きと
255 件の小説きと
就労移行支援を経て、4度目の労働に従事するおじさんです。 あまり投稿は多くないかも知れませんが、よろしくお願いします。 カクヨム、エブリスタでも小説を投稿しています。
140文字小説+α その106 「上下巻」
欲しかった絶版本を偶然入った古本屋で見つけた。 でも、上巻しかない。 できれば、上下巻同時に欲しいけど……。 ええい、これも何かの縁! 上巻だけでも買ってしまえ! と、思って買い物してきたけど。 ……なんで同じ本の上巻が家に4冊あるんだろうね? マジで何してんの、私。 2冊なら分かる。4冊て。読みたかった本なのに、家で鎮座していることを忘れていたのか。しかも、3回も。 いや、分かっている。余っている3冊を売りに行けばいいんだ。 だが、大きな問題がある。 1つの店舗に3冊同時に持っていくとする。そうすると、「え、なんで同じ本3冊? まさか3冊も同じ本持ってたの? しかも単行本じゃなくて上巻を?」ってなるわけだ。 となると、店員さんに「いやー、同じ本を友達に同時にプレゼントされちゃいましてねー」と姑息なマネをする必要が出てきてしまう。 こうなると、私は友達からのプレゼントを売る非情な奴になる。 面倒だが、複数の古本屋の店舗に行くしかないか。 ……で後日、行ってきたわけだが。 別の本の下巻が、4冊になった。 餌を隠したことを忘れる動物並みにバカをしているぞ。
犬の気持ち その16
「お、黒子ちゃん。奇遇やな」 「おー、青。おっすおっす」 散歩中。青の友人である、黒子と出会った。 中学校時代からの友人……らしい。 のんびりしている感じで、つかみどころがない感じだ。 髪もフワフワだ。中に埋もれてみたい気もするが、怒られるだろうな。 そして、もうひとつ大きな特徴がある。 「黒子ちゃん。キャプテンは元気?」 「元気だよー。最近は、コタツに陣取りしてることが多いかな」 「はは、相変わらず大物な猫やな。キャプテンは」 そう。黒子は、キャプテンと言う三毛猫を飼っている。 キャプテンと言うと、人間を想像しがちだが、三毛猫だ。 なんでキャプテンっていう名前なのかは、知らない。 キャプテンは、リーダーみたいな感じの意味だよな? なんで猫が? いつも考えるが、答えは出ない。青も聞こうとしない。案外知っていているけど、そこまで深い意味はないのかもしれない。青が、気にしてないだけかもしれないが。 グルグルと考えていると、青が何かに気づいたようだ。 「ん? 黒子ちゃんの持っているのって、首輪?」 「そうなの。実はこれ、キャプテン新しい首輪なんだけど。付けようとしたら逃げちゃって……」 「え! 大変やん。探さんとな。手伝うで、ぽちもな」 勝手に参加させられたが、まぁいいか。 「よし、ぽち。匂いで探すんや。黒子ちゃんの服に多少なりとも匂い付いてるはずや。匂いは、薄いけども、ぽちならいける!」 買い被りがすごいな……。 期待されても困るんだが、とりあえず嗅いでみよう。 ……ん? この匂い……? 「お、ぽちが上の方を……?」 「あ、青の横の塀の上に!」 なんで気づかなかったんだよ、この2人。 ……いや、俺もか。
140文字小説+α その105 「海外の知識」
初めての海外旅行! 長いフライトを終え、ついにハワイに降り立った。 「ついに来たねー!」 「だね。看板も英語だ」 「……読める? あれは、出口って書いてあるんだよ」 「Exitくらい読めるわ、バカにすんな」 確かに英語のテストで12点取ったことあるけど! 「ああ、流石に分かるんだ。良かった……」 友人が、胸をなでおろす。 高校時代、赤点の女王、とすら呼ばれた私だが、それも昔の話。 めきめきと成長しているのだ。男子三日会わざれば刮目して見よ、と言うだろう。私、女子だけど。 「ちなみに、Taxiは読める?」 「えーと、バ……じゃない。タクシーだ」 「そこで間違えかけるから、心配してるんだよ……」 ぐうの音も出なかった。冷静に考えると、濁るようなアルファベットがなかった。 「……一応の確認だけど、外国だから時差があるのは、分かってる?」 「流石に知ってるわ、バカにすんな」 確かに地理のテストで、4点取ったことあるけど!
