夏色さいだー

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夏色さいだー

夏依存症。 オタクやめよ、って思った矢先、足立レイ推しになった。 2024 10.14start

無題

劣等感は鬱陶しい友達のように私に付き纏い。 心臓のおくから全部を黒く染めていった。 君に抱いたきれいでフクザツな感情が。 君と色違いの安物の消しゴムが。 脳から薄まっていきそうだったの。 いつも少し前を走っていくから。 背中にはぎりぎりすがりつけない、焦りの距離。 今私が泣き出したなら、きっと君は振り返るけど。 そこまでのあざとさは、持ち合わせてないんだ。 夏休みの課題の読書感想文。 相変わらず君は面白くて美しくて。 劣等感と恨みに嫉妬をトッピング。 それでもあなたの筆跡は、どこまでも優しいの。 君が泣いてるの聞いたら。 私は泣かないようにしなきゃなんて弱い意志ができたけど。 それは瞬間で壊れて。 君の温かさが憎らしかった。 君が他のコと話してるの見たら。 そんなのどうでもいいでしょなんて知らんぷりしたけど。 それも瞬間でバレて。 君は笑って私をいちばんにしてしまったの。 すきだなんて言わないでね。 あんまりにも幸せすぎて、きっと死んじゃうから。 そんなに優しく抱きしめないでくれ。 もう侵食されて、脳が暴発しそうだって。 私にそんな、優しくされるほどのものはないから。 クリップで耳たぶでも挟んでくれよ……いてて。 マジックで顔に落書きでもしてくれよ……やりやがったな。 そしたら、その後で泣いてくれるだろ。 今日も窓際の席で、飛び降りる夢を見てるが。 そんなことを忘れ去るくらいに、君のことだいすきだった。 あんまりにも何かにころされそうだったけど。 君の笑顔、ああ、あいしてんだ、すごく。 劣等感は、もう心の隅で泣き始め。 心臓のおくから、どうしようもなく痛くて温かいものが溢れた。 君に抱いたフクザツで簡単な感情も抱きしめて。 妙におとならしくて嫌われがちな私たち。 子供と猫の皮を被ってやっていけるさ。 今夜もいつも通り泣いて、明日はもう笑って。 そんな日常をなんとかふたりで逃げていこう。 赤くなったほっぺた、俯いて隠してつっついて。 タイトルなんて、なくたって生きていけるんだから。 おはよう、うん、いいね、おやすみ、またあした。 すき、かわいい、だいすき、あいしてる。 そんな単純なものが、どうせ全部愛おしくなるから。 もういいじゃないか。 無題。 それでいいじゃないか、先生に怒られたって。 無題同士、傷の舐め合いと愛し合い。 だってだいすきなんだもん。

