此処じゃない
期待していない訳ではない。それどころか、信頼もしていた。ただ、
「ここじゃない。」
「え?」とぼける谷本を背に俺は、地面に落ちた煙草の吸い殻を踏み消した。
「ここじゃないんだよ。ここはお前の居る場所ではない。」渋い顔をしていたのだろう。俺は、それを察し、慌てて元の顔を作り直す。
「なんでそんなこと言うんですか。酷いですよ、村田さん。」
谷本は、いつもと変わらないおどけ顔で答える。そう、あのときと同じように。
俺たちは、警察官だった。ついこの間まで。
3年前、俺は一回り年下の後輩である谷本と共に張り込みを行っていた。この時代に合わない仕事内容について来れる若者は、数ある後輩の中でも谷本だけだった。
その後、マルヒの家を家宅捜査するよう指示が出たので、マルヒの家のインターホンを押した。何度か押したが返事はない。車に戻ろうとした次の瞬間、隣にいた谷本が倒れ込んだ。よく見ると下腹部の辺りが紅く染まっている。刺されたのだ。それも、この家の主人であるマルヒだった。俺は、ただ無我夢中でマルヒを押さえ込み逮捕に追いやった。上層部達からは、表彰された。「よく、感情に左右されず犯人を捕まえた。」と。
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カテゴリー: その他
投稿日時: 2025/6/8 6:19
塩田ナナシノ
連載はあまりしません。
物語はフィクションです。
実際の団体・人物とは一切関係ありません。