神月二千楓

3 件の小説

神月二千楓

学生です。黒歴史が大量発生すると思います。暖かく見守ってくれると嬉しいです。 サスペンスが書きたいのですが気力がなくて無理そうです。ペンネームは適当です。

線香花火とカッターナイフ

 「今日から2年5組の仲間になる佐野愛佳ちゃんです。みなさん仲良くしてあげてくださいね。」 「...よろしくお願いします。」  パラパラと、けれどもそれなりに大きな拍手が、私に送られた。頭だけの礼を返す。 「それじゃあ、愛佳ちゃんは舞ちゃんの隣の席に座ってくださいね。」  教室の奥の方の席に座り、小さく息を吐いた。黒いハチが窓にぶつかり、小さく音を立てていた。 「私、白崎舞。舞って呼んでね。」  突然、隣の席の生徒が話しかけてきた。驚いたが、なんとか返事をして、 「え、えっと、じゃあ...舞、これからよろしくね。」 と言った。  舞は優しく微笑んで、それから前を向いた。  春の爽やかな風のなか、家へ帰った。初めての転校でどうなるかと思ったが、友達ができ、特に変な校則も見つからなかったので、心配は無さそうだ。空を見上げると、桜の花びらの混じった青空が、どこまでも広がっていて、季節の移り変わりを感じた。  春のことだ。   「舞、白の絵の具貸して。」 「おっけー愛佳。」  真っ白なキャンパスに、絵の具の白を重ねる。特に意味は無いかも知れないが、自分の作品はこだわりたい。 「愛佳、カッター持ってたりするかな。」 「あるよ、はい。」  舞にカッターを渡すと、大胆にもキャンパスを切り始めた。思わずギョッとするが、舞は美術部だから、何か考えがあるのだろう。  チャイムが初夏の美術室に響く。冬のときよりも、音に熱が籠っている気がする。個人の感覚だろうから舞に言っても共感はされないだろうが。  舞と共に教室に戻ると、私の席で男子生徒たちが話しをしていた。たしか、前田と栗林だったと思う。 「ごめんちょっとどいてもらえるかな。」  男子生徒たちは驚いた顔で私達を見た。 「丁度よかった。佐野さん、夏休みキャンプいかない。」 「キャンプか、舞も一緒でいいよね。」  男子生徒たちは、しばらくの間話し合うと、またこちらを向いて「もちろん、人数は多い方が楽しいし。」と、言った。  何がもちろんだ、とも思ったが、「予定決まったら連絡してね。」とだけ言って、この場を離れた。  舞と一緒に下校した。男子生徒たちの文句を言うと「気にして無いから大丈夫。」と舞は言った。  相変わらず舞は優しすぎる。ちょっとは怒っても良いのに、とも思ったがやめた。私はこの優しさが大好きなのだった。  夏の透き通った空を見上げた。入道雲はどこまでも高く在り、暑さを吹き飛ばすような風が吹いていた。  舞と馬鹿みたいに騒ぎながら、この空の下で生きていける。そのことが、何よりも幸せだった。  初夏のことだ。    海は、青く、白く、輝いていた。海の深い闇は全ての物には終わりが在るという事を感じさせた。 「全てはこの海に集束する。一つの例外も無く。」  沈黙が辺りを埋め尽くした。小さな風の動きで、沈黙は破られ、舞が、口を開いた。 「え、愛佳、何言ってんの。」 「何ってこの世の真理に気づいたんだよ。」  自慢気に口角を上げる。舞は馬鹿にした様な目でこちらを見ると、一人で海へ歩いて行った。 「あ、ぇあ、ちょっと待ってよ。」  なんとも情け無い声を上げると、私は舞を追って海へ向かった。  足の裏に尖った石が刺さりつつ、それすらも愛しく思えた。 「そういえば、男子共は来てないの。」 「なんか、どっちも風邪引いたらしい。」 「え、まじ。」  誘ってきたくせにこれないとは、男子共の阿保さには呆れるしかない。まあ、舞との時間を邪魔する奴らがいなくなったと思えばいいか。 「そんな事より泳ごうよ。」  舞がそんな事を言ってきた。今日の舞はいつに無くテンションが高い。泳ぐのは好きらしい。普段はテンションが低く、対応が素っ気ないこともしばしばな舞だが、いつもこのテンションならもっと友達が出来るのに、と思った。まぁ、本人に言ったら怒られるだろうし言わないが。  そんなことを言っている私も、今日はハイテンションだ。舞は塾に通っているため、普段はなかなか遊べないのだ。  