きと

315 件の小説
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きと

就労移行支援を経て、4度目の労働に従事するおじさんです。 あまり投稿は多くないかも知れませんが、よろしくお願いします。 カクヨム、エブリスタでも小説を投稿しています。

140文字小説+α その139 「オープンカー」

 南国のリゾートをオープンカーで走り抜ける。  爽快で晴れやかな気分だ。  そろそろ海岸沿いの道に出る。さらに気持ちがいいだろう。  その時。バチン、と音がした。  フロントガラスに蝉が直撃した。  ちょっと見てられない景色が、目の前に広がった。  路肩に車を停めて、状況を確認する。  ……けっこうグロテスクだな。いや、そんなこと言っている場合ではない。  何か拭くもので、この惨劇の被害者を弔ってあげないといけない。しかしながら、今手元にある拭けそうなのものは、ハンカチかテッシュのみだ。  まず、ハンカチ。これで拭くのは、絶対に避けたい。この先、トイレで手を拭くときに多大な影響がでる。  次にテッシュ。……なんか、染みてきそう。何がとは言わなけれど。うん。  でも、テッシュしかないよな。何枚か重ねて手に液体が染みるのを防ぐしかない。  そう決意し、テッシュを何枚も取り出し、被害者の血や体液を拭う。うおお、すげぇキモい!  手から伝わってくる不快感に耐えながら、なんとか片付けを完了させた。さて。  ……袋とか何もないこの状況で、拭き終えたテッシュは、どうしたらいいんだろう?

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犬の気持ち その29

「なぁ、桃子ちゃんはバイトしてるんか?」 「うん、してるよ」 「そうか……」  のんびりしすぎやしないか。今日まだ散歩に行ってないんだが。  とある日のこと。青の家に桃子が遊びに来た。  それは、全然いい。俺も遊んでもらったし、文句を言うつもりはない。  でも、散歩には行きたいんだよ。ひと通り遊んで疲れているのは分かるが、そこは譲れないぞ。 「何のバイトしてんの?」 「えーと、カフェのホールスタッフ」 「そうか……」  さっさと本題に入れよ。せわしない日常に安らぎを求めることは、悪いことじゃないが、まだやることが残っているだろ。  やることをやった後にリラックスした方が、心置きなく休めるだろうが。  それとも、あえて散歩に行かないのか? やることを残しておいて、いざという時に自分を奮い立たせるのか?  その方法は、青には向いてないぞ。その方法はナマケモノではなく、ある程度自分を律することができる奴のすることだ。 「バイトって楽しい?」 「うーん、普通? 嫌なお客さんとかも来るときあるし」 「そうか……」  何なんだ、こいつら。あえて会話を続けない遊びでもしてるのか?  桃子がのんびりしているから、青もそれに充てられているのか?  ともかく、早く散歩に行かせてくれ。だんだんと空が暗くなり始めているんだよ。 「青もバイトするの?」 「したいんやけど、なんかシフトに日々の生活を左右されるのも、なんかしゃくやねんな」 「スポットバイトにしたら? ほら、単発でできるやつ」 「そうやな……」  ちょっとだけ会話が続いたな。いい傾向だ。  ……いや、違う。そうじゃなかった。  なんか会話が一区切りついたんだ。さぁ、立ち上がれ。リードを持ってくるんだ。寒いから上着を羽織れ。それができれば、散歩だ。 「そうや、そろそろぽちの散歩行かんと」  おお! 「桃子ちゃんも来る?」 「行く行くー。ぽち、よろしくね!」  よしよし。やればできるじゃないか!  ……犬にこんなこと思われてるのは、どうなんだろう。  まぁ、散歩に行けるからなんでもいいか。時間かかり過ぎだけどな。

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140文字小説+α その138 「吸血事情」

 私は、吸血鬼。  夜に紛れて、血を吸う怪物。  今日も私たちの時間がやってきた。ああ、牙がうずく。  ピンポーン。お、きたきた。 「アマヴァンからのお荷物でーす」 「ありがとうございまーす」  吸血パックが届いた。今日は、O型のパックにしようかな。  吸血パック。現代の吸血鬼には、なくてはならない代物だ。  このご時世だ。暗がりで人目がつかないところで、人の血を吸うなんてまず不可能。監視カメラとか数え切れないくらいあるし。危険を冒して人の血を吸って、万が一にも発見されたら一巻の終わりだ。SNSで即拡散。警察のお世話になることは確実である。  そこで、大手企業の叡智、アマヴァンですよ。吸血鬼のための通販サービス。吸血パックの他に、日差しが気になる吸血鬼のための日焼け止めに、ニンニク克服セット。吸血鬼の悩みに寄り添うステキなグッズの数々。いやー、科学技術の進歩ってすごいね!

