金子さとり

60 件の小説
Profile picture

金子さとり

児童文学作家を目指してます。第二のハリポタ的な名作を書きたい。ジブリアニメ化されるのも夢。トランスジェンダーなので男性脳と女性脳の切り替えが可能です。男性の目線で書く方が好きかも。

エマとニコ〜第四十九章〜

 一週間が経って、いよいよペニーとルカの引っ越しの日が来ました。ニコは風魔法でベランダから荷台の上に荷物を引き上げています。 「僕もペニーちゃんも土魔法を取ってるから、風魔法が使えないし、ニコ君は良いなぁ」 「僕の取ってる魔法は…ほとんど攻撃系ばかりだから…」 「私もルカ先輩もヒーラー志望だけど、ヒーラー志望は少ないから、光魔法を契約してる人も少ないのよね…」 「聖職者を目指すなら絶対に必須だけどさ。それ以外の職業は闇魔法の方が良いんだよ」 「ルカ先輩は聖職者を目指してるの?」 「うん。僕、ビショップになるのが夢なんだ!」 「私もビショップ目指してるのよ」 「ビショップって…教会で一番…偉い人?」 「国王様よりも偉いんだよ?ビショップは」 「えっ…国王様が一番…偉いと思ってた…」 「コンクラーヴェって言う人気投票があってね、騎士団長とか重役が九名、プリーストからビショップになる人を選ぶのよ」 「五票以上を獲得したらビショップ当選確実ってわけ。同票だったらコロシアムで光魔法のバトルをして決めるらしいけど、今のところ同票になった事はないわね」 「そもそもコンクラーヴェ自体が滅多にないし、不信任案が議会で可決された場合のみだよね?」 「前回のコンクラーヴェは去年あったのだけど、リアムの死後にシスターの遺書でビショップがシスターに手を出してたのが発覚したの」 「ビショップなのに…シスターに手を出してたなんて最悪だな…」 「ええ、リアムの後に処刑されたわ。ラインハルト様に」 「それは処刑されても当然だね…」 「シスターは誰にも言えずに悩んでて、リアムに話して慰めてもらってたらしいわ」 「現在のビショップは…ちゃんとした人なの?」 「さあ?それはわからないけど…」 「不信任案が可決されないと…ペニーもルカもビショップにはなれないんだよね…」 「でもビショップの不信任案が可決される時って、絶対にロクでもない事件が起きた後だから複雑な心境よね…」 「人の不幸を願うのはビショップ失格だと思う」 「コンクラーヴェがあるのはビショップが死去するか、事件を起こすかの二択だもんね」 「じゃあコンクラーヴェはない方が平和って事なのか…」 「そう言う事ね。死去するまでビショップを勤める人はアガペー(慈愛)の持ち主だから、国民みんな喪に服すのよ?」  引越しの作業がひと段落ついて、ニコは汗を拭きながら言いました。 「シャワー先に…浴びても良いかな?」 「ニコの部屋なんだから、ニコが優先で良いよ」 「いや、みんな汗をかいてるから…シャワー浴びないと気持ち悪いだろ?」 「僕は後で良いからペニーちゃんが、先に入ったら?レディファーストで」 「私はまだ汗をそんなにかいてないから、ニコが先で良いわよ?」  ニコがシャワールームに入ると、ルカがソワソワし始めました。 「ニコ君と一緒に…背中を流し合いっこしたい!中に入っても怒られないかな?男同士だし」 「別に大丈夫じゃない?」 「ああ、でも僕が興奮してるのがバレたらどうしよう…。脱いだら隠しきれないから…」 「前から気になってたんだけど、ルカ先輩ってもしかして…同性愛者なの?ニコに対する態度が、どう見てもそうとしか…」 「ペニーちゃんも、僕の事を気持ち悪いって思ってる?」 「いいえ、愛には色んな形があるから」 「ニコ君は僕の気持ちに気付いてないみたいなんだ」 「想いを伝える気はないの?」 「男が男を好きになっても気持ち悪がられて仲良くしてもらえなくなるだけだよ…」 「ニコ以外には好きになった男子はいないの?」 「キンダーガートンに通ってた頃に好きだった男の子がいたけど、僕より一つ年下で…」 「私と同い年の男子?じゃあカレッジにも通ってるのかな…」 「魔術カレッジには通ってないのかも?実は顔も名前も思い出せないんだ。あんなに好きだったのに…おかしいな」 「ルカ先輩がキンダーガートンに通ってたのって十年前でしょ?覚えてるわけないじゃない」 「ただめちゃくちゃカッコいい男の子だった。一度だけキスしてくれた事もあったし…」 「男同士なのにキスしたの?」 「そんな事を言ってたら、この前フリマの準備中にニコ君にキスしてもらったの思い出しちゃった…」 「えっ、ニコとキスしたんだ?ルカ先輩も」 「十秒だけ…でもニコ君、キスがすごく上手いからビックリしたよ!」 「わかる…。なんであんなにドキドキさせられるんだろ」 「えっ!ペニーちゃんもニコ君とキスした事あるんだ?」 「ニコにとったら挨拶みたいなもんよ?キスは」 「キンダーガートンの時、僕が女の子みたいっていじめられてたら助けてくれた男の子が、泣いてる僕にキスしてくれて…」 「それってもしかしてニコなんじゃない?九歳まではキンダーガートンに通ってたらしいから…」 「確かにその時のキスもすごく上手かったんだよ…。アカデミー二年生の時に一年生でその男の子が入学してくるの待ってたけど来なかった…」 「間違いなくそれはニコよ?」 「どうして顔と名前を忘れてしまったんだろ…」 「記憶操作魔法かも…。まるでモヤがかかったように顔が見えないよね?」 「うん、ペニーちゃんも同じなの?名前も思い出そうとすると耳鳴りがして…」 「テンプテーションは記憶操作魔法の一種なんだけど、テンプテーションの場合は消した記憶の上から切り貼りしちゃうのよね」 「顔も名前もテンプテーションかけた人に変わってしまうんだっけ?」 「昔の恋人だと思い込んで惚れてしまうの。禁忌だから魔法屋にはテンプテーションの魔導書は売ってないわ」 「恐ろしい魔法だよね、テンプテーションは…」 「記憶を消されてもまたニコを好きになっちゃったんだ、私…」 「僕たち二人ともニコ君に片想いしてるんだな…。つらいよね」 「合言葉の時に言ってたニコの好きな人が気になってるの」 「エマ様とキャンベル先生以外に、七人彼女がいたんだよね?」 「私が知ってるニコの彼女は六人だけよ?ミラーさんが六人目だと思ってたのに…」 「一人だけ名前がわからないって事か…」 「ミラーさんと付き合う前の彼女が誰なのか、ニコは教えてくれなかったのよ」 「その彼女は死んだお母さんを除けば、三番目に好きって事になるね」 「キャンベル先生が二番目なのが意外過ぎて、本当に誰なのか予想できない…」 「ニコ君の考えてる事は大体わかるって言ってたのにわからないの?」 「ニコの女の趣味は私から見ても最悪だったのよ…。体重、百キロ超えてる子もいたのよ?」 「ああ、お姫様抱っこしてあげてたよね。ニコ君は重くないのかな…」 「風魔法で軽くして運んでたみたいよ?」 「あっ、その手があったか!家具も軽々と運んでたよね?」  そこにニコがタオルを腰に巻いてシャワールームから出てきました。 「わぁ!ニコ君、すごい筋肉…。腹筋が割れてるね?ペニーちゃんもビックリしてるよ」 「私は一度見た事があるから…別に驚いてないけど…」 「えっ!ペニーちゃんはもうニコ君の裸を見た事あるの?」 「初めて見た時は真っ暗だったからよく見えなくて、手で触ったら腹筋がすごいのわかったけど」 「えっ、暗闇で腹筋を触るってどんな状況だったの?」 「ペニー…それ以上…言わない方が…」 「ルカ先輩、鈍いからここまで言ってもわかってないみたいね?」 「僕は二人と違って頭が良くないからわかんないんだよ!」 「セフィロトのダンジョンのトラップに引っ掛かって…その時の話だよ…」 「セフィロトのダンジョンって、一度入ったら生きて帰ってこれないって言われてるのに、そこに入ったの?二人とも…」 「セフィロトにはもう行きたくないな…」 「そう?私はまた行きたいなぁと思ってるんだけど…」

