佐伯すみれ

34 件の小説

佐伯すみれ

初めまして。拙い作家ですがよろしくお願い致します。他にもNola、小説家になろうでも活動しています。

本当の自分へ

……違和感は、もう誤魔化せない。 彼女の微笑みの奥に、俺は“誰か”を感じている。 ヴァイオレット嬢――いや、その奥に潜む存在。 深夜、俺は寮を抜け出して、ヴァイオレットの私室がある女子寮に忍び込んだ。  普段の俺なら考えられない行動だ。  俺は窓の外から、ヴァイオレットの私室の窓に魔法をかけて凍らせた。  凍てつく窓を見てヴァイオレットが顔を出す。  俺はヴァイオレットに女子寮の隅にある大木の根元に設置されたベンチに彼女を誘導した。  あそこなら、影に隠れればおいそれとは見つからない。 「ヴァイオレット……君に問いかけたいことがある」 彼女は先程のように微笑を浮かべ、何も知らぬ令嬢のように首を傾げる。 だが、その仕草の奥に、俺は確かに“違和感”を見た。 「君はただの令嬢ではない。 氷の薔薇を咲かせた時、俺はその奥に別の存在を感じた。 ……君の中に、“誰か”がいるのだろう?」 言葉を吐き出すと同時に、胸の奥で神楽坂蓮としての自分が囁く。 ――これは台本にはない。だが、俺は確信している。 彼女の瞳が揺れる。 彼女の張り付いた微笑の奥で、ほんの一瞬、別の光が走った。 「公爵様……幻想的なことを仰いますのね」 彼女は微笑みを深め、誤魔化そうとする。 だが、俺は一歩踏み込む。 「誤魔化すな。俺は見た。 君の奥に潜む“誰か”を。そして……この世界の違和感を」 沈黙が流れる。 彼女の唇が僅かに震え、張り付いた微笑が崩れかける。   「……もし、君が本当にヴァイオレットだけではないのなら。 この物語を終わらせるために、俺は君と向き合わなければならない」   俺はそう告げ、彼女の瞳を見据えた。 氷の公爵ルシアンとしてではなく、神楽坂蓮として。 ルシアン様の瞳が、私を逃さぬように射抜いていた。   「誤魔化すな。俺は見た。君の奥に潜む“もう1人の君”を」   その言葉に、胸の奥が跳ねる。 ――もう隠し通せない。令嬢チートではでは隠しきれない。 私は深く息を吸い、令嬢の仮面を少しだけ外した。   「……そう。あなたには見えてしまったのですね」   声が震える。だが、それはヴァイオレットのものではなく、私自身――“しおり”の声だった。   「わたしはヴァイオレット。けれど同時に、ヴァイオレットではない。 この世界に紛れ込んだ“誰か”……それが、わたし」   ルシアン様の瞳が揺れる。 氷の公爵の冷徹さの奥に、神楽坂蓮としての意識が滲んでいるのを、私は確かに感じ取った。   「あなたも気づいているのでしょう? この世界はただの舞台じゃない。 キャラクターが人間のように動き出している。 そして……この物語を完結させなければ、私たちは帰れない」   言葉を吐き出すと同時に、胸の奥で何かが震えた。 ――これは告白。正体を明かす瞬間。 「だから、ルシアン様。いえ……神楽坂さん。 あなたが鍵なのです。 この物語を終わらせるために、わたしはあなたと向き合わなければならない」 氷の薔薇の令嬢ではなく、“しおり”としての私が、彼に応答した瞬間だった。   彼女の氷の微笑が崩れ、ついに“しおり”としての声が響いた。   「だから、ルシアン様。いえ……神楽坂蓮さん。あなたが鍵なのです。 この物語を終わらせるために、わたしはあなたと向き合わなければならない」   その言葉に、胸の奥が強く震えた。 ――やはり、彼女も気づいていたのだ。 この世界がただの舞台ではなく、演じられたキャラクターが人間のように動き出していることに。 俺は深く息を吸い、彼女の瞳を見据えた。   「……そうか。君も同じ違和感を抱いていたのか」   氷の公爵としての冷徹な仮面を外し、神楽坂蓮としての声が漏れる。   「俺はルシアンであり、同時に神楽坂蓮だ。 この世界に囚われ、役を演じながらも、確かに“自分”を感じている。 そして……君の奥に潜む“君”を、俺は見てしまった」   彼女の瞳が揺れる。 俺は一歩近づき、言葉を重ねた。 「君がヴァイオレットであり、しおりでもあるように、俺もまた二重の存在だ。 だからこそ、俺たちが物語を完結させなければならない。 そうでなければ、元の世界には戻れない」 胸の奥に熱が広がる。 それは執着ではなく、使命。 「君を手放さないのは、ただの欲ではない。 君と共に、この物語を終わらせるためだ。 ヴァイオレットも、しおりも……そのすべてを俺は受け入れる」 言葉を吐き出すと同時に、彼女の瞳に光が宿った。 氷の薔薇の令嬢と、舞台を超えた“彼女自身の光”。 その両方を抱きしめる覚悟が、俺の中で確かに形を成した。 承知しました!ここでは「ヴァイオレット=しおりが、ルシアン=神楽坂蓮の覚悟を受け入れる」場面を一人称で描きます。 「君を手放さないのは、ただの欲ではない。 君と共に、この物語を終わらせるためだ。 ヴァイオレットも、しおりも……そのすべてを俺は受け入れる」 その言葉は、氷の公爵の冷徹さではなく、蓮としての真実だった。 胸の奥が熱くなる。 ――やっと、ここまで来た。 私は氷の微笑を崩し、静かに息を吐いた。 「……そう。あなたは覚悟を決めたのですね」 令嬢としての仮面を外し、“しおり”としての声で応える。 「わたしも、もう誤魔化すことはできません。 この世界に違和感を覚えながらも、ヴァイオレットとして生きてきた。 でも、あなたが蓮さんであると気づいた時……すべてが繋がったのです」 彼の瞳を見据える。 「この物語を完結させなければ、私たちは帰れない。 だから……わたしはあなたの覚悟を受け入れます。 ヴァイオレットとしても、しおりとしても」 言葉を吐き出すと同時に、胸の奥で何かが解けていく。 彼と私、二重の存在が互いに認め合った瞬間。 「蓮さん……あなたとなら、この物語を終わらせられる。 氷の薔薇の物語を、最後まで共に歩みましょう」 その声は震えていたが、確かな決意を帯びていた。 氷の薔薇の令嬢ではなく、“しおり”としての私が、彼の覚悟を受け入れた瞬間だった。 やおら立ち上がり、私はルシアン様――いや、神楽坂蓮に向かってすっと手を差し出した。   「ルシアン様。エンディングにふさわしいダンスを踊って頂けませんこと?」   少し挑発的な物言い。 これは台本にも、ゲームのシナリオにも存在しない選択肢。 けれど、私の胸の奥から自然に溢れ出た言葉だった。 彼は一瞬驚いたように瞳を揺らし、やがてその奥に神楽坂蓮の意識を宿した。 氷の公爵らしからぬ、暖かい眼差しを私に向けて――その手の甲に唇を落とす。   「喜んで。我が婚約者どの」   その声は低く、熱を帯びていた。 今までのルシアンが見せたことのない、柔らかく熱っぽい微笑みが夜風に溶けていく。 私たちは木の下へと歩みを進め、夜風を曲にして踊り始めた。 真夜中のダンス。 互いを認め合い、わずかながら執着という恋心を秘めた、最後のダンスだった。 ――うん!真夜中のダンス……隠れイベント攻略! 心の中でそう叫ぶ。大満足だった。 ゲームの中で初めて、本当に絆を繋いだ物語。 自然と瞳が涙で歪む。 ヴァイオレットとしての私も、しおりとしての私も、同じ感情で震えていた。 この瞬間だけは、役でもキャラクターでもなく、確かに“私”だった。 夜風が木々を揺らし、月明かりが彼女の横顔を照らしていた。 ヴァイオレット――いや、“彼女”が差し出した手を取った瞬間、俺は悟った。 これはただの舞踏ではない。 世界に別れを告げるための、最後の選択なのだ。   「ルシアン様。エンディングにふさわしいダンスを踊って頂けませんこと?」   挑発的でありながら、どこか切なげな響き。 その言葉に、胸の奥で神楽坂蓮としての自分が応えた。   「喜んで。我が婚約者どの」   唇を彼女の手に落とし、氷の公爵らしからぬ熱を込めて微笑む。 その瞬間、俺は確かに二重の存在を受け入れていた。 ルシアンとしての冷徹さと、蓮としての人間らしい温もり。 両方を抱えたまま、彼女と踊ることを選んだ。 夜風を曲に、木の下で舞う。 彼女の瞳が涙で歪むのを見て、胸が締め付けられる。 ――これは別れの舞。 この世界に囚われ続けた俺たちが、ようやく出口へと辿り着くための儀式。   「ヴァイオレット……いや……君と踊るこの最後のダンスを、俺は決して忘れない。 この世界に別れを告げても、絆は消えない。 それが俺たちの物語だ」   言葉は夜風に溶け、月明かりに抱かれる。 ゲームには存在しない、俺たちだけの隠れエンディング。 執着と恋心を秘めた最後の舞踏。 そして俺は、確かに受け止めた。 ――このダンスこそが、世界に別れを告げる選択。 俺たちが物語を完結させるための、最後の証だった。

