塩田ナナシノ

5 件の小説
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塩田ナナシノ

連載はあまりしません。 物語はフィクションです。 実際の団体・人物とは一切関係ありません。

蒲公英

「ねぇ、おかぁさんこれなぁに?」 「ん?これはね、たんぽぽって言うんだよ。」 「たんぽぽ?なぁに、それ。」 「たんぽぽはね、お花のひとつだよ。チューリップとかひまわりと一緒。だけど、コンクリートとか壁の隙間とかどこでも生えるんだよ。」 「ふ〜ん。すごいね、たんぽぽ!」 4月26日。今日もニュースでは女児失踪事件で持ち切りだ。他にも報道することがあるだろうに。こんなことで必死になる日本は大したこと無いなと思いながら、日本人に反吐がでてゆっくりと溜め息をつく。その日本にしがみついて生きている純日本人の私も甚だしい。ふっと、顔をあげあの子の顔に目を向ける。あの子も笑顔のまま向き返す。動くことのない写真の中で_ 4月15日。友達のリコちゃんと遊びに行ってくるーといって、笑顔で扉を開けた。それが、私が見た最後の姿だった。暫くしてからインターホンが鳴り、出るとリコちゃんだった。「ユズハちゃん居ますか?」と濁りの無い声で訊ねてきた。「どうしたの?ユズはさっき出かけたよ。」と私は何気なく答えた。すると、 「いつまで待ってても来なくて、、、ユズハちゃんいつも時間通りに来るのに。」 「え?」私は思わず聞き返した。もしかして、迷子になっているのかもしれない。それとも、、私は嫌な予感がし、リコちゃんと一緒に公園付近を隈なく探した。しかし、その予感は的中してしまった。 私は今もまだどこかでユズは生きていると信じている。いや、信じていないとやっていけないのだ。本当は私だって分かっている。ユズはもう、、、 急な吐き気を感じトイレに駆け込む。ユズが居なくなってからずっとこの状態が続いている。旦那と別れたときもそうであった。シングルマザーとして見られないようになるべく普通に我が子ともママ友とも接していた。なのに、なんで?なんで神様は私をここまで追い詰めるの?あの子を返して、、、! 昔、大学である西洋の童話を見た覚えがある。その物語の中ではたんぽぽが人喰い植物となっている。理由はたんぽぽの英名にある。その名も<Dandelion>。意味は、《ライオンの歯》。 『4月15日に行方不明となったユズハちゃん(7)歳の靴の片方が発見。近くには蒲公英が咲いている。』 了

