きと
278 件の小説きと
就労移行支援を経て、4度目の労働に従事するおじさんです。 あまり投稿は多くないかも知れませんが、よろしくお願いします。 カクヨム、エブリスタでも小説を投稿しています。
140文字小説+α その119 「日焼け」
日焼け対策の欠かせない季節が、やって来た。 私は、肌が弱いので日焼け止めを塗ると湿疹が出ることもある。 だが、肌荒れしない日焼け止めは高い。 ……そうだ! 「で、肌が黒くなっても違和感がないレゲエ風の服にしたと」 「頭いいでしょ?」 「いや、まぁ、うん……」 友人は、なんだか複雑そうな顔をしていた。 いい案と思ったんだけどなぁ。 自分の色にファッションを合わせるのは、普通のことだし。 それに、いつもと違う服装というのもテンションが上がっていい。 「あのさ」 友人が、申し訳なさそうに切り出した。 「あんたのそれって、日焼け止めの値段が高いから始めたんだよね?」 「そうだよ?」 「……洋服代の方が、高くつくんじゃないの、それ」 「……はっ!」 友人は、ため息をつく。 完全に盲点だった! 「流石! 頭いいね」 「いや、まぁ、うん……」
禍福はあざなえる縄のごとし
廊下は、走っては行けない。 そんな当たり前のルールを優等生と言われる高木は、無視して廊下を走る。 走って、階段も最後の2段ほどは飛び降りて、ある少年を追いかける。 目的の人物は、ちょうど上履きから外靴へと履き替えたところのようだ。 「花田くん」 呼び止められた少年、花田は返事もなく振り返った。 「一緒に打ち上げ行こうよ、きっと楽しいよ」 今日は、高木と花田が通う学校で球技大会が開かれた。 2人のクラスの順位は、総合4位だったが、派手に打ち上げをやろうという話が持ち上がった。 クラスメイト全員が参加すると思っていたが、花田は短く「行かない」と答えて、教室を去って行った。 このままだと良くない。花田が、良くて孤立、悪いとイジメにあう。 そう思った高木は、どうにか花田も打ち上げに参加してもらおうと説得に走った。 花田は、ため息をつく。 「行かないって言っただろ」 それだけ言うと、花田は帰ろうと高木に背を向ける。 「なんで行かないの。嫌いな人でもいるの? それなら席を離してもらうからさ。一緒に楽し――」 「高木」 花田の声は、明らかに苛立っていた。 「俺は、楽しいから行きたくないんだよ」 「……どういうこと?」 高木の質問に花田は、またため息をつく。 「禍福はあざなえる縄のごとし、って言葉知ってるか」 「えっと」 「幸福と不幸は、入れ替わりながらやってくるって意味だ」 花田は、高木の方へと振り返る。その目は、黒くどろどろと濁っていた。 「この言葉……、捉え方を変えればこう言えないか? 不幸であり続ければ、幸福に襲われないってさ」 「それは、そうかもだけど、でも……」 「ずっと不幸で辛くないか、とか聞くつもりか? 俺はいいんだ。不幸がいいんだ。そうすれば、幸福の入れ替わりやって来る、もっと大きな不幸に襲われない! 家族も、誰も失わない……! はは、は、ははははは、は!」 笑いながら、花田は、去って行った。 高木は、後を追わなかった。 不幸であることが、花田の幸福なのだ。 そう、受け止めた。 受け止めたけど――理解はできなかった。
140文字小説+α その118 「スーパーボール」
部屋でスーパーボールを見つけたので、壁当てして遊んでいた。 すると、すっぽ抜けて窓ガラスを割ってしまった。 当然ながら、親に怒られる。 「あんた、何やってるの!」 「ご、ごめん」 「まったくよ! もう28歳でしょ!」 今、年齢のことを言われると効く。 28歳で、スーパーボールで窓ガラスを割る……。 なかなかに恥ずかしい話ではある。 しかし、恥をかかずして何が人生であろうか。 恥をかいたことで、人は「これはダメなことなんだ」ということを学んでいくのだ。 これも言うなれば、学びの一種である。 いい歳して、スーパーボールで窓ガラスを割ったら恥ずかしい。 肝に銘じておこう。 ……冷静に考えると、いい歳してそんなことも分からないのが恥ずかしいのでは? そして、いい歳してスーパーボールで遊んでいるのも、恥ずかしいのでは?