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ルシアンとヴァイオレット

医務室の空気はまだ張り詰めていた。 氷の公爵ルシアン様の瞳は、私を逃さぬように鋭く見据えている。   「……君は、ずるい……だから、わたしは君に執着し始めたのかも、いや……だいぶ前から執着していたんだろう。ヴァイオレットと、その奥の‪”‬君‪”‬に……」 その言葉に、心臓が跳ねる。 ――やばい!これ完全に執着ルート突入じゃん!攻略サイトなら「公爵様の執着イベント」って赤字で出るやつ! ルシアン様はさらに一歩近づき、私の手を強く取った。 氷の公爵の瞳は冷徹でありながら、執着の熱を宿していた。 令嬢らしい微笑みを浮かべる私の心臓は、キャピキャピと暴れ出す。 ――これ、完全にイベントCG発生じゃん!背景に薔薇が舞ってるやつ! 私は令嬢らしい微笑を崩さず、静かに言葉を返す。 「公爵様……その執着、わたくしを縛る鎖になるかもしれませんわ」 だが、彼は揺るがない。 「鎖でも構わない。君を逃がすくらいなら、縛り続ける」 その執着の熱に、医務室の空気はさらに張り詰めていった。   「それはヴァイオレット嬢攻略宣言かな?」   横からレオン様が割って入った。   「なら、その勝負!俺も乗るぜ! 婚約者なんか知ったこっちゃねー! 下級貴族でも俺は騎士の家系だ。普通の貴族とは違う。 ヴァイオレット嬢は渡さねーな。背中を預けられる女はそうはいねー!」   そう宣言すると、レオン様はベッドの端から飛び降り、堂々と立ち上がった。   「同感です」   ノエル様が静かに言葉を重ねる。   「『氷の薔薇』と名高かったヴァイオレット嬢の見せるいくつもの顔は、僕の想像力を高め、研究意識を高めます。 その勝負、僕も出ましょう」   彼は忙しなく水晶版に何かを書きつけ、大文字で『ヴァイオレット嬢争奪』と掲げた。 室内にざわめきが走る。   「はー……」   大きなため息が響いた。ユリウス様だ。 彼は私の前に出て、庇うように立ち塞がる。   「私はローゼン家の一員です。 皆さんがヴァイオレットをどこまで受け入れられるのか……恐らく幼少から育った私だけでしょう。 可愛い従妹を他の方に譲る気はありません。もちろん、親同士が決めた婚約者でも」   普段穏やかなユリウス様の瞳が鋭く光り、室内の男性陣を射抜いた。 その眼差しに、レオン様は苦笑し、ノエル様は興奮を隠せず、ルシアン様はただ静かに私を見据えていた。 ルシアン様の声が低く響く。   「翻弄されたことを認めよう。だが、それでもなお……私は君を手放さない。 ヴァイオレット嬢の奥に潜む“君”も、ヴァイオレットも……そのすべてを私のものにする」   氷の公爵の執着の熱が、医務室の空気をさらに張り詰めさせる。 レオン様は剣を抜くような気迫で立ち、ノエル様は水晶版を掲げ、ユリウス様は庇護の意思を強める。 ――医務室は、まるで戦場の前夜のような緊張に包まれていた。 そしてその中心にいるのは、氷の薔薇ヴァイオレット=しおり。 「きゃー!医務室での出来事、お芝居みたいでしたね!」 アメリアは私の自室に駆け込むと、恍惚とした表情で語り始めた。 「ヴァイオレット様を巡って、四人の男性が争うなんて……まるで舞台みたい!」 彼女は頬を紅潮させ、夢見るように笑っている。 私はその様子を見ながら、心の中で冷静に突っ込んでいた。 (――いや、そもそもお芝居でもやって欲しいイベントザクザクだったんですけど。これ乙女ゲーのなかだし) アメリアのはしゃぎ声が部屋に響く中、場面は切り替わる。 夜の静けさに包まれた書斎。 氷の公爵ルシアンは窓辺に立ち、月明かりを見つめながら自問自答していた。 「なぜ、私はヴァイオレットに固執するのだろう……」 彼の瞳には、医務室での光景が焼き付いていた。 氷の薔薇を咲かせ、周囲を翻弄するヴァイオレット。 その姿は冷徹でありながら、儚く、抗えぬ魅力を放っていた。 「彼女はただの令嬢ではない。 氷の微笑の奥に、別の存在――“誰か”が潜んでいる。 その二重性が、私を惹きつけてやまないのか……」 彼は拳を握りしめる。 「翻弄されるたびに、私は彼女を求める。 彼女が私を試しているのなら、それに応えたい。 だが、もし本当に別の存在がいるのなら……私はそのすべてを知りたい。 ヴァイオレットも、‪”‬彼女‪”‬も――その両方を」 氷の公爵の声は低く、執着の熱を帯びていた。 「私が固執するのは、彼女がただ美しいからではない。 彼女の中にある矛盾と秘密が、私を狂わせる。 氷の薔薇の棘に傷つけられても、なお触れたいと思ってしまう……」 月明かりが窓を照らし、彼の独白は静かに夜へと溶けていった。 ……違和感がある。 氷の公爵ルシアンとして振る舞うたびに、胸の奥で神楽坂蓮としての自分が囁いている。 「これは本当に俺の世界なのか?」 ヴァイオレット、いや彼女もまた、ただのキャラクターではない。 演じられた存在のはずなのに、彼女の笑みや涙はあまりにも人間的で、錯覚では済まされないほどのリアリティを帯びている。 レオン、ノエル、ユリウス……彼らも同じだ。 同僚声優、先輩声優として共に舞台を作り上げてきたはずの仲間が、今は自らの意思で動いている。 台本を超え、キャラクターが人間のように息づいている。 「俺はルシアンであり、神楽坂蓮でもある。 この二重性が、俺を狂わせる」 葛藤が胸を締め付ける。 もしこの世界がゲームであるならば、物語は必ず完結しなければならない。 だが、完結を迎えなければ……俺は元の世界に戻れないのではないか。 「ヴァイオレット……君も気づいているのか?」 彼女の氷の微笑の奥に、別の存在――“誰か”が潜んでいる。 それは役を超えた魂のように、俺を惹きつけてやまない。 俺は自問する。 「なぜ、俺はヴァイオレットに固執するのか?」 それは執着ではなく、使命なのかもしれない。 彼女と共に物語を完結させること――それが、この世界から解放される唯一の道。 やがて、結論に至る。 「俺はヴァイオレットを手放さない。 彼女と共に、この物語を終わらせる。 氷の薔薇の物語を完結させなければ、俺たちは帰れない。 だからこそ、俺は彼女に固執する」 月明かりが窓を照らす中、氷の公爵ルシアンの冷徹さと、神楽坂蓮の覚悟が重なり合う。 物語を終わらせるための執着――それが、俺の決意だった。 ……やっぱり、違和感がある。 私はヴァイオレット・ローゼン。そう、この世界では確かにそういう存在だ。 けれど、どこかで‪”‬わたしがヴァイオレット‪を演じている‪”‬というか、‪『動かしている』という感覚が拭えない。 女性声優には詳しくないけれど、私の声をあてているのは新進気鋭の新人声優だった気がする。 それでも、依然として私は“ヴァイオレット”であり、彼女の声は私の声として響いている。 『氷の薔薇』の力――怒りや感情の昂りで発動するチート。 それは確かに特別な力だが、それ以外はまったくの“自分”である。 まぁ、令嬢としての立場やチートは別として。 だが、分からないことがある。 何をしても好感度が上がっていくのだ。 危ない橋を渡ってきたはずなのに、今のところアメリアが言う通り、まるでハーレム無双。 好感度ゲージが勝手に跳ね上がるような感覚に、私は冷静に突っ込まずにはいられない。 そして、もっと奇妙なのは――隠しルート。 本来なら一度きりのはずなのに、何度も何度も発生している。 まるで物語そのものが、私を中心に分岐を繰り返しているようだ。 ……気になるのはルシアン。 彼の瞳の奥に、私は“神楽坂蓮”の存在を感じてならない。 氷の公爵としての冷徹さの奥に、役を演じる声優としての意識が滲んでいる。 彼もまた、この世界に違和感を覚えているのではないか。 「もしかして……このゲームを終わらせるのは彼が鍵なのかもしれない」 そう思い立った瞬間、胸の奥で何かが震えた。 私と彼――ヴァイオレットとルシアン、しおりと神楽坂蓮。 二人が物語を完結させなければ、この世界は終わらない。 そして、私たちは元の世界に戻れない。 氷の微笑を浮かべながらも、心臓は跳ね続けていた。 ――この物語を終わらせるために、彼と向き合わなければならない。

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神楽坂蓮と『氷の薔薇』

事件の後、私はすぐに医務室へ向かった。 「アメリア!足は大丈夫?」 ベッドのカーテンからひょこっと顔を覗かせたアメリアは、私の顔を見るなり破顔した。 「ヴァイオレット様!はい!先生の回復魔法で足の方は治りました!でも……髪飾りが……」 しゅんと肩を落とす彼女の手には、私たちお揃いだった髪飾りが真っ二つに割れていた。 私はそれを見て、自分の髪飾りを外すと、躊躇なく真ん中から折った。 「ヴァイオレット様!?」 「ヴァイオレット!!」 驚くアメリアの声が響く。 と同時に男性陣の声? その時、気づけば医務室にはレオン様、ノエル様、ユリウス様、そして私を追ってきたルシアン様まで全員集合していた。 「あら、皆様方お揃いで……」 勢いに気圧され、私の笑いはしりすぼみに消える。 ――好感度とか、もう分からない。なるようになれ!破滅以外ならどんな結末も受け入れるさ! 「しかし、なぜ君まで髪飾りを?」 送り主のルシアン様が問いかける。自分の贈り物を故意に壊されていい気はしないだろう。 「こうすれば修理した時に同じような方法になりますから、また同じような髪飾りになると思いましたの」 私はにっこりと微笑んだ。 その案にアメリアを除く四人は大爆笑。 「同じように折れば、同じように治るって……!」 レオン様はお腹を抱え、ノエル様は水晶版に書き込み、あのルシアン様ですら涙を滲ませて笑っていた。 ――これって全体イベントスチル発生じゃない!?と思うほどの素敵な絵面だった。 「買った以上、俺が責任を持とう」 ルシアン様は髪飾りを受け取り、「うちで修理させるよ。直ったら二人に届けよう」と引き受けてくれた。 「しかし話には聞いたが、お前マーゴット男爵令嬢を停学に追い込んだってな?やるな!」 レオン様が前のめりに賞賛し、ノエル様は「『氷の薔薇再臨』っと、ひとつの物語が書けそうですね!」とメモを取りながらはしゃいでいた。 ただ一人、冷静だったのはユリウス様。 「事の顛末は聞いたが……お前、あの後自分の足を傷つけたんだろ?叔父様になんと言ったらいいんだ?」 彼が頭を抱えた瞬間―― 「――痛っ!」 突如、足首に激痛が走り、私はその場に座り込んだ。 すぐさまルシアン様が私を抱き上げ、空いているベッドに座らせる。 ドレスから足を引き出すと、彼は氷魔法で冷やし始めた。 本来なら淑女の足に触れることは許されない。だが、私たちは便宜上婚約者。許される行為ではあるが、突然のことで頬が赤らむ。 「やっぱり……」 「お、おい!公然で何をするルシアン公!」 ユリウス様が肩を掴むが、構わず彼は私の足首に氷魔法をかける。 「風の刃の傷をそのままにして、高いヒールで駆け回るから悪化したんだ!気づかなかった俺も悪いが……」 腫れ上がった足首は折れているのではと思うほどパンパンに膨れていた。 「先生を呼んでくる!」 アメリアは悲鳴を上げ、ユリウス様は医務魔法の先生を呼びに走る。 他の男性たちは礼儀に従い、私の足から視線を逸らした。 ――痛いけれど、この絵面だけでご飯三倍はいけます! ルシアン様が冷やす私の足首、その場に集う令息たち。 医務室は、事件の余韻と新たな絆の予感で満ちていた。   「先生を呼んできました!」 ユリウス様が戻ってきた瞬間、医務室の扉が開き、白衣をまとった先生が姿を現した。   「さて……どれほどの怪我か見せていただこう」   先生は私の足首を見て、眉をひそめた。 「これは……酷い腫れだ。風の刃を受けた痕跡が残っている。 こんな状態で舞踏会を続けるなど、正気の沙汰ではない! 放置すれば歩行障害になっていたかもしれないのだぞ!」   厳しい声が医務室に響き渡り、私は思わず肩をすくめた。   「……申し訳ございませんわ」   令嬢の微笑みを浮かべながらも、心の奥では冷や汗が流れていた。 先生は回復魔法を施しながら、さらに言葉を重ねる。   「君はローゼン家の令嬢だろう?その責務を忘れてはならない。 己を犠牲にしてまで誇りを守るのは愚かだ」 その言葉に、医務室の空気が重く沈む。 ――だが、その沈黙を破ったのはルシアン様だった。   「先生。彼女は愚かではない」   氷の公爵の声は低く、しかし確信に満ちていた。 彼は私の足首を冷やしながら、じっと私を見つめる。   「私は理解した。舞踏会で彼女がなぜ、『氷の薔薇』と呼ばれるのかを。 彼女は普通の令嬢じゃない。友の為に怒り、仲間のために身を傷つける……彼女の奥に潜む、別の存在の意思だ」 その言葉に、心臓が跳ねる。 ――しおり。私の中に潜むもう一人の私。 「ヴァイオレット嬢……いや、君の奥にいる誰か。 それが君を動かしているのだろう?」 ルシアン様の瞳は鋭く、氷の仮面の奥に熱を宿していた。 私は氷の微笑を浮かべながらも、心の中ではキャピキャピと動揺していた。 ――やばい!これ、完全に正体バレイベントじゃん! 攻略サイトなら「隠しルート分岐」って赤字で出るやつ! 先生の回復魔法が足首を包み、痛みが和らいでいく。 だが、心の奥の緊張は増すばかりだった。 「……ルシアン様。あなたは何を仰っているのかしら?」 私は微笑を深め、言葉を濁す。 だが、彼の瞳は揺るがない。 「私は確信している。君はただのヴァイオレットではない。 その奥に潜む“だれか”を、私は見ている」 医務室の空気は、治療の静けさと、正体に迫る緊張で張り詰めていた。 「おいおい……何を訳の分からないことを言ってるんだ、公爵様。 ヴァイオレットはヴァイオレットだろ?」   ルシアン様の肩に軽く手を置き、レオン様が苦笑混じりに言った。 その言葉に、場の空気が少し和らぐ。   「ヴァイオレット嬢の中に別の人格が存在する?……これは面白い仮説だ」   ノエル様は目を輝かせ、水晶版に必死でメモを取り始める。 彼の筆は止まらず、まるで新しい物語の断片を記録するかのようだった。   「まぁ、ギャップは倒れてから多々見られるが……怒ったヴァイオレットはあんな感じだぞ。 むしろ、前より穏やかになったくらいだ」   ユリウス様は診療を見ながら、ポンと私の頭に手を置いた。 その手の温もりに、少しだけ心が落ち着く。 ――だが。   「違う」   ルシアン様の声が低く響いた。 氷の公爵の瞳は鋭く、私を逃さない。   「君の中には、確かに別の存在がいる。 氷の薔薇を咲かせた時の君は、ただのヴァイオレットではなかった。 その奥に潜む“だれか”を、私は見ている」   その言葉に、心臓が跳ねる。 ――やばい!これ、完全に正体バレイベントじゃん! 攻略サイトなら「隠しルート分岐」って赤字で出るやつ!   「公爵様、そんなこと……」   私はいつものヴァイオレットになって微笑を浮かべ、言葉を濁す。 だが、ルシアン様は一歩近づき、さらに追い込む。   「君は誤魔化せると思っているのか? だが、私は確信している。 ヴァイオレット嬢の奥に潜む“だれか”を、私は必ず引きずり出す」 医務室の空気は張り詰め、他の令息たちも息を呑んだ。 レオン様は困惑し、ノエル様は興奮し、ユリウス様は冷静に私を庇おうとする。 だが、ルシアン様の瞳は揺るがない。 氷の公爵の視線は、私の仮面を剥ぎ取ろうとするかのように鋭かった。   氷の公爵ルシアン様の瞳が、鋭く私を射抜いていた。 「君の中には、別の存在がいる。氷の薔薇を咲かせた時の君は、ただのヴァイオレットではなかった」 心臓が跳ねる。 ――やばい、これ完全に正体バレイベントじゃん! 攻略サイトなら「隠しルート分岐」って赤字で出るやつ!   「おいおい……何を訳の分からないことを言ってるんだ、公爵様。 ヴァイオレットはヴァイオレットだろ?」   ルシアン様の肩に軽く手を置き、レオン様が苦笑混じりに言った。 その言葉に、場の空気が少し和らぐ。   「ヴァイオレット嬢の中に別の人格が存在する?……これは面白い仮説だ」   ノエル様は目を輝かせ、水晶版に必死でメモを取り始める。 彼の筆は止まらず、まるで新しい物語の断片を記録するかのようだった。   「まぁ、たしかに変わったな。昔のヴァイオレットだったら怒らせたら10倍返し。今日なんてその半分程度だ。疑うなら、少しお転婆が改善されたところか?」 ユリウス様は診療を見ながら、ポンと私の頭に手を置いた。 その手の温もりに、少しだけ心が落ち着く。 ――だが。 「違う」 ルシアン様の声が低く響いた。 氷の公爵の瞳は鋭く、私を逃さない。 「君の中には、確かに別の存在がいる。 氷の薔薇を咲かせた時の君は、ただのヴァイオレットではなかった。 その奥に潜む“誰か”を、私は見ている」 その言葉に、心臓が跳ねる。 ――やばい!これ、完全に正体バレイベントじゃん! 攻略サイトなら「隠しルート分岐」って赤字で出るやつ! 「公爵様、そんなこと……」 私は氷の微笑を浮かべ、言葉を濁す。 だが、ルシアン様は一歩近づき、さらに追い込む。 「君は誤魔化せると思っているのか? だが、私は確信している。 ヴァイオレット嬢の奥に潜む“君”を、私は必ず引きずり出す」 医務室の空気は張り詰め、他の令息たちも息を呑んだ。 レオン様は困惑し、ノエル様は興奮し、ユリウス様は冷静に私を庇おうとする。 だが、ルシアン様の瞳は揺るがない。 氷の公爵の視線は、私の仮面を剥ぎ取ろうとするかのように鋭かった。 医務室の空気は張り詰めていた。 ルシアン様の瞳は鋭く、私の奥に潜む“しおり”を見抜こうとする。 「君はただのヴァイオレットではない。氷の薔薇を咲かせた時、別の存在が顔を覗かせていた」   その言葉に、心臓が跳ねる。 だが、私は令嬢らしい微笑を浮かべ、ゆっくりと彼に近づいた。 医務室の空気は張り詰めていた。 ルシアン様の瞳は鋭く、私の奥に潜む“しおり”を見抜こうとする。 だが、私は氷の微笑を浮かべ、ゆっくりと彼に近づいた。 「まぁ……公爵様は随分と幻想的なことを仰いますのね。 でも、もしわたくしの中に“誰か”がいるとしたら……それは、あなたが見たい夢の中の幻影でしょう」 ルシアン様の瞳が揺れる。 私はさらに一歩踏み込み、彼の耳元に囁いた。 「それとも……公爵様が私を特別に見すぎて、幻を見てしまったのかしら?」 その瞬間、彼の肩が僅かに強張った。 氷の公爵と呼ばれる男が、私の言葉に動揺している。 「……君は、ずるい」 低い声が漏れる。 私は氷の微笑を深め、軽やかに身を引いた。 「ずるい?まぁ、女性はいつだって少しずるいものですわ。 それを見抜けない公爵様こそ、まだまだですわね」 レオン様が吹き出し、ノエル様は水晶版に「翻弄イベント発生!」と書き込み、ユリウス様は呆れたようにため息をついた。 ルシアン様はしばし黙し、瞳を細める。 「……君は私を試しているのか?」 私は氷の微笑をさらに深め、静かに答えた。 「試しているのではなく、楽しんでいるのですわ。 公爵様を翻弄するのは、思った以上に愉快ですもの」 その言葉に、氷の公爵の瞳が僅かに揺らぎ、医務室の空気は一瞬で変わった。 追い詰められるはずだった私が、逆に彼を翻弄していた。

