きと
266 件の小説きと
就労移行支援を経て、4度目の労働に従事するおじさんです。 あまり投稿は多くないかも知れませんが、よろしくお願いします。 カクヨム、エブリスタでも小説を投稿しています。
140文字小説+α その112 「こんなんばっかり」
今日は休日。 気になっていた映画も見たいし、美味しいご飯も食べたい。 やりたいことがたくさんだ。 このために仕事を頑張っているんだ! ……というのが、朝の気持ちで。 現在夕方。寝ながら粘着クリーナーを転がしている。 こんなんばっかりだ。 これは、よくあることだ。きっとそうなんだ。 ずっと寝ていて、飯食ったと思えばまた寝る。 全くもって生産性がない。何もかもがダメダメ。 でも、これも正しい休日の過ごし方ではないか? そうだ。そうだよ。 じっくりと疲れた体を休める。これの何が悪いことなんだ。 そう思うと、なんだか救われたような気分になる。 ……でも、なんだか寂しい。
140文字小説+α その111 「卒業アルバム」
実家の整理をしていたら、父親の高校の卒業アルバムを見つけた。 気になったので、少し見てみる。 高校時代の父親に現在の面影を感じ、しんみりする。 でも、もっと気になることがある。 ……特定の女子数人に印を付けているのが、キモくてヤダ。 静かに卒業アルバムを閉じる。 最初は、じんわりと哀愁を感じていたが、最終的にはモヤモヤが残った。 でも、これも父にとっては大切な思い出だろう。 そっと、取っておく物を入れる段ボールに仕舞う。 「お兄ちゃん、何その本?」 別の部屋を整理していた妹が、尋ねてきた。 「父さんの卒業アルバムだけど……、見ない方がいいかも」 「へ? いやいや、見るよ」 そう言って、卒業アルバムをペラペラと見ていく妹。 そして、見終わると渋い顔をしていた。 「これは、私たち兄妹の秘密にしとこう?」 妹の提案に無言で頷いた。
コタツを仕舞うタイミング
コタツを愛用している。 聞くところによると、私が現在住んでいる北海道という土地は、コタツを持っている人が一番少ないらしい。 冬の間には家の中は、暖房で基本的にどこでも暖かいので、わざわざコタツに入る必要がないので持っている人が少ない、というのが私の予想である。 私の家も例外ではなく、冬の間は家のどこにいても暖かい。 では、なぜ私がコタツを愛用しているのかというと、子供の頃に話はさかのぼる。 子供の頃、叔父の家へ遊びに行くと、そこにはコタツがあった。叔父は、本州で仕事をしていたことがあるので、その時に買ったのかもしれない。叔父の家でコタツに入る時間は、至福の時だった。ぬくぬくと暖かく、思わず眠ってしまいそうになる。その感覚が、とても幸せだった。 その体験から、大学生の時にコタツを家に招き入れた。嬉しかった。勉強も勉強机ではなく、コタツでするようになり、休みの日はコタツでゴロゴロすることがほとんどだった。 そんな幸せが現在まで続いているが、ずっと悩んでいることがある。 コタツを仕舞うタイミングである。 北海道は、三寒四温を体現しているというか、4月下旬や5月上旬でも気温が10℃程度になる時がある。そうなると、コタツに入って暖を取りたくなるのだ。 結局は、5月の中旬になっても「まだ寒くなるのではないか?」という思考が働いてしまい、仕舞うのは6月近くになることもしばしばだ。 別に誰に責められるわけでもないので、別に仕舞うのが遅くなっても問題ないのだが、なんだかモヤモヤする。 やりたいことがあるのに、適当に理由をつけてやらない気持ちかもしれない。 この文章を書いている今も、コタツは仕舞えていない。 投稿するときには、仕舞っていることを祈ろう。
140文字小説+α その110 「サプリメント」