140文字小説+α その117 「ブランド自慢」
久々に帰省した友人と会う。 東京で仕事に励み、忙しくしていたようだ。 今日ばかりは、昔話に話を咲かせよう。 と、思っていた。 「見てくれよ、これ」 「……カッコイイな」 「これ、キムラのOPシリーズのK」 めちゃくちゃブランド品自慢してくる。 都会に染まったなぁ。 「で、財布なんだけどよ。こっちは、イッタンモメンのヌリカベ」 「そ、そうなんだ」 かれこれ30分くらい自慢が続いている。 俺は、まるでブランド品に興味はないから、自慢されても分からないんだけど。 最初は、腕時計。モモタロウのKJ。 次にネックレス。ブラックのナチュラルイエローピンクパイナップルモデル。 全くもって聞いてことがない。 なんだ、ブラックのナチュラルイエローピンクパイナップルモデルって。黒いのか? 黄色なのか? 桃色なのか? まるで分からない。 ずっとこの話聞くのもだるいし、先手を打ってみるか。 「もしかして、服も何かのブランド?」 「これは、通販で安売りしてたやつ」 「お前なんやねん」
140文字小説+α その116 「彼女の手料理」
今日は、はじめて彼女の手料理を食べる。 作ってくれるは、オムライスらしい。 「お待たせー、できたよ!」 「お、ありが……!?」 思わず絶句する。 「……これは?」 「? オムライスだよ」 そうじゃない。明らかに量が5人前あることについて聞いているんだ。 なぜこんなに大量に作ってくれたのか。 まずは、これを考えなければならない。 彼女は、俺を大食漢だと思っている可能性がまず1つ。 彼女が、いっぱい食べる男が好きな可能性が2つ目。 あと、考えられるのは、2人でシェアする可能性か。 ……よし、賭けに出てみよう。 「ちょっと多くないかな? 一緒に食べる感じ?」 「え、1人分だけど。私の分もあるし」 大量のオムライスを食べながら聞いたところ、彼女は朝や昼は押さえるようにしているが、夜はリミッターを外して食べるらしい。 ずっと日中に会ってたから、彼女がそんなに食べるとは知らなかった。 しかし、そうなると同棲とか結婚した時のエンゲル係数が問題になるな。 ……可愛いからいいか!
服を選ぶ基準
服をどう選んでいいのか、いまだにわからない。 もちろん、デザインが気に入って買うことが多いのだが、それも自分に似合っているのかどうかの判断ができない。 昔のことを思い出してみたが、デザイン以外では判断していなかったように思える。 最近では、人気のメディア作品コラボの半袖シャツを買っていることが多い。 コラボの半袖シャツのいいところは、作品のファンであることを簡単に示すことができる点だと思う。 それはさておき、デザイン以外で服を選ぶのは、どういった場合だろうか。 フォーマルなスーツを買う時は、いくらデザインが良いとしても、派手なものは買えないだろう。 作業着もどちらかというと機能性を重視した方がいいだろう。 部屋着はどうだろうか。最近では、寝るときに疲労回復を促すものがある。そういった物であれば、機能性で選ぶことになるだろう。 考えてみると、デザイン以外で服を選ぶとすると、TPOと機能性があげられるだろう。 しかし、普段着としての服を選ぶ際には、機能性などを重視することは少ない。 そうなるとデザインで選ぶしかなくなるのだが、自分自身に似合うデザインがよく分からない。 みんな、どういった基準で選んでいるのだろう? 私は、どの色とどの色が合うと言ったことすら分からない。 ファッションを勉強したところで、身に着くものなんだろか? 私は、今後もとりあえず似合うかどうかは別として、気にいったデザインで服を選ぶことにする。
140文字小説+α その115 「詰み」
「今日は、お前に相談があるんだ」 居酒屋の一室で、友人は真剣な表情で語りだす。 「35歳。アルバイト。彼女いない歴年齢。休日は引きこもってゲーム」 「……うん」 「これって、詰んでる?」 「いくら俺がプロ棋士だからって、そんなこと分からんわい」 「……本当か?」 何故か疑問を呈してくる友人の言葉にうなずくと、友人は天を仰いだ。 「そこまでの状態なのか、俺は……」 いや、そういうことじゃないんだけど。 俺は、確かにプロの将棋指しだが、人生の詰みなんて知らない。 こいつが相談するべきは、ハローワークか結婚相談所だ。 「でも、死なない限り詰みではないんじゃないか?」 「だよな。お前、やっぱりいいやつだな……」 「ありがとう」 適当な回答だったが、なんか解決したらしい。 うん、よかったよかったー。