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無題

いきつぎ

 じりじりと夏の日がプールサイドを焼く。ボロいベンチに水着姿で座って休憩していると、二人のどちらかから、あっづー……と小さく声が漏れた。  それは一ヶ月前、夏休みがはじまってすぐのことだった。夏休み中、町唯一の屋外プール場に毎日通うつもりでいた私は、クラスメイトの佐倉と会った。中学生にもなってプールくるなんて珍しい、なんて、自分のことを棚に上げて私が浴びせた質問に、彼は困ったように答えた。 「俺、泳ぐの下手なんよ、だから練習」 「……なんでもできる佐倉の弱点は水、かあ」 「うっせ」  そんなこんなで、次の日も、また次の日もプールで会うもんだから、じゃあ私が教えてやろうか、と言うと、眩しい笑顔で「さんきゅ」なんて言われた。そして、さっきまでのこと。 「でも佐倉、ずいぶん泳ぎのフォームは綺麗になった」 「それは俺もそう思う。でもなあ、息継ぎがなあ……」 「確かにお前の息継ぎはひどいかも」 「ちぇー、可愛げのない」  まあ明日は息継ぎ練習にしようか、と言うと、急に真面目な顔で頷かれた。少し心臓がどくどくする。だから下を向いた。 「あ、でも山本は、俺が息継ぎ下手だって言うけどさ」  ん、と思ってふぃとそちらを向くと、ちょっと切なそうな顔で呟く佐倉の顔が目に入った。 「それはお前もなんじゃないの」  ああ、これって遠回しの、彼なりの心配だ。  そう気づいたのは、プールから上がって二人で炎天下、ジュースを飲んでいた時のことだった。 「佐倉君……おごってくれてアリガト」 「語尾にハートが見える」  ぶうぶう言いながら額の汗が頬を流れていく佐倉を見るのは、少し私の脳の出来を悪くするのを厭わなかった。ぼーっとする。ああ、なんとなくさっきの理由が分かりかけ、拙い言葉が口から滑り落ちた。 「私が息継ぎ下手なんは」 「ん」 「佐倉がいるから」 「は」  は? と困ったような顔をされた。でも聡明なお前のことだ、なんとなくわかるだろうと思い、私は俯く。思えばあの時からだ。プールで初めて出会ったとき、クラスメイトから友達になってしまったときからだ。 「佐倉といると息継ぎできないのは」 「言わなくてもいいよ」 「すきだから」  これは本当。いつもテストで九十五点以上取ってるし、私は九十点くらいだけど。作文コンクールでも優秀賞だし。私は入賞だけど。部活でだって全国に出場してるし。私は県大会で負けたけど。そんな小さな劣等感たちが、ずっと心の奥底にあるの。憎い、憎い憎い憎い。大っ嫌い。佐倉がいなくなれば、全部私が一番なのにって、何度思ったか。今でも思ってるか。その汚い嫌な歪みが、あまりにも青く、透明な夏のフィルターを通し、そしてお前の優しさにやられて、一ヶ月前から未知の感情に生まれ変わってしまったのだ。 「……それって告白?」 「さあ」 「好きになった理由は」 「知らん」  えー、そんな、うれしいと顔を赤らめている佐倉を、ひどく傷つけてやりたいような感情に駆られる。これは、今まで腹にあった憎悪か、はたまたキュートアグレッションか。わかんないから手元のカルピスを一思いに飲み込んだ。もうぬるいかなと思っていたが、予想に反してまだ冷たさを保っていた。 「じゃあ……付き合う?」 「おー」 「これから山本じゃなくて、なぎさって呼んでもいい?」 「もちろん。ただ私は佐倉って呼ぶかな」 「なんやねん」  なんとなくわかる。本当に息継ぎできないのは、佐倉の方だって。私はクラスでもキャラクター性が薄いし、いかにもデフォルトキャラで。でもお前は無責任な期待ばっか寄せられて、本当はひとりぼっちなんだろ。もう、夏の青さに身を委ねて、どっかから飛び降りたいくらいだ。 「やま……なぎさ」 「んぃ」 「息継ぎできないならさ」 「うぃ」 「……やっぱなんでもない」  どうせ、人工呼吸すればいいさ、とか気持ち悪いこと言おうとしたんだろうな。 「へんたい」 「……うっせ」  そろそろ夏休みは終わり、日常的な地獄が始まる。そうすれば二人で会うことも少なくなって……それくらいはわかる。  ただ、今だけは。今だけはこの、夏だけじゃない暑さに、脳まで溶かされて。  侵食されていよう。

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いきつぎ

「またあした」

君も私も「うざい」「きもい」「やばい」を言ってた。 君も私も「うれしい」「かなしい」「くるしい」を伝えてた。 君も私も「きらいだ」「すきだ」を感じてた。 でも、「またあした」だけは言わないで。 「おやすみ」なんて誤魔化してたの。 嫌なとこににきびができたとか。 百均のイヤホンが壊れたとか。 シーブリーズの中身ぶちまけたとか。 そんなどうでもいいこと話したかったの。 誰と誰が付き合ったとか。 誰と誰が別れたとか。 自分たちのことから視線を逸らして。 まことしやかな噂話に笑ってた。 もしもあした地球が滅んで。 なんてことはなかったと笑うあさって。 そして交通事故であっさり死んだ、しあさって。 だから、またあしたなんて言えないの。 炭酸が嫌いな君が。 またあした、って手を振ったなら。 ああ、それはあまりにも嬉しくて、しゅわしゅわで。 たぶん少し、しょっぱくて痛いの。 あした会うことが日常になったなら。 それは素晴らしいけれど、君には少し重いかな。 おやすみ、のあと、ひとつ勇気を出せたならば。 今頃君は、いつも通りに生きていた? いかないで、とか。 しなないで、とか。 ひとりにしないで、とか。 ロマンス常套句なら、いくらでも紡げるが。 またあした、って確定事項。 それを作っていたのなら、世界線はずれていたのか。 今頃ふつうに学校にきて。 帰りにてぇつないで泣けていた? 今からでも間に合うのなら。 「またあした」を叫ばせて。 「おやすみ」なんて言わないから。 ねえ、ちょっとまってくれよ。 「     」 その空白を埋められたならば。 君はどれだけ、どれだけ。 ああ。