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痒い所に手が届いてはいる

 多くの皆さんは、カップ麵でそばやうどんを食べたことがあるだろう。私も当然あるし、とても好きな食べ物である。  大抵の場合、そばには天ぷらで、うどんにはきつねとなっているカップ麵が多い。  そのこと自体は別にいい。うどんの方がお湯を入れてから待つ時間が長いので、出汁をたっぷりと吸い込んだ方が美味しいきつねの方があっているんだろうな、というのもなんとなく想像できる。  しかし、私はうどんよりもそばが好きで、天ぷらよりもきつねの方が好きなのだ。絶妙にかみ合ってない。 「いや、きつねそばもカップ麺にあるやん」と思う方もいるだろう。  確かに、スーパーマーケットに行けば、きつねそばのカップ麺も置いてあるところもある。そう、ところもある、のだ。つまりは、すべてのスーパーマーケットではないということである。  スーパーマーケットにも棚の限界というものがあるので、「必ずきつねそば置けや!」と過激派になるわけではないが、もう少しおいてくれるお店増えてもいいんじゃないだろうか。  私が仕事の日にお昼ご飯を買っていくコンビニで、きつねそばを見たことがない。というか、多くのコンビニできつねそばを見た記憶がない。  美味しいじゃないか、きつねそば。支持層が案外少ないのか。それともうどんだろうが、そばだろうがどちらでもいいという人が多いのだろうか。  カップ麺できつねそば自体はあるので、痒い所に手が届いてはいるのがもどかしい。  ちなみに昔、親子そばのカップ麺もあったのだが、もうどこにも見かけない。復活してくれてもいいんですよ?

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140文字小説+α その137 「自家製」

「ひひ、ひっひひ……」  怪しい笑い声が薄暗い部屋に響く。  気持ちはわかる。これは、最高の気分だ。 「これで準備完了だよ。あとはもう待つだけ」 「ひひ、合法でこんなことができるんだね」  友人と2人でごくりと唾を飲み込む。 「楽しみだね、自家製甘酒……!」 「最高だよ。自分好みの甘酒を作れるんだなんて」  甘酒好き同士の友人が、にやりと笑みを浮かべる。  手作りの甘酒は、一見すると大丈夫なのかと、非合法ではないかと疑う方もいるだろう。  だが問題ない。アルコールが入っていない甘酒なので、酒造法にはひっかからないのだ。 「へへ、早く、早く……!」 「時間がかかるけど、ジッと我慢だよ。焦っては甘酒がダメになる」  じっくりとじっくりと。  これで私たちは、楽園へのチケットを手に入れるのだ……。  晴れやかで爽快な気分。  ああ、甘酒フォーエバー!

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140文字小説+α その136 「ハッピーハロウィン」

「ハッピーハロウィン!」  今日はハロウィン。仮装をしている人を町にもちらほら見かけた。  そして、ハロウィンを利用して友人が訪ねに来たわけだが。 「こんな時間にお菓子欲しさで家へ来るなバカ者」 「すんまへん」  今、夜の23時だぞ。 「ともかく、トリックオアトリート! お菓子をよこせ!」  厚顔無恥な友人をとりあえず家へ入れる。  お菓子なんて、今持っていただろうか? 一応、お菓子は好きなので常に常備はしているはずだが……。  探してみるけど、なかなかいいものが見つからない。ハロウィンにカルパスはなんか違う気もするし。というか、カルパスが5袋あった。買いすぎだろ、私。  うーん、どうしよう。なんでこんなに悩んでるのかも分からないけど……。あ、これでいいか。 「はい、お菓子」 「おー、ありが……」  友人のテンションが見るからに下がった。  いいだろ、美味いじゃんか。するめジャーキー。    