先輩の言い訳 その5
「生活空間について考えてみよう」 とある日の夕方。 研究室には、僕と先輩しかいない。 この状況は、少しばかり珍しい。 この時間になると、なんだかで書類仕事をしている研究者も多いものなのだが。 ちなみに僕と先輩は、その書類仕事も終えて、あとは帰るだけだ。 ……そのはずだったのだが、先輩の講義が始まったのだ。 「生活空間。意味としては、日常の生活を送るために必要な環境の範囲……、と言ったところだろう。これは、わざわざ言うことでもなく、漢字を見るだけでも分かるかもしれないな」 先輩が、研究室にあるホワイトボードへ板書していく。先輩の使っているマーカーのインクがきれ始めているのか、少しだけ文字がかすれていた。 「時に君。江戸時代の東京……、言うなれば江戸の人口は知っているか?」 江戸の人口。理系で、歴史は深く勉強してこなかった僕でも、おおよそは知っている。 「ええと、100万人くらいでしたっけ?」 「おお、やるな。じゃあ、現在の東京都の人口は分かるか?」 「うーんと、1300万人くらいですかね?」 「惜しい。約1419万人だ」 そんなにいるのか。小さな国なら人口全員が入ってしまう。 「さて、江戸時代と現在の人口を比較すると、約14倍になっているわけだが……、生活空間はどのように変化したのだろうな?」 確かに。江戸と東京の範囲は、多少は変わっているだろうが、それでも約14倍という人口が単純に収まるとは思えない。 「答えは、簡単だ。上下に広がったのさ」 「なるほど……」 僕は、深く納得した。 江戸時代には、高層ビルや地下の空間はない。あったとしても、今ほど大規模なものではないだろう。 横がダメなら、高さを利用する。 見る角度を変えたのだ。 そこで、先輩は僕に向き直って小さな胸を張った。 「そう! つまりは、発想の転換、見る角度の違いなのだ。もしかしたら、君のモンブランの栗も、乗っていたのではなく、ペースト状だったりクリームに練りこまれていたり――」 「いやいや、思いっきり頂点の部分に栗が乗っていた跡ついてますから。僕が、トイレ行ってる隙に先輩が食べたんでしょ? 見る角度とかの問題じゃないと思いますよ、この話」
140文字小説+α その104 「手作りチョコ」
「お願い! チョコ手作りしたいから手伝って!」 そう友人に頼まれた。 別に断る理由もないので、手伝うことに。 「それじゃあ、チョコを湯煎しようか」 「オッケー!」 友人は、お湯にチョコをそのままぶち込んだ。 前途多難だな、こりゃあ。 「いい? 湯煎っていうのは、お湯にボウルなんかを浮かべて、その浮かべたボウルの中でチョコを溶かすの。オッケー?」 「い、いえす、まむ」 とりあえず、正座させて湯煎を教える。 この子、「自炊してるからある程度できるよ!」とか言ってたけど、適当に言ったんじゃなかろうか。 「で? チョコ溶かすのはいいとして、どういうチョコに仕上げたいの?」 「ハート形にして、チョコペンでメッセージを書きたいです、まむ」 「それなら、本当に溶かして型に入れるだけだね。何個か作るなら、フレーバー変えてもいいかもね」 そこからは、順調だった。といっても、失敗するような箇所がないのだから、当然かもしれない。 「よし、完成!あとは、固まるのを待つだけ――」 友人が、スポイトでチョコに何かを入れていた。 「おいこら、なにしてる」 友人の持っている何かの瓶を取り上げる。 その瓶には、媚薬と書かれていた。 「え、だ、誰に……?」 友人は、顔を赤らめて何も言わない。 媚薬が入れられていた、チョコを見る。 それは、「手伝ってくれたお礼にあげる!」と言って作っていた、私のチョコだった。 ……え?