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『氷の微笑』発動!

ガシャーン――。 大きな音が響き、給仕の男性がトレーごとシャンパングラスを床にぶちまけた。 視線を向けると、そこには床に這いつくばるアメリア。 パートナーだった令息はただオロオロと突っ立ち、助けることもできずにいた。 よく見ると、アメリアの足首には奇妙な筋が走っている。 その様子を見下ろすのは、マーゴット男爵令嬢と彼女の相手の令息。 ずぶ濡れになったアメリアは羞恥で顔を赤くし、痛みに立ち上がれずにいた。   「どんなに上等なドレスを身にまとっていても、卑しさは抜けませんわね。 ダンスも踊れないようじゃ、この学園でやっていけませんわよ? ねぇ、ロベルト様」   マーゴットはしなだれかかるように令息の胸に納まり、勝ち誇ったように笑う。 さらに、床に落ちた私たちのお揃いの髪飾りを足蹴にした。   「しかも、こんな小粒の宝石の寄せ集めの髪飾りなんてセンスが悪すぎますわ」   そして何事もなかったかのように、ダンスの列へと消えていく。 ――その瞬間、私の中で何かが切れた。 いや、生まれたと言っても過言ではない。   「ユリウス従兄様、アメリアのことお願いいたします」   自分でも驚くほど冷静な声で告げると、ユリウス様は即座に動いた。 アメリアを抱き上げ、給仕たちに後片付けを指示しながら彼女を運び出していく。 私はルシアン様に手を伸ばした。   「ルシアン様。もう一曲お願いしてもよろしいかしら?」   やや高慢とも言える口調。だが、ルシアン様は察したように私の手を取り、甲に口付ける。   「喜んで。ヴァイオレット嬢」   そのまま私の腰を引き寄せ、ワルツの体制に入った。 いつもなら胸を高鳴らせる場面。だが今は心が冷えきっていた。 ――私の魔法は闇属性。相手の魔力を奪うことができる。 何事もないかのようにルシアン様と円を描きながら回り続ける。 時が来るまで。 そして、その時はすぐに訪れた。 マーゴット男爵令嬢と令息が近づいてきた瞬間を狙い、私は目配せする。   「ルシアン様、お力お借りします!」   彼は頷いた。何をしようとしているか、理解しているようだった。 私はルシアン様の魔力を拝借し、マーゴットのパンプスのヒールの付け根に薄い氷の刃を差し込む。 ――パキン。 ヒールが折れ、マーゴットは見事に足を大開脚させて座り込んだ。   「え!? え!? なんですの? フロアが滑って……」   彼女は足元を見たが、魔法で作った薄い氷はすぐに消える。 しかも、先ほどアメリアにシャンパンをぶちまけた時に濡れた絨毯を踏んでいる。 アリバイは十分だ。 周囲の視線は好奇心に満ち、ただ『ヒールが折れたのか』『エスコートが悪かったのか』と囁くばかり。 マーゴットはロベルトの手を借りてよろよろと立ち上がるが、好奇の目に耐えられず出口へ向かう。 ――だが、そうは問屋が卸さない。 私はシャンパングラスの乗ったトレーを持ち、わざわざ二人の前に立ちはだかった。 そして、トレーごと投げつける。 「な、なにをなさるの!? ヴァイオレット様!」 びしょ濡れになった前髪を持ち上げ、マーゴットは私を睨みつける。 私は氷の微笑を浮かべ、静かに告げた。 「あら、男爵家ではなかなか手に入らない上等なシャンパンですのよ? お気に召さなくて?」 すっと足首を出すと、その部位には確かに腫れが走っていた。 ――アメリアを傷つけた代償を、彼女に返すために。 承知しました!ここでは「ヴァイオレットが氷の微笑でマーゴットを追い詰め、ルシアンが魔道流動術を提案し、マーゴットが顔を青くする」場面の続きを物語として描きます。 --- 物語描写(一人称) 「この腫れ方……蹴ったり、ぶつけたりではできませんわね。 そうですわ、小さな風魔法を受けたら、ちょうど足首に風の刃が走って……こんな感じになりますわ」 私はトレーをするりと床に落とし、濡れた姿のマーゴット男爵令嬢を凍るような視線で見下ろした。 氷の微笑を浮かべながら、静かに言葉を紡ぐ。 「たしか、マーゴットさんの魔法は風属性……」 その一言に、彼女の顔は真っ赤に染まった。 「わ、私がやったとでも仰るの!? 証拠はございますの!?」 必死に反論する声が、会場のざわめきに混じる。 私は聞こえないように、さらに言葉を重ねた。 「たしか……アメリアさんも、このような跡が残っていましたわね」 その時、背後から低い声が響いた。 「それなら、怪我人が二人も出たんだ。学園長に頼んで、魔道流動術をふたりにかけてもらうといい。どこから発生したか、すぐにわかる」 いつの間にか、ルシアン様が私の後ろに立っていた。 冷徹な瞳で状況を見据え、的確な一手を放つ。 もちろん、私の足の腫れは――すれ違いざまにマーゴットの魔力を吸い取り、自分でつけたもの。 だが、アメリアの傷は違う。 出処を知られては困るマーゴットにとって、ルシアン様の提案は致命的だった。 彼女の顔はみるみる青ざめていく。 「……っ」 声にならない声を漏らし、視線を逸らす。 私は氷の微笑をさらに深め、優雅に言葉を添えた。 「まぁ! ルシアン様! 素晴らしいお考えですわ!」 会場の空気は一変した。 好奇の視線はマーゴットへと集中し、彼女の肩は小刻みに震えていた。 ロベルトと呼ばれた令息も、居心地悪そうに視線を泳がせる。 ――氷の公爵と氷の薔薇。   「それにわたくし――やられたら十倍返しが家訓ですのよ。 このシャンパンは、それの……手始めみたいなものですわ」   氷の微笑をさらに深めながら、濡れ鼠のようになったマーゴット男爵令嬢を見下ろす。 その視線は凍りつくように冷たく、彼女の背筋を震えさせた。 「……っ!」   マーゴットは前髪をかき上げ、必死に睨み返す。だが、その瞳には怯えが滲んでいた。 周囲の令息や令嬢たちの視線が突き刺さり、彼女の肩は小刻みに震える。   「ロ、ロベルト様……行きましょう!」   彼女は相手の令息の腕を掴み、出口へと急ぎ足で向かおうとする。 だが、濡れたドレスの裾が足に絡み、歩みはぎこちない。 好奇の視線に晒されながら、必死に逃げようとする姿は、先ほどの傲慢さとはまるで別人だった。 私はその背を見送りながら、氷の微笑をさらに深める。   「十倍返しはまだ始まったばかりですわ。……逃げられると思って?」   その言葉は誰にも聞かれぬよう、唇の奥で囁いた。 マーゴットの背中は、まるで追われる獲物のように小さく震えていた。 (逃げようってか? アメリアを傷つけて、私たちお揃いの髪飾りを壊しておいて……それで済むと思ってんのか?) 私の中のヴァイオレットが鎌首をもたげ、氷の微笑をさらに深める。 その視線は鋭く、マーゴット男爵令嬢を逃がす隙を与えない。 「さすが、裏口入学が噂される家格の低い男爵家。そうそう…ご禁制の賭博にまで手を出してる噂もございますわね。  まぁまぁ、逃げる様子がお粗末です事。 でも――我がローゼン家からそう易々と逃げられるとお思い?」 その言葉に、マーゴットの顔は青ざめた。 周囲の令嬢や令息たちがざわめき、彼女の肩は小刻みに震える。 ロベルトと呼ばれた令息も、居心地悪そうに視線を泳がせる。 私は一歩前へ進み、濡れた彼女の姿を見下ろす。 氷の微笑を浮かべたまま、冷徹に告げる。   「アメリアを辱め、友情の証を踏みにじった罪。 その代償を、ここで払っていただきますわ」   マーゴットは必死に口を開く。   「わ、私は……何も……!」   だが、その声は震え、説得力を失っていた。 ルシアン様が背後から静かに言葉を添える。   「学園長に魔道流動術を頼めばいい。魔力の出処はすぐに分かる」   その一言で、マーゴットの膝が崩れ落ちそうになる。 彼女の顔は蒼白に染まり、逃げ場を失った獲物のように震えていた。 私は氷の微笑をさらに深め、冷ややかに見下ろす。   「逃げるなら、どうぞ。 けれど、この場にいる全員の視線が、あなたの背を追い続けますわ」   好奇の視線に晒され、マーゴットはもはや立ち尽くすしかなかった。 完全に追い詰められた彼女の姿は、かつての傲慢さを失い、ただ小さく震える影となっていた。   氷の微笑を深める私の言葉に、マーゴット男爵令嬢の顔は蒼白に染まっていた。 周囲の令嬢や令息たちの視線が突き刺さり、彼女は逃げ場を失っている。 ――だが、その時。 「わ、わたくしは……負けませんわ!」   マーゴットは震える声で叫び、必死に最後の抵抗を試みた。 濡れたドレスの裾を握りしめ、風属性の魔力を呼び起こそうとする。   「証拠もないのに、わたくしを罪人扱いするなんて……! この場で、あなたを黙らせてみせますわ!」   彼女の周囲に微かな風が渦を巻き始める。 だが、その魔力は不安定で、恐怖に震える心が制御を乱していた。 私は一歩前へ進み、氷の微笑をさらに深める。   「……最後の抵抗、ですのね。 けれど、あなたの風は私の氷に届きませんわ」   その瞬間、背後からルシアン様の声が響いた。   「やめろ、マーゴット。これ以上は自らの罪を証明するだけだ」   彼の冷徹な瞳が、彼女の魔力を封じるように光る。 マーゴットは必死に風を操ろうとするが、周囲の視線とルシアン様の威圧に耐えられず、魔力は霧散した。   「……っ、いや……いやぁ!」   彼女は叫び声を上げ、ロベルトの腕にすがりつく。 だが、好奇の視線は冷たく、誰も彼女を庇おうとはしなかった。 私は静かに言葉を重ねる。   「アメリアを傷つけ、友情の証を踏みにじった罪。 その代償から、もう逃げられませんわ」 マーゴットの最後の抵抗は、氷の薔薇の前に散り、彼女は完全に追い詰められた。 逃げる場所はない。 彼女はすっかり、侮蔑と嘲笑の的になっていた。 フロアに漂う緊張は最高潮に達していた。 マーゴット男爵令嬢は必死に風を呼び起こそうとしたが、ルシアン様の冷徹な一言と、私の氷の微笑に打ち砕かれ、魔力は霧散していた。 その時――。   「静粛に!」   重々しい声が響き、会場の空気が一瞬で張り詰める。 学園長が姿を現したのだ。 白髪を後ろに束ね、威厳に満ちた瞳でフロアを見渡す。   「舞踏会の場で魔法を乱用し、怪我人を出すなど、断じて許されぬ」   マーゴットは蒼白な顔で震えながら反論を試みる。   「わ、私は……何も……!」   だが、学園長の瞳は鋭く、彼女の声を遮った。   「アメリア嬢の足首に走った傷跡、そしてヴァイオレット嬢の腫れ。 魔道流動術をかければ、魔力の出処は明らかになる。 それでもなお、潔白を主張するか?」   その言葉に、マーゴットの顔はさらに青ざめた。 周囲の令嬢や令息たちの視線が突き刺さり、彼女はもはや立ち尽くすしかない。 学園長は厳かに告げる。   「マーゴット男爵令嬢。あなたには停学処分を言い渡す。 さらに、アメリア嬢への謝罪と治療費の負担を命じる。 ローゼン家の髪飾りを踏みにじった件も、学園の規律に照らして処罰対象とする」    先程も言ったが我が家の家訓は10倍返し(わたしのだけど)  きっちり落とし前つけてもらいます。 実はもう、セオリス従兄様に手筈は頼んであったのだ。 会場にざわめきが広がる。 マーゴットはロベルトの腕にすがりつき、涙を滲ませながら出口へと引きずられていった。    私は氷の微笑を浮かべ、静かに息を吐いた。 ――これで、アメリアは守られた。 そして、ローゼン家の威光は揺るがぬものとなった。 背後からルシアン様の声が低く響く。   「……見事だ、ヴァイオレット嬢」   その言葉に、私はほんの僅かに微笑みを深めた。      

