第7回N1 シラナイカコ

第7回N1  シラナイカコ
「センソウ」という言葉をたずねると両親は口を噤む。 2045年、「シャカイカ」という教科が全国の教育科目から廃止されてから10年が経った。また、この世界の「レキシ」について触れることは刑罰対象となった。よって、大人は己の「ブユウデン」は以ての外、これまでの世界の出来事については語らず、メディアが発達している今でも流出されていない。 一方で僕たちがこの様に「ニホンゴ」が話せ、何不自由なく過ごせているのは、生成AI教育機関の導入によるものである。 EYEメディアでは、自分好みの情報を生成AIが判断し取り揃えて、起床時と共に提供される。今日も瞼の裏で流れる「あにめ」を眺めながら、純白の「オサラ」の上に提供された「さぷりめんと」を頬張る。今年6歳となる僕はさぷりめんとがひとつ増えることとなった。 朝食を終え、「ベンキョウヅクエ」の前に腰掛け「オベンキョウすうぃっち」を押すと、直前迄流れていた騒がしい「あにめ」が止み各教科の「こらむ」が表示される。いつもはその中から自動で選択された「こらむ」に取り組むのだが、今日は自動選択はなく、代わりに「センソウ」という「こらむ」が一瞬表示された。一瞬というのは、その「こらむ」に手を伸ばすと「アワ」のように消えてしまったからである。 その晩、食事の中の“カイワジカン”中に父と母に今日表示された「センソウ」という言葉についてうかがってみた。しかし先程まで賑やかだった「ショクタク」は静まり返り、父と母は「センソウ」について何も教えてくれなかった。 その後もお爺ちゃんやお婆ちゃん、「キンジョ」のオバさん、「ヘイタイサン」というこの街を守ってくれている人に聞いても皆、口を噤み眼を逸らすだけだった。誰も頼りにならない為、AIにもうかがってみた。しかし、解答はそれと同じであった。
塩田ナナシノ
塩田ナナシノ
連載はあまりしません。 全ての物語はフィクションです。 実際の団体・人物とは一切関係ありません。