3
3
エマとニコ〜第四十九章〜

エマとニコ〜第四十八章〜

 エマとラインハルトの結婚式の日が来ました。ニコとペニーとルカは最前列の特等席で参列しています。 「午後からは先生たちの結婚式があるから、それにも参列しなきゃね」 「祭壇の後ろに置いてある、大きなクリスタルは何だろう?」 「あれは結界石よ?国王様の玉座の後ろとかにもあるの」 「結界石があるって事は、ここは安全地帯なんだね」 「カレッジにもあると思うわ。災害時は避難所になるみたいよ?」  騎士団員以外にも街の人が参列に来ています。ニコとルカの働いている酒場のマスターも来ていました。 「エマ様を幸せにしてやれよ?ラインハルト様」 「お集まりになった皆様、今日は私たちの挙式に参列くださり、ありがとうございました!」  エマがブーケを投げるとペニーがキャッチしました。ペニーは無言でブーケを見つめています。 「あっ、ペニーちゃん。運が良いなぁ〜。ブーケが取れたって事は、ここにいる女性たちの中で、一番早く結婚出来るんだね!」 「ペニーは…誰と結婚するんだろう?」  ニコの質問にペニーは黙ったままで答えず、教会から馬車で去って行く、エマとラインハルトを見送っています。 「午後から先生たちの結婚式があるけど、ブュッフェで昼ごはん食べて待ってようか?」  教会の敷地内にはエマとラインハルトが雇った料理人たちが野外に置かれたテーブルでブュッフェを振る舞っていました。 「今月いっぱいでアパートを引き払うから、ニコ君の家で三人暮らせるから楽しみだよ」 「来週は引っ越しで忙しくなるね」 「変質者がまた部屋に来るかもしれないから、合言葉を決めておかない?」 「そうだね。鍵もちゃんと締めておかないと…」 「合言葉は…何にする?」 「変質者が答えられないけど、僕たちは覚えやすい単語が良いね」 「ニコ君の一番好きな食べ物とかはどう?」 「その質問…答えは“ゾエ”以外にないから…変声魔法で僕の真似をしたら…簡単に突破されてしまうよ?」 「あっ、そうか。インキュバスの好きな食べ物って、それしかないよね…」 「ニコの一番好きな女性の名前とかどう?」 「えっ…その質問は答えが…エマになってしまうけど…覚えやすいかな?」 「ニコ君はお母さんの事が大好きって言ってたもんね!それならわかりやすいけど、多分変質者にはわからない?」 「私もそれは知らなかったわ…。マザコンなのは知ってたけど…」 「多分、ジョゼって答えるかもね?変質者は…」 「ミラーさんは、何番目に好きなの?」 「ジョゼは七人目の彼女だから…九番目かな…」 「もう七人も付き合ってたんだ?」 「彼女以外に好きな人が二人いるって事だね?」 「一番目がエマ様で、もう一人は誰なの?」 「二番目の子は名前を言いたくない…」 「ニコ君にだって秘密にしたい事はあるよね、ごめん…」 「あっ、もしかしてニコの死んだお母さんの名前かな?」 「違うよ…。死んだ母さんも入れるなら…エマ母さんと同列一位だから…ジョゼが十番目になる」 「なんか犯人当てクイズになってしまってる…」 「誰なのか気になってモヤモヤする…」 「ちなみに…二番目はキャンベル先生だった…。いや、死んだ母さんも入れるなら…繰り下がりで三番目になるけど…」 「えっ!キャンベル先生、そんなに順位が上だったの?」 「あまり結婚式に参列したくない気分だよ…。母さんがラインハルト様と誓いのキスするところ…見るのも嫌だった…」  午後の結婚式が始まったので、ニコとペニーとルカは後ろの方の席に座りました。カレッジの生徒が他にも大勢、参列しています。 「キャンベル先生、ウェディングドレスを着てると別人みたいに綺麗」 「キャンベル先生は…化粧をしてなかったから…地味に見えたのかもね?それと眼鏡が尖ってて…キツそうに見えたのかもしれない…」 「ニコはずっとキャンベル先生は美人だって言ってたわね…」 「ジョゼは化粧が濃いから…あまり好きじゃなかったけど…入院してからは可愛いと思うようになった…」 「ミラーさん、カリスマモデルで雑誌の表紙になってて、化粧してたらめちゃくちゃ綺麗だと思うけど?」 「もしかして…人間とインキュバスは…美的感覚が違うのかな?」 「ニコの彼女って…みんな見た目が微妙だったから…ニコはブス専って男子が噂してるよ?」 「僕の元カノはブスなんか…一人もいなかったと思うけど…」  挙式が終わってキャンベルが投げたブーケを女学生たちが取ろうと揉みくちゃになっています。 「あのブーケが取れたら幸せを掴めるからみんな必死だね?」 「エマ様の時は最前列で見てたから取れたけど」 「ペニーちゃんが幸せになれるのを祈ってるよ」 「私、ニコ以外の男と結婚する気ないから、一生独身のままでいるよ」 「ペニーなら…いくらでも良い相手はいると思うけど…」 「ニコより頭が良くて優しい人が現れたら考えるわ」 「少なくともカレッジにはそんな男はいないな」 「そう言えばリアムのお姉さんがニコの知能指数は百八十くらいって言ってたのよ」 「お姉さんは知能指数…三百を超えてるからね…僕の事をいつも見下してくる」 「リアムのお姉さん、口は悪いけどニコを褒めてるように聞こえたわ」 「そうなのかな…。お姉さんはペニーがかなり気に入ってるみたいだったけど…女の子を気に入るのは珍しいよ?」 「私がニコと会話が成立するのは知能指数が百六十あるからって言ってたのよ」 「知能指数は二十以上差があると…会話が噛み合わなくなるからね…」 「ニコと会話が噛み合う人は何人いるの?」 「人間の中では…母さんと…ラインハルト様と…カーティス先生と…メイヤーズ先生だけかな…」 「私も含めると五人だけって事?」 「と言う事はその五人は知能指数百六十超えてる事になるんだね、すごいなぁ」 「ジョゼとは…会話が噛み合わないから…会話が長続きしなくて…悩んでるよ」 「この前、学祭でデートしてる時はどんな話をしてたの」 「演劇を見てボロボロ泣いてたけど…僕はあの話が好きになれない…」 「ロメオとジュリエッタでしょ?毎年同じのやってるわよ…」 「最後にロメオが…勘違いで毒を飲んで死ぬのが馬鹿だなと思った…」 「シェイクスピアは真夏の夜の夢の方が面白いわよ?ロメジュリは女学生には人気あるけど」 「真夏の夜の夢って…どんな話なの?」 「シェイクスピアって喜劇も得意だから、真夏の夜の夢はただのラブコメよ?」 「ロメジュリは悲劇だったから…全然面白くなかった…」 「カタルシスを求める人はロメジュリの方が好きみたいね?」 「僕バカだからニコ君とペニーちゃんの会話について行けない…。カタルシスって何?」 「悲しいお話を見て感動して涙を流す事で、自分は優しくて良い人だと思い込む事よ?」 「カタルシスは心が浄化されるって意味だけど…ペニーの解説が真理だよ…。他人の不幸は蜜の味って言うから…」 「カタルシスなんてクソ喰らえだわ!感動もへったくれもありゃしない」 「どうしてニコ君とペニーちゃんは、そんな小難しい内容の会話が成立するのか…」 「それより…真夏の夜の夢が気になるから…あらすじを教えて?」 「ティターニアって言う妖精の王妃様が、いたずら好きの妖精に、一目惚れの薬を瞼に塗られて、人間のブ男を好きになってしまうの」 「それでオチは…どうなるの?」 「王様のオベロンが薬の解毒剤を飲ませるんだけど、ティターニアはそれでもブ男を愛してると言うのがオチよ」 「それは良い話だね…。それなら僕も感情移入して感動できそうだ…」 「ティターニアもブス専なのかな?」