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「またあした」

屋上扉前、夏空寸前

 すぅ、と大きめに息を吸った。少し塗装の匂いがする。 「どうしたんだい、お嬢さん」 「ずいぶんと胡散臭い王子サマだなあ」  目を閉じて、外の音を聞いていた。屋上に続く扉を背に、うちわも扇げずに。手を伸ばしてリュックを取ろうとするけど、実際は数センチ動いただけだった。暑さで少し脳が揺れる。 「数学のプリント終わった?」 「終わるとでも」 「知ってた」  ふ、と君は小さく笑いを漏らして、横に座った。気まずくない沈黙が、私たちの間を流れる。外の暑さとお互いの体温が混ざって、睡魔に似た眩暈に襲われた。くたっ、と君の太ももに倒れる。ああ、シーブリーズと君の香り、だいすき。 「何してんの。ほっぺ暑いじゃん」 「……興奮してんだよ」  そんな冗談言わなくていいから、と君はうちわで扇いでくれる。ポッケからハンカチを出して、ペットボトルの水をかけて、目の上に乗っけられた。ひんやりしてて気持ちいい。視覚を遮断されたことで、どっちかの……いや、両方の心音がよく聞こえる。息苦しかったのが、瞬間消えていく。 「ねー」 「なあに」  君のやさしい声が、少し掠れてる、震えてる。だから、夏のでっかい青さに少し背を向けた。 「ちゃんと寝てる?」  その問いに、君は答えない。いや、どうせやさしいから、答えられないでいるんだろ。そんな思考を裏付けするかのように、私の頬に触れていた、冷たい君の手が揺れた。ああ、バカみたいだ。どっちがとは言えないけどさ。 「どうせ苦しいんでしょ」 「……別に関係、ないだろ」 「あら、拒絶がへッたくそなようで」  お互いに言えない秘密はあるけど。  どうせ、死にたいだなんて言えないし。  ああ、こんなに近いのに、すきだって言ってあげられない私、ずるくてごめんね。  そんなよそ事考えてたら、不意にぎゅ、と持ち上げられた。ここで自分と密着させられないあたり、君は臆病で怖がりだろう。……いや、それは私もか。そこで、私のスカートのポッケから、とっておきのものが落ちた。  あ、と声が漏れる。 「……ねえ、この鍵さ、職員室のでしょ」  耳元ですきなひとに囁かれるこの状況は、あまりにも良すぎる。ただなあ……職員室から鍵を盗んだなんてバレたのは、少し焦る。とかなんとか考えていると、ぱちん、とでこピンの洗礼を受けた。 「……ぃっで……!」 「毎回どうしてそんなバカなことすんのさ」 「んー?」  そりゃあね。屋上で青春をするためですよ。  その場から私は腕を伸ばし、屋上へと続く扉の鍵穴を探す。がつ、ぎぎぎ、……かちゃん。おお、開いた。そして、力いっぱい向こう側に押し出す。そのまま、扉を背に下手くそに抱きしめ合っていた私たちは、夏へと倒れ込む。 「ぅっわッ!」  君が情けない声を出した一秒後。  目と心臓に青が飛び込んでくる。爽やかさを閉じ込めたビー玉を飲み込んだみたいに、胸がきゅっと詰まる。暑い。それでも、少し涼しい風が、階段下めがけて吹き抜けていく。ゆるゆると動いてた心臓が、ぐん、ぐん、と加速して鼓動し始める。血管が夏を乗せて体内を駆け巡る。それはもはや、痛いくらいに。 「……俺のため?」 「青春できればなんでもよかったんだよ、王子サマ」  王子サマ? と、きょとんとした顔の君は、いつものすまし顔と違ってて、少し腹のあたりがすうすうした。不安と喜びが混ざる。 「……ねえ」 「なーに」  今度の君の声は、もう震えていない。夏の暑さとこの世界の向かい風に、少しの反乱を起こしたようで、ああ。それはとても。 「すきだよ」 数瞬間後、君の笑顔が、夏味の爆弾となって、私の体内に流れ込んだ。

