きと
370 件の小説きと
就労移行支援を経て、4度目の労働に従事するおじさんです。 あまり投稿は多くないかも知れませんが、よろしくお願いします。 カクヨム、エブリスタでも小説を投稿しています。
140文字小説+α その170 「500円貯金箱」
押入れの中を整理していると、500円貯金箱を見つけた。 手に取ると、ずっしりと重みを感じる。軽く振ると、ジャラジャラと音もする。 これは、予期せぬ臨時収入だ。 俺は、その貯金箱を開けることにした。 中身は、全部50円玉だった。なんでやねん。 少ししょんぼりとしてしまった。臨時収入ではあるんだけど、なんか上がっていたハードルに思いっ切り突っ込んでしまった気分だ。 というか、50円玉こんだけよく集めたな、俺……。 まぁ、いい。それよりも押入れの整理を続けよう。 それから、20分後。今度は、段ボールから金一封と書かれた封筒を見つけた。 これは、またしても臨時収入の予感がする。1万円なら激アツだが、ハードルを上げてはいけない。1000円でもいい。それぐらいの気概で行こう。 そうして、封筒を開けてみる。 中身は、金色の折り紙だった。 ……美味い話って、やっぱりないんだなぁ。
夕暮れと飲み物と推しと私 その8 「僕には鳥の言葉がわかる」
『僕には鳥の言葉がわかる/鈴木俊貴』 私が今住んでいる生活範囲には、自然が多い。なんせ、歩いて5分もかからず森の中へと足を踏み入れることができる。 自然が多いと、動物との出会いも少しながらある。今年に入ってから、野生のキツネを3回ほど見かけた。流石にクマは、見たことがないし、見ていたらこの文章を書くことができるかどうかも怪しい。 子供の頃には、学校の行事で訪れた施設の中で、ヘビを踏んづけたこともある。高校時代には、グラウンドにシカがでた。 新卒で入った職場は、本当に“ド田舎”という言葉がピッタリの場所だった。野生のリスを車で轢きそうになったり、生まれてはじめて野生のタヌキを見た。 野生動物との数々の意図しない出会いが何度もあったけれど、彼らの鳴き声というものを聞く機会というのは、案外少ない。大抵の動物は、人間を見ると逃げてしまう。逃げないで鳴き声を発し始めたら、多分威嚇されているんじゃないかと判断して、私が立ち去る可能性も高い。 だから、私の中で聞くことが多いのは、鳥の声が多い。何の鳥か、種類の判別はつかないが、時おり鳴き声が小さく聞こえてくる。彼らは、何を思っているんだろう。どういう意味で、どんな理由で鳴いているんだろう。それを想像すると、何だか鳥との距離が近くなったように思える。 『僕には鳥の言葉がわかる』は、著者がシジュウカラという鳥の鳴き声に、感情表現だけではない人間の言葉と同じように意味があることを証明する軌跡の本だ。真っ直ぐな動物言語学への想いが、感じられる真摯な作品である。「なんだか難しそう……」と感じるかもしれないが、そんなことはない。知識がなくても、この作品を読み終えるころには鳥に親近感がわいてくるだろ。さぁ、お気に入りの飲み物とお菓子を用意して、動物言語学の世界へ飛び込んでみよう。
140文字小説+α その169「健康の話」
「分かる? 今は若くても、健康を気にする時代なんだよ」 友人とカフェに入って、30分。 ずっと健康の話をされている。 やれ糖質が、やれタンパク質がとか。 一切興味がないので、疲れてきた。 というか……、健康の話を熱弁するならタバコ吸うな。 「野菜サラダもさ。ドレッシングかけるとか、ダメなんだよ。自然の恵みをそのままいただくのが、本来の人類なんだよ」 どうしよう。死ぬほど興味ない。そして、説得力がない。もうタバコ三本目だろ、それ。 人類の本来の姿を言及するなら、野菜も丸かじりだし、肉も焼くだけになる。現代への進化も人間の本来の姿だから、気にせず焼肉店で白飯にタレでびしゃびしゃにした肉をバウンドさせて食べてもいいんだよ。チョレギサラダももしゃもしゃ食うんだよ。ドレッシングびしゃびしゃのやつ。 ……待てよ? 進化も人類の本来の姿なら、タバコも進化で生まれたものだから、別に吸っていてもいいのか? どうしよう。矛盾が解消されてしまった!