2
0
エマとニコ〜第四十八章〜

エマとニコ〜第四十七章〜

 リアムの姉はラインハルトの結界の周りをウロウロしています。 「光魔法でしか解除出来ないタイプね」 「この中にいれば…安全なのか?」 「結界には二種類あるの。一つは外からの攻撃を防ぐ反射タイプ。もう一つは中から出られなくして、ドラゴンとかの強い魔物を封印するタイプ」 「ニコ君がカーティス先生との試合で封印の魔法を受けていたのは後者のタイプのようだな」 「あら?ニコがカーティスと試合をしたの」 「ああ、カーティス先生が勝ったよ?」 「人間に負けるなんて…お馬鹿さんね」 「あのニコ君に勝つなんて誰も思っていなかったからな。今やカーティス先生はマスコミのインタビューに引っ張りだこだよ?」 「カーティスの“ゾエ”は今まで吸った中で一番、美味しかったの。また私に会いに来てくれないかしら?」 「残念ながらカーティス先生は婚約したから、サキュバスと遊ぶ気はないようだよ」 「そんなぁ〜。失恋しちゃった、気分」 「サキュバスでも人間の男に恋をする事があるのかね?」 「人間なんかに本気で惚れちゃうのはリアムの馬鹿だけよ?飼ってる猫を本気で愛して結婚するくらいに愚かだわ」 「愛猫家なら飼ってる猫を本気で愛して結婚したがる者もいるだろう」 「猫との間には子供は出来ないだろうけど、お猿さんと交尾したら出来るかもね?」 「猿は我々の祖先と言われてるからな」 「私から見たらお猿さんと同じよ?人間なんて」 「そうだろうな。私は猿と交尾したいとは思わないが…」 「でも飼い猫にキスする事はあるでしょ?」 「猫は飼った事がないんだ…」 「猫は良いわよ。体内にトキソプラズマって菌がいるから、キスしたらそれに感染して死ぬのが怖くなくなるの。窮鼠猫を噛むって言うでしょ?」 「トキソプラズマ?私には何の事だかサッパリ」 「あっ、私それ知ってます。人間も猫を飼った事のある人は自殺率が高くなるんだって聞いて、猫を飼うのが怖くなりました…」 「一度でもトキソプラズマに感染したらもう手遅れよ?」 「それじゃあ私、そのせいで死ぬのが怖くないのかな…」 「迷いの森に一人で来る時点で、お前は脳みそがイカれてるってわかるわ」 「ニコにキスされてからかも?寿命が縮むとわかっててもキスしたくなる」 「それはインキュバスの唾液にマリファナを超える快楽成分があるからよ」 「そうだったんだ。リアムのお姉さん、頭が良いからカレッジの教授になれそうですね」 「うふふ〜、お前はよくわかってるわね。ニコの彼女にしては良い子だわ」 「彼女にはしてもらえなかったけど…」 「安心なさい。お前は死んだあの女に性格がそっくりだから、ニコの好みのタイプよ?」 「本当ですか!ニコって惚れっぽいから、誰でもすぐに好きになっちゃうんです…」 「そこはリアムに似たのね。あの馬鹿も惚れっぽかったから、浮気ばっかりしてたのよ」 「浮気と言うか、全部本気みたいだから、博愛主義者なんだと思う…」 「そうやって男の悪口言われても、男をかばうところ、あの女にそっくりで虫唾が走るわ!」 「私はニコの全てが好きなんです。フェミニストで女性の悪口は絶対に言わないし、フッた後のアフターケアもバッチリだから、ニコの新しい彼女が前の彼女に恨まれた事は一度もないの…」 「ああ、嫌んなっちゃうわ!ニコはリアムとだんだん似てきて、お前はあの女そっくりで…」 「リアムには一度も会った事ないけど、調べれば調べるほどリアムの事も好きになって来ました」 「私が首を刎ねて死んだ後もリアムを崇拝してリアム教と言う宗教まで出来てしまったからね…」 「お前が弟の首を刎ねたんだ?リアムの信者から恨まれなかったの…」 「リアムの信者は面会に何度も来てたし、その際にも信者たちに私を恨まないように、根回しをしてくれていたようでね…」 「リアムもニコとそっくりだったんだ」 「妻に会いたいから私に頼んで首を刎ねてもらうんだ。恨まないでやってくれと話していたよ…」 「リアムの死刑に反対する署名は、たくさん集まってたんですよね?」 「リアムが全ての罪を認めたからな…。死ぬのがわかっていて、女学生の“ゾエ”を全て吸い尽くした事も…。自分は殺人鬼だから、さっさと死刑にしてくれ…とな」 「今、ニコがミラーさんに、その女学生と同じ事をしてると言ってたけど…」 「死んだ女学生は不治の病で余命一年だったんだが、リアムと付き合って一ヶ月後に死んだんだ」 「その話、図書館のリアム専用スクラップ帳で読みました。死刑の後にその子の書いた日記帳が出て来たんですよね?」 「リアムに会う前は死への恐怖と早く死にたいと言う願望しか綴られていなかったんだ」 「リアムに会ってからは楽しそうな文章に変わってましたね」 「死顔も安らかで死の恐怖など微塵も感じていないようだった…」 「ニコはいつもそうなんです…。可哀想な人を見つけると好きになって…。いじめられっ子とか…容姿が良くない子とか…」 「メサイアコンプレックスと呼ぶそうだ。誰かを救う事で喜びを感じる…」 「私はニコのそう言うところが、好きだったんです」 「愛なんてただの性欲よ?幻想だわ」 「愛にはいくつも種類があるんです。私とニコはストルゲ(友愛または家族愛)だから性欲は関係なく好きになったの…」 「でもお前はニコと寝たんだから結局は性欲を満たしたかっただけだと認めたら?」 「リアムのお姉さんの呪いのせいで、あの時はしたくなっちゃったんだけど、後悔はしてません」 「あの日の事が忘れられなくて、本当はしたくてしたくて堪らないんでしょ?」 「正直言うと…あんなに気持ち良いと思ってなかったので…ニコとした事なかった頃よりはしたくなってます…」 「可哀想に…。お前はもう他の男としても満足出来ない体にされちゃったわね」 「ニコ以外の男とはしたいと思わないから大丈夫です」 「カーティスも私の死の接吻を受けたから他の女では満足出来ないはずなんだけど」 「カーティス先生も性欲ではなくキャンベル先生を愛してるみたいです。多分カーティス先生はプラグマ(利害関係の一致)だと思います」 「プラグマは金目当ての結婚の事でしょ?カーティスは金に興味なさそうだけど…」 「金目当ての人もよくプラグマと勘違いされるけど、そこには愛なんてないから違います。多分仮面夫婦みたいなものですね」 「仮面夫婦?なんだか嫌な響きね…」 「カーティス先生はよくお見合いの話とかあったみたいで、それを断るのが面倒だといつも言ってたんです」 「それはカーティス先生と飲みに行った時に聞いたよ?田舎の母を安心させる為に、結婚を急いだだけだとね…」 「キャンベル先生ならカーティス先生の研究の邪魔はしないし、同じ職場の同僚だから色々と都合が良かったんじゃないかな」 「それも飲みに行った際に聞いた。仕事と私とどっちが大事なの?と言われない相手が良かったそうだ。もちろん仕事の方が大事だとぼやいていたよ」 「性欲と関係ない愛もあるのねぇ〜。人間って面白いわぁ〜。他の生き物はただ繁殖の為に交尾を繰り返してるだけだけど…」 「リアムのお姉さんは頭が良いから話せばわかってくれると思ってました」 「なんだか人間に興味が湧いて来たから、私も弟の真似をして人間の街で働いてみようかしら?」 「リアムのお姉さんだったら夜の街で大人気になってご指名率ナンバーワンになりそう」 「カーティスに会いたいから、カレッジの教授になれないか聞いてみるわ」 「リアムのお姉さん、カレッジで働くつもりなんですか?」 「人間の知能指数って平均が百ちょっとでしょ?魔族の知能指数は平均三百以上なのよ」 「と言う事はハーフ魔族のニコは百五十って事ですか?確か医者になる為に必要な知能指数が百四十って聞いた事があります」 「カーティスの知能指数は推定で二百くらいね。ニコはお馬鹿さんだから百八十くらいじゃない?リアムの馬鹿は二百二十ね」 「そんな事がわかるんですね!」 「話してたら大体わかるわよ?お前の知能指数は百六十くらいだと思うわ」 「私、そんなに知能指数が高いと思ってなかったです」 「馬鹿な奴は知能指数が高い相手と話してるとイライラするし、知能指数が高いと馬鹿と話してるとイライラするから、ニコと会話が成立する時点で百六十あるのよ?」 「確かに…馬鹿な男子と話してるとイライラして来ます…。どうして何度説明しても理解してくれないのかな?って」 「知能指数が二十以内だと言わなくても相手の考えてる事が読めるのよ?」

