N's

18 件の小説
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はじめまして。よろしくお願いします。 書いたヤツそのまま投稿したものが多いので支離滅裂かもしれません笑

変われぬ。変われぬ。

画面を眺める。五体満足でありながら、指先だけを動かす。目は画面の光を反射し、輝いて見える。 重厚なヘッドホン、ブルーライトカットのメガネ。 汚い部屋に似つかわしくない、無駄に座り心地の良いゲーミングチェア。 背中には暗闇が広がる。部屋の明かりは、目の前の画面だけ。 「…………。」 部屋は無音。私の耳周りだけがBGMと敵を蹴散らす音で溢れかえる。 一段落終え、掛け時計に目を向ける。画面の中に正確な時計があるが、疲れ目を癒すために目を逸らす。 二十三時。晩御飯の時間だ。 ギシリと音を立てながら椅子から降り、物音を立てず扉を開ける。 床に用意されたものを拾い上げ、扉を閉じる。私の好物。チーズの乗ったお好み焼きだ。かといって心は動かない。 暗い部屋。一時間以上もかけてそれを食す。 顎が疲れた。半分を食べ終えたところで私はそれを扉の外に置く。 そして三十分、頭を動かす。 「………ぅ……ぅぅ………。」 私の境遇を嘆く。私を貶めた世界を憎む。親の愛を貪る私を恥じる。 「…………。」 泣き止むと、次の仕事だ。 再び扉を開ける。するとそこには温められた濡れタオルと、綺麗に畳まれた着替えが置いてある。 しばらくするとタオルが冷めてしまう。なのでこの仕事だけは、時間をキッチリ守り続けている。 「…………。」 今日の仕事はあと一つ。親が寝た後、用を足すため部屋を出る。一番の難関だ。昼間は親が仕事に出ているため問題ない。しかし夜は、間違えば親と鉢合わせる可能性がある。顔を合わせれば、私の今後について聞かれるに決まっている。その話題が何より苦痛なのだ。 「…………。」 今日も、親と鉢合わせることは無かった。部屋に戻り、肩をなでおろす。 「ハァ……。」 今日の私の仕事は終わりだ。再び私は椅子に座り、画面と向き合うのだ。

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田川とエアコン

「エアコンについて話すか。」 「は?」 隠れ家のようにひっそりと佇む喫茶店。いつものように西日が届かない席に座り、男が二人話している。 田川が急に話題を変えてきた。今までワンピ○スの今後の展開を話していたではないか。 「エアコン?何だ急に。」 一つ前の話題が盛り上がっていた最中の提案に俺は多少なりムカついていた。 「エアコンは大切に使ってるかって話だよ。」 心底どうでも良い。動けば良い。壊れたら取り替える。それだけだ。 「話すことなんてないだろう。一人暮らしの方も、実家の方も俺の部屋のエアコンはちゃんと動いてるよ。」 「そりゃそうだろう。壊れたらすぐに取り替えないと死活問題だからな。壊れてるエアコンありまーすとか言われたらそれこそびっくりするぜ。」 「じゃあこの話終わりな。さっきの話に戻るけどやっぱりヤマーー」 「掃除!してるか?」 今日の話の中心はそこか。俺は耳を傾けざるを得なかった。 「……してない。」 「フィルターも?」 「ああそうだ。」 それを聞いた田川が背もたれに全体重をかける。面食らったような顔をするのが上手い。 「お前……まあ一人暮らしの方はまだ良いかもしれねぇけど、おま、実家の方はやべーだろ。」 「そんなに深刻そうな顔をするな。不安になるだろ。」 「いやいや、親に掃除してもらったりもしてない……の?」 田川が信じられないものを見る顔をしている。それ程深刻なことだろうか。 「親は部屋に入らないように言ってある。掃除もしてないだろう。」 「お前明日休みだろ?掃除しろ掃除。いや、業者呼んだ方が良い。」 「業者?そこまでするか?」 「だってお前、エアコン何年掃除してないんだ?」 「えっと……十年以上は。」 「…………。」 天を仰ぐ田川。数秒そのまま静止したあとポツリ。 「Jesus……」 と、やけに流暢に嘆いた。 「なんなんだよ。」 イマイチ田川の主張がわからない俺は、戸惑うばかり。 「明日、実家に帰ったらまず最初にエアコンの中身を見ろ。あ、ちゃんとマスクしてからな。」 「お、おう。」 ここまでオーバーリアクションをされたのだ。先程からエアコンの中身が気になっている。 「そんで事の重大さを理解してから、どこでも良いから業者呼べ。」 「金かかるから嫌だな。」 「そんなこと言ってる場合じゃねぇんだよこの大ウスノロ大魔王!!」 “大”が二つ付いたことに頭の中で笑う。 その後もヒートアップした田川から説教をされ、一時間後ようやく開放された。 次の日、癪に障りながらも、田川から言われたように実家の自室のエアコンを開けてみた。 俺はすぐさま近くの業者に電話をかけるのだった。

