きと

348 件の小説
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きと

就労移行支援を経て、4度目の労働に従事するおじさんです。 あまり投稿は多くないかも知れませんが、よろしくお願いします。 カクヨム、エブリスタでも小説を投稿しています。

140文字小説+α その159 「返礼品」

『ふるさと納税の返礼品、めちゃ余ってるから貰ってくれない?』  友人からそんな連絡があり、友人宅へ向かう。  返礼品何だろう、野菜かな? お肉かな?  考えていると、友人宅に着く。 「おお、悪いな」 「いいよ。で? 返礼品は何?」 「みりん」  ……ん? 「み、みりん?」 「そうそう、最近さー、煮物作るのにはまってたからさ。大量に使うだろ、って思ったら想像以上にきたのよ」  事情を説明している友人の言葉を聞き流しながら、頭を働かせる。  みりん……。いや、俺も使わないわけじゃないけど、そんなにみりんを使った料理なんて思いつかないぞ?  まぁ、そんな早くに腐るもんじゃないか。ありがたく頂戴しよう。 「で? 余ってるって言ってたけど、どれくらいの量が届いたんだ?」 「10本入りが2箱」 「ちゃんと注文するときに量見ろや!」 「先週届いて、もう7本は使い切ってるんだけどさ。流石にしんどくなってきた」 「それもそれですげぇな」

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夕暮れと飲み物と推しと私 その2 魔法使いの嫁

『魔法使いの嫁/ヤマザキコレ』  この作品と出会ったのは、大学2年生ごろだっただろうか。時期はあいまいだが、大学生であったことだけは確かだ。  大学生の頃に、私は心を壊したので、大学生時代をあまり回顧したくない、というのが正直なところだ。でも、楽しかった思い出もある。  友達と朝まで歌ったカラオケ。サークルの学祭の打ち上げで焼肉店で食事をしたこと。その学祭のために、ボロボロの合宿所でゲラゲラ笑いながら作業したこと。家で1人、好き勝手に料理を楽しんだこと。どれも大切な思い出だ。  『魔法使いの嫁』は、今まで辛いことが多かった少女が、人外の魔法使いと出会い、世界の美しさに気づいていく物語だ。色々な人間や人外の存在との出会い。それが、少女の心を開いていく。描かれる世界は、美しくて、時に残酷でやり切れない。それでも、優しくて読んでいて心地が良い。  過去の辛い出来事も、これから「良かった」なんて言えなくても、「そんなこともあったな」ぐらいでマイペースで暮らしていけますように。  私は、そんな希望を持ってこの物語を読んでいるのかもしれない。  この物語には、温もりのある夕暮れと飲み物がよく似合う。あなたも、この美しい物語を好きな飲み物を飲みながら、ゆったりと楽しんでほしい。

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140文字小説+α その158 「プライド」

 35歳、アルバイト勤務の俺。正社員を目指して、履歴書を書く。  職歴は、アルバイトしかない。資格も、運転免許すらない。  それでも、臆さず、キレイに手書きで履歴書を書く。  これが、書道教室に15年通っていた者のプライドである。  漢字だけじゃない。平仮名やカタカナも、とめ、はね、はらいをしっかりと。  俺に残された最後のアピールポイントなんだ。  字がきれいというのは、きっと丁寧な印象を与える。  そう信じるしかないし、それしか突破口がないとも言える。  履歴書を書き終える。美しい。これが、書道である。  そして、面接当日。 「おお、字がきれいでいいね」 「ありがとうございます」 「でも、うちさぁ、事務職で主に使うのはパソコンなんだよねぇ」  これは、落ちたか……。 「もしよければ、うちの広報部を紹介しようか? あそこ、手書きでデザインすることもあるから」  信じる者は、救われる。例え、それが書道教室であっても!

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140文字小説+α その157 「おしゃれさん」

 アユミは、クラス屈指のおしゃれだ。  今日は、あいにくの雨。アユミなら傘とかも可愛い物使っているんだろうな。 「おはよー!」  アユミの声がし……た……!? 「アユミ、その……傘は?」 「私、合羽派」  まさか過ぎる展開だ。 「合羽なんだ……」 「うん! これなら服濡れることもないからいいんだよねー!」  いや、そうかもしれないけどさぁ……。  というか、合羽を久しぶりに見た。小学生くらいの子供以外の合羽姿って、台風とか豪雨とかのテレビ中継でしか見ないぞ。  いそいそと合羽をたたむアユミ。まぁ、人の趣味嗜好に口出しするのは無粋か。  服が濡れなくていい、と言う理由もおしゃれさんらしいし。  ……ふと、疑問が浮かんだので聞いてみることにした。 「アユミ、合羽着てたら外でスマホ取り出しにくくない?」 「え? スマホはカバーに入れてショルダーストラップだよ。ほら!」  そう言って見せてきたスマホのカバーは、びちょぬれだった。  そっちは濡れていいんだ……。