2
0
エマとニコ〜第四十七章〜

エマとニコ〜第四十六章〜

 しばらくペニーが店番をしていると、カーティスが古着を眺めています。 「カーティス先生もニコの古着を買いに来たんですか?」 「どれが良いですかね?若者の流行には疎いもので」 「私も流行には疎くて…。でもニコの着てる服って全部、カッコ良いからどれでもハズレなしです。エマ様が選んでるらしくてセンス良いですよね!」 「実は婚約者のミス・キャンベルにプレゼントしようと思ったのです」 「ああ、それならこれとか女性でも着られそうなデザインですよ」 「ニットのカーディガンですか…。確かにこれなら彼女に似合いそうですな?」 「えっ…何、この値札…。ルカ先輩が勝手に付けたのかな?高過ぎるわ!」 「古着と思えないような値段ですね…」 「多分、ニコはカーティス先生なら、ただであげても良いって言うと思うので…。このカーディガンは、ただで持って行ってください!」 「ただでもらうのは気が引けますから…。少しだけ負けてくれませんか?汚れていますし…」  女学生がペニーに素朴な疑問を投げかけてきます。 「ムーアさんは、エマーソン君の古着、買わないの?ムーアさんも片想い中なんでしょ」 「私はこの前、ニコにもらったのがあるから…」 「えええっ!ただでエマーソン君の古着をもらうなんてズルい…」 「ルカ先輩も、ただでもらってたよ?」 「二人ともエマーソン君の親友だから、役得だよね?しかもこれ全部、ブランド物だから新品で買ったらもっと高いよ」 「そうだったんだ?じゃあこの値札は…ぼったくりじゃないのね」 「このニットは汚れが少しついてるけど、定価は金貨二枚だから銀貨二枚って安いと思う…」 「全然、知らなかった…。定価は銅貨五枚くらいに見えたわ」  そこへ、ルカが戻って来ました。御手洗いが遅いと思ったら、フランクフルトを齧っています。 「やっと帰って来た!ルカ先輩、この値札ってニコと相談して決めたの?」 「ニコ君は価値が分かってないから、僕が全部決めたけど?」 「やっぱりそうだったんだ…。ニコだったらもっと安い値札を付けそう…」 「最初はどのくらいだったと思う?ニコ君が付けようとした値札」 「このニットは銅貨二枚くらいじゃない?」 「正解!どうしてわかるの?」 「ニコの考えそうな事くらいわかるわよ?」 「以心伝心ってやつ?すごいなぁ」  ニコとジョゼが古着屋の前まで来ました。ジョゼは目を輝かせています。 「ニコ君の古着屋さん、全部人気デザイナーの最新ファッションばかりだね?」 「そうなんだ?僕、よくわかんなくて…母さんが毎月何枚か送ってくるんだけど…」 「今年の流行を大体、取り揃えてあるわ!こんな値段で売ったら勿体無いよ?」 「えっ…高過ぎると思ってたよ…」 「さっきから飛ぶように売れてるよ?」 「ジョゼにはただであげるから…好きなのを持って行って?」 「本当に?どれにしようかな…。あれもこれも欲しいし、迷っちゃう!」 「カーティス先生にもただであげて良いよね?ニコ」 「カーティス先生から…金取ったらダメだよ?僕の恩人なのに…」 「やっぱり?ニコならそう言うと思った!」 「ペニーちゃんの予想通りの反応だったね」 「ツーカーの仲と言うやつですな。結婚するとオシドリ夫婦になれそうですよ」 「僕はペニーとは…絶対に結婚したくないよ?」  ペニーは無言で立ち上がると、カレッジの裏にある、迷いの森の方へと走り去って行きました。 「いけない!迷いの森は危険だ…」 「カーティス先生…ペニーの様子を…見て来てもらえませんか?」 「君が追いかけなくて良いのかね?ムーアは君の親友なのだろう…」 「僕は今…ジョゼとデート中だから行けない…」 「私もこれからデートの約束があるのでね」 「キャンベル先生と…デートの約束をしてるんですか?」 「これを買ったら演劇を観に行こうかと…」 「僕もジョゼと…演劇を観に行く約束してて…」 「僕はここで店番してなきゃ…。ブランド物だから盗まれるかもしれないし…」  そこへ、カレッジの警備中のラインハルトが通りかかりました。 「ラインハルト様…。ペニーが迷いの森に…行ってしまったんです…。危険だから…探しに行ってくれませんか?」 「迷いの森だって?まさか自殺するつもりじゃあるまいな…」 「そんなに思い詰めてるようには…見えなかったけど…」 「とにかく私が様子を見に行ってくるよ?」 「ラインハルト様、これをお持ちになってください」 「これは…何ですか?カーティス先生」 「テンプテーションを回避するアイテムです。独身の女性は大抵これを持ってます」 「私は女性ではないのだが…」 「あの森にはサキュバスが出るんですよ…」 「父さんの…お姉さんだよ?」 「そうか…それじゃこれを持って行ってくる…」  ラインハルトが迷いの森に来ると、エマが前に付けていた目印は消えていました。 「ここは前に通った道ではないな…」  ナイフで新しい目印を樹に刻みながら進みます。ペニーは泣きながら少し先を歩いていました。目の前にサキュバスが現れます。 「あらあら、どうしちゃったの?確か名前はペニーだったかしら」 「リアムのお姉さん!私の名前、覚えててくれたんですか?」 「魔族は記憶力が良いだけよ?別に興味はないのだけど」 「ニコが…他の女の子と付き合ってて…私には見向きもしてくれないんです…」 「お前が妊娠したからじゃない?男なんて女が妊娠したら、浮気する生き物よぉ〜」 「ニコはそんな事しない!」 「もう!そんなに怒っちゃってぇ〜。まぐわいの間の呪いのトラップで、ハーフ魔族のニコに抱かれたから、その快感が忘れられないのね?わかるわぁ〜」 「まぐわいの間って不妊治療の魔法のかけられた祭壇のある部屋の事ですか?」 「あの祭壇は私が呪いをかけたのよ」 「リアムのお姉さんの呪いだったんだ…」 「一度でもインキュバスとまぐわったら、人間の男では感じなくなっちゃうわよ?」 「確かに…この前、怪しい光魔法の使い手に襲われたけど…全然、感じなくて痛いだけでした…」 「インキュバスに抱かれてる時はバージンでもちっとも痛くないでしょ?」 「バージンの時は痛いって聞いてたから覚悟してたのに、ただ気持ち良いだけだったから、私が淫乱なのかと思ってました…」 「あの呪いがかかってると、快感が増して妊娠率も九十九パーセントまで、アップしちゃうのよぉ〜」 「ほぼ確実にできちゃうんですね…」 「と言うかインキュバスの繁殖能力は人間の男よりも強いから、百パーセント超えちゃってるわぁ〜」 「そうなんだ…。子供が出来ない確率の方が低かったんですね…」 「そこで盗み聞きしてるのはだぁれ?それで隠れてるつもりなのね…」  リアムの姉に見破られて、樹の陰からラインハルトが出て来ました。 「あら?良い男じゃない!もしかして私のペットになりに来たのかしら…」 「ペネロープ・ムーアのお腹の中には…ニコ君の子供がいるのかね?」 「だから何よ?インキュバスの血が混じってるから中絶の薬なんて効かないわよ!」 「インキュバスの血には中絶の薬が効かないだって?そんな馬鹿な…」 「お腹を切り開いて取り出しても無駄よ?怒り狂って産婦人科医を殺しちゃうかも。赤ん坊でも人間より強いからねぇ〜」 「私は中絶するつもりはありません」 「それにまぐわいの間と言うのは何だね?妊娠率九十九パーセントなんて、不妊治療としてもあり得ない!」 「魔族の常識は人間の非常識なんですぅ」  リアムの姉が投げキッスをすると、ラインハルトが首から提げていた十字架のアミュレットが、弾け飛んで結界が張られました。 「残念…!ペットにし損ねちゃったわ?」 「助かった…。カーティス先生に後で礼を言わなくてはならない」

2
0
エマとニコ〜第四十六章〜

エマとニコ〜第四十五章〜

 学祭のフリマに古着屋を出店する為に、ニコとルカは服の分別をしていました。“いる”と書かれた段ボールに綺麗な服を入れて“いらない”と書かれた段ボールに着古した服を入れています。 「この綺麗な服は残して…っと。ニコ君、これはもういらない服?」 「やっぱり…綺麗な服の方が…売れるんじゃないかな?」 「ニコ君が売ってたら、みんな買うと思うよ?」 「僕がお客様なら…絶対にこんなヨレヨレの服なんか…買わないよ?」 「ペニーちゃんも喜んでヨレヨレの服を着てたでしょ?」 「ペニーとルカ先輩は…変わり者だから…」 「僕が変わり者なのは認めるけど…。ペニーちゃんは普通の女の子だよ?」 「僕と仲良くしてる時点で…ペニーもかなり変わり者だよ?」 「二年生の女友達からも、ニコ君と仲良くしたいって言われて、紹介してって言われてるんだけど」 「二年生とは…ルカ先輩以外は…話した事ないな…」 「学祭で色んな学年の人と交流出来るから、フリマでニコ君と話したら良いって、女友達には言っといた」 「ルカ先輩は…女友達とは…付き合ったり…しないのかな?」 「たまに付き合って欲しいって言われるけど…僕は女の子は友達としか思えなくて…断ったら仲悪くなってしまって…」 「それはちょっとわかる気はするな…」 「ニコ君は一年生なのに、既に何人も彼女がいたから、すごいなって思う。しかも別れた後も仲良くしてるし」 「別に…嫌いで別れたわけじゃないから…」 「好きなのに…別れないといけないって…つらいね」 「だからペニーとは付き合いたくないんだよ…」 「他の子とはどうして付き合ったの?」 「最初はそこまで好きじゃなくても一緒にいるうちに好きになってくるから…」 「長い間そばにいると好きになっちゃうタイプなんだ?ニコ君は」 「一緒にいると良いところも悪いところも見えてくるからね」 「ミラーさんの事も最初は好きじゃなかったんだよね?」 「今は…好きだよ?あの子も結構…苦労して生きて来たんだ…見た目よりもね」 「そうなんだ。じゃあ僕も好きになってもらえるのかな」 「ルカ先輩は…最初から好きだったけど…」 「えっ!本当に?嬉しいなぁ」 「男友達が少ないから…ルカ先輩は貴重な存在だよ」 「僕…男友達から男として扱われたの…初めてだよ」 「ルカ先輩は…女の子に見えるからだろうね…」 「女友達からもたまに…男として扱われるけど…それも嫌だったな…」 「男として扱われるのが嫌なのかな…」 「同性として女の子と仲良くしたかったから…。その子とはもう口も利いてないけど…」 「僕も…先輩の事…女の子扱いする方が…良かった?」 「ニコ君は僕の“ゾエ”は吸ってくれないのかな?って…」 「男の“ゾエ”は吸った事がない…。サキュバスのお姉さんから口移しされたのは苦かったけど…」 「“ゾエ”ってどんな味なの?」 「う〜ん、例えが思い付かない…」 「ちょっと僕の“ゾエ”も味見してみない?」 「えっ…味見したら…寿命が縮むと思うけど…」 「どんな味なのか気になるから吸った後に教えて?」 「じゃあちょっとだけ…」  ニコはルカに十秒ほどのキスをしてみました。 「う〜ん。これは…例えるなら…ウニとかカニ味噌とか…そっち系かな?」 「僕の“ゾエ”はウニやカニ味噌の味だったのか!なんだか面白いね?」 「ジョゼはおばあちゃんみたいに寿命が短いせいか…梅干しとか沢庵みたいな味がするんだよ…」 「田舎のおばあちゃんが漬けた梅干しと沢庵、僕の家に送ってくるから、ニコ君も食べる?」 「お粥に合いそうだから…ジョゼに食べさせたいな」 「じゃあ今度、お見舞いに持って行くよ」  学祭の催し物の会議が生徒会で行われています。キャンベルは生徒会の顧問をしていました。今は美男美女コンテストの候補の推薦人数を集計しているところでした。 「ミスターの推薦は断トツでニコ・エマーソンですか。予想通りですわね」 「先生!ミスの候補の件でどうしたら良いのか悩んでるんです…」 「集計結果を見せて頂戴?入院中のジョゼフィーヌ・ミラーを推薦してる生徒が多いわね…」 「ミラーさん、カリスマモデルだったから女子からも人気があったんだけど、最近ミラーさんはエマーソン君と付き合ってるので、人気が出てるのかも?」 「エマーソンと付き合ったら、どうしてミラーの人気が出るのです?」 「なんでだろ?エマーソン君って付き合ってる彼女が周りから好かれるようになるんですよ」 「不思議な現象ね…。普通は人気のある男子と付き合うと嫌われるものなんだけど」 「ムーアさんも人気があるから推薦が多いですし」 「これもインキュバスの魔法なの?そう言えば私も…最近はモテ期なのかと思うくらい好かれて…カーティスと婚約しましたから」 「エマーソン君にフラれた後に、すぐに彼氏ができたって子もいるから、エマーソン君と付き合うと恋愛運が上がるって噂もあるんですよ」 「エマーソンと話してると…女性ホルモンが活発化していたような気がします」 「そのせいかも?キャンベル先生、若く見えるようになりましたから」 「えっ、本当に?どのくらい…」 「エマーソン君と関わる前は、実年齢より十歳くらい老けて見えてたのに、今は実年齢より十歳若く見えますよ」 「もしかしてインキュバスには若返りの魔法でも使えるの?この話はカーティスにも報告しておかないと…」 「カーティス先生、インキュバスの生態の論文を書いてらしたから、興味深いとか言って喜びそうですね!」  学祭の日が来ました。ニコは午前中、美男美女コンテストで、ミスターカレッジの候補として投票箱を持たされて、特設会場に立たされています。エマが警備の為にカレッジに来ていたので、ニコに投票して去って行きました。 「ああ!僕もニコ君に投票したいのに、ミスターカレッジに投票出来るのは、女の人だけだなんて…」 「ルカ先輩なら女のフリして、投票できるんじゃないですか?」 「その手があったか!よし、こっそり投票してこよっか?」 「あれ?あの魔法の絨毯に乗ってる子ってミラーさんじゃない」 「本当だ。ミラーさん、入院中だから生徒会の会議でミスカレッジの候補から外されたらしいんだけど、それで投票権が出来たから、ニコ君に投票に来たのかな?」 「ミラーさんの後ろにメイヤーズ先生もついて来てるわね」 「メイヤーズ先生もニコ君に投票してるみたいだけと、あんなにニコ君とは仲が悪かったはずなのに不思議だ…」 「みんな、ニコの事が大好きなんだよ…」 「この後のフリマも場所取りだけしてあるから、投票が終わったら僕も店番してくるよ」 「私は少し他の店を見て回ってからニコの古着屋さんに行くね」  ニコがミスターカレッジに選ばれて、表彰式でトロフィーを授与されています。ペニーはそれを見終わると、露店巡りを始めました。ニコはジョゼと一緒に露店巡りをしています。 「どうしてニコの隣で露店巡りしてるのが私じゃないんだろう…」  居た堪れない気持ちになって、飲食店コーナーから離れた場所にある、衣料店コーナーに移動しました。ルカが接客しています。 「実はこの服…あのリアムの息子のニコ・エマーソンのお古なんですよ?しかもこれはまだ洗ってません!」 「えっ、マジで?それ買うわ!」 「ルカ先輩…悪徳商法まがいの売り方をしてるわ」 「ペニーちゃん!ちょうど良かった。僕、御手洗いに行きたいから、店番少しだけ代わってよ?」 「わかったわ。早く帰って来てね?」