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田川と殺虫剤

「殺虫剤について話すか。」 「は?」 隠れ家のようにひっそりと佇む喫茶店。いつものように西日が届かない席に座り、男が二人話している。 田川が急に話題を変えてきた。今まで刃○の良さを話していたではないか。 「何だ急に。」 話を遮られたのもあり、俺は不満げに聞く。 「いやぁ、昨日親と話してたことを思い出してな。お前とも話そうと思ってたんだ。」 「あっそ。で何、殺虫剤がどうしたって。」 一人暮らしをする俺たちにとって害虫対策は必須だった。○牙の事は忘れ、そちらに興味を向ける。 「お前、殺虫剤って家に何種類置いてる?」 「何種類?えーっと、ゴキ用とハエ用くらいか。」 「えっ!!二つ?」 大層驚かれた。そんなものではないのか。 「なら田川はどうなんだよ」 「え?ゴキ用が三種類、ハエ用が二種類、ムカデ……」 「ま、まてまて、ゴキ用が三種類ってなんだハエも二種類だって?」 「ああそうだよ。キャップタイプ、無煙タイプ、スプレータイプ。」 「そんな持っておく必要あるか?」 「あるある!俺の部屋山近いからさ!対策してないとアホほど入ってくるんだよ。アパートも古いし。」 「へーぇ、知らねぇ世界だわ。」 「お前ん家……恵まれてんな。」 「そうでもねぇぞ。線路真横で朝とかうるさいし。」 「今電車の話はしてねぇんだよ!!」 急に怒鳴られた。他の客はいないが、店員がこっちを眺めている。 「ごめんて。怒鳴るなうるさい。」 「殺虫剤っつったろ。お前、キャップタイプは置いてた方が良いぞ。マジで。」 「そんなもんか?まだ見たことねぇけど。」 「お前引っ越して半年だろ?これからだよ。ちゃんと掃除しろよ?」 「へーへー。」 田川の口調が説教臭くなったので、面倒になってきた。 「じゃあもう帰るか。洗濯機回さねぇと。」 「わかった!じゃあ俺が良い殺虫剤教えてやるから、今から薬局行くぞ。」 「話聞いてたか。もう帰るんだよ。」 「帰りしなに薬局あるだろー?時間取らせねぇからさ!」 どうせ薬局に着くなり虫の話が止まらないだろう。 「絶対嘘だろ。時間食うの知ってんだよ。」 「じゃあ明日買ってきてあげる。」 なぜ虫のこととなるとここまで食い下がるのだろう。 「わかったわかった!無駄なもん買ってこられても困る。三十分だけだぞ。」 「オッケー!任せろ!」 不安だ。早く帰りたいのに一時間はかかりそうだ。 その晩、田川に渡されたムカデ用殺虫剤が早くも英雄になった。

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今生

命は何にも変えることができないできない。賠償金?それがなんだ。金を積めば命が舞い戻ると言うのだろうか。 連日の報道。どのチャンネルも同じ。動画サイトを開いても、それを取り上げる活動者ばかり。それほど世界に衝撃を与えた事件だったのだろう。 家の前が騒がしい。あれほど来ないでくれと言ったのに、デカいレンズが家を凝視する。 「パパ、、もういや……。」 精神をすり減らした妻。泣けど泣けど涙が止まらず、その雫で心の蝋燭を消してしまいそうだ。 「シズコ……。」 私は酷い人間だ。子を亡くした悲しみより、犯人への怒り、憤りしか覚えない。 犯人と対面した際、どうしてやろう。首を絞めてやろう。忍ばせた包丁で刺し殺してやろう。いくらでも妄想できる。しかし妄想する度に、虚しさだけが残る。 妻の肩を抱き寄せる。私と触れていると余計に涙を流させてしまう。脱水にならないか、本気で心配になるほど。 私達の部屋は暗く、蒸し暑い。電気もエアコンも付ける気にならない。カーテンの奥で蠢く人影に吐き気を催す。 「シズコ、僕は……。」 妻と話す時の一人称は“僕”だ。以前は“私”を使っていたが、妻に変だと言われ、それ以降変えようと努めた。 「メディアの前に立とうと思う。」 「えっ。」 驚くのも無理はない。頑なに報道陣から逃げていた毎日。いつ終わるかも分からないストーカー。こんな二次災害で精神を病むのであれば、いっそ片付けてその後ゆっくり墓の前に立ちたい。 「僕は大丈夫だ。シズコがこれ以上傷付くよりはよっぽどマシだ。」 「でも、でも絶対パパが傷付く……。」 メディアの悪質さは一日目で理解している。傷に塩を塗り込む、悪の所業。当時の私はその非道さに面食らい、暴れた。すぐに取り押さえられたが。 「大丈夫だ。それにこのままだと、レイカとスズとリンコがゆっくり休めないだろう。パパとして当然の義務だ。」 そう答えた途端、カーテンの奥がやけに騒がしくなった。まるでメジャーリーガーの大スターでも現れたような。 “ドンドンドンドン” ドアをノックされた。なんだ、マスコミは私達が出てくるのを待っているだけではなかったのか。 妻が耳を塞ぐ。その仕草を見た私は連中に憤慨した。いい加減にしろ。 玄関に走った。狭い廊下だ。あちこちぶつけながら玄関に辿り着き、ガチャガチャと鍵とチェーンを開け、 怒鳴る。 「なんだお前ら!!我が子を殺された経験もないド素人が!!!帰って家族の有難みでも噛み締めてろ!!!!」 「タツヤさん。お気持ち、痛いほど理解します。」 「なっ?!」 警察。その声に安心さえ覚える。事件発生当時、私達夫婦の傍を離れなかった人だ。私達と共に号泣し、怒った。50代の男性。名をユウキと言った。 そして、ユウキもまた、過去に子を亡くしている。居眠り運転の被害に遭ったという。 「ユウキさん……どうしたんですか。」 「……。」 その険しい顔をこの件で何度か見た。正義感の強さを語る目。固く結んだ口。 「タツヤさん。」 「は、はい。」 後から気付いたが、この時私は騒ぎ立てるマスコミの存在を忘れていた。 「心して聞いてください。」 「……?」 「覚悟して、聞いてください。」 「は、はい。」 念を押すユウキに、少したじろぐ。 一呼吸置き、ユウキが伝える。 「犯人が捕まりました。」 全身の毛が逆立った。気付いた時には、ユウキに飛び掛っていた。ユウキは地面に押し倒され、頭を打った。 「タツヤさん!貴方はパパです。ここで理性を欠いてはいけない。」 地面に衝突したことをものともせず(我慢をしていたのだろうか)、ユウキが真っ直ぐ私を見つめる。 すぐにハッとした。 「あ、ああ、す、すみません、すみません……。」 ユウキに縋るように謝る。 しかし警察とは凄まじいものだ。証拠不十分であり、犯人逮捕が絶望的だと判断されたこの事件を解決するとは。 「なぜ犯人が分かったのですか……。」 まず警察に対する感謝を述べるべきだと後から思った。 「犯人が、自ら出頭したのです。」 「……は。」 「それも、大量の証拠品を持参の上です。」 「証拠品……?」 「娘さん達の……。……無惨な写真を。」 「……!!」 ユウキの服を強く握り締め、膝を着く。 「ご両親に、少なくとも貴方に見ていただく必要があります。……今日はその件でお邪魔しました。」 何を言っているんだ。そんなもの、存在するというだけでも耐えられない。それを見るだと。 「ふざけるなよ……。」 「私は先に見ました。はっきり言って暫く立ち直れなかったです。ここへ来るのも、どれだけ気が引けたか。」 どんな写真だったか、想像は容易い。残酷な器具が多数並べられた部屋で、赤く映る我が子。私はその場で嘔吐した。 「お嫁さんは、無理強いしません。明日お迎えにあがります。」 服を離し、頭を抱える。 ユウキは深く一礼し、その場を去った。 私は力なく家に入り、妻を抱き締めた。 「……。」 妻は優しい。無言で受け入れてくれる。 私は事件以降涙を流せない。 頭にあったのは、 どのように犯人を殺してやるかという、 一点のみ。