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蒲公英

此処じゃない

期待していない訳ではない。それどころか、信頼もしていた。ただ、 「ここじゃない。」 「え?」とぼける谷本を背に俺は、地面に落ちた煙草の吸い殻を踏み消した。 「ここじゃないんだよ。ここはお前の居る場所ではない。」渋い顔をしていたのだろう。俺は、それを察し、慌てて元の顔を作り直す。 「なんでそんなこと言うんですか。酷いですよ、村田さん。」 谷本は、いつもと変わらないおどけ顔で答える。そう、あのときと同じように。 俺たちは、警察官だった。ついこの間まで。 3年前、俺は一回り年下の後輩である谷本と共に張り込みを行っていた。この時代に合わない仕事内容について来れる若者は、数ある後輩の中でも谷本だけだった。 その後、マルヒの家を家宅捜査するよう指示が出たので、マルヒの家のインターホンを押した。何度か押したが返事はない。車に戻ろうとした次の瞬間、隣にいた谷本が倒れ込んだ。よく見ると下腹部の辺りが紅く染まっている。刺されたのだ。それも、この家の主人であるマルヒだった。俺は、ただ無我夢中でマルヒを押さえ込み逮捕に追いやった。上層部達からは、表彰された。「よく、感情に左右されず犯人を捕まえた。」と。 しかし、俺はそんな自分の判断を恨んだ。酷く憎んだ。俺は、後輩を殉職させてまで表彰されたかったのか。あのとき、すぐに救急車を呼べば、谷本は助かったのではないか。そんな気持ちが頭の中を掠め、ぐちゃぐちゃに混ざる。やがて、爆ぜる勇気もないまま、消えてなくなる。 葬式には、行かなかった。いや、行けなかったのだ。谷本には勿論、谷本の親族に合わせる顔がなかった。結局、日々増えるのは後悔と煙草の吸い殻だけだった。 あれから、もう3年が過ぎようとしていたある日。業務がやっと終わり、疲労困憊のまま帰宅する途中だった。ひとつのサッカーボールが目の前を通り過ぎた。そのボールが道路に飛び出し、続いて男の子が道路に飛び出した。トラックが来る。血の気が引いた。気が付いた時にはもう体は動いていた。サッカーボールを蹴飛ばし、男の子を近くの芝生に放り投げた。プァーーーというクラクションが最後に聴いた音だった。 目を覚ますと、全体が樹木に囲まれていた。森? 奥に進むといきなり道が開け、奥に橋が見える。横に立っているのは、渡り守か。さらに、進む。もしかしてこれが、三途の川なのか、、? ん? まさかの再会だった。目の前にいたのは、紛れもない俺の後輩、谷本であった。 「谷本?」俺は感動と驚きと少しの困惑を含んだ声色で訊ねた。 「村田さん!やっと会えた、、。ずっとここで村田さんを待ってたんですよ!」「ちょっと、待って、、」状況を整理する。 ここは、三途の川。そして、目の前にはそれを渡る橋がある。その渡り守に、谷本。 なるほど、こいつならやりかねない。 「いや、また会えて嬉しいよ。もう、二度と逢えないと思っていた。」自然と眼から大粒の雫が溢れる。溢れる。 「そうだ。お前に会ったら、伝えたいことがあったんだ。」そうだ、そうなんだ。 「なんですか?」昔と変わらず明るく、自然と人を魅了させる声だ。 「あの、、えっと、コホン。すまん。本当に申し訳なかった。俺のせいでお前は、」 「違いますよ。」 「それは、違います。俺が死んだのは、村田さんのせいじゃない。本当に村田さんは、正しい判断をしてくれました。」 いや、と言いかけるも谷本が続ける。 「俺、あいつと面識あったんですよ。高校の同級生で、正直言って俺に金を借りてました。それで、最近、連絡したらもう返せないって来たんで、ムカついて責め立てたんです。金借りてる分際で偉そうなこと言ってんじゃねーぞ。って。それで、この結果です。本当に村田さんにはご心配お掛けしました。こちらこそ、すみませんでした。」 頭を下げる谷本の胸ぐらを掴もうとした。俺がどれだけ悩んで、自分を憎んだか。それが、自分のいざこざ?知るかよ!ふざけんな! だが、胸ぐらを掴む前に谷本は溶けて消えた。 これで、悔いはない。やっと成仏できる。  了