人気の無い、熱い砂浜を歩いていく。  ペタペタ ペタペタ  足に水気を感じて足元を見ると、砂が波で湿っていた。程なくして波がきて、足に水がかかった。熱くなった足がスーっと冷やされ、また私は海へ一歩進んだ。  くるぶし、足首と、どんどん水に浸かってきた。それにつれて、熱がどんどん奪われていく。  急に世界が傾いた。水面に顔から着き、口から鼻からと、水が入ってきた。  なんとか顔を出すと、そこには舞がいた。顔に陰がかかり、顔はよく見えないが、白い歯がこちらを覗いていた。 「やったな、舞。」  舞の腕を掴み、無理矢理水中に引きずりこむと、思いっきり抱きついた。  辺りには雲がかかり、私たちは影の中だったが、そんなの関係無かった。音も無く、ただ永遠の中に私たちはいた。静かなクラシックが似合いそうだった。  色々ありながらも、夜は訪れた。あれから何と無く気まずくもなったが、夕日でギャーギャー叫んでたら、それもなくなった。  キャンプ場には、私たち以外誰も居なく、一定のリズムで波の音がする以外、音を立てるものは無かった。 「そういえば。」  そういうと、舞はコテージの中に戻り、荷物をあさり始めた。程なくして戻ってくると、何かを持ってきた。 「舞、それなに。」  舞は、ニヤニヤしながらこちらへ近づくと、それを見せつけてきた。 「じゃじゃーん。花火でーす。」 「舞本当にテンション高いね。」  そんなことを言いながらも、突然の花火登場に、私は驚いていた。 「持ってきてたんだ。」 「そりゃ、キャンプと言ったら花火でしょ。海で出来るらしいよ。」  と言うと、舞は海へ走りだした。あまりのテンションの高さに、別人ではとも考えたが、楽しいから考えるのはやめた。  舞を追って、夜の砂浜を歩く。日中とは反対に、砂はひんやりと冷えていた。ここには、小さな流木が沢山あるから注意しなければならない。走っていった舞は、時折「痛っ」などと言いながらも、懲りずに走っている。舞が元気になって良かったと、心の底から思った。  夏休み前、舞は元気が無かった。元々明るいタイプでは、あまり無く、友達の数も、転校生である私と比べても遜色なかった。あくまで推測だが、中学生ならではの悪ノリについて行けず、クラスや学校で浮いてしまったのでは無いか。舞はそういったものを嫌っている。  舞がどう受け取っているのかわからないので、はっきりとは言えないが、舞はいじめの様なものを受けている。  私も辞めさせたいが、はっきりとした現場を見たわけでもなく、全貌が分からない。そもそも、私には何かをする勇気が無い。  だから、今だけでも学校の事を忘れて楽しんでくれていることを願うしか、私にはできない。  舞が持ってきたのはスーパーで売ってるような、手持ち花火だった。夏になったら入り口近くに置いてあるような、大容量のやつ。  炊事場の水道の辺りに置いてあったバケツに水を入れ、砂浜に雑に置くと、中々つかないライターを片手に、私たちは花火を始めた。  赤、緑、青と色を変える花火は、目を輝かせてそれを眺める舞の顔を、激しい光で埋め尽くした。本当に、綺麗だった。  特に何も喋らずにただ淡々と、夜の闇を光で掻き乱し続けた。  時間はあっという間に過ぎていき、残すは線香花火のみとなった。 「実は私、線香花火初めてなんだよね。」  舞がそんなことをいってきた。 「そうなんだ。ちなみに私も初めて。」 「初心者二人なことあるんだ。」  そういうと、二人で笑いだした。 「なんか、線香花火二つくっつけてるの見たことある。」 「そんなことしたら、初心者だからどっちも秒で終わりそう。」  そんなくだらない会話をしながら火をつけた。  線香花火は闇の中、今にも壊れてしまいそうな、儚い美しさで輝いていた。か弱く、けれども力強くそれはあった。  舞は何故か手が震えていて、10秒もたずに落ちてしまっていた。 「あーぁ」  舞はわざとらしいため息を吐くと、優しく微笑んだ。 「こんなに楽しい日は初めてだ。」  そしてこちらを振り向くと、抱きついてきた。私は何と無く「キスしない。」と言うと、舞は私の顔を眺めた。なんともいえない空気が漂っていたから何もせずにいると、突然舞が爆笑し始めた。「愛佳キス魔かよ。」とか言ってきた。