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今生

末路

目覚ましが鳴る。同時に私はペンを取る。夢を記録するのだ。記憶の限りでは、このような。 “巨大な鉄塔、押し寄せる津波、鉄塔にしがみつく私たち。友達もいた。津波の中で、巨大な魚が飛び跳ねている。私たちを喰らおうとしている。鉄塔が良いバリアになっている。魚は私たちの元へは来られない。津波の中、友達と手を繋いで耐えた。津波が収まると潮は引かず、その場に留まり続ける。瓦礫にしがみつき、なんとか生還する。” 実際に夢で見た事と多少異なっても構わない。こういうものはだいたい、筆を走らせている最中に脚色されるものだ。 初めて一週間と経たないうちに、その変化に気付いた。 夢を鮮明に覚えているのだ。 それはずっと頭の中に残り続け、サビのようにこびり付く。その夢の続きが気になって仕方がない。 同時に、危険だとも感じた。日中、地に足がつかない。フワフワとした気分で一日を過ごしたせいで、今日の授業が疎かになったのだ。 夢と現実の区別がつかなくなると言うが、こういう事かと悟る。 この先はどうなるのだろう。私は夢日記を書くことの恐怖より、好奇心が上回った。 二週間、三週間、続ける度に現実に力が入らなくなる。 途中で、面白くはなくなっていた。辛い。息苦しい。友達の話も、前は楽しかったのに、つまらない。 しかし習慣のように続けてしまった。止められない。止めようにも、より鮮明な夢のせいで書かずにはいられない。 楽しい夢、意味のわからない夢、恐ろしい夢、悲しい夢。全てをノートに書きなぐった。 ある時、母に叩き起された。その日も面白い夢を見ていた。私が巨大なサソリと戦っているのだ。善戦をしており、もう少しで倒せそうだった。 渋々ベッドから降り、朝食を食べる。支度をして学校へ向かった。 相変わらず先生の話は入ってこない。それが普通になってしまったため、治そうとも思わなくなっていた。 母に叩き起された。 「もう遅刻するよ!」 あれ?今学校へ行ってたような……。そうだ夢だったのだ。現実のことを夢で体験するのはたまにあること。何も思わず、私はベッドから降り、朝食を食べる。支度をして学校へ……。 「……え?」 家の外が“崩れていた”。まるで大地震が起こった様だ。アスファルトには大きなヒビが入り、電柱は折れ、隣家の塀は砕け散り、視界を広げるとあちこちで火の手が上がっていた。 「な、何これ、お、お母さん!何これ!何があったの?!」 さっきまでただの日常だったはずだ。家の中は何もおかしいことは無かった。テレビも、クローゼットも、倒れていない。食器も棚に収まっていた。 「どうしたのそんな大声出して。早く学校行きなさい」 玄関の奥から母親の声がする。 「違うの!来てお母さん!外見て!」 「なぁに、どうしたの」 私に呼ばれた母が玄関に来て……。 「ひっ、!」 違う。母でも、人でも、獣でもなんでもない。そこにはただの黒い四角。そこだけがポッカリ抜かれたような、あるいは塗りつぶされたような黒。そこから母の声が聞こえる。 ここでようやく、夢だと気付いた。 明晰夢というものだ。しかし異変は終わらない。夢が覚めない。 いつもなら、夢だと気付いた時点で目が覚める。今回は違う。 「え……これ、現実なの……?違うよね……?こんなの……こんなこと!」 座り込み、目をぎゅっと閉じる。覚めろ覚めろと念じる。 母に叩き起された。ばっと目を開き、跳び上がる。 「わっ!ど、どうしたの急に。朝ごはんできてるよ。」 「!!!!!!!!!」 眼前に広がる光景に絶叫したかったが、声が出せない。元々口がなかったかのように、いくら叫んでも物音一つ出せない。 「!!!!!、、!!!!!!」 壁一面に貼り付けられた、友達の腐敗した死体。大の字、逆さ、変な方向に曲がった足腰、それが折り重なって縫い付けられている。血が滴り、強烈な臭いを撒き散らす。 思わず後ろの壁に激突したが、そこにも友達がいた。吐くことも出来ず、泣くばかりだ。涙は出る。 動悸が激しく、ギリギリと音を立てる。部屋から出たいが、扉も塞がれている。 「!!、、!!!!」 パニックに陥った。落ち着くことができない。恐らく夢だろう。しかし覚めることができない。耳鳴りが酷い。目眩を起こし、倒れ込む。 耳鳴りが止まない。むしろ大きくなり続ける耳鳴りに意識が飛びそうだ。 耳鳴りしか聞こえなくなった。目を固く閉じ、耳を両手で押さえつけても意味が無い。 一瞬、頭の中が沸騰したようにボコボコボコという擬音を響かせる。 私は母に叩き起された。 「いやぁぁあああぁぁぁぁあああ!!!!ぁあぁあぁあぁぁぁぁああ!!!!」 ……声が出た。それがどれだけ安心な事なのだろう。私は母にしがみついていた。 「どうしたの、高校生にもなって怖い夢見たの?」 今はどんな言葉でも嬉しい。夢から抜け出せた。それだけで良かった。 「こわ、かった……!!怖かったぁ!!」 母の腕の中で泣きじゃくるのはいつぶりだろう。こんなにも安心するのか。母というものは。全ての恐怖から解放された気分だった。 「コワカッタネ」 母の口から、男性の声がする。聞いたことがない。誰。 「!?」驚いた私が見たものは、紫色の顔が溶けてぐちゃぐちゃになったもの。 「ぎゃぁぁあああああああ!!!!!」 「どうしたのどうしたのどうしたのどうしたのどうしたのどうしたのどうしたのどうしたのどうしたのどうしたのどうしたのどうしたの」 顔を近付けてくる。逃げたいのに、腕を回されて逃げられない。そもそも、身体全体が固まって動けない。 「どうしたのシオリ、シオリ!」 私は母に叩き起された。