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嫉妬イベント発生!

煌めく音楽の中、私はルシアン様と舞踏を続けていた。 氷の公爵の瞳が、確信を宿したまま私を見つめる。 その視線に胸がざわめく。 ――その時。 「ヴァイオレット!」   鋭い声が響き、振り返るとレオン様が立っていた。 彼の瞳は怒りと焦りに燃えている。   「どうして……ルシアン様なんかと踊っているんだ! 君は俺と一緒にいるべきだろう!」   拳を握りしめ、悔しさを隠しきれない。 その姿は、まさに嫉妬に駆られた令息のイベントそのものだった。 私は令嬢らしく微笑を浮かべ、静かに声をかける。   「レオン様……お気持ちは嬉しいですわ。ですが、今は後夜祭。争う場ではありません」   彼は唇を噛み、視線を逸らす。   「……分かってる。でも、君がルシアン様に取られるのは耐えられない」   その言葉に胸が痛む。 私はそっと彼の手に触れ、宥めるように微笑んだ。   「レオン様。あなたは大切な方です。だからこそ、嫉妬で心を曇らせないでくださいませ」   レオン様の瞳が揺れ、やがて拳を緩めた。 「……君はずるいな。そんな風に言われたら、怒れなくなる」  ここで、レオン様はすぐ引き下がってくれた。  ‪”‬しおり‪”‬的私としては大興奮イベントだったが、  今は公爵令嬢‪”‬氷の薔薇‪”‬ヴァイオレット・ド・ローゼン。  ここは、冷静に冷静に……。  次なる騒ぎはすぐに起こった。  私とルシアン様が曲が変わっても踊っていると、  不意に後ろから声がした。   「ヴァイオレット嬢、随分楽しそうじゃないか」   軽やかな声が響き、振り返るとノエル様が立っていた。 いつもの飄々とした笑みは消え、瞳には嫉妬の色が宿っている。   「僕は君の笑顔を引き出せると思っていたのに……氷の公爵に先を越されるなんてね」   肩をすくめながらも、その声には苦々しさが滲んでいた。 私は令嬢チートを発動させて、彼を宥めるように微笑を浮かべ、静かに答える。   「ノエル様……あなたのおかげで笑ったことも、たくさんありますわ。だから、そんな風に思わないでくださいませ」   ノエル様は苦笑を深め、視線を逸らす。   「……君はずるいな。そう言われると、嫉妬している自分が馬鹿みたいに思えてしまう」   私はそっと彼の手に触れ、宥めるように微笑んだ。   「ノエル様。あなたも大切な方です。だからこそ、心を曇らせないでくださいませ」   彼は小さく息を吐き、やがて肩の力を抜いた。   「……分かったよ。けれど、僕は諦めない。君の笑顔を奪い返すためにね」   ――第2弾の「キャー!」である。  ノエル様も嫉妬してくれてる!  二人のそれぞれ違うタイプのイケボと、スチル発動イベントにキュン死しそう……。  しかもレオン様・ノエル様に対する心のミーハーを押さえつけて、わたしは優雅に微笑み続けた。 ダンスが休憩に入り、私はルシアン様と並んで飲み物を手にしていた。 氷の公爵と呼ばれる彼が、珍しく柔らかな口調で話しかけてくれる。   「……君は、以前よりもずっと楽しそうだな」   その言葉に、私は優雅な微笑を浮かべながらも心の奥で温かさを感じていた。 ――そんな二人を割くように、会場で声が上がった。   「ヴァイオレット!」   鋭い声が響き、ユリウス様が近づいてきた。 嫉妬に燃える瞳が、私とルシアン様の距離を許さないと訴えている。   「君がルシアン様と談笑するなど……認められない!」 彼は真っ直ぐに私を見つめ、怒りを露わにした。   しかし、今度はルシアン様が真っ向から応じた。   「ユリウス。これは彼女が選んだことだ。君の嫉妬で乱すべきではない」   冷徹な声に、確かな熱が宿っていた。 二人の視線がぶつかり、火花が散るような空気が広がる。 私は氷の微笑を保ちながらも、心の中では―― ――ちょ、待って!三度目の修羅場イベント!? 休憩中に飲み物を飲んで談笑してるところに、ユリウス様が嫉妬で割り込んでくるとか、攻略サイトなら「隠しイベント発生!」って赤字で出るやつ! しかもルシアン様が真っ向からユリウス様に立ち向かうとか、そんな展開なかったはず!   「君の嫉妬で乱すべきではない」  とか、冷徹なのに熱いセリフ、破壊力ありすぎ! いやいや、現実で言われると困るんだけど、乙女ゲー脳の私は「キャー!」って叫びたい。 これ、完全にイベントスチル入った!選択肢出るやつ! 「ルシアンを信じる」「ユリウスを宥める」「両方を笑顔で受け止める」って出るやつ! 表情は令嬢の微笑で冷静に振る舞いながらも、心の中ではキャピキャピ。 「これ、隠しルート突入じゃん!」 「ユリウスとルシアンが火花散らすとか最高!」   ルシアンの胸の内 ユリウスを真っ向から退けた後、ルシアン様はふと黙り込んだ。 氷の公爵の瞳に、疑問符が浮かぶ。 ――なぜ、自分はここまで彼女を守ろうとするのか。   ――なぜ、冷徹さの奥に熱が宿るのか。   「……何かが違う」   彼は心の中で呟いた。 氷の仮面の奥で、確かに揺らぎが始まっていた。 後夜祭の舞踏会。 ルシアン様とユリウス様が火花を散らし、私をめぐって視線をぶつけ合っていた。 氷の公爵の冷徹な瞳と、従兄の嫉妬に燃える瞳。 その間に立たされ、私は息を呑む。 ――ここは!?どれが正解!? 脳内で好感度ゲージが浮かび上がる。 「ルシアン様を信じる」か、「ユリウス様を宥める」か、あるいは「黙ってこの場を見守る」か。 問題は、黙って見守ること。 両方にいい顔をすれば、大抵両方の好感度が下がる。 どちらかを選ばないといけない。だが、選ばれなかった相手の好感度はダダ落ちする。 「うーん……推しを推すならルシアン様だけど……従兄の嫉妬はレベル高いぞ!」 心の中でキャピキャピしながらも、必死に脳内をフル稼働させていた。 二人の間で時間は過ぎてゆく。 選択肢が消える前に決断しなければならない。 だが、心臓の鼓動が早まり、頭の中では「好感度管理」「イベント分岐」「隠しルート」の文字がぐるぐると回っていた。 わたしは、微笑を浮かべながらも、内心は完全に乙女ゲー脳。 「これ、攻略サイトなら赤字で『重要選択肢』って書かれるやつ!」 「どっち選んでもドラマチックすぎて心臓がもたない!」 私は必死に笑みを保ち、二人の視線を受け止める。 ――この場面は、確かに物語の分岐点だった。