2
5
エマとニコ〜第四十五章〜

エマとニコ〜第四十四章〜

 ニコは慌てて家に帰りました。一人乗りの魔法の絨毯を超特急で飛ばしたので、途中で街灯にぶつかりそうになったりしながら、アパートのベランダにたどり着いて中に入ります。窓は開けっ放しで部屋の中には衣服を切り裂かれた親友が二人倒れていました。 「クソッ…!間に合わなかったのか…」 「その声は…ニコ君?拘束魔法が掛けられてるから…ペニーちゃんを先に解除してあげて…」  ペニーの方が酷い状況になっていて、ニコは目を閉じてペニーの方に手をかざすと、拘束魔法を解除します。 「服を着替えないと…家に帰れない…」 「その前に…シャワーを浴びておいでよ?タオルは…バスケットの中にあるのを使って良いから」  ペニーがシャワールームに入ったのを見送ってから、今度はルカの拘束魔法を解除します。 「ごめんね…。僕、見てるだけでペニーちゃんを助けられなかった…」 「拘束魔法は…簡単には解除できないから…仕方ないよ。ルカ先輩は何も悪くない…。悪いのは犯人だから…」 「僕も服がボロボロだから…合鍵を渡すので着替えを…アパートから取って来てくれない?」 「まだ犯人が…近くにいるかもしれないのに…君たちを置いては…行けないよ?」 「でもこのままじゃ家に帰れない」 「僕の服を…あげるよ?母さんが毎月のように…服を買って送ってくるから…新品がたくさんあるんだ…」  ニコの部屋には三つ個室が付いており、一つは衣装部屋になっていて、まるでブティックのように、オシャレな服がハンガーに掛けられて、並んでいました。 「隅っこにある段ボールには…新品の服が入ってるから…好きなのを選んで?」 「このハンガーに掛けてあるのは…ニコ君のお古なの?」 「それは僕が着た事のある服だから…新品のをもらって欲しい…」 「僕、これが気に入ったんだけど…ダメかな?」 「そんなヨレヨレのやつで良いの?一番よく着てる服だから、それ…」 「うん、だからこれが良いんだ!」 「遠慮しなくて良いから新品のを選んで…」 「新品のはニコ君のお母さんに悪いから、ニコ君が着た方が良いよ?」 「母さんが…もう服はいらないって言っても送ってくるんだよ…」 「どれもカッコいい服ばかりで、羨ましいよ?」 「もう百着は超えてるかな…。服なんて十着あれば十分なのに…」 「もし古くなった服がいらないなら、古着屋で売るって言う手もあるよ?」 「古着屋?行った事ないな…」 「あっ、ニコ君がフリマで直接、売れば欲しがる女学生が多いかも?」 「メンズの服なのに…?」 「この服には…ニコ君の匂いがついてるから…」  ルカはサイズが合わなくてダボダボの服を着ると袖の匂いをクンクンしています。 「人間の嗅覚でも…匂うの?ちゃんと洗ってるんだけどな…」 「ううん、洗濯した良い香りに混ざって、ほんのりニコ君の香りがするのが良いんだ!」 「よくわかんないけど…フリマってどこでやってるの?」 「今度の学祭でフリマコーナーがあるからブースを借りれば良いと思うよ」 「こんな着古して…ヨレヨレの服でも…売れるのかな?」 「むしろヨレヨレの方が売れるかも?」 「ああ、そう言えば…母さんと初めて服を買いに行った時…店員さんが穴の開いてるズボンをオススメして来て…」 「それはヴィンテージものだね!」 「これがオシャレで若者に流行ってる…とか言ってたんだけど…ルカ先輩も穴の開いたズボンが好きなのか…」 「ヴィンテージものは高いから普通のしか持ってないよ」 「穴が開いてるのに…なんで高いんだろ?」 「ヴィンテージものはマニアにはこだわりがあるから、わざと穴を開けて売ってるお店もあるくらいだよ」 「この服もわざと穴を開けた方が良い?」 「穴と言うか…ニコ君の匂いの方が重要だから…洗わないで売る方が良いかも?」 「洗わなかったら汗臭いのに…」  そこへタオルを体に巻いたペニーが、後ろから顔を出しました。 「二人ともこんなところで何してるのよ?」 「ペニーちゃん、ニコ君に服をもらったんだ!」 「わぁ〜、いいなぁ〜。ルカ先輩だけズルい!」 「ペニーもメンズで良ければ…あげるよ?」 「本当に?じゃあ、これにする!」 「二人とも…そんなヨレヨレの服の…一体、どこが良いの?僕にはわかんないや…」  ペニーは隅っこでタオルの上からダボダボのメンズの服を上からかぶって、タオルを下に落としました。ペニーが着るとまるでワンピースのように見えます。 「女の子用の下着はないからどうしよう…」  その時、呼び鈴が鳴ったのでニコが警戒しながらドアの方へ向かうと、エマとメイヤーズが立っていました。 「母さんとメイヤーズ先生…どうしてここに?」 「さっき私が騎士団に通報に行ったのよ?それでエマ様を連れて来たってわけ」 「鸚鵡がおかしな事を口走ってたんでしょ?二人とも大丈夫だったの」 「あんまり…大丈夫じゃないかも…。入って…」  ニコはエマとメイヤーズを中に入れました。ニコのお古を着て二人とも笑顔なので、先程までの惨状が嘘のようです。 「母さんが送ってくれた服…増え過ぎて邪魔になって来たから…二人にあげたんだけど…別に良いよね?」 「二人とも…自分の服はどうしたの?」 「変質者に…切り裂かれたみたいなんだ…」 「鸚鵡が変質者がどうとか喚いてたわね…」 「もし…襲われたと言うなら、すぐに検査した方が良いわね」 「僕は大丈夫だったんだけど…ペニーちゃんが襲われて」 「ペネロープ・ムーアは後で私の診療所に来なさい?まだ犯人の体液が残ってるかもしれないから特定しやすくなるわ」 「メイヤーズ先生…。私、お腹だけは守ろうと思って…。横向きに倒れたから…犯人の顔は見てなくて…」 「入って来た時もローブで顔が隠れてたけど…。僕はうつ伏せで倒れてたから…。光魔法を使って拘束されました」 「光魔法?契約者は図書館の名簿に登録されてるから、リストを調べてみれば犯人を絞れそうね」 「光魔法は習得出来る人も少ないですし、闇魔法の方が強いから習得する人が多いから、この二つは同時に習得できないし」 「本当は…シャワーも浴びる前が良かったんだけど…犯人の手がかりが流れてしまったわ…」 「僕がペニーに…シャワーを浴びるように言ったんです。全身がベタベタだったから…」 「全身がベタベタだったなら、床に付着してるかもしれないわね?」 「ごめんなさい…!さっき拭いてしまった…。汚かったから…」 「現場保存が大事なんだけど…ニコはそんな事は知らないから仕方ないわ」 「母さんは…次々に難事件を解決してた…って聞いたから…犯人も捕まえられるって…思ってるけど」 「ラインハルト様がこのアパートの周辺に聞き込み調査してくれてるから、目撃情報があれば良いのだけど…」 「犯人は僕が居ない事を知っていたようなので…もしかしたら僕がメイヤーズ先生と…高級クラブから出て行くところを見てたのかも?」 「その周辺にも聞き込み調査をしてみるわ」 「このアパートは防音壁だから隣の部屋の住人も何も聞こえなかったって言ってるし…」 「防音壁も良くない事があるんだね…」 「オンボロアパートだったら声が筒抜けだから、僕が襲われた時もすぐに大家さんが助けに来てくれたんだ!」 「あのアパートで…襲われた女学生は多いって…聞いたけど」 「襲われた時に声を出せなくなる女学生が多いみたいで、僕は大声を出したからね」 「私も多分、大声を出すと思うわ」 「声を上げなかったのは合意の上だと勘違いしてしまう犯人も多いようね」  話が終わるとペニーはメイヤーズの診療所に連れて行かれて、あれこれ検査を受けました。 「今日は病院に泊まりなさい」 「先生、お腹の中の赤ちゃんは…」 「無事だったわ。でもどうして中絶しないの?」 「良かった…。赤ちゃんが死んじゃったら、どうしようって、ずっとそればかり考えてて…」 「そこまで赤ちゃんの心配をするって言う事は、好きな男の子供なのね?」 「メイヤーズ先生には言わなくてもわかっちゃいましたか…」 「好きでもない男の子供をそこまで大事に思うわけがないわ」 「お腹の中にこの子がいるってわかった時に…産みたい!って思っちゃったんです」 「どうして父親が誰なのか言えないの?本当に好きならちゃんと話し合わなきゃダメよ」 「言ったら下ろせって言われるから…」 「子供が出来たら簡単に下ろせって言う男は多いわ」 「レイプされて出来た赤ちゃんなら、迷わずに下ろしたと思います」 「そうね、その方が良いわ。この男の為なら死んでも良い!と思える男の子供しか産まない方が良いから」 「私もその人の為なら…死んでも良いと思ってます」 「それなら産みなさい。下ろした後に産みたかったって後悔してる子をたくさん見て来たわ」 「私も多分、下ろしたら一生、後悔すると思う」

