きと

289 件の小説
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きと

就労移行支援を経て、4度目の労働に従事するおじさんです。 あまり投稿は多くないかも知れませんが、よろしくお願いします。 カクヨム、エブリスタでも小説を投稿しています。

140文字小説+α その125 「寿司屋のおすすめ」

 初めて回らない寿司屋に来てみた。 「お客さん、何にします?」  大将が尋ねてくる。  そうだな……、よし。 「大将のおすすめをお願いします」 「あいよ」  大将が、慣れた手つきで寿司を握る。 「カルフォルニアロールです」  そんなことある? 「あ、ありがとうございます……」  戸惑いながらも、カルフォルニアロールを口に運ぶ。  うん、美味しい。美味しいんだけど、違う。  いや待てよ?  これは、安易におすすめを聞くなという大将なりの警告では?  ……よし。ここからは、自分の意志を持とう。  そこからは、非常に美味しく寿司を楽しむことができた。  そろそろお腹もいっぱいだし、シメを頼もう。 「すいません、シメってどんなものが……?」 「そうですね、カルフォ――」 「納豆巻きお願いします」

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犬の気持ち その23

「私、思うんよ。大学の教授の人達って、実はバカなんじゃないかって」  そんなことはないだろうし、それでも青の方がバカだと思うが。  夏の太陽がじりじりと体温を上げる。地面も熱い。もう夕暮れなんだがな。 「うちの大学、一応テスト期間みたいなのが決まってんねん。でも、たまに教授が『テスト期間だと、他の講義のテストと被って大変ですよね?』みたいに言って、テストが早めにある時があんねん」  気遣いしてくれているなら、いいんじゃないか。  優しさは、素直に受け取るほうがいいって、青の父親が悲しそうな目で言ってたぞ。  「そのテストを早めるイベントが重なって、結果的にテスト期間1週間前に、テスト期間ばりにテストがあんねん」  優しさが裏目に出たんだな。  時に優しさは、人を傷つけることもあるって、青の父親が真夜中に酒を飲みながら言ってたぞ。 「まったく……、ちょっと考えれば分かるやろ。というか、教授同士で打ち合わせしとけや。報連相という社会人の常識を知らんのかい!」  まぁ、そう怒るなよ。  人は基礎を往々にして忘れるが、そこでまた基礎を学ぶのだって、青の父親が早朝にコーンスープ飲みながら言ってたぞ。 「ん? でもそのおかげでテスト期間に受けるテストって、1個だけやな。しかも、日程は2日目だし……。それ以降は、休み放題ってわけか」  青は、しばし遠くを見ながら考える。 「教授たちには、もう少しバカで居てもらってもいいかもしれんな」  前提として、教授はバカじゃないけどな。  前提を間違えると、のちのち推理ドラマの犯人になるぞって、青の父親が夕暮れに死んだ魚の目で言ってたぞ。

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140文字小説+α その124 「スカイダイビング」

「スカイダイビングしよ!」  夏休みの予定を立てている時、友人が言った。  スカイダイビングか。興味がないわけじゃないけど……。 「うーん、流石に怖いかな……」 「大丈夫だよ、オムツ履けば!」 「誰もそっちの心配はしてねぇ」 「あれ、そうなの?」 「そうだよ。単純にスカイダイビングって、怖いでしょうが」  小首を傾げる友人にツッコミを入れる。  いつだれが、漏らすか漏らさないかの話をしたんだ。  高所恐怖症ではない人でも、スカイダイビングは怖い。  万が一にも何かあったら、シャレにならないし。 「でも、前にお漏らしして――」 「それ以上その話掘り返すと、マジで殴るぞ」  私が2年前にお化け屋敷で漏らした件は、忘れていいんだよ!