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好感度アップイベント!後夜祭のダンスパーティー

模擬店の終了を告げる鐘が鳴り、賑やかだった教室は次第に静けさを取り戻していった。 私は執事姿のまま、深く息を吐く。  ――長い一日だった。 「さぁ、片付けを始めましょう!」   クラスメイトの声に応じて、皆が一斉に動き出す。 テーブルの上のティーカップや皿を集め、濡れた絨毯の周りには雑巾を持った生徒たちが集まっていた。 先ほどの騒動を思い出し、胸が再び滾る。だが、今は冷静に場を整えることが先だ。   「ヴァイオレット様、こちらは私たちがやりますので!」   慌ててクラスメイトが駆け寄り、私の手から皿を受け取る。   ――そうだ。公爵令嬢に片付けをさせるわけにはいかない。   彼らの必死な様子に、私は優雅に微笑を浮かべて一歩下がった。 その時、奥からアメリアが制服姿で現れた。 肩にはまだ氷嚢を当てていたが、笑顔を浮かべている。 「私も手伝います!」 その健気な声に、クラスメイトたちは一瞬戸惑い、すぐに温かい笑みを返した。   「無理はしないでくださいな、アメリア」   私は彼女に歩み寄り、そっと肩に手を置く。   「今日は十分頑張ったのですから」 アメリアは少し頬を赤らめ、けれど強がるように笑った。   「でも……お友達ですから、最後まで一緒にいたいんです」   その言葉に胸が熱くなる。 私は心の中がジーンとした。    (負傷してると言うのになんという健気さ!さすが主人公!)  わたしが更にアメリアに好感を抱いて、見つめていると、片付けの喧騒の中、ふと視線を感じて振り返ると――。 扉の外からルシアン様が静かにこちらを見守っていた。 冷たい眼差しの奥に、わずかな光が宿っているように見えた。 私は彼に向かって、ほんの少しだけ庶民的な笑みをこぼした。 ――氷の公爵と氷の微笑。 その間に、確かに新しい温度が生まれ始めていた。 さーて、文化祭も終わったことだし、ここでイベント分岐点が訪れる。  後夜祭のダンスパーティだ。 ダンスパーティーの相手は自分で選択する。 この選択で、好感度アップが稼げる。 もちろん――神楽坂蓮が演じるルシアン様と行きたいところだ。 だが、私は迷っていた。 悪役令嬢をやめ、アメリアと懇意になってから、レオン様、ノエル様、ユリウス様……彼らの色んな一面を見つけてしまった。 正直、無節操だと思う。けれど、皆に好感を抱いてしまったのだ。 ゲームなら攻略サイトを見れば答えは出るだろう。 だが、この世界には攻略サイトなんてない。 自分の目で感じ、選択してきた。 破滅エンドはないと思う。 けれど、誰かひとりの好感度アップは抑えておいた方がいいだろう。 そう考えると、やっぱりルシアン様なのだ。 ……ただ、最近のルシアン様が私を見る目付きが変わったのが分かってしまった。 冷たい氷の公爵の眼差し。 それが、まるで観察するように、ヴァイオレットの奥にある“しおり”を見抜こうとしている。 その視線に、胸がざわめく。 (……見られている。仮面の奥の私を) 選択の時は近い。 氷の公爵と、悪役令嬢の仮面を脱ぎ捨てた私。 その交差点に立ちながら、私は静かに息を整えた。 後夜祭のダンスパーティーを前に、貴族たちはそれぞれ自室へ戻り、支度を始めていた。 私もその流れに乗り、アメリアの手を取って自室へと招き入れる。 テーブルの上には二つのスタンド式の鏡。 その傍らにはメイドが二人、控えていた。 「え!? ヴァイオレット様、これは一体……」 驚くアメリアに、私はニッコリと微笑んで答える。 「アメリア、あなた後夜祭を出ないつもりでしたでしょう? そうは行きませんわ! 私の友人として出てもらいます」 そう言って彼女をベッド前へと連れていく。 そこには二着のドレスが用意されていた。 ひとつは夜空のように宝石が散りばめられた、紫がかったグレーのドレス。 これは私の瞳の色に合わせて仕立てたもの。 もうひとつはピンクの薔薇のようにフリルがあしらわれ、胸元に宝石がワンポイント輝くドレス。 「え……ヴァイオレット様、これって……」 戸惑うアメリアに、私は胸を張って宣言する。 「もちろん、あなたのドレスですわ! 私の親友ですもの。欠席なんて許しませんことよ」 驚くアメリアにウィンクを返し、メイドたちに手伝わせて着替えを始める。 並んで化粧を施し、最後にルシアン様が買ってくださった色違いのお揃いの髪飾りをつけた。 鏡に映る二人の姿は、まるで姉妹のよう。 現実世界の姉妹とはそこまで仲が良いわけではないけれど、ドレスを着て、メイクをして、色違いの髪飾りをつける――そんな時間は女子会のようで楽しかった。 「ヴァイオレット様……私、本当にいいんでしょうか」 最後まで恐縮するアメリアに、私は笑顔で答える。 「思い出に残るものですし、火傷が思い出の文化祭で終わらせたくありませんの。夜会を一緒に楽しみましょう!」 半ば強引に、けれど心からの想いを込めて。 私はアメリアを夜会へと連れていった。 煌びやかなシャンデリアが輝く後夜祭の会場。 音楽が流れ、貴族たちが優雅に舞う中、私とアメリアは並んで姿を現した。 紫がかったグレーのドレスに身を包んだ私は、氷の微笑を浮かべる。 隣には、薔薇のようなピンクのドレスを纏ったアメリア。 色違いのお揃いの髪飾りが、まるで姉妹のように私たちを結んでいた。 その瞬間――。 会場の視線が一斉に私たちへと集まる。 そして、ルシアン様の瞳が驚きに揺れた。   「……ヴァイオレット、そして……アメリア」   氷の公爵と呼ばれる彼が、ほんの一瞬言葉を失う。 冷たい眼差しの奥に、確かな動揺が見えた。 アメリアは戸惑いながらも微笑みを浮かべる。 その健気な笑顔に、周囲の令息たちが次々と歩み寄ってきた。 「アメリア嬢、ぜひ一曲を!」   「私と踊っていただけませんか!」   「そのドレスに合わせて、最高のステップをお見せします!」 次々と差し伸べられる手。 庶民である彼女に、貴族の令息たちからダンスの申し込みが殺到する。 「え、えっと……!」   アメリアは慌てて私を見上げる。 その姿がいじらしくて、私は思わず笑みをこぼした。   「アメリア、楽しんで。これはあなたが輝く夜なのだから」   ルシアン様は黙ってその光景を見つめていた。 彼の視線は、変わったアメリアの姿に驚き、そして私の隣に立つ彼女を認めるように揺れていた。 アメリアに群がる令息たち。 着飾った彼女はまるで薔薇の花のように輝き、次々と差し伸べられる手に戸惑いながらも、健気に微笑んでいた。 その姿を見て、私は胸の奥が温かくなる。   ――よかった。火傷の記憶を夜会の思い出に塗り替えられた。   満足げに彼女を見守っていると、ふと背後から気配を感じた。   「……ヴァイオレット」   低く落ち着いた声。振り返ると、ルシアン様がそこにいた。 氷の公爵と呼ばれる彼が、私の隣に歩み寄ってくる。 冷たい眼差しの奥に、わずかな揺らぎが見えた。   「君は……満足そうだな」   彼の言葉に、私は氷の微笑を浮かべて答える。   「ええ。アメリアが輝いているでしょう? 友人として、これ以上の喜びはありませんわ」   ルシアン様はしばし沈黙し、群がる令息たちを見やった。   「庶民の娘が、これほど注目を集めるとは……想定外だ」   その声には驚きと、ほんの少しの感嘆が混じっていた。 私は彼を見返し、静かに言葉を重ねる。   「立場や家格に縛られず、彼女は自分の輝きを持っているのです。……羨ましいくらいに」   ルシアン様の瞳がわずかに細められる。   「君も……変わったな。昔のヴァイオレットなら、友人の輝きを誇ることなどなかった」   その言葉に胸がざわめく。  そこにはかつて‪”‬氷の薔薇‪”‬と呼ばれたヴァイオレットの微笑みではなく、心の奥では確かにしおりとしての温かさが滲み出ていた。 「人は変わるものですわ。……私も、彼女のおかげで」   ルシアン様は視線を逸らし、静かに息を吐いた。   「……そうか。ならば、その変化を見届けよう」   後夜祭の音楽が流れる中、氷の公爵と氷の微笑。 二人の間に、確かに新しい温度が生まれ始めていた。 煌びやかな音楽が流れる舞踏会の中央。 群がる令息たちの輪を抜けて、ルシアン様が私の前に立った。 「ヴァイオレット……一曲、私と踊っていただけるだろうか」   ルシアンからダンスに誘うことは皆無に等しい。しかし氷の公爵と呼ばれる彼が、戸惑いを隠しきれない声で差し伸べた手。 その瞳には、冷徹さの奥に揺らぐ光が宿っていた。 私は一瞬だけ息を呑み、そして氷の微笑を浮かべてその手を取った。   「喜んで」 音楽に合わせてステップを踏む。 ルシアン様の手は硬く、けれど次第に柔らかさを帯びていく。 彼の視線が私を追い、まるで仮面の奥にある“しおり”を見抜こうとしているようだった。 「君は……変わったな」   低く呟くその声には、戸惑いと惹かれゆく心が混じっていた。 私は微笑みを返す。 「人は変わるものですわ。……私も、そうありたいのです」 その瞬間、彼の瞳に確かな熱が宿った。 氷の公爵が、氷の微笑に惹かれていく――そんな予感が胸を震わせる。 ダンスフロアの端で、その光景を見つめる三人の令息。 レオンは唇を噛み、拳を握りしめていた。   「……やっぱり、ルシアン様には敵わないのか」   試すように彼女を見てきた自分の立場が、今は悔しさに変わっていた。   ノエルは肩をすくめ、苦笑を浮かべる。   「面白いと思っていたのに……本気で持っていかれるとはね」   軽やかな調子の奥に、ほんの少しの寂しさが滲んでいた。 ユリウスは静かに目を細め、深い溜息をついた。   「……昔のヴァイオレットとは違う。だが、それを見抜いたのはルシアンか」   疑わしげに見ていた彼の眼差しが、今は認めざるを得ないものへと変わっていた。 三人の令息がそれぞれの感情を抱えながら、中央で踊る二人を見つめていた。 その視線は嫉妬と諦め、そしてほんの少しの敬意を混じえた複雑なものだった。