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此処じゃない

水晶の成る木

 青森県弘前市では、りんごの収穫量が日本一である。また、山梨県笛吹市では、ももの収穫量が日本一である。さらに、山口県下関市では、水晶の収穫量が日本一である。  天正三年、織田信長が長篠の戦いでオランダから伝わった鉄砲を使用する半年前、実はこのミズキリノハシ、通称《水晶の樹》に成る水晶玉をひっそりと獲っていき、戦の行方を確認していたという噂がある。そんな樹が今、僕の目の前に堂々と聳え立っている。まるで、神が鎮座しているかのように。  ミズキリノハシ、通称《水晶の樹》。僕が幼い頃にお祖父ちゃんに聞いた話がある。 「この町には、水晶の樹という水晶玉が成っている樹があるんじゃ。その樹はここ以外にあと二箇所あるんだが、その一つに織田信長が訪れたという噂があるんだぞ。あと、その樹に成っている水晶を覗くと今自分がしなければならないことが視えてくるんじゃ。明慶、もしお前が将来先が視えずに困ったときは、その樹を訪れると良い。お前の助けになってくれるわい。」  そう教えてくれたお祖父ちゃんは、先月この家を遺してこの世を旅立った。僕の大好きなお祖父ちゃん。僕は涙を拭い、家を出た。下関に広がる海には今日も河豚の収穫で賑わっている。それを横目に僕は紙に書いてある地図を頼りに山奥へと進む。インターネットでは水晶の樹について少し話題にはなっているが、殆どデマ情報が多い。そんなことを考えているとネットニュースの通知が鳴った。「東京新宿区在住の三十五歳男性、今日未明、行方不明」と書いてあった。都会は色々と物騒だなと心の隅っこで思っていると急に森を抜けた。辺り一面芝生が広がっているが、人工芝ではなさそうだ。疑いながらさらに奥に進むと、あった。水晶の樹だ。  天正三年、織田信長が水晶の樹に成る水晶玉をひっそりと獲っていき、戦の行方を確認していたという噂がある。そんな樹が今、僕の目の前に堂々と聳え立っている。まるで、神が鎮座しているかのように。 暫く見惚れていると後ろから誰かが肩を叩いた。驚き、振り向くと、必死に背伸びをしたこども?いや、顔は、どうみても・・・ 「あのー、どなたですか?」勇気を出して尋ねる。 「あ、どーも、私この樹の管理人をしている河豚です。」「河豚?なんで。」いや、確かに顔は河豚だ。僅かにトゲもある。しかし、二足歩行の河豚を僕は見たことがない。さらに、この樹の管理人だなんて、もう訳が分からない。その状況が分かったのか河豚は自ら説明をした。 「えー、この樹はですね、あまりにも特別な樹であるため管理人はその土地の特産物が管理しているのです。その代表だけが擬人化され、管理人として働いています。訳分からないですよね〜。」河豚が目の前で頭を掻く。 「いや、はい。確かにお祖父ちゃんがそんなこと言ってた気がします。」僕は深呼吸をし、頭を整理した。「お祖父ちゃん、ということはつまり義信さんのお孫さんの明慶さんですね!お待ちしておりました。いや〜、お祖父様には大変お世話になりまして、というのも私がまだ管理人になりたてのときに、ちょうどここが散歩道だったお祖父様に色々教えていただいたのです。そうだ、明慶様に渡したいものがありまして、今取ってきます。」そう言い、河豚は近くの小屋へ駆け出した。 お祖父ちゃん、本当に誰にでも優しかったんだな。少しして、河豚が戻ってくると一枚の手紙を僕によこした。これは?、僕が尋ねる前に「お祖父様が明慶様に出逢ったら、渡してほしいと。」お祖父ちゃんから?封を切り、恐る恐る手紙を開いた。 「お前らしく、居ろ」  手紙には既視感のある字で大きくそう書かれていた。お祖父ちゃん・・・僕は目の前が霞んだ。水晶玉なんかより、誰かの格言より、ずっと見守ってくれている人がいるだけで誰よりも強くなれる。

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水晶の成る木

前日譚

先月、インターネットで都市伝説を発信しているサイトを漁っていると、「山口県下関市の山奥に、何百年も前から水晶の樹があるらしい」という書き込みを見つけた。気になり、他のサイトでも水晶の樹を調べていると、水晶の樹は〈ミズキリノハシ〉というスギ科の一種であることが分かった。そして、下関市だけでなく日本の数ヶ所に実在していて、昔は全国に百本以上も生えていたが、都市開発や管理人の高齢化などの理由で今はほんの三本しか無いのだという。その樹がある場所が、愛知県新城市、山口県下関市、そして、東京都新宿区。新宿は俺の家がある場所。ここなら・・俺は急いで携帯電話と鞄そして大きめの紙袋を持って家を出た。これで、一攫千金を狙える!もう贅沢はできないと思っていた。自分より年下の奴から見下され、「駄目な奴」だと散々罵られてきたが、これであいつらを見返せる!この水晶玉を売れば!!・・・  日が暮れるまで、サイトにかかれてある場所とその周辺を呆れるほど探し回ったが、結局見つからず俺はその場で項垂れた。そして、あることに気付き嗄れた声で叫んだ。「ここは、どこだ。」  アレは…… 信長?