私は結構本気だったから、ちょっと傷ついたが、私もまた笑いだした。  夏休みもあっという間に終わり、またいつもの日々がはじまった。  いつものように舞を家まで呼びに行く。学校の方角とは少し違い、遠回りにはなるのだが、たまに寝坊して慌てている舞を見れるので、私はこの時間が好きだった。  それにしても、今日は暑い。汗が身体に纏わりついた様な感じがして非常に気持ち悪い。こんな日は、舞で癒されなければ。無意識のうちに歩幅が大きくなっていた。  青い空に浮かぶ入道雲を眺めていると、なんとなくキャンプを思い出した。「楽しかった」「最高」などの言葉も浮かぶが、それ以上に一生において重要なものになりそうだ、という予感がする。  そんなことをダラダラ考えていると、舞の家に着いた。  インターフォンを躊躇い無く押す。昔は苦手だったこれも、毎日を繰り返すうちに慣れてきた。  待ってもドアは開かない。寝坊しているのだろうか。家からは何も音がしない。そういえば、ここ数日は出張で親が居ないとかいっていた。  インターフォンを音ゲーで鍛えた指で連打する。流石に五月蝿いだろうが、これより遅くなったら流石に遅刻だ。 「舞、起きて。」  何度か繰り返す。最後はもはや叫んでいたが、全く物音はしない。お隣さんが何事かと、玄関を開けて覗いてきた。  これ以上は、私が遅刻になってしまう。仕方なく舞の家を後にして学校にむかった。  退屈な授業中、変わらない空を眺めた。結局舞は学校に来ておらず、学校に連絡も来ていないとのことだった。何かあったのではないか。LINEの既読も付かない。時計を見ても、針はマイペースにしか動かない。  心は焦るが、私には何もできない。穏やかな光が生み出す、教室のコントラストを眺めて息を吐き出した。   「佐野さんちょっと来てもらえるかしら。」 「はぁ、分かりました。」  一刻も早く帰りたいのに、美術係という面倒な役割のせいで私は居残りになった。美術のときに書いた作品を、空き教室から美術準備室に移動させるらしい。何の意味があるのか知らないが、かなり重労働だ。もう一人の男子は、旅行だか何だか知らないが、休んでいる。ふざけんなよ。  そういえば、舞の作品はどうなっているのだろうか。舞は美術部だから、部活の時間も使って描いているはずだ。 「先生、舞..白崎さんの作品ってどれですか。」 「えっと、舞ちゃんね。どこだったっけな。」  先生の後を付いていき、舞の作品を見た。それは抽象画だった。  大胆に丸く切り取られたキャンパスの周りを黒で塗った。言葉で表せばそれだけだった。だがそれは、荒れ狂う感情を切り取り、貼り付けたようで、私は絵が生きている、と感じた。私は舞の作品に圧倒されてしまい、生きているということを忘れてしまいかけていた。それくらい、私には衝撃的だった。 「舞ちゃんの作品、びっくりしたわよね。」 「えぁ、はい。」  先生の発言で、私は現実世界に引き戻された。 「舞って、こんな作品書くんですね。」 「いや、今までは違ったの。細かく丁寧な風景画を描いていて、賞とかも取っていたのよ。今回もそうだと思ってたんだけどね。」  先生は少し空を見上げると、小さく息を吐き出した。  舞は何を感じて、何を思ってこれを描いたのだろうか。私の中の舞が壊れていくのが分かった。     死にかけの蝉たちが、狂った様に叫んでいる。青く透明に感じられた夏が、黒く歪んでいく。壊れていく、私が、全てが。  舞に会いたい。その一心で歩いて、走って、転んで。分からない、分かりたい。何を。ふと立ち止まった。自分が空っぽになっている事が感じられた。怖かった。  舞の家に着いた。何故か、朝には閉まっていた鍵が開いていて、私はゆっくりとドアを引いた。不思議と心は冷静だった。  電気は消えていて、生きた人間の気配は無かった。     確か、舞の部屋は二階だった筈だ。微かな記憶を頼りに、舞の家の中を進んだ。嫌な汗をかいていて、かなり気持ちが悪い。  階段の軋む音が、嫌に五月蝿かった。  舞の部屋に着いた。ドアは、半分開いていて、赤く染まった細長い物が見えた。拾い上げてみると、それはいつか私が貸した、カッターナイフだった。  部屋の中を見た。舞から滴る赤色は美しく、私は見惚れてしまった。  中学二年、晩夏のことだった。