2
0
エマとニコ〜第四十四章〜

エマとニコ〜第四十三章〜

 ルカはトボトボと一人で家に帰ります。途中でペニーとすれ違いました。 「あれ?ペニーちゃんもこっちに来たのか」 「ニコと仲直りしようと思って…」 「合鍵なら僕が持ってるから、中で待ってる?」 「私も合鍵はもらってるの…」 「えっ、ニコ君とは付き合ってないのに合鍵を渡されてるんだ?」 「ニコにとって私はどうでも良い存在だから…」 「どうでも良かったら…合鍵は渡さないと思うけど」 「私とは付き合う気ないって…ずっと言ってるもん」 「この前も病院でニコ君は好きだから付き合わないって言ってたよ?」  二人はニコの部屋に入りました。相変わらずキッチン以外は殺風景で、綺麗に片付いています。 「鸚鵡の餌って、どこにあるの?」 「ああ、それならこっちよ?」  ペニーが勝手知ったる我が家の如く、鸚鵡の餌の入った棚を開いて、中から餌の入った瓶詰めを取り出しました。 「一回でスプーン一杯分ね?」 「なんか同棲してるカップルみたいだね?」 「同棲か…。私もニコの部屋で暮らせたら良いのになぁ〜」 「そしたら家賃を半分こ出来るから、あのオンボロアパートより安く済むね!」 「ここならセキュリティも良いから安心だし…」 「鍵が複雑な構造をしてるね。複製しにくそう」 「ニコに頼んでみようかな?ここに住んでも良いかどうか…」 「良いなぁ〜。僕もニコ君と一緒に住みたい…」 「ルカ先輩ならニコも嫌がらないかも!一緒に頼んでみる?」  すると呼び鈴を鳴らす音がしました。 「あっ、ニコが帰って来た!」 「ドアの鍵なら開いてると思うよ?ニコ君」  ドアが開くと怪しいローブの男が中に入って来ました。 「えっ…ニコ君じゃない?」 「ルカ先輩、気をつけて?その男、杖を持ってるわ!」 「魔術師が?どうしてここに…」  魔術師が杖を振ると、ルカは床に倒れました。ペニーも体が動かなくなっています。 「拘束魔法だわ!と言う事は光魔法の使い手…」  ローブの男は先にルカの服を無理やり、ナイフで引き裂いて脱がせました。しかし脱がせると男だとわかってガッカリしています。 「ペニーちゃん…僕…怖いよ…」 「ペニーチャン…ボク…コワイヨ…」 「変質者!さっさと出て行きなさい?騎士団に逮捕されるわよ…」 「ヘンシツシャ!サッサト、デテイキナサイ?キシダンニ、タイホ、サレルワヨ…」  鸚鵡がルカとペニーの声真似をしています。ローブの男は鸚鵡の入った鳥籠を窓から投げ捨てました。高いベランダから地面に落ちた鳥籠は衝撃で壊れてしまい、中からヨロヨロと鸚鵡が出て来ます。そのままメイヤーズ診療所まで飛んで来ました。ジョゼの個室の窓に鸚鵡専用の鳥籠が置いてあります。ちょうどその時、ニコはメイヤーズ診療所の庭のベンチに座って話していました。 「聞きたい事って何かしら?」 「メイヤーズ先生が…僕の働いてる店の関係者だって…店長から聞いたんですが…」 「口が軽いマスターね!守秘義務も守れないなんて…」 「いえ…それ以上は守秘義務があるって言って教えてくれなくて…こうして尋ねているんです…」 「昔の話よ?私は悪い噂があってどこにも雇ってもらえなくて…この診療所を開く為に体を売ってた事があるの…」 「先生も…ご苦労をされていたんですね…」 「その頃に…リアムに出会ったのだけど…」 「先生も父さんの事…知ってたんですね?」 「少しあどけなさはあるけど…あなたはリアムにそっくりなのよ」 「それはよく言われるので…顔は似てると思います」 「顔だけじゃないわ?虫も殺せない優しい性格の癖に、悪ぶってるところもそっくり!」 「先生は僕を嫌ってると思ってたのに…最近、ドーパミンが出てる時があるんです」 「カレッジに通ってる子供に欲情してしまうなんて…私もヤキが回ったわね?」 「でも先生が本当に好きなのは…多分、僕じゃなくて…父さんの方ですよね?」 「私はあの頃、リアムに入れ上げてたのよ…。私をいつも指名する上客の国王様はそれで…リアムを目の敵にしてて…」 「国王様も夜の街で…遊んだりするんですか?」 「護衛のラインハルト様と一緒に、よく遊びに来てたわよ?」 「そうだったんだ…。そう言えばラインハルト様が前にそんな話をしてたような…」  ニコは過去の記憶を無理やり引っ張り出して、思い出そうとしています。 「あまりにも国王様がしつこいから…リアムが好きだと言ったら…国王様がリアムを逆恨みしたみたいで…」 「それで僕の父さんの首を刎ねろって…ラインハルト様に…命令したのかな?」 「多分そうね…。腹が立ったから、国王様の子供を妊娠したってわかって、すぐに流したけど…」 「えっ…メイヤーズ先生…国王様の子供を妊娠してたんですか?」 「どうせ庶民の私の産んだ子供は、王位継承権はなかったと思うし、あんな奴の子供は死んでも産みたくないわ!」 「その時に…国王様からもらったお金で…この診療所を…建てたわけですか…」 「もし国王様の言いなりになって、城のメイドになってたら、今もずっとあいつの夜伽相手をさせられてたと思うとゾッとするわ!」 「メイヤーズ先生…好きでもない男と夜伽するなんて…僕が女の人だったら絶対に耐えられない…」 「良い医者になるんだ!って息巻いてたんだけど、女は腕が悪いだとか信用できないとか言われて、悪い医者になりかけてた」 「メイヤーズ先生は…根は悪い医者ではないと思います。他の病院の医者は…根っこまで腐ってると思うけど…」 「あの日、あなたに言われてハッとしたのよ…。それでも医者と呼べるのか?って。だから今はあなたに感謝してるわ!」 「僕も今は…メイヤーズ先生の事を尊敬しています…。先生の事を何も知らずに…あの時は生意気な事を言ってしまって…本当にすみませんでした…」 「そうやって悪いと思ったら、すぐに謝るのもリアムと似てるわね?」 「悪い事をしたら…謝るのは当然だと思うんですが…」 「それが出来ないダメな大人がほとんどなのよ?人のせいにして誤魔化して、自分は悪くないと開き直って、悪くない方を責め立てて嘘八百を並べ立てる」 「そんな大人には…なりたくないなぁ…」 「あなたにはバックに大物が何人も味方に付いてるから、私のようにはならないと思うけど、昔の私に似ていて危なっかしいから心配なのよ?」 「僕が猪突猛進型なのは…自分でもよくわかってて…そのせいでカーティス先生に負けたから…」 「あの試合、伝説になってるけど、そんなに強かったの?カーティスって」 「僕はあまり足元を見てなくて…祭壇の下の形象文字にも気づかなかったし…」 「灯台下暗しってやつね?」 「カーティス先生は…僕の弱点を分析してたんだと思う。だから負けてしまった…」 「今更だけど…あなたの試合、見に行けば良かったわ。次の試合は見に行くわね?」 「僕も金が必要だから…週末はしばらく…コロシアムの試合に出ようと思ってます」 「何の為に金を用意してるの?」 「ここの壁、ヒビが入ってるし、弁償しないと…」 「ああ、これね…。手抜き工事が原因かと思ってたんだけど、あなたがやったの?」 「この病院は潰れないように…守りたいと思ってるんです」 「言わなきゃバレないのに…。あなた、正直過ぎるわね?」 「嘘をつくのは悪い事だって…死んだ母さんが言ってたから…僕は嘘つきが一番…嫌いなんだ…」  上空から急降下して鸚鵡がニコ目掛けて降りて来ました。 「ペニーチャン…ボク…コワイヨ…」 「あれ?僕の鸚鵡がどうして…」 「ヘンシツシャ!サッサト、デテイキナサイ?キシダンニ、タイホ、サレルワヨ…」