犬の気持ち その20
夏の訪れを感じるかのように、太陽がギラギラと輝いていた。 「……誰の許可貰って暑くなってんねん」 青の許可は、確実に要らないだろ。この時期にへばってたら、夏本番が思いやられるぞ。 「はー、またこの季節が来たわ。また大学行くだけで、汗ダルマになるんか」 汗ダルマってなんだ。 「でも、楽しみなこともあるな。冷やし中華とか、かき氷が美味しい季節や」 こういう時、青がうらやましくなる。俺は、年がら年中ドックフードだからな。たまに焼いた肉をとかももらえるけど、本当にたまにだしな。いろいろと食に楽しみがあるのは、純粋にいいなと思う。 「……そういや、今年は庭でバーベキューやるんやろうか」 ああ、そう言えば毎年なんかやってるな。青の父親が張り切るやつ。 「火起こし手伝わないけないのはだるいんやけど、その分の見返りがあるからな。なんで外で食う肉ってあんなに美味いんやろ。ぽち、知ってるか? 肉好きやろ」 確実に聞く相手が間違っているだろ。あと、肉好きだからって詳しいとは限らないからな。好きと詳しいは違うぞ。 「こうなると、夏の屋外で何食べても美味いんちゃうの? 夏の屋外の魔法で鍋焼きうどんすら美味いかもしれん」 それはない。俺に文句を言っている様子が目にありありと浮かぶから、やめて欲しいんだが。 「でも、バーベキューやるなら、みんなも呼びたいな。みどりちゃんとか、黒子ちゃんとか。あとは、大学で仲いい桃子ちゃんとか」 桃子ちゃんとやらは、会ったことないな。というか、大学で友達いたのか、お前。 「ええな、今年の夏は楽しくなりそうや。でも――」 でも? 「暑くならなければ、最高なのにな」 夏のアイデンティティを奪ってやるな。
140文字小説+α その114 「兄貴」
今日は、兄貴の出所日。 3年前に捕まって以来、久しぶりに顔を見る。 「先輩、今から迎えに行く敷島の兄貴って、なんでパクられたんです?」 車を運転していた弟分が聞いてくる。 窓の外を流れる景色を見て、静かに答えた。 「万引き」 「ん、ああ、んん?」 そうなるよな。 「ま、万引き? 抗争でなんかやったとかじゃなくてですか?」 「ああ。シュークリームをカバンに入れたとこを見られたらしい」 「は、はぁ……」 弟分は、なんだか納得していない感じだった。 ……まぁ、そうだよな。 喧嘩無敗。義理と人情に厚い。敷島の兄貴は、絵にかいたような極道の人間だった。 そんな人が、万引きで捕まる。 俺も話を聞いた時には、「は?」って思わず声が漏れた。 捕まったことから、いろいろと余罪が発覚して懲役3年。 組長から聞いた時は、呆れてしまった。 そんな兄貴と、久しぶりに会う。 ……説教から始めよう。
好きだった
「この漫画、好きだった」などというような言葉を聞いたことはないだろうか? このような言葉は、会話の中でもわりと使われていると思う。 意味としては、「昔は好きだったけど……」という風になると思う。 でも、使う側はそこまで深く気にしていないだろう。 なんとなく、ふんわりとした「好きなんだよな」みたいな感じで使われるように思える。 そして、「好きだった」作品や物は、意外と多いようにも思える。 私は、過去に某少年漫画の週刊誌を毎週全作品見ていた時代がある。 その中で、残念ながら人気が出ずに打ち切りとなった漫画を数多く見てきた。 そんな作品たちも、私は好きで見ていた。というよりも、どんな作品も創意工夫にあふれていて、どんな作品を読んでも才能に打ちのめされていたのだろう。 しかしながら、打ち切り漫画の数多くが過去に好きで、今はタイトルすら思い出すこともできない「好きだった」作品になった。 数多くの「好きだった」作品。それらについて思い出すと、私は、単行本を買ったわけでもなく、面白かったと発信することもなかった。私が子供の頃は、今ほどSNSが発展していたわけでもないので、面白さを発信することが難しかったとはいえ、それでも応援するということをほとんどしていなかったのだ。 こうなってくると、作品を「好きだった」作品にしてしまったのは、自分自身の責任もあるのではないか。もちろん、私に絶大なる力があるわけではない。私1人の力で作品が終わってしまうのを避けられるということはない。それでも、何もしなかったのは事実だ。 今も私は、好き作品に囲まれて生きている。 この好きな作品もいつか「好きだった」作品になるのは、避けられない。作品には終わりがあるから。 でも、「好きだった」作品になるその時まで、精一杯好きな作品を応援していきたい。