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屋上扉前、夏空寸前

夏味、透明人間

「別に苦しくないよ」なんて嘘は。 私の心臓のおくで、きっと泣き叫んでた。 嗚咽を漏らすほど、綺麗な人間ではないから。 承認欲求のはみ出したひとつ、涙と一緒に飲み込んで。 ああ、別に、うん、別にさ。 「別になんもないよ」なんて嘘は。 「嘘つき」って、簡単に君に破られた。 待って、そんな、悲しそうな顔をしないでくれ。 苦しい気持ちが溢れたのは、私のせいだから。 「別に大丈夫だよ」なんて嘘は。 「ふざけんな」って、簡単に君に怒られた。 未完成な頭のいい君が綴った、片言な言葉は。 私の肺に深く、ブッ刺さった。 此処から逃げ出せはしないけれど。 君の細い首筋を、後ろの席から拝めただけで。 君が五時間目に一回、あくびをしただけで。 私はすごく、生きていたんだよ。 個々から逃げ出せはしないけれど。 ひみつの共有の時の、程よく眩しい笑顔も。 忙しそうに弾む、シャーペンを持った右手も。 私はすごく救われていたんだよ。 「別に好きじゃないよ」なんて嘘は。 君も困り顔をするしかなかったようだ。 私が今、嗚咽を綺麗に漏らせたならば。 君は私が泣いているのに、気づいてくれただろうか。 「別に」の先、もう言葉を続けられなかったから。 瞬間の私の声の掠れ、やっぱり君は気づいてしまった。 「ごめんね」「いいよ」の要求と強制。 不自由のなか、君と私は生きていた。 君が「別に」も「ごめん」も、何も望まなかったから。 左手の薬指を絡ませて、少しバカみたいで笑ってしまった。 ああ、あまりにも夏の味に溺れていた。 「別にただ、………………………」 ああ、君の笑顔が眩しすぎて。 全ての気持ちが、溢れてきて。 全ての気持ちが、受け止められることを。 今私は、喜んでいる。