2
0
エマとニコ〜第四十三章〜

エマとニコ〜第四十二章〜

 次の日もニコはメイヤーズの診療所に来ていました。ジョゼと三十秒だけキスします。 「口内の炎症もおさまって…顔色も良くなってきたな…」 「カサカサでヒビ割れてた唇も最近、プルプルになってきたでしょ?」 「ゾエキッチュが違法じゃなければ…寿命を延ばせるんだけど…」 「ママもゾエキッチュの卵を探してくれてるんだけど、普通のお店には置いてないみたい…」 「最近、ジョゼから…僕の嫌いな匂いがしなくなったんだ…」 「嫌いな匂い?もしかして…ゲロの臭いかな…」 「昔のジョゼは…悪い事を考えてる人間が…発する独特の匂いがしてた…」 「昔の私は…悪い事ばかり考えてたかも…」 「今は良い匂いがする…」 「魔族は匂いで悪い人かどうかわかるの?」 「メイヤーズ先生からも…その匂いがなくなったよ」 「メイヤーズ先生は…何だか怖いわ…」 「今はもう…ジョゼにオーバードーズは…してないよ?」 「うん、お薬は二種類だけになったの。肝臓のお薬と胃腸のお薬だけ」 「その二つなら…飲み合わせは特に問題ない…」 「ママに言ったら別の病院に移そうか?って聞かれたんだけど…ニコ君に相談してから決めようと思って」 「多分…別の病院も同じ事をしてくるから…ここにいた方が安全だと思うよ?」 「そう…。ここはカレッジから近いから、ニコ君が帰りにお見舞いに来やすくて良いよね?」 「メイヤーズ先生はもう…オーバードーズはしないと思う。もしまたしたとしても…僕が母さんに言うから…」 「どうしてすぐに…エマ様に言わなかったの?」 「メイヤーズ先生はトカゲの尻尾だからさ…。本体を潰さないと意味がない…」 「ニコ君がそう言うなら…私はこの病院で我慢する」 「ジョゼも元気になって来たし…そろそろ僕は別の恋人を探そうと思うんだけど…」 「ダメよ!絶対に別れないからね?私」 「でもインキュバスと付き合い続けると…君は死んでしまうんだよ?キスを我慢できるのなら良いけど…」 「私とキスしなかったら…他の人と浮気するんでしょ?」 「バーテンダーの仕事で…お客様から誘われる事があるから…それでキスさせてもらおうかと思ってる…」 「浮気は絶対に許さないわ!」 「キスしないと僕が衰弱してしまう…」 「じゃあ私とキスすれば良いでしょ?」 「堂々巡りで話し合いにならないな…」 「どうしていつも別れたがるの?そんなに私の事が嫌いなんだ…」 「逆だよ?最近、ジョゼの事が…だんだん好きになって来たから…別れたくなってる…」 「本当に?嬉しい!」 「愛してるよ…」 「初めて愛してるって言ってくれた!」  ニコに抱きしめられて、ジョゼは幸せな気分でいっぱいになりました。ニコが帰るとジョゼは引き出しから日記帳を取り出します。 「今日は彼氏が初めて愛してると言ってくれました。私もニコ君の事、愛してる。幸せ過ぎて怖いくらいです」  ニコはメイヤーズに呼ばれて診察室に入りました。 「医療用の養殖のゾエキッチュの卵なら手に入るのだけど、天然のゾエキッチュの卵より効果は低いそうよ?」 「その養殖のゾエキッチュの卵を…ジョゼのお粥に混ぜて出せませんか?」 「もしそうなると一日の食費が…今の三倍になってしまうわ」 「食費は月に…どのくらいかかりますか?」 「今は金貨三枚よ?つまり金貨九枚になるわね」 「それくらいなら僕が…差額の金貨六枚を…支払いますので」 「ただの恋人の為に…そこまでする?」 「普通は…恋人の為に…そこまでしないんですか?」 「普通は家族がするものでしょ?」 「ジョゼの親には…食事の件を相談してないんですか?」 「個室に入ってるから、それが大部屋の三倍なのよ」 「大部屋だと…いくらなんです?」 「それも月金貨三枚くらいね」 「と言う事は…全部で金貨十八枚ですか?」 「そうなるわね。あと薬代もあるけどそれは微々たるものよ」 「薬は二種類に減ったって…ジョゼから聞いてます」 「医療費の補助は親がいると受けられないし…」 「親は医療費の支払いを拒否してるんですか?」 「ジョゼに大部屋に行くように父親は言ったんだけど、大部屋だと体調を崩してしまって、一日で個室に戻したから…」 「大部屋で…何かあったのかな…」 「変な人が多いから…夜中に話しかけて来られて嫌だったみたいね…」 「大部屋で何があったのか…ジョゼに聞いてみます」 「大部屋は鍵がかけられないから、昼間は男性が入って来たらしくて、カメラマンの…」 「あっ…なんとなく察しました…」 「写真を撮りまくってたから、騎士団を呼んで逮捕してもらったわ。不法侵入で…」 「ありがとうございます。メイヤーズ先生」  ニコがバーテンダーのアルバイトに行くと、常連のエマとキャンベルが来ました。 「こんな高い店に通って…大丈夫なの?母さんもキャンベル先生も…」 「カクテルは一杯で銀貨三枚くらいだし、指名料も銀貨二枚くらいだから、そんなに高くないわ」 「それだけあったら…レストランで一番安い食事なら…十日分になるのに」 「今は騎士団長の稼ぎで余裕があるから、毎晩飲みに来ても平気なの」 「シェイカーは僕の家にあるから…材料費だけなら銅貨三枚で作れるよ…」 「でもニコの家には来ないで欲しいんでしょ?」 「来ても親友のルカがいると思うから…別に良いよ」  そこへ初めての客がやって来ました。ニコを指名してカウンターに座ります。 「メイヤーズ先生…!金に余裕がない…って言ってたのに…どうしてここへ?」 「それが最近、初診の患者が一気に増えて余裕が出来てきたのよ」 「なんで急に…初診の患者が増えたんですか?」 「多分、あなたがジョゼフィーヌ・ミラーと病室でキスしてる写真が雑誌に載ったからよ?」 「そんな写真、撮られてたんだ…」 「その写真、私も見たけど…。てっきりペネロープ・ムーアって子と付き合ってると思ってたからビックリしたわ」  ニコはバツが悪そうに、そっぽを向きました。 「この前、メイヤーズ先生の診療所で逮捕したカメラマンも、パパラッチだったのかしら?」 「それはジョゼのストーカーだよ?多分…」  メイヤーズはソフトドリンクとパスタだけ注文したので、ニコは注文を通す為に厨房の入口の横の小さなカウンターに行きます。店長がまた、ジロジロとエマの方を見ていました。 「店長さん…母さんが…どうかしたんですか?」 「エマ様の隣の席にメイヤーズも来てるな」 「メイヤーズ先生は…初見のお客様ですよね?僕に会いに来たみたいですが…」 「一応、リアムの息子が来るって招待状は出したんだが、リニューアルオープンの時は来なかったからな」 「えっ…!メイヤーズ先生は…昔の常連客だったんですか?」 「いや、メイヤーズは常連と言うか…関係者だった」 「関係者…?どう言う意味だろ…」 「本人に聞けばわかるよ?俺は個人情報の守秘義務があるから言えねぇが」 「わかりました…。後で本人に聞いてみます…」  店を上がる時間になったので、ニコはルカに合鍵を渡すと、ロッカールームでタキシードから普段着に着替えました。 「僕の部屋で練習するなら…先に帰ってて?それと鸚鵡の餌もあげといてくれるかな…」 「ニコ君はこんな遅い時間に…どこへ行くの?」 「ちょっと用事が出来たから…すぐに帰るよ?」  店の勝手口から出るとメイヤーズが待っていて、ニコと一緒に歩いてどこかへ行ってしまいました。