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読書初心者

 読書初心者向けの本の紹介、というネットなどの記事を見ることがある。  思うのだが、読書初心者って何なんだろうか。  本をまったく読んだことのない人を指すのかもしれない。  本の感想を上手く表現できない人を指すのか。  あるいは、好きな本のポイントを上手く言語化できない人を指すのか。  本をまったく読んだことのない人が、読書初心者と言われたら納得できる。  でも、他の2つはどうだろうか。  私自身もSNSなどで、本の感想などを発信することはあるが、あの感想がとても良いものとは言えないと思う。  好きな本も何冊かあるが、なんとなく好きな本という本も確かにある。  でも、それでいいんじゃないかと私は思う。  本を読んで必ずしも高尚な感想を持たなくてもいいし、必ずしも何かを教訓にしないといけないというルールもない。  読者は、自由に物語を受け止めていい。それが、読書の良いところだと思う。  どれだけ見当違いなことを思っても、「君はそうだったんだね」と否定せず本は受け止めてくれる。  自分の中でこれは俺の好みじゃなかったかもと思っても、「まぁそういう時もあるよね。最後まで読んでくれてありがとう」と優しく受け止めてくれる。  読書は、自由に楽しまれていい。初心者とか玄人とか、そんなものに垣根はない。  だから、本の世界にいろいろな人が飛び込んでくれたら、それはとても良いことだと思う。  ただ、文体が変わっていたりと多少なりとも読みにくい作品というのもあるので、読みなれてない人は、ネットで紹介されている初心者向けの本を参考にしてみるのもいいだろう。  書いていることがへんてこりんでも、優しく受け止めてくれると助かります。

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140文字小説+α その123 「反省合唱」

「すいません、もう勘弁して下さい!」  不良生徒が、息を切らしながら謝る。  だが、生徒指導部の一員として、まだ許さない。 「おら、まだまだ行くぞ!」  CDプレイヤーの再生ボタンを押す。 『反省合唱、第5017番~』  我が高校に伝わる罰を思い知れ! 『我が学び舎に敬意をこめてー』 「我が学び舎に、敬意を、こめ……てー!」 「声が小さいぞ!」 「はい、すいません!」  我が高校に伝わる反省合唱。  他校の生徒との喧嘩や万引きなど、重大な事件を起こした生徒に課せられる罰だ。  生徒指導部が、真に反省したとみなすまで、延々と歌わせる歌地獄である。  噂では、この反省合唱を最後まで歌いきってしまうと、1日で声帯結節になるらしい。  ……さて、そろそろいいか。 「よし、そこまで! 反省したか?」 「はい、本当にすいませんでした!」  反省合唱を歌っていた不良生徒は、息も絶え絶えになっている。 「ち、ちなみにこの合唱曲、何番まであるんですか?」 「第77777番」  不良生徒の顔は、青ざめていた。

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犬の気持ち その22

「ぽち、今日は本屋に行くで」  青は、俺にリードを付けると、開口一番に言った。  本屋か。そうなると、結構歩くな。何よりもいつもと違う景色になるのがいい。いつも同じというのも味があるが、少しくらい変わったっていいだろう。 「最近は、ネットとかでも買えるけど、やっぱり私は実際に店舗に行って買いたいんや。ぽちには、分からんやろうけど」  まぁ、犬だからな。本なんて読まないし。圧倒的に、公園でボールを追いかけているほうが楽しいしな。  「1回、電子書籍も試してみたけど、あれはなんか肌に合わなかったんよな。便利なことは間違いないんやけど、何というか、なんか違うねんな。あれや、ほら、分かるやろ?」  分からん。言葉出てこないにもほどがあるだろ。  「でも、紙の本の一番の問題は、場所取ることやねん。そろそろ何冊か売りに行かなあかんな……」  青は、しばし無言になる。  何かを考えているようだ。要らない本の選別でもしているのだろうか。 「ぽちのケージ狭くして、棚置いてもいいか?」  いいわけないだろ。なんで俺が割を食わなければならないんだ。あと、俺のケージ、思いっきりリビングにあるぞ。親に怒られるだろ。 「いや、棚を増設するよりも新しくしてもええかもな。あのスライドして二段になっているやつ。あれは、なかなか収納能力あるやろ」  そういうのがあるなら、最初からそうしろ。 「でも、高いんやろうな……。家具は全体的に高いねん。令和の家具騒動や」  お前しか騒いでないぞ。  「仕方ない。本棚買うために、ちょいと本を処分するか」  なんか、おかしくないかそれ。 「お、話してたら本屋に着いたな。ちょっと待っててな、ぽち。芥川愛花先生の新刊買ってくるわ」  青は、俺のリードをそそくさと近くにあった車止めのポールに結びつける。そして、意気揚々と店に入っていた。  将来のために本棚を買うために本を売って、今日は本を買う。  これが、マッチポンプというやつなんだろか。