友人とカフェで話していると、健康の話題になった。 高校時代から考えると、話す内容が年を取ったものだ。 「最近、サプリを飲み始めたんだー」 「へー、そういうの、けっこう面倒じゃない?」 「そうでもないよ? たった3.14粒飲むだけだし」 「円周率!?」 「円周率? 何が?」 「いや、3.14って言われたからさ」 なるほどー、と友人は相槌を打って、コーヒーを飲む。 薬で3.14粒って何? 割るのか? サプリの粒を? 半分に割るなら分かるけど、0.14はどうやるんだ? ……ちょっと探りを入れてみよう。 「3.14ってどういう風に飲むの?」 「別に特別なことはしてないけど……、サプリを注文すると専用の器具が付随してくるし」 「そ、そうなんだ。どんな器具なの?」 「缶切りみたいなやつ」 ダメだ、謎が深まるばかりだ。
犬の気持ち その18
「さーくらがさいたー」 歌でいいのか、それ。メロディーとか何もない、間延びしたしゃべりなんだが。 季節は、すっかりと移り変わり、春になった。青が、謎のリズムで話したように桜も咲いている。 「桜か……。見に行ってもいいんやが、今日は日曜日。確実に混んでいるやろうし、やめとこか」 俺は、分かっているぞ。そうやってテキトーに理由をつけて、桜を見に行かないで春が終わるんだろうな。 「ぽちは、桜見たいか?」 どっちでもいい。特に興味があるわけでもないしな。 「まぁ、ぽちは花より団子やろうしな。桜より食いもんやろ」 否定できないのが腹立つな。青も同じ思考回路だろうに。 「そう言えば、昨日の夕方、親戚からなんか届いてたな……。確か食べ物だったはずや。この散歩が終わったら、一緒に食べような」 それは、ナイスなアイデアだ。 青もたまには、良いことを言うものだ。 それから、10分ほど経つと家に着いた。 今日もなかなか良い散歩だった。 「よしよし。足も拭いたから、居間に行っていいで、ぽち。散歩の途中で言った、親戚の贈り物取ってくるわ」 とてとて歩いて居間へ行き、青を待つ。 少しだけ待つと、青は袋を2つ持って、しょげた顔でやって来た。 「すまん、ぽち。贈り物、海苔やった……」 貴様……。 青は、海苔をそのままぱりぱりと食べながら言う。 「流石に犬にそのまんま海苔あげても喜ばないやろうしな。これは、うちだけで楽しむわ。代わりと言っちゃなんやけど……」 青は、持っている袋の1つを開けて、俺に差し出した。 「干し芋や。これならぽちも好きやろ?」 まぁ、海苔よりはいいか。 「ごめんな。賞味期限ぎりぎりのやつで」 いいよ、美味いから。
140文字小説+α その109 「なめるなよ」
「○○遊園地って、どこにあんの?」 とある金曜日、妹の旦那さんからスマホにメッセージが届いた。 ……いくら何でも馴れ馴れしいな。こちらと年上の義兄だというのに。 「自分で探せ」 なめられてそうなので、そう返した。 ニートだからって、なめんなよ! まったくこれだから、世間知らずは困るんだよ。 働いてるとか、働いていないとか、関係ないんだよ。 事情があって働いていない奴なんて、この世にごまんといる。 第一、働いていない奴がダメなら、主婦はどうなる。 というか、妹も専業主婦だ。それなのに働いていない人を軽視するとは、あの旦那も頭が回らない人間だ。 まぁ、俺はただ単に働きたくなくて、働いていないだけだけど。 別にいいよな? 労働を悪として、現代社会に反抗する革命児なのだから。
本を再読するようになった
最近、と言ってももう何か月も経っているので最近とは言えないかもしれないが、ともかく最近。1度読んだ小説を再読するようになった。 読書家の方からすれば、そんな当たり前のことをしてこなかったのか、と思うかもしれない。 でも、なんとなく再読することに抵抗があったのだ。 漫画は、何度も読み返す作品が多々あるが、小説は本当に再読しなかった。 1番の理由は、私の本を読む速度が遅いということである。 読んでいると、体力を消耗するのか、細かく休憩を入れないと読むことができない。 昔は続けて読むことができていたのだか、年なのか病気のせいなのか分からないが、休憩が必要になった。 