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末路

コレクション⚠️R-18

暗闇。古い街灯がパチパチと点滅している。生暖かい風が吹き始める頃。薄らと映される湿ったアスファルトが、妙な気配を感じさせる。 「こんばんは、お姉さん。」 「え?」 そんなシチュエーションには似つかわしくない声。可愛らしい男の子の高い声だ。一人で歩いていたミヤコは、急に後ろから声をかけられたことで背筋を凍らせた。 バッと振り返ると、そこには声に似合う可愛らしい男の子がいた。年齢は…暗くてよくわからないが、中学生のように見れる。少し身長の高い小学生としても納得出来る。 「仕事の帰り?」 何食わぬ顔で話しかけてくる。幽霊?ミヤコに霊感は無いが、もし見えるとしてもこんなにはっきり見えるものなのだろうか。あまりにくっきりした男の子の輪郭は、ミヤコの恐怖心を和らげた。 「え、こんばんは。そうだよ?」 「お疲れ様。今日はもう家に帰るだけ?」 「そうだけど、」 何が目的だろう。ナンパ?こんな子供が? 「自己紹介がまだだったね。僕はタマキ。よろしくね。お姉さんの名前は?」 タマキ。つるんとした丸い髪型がとても可愛らしい。中学生ならば、男の子に可愛いというのは気分を害するだろうか。 「え、ミヤコだけど…。君は家に帰らなくていいの?もう11時だよ?」 腕時計は10時58分。我ながら残業のし過ぎだ。上司の無理難題をこなせず帰ったので、明日謝るつもりだ。辞めるきっかけがほしいといつも嘆いている。 「僕は一人暮らしだから。大丈夫だよ。文句を言う親はいないんだ。」 一人暮らし…? 「何歳?中学生?」 「14歳だよ。正解。中学生やってまーす。」 腕を伸ばしてピースをしてみせる。白い歯を覗かせて笑う。 「中学生が一人暮らしっていいのかな…」 何故だか私はこのとき、仕事カバンを固く握りしめていた。稀有な状況に多少なり警戒していたのだと思う。 「うん。親は許してくれたし、できるっぽいよ」 「14歳なのに自分でいろいろできるって凄いね」 疑いながらも当たり障りない話を続けようと試みた。 「そうでもないよ?お金は仕送りしてくれるし、自炊しなくてもご飯は食べれるし、夜は出歩けるし、楽しくやってるんだよ」 「へーぇ。そんなもんなのかな。コンビニの弁当も飽きるでしょ。」 「そうだね。それで、本題なんだけどさ」 「え、うん」 当たり障りない話は終わってしまった。無意識に身構える。 「お姉さん、今から、暇?」 ……ナンパだった。 「………年上を誘おうとしてる?」 「ダメ、かな。最近ヤってなくてさ、」 ヤるとか、中学生がそんな言葉を使う時代なのか。この子が異質なだけだろうか。 「まだ中学生なのにそんなにヤリチンなんだ。」 ミヤコがそう言うと、タマキは恥ずかしそうに俯いて告白する。 「大人に襲われたのがきっかけでさ、お姉さんにサれるのがクセになっちゃって…」 少し事情があるようだ。中学生男子を欲求不満にさせるほどの逆レイプ。ミヤコは少し想像したがすぐにやめた。 「それは……辛かったね」 ミヤコは暴行を受けたことはないが、人並みにその辛さは理解しているつもりだ。 「お姉さん、年下……っていうか、子供とかって、興味…ない?」 タマキが一歩近付いた。丁度街灯の下だ。改めてその可愛らしい容姿に目を奪われる。中性的、ボーイッシュな女の子と言われても信じてしまいそうだ。綺麗な二重、柔らかそうな口元。 「えっと……」 「あ、迷ってる?っていうことはあるんだ」 心臓の鼓動がいつもより少し速い。ミヤコはこの中学生に欲情していた。 「い、いや、うるさいな。というより犯罪だし…」 理性で押さえつけたいが、それにしてもタマキの瞳に吸い込まれそうになる。 ミヤコの心情を察したか、タマキはさらに詰め寄る。フワッと石鹸の香りが刺した。ミヤコが数歩引いたので街灯から抜ける。 「言ったでしょ?何回もヤってるって。それに、…ほら、みて……」 徐にズボンをずらす。パンツは履いておらず、棒勃ちで情けなくぴくぴくする男の部分がミヤコの視界に入る。 口の奥で、生唾が分泌された。 「ちょ!ここ外!何やってんの!」 慌ててズボンを直そうとするミヤコの腕を掴んで、先程の勃った部分に手のひらを引っ付ける。 「ね?…こんなになってるの……お姉さんとヤりたくて、がまんできないの……」 スっと顔を近付けるタマキ。 「……かわいい……じゃなくて!しまって早く!」 失言をかき消すように手つきが荒くなる。 「んあっ、そんな乱暴にしな、あんっ」 今度は棒にぶら下がったものに強めに当たってしまい、タマキを悦ばせてしまう。 フニャとした感覚。反応も可愛い。認めたくないが顔も凄くタイプだ。 「ああもう我慢できない!タマキくんのせいだからね、家に行けばいいの?」 明日、仕事を休む羽目になるだろうか。クビになるならそれでも構わないと思ってしまう。 「僕のことはタマって呼んで」 そんな、ネコかさっきのフニャフニャを想像させる名前。どこまでも愛らしい。 「いいけど…あ、そっかこういうのってお金目当て?」 踏み止まる理由をなんとか捻り出した。お金目当てなら冷められると思ったのだ。 「お金は仕送りしてもらってるんだって。不自由はしてないんだ。大丈夫、ミヤコお姉ちゃんのこれからの時間を貰うだけだよ」 それも砕かれた。 「んん……。はぁ……、言葉だけで信用する私も終わってるんだろうね。いいよ。行こ」 「やった!ミヤコお姉ちゃんの好きにしていいからね?」 ギュッと手を繋いできたと思ったら、さらに腕を組んできた。