犬の気持ち その15
節分とやらの次の日。 青が、神妙な顔つきでこちらを見ている。 「ぽち、恵方巻や」 だからなんだよ。 「恵方巻なんやけど……、どうしよう」 お前は、もう少し分かるように話せ。文脈がなさ過ぎて、何も推測できないんだよ。 「これ、実はぽち用に買ったんやけどな。『冷静に考えると、一点の方向を向いたまましゃべらずに飯食うとか、犬には無理や』って話になって、食卓に並ぶことはなかったんよ」 確かに、食べるときに確実に下を向くからな。地面以外のどこかをずっと見て食べるのは、無理だな。 そういうことなら、青たちが食べればいいだろう。 「本来なら、今日の昼にでも普通に食べればいいんやろうけどな?」 なんだ? 昨日見た感じ、中身が魚の寿司だろ。魚は、そこまで好きじゃないから遠慮なくいけばいいだろ。 「これ、中身チキンカツなんよ」 事情が変わった。そいつをよこせ。 「でも、恵方巻は恵方を向いて食べるのが礼儀……。それに背いてしまった場合、ぽちにどんな厄災が降り注ぐのか、考えるだけでも恐ろしいわ」 さては、お前。自分が食いたいだけだろ。 もう節分とやらは終わったんだ。 すなわち、それはただの太巻きだ! 「ん? でも恵方巻って、厄災とかと関係あるんか?」 青は、何やら調べ物を始める。 「邪気を払って、福を呼び込む……。はー……」 調べ物が終わった青は、大真面目な顔で「よし」と言う。 「これは、ぽちが食べるんや」 お? 珍しいな。何かしら理由をつけて、青が食うと思ったのに。 青は、恵方巻が入ったケースを開けて、俺の前に置いた。 さっそく食べよう。うん、うまい。 「よく考えれば、私は昨日食べてるしな。あの無言で食べるのも地味にしんどいし。あと、ぽちなら邪気が襲ってきても、大丈夫やろうしな」 ……は? 最後、なんて言った? 「安心するんや、ぽち。昨日恵方巻をきちんと食べて、邪気を払った私が、お前を守ってやるからな」 こいつ、覚えてろよ……!
140文字小説+α その103 「ラップ集団」
「俺は世界に風穴開けるぜ」 会社の帰り。ラップをしている集団を見つけた。 若くて夢を見ていて、大変好感が持てる。 その集団の前を通り過ぎた時だった。 「あんなしょぼくれた大人になりたくねぇ」 一生懸命生きてるのにあんまりだろ。 しょぼくれた大人……。 いや、その通りかもしれないけどさぁ……。 毎日、職場と家の往復だけだし、休日は寝てるだけだし。 彼女もいないし、今後もできる気配ないけど。 先ほどまで好感持ててたけど、嫌いになってきた。 引きずっていても、仕方ないか。 とっとと家に帰ろう。 肩を落としながらもラップ集団から遠ざかる。 「でも、俺らならなれない社会の歯車! なってる奴らは、ある意味尊敬!」 おお!? 褒めて……いないな。めちゃくちゃ下に見てる。 というか、社会の歯車じゃない人間なんていないからな? 言ってやりたいが、面倒なことになりそうなので、スルーする。 ……こういうところが、しょぼくれた大人なんだろうなぁ。
嫌な音ラッパ
「面白いものと手に入れたぞ」 友人である藤本の家で、放課後に集まってのんべんだらりとしていたら、藤本が堂々と切り出した。 「面白いもの?」 もう一人の友人である田中が、スマホから顔を上げて反応すると、藤本はキラキラした顔で話し出した。 「そうなんだよ。これだ。その名も嫌な音ラッパ!」 ……なんかのパーティーグッズか? ジト目で見ている俺の視線に気づいたのか、藤本は指を振った。 「おいおい、水口。何でもかんでも否定から入るのは、良くないぜ? こいつは、なかなかの優れものでな。対象者に向けてラッパを鳴らすと、その人が嫌がる音を出せるんだ」 「すごいかもしれないけど、使いどころあるか?」 田中が言う。 「こういうものに使いどころなんてものを求めるのが、ナンセンスだ。