そういう事情もあり、小説の再読を避けてきたわけだが、数か月前にとあるエッセイ集を読み返してみた。 すると、初めて読んだ時の思い出が蘇って来たり、自分はこの話がやっぱり好きなんだなと再確認することができた。 その時から小説も読み返すと、新たな景色が見えるということを再認識した。 そして、改めて小説家の皆さんの力強さに感服する。 何度読み返しても、何度も面白いと思える。 いつか私もそんな作品を書くことができるのだろうか。 少しずつそんな小説家の皆さんに近づけるように、ゆっくりと歩いていければいいと思う。 そろそろ、何かしらの文学賞に応募してもいいかもしれない。 ……短い話で出せる文学賞を調べようかな。
140文字小説+α その108 「煩悩」
人間には、108の煩悩があるらしい。 そんな煩悩を減らして、優しい人物となるため座禅に来てみた。 これは、いい。静かで感覚が研ぎ澄まされていくようだ。 特に――足が。 足がつっている。助けてほしいとも言えない地獄の時間だった。 「はい。足を崩して楽な体制にしてください」 た、助かった。即座に足を延ばして、痛みを和らげようとする。 それでもなお、足の痛みは取れなかった。 くそ、トイレも行きたいのに足が痛い。でも、今行かないと大変なことになりそうだ。煩悩消すどころの話じゃない。一生の恥になる。 足を引きずりながら、お手洗いで用をすます。心なしか足の痛みも取れてきた。 そして、座禅をしていた部屋に戻ると、もう一度座禅が始まった。 ちぇ、面倒だな。 ……全然煩悩消えてねぇな。足つっただけじゃねかよ、おい。
犬の気持ち その17
「ぼぶっふぉい!」 びっくりした。何か襲撃にでもあったか。 「あー、花粉の時期がきてしまったなぁ。家の中なのにしんどいわ」 ああ、さっきのくしゃみか。音が豪快すぎて、何か分からなかったぞ。 青は、花粉症らしい。この時期になると、鼻をずびずび言わせている。 そして、花粉を飛ばしている植物に文句を言うのが、基本だ。 「知っとるか、ぽち。花粉症って、ある日突然なるらしいで」 そうなのか。言われても、俺には対策の仕様がないが。 「何でも、人間には花粉症になるのは、花粉の許容量が超えてしまうからなんや。コップみたいなんがあって、それがあふれるとなるらしいで」 そうか。で、俺はどうすればいいんだ。 「つまりは、コップを大きくすればいいんやな」 風向きが変わったな。先にツッコミしておくが、無理だと思うぞ。 「許容量が増えれば、花粉症にならない。これが、決定事項であるならば、花粉症になるのは避けられへん。でも、遅らせることはできる」 いや、そうなんだけど。間違えてはないんだけど。 「つまりは、――人体実験や」 ああ、もう意味が分からない。 俺が呆れている中、青が俺をモフモフしてきた。 「こうして、散歩で花粉を体に付けてしまっているぽちをモフモフすることで、あえて花粉を摂取して、花粉に対する耐性を鍛えるんや。これで、私の花粉症は軽くなばっふぁろー!」 青が盛大にくしゃみをする。 いろいろ間違えてると思うんだが、それをやるなら花粉症になってない奴がやることなんじゃないか?
140文字小説+α その107 「逃亡」
「1グラム、1万円から。今、売れるのは4.5グラムまで。買う?」 繫華街の裏路地で、怪しい男に声をかけられた。 どうにかして逃げないと。 考えろ、考えるんだ。 「……同じくらいのドジョウを釣ったことがあります」 男が、首を傾げてる内に逃げた。 人通りの多い道に出た。そっと胸をなでおろす。 今更だけど、何だったんだ、あの逃げ方。自分でも、まったくもって意味が分からない。 私、釣りしたことないし。グラム1万円のドジョウってなんだ。 あの男は、本当に意味が分からなかったんだろうな。 まぁ、逃げられたからいいか。 「お姉さん、店決まっている? 良かったらうちで――」 「ドジョウと飲むから大丈夫です」 客引きに捕まりそうになり、とっさに言い訳して逃げた。 客引きの男は、ポカンとしていた。