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前日譚

罪の枷

夜中三時、私はいつもの工程に移る。細いクリップをシリンダーに挿し、そっとドアノブを回す。 今日1日中偵察し、この部屋に住人が居ないのは確かだ。部屋の明かりが一切点いていない。 さらに、他の同業者もよく狙っているようで、ご丁寧にマーキングがそこら中に記されてある。 冷たくなった手を擦り合わせながら、ドアの間に体を滑り込ませる。相変わらず寒いが、その代わり日が暮れる時間帯が早まるのは、我々空き巣にとっては好都合だ。そして、今日は十二月二十五日。そう巷ではクリスマスで賑わっている。高校時代、地元では有名な会社のお嬢さんで私が通っていた学校で一番人気かつお金持ちな生徒がいた。そんな彼女がクリスマスになるといつも周囲の女子と燥いでいたのを横目に「私とは真逆だな」と思っていた記憶がある。 ふぅと一息つき、この世の中で一番安いであろう暗視鏡を眼に近づける。すると、すぐに目に飛び込んできたのは金銀財宝!ではなく、真っ黒なゴミ袋の塊だった。まぁ、仕方ない。外見からして誰が見ても綺麗とは言えないようなアパートだ。億万長者が住んでいるとはどうも思えないし、床も軋む音が絶えない。しかし、こんな場所ほどブランド物の時計等が大事そうに置かれていることがある。小さくて高級な物、それを狙うために態々こんな寒い中足を運んできたのだ。 暫くゴミを無心で眺めていると、一部がのそりと蠢いた。それに驚き、私は暗視鏡を音を立てて落としてしまった。その音に驚いたのか、ゴミ袋に埋もれている "ナニか"もビクッと身体を震わせて縮こまった。そのまま動かないので、死んだか?と思いゴミ袋にそっと近づく。ゴミ袋が足元までの距離に着くとひとつだけ小刻みに震えているものがある。それは、先程くナニかが居た場所だ。恐る恐る触れてみると、人間の感触だ。 生暖かくまだ震えている。「お前は、誰だ。」 <今日午後十八時頃、長野県飯田市で十七歳の女子高校生が失踪しました。失踪したのは、、> 「その手を離せ。」か細く震えた声で我に返り、素早く手を離した。「これは人だったのか。」その結論に至ったのは、薄暗い明かりの中だった。 目の前でソレは突然のそりと起き上がった。私は驚き、後ろに仰け反ったがすぐ真後ろに壁があることを知らずに私は頭部を強く打った。それと同時にパチという音が聞こえ天井の照明器具が明かりを灯した。とても弱く小さい光を。その人は女性であった。その光に目の前の彼女は眼を眩ませた。よほど、光に慣れていなかったのだろう。そんなことより、私の姿が見られたからには仕方がない。彼女が眼を瞑っている間に私は何も取らずに逃げようと試みた。だが、後ろからまたか細い声が聞こえた。今度は震えていなかった。 「もしかして、か、奏さん?」突然、私の名前を呼ばれ身震いを覚えた。何故、知っている?一度深呼吸をし、覚悟を決めて振り返る。そこには確かに見覚えのある顔がぼんやりと照明器具に照らされ、浮かんでいた。 二年前、長野県飯田市で当時十七歳の女子高校生が姿を消した。その子の親は、必死に協力を呼びかけ、彼女の帰りを祈った。そして多分今も。その女子の名は、四畑美月。私の同級生で株式会社クランプの令嬢だ。 「美月ちゃん?」私は、驚きを隠せないでいた。高校生のときは、まるで豪華絢爛の言葉に相応しい人だった。なのに、なぜ?今はどう考えても、、 苦しい。胸が、心臓が苦しい。ポツポツと体中に鳥肌が立つ。確実に怖気付いている。夜なんて今まで怖くなかった。警察に見つかっても、間違えて輩の家に忍び込んだときも目を逸らすことさえ、しなかった。「大丈夫?」彼女が私に向けて手を伸ばす。どうやら、私は床に座り込んでいたらしい。 「来るな!」咄嗟に叫んでしまった。虐められていた訳では無い。寧ろ、あの屍のような私に話しかけてくれた。多分、悔しいのだろう。彼女には、あのまま、日の光を浴びて生きていてほしかった。 私は、自分を酷く憎んだ。あの日、父に手を貸してしまった私を。まさかこんなことになるなんて、思いもしなかった。 2年前、父からある相談を受けた。「同級生の美月ちゃんを家に連れてきてほしい。」と。父は、クランプの一社員だった。過去形なのは、今はもう違うからだ。リストラ。その言葉で括れる程単純なものではないが、世間からはそう思われるだろう。当時母が病気で倒れた。その後、膵臓癌だと診断されたが見つかったときには、もう手遅れだった。その都合で父は会社を早退し、母の看護に専念した。「それが引き金になった」と私はそう思っている。その考えは父も同じであった。だから、彼女を誘拐した。彼女の親に大切な家族を失うことの絶望を味わって欲しかったのだろう。 今でも、あの景色が鮮明に脳裏に浮かぶ。彼女に睡眠薬を飲ませ、父の軽トラに乗せ、「家の鍵閉めとけ」と 雨上がり父が私に投げ上げる光まみれの鍵の凹凸🔑

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罪の枷