石鹸の香りがさっきよりも強い。良い匂い。本当に男の子か疑問に思えるほどだ。先程本物を触ったばかりだが。 「外であんまりそういうこと言わないで……人に聞かれてそうで怖い」 ミヤコのアパートは近い。夜遅いが、ご近所に聞かれでもしたら引越しせざるを得なくなる。 「あはは!ごめんね、つい嬉しかったからさ」 眩しい笑顔というものを久しぶりに見た気がする。こんなに純粋な笑顔なのに、今からヤることは穢れている。 「えと、もうこうなっちゃったから言うけど、私もタマくんみたいな子、好きなの」 心臓の鼓動がより速くなる。 「そっかあ!よかった…。だったら、2人で楽しいこと、いっぱいできるねっ」 タマキが頬を赤らめる。それを見てミヤコも自分の顔が赤いことを悟った。それが恥ずかしく、身体が熱くなる。 「ああもう、可愛いなぁ……ね、耳貸して」 「ん?なぁに?」 耳を近付けるタマキ。石鹸の匂いだけでなく他の匂い、フェロモンと言えば良いのか、それがミヤコを強く誘惑する。 誰も聞いてはいないだろうが、小声で伝える。 (私ね……ちょっとだけ、もう濡れちゃってるんだ……) 「っっは、はやいよぉ。まだ会ってすぐなのに、……えっと、じゃあ、こういうのあるけど、家に着くまでやっとく?」 用意が良い。タマキが取り出したのは小さな卵型のもの。リモコンで振動させるタイプの自慰器具。ミヤコが持っているものの色違いだったので、驚くと同時にとても嬉しく感じた。 「あはっ、用意いいね。んーー、まあ、見た感じ人いないし、パンツの中に入れたらいいんだよね、外でやるのは初めてだけど、すっごい、興奮する……」 息が荒くなる。部屋でいつも自分を慰めているミヤコは、刺激の強いこの状況を楽しみ始めた。 「ミヤコお姉ちゃん、そんなに変態だったんだねっ」 我慢が効かなくなったミヤコを見て言う。そんなタマキも、息が荒くなっている。 「ゴメンね?がっかりした?」 ミヤコも性的な良い笑顔をしている。 「いいや。すっごい嬉しいよ。僕もさっきからおさまらなくて……」 そう言ってテントを張ってみせる。まだ小さいので可愛らしい子供用テントだが、ミヤコをさらに興奮させる。 「んっ……入れた、よ?」 「うん、スイッチ入れて良い?」 「いいよ、最初は弱いやつっでっ!!!」 最大の振動。音が外に漏れている。モーター音と水がかき混ぜられる音。ミヤコは立つのがやっとだ。 「大丈夫?ゆーーっくり、歩く?」 ニヤニヤ笑うタマキ。涙目で膝を震わせるミヤコ。子猫になったようだ。 「いやっ、もう、年下にドSされるとか……興奮するじゃんっっ」 次から次へ愛液が流れ出す。このストッキングはもう使い物にならないだろう。 「あはは!とりあえず歩こ?別に歩きながらイってもいいからね?」 そんな許可をされると本当に動物に成り下がりそうだった。胸がキュンキュンうるさい。 「大丈、夫。外でそんなこと、しないっから、、」 「外で変態プレイはもうしちゃってるけどねっ」 「もぉ〜うる、さっ、いっっ!!」 ♡♡♡♡♡ 「はい、着いたよ。ここが僕の部屋だけど……ミヤコお姉ちゃん大丈夫?」 「はーーーー………はーーーー………んっっはぁ……」 結局何度か果ててしまった。男の子の前でイくことがこんなに恥ずかしいとは。快楽と羞恥でどうにかなりそうだった。 「とりあえず部屋入ろ?」 タマキが手を引く。一歩一歩の振動が腰に響く。 「うん……もう我慢できないかも……」 「僕布団に座った途端に襲われそうなんだけど」 「いいじゃん…それがっっ……シたかったんでしょ?」 二人ともお互いしか見えていない。 「うん!じゃあ、いらっしゃいませ、僕のお部屋に」 「あれ、電気つけないの?」 小さなライトすら付けないので、部屋の中は深い闇である。 「いやだよ……明るいと怖いから……」 ヤりまくっているのに、こういう可愛い部分も見せてくる。 「変わってるなぁ、って、何この匂い……」 強い香水の中に、妙な匂いが混ざっている。腐敗臭だろうか。香水が強くてよく分からない。 「気にしないで。ヤり過ぎて匂いが染み付いちゃってるだけだから」 「ホントにタマくんも変態だねー。うう…結構臭いかも……」 日頃から香水には触れているが、あまり得意ではない匂いだ。 「そのうち慣れるよ。ヤってると気にならなくなると思うし」 「そ、そっか……どうする?私がリードしてあげようか?」 「やっぱりミヤコお姉ちゃんは優しいな。部屋に入った瞬間に襲ってくる人もいたのに。」 実際はそうしてやりたい所だったが、なぜか一瞬躊躇った。その後の香水。平たく言えば、タイミングを失っていた。 どうせこの後ヤるのだ。些細なことだった。 「いや、うん。今にも襲いたいんだけどね、襲われるならそれもいいかなって思って、悩んでるだけだよ。」 なぜか少し、考えとは違う言葉が出た。 「変態なのは変わらないんだね」 再度笑ってみせる。ああ、その可愛い顔に、身体に、今から……。 「んじゃあ……いい…?」 胸は今日一番高鳴っていた。他の音が消えるほど。夢中になっていた。 「いいけどそんなに近付いたら……」 タマキの表情が消えていく。首の辺り、チクリとした。 「え?あ……う……」 「麻酔の注射が打ちやすいんだよね」 チューッと何かを流し込まれる感覚。針が抜かれる。タマキの手には針の太い注射器が握られていた。力が抜け、膝から崩れ落ちる。 「タマ……く……ん………?」 酷い頭痛。頭の中がひっくり返される。視界が歪み、耳が遠くなり、香水は香らなくなる。床に這い蹲る。 「やっぱり首に刺すと即効性が違うね。ごめんね?