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犬の気持ち その28

「ぽち、今年が残りわずかなんだけど」  そうだな。寒くなってきて、毛がふさふさになってきた。帰ったら、ブラッシングをしてほしいくらいだ。 「ぽちはええよな。毛があるから、冬でもぬくぬくやろ」  それでも、寒いものは寒いからな。毛は、別に万能ではないぞ。 「大して人間は、防寒具を着るしか能がない……。本当にそれでいいのか、人間は……」  大丈夫だ。青に心配されるほど、人間は危ない状態にないし、例え何か危機が訪れても青は何もしなくてもいい。 「なぁ、ぽち。少しばかり私に毛を譲ってくれんか?」  ブラッシングで抜けた毛であればいいが、刈り取るのはやめろよ。  あと、俺の毛は、そんなに量がないぞ。 「ぽちの毛を集めて、コートを作れば手軽に毛皮のコートが完成や。知っとるか、ぽち。毛皮コートは高いんやで」  だからって、俺の毛で作ろうとするなよ。個人が、一冬で完成できるような物なのか? 毛皮のコートって。 「でも、待てよ? そもそもコート作るのって、ミシンとかいるんちゃう? 家にそんなものないで。ボタン取れたら、お母さんの手縫いやし」  そう言って青は、スマホで何やら調べ始めた。 「……、はー。なるほどなぁ……。ミシンって意外と……」  青は、スマホをしまって、俺の頭をなでる。 「やっぱ、コートは買った方がいいみたいや。迷惑かけたな、ぽち」  今回は、そこまで何かされたわけじゃないけどな。

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140文字小説+α その135 「お月見」

 中秋の名月。お月見を楽しむ日だ。  友達同士でお菓子を持ち寄り、月を眺めることにした。  きれいな月だ。心が落ち着く。 「なぁ……」 「何?」 「お月見って暇だな」 「お前、みんなが我慢してたことを……」    そうなんだよね。お月見って、月を見るのをメインに置いてるけどそうじゃないもんな。  要するにお花見と同じなんだよな。お花見も桜を見て趣深い気持ちになるのがメインじゃなくて、みんなでワイワイしながら食事を楽しむことがメインだし。  月はきれいなんだけど。それ以上でもそれ以下でもない。誰も何も悪くないんだけど、どうしたものか。 「……みんな。私の部屋には、あの抽選でSNSが阿鼻叫喚になったゲーム機とソフトがあるわけだけども。……どうする?」  結論から申し上げますと。  最終的には、部屋のカーテンすら閉めてゲームで大盛り上がりした。  お月見ではなくなったような気もするが、楽しかったのでよし!  来年やるかは知らんけど!

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本棚の入れ替え

 週末に本棚を整理することが、ルーティンになりつつある。  整理と言っても、そんなに仰々しいものではない。せいぜい、本棚の一角にある本の並べ方を変えてみるくらいである。  はっきり言って、あまり意味のある行動ではないだろう。持っている本が増えている時は、必要な行動だと思うが、私は新しく本を買っていない時にも本棚の整理をする。  何故そんなことをするかと言うと、自己満足に他ならない。  自分好みに、本棚をカスタマイズする。この本は、きちんと見える場所に置いておきたい。この本は、やっぱり好きだからいつでも読める位置にしておこう。そんなことを考えながら、本棚をカスタマイズしていくのが、充実感を得られる行為なのだ。  他にも、装丁が好きな本は表紙が見えるように置いておくこともしている。  100円均一に、本の表紙を見えるように置いておけるグッズを見つけたとき、「これだ!」と思った。昔から好きな表紙の本はいくつかあったが、どうしようもないと思っていた。これで、好きな表紙を飾って置ける。ふとした時に、お気に入りの表紙を見ることができ、暖かな気持ちになれる。  好きなものに囲まれる、というのは案外と気持ちを軽く、暖かくさせてくれる。  今までは、機能面ばかりを気にした部屋にしていたが、他の人には無駄だと思える行為でも、自分の好きなものを置くというのは精神的にいいのだろう。  少し違う気もするが、余白があるという感じだろうか?  その余白が、時に豊かさをもたらすのかもしれない。  それでは、本棚をカスタマイズするために今回はここまでということで。

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140文字小説+α その134 「自己啓発」

 勉強のために、自己啓発の動画を見てみることにした。  どんな動画がいいのか、よく分からないので評価が高いものを見てみることにする。 『はい、どうも。マネーロンダリングプランナーの浅水犬丸でぇーす』  こいつ、犯罪行為助長してない?  いろいろとツッコミどころがあるけど、通報した方がいいんだろうか?  なんで高評価ついてるんだ、こいつ。  ……いや、もしかしたらマネーロンダリングの問題点とかを話してる動画投稿者なのかもしれない。それなら、起業する人間には勉強になるだろうし。 『さて。前回は、マネーロンダリングをする上での注意点をお話しましたが――』  希望が打ち砕かれた。本当にプランナーだった。 『今回は、趣向を変えてディベートをしたいと思います。ゲストはこの方』 『どうも、インサイダー取引仕掛人の野呂念治です』  通報しなきゃいけない人間が増えた。

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