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犬の気持ち さいご

 青が、みどりや黒子、桃子に将来の相談をしてから1年が経った。  ぶつくさ言いながら就職活動をしていた青も、なんとか就職先を見つけたらしい。  苦労していた様子だったが、内定をもらった時はかなりホッとした様子だった。  なのだが……。 「はぁー、働きたくないわぁ……」  こいつ、本当に何なんだ。ちょっと前まで、内定がー内定がーって騒いでいただろうに。 「これから先、何十年も偉そうなバーコード頭のおっさんに向けて頭下げることになるんやろ? 誰が見ても苦痛でしかないやん。誰なん? 労働って言うシステム考えた奴」  偉そうなおっさんのイメージに偏見がかなり入ってるな。今時、女性のお偉いさんも珍しくないだろ。 「そう言えば、ぽち。私は結局、書店員になる訳やねん」  らしいな。 「ただ、配属先の書店がちょっと遠いところやねん。だから、ひとり暮らしになる訳や」  そうか。ということは、こうして青と散歩に行くこともなくなるのか。  なんだかんだ言って、楽しませてもらったぞ。  いつどこに引越しするのかは知らないが、どうにか頑張ることだな。 「実家から30分くらいの所なんやけどな」  しんみりした時間を返せ。というか、ひとり暮らしせずにすむだろ、その距離間。 「……なんか言いたげやな、ぽち」  文句なら山ほど出てくるが。 「分かるで。寂しいんやろ。でも、休みの日には帰ってくるからな」  そうだろうな。なんせ、なんとかひとり暮らししないでもいけそうな距離だし。  「あ、それとな。なんかお父さんから車を譲ってもらえることになったんよ。軽自動車で中古車やけど、バックモニターもついてるで。ちょっとおんぼろやけど、これでいろんな場所に連れていけるから、楽しみにしといてや」  それはいいな。広い公園行こうぜ、ボール遊びしたい。  「だから、ぽち。お前が嫌っていうほど一緒に居てやるからな!」  そう言って、青は笑った。  まったく、これまでも嫌っていうほど一緒に居ただろうに。  ……こちらこそよろしくな。

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140文字小説+α その156 「いただきます」

「みんな、ご飯出来たよ!」  私は、子供食堂で働いている。  ここに来る子供たちは、みんな元気いっぱいで、体力的にしんどい時もあるが充実している。  子供たちが、席について手を合わせる。 「ったきゃす……」  なんだそのおじさんいただきます。 「健吾くん、その挨拶は何……?」 「お姉さん、知らないの? 今流行ってるんだよ、オジグル!」  調べてみると、オジサンが各地のグルメを食べ歩き、各地の食文化を勉強できる教育番組らしい。  何が流行るか分からない世の中だなぁ……。  というか、これほぼかの有名な孤独なあれのパクリでは……?  困惑する私をよそに、子供たちはガツガツとご飯を食べていた。  今日のメニューは、豚の生姜焼き。みんな笑顔で食べてくれている。 「はー、美味しかった!」 「佑二くん、キレイに食べたねー!食べ終わったらなんて言うんだっけ?」 「ごっちゃんでごぜぇました」 「佑二くん、その挨拶は何……?」 「お姉さん、知らないの? 今人気なんだよ、すもグル!」  調べてみると、人気力士が各地の郷土料理を紹介する教育番組らしい。  うーん、ジェネレーションギャップ。

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140文字小説+α その155 「テレビを見ながら」

 テレビで学生合唱コンテストが放送されていて、なんとなく見ていた。  あー、なんかこう言うのやったなー。 「っつーか、うるせぇなこいつら。時間考えろよ……」  自分で無意識にそう言ってビックリした。  バカなのか、俺は。  合唱にうるさいって。そらそうだろ。頑張って声を張り上げて、必死で歌ってんだから。  ダメだ。気分を変えよう。  テレビのリモコンを操作して、チャンネルを変える。  すると、鉄道旅の番組が放送されていた。これはいい。のんびりしていて、気持ちが落ち着く。  ガタンゴトンと、鉄道が走る。いい音だ。 「っつーか、こんな豪華な旅して。自慢かよ……」  自分で無意識にそう言ってビックリした。  旅番組なんだから、いい旅を紹介するのは当たり前だろ。  ダメだもう、俺は。