ミヤコお姉ちゃんとヤってみたいのもあったけど、お勉強も大切だから。」 先程の無邪気な笑顔ではない。赤と黒で表現されるような、道化師のような、詐欺師のような、そんな微笑。子供がして良いはずの無い笑み。 それだけを捉え、視界がより大きく滲んでいく。 「きこえ……ない………」 「今は理科にハマっててね。剥製(はくせい)って知ってる?動物を標本にしたものなんだけどさ。まるで生きてるみたいなんだ。博物館で見たライオンが美しかったんだ……。いろいろ勉強して、なんとかうさぎの標本はできたんだ。それが小学六年生の頃のこと。その時は親に手伝ってもらってね。」 「なに………いってるの………」 途端に饒舌になるタマキだが、ミヤコはほとんど聞き取れていなかった。 「一人暮らしを始めたのは、人に知られてはまずいことをするため。人って美しいと思わない?生命の神秘なんだ。神さまが作った最高傑作なんだ。」 「タマ…くん、やめ、て、」 どうにか身体を起こし、タマキの足を弱々しく掴んだ。だがすぐに振り払われる。 「うそお、意識がしっかりしてきた。ミヤコお姉ちゃんは本当の本当に神さまの最高傑作なんだね。そんなに強い人は見たことがないよ。じゃあ、もう一発いっとこうか。」 ポケットからもう一本の注射器が現れる。それを迷いなく首に打ち込む。先程より乱暴だ。酷く痛みが走った。 「うがっ……あぁ……」 「話の続きだけど、その最高傑作を集めて飾ることが僕の生きがいなんだ。勉強のためのお金だって言えば親はいくらでもくれるし。」 「うはぁ……うぅ……」 「ミヤコお姉ちゃんも僕のコレクションに入れてあげるよ。大丈夫、もうかなり上達したんだ。」 得意気に話すタマキを他所に、ミヤコは眠気と格闘していた。 この睡魔に抵抗しなければならない。それは分かる。しかし、抗えない。再び床に倒れ、目を瞑ってしまった。 「………さすがにもう寝ちゃったか。じゃあえっと、拘束具どこやったっけ。あとベッドもずらしてっと……」 ♡♡♡♡♡ 「まだ……足りないよぉ……」 「何が足りないんだろう。寝言結構言うんだねー」 「もっと奥……。奥に……」 「呆れた。夢の中でもド変態。まあいいや。起きてミヤコお姉ちゃん!遅刻しちゃうよ!」 「んあ……もう朝ぁ〜?…え、動けない…」 背中に当たる感触は硬く冷たい。鉄板の上に、両手足を拘束されている。睡眠薬の効果がまだ切れていないのか、ミヤコは頭痛に襲われた。 「も〜早く起きてってばー。今から楽しいことするんだからね。」 「え……え?、どうなってるの??タマくん?」 「見たまんまを説明してあげようか?全裸でテーブルに拘束されて、おまんこも丸見えですっごく可愛いよ」 そう言ってタマキがミヤコの恥部に顔を近付ける。 「いや…あ……なんだ、今からやるんだね、タマくん攻めが好きなんだ。いいよ、ちょっとくらい乱暴にしても大丈夫だから……」 異質な状況でも、事が事なのですぐに順応する。寧ろ初めての拘束プレイにミヤコは興奮した。 「ありがとう、そうさせてもらうね。って、うわぁ凄い、もう濡れてきてる。……この変態お姉ちゃんっ」 触れそうなほど顔を近付ける。吐息がかかり、それだけで身体がビクビクと反応した。 「ぁあもっと言ってぇ。もっと恥ずかしいところ見てぇ。」 「んじゃあ始めるね……えいっ」 「ぃ………いだいぁぁぁあ!!!な!!なにしでえ!!」 腹に鋭利な感覚。何をされた?包丁?ハサミ?違う。タマキが持つのはメス。医療ドラマで何度も見てきた。間違いない。なぜ中学生がそんなものを。 「んで体のラインに沿って開いて……」 「ぎあああぁぁあぁあああぐいぃぃ!!」 スーっと身体を開いていく。暴れるミヤコを他所に、馴れた手際で処理をする。股間が暖かくなる。失禁した。止まらない。 とても強く拘束されている。ただ一つ自由に動く頭をブンブン振り、虚しい抵抗を続ける。 「うんうん。この体の反応の仕方と絶叫の音がたまらないんだよね。録画は……うん、ちゃんと動いてる。」 タマキがチラと見た方をミヤコは凝視する。ビデオカメラがぽつんと佇んでいる。その1箇所が、赤く点滅している。録画している証だ。 「タ……タマ……くん……!!いだい……いだい!!」 声が出し辛くなる。声を発する部位に力が入らない。 首や手足をバタバタ動かしても、一向に拘束が取れる様子は無い。血が流れるのが分かる。取り除かれる内蔵が見えてしまう。 ミヤコは意識を飛ばすことができない。激しい痛みと形容できぬ絶望を目の当たりにするも、なぜか失神できない。 「うんうん。ちゃんと気絶しないようにやっていくからね。沢山暴れてるのがみたいから。」 「やめ……て……ごめんなさい、ごめんなさい、いたいほんとにいたいの!!!!ごめんなさい!ごめんなさい!」 最後の力を振り絞っても、許して貰えない。恐怖と絶望の中、ミヤコが最後に感じたのは、途方もない快楽だった。 「完成した剥製と一緒にこの録画を見るのが好きなんだよね。すっごい呪われる感じがしてさ。すぐにクセになっちゃった。だからもっと暴れてね。僕も頑張るから」 ♡♡♡♡♡ 丁寧に切り口を縫り終えたミヤコの剥製は、他の剥製達と共に保管された。 後日、ミヤコの剥製は、タマキと一緒に絶叫するミヤコの動画を見ている。ネットにも上げたが、誰も信じてはいないようだ。 動画を見ながら、タマキは自慰行為をする。 「はっ…はっ…はっ…ミヤコお姉ちゃん、可愛い、可愛いね、大好き、だよ。ミヤコお姉ちゃんっっあっっ、」 それをミヤコの顔にぶちまける。そうして何度も何度も、次の剥製ができるまで楽しむのだ。