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ヴァイオレットとしおり

「お嬢様!ローゼン家として、そのお振る舞いはいかがかと」 昔、家庭教師に叱られた言葉が胸に去来する。 それは私が十歳の頃、メイドたちと鬼ごっこをしていた時の記憶だった。 ――公爵令嬢として、奔放でいることは許されない。 「ヴァイオレット。お前の婚約者ルシアンが、我が国最年少で公爵位を賜った。 お前は嫁ぎ先に恥じぬ女性にならねばならぬ。付き合う相手もよくよく考えて交流しなさい」 まだ会ったこともない婚約者の存在を告げられたあの日。 愛してくれるかも分からない不安な約束。 それは幼い私の心に重くのしかかった。 初めて会ったルシアン様は、氷の公爵に相応しい冷たい眼差しで私を見据えた。 よそよそしい態度、名目だけの面会が月に一度か二度。 「この人は私に好意を持つことがあるのだろうか?」 そんな疑問がいつも胸に浮かんだ。 だが、貴族社会では家格で結婚が決まる。 そこに愛は必要なのか? 小さい頃は奔放でいられた。社交界デビューを果たす十二歳までは。 だが、許嫁として公にされた瞬間から、冷たい眼差しが私を縛りつけた。 この先に幸せはあるのだろうか。 いや、幸せの代わりに贅と特別階級位を得ている。 おとぎ話のような結末は訪れない。 歳を重ねるごとに、人生は辛く暗いものになっていった。 ――だからこそ。 私はそんなヴァイオレットを変えるために転生したのかもしれない。 彼女の孤独とプレッシャーを理解し、仮面の裏に隠された本当の心を救うために。 しおりとしての私と、ヴァイオレットとしての彼女。 二つの存在が胸の奥で重なり合い、葛藤と悩みを織り成していた。 「この世界で、彼女を変えられるのなら……それが私の役目なのだ」 私は心の中で強く宣言した。 ――私は『氷の微笑』のヴァイオレット・ド・ローゼンから変わって見せる。 冷たい仮面に守られてきた過去を脱ぎ捨て、今度は誰かを守るために歩むのだ。 その決意を胸に、私は足を速めた。 向かう先は、アメリアがいる医務室。 彼女を傷つけた出来事を、ただ見過ごすわけにはいかない。 廊下を進む私の背中に、静かな視線が注がれていることに気づいた。 振り返らなくても分かる。――ルシアン様だ。 彼は何も言わず、ただ私の背を見守っていた。 氷の公爵と呼ばれるその人が、冷たい眼差しの奥に何を抱えているのか。 それはまだ分からない。 けれど、確かにその視線には、私の決意を見届けようとする温度が宿っていた。 私は胸を張り、医務室の扉へと手を伸ばす。 「私は変わって見せる!今は選ばれる側かもしれないけど、きっと選ぶ側に立ってみせる!」  (だって、ここは乙女ゲームの世界だもん!誰を攻略するか決めるのは主人公だけど、私もアメリア同様選ぶ側に立って見せる!)   「アメリア!? 大丈夫?」 慌てて医務室に駆け込むと、制服に着替えたアメリアがブラウスの上から氷嚢を肩に当てていた。 「ヴァイオレット様! 心配して来てくれたんですか!?」 驚いたように目を丸くする彼女に、私は当然のように答える。   「当たり前じゃない! 私たちお友達でしょう?」   その言葉に、アメリアは感激したように口を開いた。   「やっぱりヴァイオレット様はお優しい方ですね! 怪我は幸い軽い火傷程度で、少し冷やせば大丈夫だそうです。私、庶民なのでやけどなんて慣れてるんで、これくらいなんでもないですよ!」   そう強がって笑うアメリアは、いじらしくて胸が締め付けられる。 だが、私の心は怒りで滾っていた。 (にしても腹が立つな! ロゼッタ・バーミリオン男爵令嬢!) 拳を握りしめ、胸の奥で誓う。 ――いつか必ず仕返ししてやる。悪役令嬢を舐めるなよ、格下令嬢め! そんな私とは対照的に、アメリアは健気に微笑んでみせた。   「本当に大丈夫ですから……心配しないでくださいね」   その笑顔は、痛みに耐えながらも周囲を安心させようとする主人公のものだった。 くぅー! ライバルだけど、やっぱり主人公だけあってかわいいわ!アメリアちゃん! 私は心の中で叫びながら、彼女の笑顔を守るために、さらに強く決意を固めた。  医務室の静けさを破るように、扉がノックされた。   「失礼する」   低い声と共に現れたのはルシアン様だった。   「模擬店はもうすぐ終わりの時間だ。……君たちの様子を見に来た」   氷の公爵らしい冷静な口調。けれど、その瞳にはわずかな柔らかさが宿っていた。 「ルシアン様……」   私は思わず立ち上がり、執事姿のまま一礼する。   「ご心配いただきありがとうございます。アメリアは軽い火傷程度で、もう大丈夫ですわ」   アメリアも氷嚢を肩に当てながら、慌てて笑顔を見せた。   「はい! ヴァイオレット様が心配してくださって……もう平気です。庶民なので、こういうのは慣れてますから!」   その強がりに、ルシアン様は小さく息を吐いた。   「慣れているからといって、軽んじていいものではない。……君は特待生として、この場にいる。だからこそ、守られるべきだ」   アメリアは目を丸くし、少し頬を赤らめた。   「ルシアン様……ありがとうございます」 私はそのやり取りを見つめながら、胸の奥が熱くなるのを感じた。 氷の公爵と呼ばれる彼が、こうしてアメリアを気遣う姿。 それは冷たい仮面の奥に隠された、人としての温かさだった。 「ヴァイオレット」   ルシアン様が私に視線を向ける。   「君もよくやった。……だが、あまり無茶はするな」   私は氷の微笑を浮かべ、けれど心の奥では素直に頷いてい た。   「承知いたしましたわ。ですが、友を守るためなら、多少の無茶も厭いませんわ」 ルシアン様は一瞬だけ目を細め、何かを言いかけてから黙り込んだ。 その沈黙が、彼の心の揺らぎを物語っていた。 模擬店の終わりを告げる声と共に、医務室には静かな余韻が残った。 ――氷の公爵と、悪役令嬢。 その間に確かに芽生え始めたものがあった。  

