歩道橋

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歩道橋

しがない歩道橋です。通られる際に、眼下の作品を見ていってくだされば、と。

文学は人は救わない。 流れた血を止めることはできない。 青アザを冷やせるわけでもない。 人々の心を勇気づけることができる。 心を救うことができる。 生きる活力になる。 それが人を救うと断言できるか。 文学は食えぬ。 文学で眠れぬ。 文学で子は成せぬ。 それでも救われてきたと人々は口を揃える。 文学への盲信。 文学を具象化した本など。 開かなければただのガラクタに成り下がる。 簡単に通り過ぎられる。 雨のように。 存在するだけで、享受できるものではなかろうに。 ひとたび、みなに問おう。 なぜお主らは足を止めた。 なぜガラクタの蓋を開けて、救われている。 文字という風を追いかけ、 舞い上がる木の葉の渦に巻かれ、 頬を濡らすのはなぜだ。 そこにパンがあるだろう。 なぜ、ガラクタを手に取る。 そこに「普通」があるだろう。 なぜ、ガラクタを手に取る。 そこに、逃げ道があるだろう。 なぜ、ガラクタに時間をさく。 人間というのは、どうしてみな自分を生かさないものに人生をかけるのだ。なぜ、誰かを救う確証もない中、遺していく。 分からぬ。分からぬ。 なぜだ。 なぜ、あの子はお前のような陽炎を。 尽きぬ蝋燭に灯し続ける、その炎は。 誰の命だ。

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蝋

檸檬幻聴

繰り返す。      繰り返す。           雲をしぼる。                 雨粒が落ちる。                掌のうえで、鳴き止ませた蝉と お前のゆくえ。 砂浜では、ひとり歩き。 砂が降った音と、 日傘の軋んだ音すら聞き分けないこの耳。 それは、 訝しげに首を傾けるひとがいないということ。 一匹だけ、間引いても、 幻聴が消えるわけではあるまいに。 砂浜近くの街路を進む。 洒落込んだ庭の、檸檬。 取って、食おうとするとまた幻聴が聴こえる。 朽ちて、食え。 朽ちて、食え。 ひひひ、と嗤う声が聴こえる。 お前の腹など満たしてやらぬと、 朽ちて、食え。 朽ちて、食え。 まるで詩の一節のやうと微笑うお前の顔が浮かぶ。 幻聴でお前が甦るのなら、 それでよいと私は呑み込む。 檸檬よ、意地の悪い檸檬。 ここおらぬ人のスカーフの色よ。

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檸檬幻聴