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140文字小説+α その122 「魔球」

 甲子園出場がかかった県大会。俺達は、1回戦からピンチになっていた。 「くそ、燃える魔球だと!?」 「どうすればいいんだ!」  部員みんなが、慌てている中。監督が口を開いた。 「……冷静に考えると、燃えてるから何なんだ?」 「……」  この試合。俺達はボロ勝ちした。 「くそ、俺の燃える魔球が破られるなんて……!」  相手チームの投手が、悔しがっていた。  監督の言う通りだった。  燃えているだけで、何も他は変わらなかった。  金属バットとは言え、球が当たる瞬間なんて一瞬だから、熱が伝わる訳でもない。  どちらかというと、一番危険なのは燃える魔球を受け止めるキャッチャーだ。 「なぜ、俺達は負けたんだ……? 地区大会では、1点も取られなかったのに!」  相手チームは、本質に気づいていないらしい。  教えてあげた方がいいんだろうか。 「くそ、こんなことなら奥の手の凍える魔球を出しておけば……!」  冷静に考えろ。  凍えてるから、何なんだ?

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140文字小説+α その121 「フルーツ牛乳」

 友達と温泉旅行に来た。  風情のある温泉街で、非常に癒される。  予約していた宿に到着し、部屋に荷物を置いて、浴場へ。 「あ、見て! フルーツ牛乳売ってる!」 「いいねー、買おう!」  いいな、これぞ温泉旅館だ。  ……ん? 「これ、温泉入る前に買っちゃダメじゃない?」 「……あ」  何してんだ、私たち。  テンション上がり過ぎて、凡ミスしてる。 「と、とりあえずさ。温泉入ろうよ」 「……オッケー」  若干落ち込みながら、浴場へと向かう。  そして、温泉を満喫してきた。  熱すぎず、ぬるすぎずでいつまでも入っていたい温泉だった。 「気持ちよかったねー」 「うん、この後の晩御飯も楽しみ」  そして、部屋に戻りぬるくなってしまったフルーツ牛乳を飲む。  これが、冷えていれば最高だったけど。  ……ん? 「ねぇ」 「なに?」 「部屋に冷蔵庫あるんだから、買った時点で戻ってきて冷やしとけば良かったんじゃ……?」 「……あ」

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好きな季節

「好きな季節って、いつ?」  こんな質問をされると、私は困ってしまうだろう。  よく夏は冬の方が好きで、冬は夏の方が好きと移り変わっていく人もいるが、私はそうじゃない。  基本的には、初春が好きなのだが、少しずつ暖かいが暑いに変わっていく様子を肌で感じていくのも好きである。  また、秋が深まっていき、雪虫を見つけてもうすぐ雪が降るんだと、感傷に浸るのも好きなのだ。  要するに私は、季節が移り変わっていく様子が好きなのだ。どの季節が好きかと言われると、「季節の変わり目」というのが、私の心にピタッと合わさる。  合わさるのだが、私は体が強い方ではないので、季節の変わり目は体調を崩さないように気を張る必要がある。  そうなると、ほんわかと絶望しながら生きている私としては、あまり好ましい状況ではない。  どうにかして、季節の移ろいを身体と心に負担をかけずに感じるか。  この課題を解決できれば、私は胸を張って「季節の変わり目が好きかな。だんだんと1年が巡っていくのを感じられていいよね」といい感じに答えられるだろう。  ここまで書いておいてなんだが、私は、あることに気づいた。  そもそもの話、私に好きな季節を聞いてくる人間がいない。  昔から付き合いのある友人たちも、今さらそんなことを聞かないだろうし、新しい人間関係が築かれる気配もない。  悲しい話だが、事実なので仕方がない。  こんな話を季節が移ろう初夏に書いている。今年も暑くなりそうだ。

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140文字小説+α その120 「ラッキーアイテム」

 私は、占いが好きで、毎日ネットの星座占いを確認している。  良い結果だと気分がいいし、悪い結果でも行動の指針が立てやすい。  今日も起きて早速、占いサイトを開く。  今日のいて座は……。  『今日のいて座さんは、11位!ラッキーアイテムはアザラシです!』  はい!?  あ、アザラシ?  飼えと?  アザラシを?  困惑しながら、サイトを見ていくと、どうやらアザラシに関連する者なら何でもいいらしい。  アザラシの人形とか、アザラシが描かれているポーチとか。  そういうことなら、納得できる。  というか、それならアザラシのグッズなどと記載してほしい。  文句を言っても仕方ないので、アザラシのグッズを探す。  10分後。  アザラシのグッズは出てこないのに、トドのグッズは14個見つかった。  何故……?

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