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文化祭とヴァイオレット

夏休みが終わり、校舎には文化祭の準備のざわめきが広がっていた。 クラス会議で「何をやろうか」と議題が出た瞬間、真っ先に手を挙げたのはヴァイオレットだった。 「メイド&執事喫茶ですか? ローゼン嬢……」 議長のクラス委員長が目を丸くする。 (文化祭と言えばメイド喫茶は定番!しかもこの世界ならではの、メイド・執事制度あり!これはコスプレ乗っかるしかないでしょ!) 完全に“元19歳の女性”という意識はどこへやら――ヴァイオレットことしおりは、この文化祭を、この世界を、とことん楽しむつもりでいた。 (元の世界に戻る方法は……ゲーム攻略にあるかもしれない) ある日そう思い至った。だが、それは仮説の域を出ない。 いつ戻れるかも分からない。もしかしたら一生戻れないかもしれない。 ならば悔いなく生きよう――そう心に決めたのだ。 しおりは立ち上がり、提案に込めた思いを語り始めた。 「不粋と思う方もいるかもしれませんが、このメイド&執事喫茶には、ちゃんと名目がありますの。保護者も来席する文化祭で、給仕するその所作の美しさに、自分の家のメイドや執事の品格が映し出されます。主人であるなら、その所作を気にしているはず……そしてそれを体現することで、主人として適切に教育できているか、また労働者に配慮できているかどうかを問われるのですわ」 教室は一瞬静まり返り、次いでざわめきが広がった。   「なるほど……ただの扮装じゃなくて、意味があるってことか」   「保護者も納得しそうだな」   「面白い!やろう!」   しおりは微笑んだ。 (これも攻略の一歩になるかもしれない……。でも、何より楽しいからいいわ!) 調子に乗った‪”‬しおり‪”‬ヴァイオレットは止まらない。 「それに、どうせなら男性と女性を入れ替えてはいかがかしら? 男性がメイドをやり、女性が執事をやる……性別を入れ替えることで、理想の執事やメイドを体現するのです。そして入場者に投票していただくのも面白いですわ!」 教室に一瞬の沈黙が走る。 完全に“しおり”の暴走だった。 「えっ……逆転?」    「それは斬新すぎる……」  とざわめきが広がる中、ルシアンが小さく笑いを堪えながら手を挙げた。   「面白いかもしれない。賛成だ」   その言葉に、教室の空気が一気に変わる。   「ルシアンが賛成なら……」 「確かに見てみたい!」  と声が上がり始めた。 さらにアメリアも、穏やかな笑みを浮かべて頷いた。   「私も賛成です。しおりさんの提案、きっと文化祭を盛り上げますわ」   しおりは胸を張り、茶目っ気たっぷりに微笑んだ。 (やった……同担拒否オタクの私だけど、コスプレ1度やってみたかったんだよねー🎵) こうして、男女逆転メイド&執事喫茶という前代未聞の企画は、賛同の声に包まれてクラスの正式案となった。 文化祭は、ただの催しではなく、しおりの茶目っ気と仲間の賛同によって、物語の新たな舞台へと変わろうとしていた。 ――文化祭当日。 ヴァイオレットのクラスは、物珍しさと社交の場として大盛況だった。 噂を聞きつけた野次馬の多くは――「ルシアンが女装するらしい」という話題に引き寄せられていた。 だが、まず目を引いたのはヴァイオレットの執事姿だった。 黒の燕尾服に身を包み、堂々とした所作で給仕をこなす姿は、まるで本物の執事のよう。   「……あー!飲食店でバイトしてたの思い出すなー」   心の中でしおりが呟き、懐かしい感覚に浸っていた。 その時――。 ルシアンが姿を現した。 深い漆黒の髪に、白いカチューシャが眩しく映える。 青みを帯びたグレーの瞳は冷静さを保ちながらも、黒いワンピースと白いエプロン姿に包まれると、知的でミステリアスな雰囲気を醸し出していた。   「この俺がまさか女装するなんてな」   ルシアン――そしてその奥にいる神楽坂蓮は、心の中で苦笑していた。 だが、役者として培った蓮の演技スキルと、ルシアンの品性が合わさることで、彼の姿はただの女装では終わらなかった。 その給仕は、まるでメイド長のような品格を備え、来場者を圧倒していた。 一方、アメリアはローゼン系から借りた執事服に身を包み、男装していた。 あどけない顔立ちが少年のように映え、女性客からは「可愛い!」と黄色い声援が飛んでいた。 笑いと歓声に包まれ、クラスの企画は大成功に見えた。 しかし――事件は起こった。 文化祭の喧騒の中、事件は突然起こった。 熱々の紅茶がアメリアの肩にかけられ、彼女は小さく悲鳴を上げた。 「熱い!」 場は騒然となり、視線が一斉にアメリアと紅茶をかけた女性客へと集まる。 女性客は冷笑を浮かべ、声を張り上げた。 「こんな何処の馬の骨か分からない者が入れたお茶なんて頂けませんわ!」 そして残りの紅茶を床にざらりとこぼす。 濡れた絨毯に紅茶が広がり、空気はさらに重苦しくなった。 「コノヤロー!」 しおりは拳を握りしめた。だが、ここで表に出たのは“お嬢様チート”ヴァイオレットだった。 彼女はアメリアを庇うように前へ進み、笑顔の仮面を貼り付ける。 「これはこれは、マーゴット男爵令嬢ではございませんか!」 大仰な態度で、自分より格下の令嬢に頭を下げる。 その間にルシアンはアメリアを奥へと連れて下がり、彼女を守る。 ヴァイオレットは執事の格好をしていても、公爵令嬢。 「うちの者が失礼しました。代わりのお茶をお入れしましょう」 その言葉は冷静で、場を収めようとするものだった。 だが、マーゴット嬢は引かなかった。 「由緒ある公爵位をもつローゼン家が、庶民上がりの肩を持つなんて如何なものですかしら? ヴァイオレット様。御品格を疑われましてよ?」 嫌味を言い放つその声に、クラス全体がざわめく。 アメリアを傷つけられた怒りに臓腑を滾らせながらも、ヴァイオレットは冷静に対応する。 執事らしく礼をして頭を下げ、濡れた絨毯を見やりながら、静かに言葉を選ぶ。 「……この場を整えるのも、執事の務めでございます。どうぞお見守りくださいませ」 その一言に、場の空気は再び張り詰めた。 私は静かに屈み、胸元のスカーフをひらりと取り出した。 濡れた絨毯の上にそれを被せ、にっこりと笑顔を貼り付ける。 「応急処置でございます。せっかくのお靴が濡れませんように」 格上の私が頭を下げた瞬間、マーゴット嬢は調子に乗った。 「早く新しい紅茶を持ってきてくださらない? ここは“執事・メイド喫茶”なのでしょう?」 腕を組み、私を見下すその態度。 ――それが彼女の運の尽きだった。 『悪役令嬢ヴァイオレット・ド・ローゼン』に喧嘩を売るなど、愚かにも程がある。 「はい!すぐにお持ちします」 私は朗らかに答え、踵を返して奥へ引っ込んだ。 しばらくして、カートにティーカップとポット、そしてクッキーを乗せた皿を持って戻る。 恭しくカップを置き、紅茶を注ぎ、クッキーを厳かに差し出した。 「こちらはお詫びのサービスでございます」 ロゼッタ嬢は何も疑わず、上機嫌で紅茶をすすり、クッキーを口にした。 「まぁまぁですわね。さすが、ローゼン様の入れたお茶ですわ」 だが、店内に響くのは嘲笑とヒソヒソ声。 異様な雰囲気に彼女は居心地の悪さを覚え、顔を赤らめて叫んだ。 「な……なんですの!? 私を笑うのはどなた!?」 私は大袈裟に手を振り、一礼して口を開いた。 「あぁ!私としたことがご無礼を! 間違えて庶民も買う低価格の茶葉でお茶を出し、庭にいる猫に与えるクッキーをお出ししてしまいました!」 芝居がかった言い方で、彼女のカップと空の皿に視線をやる。 「しかし、マーゴット嬢はお気に召したようで何より。庶民以下の舌をお持ちで安心しました。しっかり全て召し上がってますからね」 私は『氷の微笑』を浮かべ、彼女を見下した。 真っ赤になったロゼッタ嬢は言い返そうとしたが、私が耳元で囁くと、顔色を青くして叫んだ。 「失礼しますわ!」 彼女は慌てて店を出て行った。 私は笑顔でその背を見送り、静かに息を整える。 あわててクラスメイトたちが床を拭き、テーブルを片付け始めた。 ――貴族社会において家格は何よりも尊重される。 国内トップクラスの私に、片付けをさせるわけにはいかないのだ。 私はただ、氷の微笑を崩さぬまま、場を支配していた。 「アメリア!大丈夫!? 」  慌てて奥にいるアメリアに声をかけたが、そこに彼女はいなかった。 代わりにいたのは推しメン・ルシアン様。 彼女は他の生徒が医務室に連れてったよ。 ルシアン様は笑いを堪えながら、そう言うと、 昔の君が出てきたね。 いや、昔とは違うか。正義感から出た行動だろうし… ルシアンはそう言うと ヴァイオレット顔をまっすぐ見て   「高慢で高飛車で意地悪な君、庶民的に屈託なく笑う君、公爵令嬢として申し分のない発言や微笑みを浮かべる君、どれが本当の君?」   ルシアン様の質問が、胸にグサリと刺さる。   「それは…」   と、言いかけたところで、クラスメイトが顔を出し、   「ローゼン嬢とバルモン卿にご指名です!」   と声をかけられ、私は   「はーい!ただいま伺いますわ!」   と、逃げ出す口実ができてかいつもより陽気に返事をする。   「それでは、ルシアン様、お話はまた後で…」   と言って、私はルシアン様を置いてホールに戻った。 ホールに足を踏み入れた瞬間、三人の視線が一斉に私に注がれた。 レオン様、ノエル様、ユリウス様――それぞれが別々の席に座りながらも、まるで舞台の観客のように私を見ていた。 その中で、最初に声をかけてきたのはレオン様だった。 彼は腕を組み、鋭い眼差しで私を見据えていた。 「……さっきのやり取り、見ていたよ。マーゴット嬢をああまで追い詰めるとはな」 私は執事らしく一礼し、『氷の薔薇』と謳われた微笑を浮かべる。 「お客様にご満足いただくのも執事の務めでございます。ですが、あの方には少々“特別なサービス”を差し上げましたの」 レオン様は口元をわずかに歪め、笑うとも呆れるともつかぬ表情を見せる。   「君は本当に……恐ろしい。公爵令嬢としての威厳を保ちながら、庶民的な機転で相手を打ち負かす。どちらが本当の君なのか、俺には分からない」   その言葉は、先ほどルシアン様に突きつけられた問いと重なり、胸の奥に再び刺さる。 私は一瞬言葉を失い、紅茶を注ぐ手に力が入った。   「……本当の私、ですか」   私は小さく息を吐き、微笑みを貼り付けたまま答える。   「それは、きっと皆様が見極めることなのでしょう。私はただ、この場を楽しむだけですわ」   レオン様はしばし黙り込み、やがて低く笑った。   「なるほど……君らしい答えだ。だが、俺は君の“氷の微笑”よりも、庶民的に笑う君の方が好きだな」   その言葉に、胸がどきりと跳ねる。 私は慌てて姿勢を正し、執事らしく恭しく頭を下げた。   「……お褒めいただき光栄です、レオン様」  次はノエル様の席へ向かった。 場はざわめきながらも、次第に落ち着きを取り戻していく。 そんな中、ノエル様が軽やかに手を挙げて私を呼んだ。   「ヴァイオレット嬢――いや、今日は執事殿と呼ぶべきかな。さっきの一幕、見事だったよ」   私は恭しく一礼し、執事らしい所作で彼の前に立つ。   「お褒めいただき光栄です、ノエル様。少々芝居がかった対応でしたが、場を収めるためには必要でしたの」   ノエル様は口元に笑みを浮かべ、紅茶を一口含んでから言葉を続けた。   「君は本当に面白いね。公爵令嬢としての威厳を保ちながら、庶民的な機転で相手を打ち負かす。まるで舞台の役者のようだ」   私は肩をすくめ、茶目っ気を込めて返す。 「文化祭ですもの、少し遊び心も必要ですわ。ノエル様も、ぜひ執事役をお試しになってみては?」   ノエル様は声を立てて笑った。 「僕が執事を? それは似合わないだろうね。でも、君が楽しんでいる姿を見るのは悪くない」   その言葉に、胸の奥が少し温かくなる。 氷の微笑を浮かべながらも、私はほんの一瞬、庶民的な笑みをこぼしてしまった。   ノエル様はその笑みを見逃さず、楽しげに目を細める。   「やっぱり、そっちの笑顔の方が好きだな。高慢な仮面よりも、屈託なく笑う君の方がずっと魅力的だ」   私は慌てて姿勢を正し、執事らしく頭を下げた。   「……お褒めいただき、ありがとうございます。ですが、どちらが本当の私かは――まだ秘密ですわ」   ノエル様は紅茶を置き、軽く肩を揺らして笑った。   「秘密のままでもいいさ。その方が、君らしい」  私は笑うノエル様に軽くウィンクして 「まだ接客が残ってますの。失礼しますわ。」 ユリウス様の席へ向かうと、開口一番、彼の声が鋭く飛んできた。   「ヴァイオレット、この茶器はどこから?」   押し殺した感情が滲むその声に、私は思わずキョトンと答える。   「実家にあった、使っていなかった茶器を拝借しただけですが……何か問題でも?」   するとユリウス様は胸元からスカーフを取り出し、茶器を大事そうに包み込んだ。   「今すぐこの茶器を回収して、実家に戻しなさい! これはローゼン家が功を立てた時に国王陛下から直々に下賜された、ローゼン家家宝の茶器だ!」   珍しく怒号が飛び、私は息を呑んだ。   「それをお前が知らないはずはないんだが?」   疑わしそうな眼差しが、私の心を射抜く。 慌てて首を振り、必死にとぼける。   「似たような茶器が多くて……間違えただけですわ」   知らぬ存ぜぬを決め込むしかなかった。 ユリウス様はしばし沈黙し、疑わしげに私を見つめ続ける。 やがて低く呟いた。   「……まぁ、マーゴット嬢に対しての対応は、昔のお前がかいま見えたがな」   その言葉に胸がざわめく。 氷の微笑を浮かべていたはずの私の仮面が、ほんの一瞬揺らいだ。   「……昔の私、ですか」   私は紅茶を注ぐ手を止め、視線を落とす。 ユリウス様は茶器を抱えたまま、真剣な眼差しを向けていた。 その視線は、家宝を守る責任と、私の変化を見極めようとする兄の眼差しだった。 私は再び微笑みを貼り付け、執事らしく一礼する。   「ご心配をおかけしました。茶器はすぐに戻しますわ。……ですが、マーゴット嬢への対応は、必要な演出でしたの」   ユリウス様は深い溜息をつき、茶器を抱えたまま視線を逸らした。   「……やはり、君は昔のままなのかもしれないな」   その言葉が胸に重く響き、私は氷の微笑を崩さぬまま、心の奥で小さな痛みを抱えていた。    「昔のヴァイオレット」  ――その響きが、私の胸に深く突き刺さった。 ユリウス様の言葉が頭の中で反響し、心をざわめかせる。 ヴァイオレットになって、ひとつだけはっきりと分かったことがある。 それは、公爵令嬢として背負わされるプレッシャーだ。 立場が高ければ高いほど、人々の態度は変わる。 近づいてくる者は、笑顔の裏に打算を隠し、言葉の奥に欲望を潜ませる。 彼女はそれを冷めた目線で捉えていた。 公爵令嬢として生きるしかない人生のレール。 そこから外れることは許されず、ただ役割を演じ続けるしかない。 だからこそ、彼女の意地悪や高慢な態度は、孤独とプレッシャーが築き上げた防壁だったのだ。 私は紅茶を注ぐ手を止め、ふと自分の胸に問いかける。 (……本当に意地悪だったのか? それとも、孤独を隠すための仮面だったのか?) 氷の微笑を浮かべるたびに、心の奥で小さな痛みが走る。 それは、ヴァイオレットの仮面をかぶった私自身が、彼女の孤独を追体験している証だった。 「昔のヴァイオレット」  ――その言葉は、私に彼女の本質を突きつける。 冷酷に見えた態度の裏には、誰にも寄り添えない孤独と、背負わされた家格の重みがあった。 私は静かに息を吐き、執事としての礼を保ちながらも、心の奥で決意を固めた。 (彼女の仮面を、私が少しでも変えてみせる。孤独を、違う形に塗り替えてみせる)

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神楽坂蓮の疑念

ヴァイオレットが串焼きを頬張り、炭火を自在に操り、家庭菜園を楽しげに手伝う姿。 その一つ一つの行動は、公爵令嬢としてはあまりにも庶民的で自然すぎた。 ルシアンは彼女を見つめながら、心の奥で疑念を抱いた。   (……ヴァイオレット。君は本当に令嬢なのか? それとも、別の顔を隠しているのか?)   彼は柔らかな笑みを浮かべながらも、内心では  「彼女には秘密がある」  という仮説を立て始めていた。   ――華やかな令嬢でありながら、庶民の暮らしを知り尽くしている。そんな二重の存在なのではないか、と。 一方その頃、遠く離れた場所で神楽坂蓮もまた、ヴァイオレットの姿を目にしていた。 ヴァイオレットにとっては神楽坂蓮は『推し』である。  同担拒否の彼女はファンクラブには入っておらず、  もちろん面識もない。  ただの画面を挟んでの2人だった。   だが、彼女の行動の数々に違和感を覚えずにはいられなかった。 「……まるで、庶民の生活を経験してきたみたいだ」   蓮はそう呟き、ひとつの仮説を胸に抱いた。 (彼女は、表の顔と裏の顔を持っているのではないか? 令嬢としての華やかさと、庶民としての素朴さ。その両方を生きているのでは) 二人の視線は交わらない。 ルシアンは近くで、蓮は遠くで――それぞれがヴァイオレットの行動に疑念を抱き、同じような仮説に辿り着いていた。 だが、しおりの存在を知る者は誰もいない。 二人はただ、令嬢と友人、推しとファンという立場のまま、彼女の秘密を探ろうとする。 ヴァイオレットの笑顔の裏にあるものは何か。 その答えを求めて、二人の心には静かな火花が灯り始めていた。   ルシアンは、ヴァイオレットを見つめながら胸の奥に小さな違和感を抱いていた。 公爵令嬢としての彼女は完璧だ。立ち居振る舞いも、言葉遣いも、誰もが憧れる気品を備えている。 だが、時折ふとした瞬間に見せる庶民的な仕草――炭火を扱う手際、串焼きを頬張る笑顔、家庭菜園で泥に触れる楽しげな姿。 それらは令嬢の仮面からはみ出すように、自然で、あまりにも人間らしかった。 (……ヴァイオレット。君は本当に令嬢なのか? その奥に、別の誰かがいるように見える) 疑念は確かにあった。だが同時に、彼女の中に潜む“何か”に心を惹かれていく自分に気づく。 それは、ヴァイオレットの奥にいる“しおり”という存在。 名前も知らず、姿も見えない。けれど、彼女の庶民的な温かさや素直な笑顔は、まるで別の人格がそこに息づいているようだった。 ルシアン――いや、神楽坂蓮としての彼は、その感覚を否定できなかった。   「君の中には、もう一人の君がいるのかもしれないな」   そう呟いた声は、疑念と好意が入り混じった複雑な響きを帯びていた。 ヴァイオレットを通して見える“しおり”の存在。 それは謎であり、秘密であり、けれど彼にとっては心を温める光でもあった。 蓮は気づいてしまった。 ――自分はヴァイオレットに疑念を抱きながらも、その中にいる“しおり”に好感を抱いているのだ、と。 夕暮れの街道を馬車はゆっくりと進んでいた。 窓の外に広がる橙色の空を眺めながら、蓮――ルシアンは深く息を吐いた。 「……俺は、確かに惹かれている」 その言葉は心の奥から自然に漏れた。 ヴァイオレットの気品ある姿に惹かれているのは間違いない。 だが、彼女の中に潜んでいるであろう“別の人格” ――庶民的で素直な温かさを持つ存在にも、同じように心を奪われていることを自覚してしまった。   (ヴァイオレットか、それとも……その奥にいる誰かか。どちらにせよ、俺はもう目を逸らせない)   馬車の揺れに合わせて、彼の思考はゲームのストーリーへと飛んでいく。 かつて自分が演じたルート。 プレイヤーが選択肢を重ね、信頼を積み重ね、やがて心を開いていく物語。   「……攻略ルート、か」   ルシアンは苦笑した。   (もし彼女がゲームのヒロインなら、俺はどう誘い込むべきだ? どんな選択肢を提示すれば、彼女は俺のルートに入ってくれる?)   思案は尽きない。 庶民的な一面を見せる彼女に寄り添うか、令嬢としての誇りを尊重するか。 どちらを選んでも、彼女の心を掴むには誠実さが必要だと分かっていた。   「……俺が惹かれているのは、ヴァイオレットだけじゃない。彼女の中にいる“誰か”もだ。だからこそ、俺のルートに誘い込むには、両方を受け入れるしかない」   馬車は屋敷へと近づいていく。 夕闇の中、ルシアンの胸には疑念と好意が入り混じり、そして新たな決意が芽生えていた。 ――彼女を、自分の物語へと導くために。