2
0
エマとニコ〜第四十二章〜

エマとニコ〜第四十一章〜

 ニコとペニーとルカは、それぞれ一人乗り魔法の絨毯に乗ってメイヤーズの診療所へと急ぎました。しかし呼び鈴を何度押しても返事がありません。しばらく診療所の前をウロウロしていると、やっと看護師が一人出て来ました。 「緊急の患者以外、休日は中に入れません」 「僕たち光魔法の生徒なんです。キャンベル先生の事が心配で…」  ルカがウルウルした瞳で、看護師に頼み込んでいます。 「心配しなくてもメイヤーズ先生に任せておけば大丈夫です」 「だから言ったでしょ?帰りましょ、ニコ」  ニコは壁を拳で軽く殴りました。少し壁にヒビが入ります。 「中に入れなければ…あの事をバラすって…メイヤーズ先生に…伝えてくれませんか?」 「あの事って…何です?」 「メイヤーズ先生に言えば…わかります…」  看護師が診療所の中に戻ると、ペニーがニコに尋ねました。 「あの事?ニコ、何かまずい事に巻き込まれてないでしょうね…」 「いや…別に…大した事はないよ」 「私たち親友なら隠し事はしないで?」 「君にも言えない…。いつか母さんには言うと思うけど…。今はまだ話すべき時じゃない…」 「自分だけで抱え込まないで?最近のニコ、なんか様子が変だよ」  そこへ血相を変えたメイヤーズが出て来ます。 「何しに来たの?私を恐喝するつもりね!」 「恐喝だなんて人聞きが悪い…。教え子が担任に会いに来ただけですよ…」 「何が目的なの?ハッキリ言いなさい」 「ここでハッキリ言ったら…困るのはメイヤーズ先生の方では?」  メイヤーズは診察室にニコだけ連れて入りました。ここは防音壁なので中の会話は外には聞こえません。 「要求は何?金なら余裕がないわよ!」 「僕の大事な人たち…キャンベル先生や…エマ母さんに…妙な真似をしたら…僕はあなたを…殺しに来ます…」 「殺人予告なんて…恐ろしい子ね」 「騎士団に…通報しますか?」 「いいえ…しないわ」 「もしキャンベル先生にも…オーバードーズをしたら…あなたも苦しめてから殺してやります…」 「オーバードーズは滅多にしないわ!認知症とか自殺志願者にしてるだけよ?」 「あなたには…医者としての…正義感と言うものが…ないんですか?」 「最初の頃は正義感もあったわ。私がカレッジに行く前まではね」 「カレッジに…行くようになってから…変わってしまったんですか?」 「カレッジに行きながら、院内の清掃や受付のアルバイトもしてたの」 「その頃から…医者を目指してたんですね」 「どこの病院に行ってもね、飲み合わせが悪くても平然と処方してオーバードーズしてたの」 「あなたはそれがわかってて…どうして騎士団に通報しなかったんですか?」 「最初はしたわ。でも誰も信じなかったし、私はアルバイトをクビにされて、悪い噂をばら撒かれてしまった」 「騎士団は母さんとラインハルト様以外は…無能みたいだから…まともな対処はしてくれないみたいですね…」 「厄介払いの為に、病院に患者を捨てに来る家族が多いから、亡くなっても誰も疑問を抱かないのよ?むしろ合法的な殺人依頼みたいなものね…」 「そんな事が…当たり前になってるんですか?」 「ええ、それが病院の実態よ?マスコミにリークしようものなら裏で潰されて困った事になるの」 「僕がその事を…母さんに伝えるので…証拠を掴んでくれませんか?」 「どうして私が…そんな危険な橋を渡らないといけないの?」 「母さんなら…必ずどうにかしてくれる…」 「エマ様なら何とか出来るかもしれないけど…。あなたの件でも相当マスコミに叩かれてるから」 「そうなんだ…あまりゴシップ記事には興味がなくて…読んでないから知らなかった…」 「金の要求じゃないなら他に何を望むと言うの」 「金には興味がありません…。さっきも試合に出て負けたけど…金貨百枚はもらえるから…」 「あなた、絶対に勝つって周りから言われてたのに負けちゃったの?」 「カーティス先生は…手強い相手だから…」 「こんな事ならカーティスに賭けておけば良かったわ!」 「倍率は五十倍だったそうです…」 「つまり金貨一枚が金貨五十枚になったのね…」 「僕の要求は…二度とオーバードーズをしない事だけです…」 「ジョゼフィーヌ・ミラーにはもうオーバードーズしてないわよ」 「ええ、僕には匂いでわかるから…もしオーバードーズしてたら…母さんに言います…」 「それよりあなた、ジョゼフィーヌ・ミラーに一体、どんな魔法を掛けたの?」 「僕は…魔法なんて何も…掛けてないですよ?」 「そんなはずはないわ!脈拍も正常値に戻ってるし、嘔吐も全くなくなったの」 「ただ…お見舞いに…来てるだけです」 「なるほど、あなた自身が特効薬って事ね」 「プラシーボ効果ってやつかな…」 「病は気からって言うけど、思い込みだけで体調が悪くなったり、良くなったりするものなのよ」 「毎日お見舞いに来ると約束したから…今日も会わせてもらいます…」 「良いわ。特別に許可すると、看護師長に申し送りしておきます」  待合室に出るとカーティスとキャンベルは、これから帰るところでした。 「キャンベル先生、どこも異常なしだから、帰って良いんだって」 「ちょっと気絶してしまっただけなのに、カーティスが大袈裟なんです!」 「愛されてるんですよ?カーティス先生に」 「僕は…ミラーさんのお見舞いに行ってくる…」 「えっ、どうして?」 「メイヤーズ先生の許可はもらってある…」 「そんな毎日お見舞いする必要ないじゃない?」 「僕が特効薬だって…メイヤーズ先生も言ってるよ」 「私たちもお見舞い、ついて行って良い?」 「いや…二人っきりにさせて欲しい…」 「ニコ、まさかと思うけど…ミラーさんと付き合ってるの?」 「うん…だからもう僕の事はほっといて…」 「ミラーさんは好みのタイプじゃないって言ってなかった?」 「気が変わったんだよ…。これからは好みじゃない子とも付き合う事にした…」 「私、ニコが何を考えてるのか、ちっともわからない!」 「院内では静かにしてください?」  メイヤーズに叱られてペニーは口を押さえて叫びたいのを必死で堪えます。 「ペニーとは一生…付き合う気はないから…他の人を探して」 「ニコ君…ペニーちゃんの事が…そんなに嫌いなの?」 「違う…好きだから…ペニーとだけは…絶対に…付き合いたくないんだ…」  ペニーは泣きながら、走り去って行きました。ルカもそれを慌てて追いかけます。 「エマーソン君、お休みの日なのに来てくれたんだ?」 「毎日、君の…お見舞いに来るって…約束しただろ?」 「うん、でも今日は試合もあったし、来ないと思ってたから嬉しい!」 「メイヤーズ先生が…脈拍も正常値に戻ったから…元気になってるって言ってたよ」 「ママからもそう言われた」 「そうだ…今日から君の事…ジョゼって呼んで良い?」 「本当に?そう呼んでもらうのが、夢だったから…。私もニコ君って呼ぶね!」  ニコが三十秒だけキスすると、ジョゼはうっとりしています。キスが終わると抱きしめました。 「もう一回キスしたいな…」 「三十秒で五日…寿命が縮むんだよ?キスを長くすればするほど…一緒にいられる時間が短くなる…」 「ずっと一緒にいたいけど…キスもしたいの」 「僕と付き合うのは…やめた方が良いと思うけど…。今ならそんなに…寿命は縮んでないと思う」 「三十秒で…いつもやめちゃうもんね…」 「他の子は…何度もキスをせがむから…大体、十三日くらいで別れてたんだけど…」 「どうして…三十秒なの?」 「僕はハーフだから…三十秒で…一日に必要な“ゾエ”が…摂取出来るんだよ?」 「じゃあ…三十秒で我慢するね」  ニコが帰るとジョゼは日記帳を出して今日の出来事を綴ります。 「今日は休日なのに彼氏がお見舞いに来てくれて、私の事を初めてジョゼって呼んでくれたので、私も彼氏の事はニコ君って呼ぶ事にしました」

2
0
エマとニコ〜第四十一章〜

世界初は日本製だった

 今はデジカメが当たり前の時代だが、私が子供の頃はインスタントカメラと言う、使い捨てカメラが主流だった。社会見学や修学旅行には、子供たちはみんなインスタントカメラを持って行く。それで記念撮影をしていた。 「この写真はブレてるからいらない」 「でもこっちは顔が横向いてるから、そっちの方が良いよ?」 「何かこれ変なの写ってる!心霊写真だ」 「さとちゃんはそっちの写真にしたら?」  私は嫌がってるのに欲しくない写真を無理やり押し付けられる。 「誰?寝てるとこ、隠し撮りしたのは!」 「先生だと思う。みんな寝てるから」 「さとちゃんが布団を取ったから、寒かったんだ?犯人がわかった!」 「寝相が悪いから、よく覚えてないよ…」  失敗していても写真屋さんに現像に出して戻ってくるまで、どんな写真が撮れているのかわからなかった。いらない写真を現像しても、一枚につき数十円を払わさせられるから、本当に嫌だった。 「この写真はわしが撮ったやつやな?よく撮れてる!」 「それ撮ったの私だよ?お父さんが撮ったのは、この失敗してるやつ」 「それはさとりが撮ったやつやろ?」 「違うよ!こっちは私がこの花の前で撮ろう?って言って移動したから、よく覚えてるもん」 「わしが撮ったと思うけどな?さとりはこんな上手く撮れんはずや!」 「お父さんはそうやって、いつも私の撮った写真を自分の撮った写真だ!って言い張るよね」  ポラロイドカメラと言う、押したらすぐに写真が出てくるものもあったが、高価なので持っている人は少なかったし、感光して写真がすぐに消えてしまった。大事な思い出の記念撮影はポラロイドでは撮らないのが常識だ。 「世界初のカメラ付き携帯だって!すごいなぁ〜」  西暦二千年に日本で発売されたカメラ付き携帯電話。今でこそカメラ付きは当たり前だが、当時の携帯電話にはカメラが付いていなかった。そして私が初めて携帯電話を買ってもらったのが西暦二千年である。 「これにするか?最新式やぞ!」 「お父さんが欲しいんじゃないの?」 「こんなええ携帯買ってやるなんて、良いお父さんやろ?」 「別に私は普通の安い携帯で良いけど…」 「これにしとき?持ってるだけで自慢できるで!」  そしてアルバイトを始めた。私の携帯電話を見たバイト先の先輩たちの反応はこうだった。 「金子さんって、お嬢様なの?」 「違うよ?普通の一般家庭。と言うかむしろ貧乏な家」 「貧乏な家の生まれの人は、カメラ付き携帯なんて持ってないわよ?」 「うちの父が見栄っ張りだから、無駄遣いして買っただけだよ…」

5
0
世界初は日本製だった