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コレクション⚠️R-18

隔離

「宅急便でーす!」 目が覚めた。うるさい声だ。チャイムだけで聞こえているというのに。 「…いまいきまーす」 寝起きの声で応える。今日は寒い。羽毛布団から出るなんて真っ平御免だ。 玄関を開く。配達人は既におらず、荷物だけが置かれている。いつもそうなのに、黙って置いて行けば良いものを。 今回頼んだのは当面の水と食料。水は重たい。このアパートは四階建てのくせにエレベーターが無い。私は四階の隅の部屋を借りているため、配達人は苦労するだろう。 いちいちサインをしなくて良くなったのは嬉しい。それまでは配達人が痺れを切らす前にわざわざ体を起こして玄関まで急がなくてはならなかった。少し遅れると不在票が入っていた。 水と食料を冷蔵庫に入れると、風呂が湧いた。昨日の夜入らなかったので丁度良い。今日は朝風呂といこう。 風呂の鏡を見る。随分と痩せた。最近のニュースでは、人はブクブクに太るかガリガリに痩せるかの二極になっているという。 私は後者だ。痩せも太りもしない標準的な人間が極端に減った。生活スタイルが変わると、まず初めに身体に影響が出る。このままだと、人間は簡単に衰退するだろうなと思う。 風呂から上がった後は、今日はする事がない。 下手で一人カラオケでもしようか。小声で歌えば外にも漏れない。楽しくは無いが他に良いことも思いつかない。 ふと、窓の外、街を眺める。 誰も歩いていない。カラスが2羽ほど見えた。それだけだ。 何も変わらないが、ただぼーっと眺めてみる。 先程のかは定かでは無いが、配達人だ。 凄いスピードで街をかける。よくそれで荷物をぶちまけないでいられると感心する。それほど配達人の重心を安定させる機構が優れているのだろう。前見たものとデザインが少し違う。バージョンアップしたのだろうか。 興味が失せ、窓を閉じる。 部屋の中の機械ペットを撫で、布団に潜る。 キッチンでは先程冷蔵庫に水を入れてくれた応対ロボットが料理をしている。味気ないロボットの料理は、私の食欲を削ぐ。痩せるわけだ。 “ピピピピピピピ……” 「!?」 酷く驚いた。電話が鳴った。いつぶりだ。誰が何の用だ。 “ゴ リヨウシン ノ バンゴウ カラ オ デンワ デス” 親だ。人と話すのが久しぶり過ぎて、親でもドキドキしてしまう。 「も、もしもし……。」 「モエカ!良かった。元気だったか?」 父親の声。不思議だ。その声に安心する。 「うん。元気。どうしたの?」 「いやなに。ニュースで、若者の孤独死のことをやっててな。どうにも心配になってしまった。」 確かに、そんな事も報道していたと思い出す。 「あはは。私は大丈夫だよ。でも、外に出られないのは辛いね。結構痩せちゃった」 「大丈夫か!?ちゃんと食べないと本当にニュースと同じになってしまうぞ。そうなったらお父さん、悲しくて立ち直れないぞ。」 「うん。気を付けるよ。って言いたいけど、ロボットが作る料理って味気なくて。」 「モエカ。たぶんそれ、料理の設定を初期のままにしているだろ。」 「え?うん、いじくってないからそうだと思う。」 「あ〜それだと味の変化がなくて飽きるだろう。ケータイに応対ロボットのアプリがあるだろう?料理の項目があるからそこからいろいろ触ってみると良い。」 電話をスピーカーにし、画面を動かしてみる。 「あ、あった。えーありがとうもっと早く聞けばよかった。」 「ははそうだな。でもこれで一件落着だな。また何か相談してくれよ。」 「うん、ありがとう。」 ……電話を切った。人と話すのは楽しい。親だからだろうか。 宇宙戦争が始まって4年と少し。外を人間が出歩けば命は無い。玄関や窓の開閉はセーフという都合の良いルール。 学校や仕事は全てオンライン。身の回りのことは全て機械が代行する。 この宇宙戦争が終わった後、人類の生活が元通りになるとは、到底思えない。