楽しむだけいいんだよ」 藤本は、偉そうに語ると俺に向けてラッパを鳴らした。 すると、カラスの鳴き声が響いた。 「……カラス? なんで?」 藤本が、首をかしげる。 「昔、カラスに追いかけられたことがあるんだよ。それ以来、ちょっとカラスが苦手で……」 俺が、そういうと二人とも納得したようにうなずいた。 「じゃあ、田中にどーん!」 藤本が、ラッパを鳴らす。 すると、犬の鳴き声が響く。 「そういや、田中は犬苦手だったな」 「よく覚えてるな、水口。そうなんだよ。親戚の犬が、ずーっと俺に懐いてくれなくてさ。なんか苦手になっちゃって」 「あー、前にそんなようなこと聞いたかも。じゃ、田中。俺に向かってラッパを鳴らしてくれ」 藤本が、田中にラッパを渡した。 田中が、ラッパを鳴らすと『宿題しろー!』という女性の声が響いた。 「なんだ今の」 「藤本のお母さん……か?」 そこで、ハッと思い出した。 「そうだよ。今日集まったの、こんなだらけるためじゃないだろ。藤本の赤点回避のための勉強会じゃんか」 「ばれた!」 嫌な音ラッパ。案外、使えるかもしれない。
140文字小説+α その102 「目指せハードボイルド」
「俺がモテなかったのは、男らしくないからだと思うんだ。だから、ハードボイルドになる」 友人は、真っ直ぐな目で言う。 「で? 具体的にはどうするんだよ」 「そうだなぁ。とりあえず、梅干し1個で飯5杯いけるようにする!」 ……うーん、ダメそうだ。 梅干しで白飯いっぱい食べるのは、ハードボイルドというんだろうか。 お年を召したおじいちゃんフードファイター、って感じがするんだけど。 俺の疑念をよそに友人は、更なるハードボイルド化計画を立てる。 「後は、冬には乾布摩擦をし、夏には滝行! そして、念仏を唱え、禅を極める! ああ、なんとハードボイルド!」 「出家でもしようとしてるのか?」 お坊さんは、ハードボイルドではない。悟りを開いてるんだよ。 1回ハードボイルドを調べて欲しい。 そうすれば、お坊さんとハードボイルドが結びつかないの、すぐに分かるから。 「後は、音楽はクラシックだけを聞く!」 「お前、脊髄で話してるだろ」
犬の気持ち その14
「どうするのが正解やと思う? ぽち」 知らん。早く散歩の続きに行きたい。 年明けから2週間ほど経った今日。俺と青は、近くの神社の前にいた。 初詣、というものらしい。 初詣には、毎年連れていかれているが、意味はよく分からない。普通のお参りと何が違うのだろう? この神社にも来るのは、年に1回か2回しかない。それなのにご利益をもらおうというのも、図々しい気がする。 で、だ。そんな毎年恒例の初詣で、毎年恒例の問題に直面している。 「……ぽちは、境内に入れていいんかなぁ?」 だから、事前に確認しておく、ということを何故毎年行わないんだよ。 「うーん、神社の人に聞こうにも、この階段上り下りするのはきついんよな。なんで階段の下に案内人みたいな人おらんのやろ?」 文句言わずに階段登れ。 そんでもって、さっさと用事を済ませろ。 「……大声で呼んだら、こっち来てくれんかな?」 神社の人を雑に扱うな。 お前、正月太りしたとか言ってたんだから、階段の上り下りはいい運動になるぞ。 青は、その場で少しだけ考えた後。 「仕方ないか。」 そう呟いて、適当な場所へ俺のリードを結びつけた。 ……ん? 「すまんな。これは仕方ないことなんや、ぽち」 そうは思えないんだが。 「階段の上り下りで足腰が疲れてしまうと、この後の散歩に影響が出るんや」 それは、困るけれども。 「だからこそ、ぽちの分まで私がお参りすることで、2倍のご利益を貰う。これがベストなんや。決して面倒なわけやないで。そんじゃ、行ってくるわ」 ……青は、そう言って神社の階段を上がっていった。 適当な理由をつけて、飼い犬を置き去りにする奴に神様は微笑むのか?