夕暮れと飲み物と推しと私 その7「家が好きな人」
『家が好きな人/井田千秋』 家は、人生の中でかなりの時間を過ごす場所だ。 当てのない旅に出ているとか、遠方へ船に行っている限りでもないと、大抵は家で過ごす時間は多くなる。そんな家をこだわりの空間にしたい、過ごしやすい環境にしたいと思う人も多いだろう。 私の場合は、マンガや小説を紙で多く持っているので、本棚をどう自分の気に入る場所にしたくなる。また、Vtuberの推しもいるので、それらのアクリルスタンドの収納も重要だ。 結果として、現在私の部屋には、本棚として活用されている場所が、7か所ある。更に言えば、押入れにも、しまっている本もある。出来れば、押入れの本も飾りたいのだが、流石にスペースがない。それでも、私は本を買う。まだまだマンガや本に触れたいし、そうして出会った本たちを大切にしていきたいから。 そうなると、必然的に本棚を増やす必要があるのだが、どうしたものか。家へのこだわりは、どのようにしても尽きない。住めば都というが、その都を発展させていきたいのも、人の常なのかも知れない。 『家が好きな人』は、5つの部屋の5人の住人の生活を覗き見るフルカラーの短編マンガだ。それぞれの部屋で、大きな事件は起きないが、家の住人たちは自分の家が好きで、その生活が好きだ。その愛おしい生活をあなたも、好きな飲み物とお気に入りのお菓子といっしよに、楽しんでみてはいかがでしょうか。その日は、きっといい日になると思う。
140文字小説+α その168 「老人の話」
魔王の侵攻に対抗するためには、賢者の力が必要だ。 そこで、王国の騎士の俺は、賢者の行方を知る老人の元へと赴いた。 「ほう、賢者の居場所を知りたいか……」 「はい」 「長く話せば7時間、短く話せば5分だが……どうする?」 「短く話してください」 「――以上だ。質問は?」 「いえ、充分に理解しました」 短く話してもらったら、本当に短かった。5分って言ってたけど、4分で終わったぞ。 「しかしながら、再び魔王が現れるとは……。あの時、完全に息の根を止めたと聞いておったが……」 「! 魔王は、封印されたわけではないのですか?」 王国の書物によれば、魔王は封印されたとしか記載がない。だから、以前の魔王と今回の魔王は、同一の存在だと思っていたが、違うのか? 「ふむ、長く話せば10時間、短く話せば3分だが……どうする?」 「短く話してください」 なんでさっきの話より長く話す時間は増えているのに、短く話す時間は減っているんだ。
まどろみの列車
目を覚ますと、見知らぬ列車に乗っていた。窓からは、夕日が差し込んでいる。 日々の通勤では、確かに列車を使う俺だが、車内も車窓の風景も見たことがないものだった。 「目が覚めましたか?」 声のした方を見ると、キレイな女性が乗っていた。黒いロングヘアに整った顔。深窓の令嬢を思わせるような女性だった。 「あの……ここは……?」 俺は、震えた声を絞り出す。何か変なことに巻き込まれている気がしてならないのだ。 だって、ここには目の前の女性と俺以外に誰もいないから。 女性は、少しだけ首をかしげて言う。 「さぁ?」 「さぁ!?」 思わず大きな声が出てしまった! 明らかに何か知っている雰囲気が出ていたのに! 女性は、困ったように笑う。 「すいません。私も気づいたらここにいたので。でも、悪い人はいないと思いますよ?」 「なんでそんなことが言えるんですか? 何か事件に巻き込まれたのかもしれないじゃないですか!」 「大丈夫です。私、もうここに長い時間いますが、怖い思いはしていないので。とりあえず落ち着いてください。どうどう」 子供をあやすかのような女性の仕草に、緊張感が抜けていく。 深いため息が出る。でも、なんだか落ち着いてきたのも事実だ。 