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犬の気持ち その35

「桃子ちゃんも、これからどうするか悩んでるんやな」 「そうなんだよねー。英語できるから、ツアーガイドとか面白いかもーとかはぼんやり考えてるけど」  ふむふむ。今日は、桃子と散歩か。  しかし、時間が中途半端だな。集合時間14時20分ってなんだ。そこまで来たら、14時30分でいいだろう。急いでる様子もないし。  「ツアーガイドとか、ホテルの従業員とかよな、英語活かすとするならやけど。でも、外国の人って、めちゃくちゃやしな……」  外国人観光客に対する偏見がすごいな。別に普通の人の方が多いだろ。 「ま、別に無理して学科に就職先縛られる必要もないとは思うけどね」 「それは同感や。我々にだって、動画クリエイターという道は残されている」  なんで動画クリエイター限定なんだ。視野を広げろ。 「動画クリエイターねぇ……。青は、家から出たくないの?」 「うーん、ぽちがいるしな。ぽちももう犬で言えば、おじさんやしな。できれば、そばに居てやりたいねん。……その時までは」  ……。 「うーん、でも大丈夫じゃない?」 「大丈夫って……、何が? ぽちは、長生きしそうな図太さしてるけど」  微妙に失礼だなお前。 「そうじゃなくて。青とぽちは、離れても繋がっていると思ってさ。もし青が遠くにいて、ぽちがその時を迎えても――大丈夫な気がするんだよね」 「理由になっとる、それ?」 「あはは、分かんない。分かんないけど、分かるでしょ?」 「……せやな」  桃子もなんだかふんわりとしたことしか言ってないけど、本人同士が納得しているなら、いいか。  それに俺も、悪い気はしてないしな。 「あ、そうだ。就職先困ってるなら、これ行かない? 複数の企業が早期に企業説明会してるらしくて」 「おお、そういうのもあるんか。月給高いところない?」  青よ。金をばっかり気にしてると、えらい目に遭うぞ。給料は労働の対価だから、給料が高いってことは、それだけ激務なんだぞ? 桃子もノリノリで給料高いところ探しているけど。  ……ああ、そうか。この2人には、ブレーキ役いないのか。  はぁ、まったく。青は、本当にまったく。

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140文字小説+α その154 「手袋の色」

 手袋を紛失した。もう冬も終わるが、無いと辛いので、仕方なく新しく買うことに。  お、これとか良さそうだ。他にも色はないかな? 「すいません。これって、この色以外に別の色はありますか?」 「えーと。マゾップとかありますね」 「……はい?」  マゾップ? 最近よくあるオシャレすぎてわけわからん奴か? 「ほ、他には?」 「マイタケメタリックホワイトとか、エリンギスカイハイなんかもありますが……」  ダメだ、意味が分からない。キノコで揃えてる当たり、マゾップもキノコなんだろうか? 「うーん、なんというかもう少し普通の色合いがいいんですが……」 「普通ですか……。そうなると、黒って言うのがありますがいかがでしょうか?」 「あ、それでお願いします」  黒て。それを一番最初に言え。 「今年のトレンド的には外れちゃいますが、よろしいですか?」 「ああ、大丈夫です。……ちなみに今年のトレンドって?」 「マイタケメタリックホワイトですね」  うそん。

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夕暮れと飲み物と推しと私 「前書き/月と散文」

【前書き】 このエッセイは、私が小説やマンガを主にした好きなものを紹介していくものです。  決して、批評したり、偉そうにうんたらかんたら語る文章ではありません。そんな資格は、私には未来永劫ありません。  ただ、好きな作品がもっと広まるといいな、という想いで不定期に書いていきます。  いつ終わるのかも分からない、おじさんの独り言です。  もしこの後の文章を読んで、「この作品、面白そうだぞ」と思ったら(本の場合、出来たら紙で)買ってみてください。見てみてください。  その輪が、少しでも広がってくれれば、私の活力になります。もちろん、何かしらの反応を示していただけるだけでも嬉しいです。  そして、もし買った作品が面白かったら、他の人にも勧めてみてください。 「推しは推せるときにおせ」という言葉もあります。  なので、私は推していきます。これは、そんな私の推し活でもあるエッセイです。  お時間のある時に、お付き合いください。 『月と散文/又吉直樹』  何年か前の夏の終わりごろだっただろうか。  子供の頃から、たまに行っていた街中の本屋さんに併設されているブックカフェへ、はじめて足を踏み入れた。  そのブックカフェでは、一部の商品は除外されるが、未会計の本を2冊まで持ち込んで読むことができた。『月と散文』は、はじめてのそのブックカフェではじめに読んだ作品だった。  著者の方は、テレビ番組でよく拝見していたし、面白い人であることも知っていた。その方が、ネット動画で、『月と散文』を紹介しており、気になっていたのだ。  子供の頃からおじさんへと変わり、外食先で飲むものもジュース中心からコーヒーや紅茶中心に変わった。『月と散文』は、著者の子供の頃の話とコロナ禍時代の2つの章から成り立っている。  私は恥の多い子供時代を過ごしてきた、と自覚している。でも、他の人は自分の子供時代をどうとらえているんだろうか? そして、コロナ禍の時代に何を思っていたのだろうか? そもそも、自分の内面をどう表現するのだろうか?  この作品が、私がエッセイ(でいいのかいまだにわからないが)を書く強いきっかけになったのは、言うまでもない。そして、そんな作品だから当然ながらお気に入り作品になったのも言うまでもない。  時々、夕暮れに好きな紅茶と共にこの作品を読み返す。  今でも、本棚の一番前面に置いてある。これからも、私はこの作品を読むんだろうな。

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