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隔離

ふりつもる

少なくとも、私は奴隷売買に救われた。 情報の発達した現代、奴隷制度を許す国は見られなくなったが、それは表の顔である。求めれば近くに奴隷商売はある。産んだは良いが育てられない無責任な親が捨てていくのだ。 「主人様……?」 顔を覗かせる私の“娘”、ユキ。よくぞ今日まで生きてくれた。 手を伸ばす。すかさずユキが手を握る。 「幸せだ。たった一人の私に尽くしてくれる人がいる」 「もちろんです。主人様は全てをくださいました。食べ物、着る物、言葉、文字、あとは…感情や、心など。」 随分と表情を作れるようになった。はじめましての頃の濁った目も美しかったが。今の方が良い。 「感情と心は、同じものじゃあないのか?」 揚げ足を取ってみる。ユキは決まって頬を赤らめ、黙ってしまう。 「ははは、すまない。いつまでもこんな会話がしたいものだな。」 「……ええ。そうですね。」 柔らかい笑みだ。 「ユキ。」 「はい。」 「ユキは今年で、32歳だったな。」 「はい。一ヶ月後が誕生日です。」 一ヶ月後。まだまだ先だ。 「そうだったな。誕生日のプレゼントを考えておかないとな」 「……はい。楽しみにしています。」 「はは、奮発してやろう。食事にも期待しておけ。」 「ありがとうございます。」 「……。」 「……。」 「ユキ。」 「はい。」 「お前の、二十数年か、私のために使わせて悪かったな。」 「何に対して謝ったのでしょうか。」 謝罪は無粋だっただろうか。 「ユキの人生があったはずだ。……ユキの青春があったはずだ。」 しかし気になってならないのだ。 「これが私の人生ですよ。親に捨てられたあの日、私の人生は一度終わったのです。今主人様の隣にいる“ユキ”は、私の意思でここにいます。」 「……。」 気休めだとしてもそう言ってくれて嬉しい、という言葉は飲み込んだ。 「それに、私を買われてからも気にされていたではないですか。ユキの人生を奪って申し訳ない、と。」 「それはそうだが。あの時はユキに拒否権はなかった。だかもう少しすれば、お前は」 私の言葉を遮り、ユキが話す。 「どこにも行きませんよ。私は主人様の“娘”です。」 「……信じて良いか。」 「信じるも何も、事実ですので。」 全て即答するユキの言葉が、偽りでないと信じられる。 胸が満たされたのを感じる。予期せぬ涙が零れる。 ユキが柔らかいハンカチでさっと拭う。 「ユキ。」 「はい。」 名前を呼び、ユキが応える。このやり取りを二十数年、何度してきたことか。 私は少しずつ思い出す。 「ありがとう。」 「……はい。」 身寄りのない私は、無を生きていた。ポストに入っていた広告を見て、興味本位で電話をかけた。 最初は下心だった。同時に、こんなものに手を出す私が情けなかった。 届いた“商品”を見た瞬間、私の人生は変わった。 風呂に入れ、飯を与えた。 ユキという名前は安直だった。それ程に、その日は綺麗な銀世界だったのだ。 ユキはもう大丈夫だ。彼女の力で生きられる。 安心しきった私は、眠気に身を委ねる。

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ふりつもる

生きている人に問いたい。

なぜ今生きているのでしょう。100年後、貴方は何処にもいないのに。数多くの功績を残す人、大きな富を得る人。または強姦の前科がある人、麻薬に手を染めた人。 これらの誰もが100年後に生きられない。何をしても、永遠に残るものは無い。 歴史上の人物は?確かに彼らの名は数百年を超えても語り継がれる。 しかし当の本人はどうだろう。ここにはいない。さらに、当時生きていた人のほとんどが今、名を残していない。 貴方は名が残る人物だろうか。私は残らない。名を残すには平凡すぎる。 こんな生、あるだけ無駄ではないのか。 今を精一杯生きるという主張もあるが、しばらくすればその生きた証が無に帰すのに。なぜ頑張るのか。 愛する家族のため?好きな人のため?娯楽のため? 平等に訪れる死を知りながら、なぜ生きていられるのか。 どんな主張をされても、「でも100年後、今生きている人のほとんどがいないですよね」で返して議論を拒否してしまう。 こう考えていると、自ら命を絶つ人が懸命に思えてくる。 私は自害など出来るはずもないが。 私が今生きている理由それは、死ぬのが怖いからだ。それ以外、本当に見当たらない。 なんとつまらない思考をしているのかと呆れるだろう。だが本心なのだ。 だからこそ問いたい。 貴方はなぜ今生きているのでしょう。 宗教チックになってしまいましたね。忘れてください。

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生きている人に問いたい。

たいふういっか

嵐が止まない。もう一週間になる。いくら何でも長すぎる。 ご飯は美味しくないし、ゲームもできない。部屋で黙って蹲るだけ。 今日も変わらず雷、雷。目を閉じても耳を塞いでもお構い無しに私を傷付ける。 家が揺れる。古い家だ。ちょっとした衝撃でも小さな地震だ。 ……ガラスの割れる音がした。冷や汗が背を伝う。まさか、そんなことするはず、ない……。 一目散にリビングに向かいたかった。だがそうすれば今度は私の身が危ない。 嵐が過ぎるまで部屋にいるしかない。 しかし、ガラスが割れた後すぐに収まったようだ。一転して何も聞こえなくなった。 暫くして、(30分ほど経っただろうか)母親に呼ばれた。とても優しい声だった。その声に安堵させられ、私は部屋から出た。 目の前に母親が立っていた。驚いて一歩引く。 どこかでそんな予感はしていたが、目を疑った。 返り血。 血だとすぐに理解した。母親が何かの、赤く染まったガラス片を握りしめていたから。 「ごめんなさいね」 母親から貰った最後の言葉だった。

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たいふういっか