水晶の成る木

水晶の成る木
 青森県弘前市では、りんごの収穫量が日本一である。また、山梨県笛吹市では、ももの収穫量が日本一である。さらに、山口県下関市では、水晶の収穫量が日本一である。  天正三年、織田信長が長篠の戦いでオランダから伝わった鉄砲を使用する半年前、実はこのミズキリノハシ、通称《水晶の樹》に成る水晶玉をひっそりと獲っていき、戦の行方を確認していたという噂がある。そんな樹が今、僕の目の前に堂々と聳え立っている。まるで、神が鎮座しているかのように。  ミズキリノハシ、通称《水晶の樹》。僕が幼い頃にお祖父ちゃんに聞いた話がある。 「この町には、水晶の樹という水晶玉が成っている樹があるんじゃ。その樹はここ以外にあと二箇所あるんだが、その一つに織田信長が訪れたという噂があるんだぞ。あと、その樹に成っている水晶を覗くと今自分がしなければならないことが視えてくるんじゃ。明慶、もしお前が将来先が視えずに困ったときは、その樹を訪れると良い。お前の助けになってくれるわい。」  そう教えてくれたお祖父ちゃんは、先月この家を遺してこの世を旅立った。僕の大好きなお祖父ちゃん。僕は涙を拭い、家を出た。下関に広がる海には今日も河豚の収穫で賑わっている。それを横目に僕は紙に書いてある地図を頼りに山奥へと進む。インターネットでは水晶の樹について少し話題にはなっているが、殆どデマ情報が多い。そんなことを考えているとネットニュースの通知が鳴った。「東京新宿区在住の三十五歳男性、今日未明、行方不明」と書いてあった。都会は色々と物騒だなと心の隅っこで思っていると急に森を抜けた。辺り一面芝生が広がっているが、人工芝ではなさそうだ。疑いながらさらに奥に進むと、あった。水晶の樹だ。  天正三年、織田信長が水晶の樹に成る水晶玉をひっそりと獲っていき、戦の行方を確認していたという噂がある。そんな樹が今、僕の目の前に堂々と聳え立っている。まるで、神が鎮座しているかのように。 暫く見惚れていると後ろから誰かが肩を叩いた。驚き、振り向くと、必死に背伸びをしたこども?いや、顔は、どうみても・・・ 「あのー、どなたですか?」勇気を出して尋ねる。 「あ、どーも、私この樹の管理人をしている河豚です。」「河豚?なんで。」いや、確かに顔は河豚だ。僅かにトゲもある。しかし、二足歩行の河豚を僕は見たことがない。さらに、この樹の管理人だなんて、もう訳が分からない。その状況が分かったのか河豚は自ら説明をした。 「えー、この樹はですね、あまりにも特別な樹であるため管理人はその土地の特産物が管理しているのです。その代表だけが擬人化され、管理人として働いています。訳分からないですよね〜。」河豚が目の前で頭を掻く。 「いや、はい。確かにお祖父ちゃんがそんなこと言ってた気がします。」僕は深呼吸をし、頭を整理した。「お祖父ちゃん、ということはつまり義信さんのお孫さんの明慶さんですね!お待ちしておりました。いや〜、お祖父様には大変お世話になりまして、というのも私がまだ管理人になりたてのときに、ちょうどここが散歩道だったお祖父様に色々教えていただいたのです。そうだ、明慶様に渡したいものがありまして、今取ってきます。」そう言い、河豚は近くの小屋へ駆け出した。
塩田ナナシノ
塩田ナナシノ
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