ラニーセリョッタ

ラニーセリョッタ
それは夏が息を潜めるころ、秋の初めのことでした。  大きな崖の下に小さな家がありました。その小さな家に一人の旅人と小さな男の子が訪ねてきたのです。その家には夫を亡くした女性が独り住んでおりました。彼女は特別な楽器をつくる職人で、王さまから、一つ何か楽器をつくるようにと頼まれていました。彼女の家の玄関は、透明ではありますが家の中は何一つとして見せないというなんとも不思議な膜に覆われていました。ノックなどは到底できないように思われたので、旅人は、夜だと承知しながらも少し大きな声で彼女の名前を呼びました。何しろ彼女の家は崖の下にありましたから、お隣さんとは、ほんの歩いて一日かかるほどの遠さで、多少大きな声を出しても彼女以外に迷惑のかかる人はいないのでした。  「誰さ、こんな夜更けに」 玄関の膜がまるでカーテンのように、開きました。  「私だよ、オーチェヌ」 旅人は、答えました。  「あんたか。これまたどうして」 旅人は自分の後ろにいた男の子を優しく押し出して言いました。  「この子を頼みたくて」 オーチェヌと呼ばれた女性は大きく目を開きました。
歩道橋
歩道橋
しがない歩道橋です。通られる際に、眼下の作品を見ていってくだされば、と。