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庶民感覚を取り戻すために

ルシアン様から贈られたネックレスと、アメリアとお揃いの髪飾りを手に取ったとき、私はふと胸がちくりと痛んだ。 ――こんな高価な宝石をふんだんに使った髪飾りや、一粒の小ぶりな宝石があしらわれた上品なネックレス。 普通に「しおり」のお小遣いじゃ、とても手が出ない。 (……私、すっかりお嬢様気分で浮かれぽんちになっていたわ。庶民感覚から完全にズレてる……) 反省の思いが胸に広がると、あるアイディアが浮かんだ。 それは、アメリアの家にお邪魔して、彼女の生活や価値観を知ること。友情を深めるために、互いの世界を共有すること。 私は思い切って口にした。 「アメリア……もしよければ、あなたのお宅へお邪魔させていただけないかしら?」 アメリアは目を丸くした。 「え?ヴァイオレットさまが、私の家に……ですか?」 困惑する彼女に、私はにっこりと微笑みかける。 「おじゃまになるかもしれませんが、交互の生活や価値観を共有することは、友情において大切なことだと思いますの。どうかしら?」 アメリアはしばし言葉を失い、やがて頬を赤らめて小さく笑った。 「……ヴァイオレットさまがそうおっしゃるなら。私の家なんて質素ですけれど、それでもよければ」 その返事に、胸が温かくなる。 豪華な屋敷も、煌びやかな宝石も素敵だけれど――友情は、互いの世界を知り合うことで育まれるのだと、私は改めて感じていた。  数日後のある日、私はアメリアの実家へと馬車を走らせた。 アメリアの家は下町の郊外にある小さな平屋の一軒家だった。 これは… ローゼン家に馴染んでしまった私は思わず呟いてしまった。 広さはローゼン家の物置小屋位。 でも、しおり的感覚では、平屋の一軒家で、この広さは結構な広さだ。  (庭も広いしな)  馬車を降りるとアメリアがすぐでむかえてくれた。 荷物を御者に持たせ、庭を見渡すと、家庭菜園や花壇があった。    結構広いな。    しおり的感覚で眺めた感想は これよ!これー! ファンタジーゲームに出てくる主人之の最初の家みたーい! と内心はしゃぐ私だが、あたしがあまりにもあちこち見たせいか、アメリアはしゅんとして ガッカリしたんじゃないですか? その…ヴァイオレット様のお屋敷と違いすぎて… と、恐縮してしまった。 そんなアメリアの手を取って そんなことありませんわ! 私はこの家が気に入った。 田舎の祖父母の家にそっくりだからだ。 私が、目をキラキラさせて、アメリアの手を取ると彼女はびっくりした表情で、私をみつめた。 アメリアの家に泊まったその日、私は初めて庶民の食卓に座った。 木の机に並んだのは、家庭菜園で採れた野菜をふんだんに使った料理。煮物、焼き魚、素朴なスープ。 一口食べた瞬間、思わず目を見開いた。 「……おいしい! 素材の味が生きていて、こんなに心が温かくなる料理は初めてですわ!」 アメリアは照れ笑いを浮かべ  「そんなに喜んでもらえるなんて」  と頬を赤らめた。 私は感動のあまり、次の日には家庭菜園を手伝わせてもらうことにした。 土に触れ、苗を植え、水をやる。   (ああ、これよ! ファンタジーゲームの主人公が最初にやる農作業イベントみたい!)   昔、祖父に鍛えられた鍬使いを披露する私に、アメリアは驚きつつも楽しそうに笑っていた。 さらに私は、お嬢様チートを発揮した。庭の花を摘み、色合いを考えながら花瓶や棚に飾り付ける。   「まぁ……! まるで貴族の館みたい!」  とアメリアのお母さんがが目を輝かせる。 私は得意げに微笑み    「花は人の心を癒すものですわ」  と言いながら、アメリアの家を見事に華やかに彩った。 そして午後には川へ。 アメリアが「釣りなんてできますか?」と心配そうに尋ねたが、私はにっこり笑った。   「ええ、もちろんですわ」   餌のミミズを手に取ると、ためらいもなく釣り針に刺す。手馴れた動作にアメリアは目を丸くした。   「ヴァイオレット様、慣れてますね……!」 「祖父母の家でよくやっていましたの。こういうのは慣れですわ」   思わず口を滑らせた瞬間、アメリアが首を傾げた。   「祖父の家?公爵家でも釣りをなさるんですか?」 しまった――!完全に庶民感覚に戻ってしまった、と心の中で叫ぶ。 慌てて背筋を伸ばし、笑みを取り繕う。   「ほほほほ……祖父の邸宅の近くに川があって、使用人に教わりましたの」   その時、背後から低い声が響いた。   「そんなこと、僕に隠れてやってたのかい?」   振り返ると、ユリウスが腕を組み、風のように静かな眼差しでこちらを見ていた。 気づけば、後ろにはルシアン、レオン、ノエルも立っていた。 四人の視線が一斉に私へと注がれる。 ルシアンは柔らかな笑みを浮かべながらも、声には棘があった。 「ヴァイオレット、君がそんな庶民的なことを楽しんでいたなんて……僕には教えてくれなかったね」 レオンは肩をすくめ、挑発的に笑う。   「俺なら、川釣りくらい普通だ。けど、君がそれを隠してたってことは……俺にだけは知られたくなかったのか?」 ノエルは軽口を叩きながらも、目は真剣だ。   「へえ、面白いね。ヴァイオレットが釣りをするなんて。僕にも教えてくれればよかったのに。……まさか、誰か特別な人にだけ見せてたんじゃないだろうね?」   ユリウスは腕を組んだまま、風を纏うように静かに言葉を投げる。   「……軽率だな。庶民感覚を隠す必要はない。だが、誰に見せるかは選ぶべきだ」   四人の言葉が交錯し、空気が張り詰める。 互いに牽制し合いながらも、視線は私に集中している。 私は思わず頬を赤らめ、胸がキャピキャピと弾んだ。 (え、え、え……! なんでみんなそんなに詰め寄ってくるの!? まるでゲームのハーレムイベントみたい!) 庶民感覚をうっかり漏らしただけなのに、彼らの間には火花が散っていた。 風と炎、柔らかな笑みと挑発的な言葉――。 そのすべてが私を中心に渦巻き、川辺は一瞬で恋の戦場へと変わった。 川辺に漂う空気は、4人の視線が交錯するたびにピリピリと張り詰めていた。 ユリウスの冷静な言葉、ルシアンの柔らかな棘、レオンの挑発的な笑み、ノエルの軽口――。 そのすべてが私を中心に渦巻き、胸はキャピキャピと弾みながらも、焦りでいっぱいだった。 (やだ……! 私のせいでみんなが険悪になってる!どうにかしないと!) その時、アメリアが一歩前に出て、にっこりと微笑んだ。 「みなさんも試してみませんか? 釣りって、意外と楽しいですよ」 一瞬、断られるかと思った。だが――。   「……悪くないな」ユリウスが腕を組み直し、竿を手に取る。   「庶民の遊びも、たまにはいいかもな」  レオンが肩をすくめて笑う。   「面白そうだ。僕が一番釣ってみせるよ」  ノエルが軽快に竿を構える。   「ヴァイオレットが楽しんでいるなら、僕も挑戦しよう」  ルシアンが穏やかに頷いた。 こうして、4人は次々と川へ糸を垂らした。 最初は互いに牽制し合い、   「ほら、僕の方が先に釣れた」   「いや、サイズなら俺の方が上だ」   「数で勝負だろう」   「……軽率だな、釣果は質で見るべきだ」   と、言葉の火花を散らしていた。 私はハラハラしながら見守っていたが、次第に彼らの表情が変わっていった。 竿がしなるたびに真剣な眼差しになり、魚が跳ねるたびに歓声が上がる。 競い合うはずの彼らが、いつの間にか釣りそのものに夢中になっていたのだ。   「見ろ、また釣れた!」   「くっ、逃げられた……次こそ!」   「ほら、網を持ってこい!」   「……風向きが変わった。今が好機だ」   すったもんだの末、六人の釣果は大漁となった。 川辺には魚が並び、笑い声が響く。 私は胸を撫で下ろしながら、頬を赤らめた。 (よかった……! みんな笑ってる。キャピキャピしすぎて心臓がもたないけど、これなら大丈夫!) こうして、釣り竿を通じて火花は消え、場は和み、友情と恋の空気が入り混じる夏の川辺となった。 承知しました!ここでは「魚を持ち帰った6人がアメリアの家で庶民料理を楽しみ、ヴァイオレットの慣れた手さばきと庶民的な行動が皆の心を揺らす」場面を物語として描きますね。 川で釣った魚を抱えて、6人はアメリアの家へと戻った。 「思ったより釣れたな」「これだけあれば宴ができる」――男性陣はそれぞれ感想を述べながら、庶民の家の戸をくぐる。 そこで私は、慣れた手つきで暖炉から炭を取り出し、網を組み立てて魚を並べた。   「ヴァイオレット様……すごいです。手慣れていらっしゃるんですね」   アメリアが目を丸くして感心する。 炭火の香ばしい匂いが広がり、焼き上がった魚を串に刺して差し出すと、アメリアも男性陣も一瞬たじろいだ。   「串に刺したまま……食べるのですか?」   ルシアンが戸惑い、レオンは眉をひそめ、ユリウスは黙って観察し、ノエルは半ば冗談めかして笑う。 私は何も気にせず、ぱくりと串焼きを口に運んだ。   「こうして食べるのが一番美味しいんですのよ」   その姿に影響され、彼らも次々と真似をして食べてみる。   「……これは、驚いた。香ばしくて旨い」  ルシアンが目を見開く。   「庶民の知恵ってやつだな」 レオンが感心したように笑う。   「……悪くない」  ユリウスが短く呟く。   「うん、これは興味深い!新鮮なうちに料理するとこういう食べ方ができるなんて!」  ノエルが水晶版に串焼きの絵や、味を詳細に書き出した。 アメリアも初めての串焼きに感動し、頬を赤らめて笑った。 だが、私のあまりにも庶民的な振る舞いに、男性陣の視線が揃って鋭くなる。   「ヴァイオレット……ずいぶん慣れているね」   「公爵令嬢がこんなことを?」   「……花嫁修業、ということか?」   私は慌てて笑みを作り、苦しい言い訳を口にした。   「ええ、これは花嫁修業ですわ! 将来のために、庶民の暮らしも学んでおかねばと思いまして」   しかし、彼らの目には疑惑が浮かんでいた。 庶民的な行動を隠そうとする私の言葉に、彼らはそれぞれの思惑を胸に秘めながら、炭火の魚を味わっていた。 炭の香りと笑い声が混じり合う中、友情と恋の火花は、静かに燃え続けていた。      

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