声が聞こえたと聞く。鍵は掛かっていなかった。薄汚れた賃貸物件の中は、白く皺ついた布団が端に追いやられ、食い散らかされた簡易食品の容器が彼方此方に散乱していた。箪笥には似たような服が二、三着しか無かった。更衣室の扉を開くと、某氏がうつ伏せに倒れていた。精神性衝撃死だった。  退却する際、一人の警察官が緑色の揚羽蝶を見たと言った。指した方には白い蛹の標本が在った。正しくは、標本らしきものが在った。其の警察官の発言は破棄された。緑色の揚羽蝶など此の世に存在しないと一蹴された。    後日遺品整理に業者がやってきた時には、其の蛹は何処にもなかった。其れ迄で出入りした者は居なかった。

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不死蝶

風の舞踏会

 ビュウ、と風が吹く。  私はそれに押し流されて、硬いアスファルトの上を転がっていく。  飛ばされて、転がって、落ち着いたと思ったら、また飛ばされて。  ふと気が付いた。  そばで半透明な誰かが舞っていた。  私と同じように風に流されてきたのに、ふわふわと美しく踊っていた。  ああ、きっと、あなたは風の妖精なのね。  また、ビュウ、と風が鳴く。  私は押し流されて、でも、今度はあなたの元へ惹き込まれていく。  差し出されたその誘いに、そっと身を寄せて応える。  舞うように、回るように、ふわふわと、くるくると、踊る。  ああ、私も、妖精になれたかしら。  こんなにも枯れ果てて、見るに堪えない姿だけれど、あなたに相応しくあれるかしら。  返事は聞こえてこないけれど、目の前のあなたはとても綺麗だから、きっと、風が止むまでパートナーよね、私たち。

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風の舞踏会

アカイロ

 いつの日か見た光景。  焼き付いて離れない、呪いのような光景。  何気なく歩いていた。高い高いマンションの前。  ふと影が落ちた。なんだろうと足を止めて、上を見た。  まだ日が落ちるには早い、未熟な夕方だった。  サクッと音が鳴って口に運んだ菓子が割れる。  あの時もおやつを買いに行った帰りだった。十五の表示はもうなくなっていたが。  白と黒が入り交じる視界からやっと解放されて、鼻歌交じりに休みを堪能していた。ホームページや掲示板を見て息を吐いたばかりの友人もいたが、少なくともこの身は楽々と息を吸っていた。  しかし、誰もが安心出来ることなどはあるはずがなかった。たとえ自分の周りが安堵に包まれていたとしても。  その時買った赤いグミは食べる気にはなれなかった。捨てるには勿体ないから、家にいた妹に押し付けた。  あれ以来、赤色の食べ物を避けるようになった。  食べられなくはない。その後の気分が悪くなるだけ。他のことに気を取られて全くの抵抗もなく口に運んだことだってある。  ただ、あのグミはどうしても食欲が逃げてしまう。  ここまで苦しめられるのなら、大好きな味だからといってじっくり噛み締めるのは間違いだった。  今ではもう大嫌いだ。  それこそ、目に入っただけで機嫌が底にめり込んでしまうぐらいには。 「どうしたの?」  絶賛開催中のお菓子会の主催者が心底不思議そうにこちらを覗き込む。 「すっごい険しい顔だけど……。」  そう言いながら、自らの眉間に山を作り上げる。おそらくはその目に映る顔も同じようになっているのだろう。  でこぼことした表面を撫でて平らに戻す。まだ少しだけ不機嫌が滲み出ているかもしれないが、これ以上はどうしようもない。 「何かあった?」  唯一の参加者がそんなに大切なのだろうか。なんでもないと返したはずだというのに、まるで聞こえていないかのような振る舞いだ。 「君があんな顔する時なんて、すごく嫌なことがあった時ぐらいだから。」  そう言うそちらこそ、ひどく落ち込んだ時ぐらいしかしない顔じゃないか。  そこまで気にするなら、そのグミをこちらから見えない場所に置いてくれさえすればいい。……など、たとえ仲のいい友人だとしても素っ気なさすぎるだろうか。 「あ、もしかしてお菓子気に入らなかった?!」  気のいい友人はこちらの様子から察してくれたようだ。今テーブルの上にあるお菓子をひとつ退けてくれるだけで十分……  いやこれはいいんだ。とても気に入っている。だから取らないでくれ。そのグミが嫌なんだ。代わりの物としてこちらに差し出さないでくれ。 「えっ!このグミがイヤなの?」  美味しいのに、という意見には賛成だ。実際、似たような味の菓子は好んで口に運んでいる。それも相まって驚いているのだろうが。 「嫌な思い出?」  必要以上の情報の付いていない、むしろ短すぎる言葉を反芻させる。自分の中で強く結びついてしまった情報たちは、相手の中では全く関係のないものたちだ。無理に手を繋がせる理由はないだろう。 「とりあえずこれは仕舞うけど……。」  瞳に好奇心が光る。それを追いかけてそっと遠慮の色が添えられる。隠しきれない本心を誤魔化しているように見えた。 「知ったら私も嫌な気持ちになるかもって?」  大丈夫でしょ、と根拠もない言葉にため息が出る。確信の揺るぎなさが表れた顔も、ここまで来ると憎たらしい。 「誰かに話せば案外楽になるかもしれないよ。」  あのグミをあれほど嫌う理由に目が眩んでいるのだろう。滅多に嫌いが出ないから。  ……もう隠すのは諦めてしまおうか。  新生活に踏み出してからできた友人は、どうやら一度痛い目を見ないと分からないようだから。 「全部キミのせいだ。」  私の大好きな赤いグミを嫌う親友がその重い口から吐き出した言葉は、お喋りな私の口を塞ぐには十分だった。 「あの時、キミが落ちてさえ来なければこうはならなかった。」  お腹の奥底から引っ張り出したのだろうその過去は、もうすっかり忘れた気になっていたものだった。  まさかアレを見られていただなんて。 「……ほら、言った通りじゃないか。」  その表情は、どちらを嗤っているのだろうか。君の忠告を簡単に流してしまった私?それとも、これを墓場まで持っていけなかった君自身? 「キミの赤色が、このグミの赤色を上書きしたんだ。」  時々紡がれる君の文才が溢れ出るような言い回しも、こんな状況じゃ泥に溺れるみたいだ。 「……キミが、呪いをかけたんだ。」

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