それにしても、この場所もそうだがこの女性は、何なのだろう? 「あなた、長い間ここにいるって言ってましたけど、どのくらいいるんですか?」 「うーん、具体的な時間は分かりません。でも、ずいぶん長い間です。その間に何人もここに来ました」 「俺と同じような人がここに?」 「はい。気がついたらいなくなってましたが」 なおさら怖くなってきた。何かこの状況が分かる手がかりはないのか。 車内を散策しようとしたその時だった。 『パパ! パパ!』 突如として声が響いてきた。この声は、俺の愛する娘の声だ! 「良かったですね。帰れるみたいですよ?」 女性が、確信を持っているように言った。俺は、女性の方を見る。 「決まってそうなんです。こんな感じで声が響いてくると、帰れるんですよ」 「そうなんですね。じゃあ、一緒に」 俺は、女性に手を差し出す。だが、女性は首を横に振った。 「ダメなんです。きっとこの声は、私のものじゃないから」 どういう意味か尋ねる間もなく、視界が白い光で埋め尽くされていく。 その光の中で、女性が優しく、そして寂しそうに微笑んだ。 目を開けると、病院のベットにいた。 石屋の説明によると、何でも交通事故で生死の境をさまよっていたらしい。 となると、あの列車はあの世とこの世と間にあるものだったのだろう。 だとすると、あの女性は死神だったのだろうか。そんなことを思ったが、なんだか違う気もする。 病院で目を覚まして1週間が経った頃。俺は、やることもないので運動ついでに病院内を歩いていた。その時、1つの病室のドアが開いているのが見えた。 どうやら個室のようで、ベットは1つだけだ。カーテンも開かれている。 ベットには、女性がいた。黒いロングヘアの深窓の令嬢のような女性が。 思わず、ベットに駆け寄った。間違いなかった。あの列車にいた女性だ。 「あら、ダメですよ? 勝手に入ったら?」 振り返ると、看護師さんが困った顔をしていた。 「すいません。あの、この女性は」 「ああ。数年前、事故に遭って以来、目を覚まさないんです。早く起きてくれるといいですが……」
140文字小説+α その167 「不審者」
最近、学校の近くで不審者が複数回目撃されているらしく、全校集会が開かれた。 「生徒の皆さんもご存知かとは思いますが、この学校の近くで不審者が目撃されています。その特徴を説明いたします」 特徴か。やっぱりコートとか? 「まず、スクール水着を着ています」 ん!? 生徒たちが、若干ざわついた。 そりゃそうか。不審者のレベルが、想像していたレベルの1段階上だったのだから。 「皆さん、静かに。続きを説明します」 いや、スクール水着着てるだけで、他の特徴の説明いらないくらいなんだけど。 「スクール水着を着ており、胸には『革命』と書かれたワッペンがついています。そして、白のニーハイソックスを着用しています。顔は、能面をつけています。声から年齢は、40代前後の男性と推測されています」 情報量多すぎるだろ。 「声をかけるときは、決まって『積立預金、始めてみない?』と言ってくるそうです」 怖すぎる。注意して帰ろう。
夕暮れと飲み物と推しと私 その6「プリンタニア・ニッポン」
『プリンタニア・ニッポン/迷子』 生き物が好きな子供だった。テレビでやっていた動物番組が毎週楽しみで、食い入るように見ていた。その番組の図鑑が抽選で何名かに配られることになった時も、もちろん応募した。残念ながら、その抽選は外れてしまったけれど。 実家に何故か置いてあったハードカバーのファーブル昆虫記も、親に念のため確認を取ってから、読みだした。深く掘り下げられていく、生き物の知らない世界に強く魅せられたのを覚えている。 母親の友人の家へ遊びに行った際には、その家の子供と一緒に遊ぶ兄を横目に、その家の飼い犬とずっと遊んでいた。