夜と呼吸感覚

 眺めの悪いベランダから、息を吐き出す。この瞬間だけは、世界の一部になれた様に思える。再び息を吐き出す。アザだらけの腕も、痛みを伝えるだけの器官も、夜に溶け出していく。  静まり返った夜を、一台の車が駆け抜ける。どこまでも、静寂を掻き乱していく。  考えてはいけない。考えてはいけない。ただ自分が惨めに思えるだけだ。終わろうか、終わろうか、自分には、そんな勇気も意欲も無いと知っている癖に。  自分がもう死んでいるのでは無いか。時々思う。呼吸を繰り返すたびに生を感じる。呼吸だけが、自分が生きているということを伝えてくる。そんな報告、求めて無いというのに。  どうしようもない人生だな。生きてるのか死んでいるのか分からなくなるたびに息を吸って、消えてしまいたいときは息を吐き出して。  呼吸によって生かされ、呼吸に縋って消滅しようとする私は、どうせこの先も呼吸を繰り返す。  呼吸の度に苦しみ、呼吸の度に生を思い出す。  それが救いなのか、何なのか、分かることは一生無いのだろう。  また、深く息を吸った。夜に暖かく包まれた。
神月二千楓
学生です。黒歴史が大量発生すると思います。暖かく見守ってくれると嬉しいです。 サスペンスが書きたいのですが気力がなくて無理そうです。ペンネームは適当です。