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夏味、透明人間

思いついたことを書いていく

投稿するほどのものじゃないヤツをコメントのとこに書いてくー

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思いついたことを書いていく

折セカ「キミと見たいセカイへ」

 一番になれない、全ての人へ。 ・名前(読み方):雨宮仁那(アマミヤニナ) ・学校:宮益坂女子学院 ・学年、クラス:2−B ・性別:♀ ・性格:真面目だけど少し掴みどころがない ・誕生日:4/5 ・身長:166cm(バレー始めて身長が伸びた) ・所属ユニット:【 freccia di luce 】 ・好きな食べ物:炭酸水、サイダー、ラムネ(飲む方も食べる方も) ・嫌いな食べ物:特になし(好きでも嫌いでもない) ・苦手:一番になることの強制、目覚まし時計 ・趣味:読書、作詞、本当はアニメとか見てみたい、授業中のバレない睡眠法の研究 ・特技:水泳、百人一首 ・委員会:学級委員会 ・部活:バレーボール部 部員 ・口調:標準「〜〜だね」「〜〜だよ」「〜〜かな」 ・人称 一 「私」「自分」(ユニットの人と仲良くしてる時は「自分」それ以外は「私」) 二 「君」「〜〜クン」「〜〜サン」(同ユニ呼び捨て、基本的に「君」を使う。人の名前を覚えられないため) 三 「君ら」(大好きな小説の主人公を真似している) ・過去  一番になることができない。  割と裕福な家庭に生まれ、勉強も運動も芸術も、昔からなんでもできた。そんな自分のことを誇りに思っていた。だけど、少し大きくなって気づいてしまったこと、それは「自分は一番になったことがない」ということ。定期テストはいつも二位、徒競走だって銀メダル、絵もいつも入賞止まり。妹の歌那(かな)は、勉強も運動も平均的だったが、天才的な歌唱力を持っており、親もそちらに気が向いている。そんな小さな苦しさを吐き出すために始めた作詞。書き始めたらたくさんの、メロディーのない歌詞ができていった。そしてある時、ふと思う。「誰かこの曲に、メロディーを、イラストを、MVをつけてくれたなら、それは、それはすごく……」 ・関係 降星瀬名( せ な ꪔ̤̥様) 同ユニの作曲家。瀬名の「誰か、この曲に歌詞をつけてくれませんか」という投稿を見つけ、彼女の曲を聞き一目惚れ。それ以来、曲作りのパートナーとして支え合っている。現実でも定期的に会う。時々無理してるようで少し心配。 如月響(水彩絵の具様) 隣の家に住んでいる。高校が違うので会う機会も少ないが、時々会って、悩みを共有したりしている。 紡木琴凛(叶夢衣緒様) 同ユニのイラスト担当。絵と言葉、お互いに表現の仕方は違うけれど、たくさんの人に小さな希望を届けられるように切磋琢磨している。割とにこにこバチバチ議論する。良きライバル。琴凛の描くイラストはとても好き。 ・サンプルボイス 「雨宮仁那です。炭酸飲料が好きです」 「みんな、歌詞できたから、確認よろしく」 「私だって、歌那みたいに……何かで一番になりたかった」 「一番になれなくても、誰かに希望を、届けられれば」 ・その他  眼鏡をかけている。若干おっとりしてる。少し美的センスが独特。サムネはハロウィンの時に、ユニットのみんなに撮ってもらった写真。一年の女子から人気がある。  大人になることにふんわりとした嫌悪感を抱いている(特に性的な行為など)。  夏がすき。少し生きづらいな、って思ってるけど、作詞をしてる時は、本当に楽しいなと思ってる。 参加させていただいて嬉しい限りです!

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折セカ「キミと見たいセカイへ」

部活サボり、青春添え 上

 無性に、部活に行きたくなかった。最近ずっと体育館が暑いからか。一日中、意味のないような練習ばっかだからか。夏休み前のテストの点が悪かったからか。友達の上達に対する苛立ちか。先輩たちからの可愛がられと、小さないびりか。じりじりと無神経に照りつける太陽は鬱陶しくて、ただ下を向いて歩いていたとき。 「よっ」 びっくりして振り向くとミユキ先輩が小さく手をあげていた。 「あ、おはよございます……」 「どうしたの、そんな死にかけの顔して」  すらっと身長が高く、短い髪を揺らす綺麗な先輩を見て、少し心臓のあたりが変になる。ミユキ先輩は女バレーの二年。背番号四番で、バレーも勉強も芸術も割となんでもできる。ただセッキョクセイに欠けるとか、ヒトミシリとか、女バレーの陰湿先輩たちがこぼしていた。確かに物静かだし、あまりきゃあきゃあ弾けるタイプではないだろう。 「先輩に話してみれば」  少し面白そうに首をかくんと傾け、こちらを覗く姿は少しエロくて焦る。 「ちょっと、部活、行きたくなくて」 一言一言、無駄に噛み締めるように呟いた俺は、あ、こんなこと言って良かったのかな、と小さく後悔する。情けねーな、なんて反省。ほんの一瞬、気まずさのような沈黙が痛いほど、二人の間を通り抜けた。そして、恐る恐る先輩の顔を見上げた時。 「じゃあ、一緒にさ……デート、しよ」  その時の先輩の笑顔は、夏の快晴に負けないくらい輝いていて、そんで、ちょっと……やっぱエロかった。カンノウテキ、ってヤツだったんだ。 「でも、サボって何すればいいんですか」 「だからデートだっつうの。君の好きなとこでいいよ」  そんなチェリーボーイな俺に言われたって、特に思いつくところはない。映画を見に行きたいところだけど、近いイオンには入ってない。ただ横にカラオケがあったはずだ。 「カラオケ、行きたいです」 「へえ、二人っきりで密室とか……えっち」  中二とは思えないような色気に、思わず顔が熱くなりかける。物静かな先輩のイメージはとうに消え去り、代わりに心臓のあたりに、くすぐったくて穏やかな何かが広がっていくのがわかった。なんとなくその感情の答えに気が付きながら、明確にはしないでおくあたり、俺はちょっとずるい。 「じゃあ行こっか、ひみつデート、に」  そして手を差し出された。  ああ、綺麗だ。部活の時、遠くから見ていた無表情も、陰湿先輩たちにいじめられていた時の小さな嘲笑よりも、今のミユキ先輩の笑顔は綺麗だった。少し薄い色の瞳も、細く薄桃の唇も、青い夏の快晴によく映えていた。身体中が暑く沸騰するような、涼しい風が吹き抜けるような、初めての心地よさと爽やかさが、瞬きのあと駆け抜けてきた。そして高速で夏に染まるような感覚に身を任せ、手を差し出す。  俺の中の夏がはじまる。