ミニチュアダックスフンドで、私が撫でまわしても嫌そうにしなかった。単に私が嫌がる仕草に気づいていなかっただけかも知れないが。その記憶もあり、私は犬を飼いたくなった。 現在も犬を飼いたいという欲求はある。しかし、子供の頃の血液検査で、動物にアレルギーがあり、ほこりにもアレルギーがあることも判明した。かくして、私の犬を飼うという夢は、あえなくついえたのである。 『プリンタニア・ニッポン』は、奇妙な生き物プリンタニア・ニッポンと生活するSF(少し不思議な)日常譚だ。モチモチで愛くるしいプリンタニア・ニッポンとの生活。毛が舞ったりしないだろうし、私でも飼えそうだ。しかしながら、モチモチな生物に対して、舞台となる近未来の世界は、どこか不穏な気配もする。生き物モチモチ、世界観ガチガチ。このコントラストを好きな飲み物と共に楽しんで欲しい。SF(少し不思議)な世界観は、何だかくせになってくるだろう。
140文字小説+α その166 「蕎麦の温度」
服を買いに行った帰り道。駅の側の蕎麦屋に入った。 天ぷら蕎麦や納豆蕎麦など王道のメニューの中に、鳥ごぼうせいろを見つけた。 好きなんだけど、中々見ないメニューだ。 さっそく注文を……ん? 「通常の物の他に、生温かいが用意できます……?」 生温かい? いや、猫舌の人とかもいるし、冷たいのが歯にしみる人もいるだろうけど、もうちょっといい表現なかったのか? しかし、気になる。俺は別に猫舌でも何でもないので、せいろについてくるそばつゆが、多少熱くても問題ないけど。 ……よし。 「すいません。鳥ごぼうせいろの生温かいをおねがいします」 「はい、ありがとうございます。少々お待ちください」 何の確認もなく注文が通ったことに違和感を覚えつつ、蕎麦を待つことに。 スマホを見ながら待つこと、10分ほど。鳥ごぼうせいろがやった来た。 さて、生温かい蕎麦の実力を見せてもらおうか! ……うん、食べやすいけど、熱いつゆの方が美味い!
未来からのメール
ある日のことだった。俺のスマホに不思議なメールが届いた。 タイトルは、『過去の俺へ』。いたずらメールだろうか? このまま読まずに消去することもできたが、気になったので読んでみることにした。 『過去の俺へ』 やぁ。突然のメールで、驚いていることだろう。 最近、技術の進歩で過去にメールを送れるようになったらしいので、一筆したためることにしてみた。この言い回しは、適切なんだろうか? 怪しいな、と君は思うだろう。実際、当時の俺も怪しいなと思ったので、否定はしない。 今からでも、初恋のあの子へのラブレターを写真に撮って送ってやろうか? ま、それは未来の俺も恥ずかしいのでやめておく。 さて、今、君は今の仕事を続けるか迷っていることだろう。その悩みは、親友に相談してみると良い。プラモデル好きのあいつだ。意外なアドバイスをくれて、君は夢への階段を上り始めるだろう。 職場のムカつく上司は、もうすぐ親会社への出向で居なくなる。ちなみにその後、その上司は左遷され、結果的に退職する。もう少しの辛抱だ。 今の彼女とは別れるが、未来の俺は婚約してる。素敵な出会いもあるから、落ち込みすぎるな。ただし、エロ本の管理には気を付けることだ。 安心しろ、未来はそこそこいいぞ。 敬具 過去の俺へ。 未来の俺より。 「いたずらにしちゃ、出来過ぎてる……よな?」 初恋のあの子のラブレターしかり、プラモデル好きの親友しかり、俺をよく知る人間が書いてるのは、違いない。でも、本当に未来の俺が書いたのかは、分からない。 なんせ、未来なのだから。 でも、『未来はそこそこいいぞ』という言葉は、心地いい。 希望を持ってもいいのかもしれないな。なんせ、未来なのだから。