4
2

朝日 1幼少期

 ⚠️内容上読みにくいところがあります。  真下に広がるアスファルトの道路。数十秒後には私もあそこにいるのだろう。無論、そのときの私に「いる」という感覚は無いだろうが。  もう全部お終いだ。  誰からも愛され無かった人生なんてもう懲り懲りだ。  私は、静かに目を閉じた。  走馬灯、だろうか。私の人生がゆっくりとリピートされる。    めのまえにおんなのこがたっていた。ゆなちゃんだ。わたしよりもすこしちいさくて、かわいいおんなのこ。そしてわたしのだいすきなともだち。  おとうさんにきいたんだけど、たいせつなともだちのことを「しんゆう」っていうみたい。  だからわたしはいってみた。 「わたしとゆなちゃんってしんゆうだよね。」  ゆなちゃんはふしぎそうにきいてきた。 「しんゆうってなぁに?」 「しんゆうっていうのはね、たいせつなともだちのことだよ。」 「そうなんだ。それじゃあわたしたちはしんゆうだね。」 「うん!」  そのあとはいろんなことをしてあそんだ。いつもとそんなにかわらないあそびだったけれど、きょうはいつもよりたのしかった。  つぎのひあそんでいたら、やまだせんせいによばれた。やまだせんせいはおっきくて、やさしいおとこのこのせんせいだ。 「美花ちゃん。着いてきてね。」  そのひのせんせいはとてもたのしそうで、くちもとがわらっていた。  せんせいについていったらおとこのこがつかってるトイレについた。 「せんせい、わたしおんなのこだからはいれないよ。」  「大丈夫。僕か着いてるから。ほら、ついてきて。」  やまだせんせいはいまもわらっていたけれど、いつものやさしいわらいかたとはちがって、こわかった。  はじめてはいるおとこのこようのトイレは、へんなものがみっつおいてあった。 「せんせい、これなぁに。」  きいてもせんせいはこたえてくれなかった。せんせいはなにかをしゃべっていたけれど、きこえなかったし、よくわからなかった。 「せんせい、ゆなちゃんのところにもどっていい?」  そういったとき、せんせいがわたしをつよくひっぱって、かべにかこまれているところにはいった。かべといっても、わたしのくびぐらいまでしかないから、わたしたちがいることはすぐにわかる。  せんせいは、わたしのからたをさわってきた。  すごくへんなかんじがした。ふだんさわられてもなにもかんじないのに、すごくからだがあつくかんじた。  ものすごくきもちわるかった。 「せんせい、やめて......。」  せんせいはだまってさわりつづけていた。  そのとき、ドアのほうにゆなちゃんをみつけた。わたしたちはめがあった。ゆなちゃんならたすけてくれる、そうおもっていた。  ゆなちゃんは、わたしとめがあうと、はしっていなくなった。ゆなちゃんはたすけてくれなかった。わたしたちは「しんゆう」なのに。  ゆなちゃんにとってわたしは、「しんゆう」じゃないのかもしれない。  かなしくて、きもちわるくて、わたしはないていた。そしてせかいがくらくなった。  きがついたらおふとんのうえにいた。やまだせんせいはいなかった。 「美花ちゃん、大丈夫かしら。」  ひとがいっぱいいた。だれのことばもききたくなかった。なにもかもがきもちわるくて、わたしはまたないていた。  ゆなちゃんがとおくにいた。ゆなちゃんにとってわたしはたいせつじゃない。それがかなしくて、またないていた。もうぜったいにはなしたくはなかった。  しばらくして、ゆなちゃんはひっこしていった。あれのあと、わたしたちはいちどもはなさなかった。    今から十年ほど前の記憶だ。山田先生に犯された私は、男をそして人間を信じられなくなった。  後から聞いた話しによると、大人達を呼んできてくれたのは優奈ちゃんだったらしい。優奈ちゃんは、ちゃんと私を助けてくれたんだ。それなのに私はお礼の一つも言えなかった。  今思えば、私は優奈ちゃんからたしかに優しさを受けていたのに、気づけなかったのだ。  私って本当にクズだ。

0
0

朝日 プロローグ

 ここから見下ろす街は随分とちっぽけに見える。人間も、人生もここから見ればただの点だ。悩みも、心の闇も何も見えない。世界とはこの程度のものだったのか。自然と笑みが溢れる。  どのみち私はこの世界から消える。それがいつであろうと、何も変わらないはずだ。  空を見上げる。ぽつりぽつりと星が輝いていて夜の闇を照らしている。いつもは気にしない星々の輝きに見惚れてしまいそうになる。どうせもう長くない命だ。最後に星を眺めることぐらい許されるだろう。  右足を踏み出すと身体は大きく傾いた。

0
0