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部活サボり、青春添え 上

部活をサボる、小さな罪を犯した。 蝉の声が聞こえた。 遠く、体育館から運動部の声。 じっとりと汗の滲んだTシャツ、よれた短パン。 涼しい風が、暑い夏を通り抜ける音がしただけ。 どうしようもなく生きづらかった。 いつの間にか、日も隠れていた。 子供で永遠に立ち止まっていたかった。 早く大人に熟れきってしまいたかった。 深い緑色の木々の間、夕立がきた。 顔中の汗、溢れた涙、全部流してくれと。 喉の奥で小さく叫びを飲み殺した。 家の反対方向、どこかへと足を向けた。 ただ大雨の中を走り抜け。 苦しさも怒りも、謝罪も置いていくくらい。 サンダルの飾りは泥に溺れ、雨は止まる気配を見せないが。 それでいい、それでいいんだ、って。 「誰か殺してくれよ!」って叫んで。 ざあざあと不快な水中を走り抜け。 息苦しさも、全部全部愛おしかった。 水たまりに引っかかって転んで、アスファルトにぶっ倒れた。 雨は降り続けているが。 雲に口ができたような切れ目が頭上に。 泥でぐちゃぐちゃな全身は大地を感じ。 空には私だけの青があったのだ。 動いていた。 雲。雨。アスファルトの鼓動。私の血管。 どくどく、どくどく。ずっと。 いつの間にか広がった、インクのような夏は。 広く、どこまでも、ゆうゆうと動いていた。 言葉を持たずに。 動いていた。 確かにそれは動いていた。 確かにそれは生きていた。 肺の奥の鈍痛も。 ひどく抉られたような心の傷も。 夏の雨に流されて、今一瞬、ただ暑かった。 泣いてしまった。 それも動いていた。 それで満足だった。 夏よ。

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動

水泳後

夏休みの面影を残した、青い空。 じわり、と汗が下着に滲んだ。 水泳のあとの国語は、いつも睡眠に最高だっつうのに。 今日はなぜか、君がはっきりとしていた。 ああ、部活サボっちゃお、と思っただけだった。 手首の傷あとが、君に見られていた。 ひどく心が冷たく沈んで、体だけは嫌に軽くて。 どうも学校に来ると、元気を強要されてしまったから。 体の表面は、暑さに不快な涙を流していた。 「やめなよ」なんて、無責任なこと、いうから。 可愛いピンクのカミソリは、ただの友達だったのに。 傷あとは、私のかわりに泣いててくれたから。 私はななめに、君の方を盗み見たの。 あー。 そんなに、悲しそうな顔。 しないでくれ。 ひどく冷めていた心臓に、血が巡ってくるのがわかった。 どうも怒ったような。悲しそうな。 少々の軽蔑と失望は良かった。 でも、どうか、私のために泣かないでくれ。 命を軽く見過ぎだと、君に説教を喰らったことがあったが。 ああ、ごめん、としか、言葉は滑らなかった。 国語のワークシートが、空白を保って。 シャーペンが落下しても、分かれなくて。 なかないで、なんて言わないでくれ。 私の小さい苦しみを、理解しなくていいんだよ。 絆創膏なんていらないから。 青い空だけ見て、夏の空気を吸い込んでいてくれよ。 ゴシック体な世界で、私がうまく呼吸できないだけで。 君は上手に生きれるんだから、そうしてろよ。 なかないで、なんて、そんな、さ。 水泳後。 心地よく、授業も心臓もゆるやかに。 おわりへと近づいていくから。 せめて今は、君だけは、なかないでくれ。

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水泳後